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特許7410025オートファジーの誘導のために高タンパク質を使用する組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】オートファジーの誘導のために高タンパク質を使用する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/19 20160101AFI20231226BHJP
   A61K 38/01 20060101ALI20231226BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231226BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A23L33/19
A61K38/01
A61P21/00
A61P43/00 105
A61P43/00 121
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020528458
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2018085744
(87)【国際公開番号】W WO2019121855
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】62/608,059
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】シヴィレット, ガブリエーレ
(72)【発明者】
【氏名】クヌード, バーナード
(72)【発明者】
【氏名】ファイギ, ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ガット, フィリップ
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/036993(WO,A1)
【文献】特表2013-515718(JP,A)
【文献】国際公開第2011/078654(WO,A1)
【文献】特表2015-523362(JP,A)
【文献】国際公開第2014/152610(WO,A1)
【文献】国際公開第2000/051443(WO,A1)
【文献】国際公開第1995/013290(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/078956(WO,A1)
【文献】特表2017-501113(JP,A)
【文献】特表2016-537302(JP,A)
【文献】特表2017-529397(JP,A)
【文献】SODA, Kuniyasu et al.,Polyamine-rich food decreases age-associated pathology and mortality in aged mice,Experimental Gerontology,Volume 44, Issue 11,2009年,Pages 727-732
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格筋におけるオートファジーの誘導を必要とする個体において骨格筋のオートファジーを誘導するために用いられる組成物であって、多量のタンパク質と炭水化物源とを含み、前記多量のタンパク質が、前記組成物の少なくとも25エネルギー%である量の前記タンパク質であり、前記組成物が、1.2を超える、タンパク質:炭水化物エネルギー比を有し、前記タンパク質の少なくとも50重量%がカゼインである、組成物(ウロリチンを含む組成物を除く)。
【請求項2】
前記多量のタンパク質が、前記組成物の6g/100kcalを超えるタンパク質/エネルギー比を提供する量の前記タンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記個体が、高齢の個体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記個体が、サルコペニア若しくはフレイルを有する、又はサルコペニア若しくはフレイルを発症するリスクがある、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記個体が、重篤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記個体が、重篤なミオパチーを有する、又は重篤なミオパチーを発症するリスクがある、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)動物源由来のタンパク質、(ii)植物源由来のタンパク質、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)乳タンパク質、(ii)ホエイタンパク質、(iii)カゼイン塩、(iv)カゼインミセル、(v)エンドウ豆タンパク質、(vi)大豆タンパク質、及び(vii)これらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記タンパク質の少なくとも一部が、(i)遊離形態のアミノ酸、(ii)加水分解されていないタンパク質、(iii)部分的に加水分解されたタンパク質、(iv)顕著に加水分解されたタンパク質、及び(v)これらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記タンパク質が、2~10アミノ酸長を有するペプチドを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記タンパク質が、(i)遊離形態、(ii)少なくとも1つの追加のアミノ酸に結合している形態、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの形態の分岐鎖アミノ酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記分岐鎖アミノ酸が、バリン、ロイシン、及びイソロイシンのうちの1つ以上を含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記タンパク質の少なくとも一部が、5~95%加水分解されたタンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記タンパク質が、(i)前記タンパク質の少なくとも50%が1~5kDaの分子量を有する配合、(ii)前記タンパク質の少なくとも50%が5~10kDaの分子量を有する配合、及び(iii)前記タンパク質の少なくとも50%が10~20kDaの分子量を有する配合、からなる群から選択される配合を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路で投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、食品組成物、栄養補助食品、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又は乳で再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬品、ドリンク、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、一般に、オートファジーの誘導のために高タンパク質を使用する組成物及び方法に関する。より具体的には、本開示は、タンパク質に富んだ配合物を、例えば筋肉においてオートファジーを誘導するのに有効な量で投与することに関する。配合物は、タンパク質合成及び損傷した細胞物質の除去を同時に促進することができる。投与のレシピエントは、例えば、集中治療室(ICU)内の患者などの重篤な患者、及び/又は例えば、老齢の個体若しくはサルコペニア若しくはフレイルを有する患者などの高齢の患者であり得る。
【0002】
[0002]集中治療薬の大きな進歩により、重篤患者は、多くの場合、以前は致死的であった急性疾患からも生き延びている。しかしながら、この初期フェーズを生き延びたものの、重篤な慢性フェーズに入る患者の死亡率は依然として高い。死亡は、多くの場合、多臓器不全が回復しないこと、重篤なミオパチー、又は重症度の低い形態の筋力低下による。栄養法、成長ホルモン、又はアンドロゲンなどの治療法が、筋肉のミオパチー(myophathy)及び筋力低下を改善するために導入されているが、これらの介入は、臓器不全及び死のリスクを予想外に増加させることから失敗している。更に、外傷及び手術患者に対する栄養補助は、実際に有害な影響を有し得る。
【0003】
[0003]重篤患者に適切な治療及び十分な栄養を供給するための有効な手段は、ないままである。
【0004】
[0004]更に、加齢に伴う筋肉量及び筋肉機能の低下は、全ての個体において避けられないものであるが、その進行は、遺伝的要因並びに身体活動及び栄養摂取などの環境要因によって大きく異なる。サルコペニアは、加齢に伴う筋肉量及び筋肉機能の低下が悪化し、生活の質に影響を及ぼすようになっている状態であるとして定義されている。対照的に、フレイルは、加齢に伴う身体的機能の衰えという別の分類であり、筋肉量ではなく、筋力及び筋機能の低下を特徴とする。サルコペニアは、可動性が病的状態にある個体について老齢集団を階層化する区切りを使用して、筋肉量及び筋機能の低下により臨床的に定義される。サルコペニアからは将来的な身体障害及び死亡が予測され、サルコペニアには、2016年に公式のICD-10疾病コードが割り当てられている(Ankerら、2016)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0005]細胞質タンパク質の分解は、マクロオートファジーと呼ばれる(単にオートファジーとも呼ばれる)細胞プロセスによって介在される。オートファジープロセスは、炎症反応にも関与し、細菌による免疫系破壊を促進する。オートファジーは、損傷したミトコンドリアなどの、損傷した及び場合により有害な細胞材料を再利用する、主要なリソソーム分解経路を構成する。特に、オートファジーは、細胞死の影響を弱め、様々な老化モデルにおける寿命を延長する。本明細書で後に記載される実験データに詳述されるように、本発明者らは、驚くべきことに、高タンパク質食が骨格筋においてオートファジーを誘導したことを見出した。高タンパク質とオートファジー(authophagy)誘導因子との組み合わせによる、筋肉におけるこの相乗的な誘導は、肝臓で見られるものとは対照的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0006]したがって、一般的な実施形態では、本開示は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導する方法を提供する。本方法は、多量のタンパク質を含む組成物を投与する工程を含む。多量のタンパク質は、本組成物の少なくとも約25エネルギー%である量のタンパク質であり得、及び/又は多量のタンパク質は、本組成物の6g/100kcalを超えるタンパク質/エネルギー比を提供する量のタンパク質であり得る。オートファジーは、骨格筋において誘導され得る。
【0007】
[0007]一実施形態では、個体は、高齢の個体である。
【0008】
[0008]一実施形態では、個体は、サルコペニア若しくはフレイルを有する、又はサルコペニア若しくはフレイルを発症するリスクがある。
【0009】
[0009]一実施形態では、個体は、重篤である。
【0010】
[0010]一実施形態では、個体は、重篤なミオパチーを有する、又は重篤なミオパチーを発症するリスクがある。
【0011】
[0011]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は、(i)動物源由来のタンパク質、(ii)植物源由来のタンパク質、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される。
【0012】
[0012]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は、(i)乳タンパク質、(ii)ホエイタンパク質、(iii)カゼイン塩、(iv)カゼインミセル、(v)エンドウ豆タンパク質、(vi)大豆タンパク質、及び(vii)これらの混合物からなる群から選択される。
【0013】
[0013]一実施形態では、タンパク質は、(i)タンパク質の少なくとも50重量%がカゼインである配合、(ii)タンパク質の少なくとも50重量%がホエイタンパク質である配合、(iii)タンパク質の少なくとも50重量%がエンドウ豆タンパク質である配合、(iv)タンパク質の少なくとも50重量%が大豆タンパク質である配合、からなる群から選択される配合を有する。
【0014】
[0014]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は、(i)遊離形態のアミノ酸、(ii)加水分解されていないタンパク質、(iii)部分的に加水分解されたタンパク質、(iv)顕著に加水分解されたタンパク質、及び(v)これらの混合物からなる群から選択される。タンパク質は、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、プロリン、オルニチン、セリン、チロシン、及びこれらの混合物からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸を含み得る。タンパク質は、2~10アミノ酸長を有するペプチドを含み得る。
【0015】
[0015]一実施形態では、タンパク質は、(i)遊離形態、(ii)少なくとも1つの追加のアミノ酸に結合している形態、及び(iii)これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの形態の分岐鎖アミノ酸を含む。分枝鎖アミノ酸は、ロイシンを含み得る。
【0016】
[0016]一実施形態では、タンパク質の少なくとも一部は、5~95%加水分解される。
【0017】
[0017]一実施形態では、タンパク質は、(i)タンパク質の少なくとも50%が1~5kDaの分子量を有する配合、(ii)タンパク質の少なくとも50%が5~10kDaの分子量を有する配合、(iii)タンパク質の少なくとも50%が10~20kDaの分子量を有する配合、からなる群から選択される配合を有する。
【0018】
[0018]一実施形態では、本組成物は、炭水化物源を含む。本組成物は、高いタンパク質:炭水化物比を有し得る。
【0019】
[0019]一実施形態では、投与する工程は、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路を使用する。
【0020】
[0020]別の実施形態では、本開示は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導するのに有効である1回分の摂取量で、タンパク質を含む、組成物を提供する。本組成物は、食品組成物、栄養補助食品、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又はミルクで再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬、ドリンク、及びこれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0021】
[0021]別の実施形態では、本開示は、治療組成物の作製方法であって、所定量のタンパク質をベース組成物に添加して、治療組成物を形成する工程を含み、この治療組成物は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導するのに有効である1回分の摂取量で、このタンパク質を含むものである、方法を提供する。ベース組成物は、経口、経腸、非経口、及び静脈内注射の群から選択される少なくとも1つの経路による投与のために配合され得る。
【0022】
[0022]別の実施形態では、本開示は、オートファジーの誘導を必要とする個体に、タンパク質合成及び損傷した細胞材料の除去を同時に促進する量のタンパク質を含む組成物を投与する工程を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
[0023]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、重篤な動物、重篤なヒト、高齢の動物、又は高齢のヒトの状態を改善することである。
【0024】
[0024]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、重篤患者又は高齢個体における、過剰な異化作用を予防又は治療することである。
【0025】
[0025]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、例えば、重篤患者又は高齢個体における、過剰な異化作用による罹患又は死亡のリスクを低減又は予防することである。
【0026】
[0026]本開示の追加の利点は、重篤患者における多臓器機能障害症候群から回復する、治療する、又は治癒させることである。
【0027】
[0027]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、多臓器機能障害又は火傷を治療するために、オートファジーを誘導するため、例えば、水性液体組成物として、重篤患者に非経口的又は経腸的に投与され得る組成物である。
【0028】
[0028]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者が人工呼吸器をつけている期間を短縮すること、又は人工呼吸器を取り外すまでの期間を繰り上げることである。
【0029】
[0029]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、例えば、非経口栄養送達、特に調和の取れていない又は相対的な栄養過多によって引き起こされる多臓器不全又は筋力低下に対して、非経口栄養を受けている重篤患者を保護することである。
【0030】
[0030]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、筋力低下から高齢個体を保護することである。
【0031】
[0031]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者又は高齢個体の生存性を向上させることである。
【0032】
[0032]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、集中治療室からの退院後に、可動性の回復を加速すること、又は寝たきりの期間を短縮することである。
【0033】
[0033]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、重篤患者が既に生命を脅かす状態までかなり進行した段階にある場合であっても、効果が有益であるというものである。
【0034】
[0034]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、アミロイド側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病、認知症、及び関係する神経性の希少疾患などの神経疾患から高齢個体を保護することである。
【0035】
[0035]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、例えば、サルコペニア、フレイル、封入体筋炎、コルチコステロイド又はスタチンなどの薬物によって誘発されたミオパチー/筋融解、又は不動若しくは入院によって誘発された筋消耗などの筋肉機能障害から高齢個体を保護することである。
【0036】
[0036]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の追加の利点は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー又はVI型コラーゲン筋ジストロフィーなどの筋ジストロフィー、ミトコンドリア脳筋症、ミトコンドリアミオパチー、糖原病、リソソーム蓄積症、ポンペ病が挙げられるが、これらに限定されない、遺伝疾患に罹患している患者を保護することである。
【0037】
[0037]追加の特徴及び利点は、以降の発明の詳細な説明及び図面に記載され、これらにより明らかとなろう。
[0038]
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A】本明細書で開示される実施例1の実験のウェスタンブロット画像を示す。
図1B】本明細書で開示される実施例1の実験から、GAPDHに対し正規化した、LC3-IIタンパク質量のデンシトメトリーによる定量を示す(A.U.:任意単位)。アスタリスクは、対応のない両側のスチューデントt検定によって計算された有意水準を表す。***p<0.001。
図2A】本明細書で開示される実施例2の実験のウェスタンブロット画像を示す。
図2B】本明細書で開示される実施例2の実験から、GAPDHに対し正規化した、LC3-IIタンパク質量のデンシトメトリーによる定量を示す(A.U.:任意単位)。アスタリスクは、対応のない両側のスチューデントt検定によって計算された有意水準を表す。**p<0.01。
図3A】本明細書で開示される実施例3の実験のウェスタンブロット画像を示す。
図3B】本明細書で開示される実施例3の実験から、GAPDHに対し正規化した、LC3-IIタンパク質量のデンシトメトリーによる定量を示す(A.U.:任意単位)。アスタリスクは、対応のない両側のスチューデントt検定によって計算された有意水準を表す。p<0.05。
図4】魚用の水(fish water)(5mMのNaCl、0.17mMのKCl、0.33mMのCaCl2、0.33mMのMgSO4、0.00001%(重量/体積)のメチレンブルー)中500μMのバリンで処理したトランスジェニックLC3-ZsGreenゼブラフィッシュ胚を示す。オートファジーは、全面積によって正規化された、胚筋におけるLC3陽性顆粒の数を計数することによって測定した。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[0045]定義
[0046]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0040】
[0047]パーセンテージは全て、特に明記しない限り組成物の総重量に対する重量によるものとする。同様に、比は全て、特に明記しない限り重量によるものとする。pHについての参照がなされるとき、値は標準的な装置により25℃にて測定されるpHに相当する。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0041】
[0048]更に、本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数(integers,whole)又は分数を含むものと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項を支持するために与えられていると解釈すべきである。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲を支持するものと解釈すべきである。
【0042】
[0049]本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、別途文脈が明らかに示していない限り、単数形の単語は複数形を含む。したがって、「a」、「an」及び「the」の言及には、概してそれぞれの用語の複数形が包含される。例えば、「成分(an ingredient)」又は「方法(a method)」と言及する際は、複数の、かかる「原材料」又は「方法」が含まれる。「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びYの両方」と解釈されるべきである。
【0043】
[0050]同様に、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」という用語は、排他的ではなく、包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。しかし、本開示により提供される実施形態は、本明細書にて具体的に開示されない任意の要素を欠く場合がある。したがって、用語「含む(comprising)」を用いて規定される実施形態の開示は、開示される構成要素「から本質的になる」、及び「からなる」実施形態の開示でもある。「から本質的になる」とは、実施形態が、特定の構成要素を50重量%超、好ましくは特定の構成要素を少なくとも75重量%、より好ましくは特定の構成要素を少なくとも85重量%、最も好ましくは特定の構成要素を少なくとも95重量%、例えば、特定の構成要素を少なくとも99重量%含むことを意味する。
【0044】
[0051]本明細書において使用するとき、用語「例(example)」は、特に、後に用語の列挙が続く場合に、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであるとみなすべきではない。本明細書で開示される全ての実施形態は、特に明示的に示されない限り、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0045】
[0052]「動物」としては、齧歯類動物、水生哺乳動物、イヌ及びネコなどの飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」、「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合、これらの用語はまた、文章の文脈によって示される、又は示すことを目的としている効果について能力を有する任意の動物、例えば、オートファジーが可能な動物にも適用される。本明細書で使用するとき、用語「患者」は、本明細書で定義される治療を受けている又は治療を受ける予定の動物、例えば、哺乳動物、好ましくはヒトを含むと理解される。本明細書で使用するとき、「個体」及び「患者」という用語は、多くの場合、ヒトを指して使用されるが、本開示はヒトに限定されない。
【0046】
[0053]したがって、「個体」及び「患者」という用語は、本明細書で開示される方法及び組成物が有益となり得る任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。実際に、ヒト以外の動物は、ヒトの状態によく似た長期の重篤な病気を経験する。これらの重篤な動物は、ヒトに対応するものと同じ代謝障害、免疫障害、及び内分泌腺障害、並びに臓器不全及び筋消耗の発症を経験する。更に、動物は、老化の影響も同様に経験する。
【0047】
[0054]ヒトの文脈における用語「老齢」(elderly)は、少なくとも55歳、好ましくは63歳以上、より好ましくは65歳以上、最も好ましくは70歳以上の年齢を意味する。ヒトの文脈における用語「老年成体(older adult)」又は「高齢個体(ageing individual)」は、少なくとも45歳、好ましくは50歳以上、より好ましくは55歳以上の年齢を意味し、老齢の個体を含む。
【0048】
[0055]他の動物については、「老年成体」又は「高齢個体」とは、その個々の種、及び/又は種内における属の、平均寿命の50%を超えたものをいう。動物は、平均期待寿命の66%を超えた場合、好ましくは平均期待寿命の75%を超えた場合、より好ましくは平均期待寿命の80%を超えた場合に、「老齢」と考えられる。高齢のネコ又はイヌは、少なくとも約5歳齢である。老齢のネコ又はイヌは、少なくとも約7歳齢である。
【0049】
[0056]サルコペニアは、加齢に伴う筋肉質量及び筋機能(筋力及び歩行速度を含む)の低下として定義される。本明細書で使用するとき、「フレイル」は、複数の生理学的システムにわたる予備能及び機能において、老化に関連する衰えに起因して脆弱性が高まることにより、日常的又は急性のストレッサーに対処する能力が損なわれる、臨床的に認識可能な状態として定義される。確立された定量的標準がない場合、フレイルは、エネルギー特性が損なわれたことを示す以下の5つの表現型基準のうち3つを満たすと、Friedらにより機能的に定義されている:(1)筋力低下(ベースラインでのグリップ強度が母集団の下位20%以内、性別及び体格指数について調節される)、(2)持久力及びエネルギーの低下(最大VOに関連して自己報告された疲労)、(3)動作緩慢(15フィートの歩行時間に基づいてベースラインが母集団の下位20%、性別及び身長について調節される)、(4)身体活動低下(ベースラインでの週当たりに消費されたキロカロリーの重み付けスコア、各性別について特定された身体活動の第1五分位(lowest quintile);例えば、男性については383kcal/週未満、女性については270kcal/週未満)、及び/又は意図しない体重減少(過去1年間で10ポンド)。Fried LP,Tangen CM,Walston J,et al.,「Frailty in older adults:evidence for a phenotype.」J.Gerontol.A.Biol.Sci.Med.Sci.56(3):M146ーM156(2001)。これらの基準のうちの1つ又は2つが存在するプレフレイル段階は、フレイルに進行するリスクが高いことを特定する。
【0050】
[0057]用語「治療」及び「治療すること」には、状態又は疾患(障害)の改善をもたらす任意の効果、例えば状態又は疾患を和らげること、軽減すること、制御すること、又は解消させることが含まれる。この用語は、完治するまで対象が治療されることを必ずしも意味するものではない。状態又は疾患を「治療すること」又は「その治療」の非限定的な例としては、(1)状態又は疾患を阻害すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の発症を止めること、及び(2)状態又は疾患を緩和すること、すなわち状態若しくは疾患又はその臨床症状の一時的又は永続的な消退を生じさせることが挙げられる。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0051】
[0058]用語「予防」又は「予防すること」は、状態又は障害にさらされ得る又はそれに罹り易い傾向があり得るが、まだ状態又は障害の症状を呈していない又はそれが現れていない個体において、言及される状態又は障害の臨床症状を発症させないことを意味する。用語「状態」及び「疾患/障害」は、任意の疾患、状態、症状、又は徴候を意味する。
【0052】
[0059]相対的な用語「改善された(improved)」、「増加した(increased)」、「増強された(enhanced)」などは、高タンパク質(本明細書で開示される)を含む本組成物と、タンパク質は少ないがそれ以外は同一である組成物とを比較した効果を指す。
【0053】
[0060]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取が意図され、かかる個体に対して少なくとも1種の栄養分を提供する、製品又は組成物を意味する。本明細書に記載の多くの実施形態を含む本開示の組成物は、本明細書に記載の必須成分(essential elements)及び制限に加え、本明細書に記載の、又は食事療法に有用な、任意の追加の若しくは任意選択的な成分、構成成分、又は制限を含んでよく、これらから構成されてよく、又は本質的にこれらから構成されてよい。
【0054】
[0061]本明細書で使用するとき、「完全栄養」は、その組成物が投与される動物にとって、唯一の栄養源とするのに十分な、十分な種類及びレベルの主要栄養素(タンパク質、脂質及び炭水化物)及び微量栄養素を含有する。個体は、このような完全栄養組成物から、個体が必要とする栄養分の100%を受容可能である。
【0055】
[0062]本明細書で使用するとき、用語「重篤患者」は、急性の生命を脅かす症状を発症している個体、又はそのような発症の危険が差し迫っていると診断された個体である。重篤患者は、医学的に不安定であり、治療されない場合には、死亡する可能性が高い(例えば、>50%の死亡率)。
【0056】
[0063]重篤患者の非限定的な例としては、疾患若しくは傷害に起因して、生命を脅かす急性の単一若しくは多臓器系不全が持続する、又は持続するリスクがある患者、手術されていて、合併症を併発している患者、及び先週中に重要臓器の手術を受けた、又は先週中に大手術を受けた患者が挙げられる。
【0057】
[0064]重篤患者のより具体的な非限定的な例としては、疾患若しくは傷害に起因して、生命を脅かす急性の単一若しくは多臓器系不全が持続する、又は持続するリスクがある患者、及び手術されていて、合併症を併発している患者が挙げられる。重篤患者の更なる具体的な非限定的な例としては、心臓手術、大脳手術、胸部手術、腹部手術、血管手術、又は移植のうちの1つ以上が必要な患者、及び神経疾患、大脳外傷、呼吸不全、腹膜炎、多発性外傷、重症熱傷、重篤な多発性神経障害、重篤なミオパチー、又はICU獲得性筋力低下のうちの1つ以上に罹患している患者が挙げられる。
【0058】
[0065]用語「集中治療室(ICU)」は、重篤患者を治療する病院の一部を指す。用語「集中治療室」はまた、介護施設、診療所(例えば、プライベート診療所)なども範囲に含み、治療行動が行われる場所であるならば、ICUと同じ又は同様である。「ICU患者」は、用語「重篤患者」に包含される。
【0059】
[0066]用語「多臓器機能障害」は、感染症、血流の低下、代謝亢進、又は事故若しくは手術などの傷害から生じる状態を指す。重篤患者が死亡する「多臓器不全」は、少なくとも2つの重要臓器系の機能障害又は機能不全と定義される記述的な臨床症候群であると考えられる。均一かつ最も具体的に影響を受ける重要臓器系は、肝臓、腎臓、肺、並びに心臓血管系、神経系、及び血液系である。多臓器機能障害の非限定的な例としては、急性呼吸窮迫症候群、心不全、肝不全、腎不全、呼吸不全、集中治療、ショック、広範囲熱傷、敗血症(例えば、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome)(SIRS))、及び脳卒中が挙げられる。
【0060】
[0067]用語「経腸投与」は、経口投与(経口強制栄養投与を含む)及び直腸投与を包含するが、経口投与が好ましい。用語「非経口投与」は、消化管以外の経路によって与えられる物質の送達を指し、静脈内、動脈内、筋肉内、脳室内、骨内、皮内、くも膜下腔内、並びにまた腹腔内投与、膀胱腔内注入、及び海綿体内注射などの投与経路を範囲に含む。
【0061】
[0068]好ましい非経口投与は、静脈内投与である。非経口投与の特定の形態は、栄養の静脈内投与による送達である。非経口栄養は、食品が他の経路によって与えられない場合、「全非経口栄養」である。「非経口栄養」は、好ましくは、グルコースなどの糖類を含み、脂質、アミノ酸、及びビタミンのうちの1つ以上を更に含む、等張水溶液又は高張水溶液(又は溶解される固体組成物、又は等張溶液若しくは高張溶液を得るために希釈される液体濃縮物)である。
【0062】
[0069]実施形態
[0070]本開示の一態様は、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導する方法である。本方法は、多量のタンパク質(例えば、本組成物の総エネルギーの約25%)を含む組成物を投与する工程を含み、本組成物は、例えば筋肉においてオートファジーを誘導するのに有効な量で投与される。本組成物は、非経口的に、経腸的に、又は静脈内に投与することができる。
【0063】
[0071]一実施形態では、本組成物は、6gタンパク質/100kcalを超える、好ましくは9gタンパク質/100kcalを超えるタンパク質/エネルギー比を有する。一実施形態では、タンパク質は、本組成物の少なくとも24エネルギー%、より好ましくは本組成物の少なくとも36エネルギー%である。
【0064】
[0072]非限定的な例として、本組成物は、1.0gタンパク質/体重(kg)/日を超える、好ましくは1.2gタンパク質/体重(kg)/日を超える;例えば、最大2.5gタンパク質/体重(kg)/日(例えば、1.0~2.5gタンパク質/体重(kg)/日;1.2~2.5gタンパク質/体重(kg)/日;又は1.5~2.5gタンパク質/体重(kg)/日)、好ましくは最大2.0gタンパク質/体重(kg)/日(例えば、1.0~2.0gタンパク質/体重(kg)/日;1.2~2.0gタンパク質/体重(kg)/日;又は1.5~2.0gタンパク質/体重(kg)/日)、及びより好ましくは最大1.5gタンパク質/体重(kg)/日(例えば、1.0~1.5gタンパク質/体重(kg)/日若しくは1.2~1.5gタンパク質/体重(kg)/日)である量のタンパク質を提供する1日用量で投与することができる。タンパク質の1日用量は、1日当たり本組成物を1回分以上摂取することによって提供され得る。
【0065】
[0073]本組成物が液体形態である場合、好適な高タンパク質濃度の非限定的な例としては、6~20gタンパク質/100mL、例えば、6~11gタンパク質/100mL;7~14gタンパク質/100mL;7~12gタンパク質/100mL;8~11gタンパク質/100mL、8~20gタンパク質/100mL;9~20gタンパク質/100mL;及び11~20gタンパク質/100mLが挙げられる。
【0066】
[0074]本組成物は、筋肉、例えば骨格筋においてオートファジーを誘導することができる。このような筋肉の非限定的な例としては、次のうちの1つ以上が挙げられる:外側広筋、腓腹筋、脛骨筋、ヒラメ筋、長指伸筋(extensor,digitorum longus)(EDL)、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、大臀筋、外眼筋、顔筋肉、又は横隔膜。
【0067】
[0075]オートファジーの誘導を必要とする個体は、高齢の動物又は高齢のヒトなどの高齢個体であり得る。一部の実施形態では、オートファジーの誘導を必要とする個体は、老齢の動物又は老齢のヒトである。
【0068】
[0076]オートファジーの誘導を必要とする個体は、重篤患者であり得る。様々な実施形態では、本方法は、重篤患者において、例えば、患者が非経口栄養を受けることでホメオスタシスが機能しなくなった、若しくは妨げられた場合に、多臓器機能障害を治療若しくは予防することができ;多臓器機能障害から重篤患者を保護することができ;乳酸アシドーシス、例えば、非経口栄養によって誘導される乳酸アシドーシスの発症を治療若しくは予防することができ;重篤患者における筋力低下を治療若しくは予防することができ;非経口栄養によって栄養状態が悪化することによる罹患若しくは死亡を減少若しくは予防することができ;及び/又は身体システムの崩壊を防止することができる。
【0069】
[0077]一部の実施形態では、重篤患者は、乳酸アシドーシス、筋力低下、高血糖、多臓器不全、ホメオスタシスの失敗、及びホメオスタシスの妨害からなる群から選択される少なくとも1つの生命を脅かす状態を有する。一実施形態では、重篤患者は、非感染性疾患を有する。一実施形態では、重篤患者は、敗血症に起因しない又は敗血症に関連しない多臓器機能障害を有する。多臓器機能障害及び筋力低下は、救命救急現場においては一般的であり、調和の取れていない非経口栄養送達、又は非経口的に送達された相対的若しくは絶対的な栄養過多によって引き起こされ又は悪化し得る。
【0070】
[0078]一部の実施形態では、重篤患者は、重症外傷、多発性外傷、高リスク手術、広範囲手術、大脳外傷、脳出血、呼吸不全、腹膜炎、急性腎障害、急性肝傷害、重症熱傷、重篤な多発性神経障害、重篤なミオパチー、及びICU獲得性筋力低下からなる群から選択される少なくとも1つの疾患を有する。
【0071】
[0079]一部の実施形態では、重篤患者は、経腸又は非経口栄養を受けている。一部の実施形態では、本組成物は、ミトコンドリア機能障害、例えば、重篤患者への不十分な又は調和の取れていない非経口栄養によって誘発されたミトコンドリア機能障害を治療又は予防する。
【0072】
[0080]本明細書で使用するとき、用語「タンパク質」は、遊離形態のアミノ酸、アミノ酸2~20個の分子(本明細書では「ペプチド」と称する)を含み、また、同様に、より長いアミノ酸鎖も含む。小さいペプチド、すなわち、アミノ酸2~10個の鎖は、単独で、又は他のタンパク質との組み合わせにより本組成物に好適である。アミノ酸の「遊離形態」は、アミノ酸のモノマー形態である。好適なアミノ酸としては、天然アミノ酸及び非天然アミノ酸の両方が挙げられる。本組成物は、1種以上のタンパク質、例えば、1つ以上の(i)ペプチド、(ii)より長いアミノ酸鎖、又は(iii)遊離形態のアミノ酸の混合物を含んでもよく;この混合物は、好ましくは所望のアミノ酸プロファイル/含有量が得られるように配合される。
【0073】
[0081]タンパク質の少なくとも一部は、動物に由来するもの又は植物に由来するもの、例えば、乳タンパク質、例えば、乳タンパク質濃縮物若しくは乳タンパク質単離物;カゼイン塩若しくはカゼイン、例えば、カゼインミセル濃縮物若しくはカゼインミセル単離物;又はホエイタンパク質、例えば、ホエイタンパク質濃縮物若しくはホエイタンパク質単離物のうちの1つ以上などの乳製品タンパク質由来であり得る。追加的に又は代替的に、タンパク質の少なくとも一部は、大豆タンパク質又はエンドウ豆タンパク質のうちの1つ以上などの植物性タンパク質であり得る。
【0074】
[0082]これらのタンパク質の混合物、例えば、カゼインがタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、ホエイタンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、エンドウ豆タンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物、及び大豆タンパク質がタンパク質の大部分であるが全部ではない混合物もまた好適である。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、ホエイタンパク質である。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、カゼインである。一実施形態では、タンパク質の少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも30重量%は、植物性タンパク質である。
【0075】
[0083]ホエイタンパク質は、例えば、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質単離物、ホエイタンパク質ミセル、ホエイタンパク質加水分解物、酸性ホエイ、甘性ホエイ、変性甘性ホエイ(カゼイノグリコマクロペプチドが除去された甘性ホエイ)、ホエイタンパク質の画分、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される任意のホエイタンパク質であり得る。
【0076】
[0084]カゼインは任意の哺乳類から得ることができるが、好ましくは牛乳から、及び好ましくはカゼインミセルとして得られる。
【0077】
[0085]タンパク質は、加水分解されていなくてもよく、部分的に加水分解されていてもよく(すなわち、分子量は3kDa~10kDaで、平均分子量は5kDa未満のペプチド)、又は顕著に加水分解されてもよく(すなわち、90%が3kDa未満の分子量を有するペプチド)、例えば、5%~95%の範囲が加水分解されてもよい。一部の実施形態では、加水分解されたタンパク質のペプチドプロファイルは、異なる分子量の範囲内であり得る。例えば、ペプチドの大部分(>50モル%又は>50重量%)は、1~5kDa又は5~10kDa又は10~20kDa以内の分子量を有し得る。
【0078】
[0086]タンパク質は、必須アミノ酸及び/又は条件付き必須アミノ酸、例えば、カロリー制限レジメンでは送達が不十分であり得るアミノ酸を含むことができる。例えば、タンパク質は、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、及びバリンからなる群から選択される1つ以上の必須アミノ酸を含むことができ;これらのアミノ酸(存在する場合)のそれぞれは、約0.0476~約47.6mgのアミノ酸/kg bwの1日用量で本組成物において投与され得る。特に、メチオニンの摂取量が低いと、タンパク質の翻訳レベルが低下し、最終的には筋肉合成のレベルが低下する。タンパク質は、アルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、プロリン、オルニチン、セリン、及びチロシンからなる群から選択される1つ以上の条件付き必須アミノ酸(例えば、病気又はストレスに条件付きで必須のアミノ酸)を含むことができ;これらのアミノ酸(存在する場合)のそれぞれは、約0.0476~約47.6mgのアミノ酸/kg bwの1日用量で本組成物において投与され得る。
【0079】
[0087]本組成物は1つ以上の分枝鎖アミノ酸を含み得る。例えば、本組成物は、ロイシン、イソロイシン、及び/若しくはバリンを遊離形態で含むことができ、並びに/又はペプチド及び/若しくは乳、動物性、若しくは植物性タンパク質などのタンパク質と結合させることができる。分岐鎖アミノ酸の1日用量は、0.35~142.85mg/kg bwのロイシン、好ましくは0.175~71.425mg/kg bwのロイシン;0.175~71.425mg/kg bwのイソロイシン;及び0.175~71.425mg/kg bwのバリンのうちの1つ以上を含み得る。1つ以上の分岐鎖アミノ酸の1日用量は、1日当たりに本組成物を1回以上摂取することによって提供され得る。
【0080】
[0088]一実施形態では、本組成物は、炭水化物源を含む。デンプン(例えば、変性デンプン、アミロースデンプン、タピオカデンプン、コーンデンプン)、スクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、固形コーンシロップ、マルトデキストリン、キシリトール、ソルビトール、又はこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない、任意の好適な炭水化物を本組成物に使用してもよい。
【0081】
[0089]炭水化物源は、好ましくは本組成物の50エネルギー%以下、より好ましくは本組成物の36エネルギー%以下、最も好ましくは本組成物の30エネルギー%以下である。本組成物は、例えば、0.66を超える、好ましくは0.9を超える、より好ましくは1.2を超える、高いタンパク質:炭水化物エネルギー比を有することができる。
【0082】
[0090]一実施形態では、本組成物は、脂肪源を含む。脂肪源は、任意の適切な脂肪又は脂肪混合物を含み得る。好適な脂肪源の非限定的な例としては、植物性脂肪(例えば、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、菜種油、キャノーラ油、ヘーゼルナッツ油、大豆油、パーム油、ココナッツ油、ブラックカラント種子油、ルリヂサ油、レシチンなど)、動物性脂肪(乳脂肪など)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0083】
[0091]高タンパク質を含む本組成物は、ヒト(例えば、高齢個体又は重篤個体)などの個体に、治療に有効な用量で投与することができる。治療に有効な用量は当業者により決定され得るものであり、状態の重症度並びに個体の体重及び全身状態など、当業者に公知のいくつもの要因によって異なり得る。
【0084】
[0092]本組成物は、好ましくは少なくとも週2日、より好ましくは少なくとも週3日、最も好ましくは週7日;少なくとも1週間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも6か月、又は更に長い期間、個体に投与される。一部の実施形態では、本組成物は、例えば、少なくとも治療効果が達成されるまで、数日にわたって連続的に個体に投与される。一部の実施形態では、本組成物は、少なくとも30日間、60日間、又は90日間連続で毎日個体に投与することができる。
【0085】
[0093]上記の投与例は、間断のない連日投与を必要とするものではない。それよりむしろ、投与期間中の2~4日間の中断など、投与には何回かの短期間の中断があってもよい。本組成物の理想的な投与継続期間は当業者により決定され得る。
【0086】
[0094]好ましい実施形態では、本組成物は、個体に経口投与又は経腸投与(例えば経管栄養法)される。例えば、本組成物は、飲料、カプセル、錠剤、散剤又は懸濁液剤として個体に投与することができる。
【0087】
[0095]本組成物は、ヒト及び/又は動物が摂取するのに好適ないかなる種類の組成物であってもよい。例えば、本組成物は、食品組成物、栄養補助食品、栄養組成物、ニュートラシューティカルズ、摂取前に水又は乳で再構成される粉末栄養製剤、食品添加物、医薬品、飲料及びドリンクからなる群から選択され得る。一実施形態では、本組成物は、経口栄養補助食品(ONS)、完全栄養配合物、医薬品、薬剤又は食品製品である。好ましい実施形態では、本組成物は個体に飲料として投与される。本組成物は粉末としてサシェに保存され、次に使用の際に水などの液体中に懸濁されてもよい。
【0088】
[0096]経口又は経腸投与が不可能であるか、又は推奨されない一部の場合には、本組成物はまた、非経口投与されてもよい。
【0089】
[0097]一部の実施形態では、本組成物は単回投与剤形で個体に投与され、即ち、食事と一緒に個体に与えられる1つの製剤中に全ての化合物が存在している。他の実施形態では、本組成物は別個の剤形で同時投与され、例えば少なくとも1つの構成成分と本組成物の他の構成成分のうちの1つ以上は別個のものとして同時投与される。
[0098]
【実施例
【0090】
[0099]以下の非限定的な例は、高タンパク質を含む組成物を投与して、オートファジーの誘導を必要とする個体においてオートファジーを誘導することの概念を展開及び支援する科学的データを提示する。
【0091】
[0100]材料及び方法
[0101]マウス
[0102]10~15週齢のC57bl6/Jマウスに、標準食、又は富タンパク質かつ低炭水化物食(高タンパク質等カロリー)のいずれかを4週間、不断給餌した。コルヒン(colchine)処理を受けたマウスに、筋肉採取前に2日連続で、生理食塩水溶液中に溶解した0.4mg/kg/日のコルヒチンを腹腔内注射した。標準食は、16%の脂肪(大豆油)、20%のタンパク質(カゼイン)、64%の炭水化物(40%のコーンデンプン、14%のデキストリン化コーンデンプン、10%のスクロース)から構成された。高タンパク質等カロリー食は、16%の脂肪(大豆油)、60%のタンパク質(カゼイン)、24%の炭水化物(7%のコーンデンプン、10%のデキストリン化コーンデンプン、7%のスクロース)から構成された。これらの量は、供給物の総エネルギーの百分率である。イソフルラン吸入によりマウスを屠殺した後、放血を行った。四頭筋及び肝臓を回収し、液体窒素中で凍結させた。
【0092】
[0103]ウェスタンブロット
[0104]20mL/gのRIPA緩衝液(150mM塩化ナトリウム、50mMトリス(pH8)、1%Triton X-100、0.5%デオキシコール酸、0.1%SDS、タンパク質分解酵素阻害剤カクテル)に均質化した30~50mgの組織から、組織解離剤(gentleMACS Miltenyi Biotec)により全タンパク質溶解物を抽出した。BCAアッセイによりタンパク質濃度を求め、4X LDSサンプル緩衝液(Invitrogen)を添加してサンプルを調製した。20μgのタンパク質をSDS-PAGEにより4~12%勾配ゲルで分離し、ドライiBLOTシステム(Invitrogen)を使用してPVDF膜に転写した。膜をLC3(Novus Biologicals 2220)及びGAPDH(Cell Signaling 2118)抗体と共にインキュベートし、ECL基質(Pierce)で検出した。ImageJソフトウェアを使用して、画像のデンシトメトリー分析によってタンパク質定量を行った。
【0093】
[0105]実施例1:高タンパク質食は骨格筋においてオートファジーを誘導する
[0106]図1A及び図1Bは、標準食又は高タンパク質含有量の等カロリー食を4週間給餌した若年成体野生型マウスからの結果を示す。骨格筋(四頭筋)におけるLC3-I及びLC3-IIタンパク質量を、ウェスタンブロットにより測定し、GAPDHに対し正規化した。LC3-IIのレベルを評価することにより、オートファジーを測定した。LC3-IIタンパク質量のデンシトメトリーによる定量は、GAPDHに対し正規化した(A.U.:任意単位)。
【0094】
[0107]実施例2:高タンパク質食はリソソーム阻害剤の存在下で骨格筋においてオートファジーフラックスを誘導する
[0108]図2A及び図2Bは、リソソーム活性を阻害し、オートファジーフラックス(autophagic flux)を監視するために、異なる食事を給餌し、筋肉採取前に2日連続でコルヒチン(0.4mg/kg/日)を腹腔内注射したマウスから得られた結果を示す。ウェスタンブロットにより、LC3-I及びLC3-IIタンパク質量を測定した。リソソーム阻害時のLC3-IIのレベルを評価することにより、オートファジーフラックスを測定した。コルヒチン処理時の高タンパク質等カロリー食における累積的なLC3-II蓄積は、オートファジーフラックスの増加を示す。
【0095】
[0109]実施例3:高タンパク質等カロリー食は肝臓においてオートファジーを誘導しない
[0110]図3A及び図3Bは、肝臓におけるLC3-I及びLC3-IIタンパク質量を、ウェスタンブロットにより測定し、GAPDHに対し正規化したマウスからの結果を示す。LC3-IIのレベルを評価することにより、オートファジーを測定した。デンシトメトリー分析は、高タンパク質等カロリー食を給餌されたマウスの肝臓においてオートファジー誘導がないことを示す。
【0096】
[0111]実施例4:バリンは骨格筋においてオートファジーを誘導する
[0112]図4は、魚用の水(5mMのNaCl、0.17mMのKCl、0.33mMのCaCl2、0.33mMのMgSO4、0.00001%(重量/体積)のメチレンブルー)中500μMのバリンで処理したトランスジェニックLC3-ZsGreenゼブラフィッシュ胚の結果を示す。オートファジーは、全面積によって正規化された、胚筋におけるLC3陽性顆粒の数を計数することによって測定した。
【0097】
[0113]方法:
[0114]ゼブラフィッシュオートファジーレポーターは、骨格筋特異的プロモーターの制御下でZsGreenに融合されたLC3タンパク質(以下、LC3-ZsGreen)の安定発現によって生成されている。異系交配したトランスジェニックゼブラフィッシュ由来の胚を、標準的な実験室条件下で28℃に温度上昇させ、96ウェルプレート(n=24)において受精後48時間処理した。16時間の処理後、胚を0.016%トリカインで麻酔し、倍率20倍でImageXpress共焦点システム(Molecular Devices)で画像化した。撮像後、胚を100mMのNH4Clで4時間更に処理して、LC3の分解をブロックし、再び画像化した。各胚のZスタック画像をキャプチャし、最大投影画像(maximal projection images)を生成した。LC3顆粒の数を、MetaXpressソフトウェア(Moleculare Devices)で計算し、魚の面積によって正規化した。
【0098】
[0115]結果:
[0116]500μMのバリンによる処理により、ゼブラフィッシュ胚の骨格筋におけるLC3陽性顆粒の増加を誘導した。リソソーム阻害剤NHClの存在下でのLC3顆粒の累積的な増加は、オートファジーフラックスの増加を示す。
【0099】
[0117]本明細書に記載されている、本発明の好ましい実施形態に対する様々な変更及び改変が、当業者には明らかであることを理解されたい。かかる変更及び改変は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。したがって、かかる変更及び改変は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4