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特許7410036ベンゾジアゼピン誘導体塩酸塩および結晶形、その製造方法および用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ベンゾジアゼピン誘導体塩酸塩および結晶形、その製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20231226BHJP
   A61K 31/5517 20060101ALI20231226BHJP
   A61P 23/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C07D487/04 154
C07D487/04 CSP
A61K31/5517
A61P23/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020543143
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 CN2019074935
(87)【国際公開番号】W WO2019158075
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】201810151979.0
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519202588
【氏名又は名称】ジャンスー、エンファルオカン、ファーマシューティカル、リサーチ、アンド、ディベロップメント、カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU NHWALUOKANG PHARMACEUTICAL RESEARCH AND DEVELOPMENT CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】リ、チンゲン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥアン、チェン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、タオ
(72)【発明者】
【氏名】リァオ、ジアン
(72)【発明者】
【氏名】リー、チャンウェン
(72)【発明者】
【氏名】ハオ、チャオ
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107266452(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0217965(US,A1)
【文献】結晶多形の基礎と応用,普及版 第1刷,株式会社 シーエムシー出版,2010年10月22日,第105~117頁
【文献】芦澤 一英、他,医薬品の多形現象と晶析の科学,丸善プラネット株式会社,2002年09月20日,第305-317頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形:
【化1】
[式中、Rはエチルであり、結晶形が、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:6.87、7.38、9.53、13.65、18.71、22.13、22.67、25.10、27.25、29.30±0.2度のX線粉末回折パターンを有する]。
【請求項2】
X線粉末回折パターンが、さらにCuKα線を用いて測定された以下の2θ値:14.96、15.43、20.23、20.67、21.13、23.52、28.22、31.26±0.2度を示す、請求項1に記載の結晶形。
【請求項3】
結晶形が、CuKα線を用いて測定された、以下の表1~表4のいずれかにおいて示される2θ値を示す、X線粉末回折パターンを有する、請求項1または2に記載の結晶形。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【請求項4】
式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形:
【化2】
[式中、Rはエチルであり、結晶形が、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:7.41、9.24、12.71、13.64、15.06、18.30、18.72、21.59、22.18、25.74±0.2度のX線粉末回折パターンを有する]。
【請求項5】
X線粉末回折パターンが、さらにCuKα線を用いて測定された以下の2θ値:9.52、11.69、20.90、22.60、23.65、24.26、26.40、28.43、29.35±0.2度を示す、請求項4に記載の結晶形。
【請求項6】
結晶形が、CuKα線を用いて測定された、以下の表5において示される2θ値を示す、X線粉末回折パターンを有する、請求項4または5に記載の結晶形。
【表5】
【請求項7】
式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形:
【化3】
[式中、Rはエチルであり、結晶形が、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:6.84、7.37、9.53、13.66、22.63、25.57、29.28、31.26±0.2度のX線粉末回折パターンを有する]。
【請求項8】
X線粉末回折パターンが、さらにCuKα線を用いて測定された以下の2θ値:15.43、19.07、22.16、34.25±0.2度を示す、請求項7に記載の結晶形。
【請求項9】
結晶形が、CuKα線を用いて測定された、以下の表6~表9のいずれかにおいて示される2θ値を示す、X線粉末回折パターンを有する、請求項7または8に記載の結晶形。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【請求項10】
請求項1~3のいずれか一項に記載の結晶形を製造する方法であって、以下の工程:下式II-2のベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基を有機溶媒1に溶解する工程、HCl供与体Aを加えて、-20~60℃の温度で塩を形成する工程、粗塩を脱色した後、その塩を無水エタノールに溶かし、-60~80℃の温度で結晶化溶媒1をそこへ加えて、式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形を得る工程、
を含んでなり、
結晶化溶媒1が、メチルtert-ブチルエーテルであかつ
HCl供与体Aが、HCl-無水アルコール溶液またはHClを生成できる溶液Bであり、HCl供与体Aに対するベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基の物質の量の比(モル比)が、1:0.4~1である([H+]により計算)か、または、HCl供与体Aがアミノ酸塩酸塩であり、アミノ酸塩酸塩に対するベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基の物質の量の比(モル比)が、1:1~10である、
方法。
【化4】
【請求項11】
請求項4~6のいずれか一項に記載の結晶形を製造する方法であって、以下の工程:下式II-2のベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基を有機溶媒1に溶解する工程、HCl供与体Aを加えて、-20~60℃の温度で塩を形成する工程、粗塩を脱色した後、その塩を無水エタノールに溶かし、-60~80℃の温度で結晶化溶媒1をそこに加えて、式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形を得る工程、
を含んでなり、
結晶化溶媒1が、エタノール:メチルtert-ブチルエーテル=1:7(v/v)の溶媒であかつ
HCl供与体Aが、HCl-無水アルコール溶液またはHClを生成できる溶液Bであり、HCl供与体Aに対するベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基の物質の量の比(モル比)が、1:0.4~1である([H+]により計算)か、または、HCl供与体Aがアミノ酸塩酸塩であり、アミノ酸塩酸塩に対するベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基の物質の量の比(モル比)が、1:1~10である、
方法。
【化5】
【請求項12】
有機溶媒1が、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールから選択されるアルコール溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルから選択されるエステル溶媒;アセトンおよびブタノンから選択されるケトン溶媒;またはその混合物である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
HCl供与体Aが、アミノ酸塩酸塩;HCl-無水アルコール溶液、すなわち、乾燥HClガスのアルコール溶液;または、HClを生成できる溶液Bである、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
アミノ酸塩酸塩が、グリシン塩酸塩、アラニン塩酸塩、またはバリン塩酸塩であり;HCl-無水アルコール溶液が、乾燥HCl-メタノール溶液、乾燥HCl-エタノール溶液、または乾燥HCl-イソプロパノール溶液であり;かつ、HClを生成できる溶液Bが、塩化アセチル-メタノール溶液、塩化アセチル-エタノール溶液、塩化プロピオニル-エタノール溶液、または塩化アセチル-イソプロパノール溶液である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
HCl供与体Aがアミノ酸塩酸塩であり、ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形が、0%~8%(w/w)のアミノ酸量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
塩を形成するための温度が-10~30℃であり、結晶化のための温度が-20~60℃である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~9のいずれか一項に記載の結晶形、ならびに薬学上許容可能な賦形剤、担体および/または他の補助材料を含んでなる、医薬組成物。
【請求項18】
静脈麻酔薬としての使用のための、請求項1~9のいずれか一項に記載の結晶形または請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
静脈麻酔薬の製造における、請求項1~9のいずれか一項に記載の結晶形の使用。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本出願は、2018年2月13日に出願された中国特許出願第201810151979.0号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩、およびそれらの結晶形、その製造方法および使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
レミマゾラム(CNS7056)は、ミダゾラムに基づき改良された新世代のベンゾジアゼピン誘導体である。その作用の迅速な発現および迅速な回復のために、注目を集めている。研究が進むにつれ、レミマゾラムの欠点が徐々に明らかになった。ICU鎮静の第II相臨床試験において、Ono Companyは、レミマゾラムの投与後、患者の血行動態は不安定であり、10%の患者における血漿中濃度は、正常範囲より高かったことを見出した(PAION AG Analyst call 2014年10月14日)。
【0004】
WO0069836は、レミマゾラムおよびその薬学上許容可能な塩を開示したが、薬学上許容可能な塩の製造方法は開示しなかった。CN104059071およびCN103221414は、レミマゾラムベシル酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩の製造方法および結晶形を開示した。PCT/CN2015/084770は、ベンゾジアゼピン誘導体およびそれらのスルホン酸塩の一連の製造方法を開示した。これらの誘導体は、良好な静脈麻酔効果を有する。公開されている参考文献において、これらの化合物の塩は、水へのそれらの溶解度を増加させるために、ベンゾジアゼピンの塩基性基とともに有機スルホン酸(例えば、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸など)を用いることにより、形成される。しかしながら、有機スルホン酸を用いて塩を形成することには、以下の不利点がある:塩化中にベンゾジアゼピン誘導体に対する溶媒として対応するアルコールを使用する必要がある。有機スルホン酸を用いる場合、有機スルホン酸エステルが形成される可能性がある。例えば、以下の反応スキームを参照されたい:
【化1】
[式中、Rは、メチルまたはエチルであり;Rは、メチル、エチル、フェニル、4-メチルフェニル、4-ヒドロキシフェニルなどである]
【0005】
このように生成された有機スルホン酸エステルは、強い遺伝毒性を有する(ICH Harmonised Tripartite Guideline, Assessment and Control of DNA Reactive (Mutagenic) Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk, Current Step 4 version, 2014年6月23日)。したがって、ベンゾジアゼピン誘導体のこれらの有機スルホン酸塩は、それらの製造、保存および適用中に、潜在的な遺伝毒性物質を形成するリスクを有する。遺伝毒性物質は、非常に低濃度でヒト遺伝物質に対する損傷を生じ得、次に、遺伝子変異をもたらし、腫瘍形成を促進し得るという特徴を有する。それらの強い毒性のために、遺伝毒性物質は、薬剤の安全性に対して強い脅威を与える。最近、市販の薬剤に認められる微量の遺伝毒性不純物のために、一層重大な医療事故が生じている。したがって、様々な国における規制当局、例えば、ICH、FDA、EMAなどは、遺伝毒性不純物に対するより特別な要件を設けており、より多くの製薬会社が、新規薬剤の開発において遺伝毒性不純物の管理および検査に焦点を当てている。有機スルホン酸エステルにより引き起こされる遺伝毒性のリスクを避けるために、スルホン酸塩を、遺伝毒性のリスクがないか、またはごくわずかである酸基、例えばClと置換することが好ましい。しかしながら、このようなベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基分子には複数の塩基性中心が存在し、一般的な方法を用いると、すなわち、単一のアミノ基を用いて、強酸-塩酸とともに塩を形成すると、単一および複数の塩の混合物が形成され、モノ塩酸塩を得ることが難しくなり、結晶化が困難となり、吸湿性が強くなり、安定性が不十分となる。
【発明の概要】
【0006】
本発明のある態様によれば、式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩またはそのエタノール付加物の結晶形:
【化2】
[式中、Rは、メチルまたはエチルであり;Rがメチルである場合、結晶形は、以下のセルパラメーター:a=7.6929(6)Å、b=11.9174(10)Å、c=13.2096(11)Å、α=90°、β=96.904(1)°、γ=90°を有し;Rがエチルである場合、結晶形は、以下のセルパラメーター:a=7.3774(1)Å、b=12.7332(2)Å、c=27.1779(4)Å、α=90°、β=90°、γ=90°を有する]
が提供される。
【0007】
この態様によるある実施態様において、Rはメチルであり、その結晶形は、実質的に図1に示されるような構造を有するか、または、実質的に表1~6に示されるような1以上のパラメーターにより特徴付けられ得る。別の実施態様において、Rはエチルであり、その結晶形は、実質的に図2に示されるような構造を有するか、または、実質的に表7~12に示されるような1以上のパラメーターにより特徴付けられ得る。
【0008】
この態様によるある実施態様において、Rはメチルであり、式Iの化合物は、6.71~7.52%(w/w)の塩化物イオンの含量を有する。別の実施態様において、Rはエチルであり、式Iの化合物は、6.51~7.31%(w/w)の塩化物イオンの含量を有する。
【0009】
一つの実施態様において、Rがメチルである式Iの化合物の結晶形は、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約6.81、8.93、13.39、19.38、21.23、22.42、24.20、27.31±0.2度のX線粉末回折パターンを有する。X線粉末回折パターンはまた、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約8.11、9.86、14.73、17.47、23.03、25.94、28.31±0.2度を有し得る。さらに、結晶形は、実質的に図3に示されるようなX線粉末回折パターンを有する。
【0010】
別の実施態様において、Rがメチルである式Iの化合物の結晶形は、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約6.80、8.93、9.87、13.37、14.69、19.36、20.76、21.25、22.19、22.38、23.06、24.21、25.93、27.73±0.2度のX線粉末回折パターンを有する。X線粉末回折パターンはまた、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約16.14、17.48、20.02、25.17、26.36、28.30、34.13±0.2度を有し得る。さらに、結晶形は、実質的に図4に示されるようなX線粉末回折パターンを有する。
【0011】
ある実施態様において、Rがエチルである式Iの化合物の結晶形は、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約6.87、7.38、9.53、13.65、18.71、22.13、22.67、25.10、27.25、29.30±0.2度のX線粉末回折パターンを有する。X線粉末回折パターンはまた、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約14.96、15.43、20.23、20.67、21.13、23.52、28.22、31.26±0.2度を有し得る。さらに、結晶形は、実質的に図5~8のいずれか1つに示されるようなX線粉末回折パターンを有する。
【0012】
ある実施態様において、Rがエチルである式Iの化合物の結晶形は、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約7.41、9.24、12.71、13.64、15.06、18.30、18.72、21.59、22.18、25.74±0.2度のX線粉末回折パターンを有する。X線粉末回折パターンはまた、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約9.52、11.69、20.90、22.60、23.65、24.26、26.40、28.43、29.35±0.2度を有し得る。さらに、結晶形は、実質的に図9に示されるようなX線粉末回折パターンを有する。
【0013】
別の実施態様において、Rがエチルである式Iの化合物の結晶形は、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約6.84、7.37、9.53、13.66、22.63、25.57、29.28、31.26±0.2度のX線粉末回折パターンを有する。X線粉末回折パターンはまた、CuKα線を用いて測定された以下の2θ値:約15.43、19.07、22.16、34.25±0.2度を有し得る。さらに、結晶形は、実質的に図10~13のいずれか1つに示されるようなX線粉末回折パターンを有する。
【0014】
本発明の別の態様によれば、本発明による式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の上記の結晶形を製造する方法であって、以下の工程:下式II-1またはII-2のベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基を有機溶媒1に溶解する工程、HCl供与体A[式中、[H]は遊離塩基と等モルである]を加えて、-20~60℃、好ましくは-10~30℃の温度で塩を形成する工程、粗塩を脱色した後、それを-60~80℃、好ましくは-20~60℃の温度で結晶化溶媒1中にて結晶化して、式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形を得る工程、を含んでなる方法が提供される。
【化3】
【0015】
この態様によるある実施態様において、有機溶媒1は、アルコール溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール;エステル溶媒、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル;ケトン溶媒、例えば、アセトンおよびブタノン;またはその混合物である。
【0016】
この態様によるある実施態様において、HCl供与体Aは、アミノ酸塩酸塩、例えば、グリシン塩酸塩、アラニン塩酸塩、バリン塩酸塩;HCl-無水アルコール溶液、すなわち、乾燥HClのアルコール溶液、例えば、乾燥HCl-メタノール溶液、乾燥HCl-エタノール溶液、乾燥HCl-イソプロパノール溶液;または、HClを生成できる溶液B、例えば、塩化アセチル-メタノール溶液、塩化アセチル-エタノール溶液、塩化プロピオニル-エタノール溶液、塩化アセチル-イソプロパノール溶液である。
【0017】
この態様によるある実施態様において、HCl供与体Aは、アミノ酸塩酸塩であり、ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形は、0%~8%(w/w)のアミノ酸の量を有する。
【0018】
この態様によるある実施態様において、HCl供与体Aは、HCl-無水アルコール溶液またはHClを生成できる溶液Bであり、HCl供与体A([H]により計算)に対するベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基の物質の量の比(モル比)は、1:0.4~1であり;HCl供与体Aはアミノ酸塩酸塩であり、アミノ酸塩酸塩に対するベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基の量の比(モル比)は、1:1~10である。
【0019】
この態様によるある実施態様において、結晶化溶媒1は、アルコール溶媒、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール;エーテル溶媒、例えば、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、メチルtert-ブチルエーテル;エステル溶媒、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル;ケトン溶媒、例えば、アセトンおよびブタノン;アルカン溶媒、例えば、n-ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル;ハロゲン化アルカン、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン;およびその組合せを含んでなる。
【0020】
本発明の別の態様によれば、本発明による式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の上記の結晶形、ならびに薬学上許容可能な賦形剤、担体および/または他の補助材料を含んでなる医薬組成物が提供される。
【0021】
本発明による結晶形および医薬組成物は、静脈麻酔薬として使用され得る。
【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、有効量の本発明による式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形、または該結晶形を含んでなる医薬組成物を、それを必要とする対象に静脈内投与することを含んでなる、麻酔の方法が提供される。
【0023】
本発明により提供されるベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の結晶形は、ベンゾジアゼピン誘導体の安定性を改善できるだけでなく、ベンゾジアゼピン誘導体スルホン酸塩の製造および保存中に強い遺伝毒性を有するスルホン酸エステル不純物を形成する可能性も排除することができ、より優れた麻酔効果を有し、これはさらに臨床使用の助けとなる。
【0024】
さらに、本発明は、対応するスルホン酸塩と比較して、1)良好な安定性を有し、加水分解生成物を生成する傾向が低く;2)製造または長期保存中に強い遺伝毒性を有するスルホン酸エステル不純物を生成せず;3)麻酔の持続時間が短く、覚醒後に歩行を開始するまでの時間の間隔が短く、個体差が少ない(これは臨床的意義が大きい)、式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩を提供する。
【0025】
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】Rがメチルである式Iの化合物のエタノール付加物の単結晶分子構造。
図2】Rがエチルである式Iの化合物のエタノール付加物の単結晶分子構造。
図3】R=CHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(CNS-7056A2017120401)。
図4】R=CHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(CNS-7056AG20171225)。
図5】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001A2017120401)。
図6】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001A2017120801)。
図7】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001A20180105)。
図8】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001A2018010801)。
図9】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001A20180130)。
図10】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001AG2017121801)。
図11】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001AG2017122101)。
図12】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001AG2017122702LJ)。
図13】R=CHCHである式Iの化合物の結晶のX線粉末回折パターン(EL-001AG2018010201)。
【発明の具体的説明】
【0027】
本発明は、以下の一般式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩およびそのエタノール付加物の結晶構造:
【化4】
[式中、Rは、メチルまたはエチルである]
を提供する。
【0028】
本発明の一つの実施態様によれば、Rがメチルである場合、本発明により提供されるベンゾジアゼピン塩酸塩のエタノール付加物の結晶は、以下のセルパラメーター:a=7.6929(6)Å、b=11.9174(10)Å、c=13.2096(11)Å、α=90°、β=96.904(1)°、γ=90°を有する。この結晶はまた、図1に示されるようなその構造、表1に示されるようなパラメーター、表2、表3、および表4に示されるような構造座標、ならびに表5および表6に示されるような結合長および結合角により、さらに特徴付けられ得る。
【0029】
本発明の一つの実施態様によれば、Rがエチルである場合、本発明により提供されるベンゾジアゼピン塩酸塩のエタノール付加物の結晶は、以下のセルパラメーター:a=7.3774(1)Å、b=12.7332(2)Å、c=27.1779(4)Å、α=90°、β=90°、γ=90°を有する。この結晶はまた、図2に示されるようなその構造、表7に示されるような構造パラメーター、表8、表9、および表10に示されるような構造座標、ならびに表11および表12に示されるような結合長および結合角により、さらに特徴付けられ得る。
【0030】
本発明のある実施態様によれば、Rがメチルである場合、式Iの化合物は、6.71~7.52%(w/w)の塩化物イオンの含量を有する。
【0031】
本発明のある実施態様において、Rがエチルである場合、式Iの化合物は、6.51~7.31%(w/w)の塩化物イオンの含量を有する。
【0032】
本発明により提供されるベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩は、結晶塩であり、それらの結晶構造およびX線粉末回折データおよびパターンも提供される。
【0033】
本発明のある実施態様によれば、Rはメチルであり、それは、約6.81、8.93、13.39、19.38、21.23、22.42、24.20、27.31±0.2の特性吸収を有するCu-Kα線を用いることにより2θ度で表されるX線粉末回折パターンを有し、約8.11、9.86、14.73、17.47、23.03、25.94、28.31±0.2度の2θのX線粉末回折パターン、または図3に示されるようなX線粉末回折パターンにより、さらに特徴付けられ得る。
【0034】
本発明のある実施態様によれば、Rはメチルであり、それは、約6.80、8.93、9.87、13.37、14.69、19.36、20.76、21.25、22.19、22.38、23.06、24.21、25.93、27.73±0.2の特性吸収を有するCu-Kα線を用いることにより2θ度で表されるX線粉末回折パターンを有し、約16.14、17.48、20.02、25.17、26.36、28.30、34.13±0.2度の2θのX線粉末回折パターン、または図4に示されるようなX線粉末回折パターンにより、さらに特徴付けられ得る。
【0035】
本発明のある実施態様によれば、Rはエチルであり、それは、約6.87、7.38、9.53、13.65、18.71、22.13、22.67、25.10、27.25、29.30±0.2の特性吸収を有するCu-Kα線を用いることにより2θ度で表されるX線粉末回折パターンを有し、約14.96、15.43、20.23、20.67、21.13、23.52、28.22、31.26±0.2度の2θのX線粉末回折パターン、または図5~8に示されるようなX線粉末回折パターンにより、さらに特徴付けられ得る。
【0036】
本発明のある実施態様によれば、Rはエチルであり、それは、約7.41、9.24、12.71、13.64、15.06、18.30、18.72、21.59、22.18、25.74±0.2の特性吸収を有するCu-Kα線を用いることにより2θ度で表されるX線粉末回折パターンを有し、約9.52、11.69、20.90、22.60、23.65、24.26、26.40、28.43、29.35±0.2度の2θのX線粉末回折パターン、または図9に示されるようなX線粉末回折パターンにより、さらに特徴付けられ得る。
【0037】
本発明のある実施態様によれば、Rはエチルであり、それは、約6.84、7.37、9.53、13.66、22.63、25.57、29.28、31.26±0.2の特性吸収を有するCu-Kα線を用いることにより2θ度で表されるX線粉末回折パターンを有し、約15.43、19.07、22.16、34.25±0.2度の2θのX線粉末回折パターン、または図10~13に示されるようなX線粉末回折パターンにより、さらに特徴付けられ得る。
【0038】
本発明の第2の態様によれば、ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩およびその結晶形を製造する方法、すなわち、ベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基を有機溶媒1に溶解する工程;ベンゾジアゼピン誘導体の遊離塩基と等モルであるHCl供与体Aを加えて、-20~60℃で塩を形成し、粗生成物を得る工程;および、脱色後、粗生成物を-60~80℃で結晶化溶媒1中にて結晶化して、ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩を得る工程、が提供される。
【0039】
本発明のある実施態様によれば、有機溶媒1は、アルコール溶媒(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなど)、エステル溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなど)、ケトン溶媒(例えば、アセトン、ブタノンなど)、またはその混合物である。
【0040】
本発明のある実施態様によれば、HCl供与体Aは、アミノ酸塩酸塩(例えば、グリシン塩酸塩、アラニン塩酸塩、バリン塩酸塩など)、HCl-無水アルコール溶液(すなわち、乾燥HClガスのアルコール溶液、例えば、乾燥HCl-メタノール溶液、乾燥HCl-エタノール溶液)、HClを生成できる溶液B(例えば、塩化アセチル-メタノール溶液、塩化アセチル-エタノール溶液など)である。
【0041】
本発明のある実施態様によれば、HCl供与体Aがアミノ酸塩酸塩である場合、ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩は、0%~8%(w/w)のアミノ酸の量を有する。
【0042】
本発明のある実施態様によれば、HCl供与体Aがアミノ酸塩酸塩である場合、アミノ酸塩酸塩に対するベンゾジアゼピン誘導体(遊離塩基により計算)の物質の量の比は、1:1~10であり;HCl供与体Aが、HCl-無水アルコール溶液またはHClを生成できる溶液Bである場合、酸(HClにより計算)に対するベンゾジアゼピン誘導体(遊離塩基により計算)の量の比は、1:0.4~1である。
【0043】
本発明のある実施態様によれば、塩を形成するための温度は、-20~60℃、好ましくは-10~30℃であり;結晶化温度は、-60~80℃、好ましくは-20~60℃である。
【0044】
本発明のある実施態様によれば、結晶化溶媒1は、アルコール溶媒(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノールなど)、エーテル溶媒(例えば、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、メチルtert-ブチルエーテル、イソプロピルエーテルなど)、エステル溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなど)、ケトン溶媒(例えば、アセトン、ブタノンなど)、アルカン溶媒(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテルなど)、ハロゲン化アルカン(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなど)およびその組合せを含んでなる。
【0045】
本発明の第3の態様によれば、静脈麻酔薬として使用され得る、本発明のベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩および医薬組成物が提供される。
【0046】
医薬組成物は、本発明による式Iのベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の上記の結晶形、ならびに場合により、薬学上許容可能な賦形剤、担体および/または他の補助材料を含んでなる。賦形剤および/または担体は、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、スクロース、ラクトース、グルコース、デキストリン、マルトース、マルチトール、マルトデキストリン、エリトリトール、トレハロース、グルコン酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、グリシン、加水分解ゼラチン、ヒトアルブミンなどの1以上を含む。組成物は、場合により、他の補助材料、例えば、pH調整剤、安定剤、鎮痛剤、静菌剤などを含み得る。pH調整剤は、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酢酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、重硫酸ナトリウム、重硫酸カリウム、重硫酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、クエン酸、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、クエン酸二水素アンモニウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸水素カリウムナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム、乳酸、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸アンモニウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸、リンゴ酸水素ナトリウム、リンゴ酸水素カリウム、リンゴ酸水素アンモニウム、リンゴ酸カリウムナトリウム、酒石酸、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸水素アンモニウム、酒石酸カリウムナトリウム、ビタミンC、ビタミンCナトリウム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸アンモニウム、コハク酸水素ナトリウム、コハク酸水素カリウム、コハク酸水素アンモニウム、コハク酸カリウムナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、アミノ酸およびそれらの塩の1以上を含む。安定剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ビタミンC、チオグリコール酸ナトリウム、グリシン、システイン、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウムカルシウムなどの1以上を含む。鎮痛剤は、例えば、ベンジルアルコール、1,1,1-トリクロロ-2-メチル-2-プロパノールなどの1以上を含む。静菌剤は、例えば、ベンジルアルコール、1,1,1-トリクロロ-2-メチル-2-プロパノール、安息香酸およびその塩、ソルビン酸およびその塩、パラベンなどの1以上を含む。
【0047】
本発明の第4の態様によれば、特定の用量の本発明のベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩および医薬組成物を患者に静脈内投与することを含んでなる、麻酔の方法が提供される。
【0048】
本発明の第5の態様によれば、静脈麻酔薬の製造における、本発明のベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の使用が提供される。
【実施例
【0049】
本発明の目的および技術的解決法をよく説明するために、本発明の実施例を以下に詳細に説明する。以下の実施例は、本発明をさらに説明するためにのみ使用され、本発明の保護の範囲を限定するものと理解してはならないことに留意すべきである。本発明の上記の内容に基づき当業者により行われたいくつかの非本質的な改善および調整は、本発明の保護範囲に属する。
【0050】
本発明による製造方法に関与するベンゾジアゼピン誘導体(式II-1、式II-2)の遊離塩基の製造は、PCT/CN2015/084770およびWO0069836において開示されており、引用することによりその全体が本明細書の一部とされる。
【化5】
【0051】
実験に使用される試験機器
X線粉末回折パターン:機器モデル:Bruker D8 FOCUS X線粉末回折計;X線:Cu標的;走査法:θ/2θ;走査範囲:3~60°;電圧:40KV;電流:40mA。
【0052】
A.式II-1の化合物の塩酸塩(Rがメチルである式Iの化合物)の製造
A-1:HCl供与体AとしてのHCl-無水アルコール溶液の使用
実施例1:HCl-無水メタノール溶液の使用
式II-1の化合物(1.8g、4mmol)を、13℃で無水メタノール(6ml)に溶かし、次いで、1.57gの無水メタノール-HCl(HCl含量9.29%)(HClモル量4mmol)をそれに滴下した。混合物を0.5時間反応させ、次いで、MTBE(54ml)を滴下し、さらに0.5時間反応させた。反応混合物を濾過し、濾過ケーキを30mlの無水メタノールに溶かし、50℃で0.5時間脱色し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を50℃で無水メタノール(14ml)に溶かした。メチルtert-ブチルエーテル(7ml)を滴下した。溶液は混濁し、0.5時間撹拌した。MTBE(98ml)を滴下した。次いで、溶液を-10℃に冷却し、1時間撹拌し、濾過した。濾過ケーキを、エーテル(30ml)を用いたスラリー化に1.5時間供し、次いで、濾過した。濾過ケーキを乾燥させて、1.62gの白色固体を得、収率90%、純度:99.57%、融点:173~175℃であった。塩化物イオン含量の理論値は7.45%(w/w)であり、測定値は7.42%(w/w)であった。X線粉末回折パターンについては、図3参照。
【0053】
A-2:HCl供与体Aとしてのアミノ酸塩酸塩の使用
実施例2:グリシン塩酸塩の使用
グリシン塩酸塩(2.46g、22mmol)を、60℃で無水メタノール(50ml)に加えた。式II-1の化合物(5g、11mmol)を含有する無水メタノール溶液(15ml)を、上記の混合物に5分以内に滴下し、0.5時間反応させた。反応混合物を-20℃に冷却し、この温度で一晩維持し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を無水メタノール(50ml)に溶かし、55~60℃で0.5時間脱色し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を60℃で無水メタノール(20ml)に溶かした。メチルtert-ブチルエーテル(140ml)をそれに滴下した。次いで、それを室温に冷却し、一晩撹拌し、次いで、濾過した。得られた固体を乾燥させて、目的生成物を得た。塩化物イオン含量の理論値は7.45%(w/w)であり、測定値は7.38%(w/w)であった。X線粉末回折パターンについては、図4参照。
【0054】
実施例3:バリン塩酸塩の使用
実施例2の操作を参照して、式II-1の化合物およびバリン塩酸塩を出発材料として用いて(モル比1:1.5)、目的化合物を製造した。塩化物イオン含量の理論値は7.45%(w/w)であり、測定値は6.94%(w/w)であった。
【0055】
実施例4:アラニン塩酸塩の使用
実施例2の操作を参照して、式II-1の化合物およびアラニン塩酸塩を出発材料として用いて(モル比1:3)、目的化合物を製造した。塩化物イオン含量の理論値は7.45%(w/w)であり、測定値は6.81%(w/w)であった。
【0056】
A-3:HCl供与体AとしてのHClを生成できる溶液Bの使用
実施例5:塩化アセチル-無水メタノール溶液の使用
実施例1の操作を参照して、式II-1の化合物および塩化アセチル-無水メタノール溶液を出発材料として用いて(式II-1の化合物に対する塩化アセチルのモル比1:1)、20℃で結晶化することにより、目的化合物を製造した。塩化物イオン含量の理論値は7.45%(w/w)であり、測定値は7.52%(w/w)であった。
【0057】
実施例6:Rがメチルである式Iの化合物のエタノール付加物の単結晶の製造および構造キャラクタリゼーション
実施例1において製造した式Iの化合物を、エタノールおよびメチルtert-ブチルエーテルを用いて再結晶化し、室温で4日間放置した。次いで、結晶を回収した。得られた結晶をX線単結晶回折実験に供し、その結晶パラメーターを以下の表1~6に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
B:式II-2の化合物の塩酸塩(Rがエチルである式Iの化合物)の製造
B-1:HCl供与体AとしてのHClを生成できる溶液Bの使用
実施例7:塩化アセチル-無水エタノール溶液の使用
式II-2の化合物(1.38g、3mmol)を、13℃で無水エタノール(5ml)に溶かし、次いで、塩化アセチル(3mmol)を含有する無水エタノール溶液(5ml)を滴下し、一晩反応させた。次いで、MTBE(45ml)を上記の反応混合物に滴下し、0.5時間反応させ、次いで、濾過した。濾過ケーキを30ml無水エタノールに溶かし、50℃で0.5時間脱色し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を50℃にて無水エタノール(12ml)で溶解し、次いで、MTBE(6ml)をそれに滴下した。溶液は混濁し、0.5時間撹拌した。MTBE(82ml)を上記の混合物に滴下した。次いで、それを-8℃に冷却し、1時間撹拌し、次いで、濾過した。濾過ケーキを、エーテル(25ml)を用いたパルプ化に1.5時間供し、次いで、濾過した。濾過ケーキを乾燥させて、1.3gの白色固体を得、収率92%、純度:99.73%、融点:160~163℃であった。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は7.31%(w/w)であった。結晶のX線粉末回折パターンについては、図5参照。
【0065】
実施例8:塩化アセチル-イソプロパノール溶液の使用
実施例7の操作を参照して、式II-2の化合物および塩化アセチル-無水イソプロパノール溶液を出発材料として用いて(モル比1:1)、20℃で結晶化することにより、目的化合物を製造した。結晶のX線粉末回折パターンについては、図6参照。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は7.21%(w/w)であった。
【0066】
B-2:HCl供与体AとしてのHCl-無水アルコール溶液の使用
実施例9:HCl-無水エタノール溶液の使用
式II-2の化合物(1.38g、3mmol)を、13℃で無水エタノール(5ml)に溶かし、次いで、1.2gの無水エタノール-HCl(HCl含量8.87%)(HClモル量3mmol)をそれに滴下し、0.5時間反応させた。次いで、MTBE(45ml)を上記の反応混合物に滴下し、0.5時間反応させ、次いで、濾過した。濾過ケーキを30ml無水エタノールに溶かし、50℃で0.5時間脱色し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を50℃にて無水エタノール(12ml)で溶解し、次いで、MTBE(6ml)をそれに滴下した。溶液は混濁し、0.5時間撹拌した。次いで、MTBE(82ml)を滴下した。次いで、それを-8℃に冷却し、1時間撹拌し、混合物を濾過し、濾過ケーキを、エーテル(25ml)を用いたスラリー化に1.5時間供し、次いで、濾過した。濾過ケーキを乾燥させて、1.3gの白色固体を得、収率92%、純度:99.89%、融点:162~165℃であった。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は7.15%(w/w)であった。結晶のX線粉末回折パターンについては、図7参照。
【0067】
実施例9の操作を参照して、Rがエチルである式Iの化合物の結晶の別のバッチを得た。結晶のX線粉末回折パターンを図8に示す。
【0068】
実施例10:HCl-無水エタノール溶液の使用
実施例9の操作を参照して、結晶化溶媒エタノール:メチルtert-ブチルエーテル=1:7(v/v)を使用し、Rがエチルである式Iの化合物の結晶を得た。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は7.19%(w/w)であった。結晶のX線粉末回折パターンについては、図9参照。
【0069】
B-3:HCl供与体Aとしてのアミノ酸塩酸塩の使用
実施例11:グリシン塩酸塩の使用
グリシン塩酸塩(2.46g、22mmol)を、60℃で無水エタノール(50ml)に加え、次いで、式II-2の化合物(5g、11mmol)を含有する無水エタノール溶液(15ml)を5分以内に滴下し、0.5時間反応させた。反応混合物を-20℃に冷却し、一晩維持し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を無水エタノール(50ml)に溶かし、55~60℃で0.5時間脱色し、濾過した。濾液を濃縮した。残渣を60℃で無水エタノール(20ml)に溶かした。メチルtert-ブチルエーテル(140ml)を滴下した。次いで、それを室温に冷却し、一晩撹拌し、濾過した。濾過ケーキを乾燥させて、目的生成物を得た。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は6.82%(w/w)であった。結晶のX線粉末回折パターンについては、図10参照。
【0070】
実施例11の操作を参照して、Rがエチルである式Iの化合物の結晶の別のバッチを得た。結晶のX線粉末回折パターンを図11に示す。
【0071】
実施例12:グリシン塩酸塩の使用
グリシン塩酸塩(2.46g、22mmol)を、60℃で無水エタノール(50ml)に加え、次いで、式II-2の化合物(5g、11mmol)を含有する無水エタノール溶液(15ml)を5分以内に滴下し、0.5時間反応させた。それを-20℃に冷却し、一晩維持し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を無水エタノール(50ml)に溶かし、55~60℃で0.5時間脱色し、次いで、濾過した。濾液を濃縮し、残渣を60℃にて無水エタノール(25ml)で溶解し、酢酸エチル(240ml)をそれに滴下した。次いで、それを-40℃に冷却し、2時間撹拌し、濾過した。残渣を50℃で無水エタノール(25ml)に溶かし、メチルtert-ブチルエーテル(150ml)をそれに滴下した。次いで、それを室温に冷却し、1時間撹拌し、濾過した。濾過ケーキを乾燥させて、目的生成物を得た。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は7.02%(w/w)であった。結晶のX線粉末回折パターンについては、図12参照。
【0072】
実施例12の操作を参照して、Rがエチルである式Iの化合物の結晶の別のバッチを得た。結晶のX線粉末回折パターンを図13に示す。
【0073】
実施例13:バリン塩酸塩を用いたRがエチルである式Iの化合物の製造
実施例11の操作を参照して、式II-2の化合物およびバリン塩酸塩を出発材料として用いて(モル比1:1.5)、かつ、エタノールおよびイソプロピルエーテルを結晶化溶媒として用いて、-10℃で結晶化することにより、目的生成物を得た。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は6.74%(w/w)であった。
【0074】
実施例14:Rがエチルである式Iの化合物の製造
実施例11の操作を参照して、式II-2の化合物およびアラニン塩酸塩を出発材料として用いて(モル比1:3)、目的化合物を製造した。塩化物イオン含量の理論値は7.24%(w/w)であり、測定値は6.63%(w/w)であった。
【0075】
実施例15:Rがエチルである式Iの化合物の製造および構造キャラクタリゼーション
実施例9において製造したII-2塩酸塩を、エタノールおよびメチルtert-ブチルエーテルを用いて再結晶化し、室温で4日間放置した。結晶を回収し、X線単結晶回折実験に供した。結晶パラメーターを以下の表7~12に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
【表10】
【0080】
【表11】
【0081】
【表12】
【0082】
実施例16:ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の安定性試験
上記の実施例において製造した式Iの化合物を選択し、包装後の加速安定性試験および長期安定性試験のために、40℃、RH75%および25℃、RH60%の条件下に置いた。6ヵ月間におけるこれらの化合物の分解生成物(CNS-7054)の変化を観察し、結果を以下の表13に示す。
【0083】
【表13】
【0084】
さらに、従来技術によるスルホン酸塩から構成される凍結乾燥製剤は、加速試験および長期試験の両方において、カルボン酸(CNS-7054)に部分的に分解され、アルコールを放出した。変化を以下の表14に示す。
【化6】
[式中、Rは、メチルまたはエチルであり;Aは、ベンゼンスルホン酸またはp-トルエンスルホン酸である]
【0085】
【表14】
【0086】
上記のデータから、本発明により提供されるベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩は、良好な安定性を有し、分解生成物(CNS-7054)を生成せず、遺伝毒性不純物を生成しないことが確認できる。
【0087】
実施例17:ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩に関するKMマウスにおけるED 50 およびLD 50 の測定
逐次法を使用して、ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩に関するKMマウスにおける催眠ED50およびLD50を測定した。健常な適格な雄KMマウスを選択した(n=10~20)。薬剤を5秒間で、一定速度で尾静脈を介して注射した。予備試験の後、動物の催眠(または死)を引き起こし得るおよその用量が、正式な試験における中間用量として見出された。群間隔0.8を使用し、2~3用量群をそれぞれ上下に設定した。正式な試験は、中間用量からの投与で開始した。動物に麻酔がかかった(または動物が死亡した)場合、用量を1用量下げた。動物に麻酔がかからなかった(または動物が死亡しなかった)場合、3~4回の反復が生じるまで、用量を1用量上げた。正向反射の消失または死亡を指標として用いて、ED50値およびLD50値を測定した。治療指数(TI指数=ED50/LD50)は、LD50値およびED50値を通じて計算した。試験結果を以下の表15に示す。
【0088】
【表15】
【0089】
上記のデータから、本発明により提供されるベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩の治療指数は、ベンゼンスルホン酸塩のものと有意に異なっており、安全性が良好であることが確認できる。
【0090】
実施例18:ベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩およびスルホン酸塩に関するKMマウス(n=20)における2倍ED 50 麻酔薬力学試験
KMマウス、半数が雄および半数が雌、各群20匹。2倍ED50の用量を用いて、それを5秒間で、一定速度で尾静脈を介して注射した。マウスにおける正向反射消失時間(誘導時間)、回復時間(持続時間)および歩行時間を記録した。試験結果を以下の表16に示す。
【0091】
【表16】
【0092】
上記のデータから、以下のことが確認できる。
【0093】
1.Rがエチルであるベンゾジアゼピン誘導体は、Rがメチルであるベンゾジアゼピン誘導体よりも、麻酔の持続時間および歩行時間に関して優れており、統計学的差が認められる。
【0094】
2.Rがエチルであるベンゾジアゼピン誘導体に関して、麻酔時間が10分を超える動物の発生率は、スルホン酸塩で35%、塩酸塩で20%である。歩行時間が1分を超える動物の発生率は、スルホン酸塩で50%、塩酸塩で15%であり、このことは、塩酸塩の薬物動態特性は、スルホン酸塩のものより安定しており、個体差による影響は少ないことを示している。
【0095】
3.Rがメチルであるベンゾジアゼピン誘導体に関して、麻酔時間が10分を超える動物の発生率は、スルホン酸塩で45%、塩酸塩で25%である。歩行時間が1分を超える動物の発生率は、スルホン酸塩で85%、塩酸塩で40%であり、このことは、塩酸塩の薬物動態特性は、スルホン酸塩のものより安定しており、個体差による影響は少ないことを示している。
【0096】
結論:本発明により提供されるベンゾジアゼピン誘導体の塩酸塩は、スルホン酸塩よりも安定した薬物動態特性を有し、個体差による影響が少ない。
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