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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】細胞内への鉄の取り込み阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231226BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231226BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61P43/00 111
A61P3/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020558417
(86)(22)【出願日】2019-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2019045227
(87)【国際公開番号】W WO2020105621
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018217548
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019167013
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503196776
【氏名又は名称】株式会社ペルセウスプロテオミクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】張 黎臨
(72)【発明者】
【氏名】野村 富美子
(72)【発明者】
【氏名】勝見 恵子
(72)【発明者】
【氏名】小高 露美
(72)【発明者】
【氏名】大平 悠太
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-524816(JP,A)
【文献】特表2018-505652(JP,A)
【文献】特開2013-194043(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073641(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9のアミノ酸配列からなるヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体を含む、細胞内への鉄の取り込み阻害剤。
【請求項2】
ヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合を阻害することにより、細胞内への鉄の取り込みを阻害する、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
前記抗体が、重鎖第1相補性決定領域(VH CDR1)、重鎖第2相補性決定領域(VH CDR2)、重鎖第3相補性決定領域(VH CDR3)がそれぞれ配列番号1、2、3であり、及び軽鎖第1相補性決定領域(VL CDR1)、軽鎖第2相補性決定領域(VL CDR2)、軽鎖第3相補性決定領域(VL CDR3)がそれぞれ配列番号4、5、6である抗体である、請求項1または2に記載の阻害剤。
【請求項4】
前記抗体が、重鎖が配列番号7を有し、軽鎖が配列番号8を有する抗体である、請求項1から3の何れか一項に記載の阻害剤。
【請求項5】
抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項1から4の何れか一項に記載の阻害剤。
【請求項6】
抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドからなる群から選ばれる抗体断片である、請求項1から5の何れか一項に記載の阻害剤。
【請求項7】
細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置のために使用される、請求項1から6の何れか一項に記載の阻害剤。
【請求項8】
配列番号9のアミノ酸配列からなるヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体を含む、ヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合阻害剤。
【請求項9】
前記抗体が、重鎖第1相補性決定領域(VH CDR1)、重鎖第2相補性決定領域(VH CDR2)、重鎖第3相補性決定領域(VH CDR3)がそれぞれ配列番号1、2、3であり、及び軽鎖第1相補性決定領域(VL CDR1)、軽鎖第2相補性決定領域(VL CDR2)、軽鎖第3相補性決定領域(VL CDR3)がそれぞれ配列番号4、5、6である抗体である、請求項8に記載の阻害剤。
【請求項10】
前記抗体が、重鎖が配列番号7を有し、軽鎖が配列番号8を有する抗体である、請求項8又は9に記載の阻害剤。
【請求項11】
抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項8から10の何れか一項に記載の阻害剤。
【請求項12】
抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドからなる群から選ばれる抗体断片である、請求項8から11の何れか一項に記載の阻害剤。
【請求項13】
細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置のために使用される、請求項8から12の何れか一項に記載の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内への鉄の取り込み阻害剤、並びにヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスフェリンレセプター(TfR)は、トランスフェリン(Tf)と結合した鉄を細胞内に取り込むための細胞膜構造として、最初網状赤血球上にあると同定された(非特許文献1)。TfRは、胎盤の栄養膜細胞や、活性化されたリンパ球、並びに腫瘍細胞などに発現していることが知られている。
【0003】
特許文献1には、ヒト抗体ライブラリーファージ Displayにより癌細胞膜上にあるTfRと反応するファージ抗体(scFv抗体)を取得し、これらのscFv抗体をIgG化し、完全なヒトIgG抗体を作製したことが記載されている。特許文献1ではさらに、得られた完全なヒト抗TfR抗体の可変領域のCDRについて少なくとも一つのアミノ酸を改変し、臨床応用に適した抗TfR抗体を作製したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2014/073641号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J Clin Invest 1963; 42, 314-326
【文献】Gene. 1991 Dec 15; 108(2): 193-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、TfRを標的とした、細胞内への鉄の取り込み阻害剤、並びにヒトTfとヒトTfRとの結合阻害剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために検討した結果、ヒトTfRにおける所定の位置のアミノ酸配列を認識する抗体が、ヒトTfとヒトTfRとの結合を阻害することができ、さらに細胞内への鉄の取り込みを阻害できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体を含む、細胞内への鉄の取り込み阻害剤。
(2) ヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合を阻害することにより、細胞内への鉄の取り込みを阻害する、(1)に記載の阻害剤。
(3) 前記抗体が、重鎖第1相補性決定領域(VH CDR1)、重鎖第2相補性決定領域(VH CDR2)、重鎖第3相補性決定領域(VH CDR3)がそれぞれ配列番号1、2、3であり、及び軽鎖第1相補性決定領域(VL CDR1)、軽鎖第2相補性決定領域(VL CDR2)、軽鎖第3相補性決定領域(VL CDR3)がそれぞれ配列番号4、5、6である抗体である、(1)または(2)に記載の阻害剤。
(4) 前記抗体が、重鎖が配列番号7を有し、軽鎖が配列番号8を有する抗体である、(1)から(3)の何れか一に記載の阻害剤。
(5) 抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、(1)から(4)の何れか一に記載の阻害剤。
(6) 抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドからなる群から選ばれる抗体断片である、(1)から(5)の何れか一に記載の阻害剤。
(7) 細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置のために使用される、(1)から(6)の何れか一に記載の阻害剤。
(8) ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体を含む、ヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合阻害剤。
(9) 前記抗体が、重鎖第1相補性決定領域(VH CDR1)、重鎖第2相補性決定領域(VH CDR2)、重鎖第3相補性決定領域(VH CDR3)がそれぞれ配列番号1、2、3であり、及び軽鎖第1相補性決定領域(VL CDR1)、軽鎖第2相補性決定領域(VL CDR2)、軽鎖第3相補性決定領域(VL CDR3)がそれぞれ配列番号4、5、6である抗体である、(8)に記載の阻害剤。
(10) 前記抗体が、重鎖が配列番号7を有し、軽鎖が配列番号8を有する抗体である、(8)又は(9)に記載の阻害剤。
(11) 抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、(8)から(10)の何れか一に記載の阻害剤。
(12) 抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(Diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)およびCDRを含むペプチドからなる群から選ばれる抗体断片である、(8)から(11)の何れか一に記載の阻害剤。
(13) 細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置のために使用される、(8)から(12)の何れか一に記載の阻害剤。
【0009】
(A) ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体を対象者に投与することを含む、細胞内への鉄の取り込みを阻害する方法が提供される。
(B) ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体を対象者に投与することを含む、ヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合を阻害する方法が提供される。
(C) ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体を対象者に投与することを含む、細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状を処置する方法。
(D) 細胞内への鉄の取り込みの阻害において使用するための、ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体。
(E) ヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合の阻害において使用するための、ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体。
(F) 細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置において使用するための、ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体。
(G) 細胞内への鉄の取り込み阻害剤の製造のための、ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体の使用。
(H) ヒトトランスフェリンとヒトトランスフェリンレセプターとの結合阻害剤の製造のための、ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体の使用。
(I) 細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置剤の製造のための、ヒトトランスフェリンレセプターの629番目~633番目のアミノ酸を認識する抗体の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞内への鉄の取り込み阻害剤、並びにヒトTfとヒトTfRとの結合阻害剤が提供される。本発明の阻害剤は、細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置において有用である。本発明の阻害剤は、赤芽球などの鉄要求性が高い細胞の増殖抑制のために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、それぞれのTfR mutant fragmentのpoint mutationを行う部位を示す。
図2図2は、TfR436と可溶性wild type TfR (sTfR) 及びTfR mutant fragmentの反応性を示す。
図3図3は、TfR436のTf-TfR結合阻害活性を示す。
図4図4は、TfR436抗体の細胞増殖抑制効果に対するクエン酸鉄アンモニウムの効果を示す。
図5図5は、TfR436抗体の添加によるK562細胞株内の鉄量変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
定義および一般的技術
本明細書において別段定義しない限り、本発明に関して使用した科学技術用語は、当業者に通常理解されている意味を含むものとする。一般に、本明細書に記載の細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、タンパク質および核酸化学ならびにハイブリダイゼーションに関して使用した命名法およびその技術は、当技術分野で周知のものであり、通常使用されている。
【0013】
本発明の方法および技術は一般に、別段示さない限り、当技術分野で周知である従来の方法に従って、本明細書全体にわたって引用し論じた種々の一般的参照文献およびより具体的な参照文献に記載されているように実施する。
【0014】
TfR
ヒトトランスフェリン受容体(TfR)はヒト三番染色体にコードされる760アミノ酸から構成される一回膜貫通型タンパクである(配列番号9)。このタンパクはCD71抗原としても知られ、細胞の鉄の取り込みに関与し、細胞の増殖に関与すると考えられている。本発明のTfRは、構造上特別に限定せず、単量体、多量体、細胞膜に発現しているintact form、細胞外領域に構成された可溶化form、truncted form、また、遺伝子の変異や、欠損などによりmutation form、リン酸化などにより翻訳後修飾を受けたformなども含め、すべてヒトTfRを意味する。
【0015】
反応する及び反応性
本明細書において、「反応する」と「反応性」は特別に示さない限り、同じのことを意味する。すなわち、抗体が抗原を認識すること。この抗原は、細胞膜に発現するintact TfRでもよいし、truncted formや、可溶化formでも良い。また、立体構造を保ったTfRでもよいし、変性したTfRでもよい。反応性を検討する手段として、フローサイトメーター(FACS)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、western-blot、蛍光微量測定技術(FMAT)表面プラズモン共鳴(BIAcore)、免疫染色、免疫沈降などが挙げられる。
【0016】
フローサイトメーターに用いる抗体としては、FITCなどの蛍光物質、ビオチンなどにより標識された抗体であっても、標識をされていない抗体であってもよい。用いた抗体の標識の有無、その種類により、蛍光標識アビジン、蛍光標識抗ヒト免疫グロブリン抗体などを使用する。反応性は、十分量の抗TfR抗体(通常最終濃度が0.01~10μg/mL)を検体に加えて行い、陰性対照抗体、陽性対照抗体の反応性との比較を行うことにより評価することができる。
【0017】
抗体
本明細書では必要に応じて、慣習に従い以下の略号(括弧内)を使用する。
重鎖(H鎖)、軽鎖(L鎖)、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、相補性決定領域(CDR)、第1相補性決定領域(CDR1)、第2相補性決定領域(CDR2)、第3相補性決定領域(CDR3)重鎖の第1相補性決定領域(VH CDR1)、重鎖の第2相補性決定領域(VH CDR2)、重鎖の第3相補性決定領域(VH CDR3)軽鎖の第1相補性決定領域(VL CDR1)、軽鎖の第2相補性決定領域(VL CDR2)、軽鎖の第3相補性決定領域(VL CDR3)。
【0018】
本明細書において、「抗体」という用語は、イムノグロブリンと同義であり、当技術分野で通常知られている通りに理解されるべきである。具体的には、抗体という用語は、抗体を作製する任意の特定の方法により限定されるものではない。例えば、抗体という用語には、それだけに限らないが、組換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体がある。
【0019】
本明細書において、「ヒト抗体」という用語は、可変領域および定常領域の配列がヒト配列である任意の抗体を意味する。その用語は、ヒト遺伝子に由来する配列を有するが、例えば、考えられる免疫原性の低下、親和性の増大、望ましくない折りたたみを引き起こす可能性があるシステインの除去などを行うように変化させている抗体を包含する。その用語はまた、ヒト細胞に特有でないグリコシル化を施すことができる、非ヒト細胞中で組換えにより作製されたそのような抗体をも包含する。これらの抗体は、様々な形で調製することができる。
【0020】
本明細書において、「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト由来の抗体を指し、非ヒト種の抗体配列に特徴的なアミノ酸残基が、ヒト抗体の対応する位置で認められる残基と置換されている。この「ヒト化」の工程が、その結果得られる抗体のヒトでの免疫原性を低下させると考えられる。当技術分野で周知の技術を使用して、非ヒト由来の抗体をヒト化できることが理解されるであろう。例えば、Winterら、Immunol.Today14:43~46(1993)を参照されたい。対象とする抗体は、CH1、CH2、CH3、ヒンジドメイン、および/またはフレームワークドメインを対応するヒト配列と置換する組換えDNA技術によって工学的に作製することができる。例えば、WO92/02190、ならびに米国特許第5,530,101号、第5,585,089号、第5,693,761号、第5,693,792号、第5,714,350号、および第5,777,085号を参照できる。本明細書において、「ヒト化抗体」という用語は、その意味の範囲内で、キメラヒト抗体およびCDR移植抗体を含む。
【0021】
抗体の可変領域においてフレームワーク領域(FR)の配列は、対応する抗原に対する特異的結合性に実質的な影響のない限り、特に限定されない。ヒト抗体のFR領域を用いることが好ましいが、ヒト以外の動物種(例えばマウスやラット)のFR領域を用いることもできる。
【0022】
抗体の一態様において、可変領域に加えて定常領域を含む(例えばIgG型抗体)。定常領域の配列は特に限定されない。例えば、公知のヒト抗体の定常領域を用いることができる。ヒト抗体の重鎖定常領域(CH)としては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgGと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、hIgGクラスのものが好適であり、更にhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3、hIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、軽鎖定常領域(CL)としては、hIgに属すればいかなるものでもよく、κクラスあるいはλクラスのものを用いることができる。また、ヒト以外の動物種(例えばマウスやラット)の定常領域を用いることもできる。
【0023】
本明細書において、「改変体」や「改変抗体」とは、親抗体の可変領域(CDR配列および/またはFR配列)のアミノ酸配列に1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されていることである。
本発明において、「親抗体」とは、VHは配列番号7、VLは配列番号8で示されたアミノ酸配列を有するTfR436抗体である。アミノ酸配列において、1または数個(例えば、1から8個、好ましくは1から5個、より好ましくは1から3個、特に好ましくは1または2個)のアミノ酸が欠失、付加、置換及び/または挿入されている。TfRに対する結合活性を有する抗体のアミノ酸配列を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, anDNAkagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M. (1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V,Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ (1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA (1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)などを用いて、TfRに対する結合活性を有する抗体のアミノ酸配列に適宜変異を導入することにより、TfRに対する結合活性を有する抗体と機能的に同等な改変抗体を調製することができる。このように、抗体の可変領域又は定常領域において、1または数個のアミノ酸が変異しており、TfRに対する結合活性を有する抗体を使用することもできる。
【0024】
本明細書において、「活性が親抗体と同等である」とは、ヒトTfRへの結合活性が同等であることを意味する。「同等」とは、必ずしも同程度の活性である必要はなく、活性が増強されていてもよいし、又、活性を有する限り活性が減少していてもよい。活性が減少している抗体としては、例えば、元の抗体と比較して30%以上の活性、好ましくは50%以上の活性、より好ましくは80%以上の活性、さらに好ましくは90%以上の活性、特に好ましくは95%以上の活性を有する抗体を挙げることができる。
【0025】
結合活性としては、抗原を認識することを意味する。この抗原は、細胞膜に発現するintact TfRでもよいし、truncted formや、可溶化formでも良い。また、立体構造を保ったTfRでもよいし、変性したTfRでもよい。たとえば、結合活性を検討する手段として、フローサイトメーター(FACS)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、western-blot、蛍光微量測定技術(FMAT)表面プラズモン共鳴(BIAcore)などが挙げられる。
【0026】
抗体のTf-TfR結合阻害活性は、後記する「実施例2(2)Tf-TfR結合阻害におけるTfR436抗体及び他社抗体の比較」に記載した方法に準じて測定することができる。TfR溶液を基板(96-well plate等)に分注して静置し、固相化し、ブロッキングする。次いで、HRP標識したTf溶液を分注し、さらに抗体を添加して、室温で反応させる。その後、基板を洗浄し、発色試薬(TMB等)を添加して反応させ、プレートリーダーで吸光度を測定する。上記操作により、当該抗体が、Tf-TfR結合阻害活性を評価することができる。
【0027】
抗体の細胞内への鉄の取り込み阻害活性は、後記する「実施例3:TfR436抗体の細胞増殖抑制効果に対するクエン酸鉄アンモニウムの効果」に記載した方法に準じて測定することができる。即ち、細胞を培養用メディウムに懸濁し、基板(96ウエルプレートなど)に播種する。抗体を適当な濃度に連続希釈した溶液を作製し、上記細胞に添加する。さらに、クエン酸鉄アンモニウムを添加する。所定の期間、細胞を培養後、各ウエルをよく攪拌し、細胞培養液を別のプレート(例えば、V底96-wellプレートなど)に移す。そのうちの一部をFACS Calibur(BD)に吸引させ、イベント数を測定する。得られたイベント数の4倍をウエルあたりの細胞数とし、抗体及びクエン酸鉄アンモニウム無添加のウエルにおける細胞数平均値を100%として、各処理における増殖率を算出する。抗体が、濃度依存的に細胞の増殖を抑制し、この増殖停止が、クエン酸鉄アンモニウムの添加により回復する場合には、当該抗体が細胞内への鉄の取り込みを阻害することが実証される。
【0028】
抗体は、その由来で限定されず、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、如何なる動物由来の抗体でもよい。又、キメラ化抗体、ヒト化抗体などでもよい。本発明における抗体の好ましい様態の一つとして、ヒト抗体である。
【0029】
抗体は、後述する抗体を産生する細胞や宿主あるいは精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点又は糖鎖の有無や形態などが異なり得る。例えば、本発明で記載されているアミノ酸配列に翻訳後に修飾を受ける場合も本発明に含まれる。更に、既知の翻訳後修飾以外の部位に対する翻訳後修飾も、本発明に含まれる。また、抗体を原核細胞、例えば大腸菌で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明においては、このような抗体を使用してもよい。既知の翻訳後修飾以外の部位に対する翻訳後修飾も、本発明に含まれる。
【0030】
抗体の作製
(1)ファージディスプレイライブラリーにより抗原と反応するscFv
抗体の取得は、当技術分野で知られているいくつかの方法に従って調製することができる。例えば、ファージディスプレイ技術を使用して、TfRに対する親和性が様々である抗体のレパートリーを含むライブラリーを提供することができる。次いで、これらのライブラリーをスクリーニングして、TfRに対する抗体を同定し単離することができる。好ましくは、ファージライブラリーは、ヒトB細胞から単離されたmRNAから調製されたヒトVLおよびVHcDNAを使用して生成されるscFvファージディスプレイライブラリーである。そのようなライブラリーを調製しスクリーニングする方法は当技術分野で知られている。ヒトTfRを抗原としてスクリーニングした反応性を示すファージクローンから遺伝物質を回収する。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするVH及びVLのDNA配列を決定することができる。このscFvの配列を用いて、scFvをIgG化すれば、ヒト抗体を取得することができる。
【0031】
(2)scFvのIgG化(ヒト抗体の作製)
H鎖またL鎖の発現ベクターを作製し、宿主細胞に発現させ、分泌した上清の回収・精製によりヒト抗体を取得する。また、VH及びVLを同一ベクターに発現すること(タンデム型)によりヒト抗体の取得もできる。これらの方法は周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、W093/19172、WO95/01438、WO95/15388、WO97/10354などを参考にすることができる。
【0032】
具体的には、VHをコードするDNAを、重鎖定常領域(CH1、CH2およびCH3)をコードする他のDNA分子と連結することによって、完全長重鎖遺伝子を取得することができる。ヒト重鎖定常領域遺伝子の配列は当技術分野で知られており(例えば、Kabat,E.A.ら、(1991)Sequencesof Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S.Department of Health and Human Services、NIH Publication No.91-3242)、これらの領域を包含するDNA断片は標準的なPCR増幅によって得ることができる。重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgMまたはIgDの定常領域でよいが、最も好ましくはIgG1またはIgG2の定常領域である。IgG1定常領域配列は、Gm(1)、Gm(2)、Gm(3)やGm(17)など、異なる個人間で生じることが知られている任意の様々な対立遺伝子またはアロタイプでよい。これらのアロタイプは、IgG1定常領域中の天然に存在するアミノ酸置換に相当する。
【0033】
VLをコードするDNAを、軽鎖定常領域CLをコードする他のDNA分子と連結することによって、完全長L鎖遺伝子(ならびにFab軽鎖遺伝子)を取得することができる。ヒト軽鎖定常領域遺伝子の配列は当技術分野で知られており(例えば、Kabat,E.A.ら、(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S.Department of Health and Human Services、NIH Publication No.91-3242)、これらの領域を包含するDNA断片は標準的なPCR増幅によって得ることができる。軽鎖定常領域は、κまたはλの定常領域でよい。κ定常領域は、Inv(1)、Inv(2)やInv(3)など、異なる個人間で生じることが知られている任意の様々な対立遺伝子でよい。λ定常領域は、3つのλ遺伝子のいずれかに由来するものでよい。
【0034】
上記のように得られたH鎖またL鎖コードするDNAを発現ベクター中に挿入することにより、発現ベクターを作製し、宿主細胞に発現させ、分泌した上清の回収・精製によりヒト抗体を取得する。発現ベクターには、プラスミド、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、カリフラワーモザイクウイルスやタバコモザイクウイルスなどの植物ウイルス、コスミド、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。発現ベクターおよび発現調節配列は、使用する発現用宿主細胞と適合するように選択する。抗体軽鎖遺伝子および抗体重鎖遺伝子は、別々のベクター中に挿入することができるし、また両方の遺伝子を同じ発現ベクター中に挿入することもできる。抗体遺伝子を、標準的な方法(例えば、抗体遺伝子断片上の相補的な制限部位とベクターの連結、または制限部位が存在しない場合には平滑末端連結)によって発現ベクター中に挿入する。
【0035】
好都合なベクターは、上記に記載のように任意のVHまたはVL配列を容易に挿入し発現させることができるように工学的に作製された適当な制限部位を有する機能的に完全なヒトCHまたはCLイムノグロブリン配列をコードするものである。そのようなベクターでは、通常、挿入されたJ領域中のスプライス供与部位とヒトCドメインに先行するスプライス受容部位の間で、またヒトCHエキソン内に存在するスプライス領域でもスプライシングが起こる。ポリアデニル化および転写終結は、コード領域の下流にある天然の染色体部位で起こる。組換え発現ベクターはまた、宿主細胞由来の抗体鎖の分泌を促進するシグナルペプチドをコードすることもできる。抗体鎖遺伝子は、シグナルペプチドがインフレームでイムノグロブリン鎖のアミノ末端と連結するようにベクター中にクローン化することができる。シグナルペプチドは、イムノグロブリンシグナルペプチドでもよく、あるいは異種性シグナルペプチド(すなわち非イムノグロブリンタンパク質由来のシグナルペプチド)でもよい。
【0036】
抗体の発現ベクターは、抗体遺伝子および制御配列に加えて、宿主細胞中でのベクターの複製を制御する配列(例えば複製起点)や選択マーカー遺伝子などのさらなる配列を有してよい。選択マーカー遺伝子は、ベクターが導入されている宿主細胞の選択を促進する。例えば、通常、選択マーカー遺伝子は、ベクターが導入されている宿主細胞上に、G418、ハイグロマイシンやメトトレキセートなどの薬物に対する耐性を付与する。好ましい選択マーカー遺伝子には、デヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(dhfr-宿主細胞でメトトレキセート選択/増幅とともに使用する)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(G418選択用)、およびグルタミン酸合成酵素遺伝子がある。
【0037】
以上の方法で作製された抗体遺伝子発現ベクターにより宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞など、抗体を産生させる可能であればいかなる細胞でもよいが、動物細胞が好ましい。動物細胞として、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO/dhfr (-)細胞CHO/DG44細胞、サル由来細胞COS細胞(A.Wright& S.L.Morrison, J.Immunol.160, 3393-3402 (1998))、SP2/O細胞(マウスミエローマ)(K.Motmans et al., Eur.J.Cancer Prev.5, 512-5199(1996),R.P.Junghans et al.,Cancer Res.50, 1495-1502 (1990)) など挙げられる。また、形質転換にはリポフェクチン法(R.W.Malone et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,6007 (1989), P.L.Felgner et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84,7413 (1987)、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法(F.L.Graham & A.J.van der Eb,Virology 52, 456-467(1973))、DEAE-Dextran法等が好適に用いられる。
【0038】
形質転換体を培養した後、形質転換体の細胞内又は培養液よりヒト抗体を分離する。抗体の分離・精製には、遠心分離、硫安分画、塩析、限外濾過、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどの方法を適宜組み合わせて利用することができる。
【0039】
抗体断片
抗体を基にして又は抗体をコードする遺伝子の配列情報を基にして抗体断片を作製することができる。抗体断片としてはFab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv抗体が挙げられる。
【0040】
Fabは、IgGをシステイン存在下パパイン消化することにより得られる、L鎖とH鎖可変領域、並びにCH1ドメイン及びヒンジ部の一部からなるH鎖フラグメントとから構成される分子量約5万の断片である。本発明では、上記抗体をパパイン消化することにより得ることができる。また、上記抗体のH鎖の一部及びL鎖をコードするDNAを適当なベクターに組み込み、当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体よりFabを調製することもできる。
【0041】
Fab'は、後述のF(ab')2のH鎖間のジスルフィド結合を切断することにより得られる分子量が約5万の断片である。本発明では、上記抗体をペプシン消化し、還元剤を用いてジスルフィド結合を切断することにより得られる。また、Fab同様に、Fab'をコードするDNAを用いて遺伝子工学的に調製することもできる。
【0042】
F(ab')2は、IgGをペプシン消化することにより得られる、L鎖とH鎖可変領域、並びにCH1ドメイン及びヒンジ部の一部からなるH鎖フラグメントとから構成される断片(Fab')がジスルフィド結合で結合した分子量約10万の断片である。本発明では、上記抗体をペプシン消化することにより得られる。また、Fab同様に、F(ab')2をコードするDNAを用いて遺伝子工学的に調製することもできる。
【0043】
scFvは、H鎖可変領域とL鎖可変領域とからなるFvを、片方の鎖のC末端と他方のN末端とを適当なペプチドリンカーで連結し一本鎖化した抗体断片である。ペプチドリンカーとしては例えば柔軟性の高い(GGGGS)3などを用いることができる。例えば、上記抗体のH鎖可変領域及びL鎖可変領域をコードするDNAとペプチドリンカーをコードするDNAを用いてscFv抗体をコードするDNAを構築し、これを適当なベクターに組み込み、当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体よりscFvを調製することができる。
【0044】
dsFvは、H鎖可変領域及びL鎖可変領域の適切な位置にCys残基を導入し、H鎖可変領域とL鎖可変領域とをジスルフィド結合により安定化させたFv断片である。各鎖におけるCys残基の導入位置は分子モデリングにより予測される立体構造に基づき決定することができる。本発明では例えば上記抗体のH鎖可変領域及びL鎖可変領域のアミノ酸配列から立体構造を予測し、かかる予測に基づき変異を導入したH鎖可変領域及びL鎖可変領域をそれぞれコードするDNAを構築し、これを適当なベクターに組み込み、そして当該ベクターを用いて形質転換した形質転換体よりdsFvを調製することができる。
【0045】
尚、適当なリンカーを用いてscFv抗体、dcFv抗体などを連結させたり、ストレプトアビジンを融合させたりして抗体断片を多量体化することもできる。
【0046】
医薬組成物及び製剤
本発明の阻害剤を含む医薬組成物及び製剤も本発明の範囲内に含まれる。
本発明の阻害剤は、細胞内への鉄の過剰取り込みを伴う疾患又は症状の処置のために使用することができる。
細胞内への鉄の取り込み過剰を伴う疾患又は症状としては、鉄過剰症等を挙げることができる。
【0047】
医薬組成物及び製剤は、好ましくは、抗体に加え、生理学的に許容され得る希釈剤又はキャリアを含んでおり、他の薬剤との混合物であってもよい。適切なキャリアには、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、及び緩衝生理食塩水が含まれるが、これらに限定されるものではない。或いは、抗体は凍結乾燥(フリーズドライ)し、必要とされるときに上記のような緩衝水溶液を添加することにより再構成して使用してもよい。投与形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は、注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺、坐薬等による非経口投与を挙げることができる。本発明の医薬組成物による製剤単独の投与でもよいし、他の薬剤と併用でもよい。
【0048】
本発明の阻害剤の投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、通常、経口投与では、抗体の量として、成人に対して、1日約0.01mg~1000mgであり、これらを1回、又は数回に分けて投与することができる。また、非経口投与では、1回約0.01mg~1000mgを皮下注射、筋肉注射又は静脈注射によって投与することができる。
【0049】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例
【0050】
以下の実施例においては、国際公開WO2014/073641号公報の段落0090及び0091に記載されているTfR436抗体を使用した。
【0051】
TfR436抗体のCDR配列を以下に示す。
VH CDR1:SYGMH(配列番号1)
VH CDR2:VISYDGSNKYYADSVKG(配列番号2)
VH CDR3:DSNFWSGYYSPVDV(配列番号3)
VL CDR1:TRSSGSIASNSVQ(配列番号4)
VL CDR2:YEDTQRPS(配列番号5)
VL CDR3:QSYDSAYHWV(配列番号6)
【0052】
TfR436抗体のVH配列及びVL配列を以下に示す。
TfR436 VH(配列番号7)
DVQLVQSGGGVVQPGRSLRLSCAASGFPFKSYGMHWVRQAPGKGLEWVAVISYDGSNKYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRGEDTAVYYCARDSNFWSGYYSPVDVWGQGTTVTVSS
【0053】
TfR436 VL(配列番号8)
NFMLTQPHSVSESPGKTVTISCTRSSGSIASNSVQWYQQRPGSAPITVIYEDTQRPSGVPDRFSGSIDSSSNSASLTISGLQTEDEADYYCQSYDSAYHWVFGGGTKLAVL
【0054】
実施例1:TfR436抗体の結合部位の同定
TfR436抗体はマウスTfRと交差反応しないが、ハムスターTfRと交差反応性を示した。TfRにおけるTransferrin(TF)結合部位(569~760番目のアミノ酸)のアミノ酸配列のアライメントを行った。ヒトTfR配列において、ハムスターと同じ、マウスと異なるアミノ酸をピックアップした。ピックアップされたアミノ酸を図1に示されたようにpoint mutationを行い、可溶性TfR mutant fragmentを作製した。
【0055】
(1)可溶性wild type TfR(sTfR)及びTfR mutant fragment(MF1~MF7)の作製
ヒトTfR細胞外domain(89~760番目のアミノ酸)、あるいは図1に示されたそれぞれTfR mutant fragment(MF1~MF7)とAAARGGPEQKLISEEDLNSAVDHHHHHH(配列番号10)をコードする塩基配列を全合成した。発現vector pCAGGS(非特許文献2.:Niwa et al. 1991)にネオマイシン耐性遺伝子とDHFR遺伝子を組み込んだベクターのマルチクローニングサイトにそれぞれ合成した遺伝子を挿入し、pCAGGS-Neo-DHFR-sTFR-myc-his発現plasmidを作製した。Expifectamine(Invitrogen)を用いてExpi293細胞(Invitrogen)に上記plasmidをトランスフェクションし、37℃、8%CO2、135rpmで5日間培養した。その後遠心により培養上清を回収し、AKTA prime(GE Healthcare)にHisTrapHP(GE Healthcare)カラムを接続し、結合バッファーに20mM Imidazole/DPBS、溶出バッファーに500mM Imidazole/DPBSを用いてsTfRあるいはMF1~MF7を精製した。溶出したタンパク質はZeba spin column (Thermo scientific)を用いて30mM HEPES、5%trehalose、pH7.2にバッファー交換した。
【0056】
(2)TfR436抗体の結合部位の同定
上記精製したsTfRあるいはMF1~MF7をPBST(Phosphate Buffered Saline with Tween20,TaKaRa) にて希釈し、600ng/mLから3倍希釈で7段階に調製した。その後Ni-NTA HisSorb Strips 96-well plate(QIAGEN)に希釈液を100μL/wellに分注し、シェーカーに乗せ、室温で反応させた。1時間後PBST Bufferで5回洗浄し、TfR436抗体(1ug/mL)を100μL/wellに分注し、シェーカーに乗せ、室温で1時間反応させた。その後、PBS-T Bufferで5回洗浄し、50,000倍希釈した二次抗体F(ab’)2 Fragment Anti-Human IgG Fcγ(Jackson Immuno Research)100μL/wellに分注し室温で1時間反応させた。PBST Bufferで5回洗浄後TMB Soluble Reagent(High Sensitivity)(Scy Tek)を100μL/wellに分注し、室温、暗所で3分間反応させた後、TMB Stop Buffer(Scy Tek)を100μL/well添加し、1分間シェーカーで振とうさせ、プレートリーダーで450n(ref.620nm)の吸光度を測定した。
【0057】
結果は図2に示すように、TfR436抗体はTfR mutant fragment MF5との反応性低下がみられたが、その他のmutant fragmentとの反応性の低下は見られなかった。つまり、TfRの629番目、630番目、633番目のアミノ酸を他のアミノ酸に置換すると、TfR436抗体がTfRと認識できなくなる。アミノ酸629番目~633番目はTfR436抗体の認識エピトープであることが示唆された。
【0058】
実施例2:Tf-TfR結合阻害におけるTfR436抗体及び比較用抗体の比較
(1)比較用抗体A24の作製
特許文献US2008/0193453にヒトTfRに対するA24抗体が記載されている。TfR436抗体とこの抗体を比較するため、寄託されたHybridomaを入手し、抗体を生産した。具体的には、Hybridoma をRPMI1640 (GIBCO)、FBS10%の培地に細胞濃度が1~2x105/mLになるようにまきこみ、37℃の5%CO2インキュベーターで培養した。拡大培養後、遠心により細胞を回収し、PBSで2回洗浄後無血清培地cosmedium005 (コスモバイオ)、0.5% Nutridoma-CS (Roche)にてさらに550mLになるまで拡大培養した。細胞がコンフルエントになってから5日後に遠心により培養上清を回収した。
【0059】
回収された上清をプロテインA担体(Ab-Capcher ExTra:プロテノバ社)にアプライし、プロテインA と結合している抗体を0.1 Mグリシン塩酸緩衝液(pH 2.7)で溶出し、速やかに1M Tris塩酸緩衝液(pH 8.5)で中和した。その後ウルトラセル限外ろ過ディスク(Merck Millipore)を用いてPBSにバッファー交換を行った。
【0060】
(2)Tf-TfR結合阻害におけるTfR436抗体及び他社抗体の比較
実施例1に記載されたsTfRをPBSTにて5.0μg/mLになるように調整し、MaxiSorp 96-well plate(Nunc)に希釈液を100μL/wellに分注して4℃で一晩静置し固相化した。翌日に固相液を捨て、100%ブロックエース(DS Pharma Biomedical)200μL/wellで室温静置しブロッキングした。1時間後PBST Bufferで5回洗浄後、HRP標識したTf(2ug/mL)50μL/wellを分注し、更にTfR436抗体、A24抗体(10μg/mLから2倍希釈系列)またはholo-Tf(Sigma)300μg/mLから2倍希釈系列)を50μL/wellで添加した。室温で1時間反応させた後、PBST Bufferで5回洗浄し、TMB Soluble Reagent(High Sensitivity)を100μL/wellに分注し、室温暗所で反応させた。25分間後、TMB Stop Bufferを100μL/well添加し、1分間シェーカーで震とうさせた、プレートリーダーで450nm (ref.620nm)の吸光度を測定した。
【0061】
結果は図3に示すように、TfR436抗体は遥かに低い用量で(100ng/mL)完全にTf-TfRの結合を阻害した。一方、A24抗体は10 μg/mLの用量でも完全にTf-TfRの結合を阻害できず、Tf-TfRの結合を50%しか阻害できなかった。Tf-TfRの結合阻害において、TfR436抗体が優れていることが示唆された。
【0062】
実施例3:TfR436抗体の細胞増殖抑制効果に対するクエン酸鉄アンモニウムの効果
上記の実験結果に示すように、TfR436抗体はTfRアミノ酸629番目~633番目を認識し、完全にTf-TfRの結合を阻害する。この阻害により、細胞内への鉄の取り込みが完全に阻害される。つまり、TfR436抗体は細胞内への鉄の取り込み阻害剤である。鉄は細胞の生存や増殖に不可欠な物質であり、細胞内鉄欠乏になると細胞増殖停止や細胞死が起こる。TfR436抗体が細胞の増殖を抑制するかどうか、またこの増殖抑制は鉄欠乏原因であることについてnon-trasferrin bound iron uptakeの鉄ドナーとして知られているクエン酸鉄アンモニウムを用いて検討した。具体的には、K562細胞を細胞数が5000個/mlとなるよう培養用メディウム(RPMI1640、10%FBS、1%P/S)に懸濁し、96ウエルプレートに100μl/wellずつ播種した。TfR436抗体を100μg/mlから5倍連続希釈した溶液を作製し、K562細胞に50μLずつ添加した(最終濃度:25~0.3μg/ml)。更に、120μMのクエン酸鉄アンモニウム(和光純薬)50μLを添加した(最終濃度:30μM)。37℃の5%CO2インキュベータ内に96時間で培養後、各ウエルをよく攪拌し、150μlの細胞培養液をV底96-wellプレート(Corning)に移し、その25μlをFACS Calibur(BD)に吸引させ、イベント数を測定した。得られたイベント数の4倍をウエルあたりの細胞数とし、抗体及びクエン酸鉄アンモニウム無添加のウエルにおける細胞数平均値を100%として、各処理における増殖率を算出した。
【0063】
結果は図4に示すように、TfR436抗体は濃度依存的にK562の増殖を抑制した。この増殖停止は、クエン酸鉄アンモニウムの添加により回復した。この結果より、TfR436抗体が細胞内への鉄の取り込みを阻害することが示唆された。
【0064】
実施例4:TfR436抗体の添加による細胞株内鉄量の変化
K562細胞株を用いて、TfR436抗体の添加による細胞内鉄量変化を確認した。具体的には、K562細胞を0.5x105cells/mLになるように播種したT150フラスコ(IMDM+10%-FBS;60mL)に対して、TfR436抗体を終濃度5μg/mLになるように添加した。比較対照として、TfR006抗体(特許5980202号に記載)、A24抗体、ヒトモノクローナルIgG1抗体(Nega mAb)、及びDPBS緩衝液(未処理)を用意し、TfR436抗体と同様に添加した。37℃、5%-CO2インキュベーターにて96時間培養した後、各サンプルの細胞数をカウントし、1.0x107cellsを回収した。細胞はDPBSにて3回洗浄した後、細胞ペレットに250μLのLysisM Reagent(Roche; cat.# 04 719 956 001)と2.5μLの6N-HClを添加・混和し、室温にて1時間静置した。遠心後、回収した上清を鉄定量に用いた。鉄定量は、メタロアッセイ鉄測定LS(フェロジン法)(Metallogenics; cat.#FE31M)に従い実施した。結果を図5に示した。
【0065】
結果は図5に示すように、未処理、Nega mAb、TfR006、TfR436及びA24を添加したK562細胞内の鉄量は、それぞれ1.15、1.20、0.27、0.25及び0.81nmolとなった。このことから、抗TfR抗体添加により、細胞内へのトランスフェリン鉄取込みが抑制され、鉄量が減少することが示唆された。また、A24抗体と比較してTfR006抗体とTfR436抗体は、鉄取込み抑制効果が高いことが明らかとなった。さらに、この実験結果は、TfR006抗体よりTfR436抗体で、鉄取込み抑制効果が高いことを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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