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特許7410052硬化樹脂用組成物、該組成物の硬化物、該組成物および該硬化物の製造方法、ならびに半導体装置
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  • 特許-硬化樹脂用組成物、該組成物の硬化物、該組成物および該硬化物の製造方法、ならびに半導体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】硬化樹脂用組成物、該組成物の硬化物、該組成物および該硬化物の製造方法、ならびに半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08G 14/073 20060101AFI20231226BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20231226BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20231226BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08G14/073
C08G59/40
H01L23/30 R
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020559240
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048200
(87)【国際公開番号】W WO2020122045
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018231150
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】西谷 佳典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 樹生
(72)【発明者】
【氏名】南 昌樹
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0327683(US,A1)
【文献】特開2018-188611(JP,A)
【文献】特開2017-020011(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105743(WO,A1)
【文献】特開2002-053643(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0086911(US,A1)
【文献】国際公開第2017/188448(WO,A1)
【文献】特開2005-272722(JP,A)
【文献】エポキシ樹脂技術協会 編,総説 エポキシ樹脂 基礎編 I,初版,日本,エポキシ樹脂技術協会,2003年11月19日,163-164頁、303-304頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 14/073
C08G 59/40
H01L 23/29
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物と、
(B)エポキシ化合物であって、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含むエポキシ化合物と、
(C)フェノール系硬化剤と
を含有し、
(B)エポキシ化合物のエポキシ基数と、(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環数と、(C)フェノール系硬化剤の水酸基数とが下記式(2)を満たし、かつ、 (C)フェノール系硬化剤の水酸基数に対する、(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環数の比が1.1~8.0であり、
前記ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物が、式(4)に示されるエポキシ構造から選択される少なくとも1種のエポキシ構造を有するエポキシ化合物である、硬化樹脂用組成物。
【化1】
[式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を表し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Rはそれぞれ独立して、ベンゾオキサジン環のいずれの位置に結合してもよい。前記ベンゾオキサジン環はそれぞれ独立して、ベンゼン環のいずれの位置に結合してもよい。]
【数1】
【化2】
【請求項2】
前記(B)エポキシ化合物が、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一つのエポキシ化合物との組み合わせである、請求項1に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項3】
前記(A)式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物が非対称型ベンゾオキサジン化合物である、請求項1または2に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項4】
前記(A)式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物が、式(1-1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物である、請求項3に記載の硬化樹脂用組成物。
【化3】
[式(1-1)中のRは、式(1)中のRと同義である。]
【請求項5】
(D)硬化促進剤をさらに含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項6】
(E)無機充填剤をさらに含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている、半導体装置。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の硬化樹脂用組成物の製造方法であって、
(A)式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物と、
(B)エポキシ化合物であって、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一つを含むエポキシ化合物と、
(C)フェノール系硬化剤と
を混合して混合物を得る工程、
該混合物を粉体状、ペレット状、または顆粒状の硬化樹脂用組成物に加工する工程
を有する、硬化樹脂用組成物の製造方法。
【化4】
[式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を表し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Rはそれぞれ独立して、ベンゾオキサジン環のいずれの位置に結合してもよい。前記ベンゾオキサジン環はそれぞれ独立して、ベンゼン環のいずれの位置に結合してもよい。]
【請求項10】
前記(B)エポキシ化合物が、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一つのエポキシ化合物との組み合わせである、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記混合物を得る工程において、(D)硬化促進剤および/または(E)無機充填剤をさらに混合して混合物を得る、請求項または10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項11のいずれか一項に記載の方法により製造した前記硬化樹脂用組成物を150~300℃にて20秒間~4時間加熱して硬化させる工程
を有する、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2018年12月10日に出願された日本国特許出願2018-231150号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、高耐熱性硬化物を得るための硬化樹脂用組成物、その硬化物、ならびに該硬化樹脂用組成物および該硬化物の製造方法に関する。さらに、前記硬化物を封止材として用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0003】
硬化樹脂は半導体封止材、繊維強化プラスチック等各種用途に使用され、その一原料としてベンゾオキサジン化合物が使用されている。
ベンゾオキサジン化合物とは、ベンゼン骨格とオキサジン骨格とを有するベンゾオキサジン環を含む化合物を指し、その硬化物(重合物)であるベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性、機械的強度等の物性に優れ、多方面の用途において高性能材料として使用されている。
【0004】
特許文献1は、特定構造の新規なベンゾオキサジン化合物およびその製造方法を開示し、該ベンゾオキサジン化合物は高い熱伝導率を有すること、ならびに該ベンゾオキサジン化合物により高い熱伝導率を有するベンゾオキサジン樹脂硬化物を製造することが可能であることを記載している。
【0005】
特許文献2は、特定のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有するポリベンゾオキサジン樹脂の反応性末端の一部または全部を封止した熱硬化性樹脂を開示し、該熱硬化性樹脂は溶媒に溶解した際の保存安定性に優れることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-60407号公報
【文献】特開2012-36318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の用途においては、依然として、より過酷な使用条件に適合し得るように高耐熱性の樹脂硬化物が求められている。さらに、生産性を向上させるために、低温硬化性に優れる硬化樹脂用組成物が求められている。
しかしながら、高耐熱性硬化物を得るための低温硬化性に優れる硬化樹脂用組成物は、いまだ得られていない。
【0008】
したがって、本発明は、高耐熱性硬化物を得るための低温硬化性に優れる硬化樹脂用組成物を提供することを課題とする。また、本発明の別の課題は、上記硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物、ならびに上記硬化樹脂用組成物および該硬化物の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の課題は、前記硬化物を封止材として用いた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の多官能ベンゾオキサジン化合物、エポキシ化合物およびフェノール系硬化剤を特定の割合で含有する硬化樹脂用組成物を開発し、該硬化樹脂用組成物が低温硬化性に優れ、その硬化物が耐熱性に優れることを見出して本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] (A)式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物と、
(B)エポキシ化合物と、
(C)フェノール系硬化剤と
を含有し、
(B)エポキシ化合物のエポキシ基数と、(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環数と、(C)フェノール系硬化剤の水酸基数とが下記式(2)を満たし、かつ、 (C)フェノール系硬化剤の水酸基数に対する、(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環数の比が1.1~8.0である、硬化樹脂用組成物。
【化1】
[式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を表し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Rはそれぞれ独立して、ベンゾオキサジン環のいずれの位置に結合してもよい。前記ベンゾオキサジン環はそれぞれ独立して、ベンゼン環のいずれの位置に結合してもよい。]
【数1】
[2] 前記(B)エポキシ化合物が、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一つである、[1]に記載の硬化樹脂用組成物。
[3] (D)硬化促進剤をさらに含有する、[1]または[2]に記載の硬化樹脂用組成物。
[4] (E)無機充填剤をさらに含有する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物。
[5] [1]~[4]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物。
[6] [1]~[4]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている、半導体装置。
[7] [1]~[4]のいずれか一つに記載の硬化樹脂用組成物の製造方法であって、 (A)式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物と、
(B)エポキシ化合物と、
(C)フェノール系硬化剤と
を混合して混合物を得る工程、
該混合物を粉体状、ペレット状、または顆粒状の硬化樹脂用組成物に加工する工程
を有する、硬化樹脂用組成物の製造方法。
【化2】
[式(1)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を表し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Rはそれぞれ独立して、ベンゾオキサジン環のいずれの位置に結合してもよい。前記ベンゾオキサジン環はそれぞれ独立して、ベンゼン環のいずれの位置に結合してもよい。]
[8] 前記(B)エポキシ化合物が、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一つである、[7]に記載の製造方法。
[9] 前記混合物を得る工程において、(D)硬化促進剤および/または(E)無機充填剤をさらに混合して混合物を得る、[7]または[8]に記載の製造方法。
[10] [7]~[9]いずれか一つに記載の方法により製造した前記硬化樹脂用組成物を150~300℃にて20秒間~4時間加熱して硬化させる工程
を有する、硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硬化樹脂用組成物は、成分(A)~(C)を特定の割合で含有し、さらに所望により成分(D)、(E)を含有する新規な硬化樹脂用組成物であり、該組成物は低温硬化性に優れながら、その硬化物はガラス転移温度が高く、耐熱性に優れるという特徴を有している。したがって、本発明の硬化樹脂用組成物は、低温硬化性を要求されながら、耐熱性を必要とされる用途、例えば、接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の用途に使用可能である。特に、半導体素子封止材として優れた封止性能を発揮すると共に、半導体装置の高信頼性に寄与することができる。
また、本発明の硬化物の製造方法によれば、上記優れた性能を有し、上記用途に適用可能な硬化物を短時間で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】典型的な示差走査熱量測定(DSC)の測定結果における反応ピーク温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[硬化樹脂用組成物]
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の成分(A)~(C)における「化合物」とは、各式に示す単量体だけでなく、該単量体が重合したオリゴマー、例えば、少量重合したオリゴマー、すなわち硬化樹脂を形成する前のプレポリマーも含むものとする。したがって、本発明の硬化樹脂用組成物は、硬化性樹脂組成物であってもよい。
【0014】
(成分A)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(A)は、式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物である。なお、上記式(1)のRはそれぞれ独立して、水素、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、または炭素数6~14のアリール基を表し、該アリール基は置換基としてハロゲンまたは炭素数1~12の鎖状アルキル基を有していてもよい。Rはそれぞれ独立して、ベンゾオキサジン環のいずれの位置に結合してもよい。前記ベンゾオキサジン環はそれぞれ独立して、ベンゼン環のいずれの位置に結合してもよい。
【0015】
式(1)のRの具体例としては、水素に加え、以下の基を例示できる。
炭素数1~12の鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
炭素数3~8の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
炭素数6~14のアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニル基が挙げられる。
炭素数6~14のアリール基は置換されていてもよく、その置換基としては炭素数1~12の鎖状アルキル基またはハロゲンが挙げられる。炭素数1~12の鎖状アルキル基もしくはハロゲンで置換された、炭素数6~14のアリール基としては、例えば、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、p-エチルフェニル基、o-t-ブチルフェニル基、m-t-ブチルフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、o-クロロフェニル基、o-ブロモフェニル基が挙げられる。
取り扱い性が良好な点において、Rは水素、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、およびp-トリル基から選択されることが好ましい。
【0016】
式(1)のベンゾオキサジン化合物は、対称型ベンゾオキサジン化合物でも非対称型ベンゾオキサジン化合物でもよい。
ここで、対称型ベンゾオキサジン化合物とは、分子構造上の対称性を有するベンゾオキサジン化合物を意味する。分子構造上の対称性を有するベンゾオキサジン化合物とは、ベンゾオキサジン化合物の分子中央(対称中心)から正反対の等しい距離に同一の原子が存在するベンゾオキサジン化合物を意味する。具体的には、対称性型ベンゾオキサジン化合物とは、上記式(1)において、2つのベンゼン環を連結する酸素原子を中心にRが同一であり、Rのベンゾオキサジン環への結合位置も同一であり、ベンゾオキサジン環のベンゼン環への結合位置も同一であるベンゾオキサジン化合物を意味する。対称型ベンゾオキサジン化合物としては、特に限定されないが、例えば、3-[4-[4-(2,4-ジヒドロ-1,3-ベンゾオキサジン-3-イル)フェノキシ]フェニル]-2,4-ジヒドロ-1,3-ベンゾオキサジン(3-[4-[4-(2,4-dihydro-1,3-benzoxazin-3-yl)phenoxy]phenyl]-2,4-dihydro-1,3-benzoxazine)等が挙げられる。
【0017】
一方、非対称型ベンゾオキサジン化合物とは、分子構造上の対称性を有さないベンゾオキサジン化合物を意味する。分子構造上の対称性を有さないベンゾオキサジン化合物とは、ベンゾオキサジン化合物の分子中央(対称中心)から正反対の等しい距離に同一の原子が存在しないベンゾオキサジン化合物を意味する。具体的には、非対称型ベンゾオキサジン化合物とは、上記式(1)において、2つのベンゼン環を連結する酸素原子を中心に、R、Rのベンゾオキサジン環への結合位置、およびベンゾオキサジン環のベンゼン環への結合位置の少なくとも一つが異なるベンゾオキサジン化合物を意味する。
非対称型ベンゾオキサジン化合物としては、特に限定されないが、例えば、式(1-1)で表されるものが好ましい。
【化3】
[式(1-1)中のRは、式(1)中のRと同義である。]
非対称型ベンゾオキサジン化合物としては、3-[3-[4-(2H-1,3-ベンゾオキサジン-3(4H)-イル)フェノキシ]フェニル]-3,4-ジヒドロ-2H-1,3-ベンゾオキサジン(3-[3-[4-(2H-1,3-benzoxazin-3(4H)-yl)phenoxy]phenyl]-3,4-dihydro-2H-1,3-Benzoxazine)(以下、3,4'-APE-BOZともいう)がより好ましい。3,4'-APE-BOZは特開2018-184533号公報の合成例1の記載に基づいて製造できる。
【0018】
さらに、成分(A)は、各々、R、Rのベンゾオキサジン環への結合位置、およびベンゾオキサジン環のベンゼン環への結合位置の少なくとも一つが異なる複数種の式(1)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0019】
成分(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン当量は、反応性良化の観点から、好ましくは50g/eq以上600g/eq以下であり、より好ましくは80g/eq以上400g/eq以下である。ここで、成分(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン当量とは、成分(A)ベンゾオキサジン化合物におけるベンゾオキサジン環を1官能とした場合の当量をいう。
【0020】
成分(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環数(mol)は、成分(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン当量から算出される。なお、本発明の組成物が成分(A)として複数種の式(1)のベンゾオキサジン化合物を含有する場合、上記ベンゾオキサジン環数はこれら化合物のベンゾオキサジン当量から計算した環数の合計とする。
【0021】
(成分B)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(B)は、エポキシ化合物である。かかるエポキシ化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されず、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物等が挙げられるが、好ましくは、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、シクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物である。成分(B)のエポキシ化合物としては、エポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物であることがより好ましい。本発明の組成物は成分(B)として複数種のエポキシ化合物を含有していてもよい。上記複数種のエポキシ化合物としては、例えば、ノルボルナン構造を少なくとも一つおよびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物と、ビフェニル型エポキシ化合物、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、およびシクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物から選択される少なくとも1つのエポキシ化合物との組み合わせが挙げられる。
【0022】
成分(B)エポキシ化合物のエポキシ当量は、反応性良化の観点から、好ましくは50g/eq以上400g/eq以下であり、より好ましくは80g/eq以上300g/eq以下である。
【0023】
成分(B)のエポキシ化合物のエポキシ基数(mol)は、エポキシ当量から算出される。なお、本発明の組成物が成分(B)として複数種のエポキシ化合物を含有する場合、上記エポキシ基数はこれら化合物のエポキシ基数の合計とする。
【0024】
(ビフェニル型エポキシ化合物)
ビフェニル型エポキシ化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されないが、下記式(3-1)または式(3-2)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。ビフェニル型エポキシ化合物としては、下記式(3-1)の構造で示されるエポキシ化合物および下記式(3-2)の構造で示されるエポキシ化合物のいずれか1種を用いてよいし、2種を混合して用いてもよい。より好ましいビフェニル型エポキシ化合物は、下記式(3-1)の構造で示されるエポキシ化合物とされる。
【化4】
[式(3-1)中、Rは置換基であって、炭素数1~4のアルキル基であり、各々同一であっても異なっていてもよい。mは置換基Rの数であり、0~4の整数である。nは平均値であり、1~10である。]
【化5】
[式(3-2)中、R~Rは、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1~4のアルキル基であり、各々同一であっても異なっていてもよい。]
【0025】
式(3-1)のmは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0である。式(3-1)のnは、好ましくは1~5であり、より好ましくは2~4である。式(3-1)の置換基Rにおける炭素数1~4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基等が挙げられる。置換基Rとしては、メチル基、エチル基が好ましい。さらに、ビフェニル型エポキシ化合物は、各々R、m、nが異なる式(3-1)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0026】
式(3-2)のR~Rにおける炭素数1~4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、およびブチル基等が挙げられる。R、R、R、R、R、R、R、またはRとしては、水素原子またはメチル基が好ましい。さらに、ビフェニル型エポキシ化合物は、各々R~Rが異なる式(3-2)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0027】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、本発明で用いられるビフェニル型エポキシ化合物は、式(3-2)におけるR、R、RおよびRが炭素数1~4のアルキル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である。本発明の別のさらに好ましい実施態様によれば、本発明で用いられるビフェニル型エポキシ化合物は、式(3-2)におけるR、R、RおよびRがメチル基であり、R、R、R、およびRが水素原子である。
【0028】
ビフェニル型エポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。式(3-1)の構造で示されるエポキシ化合物の市販品としては、NC3000(商品名、日本化薬株式会社、エポキシ当量265~285g/eq)、NC3000-L(商品名、日本化薬株式会社、エポキシ当量261~282g/eq)、NC3000-H(商品名、日本化薬株式会社、エポキシ当量280~300g/eq)、NC3000-FH-75M(商品名、日本化薬株式会社、エポキシ当量310~340g/eq)、NC3100(商品名、日本化薬品式会社、エポキシ当量245~270g/eq)等が挙げられる。式(3-2)の構造で示されるエポキシ化合物の市販品としては、YX4000(商品名、三菱化学株式会社、エポキシ当量180~192g/eq)、YX4000H(商品名、三菱化学株式会社、エポキシ当量187~197g/eq)、YL6121H(商品名、三菱化学株式会社、エポキシ当量170~180g/eq)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0029】
(ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物)
ノルボルナン構造を少なくとも一つ、およびエポキシ基を少なくとも二つ有するエポキシ化合物としては、脂環式エポキシ化合物が好ましく、下記式(4)に示す、5員環、6員環またはノルボルナン環に結合したエポキシ構造を有することがより好ましい。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【化6】
【0030】
具体的な脂環式エポキシ化合物としては、下記式(5)で表される化合物を例示することができる。
【化7】
【0031】
成分(B)の脂環式エポキシ化合物の製造例を説明する。
下記式(5-1)の化合物(エポキシ当量:109g/eq)は、例えば、ブタジエンとジシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(a)を合成し、次に、下記式(6)に示すように化合物(a)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化8】
【0032】
下記式(5-2)の化合物(エポキシ当量:115g/eq)は、例えば、シクロペンタジエンとジシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(b)(トリシクロペンタジエン)を合成し、次に、下記式(7)に示すように化合物(b)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化9】
【0033】
下記式(5-3)の化合物(エポキシ当量:109g/eq)は、例えば、ブタジエンとシクロペンタジエンとのディールズアルダー反応により、下記ノルボルナン構造を有する化合物(c)を合成し、次に、下記式(8)に示すように化合物(c)とメタクロロ過安息香酸とを反応させることによって製造できる。
【化10】
【0034】
下記式(5-4)の化合物(エポキシ当量:82.1g/eq)は、例えば、ジシクロペンタジエンとペルオキシ一硫酸カリウム(オキソン)とを反応させることによって製造できる。式(5-4)の化合物であるジシクロペンタジエンジエポキシドは、市販品であってもよく、市販品としてはSHANDONG QIHUAN BIOCHEMICAL CO., LTD.製のジシクロペンタジエンジエポキシドを例示できる。
【化11】
【0035】
(トリスフェノールメタン型エポキシ化合物)
トリスフェノールメタン型エポキシ化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されないが、下記式(9)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【化12】
[式(9)中、Rは置換基であり、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、アリル基、またはフェニル基を示す。mは置換基Rの数であり、0~3の整数をそれぞれ表す。nは平均値であり、0≦n≦10である。]
【0036】
式(9)のmは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0である。式(9)のnは、好ましくは0以上5以下である。式(9)の置換基Rにおける炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびシクロヘキシル基などが挙げられる。置換基Rとしては、メチル基が好ましい。さらに、トリスフェノールメタン型エポキシ化合物は、各々R、m、nが異なる式(9)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0037】
トリスフェノールメタン型エポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。市販品としては、EPPN-501H(商品名、日本化薬株式会社製、エポキシ当量162~172g/eq、軟化点51~57℃)、EPPN-501HY(商品名、日本化薬株式会社製、エポキシ当量163~175g/eq、軟化点57~63℃)、EPPN-502H(商品名、日本化薬株式会社製、エポキシ当量158~178g/eq、軟化点60~72℃)、EPPN-503(商品名、日本化薬株式会社製、エポキシ当量170~190g/eq、軟化点80~100℃)等を例示できる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0038】
(ナフタレン型エポキシ化合物)
ナフタレン型エポキシ化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されないが、ナフチレンエーテル型エポキシ化合物、ビナフタレン型エポキシ化合物、ナフトール型エポキシ化合物等が挙げられ、好ましくは、ナフチレンエーテル型エポキシ化合物、ビナフタレン型エポキシ化合物である。
【0039】
(ナフチレンエーテル型エポキシ化合物)
ナフチレンエーテル型エポキシ化合物としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されないが、下記式(10)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【化13】
[式(10)中、nは1以上20以下の整数であり、lは0~2の整数であり、Rは置換基であって、それぞれ独立にベンジル基、アルキル基または式(10a)で表される構造であり、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基である。]
【化14】
[式(10a)中、Arはそれぞれ独立にフェニレン基またはナフチレン基であり、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、mは1または2の整数である。]
さらに、ナフチレンエーテル型エポキシ化合物は、各々R、R、l、nが異なる式(10)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0040】
上記一般式(10)で表されるナフチレンエーテル型エポキシ化合物としては、式(10-1)で表されるものが例として挙げられる。
【化15】
(式(10-1)において、nは1以上20以下の整数であり、好ましくは1以上10以下の整数であり、より好ましくは1以上8以下の整数である。Rは置換基であって、それぞれ独立にベンジル基、アルキル基、または下記一般式(10a-1)で表される構造であるか存在せず、好ましくは置換基Rは存在しない。)
【化16】
(上記一般式(10a-1)式において、mは1または2の整数である。)
【0041】
式(10-1)で表されるナフチレンエーテル型エポキシ化合物は、例えば、式(10-2)~(10-6)で表されるものが挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【0042】
ナフチレンエーテル型エポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。ナフチレンエーテル型エポキシ化合物の市販品としては、HP-6000(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量235~255g/eq)、EXA-7310(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量237~257g/eq)、EXA-7311(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量267~287g/eq)、EXA-7311L(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量252~272g/eq)、EXA-7311-G3(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量240~260g/eq)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0043】
(ビナフタレン型エポキシ化合物)
ビナフタレン型エポキシ化合物としては、本発明の趣旨を逸脱せず、上記ナフチレンエーテル型エポキシ化合物を含まない限り特に限定されないが、下記式(11)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【化22】
[式(11)中、Xは、炭素数が1~8のアルキレン基を表す。R~Rは、下記の式(11a)で示される基、水素原子、ハロゲン原子、フェニル基、炭素数1~4のアルキル基のいずれかを表す。R~Rは、ナフタレン骨格のいずれの環に付加してもよく両リングに同時に付加してもよい。R~Rのうち、平均して少なくとも2つ以上が下記の一般式(11a)で示される基を含む必要があり、それ以外のRは、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【化23】
さらに、ビナフタレン型エポキシ化合物は、各々R~R、Xが異なる式(11)に示す化合物の混合物であってもよい。
【0044】
ビナフタレン型エポキシ化合物としては、2官能以上のビナフタレン型エポキシ化合物が挙げられ、好ましくは、2官能、3官能または4官能のビナフタレン型エポキシ化合物、より好ましくは下記式(11-1)に示す2官能のビナフタレン型エポキシ化合物である。
【化24】
【0045】
ビナフタレン型エポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。2官能ビナフタレン型エポキシ化合物の市販品としては、HP-4770(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量200~210g/eq)等が挙げられる。3官能ビナフタレン型エポキシ化合物の市販品としては、EXA-4750(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量185g/eq)等が挙げられる。4官能ビナフタレン型エポキシ化合物の市販品としては、HP-4710(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量160~180g/eq)、HP-4700(商品名、DIC株式会社、エポキシ当量160~170g/eq)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0046】
(シクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物)
シクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物としては、本発明の趣旨を逸脱せず、上記ノルボルナン構造を含まない限り特に限定されないが、下記式(13)の構造で示されるエポキシ化合物であることが好ましい。
【化25】
[式(13)中、R~R18は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭化水素基を表し、該炭化水素基は酸素原子またはハロゲン原子を含んでいてもよい。Xは単結合または二価の有機基である。]
【0047】
式(13)中のR~R18は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭化水素基を表し、該炭化水素基は酸素原子またはハロゲン原子を含んでいてもよいものであり、好ましくは、水素原子、炭化水素基からなる群から選択され、より好ましくは、水素原子である。
【0048】
式(13)中のR~R18におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。
【0049】
式(13)中のR~R18における炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基等が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の炭素数1~20(好ましくは1~10、より好ましくは1~3)程度のアルキル基;ビニル基、アリル基、メタリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等の炭素数2~20(好ましくは2~10、より好ましくは2~3)程度のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2~20(好ましくは2~10、より好ましくは2~3)程度のアルキニル基等を挙げることができる。
【0050】
式(13)中のR~R18における、酸素原子またはハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素基としては、上述の炭化水素基における少なくとも1つの水素原子が、酸素原子を有する基またはハロゲン原子で置換された基等を挙げることができる。上記酸素原子を有する基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ基等のC1-10アルコキシ基等を挙げることができる。
【0051】
上記式(13)中、Xは単結合または二価の有機基を示す。前記二価の有機基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部または全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、カーボネート基(-O-CO-O-)、アミド基(-CONH-)、-CO-O-CH-およびこれらが複数個連接した基等を挙げることができる。
【0052】
シクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物としては、例えば、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン等を挙げることができる。
【0053】
シクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物としては市販品を使用することもできる。シクロヘキセンオキシド基を有するエポキシ化合物としては、セロキサイド2021P(商品名、株式会社ダイセル、エポキシ当量128~145g/eq)、セロキサイド8010(商品名、株式会社ダイセル、エポキシ当量95~105g/eq)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0054】
成分(A)ベンゾオキサジン化合物と成分(B)エポキシ化合物との配合割合は、成分(A)100質量部に対して、成分(B)が10質量部以上、300質量部以下が好ましく、40質量部以上、200質量部以下がより好ましい。成分(A)と(B)との配合割合が上記範囲内にあると、より優れた耐熱性を得ることができる。
なお、本発明の組成物が成分(A)として複数種のベンゾオキサジン化合物を含有する場合、これら化合物の合計を100質量部とみなす。本発明の組成物が成分(B)として複数種のエポキシ化合物を含有する場合、上記成分(B)は複数種の化合物の合計を意味する。
【0055】
(成分C)
硬化樹脂用組成物を構成する成分(C)はフェノール系硬化剤である。
成分(C)としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り特に限定されないが、例えば、単官能フェノール、多官能フェノール化合物(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノールスルフィド(例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド等)、ポリフェノール化合物(例えば、ピロガロール等)等)、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂(例えば、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂)等が挙げられ、好ましくは、ビスフェノールF、ビスフェノールスルフィドである。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上の混合物として使用してもよい。
【0056】
成分(C)のフェノール系硬化剤としては市販品を使用することもできる。例えば、ビスフェノールF(本州化学工業株式会社製、水酸基当量100g/eq)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド(TDP、東京化成工業株式会社製、水酸基当量109g/eq)、2,7-ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業株式会社製、水酸基当量80g/eq)、ピロガロール(東京化成工業株式会社製、水酸基当量42g/eq)、フェノールノボラック樹脂(例えば、フェライトTD-2106、DIC株式会社、水酸基当量104g/eq;フェライトTD-2090、DIC株式会社、水酸基当量105g/eq)、フェノールアラルキル樹脂(例えば、MEHC-7851SS、水酸基当量203g/eq、明和化成株式会社製;MEH-7800-4S、水酸基当量169g/eq、明和化成株式会社製)等が挙げられる。これらを1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0057】
成分(C)の配合割合としては、成分(A)および(B)の合計100質量部に対して、成分(C)を1質量部以上、30質量部以下の範囲とすることが好ましく、2質量部以上、25質量部以下がより好ましい。成分(C)をこの範囲で含有することにより、より優れた高耐熱性の硬化物を得ることができる。
【0058】
成分(C)フェノール系硬化剤の水酸基当量は、反応性良化の観点から、好ましくは30g/eq以上400g/eq以下であり、より好ましくは40g/eq以上250g/eq以下である。
【0059】
成分(C)のフェノール系硬化剤の水酸基数(mol)は、水酸基当量から算出される。なお、本発明の組成物が成分(C)として複数種のフェノール系硬化剤を含有する場合、上記水酸基数はこれら硬化剤の水酸基数の合計とする。
【0060】
本発明において、硬化樹脂用組成物中の成分(B)エポキシ化合物のエポキシ基数、成分(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環数、および成分(C)フェノール系硬化剤の水酸基数の官能基数の比が下記式(2)を満たすことが好ましい。
【数2】
上記式(2)における官能基数の比は、より好ましくは0.7~1.8であり、さらに好ましくは0.8~1.5であり、さらに好ましくは0.9~1.4である。式(2)の各成分の官能基数の比が当該範囲内にあると、低温硬化性がより優れた硬化樹脂用組成物、および、より優れた耐熱性を有する硬化物を得ることができる。
【0061】
また、本発明において、硬化樹脂用組成物中の成分(C)フェノール系硬化剤の水酸基数に対する、成分(A)ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環数の比(ベンゾオキサジン環数/水酸基数)が1.1~8.0であることが好ましい。
ここで、上記官能基数の比(ベンゾオキサジン環数/水酸基数)は、より好ましくは1.1~7.8であり、さらに好ましくは2.0~4.6である。上記官能基数の比が当該範囲内にあると、低温硬化性がより優れた硬化樹脂用組成物、および、より優れた耐熱性を有する硬化物を得ることができる。
【0062】
(成分D)
本発明の硬化樹脂用組成物は、所望により(D)硬化促進剤をさらに含有してもよい。 硬化促進剤としては、公知の硬化促進剤を使用することができ、トリブチルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7等のアミン系化合物、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、トリフェニルホスフィン等の共有結合のみでリンが結合している有機リン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、ビス(テトラブチルホスホニウム)(BTBP)-ピロメリット酸、テトラブチルホスホニウム2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノラート(TBP-3PC)等の共有結合およびイオン結合でリンが結合している塩タイプの有機リン化合物等の有機リン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記した硬化促進剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用して使用してもよい。これらのうち、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノラート等の有機リン化合物が、硬化速度向上の効果が大きく、好ましい。
上記有機リン化合物は、特開昭55-157594号公報に記載されているように、エポキシ基とフェノール性水酸基との架橋反応を促進する機能を発揮するものが好ましい。さらに、上記有機リン化合物は、(A)ベンゾオキサジン化合物が高温で開裂反応した際に発生する水酸基とエポキシ基との反応を促進する機能も発揮することが好ましい。
【0063】
成分(D)の配合割合としては、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、成分(D)を0.01質量部以上、10質量部以下の範囲とすることが好ましく、0.1質量部以上、5質量部以下の範囲とすることがより好ましい。成分(D)をこの範囲で含有することにより、より優れた速硬化性を有する硬化樹脂用組成物とすることができる。
【0064】
(成分E)
本発明の硬化樹脂用組成物は、所望により(E)無機充填剤をさらに含有してもよい。例えば、半導体素子等の封止材用途に本発明の硬化樹脂用組成物を使用する場合は、成分(E)を含有することが好ましい。本発明で用いる無機充填剤は特に限定されず、硬化樹脂用組成物あるいはその硬化物の用途あるいは付与したい性状を考慮して選択することができる。以下、この無機充填剤を成分(E)と称する。
成分(E)の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化カルシウム、三酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化マンガン等の窒化物;ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ素化合物;ホウ酸アルミニウム等のホウ素化合物;ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム等のジルコニウム化合物;リン酸ジルコニウム、リン酸マグネシウム等のリン化合物;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム等のチタン化合物;マイカ、タルク、カオリン、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、コーディエライト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ウォラストナイト、セピオライト、ゾノライト、ゼオライト、ハイドロタルサイト、水和石膏、ミョウバン、ケイ藻土、ベーマイト等の鉱物類;フライアッシュ、脱水汚泥、ガラスビーズ、ガラスファイバー、ケイ砂、マグネシウムオキシサルフェイト、シリコン酸化物、シリコンカーバイド等;銅、鉄、コバルト、ニッケル等の金属あるいはそのいずれかを含む合金;センダスト、アルニコ磁石、フェライト等の磁性材料;黒鉛、コークス等が挙げられる。成分(E)は、好ましくはシリカまたはアルミナである。シリカの例としては、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、無定形シリカ、合成シリカ、中空シリカ等が挙げられ、好ましくは球状シリカ、結晶シリカである。成分(E)は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
成分(E)は粒状であってもよく、その場合の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上、150μm以下が挙げられ、好ましくは、0.1μm以上、120μm以下、より好ましくは、0.5μm以上、75μm以下である。この範囲であれば、例えば、本発明の組成物を半導体素子の封止材用途に使用する場合、金型キャビティへの充填性がより良好となる。成分(E)の平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定することができる。具体的にはレーザー回折式粒度分布測定装置により、無機充填剤の粒度分布を体積基準で作成し、そのメディアン径を平均粒径とすることで測定することができる。測定サンプルは、無機充填剤を超音波により水中に分散させたものを好ましく使用することができる。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、(株)堀場製作所製「LA-500」、「LA-750」、「LA-950」、「LA-960」等を使用することができる。
【0066】
成分(E)の配合割合としては、硬化樹脂用組成物の高耐熱性の硬化物が得られる限り、特に限定されず、用途に応じて適宜設定できる。例えば、組成物を半導体封止用途に使用する場合は以下に示す配合割合が好ましい。
成分(E)の配合割合の下限値は、成分(A)、(B)、(C)および(D)の合計100質量部に対して、例えば150質量部以上が挙げられ、400質量部以上が好ましく、500質量部以上がより好ましい。また、成分(E)の配合割合の上限値は、1300質量部以下が挙げられ、1150質量部以下が好ましく、950質量部以下がより好ましい。成分(E)の配合割合の下限値が400質量部以上であれば、硬化樹脂用組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や強度の低下をより抑制でき、したがってより良好な耐半田クラック性を有する硬化物を得ることができる。また、成分(E)の配合割合の上限値が1300質量部以下であれば、硬化樹脂用組成物の流動性がより良くなり、金型への充填がしやすく、硬化物がより良好な封止性能を発揮する。
【0067】
(その他の成分)
本発明の組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、成分(A)以外のベンゾオキサジン化合物を含有していてもよい。例えば、組成物の粘度を低下させたい場合、ベンゾオキサジン環が1つである単官能ベンゾオキサジン化合物を組成物に添加してもよい。
【0068】
また、本発明の硬化樹脂用組成物には、その性能を損なわない範囲で、例えば、ナノカーボンや難燃剤、離型剤、着色剤、低応力添加剤、金属水酸化物等を配合することができる。
ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレンまたはそれぞれの誘導体が挙げられる。
難燃剤としては、例えば、赤燐、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ホウ酸エステル、フォスファゼン等が挙げられる。
離型剤としては、例えば、ステアリン酸エステル、カルナバワックス等の天然ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸等の高級脂肪酸またはそのエステル、ステアリン酸亜鉛等の金属塩類、パラフィン、およびシリコーンオイル等が挙げられる。
着色剤としては、カーボンブラック、ベンガラ、および酸化チタン等が挙げられる。
低応力添加剤としては、シリコーンオイル、およびシリコーンゴム等が挙げられる。
金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、および水酸化マグネシウム等の水酸化物が挙げられる。
成分(E)無機充填剤が含まれる場合、シランカップリング剤を配合しても良い。
【0069】
その他の成分の配合割合としては、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、その他の成分を0.01質量部以上、10質量部以下の範囲とすることが好ましく、0.1質量部以上、7質量部以下の範囲とすることがより好ましい。
【0070】
(硬化樹脂用組成物の特性)
本発明の硬化樹脂用組成物の硬化性能は、示差走査熱量測定(DSC)による熱物性(反応ピーク温度)として測定することができる。具体的には、示差走査熱量測計を用いて、昇温速度を10℃/minで30℃から300℃の温度範囲条件にて、測定することができる。グラフの最高点を反応ピーク温度とする。反応ピーク温度は、反応性の観点から、好ましくは255℃以下であり、より好ましくは245℃以下である。
【0071】
[硬化樹脂用組成物の製造方法]
次に、本発明の硬化樹脂用組成物の製造方法について説明する。
成分(A)~(C)、さらに、所望により成分(D)、(E)、その他の成分、および溶剤を適宜追加して混練または混合することにより、本発明の硬化樹脂用組成物を製造することができる。
混練または混合方法は、特に限定されず、例えば、プラネタリーミキサー、2軸押出機、熱ロールまたはニーダー等の混合装置または混練機等を用いて混合することができる。また、成分(A)、(B)、(C)が室温で高粘度の液状または固体状である場合、または成分(E)を含有する場合等には、必要に応じて加熱して混練したり、さらに、加圧または減圧条件下で混練したりしても良い。加熱温度としては80~120℃が好ましい。 成分(E)を含む硬化樹脂用組成物は室温下では固体状であるので、加熱混練後、冷却、粉砕して粉体状としてもよく、該粉体を打錠成形してペレット状にしてもよい。また、粉体を造粒して顆粒状にしてもよい。
【0072】
本発明の硬化樹脂用組成物が成分(E)を含有せず、FRP用プリプレグ用途等に使用する場合、硬化樹脂用組成物は50℃において、10~3000Pa・sの粘度を有することが好ましい。より好ましくは10~2500Pa・s、さらに好ましくは100~2000Pa・sである。封止材、塗布用途に使用する場合は、封止、塗布等の作業に支障がない限り粘度は特に限定されない。
【0073】
[硬化物]
本発明の硬化樹脂用組成物の硬化物は、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れるという特徴を有している。本発明の硬化樹脂用組成物がこのような優れた硬化物を形成する理由としては、次のようなことが考えられる。
まず、ベンゾオキサジンの単独重合では、重合によりフェノール性の水酸基が生成する。このフェノール性の水酸基は、高温、例えば200℃以上にて、ケトエノ-ル互変異性体を経由し、それによって高分子鎖が切断されるため、耐熱性が低く、ガラス転移温度も低くなると考えられている。
それに対し、本発明の硬化樹脂用組成物は、式(1)の構造で示されるベンゾオキサジン化合物とエポキシ化合物とを併用することで、低温でも極めて硬化速度が速く、密な架橋構造を形成するため、低温硬化性に優れるものになると考えられる。
【0074】
(硬化物の特性)
本発明の硬化物の耐熱性は、ガラス転移温度を測定することにより評価できる。ガラス転移温度は、210℃以上が挙げられ、好ましくは220℃以上とされる。また、硬化樹脂用組成物が成分(E)を含有する場合には、ガラス転移温度は、215℃以上が挙げられ、好ましくは230℃以上とされる。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。このような測定は、市販の示差走査熱量計(例えば株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いることにより、簡便に行うことができる。
【0075】
[硬化物の製造方法]
本発明の硬化物は、公知のベンゾオキサジン化合物および/またはエポキシ化合物と同様の硬化条件にて、開環重合を行い硬化することにより製造することができる。例えば、以下の方法を挙げることができる。
まず、本発明の硬化樹脂用組成物を上記方法によって製造する。続いて、得られた硬化樹脂用組成物を、例えば150~300℃にて、硬化時間として例えば20秒間~5時間、好ましくは20秒間~1時間加熱することで、硬化物を得ることができる。硬化物を連続生産する場合には、硬化時間は1~3分間で十分であるが、より高い強度を得るために後硬化としてさらに5分間~5時間程度加熱することが好ましい。
また、本発明の趣旨を逸脱しないない範囲で、成分(A)以外のベンゾオキサジン化合物および/または成分(B)以外のエポキシ化合物を配合して硬化物を得ることもできる。
【0076】
硬化物としてフィルム状成形物を得る場合には、さらに溶剤を配合して、薄膜形成に好適な溶液粘度を有する組成物とすることもできる。成分(A)~(D)を溶解できる溶剤であれば特に限定されず、例えば、炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン類等が挙げられる。
このように、溶媒に溶解した溶液状の硬化樹脂用組成物の場合は、該溶液状の硬化樹脂用組成物を基材等に塗布後、溶媒を揮発させたのち、熱硬化を行うことで硬化物を得ることができる。
【0077】
[半導体装置]
本発明の半導体装置は、成分(A)~(C)、所望により(D)、(E)、その他の成分を含有する本発明の硬化樹脂用組成物を硬化させてなる硬化物中に半導体素子が設置されている半導体装置である。ここで、通常、半導体素子は金属素材の薄板であるリードフレームにより支持固定されている。「硬化物中に半導体素子が設置されている」とは、半導体素子が上記硬化樹脂用組成物の硬化物で封止されていることを意味し、半導体素子が該硬化物で被覆されている状態を表す。この場合、半導体素子全体が被覆されていてもよく、基板上に設置された半導体素子の表面が被覆されていてもよい。
【0078】
本発明の硬化物を用いて、半導体素子等の各種の電子部品を封止し、半導体装置を製造する場合は、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、あるいはインジェクションモールド等の従来からの成形方法により封止工程を実施することによって、半導体装置を製造することができる。
【実施例
【0079】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
<成分(A):多官能ベンゾオキサジン化合物>
成分(A)として下記(A1)を使用した。
(A1):下記式(1-1-1)に示すベンゾオキサジン(3-[3-[4-(2H-1,3-ベンゾオキサジン-3(4H)-イル)フェノキシ]フェニル]-3,4-ジヒドロ-2H-1,3-ベンゾオキサジン)(3,4'-APE-BOZ)(ベンゾオキサジン当量(g/eq):218、本州化学工業株式会社、開発品)
【化26】
【0081】
比較例用のエポキシ化合物として下記(CA1)を使用した。
(CA1):下記式に示すフェノール-ジアミノジフェニルメタン(P-d)型ベンゾオキサジン(四国化成株式会社製)(ベンゾオキサジン当量(g/eq):217)
【化27】
【0082】
<成分(B);エポキシ化合物>
成分(B)として下記(B1)~(B9)を使用した。
(B1)エポキシ化合物1:式(5-1)の化合物
上記式(6)に示す化合物(a)を、『土田詔一ら、「ブタジエンとシクロペンタジエンとのDiels-Alder反応-三量体の決定-」、石油学会誌、1972年、第15巻、3号、p189-192』に記載の方法に準拠して合成した。
次に、上記式(6)の反応を次のようにして行った。反応容器に、クロロホルム23.5kgおよび化合物(a)1.6kgを投入し、0℃で攪拌しながらメタクロロ過安息香酸4.5kgを滴下した。室温まで昇温し、12時間反応を行った。
次に、ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去した後、ろ液を1N水酸化ナトリウム水溶液で3回洗浄後、飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去してろ液を濃縮し、粗体を得た。
粗体にトルエン2kgを加え、室温で溶解した。これにヘプタン6kgを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘキサンにより洗浄した。35℃下、24時間減圧乾燥することによって、下記式(5-1)に示す化合物を白色固体として1.4kg得た。
【化28】
【0083】
(B2)エポキシ化合物2:式(5-4)の化合物(ジシクロペンタジエンジエポキシド)
反応容器にジシクロペンタジエン10kg、重曹68kg、アセトン100Lおよびイオン交換水130Lを仕込み、10℃以下に冷却した後、反応液の温度を30℃以下に維持するように冷却を制御して、オキソン84kgを徐々に添加し、撹拌しながら10時間反応を行った。
次に、酢酸エチル100Lによる反応生成物の抽出を2回行い、得られた有機層を分取して合わせた。続いて、上記有機層を食塩およびチオ硫酸ナトリウムの混合水溶液(食塩20wt%+チオ硫酸ナトリウム20wt%)100Lにて洗浄した後、さらに、イオン交換水100Lで2回洗浄した。
洗浄後の有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥後、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、ろ液から有機溶媒を留去して、下記式(5-4)に示す化合物を白色固体として11kg得た。
【化29】
【0084】
(B3)エポキシ化合物3:下記式(3-1-1)に示すビフェニル型エポキシ化合物(NC3000、エポキシ当量(g/eq):265~285、日本化薬株式会社製)
【化30】
(式(3-1-1)中、nは平均値であり、3.4である。)
【0085】
(B4)エポキシ化合物4:下記式(9-1)に示すエポキシ化合物(EPPN-501H、エポキシ当量(g/eq):162~172、日本化薬株式会社製)
【化31】
(式(9-1)中、nは平均値であり、1.3である。)
【0086】
(B5)エポキシ化合物5:下記式(10-7)に示すナフチレンエーテル型エポキシ化合物(HP-6000、エポキシ当量(g/eq):235~255、DIC社製)
【化32】
(エポキシ化合物5は、式(10-7)中のn=1である成分とn=2である成分との混合物である。)
【0087】
(B6)エポキシ化合物6:下記式(3-2-1)に示すビフェニル型エポキシ化合物(YX4000、エポキシ当量(g/eq):180~192、三菱化学株式会社製)
【化33】
【0088】
(B7)エポキシ化合物7:下記式(11)に示すエポキシ化合物(HP-4770、エポキシ当量(g/eq):200~210、DIC株式会社製)
【化34】
【0089】
(B8)エポキシ化合物8:下記式(13-1)に示すエポキシ化合物(セロキサイド2021P、エポキシ当量(g/eq):128~145、株式会社ダイセル製)
【化35】
【0090】
(B9)エポキシ化合物9:下記式(13-2)に示すエポキシ化合物(セロキサイド8010、エポキシ当量(g/eq):95~105g/eq、株式会社ダイセル製)
【化36】
【0091】
<成分(C):フェノール系硬化剤>
成分(C)として下記(C1)~(C7)を使用した。
(C1)フェノール系硬化剤1:下記式(12-1)に示すビスフェノールF(本州化学工業株式会社製)
【化37】
【0092】
(C2)フェノール系硬化剤2:下記式(12-2)に示すビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド(TDP)(東京化成工業株式会社製)
【化38】
【0093】
(C3)フェノール系硬化剤3:下記式(12-3)に示す2,7-ジヒドロキシナフタレン(東京化成工業株式会社製)
【化39】
【0094】
(C4)フェノール系硬化剤4:下記式(12-4)に示すピロガロール(東京化成工業株式会社製)
【化40】
【0095】
(C5)フェノール系硬化剤5:フェノールノボラック樹脂(TD-2106、水酸基当量104、DIC株式会社製)
【0096】
(C6)フェノール系硬化剤6:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(MEHC-7851SS、水酸基当量203g/eq、明和化成株式会社製)
【0097】
(C7)フェノール系硬化剤7:フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(MEH-7800-4S、水酸基当量169g/eq、明和化成株式会社製)
【0098】
<成分(D):硬化促進剤>
成分(D)として下記(D1)~(D4)を使用した。
として下記を使用した。
(D1)硬化促進剤1:下記式に示すトリフェニルホスフィン(TPP)(北興化学工業株式会社製)
【化41】
【0099】
(D2)硬化促進剤2:下記式に示すビス(テトラブチルホスホニウム)(BTBP)-ピロメリット酸(北興化学工業株式会社製)
【化42】
【0100】
(D3)硬化促進剤3:下記式に示すテトラフェニルホスホニウム テトラフェニルボレート(TPP-K(商標))(北興化学工業株式会社製)
【化43】
(D4)硬化促進剤4:テトラブチルホスホニウム2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノラート(TBP-3PC)
(北興化学工業株式会社製)
【0101】
<成分(E);無機充填剤>
成分(E)として、平均粒径D50が22μmの溶融球状シリカ(FB-820、デンカ株式会社製)を使用した。
【0102】
<その他の成分>
離型剤としてカルナバワックス(クラリアントジャパン株式会社製)、着色剤としてカーボンブラック(MA600、三菱化学株式会社製)を使用した。
【0103】
(実施例1)
硬化樹脂用組成物(以後、単に「組成物」と称する)および硬化物を以下のようにして調製し、硬化性評価としての示差走査熱量測定(DSC)による熱物性(反応ピーク温度)、および耐熱性評価としてのガラス転移温度を測定した。
成分(A1)、(B1)、および(C1)を、表1に示す配合割合で、表面温度が100℃に設定された熱板上で、大気圧下で5分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得た。該混合物を乳鉢で粉末状に粉砕して組成物を得た。
【0104】
<示差走査熱量測定(DSC)による熱物性>
示差走査熱量測計(日立ハイテクサイエンス社製:DSC7020)を用い、窒素気流下で、昇温速度を10℃/minで30℃から300℃の温度範囲条件にて、組成物10mgをアルミ製パンに投入し、測定した。グラフの最高点を反応ピーク温度とした。反応ピーク温度が高過ぎると、所定の硬化温度で反応が十分に進行せず、反応性に劣る恐れがある。結果を表1に示した。なお、図1に典型的なDSCの測定結果(一例)における反応ピーク温度を示す。
【0105】
<ガラス転移温度;Tg>
DSCで用いるアルミ製パンに組成物を約10mg秤量し、オーブンで200℃、4時間加熱し硬化物を得た。得られた硬化物のTgをDSCによって下記条件により測定した。結果を表1に示した。
装置:X-DSC-7000(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定条件:N流量;20mL/分、昇温速度;20℃/分
【0106】
(実施例2~44)
各成分の配合割合を表1に示した通りとした以外は実施例1と同様にして、各実施例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例1と同様にしてDSCによる熱物性(反応ピーク温度)および耐熱性(ガラス転移温度)を測定した。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例1~8)
各成分の配合割合を表2に示した通りとした以外は実施例1と同様にして、各比較例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例1と同様にしてDSCによる熱物性(反応ピーク温度)および耐熱性(ガラス転移温度)を測定した。結果を表2に示す。
【0108】
【表1】
【表2】
【0109】
各実施例の硬化樹脂用組成物はDSCによる反応ピーク温度が255℃以下であるため、低温硬化性に優れている。また、その硬化物のTgは210℃以上であり、高耐熱性であることが分かる。一方、比較例1、2および6~8の硬化樹脂用組成物を硬化させた硬化物はTgが低くなっており耐熱性に劣っている。また、比較例3~5の硬化樹脂用組成物の反応ピーク温度が255℃より大きいため、低温硬化性に劣っている。さらに、ベンゾオキサジン環数/水酸基数が7.6である実施例3の反応ピーク温度は、実施例3と成分が同一でベンゾオキサジン環数/水酸基数が15.5である比較例5の反応ピーク温度に比べて低い。ベンゾオキサジン環数/水酸基数が1.1である実施例5のガラス転移温度は、実施例5と成分が同一でベンゾオキサジン環数/水酸基数が0.8である比較例6のガラス転移温度に比べて高い。また、官能基数の比(エポキシ基数/(ベンゾオキサジン環数+水酸基数))が0.7である実施例40のガラス転移温度は、実施例40と成分が同一で該官能基数比が0.4である比較例7のガラス転移温度に比べて10℃以上高い。官能基数比(エポキシ基数/(ベンゾオキサジン環数+水酸基数))が1.8である実施例42のガラス転移温度は、実施例42と成分が同一で該官能基数比が2.0である比較例8のガラス転移温度に比べて高い。
以上の結果から、本発明の実施形態である硬化樹脂用組成物は、低温硬化性に優れながら、その硬化物は高耐熱性を達成していることが分かる。
【0110】
(実施例45)
硬化樹脂用組成物(以後、単に「組成物」と称する)および硬化物を以下のようにして調製し、硬化性評価としての示差走査熱量測定(DSC)による熱物性(反応ピーク温度)、および耐熱性評価としてのガラス転移温度を測定した。
成分(A1)、(B1)、(C1)、(D1)、(E)、カルナバワックス、およびカーボンブラックを、表3に示す配合割合で、表面温度が90℃と100℃の2本ロールを有する熱ロール混練機(BR-150HCV、アイメックス株式会社)を用いて大気圧下で10分間混練した後、室温まで冷却して混合物を得た。得られた混合物をミニスピードミルMS-09(ラボネクト株式会社製)により、金型への充填が良好に行えるように粉末状に粉砕して組成物を得た。
【0111】
<ガラス転移温度;Tg>
トランスファー成形機を用い、金型温度200℃、注入圧力4MPa、硬化時間3分の条件で、調製した組成物を硬化させ、さらに、後硬化処理としてオーブンで200℃、4時間加熱することで縦3mm×横3mm×長さ15mmの硬化物を作成した。該硬化物を縦3mm×横3mm×長さ2mmの大きさに切断した試験片を用いて、DSCによって下記条件によりTgを測定した。結果を表3に示した。
装置:X-DSC-7000(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
測定条件:N流量;20mL/分、昇温速度;20℃/分
【0112】
<示差走査熱量測定(DSC)による熱物性>
実施例45の組成物について実施例1と同様にしてDSCによる熱物性(反応ピーク温度)を測定した。結果を表3に示した。
【0113】
(実施例46~49)
各成分の配合割合を表3に示した通りとした以外は実施例45と同様にして、各実施例の組成物を調製した。各々の組成物について実施例45と同様にしてDSCによる熱物性(反応ピーク温度)および耐熱性(ガラス転移温度)を測定した。結果を表3に示す。
【0114】
(比較例9)
各成分の配合割合を表3に示した通りとした以外は実施例45と同様にして、比較例9の組成物を調製した。比較例9の組成物について実施例45と同様にしてDSCによる熱物性(反応ピーク温度)および耐熱性(ガラス転移温度)を測定した。結果を表3に示す。
【表3】
【0115】
各実施例の硬化樹脂用組成物の硬化物のTgは215℃以上であり、高耐熱性であることが分かる。一方、比較例9の硬化樹脂用組成物を硬化させた硬化物はTgが低くなっており耐熱性に劣っている。さらに、実施例48のガラス転移温度は、実施例48とベンゾオキサジン以外の成分が同一である比較例9のガラス転移温度に比べて10℃以上高い。
図1