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特許7410117色素増感型太陽電池ユニット、色素増感型太陽電池ユニットを含む光起電力充電器および前記太陽電池ユニットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】色素増感型太陽電池ユニット、色素増感型太陽電池ユニットを含む光起電力充電器および前記太陽電池ユニットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20231226BHJP
   H10K 30/50 20230101ALN20231226BHJP
【FI】
H01G9/20 111D
H01G9/20 113A
H01G9/20 115A
H01G9/20 119
H01G9/20 121
H01G9/20 313
H01G9/20 315
H10K30/50
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021502419
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2019061728
(87)【国際公開番号】W WO2020015882
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-03-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】18183590.1
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】1950025-5
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517294325
【氏名又は名称】エクセジャー オペレーションズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】リンドストロム,ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】フィリ,ジョヴァンニ
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】須原 宏光
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155447(WO,A1)
【文献】特開2014-203539(JP,A)
【文献】特開2016-207697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
‐多孔質光吸収層(10)を備えた作用電極と、
‐前記多孔質光吸収層(10)から光生成電子を取り出すための第1導電性材料を含む多孔質第1導電層(12)であって、前記多孔質光吸収層(10)が前記多孔質第1導電層(12)の上に配置された前記多孔質第1導電層(12)と、
‐絶縁材料からなる多孔質絶縁層(105)であって、前記多孔質絶縁層(105)の一方の面に前記多孔質第1導電層(12)が形成された前記多孔質絶縁層(105)と、
‐前記多孔質絶縁層(105)の反対面に形成された多孔質触媒導電層(106;106’)を備えた対向電極と、
‐前記対向電極から前記作用電極に電子を移動させるためのイオン性電解質であって、前記多孔質第1導電層(12)、前記多孔質触媒導電層(106;106’)、および前記多孔質絶縁層(105)の孔内に配置された前記イオン性電解質とを備え、前記多孔質第1導電層(12)は、前記多孔質第1導電層(12)の表面に形成された絶縁性酸化層(109)を備え、前記多孔質触媒導電層(106;106’)は、多孔質マトリックスを形成する第2導電性材料(107’)と、前記第2導電性材料(107’)から前記電解質への電子の移動を改善するために前記第2導電性材料(107’)の前記多孔質マトリックス中に分散した触媒粒子(107”)とを含み、
前記多孔質触媒導電層(106;106’)は、前記絶縁材料からなる多孔質基板(114)の第1の部分(114a)を含み、前記多孔質絶縁層(105)は、前記多孔質基板(114)の第2の部分(114b)を含み、
前記第2導電性材料(107’)は、前記多孔質基板(114)の前記第1の部分(114a)の絶縁材料を通して焼結によって互いに接着された非触媒性の導電性粒子のネットワークを含む前記多孔質マトリックスを形成し、
前記導電性粒子および前記触媒粒子(107”)は、前記多孔質基板(114)の孔のサイズよりも小さく、前記多孔質基板(114)の前記第1の部分(114a)の孔内に配置され、前記第2導電性材料(107’)の前記多孔質マトリックスが前記触媒粒子(107”)を収容して所定の位置に保持し、
前記対向電極が前記多孔質触媒導電層(106;106’)と電気的に接触する第3導
電性材料を含む第2導電層(16)を備え、前記第2導電層(16)が非触媒性であり、前記多孔質触媒導電層(106;106’)が前記多孔質絶縁層(105)と前記第2導電層(16)との間に配置されている、色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項2】
記導電性粒子は、前記導電性粒子の間に配置された前記触媒粒子(107”)間の接着剤として作用することにより、前記触媒粒子(107”)を所定の位置に保持する、請求項1に記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項3】
前記触媒粒子(107”)が前記多孔質触媒導電層(106;106’)の前記第2導電性材料(107’)中に均一に分散している、請求項1または2に記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項4】
前記多孔質触媒導電層(106;106’)が1~50重量%の前記触媒粒子(107”)を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項5】
前記多孔質第1導電層(12)の前記第1導電性材料がチタンであり、前記絶縁性酸化物層(109)が前記チタンの表面に形成された酸化チタンである、請求項1~4のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項6】
前記触媒粒子(107”)が白金化炭素粒子である、請求項1~5のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項7】
前記多孔質触媒導電層(106;106’)の前記第2導電性材料(107’)がチタンである、請求項1~6のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項8】
前記多孔質触媒導電層(106;106’)の前記第2導電性材料(107’)がチタンであり、前記触媒粒子(107”)が白金化炭素粒子であり、前記多孔質触媒導電層(106;106’)が50~90重量%のチタン、少なくとも5重量%の炭素、および少なくとも0.001重量%の白金を含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項9】
前記触媒粒子(107”)の少なくとも80%が50nm未満の直径を有する、請求項1~8のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項10】
前記絶縁酸化物層(109)の厚さが10nm~200nmである、請求項1~9のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項11】
前記絶縁酸化物層(109)の厚さが20nm~50nmである、請求項1~9のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項12】
前記多孔質光吸収層(10)が受光する光強度が200ルクスであるときに少なくとも5μW/cm2を生成し、前記多孔質光吸収層(10)が受光する光強度が20000ル
クスであるときに少なくとも600μW/cm2を生成する、請求項1~11のいずれか
1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項13】
前記多孔質光吸収層(10)が受光する光強度が200~50000ルクスの間で変化するときに40%未満で変化する電圧を生成する、請求項1~12のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項14】
前記多孔質光吸収層(10)が受光する光強度が200ルクスであるときに少なくとも15μA/cm2の電流を生成し、前記色素増感太陽電池ユニット(1;1’)によって
生成され
る電流が、前記多孔質光吸収層(10)が受光する光強度が200から20000ルクスに増加するときに直線的に増加する、請求項1~13のいずれか1つに記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)。
【請求項15】
電子機器の充電用に特別に適応された光起電力充電器(200)であって、
‐請求項1に記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)と、
‐前記色素増感太陽電池ユニット(1;1’)を封止する封止体(5)と、
‐前記多孔質第1導電層(12)に電気的に接続された第1導電体(18)と、
‐第2導電層(16)に電気的に接続された少なくとも1つの第2導電体(20)と:
を備え、光起電力充電器(200)が単一の前記色素増感太陽電池ユニット(1;1’)のみと、第1および第2導電体(18,20)に電気的に接続された昇圧コンバータ(22)とを含み、前記昇圧コンバータは、前記色素増感太陽電池ユニット(1;1’)からの電流を小さくする一方で、前記色素増感太陽電池ユニット(1;1’)からの電圧を昇圧するように適応された光起電力充電器(200)。
【請求項16】
‐前記第1導電性材料を含む第1インクを調製する工程と、
‐前記第2導電性材料(107’)および前記触媒粒子(107”)の混合物を含む第2インクを調製する工程と、
‐前記多孔質基(114)を設ける工程と、
‐前記多孔質基(114)の第1面上に前記第1インクの第1層を堆積させる工程と、‐前記多孔質基(114)の第2面上に前記第2インクの第2層を堆積させる工程と、‐前記第2インクの第2層上に前記第1インクの第3層を堆積させる工程と、
‐堆積層を有する前記多孔質基(114)を焼結して、前記第1層を前記多孔質第1導電層(12)に変化させ、前記第2層を前記多孔質マトリックスが形成された前記第1の部分(114a)を含む前記多孔質触媒導電層(106;106’)に変化させ、前記第3層を前記第2導電層(16)に変化させる工程と、
‐前記多孔質基(114)を、焼結した多孔質第1導電層(12)とともに空気中で加熱して前記多孔質第1導電層(12)の表面に酸化チタンを形成する工程と:
を有する請求項1に記載の色素増感太陽電池ユニット(1;1’)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、色素増感太陽電池ユニットに関する。本発明はさらに、色素増感太陽電池ユニットを含む電子機器の充電用に特別に適応された光起電力充電器に関する。
【0002】
背景
太陽電池は、光のエネルギーを電気に変換するために長い間使用されてきた。太陽電池パネルは、太陽光をエネルギー源として吸収して発電するために使用されている。太陽電池パネルは、直列に接続された複数の太陽電池を含んでいる。多数の太陽電池パネルがしばしば電力供給網への電気を生産するための大規模なソーラーパークに一緒に配置されている。
【0003】
太陽電池はますます効率が良くなり、生産コストも安くなってきている。そのため、当然のことながら、企業は、少なくとも一部を太陽電池で駆動するあらゆる種類の消費者向け製品を製造している。今日、多くの携帯用電子機器には、エネルギーを蓄える内蔵充電式電池と、電池に電力を供給して充電するために設けられた光起電力充電器が備え付けられている。光起電力充電器または太陽電池充電器は、機器に電力を供給し、電池を充電するために太陽エネルギーを利用する。このような携帯機器の例としては、タブレット、携帯電話、ヘッドフォンおよび電卓などがある。太陽電池を使用する場合は、外部からの充電が必要になる前に、機器の電池を補充して使用時間を長くできる。光起電力充電器の効率と機器の消費電力によっては、外部電源で機器を充電する必要性がなくなるため、太陽エネルギーのみで機器の電力が供給される。例えば、小型の電卓は、光起電力充電器のみで駆動されることが多い。
【0004】
現在市場に出回っている光起電力充電器は、効率が7~15%の薄膜パネルから、効率が18%までのやや高効率の単結晶パネルまで、さまざまな種類のソーラーパネルを使用している。効率は通常、ソーラーパネルのテスト条件の業界標準である標準試験条件(Standard Testing Conditions、STC)を用いてテストされる。STCにおいて、照射量が1000W/m2、温度が25℃およびエアマスが1.5である。一例として、出力200W/m2のソーラーパネルの効率は20%である。これらの条件は、雲のない夏の日の屋外での太陽光パネルの効率がどのようになるかをシミュレーションしたものである。室内光の波長スペクトルと屋外光の波長スペクトルは異なる。例えば、ガラス窓は紫外線をフィルタリングし、室内灯は主に可視域の光を生成するため、可視域外の波長は室内光では欠けることが多い。このように、屋外の条件で測定した太陽光パネルの効率を屋内の条件に適用することはできない。典型的な人間の目は約390~700nmの波長に反応し、室内光はほとんどが可視スペクトル内にある。
【0005】
Georgia Apostolou氏らの記事「簡易モデルによる商用光起電力製品12製品の室内性能の比較」では、室内照明と屋外照明の違いが説明されている。この記事の著者は、二重ガラスの断熱窓の場合、窓から1mおよび5mの位置での放射電力の減少率は、それぞれ70%および97%前後になると述べている。この記事では、ソーラーパネルは今日、屋内照明でその効率の多くを失うことを示している。したがって、それらのソーラーパネルの欠点は、低光強度で効率が低いことである。
【0006】
電子機器に電力を供給するための既存のソーラーパネルの他の欠点は、それらのいくつかは有毒であり、機械的特性が悪く、高価であることである。
【0007】
OnBeat Ltd.によるGB2510451(A)は、太陽電池を動力源とする一対のヘッドフォンを示している。ヘッドバンドの外面とイヤーピースには、柔軟性のあるソーラーパネルが設けられている。このヘッドフォンは、蓄積された太陽エネルギーで外部機器に電力を供給することも可能である。OnBeatのヘッドバンドが太陽電池のパネルで覆われていることは、見る者には視覚的に明らかであるが、太陽電池の種類は特定されていない。
【0008】
消費者向け製品の電力供給に使用されるソーラーパネルへの需要は、大規模なソーラーパークでの発電に使用される固定式のソーラーパネルとは全く異なる。例えば、消費者向け製品のソーラーパネルは、より頑丈で柔軟性があり、衝撃に耐えられるものである必要がある。さらに、屋内外を問わず、さまざまな光の条件で発電できなければならない。また、ソーラーパネルの部分的な遮光により、ソーラーパネルの異なる部分の光条件が異なることにより、ソーラーパネルの効率が低下することもある。また、ソーラーパネルは、ユーザーの目に見えるため、美観的な魅力を有することも望まれる。
【0009】
携帯用電子機器に電力を供給するために直列に接続された複数の太陽電池を含むソーラーパネルを有する光起電力充電器の多くの例があることに留意すべきである。しかし、携帯用電子機器に電力を供給する既知のソーラーパネルには、いくつかの問題がある:それらは、光の強度と入射光の角度に非常に敏感である。直列に接続された太陽電池を有するソーラーパネルは、1つの太陽電池が電流を生成していない場合は、一連の太陽電池において電気の生成が止まるため、部分的な陰影に敏感である。それらは非常に敏感で、容易に壊れる。例えば、結晶シリコン太陽電池は脆く、携帯用電子機器で使用すると割れてしまう可能性がある。さらに、ユーザーは、電流コレクタが上面に見えるグリッドを有するソーラーパネルによって製品の大部分が覆われている場合、その美観に同意しないかもしれない。このように、携帯型電子機器で使用するには、光起電力充電器を改善する必要性がある。
【0010】
WO2013/149787は、互いに隣接して配置され、直列に接続された複数の色素増感太陽電池ユニットを備えた直列構造を有する色素増感太陽電池モジュールを開示している。各電池ユニットは、作用電極と、前記作用電極から光生成電子を取り出すための第1導電層と、第2導電層を含む対向電極と、前記対向電極から前記作用電極に電子を移動させるための電解液と、隣接する電池ユニットの作用電極に前記対向電極を電気的に接続するための直列接続素子とを含む。前記太陽電池モジュールは、多孔質絶縁基板を備え、前記第1導電層は、前記多孔質絶縁基板の一方の面に形成された多孔質導電層であり、前記第2導電層は、前記多孔質絶縁基板の反対面に形成された多孔質導電層であり、前記直列接続素子は、前記多孔質絶縁基板を貫通して前記電池ユニットの一つの前記第1導電層と、隣接する電池ユニットの前記第2導電層との間に延びる導電層であり、それにより、前記電池ユニットの一つの第1導電層と、前記隣接する電池ユニットの第2導電層とが電気的に接続されている。
【0011】
WO2014/184379は、多孔質絶縁基板の絶縁材料を介して導電性ネットワークを形成する導電性粒子を有する色素増感太陽電池を開示している。粒子は、絶縁性基板の絶縁材料を介して1つ以上の導電性の経路を形成する。また、導電性粒子は触媒であり得る。絶縁性基板の導電性ネットワークにより、対向電極と光吸収層との間の距離は、多孔質基板の厚さにもはや依存しない。このように、絶縁部の厚さを薄くすることができ、それにより、対向電極と光吸収層との距離を小さくできる。したがって、導電媒体の抵抗損失が低減される。また、対向電極と光吸収層との距離が多孔質基板全体の厚さにもはや依存せず、絶縁部の厚さのみに依存することにより、機械的に安全に取り扱うことができる十分な厚さの基板を使用することも可能である。
【0012】
要約
本発明の目的は、上記の問題点を少なくとも部分的に克服することであり、消費者用途の電子機器を充電するのに適した改良された色素増感太陽電池および光起電力充電器、特に電子機器の充電式電池を充電するのに適した改良された色素増感太陽電池および光起電力充電器を提供することである。
【0013】
この目的は、請求項1で定義された色素増感太陽電池によって実現される。
【0014】
色素増感太陽電池ユニットは、
‐多孔質光吸収層を備えた作用電極と、
‐前記光吸収層から光生成電子を取り出すための導電性材料を含む多孔質第1導電層であって、前記光吸収層が前記第1導電層の上に配置された多孔質第1導電層と、
‐絶縁材料からなる多孔質絶縁層であって、前記多孔質絶縁層の一方の面に前記第1導電層が形成された前記多孔質絶縁層と、
‐前記多孔質絶縁層の反対面に形成された多孔質触媒導電層を備えた対向電極と、
‐前記対向電極から前記作用電極に電子を移動させるためのイオン性電解質であって、前記多孔質第1導電層、前記多孔質触媒導電層、および前記多孔質絶縁層の孔内に配置された前記イオン性電解質とを備え:
前記第1導電層は、前記導電性材料の表面に形成された絶縁性酸化物層を備え、前記多孔質触媒導電層は、導電性材料と、前記導電性材料から前記電解質への電子の移動を改善するために前記導電性材料中に分散した触媒粒子とを含む。
【0015】
イオン性電解質は、電子のキャリアとしてのイオンを含む電解質を意味する。イオン性電解質を使用する利点は、太陽電池の性能を長期的に安定させることができることである。もう一つの利点は、太陽電池ユニットの効率が安定しているか、または温度の上昇に伴って増加することである。したがって、太陽電池ユニットは、広い温度範囲で良好に動作する。
【0016】
電解質は、光吸収層、第1導電層、触媒導電層、および多孔質絶縁層の孔内に配置されている。電解質は、対向電極から作用電極の光吸収層に電子を輸送するイオンを含む。絶縁性酸化物層は、第1導電層の導電性材料に電気的に絶縁性の層を提供し、この酸化物層は、導電性材料と第1導電層の孔内に配置された電解質との間の電子の移動を少なくとも部分的に防止する。したがって、より多くの電子が光吸収層に到達し、それによって太陽電池ユニットの効率が向上する。
【0017】
触媒粒子は、触媒導電層の導電性材料とは異なる材料からなる。触媒粒子は、触媒として機能し、導電性材料から触媒導電層の孔内の電解質への電子の移動を促進する。触媒導電層の導電性材料は、実質的に非触媒性であり、すなわち、せいぜい取るに足らない触媒反応のみが導電性材料中で発生してもよい。電子は、触媒導電層中の電解質中のイオンによって得られる。触媒粒子を導電性材料中に分散させることで、導電性材料からの電子の移動が改善され、したがって、太陽電池ユニットの効率が向上する。また、触媒粒子をできるだけ作用電極に近い位置に配置することで、電解質中のイオンが作用電極に到達するまでの距離を短くできる。したがって、作用電極および対向電極の間の有効距離が短くなり、それに応じて電解質の抵抗損失が減少し、太陽電池ユニットの高効率化につながる。距離が短くなることによって得られるさらなる利点は、イオン性液体電解質のような導電性の低い導電媒体の使用を可能にすることである。
【0018】
第1導電層の孔内に、導電性材料から電解質への電子が漏れることを防止する絶縁性酸化物層と、導電性材料中に分散した触媒粒子を含む触媒導電層を備えた対向電極とを組み合わせることで、対向電極中の電解質への電子の移動を改善させることができ、効率の良い太陽電池ユニットを実現できる。
【0019】
さらに、太陽電池ユニットの製造中に、太陽電池ユニットを空気中で熱処理すると、触媒導電層の導電性材料だけでなく、第1導電層の導電性材料にも酸化物層が形成されることになる。触媒導電層の導電性材料に酸化物層が形成されることにより、電子が導電性材料から触媒導電層の孔内に配置された電解質に移動するのを防ぐことができると推察される。驚くべきことに、導電性材料中に分散している白金化炭素粒子などの触媒粒子は、導電性材料上の酸化物層にもかかわらず、導電性材料から電解質への電子の移動を可能にしていることが判明している。
【0020】
触媒導電層は、触媒性だけでなく導電性も有する。電解液は、触媒導電層全体の孔内に配置してもよいし、触媒導電層の上部のみに配置してもよい。
【0021】
一態様において、対向電極は、触媒導電層と電気的に接触する導電性材料を含む第2導電層を備え、第2導電層は実質的に非触媒性であり、多孔質触媒導電層は、多孔質絶縁層および第2導電層の間に配置されている。
【0022】
この態様において、色素増感太陽電池ユニットは、
‐多孔質光吸収層を備えた作用電極と、
‐前記光吸収層から光生成電子を取り出すための導電性材料を含む第1導電層であって、前記光吸収層が前記第1導電層の上に配置された第1導電層と、
‐絶縁材料からなる多孔質絶縁層であって、前記多孔質絶縁層の一方の面に前記第1導電層が形成された多孔質絶縁層と、
‐i.導電性材料を含む第2導電層、および
ii.前記多孔質絶縁層および前記第2導電層の間に配置され、前記第2導電層と電気的に接触する多孔質触媒導電層を備えた対向電極と、
‐前記対向電極から前記作用電極に電子を移動させるために、前記第1導電層、前記触媒導電層、および前記多孔質絶縁層の孔内に配置されたイオン性電解質とを備え:前記第1導電層は、前記導電性材料の表面に形成された絶縁性酸化物層を備え、前記第2導電層は、実質的に非触媒性(essentially non-catalytic)であり、前記触媒性導電層は、導電性材料と、前記導電性材料から電解質への電子の移動を改善するために前記導電性材料中に分散した触媒粒子とを含む。
【0023】
第2導電層は、導電性材料からなる。第2導電層は、多孔質であっても非多孔質であってもよい。好ましくは、第2導電層は触媒粒子を含まない。第2導電層はそれ自体が実質的に非触媒性であり、すなわち、せいぜい取るに足らない触媒反応のみが第2導電層中で発生してもよい。第2導電層は微量の触媒物質を含んでいてもよい。しかし、触媒反応は、触媒導電層に集中する。作用電極までの距離が短いため、触媒導電層の電解質に電子が移動することが好ましい。
【0024】
第2導電層が実質的に非触媒性であるという事実のために、第2導電層の導電性は、触媒性導電層の導電性よりも高くなりうる。したがって、触媒粒子を含む触媒導電層と、実質的に非触媒性である第2導電層とを組み合わせることにより、対向電極から電解質への電子の移動が効率的に行われるとともに、対向電極の高い導電性が得られる。さらに、第2導電層が実質的に非触媒性であることにより、第2導電層中の電解質への電子の移動がより困難になる。
【0025】
太陽電池ユニットを使用中であるとき、第2導電層が外部回路から電子を受け取り、その電子を触媒導電層に分配する。触媒粒子は触媒として働き、第2導電層から受け取った電子を触媒導電層の孔内の電解質に移動させるのを容易にする。触媒粒子をできるだけ作用電極の近くに配置することで、電解液中のイオンが作用電極に到達するまでの距離を短くできる。したがって、太陽電池ユニットの電力損失が減少し、その結果、太陽電池ユニットの効率がさらに増加する。第2導電層は触媒導電層への電子の効率的な分散を確保する。
【0026】
特に、導電性材料から第1導電層の孔内の電解質に電子が漏れることを防止する絶縁性酸化物層と、触媒性導電層を備えた対向電極と、対向電極の効率を改善する非触媒性の第2導電層との組み合わせにより、広範囲の異なる光条件で発電できる効率の良い太陽電池ユニットを得ることができる。この太陽電池ユニットは、優れた照明条件下だけでなく、劣悪な照明条件下、例えば、屋内の人工的な光の中、屋外の影の中、強い日差しにさらされているときにも動作する。
【0027】
一態様において、第2導電層の導電性材料は、チタンまたはその合金である。一態様において、第1および第2導電層は、チタンまたはその合金を有する。チタンを使用することは、耐食性が高く、高温に耐えることができるため有利であり、これは太陽電池ユニットの製造中に有利である。
【0028】
触媒粒子は、触媒材料、例えば、グラフェンまたはグラファイトまたはカーボンブラックまたはカーボンナノチューブなどの炭素系材料、白金またはそれらの組み合わせからなる。触媒粒子は、触媒性だけでなく導電性があってもよい。一態様において、触媒粒子の導電性は、第2導電層の導電性よりも低い。
【0029】
例えば、電解質はイオン性液体電解質である。
【0030】
一態様において、触媒粒子は、触媒導電層中に実質的に均一に分散(distributed)している。「実質的に均一に分散している」という用語は、触媒粒子が触媒導電層の全領域にわたって分散していることを意味する。したがって、触媒粒子は、触媒導電層の一部または数個の部分のみに集中しているわけではない。触媒粒子の濃度は、触媒導電層の領域にわたって変動することがあるが、触媒粒子が存在しない大きな領域はない。また、多孔質の触媒導電層の孔内は電解液で満たされている。触媒粒子を触媒導電層中に実質的に均一に分散させることにより、触媒導電層の導電性材料から電解質への電子の移動が触媒導電層の全域にわたって実現され、したがって、触媒粒子から電解質への電子の移動が改善される。
【0031】
一態様において、多孔質触媒導電層の導電性材料が多孔質マトリックスを形成し、触媒粒子が前記多孔質マトリックス内に分散している。多孔質マトリックスとは、多孔質層を通して(through)導電路を形成する相互接続された導電性粒子のネットワークを含む多孔質層を意味する。好ましくは、触媒粒子は、多孔質マトリックス中に均一に分散している。触媒粒子は、多孔質マトリックスに埋め込まれている。例えば、多孔質マトリックスは、焼結した導電性粒子の層であり、触媒粒子は、導電性粒子の間に配置されている。多孔質マトリックスは、触媒粒子を収容し、触媒粒子を所定の位置に保持する。多孔質マトリックスは、触媒粒子間の接着剤として作用し、触媒粒子を所定の位置に保持するものであってもよい。
【0032】
一態様において、第1導電層の導電性材料は多孔質チタンであり、絶縁性酸化物層は多孔質チタンの表面に形成された酸化チタンである。第1導電層は、多孔質チタンの表面に形成され、多孔質チタンの表面を覆う酸化チタン層を備える。酸化チタン層は、第1導電層中の多孔質チタンから第1導電層の孔内の電解質に電子が漏れることを防止し、したがって太陽電池ユニットの効率を増加させる。一態様において、多孔質チタンは、焼結チタン粒子を含み、焼結チタン粒子の表面は、酸化チタン層によって覆われている。
【0033】
一態様において、触媒導電層は、1~50重量%の触媒粒子を含む。導電性材料から電解質への電子の効率的な移動を実現するために必要な触媒粒子の重量%は、触媒粒子のサイズおよび形状、および触媒粒子中の材料の種類、および導電性材料の種類に依存する。
【0034】
別の態様において、触媒導電層は、触媒粒子を1~30重量%の範囲で含む。この範囲は、例えば、導電性粒子がチタンからなり、触媒粒子が白金化炭素からなる場合に好適である。ただし、前述したように、触媒粒子の重量%は粒子のサイズに依存する。
【0035】
一態様において、触媒導電層は、少なくとも1重量%の触媒粒子を含む。一態様において、触媒導電層は、少なくとも5重量%の触媒粒子を含む。一態様において、触媒導電層は、少なくとも10重量%の触媒粒子を含む。
【0036】
一態様において、触媒導電層は、50重量%より多い導電性材料、および50重量%未満の触媒粒子を含む。
【0037】
ここで、「NN重量%」という用語は、粒子が導電性および触媒粒子の合計重量のNN重量%を表す。触媒/導電性粒子の実際の重量%は、触媒および導電性粒子の間のサイズの違い、および触媒および導電性粒子中の材料の種類に依存する。
【0038】
触媒導電層の導電性材料としては、例えば、金属、金属合金、金属酸化物、または他の導電性材料、例えば、チタン、チタン合金、ニッケル、またはニッケル合金、インジウムまたはインジウム酸化物があげられる。
【0039】
一態様において、触媒導電層の導電性材料はチタンである。例えば、触媒導電層の導電性材料は、焼結チタン粒子を含む。
【0040】
一態様において、触媒粒子は、炭素を含む。炭素は、触媒材料である。炭素は、安価であり、環境に優しい。
【0041】
一態様において、触媒粒子は、白金化炭素粒子を含む。白金は、炭素よりも優れた触媒であるが、高価である。白金と炭素の組み合わせを使用することにより、低コストで良好な触媒が得られる。
【0042】
一態様において、触媒導電層の導電性材料はチタンであり、触媒粒子は白金化炭素粒子である。“白金化炭素粒子”という用語は、白金の層で覆われた炭素のコアを有する粒子を意味する。白金は良い触媒である。しかし、白金の問題点は、チタンへの接着が難しい点である。白金は炭素に容易に接着できる。しかし、炭素の問題点は、機械的強度が悪いという点である。これらの問題は、チタンのマトリックス中に白金化炭素粒子を分散させることによって解決される。チタンは良好な機械的強度を有し、白金化炭素粒子を触媒導電層中の所定の位置に保持する。このように、炭素、白金およびチタンを併用することで、機械的強度が高く、電解質への電子移動能力の高い触媒導電層が得られる。
【0043】
一態様において、触媒導電層は、50~90重量%のチタンを含む。一態様において、触媒導電層は、少なくとも5重量%の炭素を含み、好ましくは少なくとも10重量%の炭素を含む。一態様において、触媒導電層は、少なくとも0.001重量%の白金を含む。
【0044】
一態様において、触媒導電層は、導電性粒子および触媒粒子の混合物を含む。導電性粒子は、第2導電層と電気的に接触している。触媒粒子は、導電性粒子から電解質への電子の移動を改善するために、導電性粒子と混合されている。導電性粒子は、導電性材料からなる。好ましくは、導電性粒子は非触媒性であり、触媒材料を除く。導電性粒子および触媒粒子の混合物は、触媒導電層から電解質への電子の効率的な移動をもたらす。触媒粒子は、導電性粒子の間に分散している。導電性粒子は、触媒粒子を収容して所定の位置に保持するマトリックスを形成してもよい。
【0045】
一態様において、触媒粒子は、導電性粒子の間に実質的に均一に分散している。触媒粒子を触媒導電層中に実質的に均一に分散させることにより、導電性粒子から電解質への電子の移動が改善される。
【0046】
一態様において、導電性粒子は、例えば、焼結によって互いに接着される。導電性粒子は、触媒粒子を収容するマトリックスを形成してもよい。触媒粒子は、導電性粒子のマトリックス中に埋め込まれている。例えば、触媒導電層は、焼結導電性粒子と、導電性粒子の間に配置された触媒粒子とを含む。導電性粒子は、触媒粒子間の接着剤として機能し、触媒粒子を導電性粒子間の所定の位置に保持する。
【0047】
一態様において、導電性粒子のサイズは、触媒粒子のサイズよりも大きい。触媒材料が導電性材料よりも高価であるとき、コストを節約するためには、触媒粒子のサイズが導電性粒子のサイズよりも小さいことが有利である。
【0048】
一態様において、触媒粒子の少なくとも80%は、50nm未満の直径を有する。このような小さな粒子は、大きな表面/体積比を有し、触媒材料の体積が小さい効率的な触媒化を提供する。触媒材料が白金である場合、触媒材料のコストを低減する。
【0049】
一態様において、導電性粒子の少なくとも80%は、100nmよりも大きい直径を有する。好ましくは、導電性粒子のサイズは0.1~15μmである。
【0050】
一態様において、触媒導電層は、チタン粒子および白金化炭素粒子の混合物を含む。好ましくは、チタン粒子は、例えば焼結によって、互いに接着している。
【0051】
一態様において、多孔質触媒導電層の導電性材料は、第2導電層に用いられているのと同じ材料である。
【0052】
一態様において、触媒導電層の厚さは、100μm未満、好ましくは20μm未満である。一態様において、触媒導電層の厚さは、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも5μm、最も好ましくは少なくとも10μmである。
【0053】
一態様において、第2導電層の厚さは、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも10μm、好ましくは少なくとも20μmである。
【0054】
また、第1導電層の厚さは、光吸収層と触媒導電層と対向電極との間の距離を短くするために、薄く保たれるのが有利である。第1導電層の厚さは、0.1~40μm、好ましくは0.3~20μmであり得る。
【0055】
一態様において、多孔質絶縁層は、絶縁材料からなる多孔質基板を備える。
【0056】
一態様において、多孔質触媒導電層は、絶縁材料からなる多孔質基板を備え、触媒導電層の導電性粒子は、多孔質基板の絶縁材料を通して導電性ネットワークを形成する。導電性粒子および触媒粒子は、多孔質基板の孔内に配置されている。導電性ネットワークは、多孔質基板中に延びる対向電極を拡張する。
【0057】
「導電性粒子が絶縁材料を介して導電性ネットワークを形成する」という用語は、粒子が多孔質基板の絶縁材料を通して1以上の電気的に導電性の経路を形成することを意味する。
【0058】
一態様において、色素増感太陽電池ユニットは、絶縁材料からなる多孔質基板を備え、多孔質絶縁層は、前記多孔質基板の第1の部分であり、触媒導電層の導電性粒子は、前記多孔質基板の第2の部分を通して導電性ネットワークを形成する。多孔質基板の導電性ネットワークにより、対向電極および光吸収層間の距離は、多孔質基板の厚さにもはや依存しなくなる。したがって、絶縁層の厚さを薄くすることができ、それによって対向電極および光吸収層間の距離を小さくできる。
【0059】
多孔質絶縁層は、第1導電層と触媒導電層との間の短絡を防止する。触媒導電層の導電性粒子は、基板の絶縁材料を通して導電性ネットワークを形成する。この導電性ネットワークは、対向電極の第2導電層と電気的に接触しているため、対向電極の導電性のある表面領域を大幅に増加させることができる。
【0060】
一態様において、電解質は、ヨウ化物/三ヨウ化物電解質、銅錯体系電解質、もしくはコバルト錯体系電解質、またはそれらの組み合わせのいずれかである。
【0061】
一態様において、導電媒体は、ヨウ化物(I-)と三ヨウ化物(I -)を含み、導電媒体中の三ヨウ化物の含有量は、1mM~20mMである。この実施形態によれば、低い光強度において高い発電力を実現することが可能となる。
【0062】
一態様において、多孔質基板は、太陽電池ユニットの全体を通って延びるマイクロファイバー織物を含むシートである。例えば、マイクロファイバー織物は、ガラス繊維からなる。太陽電池ユニット全体を通って延びるマイクロファイバー織物を含むシートは、柔軟性があってねじることができ、耐衝撃性に優れた光起電力充電器を提供することに寄与する。
【0063】
一態様において、多孔質光吸収層は、染色されたTiOを含む。染色されたTiOを含む多孔質光吸収層はもろくなく、入射光の角度に依存しない。
【0064】
一態様において、光吸収層は、有機色素を吸着した多孔質TiO2ナノ粒子層である。有機色素の例としては:N719、N907、B11、C101である。また、他の有機色素を使用することもできる。
【0065】
一態様において、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200ルクス(LUX)であるときに少なくとも5μW/cmを生成し、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに少なくとも600μW/cmを生成する。太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200ルクスであるとき、活性太陽電池領域上の測定で5μW/cmより多くを生成する。本発明による太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200ルクスであるときに5μW/cmより多くの光強度を生成できることが試験によって証明されている。ルクスは、人間の目によって知覚される光の強度を測定するため、光強度を測定するのに適した単位である。ルクスは、一般的に室内光の強度を測定するために使用されており、そのほとんどが人間の目に見える電磁スペクトルの一部の範囲内にある。したがって、太陽電池ユニットの効率をルクスで測定された光強度に関連付けるのが適切である。
【0066】
一態様において、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200ルクスであるとき、5.5μW/cmより多くを生成する。本発明による太陽電池ユニットは、光吸収層が受光した光強度が200ルクスであるときに5.5μW/cmより多くを生成できることが試験によって証明されている。
【0067】
一態様において、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が5000ルクスであるときに、少なくとも150μW/cmを生成する。
【0068】
一態様において、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに少なくとも600μW/cm、好ましくは少なくとも700μW/cmを生成する。より詳細には、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が2000~20000ルクスであるときに、少なくとも5~600μW/cmを生成できる。太陽電池ユニットによって生成される電力は、光吸収層が受光する光強度が200ルクスから20000ルクスまで増加するときに実質的に直線的に増加する。したがって、太陽電池ユニットは、広範囲の異なる照明条件で電力を生成できる。太陽電池ユニットは、優れた照明条件下だけでなく、劣悪な照明条件下、例えば、屋内の人工的な光の中、屋外の影の中、強い日差しにさらされているときにも動作する。
【0069】
実質的に直線的であるということは、少なくとも200ルクスと20,000ルクスの間の主要部分では、生成された電力が光強度の増加とともに直線的に増加することを意味する。例えば、生成された電力は、200~1000ルクスの強度で直線的な増加とはわずかに異なる場合がある。
【0070】
一態様において、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200~50,000ルクスの間で変化するときに40%未満で変化する電圧を生成する。例えば、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200~50000ルクスの間で変化するときに0.4V未満、好ましくは0.3V未満で変化する電圧を生成する。太陽電池ユニットによって生成される電圧は、200~50,000ルクスの間で非常に均一である。これは、生成される電圧が光強度にかなり依存しないことを意味する。光吸収層が受光する光強度が200~50000ルクスの間で変化するときに太陽電池ユニットから出力される電圧が少ししか変化しないという事実のために、昇圧コンバータを用いて、変換中に広範な損失を生じることなく、広範囲の異なる光強度に対して電圧を昇圧することが可能である。
【0071】
生成される電圧のレベルは、電解質中のイオンに依存する。例えば、電解質が銅イオンを含むなら、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに開回路で約1Vの電圧を生成することができ、電解質がヨウ化物イオンおよび三ヨウ化物イオンを含む場合、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに開回路で0.65Vの電圧を生成できる。
【0072】
一態様において、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200ルクスであるときに開回路で少なくとも0.3Vの電圧を生成する。
【0073】
さらに、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに開回路で1.2V未満の電圧を生成する。
【0074】
一態様において、光吸収層が受光する光強度が200ルクスから20000ルクスに増加するとき、太陽電池ユニットによって生成される電流は直線的に増加する。
【0075】
一態様において、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200ルクスであるときに少なくとも15μA/cmの電流を生成し、光吸収層が受光する光強度が200ルクスから20000ルクスに増加するとき、太陽電池ユニットによって生成される電流は直線的に増加する。直線性、および光強度がゼロであるときには電流を生成せず、光強度が200ルクスであるときには少なくとも15μA/cmの電流を生成するという事実のために、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときには約1500μA/cmの電流を生成する。このように、本発明の太陽電池ユニットは、広範囲の光強度において、電子機器の電池を充電するのに十分な電力を生成できる。
【0076】
本発明の太陽電池ユニットは、好ましくは、モノリシック型色素増感太陽電池である。モノリシック型色素増感太陽電池は、同じ1枚の多孔質基板上に全層が直接または間接的に成膜されていることを特徴とする。
【0077】
第1および第2導電層は、光吸収層の影側、すなわち受光側とは反対面に配置されている。このように、第1および第2導電層は、光吸収層の同じ側に配置されている。
【0078】
本発明の別の目的は、電子機器の充電用に特別に適応された光起電力充電器を提供することである。
【0079】
この目的は、本発明による色素増感太陽電池ユニットと、前記太陽電池ユニットを封止する封止体と、第1導電層に電気的に接続された第1導電体と、第2導電層に電気的に接続された少なくとも1つの第2導電体とを備えた光起電力充電器であって、前記光起電力充電器は、単一の太陽電池ユニットのみと、第1および第2導電体に電気的に接続された昇圧コンバータとを含み、前記昇圧コンバータは、前記太陽電池ユニットからの電流を小さくする一方で、前記太陽電池ユニットからの電圧を昇圧するように適応されている光起電力充電器によって実現される。
【0080】
本発明による光起電力充電器は、光条件が非常に劣悪なときに電子機器を充電できる。例えば、光起電力充電器は、光源がランプしかないときに電子機器を充電できる。これにより、夜間に屋内で電子機器を充電することが可能となる。
【0081】
また、本発明の光起電力充電器は、単一の太陽電池ユニットのみを有するため、部分的な遮光による問題はない。また、太陽電池ユニットの表面の一部が遮光されていても、遮光されていない部分は電流を生成する。したがって、本発明による光起電力充電器は、光起電力充電器の活性領域が部分的に遮光されているときであってもなお、電子機器を充電できる。活性領域とは、太陽電池ユニットが光に曝されたときに電力を生成することに寄与する太陽電池ユニットの領域を意味する。
【0082】
第1導電体は、集電体として機能し、第1導電層から電流を集める。第2導電体は、電流分配器として機能し、第2導電層に電流を分配する。光起電力充電器は、携帯用電子機器の任意の形状またはサイズに適応させることができる単一の拡大縮小可能な太陽電池を有する。光起電力充電器の可視側に配置された複数の集電体を必要とせず、目に見える集電体がないため、視覚的に均一な表面が得られる。このように、光起電力充電器は、携帯型電子機器のデザインに影響を与えることなく、携帯型電子機器に使用できる。言いかえれば、携帯型電子機器は、傍観者に見えない光起電力充電器によって電力を供給できる。太陽電池ユニットの表面上に配置された多数の接続要素を持たないことの別の利点は、入射光を遮る複数の集電体がないため、太陽電池ユニットのより多くの領域を発電に使用できる点である。
【0083】
光起電力充電器のさらなる利点としては、低コスト、耐衝撃性、柔軟性、および入射光の角度の非依存性などがある。
【0084】
さらに、単一の太陽電池ユニットのサイズは拡大縮小可能であり、それゆえ、光起電力充電器のサイズおよび電力は、充電すべき異なる機器のサイズおよび電力需要に適応させることができる。太陽電池ユニットの領域を増やすことにより、光起電力充電器によって生成される電力が増加する。
【0085】
光起電力充電器は、第1および第2導電体に電気的に接続された昇圧コンバータを備え、前記昇圧コンバータは、太陽電池ユニットからの電流を小さくする一方で、太陽電池ユニットからの電圧を昇圧するように適応されている。このように、光起電力充電器は、広範囲の異なる光条件で電子機器を充電するために十分な電圧レベルを生成できる。異なる種類の電池は、異なる電圧レベルを必要とする。昇圧コンバータを使用することで、電子機器の充電式電池に、電池の種類に応じて必要とされる電圧レベルを供給することが可能となる。単一の太陽電池ユニットによって生成される電圧は、特定の種類または電池、例えば約3.6Vを必要とするリチウム電池を充電するには低すぎる。先行技術では、必要な電圧は、直列に接続された複数の太陽電池ユニットを配置することによって実現される。本発明によれば、必要な電圧は、単一の太陽電池ユニットに昇圧コンバータを接続することによって実現される。したがって、異なる電圧レベルを必要とする電池を充電できる単一の太陽電池ユニットのみを有する光起電力充電器を提供することが可能となる。
【0086】
一態様において、昇圧コンバータは、太陽電池ユニットからの電圧を1~10Vの間の電圧に変換するように構成されている。それゆえ、光起電力充電器は、リチウムまたはニッケル系電池などの民生用の多くの種類の電子機器に使用される電池を充電できる。
【0087】
一態様において、昇圧コンバータは、0.25~1Vの電圧を3Vより大きい電圧、好ましくは3.5Vより大きい電圧に変換するように構成されている。それゆえ、光起電力充電器は、3Vより大きい負荷電圧を有するバッテリ、例えば、バッテリの負荷の大きさに応じて3~4,5Vの負荷電圧を一般的に必要とするリチウムバッテリなどのバッテリを充電するために使用できる。
【0088】
一態様において、昇圧コンバータは、15~9000mA/cmの電流を扱うことができる。それゆえ、昇圧コンバータは、完全な太陽光である200ルクス~120000ルクスの太陽電池ユニットからの電流を扱うことができる。
【0089】
一態様において、封止体は、透明なプラスチックからなる。この特徴は、柔軟性があってねじることができ、耐衝撃性に優れた光起電力充電器を提供することに寄与する。
【0090】
いくつかの態様によれば、単一の太陽電池ユニットの形状およびサイズは、それが電力を供給する携帯用電子機器のサイズおよび形状に適応される。さらに、太陽電池ユニットの活性領域は、機器を充電するのに必要な電力に適応される。
【0091】
一態様において、太陽電池ユニットの活性領域の側面から側面への最短距離は、1cmよりも大きく、好ましくは1.5cmよりも大きい。
【0092】
一態様において、太陽電池ユニットの活性領域の側面から側面への最短距離は1.5よりも大きく、太陽電池ユニットの活性領域は25cmよりも大きい。このような光起電力充電器は、例えば、ヘッドフォンの充電に有用である。
【0093】
一態様において、太陽電池ユニットの活性領域の側面から側面への最短距離は、10cmよりも大きい。それゆえ、太陽電池ユニットの活性領域は、100cmよりも大きい。このような光起電力充電器は、例えば、タブレットの充電に有用である。
【0094】
例えば、電子機器は、ヘッドフォン、タブレット、携帯電話のいずれかである。例えば、電子機器は、着用者の頭にかけるためのヘッドバンドを備え、ヘッドバンドの上面に光起電力充電器が配置されたヘッドフォンである。例えば、電子機器はタブレットであり、光起電力充電器がタブレットに組み込まれているか、あるいはタブレットのケースに組み込まれている。例えば、携帯用電子機器が携帯電話であり、光起電力充電器が携帯電話か、あるいは携帯電話のケースに組み込まれている。
【0095】
本発明の別の目的は、太陽電池ユニットの製造方法を提供することである。
この方法は、
‐導電性粒子を含む第1インクを調製する工程と、
‐導電性粒子および触媒粒子の混合物を含む第2インクを調製する工程と、
‐多孔質絶縁基板を設ける工程と、
‐前記多孔質絶縁基板の第1面上に前記第1インクの第1層を堆積させる工程と、
‐前記多孔質絶縁基板の第2面上に前記第2インクの第2層を堆積させる工程と、
‐堆積層を有する前記多孔質絶縁基板を焼結して、前記第1層を多孔質の第1導電層に、前記第2層を多孔質の触媒導電層に変化させる工程と、
‐前記多孔質絶縁基板を、焼結した第1導電層とともに空気中で加熱して前記第1導電層の表面に酸化チタンを形成する工程と:
を有する。
【0096】
この方法は、多孔質第1導電層の上に多孔質光吸収層を配置し、多孔質層中にイオン性電解質を浸透させ、太陽電池ユニットを封止する工程をさらに有する。
【0097】
本発明の方法の少なくともいくつかの工程は、異なる順序で実施することができ、例えば、前記第2層を前記第1層の前に堆積させることができる。空気中での加熱は、例えば、多孔質第1導電層の上に光吸収層を生成すると同時に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1図1は、色素増感太陽電池ユニットの第1実施例を示す。
図2図2は、色素増感太陽電池ユニットの第2実施例を示す。
図3図3は、本発明の1以上の実施形態による光起電力充電器を上から見た図を示す。
図4図4は、図3に示す光起電力充電器の断面図を示す。
図5図5は、ヨウ化物イオンおよび三ヨウ化物イオンを含む電解質を有する太陽電池ユニットの第3実施例に係る光強度200~20000ルクスの生成電圧(mV)の測定値の図を示す。
図6図6は、第3実施例の太陽電池ユニットの光強度200~20000ルクスの生成電流(μA/cm)の測定値に基づく図を示す。
図7図7は、ヨウ化物イオンおよび三ヨウ化物イオンを含む電解質を有する太陽電池ユニットの第3実施例に係る光強度200~20000ルクスの面積当たりの生成電力(μW/cm)の測定値に基づく図を示す。
図8図8は、銅イオンを含む電解質を有する太陽電池ユニットの第3実施例に係る光強度200~50000ルクスの生成電圧(mV)の測定値に基づく図を示す。
図9図9は、銅イオンを含む電解質を有する太陽電池ユニットの第3実施例に係る光強度200~50000ルクスの生成電流(μA/cm)の測定値に基づく図を示す。
図10図10は、銅イオンを含む電解質を有する太陽電池ユニットの第3実施例に係る光強度200~50000ルクスの面積当たりの生成電力(μW/cm)の測定値に基づく図を示す。
【0099】
本発明の好ましい実施形態の詳細な説明
本開示の態様は、以下、添付の図面を参照して、より詳細に説明される。本明細書に開示される色素増感太陽電池ユニットおよび光起電力充電器は、しかしながら、多くの異なる形態で実現することができ、本明細書に記載される態様に限定されるものと解釈されるべきではない。図面中の同様の数字は、全体を通して同様の要素を指す。
【0100】
本明細書で使用される用語は、本開示の特定の態様を説明することのみを目的とするものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0101】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0102】
図1は、色素増感型太陽電池ユニット1の一例を示す。太陽電池ユニット1は、光吸収層10と、光吸収層10から光生成電子を取り出すための多孔質の第1導電層12とを備える作用電極を備える。好ましくは、光吸収層10は多孔質である。光吸収層10は、第1導電層12の上に配置される。太陽電池ユニット1は、絶縁材料からなる多孔質絶縁層105をさらに備え、第1導電層12は、多孔質絶縁層105の上に配置されている。例えば、多孔質絶縁層105は、多孔質基板である。
【0103】
太陽電池ユニット1は、多孔質触媒導電層106の孔内に配置された電解質110への電子の移動を改善するために、多孔質導電性材料107’および多孔質導電性材料107’内に分散した触媒粒子107”を含む多孔質触媒導電層106を備えた対向電極を有する。一態様において、多孔質触媒導電層106の導電性材料107’は、導電性粒子107’を含む。例えば、多孔質触媒導電層106は、図1の右の拡大図に示すように、導電性粒子107’および触媒粒子107”の混合物を含む。好ましくは、触媒粒子107”は、触媒導電層106の導電性材料107’中に実質的に均一に分散している。
【0104】
多孔質触媒導電層106は、第1導電層と比べて絶縁層とは反対面で多孔質絶縁層105に隣接して配置される。
【0105】
一態様において、太陽電池ユニット1の対向電極は、導電性材料を含む第2導電層16を備える。多孔質触媒導電層106は、多孔質絶縁層105と第2導電層16との間に配置されている。触媒導電層106は、第2導電層16と電気的に接触している。第2導電層16は、実質的に非触媒性である。第1導電層12、触媒性導電層106、および絶縁層105は多孔質であり、電解質が層を通って光吸収層10に到達することを可能にする。一態様では、第2導電層もまた多孔質である。別の実施形態では、第2導電層16を省略できる。
【0106】
また、太陽電池ユニット1は、対向電極および作用電極の間で電荷を移動させるためのイオン性電解質110を含む。例えば、イオン性電解質は、液体またはゲルである。イオン性系電解質は、多孔質第1導電層12、触媒導電層106、多孔質絶縁層105、光吸収層10などの多孔質層の孔内に配置される。また、イオン性電解質は、第2導電層が多孔質である場合には、第2導電層16の孔内に配置されていてもよい。
【0107】
また、多孔質の触媒導電層106の導電性材料は、対向電極の一部である。その結果、触媒導電層106と第2導電層16とが電気的に接触しているため、光吸収層10と第2導電層16との間の有効距離が短くなり、導電媒体の抵抗損失が低減される。さらに、触媒粒子107”は、多孔質触媒導電層の導電性材料107’から電解質110への電子の移動を容易にする。
【0108】
一態様において、触媒導電層106は、導電性粒子107’および触媒粒子107”の混合物を含む。導電性粒子は、第2導電層16と電気的に接触している。好ましくは、導電性粒子は非触媒性であり、触媒物質を除く。導電性粒子および触媒粒子の混合物は、触媒性導電層から電解質への電子の効率的な移動をもたらす。
【0109】
触媒導電層の導電性粒子は、導電性材料を含み、第2導電層16と電気的に接触している。触媒粒子は、導電性粒子の間に分散している。導電性粒子は、触媒粒子を保持するものとして機能し、触媒粒子を所定の位置に保持する。導電性粒子は、触媒粒子を収容し、所定の位置に保持するためのマトリックスを形成してもよい。例えば、マトリックスは、焼結金属粒子を含む。
【0110】
一態様において、触媒粒子は、導電性粒子の間に実質的に均一に分散している。触媒粒子を触媒導電層中に実質的に均一に分散させることにより、導電性粒子から電解質への電子の移動が改善される。一態様において、導電性粒子は、例えば、焼結によって互いに接着される。導電性粒子は、触媒粒子を収容するマトリックスを形成してもよい。触媒粒子は、導電性粒子のマトリックスに埋め込まれる。例えば、触媒導電層は、焼結導電性粒子を含み、触媒粒子は、導電性粒子の間に配置される。導電性粒子は、触媒粒子間の接着剤として作用し、触媒粒子を導電性粒子間の所定の位置に保持する。
【0111】
一態様において、触媒粒子107”の少なくとも80%は、50nm未満の直径を有する。このような小さな粒子は、大きな表面/体積比を有し、触媒材料の体積が小さい効率的な触媒化を提供する。触媒材料が白金である場合、触媒材料のコストを低減する。一態様において、導電性粒子の少なくとも80%は、100nmよりも大きい直径を有する。好ましくは、導電性粒子のサイズは0.1~15μmである。
【0112】
第1および第2導電層12,16の導電性材料は、例えば、金属、金属合金、金属酸化物、または他の導電性材料、例えば、チタン、チタン合金、ニッケル、またはニッケル合金でありうる。好適には、第1および第2の導電層12,16は、チタンまたはその合金を含む。例えば、第1および第2の導電層の導電性材料は、チタンである。例えば、第1の導電層12は、多孔質となるように、焼結チタン粒子を含むものであってもよい。チタンは耐食性が高く、イオン性電解質はしばしばとても腐食性があるため、チタンを使用することは有利である。
【0113】
触媒導電層106内の導電性材料107’は、例えば、金属、金属合金、金属酸化物、または他の導電性材料、例えば、チタン、チタン合金、ニッケルまたはニッケル合金、インジウムまたはインジウム酸化物で作られうる。触媒粒子107”は、例えば、グラフェンまたはグラファイトまたはカーボンブラックまたはカーボンナノチューブ、白金またはそれらの組み合わせなどの炭素系材料で作られている。
【0114】
一態様において、触媒粒子107”は、炭素粒子を含む。炭素は、安価で環境に優しい。より好ましくは、触媒粒子107”は、白金化炭素粒子を含む。白金は、炭素よりも優れた触媒であるが、高価である。白金と炭素の組み合わせを使用することで、より安価に良好な触媒が得られる。触媒粒子は、触媒としての機能だけでなく、導電性を有するものでありうる。例えば、炭素は、触媒と同じく導電性を有する。しかし、炭素は、チタンなどの他の導電性材料に比べて導電性が悪い。
【0115】
第1および第2導電層12,16の導電性は、触媒導電層106の導電性よりも高くなりうる。導電性材料および触媒粒子の混合物を有する触媒導電層106と、触媒粒子を実質的に含まない第2導電層16との組み合わせは、対向電極の高い導電性だけでなく、対向電極の導電性粒子107’から電解質への電子の効率的な移動をもたらす。
【0116】
好ましくは、触媒導電層は、1~50重量%の触媒粒子を含む。導電性材料から電解質への電子の効率的な移動を実現するために必要な触媒粒子の重量%は、触媒粒子のサイズおよび形状、および触媒粒子中の材料の種類および導電性材料の種類に依存する。例えば、触媒導電層は、5~30重量%の触媒粒子を含むものであってもよい。この範囲は、例えば、導電性粒子がチタンからなり、触媒粒子が白金化炭素からなるときに好適である。ただし、前述したように、触媒粒子の重量%は粒子のサイズに依存する。
【0117】
例えば、触媒導電層106の導電性材料107’がチタンであり、触媒粒子107”が白金化炭素を含み、触媒粒子107”のサイズが導電性粒子107’の大きさよりも小さい場合、触媒導電層は電解質への電子の効率的な移動を提供するために、5~30重量%の触媒粒子107”を含むものであってもよい。例えば、触媒導電層は、50~90重量%のチタン、少なくとも5重量%の炭素、および少なくとも0.001重量%の白金を含む。チタンは良好な機械的強度を有し、白金化炭素粒子を触媒導電層中の所定の位置に保持する。このように、炭素、白金およびチタンは、高い機械的強度を有し電解質への電子の移動能力が高い触媒導電層を提供できる。
【0118】
一態様において、触媒導電層106の厚さt1は、少なくとも1μm、好ましくは少なくとも5μm、最も好ましくは少なくとも10μmである。一態様において、触媒導電層106の厚さt1は、100μm未満、好ましくは20μm未満である。一態様において、多孔質絶縁層105の厚さt2は、0.1μm~20μm、好ましくは0.5μm~10μmである。一態様において、第2導電層16の厚さt4は、少なくとも1μmであり、好ましくは少なくとも10μmであり、より好ましくは少なくとも20μmである。
【0119】
第1導電層12は、図1の左の拡大図に示すように、導電性材料の表面に形成された絶縁性の酸化物層109を備える。この酸化物層109は、例えば、第1導電層の導電性材料を酸化することにより形成される。導電性材料は、好適には、金属または金属合金を含み、例えば、チタンである。導電性材料の表面は、空気に触れると酸化される。酸化層109は、導電性材料が酸化されるように、酸化環境下で第1導電層の熱処理を行うことにより形成できる。絶縁性酸化物層109は、導電性材料上に電気的に絶縁性の層を設け、第1導電層12と第1導電層12の孔内に配置された電解質との間の電子の移動を少なくとも部分的に防止する。
【0120】
一態様において、第1導電層12は、多孔質チタンを含み、酸化物層109が第1導電層の多孔質チタンを電気的に絶縁し、それによって第1導電層の多孔質チタンから第1導電層の孔内の電解質に電子が漏れることを防止するように、多孔質チタンの表面に形成された酸化チタン層109を備える。したがって、太陽電池ユニットの効率を向上させることができる。例えば、第1導電層12は、焼結チタン粒子107を含み、図1の左の拡大図に示すように、焼結チタン粒子107の表面は、酸化チタン層109で覆われている。一態様において、酸化チタン層の厚さは、5nmよりも大きく、好ましくは10nmよりも大きく、より好ましくは20nmよりも大きい。一態様において、酸化チタン層の厚さは、10nm以上200nm以下、好ましくは20nm~50nmである。
【0121】
特に、第1導電層から液体系電解質への電子の漏洩を防止する絶縁性酸化物層109と、多孔質導電性材料107中に分散された触媒粒子107”を含む触媒導電層106を備えた対向電極と、対向電極の効率を改善する非触媒導電層16とを組み合わせることで、広範囲の異なる光条件で発電できる効率の良い太陽電池ユニットが得られる。この太陽電池ユニットは、優れた照明条件下だけでなく、劣悪な照明条件下、例えば、屋内の人工的な光の中、屋外の影の中、強い日差しにさらされているときにも動作する。
【0122】
一態様において、電解質は、ヨウ化物/三ヨウ化物電解質、銅錯体系電解質、またはコバルト錯体系電解質、またはそれらの組み合わせのいずれかである。一態様において、電解質は、ヨウ化物(I)および三ヨウ化物(I )を含み、導電媒体中の三ヨウ化物の含有量は、1mM~20mMである。この実施形態は、低光強度において高い発電を実現することを可能にする。
【0123】
多孔質絶縁層105の絶縁材料は、例えば、第1導電層12および触媒導電層106の間に配置され、第1導電層12および触媒導電層106を互いに絶縁する無機材料である。多孔質絶縁層105は、例えば、ガラス繊維、セラミックマイクロファイバー、または二次元材料やナノシートなどの層状結晶を層間剥離して得られる材料である。
【0124】
太陽電池ユニット1は、多孔質基板を備えるものであってもよい。多孔質絶縁層105は、図1に示すように、基板全体を含むものであってもよいし、図2に示すように、多孔質基板114の一部114aのみを含むものであってもよい。一態様によれば、多孔質基板は、太陽電池ユニットの全体を通って延びるマイクロファイバー織物を含むシートである。例えば、マイクロファイバー織物は、ガラス繊維からなる。
【0125】
図2は、絶縁材料からなる多孔質基板114を備えた色素増感太陽電池1’の一例を示す。なお、図1および図2中の同様または対応する部分には、同様の数字を付して示している。太陽電池1’および1の相違点は、多孔質触媒導電層106’が多孔質基板114の第1の部分114aを含み、多孔質絶縁層105が多孔質基板114の第2の部分114bを含む点である。触媒導電層106’は、多孔質基板114の第1の部分114aの孔内に配置された導電性粒子107’および触媒粒子107”を含む。触媒導電層106の導電性粒子107’は、多孔質基板114の部分114aの絶縁材料を通して導電性ネットワーク209を形成する。導電性ネットワーク209は、多孔質基板114の第1の部分114aの絶縁材料を通る1以上の電気的に導電性の経路を形成する。導電性粒子107’および触媒粒子107’は、多孔質基板114の孔内に配置される。好ましくは、粒子のサイズは、太陽電池の製造中に基板内に浸透できるように、多孔質基板の孔のサイズよりも小さい。導電性ネットワーク209は、多孔質基板114内に延びる第2の導電層を拡張する。多孔質基板の導電性ネットワークにより、対向電極および光吸収層間の距離は、多孔質基板の厚さにもはや依存しなくなる。したがって、絶縁層の厚さを薄くすることができ、それによって対向電極および光吸収層間の距離を小さくできる。したがって、電解液の抵抗損失が低減される。
【0126】
以下、本発明の太陽電池ユニット1の製造方法の一例について簡単に説明する。
【0127】
1)電気的に導電性材料からなる導電性粒子を含む第1インクを調製する工程。導電性粒子は、例えば、水素化チタンからなる。
2)導電性粒子および触媒粒子の混合物を含む第2インクを調製する工程。導電性粒子は、例えば、水素化チタン(TiH)からなり、触媒粒子は、例えば、白金化炭素粒子である。
3)多孔質絶縁性基材、例えばガラス布を設ける工程。
4)例えば、多孔質絶縁基板の一面に水素化チタン粒子を含む第1インクを印刷することにより、多孔質絶縁基板の一面に導電性粒子を堆積させる工程。
5)その後、印刷された第1インクを空気中で乾燥させ、
6)例えば、多孔質絶縁基板のもう一方の面に水素化チタン粒子および白金化炭素粒子を含む第2インクを印刷して、多孔質絶縁基板のもう一方の面に触媒粒子および導電性粒子の混合物を堆積させる工程。
7)その後、印刷された第2インクを空気中で乾燥させ、
8)例えば、触媒粒子および導電性粒子の混合物の層の上に水素化チタン粒子を含む第1インクを印刷することによって、触媒導電性層の上に導電性粒子を堆積させる工程。
9)その後、印刷された第1インクを空気中で乾燥させ、
10)その後、印刷された層を有する多孔質絶縁基板を、例えば600℃で1時間、真空焼結する工程。焼結工程では、水素化チタンがチタンに変化する。その結果、焼結チタンを含む第1導電層、焼結チタンを含む第2導電層、および焼結チタンと、焼結チタン間の孔内に配置された白金化炭素粒子とを含む触媒導電層が焼結工程中に形成される。
11)焼結導電層を有する多孔質絶縁基板を空気中で加熱して、第1導電層の焼結チタンの表面に酸化チタンを形成する工程。
12)第1導電層の上にTiO系インクが印刷され、次いで乾燥される工程。層を有するガラス布は、例えば600℃に加熱される。その結果、堆積したTiO層が焼結される。
13)焼結TiO2層は、色素増感されて光吸収層を形成し、
14)イオン性電解質、例えば、ヨウ化物/三ヨウ化物(I-/I3)-系のレドックス電解質が多孔質層に浸透する工程。
15)太陽電池が、例えば、透明な封止体によって封止される工程。
【0128】
あるいは、ステップ11は、ステップ12のTiO2層の焼結と同時に行ってもよい。
【0129】
多孔質導電層は、スクリーン印刷、スロットダイコーティング、スプレー、または湿式堆積のいずれかの方法で多孔質基板上に堆積させることができる。
【0130】
ステップ11の熱処理中に、触媒導電層上に酸化チタンも形成される。触媒導電層上に酸化物層が形成されていれば、導電性材料と触媒導電層の孔内に配置された電解質との間で電子が移動するのを防ぐことができると推測される。驚くべきことに、触媒粒子、例えば、白金化炭素粒子は、触媒導電層の導電性材料上に酸化物層があるにもかかわらず、導電性材料から電解質への電子の移動を可能にすることが発見されている。
【0131】
図3は、光起電力充電器200の一例を上から見た図を示す。光起電力充電器200は、イヤホン、ラップトップ、タブレット、携帯電話、および遠隔操作装置など、屋外だけでなく屋内でも使用可能な携帯電子機器の電力供給に特別に適応されている。また、光起電力充電器200は、Internet of Things(IoT)と呼ばれる、車両や家電製品などの他の物理的な装置に組み込まれた小型の電子機器の電力供給にも使用できる。
【0132】
光起電力充電器200は、太陽電池ユニット1と、太陽電池ユニット1を囲む封止体5と、第1導電体18と、第2導電体20とを備える。光起電力充電器は、光起電力充電器200を電子機器に接続するための接続要素(図示せず)をさらに備えたものであってもよい。太陽電池ユニット200は、モノリシック型のDSCである。モノリシック型のDSCは、単一の基板上に複数の層が配置されて作成される点で、標準的なDSCとは異なる。
【0133】
封止体は、光起電力装置を外部機器に接続するための第1および第2導電体に接続された複数の貫通部を含む。言いかえれば、光起電力装置によって生成された電力にアクセスするための貫通部が封止体内に存在する。何らかの配線が貫通部を通ることになる。例えば、外部機器に電力を供給するための配線に接続するために、貫通部を通って第1および第2導電体が封止体から延びていてもよい。あるいは、封止体の外側からの配線が貫通部を通り、第1および第2導電体に電気的に接続される。貫通部は、ガスまたは液体が貫通部を通ることができないように、封止体を通る配線の周りに密着している。例えば、貫通部は、封止体を通る配線の周囲に密着した封止体の開口部である。
【0134】
封止体5は、光起電力装置1を外部機器に接続するため、およびそれによって光起電力装置によって生成された電力にアクセスするために、第1導電体18および第2導電体20に接続して配置された複数の貫通部7a~bを含む。例えば、貫通部は、封止体の貫通開口部である。何らかの配線が開口部を通ることになる。例えば、第1および第2導電体18、20は、図3に示すように、外部機器に電力を供給するための配線に接続するために、貫通部7a-bを通って封止体の外に延びていてもよい。あるいは、封止体の外部からの配線が貫通部を通って、第1および第2の導電体に電気的に接続されていてもよい。貫通部は、ガスや液体が通らないように配線の周囲に密着している。貫通部は、封止体を太陽電池ユニット1上に配置するときに、貫通すべき配線や導電体を所定の位置に配置させることにより形成できる。封止体は、上部シート5aおよび底部シート5bからなり、例えば、太陽電池ユニット1の上に重ねて接着される粘着フィルムである。あるいは、上部シートおよび底部シートを可撓性のあるプラスチック材料で形成し、そのプラスチック材料を溶融させることにより、上部シートおよび底部シートの端部同士を接着する。接着前にすでにシート間に配線/導電体が所定の位置に配置されており、シートの端部に突出している場合は、接着時に貫通部が形成される。あるいは、貫通部は、太陽電池ユニットを封止した後に形成された封止体の貫通孔を含む。貫通孔は、配線/導電体が貫通孔内に配置された後に封止される。貫通部の位置は、第1および第2導電体の位置によって異なる。貫通部の数はさまざまである。第1および第2導電体のそれぞれに少なくとも1つの貫通部がある。しかし、第1および第2導電体のそれぞれに対して複数の貫通部を有することも可能である。
【0135】
図4は、図3に示す光起電力充電器200の一部を通る断面拡大図を示す。光起電力充電器200は、1つの太陽電池ユニット1、または太陽電池ユニット1’を備えるが、これについては、図1および図2を参照してより詳細に説明する。例えば、光吸収層10は、染色されたTiOを含む。当該技術分野で知られている従来の色素を使用できる。色素は、特に銅系の導電媒体との組み合わせで、太陽電池の良好な効率を与えるために選択される。光吸収層10は、第1導電層12の上に配置されている。多孔質光吸収層10は、第1導電層12上に堆積された多孔質TiO層である。TiO層は、TiO粒子の表面に色素分子を吸収させて染色したTiO粒子を含む。光吸収層10は、太陽電池ユニット1の上面に配置される。上面は、光が作用電極の色素分子に当たるように、光に対向しているべきである。
【0136】
第1導電層12は、光吸収層10と電気的に直接接触している。この例では、第2導電層16は多孔質である。しかし、別の実施形態では、第2導電層16は多孔質である必要はない。例えば、第2導電層は、金属箔からなるものでありうる。この例では、多孔質絶縁層105は、多孔質基板の少なくとも一部を構成する。多孔質基板は、第1導電層12と触媒導電層106との間に電気的絶縁を提供する。第1導電層12および触媒導電層106は、多孔質基板によって物理的にも電気的にも分離されている。多孔質基板の多孔性により、絶縁層105を介したイオン輸送が可能となる。第1導電層12と触媒導電層106の多孔性により、対向電極および作用電極の間でイオン輸送が可能となる。
【0137】
光起電力充電器200は、単一の太陽電池ユニット1のみを含む。少なくとも第1導電層12および多孔質基板は、太陽電池ユニットの全体を通って連続的に延びている。光吸収層10および第2導電層16は、少なくとも太陽電池ユニットの主要部分を通って連続的に延びている。
【0138】
太陽電池ユニット1は、対向電極および光吸収層10の間に電荷を移動させるための電解質で満たされている。電解質としては、例えば、従来のI/I-3系電解質またはそれに類する電解質、すなわち銅(Cu)系電解質、コバルト(Co)錯体系電解質があげられる。電解質は、イオン、例えば、ヨウ化物イオン(I)、三ヨウ化物イオン(I3-)、または銅イオン(Cu2+およびCu)を含む。太陽光が色素によって捕集されて光励起された電子を生成し、それがTiO粒子の伝導帯に入射し、さらに第1導電層によって収集される。同時に、電解液中のイオンが第2導電層から光吸収層10に電子を輸送する。第1導電体18は、第1導電層からの電子を収集し、第2導電体は、太陽電池ユニットが入射した光子から連続的に電力を生成できるように、第2導電層に電子を供給する。
【0139】
電解液は、光吸収層10、第1導電層12、多孔質絶縁層105、第2導電層16および触媒導電層106の孔を貫通して、光吸収層10および第2導電層16の間でイオンを移動させ、それによって作用電極から光吸収層に電子を移動させる。
【0140】
使用できる多くの色素があり、いくつかの態様によれば、色素は、ドナー-πブリッジ-アクセプター(D-π-A)型およびドナー-アクセプター-πブリッジ-アクセプター(D-A-π-A)型の色素のいずれか、またはそれらの混合物を含むトリアリールアミン有機色素を含む。このような色素は、特に銅系の導電媒体との組み合わせで、太陽電池の良好な効率を与える。第1級の光増感剤としては、例えば、置換(ジフェニルアミノフェニル)-チオフェン-2-シアノアクリル酸または置換(ジフェニルアミノフェニル)シクロペンタ-ジチオフェン-2-シアノアクリル酸があげられる。第2級のものとしては、例えば、置換(((ジフェニルアミノフェニル)ベンゾチア-ジアゾリル)-シクロペンタジチオフェニル)アリール/ヘテロアリール-2-シアノアクリル酸または(((ジフェニル-アミノフェニル)-シクロペンタジチオフェニル)ベンゾチアジアゾリル)アリール/ヘテロアリール-2-シアノアクリル酸があげられる。
【0141】
第1導電体18は第1導電層12に電気的に接続され、第2導電体20は第2導電層16に電気的に接続されている。例えば、第1および第2導電体は、高い導電性を実現するために金属からなる。
【0142】
封止体5は、太陽電池ユニット1の上面を覆う上部シート5aと、太陽電池ユニットの底面を覆う下部シート5bとを備える。封止体5は、太陽電池ユニットおよび電解液を囲み、電解液の液体バリアとして機能するとともに、電解液が光起電力充電器200から漏れることを防止する。上部シート5aは透明であるか、または、少なくとも太陽電池ユニット1の活性領域を覆う部分が透明である。太陽電池ユニット1の上面の上部シート5aは光吸収層10を覆い、光を透過させる。上部および下部シート5a-bは、例えば、高分子材料からなる。高分子材料は、頑丈で耐衝撃性に優れ、柔軟性に優れた材料である。上部および下部シート5a-bは、周囲の大気から太陽電池ユニットを保護するために、また、太陽電池ユニットの内部からの電解液の蒸発や漏れを防止するために、端部で封止されている。
【0143】
一実施例において、多孔質基板は、マイクロファイバーを織って作った織物を含むシートである。マイクロファイバーは、直径が10μm未満で1nmより大きい繊維である。マイクロファイバーを織って作った織物は、非常に薄く、機械的に非常に強いものになりうる。マイクロファイバーを織って作った織物は、織られた糸の間に穴がある。多孔質基板は、さらに、糸の間の穴を少なくとも部分的に遮断するために、マイクロファイバー織物上に配置された1以上の不織マイクロファイバー層を含んでいてもよい。さらに、不織層は、印刷によって基板上に平滑な導電層を塗布するのに適した、基板上の平滑な表面を提供する。
【0144】
基板は、例えば、ガラス、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、アルミノシリケートまたは石英からなる。多孔質基板の不織布および織布マイクロファイバーはガラス繊維からなるのが適切であり、これにより頑丈で柔軟性のある基板が得られる。マイクロファイバー織物の布の厚さは、対向電極および作用電極の間のイオンの迅速な輸送を可能にするのに十分な薄さであると同時に、必要な機械的強度を提供するために、4μm~30μmが適切であり、好ましくは4μm~20μmである。
【0145】
一態様において、光吸収層10および第1導電層12は、非透過性である。本実施例では、図3に示すように、太陽電池ユニット1の上面は均一に黒色である。また、光吸収層のTiOは黒色である。先行技術の太陽電池パネルのように、太陽電池ユニット1の表面に延びる導電体は存在しない。これは、光起電力充電器200が、先行技術の光起電力充電器で使用されている太陽電池パネルのように、直列に接続された複数の太陽電池ユニットではなく、単一の太陽電池ユニット1のみを含んでいるためである。
【0146】
太陽電池ユニットのサイズ、すなわち、太陽電池ユニットの長さおよび幅は、それが充電するように適応されている機器に応じて変化してもよい。したがって、太陽電池ユニットの活性領域は、充電する機器のための電力の必要性に応じて変化してもよい。太陽電池ユニットの可能な形状およびサイズに制限はない。例えば、太陽電池ユニットのサイズは、活性領域が1cmの1×1cmと、活性領域が1mの1×1mの間で変化してもよい。また、太陽電池ユニットの長さや幅に上限はない。しかし、1×1mよりも大きい太陽電池ユニットでは、太陽電池ユニットの製造中に取り扱いがかさばることがある。
【0147】
光起電力充電器200は、単一の太陽電池ユニット1と、第1および第2導電体18,20に電気的に接続された昇圧コンバータ22とを備える。昇圧コンバータは、ステップアップコンバータまたはステップアップレギュレータとも呼ばれ、入力から出力への電流を小さくする(stepping down)一方で、電圧を昇圧(steps up)するDC-DC電力変換器である。単一の太陽電池ユニットによって生成される電圧は、特定の種類または電池、例えば、少なくとも3.6Vを必要とするリチウム電池を充電するには低すぎる。昇圧コンバータは、太陽電池ユニット1からの電流を小さくする一方で、太陽電池ユニット1からの電圧を昇圧するように適応されている。必要な電圧レベルは、昇圧コンバータを単一の太陽電池ユニットに接続することによって実現される。したがって、異なる電圧レベルを必要とする電池を充電できる単一の太陽電池ユニット1のみを有する光起電力充電器を提供することが可能である。
【0148】
光起電力充電器200は、充電している電子機器のバッテリに光起電力充電器を接続するための接続要素3,4を備える。昇圧コンバータ22は、第1および第2導電体18,20に電気的に接続された入力端子と、接続要素3,4に電気的に接続された出力端子とを備える。
【0149】
生成される電圧のレベルは、電解質中のイオンに依存する。例えば、電解質が銅イオンを含む場合、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに開回路で約1Vの電圧を生成し、電解質がヨウ化物イオンおよび三ヨウ化物イオンを含む場合、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに開回路で約0.65Vの電圧を生成する。しかし、太陽電池ユニット1は、光吸収層が受光する光強度が200~20000ルクスの間で変化するときに開回路で最大0.4Vの変動電圧を生成する。昇圧コンバータの電圧変換に関する要件は、充電式電池の所要電圧に依存する。消費者用途の電子機器に使用されるほとんどの種類の充電式電池は、1~10Vの電圧を必要とする。昇圧コンバータは、充電式電池が必要とするレベルで安定した電圧を生成することを可能にする。好ましくは、昇圧コンバータ22は、太陽電池ユニットからの出力電圧および電流を、1~10Vの間の電圧レベルに変換できる。必要な出力電圧に応じて異なる昇圧コンバータを使用できる。したがって、光起電力充電器は、リチウム電池(3.6V)、NiCdおよびNiMH電池(1.25V)などの多くの種類の電子機器に使用される電池を充電できる。
【0150】
試験から、太陽電池ユニットは、光吸収層が受光する光強度が200ルクスであるときに少なくとも15μA/cmの電流を生成でき、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに少なくとも1500μA/cmの電流を生成できることが示されている。したがって、本発明の太陽電池ユニットは、広範囲の光強度において、電子機器のバッテリを充電するのに十分な電力を生成できる。
【0151】
いくつかの態様によれば、少なくとも第1導電層12および多孔質基板114は、太陽電池ユニット1の全体を通って連続的に延びている。光吸収層10および第2導電層16は、少なくとも太陽電池ユニットの主要部分を通って連続的に延びている。
【0152】
単一の太陽電池ユニット1を含む本発明の光起電力充電器の一例について、異なる光条件に対する面積当たりの生成電力の測定が行われた。この実施例では、太陽電池ユニット1は14.5×23.4cmのサイズ、340cmの活性領域を有する。太陽電池ユニット1の電解質は、ヨウ化物イオンおよび三ヨウ化物イオンを含み、第1および第2導電層はチタン(Ti)からなる。無負荷の太陽光発電充電器を200~20000ルクス(1平方メートル当たりのルーメン)の光にさらし、光起電力充電器からの出力電圧および出力電流を測定した。測定結果を以下の表1に示す。測定した電流と電圧に基づいて総発電電力を決定し、総発電電力を太陽電池ユニットの活性領域で割って面積当たりの発電電力を決定する。
【0153】
【表1】
【0154】
表1は、ヨウ化物イオン(I-)および三ヨウ化物イオン(I -)を含む電解質を有する太陽電池ユニット1について、200~20000ルクスの光強度に対する活性面積あたりの生成電力、活性面積あたりの電流、電圧および曲線因子(フィルファクター)(ff)の測定値である。三ヨウ化物の含有量は、1mM~20mMである。ヨウ化物は酸化剤(Ox)として機能し、三ヨウ化物は還元剤(Red)として機能する。
【0155】
異なる光強度(ルクス単位で測定される強度)における太陽電池ユニット1の性能の測定は、太陽電池ユニットに光を当て、同時に太陽電池ユニットを通した印加電圧を走査(scan)し、太陽電池の電流-電圧応答を測定して収集することによって行うことができる。測定は、光源として暖白色LEDを使用して行った。
【0156】
照明下で収集したIV曲線は、開回路電圧、短絡電流、曲線因子、電力および電力変換効率に関する情報を提供する。異なる光強度でIV曲線を収集することにより、開回路電圧、短絡電流、曲線因子、電力および電力変換効率の光強度依存性に関する情報を収集できる。
【0157】
表1の結果は、太陽電池ユニット1の一サンプルでの測定結果である。この種の異なる太陽電池ユニットでの測定値は異なる場合がある。例えば、面積当たりの生成電力は、5μW/cm~8μW/cmの場合がある。
【0158】
太陽電池に光を当てるために使用する光源は、太陽電池の用途によって異なりうる。屋内で使用する場合は、蛍光灯や屋内LED照明を使用すると便利である。屋外の光を使用する太陽電池の用途では、人工的な太陽光を生成するためにソーラーシミュレータを使用して太陽電池に光を当てることが有用でありうる。
【0159】
光源の光強度は異なる方法で測定することができ、例えば、光源に対して太陽電池ユニットと同じ位置に配置されたルクスメーターまたは分光放射計を用いて測定しうる。本実施例では、ルクスメーターを使用して光強度を測定した。
【0160】
表1は、ルクス(lux)で測定された異なる光強度について、1平方センチメートルあたりのマイクロワット(μW/cm)で決定された電力を示している。表からわかるように、太陽電池ユニット1が受光した光強度が200ルクスであるときに6.2μW/cmを生成し、太陽電池ユニット1が受光した光強度が5000ルクスであるときに208μW/cmを生成し、太陽電池ユニット1が受光した光強度が20000ルクスであるときに730μW/cmを生成している。これは、本発明の光起電力充電器が、光吸収層が受光する光強度が200ルクスであるときに5μW/cmよりも大きい値、さらには5.5μW/cmより多くを生成させることができることを示す。これはまた、光起電力充電器が、光吸収層が受光する光強度が20000ルクスであるときに700μW/cmより多くを生成できることを示す。したがって、太陽電池ユニット1は、光吸収層が受光する光強度が200~20000ルクスであるときに少なくとも5,5~700μW/cmを生成できる。光起電力充電器によって生成される電力は、光吸収層が受光する光強度が200から20000ルクスに増加するときに実質的に直線的に増加する。したがって、光起電力充電器は、広範囲の異なる光条件で電力を生成できる。
【0161】
図5は、表1の測定値に基づいて、光強度が200~20000ルクスのときの生成電圧(mV)の図を示す。この図および表1からわかるように、太陽電池ユニット1は、太陽電池ユニット1が受光する光強度が200ルクスであるときに開回路で480mVの電圧を生成できる。さらに、光起電力充電器200は、太陽電池ユニット1が受光する光強度が20000ルクスであるときに開回路で650mVの電圧を生成できる。この図からわかるように、生成電圧の増加は200~3000ルクスの間で最も大きくなる。生成電圧は、3000~20000ルクスで実質的に直線的である。表1からわかるように、200および20000ルクスの間の生成電圧差は167mVしかない。したがって、太陽電池ユニット1は、光吸収層が受光する光強度が200~20000ルクスの間で変化するときに開回路で0.2V未満で変化する電圧を生成する。したがって、200および20000ルクスの間の生成電圧差は約35%である。
【0162】
図6は、表1の測定値に基づいて、光強度が200~20000ルクスで生成される電流(μA/cm)の図を示す。この図からわかるように、電流は直線的に増加する。
【0163】
図7は、表1の電圧と電流の測定値に基づいて計算された200~20000ルクスの光強度に対する面積当たりの生成電力(μW/cm)の図を示す。この図からわかるように、測定された電力は、200~20000ルクスの間の入射光強度に実質的に比例する。
【0164】
本発明の光起電力充電器の別の実施例について、異なる光条件に対する面積当たりの生成電力のさらなる測定が行われた。この実施例では、太陽電池ユニット1の電解質は、銅イオン(CuおよびCu2+)を含み、測定した光起電力充電器の間の唯一の違いである。測定条件は同じであった。無負荷の光起電力充電器200を200~20000ルクス(1平方メートル当たりのルーメン)の光にさらし、光起電力充電器からの出力電圧および出力電流を測定した。測定結果を以下の表2に示す。
【0165】
【表2】
【0166】
表2は、銅イオン;還元剤(Red)としてのCuおよび酸化剤(Ox)としてのCu2+を含む電解質を有する太陽電池ユニット1について、200~200000ルクスの光強度に対する面積当たりの生成電力、面積当たりの電流、電圧、曲線因子(フィルファクター)(ff)を測定した結果である。
【0167】
表2からわかるように、太陽電池ユニット1が受光する光強度が200ルクスであるときに12.8μW/cmを生成し、太陽電池ユニット1が受光する光強度が5000ルクスであるときに498μW/cmを生成し、太陽電池ユニット1が受光する光強度が20000ルクスであるときに2020μW/cmを生成する。これは、本実施形態の光起電力充電器200が、光吸収層10が受光する光強度が200ルクスであるときに12μW/cmよりも多くを生成できることを示す。これはまた、光起電力充電器200が、光吸収層10が受光する光強度が20000ルクスであるときに2000μW/cmより多くを生成できることを示す。光起電力充電器によって生成される電力は、光吸収層が受光する光強度が200から20000ルクスに増加するときに実質的に直線的に増加する。したがって、光起電力充電器200は、広範囲の異なる光条件で電力を生成できる。
【0168】
図8は、表2の測定値に基づいて、光強度が200ルクス~50000ルクスのときの生成電圧(mV)の図を示す。この図および表2からわかるように、太陽電池ユニット1は、太陽電池ユニット1が受光する光強度が200ルクスであるときに開回路で699mVの電圧を生成できる。さらに、光起電力充電器200は、太陽電池ユニット1が受光する光強度が20000ルクスであるときに開回路で943mVの電圧を生成できる。この図からわかるように、生成電圧は3000~50000ルクスで実質的に直線的である。表2からわかるように、200および20000ルクスの間の生成電圧差はわずか244mVである。したがって、200および20000ルクスの間の生成電圧差は約35%である。また、200および50000ルクスの間の生成電圧差は259mVに過ぎない。したがって、太陽電池ユニット1は、光吸収層が受光する光強度が200~50000ルクスの間で変化するときに開回路で300mV未満で変化する電圧を生成する。したがって、200および50000ルクスの間の生成電圧差は約37%である。
【0169】
図9は、表2の測定値に基づいて、光強度が200~50000ルクスで生成される電流(μA/cm)の図を示す。この図からわかるように、電流は直線的に増加する。
【0170】
図10は、表1の電圧と電流の測定値に基づいて計算された200~50000ルクスの光強度に対する面積当たりの生成電力(μW/cm)の図を示す。この図からわかるように、測定された電力は、200~20000ルクスの間の入射光強度に実質的に比例する。
【0171】
本発明は、開示された実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲の範囲内で変形、修正されてもよい。例えば、第2導電層16を省略しうる。第2導電層を省略することによって、太陽電池ユニットが機器に電力を供給するのに十分な電力を生成できる異なる光条件の範囲を減少させてもよい。しかし、いくつかの用途では、光条件はそれほど変化せず、より小さい範囲で電力を生成できる太陽電池ユニットで十分である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10