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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】音響シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   H04S 3/00 20060101AFI20231226BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20231226BHJP
   G10K 15/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H04S3/00 200
H04S7/00 300
G10K15/00 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021508809
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006854
(87)【国際公開番号】W WO2020195407
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2019056484
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月25日に林テレンプ株式会社のウェブサイト、中部経済新聞、日刊自動車新聞及び日刊工業新聞にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月31日に中日新聞朝刊にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】春日井 将士
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-220032(JP,A)
【文献】特開平11-38979(JP,A)
【文献】THRESH, Lewis et al.,A Direct Comparison of Localisation Performance When Using First, Third and Fifth Order Ambisonics for Real Loudspeaker and Virtual Loudspeaker Rendering,Proc. 143rd Convention of the Audio Engineering Society,米国,Audio Engineering Society,2017年10月19日,pp.1-9,[online],[retrieved on 2023-12-12],Retrieved from the Internet: <URL: https://www.aes.org/e-lib/browse.cfm?elib=19261>
【文献】BOEHM, Johannes,Decoding for 3D,Proc. 130th Convention of the Audio Engineering Society,英国,Audio Engineering Society,2011年05月15日,pp.1-16,[online],[retrieved on 2023-12-12],Retrieved from the Internet: <URL: https://www.aes.org/e-lib/browse.cfm?elib=15893>
【文献】MISDARIIS, Nicolas et al.,Urban Environment Audio Simulation for Contextual Evaluation of Quiet Vehicles' Sound Design,Proc. 43rd International Congress on Noise Control Engineering,AU,Australian Acoustic Society,2014年11月18日,pp.1-10,[online],[retrieved on 2023-12-12],Retrieved from the Internet: <URL: https://www.acoustics.asn.au/conference_proceedings/INTERNOISE2014/papers/p753.pdf>
【文献】MALHAM, David G. et al.,3-D Sound Spatialization using Ambisonic Techniques,Computer Music Journal,米国,The MIT Press,1995年,Vol.19, No.4,pp.58-70,[online],[retrieved on 2023-12-12],Retrieved from the Internet: <URL: https://www.jstor.org/stable/3680991>,https://doi.org/10.2307/3680991
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00- 7/00
G10K 15/00-15/12
G10L 19/00-99/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内の音響をシミュレートする音響シミュレーション装置であって、
前記車両の2箇所以上であるNp箇所の部位にそれぞれ仮想スピーカーがあるとして、前記室内の聴取位置における立体音の収音信号に基づいて、前記Np箇所の仮想スピーカーに前記立体音を再現させる仮想再現信号を生成する仮想再現信号生成部と、
前記仮想再現信号、及び、前記Np箇所の部位の少なくとも一部を変更した時の音響特性の変化を表す情報に基づいて、前記聴取位置において予測される予測音を前記Np箇所の仮想スピーカーに出力させる仮想予測信号を生成する仮想予測信号生成部と、
前記仮想予測信号に基づいて、複数箇所のスピーカーに前記予測音を出力させる出力信号を生成する出力信号生成部と、を備える音響シミュレーション装置。
【請求項2】
前記仮想再現信号生成部は、
前記収音信号を複数の収音指向特性の第一エンコード信号に変換する第一フォーマット変換部と、
前記第一エンコード信号に基づいて前記仮想再現信号を生成する第一デコード部と、を有し、
前記出力信号生成部は、
前記仮想予測信号を前記複数の収音指向特性の第二エンコード信号に変換する第二フォーマット変換部と、
前記第二エンコード信号に基づいて前記出力信号を生成する第二デコード部と、を有する、請求項1に記載の音響シミュレーション装置。
【請求項3】
前記仮想スピーカーの設定箇所の数Npは、前記スピーカーの設置箇所の数よりも多い、請求項1又は請求項2に記載の音響シミュレーション装置。
【請求項4】
前記仮想スピーカーの設定箇所を受け付ける仮想スピーカー設定箇所受付部をさらに備える、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の音響シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の室内の音響をシミュレートする音響シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車室の音響を予測するため、車室の音響のコンピューターシミュレーションが行われている。
また、特開平9-149491号公報には、音響を立体的に再現する技術が開示されている。この技術では、正四面体の頂点となる位置にそれぞれ設置されたマイクにより4方向の録音が行われ、正四面体の頂点となる位置にそれぞれ設置されたスピーカーから立体音が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-149491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、車室の音響を立体的に予測することは、行われていない。車室の立体音をシミュレートすることができると、車室の音響を精度よく評価することができる。
【0005】
本発明は、車両の室内の立体音を精度よくシミュレートすることが可能な音響シミュレーション装置を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の音響シミュレーション装置は、車両の室内の音響をシミュレートする音響シミュレーション装置であって、
前記車両の2箇所以上であるNp箇所の部位にそれぞれ仮想スピーカーがあるとして、前記室内の聴取位置における立体音の収音信号に基づいて、前記Np箇所の仮想スピーカーに前記立体音を再現させる仮想再現信号を生成する仮想再現信号生成部と、
前記仮想再現信号、及び、前記Np箇所の部位の少なくとも一部を変更した時の音響特性の変化を表す情報に基づいて、前記聴取位置において予測される予測音を前記Np箇所の仮想スピーカーに出力させる仮想予測信号を生成する仮想予測信号生成部と、
前記仮想予測信号に基づいて、複数箇所のスピーカーに前記予測音を出力させる出力信号を生成する出力信号生成部と、を備える、態様を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の室内の立体音を精度よくシミュレートすることが可能な音響シミュレーション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1はアンビソニックマイクロフォンが設置された自動車の内装の例を側面部の図示が省略された状態で模式的に示す図。
図2図2は音響シミュレーション装置の例を模式的に示す図。
図3図3は音響シミュレーション装置の信号処理の例を模式的に示すブロック図。
図4図4は音響シミュレーション装置の制御部の構成例を周辺部とともに模式的に示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0010】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~4に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0011】
[態様1]
本技術の一態様に係る音響シミュレーション装置1は、車両(例えば自動車100)の室内SP0の音響をシミュレートする音響シミュレーション装置1であって、仮想再現信号生成部U1、仮想予測信号生成部U2、及び、出力信号生成部U3を備える。前記仮想再現信号生成部U1は、前記車両(100)の2箇所以上であるNp箇所の部位にそれぞれ仮想スピーカーVS0があるとして、前記室内SP0の聴取位置120における立体音の収音信号SG1に基づいて、前記Np箇所の仮想スピーカーVS0に前記立体音を再現させる仮想再現信号SG3を生成する。前記仮想予測信号生成部U2は、前記仮想再現信号SG3、及び、前記Np箇所の部位の少なくとも一部を変更した時の音響特性の変化を表す情報(例えば音響特性変化情報IM1)に基づいて、前記聴取位置120において予測される予測音を前記Np箇所の仮想スピーカーVS0に出力させる仮想予測信号SG4を生成する。前記出力信号生成部U3は、前記仮想予測信号SG4に基づいて、複数箇所のスピーカー300に前記予測音を出力させる出力信号SG6を生成する。
【0012】
上記態様1では、Np箇所の部位の少なくとも一部を変更した時の音響特性の変化が精度よく反映された予測音を出力させる出力信号SG6が生成される。従って、本態様は、車両の室内の立体音を精度よくシミュレートすることが可能な音響シミュレーション装置を提供することができる。
【0013】
ここで、信号は、データを表現するために用いられる物理量の変化を意味し、例えば、デジタルデータで表現される。
収音信号には、アンビソニックマイクロフォンにより収音されたAフォーマット信号等を用いることができる。
仮想再現信号は、Np箇所の仮想スピーカーの位置に実際にスピーカーがあるとすれば該スピーカーにより聴取位置に元の立体音が再現されるような信号を意味する。
仮想予測信号は、Np箇所の仮想スピーカーの位置に実際にスピーカーがあるとすれば該スピーカーにより聴取位置に予測音が出力されるような信号を意味する。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0014】
[態様2]
図3,4に例示するように、前記仮想再現信号生成部U1は、前記収音信号SG1を複数の収音指向特性(例えば成分W,X,Y,Z)の第一エンコード信号SG2に変換する第一フォーマット変換部U11を有していてもよく、前記第一エンコード信号SG2に基づいて前記仮想再現信号SG3を生成する第一デコード部U12を有していてもよい。前記出力信号生成部U3は、前記仮想予測信号SG4を前記複数の収音指向特性(W,X,Y,Z)の第二エンコード信号SG5に変換する第二フォーマット変換部U31を有していてもよく、前記第二エンコード信号SG5に基づいて前記出力信号SG6を生成する第二デコード部U32を有していてもよい。本態様は、第一エンコード信号SG2の複数の収音指向特性(W,X,Y,Z)が第二エンコード信号SG5の複数の収音指向特性(W,X,Y,Z)と同じであるので、第一フォーマット変換部U11の変換処理、及び、第二フォーマット変換部U31の変換処理を簡素化させることができる。また、第一デコード部U12の信号生成処理、及び、第二デコード部U32の信号生成処理も簡素化させることができる。従って、本態様は、信号処理を簡素化させた音響シミュレーション装置を提供することができる。
【0015】
ここで、「第一」及び「第二」は、類似する構成要素が複数有る場合にこれら複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するために使用している用語であり、順序を意味しない。
第一エンコード信号及び第二エンコード信号には、アンビソニックスのBフォーマット信号等を用いることができる。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0016】
[態様3]
前記仮想スピーカーVS0の設定箇所の数Npは、前記スピーカー300の設置箇所の数Nsよりも多くてもよい。この態様は、車両の室内の立体音をさらに精度よくシミュレートする音響シミュレーション装置を提供することができる。
【0017】
[態様4]
図3,4に例示するように、本音響シミュレーション装置1は、前記仮想スピーカーVS0の設定箇所を受け付ける仮想スピーカー設定箇所受付部U4をさらに備えていてもよい。この態様は、車両に応じた室内の立体音をシミュレートすることが容易な音響シミュレーション装置を提供することができる。
【0018】
また、本技術は、前記音響シミュレーション装置を含む複合装置、音響シミュレーション方法、前記複合装置の制御方法、音響シミュレーションプログラム、前記複合装置の制御プログラム、前記音響シミュレーションプログラムや前記制御プログラムを記録したコンピューター読み取り可能な媒体、等に適用可能である。前記音響シミュレーション装置や前記複合装置は、分散した複数の部分で構成されてもよい。
【0019】
(2)音響シミュレーション装置の具体例:
図1は、アンビソニックマイクロフォンAM0が設置された自動車100の内装110を側面部の図示が省略された状態で模式的に例示している。図1の下部には、アンビソニックマイクロフォンAM1,AM2を総称するアンビソニックマイクロフォンAM0の拡大図を示している。図1中、FRONT、REAR、UP、DOWNは、それぞれ、前、後、上、下を示す。左右の位置関係は、自動車100から前を見る方向を基準とする。また、Z方向は自動車100の前後方向を示し、X方向は自動車100の上下方向を示している。むろん、各部の位置関係の説明は、例示に過ぎない。
【0020】
図1に示す自動車100は、道路上で使用されるように設計及び装備された路上走行自動車とされ、例えば、鋼板製といった金属製の車体パネルが車室SP1及び荷室SP2を囲んで車体を形成している。本技術を適用可能な自動車は、ステーションワゴン等のように車室SP1と荷室SP2が繋がった自動車に限定されず、セダン等のように車室SP1と荷室SP2が分離している自動車も含まれる。尚、車室SP1と荷室SP2を室内SP0と総称する。
【0021】
自動車100の車体パネルには、室内SP0側において種々の内装材、例えば、内装材111~116が配置されている。車室SP1から下方にあるフロアパネル(車体パネルの例)には、車室SP1に面しているフロアカーペット111が設置されている。車室SP1から側方にあるドアパネル(車体パネルの例)には、車室SP1に面しているドアトリム112が設置されている。同じく車室SP1から側方にあるピラー(車体パネルの例)には、車室SP1側に面しているピラートリム113が設置されている。ピラートリムは、ピラーガーニッシュとも呼ばれる。車室SP1及び荷室SP2から上方にあるルーフパネル(車体パネルの例)には、車室SP1及び荷室SP2に面しているルーフトリム114が設置されている。荷室SP2から側方にあるデッキサイドパネル(車体パネルの例)には、荷室SP2に面しているデッキサイドトリム115が設置されている。車室SP1から前方にあるインストルメントパネル(車体パネルの例)には、車室SP1に面しているインストルメントパネル内装材116が設置されている。
【0022】
車室SP1には、運転席と助手席を総称する前席101、及び、前席101の背後に配置された後席102が配置されている。運転席に座る運転手の頭部に合わせた位置にアンビソニックマイクロフォンAM1が配置され、運転席の背後における後席102に座る乗員の頭部に合わせた位置にアンビソニックマイクロフォンAM2が配置されている。アンビソニックマイクロフォンAM1の位置は運転席に座る運転手の聴取位置120であり、アンビソニックマイクロフォンAM2の位置は運転席の背後における後席102に座る乗員の聴取位置120である。むろん、アンビソニックマイクロフォンAM1は助手席に座る乗員の頭部に合わせた位置に配置されてもよいし、アンビソニックマイクロフォンAM2は助手席の背後における後席102に座る乗員の頭部に合わせた位置に配置されてもよい。
【0023】
図1の下部に示すように、アンビソニックマイクロフォンAM0は、正四面体の各面に対して外向きとなる向きの4個のマイクロフォンカプセルAMcを有している。各カプセルAMcは、空気中を伝播してきた音を電気信号に変換する。アンビソニックマイクロフォンAM0は、各カプセルAMcからの電気信号をデジタルの個別収音信号M1~M4(図3参照)に変換する。図3に例示するように、個別収音信号M1~M4をまとめて収音信号SG1と呼ぶことにする。収音信号SG1は、4方向からの音を収音することにより得られるデジタルの電気信号であり、室内SP0の聴取位置120における立体音の収音信号である。
【0024】
図2は、模擬的な自動車200を含む音響シミュレーション装置1を模式的に例示している。模擬的な自動車200は、自動車100の前席101に対応する前席201、及び、自動車100の後席102に対応する後席202を備えている。音響シミュレーション装置1は、16個のスピーカー300を備えている。16個のスピーカー300は、前席201の聴取位置120に立体音を再現させるための8個のスピーカー300、及び、後席202の聴取位置120に立体音を再現させるための8個のスピーカー300を含んでいる。図示の都合上、前席201用のスピーカー300は4個しか示されておらず、後席202用のスピーカー300は4個しか示されていない。前席201用の8個のスピーカー300は、前席201の聴取位置120から見て、前方左斜め上、前方右斜め上、後方左斜め上、後方右斜め上、前方左斜め下、前方右斜め下、後方左斜め下、及び、後方右斜め下に配置されている。後席202用の8個のスピーカー300も、後席202の聴取位置120から見て、前方左斜め上、前方右斜め上、後方左斜め上、後方右斜め上、前方左斜め下、前方右斜め下、後方左斜め下、及び、後方右斜め下に配置されている。
【0025】
音響シミュレーション装置1は、さらに、前席201を基準として前方から両側方にかけて配置された曲面ディスプレイ211を有する映像表示装置210、座席201,202から下方に配置された振動装置220、及び、制御部10を備えている。映像表示装置210は、自動車の仮想的な走行時の映像をディスプレイ211に表示する。振動装置220は、自動車の仮想的な走行時のZ方向への振動を座席201,202に加える。制御部10は、自動車の仮想的な走行時の立体音を複数のスピーカー300に出力させ、自動車の仮想的な走行時の映像を映像表示装置210に表示させ、自動車の仮想的な走行時のZ方向への振動を振動装置220に生じさせる。制御部10は、スピーカー300による立体音の出力、映像表示装置210による映像表示、及び、振動装置220による振動出力を同期させる。自動車走行時の映像及び振動を立体音と同時に再生することにより、音響シミュレーション装置1の利用者は臨場感に優れた体感を得ることができる。
【0026】
図3は、音響シミュレーション装置1の信号処理を模式的に例示している。この信号処理は、前席101用のアンビソニックマイクロフォンAM1から得られる個別収音信号M1~M4、及び、後席102用のアンビソニックマイクロフォンAM2から得られる個別収音信号M1~M4に対して独立して行われる。本具体例において、スピーカー300の設置箇所の数Ns(整数)は、8個である。前席101を対象とした信号処理により得られる個別出力信号S1~SNsは、前席201用の8個のスピーカー300に出力される。後席102を対象とした信号処理により得られる個別出力信号S1~SNsは、後席202用の8個のスピーカー300に出力される。図3に例示するように、個別出力信号S1~SNsをまとめて出力信号SG6と呼ぶことにする。
【0027】
図3に示す音響シミュレーション装置1は、シミュレートされた立体音を複数のスピーカー300から出力させる出力信号SG6を収音信号SG1から生成するため、仮想再現信号生成部U1、仮想予測信号生成部U2、出力信号生成部U3、及び、仮想スピーカー設定箇所受付部U4を備えている。仮想再現信号生成部U1は、収音信号SG1を第一エンコード信号SG2に変換する第一フォーマット変換部U11、及び、第一エンコード信号SG2を仮想再現信号SG3に変換する第一デコード部U12を含んでいる。仮想予測信号生成部U2は、仮想再現信号SG3と音響特性変化情報IM1に基づいて仮想予測信号SG4を生成する。出力信号生成部U3は、仮想予測信号SG4を第二エンコード信号SG5に変換する第二フォーマット変換部U31、及び、第二エンコード信号SG5を出力信号SG6に変換する第二デコード部U32を含んでいる。図3に示す音響シミュレーション装置1はアンビソニックスを利用しており、フォーマット変換部U11,U31はAフォーマット信号をBフォーマット信号に変換する。Bフォーマットの第一エンコード信号SG2からNp箇所の仮想スピーカーVS0に割り当てられた仮想再現信号SG3を仮想予測信号生成部U2がAフォーマットの仮想予測信号SG4に変換することにより、室内SP0の立体音が精度よくシミュレートされる。
【0028】
まず、図4を参照して、音響シミュレーション装置1の制御部10の構成例を説明する。図4は、制御部10の構成を周辺部とともに模式的に例示している。
制御部10は、プロセッサーであるCPU(Central Processing Unit)11、半導体メモリーであるROM(Read Only Memory)12、半導体メモリーであるRAM(Random Access Memory)13、タイマー(Timer)14、記憶装置15、入力装置16、出力装置17、I/F(インターフェイス)18、等を有する。各部11~18は、互いに情報を入出力可能に接続されている。記憶装置15は、オペレーティングシステム、音響シミュレーションプログラム、収音信号SG1、第一エンコード信号SG2、音響特性変化情報IM1、等を記憶している。CPU11は、RAM13をワークエリアとして使用しながらオペレーティングシステムと音響シミュレーションプログラムを実行することにより、仮想再現信号生成部U1、仮想予測信号生成部U2、出力信号生成部U3、及び、仮想スピーカー設定箇所受付部U4を有する制御部10としてコンピューターを機能させる。これにより、制御部10は音響シミュレーション装置1の動作を制御し、音響シミュレーション方法が実施される。記憶装置15は、コンピューターを音響シミュレーション装置1として機能させる音響シミュレーションプログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体となる。
【0029】
入力装置16は、仮想スピーカーVS0の設定箇所の入力といった種々の入力を受け付ける。入力装置16には、ポインティングデバイス、キーボード、タッチパネル、等を用いることができる。出力装置17は、仮想スピーカーVS0の設定箇所の表示といった種々の出力を受け付ける。出力装置17には、液晶ディスプレイといった表示装置、音声出力装置、プリンター、等を用いることができる。I/F18は、アンビソニックマイクロフォンAM0からの収音信号SG1の入力、複数のスピーカー300に対する出力信号SG6の出力、映像表示装置210に対する映像信号の出力、振動装置220に対する駆動信号の出力、等、周辺装置に対する通信を行う。尚、アンビソニックマイクロフォンAM0による収音信号SG1は記憶装置15に記憶されるため、音響をシミュレートする時に制御部10とアンビソニックマイクロフォンAM0とが接続されている必要は無い。
【0030】
図3に戻って、音響シミュレーション装置1の信号処理を詳細に説明する。上述したように前席101を対象とした信号処理と後席102を対象とした信号処理とは独立して行われるので、前席101を対象とした信号処理を例として説明する。
【0031】
収音信号SG1は、前席101に座る乗員の頭部に合わせた聴取位置120における立体音を収音することにより得られるAフォーマット信号である。アンビソニックマイクロフォンAM1のカプセルAMcの数Nmは4個であるので、収音信号SG1を構成する個別収音信号Miは4つある。ここで、変数iは、個別収音信号を識別する変数であり、1からNmまでの整数をとり得る。尚、数Nmは、4に限定されず、5以上でもよい。第一フォーマット変換部U11は、Aフォーマットの収音信号SG1を複数の収音指向特性(成分W,X,Y,Z)の第一エンコード信号SG2に変換し、記憶装置15に記憶する。収音信号SG1が変わらない限り、第一エンコード信号SG2から出力信号SG6を生成する処理が行われてもよい。
【0032】
第一エンコード信号SG2は、無指向性の0次成分W、前後方向の1次成分X、左右方向の1次成分Y、及び、上下方向の1次成分Zを含むBフォーマット信号である。ここで、1次成分Xは図1,2におけるX方向に対応し、1次成分Zは図1,2におけるZ方向に対応している。個別収音信号Miから第一エンコード信号SG2の成分W,X,Y,Zへは、公知の換算式により変換することができる。例えば、西村竜一、「アンビソニックス」、映像情報メディア学会誌、映像情報メディア学会、2014年8月、第68巻、第8号、p.616-620には、左前方の上向きのマイクロフォンカプセルによる信号LF、左後方の下向きのマイクロフォンカプセルによる信号LB、右前方の下向きのマイクロフォンカプセルによる信号RF、及び、右後方の上向きのマイクロフォンカプセルによる信号RBからBフォーマット信号の成分X,Y,Z,Wへの換算式が示されている。
X=LF-RB+RF-LB (1)
Y=LF-RB-RF+LB (2)
Z=LF-LB+RB-RF (3)
W=LB-LF+RF-RB (4)
図1に示す4個のマイクロフォンカプセルAMcの向きが上述の向きである場合、換算式(1)~(4)に従って個別収音信号M1~M4を成分W,X,Y,Zに変換することができる。
【0033】
第一デコード部U12は、自動車100のNp箇所の部位にそれぞれ仮想スピーカーVS0があるとして、聴取位置120における立体音をNp箇所の仮想スピーカーVS0に再現させる仮想再現信号SG3を第一エンコード信号SG2に基づいて生成する。仮想スピーカーVS0の設定箇所は、図1で示した内装材111~116といった内装110の各部位である。また、フロアカーペット111における異なる箇所にそれぞれ仮想スピーカーVS0が設定される等、各内装材111~116の中で異なる箇所にそれぞれ仮想スピーカーVS0が設定されてもよい。仮想再現信号SG3を構成する個別仮想再現信号Pjの数は、Npである。ここで、変数jは、個別仮想再現信号P1~PNpを識別する変数であり、1からNpまでの整数をとり得る。仮想スピーカーVS0の設定箇所の数Npは、2以上であればよいが、室内SP0の立体音を精度よくシミュレートする点から、4以上が好ましく、個別収音信号Miの数Nmよりも多い方がより好ましく、実際のスピーカー300の設置箇所の数Nsよりも多い方がさらに好ましい。Np個の仮想スピーカーVS0の設定箇所は、同一平面に無い方が好ましい。
【0034】
模擬的な自動車200におけるNp箇所の仮想スピーカーVS0の設定箇所は、仮想スピーカー設定箇所受付部U4により変更可能である。仮想スピーカー設定箇所受付部U4は、出力装置17、例えば、表示装置に模擬的な自動車を表す画面を聴取位置120とともに表示し、画面の中から入力装置16、例えば、ポインティングデバイスによる操作を受け付けることにより仮想スピーカーVS0の設定箇所を受け付ける。これにより、車両に応じた室内SP0の立体音をシミュレートすることが容易となる。仮想スピーカー設定箇所受付部U4は、仮想スピーカーVS0の設定箇所を2箇所以上、より好ましくは4箇所以上、さらに好ましくはNs箇所以上、受け付けることが可能である。
【0035】
第一エンコード信号SG2の成分W,X,Y,Zから個別仮想再現信号Pjへは、各仮想スピーカーVS0の設定箇所から聴取位置120までのベクトルに応じた換算式により変換することができる。
Pj=wj・W+xj・X+yj・Y+zj・Z (5)
ここで、成分W,X,Y,Zに対する係数wj,xj,yj,zjは、変数jに対応する仮想スピーカーVS0の設定箇所から聴取位置120までのベクトルに応じた値である。
【0036】
参考として、仮想的な立方体の中心に聴取位置120があり、この聴取位置120から見て、前方左斜め上、前方右斜め上、後方左斜め上、後方右斜め上、前方左斜め下、前方右斜め下、後方左斜め下、及び、後方右斜め下の頂点にそれぞれ仮想スピーカーVS0が設置されていると仮定する。各仮想スピーカーVS0に割り当てる個別仮想再現信号をLFU,RFU,LBU,RBU,LFD,RFD,LBD,RBDとすると、上述した文献である「アンビソニックス」に示された換算式を適用することができる。
FU=W+0.707(X+Y+Z) (6)
FU=W+0.707(X-Y+Z) (7)
BU=W+0.707(-X+Y+Z) (8)
BU=W+0.707(-X-Y+Z) (9)
FD=W+0.707(X+Y-Z) (10)
FD=W+0.707(X-Y-Z) (11)
BD=W+0.707(-X+Y-Z) (12)
BD=W+0.707(-X-Y-Z) (13)
【0037】
仮想予測信号生成部U2は、聴取位置120において予測される予測音をNp箇所の仮想スピーカーVS0に出力させる仮想予測信号SG4を仮想再現信号SG3と音響特性変化情報IM1に基づいて生成する。音響特性変化情報IM1は、自動車100のNp箇所の部位の少なくとも一部を変更した時の音響特性の変化を表す情報であり、例えば、コンピューターシミュレーションにより得られる。各部位の音響特性は、図3に示すように、周波数f(単位:Hz)とSPL(音圧レベル)(単位:dB)との対応関係を表すデータ、例えば、1/3オクターブバンド毎の周波数帯域に対するSPLを示すデータにより表される。音響特性変化情報IM1は、基準仕様との差を表す情報といえ、乗員の頭部に対して各部位の方向から周波数毎の音圧が基準仕様からどれだけ上下したかを表す情報といえる。
【0038】
仮想予測信号生成部U2は、自動車における内装材等の諸元を変更した時の解析をコンピューターシミュレーションにより行うことが可能であり、立体音について基準仕様との差を予測する。
仮想予測信号生成部U2は、自動車における内装材や座席といった部材のそれぞれの位置、部材のそれぞれの形状を表すデータ、等といった室内SP0の構造を表す車両モデルを有している。また、仮想予測信号生成部U2は、様々な条件で自動車100を走行させた時に得られる音響特性を表す実車データベースも有している。さらに、仮想予測信号生成部U2は、自動車の部材毎に音の吸音率の特性、音の反射率の特性、流れ抵抗、損失係数、等といった音響に関する特性を表す部材データベースを有している。ここで、前述の部材は、フロアカーペット111に適用可能な複数の種類の部材といった、同じ部位に適用可能な複数の種類の部材を含む。仮想予測信号生成部U2は、実車データベースと部材データベースに格納されているデータのうち利用者の希望に応じた組合せのデータを車両モデルに適用するコンピューターシミュレーションにより音響特性変化情報IM1を求めることが可能である。
【0039】
また、簡単な例として、仮想予測信号生成部U2は、或る条件で自動車100を走行させた時にNp箇所の部位について音響特性CH0を表すデータを取得し、或る部材を別の種類に変えた自動車100を走行させた時にNp箇所の部位について音響特性CH1を表すデータを取得し、音響特性CH0,CH1の差からNp箇所の音響特性変化情報IM1を求めてもよい。フロアカーペット111のみ種類を変えた場合の音響特性変化情報、ドアトリム112のみ種類を変えた場合の音響特性変化情報、等を求めることにより、多くの音響特性変化情報IM1が求められる。より簡単な例としては、部材の種類が変わった部位のみ音響特性変化情報IM1を求め、部材の種類が変わっていない部位の音響特性は変化しないとして扱ってもよい。
【0040】
仮想予測信号生成部U2は、内装材111~116といった内装110の各部材の種類の変更を受け付け可能である。仮想予測信号生成部U2は、出力装置17、例えば、表示装置に模擬的な自動車を表す画面を表示し、画面の中から入力装置16、例えば、ポインティングデバイスによる操作を受け付けることにより部材の選択、及び、当該部材の種類の変更を受け付ける。仮想予測信号生成部U2は、実車データベースと部材データベースに格納されているデータの内、選択された部材の変更前の音響特性を示すデータ、及び、選択された部材の変更後の音響特性を示すデータを車両モデルに適用するコンピューターシミュレーションにより各部位の音響特性変化情報IM1を求める。これにより、利用者の多様な要望に応じた音響のシミュレーションが行われる。
例えば、上述した画面で利用者がフロアカーペット111を選択する操作を入力装置16により行い、フロアカーペット111を元の種類(種類C0とする。)から別の種類(種類C1とする。)に変更する操作を入力装置16により行ったものとする。この場合、仮想予測信号生成部U2は、フロアカーペット111が元の種類C0である場合の音響特性CH0と別の種類C1である場合の音響特性CH1との差を各部位について表す音響特性変化情報IM1を求めることになる。
【0041】
仮想再現信号SG3と音響特性変化情報IM1に基づいて生成される仮想予測信号SG4を構成する個別仮想予測信号Qjの数も、Npである。すなわち、1からNpまでの整数をとり得る変数jは、個別仮想予測信号Q1~QNpを識別する変数でもある。個別仮想予測信号Qjは、元の個別仮想再現信号Pjから音響特性変化情報IM1に応じて変化した信号となる。簡単な例として、仮想予測信号生成部U2は、部材の種類の変更が受け付けられた部位にある仮想スピーカーVS0に予測音を出力させる個別仮想予測信号Qjのみ、元の個別仮想再現信号Pjから音響特性変化情報IM1に応じて変化させた信号にしてもよい。この場合、部材の種類が変わっていない部位にある仮想スピーカーVS0に予測音を出力させる個別仮想予測信号Qjは、元の個別仮想再現信号Pjのままでもよい。
【0042】
Np個の仮想スピーカーVS0に予測音を出力させる仮想予測信号SG4は、前席101に座る乗員の頭部に合わせた聴取位置120における予測音に対応するAフォーマット信号といえる。第二フォーマット変換部U31は、Aフォーマットの仮想予測信号SG4を複数の収音指向特性(成分W,X,Y,Z)の第二エンコード信号SG5に変換する。
【0043】
第二エンコード信号SG5も、無指向性の0次成分W、前後方向の1次成分X、左右方向の1次成分Y、及び、上下方向の1次成分Zを含むBフォーマット信号である。個別仮想予測信号Q1~QNpから第二エンコード信号SG5の成分W,X,Y,Zへは、各仮想スピーカーVS0の設定箇所から聴取位置120までのベクトルに応じた換算式により変換することができる。
【数1】
ここで、個別仮想予測信号Qjに対する係数qxj,qyj,qzj,qwjは、変数jに対応する仮想スピーカーVS0の設定箇所から聴取位置120までのベクトルに応じた値である。
【0044】
第二デコード部U32は、Ns箇所のスピーカー300に予測音を出力させる出力信号SG6を第二エンコード信号SG5に基づいて生成する。出力信号SG6を構成する個別出力信号Skの数は、Nsである。ここで、変数kは、個別出力信号S1~SNsを識別する変数であり、1からNsまでの整数をとり得る。スピーカー300の数Nsは、立体的な予測音を精度よく出力する点から、4以上が好ましい。Ns個のスピーカー300の設置箇所は、同一平面に無い方が好ましい。
【0045】
第二エンコード信号SG5の成分W,X,Y,Zから個別出力信号S1~SNsへは、各スピーカー300の設置箇所から聴取位置120までのベクトルに応じた換算式により変換することができる。
Sk=wk・W+xk・X+yk・Y+zk・Z (18)
ここで、成分W,X,Y,Zに対する係数wk,xk,yk,zkは、変数kに対応するスピーカー300の設置箇所から聴取位置120までのベクトルに応じた値である。
【0046】
参考として、仮想的な立方体の中心に聴取位置120があり、この聴取位置120から見て、前方左斜め上、前方右斜め上、後方左斜め上、後方右斜め上、前方左斜め下、前方右斜め下、後方左斜め下、及び、後方右斜め下の頂点にそれぞれスピーカー300が設置されていると仮定する。各スピーカー300に割り当てる個別出力信号をLFU,RFU,LBU,RBU,LFD,RFD,LBD,RBDとすると、上述した文献である「アンビソニックス」に示された換算式を適用することができる。
FU=W+0.707(X+Y+Z) (19)
FU=W+0.707(X-Y+Z) (20)
BU=W+0.707(-X+Y+Z) (21)
BU=W+0.707(-X-Y+Z) (22)
FD=W+0.707(X+Y-Z) (23)
FD=W+0.707(X-Y-Z) (24)
BD=W+0.707(-X+Y-Z) (25)
BD=W+0.707(-X-Y-Z) (26)
【0047】
以上、前席101を対象とした信号処理を説明したが、後席102を対象とした信号処理も上述した信号処理と同様に行われる。
【0048】
上述した具体例では、まず、Bフォーマットの成分W,X,Y,Zを有する第一エンコード信号SG2に基づいてNp箇所の仮想スピーカーVS0に立体音を再現させる個別仮想再現信号P1~PNpが生成される。仮想再現信号SG3を構成する個別仮想再現信号P1~PNpは、Np箇所の部位の少なくとも一部を変更した時の音響特性の変化を表す音響特性変化情報IM1に基づいて個別仮想予測信号Q1~QNpに変換される。仮想予測信号SG4を構成する個別仮想予測信号Q1~QNpは、Bフォーマットの成分W,X,Y,Zを有する第二エンコード信号SG5を経てNs箇所のスピーカー300に予測音を出力させる個別出力信号S1~SNsに変換される。出力信号SG6を構成する個別出力信号S1~SNsは、Np箇所の部位の少なくとも一部を変更した時の音響特性の変化が精度よく反映された予測音をNs箇所のスピーカー300に出力させる。
【0049】
以上により、Np箇所の仮想スピーカーVS0に対応する設定箇所からの音の変化がコンピューターシミュレーション等により予測され、Ns箇所のスピーカー300から立体的な予測音が出力される。これにより、利用者は、聴取位置120においてコンピューターシミュレーション等の予測結果を臨場感のある立体音として体感することができる。このため、利用者は、部材を実際に作製したり実際の自動車の部材を組み換えたりしなくても、予測音又は出力信号SG6に基づいて部材をスピーディーに開発することができる。また、利用者は予測音を繰り返し聴くことができるので、実際の自動車を用いた官能評価では判断し難い小さな変化が分かり易くなる。
【0050】
(3)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
上述した具体例では前席用の信号処理と後席用の信号処理の2系統の信号処理を行ったが、例えば、前席について運転席用の信号処理と助手席用の信号処理とを別々に行ってもよい。この場合、音響シミュレーション装置は、運転席用のNs箇所のスピーカー300と助手席用のNs箇所のスピーカー300とを備えていてもよい。後席についても、運転席後方の席のための信号処理と助手席後方の席のための信号処理とを別々に行ってもよい。むろん、音響シミュレーション装置は、前席用の信号処理のみ行ってもよいし、後席用の信号処理のみ行ってもよい。
【0051】
収音信号SG1から仮想再現信号SG3を生成する処理は、Bフォーマットの第一エンコード信号SG2を介する処理に限定されない。例えば、個別収音信号M1~M4から個別仮想再現信号P1~PNpへの換算式を用いて収音信号SG1から仮想再現信号SG3を直接生成することも可能である。
仮想予測信号SG4から出力信号SG6を生成する処理は、Bフォーマットの第二エンコード信号SG5を介する処理に限定されない。例えば、個別仮想予測信号Q1~QNpから個別出力信号S1~SNsへの換算式を用いて仮想予測信号SG4から出力信号SG6を直接生成することも可能である。
【0052】
(4)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、車両の室内の立体音を精度よくシミュレートすることが可能な音響シミュレーション装置等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
図1
図2
図3
図4