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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】トラジピタントを用いる処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/444 20060101AFI20231226BHJP
   A61P 25/36 20060101ALI20231226BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K31/444
A61P25/36
A61K9/20
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021518043
(86)(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 US2019035799
(87)【国際公開番号】W WO2019236852
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】62/682,831
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】313006588
【氏名又は名称】バンダ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】VANDA PHARMACEUTICALS INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】520485033
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ケンタッキー リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ポリメロパウロス、ミハエル、エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】バージニックス、グンター、ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ウォルシュ、シャロン
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-536458(JP,A)
【文献】特表2018-507243(JP,A)
【文献】J Pharmacol Exp Ther,2014年,Vol.351,pp.2-8
【文献】Neuropsychopharmacology,2013年,Vol.38,pp.976-984
【文献】Psychopharmacology,2012年,Vol.220,pp.215-224
【文献】Nature,2000年,Vol.405,pp.180-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/444
A61P 25/36
A61K 9/20
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるオピオイド薬に対する欲求を減少させるための組成物であって、前記組成物はトラジピタントを含み、150~400mg/日のトラジピタントの用量で投与される、組成物。
【請求項2】
前記用量が、前記トラジピタントの血漿中濃度レベル175ng/mL以上に到達させ、及び、維持することに有効である、請求項に記載の組成物
【請求項3】
前記血漿中濃度レベルは00ng/mL以上である、請求項に記載の組成物
【請求項4】
前記血漿中濃度レベルは25ng/mL以上である、請求項に記載の組成物
【請求項5】
前記用量は150~300mg/日である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の組成物
【請求項6】
前記用量は150~200mg/日である、請求項に記載の組成物
【請求項7】
前記用量は70mg/日である、請求項に記載の組成物
【請求項8】
前記用量は一日二回(bid)85mgである、請求項に記載の組成物
【請求項9】
前記用量は85mg12時間毎(Q12H)である、請求項に記載の組成物
【請求項10】
前記個体はオピオイド経験済みである、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
前記個体はオピオイド使用障害(OUD)と診断されている、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
速放性固体剤形で投与される、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
徐放性固体剤形で投与される、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項14】
前記トラジピタントはIV型又はV型の結晶である、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項15】
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している、請求項1~請求項14のいずれか一項に記載の組成物
【請求項16】
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を経験するリスクを有する、請求項1~請求項14のいずれか一項に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2018年6月8日に出願された米国仮特許出願番号62/682,831号の利益を主張し、該米国仮特許出願はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
本願は、概して、NK-1受容体アンタゴニストの使用に関する。より具体的には、本願は、オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している又は経験する可能性が高い個体の治療のための、NK-1受容体アンタゴニストであるトラジピタントの使用に関する。
【0003】
トラジピタント(つまり、2-[1-[[3,5-ビス(トリフロオロメチル)フェニル]メチル]-5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル]-3-ピリジニル](2-クロロフェニル)-メタノン)、あるいは、{2-[1-(3,5-ビストリフルオロメチルベンジル)-5-ピリジン-4-イル-1H-[1,2,3]トリアゾール-4-イル]-ピリジン-3-イル}-(2-クロロフェニル)-メタノン)及びその医薬的に許容可能な酸付加塩(本明細書においてはまとめて「トラジピタント」と称す)は、高い効能を有し、選択的であり、中枢浸透性であり、かつ、経口で有効なNK-1受容体アンタゴニストとして知られており、その遊離塩基型は式Iの化合物として以下に示される。
【0004】
【化1】
【0005】
遊離塩基型トラジピタントの結晶形IV及びVは米国特許第7,381,826号に開示されている。
トラジピタントは、その遊離塩基型及び医薬的に許容可能な酸付加塩型の両方について、米国特許第7,320,994号においてタキキニン受容体活性化に関係した多くの障害の処置において有用であると記載されており、そのような障害としては、記載された非常に多数の疾患及び症状のうちの一つとして、アルコール依存症などの依存症が挙げられる。
【0006】
トラジピタントの医薬的使用は、国際特許出願公開番号WO2016/141341A1(掻痒)及びWO2019/055225A1(アトピー性皮膚炎)にさらに開示されている。WO2016/141341A1には、治療レジメンの期間、100ng/mL以上、125ng/mL以上、150ng/mL以上、175ng/mL以上、200ng/mL以上、及び225ng/mL以上のトラジピタント有効血漿中濃度レベルを達成するようにトラジピタントを投与するこがを記載され、また、トラジピタントを速放性固体剤形又は徐放性剤形で経口投与することにより、100~400mg/日、100~300mg/日、100~200mg/日、及び85mgを一日二回の用量でトラジピタントを投与することが記載されている。
【0007】
当分野で知られているように、オピオイドには、オピエート(例えば、ヘロイン及びモルヒネ等)と、オピエートではないオピオイド(例えば、オキシコドン、ヒドロコドン、及びフェンタニル等)の両方がある。同様に、オピオイドの用途も当分野で知られており、例えば、最も有名なものとして鎮痛剤がある。
【0008】
オピオイドは、種々の態様で用いられることが知られており、例えば認められている形での治療的使用があり、また、オピオイド乱用などの誤用がある。個体におけるオピオイド使用についてのこれらの態様は、時間と共に進展する可能性があることが知られており、例えば、個体は一つ又は複数の認められた治療的使用のためにオピオイド療法を始めたものの、その後、乱用など、オピオイドの誤用に移行してしまう可能性がある。
【0009】
乱用などの誤用は、個体の心理的又は身体的な健康又は幸福に対して、一つ又は複数の望まれない側面又は帰結をもたらすことが知られている。オピオイドへの渇望は、オピオイドの使用又は乱用の望まれない帰結であることが知られている。それは、オピオイドの使用又は乱用等の誤用の、主たる望まれない帰結を表しうる。オピオイドへの渇望は、オピオイドの使用又は乱用の望まれない帰結であることが知られている。それは、オピオイドの使用又は乱用等の誤用の、主たる望まれない帰結を表しうる。オピオイド乱用は有害な行動上の帰結を含むことも知られており、その例としては、他の個体に処方されたオピオイド物質の使用、処方された用量又は頻度とは異なる用量又は頻度でのオピオイド物質の使用、及び快楽の産生、ストレス軽減、若しくは現実改変若しくは現実逃避のためのオピオイドの反復使用が挙げられる。オピオイド使用の、他の知られている望まれない帰結としては、有害な、身体的、行動的、及び心理的変化があり、その例としては、眠気、精神錯乱、最初の多幸感の後の無感情、不安感、手を握りしめる(hand-wringing)、常同歩行(pacing)、及び制御されていない舌の動き等の意図的でない無目的な動き;遅延した認識及び動き、判断力の衰え、悪心、便秘、抑制された呼吸、不明瞭発語、時間と共に低下した鎮痛効果及びそれに伴う痛みの増大、増大した耐性(tolerance)、能力障害(disability)、再発(relapse)、及び死が挙げられる。オピオイドの誤用は、処方により合法的に入手可能なオピオイド薬の使用だけでなく、ヘロイン等の違法物質の非合法な獲得及び非合法な使用も含むことが知られている。
【0010】
オピオイドは、身体的依存を生み出すことが知られている。このような依存は離脱症状の現れを特徴とし、離脱症状の例としては、身体がオピオイド物質の不存在又は喪失に適応する間における、全身性疼痛、筋肉及び骨の痛み、悪寒、筋痙攣、散大瞳孔、落ち着きのなさ、不安、不眠及びその他の睡眠障害、悪心、下痢、嘔吐、突然の寒さ(cold flashes)、鳥肌立ち(goose bumps)、制御不能な脚の動き、並びに、強烈な渇望が挙げられる。オピオイドを使用又は乱用等誤用する個体は、オピオイド中毒であっても、オピオイド中毒でなくてもよい。オピオイド中毒は、望まれない帰結、例えば個人間の関係又は個人の財政に対する負の影響、が存在するにもかかわらず、オピオイドを使用する衝動をその個人が制御できないという結果をもたらすことが知られている。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、個体の処置に用いるためのトラジピタント、及び、オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している又は経験するリスクを有する個体を処置する方法を提供する。前記処置は、トラジピタントを前記個体に投与することを含み、具体的には処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLの血漿中濃度を達成するのに有効な用量で、又は100~400mg/日、100~300mg/日、100~200mg/日、150~400mg/日、150~300mg/日、150~200mg/日、若しくは約170mg/日の用量で前記個体にトラジピタントを投与することを含む。170mg/日の用量は、より具体的には85mgを1日2回でもよく、例えば12時間毎でもよい。
【0012】
オピオイドの使用は治療レジメンに従ったものでもよく、あるいは、オピオイド乱用の場合のようなオピオイドの誤用の形態を形成するものでもよい。処置される個体はその時までオピオイド未経験でもよく、オピオイド使用障害(OUD)と診断された個体のように、オピオイド経験済みであってもよい。本明細書においては、「個体」の語はヒトを指す。
【0013】
オピオイド使用の望まれない帰結は、オピオイドの投与への渇望として顕在していてもよく、それ以外の形でオピオイドの投与への渇望を含んでいてもよい。トラジピタント投与は、処置されている個体において、オピオイドへの渇望又は欲求の経験を減少又は除去する。上記のようなトラジピタント投与は、他の場合においては予防的性質のものでもよく、オピオイドを現在使用していて、それ故、該使用の望まれない帰結を経験するリスクがあるものの、該望まれない帰結をこれまでは経験していない個体に対して行ってもよい。
【0014】
上記の処置レジメンで使用するためのトラジピタントは、速放性固体剤形の製剤又は徐放性固体剤形の製剤により達成してもよく、前記製剤は経口投与用の医薬組成物の調製のための従来法を用いて調製される。具体的には、トラジピタントの遊離塩基型は、当分野で知られているIV型又はV型等のトラジピタント結晶形を用いて製剤化されてもよい。
本発明のこれら及びその他の観点、利点、及び顕著な特徴は、図面と併せて考慮したときに本発明の種々の実施形態を開示する以下の詳細な説明から明らかなものとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】オキシコドン投与の主観的帰結に対するトラジピタント処置の効果についての、本明細書に記載の試験の結果をグラフで示す。
図2】オキシコドン投与の主観的帰結に対するトラジピタント処置の効果についての、本明細書に記載の試験の結果をグラフで示す。
図3】オキシコドン投与の主観的帰結に対するトラジピタント処置の効果についての、本明細書に記載の試験の結果をグラフで示す。
図4】オキシコドン投与の主観的帰結に対するトラジピタント処置の効果についての、本明細書に記載の試験の結果をグラフで示す。
【発明の詳細な説明】
【0016】
本明細書に記載される本発明の種々の実施形態は、オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している又は経験するリスクを有する個体を、トラジピタントを該個体に投与することにより処置する方法、オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している個体の処置において使用するためのトラジピタント、並びに、トラジピタントを投与することにより個体におけるオピオイドへの欲求(つまり渇望)を減少させる方法、を含む。
オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している個体を処置する方法は、最初に、処置対象となる個体を特定することを含んでいてもよい。トラジピタントを用いた処置を適用する個体を決定することは、オピオイド乱用の望まれない帰結を現在経験している個体を特定するよう訓練された医療従事者により行うことができる。さらに、前記帰結に対処する介入の必要性について個体が自己判定をしてもよい。
【0017】
いくつかの実施形態においては、前記個体は、望まれない帰結を伴うオピオイド使用の事例の前にはオピオイドの経験が無い個体であってもよく、つまり、毎日又は定期的にオピオイドを処方された、投与された、又は自己投与歴が無い個体であってもよい。そのような個体としては、例えば、医療提供者によりオピオイド鎮痛剤を処方され、該オピオイド鎮痛剤を初めて用いている及び/又は定められた治療レジメンに従って用いている個体、又は何らかの理由でオピオイドの自己投与を最近始めた個体が挙げられる。他の実施形態では、前記個体はオピオイド経験済みでもよい、つまり、オピオイド使用歴があってもよい。さらなる実施形態においては、前記個体は高度なオピオイド経験があってもよく、オピオイド使用障害(OUD)と診断されていてもよい。
【0018】
本明細書に開示される方法は、オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している個体へのトラジピタントの投与であって、使用又は乱用等の誤用の特徴解析と整合する投与を含んでもよい。トラジピタントは、処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLのトラジピタント血漿中濃度を達成するのに有効な用量で前記個体に投与されてもよい。
【0019】
本明細書において、量に関連して用いられる修飾語「約」(例えば、「約175ng/mL以上」)は、記載された値を含み、文脈に応じた意味を有する(例えば、特定の量の測定に関連する誤差の程度を含む)。本明細書においてトラジピタント濃度の記載は、遊離塩基型のトラジピタントの濃度を表す。
【0020】
さらなる実施形態において、トラジピタントは、処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLのトラジピタント血漿中濃度の達成及び維持の両方に有効な用量で投与されてもよい。
【0021】
本明細書に開示された血漿中濃度レベルは、高用量を一日一回速放性固体剤形で、向上したバイオアベイラビリティを有する速放性形態をより低用量で、若しくは徐放性形態で、トラジピタント、例えばIV型若しくはV型の結晶(若しくはその医薬的に許容可能な酸付加塩)を経口投与することにより、又は速放性形態若しくは徐放性形態でより低用量のトラジピタントを一日複数回(例えば、一日二回若しくはそれ以上の回数)経口投与することにより、達成、又は達成及び維持されてもよい。
【0022】
トラジピタントの医薬的に許容可能な酸付加塩には、多種多様な有機酸及び無機酸を用いて形成される種々の酸付加塩が含まれ、製薬化学においてよく用いられる生理的に許容可能な塩が含まれる。そのような塩には、当業者に知られたJournal of Pharmaceutical Science, 66, 2-19(1977)に挙げられた医薬的に許容可能な塩が含まれる。上記の塩を形成するために用いられる典型的な無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、次リン酸(hypophosphoric)、メタリン酸、ピロリン酸、等が挙げられる。脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、ヒドロキシアルカン二酸、芳香族酸、脂肪族スルホン酸、及び芳香族スルホン酸等の有機酸に由来する塩も使用できる。
【0023】
本明細書に開示された実施形態において、トラジピタントは個体に有効用量又は有効量で投与されてもよいが、この有効用量又は有効量は、本明細書においては、本明細書に記載の障害、症状、又はオピオイド使用の帰結を処置するのに有効なトラジピタント用量又はトラジピタント量を指す。種々の実施形態においては、トラジピタントの有効用量は、例えば、100~400mg/日、100~300mg/日、100~200mg/日、150~400mg/日、150~300mg/日、150~200mg/日、若しくは約170mg/日の用量であってもよい。本明細書においてトラジピタントのミリグラム量が記載される場合、トラジピタントの遊離塩基型としての記載である。前記の範囲は両端値を含み、独立に組み合わせ可能である。そのため、例えば、「100~400mg/日」という範囲は、その両境界点を含む。開示された範囲は、例えば、100~150mg/日、150~170mg/日、170~200mg/日、等といった、中間の範囲を含むようにさらに組み合わせることができる。さらに、トラジピタントが約170mg/日の用量で投与される実施形態においては、より具体的に、85mgの用量を一日二回(bid)投与してもよく、より具体的には85mgを12時間毎(Q12H)投与してもよい。投与について、「bid」又は一日二回の投与は、典型的には、朝に一回、夜(evening)に一回の投与を意味し、一般的には、投与の間は、約8時間以上離し又は約16時間以下離し、例えば10~14時間離し、又は12時間離す(Q12H)。
【0024】
有効血漿中濃度は異なる用量及び/又は異なる製剤を用いても達成することができ、例えば徐放性製剤が挙げられるがこれに限定されないことが理解されるであろう。具体的な製剤にかかわらず、また、トラジピタントが前記個人にトラジピタントの量で定義される用量で投与されるか、投与により生み出され及び/又は維持される血漿中濃度レベルで定義される用量で投与されるかにかかわらず、トラジピタントは、例えばオピオイドへの欲求若しくは渇望等のオピオイド使用の望まれない帰結の有意な減少経験を生み出しうる。結果、オピオイド乱用及び/又はオピオイド中毒等のオピオイド誤用を処置するための有用なツールを提供する。
【0025】
オピオイド使用の望まれない帰結に現在苦しんでいる個体を有効量のトラジピタントで処置することで、あるいは、オピオイドを使用してはいるが望まれない帰結をまだ経験していない個体を有効量のトラジピタントで予防的に処置することで、当業者はオピオイド使用の望まれない帰結についての個人の経験に影響を与えうることも理解されよう。予防的処置を適用し得る前記個体は、乱用などのオピオイド誤用等のオピオイド使用の望まれない帰結を経験するリスクを有するということができる。オピオイドを使用し続ける個人は該継続使用の間に望まれない帰結についてのリスクがあり、また前記望まれない帰結を経験する可能性があるため、オピオイド誤用等のオピオイド使用を継続している個人に対して予防的処置を適用しうる。
【0026】
したがって、本使用に関して、「処置」及び「処置する」の用語は、オピオイド使用の望まれない帰結を遅らせる(slowing)、中断する(interrupting)、抑止する(arresting)、制御する(controlling)、又は停止する(stopping)ことが存在しうる任意のプロセスを包含することが意図されている。したがって、この語はオピオイド使用の望まれない帰結に対する予防的処置を含むものの、前記望まれない帰結の完全な予防又は完全な除去を必ずしも意味するものではない。
【0027】
当業者は、上記の実施形態を組み合わせることで、あるいは以下の実施例を参照することで、追加の実施形態を選択しうることを理解するであろう。
<付記>
本発明は以下の態様を含む。
<項1>
オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している又は経験するリスクを有する個体を処置する方法であって、
処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLの血漿中濃度を達成するのに有効な用量で、又は100~400mg/日、100~300mg/日、100~200mg/日、150~400mg/日、150~300mg/日、150~200mg/日、若しくは約170mg/日の用量で、トラジピタントを前記個体に投与することを含む、
方法。
<項2>
投与ステップは、処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLの血漿中濃度を達成しかつ維持するのに有効な用量を含む、<項1>に記載の方法。
<項3>
前記血漿中濃度レベルは約125ng/mL以上である、<項1>又は<項2>に記載の方法。
<項4>
前記血漿中濃度レベルは約150ng/mL以上である、<項3>に記載の方法。
<項5>
前記血漿中濃度レベルは約175ng/mL以上である、<項4>に記載の方法。
<項6>
前記血漿中濃度レベルは約200ng/mL以上である、<項5>に記載の方法。
<項7>
前記血漿中濃度レベルは約225ng/mL以上である、<項6>に記載の方法。
<項8>
前記用量は100~400mg/日である、<項1>又は<項2>に記載の方法。
<項9>
前記用量は100~300mg/日である、<項8>に記載の方法。
<項10>
前記用量は100~200mg/日である、<項9>に記載の方法。
<項11>
前記用量は150~400mg/日である、<項8>に記載の方法。
<項12>
前記用量は150~300mg/日である、<項11>に記載の方法。
<項13>
前記用量は150~200mg/日である、<項12>に記載の方法。
<項14>
前記用量は約170mg/日である、<項13>に記載の方法。
<項15>
前記用量は一日二回85mgである、<項14>に記載の方法。
<項16>
前記用量は85mg12時間毎である、<項15>に記載の方法。
<項17>
前記オピオイド使用はオピオイド誤用をさらに含む、<項1>~<項16>のうちいずれか一項に記載の方法。
<項18>
前記個体はオピオイド経験済みである、<項1>~<項17>のうちいずれか一項に記載の方法。
<項19>
前記個体はオピオイド使用障害(OUD)と診断されている、<項1>~<項18>のうちいずれか一項に記載の方法。
<項20>
前記オピオイド使用又はオピオイド乱用の望まれない帰結は、オピオイド投与への渇望である、<項1>~<項18>のうちいずれか一項に記載の方法。
<項21>
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している、<項1>~<項20>のうちいずれか一項に記載の方法。
<項22>
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を経験するリスクを有する、<項1>~<項20>のうちいずれか一項に記載の方法。
<項23>
オピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している又は経験するリスクを有する個体の処置に用いるためのトラジピタントであって、
前記処置は、
処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLの血漿中濃度を達成するのに有効な用量で、又は100~400mg/日、100~300mg/日、100~200mg/日、150~400mg/日、150~300mg/日、150~200mg/日、若しくは約170mg/日の用量で、トラジピタントを前記個体に投与することを含む、
トラジピタント。
<項24>
前記用量は、前記処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLの血漿中濃度を達成しかつ維持するのに有効である、<項23>に記載のトラジピタント。
<項25>
前記血漿中濃度レベルは約125ng/mL以上である、<項23>又は<項24>に記載のトラジピタント。
<項26>
前記血漿中濃度レベルは約150ng/mL以上である、<項25>に記載のトラジピタント。
<項27>
前記血漿中濃度レベルは約175ng/mL以上である、<項26>に記載のトラジピタント。
<項28>
前記血漿中濃度レベルは約200ng/mL以上である、<項27>に記載のトラジピタント。
<項29>
前記血漿中濃度レベルは約225ng/mL以上である、<項28>に記載のトラジピタント。
<項30>
前記用量は100~400mg/日である、<項23>又は<項24>に記載のトラジピタント。
<項31>
前記用量は100~300mg/日である、<項30>に記載のトラジピタント。
<項32>
前記用量は100~200mg/日である、<項31>に記載のトラジピタント。
<項33>
前記用量は150~400mg/日である、<項30>に記載のトラジピタント。
<項34>
前記用量は150~300mg/日である、<項33>に記載のトラジピタント。
<項35>
前記用量は150~200mg/日である、<項34>に記載のトラジピタント。
<項36>
前記用量は約170mg/日である、<項35>に記載のトラジピタント。
<項37>
前記用量は一日二回85mgである、<項36>に記載のトラジピタント。
<項38>
前記用量は85mg12時間毎である、<項37>に記載のトラジピタント。
<項39>
前記オピオイド使用はオピオイド誤用をさらに含む、<項23>~<項28>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項40>
前記個体はオピオイド経験済みである、<項23>~<項39>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項41>
前記個体はオピオイド使用障害(OUD)と診断されている、<項23>~<項40>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項42>
前記オピオイド使用又はオピオイド乱用の望まれない帰結は、オピオイド投与への渇望である、<項23>~<項40>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項43>
速放性固体剤形である、<項23>~<項42>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項44>
徐放性固体剤形である、<項23>~<項42>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項45>
IV型又はV型の結晶である、<項23>~<項42>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項46>
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している、<項23>~<項45>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項47>
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を経験するリスクを有する、<項23>~<項45>のうちいずれか一項に記載のトラジピタント。
<項48>
オピオイドへの渇望を現在経験している又は経験するリスクを有する個体を処置する方法であって、
処置の間少なくとも約100ng/mL以上、約125ng/mL以上、約150ng/mL以上、約175ng/mL以上、約200ng/mL以上、若しくは約225ng/mLの血漿中濃度を達成するのに有効な用量で、又は100~400mg/日、100~300mg/日、100~200mg/日、150~400mg/日、150~300mg/日、150~200mg/日、若しくは約170mg/日の用量で、トラジピタントを前記個体に投与することを含む、
方法。
<項49>
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を現在経験している、<項48>に記載の方法。
<項50>
治療対象の前記個体はオピオイド使用の望まれない帰結を経験するリスクを有する、<項48>に記載の方法。
【実施例
【0028】
対象者内クロスオーバーデザインを用いた、二重盲検の、入院患者に対する約6週間の試験により、オキシコドンに対する応答について、プラセボの場合と比較したトラジピタント維持の効果を調べた。試験の対象者は、定期的な不正オピオイド誤用を報告した、それ以外の点では健康な成人、及び身体的依存を伴わないが鼻腔内オピオイド使用歴を報告した、それ以外の点では健康な成人を含む。参加者の特性は、以下の表1に記載する。
【0029】
【表1】
【0030】
対象者は、試験Day3~Day17にプラセボ又はトラジピタント(85mg経口(p.o.)一日二回(bid))を投与され、Day18~Day23をウオッシュアウト期間とし、さらに、試験Day24~Day39にプラセボ又はトラジピタント(85mg経口(p.o.)一日二回(bid))を投与される。この試験では、トラジピタント/プラセボの投与は対象者間でカウンターバランスする。試験Day3、Day18、Day24及びDay39に、対象者はチャレンジセッションに参加し(Day1及び定常状態)、そこで0、5、10、又は20mgの鼻腔内(IN)オキシコドンを1時間間隔で受け、その後、ヒトにおける鎮痛に対するトラジピタントの効果を評価する。試験Day2、Day8、Day11、Day15、Day29、Day32、及びDay36に、対象者はサンプルセッションに参加し、そこで対象者は0、15、又は30mgの鼻腔内オキシコドンを投与され、その後、対象者が等級付けしたアウトカムに対するトラジピタントの効果を評価する。前記の対象者が等級付けしたアウトカムには、「オキシコドンをどの程度好むか?」、「オキシコドンは良い効果があるか?」、「薬物による何らかの影響を感じるか?」、及び「今現在、オピエートに対する欲求はどの程度あるか?」を含む質問に対する応答が含まれる。さらに、試験Day9、Day12、Day16、Day30、Day33、及びDay37においては、対象者は選択セッションに参加し、そこではオキシコドンの自己投与に対するトラジピタントの効果が評価される。
【0031】
結果
図1~4に、主観的アウトカムについての結果をグラフで示す。オキシコドンは、薬物の愛好、良い効果及び全体的な薬物影響のピーク評価値の有意かつ用量依存的な増加を生み出す(p>.001;*は0mgからの有意差を示す)。オピオイドへの欲求についてのトラフスコアに対するオキシコドン用量の有意な影響は見られなかったが、トラジピタント条件による有意な影響があり(p<.05)、トラジピタント条件によって、欲求つまり渇望がトラジピタント維持期間中は、プラセボ維持期間中に比べて減少する(図4)。図1~3は、オピオイド薬物がどの程度好まれているか、薬物の効果はどの程度良いものであるか、あるオピオイド薬物用量、例えば15mg鼻腔内(IN)オキシコドンにおいて薬物によるどの程度の影響を感じるかについての知覚値を、トラジピタントが減少させることを示す。
したがって、トラジピタント維持は、オピオイド薬物の渇望を減少させ、いくつかの用量においては、愉快で、薬物を求めさせる感覚を減少させることが見出される。特に、トラジピタント維持は、オピオイド薬物に対する欲求をプラセボと比較して有意に(p<0.05)減少させる。
図1
図2
図3
図4