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特許7410144超伝導量子コンピュータにおける周波数衝突を防止するために2つのゲート・タイプを用いた量子コンピューティング・デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】超伝導量子コンピュータにおける周波数衝突を防止するために2つのゲート・タイプを用いた量子コンピューティング・デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/10 20230101AFI20231226BHJP
   G06N 10/00 20220101ALI20231226BHJP
   H03K 19/195 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H10N60/10 Z
G06N10/00
H03K19/195
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021526219
(86)(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2019082829
(87)【国際公開番号】W WO2020169224
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】16/281,884
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】マッカイ、デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ガンベッタ、ジェイ
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0193388(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03300004(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0007051(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0212860(US,A1)
【文献】CHEN, Tao et al.,Nonadiabatic Geometric Quantum Computation with Parametrically Tunable Coupling,Phys. Rev. Applied,2018年,Vol. 10, No. 5,pp. 054051,DOI: 10.1103/PhysRevApplied.10.054051
【文献】MCKAY, C. David et al.,Universal Gate for Fixed-Frequency Qubits via a Tunable Bus,Phys. Rev. Applied,2016年,Vol. 6, No. 6,pp. 064007,DOI: 10.1103/PhysRevApplied.6.064007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/10
G06N 10/00
H03K 19/195
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピューティング・デバイスであって、
第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービットおよび第2の共振周波数を有する第2のキュービットであって、前記第2の共振周波数は、前記第1の共振周波数とは異なる、前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットと、
前記第1の複数のキュービットを結合するように構成された第1の固定周波数バスであって、前記第1の複数のキュービットは、前記第1の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、前記第1の固定周波数バスと、
前記第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを、前記第2のキュービットに結合するように構成された第1の可変周波数バスと
を備える、
量子コンピューティング・デバイス。
【請求項2】
前記第1の可変周波数バスは、パラメトリックiSWAPゲートを通して、前記第1の複数のキュービットのうちの前記少なくとも1つと、前記第2のキュービットとを結合するように構成される、
請求項1に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項3】
前記第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービットと、
前記第2の複数のキュービットを結合するように構成された第2の固定周波数バスであって、前記第2の複数のキュービットは、前記第2の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、前記第2の固定周波数バスと
をさらに備える、
請求項1に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項4】
前記第1の複数のキュービットは、第1の行または第1の列のうちの1つに配置され、前記第1の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成され、前記第2の複数のキュービットは、第2の行または第2の列のうちの1つに配置され、前記第2の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、
請求項3に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項5】
前記第1の共振周波数を有する第3の複数のキュービットであって、前記第3の複数のキュービットは、第3の行または第3の列のうちの1つに配置される、前記第3の複数のキュービットと、
前記第3の複数のキュービットを結合するように構成された第3の固定周波数バスであって、前記第3の複数のキュービットは、前記第3の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、前記第3の固定周波数バスと
をさらに備える、
請求項4に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項6】
前記第1の行または前記第1の列に配置された前記第1の複数のキュービットは、前記第1の可変周波数バスを通じて、前記第2の行または前記第2の列に配置された前記第2の複数のキュービットと相互作用するように構成され、
前記第2の行または前記第2の列に配置された前記第2の複数のキュービットは、前記第1の可変周波数バスを通じて、前記第3の行または前記第3の列に配置された前記第3の複数のキュービットと相互作用するように構成される、
請求項5に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項7】
前記第2の複数のキュービットは、前記第1の複数のキュービットと前記第3の複数のキュービットとの間の交差共鳴相互作用を防止するように、前記第1の複数のキュービットと前記第3の複数のキュービットとの間に配置される、
請求項5に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項8】
第3の共振周波数を有する第3の複数のキュービットであって、前記第3の複数のキュービットは、第3の行または第3の列のうちの1つに配置され、前記第3の共振周波数は、前記第1の共振周波数とは異なり、前記第2の共振周波数とは異なる、前記第3の複数のキュービットと、
前記第3の複数のキュービットを結合するように構成された第3の固定周波数バスであって、前記第3の複数のキュービットは、前記第3の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、前記第3の固定周波数バスと、
前記第3の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを、前記第2の複数のキュービットに結合するように構成された第2の可変周波数バスと
をさらに備える、
請求項4に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項9】
前記第1の行または前記第1の列に配置された前記第1の複数のキュービットは、前記第1の可変周波数バスを通じて、前記第2の行または前記第2の列に配置された前記第2の複数のキュービットと相互作用するように構成され、
前記第2の行または前記第2の列に配置された前記第2の複数のキュービットは、前記第2の可変周波数バスを通じて、前記第3の行または前記第3の列に配置された前記第3の複数のキュービットと相互作用するように構成される、
請求項8に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項10】
前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットは、トランズモン・キュービットである、
請求項1に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項11】
前記第1の可変周波数バスは、超伝導量子干渉デバイス(SQUID)を備える、
請求項1に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項12】
量子コンピューティング・デバイスであって、
第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービットおよび第2の共振周波数を有する第2のキュービットであって、前記第2の共振周波数は、前記第1の共振周波数とは異なる、前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットと、
前記第1の複数のキュービットを、前記第2のキュービットに結合するように構成された第1の可変周波数バスと
を備え、
前記第1の複数のキュービットは、交差共鳴を通じて、前記第1の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成される、
量子コンピューティング・デバイス。
【請求項13】
前記第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つ、および前記第2のキュービットは、パラメトリックiSWAPゲートを通して相互作用するように構成される、
請求項12に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項14】
量子コンピューティング・デバイスであって、
第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービットおよび第2の共振周波数を有する第2のキュービットであって、前記第2の共振周波数は、前記第1の共振周波数とは異なる、前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットと、
前記第1の複数のキュービットを、前記第2のキュービットに結合するように構成された第1の可変周波数バスと
を備え、
前記第1の複数のキュービットは3つのキュービットを備え、前記3つのキュービットは、交差共鳴を通じて、前記第1の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成され、前記第2のキュービットは、パラメトリックiSWAPゲートを通じて、前記第1の可変周波数バスを通して前記3つのキュービットと相互作用するように構成される、
子コンピューティング・デバイス。
【請求項15】
量子コンピューティング・デバイスであって、
第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービットおよび第2の共振周波数を有する第2のキュービットであって、前記第2の共振周波数は、前記第1の共振周波数とは異なる、前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットと、
前記第1の複数のキュービットを、前記第2のキュービットに結合するように構成された第1の可変周波数バスと、
前記第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービット、および前記第1の共振周波数を有する第3のキュービットと、
前記第3のキュービットを、前記第2の複数のキュービットに結合するように構成された、第2の可変周波数バスと
を備え、
前記第2の複数のキュービットは、交差共鳴を通じて、前記第2の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成される、
子コンピューティング・デバイス。
【請求項16】
前記第3のキュービットおよび前記第2の複数のキュービットは、パラメトリックiSWAPゲートを通じて、前記第2の可変周波数バスを通して相互作用するように構成される、
請求項15に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項17】
前記第3のキュービットは、前記第1の複数のキュービットと交差共鳴を通じて相互作用することが防止される、
請求項15に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項18】
量子コンピューティング・デバイスであって、
第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービットおよび第2の共振周波数を有する第2のキュービットであって、前記第2の共振周波数は、前記第1の共振周波数とは異なる、前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットと、
前記第1の複数のキュービットを、前記第2のキュービットに結合するように構成された第1の可変周波数バスと、
前記第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービット、および第3の共振周波数を有する第3のキュービットであって、前記第3の共振周波数は、前記第1の共振周波数および前記第2の共振周波数とは異なる、前記第2の複数のキュービットおよび前記第3のキュービットと、
前記第3のキュービットを前記第2の複数のキュービットに結合するように構成された、第2の可変周波数バスと
を備え、
前記第2の複数のキュービットは、交差共鳴を通じて、前記第2の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成される、
子コンピューティング・デバイス。
【請求項19】
前記第3のキュービットおよび前記第2の複数のキュービットは、パラメトリックiSWAPゲートを通じて、前記第2の可変周波数バスを通して相互作用するように構成される、
請求項18に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項20】
前記第2の複数のキュービットは3つのキュービットを備え、前記3つのキュービットは、交差共鳴を通じて、前記第2の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成され、前記第3のキュービットは、パラメトリックiSWAPゲートを通じて、前記第2の可変周波数バスを通して前記3つのキュービットと相互作用するように構成される、
請求項18に記載の量子コンピューティング・デバイス。
【請求項21】
量子コンピューティング・デバイスを作り出す方法であって、
キュービット・チップ上に、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット、および第2の共振周波数を有する第2のキュービットを作り出すことであって、前記第2の共振周波数は前記第1の共振周波数とは異なる、前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットを作り出すことと、
交差共鳴を通じて前記第1の複数のキュービットの間の相互作用を可能にするように、前記キュービット・チップ上に第1の固定周波数バスを作り出すこと、または前記キュービット・チップを、前記第1の固定周波数バスを備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つと、
第1の可変周波数バスを用いて、前記第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを前記第2のキュービットに結合することを可能にするように、前記キュービット・チップ上に前記第1の可変周波数バスを作り出すこと、または前記キュービット・チップを、前記第1の可変周波数バスを備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つと
を含む、
方法。
【請求項22】
量子コンピューティング・デバイスを作り出す方法であって、
キュービット・チップ上に、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット、および第2の共振周波数を有する第2のキュービットを作り出すことであって、前記第2の共振周波数は前記第1の共振周波数とは異なり、前記第1の複数のキュービットおよび前記第2のキュービットを作り出すことと、
第1の可変周波数バスを用いて、前記第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを前記第2のキュービットに結合することを可能にするように、前記キュービット・チップ上に前記第1の可変周波数バスを作り出すこと、または前記キュービット・チップを、前記第1の可変周波数バスを備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つと
を含み、
前記第1の複数のキュービットは、交差共鳴を通じて、前記第1の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成される
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここにおいて特許請求される本発明の実施形態は、超伝導量子コンピュータに関し、より具体的には、周波数衝突を避けるために2つのゲート・タイプを組み合わせる超伝導量子コンピュータに関する。
【背景技術】
【0002】
量子計算は、量子ビット(本明細書では全体にわたってキュービットと呼ばれる)の信頼性のある制御に基づく。量子アルゴリズムを実現するために必要な基本的な動作は、単一キュービット動作のセット、および2つの別個の量子ビットの間の相関を確立する2キュービット動作である。高忠実度2キュービット動作の実現は、量子計算に対して誤り閾値に到達するため、および信頼性のある量子シミュレーションに到達するための両方に望ましくなり得る。
【0003】
現在、超伝導キュービットに対して、単一キュービット・ゲートはマイクロ波制御を用いて実装される。可変周波数キュービットに基づくゲート、マイクロ波駆動キュービットに基づくゲート(例えば、交差共鳴、フリック・フォーク、ベル・ラビ、MAP、側波帯遷移)、および幾何学的位相に基づくゲート(例えば、共振器誘起位相ゲート、ホロノミック・ゲート)の、3つの主要なタイプの2キュービット・ゲートが存在する。
【0004】
可変周波数キュービットに基づくゲートに対しては、共振相互作用を活動化するように、キュービット自体が周波数において調整される。これらのゲートは、本質的にゼロ結合を有する「オフ」位置と、キュービットが強い2キュービット相互作用を有するときの「オン」位置との、本質的に2つの動作点を有する。これらのゲートは非常に良好なオン・オフ比を有するが、キュービットは外部的に印加された磁束を通じて可変となるので、それらは、キュービットのコヒーレンスを数マイクロ秒に制限する1/fノイズによって、制限され得る。
【0005】
マイクロ波駆動キュービットに基づくゲートに対しては、キュービットは、それらが磁束ノイズの影響を受けないように、周波数において固定となるように設計され得る。しかし、ゲートを活動化するためにマイクロ波パルスが必要である。これらのゲートに関連する問題は、それらが低いオン/オフ比を有すること、および不要な相互作用を活動化せずに関心のあるゲートに対応することが非常に難しいことである。
【0006】
幾何学的位相に基づくゲートは、それの状態空間における量子状態の経路と、それの偏位に関連付けられた取得された量子位相とに基づく。断熱的幾何学的ゲートは、いくつかのタイプのノイズに対して強靱であるが、一般に遅く、断熱に対する制御を必要とする。非断熱的ゲートは、それらの断熱的な等価物のノイズに対する回復力を潜在的に共有する。
【0007】
超伝導ジョセフソン接合キュービットは、量子コンピュータを構築するために有望な技術である。トランズモン・タイプの超伝導キュービットは、キュービットの間、およびキュービットと伝送線路またはバスとの間の結合を依然として可能にしながら、トランズモン(伝送路分流プラズマ振動)キュービットが低減された電荷ノイズ感受性で動作することを可能にする、比較的高いジョセフソン・エネルギーと帯電エネルギーとの比において動作される。これは、固定周波数マイクロ波共振器を通じた最も近い隣接相互作用(例えば2次元格子における)を有する2D配置において、トランズモン・キュービットが結合されることを可能にする。固定周波数トランズモン・キュービット(単一接合トランズモン)は、高度にコヒーレントである(すなわち、本質的に単一の共振周波数を有する)。従って、キュービットの間の相互作用を可能にする必要がある。キュービットの間の交差共鳴(CR:Cross-Resonance)相互作用は、キュービットを結合するために用いられ得る。交差共鳴において、キュービットは、キュービットの間の相互作用を確立するために、隣接したキュービットの周波数におけるマイクロ波トーンを用いて駆動される。複数のキュービットの間のCR相互作用を可能にするために、キュービットは周波数において比較的密に間隔が置かれる(例えば200MHz未満)。しかし、これはキュービットの間の周波数衝突問題およびクロストークに繋がる。
【0008】
将来の量子コンピュータは多数のキュービット(数百から数千、またはそれ以上)を用い得るので、キュービットの間の周波数衝突またはクロストークを制限することが望ましくなり得る。CRは隣接したキュービットの間の結合を可能にするという利点をもたらし得るが、CRはさらに遠く離れて位置するキュービットの間の結合を確立するためには十分となり得ない。従って、キュービットを結合するためにCRを用いるときに、周波数衝突問題およびクロストークを解決する解決策の必要性が残る。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一態様は、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービットおよび第2の共振周波数を有する第2のキュービットであって、第2の共振周波数は第1の共振周波数とは異なる、第1の複数のキュービットおよび第2のキュービットを含む量子コンピューティング・デバイスをもたらすことである。この量子コンピューティング・デバイスはまた、第1の複数のキュービットを結合するように構成された第1の固定周波数バスであって、第1の複数のキュービットは、第1の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、第1の固定周波数バスを含む。この量子コンピューティング・デバイスは、第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを、第2のキュービットに結合するように構成された、第1の可変周波数バスをさらに含む。
【0010】
一実施形態において、この量子コンピューティング・デバイスは、第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービットと、第2の複数のキュービットを結合するように構成された第2の固定周波数バスであって、第2の複数のキュービットは、第2の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、第2の固定周波数バスとをさらに含む。一実施形態において、第1の複数のキュービットは、第1の行または第1の列のうちの1つに配置され、第1の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成され、第2の複数のキュービットは、第2の行または第2の列のうちの1つに配置され、第2の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される。
【0011】
一実施形態において、この量子コンピューティング・デバイスは、第1の共振周波数を有する第3の複数のキュービットであって、第3の複数のキュービットは、第3の行または第3の列のうちの1つに配置される、第3の複数のキュービットと、第3の複数のキュービットを結合するように構成された第3の固定周波数バスであって、第3の複数のキュービットは、第3の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、第3の固定周波数バスとをさらに含む。
【0012】
一実施形態において、第1の行または第1の列に配置された第1の複数のキュービットは、第1の可変周波数バスを通じて、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービットと相互作用するように構成され、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービットは、第1の可変周波数バスを通じて、第3の行または第3の列に配置された第3の複数のキュービットと相互作用するように構成される。一実施形態において、第2の複数のキュービットは、第1の複数のキュービットと第3の複数のキュービットとの間の交差共鳴相互作用を防止するように、第1の複数のキュービットと第3の複数のキュービットとの間に配置される。
【0013】
一実施形態において、この量子コンピューティング・デバイスは、第3の共振周波数を有する第3の複数のキュービットであって、第3の複数のキュービットは、第3の行または第3の列のうちの1つに配置され、第3の共振周波数は、第1の共振周波数とは異なり、第2の共振周波数とは異なる、第3の複数のキュービットと、第3の複数のキュービットを結合するように構成された第3の固定周波数バスであって、第3の複数のキュービットは、第3の固定周波数バスを通して、交差共鳴を通じて相互作用するように構成される、第3の固定周波数バスと、第3の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを、第2の複数のキュービットに結合するように構成された第2の可変周波数バスとをさらに含む。
【0014】
一実施形態において、第1の行または第1の列に配置された第1の複数のキュービットは、第1の可変周波数バスを通じて、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービットと相互作用するように構成され、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービットは、第2の可変周波数バスを通じて、第3の行または第3の列に配置された第3の複数のキュービットと相互作用するように構成される。
【0015】
本発明の別の態様は、別の量子コンピューティング・デバイスをもたらすことである。この量子コンピューティング・デバイスは、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービットおよび第2の共振周波数を有する第2のキュービットであって、第2の共振周波数は、第1の共振周波数とは異なる、第1の複数のキュービットおよび第2のキュービットを含む。この量子コンピューティング・デバイスは、第1の複数のキュービットを、第2のキュービットに結合するように構成された第1の可変周波数バスをさらに含む。
【0016】
一実施形態において、第1の複数のキュービットは、交差共鳴を通じて、第1の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成される。一実施形態において、第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つ、および第2のキュービットは、パラメトリックiSWAPゲートを通して相互作用するように構成される。
【0017】
一実施形態において、第1の複数のキュービットは3つのキュービットを備え、3つのキュービットは、交差共鳴を通じて、第1の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成され、第2のキュービットは、パラメトリックiSWAPゲートを通じて、第1の可変周波数バスを通して3つのキュービットと相互作用するように構成される。
【0018】
一実施形態において、この量子コンピューティング・デバイスは、第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービット、および第1の共振周波数を有する第3のキュービットと、第3のキュービットを、第2の複数のキュービットに結合するように構成された、第2の可変周波数バスとをさらに含む。一実施形態において、第2の複数のキュービットは、交差共鳴を通じて、第2の可変周波数バスを通して互いに相互作用するように構成される。一実施形態において、第3のキュービットは、第1の複数のキュービットと交差共鳴を通じて相互作用することが防止される。
【0019】
一実施形態において、この量子コンピューティング・デバイスは、第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービット、および第3の共振周波数を有する第3のキュービットであって、第3の共振周波数は、第1の共振周波数および第2の共振周波数とは異なる、第2の複数のキュービットおよび第3のキュービットと、第3のキュービットを第2の複数のキュービットに結合するように構成された、第2の可変周波数バスとをさらに含む。
【0020】
本発明の別の態様は、量子コンピューティング・デバイスを作り出す方法をもたらすことである。この方法は、キュービット・チップ上に、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット、および第2の共振周波数を有する第2のキュービットを作り出すことであって、第2の周波数は第1の周波数とは異なる、第1の複数のキュービットおよび第2のキュービットを作り出すことと、交差共鳴を通じて第1の複数のキュービットの間の相互作用を可能にするように、キュービット・チップ上に第1の固定周波数バスを作り出すこと、またはキュービット・チップを、第1の固定周波数バスを備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つと、第1の可変周波数バスを用いて、第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを第2のキュービットに結合することを可能にするように、キュービット・チップ上に第1の可変周波数バスを作り出すこと、またはキュービット・チップを、第1の可変周波数バスを備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つとを含む。
【0021】
本発明のさらに別の態様は、量子コンピューティング・デバイスを作り出す方法をもたらすことである。この方法は、キュービット・チップ上に、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット、および第2の共振周波数を有する第2のキュービットを作り出すことであって、第2の周波数は第1の周波数とは異なる、第1の複数のキュービットおよび第2のキュービットを作り出すことと、第1の可変周波数バスを用いて、第1の複数のキュービットのうちの少なくとも1つを第2のキュービットに結合することを可能にするように、キュービット・チップ上に第1の可変周波数バスを作り出すこと、またはキュービット・チップを、第1の可変周波数バスを備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つとを含む。
【0022】
キュービットの周波数は、用いられているキュービットの2つの状態の間、例えば基底状態と第1の励起状態との間の遷移エネルギーに対応する。キュービットは、動作条件のもとでキュービットが近似的に2量子状態構造体となるように、分離されたエネルギー準位を形成するようにエネルギーにおいて十分に分離された、またはいかなる追加の量子状態からも減結合されたあるいはその両方である、2つの量子状態(例えば、基底状態と第1の励起状態)を有する。2つの状態の間の遷移エネルギーは、キュービットの共振周波数を定義する。いくつかのキュービットに対して、遷移エネルギーは、例えば、磁界を印加することによって修正され得る。
【0023】
本明細書で用いられるような、キュービットの「共振周波数」という用語は、キュービットの2つのエネルギー準位(例えば、基底状態エネルギー準位と励起状態エネルギー準位)の間のエネルギー分離と共振する周波数に対応する。共振周波数は、1つのエネルギー準位から別のエネルギー準位へのエネルギー遷移を定義する。キュービットの各「エネルギー準位」は、エネルギーまたは周波数の比較的より狭い帯域幅内で定義されたエネルギー準位に対応する。本明細書では「より狭い」という用語は、帯域幅が、キュービットのエネルギー状態の間の遷移エネルギーよりも小さいことを意味するように用いられる。例えば、同じ共振周波数を有することを目的として複数のキュービットを作り出すことは、実際には結果として共振周波数において小さな差を有するが、依然として同じ帯域幅内にあるキュービットを生じ得る。
【0024】
本開示、ならびに構造の関連する要素および諸部分の組合せの動作の方法および機能、ならびに製造の経済性は、それらのすべてが本明細書の一部となる添付の図面を参照した以下の説明および添付の「特許請求の範囲」を考察することにより、より明らかになり、類似の参照番号は様々な図において対応する部分を示す。しかし、図面は例示および説明のためのみであり、本発明の限定を定義するものではないことが明確に理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態による、複数のキュービットを有する量子コンピューティング・デバイスの概略図である。
図2A】本発明の一実施形態による、第1の固定周波数バス(CRバス)を通じて相互作用する2つのキュービットを含んだ量子回路の概略図である。
図2B】本発明の一実施形態による、第1の可変周波数バスを通じて相互作用する2つのキュービットを含んだ量子回路の概略図である。
図3】本発明の別の実施形態による、複数のキュービットを有する量子コンピューティング・デバイスの概略図である。
図4A】本発明の一実施形態による、第1の可変周波数バスを通じて相互作用する4つのキュービットを含んだ量子回路の概略図である。
図4B】本発明の実施形態による、第1の可変周波数バスを通じて相互作用する4つのキュービットの概略図である。
図4C】本開示の一実施形態による、4つのキュービットと、可変周波数バスとを含んだチップ上の量子コンピューティング・デバイスのイメージ図である。
図5A】本発明の一実施形態による、4つのキュービットQ、Q、Q、およびQの第1の励起エネルギー準位を示すエネルギー図である。
図5B】本発明の一実施形態による、4つのキュービットQ、Q、Q、およびQの第1の励起エネルギー準位のエネルギーまたは周波数のグラフである。
図6】本発明の一実施形態による、時間に対する、可変バスを変調する周波数の関数とした、キュービットQにおける集団のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の一実施形態による、複数のキュービットを有する量子コンピューティング・デバイスの概略図である。量子コンピューティング・デバイス10は、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット12を含む。量子コンピューティング・デバイス10は、第2の共振周波数を有する第2のキュービットまたは第2の複数のキュービット14をさらに含む。第2の共振周波数は、第1の共振周波数とは異なる。例えば、第2のキュービットまたは第2の複数のキュービットの第2の共振周波数は、第1の複数のキュービットの第1の共振周波数よりも比較的高いとし得る。例えば、第1の複数のキュービットは、4.8~5.0GHzの範囲内の第1の共振周波数を有することができ、第2のキュービットは、5.6~5.8GHzの範囲内の第2の共振周波数を有することができる。
【0027】
4つの第1のキュービットが図1に示されるが、理解されなければならないように、2つ以上のキュービットが用いられ得る。同様に、4つの第2のキュービットが図1に示されるが、理解されなければならないように、1つまたは2つ以上の第2のキュービットが用いられ得る。しかし、実際の実装形態では、2つより多い第1のキュービットおよび2つより多い第2のキュービットがしばしば用いられる。
【0028】
図1に示されるように、量子コンピューティング・デバイス10は、第1の複数のキュービット12を結合するように構成された、第1の固定周波数バス16(破線として示される)をさらに含む。第1の複数のキュービット12は、第1の固定周波数バス16を通して、交差共鳴(CR)を通じて相互作用するように構成される。量子コンピューティング・デバイス10は、第1の複数のキュービット12のうちの少なくとも1つを第2のキュービット14に結合するように構成された、第1の可変周波数バス18をさらに含む。一実施形態において、第1の可変周波数バス18は、第1の複数のキュービット12(例えば図1に示されるように4つの)を、第2の複数のキュービット14(例えば図1に示されるように4つの)に結合するように構成される。一実施形態において、第1の可変周波数バス18は、パラメトリックiSWAPゲートを通して、第1の複数のキュービット12のうちの少なくとも1つと、第2のキュービット14とを結合するように構成される。一実施形態において、第1の可変周波数バス18は、パラメトリックiSWAPゲートを通して、第1の複数のキュービット12と、第2の複数のキュービット14とを結合するように構成される。
【0029】
一実施形態において、量子コンピューティング・デバイス10は、第2の複数のキュービット14を結合するように構成された、第2の固定周波数バス17をさらに含む。第2の複数のキュービット14は、第2の固定周波数バス17を通して、交差共鳴(CR)を通じて相互作用するように構成される。
【0030】
図2Aは、本発明の一実施形態による、第1の固定周波数バス(CRバス)を通じて相互作用する2つのキュービットを含んだ量子回路の概略図である。図2Aに示されるように、第1の複数のキュービット12内の第1のキュービットQと、第1の複数のキュービット12内の第2のキュービットQとは、第1の固定周波数バス16(CRバス)を通じて相互作用する。一実施形態において、第1の固定周波数バス16は、キュービットQをキュービットQに接続するマイクロ波伝送線路である。同様に、図2Aに示されないが、第2の複数のキュービット14内の第1のキュービットQと、第2の複数のキュービット14内の第2のキュービットQとは、第2の固定周波数バス(CRバス)17を通じて相互作用する。一実施形態において、第2の固定周波数バス17は、キュービットQをキュービットQに接続するマイクロ波伝送線路である。キュービットQおよびQにおいて、縦線「||」はキャパシタンスに対応し、「X」記号はジョセフソン接合に対応する。キュービットは、単一のジョセフソン接合(JJ)と、単一のキャパシタンスとを有することが示されるが、任意の数のジョセフソン接合と、任意の数のキャパシタンスとが用いられ得る。加えて、キュービットQおよびQと、第1の固定周波数バス16(CRバス)または第2の固定周波数バス17(CRバス)あるいはその両方との回路には、他の要素も含められ得る。
【0031】
図2Bは、本発明の一実施形態による、第1の可変周波数バス18を通じて相互作用する2つのキュービットを含んだ量子回路の概略図である。図2Bに示されるように、第1の複数のキュービット12内の第1のキュービットQと、第2の複数のキュービット14内の第2のキュービットQとは、第1の可変周波数バス18を通じて(例えばパラメトリックiSWAPゲートを通じて)相互作用する。一実施形態において、図2Bに示されるように、第1の可変周波数バス18は、伝送線路を通じてキュービットQをキュービットQに接続するゲート(例えばパラメトリックiSWAPゲート)「G」を含む。ゲート「G」は、磁界「B」を印加することによって活動化される。図2Aと同様に、キュービットQおよびQにおいて、縦線「||」はキャパシタンスに対応し、「X」記号はジョセフソン接合に対応する。キュービットQおよびQは、単一のジョセフソン接合と、単一のキャパシタンスとを有することが示されるが、任意の数のジョセフソン接合と、任意の数のキャパシタンスとが用いられ得る。加えて、キュービットQおよびQの回路には他の要素も含められ得る。加えて、第1の可変周波数バス18は、2つのジョセフソン接合を用いたゲート「G」(例えばパラメトリックiSWAPゲート)を有することが示されるが、理解され得るように、別の数のジョセフソン接合を用いる他のタイプのゲートが用いられ得る。一実施形態において、第1の可変周波数バス18は、超伝導量子干渉デバイス(SQUID:superconducting quantum interference device)を含む。パラメトリックiSWAPゲートという用語は、超伝導量子コンピューティング技術において、虚数「i」を通して位相行列における交換を行うゲートであるとして理解される。
【0032】
図1に示されるように、第1の複数のキュービット12は列に配置される。しかし、第1の複数のキュービット12はまた、第1の行に配置され得る。第1の複数のキュービット12は、第1の固定周波数バス16を通して、交差共鳴(CR)を通じて相互作用するように構成される。また図1に示されるように、第2の複数のキュービット14は、第2の列に配置される。しかし、第2の複数のキュービット14はまた、第2の行に配置され得る。第2の複数のキュービット14は、第2の固定周波数バス17を通して、交差共鳴(CR)を通じて相互作用するように構成される。
【0033】
また図1に示されるように、一実施形態において、量子コンピューティング・デバイス10はまた、第1の複数のキュービット12と同様な第1の共振周波数を有する第3の複数のキュービット13を含む。図1に示されるように、第3の複数のキュービット13は、第3の列に配置される。しかし、第3の複数のキュービット13はまた、第3の行に配置され得る。量子コンピューティング・デバイスは、第3の複数のキュービット13を結合するように構成された、第3の固定周波数バス19をさらに含む。第3の複数のキュービット13は、第3の固定周波数バス19を通して、交差共鳴(CR)を通じて相互作用するように構成される。
【0034】
また図1に示されるように、一実施形態において、量子コンピューティング・デバイス10はまた、第2の複数のキュービット14と同様な第2の共振周波数を有する第4の複数のキュービット15を含む。図1に示されるように、第4の複数のキュービット15は、第4の列に配置される。しかし、第4の複数のキュービット15はまた、第4の行に配置され得る。量子コンピューティング・デバイス10は、第4の複数のキュービット15を結合するように構成された第4の固定周波数バス21をさらに含む。第4の複数のキュービット15は、第4の固定周波数バス21を通して、交差共鳴(CR)を通じて相互作用するように構成される。
【0035】
一実施形態において、第1の行または第1の列に配置された第1の複数のキュービット12は、第1の可変周波数バス18を通じて、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービット14と相互作用するように構成される。一実施形態において、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービット14は、第1の可変周波数バス18を通じて、第3の行または第3の列に配置された第3の複数のキュービット13と相互作用するように構成される。一実施形態において、第3の行または第3の列に配置された第3の複数のキュービット13は、第1の可変周波数バス18を通じて、第4の行または第4の列に配置された第4の複数のキュービット15と相互作用するように構成される。
【0036】
一実施形態において、第2の複数のキュービット14は、第1の複数のキュービット12と、第3の複数のキュービット13との間の交差共鳴相互作用を防止し、従って周波数衝突およびクロストークを実質的に低減するまたは取り除くように、第1の複数のキュービット12と、第3の複数のキュービット13との間に配置される。同様に、第3の複数のキュービット13は、第2の複数のキュービット14と、第4の複数のキュービット15との間の交差共鳴相互作用を防止し、従って周波数衝突およびクロストークを実質的に低減するまたは取り除くように、第2の複数のキュービット14と、第4の複数のキュービット15との間に配置される。
【0037】
一実施形態において、第3の複数のキュービット13は、第3の共振周波数を有する。第3の複数のキュービット13は、図1に示されるように、第3の列に配置される。しかし、第3の複数のキュービット13はまた、第3の行に配置され得る。しかし、この実施形態において、第3の共振周波数は、第1の複数のキュービット12の第1の共振周波数とは異なり、第2の複数のキュービット14の第2の共振周波数とは異なる。一実施形態において、第3の固定周波数バス19は、第3の複数のキュービット13を結合するように構成される。第3の複数のキュービット13は、第3の固定周波数バス19を通して、交差共鳴(CR)を通じて相互作用するように構成される。一実施形態において、量子コンピューティング・デバイスは、第3の複数のキュービット13のうちの少なくとも1つを、第2の複数のキュービット14に結合するように構成された第2の可変周波数バス22を含む。
【0038】
一実施形態において、第1の行または第1の列に配置された第1の複数のキュービット12は、第1の可変周波数バス18を通じて、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービット14と相互作用するように構成される。一実施形態において、第2の行または第2の列に配置された第2の複数のキュービット14は、第2の可変周波数バス22を通じて、第3の行または第3の列に配置された第3の複数のキュービット13と相互作用するように構成される。
【0039】
一実施形態において、第1、第2、第3、または第4の複数のキュービットあるいはその組合せは、トランズモン・キュービットとすることができる。
【0040】
図3は、本発明の別の実施形態による、複数のキュービットを有する量子コンピューティング・デバイスの概略図である。量子コンピューティング・デバイス30は、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット32と、第2の共振周波数を有する第2のキュービット34とを含む。第2の共振周波数は、第1の共振周波数とは異なる。一実施形態において、例えば、第2の周波数は第1の周波数よりも高い。一実施形態において、例えば第2の周波数は4.8~5.0GHzの範囲内とすることができ、第1の周波数は5.6~5.8GHzの範囲内とすることができる。量子コンピューティング・デバイスは、第1の複数のキュービット32を第2のキュービット34に結合するように構成された第1の可変周波数バス36をさらに含む。
【0041】
一実施形態において、第1の複数のキュービット32は、交差共鳴(CR)を通じて、第1の可変周波数バス36を通して互いに相互作用するように構成される。
【0042】
図4Aは、本発明の一実施形態による、第1の可変周波数バス36を通じて相互作用する4つのキュービットを含んだ量子回路の概略図を示す。図4Bは、本発明の実施形態による、第1の可変周波数バス36を通じて相互作用する4つのキュービットの概略図を示す。図4Cは、本開示の一実施形態による、4つのキュービットと、可変周波数バスとを含んだチップ上の量子コンピューティング・デバイスのイメージ図である。図4Aに示されるように、第1の複数のキュービット32のキュービットQ、Q、およびQは、第1の可変周波数バス36を通じて(例えば、パラメトリックiSWAPゲートを通じて)、互いに、および第2のキュービット34に対応するキュービットQと相互作用する。
【0043】
一実施形態において、図4Aに示されるように、第1の可変周波数バス36は、量子ゲート「G」に接続された伝送線路を用いてキュービットQ、Q、Q、およびQを接続するゲート(例えば、パラメトリックiSWAPゲート)「G」を含む。ゲート「G」は、磁界「B」を印加することによって活動化される。キュービットQ、Q、Q、およびQにおいて、縦線「||」はキャパシタンスに対応し、「X」記号はジョセフソン接合に対応する。キュービットQ、Q、Q、およびQは、単一のジョセフソン接合と、単一のキャパシタンスとを有することが示されるが、任意の数のジョセフソン接合と、任意の数のキャパシタンスとが用いられ得る。加えて、キュービットQ、Q、Q、およびQの回路には他の要素も含められ得る。加えて、第1の可変周波数バス36は、2つのジョセフソン接合を用いたゲート「G」(例えば、パラメトリックiSWAPゲート)を有することが示されるが、理解され得るように、別の数のジョセフソン接合を用いる他のタイプのゲートが用いられ得る。一実施形態において、第1の可変周波数バス36は、超伝導量子干渉デバイス(SQUID)を含む。従って、一実施形態において、第1の複数のキュービット32、および第2のキュービット34は、(パラメトリックiSWAPゲートを通じて)第1の可変周波数バス36と相互作用するように構成される。
【0044】
一実施形態において、図3図4A、および図4Bに示されるように、第1の複数のキュービット32は、3つのキュービット(例えば、Q、Q、およびQ)を備える。3つのキュービット32(Q、Q、およびQ)は、交差共鳴(CR)を通じて、第1の可変周波数バス36を通して互いに相互作用するように構成される。第2のキュービット34(Q)は、(パラメトリックiSWAPゲートを通じて)第1の可変周波数バス36を通して3つのキュービット32(Q、Q、およびQ)と相互作用するように構成される。
【0045】
図5Aは、本発明の一実施形態による、4つのキュービットQ、Q、Q、およびQの第1の励起エネルギー準位を示すエネルギー図である。キュービットQの第1の励起エネルギー準位は|0001>として示され、キュービットQの第1の励起エネルギー準位は|0010>として示され、キュービットQの第1の励起エネルギー準位は|1000>として示され、キュービットQの第1の励起エネルギー準位は|0100>として示される。各励起エネルギー状態の上に示される周波数は、基底状態(ゼロに等しいエネルギーまたは周波数)と、第1の励起エネルギー準位との間の遷移エネルギー(または周波数)に対応し、それぞれQに対して4.605GHz、Qに対して4.685GHz、Qに対して4.727、およびQに対して5.478である。図5Aに示されるように、キュービットQ、Q、およびQの励起エネルギー準位|0001>、|0010>、および|1000>は、それぞれ、80MHzの|0001>と|0010>との間、42MHzの|0010>と|1000>との間、および122MHzの|0001>と|1000>との間のエネルギーの差を有して互いに近い。これは、キュービットQ、Q、およびQがCRを通じて相互作用することを可能にする。一方、キュービットQの励起エネルギー準位|0100>とキュービットQのエネルギー準位|0001>との間、キュービットQの励起エネルギー準位|0100>とキュービットQのエネルギー準位|0010>との間、キュービットQの励起エネルギー準位|0100>とキュービットQのエネルギー準位|1000>との間のエネルギーの差は、それぞれ、873MHz、793MHz、および751MHzであり、これらは80MHz、42MHz、および122MHzのいずれよりも大きい。結果として、この場合においてキュービットQ、Q、Qと、Qとの間の相互作用は、第1の可変周波数バス36によって(例えばパラメトリックiSWAPゲートを用いて)可能になる。本発明者らは、パラメトリックiSWAPゲートを用いて可変周波数バスに結合された4つのキュービットQ、Q、Q、およびQを有する量子コンピューティング・デバイスを実装した。本発明者は、様々なキュービットの間の相互作用の実装の成功を示す結果を報告した。本発明者らは結果をグラフ化した。
【0046】
図6は、本発明の一実施形態による、時間に対する、可変バスを変調する周波数の関数とした、キュービットQにおける集団のグラフである。キュービットQにおける集団が減少する領域は、励起エネルギー準位の間の周波数(エネルギー)の差に対応する。グラフは、キュービットQの励起エネルギー準位|0100>とキュービットQのエネルギー準位|0001>との間、キュービットQの励起エネルギー準位|0100>とキュービットQのエネルギー準位|0010>との間、およびキュービットQの励起エネルギー準位|0100>とキュービットQのエネルギー準位|1000>との間のエネルギー(または周波数)の差を示し、それぞれ、873MHz、793MHz、および751MHzである。グラフは、相互作用が少なくとも5μsの時間フレームにわたって安定であり、相互作用のための通常の時間スケール(約1μs未満)を与えることを示す。
【0047】
図5Bは、本発明の一実施形態による、4つのキュービットQ、Q、Q、およびQの第1の励起エネルギー準位のエネルギーまたは周波数差のグラフである。約200MHzより低いグラフ内の3つ下側の横線は、キュービットQ、Q、Q、およびQの3つの状態|0001>、|0010>、および|1000>の間の遷移に対応する。これら3つは、エネルギーまたは周波数の比較的より狭い帯域幅内に位置する。本明細書では「より狭い」という用語は、帯域幅(この場合は約122MHz)が、3つのキュービットのそれぞれと、第4のキュービットとのエネルギー状態の間のエネルギーの差(おおよそ800MHz)よりも小さいことを意味するように用いられる。約750MHzと約900MHzとの間にあるグラフ内の3つの上側の横線は、キュービットQの励起エネルギー準位|0100>を含む励起マニホールドに対応する。キュービット空間の中から外への遷移(例えば、状態|1001>と、状態|0002>との間の遷移)は、グラフ内の下側の横線と上側の横線との間にある。このグラフは、同様な周波数のキュービットの間の遷移がキュービット部分空間から外への遷移と同じ帯域幅内であるので、可変バス相互作用はそれだけでは十分でないことを実証している。
【0048】
図3に戻ると、量子コンピューティング・デバイス30は、第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービット38と、第1の共振周波数を有する第3のキュービット40とをさらに含む。量子コンピューティング・デバイス30は、第3のキュービット40を第2の複数のキュービット38に結合するように構成された、第2の可変周波数バス42をさらに含む。一実施形態において、第2の複数のキュービット38は、第2のキュービット34を含む。
【0049】
一実施形態において、第2の複数のキュービット38は、交差共鳴(CR)を通じて、第2の可変周波数バス42を通して互いに相互作用するように構成される。一実施形態において、第3のキュービット40および第2の複数のキュービット38は、(パラメトリックiSWAPゲートを通じて)第2の可変周波数バス42を通して相互作用するように構成される。一実施形態において、第3のキュービット40は、第1の複数のキュービット32と交差共鳴を通じて相互作用することが防止される。
【0050】
一実施形態において、量子コンピューティング・デバイス30は、第2の共振周波数を有する第2の複数のキュービット38と、第3の共振周波数を有する第3のキュービット40とをさらに含む。この実施形態において、第3の共振周波数は、第1の複数のキュービット32の第1の共振周波数とは、および第2の複数のキュービット38の第2の共振周波数とは異なる。第2の可変周波数バス42は、第3のキュービット40を第2の複数のキュービット38に結合するように構成される。一実施形態において、第2の複数のキュービット38は、交差共鳴(CR)を通じて、第2の可変周波数バス42を通して互いに相互作用するように構成される。一実施形態において、第3のキュービット40および第2の複数のキュービット38は、パラメトリックiSWAPゲートを通じて、第2の可変周波数バス42を通して相互作用するように構成される。
【0051】
一実施形態において、第2の複数のキュービット38は3つのキュービットを備える。3つのキュービットは、交差共鳴(CR)を通じて、第2の可変周波数バス42を通して互いに相互作用するように構成され、第3のキュービット40は、パラメトリックiSWAPゲートを通じて、第2の可変周波数バス42を通して3つのキュービット38と相互作用するように構成される。
【0052】
また、上記の段落から理解され得るように、本発明の一実施形態による、量子コンピューティング・デバイス(例えば量子コンピューティング・デバイス10)を作り出す方法がもたらされる。方法は、キュービット・チップ(例えば図4Cに示されるように)上に、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット12と、第2の共振周波数を有する第2のキュービット14とを作り出すことを含む。第2の周波数は、第1の周波数とは異なる。方法は、交差共鳴(CR)を通じて第1の複数のキュービット12の間の相互作用を可能にするように、キュービット・チップ上に第1の固定周波数バス16を作り出すこと、またはキュービット・チップを、第1の固定周波数バス16を備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つをさらに含む。方法はまた、第1の可変周波数バス18を用いて、第1の複数のキュービット12のうちの少なくとも1つを第2のキュービット14に結合することを可能にするように、キュービット・チップ上に第1の可変周波数バス18を作り出すこと、またはキュービット・チップを、第1の可変周波数バス18を備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つを含む。
【0053】
上記の段落から理解され得るように、本発明の一実施形態による、量子コンピューティング・デバイス(例えば量子コンピューティング・デバイス30)を作り出す方法がさらにもたらされる。方法は、キュービット・チップ(例えば図4Cに示されるキュービット・チップ)上に、第1の共振周波数を有する第1の複数のキュービット32と、第2の共振周波数を有する第2のキュービット34とを作り出すことを含む。第2の周波数は、第1の周波数とは異なる。方法はまた、第1の可変周波数バス36を用いて、第1の複数のキュービット32のうちの少なくとも1つを第2のキュービット34に結合することを可能にするように、キュービット・チップ上に第1の可変周波数バス36を作り出すこと、またはキュービット・チップを、第1の可変周波数バス36を備えたチップに取り付けることのうちの少なくとも1つを含む。
【0054】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国陸軍研究所(ARO)によって授与された、政府支援契約W911NF-14-1-0124によってなされた。米国政府は本発明に対する一定の権利を有する。
【0055】
本発明の様々な実施形態の説明は、例示のために提示されたが、網羅的であること、または開示される実施形態に限定されることを意図するものではない。述べられる実施形態の範囲および思想から逸脱せずに、当業者には多くの修正形態および変形形態が明らかになるであろう。本明細書で用いられる専門用語は、実施形態の原理、実用的な応用例、または市場で見出される技術に対する技術的改良を、最もよく説明するために、または当業者が本明細書で開示される実施形態を理解することを可能にするように選ばれている。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6