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特許7410165炭素量子ドット含有組成物、およびその製造方法
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  • 特許-炭素量子ドット含有組成物、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】炭素量子ドット含有組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/15 20170101AFI20231226BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20231226BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231226BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20231226BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20231226BHJP
   C09K 11/65 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C01B32/15
B82Y30/00
B82Y40/00
C09K11/02 Z
C09K11/08 B
C09K11/65 ZNM
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021553663
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040499
(87)【国際公開番号】W WO2021085493
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2021-11-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/029349
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019196094
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛尾 巧
(72)【発明者】
【氏名】内田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】坂部 宏
(72)【発明者】
【氏名】石津 真樹
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/15
C09K11/02
C09K11/08
C09K11/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物層状粘土鉱物とを前記有機化合物の一部が前記層状粘土鉱物の層間に入り込むように混合し、前記有機化合物を反応させて得られる炭素量子ドットと、
前記層状粘土鉱物と、
を含む、炭素量子ドット含有組成物。
【請求項2】
極大蛍光波長が、380~800nmの範囲にある、
請求項1に記載の炭素量子ドット含有組成物。
【請求項3】
内部量子効率が2.0%以上である、
請求項1または2に記載の炭素量子ドット含有組成物。
【請求項4】
前記層状粘土鉱物が、スメクタイトおよび層状複水酸化物から選ばれる、少なくとも一種を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素量子ドット含有組成物。
【請求項5】
前記反応性基を有する有機化合物が、カルボン酸、アルコール、フェノール類、アミン化合物、ホウ素化合物、および糖からなる群から選ばれる、少なくとも一種の化合物である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素量子ドット含有組成物。
【請求項6】
前記炭素量子ドットが、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホ基、およびボロン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素量子ドット含有組成物。
【請求項7】
層状粘土鉱物と、炭素量子ドットとを含む炭素量子ドット含有組成物の製造方法であって、
反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物と、層状粘土鉱物との混合物を前記有機化合物の一部が前記層状粘土鉱物の層間に入り込むように混合して調製する工程と、
前記混合物を加熱し、前記有機化合物を反応させて炭素量子ドットを調製する工程と、
を含む、
炭素量子ドット含有組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混合物を100℃~500℃に加熱し、前記炭素量子ドットを調製する、
請求項7に記載の炭素量子ドット含有組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合物に、電磁波を照射して前記混合物を加熱し、前記炭素量子ドットを調製する、
請求項7または8に記載の炭素量子ドット含有組成物の製造方法。
【請求項10】
前記混合物を調製する工程に使用する、前記層状粘土鉱物の平均層間隔が、0.1nm~10nmである、
請求項7~9のいずれか一項に記載の炭素量子ドット含有組成物の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素量子ドット含有組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素量子ドットは粒子径が数nmから数10nm程度の安定な炭素系微粒子である。炭素量子ドットは、良好な蛍光特性を示すことから、太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク等のフォトニクス材料としての用途が期待されている。また、低毒性で生体親和性も高いため、バイオイメージング等の医療分野への応用も期待されている。
【0003】
従来、炭素量子ドットの製造方法として、種々の方法が提案されている。例えば特許文献1には、ポリフェノールとアミン化合物とを含む溶液を加熱し、これらを炭化(反応)させることで炭素量子ドットを得る方法が記載されている(例えば特許文献1)。
【0004】
一方、炭素量子ドットの用途に応じて、上述のような方法で得られた炭素量子ドットと各種粘土鉱物とを混合することも提案されている。例えば、特許文献2には、炭素量子ドットと、モンモリロナイトとを混合した、指紋検出用の組成物が記載されている。また、特許文献3には、炭素量子ドットとモンモリロナイトとを含む、ピッカリングエマルションが記載されている。さらに、特許文献4には、炭素量子ドットと粘土鉱物とを含む浄水材料が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献5には、ゼオライト等の鉱物と、常温で液体状のフルフリルアルコールとを混合し、これらを加熱することによって、炭素量子ドットと粘土鉱物とを含む組成物の調製方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-35035号公報
【文献】中国特許出願公開第108951280号明細書
【文献】中国特許出願公開第107129804号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0291266号明細書
【文献】特開2018-131621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、量子ドットは、その粒子径によって性能、例えば発光波長が相違する。しかしながら、一般的な方法で炭素量子ドットを調製すると、所望の粒子径に調整することが難しく、例えば発光波長を所望の範囲に調整することも難しかった。また、特許文献2~4のように、炭素量子ドットの調製後、粘土鉱物と混合する場合、均一に混合することが難しく、さらにはその工程が煩雑になりやすかった。さらに、特許文献5の方法では、可視光域に極大蛍光波長を有し、かつ蛍光量子効率が良好な炭素量子ドットの調製が難しかった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。本願は、例えば極大蛍光波長が可視光域にあり、かつ炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物が均一に分散した組成物の提供、および当該組成物を簡便に得るための組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の炭素量子ドット含有組成物を提供する。
層状粘土鉱物の存在下、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物を反応させて得られる炭素量子ドットと、前記層状粘土鉱物と、を含む、炭素量子ドット含有組成物。
【0010】
本発明は、以下の炭素量子ドット含有組成物の製造方法も提供する。
層状粘土鉱物と、炭素量子ドットとを含む炭素量子ドット含有組成物の製造方法であって、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物と、層状粘土鉱物との混合物を調製する工程と、前記混合物を加熱し、前記有機化合物を反応させて炭素量子ドットを調製する工程と、を含む、炭素量子ドット含有組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の炭素量子ドット含有組成物が含む炭素量子ドットは、極大蛍光波長が可視光域にあり、かつその性能が所望の範囲となる。さらに当該炭素量子ドット含有組成物内では、炭素量子ドットと層状粘土鉱物とが均一に分散されている。したがって、長期間に亘って所望の性能を維持することが期待できる。また、本願発明の製造方法によれば、簡便な方法で、上記炭素量子ドット含有組成物を調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例4および比較例3の組成物に対し、粉末X線回折測定を行ったときの結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例4の組成物に対し、熱重量分析を行ったときの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の炭素量子ドット含有組成物は、炭素量子ドットと層状粘土鉱物とを含む。本明細書において、炭素量子ドットとは、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物を反応させて得られる粒子径が1~100nmの炭素粒子のことを指す。なお、本明細書における「反応」とは、官能基を有する有機化合物が脱水、脱炭酸、脱水素等の反応によって縮環構造(グラファイト構造)を形成することをいう。
【0014】
前述のように、従来の一般的な方法で炭素量子ドットを調製した場合、その粒子径の制御が難しく、発光波長等の制御が難しかった。また、炭素量子ドットを含む組成物を調製する場合、このような炭素量子ドットを調製してから、層状粘土鉱物等と混合することが一般的であった。しかしながら、当該方法では、炭素量子ドットと層状粘土鉱物等とを均一に混合することは難しかった。さらに、ゼオライト等の粘土鉱物と、フルフリルアルコールとを混合し、加熱しただけでは、可視光域に極大蛍光波長を有する炭素量子ドットが得られなかった。
【0015】
これに対し、本願発明では、層状粘土鉱物の存在下、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物を反応させて炭素量子ドット含有組成物(以下、単に「組成物」とも称する)を得る。このように組成物を調製すると、炭素量子ドットの粒子径が揃った、すなわち発光波長等の性能が制御された組成物が得られる。また、当該組成物では、炭素量子ドットの凝集体の生成を抑制することも可能である。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0016】
炭素量子ドットの原料である有機化合物を反応させる際には、周辺の分子間で反応が三次元で進行するため、生成する炭素量子ドットの粒子径がばらつきやすかった。また、炭素量子ドットは分子間力が大きく、得られた炭素量子ドットをより微小な炭素量子ドットに加工することは難しく、凝集体が生じやすかった。炭素量子ドットの粒子径が比較的大きいと、炭素量子ドットが層状粘土鉱物の層間に入り込めず、均一に混ざり難いと考えられる。
【0017】
これに対し、本発明では、炭素量子ドットの原料となる、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物と、層状粘土鉱物と、を混合し、この状態で有機化合物を反応させる。有機化合物と、層状粘土鉱物とをいずれも固体の状態で混合すると、有機化合物の一部が層状粘土鉱物の層間に入りこむことによって、適量が反応に供されると考えられる。そして、層状粘土鉱物の層間は狭いため、有機化合物の集合体が分断されやすくなって、粒子径の揃った炭素量子ドットが調製されやすくなる。付言すると、層状粘土鉱物では、層間が略一定になるため、炭素量子ドットの粒子径が均一になりやすい。またさらに、原料となる有機化合物が微細に分散されているため、得られる炭素量子ドットの粒子径を小さくすることも可能である。
【0018】
また、本発明のように炭素量子ドットを調製すると、炭素量子ドットの一部が層状粘土鉱物の層間に入り込んだ状態(複合体)となる。したがって、炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物の分散状態が均一になるだけでなく、炭素量子ドットが長期間に亘って凝集し難くなり、所望の性能が安定して得られやすくなる。
【0019】
ここで、本発明の組成物のように、炭素量子ドットの凝集が少なく、炭素量子ドットが分散して存在する割合が多い場合、炭素量子ドットが層状粘土鉱物を構成する各層の表面を覆うため、組成物の比表面積が小さくなる。なお、層状粘土鉱物を構成する各層の表面とは、層状粘土鉱物の外表面だけでなく、層状粘土鉱物の内部に位置する各層の表面も意味する。そして、このような組成物では、その比表面積を炭素量子ドットの分散性の指標の一つとすることができる。ただし、層状粘土鉱物の種類によっては粘土自体の比表面積の値が小さく、炭素ドットの分散性の違いが、比表面積の差として現れない場合もある。
【0020】
なお、本発明の組成物の極大蛍光波長は380~800nmの範囲にあることが好ましく、400~750nmの範囲にあることがより好ましい。極大蛍光波長が当該範囲になると、組成物から発光される可視光の量が十分になりやすい。なお、極大蛍光波長は、組成物をKBrプレートに挟み、プレスして測定用サンプルを作製し、当該測定用サンプルに分光蛍光光度計を用いて励起光を照射して測定される値である。測定される蛍光のうち、内部量子効率が最大となる波長で励起したときに、蛍光強度が極大を示す波長を極大蛍光波長とする。
【0021】
さらに、本発明の炭素量子ドット含有組成物の内部量子効率は2.0%以上が好ましく、2.3%以上がより好ましい。内部量子効率は、「組成物から発光される光のエネルギーを組成物が吸収する励起光のエネルギーで除した値」と定義され、分光蛍光光度計により測定される値である。
【0022】
ここで、本発明の組成物は、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物とを含んでいればよいが、本発明の目的および効果を損なわない範囲で分散性を高める界面活性剤や炭素量子ドット以外の発光体等の他の成分を含んでいてもよい。
【0023】
(炭素量子ドット)
本発明の組成物が含む炭素量子ドットは、層状粘土鉱物の存在下、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物を反応させて得られる量子ドットである。なお、反応性基を有する有機化合物や、炭素量子ドットの調製方法については、後述の組成物の調製方法で詳しく説明する。
【0024】
炭素量子ドットの発光波長や構造は特に制限されない。炭素量子ドットの発光波長や構造は、炭素量子ドットの調製に使用する有機化合物の種類や、層状粘土鉱物の種類、層状粘土鉱物の平均層間隔等に応じて定まる。
【0025】
ただし、炭素量子ドットを原子間力顕微鏡(AFM)により観察したときに、断面で観察される高さは、1~100nmが好ましく、1~80nmがより好ましい。炭素量子ドットの大きさが当該範囲であると、量子ドットとしての性質が十分に得られやすい。
【0026】
また、当該炭素量子ドットは、波長250~1000nmの光を照射したときに、可視光または近赤外光を発することが好ましく、このときの発光波長は300~2000nmが好ましく、300~1500nmがより好ましいが、可視光を発光可能であることがより好ましく、具体的には、380~800nmの光を発することがさらに好ましい。発光波長が当該範囲であると、本発明の組成物を種々の用途に使用できる。
【0027】
炭素量子ドットは、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホ基、およびボロン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を有することが好ましい。炭素量子ドットは、これらのうちの1種のみの基を有していてもよく、2種以上の基を有していてもよい。炭素量子ドットがこれらの基を含むと、炭素量子ドット、ひいては組成物の溶媒等に対する分散性が良好になり、種々の用途に使用しやすくなる。炭素量子ドットが有する官能基の種類は、例えばIRスペクトル等により特定できる。また、炭素量子ドットが有する官能基は、通常有機化合物が有する官能基に由来する。
【0028】
組成物中の炭素量子ドットの量は、0.1~50質量%が好ましく、0.5~30質量部がより好ましい。組成物中の炭素量子ドットの量が上記範囲であると、組成物から十分な発光が得られる。また、炭素量子ドットの量が上記範囲であると、組成物内で炭素量子ドットが凝集し難くなり、組成物の安定性が高まる。
【0029】
(層状粘土鉱物)
層状粘土鉱物は、ケイ素、アルミニウム、酸素等が所定の構造で配列した層状の結晶が積層された構造を有し、各層どうしの間は、静電相互作用等によって構成されている。一般的に、結晶層どうしの間には、水や金属イオン、カリウムやマグネシウム、水、有機物等が取り込まれている。層状粘土鉱物は、アニオン交換性であってもよく、カチオン交換性であってもよい。
【0030】
層状粘土鉱物の例には、スメクタイト、層状複水酸化物、カオリナイト、および雲母等が含まれる。これらの中でもスメクタイトまたは層状複水酸化物が、炭素量子ドット(もしくは後述の有機化合物)を担持するのに適した平均層間隔を有し、かつ所望の粒子径の炭素量子ドットを調製しやすい点で好ましい。
【0031】
スメクタイトは、水等によって膨潤する粘土鉱物であり、その例には、サポナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、ノントロナイト、ソーコナイト、スティーブンサイト等が含まれる。
【0032】
一方、層状複水酸化物は、2価の金属酸化物に3価の金属イオンが固溶した複水酸化物であり、その例には、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト、ハイドロマグネサイト、パイロオーライト等が含まれる。
【0033】
層状粘土鉱物は天然物であってもよく、人工物であってもよい。また、結晶層に含まれるヒドロキシ基がフッ素で置換されたものであってもよい。さらに、層間イオンがアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、アンモニウムイオン等で置換されたものであってもよい。また、層状粘土鉱物は、各種有機物によって修飾されていてもよく、例えば、四級アンモニウム塩化合物や四級ピリジニウム塩化合物で化学修飾されたスメクタイトであってもよい。
【0034】
組成物中の層状粘土鉱物の量は、50~99.9質量%が好ましく、70~99.5質量%がより好ましい。層状粘土鉱物の量が上記範囲であると、相対的に炭素量子ドットの量が十分に多くなり、十分な発光量が得られる。また、層状粘土鉱物の量が上記範囲であると、層状粘土鉱物によって炭素量子ドットを十分に担持でき、炭素量子ドットの分散性が良好になりやすい。
【0035】
(組成物の調製方法)
上記炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物を含む組成物は、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物と、層状粘土鉱物との混合物を調製する工程(混合物調製工程)と、前記混合物を加熱し、前記有機化合物を反応させて炭素量子ドットを調製する工程(炭素量子ドット調製工程)と、を行うことで調製できる。
【0036】
・混合物調製工程
混合物調製工程では、反応性基を有し、かつ固体状の有機化合物と、層状粘土鉱物とを略均一に混合した混合物を調製する。有機化合物は、反応性基を有し、固体状であり、かつ反応によって炭素量子ドットを生成可能な化合物であれば特に制限されない。本明細書では、「反応性基」とは、後述の炭素量子ドット調製工程において、有機化合物どうしの重縮合反応等を生じさせるための基であり、炭素量子ドットの主骨格の形成に寄与する基である。なお、炭素量子ドットを調製(反応)後、これらの反応性基の一部が残存していてもよい。反応性基の例には、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、およびボロン酸基等が含まれる。なお、混合物調製工程では、二種以上の有機化合物を層状粘土鉱物と混合してもよい。この場合、複数の有機化合物は、互いに反応しやすい基を有することが好ましい。また、本明細書では「固体状」とは、層状粘土鉱物と混合する際に固体状であることをいう。通常、層状粘土鉱物と有機化合物との混合は、常温で行うため、常温で固体の化合物が好ましい。
【0037】
上記反応性基を有する有機化合物の例には、カルボン酸、アルコール、フェノール類、アミン化合物、ホウ素化合物、および糖が含まれる。有機化合物は、上述のように、層状粘土鉱物と混合する温度において固体状であればよく、常温で液体状であってもよい。
【0038】
カルボン酸は、分子中にカルボキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。カルボン酸の例には、ギ酸、酢酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ポリアクリル酸等の2価以上の多価カルボン酸;クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシ酸;が含まれる。
【0039】
アルコールは、ヒドロキシ基を1つ以上有する化合物(ただし、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、または糖に相当するものは除く)であればよい。アルコールの例には、エチレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アスコルビン酸、ポリエチレングリコール等の多価アルコールが含まれる。
【0040】
フェノール類は、ベンゼン環にヒドロキシ基が結合した構造を有する化合物であればよい。フェノール類の例には、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガロール、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、没食子酸、タンニン、リグニン、カテキン、アントシアニン、ルチン、クロロゲン酸、リグナン、クルクミン等が含まれる。
【0041】
アミン化合物の例には、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,4-フェニレンジアミン、尿素、チオ尿素、チオシアン酸アンモニウム、エタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノール、メラミン、シアヌル酸、バルビツール酸、葉酸、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミド、グアニジン、アミノグアニジン、ホルムアミド、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、グルタチオン、RNA、DNA等が含まれる。
【0042】
ホウ素化合物の例には、ボロン酸基を有する化合物が含まれ、具体的にはフェニルボロン酸、ピリジンボロン酸等が含まれる。
【0043】
糖の例には、グルコース、スクロース、グルコサミン、セルロース、キチン、キトサン等が含まれる。
【0044】
上記の中でも、縮合反応が効率的に進行する有機化合物が好ましく、好ましいものの一例として、カルボン酸、フェノール類、アミン化合物、もしくはカルボン酸とアミン化合物との組み合わせが挙げられる。また、有機化合物がアミン化合物を含むと、N原子がドープされることで、発光特性が向上するため好ましい。なお、有機化合物が、N原子以外のヘテロ原子を有する場合においても同様の効果が期待される。
【0045】
また、上記の中でも、常温で固体状であるもののほうが、常温で層状粘土鉱物と混合可能となる点で好ましい。上記の中でも、融点が30℃以上である化合物がより好ましく、融点が45℃以上である化合物がさらに好ましい。
【0046】
一方、有機化合物と組み合わせる層状粘土鉱物は、上述の層状粘土鉱物(組成物が含む層状粘土鉱物)と同様である。層状粘土鉱物は、有機化合物が有する反応性基の種類、所望の炭素量子ドットの発光波長、すなわち所望の炭素量子ドットの粒子径に合わせて、選択することが好ましい。例えば、有機化合物が有する反応性基がアニオンとなる場合には、アニオン交換性の層状粘土鉱物を選択してもよい。同様に、有機化合物が有する反応性基がカチオンとなる場合には、カチオン交換性の層状粘土鉱物を選択してもよい。
【0047】
一方、有機化合物と組み合わせる層状粘土鉱物の平均層間隔は、有機化合物の分子構造や、所望の炭素量子ドットの粒子径に合わせて適宜選択されるが、0.1~10nmが好ましく、0.1~8nmがより好ましい。層状粘土鉱物の平均層間隔は、X線回折装置等によって解析できる。なお、層状粘土鉱物の平均層間隔とは、層状粘土鉱物の隣り合う結晶層の一方の底面と他方の天面との間隔をいう。前述のように、炭素量子ドットは、層状粘土鉱物の層間をテンプレートとして合成される。そのため、層状粘土鉱物の平均層間隔が、10nm以下であると、発光波長が短い炭素量子ドットが得られやすくなる。一方で、平均層間隔が0.1nm以上であると、これらの間に有機化合物の一部が入り込みやすくなり、層状粘土鉱物の層間をテンプレートとして炭素量子ドットが形成されやすくなる。
【0048】
なお、層状粘土鉱物の平均層間隔を調整するため、層状粘土鉱物を水や各種溶媒によって膨潤させてもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。混合物(有機化合物と層状粘土鉱物と溶媒)中の溶媒の量は、10~80質量%が好ましく、10~70重量%がより好ましい。
【0049】
ここで、有機化合物と層状粘土鉱物とを混合する方法は、これらを均一に混合可能であれば、特に制限されない。例えば、乳鉢ですりつぶしながら混合したり、ボールミル等によって粉砕しながら混合したりしてもよい。
【0050】
また、有機化合物と層状粘土鉱物との混合比は、所望の炭素ドット量子と層状粘土鉱物との含有比に合わせて適宜選択される。
【0051】
・炭素量子ドット調製工程
炭素量子ドット調製工程は、上述の混合物を加熱し、有機化合物を反応させて炭素量子ドットとする工程である。混合物の加熱方法は、有機化合物が反応可能であれば特に制限されず、例えば加熱する方法や、電磁波(例えばマイクロ波)を照射する方法等が含まれる。
【0052】
混合物を加熱する場合、加熱温度は70~700℃が好ましく、100~500℃がより好ましく、100~300℃がさらに好ましい。また、加熱時間は0.01~45時間が好ましく、0.1~30時間がより好ましく、0.5~10時間がさらに好ましい。加熱時間によって、得られる炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。またこのとき、窒素等の不活性ガスを流通させながら非酸化性雰囲気で加熱を行ってもよい。
【0053】
電磁波(例えばマイクロ波)を照射する場合、ワット数は1~1500Wが好ましく、1~1000Wがより好ましい。また、電磁波(例えばマイクロ波)による加熱時間は0.01~10時間が好ましく、0.01~5時間がより好ましく、0.01~1時間がさらに好ましい。電磁波(マイクロ波)の照射時間によって、得られる炭素量子ドットの粒子径、ひいては発光波長を調整できる。
【0054】
上記電磁波照射は、例えば半導体式電磁波照射装置等によって行うことができる。電磁波の照射は、上記混合物の温度を確認しながら行うことが好ましい。例えば温度が70~700℃となるように、より好ましくは100~500℃となるように調整しながら、電磁波を照射することが好ましい。
【0055】
当該炭素量子ドット調製工程により、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物とが均一に分散された炭素量子ドット含有組成物が得られる。またこのとき、当該組成物を有機溶媒で洗浄して、未反応物や副生物を除去して精製してもよい。
【0056】
(用途)
上述のように、混合物調製工程および上記炭素量子ドット調製工程を経て炭素量子ドット含有組成物を調製すると、炭素量子ドットを調製してから層状粘土鉱物と混合した場合より、炭素量子ドットの分散性が高まる。なお、炭素量子ドットの分散性が高い炭素量子ドット含有組成物は、可視光域における発光性が良好であったり、炭素量子ドットが有する官能基を利用して特定物質を分離させる分離剤として有用であったりする。したがって、組成物を各種用途に利用可能である。
【0057】
上述の炭素量子ドット含有組成物の用途は、特に制限されず、炭素量子ドットの性能に合わせて、例えば太陽電池、ディスプレイ、セキュリティインク、量子ドットレーザ、バイオマーカー、照明材料、熱電材料、光触媒、特定物質の分離剤等に使用できる。
【実施例
【0058】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
サポナイト(スメクトンSA、クニミネ工業社製、以下、同じ)1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0060】
[実施例2]
ハイドロタルサイト(富士フイルム和光純薬社製)0.5gと、クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で90分加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0061】
[実施例3]
サポナイト1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、155℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0062】
[実施例4]
サポナイト1.0gと、フロログルシノール二水和物0.4gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0063】
[実施例5]
サポナイト0.5gと、クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、170℃で90分加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0064】
[実施例6]
サポナイト1.0gと、フロログルシノール二水和物0.02gと、レゾルシノール0.1gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0065】
[実施例7]
サポナイト0.56gと、フロログルシノール二水和物0.084gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、撹拌下、富士電波工機社製の半導体式電磁波照射装置(矩形導波管型共振器)の電場最大点に上記ねじ口試験管を設置して、2.45GHzの電磁波を照射し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0066】
なお、当該半導体式電磁波照射装置による電磁波照射には、TE103シングルモードを採用した。当該半導体式電磁波照射装置は、スリースタブチューナー、アイリス、およびプランジャーを備えた共振器、半導体式電磁波発振器、ならびに入力電力および反射電力を監視するモニターから構成される。電磁波照射時の温度は赤外放射温度計を用いて測定した。そして、当該半導体式電磁波発振器より2W、2.45GHzの電磁波を発振しつつ、スリースタブチューナーおよびプランジャーを調節することで、反射電力を0.1W未満に抑えた。電磁波照射1分後に、赤外放射温度計が示す温度が200℃となり、温度計が200℃を示してから4分間反応を行った。
【0067】
[実施例8]
サポナイト1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、120℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0068】
[比較例1]
フロログルシノール二水和物1.2gを内容積15mlのねじ口試験管に入れ、窒素気流下、200℃で3時間加熱して炭素量子ドットを合成した。合成した炭素量子ドットを0.12g測り取り、サポナイト1.0gとともに乳鉢ですりつぶすことで両者を混合し、炭素量子ドット含有組成物を得た。
【0069】
[比較例2]
クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、窒素気流下、170℃で90分加熱して炭素量子ドットを合成した。合成した炭素量子ドットを35.0mg測り取り、ハイドロタルサイト70.0mgとともに乳鉢ですりつぶすことで両者を混合し、炭素量子ドット含有組成物を得た。
【0070】
[比較例3]
フロログルシノール二水和物1.2gを内容積15mlのねじ口試験管に入れ、窒素気流下、200℃で3時間加熱して炭素量子ドットを合成した。合成した炭素量子ドットを0.31g測り取り、サポナイト1.0gとともに乳鉢ですりつぶすことで両者を混合し、炭素量子ドット含有組成物を得た。
【0071】
[比較例4]
クエン酸0.15gと、ジシアンジアミド0.1gとを乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、窒素気流下、170℃で90分加熱して炭素量子ドットを合成した。合成した炭素量子ドットを50.0mg測り取り、サポナイト100.0mgとともに乳鉢ですりつぶすことで両者を混合し、炭素量子ドット含有組成物を得た。
【0072】
[比較例5]
内容積15mlのねじ口試験管内で、サポナイト1.0gに対して、フルフリルアルコール(液体)0.15gを含侵させ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0073】
[比較例6]
内容積15mlのねじ口試験管内で、活性白土(富士フィルム和光純薬社製)1.0gに対して、フルフリルアルコール(液体)0.15gを含侵させ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、155℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、層状粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0074】
[比較例7]
ジシアンジアミドを内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットを調製した。
【0075】
[比較例8]
ゼオライト(HSZ-320NAA、東ソー社製、以下、同じ)1.0gと、フロログルシノール二水和物0.15gと、を乳鉢ですりつぶした。当該混合物を内容積15mlのねじ口試験管に入れ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、200℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0076】
[比較例9]
内容積15mlのねじ口試験管内で、ゼオライト1.0gに対して、フルフリルアルコール(常温で液体)0.15gを含侵させ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、80℃で12時間加熱し、炭素量子ドットと、粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0077】
[比較例10]
内容積15mlのねじ口試験管内で、ゼオライト1.0gに対して、フルフリルアルコール(常温で液体)0.15gを含侵させ、ゴムパッキン付きねじ口キャップで封をした。そして、ねじ口試験管内に窒素を流通させながら、155℃で3時間加熱し、炭素量子ドットと、粘土鉱物と、を含む炭素量子ドット含有組成物(複合体)を調製した。
【0078】
[評価]
実施例および比較例で使用した層状粘土鉱物の平均層間隔、得られた組成物の比表面積、および組成物の発光波長について、以下のように評価した。結果を表1に示す。また、実施例4および比較例3の組成物中での炭素量子ドットの凝集状態、および実施例4の組成物の炭素量子ドットの含有量を以下のように測定した。結果をそれぞれ、図1および図2に示す。
【0079】
(層状粘土鉱物の平均層間隔の測定)
層状粘土鉱物の平均層間隔は、X’Pert-PRO MPD(PANalytical製)を用い、特性X線波長1.54Åにて粉末X線回折測定を行い評価した。層状粘土鉱物の平均層間隔とは、層状粘土鉱物を構成する結晶層の間隔(一方の底面と他方の天面との間隔)を意味する。
【0080】
(比表面積の評価)
組成物の比表面積は、Monosorb(Quantachrome Instruments製)を用いて評価した。N:He=20vol%:80vol%の混合ガスを用いてBET一点法により比表面積の値を求めた。サンプルは150℃で10分間乾燥したものを用いた。
【0081】
(極大蛍光波長の評価)
組成物をKBrプレートに挟み、プレスして測定用サンプルを作製した。当該測定用サンプルに分光蛍光光度計FP-8500(日本分光社製)を用いて、内部量子効率が最大となる波長の励起光を照射したときの、極大蛍光波長を評価した。
【0082】
(炭素量子ドットの凝集状態の評価)
実施例5よび比較例3の組成物における炭素量子ドットの凝集状態は、X’Pert-PRO MPD(PANalytical製)を用い、特性X線波長1.54Åにて粉末X線回折測定を行い評価した。
【0083】
(炭素量子ドット含有量の評価)
熱重量分析装置TGA2(Mettler社製)を用いて、40ml/分の空気気流下、昇温速度10℃/分で測定を行い、重量減少量から実施例5の組成物中の炭素量子ドット含有量を評価した。
【0084】
(内部量子効率の特定)
組成物をKBrプレートに挟み、プレスして測定用サンプルを作製した。当該測定用サンプルに分光蛍光光度計FP-8500(日本分光社製)を用いて、300~700nmの範囲に極大をもつ励起光を順次照射し、内部量子効率を評価した。
【0085】
【表1】
【0086】
上記表に示されるように、層状粘土鉱物と固体状の有機化合物とを混合して、層状粘土鉱物の存在下、炭素量子ドットを調製して、炭素量子ドットおよび層状粘土鉱物を含む炭素量子ドット含有組成物を得た場合、380nm~800nmの範囲に極大蛍光波長を有していた(実施例1~8)。また、これらは内部量子効率が、いずれも2.0%を超えていた。
【0087】
一方、炭素量子ドットを合成してから、炭素量子ドットと層状粘土鉱物とを混合した比較例1および比較例3では、発光が確認できたものの、内部量子効率が低かった。さらに、いずれも比表面積が大きく、分散が良好に行われず、炭素量子ドットが凝集してしまったと考えられる。また、比較例2では、実施例2と同一の反応温度および同一の反応時間で炭素量子ドットを調製したにも関わらず、炭素量子ドットの極大蛍光波長が長く、かつ内部量子効率が低かった。実施例2では、層状粘土鉱物の存在下、炭素量子ドットを調製することで、炭素量子ドットの粒子径が小さくなったため、比較例2より蛍光波長が短くなったと考えられる。また、比較例4の組成物は、有機化合物と層状粘土鉱物との比率が実施例5と同一にも関わらず、比表面積が大きかった。実施例5では、層状粘土鉱物の存在下、炭素量子ドットを調製したため、層状化合物の空孔に炭素量子ドットが効果的に包接され、炭素量子ドットの分散性が比較例4より良好になったと考えられる。
【0088】
さらに、図1に示されるように、実施例4および比較例3のいずれの組成物でも、層状粘土鉱物由来の回折ピーク(2θ=19°付近のピーク)が観察された。また、実施例4の組成物では、炭素量子ドットの凝集に由来する回折ピークが観察されなかったのに対し、比較例3の組成物では、炭素量子ドットの凝集に由来する鋭いピークが回折角度2θ=17°、20°、26°、29°付近に観察された。さらに、実施例4の組成物では、層状粘土鉱物の層秩序に由来するピーク(2θ=8°)の小角側へのシフト(2θ=6°)とブロード化が観察された。このことから、実施例4の調製方法では、炭素量子ドットが層状粘土鉱物の層間で生成したといえる。また、得られた組成物では、炭素量子ドットが層状粘土鉱物中に良好に分散していると考えられる。
【0089】
さらに、図2に示されるように、実施例4の組成物の重量減少量を測定したとき、約300℃から550℃の間で、21質量%重量減少がみられた。この結果から、実施例4の組成物は21質量%の炭素量子ドットを含むと算出された。
【0090】
さらに、層状粘土鉱物と有機化合物とを組み合わせた場合であっても、有機化合物として、液体状のフルフリルアルコールを用いた場合には、極大蛍光波長が観察されなかった(比較例5、6)。また、層状粘土鉱物を使用しなかった場合には、可視光に極大蛍光波長を有する炭素量子ドットとならなかった(比較例7)。さらに、上述の先行技術文献5に記載の、ゼオライト(層状粘土鉱物ではない鉱物)と、フルフリルアルコールを用いた場合には、いずれの領域にも極大蛍光波長が得られなかった(比較例9および10)。
【0091】
本出願は、2019年10月29日出願の特願2019-196094号に基づく優先権、2020年7月30日出願の国際出願JP2020/029349号の優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の炭素量子ドット含有組成物によれば、炭素量子ドットと層状粘土鉱物との分散性が良好であり、さらには炭素量子ドットの性能(例えば極大蛍光波長が可視光領域にある等)を所望の範囲に調整することができる。したがって、各種用途に使用可能な炭素量子ドット含有組成物が得られる。
図1
図2