(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20231226BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20231226BHJP
B23Q 15/013 20060101ALI20231226BHJP
B23B 1/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G05B19/4093 M
G05B19/404 K
B23Q15/013
B23B1/00 D
(21)【出願番号】P 2021574010
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002378
(87)【国際公開番号】W WO2021153482
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020010681
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】熊本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084171(WO,A1)
【文献】特開2020-009248(JP,A)
【文献】特開平06-320389(JP,A)
【文献】特開2000-284820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 15/013
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークと工具を相対的に揺動させて加工を行う工作機械の制御装置であって、
前記ワークの諸元、前記工具の諸元、加工方法及び加工形状のうち少なくとも一つの加工条件と揺動条件との対応関係を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記対応関係に基づいて、加工に使用する揺動条件を選択する揺動条件判断部と、
前記揺動条件判断部により選択された揺動条件に基づいて、揺動指令を生成する揺動指令生成部と、を備え
、
前記揺動条件判断部は、今回の加工条件が前記記憶部に存在しない場合には、前記記憶部に記憶された複数の加工条件を元に補間して得られた揺動条件を選択する、工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記揺動条件判断部は、前記記憶部に記憶された前記対応関係に基づいて、加工プログラムから自動判断される加工条件に対応する揺動条件を選択する、請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記揺動条件判断部は、前記加工に使用する揺動条件の候補を複数選択し、前記複数の候補の中から前記加工に使用する揺動条件をユーザが選択可能に構成される、請求項1又は2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記加工条件の入力及び前記揺動条件判断部による選択結果の出力を表示する表示部をさらに備える、請求項1から3いずれかに記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークと工具を相対的に揺動させて加工を行うことが知られている。ここで、例えば切り屑を細断するための揺動切削において、揺動周波数及び揺動振幅からなる揺動条件は、工具、ワーク、加工方法、加工形状等により異なったものとなる。そのため、加工プログラム毎に揺動条件の設定のし直しや微調整が必要だが、この作業には時間がかかるという課題がある。
【0003】
例えば特許文献1では、ワークの直径及び切り屑の設定長さから、揺動周波数を算出する技術が開示されている。また特許文献2では、加工プログラムの加減速指令から揺動周波数の最適値を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-243231号公報
【文献】特開2018-181103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の技術では、上述したように揺動周波数及び揺動振幅からなる揺動条件は工具、加工方法、加工形状等の影響を受けるため、より適切な揺動条件の算出が望まれる。また特許文献2の技術では、揺動振幅を併せて決定することはできないうえ、工具の剛性の違いにより刃先の振れ方が異なるため、加工プログラムの加減速指令からだけでは揺動周波数の最適値を判断できない。
【0006】
従って、より適切かつ容易に揺動条件を決定できる工作機械の制御装置を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、ワークと工具を相対的に揺動させて加工を行う工作機械の制御装置であって、前記ワークの諸元、前記工具の諸元、加工方法及び加工形状のうち少なくとも一つの加工条件と揺動条件との対応関係を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記対応関係に基づいて、加工に使用する揺動条件を選択する揺動条件判断部と、前記揺動条件判断部により選択された揺動条件に基づいて、揺動指令を生成する揺動指令生成部と、を備える工作機械の制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、より適切かつ容易に揺動条件を決定できる工作機械の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る工作機械の制御装置の機能ブロック図である。
【
図2】加工条件と揺動条件との対応関係の一例を示す図である。
【
図3】直線補間により揺動条件を求めた場合の一例を示す図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る揺動条件判断部による処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0011】
図1は、本開示の一実施形態に係る工作機械の制御装置10の機能ブロック図である。本実施形態に係る工作機械の制御装置10は、工具とワークとを相対的に回転させる主軸のモータを制御するとともに、工具とワークとを相対的に揺動させながら移動させる送り軸のモータ30を制御することにより、切削、研削、旋削等の加工を実行する。本実施形態に係る工作機械の制御装置10は、例えば、CPU、メモリ等を有するコンピュータにより構成される。
【0012】
図1に示されるように、本実施形態に係る工作機械の制御装置10は、加算器11,13と、積算器12と、位置速度制御部14と、記憶部15と、揺動条件判断部16と、入力部17と、揺動指令生成部18と、表示部19と、を備える。
【0013】
加算器11は、位置偏差を算出する。具体的には、加算器11は、送り軸のモータ30のエンコーダによる位置検出に基づいた位置フィードバックと、図示しない数値制御装置等の上位制御装置からの送り軸の位置指令と、の差分である位置偏差を算出する。
【0014】
積算器12は、位置偏差の積算値を算出する。具体的には、積算器12は、上記加算器11で算出された位置偏差を積算することにより、位置偏差の積算値を算出する。
【0015】
加算器13は、重畳指令を生成する。具体的には、加算器13は、上記積算器12で算出された位置偏差の積算値に対して、後述する揺動指令生成部18で生成される揺動指令を加算(重畳)することにより、重畳指令を生成する。
【0016】
位置速度制御部14は、上記重畳指令に基づいて、送り軸を駆動するモータ30に対するトルク指令を生成し、生成したトルク指令によりモータ30を制御する。これにより、送り軸を駆動するモータ30は、揺動動作を伴いながら指令位置まで移動する。
【0017】
記憶部15は、加工条件と揺動条件の対応関係を一つ以上記憶する。加工条件には、ワークの諸元、工具の諸元、加工方法及び加工形状のうち少なくとも一つの加工条件が含まれる。ワークの諸元としては、例えばワーク径、ワークの材質等が挙げられ、工具の諸元としては、例えば工具径、工具の刃数等が挙げられる。また、加工方法としては、例えば研削、切削、ねじ切り、穴開け等が挙げられ、加工形状としては、種々の形状、大きさが挙げられる。また、揺動条件には、揺動振幅と揺動周波数が含まれる。
【0018】
ここで、
図2は、加工条件と揺動条件との対応関係の一例を示す図である。
図2に示す例では、工具径がX1、ワーク径がY1、加工方法が研削からなる加工条件に対応した揺動条件として、揺動振幅A1と揺動周波数F1が対応付けられている。また、工具径がX2、ワーク径がY2、加工方法が研削加工からなる加工条件に対応した揺動条件として、揺動振幅A2と揺動周波数F2が対応付けられている。これら加工条件と揺動条件との対応関係は、実際に加工して評価を行い、好ましい評価が得られた対応関係である。これらの対応関係は、例えば制御装置10の設計時に、予め記憶部15に記憶される他、ユーザの入力により記憶部15に蓄積される。
【0019】
揺動条件判断部16は、上記記憶部15に記憶された加工条件と揺動条件との対応関係に基づいて、加工に使用する揺動条件を選択する。より詳しくは、揺動条件判断部16は、記憶部15に記憶された対応関係に基づいて、ユーザにより入力された加工条件に対応する揺動条件を選択してもよく、加工プログラムから自動判断される加工条件に対応する揺動条件を選択してもよい。
【0020】
また、揺動条件判断部16は、加工に使用する揺動条件の候補を複数選択し、複数の候補の中から加工に使用する揺動条件をユーザが選択可能となるように構成されてもよい。例えば、今回の加工条件が記憶部15に存在しない場合等において、加工に使用する揺動条件として適切な候補を複数選択し、該候補の中からユーザが最適と考える揺動条件を選択可能となっている。
【0021】
また、揺動条件判断部16は、今回の加工条件が記憶部15に存在しない場合には、記憶部15に記憶された複数の加工条件を元に補間して得られた揺動条件を選択するように構成してもよい。あるいは、揺動条件判断部16は、今回の加工条件が記憶部15に存在しない場合には、記憶部15に記憶された加工条件のうち、より近い加工条件に対応した揺動条件を選択するように構成してもよい。
【0022】
ここで、
図3は、直線補間により揺動条件を求めた場合の一例を示す図である。
図3に示される加工条件、即ち工具径がX1+α、ワーク径がY1、加工方法が研削からなる加工条件については、上述の
図2の例において完全に一致するものが記憶部15に記憶されていない。具体的には、
図3に示される加工条件は、
図2の例における上段と下段の加工条件と比べて工具径のみが異なっている。
【0023】
そこで、
図3に示される加工条件に最適な揺動条件は、
図2の上段と下段の各対応関係を用いて、例えば線形補間により求めることができる。具体的には、揺動振幅がα×(A1-A2)/(X1-X2)+A1、揺動周波数がα×(F1-F2)/(X1-X2)+F1と求めることができる。このとき、補間方法や対象とするデータの数に制限はない。
【0024】
また、
図3に示される加工条件の工具径X1+αは、
図2の上段の加工条件の工具径X1により近いため、加工に使用する揺動条件としては、
図2の上段の加工条件に対応した揺動条件、即ち揺動振幅A1及び揺動周波数F1を選択してもよい。
【0025】
図1に戻って、入力部17は、今回実行する加工条件をユーザが入力可能となるように構成されている。
【0026】
揺動指令生成部18は、揺動条件判断部16で選択された揺動条件に基づいて、工具とワークとを相対的に揺動させる揺動指令を生成する。
【0027】
表示部19は、加工条件の入力及び揺動条件判断部16による選択結果の出力を表示する。
【0028】
次に、本実施形態に係る揺動条件判断部16による処理の手順について、
図4を参照しながら詳しく説明する。ここで、
図4は、本実施形態に係る揺動条件判断部16による処理の一例を示すフローチャートである。本例では、ユーザによる入力に基づいて揺動条件を選択する例について示している。
【0029】
先ず、ステップS1では、ユーザが入力部により加工条件を入力する。具体的には、工具径、ワーク径、加工方法等を入力する。入力後、ステップS2に移る。
【0030】
ステップS2では、ステップS1で入力された加工条件と、記憶部15に予め記憶された加工条件と揺動条件との対応関係とに基づいて、加工に使用する揺動条件を選択する。選択後、ステップS3に移る。
【0031】
ステップS3では、ステップS2で選択された揺動条件に基づいて、揺動指令を生成する。生成後、ステップS4に移る。
【0032】
ステップS4では、ステップS3で生成された揺動指令を位置指令に重畳することにより、重畳指令を生成する。生成後、ステップS5に移る。
【0033】
ステップS5では、ステップS4で生成された重畳指令に基づいて、モータ30を位置速度制御する。
【0034】
ステップS6では、加工が終了したか否かを判別する。この判別がYESであれば本処理を終了し、NOであればステップS3に戻る。
【0035】
本実施形態に係る工作機械の制御装置10によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態では、ワークの諸元、工具の諸元、加工方法及び加工形状のうち少なくとも一つの加工条件と揺動条件との対応関係を記憶する記憶部15と、記憶部15に記憶された対応関係に基づいて、加工に使用する揺動条件を選択する揺動条件判断部16と、揺動条件判断部16により選択された揺動条件に基づいて、揺動指令を生成する揺動指令生成部18と、を設けた。
これにより、記憶部に予め記憶された加工条件と揺動条件との対応関係から、今回の加工条件に対応した揺動条件を選択できるため、より適切かつ容易に揺動条件を決定できる。また、揺動条件を記憶部から呼び出すことが容易であるため、誤設定を防止でき、作業者の負担を軽減できる。
【0036】
また本実施形態では、記憶部15に記憶された対応関係に基づいて、加工プログラムから自動判断される加工条件に対応する揺動条件を選択するよう構成した。
これにより、加工プログラムから自動判断される加工条件に基づいて、加工に使用する適切な揺動条件を選択することができる。
【0037】
また本実施形態では、加工に使用する揺動条件の候補を複数選択し、複数の候補の中から加工に使用する揺動条件をユーザが選択可能となるよう構成した。
これにより、加工に使用する複数の揺動条件の候補の中から、ユーザが所望の揺動条件を自ら選択できる。
【0038】
また本実施形態では、今回の加工条件が記憶部15に存在しない場合には、記憶部15に記憶された加工条件のうち、より近い加工条件に対応した揺動条件を選択するよう構成した。
これにより、記憶部15に記憶されて蓄積された対応関係から、類似の加工条件に対応した揺動条件を呼び出すことができる。従って、今回の加工条件が記憶部15に存在しない場合であっても、適切かつ容易に揺動条件を決定できる。
【0039】
また本実施形態では、今回の加工条件が記憶部15に存在しない場合には、記憶部15に記憶された複数の加工条件を元に補間して得られた揺動条件を選択するよう構成した。
これにより、記憶部15に記憶されて蓄積された対応関係から、類似の加工条件に対応した揺動条件を推測することができる。従って、今回の加工条件が記憶部15に存在しない場合であっても、適切かつ容易に揺動条件を決定できる。
【0040】
また本実施形態では、加工条件の入力及び揺動条件判断部16による選択結果の出力を表示する表示部19をさらに設けた。
これにより、入力された加工条件と、それに対応して選択された揺動条件を表示画面等の表示部19で確認することができ、利便性が向上する。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10 工作機械の制御装置
11,13 加算器
12 積算器
14 位置速度制御部
15 記憶部
16 揺動条件判断部
17 入力部
18 揺動指令生成部
19 表示部
30 モータ