(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】防炎シート及びその製造方法、並びに電池モジュール
(51)【国際特許分類】
A62C 2/00 20060101AFI20231226BHJP
A62C 3/16 20060101ALI20231226BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20231226BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20231226BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20231226BHJP
H01M 10/658 20140101ALI20231226BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20231226BHJP
【FI】
A62C2/00 X
A62C3/16 C
C09K21/02
F16L59/02
H01M10/613
H01M10/658
H01M50/204 401F
H01M50/204 401H
(21)【出願番号】P 2022103044
(22)【出願日】2022-06-27
【審査請求日】2023-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 将平
(72)【発明者】
【氏名】神保 直幸
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/022130(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/187313(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0077015(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
H01M 10/52-10/667,50/20-50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無機繊維と無機粒子とを含む断熱層の少なくとも一方の面に、第2の無機繊維を含み、前記無機粒子が前記第2の無機繊維間に存在する無機繊維クロスが配置されている、防炎シート。
【請求項2】
前記無機繊維クロスの厚さ方向に対する前記無機粒子の濃度が、前記断熱層から離れるに従って低下することを特徴とする請求項1に記載の防炎シート。
【請求項3】
前記無機繊維クロス中の前記第2の無機繊維は、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維及びジルコニア繊維から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防炎シート。
【請求項4】
前記断熱層と前記無機繊維クロスとの界面領域において、前記断熱層中の前記第1の無機繊維が、前記無機繊維クロスに貫入した複合部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の防炎シート。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の防炎シートの製造方法であって、
前記断熱層を構成する材料を含む水性スラリーを、前記無機繊維クロスの上に流し込み、脱水成形して抄造する、防炎シートの製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の防炎シートの製造方法であって、
前記断熱層を構成する材料を含む水性スラリーを、前記無機繊維クロスの上に流し込み、脱水成形して抄造する、防炎シートの製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の防炎シートの製造方法であって、
前記断熱層を構成する材料を含む水性スラリーを、前記無機繊維クロスの上に流し込み、脱水成形して抄造する、防炎シートの製造方法。
【請求項8】
複数の電池セルと、前記電池セルを収容する電池ケースと、請求項1又は2に記載の防炎シートとを備える、電池モジュール。
【請求項9】
複数の電池セルと、前記電池セルを収容する電池ケースと、請求項3に記載の防炎シートとを備える、電池モジュール。
【請求項10】
複数の電池セルと、前記電池セルを収容する電池ケースと、請求項4に記載の防炎シートとを備える、電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防炎シート及びその製造方法、並びに当該防炎シートを備える電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水系電解液を用いた充放電が可能な二次電池は、エネルギー密度が高い上に活性な金属を活物質にインターカレートすることができるため安全性が高く、自動車の電源、携帯型の通信機器、ノートパソコンなどに広く使用されている。
【0003】
このような二次電池は、通常の使用においては高い安全性を有しているが、外部から釘などの金属片が貫通して短絡するなど、様々な事故が想定されている。また、二次電池においては、有機電解液を使用し、さらに、近年では多くの電池セルをスタックし大容量化しているため、有機電解液の量も多くなり、安全上の確保が非常に重要である。
【0004】
このような問題に対して、表面に無機繊維クロスを設けて耐衝撃性を付与して保護することも行われており、例えば特許文献1には、無機繊維と無機粒子とを含む断熱材の表面に、無機繊維クロスを接着剤を用いて粘着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された発明では、表面の無機繊維クロスにより耐衝撃性が改善されているものの、無機繊維クロスは無機繊維のみであるため、電池の異常時に、ある電池セルが発火した場合、火炎を遮断することができず、隣接する電池セルや、電池セルを収容する電池ケースに火炎が及ぶおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、高い断熱性とともに耐衝撃性を有し、更に電池セルが発火しても、火炎が隣接する電池セルや電池ケースに及ぶのを防ぐことができる防炎シートを提供することを目的とする。
また、本発明は、安全性に優れる電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、防炎シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0009】
[1] 第1の無機繊維と無機粒子とを含む断熱層の少なくとも一方の面に、第2の無機繊維を含み、前記無機粒子が前記第2の無機繊維間に存在する無機繊維クロスが配置されている、防炎シート。
【0010】
また、防炎シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[4]に関する。
[2] 前記無機繊維クロスの厚さ方向に対する前記無機粒子の濃度が、前記断熱層から離れるに従って低下することを特徴とする[1]に記載の防炎シート。
[3] 前記無機繊維クロス中の前記第2の無機繊維は、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維及びジルコニア繊維から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の防炎シート。
[4] 前記断熱層と前記無機繊維クロスとの界面領域において、前記断熱層中の前記第1の無機繊維が、前記無機繊維クロスに貫入した複合部を有することを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の防炎シート。
【0011】
また、本発明の上記目的は、防炎シートの製造方法に係る下記[5]の構成により達成される。
【0012】
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の防炎シートの製造方法であって、
前記断熱層を構成する材料を含む水性スラリーを、前記無機繊維クロスの上に流し込み、脱水成形して抄造する、防炎シートの製造方法。
【0013】
また、本発明の上記目的は、電池モジュールに係る下記[6]の構成により達成される。
【0014】
[6] 複数の電池セルと、前記電池セルを収容する電池ケースと、[1]~[4]のいずれか1つに記載の防炎シートとを備える、電池モジュール。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防炎シートは、第1の無機繊維と無機粒子とを含む断熱層による高い断熱性を有するとともに、無機繊維クロスによる耐衝撃性が付与されている。また、無機繊維クロスは、第2の無機繊維間に無機粒子が存在しているため、繊維間が空気の場合よりも熱伝導度が高まるため、面方向への伝熱による放熱が加味される。しかも、無機繊維クロスが無機粒子により気密化されているため、電池の異常時に発火した電池セルからの火炎が、隣接する電池セルや電池ケースに及ぶのを防ぐことができる。
【0016】
また、本発明の電池モジュールは、断熱性や耐衝撃性、気密性に優れた防炎シートを備えるため、高い断熱性を有するとともに、外部からの損傷に対して電池セルを保護することができ、更には電池の異常時に発火した電池セルからの火炎が隣接する電池セルや電池ケースに及ぶのを防ぐことができ、安全性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る防炎シートにおける断熱層と無機繊維クロスとの境界領域(界面領域)を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例で作製した防炎シートの断面を電子顕微鏡にて撮影した写真である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る防炎シートを用いた電池モジュールの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0019】
<防炎シート>
図1は、本発明の実施形態に係る防炎シート(「熱伝達抑制シート」ともいう。)における断熱層と無機繊維クロスとの境界領域(界面領域)を模式的に示す断面図である。図示されるように、防炎シート1は、第1の無機繊維11と、無機粒子15とを含む断熱層10の少なくとも一方の面に、第2の無機繊維21を含み、断熱層10の無機粒子15が繊維間に存在する無機繊維クロス20が配置されて構成される積層体である。
【0020】
[断熱層10]
(第1の無機繊維)
後述するように、防炎シート1は抄造法にて製造される。断熱層10の第1の無機繊維11は、抄造しやすいように、チョップド繊維やミルド繊維であることが好ましい。また、第1の無機繊維11は、耐熱性に優れるものが好ましく、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維等のセラミックス系繊維、又はガラス繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合使用してもよい。
【0021】
これらの無機繊維を混合使用する場合は、一方は非晶質の繊維であり、他方は一方の繊維よりもガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このような場合、防炎シート1が高温にさらされたときに一方の無機繊維の表面が比較的早期に軟化して、他方の無機繊維や、後述する無機粒子15を結着するため、機械的強度が向上する。
【0022】
第1の無機繊維11の平均繊維長は、0.5~10mmであることが好ましい。第1の無機繊維11の平均繊維長が0.5mm以上であるため、抄造されたのち互いに絡み合い、抄造体として一定の強度を有するようになる。また、第1の無機繊維11の平均繊維長が10mm以下であるため、1本の無機繊維が伝熱する距離が短いため、高い断熱性を確保できる。
【0023】
(無機粒子)
個々の無機粒子15は、伝熱する距離が短く、接点の熱抵抗が大きいため、高い断熱性を確保することができる。
【0024】
無機粒子15の材質は特に限定されないが、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種であることが好ましく、酸化物粒子を含むことがより好ましい。
【0025】
また、無機粒子15の形状及び大きさについても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ナノ粒子を含むことがより好ましい。
【0026】
さらには、無機粒子15として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子を組み合わせて使用してもよい。2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、発熱体を多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。また、大径粒子と小径粒子とを混合使用することも好ましい。大径粒子同士の隙間に小径粒子が入り込むと、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。
【0027】
無機粒子15の平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、無機粒子15の平均二次粒子径が200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子15の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0028】
無機粒子15として使用することができる粒子の材質又は形状の一例について、以下で詳細に説明する。
【0029】
(酸化物粒子)
酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、無機粒子として酸化物粒子を使用すると、特に異常発熱などの高温度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、ジルコン、チタン酸バリウム、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種を使用することができる。すなわち、無機粒子として使用することができる上記酸化物粒子のうち、1種のみを使用してもよいし、2種以上の酸化物粒子を使用してもよい。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高温度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアの少なくとも1種を用いることが最も好ましい。
【0030】
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高温度領域において防炎シート1の内部での熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0031】
2種以上の酸化物粒子を使用する場合に、大径粒子と小径粒子(例えばナノ粒子)とを混合使用することも好ましい。この場合の大径粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0032】
なお、本実施形態において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均を取ることにより求めることができる。
【0033】
本実施形態において、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、無機粒子としてナノ粒子を使用すると、更に空隙が細かく分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域での使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
【0034】
本実施形態において、無機粒子15として選択される酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子のうち少なくとも1種が、ナノ粒子であることが好ましい。
【0035】
無機粒子15としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1g/cm3程度であるため、防炎シート1に対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等を使用することができる。
【0036】
また、本実施形態において、無機粒子15として選択される酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子のうち少なくとも1種が、ナノ粒子であることが好ましい。上述のとおり、チタニアは輻射熱を遮る効果が高く、シリカナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、防炎シート1に圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができるため、無機粒子15として、チタニア及びシリカナノ粒子の両方を使用することが最も好ましい。
【0037】
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、防炎シート1の内部における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、防炎シート1の断熱性を維持することができる。
【0038】
なお、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0039】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、発熱体からの熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して発熱体及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
【0040】
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)、水酸化鉄(Fe(OH)2)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)2)、水酸化ガリウム(Ga(OH)3)等が挙げられる。
【0041】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al2O3)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)3→Al2O3+3H2O
【0042】
また、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、無機粒子は熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物であることが好ましい。上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0043】
無機水和物粒子を使用した場合、その平均粒子径が大きすぎると、断熱層10の中心付近にある無機水和物粒子が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、シート中心付近の無機水和物粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0044】
(他の配合材料)
断熱層10は、さらに結合材を含有するのが好ましい。結合材は、第1の無機繊維11、更には無機粒子15が断熱層10から脱落するのを防止し、強度を保持することができる。
【0045】
結合材としては、アルミナゾル、シリカゾルなどの無機バインダ、カチオン化デンプン、アクリル樹脂などの有機バインダを選択することができる。これらの結合材17は、水溶液の状態で断熱層10の原材料として使用し、乾燥させることにより、第1の無機繊維11や無機粒子15の接点に残って結着する。
【0046】
(断熱層10の厚さ)
断熱層10は、厚さが0.1~5mmであることが好ましい。断熱層10の厚さが0.1mm以上であるため、防炎シート1に高い断熱性を付与することができる。また、断熱層10の厚さが5mm以下であると、柔軟性が確保でき、防炎シート1を所定の形状に沿って曲げて使用することができる。好ましくは、0.2~1.1mmである。
【0047】
(断熱層10の組成)
後述されるように防炎シート1は抄造法により製造され、無機繊維クロス20には断熱層10に含まれる無機粒子15が入り込んでいる。そのため、断熱層10の形成材料を含む水性スラリーとしての組成で、無機粒子15は30~94質量%、結合材は0~10質量%、残部が第1の無機繊維11とすることが好ましい。このような組成にすることにより、上記した無機粒子15や結合材の効果がバランスよく得られる。
【0048】
[無機繊維クロス20]
無機繊維クロス20は、第2の無機繊維21を横糸21aと縦糸21bとし、クロス状(織布状)に織り込んだものである。第2の無機繊維21は、クロスを構成できるよう連続繊維であり、長い繊維長を生かして防炎シート1は高い強度を確保する。
【0049】
また、無機繊維クロス20は、断熱層10からの無機粒子15が入り込んで気密化されており、電池の異常時において、ある電池セルが発火しても、火炎が隣接する電池セルや電池ケースに及ぶことを効果的に防ぐことができる。無機粒子15は空気に比べると熱伝導率が高いため、無機繊維クロス20において、電池の異常時の高熱を、無機粒子15を介して、その面方向に逃がして放熱する効果を有する。
【0050】
さらには、無機繊維クロス20は、横糸21aと縦糸21bとが多層に織られているため、無機粒子15は無機繊維クロス20の断熱層10に近い側により多く存在し(
図2の「シリカ充填層」を参照)、無機繊維クロス20における無機粒子15の濃度分布は傾斜状となる。すなわち、無機繊維クロス20の厚さ方向に対する無機粒子15の濃度が、断熱層10から離れるのに従って低下している。
また、無機繊維クロス20の表層部分では、無機粒子15がほとんど存在しておらず(
図2の「シリカ未充填層」を参照)、繊維間は空気層となり、断熱性能が高まる。
【0051】
(第2の無機繊維)
第2の無機繊維21としては、第1の無機繊維11と同様に、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維等のセラミックス系繊維、又はガラス繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合使用してもよい。
【0052】
なお、第2の無機繊維21と、第1の無機繊維11とは、同一種類の無機繊維であってよく、あるいは異なる種類の無機繊維としてもよい。いずれの場合も、無機物同士の組み合わせであり、防炎シート1はより耐熱性に優れたものになる。
【0053】
(無機繊維クロス20の厚さ)
無機繊維クロス20は、その厚さが0.1~5mmであることが好ましい。無機繊維クロス20の厚さが0.1mm以上であるため、防炎シート1に高い機械的強度を付与することができる。また、無機繊維クロス20の厚さが5mm以下であると、柔軟性が確保でき、防炎シート1を所定の形状に沿って曲げて使用することができる。無機繊維クロス20の好ましい厚さは、0.3~1.4mmである。
【0054】
[複合部30]
断熱層10と無機繊維クロス20との境界領域(界面領域)には、
図1に示すように、断熱層10の第1の無機繊維11が、無機繊維クロス20中の第2の無機繊維21の編目に貫入した複合部30を形成している。したがって、断熱層10と無機繊維クロス20とは、高い剥離強度が確保される。また、断熱層10と無機繊維クロス20とは、共に無機物であり、有機物を介さず直接接合することになるため、高温に曝されても接合状態を維持することができる。
【0055】
<防炎シート1の製造方法>
防炎シート1は、抄造法により製造される。すなわち、断熱層10の原料となる第1の無機繊維11、更には無機粒子15や結合材を所定の割合にて水に加えて水性スラリーを調製する。そして、抄造用の成形型に無機繊維クロス20を装着し、その上に断熱層10の原料を含む水性スラリーを流し込み、水抜きして脱水した後、加圧し、真空乾燥する(脱水成形)。
【0056】
これにより、無機繊維クロス20の第2の無機繊維21の繊維間に、断熱層10の第1の無機繊維11が貫入した、上記の複合部30が形成された防炎シート1が得られる。それとともに、断熱層10の無機粒子15が、無機繊維クロス20の第2の無機繊維21の繊維間に入り込んだ状態となる。
【0057】
防炎シート1はこのように構成されるが、粉落ち防止のために、断熱層10や無機繊維クロス20の表面に被覆材を添接してもよい。被覆材としては、ポリプロピレンなどの樹脂や紙などが適用でき、これらから構成されるフィルムやクロスを用いることができる。そして、被覆材を、各種の粘着剤、熱可塑性樹脂、両面テープなどを用いて接着するとよい。
【実施例】
【0058】
第1の無機繊維としてガラス繊維を、防炎シート全量の11質量%、無機粒子として平均粒子径5nmのシリカナノ粒子を全量の80質量%、結合材としてアクリル樹脂を全量の5質量%となるように秤量した。これらを水に加え、よく撹拌して断熱層用の水性スラリーを調製した。そして、厚さ1.36mmのシリカ繊維クロスの片面に、水性スラリーを流し込み、脱水、加圧、真空乾燥して防炎シートを作製した。
【0059】
作製した防炎シートの断面を電子顕微鏡にて撮影した。その写真を
図2に示す。
図2において、下側の白い部分は断熱層である。また、断熱層の上側には、図中の左右方向に波状に延びるシリカ繊維束(以下、「横糸」という。)と、横糸に直交して図中の表面から裏面に延びるシリカ繊維束(以下、「縦糸」という。)とを織り込んだシリカ繊維クロスが積層している。
【0060】
図2に示されるように、シリカ繊維クロスにおいて、横糸と縦糸との間、縦糸を構成する複数のシリカ繊維の繊維間に、ナノシリカ粒子(
図2中における、多数の細かな白い丸部分)が点在している「シリカ充填層」が見られる。また、
図2中の最上方部分であるシリカ繊維クロスの表層には、ナノシリカ粒子がほどんど存在していない「シリカ未充填層」が見られる。
【0061】
<電池モジュール>
図3に示すように、電池モジュール100は、複数の電池セル110を収容する電池ケース120の内側の全面(すなわち、天井、側壁及び底面)に、上記の防炎シート1を貼り付けて構成される。なお、防炎シート1を張り付ける際は、電池ケース120に対して、断熱層10及び無機繊維クロス20のどちらの側が、ケース側であってもよい。
【0062】
電池モジュール100では、防炎シート1が内張されているため、突起物による外部からの損傷に対して電池セル110を保護するとともに、電池の異常時に、発火した電池セル110からの火炎や高熱が電池ケース120の外部に及ぶのを防ぎ、電池セル110の有機電解液などの可燃物が外気に触れて激しく燃焼することを防止できるため、安全性が高いものとなる。
【符号の説明】
【0063】
1 防炎シート
10 断熱層
11 第1の無機繊維
15 無機粒子
20 無機繊維クロス
21 第2の無機繊維
30 複合部
100 電池モジュール
110 電池セル
120 電池ケース
【要約】
【課題】高い断熱性とともに耐衝撃性を有し、更に電池セルが発火しても、火炎が隣接する電池セルや電池ケースに及ぶのを防ぐことができる防炎シート、及び安全性に優れる電池モジュールを提供する。
【解決手段】防炎シート1は、第1の無機繊維11と無機粒子15とを含む断熱層10の少なくとも一方の面に、第2の無機繊維21を含み、無機粒子15が第2の無機繊維21間に存在する無機繊維クロス20が配置されている。上記防炎シート1は、断熱層10を構成する材料を含む水性スラリーを、無機繊維クロス20の上に流し込み、脱水成形して抄造して製造される。また、電池モジュール100は、複数の電池セル110と、電池セル110を収容する電池ケース120と、上記防炎シート1とから構成される。
【選択図】
図1