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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】遮光部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20231226BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20231226BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231226BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G02B5/00 B
B32B3/30
B32B7/023
G02B5/02 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022545748
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021031654
(87)【国際公開番号】W WO2022045319
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2020146380
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 直樹
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/061990(WO,A1)
【文献】特開2012-171983(JP,A)
【文献】特開2008-241767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 3/30
B32B 7/023
G02B 5/00 - 5/136
G03B 9/00 - 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、および前記基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された、遮光層を備える遮光部材であって、
前記遮光層が形成された面の最表面のJIS B0601:2001における最大高さRzは1μm以上、5μm以下で、かつ輪郭曲線要素の長さの平均Rsmは10μm以上、40μm以下であり、
前記遮光層の平均膜厚は、2μm以上、20μm以下で、
前記遮光層は、遮光層全体を100体積%として、20体積%~50体積%の粒子を含有することを特徴とする遮光部材。
【請求項2】
前記遮光層は、粒径の異なる複数の粒子群を含有することを特徴とする請求項1に記載の遮光部材。
【請求項3】
前記粒子群は、粒径2μm~6μmの粒子群と粒径0.06μm~0.4μmの粒子群を含むことを特徴とする請求項2に記載の遮光部材。
【請求項4】
前記粒子群のうち、最大の粒径を有する粒子群は、無機系粒子からなる無機系粒子群であることを特徴とする請求項2または3に記載の遮光部材。
【請求項5】
前記無機系粒子は、シリカであることを特徴とする請求項4に記載の遮光部材。
【請求項6】
前記遮光部材の遮光層が形成された面の60°の入射角度の入射光に対する光沢度は、2%未満であり、かつ光学濃度は、1.5以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の遮光部材。
【請求項7】
前記遮光部材の遮光層が形成された面のL値は22以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の遮光部材。
【請求項8】
前記遮光部材の遮光層が形成された面の波長550nmの光に対する反射率は4%以下であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の遮光部材。
【請求項9】
基材フィルム、および前記基材フィルムの少なくとも一方の面に直接、又はアンカー層を介して形成された、遮光層を備える遮光部材の製造方法であって、
粒径の異なる複数の粒子群を含有する塗工液を調製する工程と、
前記塗工液を基材フィルムに、直接又はアンカー層を介して塗工する工程を有し、
前記遮光層が形成された面の最表面のJIS B0601:2001における最大高さRzは1μm以上、5μm以下で、かつ輪郭曲線 要素の長さの平均Rsmは10μm以上、40μm以下であることを特徴とする遮光部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮光部材に関し、さらに詳しくは、スマートフォンを含む携帯電話等のカメラユニット等光学機器に好適に用いることができる遮光部材に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、カメラのレンズ絞り、シャッターおよびレンズスペーサーには、遮光部材が用いられている。
このような遮光部材としては、カーボンブラック等を含有する黒色ポリエステル基材等の表面に所定の凹凸形状を形成した黒色フィルムが知られている。上記凹凸を形成する方法としては、基材表面にマット剤を含む遮光層を被覆する方法や基材表面をサンドブラスト等の手法により粗面化処理する方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、上記方法等を用いて、表面のJIS B0601:2001における算術平均粗さRaが0.5μm以上で、かつ最大山高さRpと最大谷深さRvとの差(Rp-Rv)が3未満である遮光部材を作製できることが記載されている。そして、特許文献1の遮光部材では、薄型化しても優れた反射防止性能を有し、高硬度で、遮光層とフィルム基材との密着性も優れるため、長期にわたり優れた反射防止性能を維持できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2018/052044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、スマートフォンに搭載されるカメラユユニットはさらに小型化し、装着されるレンズの枚数が増加する傾向にある。そのため、薄くても低光沢および高光学濃度を実現できる遮光部材が求められている。しかしながら、従来技術のように表面粗さを所定値以上に設定することにより光沢度を減少させる構成では、薄型化には限界があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、遮光層の厚さに依存せず、低光沢性および高光学濃度を実現できる遮光部材を提供することを目的とする。本発明では、さらに遮光層の厚さに依存せず低反射率で高い黒色度を有する遮光部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、基材フィルム、および基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された、凹凸形状を有する遮光層を備える遮光部材において、上記凹凸形状のJIS B0601:2001における最大高さRz(以下単に「Rz」ともいう。)および輪郭曲線要素の長さの平均Rsm(以下単に「Rsm」ともいう。)を所定範囲に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明の遮光部材は、基材フィルム、および上記基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された、遮光層を備える遮光部材であって、上記遮光層が形成された面の最表面のJIS B0601:2001における最大高さRzは1μm以上、5μm以下で、かつ輪郭曲線要素の長さの平均Rsmは40μm以下であることを特徴とする。
【0007】
上記遮光層は、粒径の異なる複数の粒子群を含有することが好ましい。
上記粒子群は、粒径2μm~6μmの粒子群と粒径0.06μm~0.4μmの粒子群を含むことが好ましい。
なお、ここでいう粒径は、平均粒径に限定されるものではなく、遮光層を顕微鏡等により観察することにより、上記範囲の粒子が存在することが明らかな場合は、上記規定の範囲に含まれるものとする。
上記粒子群のうち、最大の粒径を有する粒子群は、無機系粒子からなる無機系粒子群であることが好ましい。
上記無機系粒子は、シリカであることが好ましい。
【0008】
上記遮光部材の遮光層が形成された面の60°の入射角度の入射光に対する光沢度は、2%未満であり、かつ光学濃度は、1.5以上であることが好ましい。
上記遮光部材の遮光層が形成された面のL値は22以下であることが好ましい。
上記遮光部材の遮光層が形成された面の波長550nmの光に対する反射率は4%以下であることが好ましい。
上記遮光層の平均膜厚は、2μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の遮光部材は、低光沢および高光学濃度であるため、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象を効果的に防止することができ、かつ優れた遮光性を実現できる。特に本発明の遮光層では、薄膜化しても既存の厚膜の遮光層よりさらに優れた低光沢性を実現できるため、カメラユニットの小型化・高性能化にも適応することができる。また、本発明の遮光部材では、反射率を低減することにより、より効果的にフレア・ゴースト現象を防止できる。さらに、本発明の遮光部材の黒色度を高め、黒さを際立たせることにより、デザイン性が向上し、スマートフォン等の携帯電話のカメラユニットとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1(a)】最大高さRzおよび輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが異なる各種遮光部材の光沢度を評価した結果を示す図である。
図1(b)】最大高さRzおよび輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが異なる各種遮光部材の光学濃度を評価した結果を示す図である。
図1(c)】最大高さRzおよび輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが異なる各種遮光部材の光沢度および光学濃度を評価した結果を示す図である。
図1(d)】最大高さRzおよび輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが異なる各種遮光部材の反射率を評価した結果を示す図である。
図1(e)】最大高さRzおよび輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが異なる各種遮光部材の黒色度を評価した結果を示す図である。
図1(f)】最大高さRzおよび輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが異なる各種遮光部材の光沢度、光学濃度、反射率および黒色度を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を表す「~」は、その上限値および下限値としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も上限値と同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。
また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率または含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率または含有量を意味する。
【0012】
本発明の遮光部材は、基材フィルム、および上記基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された、遮光層を備える遮光部材であって、上記遮光層が形成された面の最表面のJIS B0601:2001における最大高さRzは1μm以上、5μm以下で、かつ輪郭曲線要素の長さの平均Rsmは40μm以下であることを特徴とする。
上述のように、従来技術においては、遮光部材表面の凹凸形状の深さ方向の性状を制御することにより、低光沢を実現してきた。すなわち、遮光部材表面に形成される凹凸形状の山高さおよび谷深さを制御することにより、遮光部材の光沢度を低減してきた。このような構成は、所定以上の遮光層の厚さを有する遮光部材では有効であったが、遮光層および遮光部材のさらなる薄型化に対応することは困難であった。
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、遮光部材表面の凹凸形状の深さ方向および水平方向の性状を制御することにより、遮光層の膜厚に依存することなく、低光沢性および高光学濃度を実現できることを見出し、本発明は完成された。すなわち、本発明者は、遮光部材表面の凹凸形状の(深さ方向の)粗さを所定範囲とし、かつ上記凹凸形状の水平方向における隣接する山と山および谷と谷との距離を所定値以下に調整することにより、遮光層の膜厚に依存することなく、低光沢性および高光学濃度を有する遮光部材が得られることを明らかにした。本発明では、既存の遮光部材より遮光層を薄膜化した場合であっても、既存の遮光部材より低い光沢度を実現できることが確認されている。また、本発明の遮光部材では、低反射率および高い黒色度を実現することができる。
【0013】
図1(a)に、各種方法により調製した遮光層の膜厚が6μm未満で、RzおよびRsmの異なる遮光部材の60°の入射角度の入射光に対する光沢度を後述する方法で評価した結果を示す。なお、光沢度の評価基準は以下のとおりとした。
(光沢度の評価基準)
◎:1%未満(非常に優れている)
○:1%以上2%未満(優れている)
×:2%以上(本発明の要求特性を満たさない)
また、図1(b)には、同様に調製した遮光層の膜厚が6μm未満で、RzおよびRsmの異なる遮光部材の光学濃度を後述する方法で評価した結果を示す。なお、光学濃度の評価基準は以下のとおりとした。
(光学濃度の評価基準)
◎:2以上(優れている)
○:1.5以上2未満(良好)
×:1.5未満(本発明の要求特性を満たさない)
図1(c)には、上記光沢度及び光学濃度を以下の基準で総合評価した結果を示す。
◎:光沢度の評価基準および光学濃度の評価基準とも◎
○:光沢度の評価基準および光学濃度の評価基準の少なくとも一方が○で、いずれも×でない
×:光沢度の評価基準および光学濃度の評価基準のうち少なくとも一方が×
【0014】
図1(d)には、同様に調製した遮光層の膜厚が6μm未満で、RzおよびRsmの異なる遮光部材の波長550nmの光に対する反射率を後述する方法で評価した結果を示す。なお、反射率の評価基準は以下のとおりとした。
(反射率の評価基準)
◎:3%以下(優れている)
○:3%を超え4%以下(良好)
×:4%を超える(本発明の要求特性を満たさない)
図1(e)には、同様に調製した遮光層の膜厚が6μm未満で、RzおよびRsmの異なる遮光部材の黒色度(L値)を後述する方法で評価した結果を示す。なお、黒色度の評価基準は以下のとおりとした。
(黒色度の評価基準)
◎:18以下(非常に優れている)
○:18を超え22以下(優れてる)
×:22を超える(本発明の要求特性を満たさない)
また、図1(f)には、上記光沢度、光学濃度、反射率および黒色度を以下の基準で総合評価した結果を示す。
◎:光沢度の評価基準、光学濃度の評価基準、反射率の評価基準および黒色度の評価基準が全て◎
〇:光沢度の評価基準、光学濃度の評価基準、反射率の評価基準および黒色度の評価基準のうち少なくとも1つが〇で、いずれも×でない
×:光沢度の評価基準、光学濃度の評価基準、反射率の評価基準および黒色度の評価基準のうち少なくとも1つが×
【0015】
図1(a)より、Rzが1μm以上5μm以下でかつRsmが40μm以下の範囲では、光沢度が2未満(実測値は1.5未満であった)であり、低光沢性が得られることがわかった。
また、図1(b)より、上記範囲では良好な光学濃度も得られることがわかった。図1(c)から明らかなように、Rzが1μm以上、5μm以下でかつRsmが40μm以下の範囲では、膜厚6μm未満の遮光層であっても低光沢性および高光学濃度が実現可能である。
また、図1(d)より、上記範囲では低反射率が得られることがわかった。さらに、図1(e)より、上記範囲では高い黒色度が得られることがわかった。図1(f)より、Rzが1μm以上、5μm以下でかつRsmが40μm以下の範囲では、膜厚6μm未満の遮光層であっても低光沢性、高光学濃度、低反射率および高い黒色度を実現できることが確認された。
【0016】
本発明の遮光部材は、遮光層表面の凹凸の粗さを小さくし、かつ隣接する山と山の間および谷と谷との間の距離を短く設定することを特徴とする。このように山と山との距離および谷と谷との距離が短い構造の凹凸形状では、入射した光が反射を繰り返す回数が多くなり、凹凸表面で光が吸収されやすい。そのため、本発明の遮光部材では、低光沢性および高光学濃度、さらには低反射率および高い黒色度が実現されるものと考えられる。
【0017】
本発明者は、遮光層に大きさの異なる複数の粒子群を含有させることにより、RzおよびRsmを上記範囲に設定しやすくなり、低光沢性および高光学濃度、さらには、低反射率および高い黒色性を実現できることを見出した。
以下に本発明の遮光部材の好ましい構成について説明する。
通常、遮光部材は、基材フィルムの表面に、マトリックス部と粒子を含有する遮光層が被覆された構造を有する。従来の遮光部材では、凹凸形状の粗さを所定以上に制御して低光沢性を実現するため、比較的粗い粒子をマトリックス部に分散させていた。
これに対して、本発明の遮光部材では、粒径の大きい粒子群と粒径の小さい粒子群を用いることが好ましい。上記構成では、粒径の大きい粒子間に粒径の小さい粒子が入り込み、遮光層表面に浅くかつ溝間の距離が短い凹凸形状を形成されやすくなり、遮光部材の遮光層表面のRzおよびRsmを本発明の規定範囲に好適に制御することができる。このように山と山および谷と谷との間の距離が短い本発明の遮光層の表面では、入射した光の反射回数が多くなり、遮光層表面で光が吸収されるため、低光沢および高光学濃度が実現され、さらに、低反射率および高い黒色度も得られやすい。
また、本発明の上記構成では、遮光層表面の凹凸形状の表面に、粒径の小さい粒子が多数存在する。このため、遮光層表面の山斜面や谷部分(凹部)に入射した光は、粒径の小さい粒子表面で拡散反射して様々な方向に進行方向を変え、さらに他の粒径の小さい粒子の表面に到達して拡散反射を繰り返し、光が吸収されることにより、優れた低光沢性が実現されるものと考えられる。そして、粒径の小さい粒子が凹凸形状の表面に突出し、遮光層表面がより複雑な凹凸形状となるため、拡散反射によりさらに光沢度が低減し、従来技術においては達成が困難なレベルの低光沢性が実現される。
【0018】
本発明の遮光層に添加する粒子の詳細については後述する。
遮光部材の表面のRz値およびRsm値は、組み合わせる粒子群の粒径、粒度分布、含有量および遮光層の膜厚等を調整することにより制御することができる。また、塗布液作製の際の溶剤の種類や固形分濃度、基材フィルムへの塗布量を調整することにより、制御することもできる。さらに、塗布液の塗布方法や乾燥温度、時間および乾燥時の風量等の塗膜製造条件によっても、制御することができる。
【0019】
以下に本発明の遮光部材の具体的な材料構成について述べる。
【0020】
(1)基材フィルム
本発明に用いられる基材フィルムは、特に限定されず、透明なものでも不透明なものでもよい。本発明の基材フィルム材料としては、樹脂製、金属製およびガラス製等を用いることができる。
樹脂製基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン―プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα―オレフィンとの共重合体等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミド、エチレン―酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等のその他の汎用プラスチックフィルムや、ポリカーボネート、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチックフィルムが挙げられる。
【0021】
また、金属製基材フィルムとしては、金、銀、銅、アルミニウム、チタン、亜鉛、ベリリウム、ニッケル、スズ等の金属を用いた金属シートや、リン青銅、銅ニッケル、銅ベリリウム、ステンレス、真鍮、ジュラルミン等の合金を用いた合金シートが挙げられる。
ガラス製基材フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、超薄板ガラス(G-Leaf(登録商標)、日本電気硝子株式会社製)等を用いることができる。
【0022】
これらの素材の中でも比較的強度が高く、経済性や汎用性が高いという観点からは、二軸延伸したポリエチレンテレフタレート、耐熱性を有するという観点からは、ポリイミドフィルム、さらに高い耐熱性を有するという観点からは、銅からなる金属シートを用いることが好ましい。樹脂製基材フィルムの場合には、あらかじめカーボンブラックやアニリンブラックのような黒色着色剤を練り込んで光学濃度2以上、好ましくは4以上の高遮光性とすることにより、より優れた遮光効果を得ることができる。
【0023】
基材フィルムの厚さは、特に限定されないが、樹脂製基材フィルムを用いる場合は、1~250μmであることが好ましく、3~100μmであることがより好ましく、さらには5~50μmであることが最も好ましい。本発明の遮光部材は薄膜化しても低光沢および高光学濃度を実現することができるため、特に小型や薄型の光学部品にも好適に用いることができる。例えば、携帯電話等のカメラユニット等の光学機器に用いられる場合、基材フィルムの厚さは、3~50μmであることが好ましく、5~20μmであることがさらに好ましい。
また、金属製基材フィルムを用いる場合は、厚さは、6~30μmが好ましく、特に、携帯電話等のカメラユニット等の光学機器に用いられる場合は、10~20μmとすることが好ましい。
【0024】
基材フィルムは、平坦なものを用いてもよいし、表面に、マット加工を施し、凹凸(粗面化部)を形成することもできる。マット加工により、遮光層被覆後の遮光部材表面のRz値およびRsm値を制御することもできるし、基材フィルムと遮光層との密着性を向上させることもできる。マット加工法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
例えば、基材フィルムが樹脂製基材フィルムの場合は、化学的エッチング法、ブラスト法、エンボス法、カレンダー法、コロナ放電法、プラズマ放電法、樹脂と粗面化形成剤によるケミカルマット法などを用いることができる。また、基材フィルムに直接マット剤を含有させ、樹脂製基材フィルムの表面に凹凸を形成することもできる。上記加工法の中でも、形状コントロールのしやすさや経済性、取扱い性などの観点から、ブラスト法、特にサンドブラスト法を用いるのが好ましい。
【0025】
サンドブラスト法では、用いる研磨剤の粒径や噴射圧等により、表面の性状を制御することができる。また、エンボス法では、エンボスロール形状や圧を調整することにより、表面の性状を制御することができる。
一方、基材フィルムが金属製基材フィルムの場合は、黒化処理、ブラスト処理、エッチング処理等により、表面に凹凸を形成することができる。
【0026】
(2)アンカー層
上記基材フィルムの少なくとも一方の面に遮光層を設ける前に、基材フィルムと遮光層との接着性を向上させるために、アンカー層を設けることもできる。アンカー層としては、尿素系樹脂層、メラミン系樹脂層、ウレタン系樹脂層、ポリエステル系樹脂等を適用することができる。例えばウレタン系樹脂層は、ポリイソシアネートとジアミン、ジオール等の活性水素含有化合物を含有する溶液を基材フィルム表面に塗布して、硬化させることにより得られる。また、尿素系樹脂、メラミン系樹脂の場合は、水溶性尿素系樹脂または水溶性メラミン系樹脂を含有する溶液を基材表面に塗布し、硬化させることにより得られる。ポリエステル系樹脂は、有機溶剤(メチルエチルケトン、トルエン等)にて溶解または希釈した溶液を基材表面に塗布し、乾燥させることにより得られる。
【0027】
(3)遮光層
本発明の遮光部材は、基材フィルムの少なくとも一方の面に形成された遮光層を有する。そして、遮光層が形成された面の表面のRzが1μm以上、5μm以下で、かつRsmが40μm以下であることを特徴とする。ここで、遮光層が最表面に露出している構成であれば、遮光層表面のRzおよびRsmが上記範囲であればよく、遮光層上に樹脂製薄膜層や黒色化層等が被覆されている場合には、それらの層の表面、すなわち遮光部材の最表面のRzおよびRsmが上記範囲であればよい。以下これらの表面を合わせて「遮光層最表面」という。
上述のとおり、本発明の遮光部材は、遮光層最表面のRzが1μm以上、5μm以下で、かつRsmが40μm以下であることを特徴とする。遮光層最表面のRzおよびRsmを上記範囲に制御することにより、遮光層の膜厚に依存せず、低光沢性および高光学濃度を実現することができる。特に、本発明では、遮光層を6μm以下の薄膜とした場合でも、既存の厚膜の遮光層で得られる以上の低光沢性が実現できるという顕著な効果を有する。さらに本発明の遮光層を用いることにより、低反射率および高い黒色度を実現することもできる。
Rzの下限値は、2μm以上とすることが好ましい。Rzの下限値を上記値とすることにより、さらに低光沢性、低反射率および高光学濃度に調整しやすくなる。
Rzの上限値は、5μm以下であり、4μm以下とすることが好ましい。Rzの上限値を上記値にすることにより遮光層の膜厚に依存せず、さらに低光沢性、高光学濃度、低反射率および高い黒色性を実現することができる。
Rsmの下限値は特に限定されないが、10μm以上とすることが好ましい。上記範囲では、基材と遮光層との間でより優れた密着性が得られる。
また、遮光層最表面のJIS B0601:2001における算術平均粗さRaは、0.6μm以下であることが好ましく、0.55μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0028】
遮光層の構成成分としては、樹脂成分、粒子および着色・導電剤を含むことができる。
樹脂成分は、粒子および着色・導電剤のバインダーとなる。樹脂成分の材料は特に限定されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれを用いることもできる。具体的な熱硬化性樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリアクリルエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ブチラール樹脂、スチレン―ブタジエン共重合体樹脂等が挙げられる。耐熱性、耐湿性、耐溶剤性および表面硬度の観点からは、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、柔軟性および被膜の強靭さを考慮すると、アクリル樹脂が特に好ましい。
【0029】
遮光層の構成成分として硬化剤を添加することにより、樹脂成分の架橋を促進させることができる。硬化剤としては、官能基をもつ尿素化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物等を用いることができる。これらの中でも、特にイソシアネート化合物が好ましい。硬化剤の配合割合は、樹脂成分100質量%に対して、10~50質量%とすることが好ましい。上記範囲で硬化剤を添加することにより、より好適な硬度の遮光層が得られ、他部材と摺動する場合であっても、長期にわたり遮光層の表面性状が維持され、低光沢性、高光学濃度、低反射率および高い黒色度が保持される。
【0030】
硬化剤を用いる場合は、その反応を促進するために、反応触媒を併用することもできる。反応触媒としては、アンモニアや塩化アンモニウム等が挙げられる。反応触媒の配合割合は、硬化剤100質量%に対し0.1~10質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
本発明の遮光層には粒子および着色・導電剤を含有させることができる。本発明者は、粒子および着色・導電剤として、粒径および粒度分布の異なる2以上の粒子群を用いることにより、遮光層最表面のRzおよびRsmを本発明の規定範囲に好適に制御できることを見出した。
例えば、大きさの異なる2の粒子群を用いる場合、大きい粒子群の粒径は、小さい粒子群の粒径の10倍~40倍であることが好ましい。なお、3以上の粒子群を用いる場合には、最も大きい粒子群の粒径と最も小さい粒子群の粒径とが上記の関係になるよう調整すればよい。
以下では、大きい粒子群を大粒子1、小さい粒子群を小粒子2として説明する。
本発明では、粒子群として、平均粒径が2μm~6μmの大粒子1と平均粒径0.06μm~0.4μmの小粒子2を含むことが好ましい。大粒子1の平均粒径は、3μm~5μmであることがより好ましく、3μm~4μmであることがさらに好ましい。小粒子2の平均粒径は、0.06μm~0.4μmであることが好ましく、0.1μm~0.3μmであることがより好ましい。
このような粒径の大粒子1と小粒子2を組み合わせることにより、凹部の大粒子1の間に小粒子2が埋め込まれ、RzおよびRsmの値を本発明の規定範囲により好適に制御することができる。
【0032】
粒子の含有量は、粒子群の平均粒径、粒度分布および遮光層の膜厚や基材の表面形状にもよるが、遮光層全体を100体積%として、20体積%~50体積%であることが好ましい。また、大粒子1と小粒子2の混合比は、RzおよびRsmの値を上記範囲に調整できれば特に限定されないが、1.5:1~3.5:1(大粒子1の占める体積:小粒子2の占める体積)であることが好ましい。
なお、遮光層中の粒子の体積含有率(体積占有率)は、遮光層の断面写真から画像解析等により算出した面積占有率に換算して求めることができる。
【0033】
大粒子1としては樹脂系粒子および無機系粒子のいずれを用いることもできる。樹脂系粒子としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。一方、無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、炭素等が挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
より優れた特性を得るためには、大粒子1は無機粒子を用いることが好ましい。大粒子1として無機系粒子を用いることにより、より低光沢で高光学濃度の遮光部材を得ることができる。大粒子1として用いる無機系粒子としては、シリカが好ましい。大粒子1の形状は特に限定されないが、上記範囲にRzおよびRsmを制御するためには、粒度分布がシャープな粒子群を用いることが好ましい。このような粒子群を用いることにより、粒子間の接触が多くなり、RzおよびRsmの値を低減することができる。
また、光沢度をより低減するためには、不定形の粒子群を用いることが好ましい。これらの中でも、特に多孔質の不定形シリカ粒子を用いることが好ましい。このような粒子群を用いることにより、大粒子1の表面および内部で光が屈折を繰り返すことにより、さらに光沢度を低減することができる。
光の反射を抑制するために、有機系又は無機系着色剤により大粒子1を黒色に着色することもできる。このように着色した材料としては複合化シリカ、導電性シリカ、黒色シリカ等が挙げられる。
複合化シリカとしては、例えば、カーボンブラックとシリカをナノレベルで合成し複合化したものが挙げられ、導電性シリカとしては、例えば、シリカ粒子にカーボンブラック等の導電性粒子をコーティングしたものが挙げられ、黒色シリカとしては、例えば、珪石の中に黒鉛を含有している天然鉱石が挙げられる。
【0035】
一方、小粒子2の材質も特に限定されず、樹脂系粒子および無機系粒子のいずれを用いることもできる。樹脂系粒子としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。一方、無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、炭素等が挙げられる。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
小粒子2としては、例えば、着色・導電剤として添加されるカーボンブラック等を用いることもできる。小粒子2として、カーボンブラックを用いることにより、遮光層が着色するため、さらに反射防止効果が向上し、かつ良好な帯電防止効果が得られる。
【0036】
本発明においては、遮光層の構成成分として、必要に応じて、さらに、レベリング剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、分散剤、消泡剤等を添加することができる。
【0037】
有機溶剤または水中に、上記構成成分を添加して、混合攪拌することにより、均一な塗布液を調製する。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどを用いることができる。
得られた塗布液を、基材フィルム表面に直接、または予め形成したアンカー層の上に塗布し、乾燥することにより遮光層が形成される。塗布方法は特に限定されないが、ロールコーター法、ドクターブレード法、ダイコーター法、バーコーター法、ディップコーター法、キスコーター法、スプレーコーター法、スピンコーター法等が用いられる。
【0038】
本発明の遮光部材の遮光層の厚さは、特に限定されないが、平均膜厚が、2μm以上20μm以下であることが好ましい。また、本発明の遮光部材の遮光層の平均膜厚の上限は、15μmであることがより好ましく、10μmであることがさらに好ましい。本発明では、遮光層の厚さを5μm以下としても低光沢性、高光学濃度、低反射率でかつ黒色度が高い遮光部材を得ることができる。
なお、遮光層の平均膜厚は、フィルム基材表面から遮光層の大粒子1および小粒子2により突出している部分を含む高さのことである。上記遮光層の平均膜厚は、JIS K7130に基づいて測定することができる。
【0039】
以下に本発明の遮光部材の特性について述べる。
(1)光沢度
本発明の遮光部材の遮光層が形成された面の60°の入射角度の入射光に対する光沢度は、2%未満であることが好ましく、1.5%未満であることがより好ましく、1%未満であることがさらに好ましい。本発明の遮光部材の60°の入射角度の入射光に対する光沢度を上記範囲に調整することにより、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象を効果的に防止することができる。
上記光沢度はJIS Z8741に従い、入射角60°に対する鏡面光沢度を測定して得ることができる。
【0040】
(2)光学濃度
本発明の遮光部材の遮光層が形成された面の光学濃度は、1.5以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましく、2.5以上であることがさらに好ましい。本発明の遮光部材の光学濃度を上記範囲に調整することにより、遮光性をさらに向上させることができる。
上記光学濃度は、X-rite 361T(オルソフィルタ)光学濃度計を用いて測定することができる。
【0041】
(3)反射率
本発明の遮光部材の遮光層が形成された面の波長550nmの光に対する反射率は4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましい。本発明の遮光部材の反射率を上記範囲に調整することにより、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象をさらに効果的に防止することができる。
上記反射率は、コニカミノルタ株式会社製、分光測色計CM-5を用いて、測定することができる。
【0042】
(4)黒色度
本発明の遮光部材の遮光層が形成された面のL値は22以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましい。本発明の遮光部材のL値を上記範囲に調整することにより、黒色性が高く黒さが際立ちデザイン性に優れるため、スマートフォン等の携帯電話のカメラユニットとして好適に利用することができる。
L値は、JIS Z8781-4に基づいて算定したL*a*b*色空間のうち明度を表すL*値のことである。
【実施例
【0043】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」および「部」は質量%および質量部を示す。
【0044】
〈遮光部材の構成〉
(1)基材フィルム
(1-1)ポリイミドフィルム:カプトン50MBC(厚み12μm)、東レ・デュポン社製
【0045】
(2)遮光層
(a)粒子1
(a1)複合シリカ:ベクシアID(平均粒径:3μm)、富士シリシア化学株式会社製
(a2)透明シリカ:ACEMATT R972無機材料(平均粒径:58nm)、EVONIK社製
(a3)透明シリカ:サイリシア430(平均粒径:4.1μm)、富士シリシア化学株式会社製
(a4)透明シリカ:ACEMATT OK412 (平均粒径:6.3μm)、EVONIK社製
(a5)透明アクリルビーズ:ユニパウダーNMB-0320C(平均粒径:3μm)、JX日鉱日石エネルギー株式会社製
(a6)黒色アクリルビーズ:ラブコロール224SMDブラック(平均粒径:3μm)、大日精化工業株式会社製
(b)粒子2
(b1)MHIブラック_#273_(平均粒径:150nm)、御国色素株式会社製
(c)硬化剤
(c1)キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物:タケネートD110N、三井化学株式会社製
(d)樹脂
(d1)アクリル樹脂:アクリディックA801、DIC株式会社製
(e)溶剤
(e1)酢酸ブチル
【0046】
(実施例1~17、比較例1~5)
表1~3に示す固形分比となるよう遮光層の各成分を、総固形分約25質量%となるよう酢酸ブチル中に入れ、攪拌混合して塗布液を得た。ポリイミドの基材フィルムを用いて、一方の面に各種組成の塗布液を塗布した後、100℃で2分乾燥して、遮光層を形成した。
【0047】
各試料の遮光層の平均膜厚、遮光層表面のRz値、Rsm値、60°の入射角度の入射光に対する光沢度、光学濃度、L値および波長550nmの光に対する反射率を上述した方法で測定した結果ならびに光沢度、光学濃度、L値および波長550nmの光に対する反射率を前述の評価基準で示した結果を表1、2および3に示す。
【0048】
表1には、粒子2を平均粒径150nmのカーボンブラックとして、添加量を15質量部に固定し、粒子1として平均粒径の異なるシリカ粒子を用いて遮光層を形成して評価した結果を示す。実施例1、実施例2および実施例3では、いずれも粒子1として、平均粒径3μmの複合シリカを用いているが、塗膜条件を制御して遮光層の膜厚を変えた。実施例1、実施例2および実施例3の遮光層のRzは、それぞれ3.35μm、2.98μmおよび2.92μmで、Rsmは、それぞれ34.99μm、32.99μmおよび36.52μmであった。
実施例1、実施例2および実施例3では、いずれも60°の光沢度が、0.5%と非常に低く、光学濃度は2を超え、低光沢性および高光学濃度が得られることが確認された。さらに、実施例1、実施例2および実施例3ともL値は17程度と低く、反射率は3%以下となり、高い黒色度と低反射率も備えることがわかった。上記結果より、遮光層のRzを1μm以上5μm以下とし、かつRsmを40μm以下とした本発明の遮光部材では、遮光層の平均膜厚を3~5μmと薄膜化しても低光沢性、高光学濃度、低反射率および優れた黒色度が実現されることが確認された。
【0049】
【表1】
【0050】
粒子1として平均粒径58nmの透明シリカを用いた他は、実施例1~3と同様に塗布液を調製して遮光層を形成して比較例1とした。得られた遮光層のRzは、0.63μmと小さく、Rsmは59.98μmであった。比較例1では、光沢度が19.8%と非常に高く、この構成では低光沢性が得られないことが確認された。
比較例2は、粒子1の組成比を40質量部から50質量部に変更した他は、比較例1と同様に塗布液を調製して遮光層を形成した。比較例2でも得られた遮光層のRzは、0.66μmと小さく、Rsmは81.64μmと比較例1よりさらに大きい値を示した。そして、比較例2でも、光沢度が18.5%と高く、低光沢性が得られないことが確認された。
粒子1として、平均粒径4.1μmの透明シリカを用いた実施例4では、Rsmは、実施例1~実施例3と同程度の34.71μmであったが、Rzが4.57μmと4μmを超えることがわかった。実施例4では、光沢度、反射率および黒色度は実施例1~実施例3と同等又はそれ以上の性能を示したが、光学濃度が、1.60と実施例1~3に比べて低いことがわかった。
粒子1として、平均粒径6.3μmの透明シリカを用いた比較例3では、Rzが7.23μmと5μmを超え、Rsmは、45.20μmであることが確認された。比較例3の光沢度は0.3%で低光沢性は得られるものの、光学濃度は、1.45と低く、高光学濃度が得られないことがわかった。また、比較例3では、本発明の要求値は満たすもののL値および反射率ともに実施例1~3より高かった。
【0051】
参考例1、2および3は、それぞれ基材フィルム上に遮光層を有する既存の遮光部材である。参考例1、2および3のRzは、それぞれ4.05μm、4.05μmおよび4.61μmで、Rsmは、68.66μm、67.74μmおよび66.02μmであった。参考例1、2および3では、いずれも遮光層の膜厚が9μmであるが、光沢度は、それぞれ2.7%、2.2%および3.0%であり本発明の要求値に満たないことがわかった。また、L値は、それぞれ24.11、24.39および23.93であり、反射率は、それぞれ5.11、4.90および4.84であり、黒色度および反射率とも本発明の要求値に満たなかった。
以上の結果から、遮光層表面のRzを1μm以上5μm以下とし、かつRsmを40μm以下に調製した本発明の遮光部材では、既存の遮光層より薄膜であっても、既存の遮光部材より低光沢でかつ高い光学濃度が実現されることが確認された。また、本発明では、薄膜であっても、既存の遮光部材より低反射率で高い黒色度を実現できることもわかった。Rzは4μm以下であることが好ましい。
さらに、上記表面の構造を有する本発明の遮光部材を得るためには、遮光層中に大粒子と小粒子を組み合わせて含有させることが効果的であることが確認された。大粒子1の粒径は、小粒子2の粒径の10~40倍程度とすることが有効だと考えられる。
【0052】
表2には、粒子1として、平均粒径が3μmの複合シリカ、アクリルビーズまたは黒色アクリルビーズを用いて各種条件で形成した遮光層表面のRz、Rsm、入射角60°での光沢度、光学濃度、L値および波長550nmの光に対する反射率を上述した方法で測定した結果を示す。実施例1、実施例2および実施例3の結果も同様に示す。
粒子1として、平均粒径3μmの複合シリカを30質量部(実施例5、6および7)、40質量部(実施例1、2および3)ならびに50質量部(実施例8、9および10)を添加して調製した塗布液を各種条件で塗布して形成した遮光層を評価した。これらの結果から全ての実施例で、Rzは1μm以上、5μm以下で、Rsmは40μm以下であることが確認された。そして、平均膜厚3μm~5μmの薄膜の遮光層を有するいずれの実施例においても低光沢性、高光学濃度、低反射率および高い黒色度が得られることが確認された。また、粒子1の添加量を増加させることにより、光沢度、反射率およびL値がさらに低下して、光学濃度が上昇する傾向が認められた。
【0053】
【表2】
【0054】
平均粒径が3μmのアクリルビーズを用いた比較例4では、Rzは3.26μmであったが、Rsmは45.79μmと40μmを超えることが確認された。比較例4では、光沢度が2.2%であり、本発明の要求する低光沢性が得られなかった。
これに対して、比較例4と同じ塗布液を用いて塗布条件を変えた実施例11では、Rzは2.83μmで、Rsmは38.46μmであり、光沢度は1.9%で低光沢性が得られた。このことから、Rzが1μm以上、5μm以下で、かつRsmは40μm以下の範囲では、粒子の種類を変えても低光沢性および高光学濃度が実現されることが確認された。実施例11では、反射率および黒色度とも本発明の要求値を満たし、低反射率および高い黒色度も実現されることが確認された。
実施例12および13では、アクリルビーズの添加量を50質量部に増加して、塗布液を調製し、塗布条件を変えて遮光層を形成した。実施例12および13のRzは2.90μmおよび3.25μmで、Rsmは25.35μmおよび34.22μmであった。そして、実施例12および13のいずれにおいても低光沢性、高光学濃度、低反射率および高い黒色度が得られることが確認された。
【0055】
平均粒径が3μmの黒色アクリルビーズを40質量%添加した比較例5では、Rzは3.25μmであったが、Rsmは52.74μmであった。比較例5では、光沢度が6.5%であり、低光沢性が得られなかった。
これに対して、黒色アクリルビーズの添加量を90質量部に増加した実施例14では、Rzは3.87μmで、Rsmは40.00μmであった。実施例14では、光沢度が1.3%で光学濃度が3.08であり、RzおよびRsmを本発明の規定範囲に制御することにより、粒子1として、黒色アクリルビーズを用いても低光沢性および高光学濃度が実現できることが確認された。なお、実施例14では、低反射率であったが、L値が23.85であり、黒色度は本発明の要求値には満たないことがわかった。
【0056】
上記結果より、粒子1の材質をアクリル樹脂としても、遮光層表面のRzおよびRsmを制御することにより、薄膜の遮光層であっても低光沢性および高光学濃度を実現できることがわかった。しかしながら、同程度の膜厚、RzおよびRsmにおいては、アクリルビーズまたは黒色アクリルビーズを用いた実施例より、複合シリカを用いた実施例の方が、光沢度が低い傾向が認められた。さらに、複合シリカを用いた実施例では、低反射率で高い黒色度の遮光部材が得られやすいこともわかった。このことから粒子1はシリカが好ましいと考えられる。
【0057】
表3には、平均粒径3μmの複合シリカを粒子1として用い、添加量を40質量部に固定し、粒子2(平均粒径150nmのカーボンブラック)の添加量を変えて調製した塗布液から得られた遮光層を評価した結果を示す。実施例1、実施例2および実施例3の結果も同様に示す。実施例15、実施例1~3、実施例16および実施例17、それぞれの粒子2の添加量は、6質量部、15質量部、24質量部および48.5質量部とした。
いずれの実施例においても遮光層表面のRzは1μm以上5μm以下で、かつRsmは40μm以下であり、遮光層の膜厚が3μm~6μmの範囲で、低光沢性、高光学濃度、低反射率でかつ高い黒色度が実現されることが確認された。
また、粒子2の添加量を増やすと、RzおよびRsmとも減少する傾向が認められた。これは、粒子2を増やすことにより、大粒子間に形成される谷部が小粒子によって埋められ、谷部の深さが浅くなり、谷部間の距離が短くなったためと考えられる。
また、粒子2を増やすことにより、光沢度、光学濃度、L値および反射率とも上昇することが確認された。
本発明では、遮光層中の粒子群の含有量や大粒子群と小粒子群の粒径や添加割合等により、RzおよびRsmを制御して光沢度、光学濃度、反射率および黒色度を調整することができるため、所望の性能の遮光部材を好適に提供することができる。
【0058】
【表3】
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図1(e)】
図1(f)】