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  • 特許-焼成炉用の湿式吹付材及びその施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】焼成炉用の湿式吹付材及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20231226BHJP
   F16L 59/00 20060101ALI20231226BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C04B35/66
F16L59/00
F27D1/16 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023560191
(86)(22)【出願日】2023-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2023035112
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022171722
(32)【優先日】2022-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正徳
(72)【発明者】
【氏名】川邊 勇介
(72)【発明者】
【氏名】徳富 篤史
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029419(JP,A)
【文献】特開平11-240775(JP,A)
【文献】特開平05-085837(JP,A)
【文献】特開2015-142964(JP,A)
【文献】国際公開第2021/134025(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
F16L 59/00
F27D 1/00,1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却炉、流動床炉、産業廃棄物キルン処理炉、循環流動層ボイラ用炉、セメント製造設備用炉、ガス化溶融炉又はストーカ炉である焼成炉に用いる焼成炉用の湿式吹付材であって、
粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、シリカゾルと、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液とを添加してなり、
シリカゾルは、シリカ固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して1質量%以上15質量%以下となるように添加され、
水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して合計で0.01質量%以上1質量%以下となるように添加される、焼成炉用の湿式吹付材。
【請求項2】
前記耐火原料は、pH6.0以上pH9.5以下のシリカヒュームを3質量%以上10質量%以下含む、請求項1に記載の焼成炉用の湿式吹付材。
【請求項3】
焼却炉、流動床炉、産業廃棄物キルン処理炉、循環流動層ボイラ用炉、セメント製造設備用炉、ガス化溶融炉又はストーカ炉である焼成炉に用いる焼成炉用の湿式吹付材の施工方法であって、
粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、シリカゾルを添加して混練し、その混練物をノズルまで圧送し、このノズル又はノズル手前にて、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液を添加して吹き付ける工程を含み、
シリカゾルは、シリカ固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して1質量%以上15質量%以下となるように添加し、
水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して合計で0.01質量%以上1質量%以下となるように添加する、焼成炉用の湿式吹付材の施工方法。
【請求項4】
前記耐火原料は、pH6.0以上pH9.5以下のシリカヒュームを3質量%以上10質量%以下含む、請求項3に記載の焼成炉用の湿式吹付材の施工方法。
【請求項5】
前記混練物のpH値が7以上9以下の範囲内である、請求項4に記載の焼成炉用の湿式吹付材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却炉、流動床炉、産業廃棄物キルン処理炉、循環流動層(CFB)ボイラ用炉、セメント製造設備用炉、ガス化溶融炉又はストーカ炉である焼成炉に用いる焼成炉用の湿式吹付材及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吹付施工方法は、乾式吹付施工と湿式吹付施工とに大別される。このうち湿式吹付施工は、耐火原料に水を添加して混錬した後、その混練物をノズルまで圧送して吹き付ける施工方法である。そして、この湿式吹付施工方法に用いる湿式吹付材には、被施工面への付着性を向上させるため、例えば特許文献1に開示されているように、ノズル又はノズル手前にて急結剤を添加する場合がある。この場合、急結剤は、混練物を圧送する配管とは別の配管を用いて供給され、ノズル又はノズル手前、すなわち吹付の直前に混練物に添加される。
【0003】
ところで、湿式吹付材は被施工面への施工後すぐに使用できること、すなわち被施工面への施工後、炉が稼働できる状態になるまでの時間が短いことが求められている。特に焼成炉においては吹付施工後に約50時間あるいはそれ以上という長時間の乾燥工程が必要とされていることから、その分、時間やコストを要するという問題があった。そのため、特に焼成炉においては、被施工面への施工後、その焼成炉が稼働できる状態になるまでの時間を短くすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-240775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、焼成炉の被施工面への施工後、その焼成炉が稼働できる状態になるまでの時間を短くすることのできる、焼成炉用の湿式吹付材及びその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するにあたり本発明者らが試験及び研究を重ねた結果、上記課題を解決するためには、吹付材の被施工面への付着性及び定着性を向上させることが肝要であり、その前提として施工時の混練物の搬送性を向上させること、及び施工体の硬化性を向上させることが肝要であることがわかった。更に、特に乾燥工程の短縮又は省略を実現する観点から、施工体の硬化性を向上させつつ耐爆裂性を確保することも肝要であることがわかった。
そして本発明者らが、これらの観点から更に試験及び研究を重ねた結果、耐火原料の粒度構成を粒径1mm未満の粒子(以下「微粒」という。)が主体となるようにし、かつこの耐火原料に結合剤としてシリカゾル、更に急結剤として、金属塩のうち、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上のスラリー又は水溶液をそれぞれ適量添加することが有効であるとの知見を得、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の焼成炉用の湿式吹付材が提供される。
焼却炉、流動床炉、産業廃棄物キルン処理炉、循環流動層ボイラ用炉、セメント製造設備用炉、ガス化溶融炉又はストーカ炉である焼成炉に用いる焼成炉用の湿式吹付材であって、
粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、シリカゾルと、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液とを添加してなり、
シリカゾルは、シリカ固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して1質量%以上15質量%以下となるように添加され、
水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して合計で0.01質量%以上1質量%以下となるように添加される、焼成炉用の湿式吹付材。
【0008】
また本発明の他の観点によれば、次の焼成炉用の湿式吹付材の施工方法が提供される。
焼却炉、流動床炉、産業廃棄物キルン処理炉、循環流動層ボイラ用炉、セメント製造設備用炉、ガス化溶融炉又はストーカ炉である焼成炉に用いる焼成炉用の湿式吹付材の施工方法であって、
粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、シリカゾルを添加して混練し、その混練物をノズルまで圧送し、このノズル又はノズル手前にて、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液を添加して吹き付ける工程を含み、
シリカゾルは、シリカ固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して1質量%以上15質量%以下となるように添加し、
水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー、及び/又は、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の水溶液は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の固形分の添加率が前記耐火原料100質量%に対して合計で0.01質量%以上1質量%以下となるように添加する、焼成炉用の湿式吹付材の施工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼成炉の被施工面への施工後、その焼成炉が稼働できる状態になるまでの時間を短くすることができる。すなわち本発明によれば、吹付施工後の乾燥工程を短縮又は省略することができ、そのため施工工期の短縮により施工コストを削減することができると共に、乾燥工程にかかる燃料の使用量をゼロ又は大幅に削減することができる。このように本発明によれば、エネルギーコストの削減に寄与することができると共に、CO排出量の削減にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】湿式吹付材の施工方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態である焼成炉用の湿式吹付材は、粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、結合剤としてシリカゾルと、急結剤として水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上のスラリー又は水溶液とを添加してなる。また、本発明の他の実施形態である焼成炉用の湿式吹付材の施工方法では、粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、シリカゾル(結合剤)を添加して混練し、その混練物をノズルまで圧送し、このノズル又はノズル手前にて、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上のスラリー又は水溶液(急結剤)を添加して吹き付ける。すなわち、湿式吹付材の施工方法では、事前に耐火原料と結合剤を混錬して泥しょう状の混練物とし、この混練物を図1に例示しているように圧送ポンプ1により配管3を通じてノズル2に向けて圧送する。一方、急結剤は急結剤タンク4からノズル2又はノズル2手前に接続された急結剤供給管5を通じて混練物に添加される。そして、この湿式吹付材が被施工面に向けて吹き付けられる。このように、湿式吹付材又はその施工方法において急結剤は、混練物を圧送する配管3とは別経路の急結剤供給管5で圧送され、ノズル2又はノズル2手前にて混練物に添加される。
【0012】
本発明の湿式吹付材又はその施工方法において耐火原料は、上述の通り粒径1mm未満の粒子(以下「微粒」という。)を55質量%以上90質量%以下含む。耐火原料中の微粒の含有率が55質量%未満では、耐火原料を含む混練物の流動性が悪くなり配管3中の搬送性が低下する。また、搬送性が低下することにより付着性も低下する。一方、耐火原料中の微粒の含有率が90質量%超では、結合剤として添加するシリカゾルが粘性のある液体であるため、耐火原料が凝集しやすくなり混練物の搬送性の低下を招く。また、搬送性が低下することにより付着性も低下する。更に、施工体の強度が低下して耐爆裂性が低下する。耐火原料中の微粒の含有率は、61質量%以上85質量%以下であることが好ましい。また、耐火原料の凝集を抑制しつつ混練物の流動性を担保する観点から、粒径1mm未満の微粒100質量%に占める割合において0.075mm以上の粒子の含有率を40質量%以上60質量%以下の範囲に調整することが好ましい。
【0013】
本発明において耐火原料としては、従来一般的に湿式吹付材の耐火原料として用いられているものを用いることができ、例えば、アルミナ、スピネル、マグネシア、シリカ、ムライト、バン土頁岩、シャモット、耐火粘土等の酸化物、炭化珪素、黒鉛等の非酸化物等が挙げられる。
一方、本発明において耐火原料は、pH6.0以上pH9.5以下のシリカヒュームを3質量%以上10質量%以下含むことが好ましい。シリカヒュームの粒径は0.075mm未満以下であり、pH6.0以上pH9.5以下のシリカヒュームを適量含有することによりシリカゾルのゾル化、凝集等が適度に遅延されるので、混練物の搬送性が更に向上する。すなわち、本発明において結合剤として使用するシリカゾルはpH8.0以上10.0以下程度であり、これと同程度のpHであるpH6.0以上pH9.5以下のシリカヒュームを耐火原料中に適量含有することで、シリカゾルのゾル化、凝集等、すなわち流動性低下が適度に遅延されるので、混練物の搬送性が更に向上する。なお、市販されてシリカゾルのなかにはpH2.0以上4.0以下程度の酸性のものもあるが、本発明においてシリカゾルとは上述の通りpH8.0以上10.0以下程度のアルカリ性のものをいう。
【0014】
ここで、シリカヒュームは電融ジルコニアやフェロシリコンの精錬過程で発生する排ガスより得られる球状の微粒子である。なお、シリカフュームのpHは、JIS Z 8802-2011「pH測定方法」に基づいて測定されるものである。
【0015】
また、本発明において耐火原料の粒径とは、耐火原料を篩いで篩って分離したときの篩い目の大きさのことであり、例えば粒径0.075mm未満の耐火原料とは、篩い目が0.075mmの篩いを通過する耐火原料のことで、粒径0.075mm以上の耐火原料とは、篩い目が0.075mmの篩い目を通過しない耐火原料のことである。
【0016】
上述の通り本発明では、結合剤としてシリカゾルを使用する。シリカゾルとは固形分のシリカ粒子、すなわちシリカ固形分を水に分散させた溶液である。本発明においてシリカゾルは、シリカ固形分の添加率が耐火原料100質量%に対して1質量%以上15質量%以下となるように添加される。シリカ固形分の添加率が15質量%を超えると、混練物の流動性が低下して搬送性が低下する。また、吹付材が被施工面に付着する前に凝集して付着性が低下する。一方、シリカ固形分の添加率が1質量%未満では、付着性が低下し、かつ吹付材が被施工面に定着しにくくなり定着性が低下する。シリカ固形分の添加率は3質量%以上12質量%以下であることが好ましい。また、シリカゾルのシリカ固形分濃度は10質量%以上60質量%以下とすることができ、20質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
ここで、「付着」とは吹付材が被施工面に張り付くことをいい、「定着」とは吹付材が被施工面上の吹付位置に残存することをいう。
すなわち、シリカ固形分の添加率が高すぎると、吹付材の凝集が早くなりすぎるので、吹付材が被施工面に付着する前に凝集して、吹付材が被施工面に付着せず落下しやすくなり付着性が低下する。一方、シリカ固形分の添加率が低すぎると、吹付材の凝集が遅くなるので、被施工面上で液だれして吹付位置よりも下に移動しやすくなり定着性が低下する。
【0018】
なお、従来、湿式吹付材の結合剤としては、アルミナセメント、ポルトランドセメント、マグネシアセメント等のセメントが汎用されているが、結合剤としてセメントを用いた場合、常温で水和反応が起こって吹付施工体の強度が向上するため脱水がしづらくなり、炉内の温度が上昇すると爆裂を生じる危険性がある。また、粘性が高まり流動性を低下させ、かつ硬化性が高まりすぎて付着性が低下する懸念がある。
そのため、吹付施工後に長時間の乾燥工程が必要となり乾燥工程の短縮又は省略を実現することは困難であり、かつ流動性及び付着性が低下する懸念がある。そのため、本発明では結合剤としてシリカゾルを使用し、アルミナセメントを実質的に使用しないこととしている。ただし、アルミナセメントを耐爆裂性等の問題が顕著に生じない範囲で少量使用することはできる。具体的には、本発明においてアルミナセメントは、耐火原料100質量%に対して3質量%以下の範囲で添加することができる。無論、アルミナセメントの添加率はゼロであることが好ましい。
【0019】
本発明では急結剤として、金属塩のうち、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上のスラリー又は水溶液(以下「本発明スラリー又は本発明水溶液」という。)を使用する。本発明スラリー又は本発明水溶液は従来の急結剤と同様にノズル又はノズル手前にて混練物に対して添加されるが、本発明スラリー又は本発明水溶液は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上の固形分(以下「スラリー固形分又は水溶液固形分」という。)の添加率が耐火原料100質量%に対して合計で0.01質量%以上1質量%以下となるように添加される。そして、本発明スラリー又は本発明水溶液中に含まれる水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム(スラリー固形分又は水溶液固形分)が、-OH基を有するシリカゾルの親水コロイドが上記金属塩のイオンの影響を受け、凝集(急結)状態(塩析)となり、付着することが今回の付着メカニズムである。
スラリー固形分又は水溶液固形分の添加率が1質量%を超えると、吹付材が被施工面に付着する前に凝集して付着性が低下する。一方、スラリー固形分又は水溶液固形分の添加率が0.01質量%未満では、凝集力が低下して付着性が低下し、かつ吹付材が被施工面に定着しにくくなり定着性が低下する。
スラリー固形分又は水溶液固形分の添加率は0.03質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。また、本発明スラリーのスラリー固形分濃度は1質量%以上50質量%以下とすることができ、10質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。
なお、本発明スラリー又は本発明水溶液は、固形分として、上述のスラリー固形分又は水溶液固形分以外の固形分を含むことができる。スラリー固形分又は水溶液固形分以外の固形分としては、例えば水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム等の金属塩やアルミナ、マグネシア等の耐火物の微粉が挙げられる。ただし、本発明スラリー又は本発明水溶液は固形分として上述のスラリー固形分又は水溶液固形分を主として含むものであり、具体的には本発明スラリー又は本発明水溶液中の全固形分100質量%に占める割合で、スラリー固形分又は水溶液固形分の含有率が80質量%以上であることが好ましい。
また、本発明において急結剤として使用する「本発明スラリー又は本発明水溶液」としては、「水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウムの少なくとも一方のスラリー」を使用することか好ましく、「水酸化カルシウムのスラリー」を使用することが最も好ましい。
【0020】
本発明では、粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、シリカゾルを添加して混練し混練物をノズルまで圧送し、このノズル又はノズル手前にて本発明スラリー又は本発明水溶液を添加して吹き付ける。なお、シリカゾル中には水が含まれるが、混錬時又は混練後に更に水を添加してもよい。水の添加方法は、耐火原料とシリカゾルを混錬する前に添加してもよいし、混練後、その混練物をノズルまで圧送する途中で添加してもよい。
水の添加率は耐火原料100質量%に対して3質量%以上20質量%以下程度とすることができる。なお、水の添加率とは、シリカゾルのみ添加の場合(更に水を添加しない場合)はシリカゾル中に含まれる水の添加率であり、更に水を添加する場合はシリカゾル中に含まれる水の添加率と更に添加する水の添加率の合量のことをいう。また、耐火原料には、シリカゾルと水のほかに、繊維やトリポリリン酸ナトリウム等の分散剤を適宜添加することができる。
【実施例
【0021】
表1~3に、それぞれ本発明の実施例及び比較例に係る湿式吹付材の材料構成を示すと共に、各例の湿式吹付材について行った、流動性、付着性、硬化性及び耐爆裂性並びに総合評価の評価結果を示している。なお、表1~3において「耐火原料」とは主としてアルミナである。また、耐火原料の一種である「シリカヒューム」としてはpH6.0以上pH9.5以下ものを用いた。
【0022】
流動性、付着性、硬化性及び耐爆裂性並びに総合評価の評価方法は以下の通りである。
<流動性>
各例の耐火原料にシリカゾルと適量の水とを添加し混練して得た混練物について、JIS R 2521に準拠してタップフロー値を測定した。そして、タップフロー値が160mm以上の場合を◎(流動性優良)、140mm以上160mm未満の場合を○(流動性良好)、140mm未満の場合を×(流動性不良)と評価した。この流動性の評価は搬送性の評価でもある。
<付着性>
上記の要領で得た各例の混錬物にそれぞれ各例の急結剤を添加して急速混合し、その後の流動停止時間を測定した。この流動停止時間は吹付材の硬化時間に対応し、本発明者らはこの流動停止時間が2秒以上15秒以下の場合に吹付施工時の被施工面への付着性が良好となり、4秒以上10秒以下の場合に優良となることを確認している。すなわち付着性の評価では、流動停止時間が4秒以上10秒以下の場合を◎(付着性優良)、2秒以上4秒未満又は10秒超15秒以下の場合を〇(付着性良好)、2秒未満又は15秒超の場合を×(流動性不良)と評価した。
<硬化性>
上記の要領で得た各例の混錬物にそれぞれ各例の急結剤を添加して急速混合し、その後、JHS A601「土壌硬度試験法」に基づいてその表面をプッシュコーンで貫入した際の、プッシュコーンの貫入値が30mm以上になるまでの時間を測定した。そして、この時間が120分以内の場合を◎(硬化性優良)、120分超300分以内の場合を○(硬化性良好)、300分超の場合を×(硬化性不良)と評価した。この硬化性の評価は吹付施工時の被施工面への定着性の評価でもある。
<耐爆裂性>
上記の要領で得た各例の混錬物にそれぞれ各例の急結剤を添加して急速混合し、その後、24時間養生して直径100mm×高さ100mmの円柱状の試験片を得た。この試験片を800℃雰囲気の炉へ投入し、爆裂の有無を確認した。すなわち、爆裂の無しの場合を○(耐爆裂性良好)、爆裂の有りの場合を×(耐爆裂性不良)と評価した。
<総合評価>
流動性、付着性及び硬化性の評価がいずれも◎でありかつ耐爆裂性の評価が○の場合を◎(優良)、流動性、付着性及び硬化性の評価の少なくとも一つが○であってかつ×がなく、しかも耐爆裂性の評価が○の場合を○(良好)、流動性、付着性、硬化性及び耐爆裂性の評価の少なくとも一つが×である場合を×(不良)と評価した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
表1及び表2中、実施例1~27は、本発明の範囲内にある湿式吹付材である。具体的に、実施例1、2は耐火原料中の粒径1mm未満の微粒の含有率を本発明の範囲内で変化させた例、実施例3~7は結合剤であるシリカゾルの添加率を本発明の範囲内で変化させた例、実施例8~12は急結剤である水酸化カルシウムのスラリーの添加率を本発明の範囲内で変化させた例、実施例13~24は急結剤として水酸化カルシウムのスラリーに代えて水酸化マグネシウムのスラリー、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの水溶液を使用した例、実施例25は急結剤として水酸化カルシウムのスラリーと水酸化マグネシウムのスラリーを併用した例、実施例26は耐火原料中にシリカヒュームを含まない例、実施例27はアルミナセメントを含む例である。いずれの実施例においても総合評価は○(良好)又は◎(優良)となった。すなわち各実施例の湿式吹付材によれば、焼成炉の被施工面への施工後、その焼成炉が稼働できる状態になるまでの時間を短くすることができる。言い換えると各実施例の湿式吹付材によれば、吹付施工後の乾燥工程を短縮又は省略することができ、そのため施工工期の短縮により施工コストを削減することができると共に、乾燥工程にかかる燃料の使用量をゼロ又は大幅に削減することができる。更にエネルギーコストの削減に寄与することができると共に、CO排出量の削減にも寄与することができる。
なお、実施例4~6、実施例9~10、実施例12~13及び実施例25は、微粒の含有率、シリカゾルの添加率及びスラリーの添加率が上述の好ましい範囲内にあり、しかも耐火原料中にシリカヒュームを3質量%以上10質量%以下含む例であり、総合評価は◎(優良)となり特に優れていた。
【0027】
表3中、比較例1は耐火原料中の粒径1mm未満の微粒の含有率が本発明の下限値を下回る例であり、流動性と付着性が不良であった。一方、比較例2は耐火原料中の粒径1mm未満の微粒の含有率が本発明の上限値を上回る例であり、流動性、付着性及び耐爆裂性が不良であった。
比較例3は結合剤であるシリカゾルの添加率が本発明の下限値を下回る例であり、付着性と硬化性が不良であった。一方、比較例4は結合剤であるシリカゾルの添加率が本発明の上限値を上回る例であり、流動性と付着性が不良であった。なお、比較例3以降については耐爆裂性の評価を省略した。
比較例5は急結剤である水酸化カルシウムのスラリーの添加率が本発明の下限値を下回る例(未添加の例)であり、付着性と硬化性が不良であった。一方、比較例6は急結剤である水酸化カルシウムのスラリーの添加率が本発明の上限値を上回る例であり、付着性が不良であった。
比較例7、8は急結剤として本発明スラリー又は本発明水溶液以外のものを使用した例であるが、いずれも付着性が不良であった。なお、比較例7、8については硬化性の評価を省略した。
【符号の説明】
【0028】
1 圧送ポンプ
2 ノズル
3 配管
4 急結剤タンク
5 急結剤供給管
S 被施工面
【要約】
本発明は、焼成炉の被施工面への施工後、その焼成炉が稼働できる状態になるまでの時間を短くすることのできる、焼成炉用の湿式吹付材及びその施工方法を提供する。すなわち本発明では、粒径1mm未満の粒子を55質量%以上90質量%以下含む耐火原料に、シリカゾルと水とを添加して混練し、その混練物をノズル2まで圧送し、ノズル2又はノズル2手前にて、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの少なくとも一種類以上のスラリー又は水溶液を添加して被施工面Sへ吹き付ける。
図1