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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】温度センサおよび回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 11/25 20160101AFI20231226BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20231226BHJP
【FI】
H02K11/25
G01K1/14 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023567913
(86)(22)【出願日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2023019279
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2022110108
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000145242
【氏名又は名称】株式会社芝浦電子
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 寛章
(72)【発明者】
【氏名】吉原 孝正
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6944618(JP,B1)
【文献】特開2018-125923(JP,A)
【文献】特開2021-67584(JP,A)
【文献】国際公開第2019/030110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K11/25
G01K1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のステータに備えられるコイルの温度を検出するための温度センサであって、
感熱体と、前記感熱体に電気的に接続される電線と、前記電線の一部および前記感熱体を覆い、弾性を有する樹脂材料から形成される被覆体と、を含むセンサ要素と、
前記被覆体を片持ち状に保持し、回転軸心を有するブラケットと、を備え、
前記被覆体は、
前記回転軸心からの距離が相対的に短く、前記ブラケットにより保持される第1部位と、
前記回転軸心からの距離が相対的に長く、前記感熱体を覆う第2部位と、を有し、
前記第2部位は、
前記第1部位を通りかつ前記回転軸心を中心とする仮想円の外側にある、
温度センサ。
【請求項2】
前記被覆体は、
所定方向への前記ブラケットの回転動作により前記コイルへと押圧可能に構成されている、
請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記第2部位は、前記回転動作の方向において前記第1部位よりも後方に位置している、
請求項2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記被覆体が前記コイルへと押圧されているとき、
前記第2部位は、前記回転軸心と前記コイルとを最短距離で結ぶ線分に対して、前記回転動作の方向の後方に位置し、
前記第1部位は、前記線分に対して、前記回転動作の方向の前方に位置している、
請求項3に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記ブラケットは、ネジ部材と固定対象との締結により前記固定対象に固定され、
前記被覆体は、前記ネジ部材の前記固定対象への前記締結のための回転に伴う前記ブラケットの回転動作により前記コイルへと押圧可能に構成されている、
請求項1に記載の温度センサ。
【請求項6】
前記ブラケットは、前記ステータのコアを前記ステータのケースに締結される前記ネジ部材により、前記コアと共に前記固定対象としての前記ケースに固定される、
請求項5に記載の温度センサ。
【請求項7】
前記ブラケットは、過大な回転動作を規制するために被係止部に係止される係止部を含む、
請求項5に記載の温度センサ。
【請求項8】
前記被覆体は、前記コイルの素線が延びている延出方向に沿って配置される、
請求項1に記載の温度センサ。
【請求項9】
前記ブラケットは、
前記被覆体を保持する第1保持部と、
前記回転動作の方向における前記第1保持部よりも前方で前記電線を保持する第2保持部と、を含む、
請求項に記載の温度センサ。
【請求項10】
前記ブラケットは、
前記ネジ部材が貫通するねじ孔が形成された基部と、前記基部に対して折り曲げられて前記被覆体を保持する保持部と、前記基部に対して前記保持部とは逆向きに折り曲げられてなる前記係止部と、を備える、
請求項7に記載の温度センサ。
【請求項11】
コアおよびコイルを含むステータと、
前記ステータに対して回転されるロータと、
前記コイルの温度を検出するための請求項1から10のいずれか一項に記載の温度センサと、を備える、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサおよび温度センサを備える回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両に搭載される電動機等の回転電機においては、ステータに備えられるコイルに電流が流れることでコイルの温度が上昇する。コイルの過大な温度上昇を避けて回転電機を安定して動作させるため、温度センサを用いてコイルの温度を検出し、検出された温度に応じて回転電機の動作を制御する。
【0003】
特許文献1は、車両に搭載される回転電機のステータにおいて、周方向に隣り合うティースにそれぞれ巻き回されたコイルの間に温度センサを挿入してコイルの温度を検出することを提案する。特許文献1の温度センサは、絶縁性の樹脂層により覆われるとともに、フッ素ゴム等の弾性材料からなるホルダにより保持される。ホルダを弾性変形させつつコイル間の隙間に挿入すると、温度センサの検温部が樹脂層を介してコイルに接触する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-252508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両のように振動を受ける環境下においても、温度センサがコイルにおける規定位置からずれることを防ぎたい。
本発明は、振動等の外力によるコイルの規定位置からの位置ずれを防止することが可能な温度センサおよびこの温度センサを備える回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転電機のステータに備えられるコイルの温度を検出するための温度センサであって、
感熱体と、感熱体に電気的に接続される電線と、電線の一部および感熱体を覆い、弾性材料から形成される被覆体と、を含むセンサ要素と、
被覆体を片持ち状に保持し、回転軸心を有するブラケットと、を備える。
ブラケットは、所定の回転軸心を有し、被覆体は、所定方向へのブラケットの回転動作によりコイルへと押圧可能に構成されている。
【0007】
また、本発明は、回転電機のステータに備えられるコイルの温度を検出するための温度センサであって、
感熱体と、前記感熱体に電気的に接続される電線と、前記電線の一部および前記感熱体を覆い、弾性材料から形成される被覆体と、を含むセンサ要素と、
前記被覆体を片持ち状に保持し、回転軸心を有するブラケットと、を備え、
前記被覆体は、
前記回転軸心からの距離が相対的に短く、前記ブラケットにより保持される第1部位と、
前記回転軸心からの距離が相対的に長く、前記感熱体を覆う第2部位と、を有し、
前記第2部位は、
前記第1部位を通りかつ前記回転軸心を中心とする仮想円の外側にある。
【0008】
本発明の回転電機は、コアおよびコイルを含むステータと、ステータに対して回転されるロータと、上述の温度センサと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の温度センサによれば、感熱体を覆う被覆体が弾性変形してコイルに押し付けられ状態で、被覆体を保持するブラケットを固定対象に固定することができる。したがって、本発明の温度センサによれば、振動、衝撃等の外力に起因してセンサ要素がコイルの規定位置からずれるのを防ぐことができるので、コイルの温度を安定して精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る回転電機の一部を示す斜視図である。
図2図1の上方から温度センサおよびコイルを示す平面図である。
図3】(a)は、図1に示すようにセンサ要素を回転電機に取り付けるブラケットを示す斜視図である。(b)は、センサ要素の平面図である。
図4】(a)は、ブラケットが固定対象に締結される前におけるブラケットの第1姿勢を示す平面図である。(b)は、締結後におけるブラケットの第2姿勢を示す平面図である。
図5】第1変形例に係る温度センサの模式平面図である。
図6】(a)は、実施形態に係る温度センサの模式断面図である。(b)は、第2変形例に係る温度センサの模式断面図である。(c)は、第3変形例に係る温度センサの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
〔全体構成〕
図1に示す温度センサ2は、電動機、発電機等の回転電機1のステータ10に取り付けられ、ステータ10のコイル11の温度を検出する。回転電機1は、例えば電気自動車等の車両に搭載される。回転電機1は、ステータ10と、ステータ10に対して回転される図示しないロータと、温度センサ2とを備えている。
【0012】
ステータ10は、複数の電磁鋼板の積層体である図示しないコア(以下、ステータコアと称する)と、ステータコアを収容する略円筒状のケース12と、ステータコアに巻き回されるコイル11とを備えている。コイル11は、所定のパターンで巻き回されるコイル素線Cからなる。コイル素線Cは、ケース12の表面12Aからステータ10の軸方向D1に突出し、コイルエンド11Eを形成している。
本実施形態のコイル11は、分布巻コイルが適用されているが、それに限らず、集中巻コイルであってもよい。
温度センサ2は、図1および図2に示すように、ステータ10の外周から内周に向けて、コイルエンド11Eに対してコイル11の概ね径方向D3に押圧される。
図1および図2には、ステータ10の軸方向D1、周方向D2、および径方向D3が示されている。D3は、一の径方向を代表して示している。
また、ケース12の表面12Aを基準として、コイルエンド11Eが軸方向D1に突出している側を「上」と称し、その反対側を「下」と称する。
【0013】
〔温度センサの構成〕
主に図3(a)および(b)を参照し、温度センサ2の構成を説明する。温度センサ2は、温度を検出するセンサ要素20と、センサ要素20を保持し、固定対象であるケース12に雄ネジ部材としてのボルト35により固定されるブラケット30とを備えている。ボルト35は、ステータコアをケース12に固定するボルトに該当する。ボルト35の頭部35Aと固定部31との間には、図4(a),(b)に示されるように必要に応じて座金36が配置される。
【0014】
ブラケット30は、図4に示されるように、回転軸心(A)を有している。ブラケット30が回転軸心(A)を中心として所定の回転方向r1に回転されると温度センサ2がコイルエンド11Eへと押圧される。ブラケット30の回転軸心(A)は、本実施形態のブラケット30をケース12に締結するボルト35の軸心たる締結中心Aに該当する。なお、図示される回転方向r1は時計回りと一致する。
本実施形態においては、回転軸心(A)とコイルエンド11Eとを最短距離で結ぶ線分L(図2)を延長した直線がコイルエンド11Eの図示しない平面中心またはその近傍を通るように、コイル11と温度センサ2との位置関係が定められている。
【0015】
(センサ要素)
センサ要素20は、図3(a),(b)に示されるように、感熱素子21と、感熱素子21に電気的に接続される一対のリード線22と、感熱素子21の全体およびリード線22の一部を覆う被覆体24と、被覆体24から露出した一対のリード線22の所定区間を覆うチューブ25とから構成される。
感熱素子21は、感熱体211と、感熱体211を覆う絶縁性の封止体212と、封止体212から引き出される一対のクラッド線213とを備えている。
【0016】
感熱体211は、温度変化に対して電気抵抗が変化するサーミスタ等を用いて温度検出可能に構成されている。
クラッド線213は、感熱体211に設けられている図示しない電極に接続されており、例えばジュメット線(dumet線)が適用される。一対のクラッド線213は、封止体212から同じ向きに引き出されている。クラッド線213と、クラッド線213に接続されるリード線22とは、共に「電線」を構成している。
【0017】
以下、感熱体211に対してクラッド線213が引き出されている向きを「後」と称し、その逆向きを「前」と称する。図1~3においては、符号Fにより「前」を示し、符号Rにより「後」を示す。
【0018】
一対のリード線22は、一対のクラッド線213のそれぞれに接続されるとともに、図示しない温度検出回路に接続される。リード線22は、クラッド線213に接合される芯線221と芯線221を覆う絶縁被覆222とから構成される。一対のリード線22は、被覆体24から後方に引き出された後、前方に向けて折り返されている。
【0019】
つまり、一対のリード線22のそれぞれは、被覆体24の内部を後方へ延びている第1区間22Aと、被覆体24から引き出されて折り返されている第2区間22Bと、前方へ延びる第3区間22Cとを備えている。ステータ10の軸方向D1からリード線22を見ると、第3区間22Cは、第1区間22Aの下側で、第2区間22Bから前方へ所定の長さに亘り、第1区間22Aと並行に延びている。このようにリード線22を取り回し、リード線22の適宜な箇所をブラケット30に保持させることにより、リード線22がコイルエンド11Eに干渉するのを避けつつ、リード線22を温度検出回路に向けて取り回すことができる。
【0020】
第3区間22Cの外周には、チューブ25が設けられている。チューブ25により一対のリード線22を束ねるとともに向きを揃えることができる。
【0021】
被覆体24は、外部より印加される外力から、感熱素子21と、感熱素子21およびリード線22の接続箇所214とを保護する。被覆体24の前端24Fは、センサ要素20の前端に該当する。被覆体24の前端24Fの近傍には、感熱素子21が配置されている。
【0022】
被覆体24は、回転方向r1へのブラケット30の回転動作によりコイルエンド11Eへと押圧可能に構成されている。
本実施形態の被覆体24は、図2に示すように、回転軸心(A)(締結中心A)からの距離が相対的に短い第1部位24Aと長い第2部位24Bとを有している。第1部位24Aにおいて、被覆体24はブラケット30の第1保持部32により片持ち状に保持されている。また、第2部位24Bは、一例として感熱体211を覆っており、自由端の側に設けられる。この第2部位24Bは、回転軸心(A)を中心とし、第1部位24A、換言すると第1保持部32を通る仮想円VCの外側に位置している。仮想円VCは、コイル11から離れている。また、第2部位24Bは、回転方向r1において第1部位24Aよりも後方に位置している。回転軸心(A)を中心とするブラケット30の回転方向r1への回転動作により、第2部位24Bはコイルエンド11Eへと押圧される。この回転動作の間、第1保持部32により保持されている第1部位24Aは、コイル11から離れたままであり、コイル11に接することはない。
【0023】
被覆体24は、感熱素子21よりも前方の位置から、接続箇所214よりも後方の位置まで延びている。この被覆体24は、前後方向に長く、長尺状に形成されている。被覆体24は、ブラケット30に保持される第1部位24Aと、コイルエンド11Eに押圧される第2部位24Bとを有している。第2部位24Bは、被覆体24における感熱体211側の領域に該当する。第1部位24Aは、被覆体24における電線(213,22)側の領域に該当する。
【0024】
本実施形態の被覆体24は、外観が例えば円柱状をなしている。ただし、被覆体24の内部にはセンサ要素20などが収められている。被覆体24の前端24Fの径は、前端24Fよりも後側の径よりも小さい。なお、被覆体24の外観は、円形に限られず、任意の形状、例えば矩形状等の形状であってもよい。
【0025】
被覆体24は、フッ素ゴム、シリコーンゴム等の弾性を有する樹脂材料から所定の形状に成形されている。本実施形態における弾性とは、ブラケット30を回転動作させて第2部位24Bをコイル11に押し付けたときに、被覆体24が無理なく撓むことができることをいう。フッ素ゴムとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が該当する。例えば、PTFEから形成されているチューブの内側に感熱素子21およびリード線22を通し、当該チューブを加熱により収縮させるとともに金型に入れて加圧することで、感熱素子21およびリード線22を被覆体24で封止することができる。
【0026】
(ブラケット)
ブラケット30は、コイルエンド11Eに被覆体24の第2部位24Bが押圧される状態にセンサ要素20をケース12に取り付ける。
このブラケット30は、ボルト35を用いてケース12に締結される固定部31と、被覆体24の第1部位24Aおよびチューブ25を保持する第1保持部32と、第1保持部32よりも前方でチューブ25を保持する第2保持部33と、締結時にケース12に係止される係止部34とを備えている。第1保持部32は、被覆体24における上述の第1部位24Aを保持する。
【0027】
本実施形態のブラケット30は、金属製の板材からなる。固定部31、第1保持部32、第2保持部33、および係止部34は、例えばステンレス鋼等の金属製の板材を用いて、打ち抜き、折り曲げ等の機械加工を行うことで一体に成形されている。
なお、ブラケット30は、金属製の板材に限られず、必要な強度などの特性を有する樹脂材料を用いて構成されてもよい。
【0028】
固定部31は、板厚方向にねじ孔31Aが形成された平坦な基部に対応する。ねじ孔31Aの中心には、ブラケット30の回転軸心(A)が仮想的に存在している。固定部31は、ボルト35の軸部を挿入するためにケース12に形成されている図示しない孔の周りに配置される。その孔は、ケース12の表面12Aから軸方向D1に形成されている。ボルト35の軸部は、固定部31のねじ孔31Aおよびケース12の孔を介してステータコアに到達する。このボルト35の頭部35Aに回転方向r1にトルクを入力すると、軸方向D1へのボルト35の軸力により、ブラケット30がケース12に締結される。
【0029】
ボルト35の軸心である締結中心A(図2)を時計盤の中心として、第2保持部33が12時の位置にあるとすると、概ね、係止部34は10時の位置にあり、第1保持部32は2時の位置にある。
また、ブラケット30がボルト35とケース12の間に固定され、被覆体24がコイルエンド11Eに押圧されているとき、締結中心Aとコイルエンド11Eとを最短距離で結ぶ線分Lに対して、被覆体24の前端24Fは、ブラケット30の回転方向r1の後方に位置している。この線分Lに対して、第1部位24Aおよび第1保持部32は、回転方向r1の前方に位置している。
【0030】
第1保持部32は、固定部31に対して上向きに折り曲げられている。第1保持部32の上端に形成されている固定片321が、コイルエンド11Eに近接する側へと曲げられて第2部位24Bをかしめることで、ブラケット30が被覆体24を片持ち状に保持する。
【0031】
ボルト35とケース12の締結により固定部31がボルト35とケース12との間に固定されると、被覆体24は、第2部位24Bがコイルエンド11Eに押圧される。このとき被覆体24は、ケース12の表面12Aに対してコイル素線Cが傾斜して延びている延出方向DC(図1)に沿って、第1部位24Aから第2部位24Bに向けて上向きに傾斜する。
【0032】
本実施形態の第1保持部32は、被覆体24に加えてリード線22も保持する。第1保持部32の固定片321は、被覆体24よりも下方へと延び、一対のリード線22の第3区間22Cを覆うチューブ25をかしめる。
【0033】
第2保持部33は、第1保持部32と同様、固定部31に対して上向きに折り曲げられている。第2保持部33は、固定部31からの高さが第1保持部32と比べて低い。この第2保持部33の上端に形成されている固定片331が、コイルエンド11Eに近接する側に曲げられてチューブ25をかしめる。
【0034】
第2保持部33は、第1保持部32から上方かつ前方へ斜めに延びる被覆体24の前端24Fの下方に位置している。また、第2保持部33は、図2に示すように平面視において、後方から前方に向かうのにつれて次第にコイルエンド11Eから離れる向きに傾斜している。したがって、チューブ25は第2保持部33から遠ざかるのにつれて、コイルエンド11Eから離れる。この第2保持部33は、チューブ25を固定部31に対して略平行に保持する。
第2保持部33とは逆に、第1保持部32は、平面視において、後方から前方に向かうのにつれて次第にコイルエンド11Eに近接する向きに傾斜している。
【0035】
係止部34は、ブラケット30において締結中心Aから離れた位置で、固定部31に対して下向きに折り曲げられている。係止部34は、被係止部としてのケース12の側面12Bに対応する。ボルト35のケース12への締結時の回転動作に追従してブラケット30が回転動作すると、係止部34がケース12の側面12Bに係止されるため、それ以上にブラケット30が回転動作することが規制される。
なお、係止部34が係止される部材は、ケース12には限らず、締結時に係止部34が突き当てられる適宜な部材であってよい。
【0036】
〔ボルトの締結による温度センサの取り付け〕
図4(a)および(b)を参照して以下に説明するように、単一のボルト35をケース12に締結するのに伴ってブラケット30をボルト35とケース12を固定することで、センサ要素20をケース12に容易にかつ確実に取り付けることができる。
ここで、ブラケット30と、第1保持部32に保持されている被覆体24とは、図4(a)に示すように第2部位24Bがコイルエンド11Eには押圧されていない第1姿勢P1から、図4(b)に示すように、第2部位24Bがコイルエンド11Eに押圧されている第2姿勢P2へと回転動作が可能に構成されている。
【0037】
締結される前(図4(a))におけるブラケット30は、コイルエンド11Eに第2部位24Bが押圧されていない第1姿勢P1をなす。このとき、第2部位24Bは、図4(a)に示すようにコイルエンド11Eから離れている。または、ブラケット30の回転動作を妨げることがなければ、第2部位24Bがコイルエンド11Eに接触してもよい。
【0038】
右ねじであるボルト35に回転方向r1のトルクを入力すると、ブラケット30は、固定部31とボルト35との摩擦によりボルト35の回転動作に追従して、ボルト35の回転方向と同じ向きに、図4(b)に示す第2姿勢P2まで回転動作して締結が完了する。このようにブラケット30が第1姿勢P1から第2姿勢P2へと締結中心Aを中心に回転動作するとき、第1保持部32に保持されている被覆体24もブラケット30と同じ向きに回転動作する。図示の例で言えば、被覆体24は、周方向D2、またはコイル11の外周における接線にほぼ沿っている状態から(図4(a))、後方から前方に向かうのにつれて次第にコイルエンド11Eに近づき、第2部位24Bがコイルエンド11Eに側方から押圧される。径方向D3の外側から内側に向けて被覆体24がコイルエンド11Eに作用する押圧力Prの向きを矢印で示す。
【0039】
このとき被覆体24の第2部位24Bは、コイル素線Cに沿ってコイルエンド11Eに押圧される。第2部位24Bがコイルエンド11Eへと押圧されると、締結中心Aから、第2部位24Bにおけるコイルエンド11Eへの押圧箇所Bまでの距離L2は、回転動作における距離L1よりも小さくなる。
被覆体24の弾性力は押圧力Prに寄与し、第2部位24Bは、振動や衝撃が加えられる条件下において規定の位置に維持されるに足りる十分な圧力で、コイルエンド11Eに接触する。つまり、被覆体24は、ボルト35の回転に追従して回転動作するブラケット30と協働して、センサ要素20をコイルエンド11Eに押圧する押圧機構をなしている。
【0040】
こうしたボルト35、ブラケット30、および被覆体24の回転動作と並行して、ボルト35は軸方向D1へも動作して軸力を発生させる。ケース12の側面12Bに係止部34が突き当てられるとブラケット30の回転動作が規制されることにより、被覆体24に覆われた感熱素子21に過大な荷重が作用することを避けながら、ボルト35のみを回転させてブラケット30をケース12に強固に締結することができる。
【0041】
〔本実施形態の効果〕
本実施形態の温度センサ2による主な効果を列挙する。
温度センサ2によれば、感熱体211を覆う被覆体24が弾性変形してコイル11に押し付けられ状態で、被覆体24を保持するブラケット30を固定対象であるケース12に固定することができる。したがって、温度センサ2によれば、振動、衝撃等の外力に起因してセンサ要素20がコイルエンド11Eの規定位置からずれるのを防いで、コイルエンド11Eの規定位置に規定圧力で第2部位24Bが押圧される状態を維持することができる。そうすると、第2部位24Bに位置する感熱素子21による温度検出を通じて、コイル11の温度を安定して精度よく検出することができる。
温度センサ2によれば、感熱体211などを覆う被覆体24の弾性力を利用してセンサ要素20をコイルエンド11Eへ押圧可能である。したがって、温度センサ2によれば、弾性力を得るための他の弾性部材を設ける必要がないため、構成要素を少なくできるとともに、構造を簡易にできる。
【0042】
ブラケット30は、ステータコアをケース12に固定するためのボルトと同じ仕様のボルト35とケース12との締結により固定される。そのため、ステータコアをケース12に組み付ける作業の過程において、温度センサ2をステータ10に組み付けることができる。そうすると、組付けの作業効率が向上し、また、部品点数を減らしてコストを抑えることができる。
【0043】
ブラケット30の第1保持部32に保持される被覆体24は、コイル素線Cの延出方向DCに沿って、つまり軸方向D1に対して傾斜して配置される。これによれば、被覆体24が軸方向D1に沿って、あるいは軸方向D1に対して直交する方向に沿って配置される場合と比べ、コイル素線Cに対して大きい接触面積に亘り第2部位24Bを密着させることができる。そのため、コイル11からセンサ要素20への伝熱面積を広く確保して検出精度の向上に寄与することができる。
【0044】
ブラケット30がボルト35とケース12の間に確実に固定されるとともに、第1保持部32および第2保持部33の二つの箇所においてセンサ要素20とブラケット30とが固定されている。そのため、振動、衝撃等の外力に対し、センサ要素20がより安定してブラケット30に保持されるので、温度検出の安定および精度向上に寄与することができる。
【0045】
第1保持部32が固定部31から上向きに立ち上がっているので、第1保持部32の上端に保持される被覆体24はケース12の表面12Aから離れており、ケース12と被覆体24との間には所定容積の空間が確保される。そうすると、ステータ10とセンサ要素20との間の熱の受け渡しを抑えて、ステータ10によるコイル11の温度検出への影響を抑えることができる。なお、ステータ10は、コイル11に対して熱容量が大きく、回転電機が動作している間においてコイル11よりも温度が低い。
【0046】
係止部34がケース12に係止されることにより、第2姿勢P2を超えるブラケット30の過大な回転動作が規制される。そうすると、過大な荷重による感熱体211等の破損を避けつつ、ブラケット30をケース12に強固に締結することができる。
【0047】
〔変形例〕
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【0048】
被覆体24は、前端部がコイルエンド11Eへと押圧される例ばかりではなく、図5に示す例の如く、コイルエンド11Eへと押圧される押圧箇所Bが前端部24fよりも後方に位置していてもよい。前側拡張領域Fxは、上記実施形態の被覆体24に対して前側に拡張されている。
また、被覆体24は、後端部がブラケット30に保持される例ばかりではなく、図5に示す例の如く、ブラケット30の第1保持部32(図2)により保持される被保持個所Hが後端部24rよりも前方に位置していてもよい。後側拡張領域Rxは、上記実施形態の被覆体24に対して後側に拡張されている。なお、被覆体24がブラケット30により保持される箇所は、必ずしも図5にHで示す位置である必要はなく、被保持個所Hは後側拡張領域Rxに存在していてもよい。
前側拡張領域Fxおよび後側拡張領域Rxのいずれも、ブラケット30の回転動作の過程で、コイルエンド11Eには干渉しない。なお、後側拡張領域Rxは、中間領域Mに対してコイルエンド11Eから離れる側へと屈曲していてもよい。
【0049】
本発明の温度センサをステータ10のケース12等の固定対象に固定する手段は、図6(a)に示すように、ボルト35を用いる他に、図6(b)に示すように、雌ネジ部材としてのナット37を用いてもよいし、図6(c)に示すように、リベット38を用いてもよい。
ナット37は、ケース12のねじ孔に通された雄ネジ121に締め付けられる。ナット37に回転方向r1のトルクを加えると、ナット37とブラケット30との摩擦により、ナット37の回転に追従してブラケット30も回転軸心(A)を中心に回転し、被覆体24がコイルエンド11Eへと押圧される。
リベット38を用いる場合も、軸部381が挿入されるブラケット30のねじ孔31Aに回転軸心(A)が存在するので、締結前にはブラケット30を回転させて被覆体24をコイルエンド11Eに押圧することができる。被覆体24がコイルエンド11Eへと押圧されている状態で、リベット38に軸方向への荷重を加えて締結するとよい。
また、図示を省略するが、ブラケット30のねじ孔31Aおよびケース12の孔の内部空間に流動状態の樹脂材料あるいは溶融した金属材料等を供給し固化させることによってブラケット30をケース12に固定するようにしてもよい。この場合も、回転軸心Aを中心にブラケット30を回転させることで被覆体24がコイルエンド11Eへと押圧されている状態で、ブラケット30をケース12に固定する。
【0050】
上記実施形態のセンサ要素20は、第1保持部32の固定片321で被覆体24の第1部位24Aをかしめることでブラケット30に固定されているが、かしめ以外の適宜な方法によりセンサ要素20がブラケット30に固定されていてもよい。例えば、ボルトやリベットを用いることにより、第1部位24Aをブラケット30の第1保持部32に保持することが可能である。あるいは、被覆体24を成形する金型にブラケット30を配置するインサート成形の手法により、第1部位24Aをブラケット30の第1保持部32に固定することが可能である。
【0051】
リード線22は、必ずしも、被覆体24の後側で前方へ折り返されている必要はない。リード線22は、コイル11や他の部材との干渉を避けつつ、適宜な方向、適宜な経路にて取り回すことができる。コイルエンド11Eの径や、コイルエンド11Eへの温度センサ2の取り付け角度等によっては、被覆体24から引き出された一対のリード線22が、被覆体24の後側で、後方に一方向に延出していてもよい。
リード線22を保持する第2保持部33は、必要に応じて、ブラケット30における適宜な位置に設けることができる。例えば、第2保持部33が、第1保持部32よりも回転方向r1の前方に配置されていても良い。
【0052】
ボルト35(またはナット37)を締め付ける工具の締め付け力(トルク)の上限が設定されているものとする。そうした場合は、ブラケット30に係止部34が設けられていないとしても、締結完了時において、ボルト35(またはナット37)の軸力によりブラケット30を確実に固定するとともに、感熱素子21に過大な荷重を作用せずに、ブラケット30を第2姿勢P2に静止させることができる。
なお、ブラケット30の締結に用いられる雄ネジ部材としては、ボルトに限らず、雄ネジを有する他の部材、例えばビス等であってもよい。
【0053】
ブラケット30の固定部31が固定される対象は、ケース12には限られず、ステータ10の他の部材や、ステータ10の周囲に配置される部材であってもよい。
【0054】
第2部位24Bは、感熱体211を覆っている例を示したが、本発明はこれに限らない。つまり、コイル11に押し当てられ第2部位24Bの近くに感熱体211が設けられていれば、温度検出することができることに変わりはない。
【0055】
〔付記〕
以上の開示により、以下の構成が把握される。
〔1〕回転電機のステータに備えられるコイルの温度を検出するための温度センサであって、
感熱体と、前記感熱体に電気的に接続される電線と、前記電線の一部および前記感熱体を覆い、弾性を有する樹脂材料から形成される被覆体と、を含むセンサ要素と、
前記被覆体を片持ち状に保持し、回転軸心を有するブラケットと、を備え、
前記ブラケットは、所定の回転軸心を有し、
前記被覆体は、所定の回転方向への前記ブラケットの回転動作により前記コイルへと押圧可能に構成されている、温度センサ。
【0056】
〔2〕前記被覆体は、
前記回転軸心からの距離が相対的に短く、前記ブラケットにより保持される第1部位と、
前記回転軸心からの距離が相対的に長く、前記感熱体を覆う第2部位と、を有し、
前記第2部位は、
前記第1部位を通りかつ前記回転軸心を中心とする仮想円の外側にある、
〔1〕項に記載の温度センサ。
【0057】
〔3〕前記第2部位は、前記回転方向において前記第1部位よりも後方に位置している、
〔2〕項に記載の温度センサ。
【0058】
〔4〕前記被覆体が前記コイルへと押圧されているとき、
前記第2部位は、前記回転軸心と前記コイルとを最短距離で結ぶ線分に対して、前記回転方向の後方に位置し、
前記第1部位は、前記線分に対して、前記回転方向の前方に位置している、
〔3〕項に記載の温度センサ。
【0059】
〔5〕前記ブラケットは、ネジ部材と固定対象との締結により前記固定対象に固定され、
前記被覆体は、前記ネジ部材の前記固定対象への前記締結のための回転に伴う前記ブラケットの回転動作により前記コイルへと押圧可能に構成されている、
〔1〕から〔4〕のいずれか一項に記載の温度センサ。
【0060】
〔6〕前記ブラケットは、前記ステータのコアを前記ステータのケースに締結される前記ネジ部材により、前記コアと共に前記固定対象としての前記ケースに固定される、
〔5〕項に記載の温度センサ。
【0061】
〔7〕前記ブラケットは、過大な回転動作を規制するために被係止部に係止される係止部を含む、
〔1〕から〔6〕のいずれか一項に記載の温度センサ。
【0062】
〔8〕前記被覆体は、前記コイルの素線が延びている延出方向に沿って配置される、
〔1〕から〔7〕のいずれか一項に記載の温度センサ。
【0063】
〔9〕前記ブラケットは、
前記ネジ部材が貫通するねじ孔が形成された基部と、
前記基部に対して折り曲げられて前記被覆体を保持する保持部と、
前記基部に対して前記保持部とは逆向きに折り曲げられてなる前記係止部と、を備える、
〔1〕から〔8〕のいずれか一項に記載の温度センサ。
【0064】
〔10〕前記ブラケットは、
前記ネジ部材が貫通するねじ孔が形成された基部と、前記基部に対して折り曲げられて前記被覆体を保持する保持部と、前記基部に対して前記保持部とは逆向きに折り曲げられてなる前記係止部と、を備える、
〔1〕から〔9〕のいずれか一項に記載の温度センサ。
【0065】
〔11〕回転電機のステータに備えられるコイルの温度を検出するための温度センサであって、
感熱体と、前記感熱体に電気的に接続される電線と、前記電線の一部および前記感熱体を覆い、弾性材料から形成される被覆体と、を含むセンサ要素と、
前記被覆体を片持ち状に保持し、回転軸心を有するブラケットと、を備え、
前記被覆体は、
前記回転軸心からの距離が相対的に短く、前記ブラケットにより保持される第1部位と、
前記回転軸心からの距離が相対的に長く、前記感熱体を覆う第2部位と、を有し、
前記第2部位は、
前記第1部位を通りかつ前記回転軸心を中心とする仮想円の外側にある、
温度センサ。
〔12〕コアおよびコイルを含むステータと、
前記ステータに対して回転されるロータと、
前記コイルの温度を検出するための〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の温度センサと、を備える、回転電機。
【符号の説明】
【0066】
1 回転電機
2 温度センサ
10 ステータ
11 コイル
11E コイルエンド
12 ケース(固定対象、被係止部)
12A 表面
12B 側面
20 センサ要素
21 感熱素子
22 リード線
22A 第1区間
22B 第2区間
22C 第3区間
24 被覆体
24A 第1部位
24B 第2部位
24F 前端
25 チューブ
30 ブラケット
31 固定部(基部)
31A ねじ孔
32 第1保持部
33 第2保持部
34 係止部
35 ボルト(ネジ部材)
35A 頭部
36 座金
37 ナット(ネジ部材)
38 リベット
121 雄ネジ
211 感熱体
212 封止体
213 クラッド線
214 接続箇所
221 芯線
222 絶縁被覆
321 固定片
331 固定片
381 軸部
A 締結中心(回転軸心)
B 押圧箇所
C コイル素線
D1 軸方向
D2 周方向
D3 径方向
DC 延出方向
F 前
Fx 前側拡張領域
H 被保持個所
M 中間領域
R 後
Rx 後側拡張領域
Pr 押圧力
L 線分
L1,L2 距離
P1 第1姿勢
P2 第2姿勢
r1 回転方向
VC 仮想円
【要約】
振動等の外力によるコイルの規定位置からの温度センサの位置ずれを防止すること。
回転電機1のステータ10に備えられるコイル11の温度を検出するための温度センサ2は、感熱体211と、感熱体211に電気的に接続される電線(213,22)と、電線の一部および感熱体211を覆い、弾性材料から形成される被覆体24と、を含むセンサ要素20と、被覆体24を保持する第1保持部32と、を含むブラケット30と、を備える。ブラケット30は、所定の回転軸心(A)を有し、被覆体24は、所定の回転方向r1へのブラケット30の回転動作によりコイル11へと押圧可能に構成されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6