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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】分離方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20231227BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20231227BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/10
C22B7/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020022495
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127493
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 義弥
(72)【発明者】
【氏名】西 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】西出 勉
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-249494(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1428445(CN,A)
【文献】特開2018-162473(JP,A)
【文献】特開2008-88452(JP,A)
【文献】岡部 徹,白金族金属の現状とリサイクル技術,まてりあ,46巻、8号,日本,公益社団法人 日本金属学会,2007年08月01日,522-529
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の白金族金属および金を含む原料から、それぞれの上記白金族金属および上記金を分離する分離方法であって、
水酸化カリウムおよび酸化ホウ素の混合物を、アルミナ容器中で600℃以上1100℃以下の温度で加熱して溶融物を得る溶融工程と、
上記原料と、上記溶融物と、上記溶融物の4倍以上8倍以下の量の炭酸カリウムとの混合物を、上記アルミナ容器中で、60分間以上110分間以下の時間、600℃以上1100℃以下の温度で加熱して熱処理産物を得る熱処理工程と、
上記熱処理産物を、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液の順に、それぞれ2時間浸漬した後、上記熱処理産物が浸漬された後の水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液と、上記熱処理産物の残渣とを得る浸漬工程と、
上記熱処理産物が浸漬された後の水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液に溶解した上記白金族金属をそれぞれ抽出し、かつ、不溶性の上記残渣として金を回収する回収工程と、を含むことを特徴とする、分離方法。
【請求項2】
上記熱処理工程では、上記原料と上記溶融物と上記炭酸カリウムとの混合物を、空気攪拌を行わずに加熱することを特徴とする、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
上記熱処理工程では、上記原料と上記溶融物と上記炭酸カリウムとの混合物を、0.5L/minの流量による空気攪拌を行いながら加熱することを特徴とする、請求項1に記載の分離方法。
【請求項4】
上記熱処理工程では、上記原料と上記溶融物と上記炭酸カリウムとの混合物を60分間加熱することを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の分離方法。
【請求項5】
上記白金族金属は、Pd、PtおよびRhからなる群から選択される少なくとも2つであることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の分離方法。
【請求項6】
上記熱処理工程では、上記原料と、上記溶融物と、上記溶融物の6倍の量の炭酸カリウムとの混合物を、上記アルミナ容器中で、60分間以上110分間以下の時間、600℃以上1100℃以下の温度で加熱して熱処理産物を得ることを特徴とする、請求項1から5の何れか1項に記載の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の白金族金属および金を含む混在原料から、それぞれの白金族金属および金を分離する分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属は、優れた触媒性能を有することから、自動車排ガス浄化触媒および燃料自動車の触媒等、様々な用途に用いられている。このように、白金族金属は産業上不可欠な元素である一方で、その希少性から白金族金属の生産量はベースメタルと比べて非常に少ない。例えば、白金族金属の中でも比較的生産量が多いPtおよびPdについても、それぞれの生産量は200トン程度である。さらに、白金族金属の一次供給源は南アフリカおよびロシア等に限定されている。そのため、白金族金属を用いた新規材料の開発によって白金族金属の需要が増大すると、白金族金属の供給不足が発生することになる。すなわち、現在白金族金属の供給リスクは高い状態にあるといえる。
【0003】
このような資源の偏在性による供給リスクに対応するため、日本国内で発生する廃触媒等の廃製品から白金族金属を抽出回収することは非常に重要である。また、天然の鉱石の採掘・製錬は、大きな環境負荷を伴うものである。そのため、天然の鉱石よりも白金族金属濃度の高い廃製品から、効率的に白金族金属を抽出することができれば、環境負荷の低減にもつながる。ただし、白金族金属は化学的に極めて安定であるため、従来の乾式法では、廃製品から白金族金属を分離濃縮したのち、その濃縮物を高濃度の酸で溶解する必要がある。このため、白金族金属の抽出のためのエネルギー消費量が大きく、薬剤コストおよび廃液処理コストも高い。したがって、より効率的な白金族金属の回収方法を開発することが急務となっている。例えば特許文献1~4には、白金族金属の回収方法に関する従来技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-234551
【文献】特開2011-252217
【文献】特開2008-202063
【文献】特開2013-249494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下に、特許文献1~4に開示された従来技術およびその問題点について説明する。
【0006】
(1)王水による白金族金属の溶解
特許文献1には、王水を用いて白金族金属を溶解する方法が開示されている。しかし、王水中において発生する塩素ガスおよび塩化ニトロシル等は、腐食性および有毒性が高い。これらのガスによって周辺設備の腐食が進行するため、腐食箇所を補修するためのコストが生じる。また、使用済みの王水を処理するためには大量の中和剤を必要とし、また硝酸イオン濃度を排水基準以下にする必要もある。このため、排水処理の工程が複雑となり、排水処理コストも高い。
【0007】
したがって、有害な王水の使用を避けるため、以下のような王水フリーのプロセスが検討されている。
【0008】
(2)白金族金属と活性金属との反応による白金族金属の溶解性向上
特許文献2には、白金族金属と活性金属とを反応させることで合金化する技術が開示されている。得られた合金を塩化処理または酸化処理することにより、白金族金属の塩化物または酸化物と、塩化物との複合化合物が生成する。この複合化合物を塩水で処理することによって、白金族金属を抽出することができる。しかし、白金族金属と活性金属との合金化、合金の塩化・酸化処理といった工程を要するため、プロセスが複雑である。また、活性金属として用いられるMg、Ca、Zn、Fe、Na、K、PbおよびLi等は反応性が極めて高く、周辺設備の腐食を引き起こす。
【0009】
(3)白金族金属と塩素ガスとの反応による白金族金属の溶解性向上
特許文献3には、上記(2)の技術のプロセスを簡易化するために、溶融塩中において白金族金属と塩素ガスとを反応させ、白金族金属を水に易溶性の塩化物に変換する技術が開示されている。しかし、白金族金属を塩化物とするためには、白金族金属と大量の塩素ガス等の塩化剤とを反応させる必要がある。そのため、投入した塩化剤による反応炉および周辺設備の腐食が進行し、それを補修するためのコストが高い。
【0010】
(4)白金族金属とアルカリ金属炭酸塩との反応による白金族金属の溶解性向上
上述した(1)~(3)の問題点を解決するために、王水および塩素ガスといった腐食性の酸化剤を用いることなく、さらに反応性の高い活性金属も使用せずに、白金族金属を水溶性化合物へと変換する手法の開発が望まれている。このような技術を開発することによって、廃触媒およびスクラップ中の白金族金属を効率的に水等で回収すること可能となる。
【0011】
例えば、特許文献4には、炭酸リチウムと白金族金属とを加熱することによって、白金族金属の複合酸化物を生成し、当該複合酸化物を12M塩酸で溶解する手法が提案されている。このような方法では腐食性の酸化剤および活性金属等を使用する必要がない。しかし、依然として溶解に必要な酸濃度が高く、腐食性の高い塩化水素ガスが発生する。また、複数種類の白金族金属を同時に溶解するため、溶解液中の各種白金族金属をそれぞれ分離する必要がある。その分離プロセスは、溶解液に種類の異なる有機溶媒を接触させ、それぞれの有機溶媒に各白金族金属イオンを抽出する工程を含む。また、原料に金が含まれている場合、当該工程で白金族金属と金とを分離する必要がある。このような分離プロセスは、白金族金属の回収プロセス全体を複雑なものにしている。
【0012】
本発明の一態様は、簡便な方法で、複数種類の白金族金属および金を含む原料から、それぞれの白金族金属および金を分離することができる、白金族金属および金の分離方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る分離方法は、複数種類の白金族金属および金を含む原料から、それぞれの上記白金族金属および上記金を分離する分離方法であって、水酸化カリウムおよび酸化ホウ素の混合物を、アルミナ容器中で600℃以上1100℃以下の温度で加熱して溶融物を得る溶融工程と、上記原料と、上記溶融物と、上記溶融物の4倍以上8倍以下の量の炭酸カリウムとの混合物を、上記アルミナ容器中で、60分間以上110分間以下の時間、600℃以上1100℃以下の温度で加熱して熱処理産物を得る熱処理工程と、上記熱処理産物を、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液の順に、それぞれ2時間浸漬した後、上記熱処理産物が浸漬された後の水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液と、上記熱処理産物の残渣とを得る浸漬工程と、上記熱処理産物が浸漬された後の水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液に溶解した上記白金族金属をそれぞれ抽出し、かつ、不溶性の上記残渣として金を回収する回収工程と、を含む。
【0014】
本発明の一態様に係る分離方法は、上記熱処理工程では、上記原料と上記溶融物と上記炭酸カリウムとの混合物を、空気攪拌を行わずに加熱してよい。
【0015】
本発明の一態様に係る分離方法は、上記熱処理工程では、上記原料と上記溶融物と上記炭酸カリウムとの混合物を、0.5L/minの流量による空気攪拌を行いながら加熱してよい。
【0016】
本発明の一態様に係る分離方法は、上記熱処理工程では、上記原料と上記溶融物と上記炭酸カリウムとの混合物を60分間加熱してよい。
【0017】
本発明の一態様に係る分離方法は、上記白金族金属は、Pd、PtおよびRhからなる群から選択される少なくとも2つであってよい。
【0018】
本発明の一態様に係る分離方法は、上記熱処理工程では、上記原料と、上記溶融物と、上記溶融物の6倍の量の炭酸カリウムとの混合物を、上記アルミナ容器中で、60分間以上110分間以下の時間、600℃以上1100℃以下の温度で加熱して熱処理産物を得てよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、簡便な方法で、複数種類の白金族金属および金を含む原料から、それぞれの白金族金属および金を分離することができる、白金族金属および金の分離方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】比較例における、Pd溶解率を示すグラフである。
図2】本発明の一実施例における、Pd溶解率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0022】
本発明の一実施形態に係る分離方法は、複数種類の白金族金属および金(Au)を含む原料から、それぞれの上記白金族金属およびAuを分離する分離方法であって、溶融工程と、熱処理工程と、浸漬工程と、回収工程とを含む。
【0023】
本発明者らは鋭意検討の結果、白金族金属を水溶性の白金族化合物(白金族金属)に変換できる条件を見出した。さらに、白金族金属を白金族化合物に変換する条件を最適化することにより、複数種類の白金族金属を、水および塩酸水溶液等の異なる溶媒に対してそれぞれ溶解性が異なる白金族化合物に変換できることを見出した。これにより、水および塩酸水溶液等の異なる溶媒に、各白金族化合物をそれぞれ選択的に溶解できる。また本発明者らは、上述のような条件では、Auは水等の溶媒に溶解しないことを見出し、複数種類の白金族金属およびAuを選択的に分離できる方法の発明を完成した。
【0024】
このように、複数種類の白金族金属およびAuを選択的に分離することができれば、白金族金属およびAuの回収プロセスを簡便にすることができる。また、これらの白金族金属およびAuを分離して回収するために、王水および12M塩酸等の高濃度の酸を用いる必要がないため、設備等の腐食等が起こりにくい。したがって、白金族金属およびAuの回収にかかるコストおよびエネルギー消費量を効果的に低減できる。
【0025】
(1.溶融工程)
溶融工程は、水酸化カリウムおよび酸化ホウ素の混合物を、アルミナ容器中で600℃以上1100℃以下の温度で加熱して溶融物を得る工程である。溶融工程にて得られる溶融物には、白金族金属と配位結合を形成し得るアニオンの供給源が多く含まれている。
【0026】
混合物に含まれる酸化ホウ素の供給源としては、例えば、酸化ホウ素を含むガラス(例えば、廃ガラス)等が挙げられる。つまり、溶融工程は、水酸化カリウムおよびガラスを、アルミナ容器中で600℃以上1100℃以下の温度で加熱して溶融物を得る工程であってもよい。このような構成によれば、安価に調達できるガラスを有効活用することができる。混合物を加熱して得られた溶融物は、例えば溶融したKO-Bを含む媒体である。このような溶融物であれば、効率的に白金族金属を水溶性の白金族化合物に変換することができる。
【0027】
溶融工程において、混合物の加熱は、600~1100℃の温度にて行われるが、800~1100℃の温度にて行われることがより好ましい。また、加熱温度の上限値は、1000℃、900℃または800℃であってもよい。加熱温度は、上記混合物の組成に応じて適切な温度が適宜選択されてもよい。当該構成によれば、加熱に要するコストを低く抑えつつ、所望の溶融物を得ることができる。
【0028】
また、溶融工程では、混合物を保持および加熱するための容器として、両性元素を含むアルミナ坩堝のようなアルミナ容器を用いる。アルミナ容器からは、溶融物中にオキソアニオンであるAlO が溶け出す。このような溶融物中のオキソアニオンが、後述する熱処理工程で白金族金属の酸化生成物と反応することによって、酸化生成物の水溶性が向上しやすくなると考えられる。なお、アルミナ容器は、容器全体がアルミナによって形成されているものであってもよいし、容器の一部がアルミナによって形成されているものであってもよい。
【0029】
(2.熱処理工程)
熱処理工程は、複数種類の白金族金属および金を含む原料と、溶融工程で得られた溶融物と、溶融物の4倍以上8倍以下の量の炭酸カリウムとの混合物を、アルミナ容器中で、60分間以上110分間以下の時間、600℃以上1100℃以下の温度で加熱して熱処理産物を得る工程である。
【0030】
炭酸カリウムは、白金族金属を酸化するための酸化剤として機能する。また、溶融物に含まれる水酸化カリウムおよび酸化ホウ素の混合物は、白金族金属を酸化するための反応助剤として機能する。上記原料、炭酸カリウム、並びに、水酸化カリウムおよび酸化ホウ素を含む溶融物を混合して加熱することによって、複数種類の白金族金属が酸化され、白金族金属の酸化生成物である水溶性の白金族化合物が得られる。当該複数種類の水溶性の白金族化合物は、後述する浸漬工程および回収工程を経て、分離および回収される。
【0031】
原料に含まれる複数種類の白金族金属は、例えば、Pd、PtおよびRhからなる群から選択される少なくとも2つ(例えば、(i)PdおよびPt、(ii)PdおよびRh、(iii)PtおよびRh、または、(iv)Pd、PtおよびRh)であってよい。また、複数種類の白金族金属およびAuを含む原料として、例えば、廃自動車触媒および電子機器スクラップ等が挙げられる。
【0032】
熱処理工程で溶融物に加える炭酸カリウムの量は、溶融物の4~8倍の量とし、より好ましくは溶融物の5~7倍の量であり、最も好ましくは溶融物の6倍の量である。このような炭酸カリウムの量とすることにより、複数種類の白金族金属から変換された各白金族化合物を、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液の何れかの溶媒に対して、選択性高く溶解させることができる。その結果、複数種類の白金族金属を分離することができる。
【0033】
また熱処理工程で、原料と溶融物と炭酸カリウムとの混合物が保持および加熱される際の容器として、溶融工程と同様に、両性元素を含むアルミナ坩堝のようなアルミナ容器を用いる。アルミナ容器からは、AlO 、AlO 5-、AlO 7-、AlO 9-等のオキソアニオンが上記混合物中に溶け出す。このような混合物中のオキソアニオンが、白金族金属の酸化生成物と反応することによって、酸化生成物の水溶性が向上しやすくなると考えられる。
【0034】
熱処理工程における、上記混合物を加熱する時間は、60分間~110分間の時間とする。このような加熱時間であれば、各種白金族金属を水溶性の白金族化合物に効果的に変換できる。加熱コストの観点から、加熱の時間は、上記の時間の範囲内でより短いことが好ましいため、例えば、60分間~90分間であることがより好ましく、60分間であることが最も好ましい。
【0035】
また、加熱の時間は、上記混合物の組成に応じて適切な時間が適宜選択されてもよい。また、上記混合物の加熱は、白金族金属の酸化を促進するために、酸素を含む雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、大気雰囲気下で行うことが好ましい。また、上記混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧は、適宜調整されてよい。これにより、白金族金属の、水等の各溶媒への溶解性を細かく調整することができる。例えば、上記混合物の塩基度、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧を変化させることによって、白金族金属の、水等の各溶媒への溶解性を細かく調整することができる。
【0036】
具体的に、上記混合物の塩基度、および/または、当該混合物を加熱する雰囲気中の酸素分圧を変化させることによって、複数種類の白金族金属から変換された各白金族化合物が、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液に、それぞれ別々に溶解するようにしてもよい。
【0037】
また、上記混合物は、0.5L/minの流量の空気(例えば、酸素を含む気体、または、略20体積%の酸素を含む気体)による攪拌を行いながら加熱することが好ましい。具体的には、空気を供給する配管を上記混合物内に浸漬させ、当該配管から上記混合物中に空気を0.5L/minの流量により供給し、当該混合物をバブリング攪拌しながら加熱することが好ましい。当該構成であれば、より細かく、白金族金属の、水等の各溶媒への溶解性を調整することができる。なお、上記混合物は、上記空気攪拌を行わずに加熱してもよい。当該構成であれば、低コストにて、白金族金属の、水等の各溶媒への溶解性を調整することができる。
【0038】
上記混合物の加熱は600~1100℃の温度にて行われるが、800~1100℃の温度にて行われることがより好ましい。当該構成によれば、加熱に要するコストを低くすることができる。また本発明によれば、マイルドな条件下において白金族金属を水溶性の白金族化合物に変換することができる。それ故に、加熱温度の上限値は、1000℃、900℃、または、800℃であってもよい。加熱温度は、上記混合物の組成に応じて適切な温度が適宜選択されてもよい。
【0039】
(3.浸漬工程)
浸漬工程は、熱処理工程で得られた熱処理産物を、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液の順に、それぞれ2時間浸漬した後、熱処理産物が浸漬された後の水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液と、熱処理産物の残渣とを得る工程である。当該工程により、熱処理産物中に含まれる各白金族化合物を、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液の何れかの溶媒に、選択性高く溶解することができる。これにより、複数種類の白金族化合物を容易に分離できる。また、このような浸漬工程を複数回繰り返せば、熱処理産物の残渣からの白金族金属の溶出が進行し、当該残渣中のAuの純度が効果的に向上する。したがって、このような浸漬工程を複数回行うことにより、白金族金属の回収率が向上し、さらに上記残渣中のAuの純度の向上が図れる。例えば、1回目の浸漬工程で得られた熱処理産物の残渣Aを、再度、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液の順に、それぞれ2時間浸漬した後、熱処理産物が浸漬された後の水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液と、熱処理産物の残渣Bとを得てもよい。更に、当該残渣Bに対して、同様の処理を行ってもよい。このように、浸漬工程を、所望の回数、繰り返し行ってもよい。
【0040】
具体的には、熱処理工程で得られた熱処理産物は、まず水に2時間浸漬される。次いで、水に溶解せずに残った固体の残渣を、0.01M塩酸水溶液に2時間浸漬する。次いで、0.01M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣を、0.1M塩酸水溶液に2時間浸漬する。最後に、0.1M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣を、1M塩酸水溶液に2時間浸漬する。これにより、溶媒の各々に、特定の白金族化合物が選択的に溶解する。なお、原料に含まれるAuは、いずれの溶媒にもほとんど溶解しない。そのためAuは1M塩酸水溶液に溶解せずに残った熱処理産物の残渣に主に含まれる。
【0041】
ここで、浸漬工程で用いられる水は、イオン交換水、蒸留水および純水等であってもよく、水道水等のように微量の不純物(塩素等)が含まれる水であってもよい。具体的には、当該水は、例えば、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、最も好ましくは98重量%以上の純水が含まれる溶媒であってよい。また、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液は、このような、純水に塩酸が含まれている水溶液であってよい。
【0042】
浸漬工程で用いられる水には、任意のpHに調整するためのpH調整剤が添加されていてもよい。このとき、当該水のpHは特に限定されるものではない。当該水のpHは、6~8であってもよく、6~7であってもよく、7~8であってもよい。このような水を浸漬工程に用いれば、効率良く白金族金属を抽出できるのみならず、自然に対して悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0043】
熱処理産物は、水等の各溶媒にそれぞれ2時間浸漬される。このとき、熱処理産物の浸漬しながら、各溶媒を撹拌棒などによって攪拌してもよい。撹拌棒による撹拌速度は特に限定されないが、例えば、1000~10000rpmで撹拌することが好ましく、5000~10000rpmで撹拌することがより好ましく、7000rpmで攪拌することが最も好ましい。このような撹拌速度であれば、熱処理産物からそれぞれの溶媒に、各白金族化合物が好適に溶解する。
【0044】
このように、異なる溶媒を用いて白金族化合物の溶出操作を行うことで、各溶媒に、特定の種類の白金族化合物を溶解できる。例えば、水に白金族化合物Aを選択性高く溶解後、0.01M塩酸水溶液に白金族化合物Bを選択性高く溶解し、0.1M塩酸水溶液に白金族化合物Cを選択性高く溶解し、1M塩酸水溶液に白金族化合物Dを選択性高く溶解できる。または、水に白金族化合物AおよびBを選択性高く溶解し、0.01M塩酸、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに白金族化合物Cを選択性高く溶解できる。本願発明では、複数種類の白金族化合物を1つの溶媒に溶解させてもよく、複数種類の溶媒に1つの白金族化合物を溶解させてもよい。
【0045】
熱処理工程での混合物に含まれる溶融物(特に、酸化ホウ素)の量を増減する等、熱処理工程で混合物の組成を調整することにより、浸漬工程での、各白金族化合物の各溶媒への溶解性を調整することができる。例えば、水に好適に白金族化合物Aが溶解するように、混合物に含まれる溶融物(特に、酸化ホウ素)の量を調整してもよい。また、水に白金族化合物Aが溶解する場合よりも、混合物に含まれる溶融物(特に、酸化ホウ素)の量を少なくすることによって、0.01M塩酸水溶液により好適に白金族化合物Aが溶解するように調整することができる。
【0046】
(4.回収工程)
回収工程は、浸漬工程で得られた、熱処理産物が浸漬された後の水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液に溶解した白金族化合物をそれぞれ抽出し、かつ、不溶性の熱処理産物の残渣としてAuを回収する工程である。回収工程は、浸漬工程で得られた、熱処理産物が浸漬された後の、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液の各々を回収し、かつ、不溶性の熱処理産物の残渣としてAuを回収する工程であってもよい。
【0047】
このような回収工程によれば、有害な王水または高濃度の塩酸等の酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、廃触媒、半導体基板、電子部品およびスクラップ中に存在する複数種類の白金族金属およびAuを、それぞれ選択的に抽出(または回収)できる。また、後述する実施例に示すように、Auは、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液に対する溶解性が低い。それ故に、Auを、不溶性の熱処理産物の残渣として回収できる。
【0048】
水等の各溶媒からの、白金族化合物の抽出は、例えば有機溶媒を用いて行われ得る。有機溶媒としては、例えば、Dialkyl Sulfide、Hydroxyoxime、8-Quinolinol、Tertiary amine、またはTrialkylphosphateを用いることができる。有機溶媒としてHydroxyoximeを用いれば、白金族金属の中でも、特にPdを好適に抽出することができる。また、有機溶媒としてTertiary amineを用いれば、白金族金属の中でも、特にPtを好適に抽出することができる。有機溶媒としてN-n-ヘキシル-ビスアミン(HBMOEAA)を用いれば、白金族金属の中でも、特にRhを好適に抽出することができる。すなわち、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、1M塩酸水溶液にそれぞれ溶解した白金族化合物を抽出するのに、それぞれ好適な有機溶媒を用いることが好ましい。
【0049】
また、1M塩酸水溶液への浸漬後に固体として残った、不溶性の熱処理産物の残渣には、Auが含まれている。したがって、当該残渣から、白金族金属と分離されたAuを容易に回収できる。
【実施例
【0050】
<1.試料および方法>
(1-1.反応媒体)
O-B媒体は、市販の化合物標準試薬を用いて、以下の通り作製した。まず、ホウ酸5gおよび水酸化カリウム2.1gを容量30mLのアルミナ坩堝(以下、「30mL坩堝」と称する)に投入し、当該30mL坩堝を電気炉内に設置した。その後、30分かけて電気炉内の温度を1000℃まで昇温し、当該温度を保った状態で30mL坩堝を1時間加熱した。その後、30mL坩堝内に生成した溶融物を冷却した。得られた固化物をKO-B媒体とした。
【0051】
このような、酸化ホウ素を主成分とする反応媒体は、平面三角形のBO構造を基本単位とし、当該BO構造が網目状に結合した構造であるネットワーク構造を有している。このような反応媒体中にKOが含まれると、四面体構造を有するBOが生成する。ネットワーク構造中におけるBOは、全体として負の電荷を持つことが知られている。
【0052】
(1-2.白金族金属の、水溶性の白金族化合物への変換)
上記(1-1)で作成したKO-B媒体、Au粉末、金属Pd粉末、金属Pt粉末、金属Rh粉末、炭酸カリウムを混合して混合物を得た。当該混合物を30mL坩堝に加え、容量100mLのアルミナ坩堝(以下、「100mL坩堝」と称する)内に設置した。この状態で100mL坩堝に蓋をして、当該100mL坩堝を電気炉内において加熱した。加熱条件を下記表1に示す。
【0053】
上記加熱により得られる溶融物中では、炭酸カリウムとの反応によって各種白金族金属が酸化され、各種白金族金属の酸化生成物が生成する。そして、当該酸化生成物は、KO-B媒体中に溶解する。このような溶融物を冷却して得られたものを、熱処理産物と定義する。
【0054】
【表1】
【0055】
(1-3.熱処理産物の評価)
熱処理産物に含まれる各種白金族化合物およびAuの溶解性を評価するため、以下の試験を行った。熱処理産物を坩堝ごと容量200mLのビーカー内に設置し、ビーカーに150mLのイオン交換水を加えた。ビーカー内の液中に撹拌棒を浸漬させ、撹拌速度7000rpmで2時間撹拌した(溶解処理)。その後、ビーカー内の液(溶解液)を1μmペーパーろ紙で吸引濾過した後、溶解液中の各種白金族化合物およびAuの濃度を、ICP発光分析装置で測定した。次に、溶解せずに残留した固体(残渣)をビーカー内に設置し、ビーカーに0.01M塩酸水溶液を加えた。上記と同様の方法で溶解処理、攪拌およびろ過を行った後、溶解液中の各種白金族化合物およびAuの濃度をICP発光分析装置で測定した。次に、溶解せずに残留した固体(残渣)をビーカー内に設置し、ビーカーに0.1M塩酸水溶液を加えた。上記と同様の方法で溶解処理、攪拌およびろ過を行った後、溶解液中の各種白金族化合物およびAuの濃度をICP発光分析装置で測定した。最後に、溶解せずに残留した固体(残渣)をビーカー内に設置し、ビーカーに1M塩酸水溶液を加えた。上記と同様の方法で溶解処理、攪拌およびろ過を行った後、溶解液中の各種白金族化合物およびAuの濃度をICP発光分析装置で測定した。
【0056】
(1-4.実施例および比較例)
表1に示すように、比較例1および2では投入する炭酸カリウムの量を3.9gまたは9gとした。これらは、各種白金族化合物の選択的分離に適さない条件である。一方、実施例では炭酸カリウムの量を6gとし、各種白金族化合物の選択的分離に適した条件とした。
【0057】
このうち、実施例1では溶融物の加熱中に空気撹拌を行わなかったのに対し、実施例2では溶融物の加熱中に空気を注入してバブリングすることによる空気撹拌を行った。具体的には、溶融物中にアルミナ管を浸漬させ、エアポンプを用いて流量0.5L/minの流量でアルミナ管から溶融物中に空気を供給した。バブリングは、加熱温度が1000℃に到達してから5分後に開始し、バブリングの時間は55分とした。これによって、白金族金属の酸化反応が進行するとともに、溶融物中における白金族金属とアニオンとの錯形成も促進されたと考えられる。
【0058】
<2.結果>
(2-1.炭酸カリウム投入量による溶解率の違い)
図1に、比較例1および2における、熱処理産物から各種溶解液への、各種白金族金属およびAuの溶解率を示す。
【0059】
比較例1では、熱処理工程における炭酸カリウム量を3.9gとした。その結果、熱処理産物中のPdおよびPtについては、イオン交換水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液および1M塩酸水溶液のいずれにも溶解した。一方、Rhについてはイオン交換水への溶解率は非常に低く、0.4%であった。このように、Rhは、イオン交換水にはほとんど溶解せず、塩酸水溶液中には溶解できる、選択的な溶解性を示した。しかし、PdおよびPtは、水のみならず塩酸水溶液中にも溶解し、選択的な溶解性を示さなかった。
【0060】
比較例2では、炭酸カリウムの投入量を9gとした。その結果、Pdについては、炭酸カリウムの投入量を3.9gとしたときと比較して、イオン交換水に対する溶解率が増加した。一方、PtおよびRhについては、炭酸カリウムの投入量を3.9gとしたときと比較して、各溶媒に対する溶解率の合計値(換言すれば、PtおよびRhの回収率)が低下した。なお、比較例1および2のいずれの条件でも、Auはほとんど溶解しなかった。
【0061】
図2に、実施例1および2における、熱処理産物から各種溶解液への、各種白金族金属およびAuの溶解率を示す。実施例1では、熱処理工程における炭酸カリウムの投入量を6gとした。その結果、イオン交換水に対するPdおよびPtの溶解率が増加した。また、実施例1では、Pd、PtおよびRhについて、炭酸カリウムの投入量を3.9gとした比較例1と比較して、各溶媒に対する溶解率の合計値(換言すれば、Pd、PtおよびRhの回収率)は略同じであった。なお、実施例1の条件では、Auは、水および塩酸水溶液中にほとんど溶解しなかった。
【0062】
(2-2.空気攪拌の効果)
図2に、実施例1および実施例2について、熱処理産物から各種溶解液への、各種白金族金属およびAuの溶解率を示す。実施例1では、イオン交換水に対するPdおよびPtの溶解率が、それぞれ略50%および略34%であった。これに対し、実施例2ではイオン交換水に対するPdおよびPtの溶解率が、いずれも略60%にまで向上した。また、実施例1では、0.01M塩酸水溶液に対するRhの溶解率が略37%であったのに対し、実施例2では当該溶解率が略70%にまで増加した。
【0063】
以上の結果から、溶融物の加熱中に空気攪拌を行うことで、各種白金族化合物の各種溶解液への溶解率が向上することが示された。また、実施例および比較例のいずれの条件でも、Auは、水および塩酸水溶液にほとんど溶解しなかった。そのため、1M塩酸水溶液による溶解処理後の不溶性の残渣には、投入したAuの多くが含まれていると考えられる。したがって、溶解液中に溶解する各種白金族化合物と、残渣に含まれるAuとは容易に分離して回収できることが示された。
【0064】
本発明は上述した各実施形態および各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、白金族金属および金を含む原料(例えば、廃触媒等)からの白金族金属および金の回収に利用することができる。
図1
図2