(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ドリル破損の予兆検出方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20231227BHJP
B23B 49/00 20060101ALI20231227BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
B23B49/00 C
B23B51/00 J
(21)【出願番号】P 2019208815
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-10-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月28日 パンフレットを配布し、パンフレットの内容の説明を行った。
(73)【特許権者】
【識別番号】591098112
【氏名又は名称】イビデンエンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391016842
【氏名又は名称】岐阜県
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【氏名又は名称】田下 明人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 圭三
(72)【発明者】
【氏名】小川 公輔
(72)【発明者】
【氏名】横山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊郎
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-326438(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225524(WO,A1)
【文献】特開平06-170697(JP,A)
【文献】特開2006-082154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
B23B 49/00
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル穿孔する際にドリルの破損の予兆を検出するドリル破損の予兆検出方法であって、
ドリルを駆動する主軸モータの電
流を検出し、
ドリルを加工品側へ送るZ軸モータの電
流を検出し、
前記主軸モータの電
流が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化した際にドリルの破損の予兆検出を出力し、
前記Z軸モータの電
流が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化した際にドリルの破損の予兆検出を出力する
とともに、
前記主軸モータの電流を検出し、ドリルでの1孔加工時間の所定時間内で、時間窓をずらして実効値の平均値を計算し、計算した複数の実効値の平均値
のうちの最小値を、電流が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化したかの判断に用いることを特徴とするドリル破損の予兆検出方法。
【請求項2】
請求項1のドリル破損の予兆検出方法であって、
前記Z軸モータの電流を検出し、ドリルでの1孔加工時間の所定時間内で、時間窓をずらして実効値の平均値を計算し、計算した複数の実効値の平均値
のうちの最小値を、電流が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化したかの判断に用いることを特徴とするドリル破損の予兆検出方法。
【請求項3】
請求項1
または2のドリル破損の予兆検出方法であって、
前記電流が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化したかの判断は、所定閾値以上前回の予兆の検出されなかったドリルでの実効値の平均値の最小値よりも大きくなったかにより行うことを特徴とするドリル破損の予兆検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機でドリル穿孔する際にドリルの破損の予兆を検出するドリル破損の予兆検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に硬質なタングステンカーバイド製の加工物に先端がダイヤモンドコーティングされたタングステンカーバイド製のドリルで孔開け加工する際に、ドリルの平均寿命よりも安全をみて、一定の孔数を開けるとドリルを交換していた。タングステンカーバイド製のドリルは高価であるため、寿命一杯まで使いたいとの要求がある。
【0003】
特許文献1では、ドリルを駆動するモータ電流の変化量から、変化量の時系列的な分散値を求め、分散値が所定の判断条件に該当する際に、ドリルの折損予兆が発生したとする寿命予測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ドリルを駆動するモータのみの電流の変化量から、ドリルの折損予兆を行っているため、全てのドリルの折損の予兆を検出することは難しいと考えられる。即ち、駆動するモータの電流の変化が無い状態で、ドリルが破損することがあると推測される。
【0006】
本発明の目的は、ドリルの破損の予兆を確実に検出できるドリル破損の予兆検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るドリル穿孔する際にドリルの破損の予兆を検出するドリル破損の予兆検出方法は、ドリルを駆動する主軸モータの電流又は電力を検出し、ドリルを加工品側へ送るZ軸モータの電流又は電力を検出し、前記主軸モータの電流又は電力が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化した際にドリルの破損の予兆検出を出力し、前記Z軸モータの電流又は電力が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化した際にドリルの破損の予兆検出を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドリル破損の予兆検出方法は、主軸モータの電流又は電力が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化した際にドリルの破損の予兆検出を出力し、更に、Z軸モータの電流又は電力が予兆の検出されなかったドリルでの値より所定閾値以上変化した際にドリルの破損の予兆検出を出力する。このため、主軸モータの電流又は電力が変化しないモードのドリル破損の予兆を、Z軸モータの電流又は電力の変化で検出することができるため、ドリルの破損の予兆を確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るドリル破損の予兆検出方法のシステムの説明図
【
図2】実施形態のドリル破損の予兆検出方法のフローチャート
【
図4】電流センサ出力の実効値(以下、電流実効値と記載)の算出の説明図
【
図5】
図5(A)は第1回目試験時のZ軸側電流センサ出力の実効値の波形図であり、
図5(B)は第2回目試験時のZ軸側電流実効値の波形図である。
【
図7】
図7(A)は第3回目試験時のNo.2ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(B)は第3回目試験時のNo.4ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(C)は第3回目試験時のNo.5ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(D)は第3回目試験時のNo.6ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(E)は第3回目試験時のNo.7ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(F)は第3回目試験時のNo.8ドリルのZ軸側電流実効値の波形図である。
【
図9】
図9(A)は第5回目試験時のNo.1ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図9(B)は第5回目試験時のNo.10ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図9(C)は第5回目試験時のNo.11ドリルのZ軸側電流実効値の波形図である。
【
図10】
図10(A)は第1回目試験時のスピンドル軸側電流実効値の波形図であり、
図10(B)は第2回目試験時のスピンドル軸側電流実効値の波形図である。
【
図11】
図11(A)は第3回目試験時のスピンドル軸側電流実効値の波形図であり、
図11(B)はNo.5ドリルのスピンドル軸側電流実効値の波形図である。
【
図12】第5回目試験時のスピンドル軸側電流実効値の波形図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて実施形態に係るドリル破損の予兆検出方法が説明される。
図1は、実施形態に係るドリル破損の予兆検出方法のシステムの説明図である。
加工機10は、3相交流により駆動されるスピンドルモータ(主軸モータ)30と、コラム12上に設けられたZ軸モータ40により上下方向に移動可能であって、コラム12の前面に取り付けられた主軸ユニット20と、主軸ユニット20へ回転自在に保持されスピンドルモータ30により回転駆動される主軸18と、この主軸18の先端に装着されたドリルTとを備える。加工機10には、更に、ドリルを交換するドリル交換器50が取り付けられている。ドリルTは、X-Y軸上に移動する移動テーブル14に一対のクランプ16で固定された加工物Wに対して孔開け加工するものである。
【0011】
スピンドルモータ30を駆動する3相交流電源34には電流センサ32が取り付けられている。Z軸モータ40を駆動する3相交流電源44には電流センサ42が取り付けられている。電流センサ32、電流センサ42はドリル破損の予兆検出装置100に接続されている。ドリル破損の予兆検出装置100はコンピュータ、マイコンボード等の演算装置から構成される。ドリル破損の予兆検出装置100には、実施形態のドリル破損の予兆検出方法を実行するプログラムが保持されている。ドリル破損の予兆検出装置がマイコンボードから成る場合、ドリル破損の予兆検出装置を加工機10側のシーケンサー等の制御装置に取り付けることもできる。電流センサ32でスピンドルモータ30の負荷電流を測定し、ドリル破損の予兆検出装置100側へ出力し、電流センサ42でZ軸モータ40の負荷電流を測定し、ドリル破損の予兆検出装置100側へ出力し、ドリル破損の予兆検出装置100で、スピンドルモータ30の負荷電流、Z軸モータ40の負荷電流に基づきドリル破損の予兆検出を行う。ここでは、検出の容易な負荷電流を用いるが、負荷電力を検出することで、検出精度を高めることもできる。
【0012】
加工物Wは、タングステンカーバイド製のDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)製造用の押出金型である。ドリルTは先端がダイヤモンドコーティングされたタングステンカーバイド製の直径1.2mmのドリルである。押出金型は、
図1に示す加工機10で、一方の面にセラミック材料が圧送されるマトリクス状の非貫通孔が先ず形成される。そして、次の工程で、マトリクス状の非貫通孔の反対面に、ハニカム状の開口を有するセラミックス材を押し出すための上記非貫通孔と連通するハニカム整形スリットが形成される。
【0013】
実施形態のドリル破損の予兆検出方法の検出原理について説明がなされる。
ドリルが折れるモードには、Z軸方向への加工中に負荷により破損するZ軸モードと、ドリル回転方向への負荷により破損するスピンドル軸モードとがあることが後述される試験により推測される。Z軸モードは、先端がダイヤモンドコーティングされたタングステンカーバイド製のドリルで、ダイヤモンドコーティングが薄くなって切削力が低下し、切削力が押し込み力(Z軸の送り力)を下回ることで発生しているのでは無いかと考えられる。スピンドル軸モードは、ドリル全体が摩耗若しくは金属疲労し、ドリル回転中にねじ込むさいにねじ切れていると考えられる。そして、Z軸モードの破損は、Z軸モータ40の負荷電流、負荷電力の増加で予兆を検出できることが分かった。また、スピンドル軸モードの破損は、スピンドルモータ30の負荷電流、負荷電力の増加で予兆を検出できることが分かった。この二つを併用することで、Z軸モードとスピンドル軸モードとの破損予兆を検出できることが分かった。
【0014】
図4は、実施形態のドリル破損の予兆検出方法のノイズ影響を除去する処理の説明用の波形図である。
図4(A)は、Z軸モータの電流センサ出力の計測値であり、
図4(B)は電流の実効値である。Z軸モータの電流には、ほぼ5秒周期でノイズが重畳している。ここで、ドリルTで上述したタングステンカーバイド製の加工物Wに非貫通孔を1つ形成する際に38秒かかる。Z軸の電流実効値は、1孔加工時間(38秒)の4秒から12秒の間、破損前の加工で値が大きくなる傾向がある。スピンドル軸電流実効値は、1孔加工時間(38秒)の22秒から30秒の間、破損前の加工で値が大きくなる傾向がある。Z軸の電流実効値は、
図3(C)に示されるように1孔加工時間(38秒)の所定時間(4秒から12秒の間)、3秒の時間窓をずらして実効値の平均値を計算し、計算した複数の実効値の平均値から最小値を電流が大きく変化したかの判断に用いる。スピンドル軸電流実効値は、1孔加工時間(38秒)の所定時間(22秒から30秒の間)、3秒の時間窓をずらして実効値の平均値を計算し、計算した複数の実効値の平均値から最小値を電流が大きく変化したかの判断に用いる。時間窓のずらしかたとして、例えば、4秒から12秒のうち、4秒-7秒、5秒-8秒、6秒-9秒と3秒間を1秒ずつずらしていくことができる。
【0015】
実施形態のドリル破損の予兆検出方法では、モータの電流を検出し、ドリルでの1孔加工時間の所定時間内で、時間窓をずらして実効値の平均値を計算し、計算した複数の実効値の平均値から最小値を電流が大きく変化したかの判断に用いる。このため、ノイズの影響を排除し、正確にドリル破損の予兆を検出することができる。
【0016】
図2は、実施形態のドリル破損の予兆検出方法のフローチャートである。
ドリル破損の予兆検出装置100は、Z軸電流を取得し(S12)、1孔加工時間(38秒)の所定時間(4秒から12秒の間)、3秒の時間窓をずらして実効値の平均値を計算し(S14)、計算した複数の実効値の平均値から最小値を採用する(S16)。ドリル破損の予兆検出装置100は、所定閾値以上前回の予兆の検出されなかったドリルでの実効値の平均値の最小値よりも大きくなったかにより値が大きく変化したか判断する。閾値としては、予兆の検出されなかったドリルでの実効値の平均値の最小値の1.2~2倍の値を採用することができる。値の変化が小さい場合(S18:No)処理はステップ22に進む。他方、Z軸電流の値の変化が大きい場合(S18:Yes)、予兆検知通知が行われる(S30)。ここでは、ドリル破損の予兆検出装置100がドリル交換器50に対してドリルの交換を指示する。
【0017】
ステップ22で、ドリル破損の予兆検出装置100は、スピンドル軸電流を取得し、1孔加工時間(38秒)の所定時間(22秒から30秒の間)、3秒の時間窓をずらして実効値の平均値を計算し(S24)、計算した複数の実効値の平均値から最小値を採用する(S26)。ドリル破損の予兆検出装置100は、所定閾値以上前回の予兆の検出されなかったドリルでの実効値の平均値の最小値よりも大きくなったかにより値が大きく変化したか判断する。閾値としては、予兆の検出されなかったドリルでの実効値の平均値の最小値の1.2~2倍の値を採用することができる。値の変化が小さい場合(S28:No)処理はステップ32に進み、加工終了まで処理が継続される。他方、スピンドル軸電流の値の変化が大きい場合(S28:Yes)、予兆検知通知が行われる(S30)。ここでは、ドリル破損の予兆検出装置100がドリル交換器50に対してドリルの交換を指示する。
【0018】
Z軸モード破損とスピンドル軸モード破損との試験結果について、
図3の図表、
図5-
図12の波形図が参照され、説明がなされる。
図3の図表は、試験したドリルの累計孔数を示している。
ドリルは、No.1~No.11の11本が試験された。事前に121孔を形成したドリルについて、更に、第1回、第2回、第3回、第4回、第5回の試験を行った。ここで、アンダーラインが折れた孔数を示す。No.1ドリルは、第5回試験で43孔形成した際に破損し、累計孔数は1340であった。No.2ドリルは、第3回試験で54孔形成した際に破損し、累計孔数は1057であった。No.3ドリルは、第2回試験で3孔形成した際に破損し、累計孔数は712であった。No.4ドリルは、第3回試験で220孔形成した際に破損し、累計孔数は1223であった。No.5ドリルは、第3回試験で80孔形成した際に破損し、累計孔数は1083であった。No.6ドリルは、第3回試験で92孔形成した際に破損し、累計孔数は1057であった。No.7ドリルは、第3回試験で194孔形成した際に破損し、累計孔数は1159であった。No.8ドリルは、第3回試験で190孔形成した際に破損し、累計孔数は1155であった。No.9ドリル、No.10ドリル、No.11ドリルは、No.1ドリル以外が全て折れた第3回試験以降に新たに試験に加えられたものである。No.9ドリルは、第5回試験で296孔形成した際に破損し、累計孔数は1261であった。No.10ドリルは、第5回試験で1302孔形成したが、破損しなかった。No.11ドリルは、第5回試験で577孔形成した際に破損し、累計孔数は698であった。
【0019】
図5(A)は、第1回試験の際のZ軸側(Z軸モータ40)を測定した電流実効値を示す。横軸は孔数を示し、縦軸は電流実効値を示す。
図3中に示されるようにNo.1ドリルから588孔又は550孔を形成しながら、ドリルを交換してNo.8ドリルまで試験が行われた。1孔加工時間(38秒)の所定時間(4秒から12秒の間)、3秒の時間窓をずらして実効値の平均値が計算された。
【0020】
図5(B)は、第2回試験の際のZ軸側(Z軸モータ40)を測定した電流実効値を示す。No.2ドリルが3孔形成した時点で破損した。
【0021】
図6は、第3回試験の際のZ軸側(Z軸モータ40)を測定した電流実効値を示す。
No.3ドリルが54孔形成した時点で破損し、No.4ドリルが220孔形成した時点で破損し、No.5ドリルが80孔形成した時点で破損し、No.6ドリルが92孔形成した時点で破損し、No.7ドリルが194孔形成した時点で破損し、No.8ドリルが190孔形成した時点で破損した。
【0022】
図8は、第5回試験の際のZ軸側(Z軸モータ40)を測定した電流実効値を示す。
No.1ドリルが43孔形成した時点で破損し、No.9ドリルが296孔形成した時点で破損し、No.11ドリルが577孔形成した時点で破損した。
【0023】
図7は、
図6中の第3回試験の際のZ軸側を測定した電流実効値を部分拡大して示す図である。
図7(A)はNo.2ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(B)はNo.4ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(C)はNo.5ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(D)はNo.6ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(E)はNo.7ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図7(F)はNo.8ドリルのZ軸側電流実効値の波形図である。
【0024】
図9は、
図8中の第5回試験の際のZ軸側を測定した電流実効値を部分拡大して示す図である。
図9(A)はNo.1ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図9(B)はNo.10ドリルのZ軸側電流実効値の波形図であり、
図9(C)はNo.11ドリルのZ軸側電流実効値の波形図である。
【0025】
図7(C)に示されるNo.5ドリルを除き、No.1ドリル、No.2ドリル、No.4ドリル、No.6ドリル、No.7ドリル、No.8ドリル、No.9ドリル、No.11ドリルでは、破損の直前にZ軸側電流実効値が大きくなっている。これが上述されたZ軸方向への加工中に負荷により破損するZ軸モードの破損である。一方、Z軸側電流実効値が大きくならず破損しているNo.5ドリルは、上述されたドリル回転方向への負荷により破損するスピンドル軸モード破損であると考えられる。
【0026】
図10(A)は、
図5(A)に示された第1回試験の際のZ軸側(Z軸モータ40)の測定と同時に測定された、スピンドルモータ(主軸モータ)30の電流実効値を示す波形図で、
図10(B)は、
図5(B)に示された第2回試験の際のスピンドルモータ(主軸モータ)30の電流実効値を示す波形図であり、
図11(A)は、
図6に示された第3回試験の際のスピンドルモータ(主軸モータ)30の電流実効値を示す波形図であり、
図12は、
図8に示された第5回試験の際のスピンドルモータ(主軸モータ)30の電流実効値を示す波形図である。
【0027】
図11(B)は、
図11(A)中の第3回試験の際のスピンドル軸側を測定した電流実効値を部分拡大して示す図であり、No.5ドリルのスピンドル軸側電流実効値の波形図である。
図7(C)を参照して上述されたように、Z軸側電流実効値が大きくならず破損しているNo.5ドリルは、破損前にスピンドル軸側電流実効値が大きくなっている。
【0028】
Z軸モードの破損は、Z軸モータ40の負荷電流の増加で予兆を検出できる。また、スピンドル軸モードの破損は、スピンドルモータ30の負荷電流の増加で予兆を検出できる。実施形態では、この二つを併用することで、Z軸モードとスピンドル軸モードとの破損予兆を検出し、ドリルの破損の予兆を確実に検出できる。
【0029】
また、実施形態では、先端にダイヤモンドコーティングが設けられたタングステンカーバイド製のドリルは、ダイヤモンドコーティングが薄くなって切削力が低下し、切削力が押し込み力(Z軸の送り力)を下回ることでZ軸モードの破損が生じているのでは無いかと考えられる。特に、実施形態では、ドリル穿孔は、非貫通孔の穿設であるため、貫通孔の穿孔と異なり孔内に切削屑が残り易く、Z軸モードの破損が生じる割合が高くなっているのでは無いかと考えられる。実施形態では、Z軸モードとスピンドル軸モードの二つを併用することで、Z軸モードとスピンドル軸モードとの破損予兆を検出し、ドリルの破損の予兆を確実に検出できる。
【符号の説明】
【0030】
10 :加工機
14 :移動テーブル
16 :クランプ
30 :スピンドルモータ
32 :電流センサ
40 :Z軸モータ
42 :電流センサ
50 :ドリル交換器
100 :予兆検出装置
T :ドリル
W :加工物