(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ガラス繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 13/00 20060101AFI20231227BHJP
C03C 13/02 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C13/02
(21)【出願番号】P 2018234076
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠和
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-520314(JP,A)
【文献】特開2004-099376(JP,A)
【文献】特開2003-137590(JP,A)
【文献】特開2004-107112(JP,A)
【文献】特開昭64-051345(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104909578(CN,A)
【文献】特開2002-137938(JP,A)
【文献】特開2002-137937(JP,A)
【文献】特開平07-010598(JP,A)
【文献】米国特許第04582748(US,A)
【文献】特開2015-071524(JP,A)
【文献】特表2009-541185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO
2 50~70%、Al
2O
3 0~20%、B
2O
3 10~30%、SiO
2+Al
2O
3+B
2O
3 90~98%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~0.5%未満、MgO+CaO 6~10%、CaO 2%以上、TiO
2 0~2%、F
2 0~0.5%未満、Fe
2O
3 1%以下を含有し、且つ質量比CaO/MgOが0.2~
0.9であることを特徴とするガラス繊維であって、
10
3.0dPa・sの粘度に相当する温度が1350℃以下、且つ、液相温度と紡糸温度との差が140℃以上であるガラス繊維。
【請求項2】
25℃、1MHzでの誘電率が4.8以下であることを特徴とする、請求項1に記載のガラス繊維。
【請求項3】
液相温度が1200℃以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガラス繊維。
【請求項4】
ガラス組成として、質量%で、SiO
2 50~70%、Al
2O
3 0~20%、B
2O
3 10~30%、SiO
2+Al
2O
3+B
2O
3 90~98%、Li
2O+Na
2O+K
2O 0~0.5%未満、MgO+CaO 6~10%、CaO 2%以上、TiO
2 0~2%、F
2 0~0.5%未満、Fe
2O
3 1%以下を含有し、且つ質量比CaO/MgOが0.2~
0.9であり、10
3.0dPa・sの粘度に相当する温度が1350℃以下、且つ、液相温度と紡糸温度との差が140℃以上であるガラスが得られるように調合した原料バッチをガラス溶融炉で溶融し、得られた溶融ガラスをブッシングから連続的に引き出して繊維状に成形することを特徴とする、ガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維及びその製造方法に関し、特に高速通信機器用部品、車載用レーダー等の低誘電特性が求められる樹脂部材の補強材として好適なガラス繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報産業を支える様々な電子機器の発達に伴い、スマートフォン、ノートパソコン等の情報通信機器に関わる技術が目覚ましく進歩している。また、高密度化、高速処理化が進む電子機器用回路基板には、信号伝播遅延を最小限に抑え、また熱損失による基板の発熱を防ぐために、低誘電特性が要求される。
【0003】
電子機器用回路基板の例として、プリント配線基板や低温焼成基板が挙げられる。プリント配線基板は、樹脂に補強材としてガラス繊維を混合させて、シート形状にした複合材料である。低温焼成基板は、ガラス粉末とフィラー(充填物)を含むグリーンシートを焼成した複合材料である。
【0004】
近年では、電子機器用回路基板周辺の樹脂部材に対する低誘電化(低誘電率化及び低誘電正接化)の要求が高まり、樹脂部材の補強材として添加されるガラス繊維についても、低誘電化の要求が高まっている。特に、高周波帯域における低誘電化が求められている。更に、自動車分野でも、自動運転システムの発展に伴い、車載用レーダー等の樹脂部材の補強材として、低誘電率及び低誘電正接のガラス繊維が求められる。
【0005】
従来まで、低誘電特性のガラス繊維として、Eガラスが一般に知られている。しかし、Eガラスは、室温における周波数1MHzでの誘電率εが6.7、誘電正接tanδが12×10-4であるため、低誘電特性が不十分である。そこで、特許文献1には、Dガラスが開示されている。Dガラスは、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 74.6%、Al2O3 1.0%、B2O3 20.0%、MgO 0.5%、CaO 0.4%、Li2O 0.5%、Na2O 2.0%、K2O 1.0%を含有し、室温における1MHzの誘電率が約4.4である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-2831号公報
【文献】特開平11-292567号公報
【文献】特表2006-520314号公報
【文献】特開2017-52974号公報
【文献】特表2018-518440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、Dガラスは、ガラス組成中にSiO2を70質量%より多く含むため、紡糸温度(103.0dPa・sの粘度に相当する温度)が高温であり、炉やブッシング装置の寿命が短くなるという欠点があった。また、Dガラスは、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O及びK2O)を3質量%以上含み、耐水性が低いため、ガラスから溶出したアルカリ金属成分が樹脂との密着性を低下させて、樹脂部材全体の強度や電気絶縁性を低下させるという欠点があった。
【0008】
そこで、特許文献2~5には、ガラス組成中にF2を1質量%以上導入して、SiO2とアルカリ金属酸化物を低減することが開示されている。しかし、ガラス組成中にF2を1質量%以上導入すると、ガラスが分相して、その分相により耐水性が低下し易くなる。更に、ガラス組成中にF2を1質量%以上導入すると、溶融の際にF2を含む排ガスが多く発生して、環境的負荷が上昇する虞がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、低誘電特性を有しつつ、低紡糸温度と高耐水性を両立し得るガラス繊維及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ガラス組成範囲を厳密に規制すること、特にガラス組成中のアルカリ金属酸化物とF2を低減しつつ、CaOとMgOの含有量を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明のガラス繊維は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 45~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 10~35%、SiO2+Al2O3+B2O3 88~98%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.7%未満、MgO+CaO 0.1~12%、TiO2 0~3%、F2 0~0.8%未満を含有し、且つ質量比CaO/MgOが1.0以下であることを特徴とする。ここで、「SiO2+Al2O3+B2O3」は、SiO2、Al2O3及びB2O3の合量を指す。「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。「MgO+CaO」は、MgOとCaOの合量を指す。「CaO/MgO」は、CaOの含有量をMgOの含有量で除した値を指す。
【0011】
また、本発明のガラス繊維は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 10~30%、SiO2+Al2O3+B2O3 90~98%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO+CaO 0.1~10%、TiO2 0~2%、F2 0~0.5%未満を含有し、且つ質量比CaO/MgOが0.2~1.0であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のガラス繊維は、CaO+MgOの含有量が1~10質量%であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のガラス繊維は、CaO+MgOの含有量が3~9質量%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のガラス繊維は、CaO+MgOの含有量が6~8質量%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明のガラス繊維は、25℃、1MHzでの誘電率が4.8以下であることが好ましい。ここで、「25℃、1MHzでの誘電率」は、50mm×50mm×3mmの寸法に加工し、1200番のアルミナ研磨液で表面を研磨した後、精密アニールを施したガラス試料片を測定試料とし、測定に際しては、ASTM D150-87に準拠し、インピーダンスアナライザを用いるものとする。
【0016】
また、本発明のガラス繊維は、103.0dPa・sの粘度に相当する温度が1350℃以下であることが好ましい。ここで、「103.0dPa・sの粘度に相当する温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0017】
また、本発明のガラス繊維の製造方法は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 45~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 10~35%、SiO2+Al2O3+B2O3 88~98%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.7%未満、MgO+CaO 0.1~12%、TiO2 0~3%、F2 0~0.8%未満を含有し、且つ質量比CaO/MgOが1.0以下であるガラスが得られるように調合した原料バッチをガラス溶融炉で溶融し、得られた溶融ガラスをブッシングから連続的に引き出して繊維状に成形することを特徴とする。
【0018】
本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 10~30%、SiO2+Al2O3+B2O3 90~98%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO+CaO 0.1~10%、TiO2 0~2%、F2 0~0.5%未満を含有し、且つ質量比CaO/MgOが0.2~1.0であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のガラス繊維は、ガラス組成として、質量%で、SiO2 45~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 10~35%、SiO2+Al2O3+B2O3 88~98%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.7%未満、MgO+CaO 0.1~12%、TiO2 0~3%、F2 0~0.8%未満を含有し、且つ質量比CaO/MgOが1.0以下であることを特徴とする。各成分の含有量を限定した理由を以下に詳述する。なお、各成分の含有範囲の説明では、特段の断りがない限り、%表示は質量%を指す。
【0020】
SiO2は、ガラス網目構造の骨格を形成する成分であり、また誘電率や誘電正接を低下させる成分である。しかし、SiO2の含有量が多過ぎると、高温域での粘度が上昇して、溶融温度や紡糸温度が上昇し易くなる。よって、SiO2の好適な含有範囲は45~70%、50~70%、50~65%、51~60%、特に51~55%である。
【0021】
Al2O3は、分相を抑制する成分であり、また耐水性を高める成分である。しかし、Al2O3の含有量が多過ぎると、誘電率が高くなり易いと共に、かえって分相性が低下し易くなる。なお、ガラスが分相すると、ガラス繊維の耐水性や耐酸性が低下し易くなる。更に、Al2O3の含有量が多過ぎると、溶融温度や紡糸温度が上昇して、炉やブッシングの寿命が短くなる。よって、Al2O3の好適な含有範囲は0~20%、5~18%、8~17%、特に10~16.5%である。
【0022】
B2O3は、SiO2と同様にガラス網目構造の骨格を形成する成分である。また、B2O3は、溶融温度や紡糸温度を低下させると共に、誘電率や誘電正接を低下させる成分である。しかし、B2O3の含有量が多過ぎると、溶融時や紡糸時にB2O3の蒸発量が多くなり、ガラスが不均質になり易い。更に耐酸性が低下したり、ガラスが分相し易くなる。よって、B2O3の好適な含有範囲は10~35%、10~30%、12~28%、15~27%、特に17~25%である。
【0023】
SiO2+Al2O3+B2O3の好適な含有範囲は88~98%、90%~96%、特に90.5~95%である。SiO2+Al2O3+B2O3の含有量が少な過ぎると、その他の成分の含有量が多くなるため、誘電率を低下させることが困難になる。一方、SiO2+Al2O3+B2O3の含有量が多過ぎると、ガラスが分相し易くなる、或いは高温域での粘度が上昇して、溶融温度や紡糸温度が上昇し易くなる。
【0024】
MgOとCaOは、網目修飾酸化物であり、融剤として作用して、高温域での粘度を有効に低下させる成分である。よって、ガラス組成中にMgOとCaOを導入すると、溶融温度と紡糸温度を低下し易くなると共に、溶融ガラスの泡切れ性が向上して、均質なガラスを得易くなる。しかし、MgO+CaOの含有量が多過ぎると、誘電率及び誘電正接が上昇し易くなる。よって、MgO+CaOの好適な含有範囲は0.1~12%、1~12%、3~11%、6~10%、6~9%、特に6~8%である。なお、本発明のガラス繊維は、ガラス組成中にMgOとCaOを共存させることが好ましく、MgOの好適な含有範囲は0.1~10%、1~8%、2~7%、特に3~6%である。CaOの好適な含有範囲は0.1~7%、0.5~5%、1~4%、特に2~3%である。
【0025】
質量比CaO/MgOの好適な範囲は1.0以下、0.2~1.0、0.2~0.9、特に0.3~0.8である。質量比CaO/MgOが大き過ぎると、アノーサイト(CaO・Al2O3・2SiO2)、ウォラストナイト(CaO・SiO2)等のCa系失透結晶の液相温度が上昇し易くなる。またガラスが分相して、耐水性が低下し易くなる。
【0026】
アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O及びK2O)は、融剤として作用して、高温域での粘度を有効に低下させる成分である。しかし、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、誘電率や誘電正接が上昇し易くなる。また耐水性が低下するため、ガラスから溶出したアルカリ金属成分が、樹脂との密着性を低下させ易くなる。結果として、樹脂部材全体の強度や電気絶縁性が低下し易くなる。よって、Li2O+Na2O+K2Oの好適な含有範囲は0~0.7%未満、0~0.5%、0~0.5%未満、特に0~0.3%である。なお、Li2Oの好適な含有範囲は0~0.5%未満、0~0.3%未満、特に0~0.1%未満である。Na2Oの好適な含有範囲は0~0.5%未満、0~0.3%未満、特に0~0.1%未満である。K2Oの好適な含有範囲は0~0.5%未満、0~0.3%未満、特に0~0.1%未満である。
【0027】
TiO2は、誘電正接と高温域での粘性を低下させる成分である。しかし、TiO2の含有量が多過ぎると、ガラスが分相し易くなることに加えて、Ti系失透結晶が析出し易くなる。よって、TiO2の好適な含有範囲は0~3%、0~2%、0~1.5%、特に0.1~1%である。
【0028】
F2は、融剤として作用して、高温域での粘性を低下させる成分である。しかし、F2の含有量が多過ぎると、ガラスが分相して、その分相により耐水性が低下し易くなる。更に溶融時にF2を含む排ガスが多く発生して、環境的負荷が上昇する虞がある。よって、F2の好適な含有範囲は0~0.8%未満、0~0.5%未満、0~0.4%、特に0.1~0.4%である。
【0029】
本発明のガラス繊維は、上記成分に加えて、必要に応じて他の成分を導入することができる。例えば、SrO、BaO、ZrO2、P2O5、Fe2O3等をそれぞれ1%、Cr2O3、MoO3、Pt、Rh及びNiO等をそれぞれ0.1%まで導入してもよい。
【0030】
本発明のガラス繊維は、以下の特性を有することが好ましい。
【0031】
25℃、1MHzでの誘電率は、好ましくは4.8以下、4.75以下、4.7以下、特に4.65以下である。25℃、1MHzでの誘電正接は、好ましくは0.0015以下、0.0013以下、0.001以下、0.0007以下、0.0005以下、特に0.0003以下である。誘電率や誘電正接が高過ぎると、誘電損失が大きくなり、電子機器用回路基板等の樹脂部材の補強材に使用し難くなる。
【0032】
25℃、1GHzでの誘電率は、好ましくは5.0以下、4.9以下、特に4.8以下である。25℃、20GHzでの誘電率は、好ましくは5.0以下、4.9以下、特に4.8以下である。高周波帯域での誘電率が高過ぎると、5G通信用機器や車載用レーダー等の用途に使用し難くなる。
【0033】
紡糸温度(103.0dPa・sの粘度に相当する温度)は、好ましくは1350℃以下、1340℃以下、特に1320℃以下である。紡糸温度が高過ぎると、ブッシングへのダメージが大きくなり、ブッシングの寿命が短くなる。更に、ブッシングの交換頻度やエネルギーコストが増大して、ガラス繊維の生産コストが高騰する。
【0034】
液相温度は、好ましくは1200℃以下、1180℃以下、特に1150℃以下である。液相温度が高過ぎると、ガラス繊維を安定的に生産し難くなる。
【0035】
液相温度と紡糸温度との差は、好ましくは140℃以上、150℃以上、特に160℃以上である。液相温度と紡糸温度との差が小さ過ぎると、紡糸時に失透結晶が流出して、糸の切断が生じ易くなる。結果として、ガラス繊維を安定的に生産し難くなる。
【0036】
続いて、ダイレクトメルト法(DM法)を例にして、本発明のガラス繊維の製造方法を説明する。但し、本発明のガラス繊維の製造方法は以下の記載に限定されるものではない。本発明のガラス繊維の製造方法では、例えば、マーブル状に成形した繊維用ガラス材料をブッシング装置で再溶融して紡糸する、いわゆる間接成形法(MM法:マーブルメルト法)を採用することもできる。なお、MM方法は少量多品種の生産に向いている。
【0037】
まず、ガラス組成として、質量%で、SiO2 45~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 10~35%、SiO2+Al2O3+B2O3 88~98%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.7%未満、MgO+CaO 0.1~12%、TiO2 0~3%、F2 0~0.8%未満を含有し、且つ質量比CaO/MgOが1.0以下であるガラスが得られるように原料バッチを調合する。なお、ガラス原料の一部にカレットを使用してもよい。各成分の含有量を上記の通りとした理由は既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
【0038】
次いで、調合した原料バッチをガラス溶融炉に投入し、ガラス化し、溶融、均質化した後、得られた溶融ガラスをブッシングから連続的に引き出し、紡糸して、ガラス繊維を得る。溶融温度は1500~1600℃程度が好適である。
【0039】
必要に応じて、ガラス繊維の表面に、所望の物理化学的な性能を付与する被覆剤を塗布してもよい。具体的には集束剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、被膜形成剤、カップリング剤、潤滑剤等を被覆してもよい。
【0040】
ガラス繊維の表面処理に使用できるカップリング剤の例として、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が好適であり、複合化する樹脂の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0041】
本発明のガラス繊維は、チョップドストランドに加工して、使用に供することが好ましいが、それ以外にも、ガラスクロス、ガラスフィラー、ガラスチョップドストランド、ガラスペーパー、不織布、コンティニアスストランドマット、編物、ガラスロービング、ミルドファイバ等のガラス繊維製品に加工して、使用に供してもよい。
【0042】
本発明のガラス繊維は、本発明の効果を阻害しない限り、他の繊維と混合して使用してもよい。例えば、Eガラス繊維、Sガラス繊維等のガラス繊維、炭素繊維、金属繊維と混合して使用してもよい。
【0043】
本発明のガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~70%、Al2O3 0~20%、B2O3 10~30%、SiO2+Al2O3+B2O3 90~98%、Li2O+Na2O+K2O 0~0.5%、MgO+CaO 0.1~10%、TiO2 0~2%、F2 0~0.5%未満を含有し、且つ質量比CaO/MgOが0.2~1.0であることを特徴とする。本発明のガラスの技術的特徴は、本発明のガラス繊維の説明欄に記載済みであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0045】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~9)及び比較例(試料No.10~14)を示している。
【0046】
【0047】
次のようにして、表1の各試料を調製した。まず、天然原料、化成原料等の各種ガラス原料を所定量秤量、混合して、原料バッチを得た後、これを白金ロジウム製の坩堝内に投入し、間接加熱電気炉内において、加熱して溶融ガラスとした。なお、溶融ガラスの均質性を高めるために、初期溶融の途中で耐熱性攪拌棒を使用して、溶融ガラスを攪拌した。こうして均質な状態とした溶融ガラスをカーボン板状に流し出し、板状に成形した後、アニールすることによって残留歪を除去した。得られた各ガラス試料について、25℃、1MHzでの誘電率(ε)、25℃、1MHzでの誘電正接(tanδ)、紡糸温度(103.0dPa・s)及び液相温度(TL)、紡糸温度と液相温度との差(△T)を評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
25℃、1MHzでの誘電率及び誘電正接は、各ガラス試料を50mm×50mm×3mmの寸法に加工し、1200番のアルミナ研磨液で研磨した後、精密アニールを施したガラス試料片を用いて計測したものである。測定に際しては、ASTM D150-87に準拠し、インピーダンスアナライザを使用した。
【0049】
紡糸温度は、各ガラス試料の一部を予め適正なサイズとなるように破砕し、それを白金製坩堝に投入してリメルトし、融液状態にまで加熱した後に白金球引き上げ法により測定したものである。
【0050】
液相温度は、次のようにして測定したものである。各ガラス試料を粉砕し、300~500μmの範囲の粒度となるように調整した状態で、耐火性容器に適切な嵩密度を有する状態に充填した。続いて、間接加熱型の温度勾配炉内に導入して静置し、16時間大気雰囲気中で加熱操作を行った。その後、耐火性容器毎に測定試料を取り出し、室温まで冷却した後、偏光顕微鏡によって結晶の初相が析出する温度を特定し、これを液相温度とした。
【0051】
表1から分かるように、試料No.1~9は、ガラス組成が厳密に規制されているため、低誘電特性を有しつつ、低紡糸温度と高耐水性を両立し得るものと考えられる。
【0052】
一方、試料No.10は、SiO2の含有量が多いため、紡糸温度が高く、またアルカリ金属酸化物の含有量が多いため、アルカリ溶出し易いと考えられる。また、試料No.11、14は、F2の含有量が多いため、耐水性が低く、また環境負荷が大きいと考えられる。試料No.12は、質量比CaO/MgOが大きいため、ガラスが分相し易く、耐水性が低いと考えられる。なお、試料No.12では、分相により液相温度の測定が不能であった。試料No.13は、SiO2+Al2O3+B2O3の含有量が少ないため、誘電率が高く、F2の含有量が多いため、ガラスが分相し易く、耐水性が低いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のガラス繊維は、高速通信機器用部品や車載用レーダー等の樹脂部材の補強材として好適であるが、プリント配線基板用途、電子部品用パッケージ、FRP構造材等の補強材として用いてもよい。本発明のガラスは、低誘電特性と高耐水性を有するため、カバーガラス、フィラー等の用途に好適である。