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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】電線およびケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20231227BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019108266
(22)【出願日】2019-06-10
(65)【公開番号】P2020202082
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】若松 真織
(72)【発明者】
【氏名】吉川 竜陽
(72)【発明者】
【氏名】古田 秀則
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-352630(JP,A)
【文献】特開2012-174337(JP,A)
【文献】実開昭55-087615(JP,U)
【文献】特開2013-152843(JP,A)
【文献】特開2008-277195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の第1素線及び前記第1素線より引張り強度が高く導電性の第2素線を含む素線束と、前記素線束の周囲に形成された絶縁層と、を備えた電線であって、
前記電線の長手方向に垂直な断面において、前記素線束は内部素線群と、前記内部素線群を巻回し前記内部素線群の外周を取り囲むように配置された外部素線群と、を有し、
前記第1素線と前記第2素線との合計数に対する前記第2素線の数を第2素線混合率とすると、前記内部素線群の第2素線混合率は前記外部素線群の第2素線混合率より大きく、
前記内部素線群と前記外部素線群とは、それぞれ、ある素線と前記ある素線に隣接する他の素線とを含み、
前記電線の長手方向に垂直な断面における前記ある素線と前記他の素線との間の距離をdとしたとき、
前記電線の複数の異なる断面における前記距離dの標準偏差σ(d)は、前記外部素線の標準偏差σ(d)より前記内部素線の標準偏差σ(d)が大きい電線。
【請求項2】
前記電線は、
ある断面において前記素線束の重心位置と重なる場所に位置する素線を含み、
他の断面において前記ある断面において前記素線束の重心位置と重なる場所に位置する素線は、前記素線束の重心位置と重ならない場所に位置している請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記内部素線群を構成する全ての内部素線の中心点間を結ぶ線分により形成される図形の輪郭からなる多角形の頂点の数を内部素線群の頂点数とし、
前記外部素線群を構成する全ての内部素線の中心点間を結ぶ線分により形成される図形の輪郭からなる多角形の頂点の数を外部素線群の頂点数としたとき
前記電線の前記複数の断面における前記内部素線群の頂点数のばらつきは前記外部素群の頂点数のばらつきよりも大きい請求項1乃至2のいずれか1項に記載の電線。
【請求項4】
前記内部素線群の頂点数のばらつき及び前記外部素線群の頂点数のばらつきが、それぞれ、頂点数の標準偏差を頂点数の平均値で除した変動係数である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の電線。
【請求項5】
前記電線は、前記電線の長手方向に垂直な断面において、内部素線群と外部素線群との間に複数の空隙部を備える請求項1乃至4の何れか1項に記載の電線。
【請求項6】
前記外部素線群を構成する全ての素線が前記第1素線である請求項1乃至5の何れか1項に記載の電線。
【請求項7】
前記内部素線群が、前記第1素線を含む請求項1乃至6の何れか1項に記載の電線。
【請求項8】
記内部素線群に含まれる全ての第1素線は、前記内部素線群に含まれる何れか1つ以上の前記第2素線と隣接するように構成されている請求項1乃至7の何れか1項に記載の電線。
【請求項9】
前記第1素線の導電率は前記第2素線の導電率より大きく、かつ、前記第1素線の導電率が90%IACSより大きい請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電線。
【請求項10】
前記第2素線の導電率が70%IACSより大きい請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電線。
【請求項11】
複数の素線からなる撚線及び前記撚線の外周を被覆するように形成された絶縁層を備えた電線と前記電線にそって形成された請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電線とを含むケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力や信号を伝送する電線およびケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、電子部品実装装置、あるいは産業用ロボット装置などの各種装置は、移動、変形等の動作を行うヘッド/アーム/ハンドなどと呼ばれる動作機構を備える。この動作機構に使用される電線には、屈曲、摺動、捻回等のストレスに対して、高い信頼性が求められる。
【0003】
このような要求に対して、例えば特許文献1では、中心導体の周りに、導体素線を撚り合わせてなる撚線層を有する撚線において、上記導体素線、及びその導体素線よりも引っ張り強度の高い高強度導体素線を用いて撚り合わせ、上記撚線層を形成した撚線を開示している。
このような構成とすることにより、良好な屈曲特性を有する撚線を提供でき、また、撚線に要求される機能を、導体素線及び高強度導体素線で分担させ、全体に占める高強度導体素線の割合を変えることにより、線径を保ったまま、屈曲特性及び導電性を自在に調整できるとしている。
【0004】
また、例えば、特許文献1の図8および図9では、複数の高強度素線からなる中心導体の周りに、導体素線を撚りあわせてなる複層構造の撚線層を有する撚線を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-92933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の撚線やこれを含むケーブルは、長期間にわたる信頼性の面において未だ改善の余地があるものであった。
【0007】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、優れた長期信頼性を備えた電線およびケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、以下の電線が提供される。
【0009】
本開示に係る電線は1態様において、導電性の第1素線及び前記第1素線より引張り強度が高く導電性の第2素線を含む素線束と、前記素線束の周囲に形成された絶縁層と、を備えた電線であって、前記電線の長手方向に垂直な断面において、前記素線束は内部素線群と前記内部素線群の外周を取り囲むように配置された外部素線群とを有し、前記第1素線と前記第2素線との合計数に対する前記第2素線の数を第2素線混合率とすると、前記内部素線群の第2素線混合率は前記外部素線群の第2素線混合率より大きく、前記断面において、前記内部素線群の素線配置の規則性が前記外部素線群の素線配置の規則性より乏しいことを特徴とする。
【0010】
また、導電性の第1素線及び前記第1素線より引張り強度が高く導電性の第2素線を含む素線束と、前記素線束の周囲に形成された絶縁層と、を備えた電線であって、前記電線の長手方向に垂直な断面において、前記素線束は内部素線群と前記内部素線群の外周を取り囲むように配置された外部素線群とを有し、前記第1素線と前記第2素線との合計数に対する前記第2素線の数を第2素線混合率とすると、前記内部素線群の第2素線混合率は前記外部素線群の第2素線混合率より大きく、前記断面において、前記素線束は複数の素線により囲まれ、かつ素線が存在しない複数の空隙部を含み、前記複数の空隙部のうち、最大の面積を有する最大空隙部は前記内部素線群と前記外部素線群との間の領域に位置していることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記外部素線群を構成する全ての素線が前記第1素線である、前記内部素線群が前記第1素線を含む、前記内部素線群に含まれる全ての第1素線は前記内部素線群に含まれる何れか1つ以上の前記第2素線と隣接するように構成されている、前記第1素線の導電率は前記第2素線の導電率より大きくかつ前記第1素線の導電率が90%IACSより大きい、前記第2素線の導電率が70%IACSより大きい、との特徴のうち、いずれか1つ以上を有する。
【0012】
また、複数の素線束が互いに撚りあわされた集合導体及び前記集合導体の外周を被覆するように形成された絶縁層を備えた電線であって、前記複数の素線束は導電性の第1素線及び前記第1素線より引張り強度が高く導電性の第2素線を含む第1素線束と、導電性の第1素線及び前記第1素線より引張り強度が高く導電性の第2素線を含む第2素線束と、を含み、前記第1素線束は、前記電線の長手方向に垂直な断面において、内部素線群と前記内部素線群の外周を取り囲むように配置された外部素線群とを有し、前記第1素線と前記第2素線との合計数に対する前記第2素線の数を第2素線混合率とすると、前記第1素線束の内部素線群の第2素線混合率は前記第1素線群の外部素線群の第2素線混合率より大きく、前記第2素線束は、前記電線の長手方向に垂直な断面において、内部素線群と前記内部素線群の外周を取り囲むように配置された外部素線群とを有し、前記第2素線束の内部素線群の第2素線混合率は前記前記第2素線束の外部素線群の第2素線混合率より大きいことを特徴とする。
【0013】
また、本開示に係るケーブルは1態様において、複数の素線からなる撚り線及び前記撚線の外周を被覆するように形成された絶縁層を備えた電線と前記電線に沿って形成された上記いずれかの電線とを含むことを特徴とする。
また、複数の素線を含む第1素線束及び前記第1素線束の周囲に形成された絶縁層を含む第1電線と 前記第1素線束より大きな数の素線を含む第2素線束及び前記第2素線束の周囲に形成された絶縁層とを含む第2電線と、を含むケーブルであって、前記第1素線束および前記第2素線束は、それぞれ、導電性の第1素線及び前記第1素線より引張り強度が高く導電性の第2素線を含み、前記第1素線束および前記第2素線束は、それぞれ、前記電線の長手方向に垂直な断面において、内部素線群と前記内部素線群の外周を取り囲むように配置された外部素線群とを有し、前記第1電線に含まれる素線束の数が、前記第2電線に含まれる素線束の数と等しいとき、前記第1素線と前記第2素線との合計数に対する前記第2素線の数を第2素線混合率とすると、前記第1素線束の内部素線群の第2素線混合率は、前記第2素線束の内部素線群の第2素線混合率より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る電線及び/又はケーブルによれば、長期の高信頼性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る電線の断面の構成図
図2】第1実施形態に係る電線の断面の構成を示す図であって、素線配置領域を説明する図
図3】第1実施形態に係る電線の断面の構成を示す図であって、空隙部を説明する図
図4】第1実施形態の他の例に係る電線の断面の構成図
図5】第2実施形態に係る電線の断面の構成図
図6】本開示に係る電線の製法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願請求項に記載の発明に係る電線およびケーブルの実施形態について説明する。尚、以下に説明する実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、それぞれの実施例における各々の実施形態は、本発明の技術的な意義を失わない範囲で自由に組み合わせても良い。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る電線Wの断面の構成を示す図であり、図1(a)、図1(b)、及び、図1(c)はそれぞれ、同一の電線Wの異なる位置における断面を示す。ここで断面とは電線の長手方向(電力や電気信号の伝送方向)に対して垂直な面を含む断面である。電線の異なる位置とは、電線の長手方向に互いに所定距離だけ離れた任意の位置であり、例えば、ある断面位置に対する、最も近い他の断面位置までの距離(所定距離)は5mm以上であることが好ましい。断面構成は例えば電線を樹脂に包埋固定した上で研磨を行い、電線内の無作為に選択した位置に観察面を準備することで、光学顕微鏡等を用いて容易に観察できる。また、電線Wを形成した直後では、特に内部素線群に属する素線(以下、内部素線と記す。同様に外部素線群に属する素線を以下、外部素線と記す)の配置が、屈曲や摺動の後の状態と異なることがあるため、少なくとも絶縁層形成の後に1回以上の曲げ及び伸ばし動作がなされた電線で観察することが好ましい。但し、過度の回数の曲げ及び伸ばし動作の後では素線の状態が大きく変化している虞があるため、絶縁層形成後の曲げ及び伸ばし動作が1000回以下の電線にて観察することが好ましい。
【0018】
本実施形態において、電線Wは複数の素線を含む素線束WBと、素線束WBの周囲を覆う絶縁層ILとを備える。素線束WBは図1に示されるように、複数の素線を含む内部素線群IWと、複数の素線を含み、断面視において内部素線群IWの周囲を取り囲むように配置された外部素線群OWとを備える。本実施形態においては、内部素線群IWは8本の内部素線からなり、外部素線群OWは12本の外部素線からなる。
なお、図1において、内部素線は、その外形を実線で示し、外部素線は、その外形を破線で示している。それぞれの素線は略円形の断面形状を有しており、説明のため、各素線の中心(または重心)位置にしるしを付している。特別な記載がない限り、以降の図も同様の示し方を適用する。
【0019】
素線束WBは、導電性材料からなる標準素線及び、導電性材料からなる強化素線を含む。強化素線は標準素線より、高い抵抗値と、高い引張り強度を有する。尚、本明細書においては、単に抵抗、抵抗値と記載されたものは特に記載がない限り電気抵抗、電気抵抗値を意味する。内部素線群は少なくとも1本以上の強化素線を含み、外部素線群は少なくとも1本以上の標準素線を含む。また、標準素線と強化素線の合計本数中における強化素線本数の占める割合を、強化素線混合率(%)とすると、内部素線群における強化素線混合率は、外部素線群における強化素線混合率よりも大きくなるように構成されている。本実施形態において、標準素線は軟銅で構成され、強化素線は銅(Cu)にクロム(Cr)などを添加した合金銅で構成されている。また、本実施形態において内部素線群IWは8本の強化素線と0本の標準素線から構成されており、外部素線群OWは0本の強化素線と12本の標準素線から構成されている。従って、内部素線群IWの強化素線混合率は100%、外部素線群OWの強化素線混合率は0%、素線束WBの強化素線混合率は40%となる。尚、図1において、強化素線は、その内部にハッチングを施し、標準素線にはそのようなハッチングは施していない。特別な記載がない限り、以降の図も同様の示し方を適用する。
【0020】
電線Wは、断面視において、外部素線群と、外部素線群より強化素線混合率が高い内部素線群とを含み、かつ、内部素線群に属する複数の素線配置の規則性が、外部素線群に属する複数の素線配置の規則性よりも乏しい。ここで、素線配置の規則性とは、例えば、ある断面における、各素線の配列及び/又は配置形状の、一部または全部が、他の断面において再現されることを意味する。より具体的には、規則性が乏しいとは、電線の異なる位置の断面間で素線配置の再現の程度が小さいことを意味する。このような構成を有することにより、屈曲、摺動、及び/又は捻回などの変形ストレスが加えられる環境にあっても、長期にわたり、高い信頼性を有する電線が得られる。以下、電線Wの長期信頼性が向上する理由を説明する。
【0021】
本願発明者らは、長期的な信頼性に優れる電線を実現するにあたり、低い電気抵抗値を維持しつつ、引っ張り強度を向上させた強化素線の活用を検討した。特に、抵抗特性に優れる標準素線と、引張り強度に優れる強化素線とを適切に組み合わせることで、信頼性と小径軽量の両立を図った。素線種、素線種ごとの比率や配置、撚り方などの各種の組み合わせの考察と検証実験を通じ、強化素線を素線束の中央付近に配置し、その外周部に標準素線を配置することにより、強化素線の導入に伴う抵抗値の上昇を最小にしつつ、信頼性を向上できることが判明した。
しかし、そのような構成としただけでは、結果がばらつき、安定して長期信頼性を発揮できないことがあった。発明者らは、屈曲や摺動の繰り返し伴う変形による、素線配置の崩れが原因の一つと推定した。具体的には、各素線を混合して撚り、導体束を形成した時点における素線配置を信頼性有利な配置に制御しても、屈曲や摺動の過程でこの有利な素線配置が崩れ、信頼性向上効果が損なわれてしまうことがあると考えた。
これに対して、撚り方を変え、各素線の配置の規則性を高くし、素線間の相互拘束を強めることで、素線配置が崩れにくくすることを検討した。例えば1本の心線となる素線の周囲に6本の素線からなる第1巻回層を形成する、必要に応じて、さらに12本の素線からなる第2巻回層を形成する、このようにして規則性が高い撚線を得ることができる。この撚線は各素線間の相互固定作用が大きく、摺動や屈曲の変形動作を繰り返しうけても、素線配置が崩れにくく、初期の素線配置を維持できる。
【0022】
しかし、単に、規則性を高くして素線間の相互拘束を強くすると、別の問題が顕在化してしまうことが分った。このような撚り方では、素線間余裕が小さい。素線間余裕とは、各素線間での微視的、局所的な相対移動の余地を指す。このように素線間余裕が小さいと、屈曲や摺動により発生するストレスが緩和されにくい。この結果、素線に印加される応力が大きくなり、例えばクラックの進展による素線破断の形で電線の信頼性を損ねることがある。つまり、標準素線と強化素線の好ましい素線配置を、素線配置の規則性を高めることにより維持しようとすると、素線間余裕が小さくなり信頼性が悪化してしまう、との課題が見出された。
これに対して、本実施形態に係る電線Wは、外部素線群と、外部素線群より強化素線混合率が高い内部素線群とを含み、かつ、内部素線群に属する複数の素線の配置の規則性が、外部素線群に属する複数の素線の配置の規則性よりも乏しいとの構成を備える。規則性が相対的に乏しい内部素線群は素線間余裕を備えることで屈曲や摺動によるストレスを緩和でき、かつ、規則性が相対的に高く素線配置が崩れにくい外部素線群は内部素線群中の強化素線が外部素線領域に入り込むことを抑制することで、初期の配線位置を維持できる。このようにして、本実施形態に係る電線Wは、長期にわたる信頼性を実現することができる。
【0023】
引き続き図1を用いて、第1実施形態における電線Wをより詳細に説明する。電線Wの12本の外部素線のうち、第1外部素線OW(1)、第2外部素線OW(2)、及び、第3外部素線OW(3)に着目する。図1(a)に示すように、ある断面(以下第1断面と呼ぶ)において、第1外部素線OW(1)、第2外部素線OW(2)、及び、第3外部素線OW(3)は、内部素線群IWを取り囲むように、または、絶縁層ILの内壁に沿って、この順に1列に並んでいる。そして、図1(b)に示すように、前記第1断面と異なる位置における断面(以下第2断面と呼ぶ)においても、第1外部素線OW(1)、第2外部素線OW(2)、及び、第3外部素線OW(3)は、内部素線群IWを取り囲むように、または、絶縁層ILの内壁に沿って、この順に1列に並んでいる。さらに図1(c)に示すように、前記第1断面及び前記第2断面と異なる位置における断面(以下第3断面と呼ぶ)においても、第1外部素線OW(1)、第2外部素線OW(2)、及び、第3外部素線OW(3)は、内部素線群IWを取り囲むように、または、絶縁層ILの内壁に沿って、この順に1列に並んでいても良い。これらの3本の外部素線は全て内部素線群IWを含む領域を囲み、略円形を成す線上に並んでおり、かつ、第1素線と第3素線との間に第2素線が位置する。このように、電線Wの複数の外部素線は、異なる複数の断面においても、共通する配列が現れるように構成されている。外部素線群OWがこのような規則性を有することにより、電線Wに屈曲や摺動等のストレスが加わっても、素線配置の崩れを抑制することができる。
【0024】
尚、図1(c)に示すように、外部素線群の第2素線OW(2)は、必ずしも、第1素線OW(1)及び第3素線OW(3)と接している必要はなく、第1素線OW(1)及び第3素線OW(3)のいずれか一方と又は両方と離間していても良い。また、第1素線、第2素線、及び、第3素線は、いずれも絶縁層ILの内壁と接していることが好ましい。残る9本の外部素線に関しても、その一部又は全部が、ある断面及び異なる位置における断面において、内部素線群IWを取り囲むように、または、絶縁層ILの内壁に沿って、同一の順に1列に並んでいても良い。
【0025】
続いて、電線Wの8本の内部素線のうち、第1内部素線IW(1)、第2内部素線IW(2)、及び、第3内部素線IW(3)に注目する。図1(a)に示すように、第1断面において、第1内部素線IW(1)、第2内部素線IW(2)、及び、第3内部素線IW(3)は、内部素線群を配置した領域の外縁を形成するように、または、外部素線群OWの配置領域の内縁に沿って、この順に1列に並んでいる。そして図1(b)に示すように、第2断面においては、素線配置が変化しており、第1内部素線IW(1)は第2内部素線IW(2)と第3内部素線IW(3)との間に位置している。また、第1内部素線IW(1)と第3内部素線IW(3)との間には、他の内部素線が位置するように構成されている。さらに、図1(c)に示すように、第3断面においては、第1断面及び第2断面の何れとも異なる素線配置となっていても良い。このように、電線Wの複数の内部素線は、複数の外部素線が備えていた規則性に乏しい。このような構成を備えた電線Wの内部素線群は外部素線群より大きな素線間余裕を有する。これにより、電線Wに屈曲や摺動等で発生したストレスを緩和できる。
【0026】
また、ある素線と、該素線に隣接する他の素線との間の距離をdとし、該距離dの、複数の異なる断面間でのばらつき(標準偏差)をσ(d)とした時、外部素線のσ(d)より、内部素線のσ(d)が大きくなるように構成されていても良い。なお、標準偏差を算出するにあたり、観察する断面は、無作為に抽出した任意の4断面以上であることが好ましい。また、ある断面において、素線束WBの重心点と重なる位置にあった素線が、他の断面において素線束WBの重心点と重ならない位置に移動するように構成されていても良い。
【0027】
図2を用いて、第1実施形態に係る電線Wの構成をさらに説明する。図2(a)、図2(b)、及び、図2(c)は、それぞれ図1(a)、図1(b)、及び、図1(c)に対応する。すなわち、それぞれ、第1実施形態の電線Wの第1断面、第2断面、及び、第3断面の構成を示している。図2の各図において、8本の内部素線、12本の外部素線、及び、絶縁層ILは、全て、図1の各図とそれぞれ同じ位置、同じ形状で示される。ここでは、各素線群の配置された領域の形状に着目する。全ての内部素線の中心点(または重心点)間を、それぞれ仮想線分で結んだときに形成される図形の輪郭を内部素線輪郭CLIとし、全ての外部素線の中心点(または重心点)間を、それぞれ仮想線分で結んだときに形成される図形の輪郭を外部素線輪郭CLOとすると、図2に示すように、内部素線輪郭CLIおよび外部素線輪郭CLOは、各素線群の配置領域の形状を示す多角形となる。尚、図2においては、輪郭を形成する仮想線分のみを実線で示し、輪郭の内側の領域内に位置する仮想線分の表示を省略している。また、前述のとおり、本実施形態において、全ての内部素線は強化素線だが、説明のため、本図においては、これらの強化素線にハッチングを施さずに示している。
【0028】
本実施形態において、内部素線輪郭CLIおよび外部素線輪郭CLOのそれぞれを構成する多角形の頂点の数に注目すると、外部素線輪郭CLOの頂点の数は第1断面、第2断面、及び第3断面の全てにおいて、12であった。これに対して、内部素線輪郭CLIの頂点の数は、第1断面及び第3断面では6であったが、第2断面においては7であった。このように、複数の断面における外部素線輪郭CLOの頂点の数のばらつきよりも、該複数の断面における内部素線輪郭CLIの頂点の数のばらつきが大きくなるように構成することによっても、長期にわたる高い信頼性を得ることができる。尚、このような頂点の数のばらつきの大小については、無作為に抽出した4以上の断面でのそれぞれの素線輪郭の頂点数をカウントし、その変動計数(標準偏差を平均値で除した値)を比較することが好ましい。
【0029】
また、外部素線輪郭CLOの形状を、内部素線輪郭CLIの形状より、真円に近いものとなるように構成しても良い。各素線群内における、素線中心点(又は重心点)間を結ぶ仮想線分のうち、最大の長さを有するものの長さを最大距離D1とする。また、該最大の長さを有するもの垂直二等分線のうち、該素線群の輪郭内に位置する部分の長さを垂直距離D2とする。図2において、内部素線輪郭CLIにおける最大距離D1及び垂直距離D2を実線にて示し、外部素線輪郭CLOにおける最大距離D1及び垂直距離D2を破線にて示す。このとき、縦横比R=D1/D2とすると、外部素線群輪郭CLOの縦横比Rは1.30以下であることが好ましく、1.15以下であることがさらに好ましい。また、内部素線群輪郭CLIの縦横比Rは1.70以下であることが好ましく、1.55以下であることがさらに好ましい。内部素線群CLIの縦横比Rは、1.10以上であってよく、1.20以上であっても良い。
内部素線群輪郭CLIの縦横比Rは外部素線群輪郭CLOの縦横比Rより小さく構成されている。縦横比Rは任意の1断面より算出しても良いが、電線の異なる位置における3以上の断面の平均値とすることが特に好ましい。
【0030】
また、内部素線群IWは、その内部及び/又はその周辺部に空隙部を多く備えることが好ましい。ここで空隙部とは、電線Wの断面において、全周囲を素線に囲まれ、かつ、素線が存在しない領域を指す。内部素線群IWの形成領域の内部及び/又はその周辺部にある空隙部は、内部素線群に、素線間余裕をもたらす。図3は、図1(a)及び図2(a)に対応し、すなわち、第1実施形態の電線Wの第1断面の構成を示す図である。図3において、8本の内部素線、12本の外部素線、及び、絶縁層ILは、全て、図1(a)と同じ位置に示される。また、前述のとおり、本実施形態において、全ての内部素線は強化素線だが、説明のため、本図においては、これらの素線にハッチングを施さずに示している。
【0031】
電線Wは断面視において、複数の空隙部を備える。断面視において最大の面積を有する空隙部は内部素線群IWと外部素線群OWとの間の領域に位置することが特に好ましい。内部素線群IWの形成領域内に位置する空隙部も、素線間余裕をもたらすが、この領域の空隙部が過度に大きいと、電線Wの製造工程や、電線Wの摺動時におけるキンクが発生しやすくなる虞がある。これに対して、最大の面積を有する空隙部が、内部素線群IWと外部素線群OWとの間の領域に位置するように構成することにより、キンクが発生するリスクを大きく増大させることなく、内部素線群IWに素線間余裕をもたらすことができる。尚、電線Wの無作為抽出した任意の1断面でこのような構成であれば良いが、無作為抽出した任意の3以上の断面のうち、過半数でこのような構成であればさらに好ましい。
【0032】
図3において、最大の面積を有する空隙部はV3で示される。2番目に大きな面積を有しV1で示される空隙部及び/又は3番目に大きな面積を有しV5で示される空隙部も内部素線群IWと外部素線群OWとの間の領域に位置するように構成されると良い。一方で、これらのV1、V3、またはV5で示される空隙部より面積が小さく、図3においてV2及び/又はV5で示される空隙部は、内部素線群IWの形成領域内に位置するように構成されていて良い。空隙部の位置を特定するに当たり、内部素線群IWの形成領域を内部素線輪郭CLIの内部領域と置き換えても良く、内部素線群IWと外部素線群OWとの間の領域を内部素線輪郭CLIと外部素線輪郭CLOとの間の領域と置き換えても良い。
【0033】
本実施形態において、内部素線群IWの強化素線混合率は100%、外部素線群OWの強化素線混合率は0%、素線束WBの強化素線混合率は40%としたが、これに限定されない。内部素線群IWの強化素線混合率は40%以上かつ100%以下であることが好ましく、60%以上かつ100%以下であることがさらに好ましい。このように十分な本数の強化素線を含む構成とすることにより、標準素線に隣接する強化素線の数を大きくすることができ、内部素線群IWの信頼性を効果的に向上できる。一方で強化素線の配置による信頼性向上効果が相対的に小さい外部素線群OWに関しては、強化素線混合率は20%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、0%であることが特に好ましい。このような構成とすることにより、抵抗値が相対的に大きな強化素線の本数が抑制され、小径軽量な電線を得ることができる。外部素線群OWが複数の強化素線を含む場合は、強化素線が特定領域に集中しないよう分散させることが好ましい。少なくとも強化素線と強化素線との間に1本以上の標準素線が挟まれるようにしても良い。素線束WBの強化素線混合率は20%以上かつ65%以下であることが好ましく、30%以上55%以下であることが特に好ましい。強化素線混合率をこのような範囲内に制御することにより、小径軽量と長期にわたる信頼性とを両立した電線を得ることができる。
【0034】
大きな電線を流す電線において、素線束を構成する個々の素線の径を大きくすると、信頼性を維持できなくなる虞がある。このため、小径の素線を適用したまま、素線の本数を増やした構成とすることが好ましい。しかし、本実施形態に係る素線束の素線数を単純に増やそうとすると、素線数の増加に伴い、内部素線群IWの素線数が、素線束WBの素線数に占める割合が大きくなるため、強化素線混合率が高くなりすぎることがある。
【0035】
第1実施形態の他の例に係る電線Wを図4を用いて説明する。本例に係る電線は、内部素線群IWを構成する内部素線の本数、外部素線群OWを構成する外部素線の本数、及び、内部素線群における強化素線混合率が第1実施形態と異なる点を除き、他の構成は第1実施形態と同一である。よって、ここでは,第1実施形態と共通する構成についてはその詳細な説明を省略し,第1実施形態と異なる箇所のみについて説明する。本実施例において、内部素線群IWは21本の内部素線により構成され、外部素線群は19本の外部素線により構成される。該21本の内部素線は、6本の標準素線と、15本の強化素線により構成される。該19本の外部素線は、19本の標準素線と、0本の強化素線とにより構成される。本実施例において、内部素線群における強化素線混合率は約71%であり、外部素線群における強化素線混合率は0%である。
また、本例に係る電線Wは、外部素線群と、外部素線群より強化素線混合率が高い内部素線群とを含み、かつ、内部素線群に属する複数の素線の配置の規則性が、外部素線群に属する複数の素線の配置の規則性よりも乏しいとの構成を備え、長期にわたる高い信頼性を有する。また、詳細の説明や図示を省略するが、図1図3に示した電線Wと同様に、本例に示す電線Wは、内部素線輪郭を構成する多角形の頂点数のばらつきは外部素線輪郭を構成する多角形の頂点数のばらつきより大きい、外部素線輪郭の形状は内部素線輪郭の形状より真円に近い、内部素線輪郭の縦横比Rは外部素線輪郭の縦横比Rより大きい、又は最大の面積を有する空隙部が内部素線群と外部素線群との間の領域に形成されている、のうち、1つ以上の構成を有することで、長期にわたる高い信頼性を有する。
【0036】
本実施例において、図4に示すように、内部素線群IWは標準素線からなる内部素線IW(2)と、該内部素線IW(2)にそれぞれ隣接する強化素線からなる内部素線IW(1)及び強化素線からなる内部素線IW(3)とを含む。内部素線群IWのうち、これら以外の内部素線も、標準素線(ハッチングが施されず)と、該標準素線に隣接する複数の強化素線(ハッチングが施してある)とを含む。電線の断面において、内部素線群IWの形成された領域内で、標準素線と強化素線との相互の位置関係はランダムであり、または、特定の規則性を備えずに混ざりあって存在している。このように、内部素線群IWが強化素線と標準素線とを含むことにより小径軽量な電線Wを得られる。
また、図示は省略するが、標準素線と強化素線は、図1及び図2に示した内部素線と同様に、ある断面と、異なる断面において、その配置、並び、及び/又は形成領域などが、異なるように構成されている。このような構成とすることにより、少なくとも電線Wの一定の長さを含む領域においては、強化素線が内部素線群IWの形成領域内に、均一に配置された構成に近い特性を得ることができる。
また、内部素線群IWに属する全ての標準素線が、2本以上の強化素線と隣接するように構成されている。あるいは、内部素線群IWに属する全ての標準素線のうち、過半数の標準素線が、4本以上の強化素線と隣接するように構成されていても良い。このように、内部素線群IWの形成領域内において、互いに異なる機械的特性を有する素線を隣接させることにより、例えばいずれかの素線において、クラックが発生したとしても、別素線へのクラックの伝播を抑制することができるため、長期にわたる高い信頼性を有する電線が得られる。
【0037】
さらに素線数が多い場合においても同様に、素線束を構成する素線の数に応じて、内部素線群の強化素線混合率を適切な範囲に制御することで小径軽量と高い信頼性を備えた電線を得ることができる。例えば、全素線数が20本以下の素線束においては、内部素線群の強化素線混合率を85%以上かつ100%以下とすることが好ましく、全素線数が20本より大きく、かつ、50本以下の素線束においては内部素線群の強化素線混合率を50%以上かつ100%以下とすることが好ましく、60%以上かつ90%以下とすることがさらに好ましい。全素線数が50本より大きな素線束においては内部素線群の強化素線混合率を40%以上かつ75%以下とすることが好ましい。
【0038】
また、本開示の電線を複数含むケーブルを形成するとき、各電線の備える素線束を構成する素線本数に応じて、それぞれの内部素線群の強化素線混合率を調整することが好ましい。例えば、全素線数がn本の素線束WB1を含む電線と、全素線数がm本の素線束WB2を含む電線とを含むケーブルにおいて、nとmとは共に自然数かつmはnよりも大きいとき、素線束WB1の内部素線群IWの強化素線混合率は、素線束WB2の内部素線群IWの強化素線混合率よりも大きくすることが好ましい。
【0039】
図5を用いて、電線Wの第2実施形態を説明する。本実施形態に係る電線は、複数の導体束が撚りあわされてなる集合導体を備える点が、第1実施形態にかかる電線と異なる点を除き、他の構成は第1実施形態と同一である。よって、ここでは,第1実施形態と共通する構成についてはその詳細な説明を省略し,第1実施形態と異なる箇所のみについて説明する。
本実施形態において、集合導体は、素線束WB1、導体束WB2、および導体束WB3を含む。これらの素線束は、それぞれが、第1実施形態の導体束WBと同様の構成を有する。即ち、断面視において内部素線群IWと、その周囲に形成された外部素線群OWとを備える。また、内部素線群IWの強化素線混合率は、外部素線群OWの強化素線混合率より大きい。そして、内部素線の配置の規則性は、外部素線の配置の規則性よりも乏しい。本実施形態に係る電線Wはこのような構成を有することにより、長期にわたる高い信頼性を備える。また、素線束WB1、導体束WB2、および導体束WB3のうち、一つまたは複数の素線束は、図1図3に示した電線Wと同様に、内部素線輪郭を構成する多角形の頂点数のばらつきは外部素線輪郭を構成する多角形の頂点数のばらつきより大きい、外部素線輪郭の形状は内部素線輪郭の形状より真円に近い、内部素線輪郭の縦横比Rは外部素線輪郭の縦横比Rより大きい、又は最大の面積を有する空隙部が内部素線群と外部素線群との間の領域に形成されている、のうち、1つ以上の構成を有していることが好ましい。
【0040】
図5(a)に示す電線Wが含む素線束WB1、導体束WB2、および導体束WB3は、それぞれ、8本の素線からなる内部素線群IWと、12本の素線からなる外部素線群OWとを備える。本実施形態において、内部素線群IWの強化素線混合率は100%であり、外部素線群OWの強化素線混合率は0%である。即ち、外部素線群OWは全て標準素線で構成されている。したがって、図5(a)に示す電線Wは合計で60本の素線を含み、そのうち、32本の素線が各導体束において内部素線として配置されることになる。
図5(b)に示す電線Wが含む素線束WB1、導体束WB2、および導体束WB3は、それぞれ、17本の素線からなる内部素線群IWと、16本の素線からなる外部素線群OWとを備える。本実施形態において、内部素線群IWの強化素線混合率は約94%であり、外部素線群OWの強化素線混合率は0%である。即ち、外部素線群OWは全て標準素線で構成されている。したがって、図5(b)に示す電線Wは合計で99本の素線を含み、そのうち、51本の素線が各導体束において内部素線として配置されることになる。
【0041】
このように、外部素線群と、外部素線群より強化素線混合率が高い内部素線群とを含む複数の導体束を撚り合わせた集合導体を備える電線は、特に、大きな電流を流すことが求められる場合に好適である。例えば図4に示す構成のまま、さらに全素線数を大きくしていくと、素線数が大きくなるに従い、電線の全素線数に占める内部素線数の割合が大きくなる。内部素線数が非常に大きな電線では、強化素線の比率が低下するために信頼性向上効果を得られにくくなる。この対策として、強化素線の比率を高くすると抵抗値が高くなり素線束や電線の径が大きくなってしまう。
これに対して、集合導体を外部素線群と、外部素線群より強化素線混合率が高い内部素線群とを含む複数の導体束を撚り合わせた構成とすることにより、小径軽量と高い長期信頼性の両立が可能となる。
【0042】
例えば、素線数がおよそ100の場合、67本の内部素線と32本の外部素線からなる素線束を1つ含む電線としても良く、17本の内部素線と16本の外部素線からなる素線束を3本含む電線としても良い。後者の合計内部素線数は51本であり、内部素線数の比率が小さくなることがわかる。また、集合導体が備える素線束の数は3本に限定されず、例えば7本としても良い。また、外部素線群の層数を2層または3層とし、内部素線数を減らすことも検討可能だが、工程数が増えるだけでなく、複数層ある外部素線群の内側の層の信頼性が不利になるため、外部素線群は単層として形成することが好ましい。
【0043】
(素線材料)
以下、本開示の電線に好適な素線材料について説明する。第1実施形態および第2実施形態に適用される標準素線および強化素線は、いずれも、電気抵抗の小さな金属を主成分とする導体材料により構成されると良い。このような金属としては、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。また、標準素線と強化素線とは、同一の主成分金属からなる導体材料の組み合わせとして構成されることが特に好ましい。これらの中でも、本開示の電線における標準素線及び強化素線は、ともに、銅を主成分とした導体材料により構成されることが特に好ましい。銅を主成分とした導体材料としては、例えば、無酸素銅、軟銅、銅合金などが挙げられる。これらの導体材料は、互いの物理的な特性が極端に離れていないため、同一の素線束に適用しても信頼性のバラツキが生じにくい。その上、引張り強度が強化された銅合金材料であっても一定の導電率を有しているため、電線の太さを抑制することができる。
【0044】
標準素線の構成材料として、無酸素銅や軟銅が好適である。軟銅は、タフピッチ銅とも呼ばれ、該銅材料は重量比で99.9%以上の銅(Cu)を含む。該銅材料は非常に大きな導電率を有する良導体であり、導電率は90%IACSより大きく、好ましくは100%IACS以上である(導電率%IACSは20℃における値。以下も同様)。一方、その引張り強度は一般的に280MPa以下である。
強化素線の構成材料としては、合金銅が好適である。合金銅素線は、例えば銅(Cu)とスズ(Sn)とを含む銅合金材料で構成され、銅とスズの合計に対するスズの含有量は重量費で0.1%より大きく、0.3%以上であることが好ましい。該銅合金材料の導電率は軟銅素線を構成する銅材料に比べると小さいが、70%IACS以上、好ましくは80%IACS以上の導電率を有し、鉄(Fe)や鉄(Fe)を主成分とする他の導体に比べると十分に高い導電率を有している。合金銅素線を構成する銅合金材料の引張り強度は300MPa以上である、このましくは340MPa以上である。合金銅素線の構成材料としては上記の他に、主成分銅(Cu)に対して、クロム(Cr)、銀(Ag)、及び/又はジルコニウム(Zr)を添加した銅合金を適用しても良い。
強化素線の材料としては、例えばFe系合金など、他の導電性金属を主成分とする材料も適用可能である。ただし、材料としての導電率が小さいものが多いため、強化素線混合率が制限される虞がある。このため、Fe系合金などを材料とする強化素線を適用する電線は、強化素線混合率が制限される構成であっても信頼性向上効果が得られる動作機構への適用が好ましい。
【0045】
前述のように、標準素線又は強化素線が太い場合には、材料にかかわらず信頼性を確保することが難しくなる。従って、標準素線及び強化素線の直径は0.02mm以上かつ0.10mm以下であることが好ましい。また、標準素線と強化素線とは太さが略等しいことが好ましい。強化素線の直径は標準素線の直径の0.9倍以上かつ1.1倍以下であれば良く、0.95倍以上かつ1.05倍以下であれば特に好ましい。あるいは、強化素線が標準素線より僅かに細くても良く、この場合、強化素線の直径は標準素線の直径の0.9倍以上かつ1.0倍未満であれば良い。
また、標準素線および強化素線は、いずれも、表面に導体が露出しているとよい。このような構成とすることにより、同一の素線群に属する各素線の間で、また、異なる素線群に属する各素線の間でも径方向の導通が得られ、電線としての使用時には同電位となる。標準素線および強化素線は、いずれも、表面に導体薄膜層を備えていても良い。導体としてはスズ(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などの金属が好ましく、例えばめっき、スパッタ、押出しにより形成されている。
【0046】
(電線の製造方法)
以下、図6を用いて、本開示の電線Wの製造方法を説明する。電線Wは、これに限定されないが、内部素線群の形成と、外部素線群の形成とをそれぞれ独立した工程とし、かつ、異なる撚り条件とすることで得ることができる。まず、標準素線と強化素線とを準備する(S10)。次に、少なくとも1本以上の強化素線を含む複数の素線を一括して撚ることにより内部素線群を形成する(S20)。このとき、例えば、典型的には同心撚りと呼ばれるように、特定の1本の素線を中心位置に固定し、該1本の素線の周囲を6本の素線で巻回させた合計7本の素線からなる内部素線群を形成すると、内部素線群の素線配置の規則性が大きなものとなってしまう。あるいは、特定の1本の素線の代わりに3本の素線が寄り合わされたものを中心位置に固定し、該3本の素線の周囲を9本の祖先で巻回させた合計12本の素線からなる内部素線群も同様に素線配置の規則性が大きなものとなってしまう。このため、内部素線群の全素線数は、あえて、7本、12本、14本のように規則的かつ高密度に配置可能な本数ではなく、8、11、あるいは17など、高密度規則配置になりにくい本数としても良い。
【0047】
内部素線群の形成においては、各内部素線が、できるだけ多くの他の内部素線と接し及び/又は交差するように撚り合わせることが好ましい。特に、内部素線群が形成された領域の重心位置近傍及び/又は周縁部近傍に位置が固定された内部素線を含まないようにすることで素線配置の規則性が大きくなることを抑制することができる。ここで、内部素線群の形成において、撚りの際に各素線に加わるテンションを調整したり、撚った後に撚り線を通過させる絞りダイスの構成、特にダイスの内径、等により、素線配置の規則性に乏しい内部素線群を形成することができる。
【0048】
次に、内部素線群の周囲に複数の素線を巻回させることで、外部素線群を形成する(S30)。外部素線群の形成においては、内部素線群の形成とは逆に素線配置の規則性が高い撚り方が必要となる。典型的には、複数の素線が互いに平行に配置されるように、内部素線群の周囲を螺旋状に巻回させる。外部素線群の巻き方向は、内部素線群の巻き方向と同じ向きとすることが好ましい。捻回を含む変形時にそれぞれの素線群の変形の向きをそろえることができる。内部素線群と外部素線群とで巻き方向を揃える場合は、巻きピッチに差を設けると良い。内部素線と外部素線とに異なる機械的特性を有し、素線間で変形挙動の違いが発生する場合であっても、内部素線と外部素線と絡まりあうリスクを小さくできる。
なお、外部素線群の形成にあたり、ここでは外部素線群の規則性を大きくするために、撚り時のテンションやダイスを調整する。ただし、過度に規則性を大きくすることにより、内部素線群の拘束を大きくしすぎない程度に調整する必要がある。
【0049】
このようにして形成した導体束の外部素線は高い規則性を備える。例えば、他の素線の撚りを解くことなく、任意の一本の外部素線のみの撚りを解く事が可能である。一方で内部素線群の各素線は、外部素線群を全て除去した場合を含め、各素線が小さな規則性で、つまり、ランダムまたはランダムに近い状態で互いに絡み合っているため、他の素線の撚りを解くことなく除去することは困難な状態であっても良い。
【0050】
第2実施形態に係る電線Wを製造する場合は、集合導体を形成する(S40)。本工程においては、外部素線群が形成された複数の素線束を互いに撚りあわせる。図5に示したように3本の素線束を互いに撚り合わせてもよく、あるいは、1本の素線束を中心に配置し、その周囲に6本の素線束を螺旋状に巻回させて7本の素線束からなる集合導体としても良い。尚、第1実施形態に係る電線Wや第1実施形態の別に例に係る電線Wの製造においては、本工程は省略できる。
【0051】
次に、S30で形成された素線束または、S40で形成された集合導体上に例えば押出などにより絶縁層を形成する(S50)。これにより、本開示の電線Wを得ることができる。絶縁層には、例えばふっ素樹脂等の熱可塑性の高分子材料を適用できる。ふっ素樹脂としては、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンーヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが機械的強度や難燃性の観点で好適である。
【0052】
(ケーブル)
本開示の電線Wは単独で使用しても長期的な信頼性を提供できるが、複数の電線を備えるケーブルとしての適用にも好適である。本開示のケーブルは、本開示の電線Wに沿って、複数の素線からなる撚線導体及び前記撚線導体の外周を被覆するように形成された絶縁層を備えた他の電線を形成することにより得ることができる。概他の電線が本開示の電線Wの構成を有さない場合であっても、ケーブル内において組み合わされる本開示の電線Wが小径軽量との特徴を有するため、例えば摺動時において組み合わされた電線の慣性動作によるストレスを抑制でき、長期にわたる信頼性に優れたケーブルを得ることができる。
【0053】
ケーブル内の複数の電線が本開示に係る電線Wのいずれかであることが好ましく、それらの電線Wを撚りなどにより束ねると良い。ここで複数の電線Wは、共通の素線数からなる素線束をそれぞれ備えていることが好ましい。あるいは、互いに異なる素線数からなる素線束を有する2種以上の電線を撚り合わせても良い。この場合は、上述のように、内部素線数が大きな素線束を有する電線の内部素線の強化素線含有率を、内部素線数が小さな素線束を有する電線の内部素線の強化素線含有率より小さくすることが好ましい。特に、互いに異なる素線数からなる素線束を有する2種以上の電線において、各電線の備える素線束の数が等しいときにこのような構成とすることが好ましい。また、各電線の備える素線束の数が異なるとき、素線束の数が大きな電線の内部素線の強化素線含有率を、素線束の数が小さな電線の内部素線の強化素線含有率より大きくしても良い。
【0054】
好適なケーブルの実施形態の例を説明する。このシースは、綿糸などからなる介材、複数の電線W、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、あるいはフッ素ポリマーなどの絶縁材料からなる保護被覆(シース)層を備える。ケーブルは略円形の断面構造を有し、その断面の中心位置に介材層が形成され、該介材層の外周を覆うように、複数の電線Wを含む電線配置層が形成され、該電線配置層の外周を覆うように保護絶縁層が形成されている。電線配置層と保護絶縁層との間に編組または横巻きで形成されたシールド層をさらに備えていても良い。
【0055】
本開示に係る電線、ケーブルは、例えば半導体製造装置や、産業用ロボットが備えた複数の接続部の間に架け渡される形で適用可能である。これらの接続部の間の電気的な接続を行い、電気信号及び/又は電力を伝達する。これらの複数の接続部の相対的な位置及び/又は角度が変化した場合であっても、電線、ケーブルが変形することで、電気的な接続を維持することができる。本開示に係る電線、ケーブルは小径軽量であるため動作機構の負荷を小さくでき、かつ、高速の変形や繰り返し曲げなどの外的なストレスを受ける環境であっても、長期にわたり、高い信頼性を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
W 電線、 IW 内部素線群、 OW 外部素線群、 WB 素線束、 IL 絶縁層、 CLI 内部素線群輪郭、 CLO 外部素線群輪郭、 D1 最大距離、 D2 垂直距離


図1
図2
図3
図4
図5
図6