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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】新梢伸長抑制装置、及び新梢管理方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 17/00 20060101AFI20231227BHJP
   A01G 17/10 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A01G17/00
A01G17/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019231557
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021097640
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-12-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 葉子
(72)【発明者】
【氏名】原 昌生
(72)【発明者】
【氏名】柚木 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】田村 晃一
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-131861(JP,U)
【文献】実開昭57-054262(JP,U)
【文献】特開昭57-036915(JP,A)
【文献】特開平01-095710(JP,A)
【文献】実公昭61-006749(JP,Y2)
【文献】特開平02-261325(JP,A)
【文献】実開昭57-072264(JP,U)
【文献】特開2013-063029(JP,A)
【文献】特開2002-084902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 17/00 - 17/08
A01G 7/00 - 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本以上の紐状体と、
前記紐状体に固定された1以上の加傷部材と、
前記紐状体と該紐状体に固定された前記加傷部材とを往復運動させる駆動装置とを有し、
果樹用栽培棚の上方に設置され
前記駆動装置が駆動することにより往復運動する前記加傷部材が、新梢または新葉を傷付けることを特徴とする新梢伸長抑制装置。
【請求項2】
前記駆動装置が、前記紐状体の一端の巻取と他端の繰出とを同時に行う多層式の巻取装置であることを特徴とする請求項1に記載の新梢伸長抑制装置。
【請求項3】
ブドウ、ナシ、キウイフルーツ、スモモ、サクランボ、リンゴ、カキ、モモの中から選ばれるいずれかの果樹に用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の新梢伸長抑制装置。
【請求項4】
果樹の新梢に対して、少なくとも対向する2方向から加傷部材を接触させ、新梢または新葉を傷付けることにより、新梢の伸長を抑制することを特徴とする新梢管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹用栽培棚の上方に設置される新梢伸長抑制装置、及び新梢管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ブドウ、ナシ、キウイフルーツ、スモモ、サクランボ等の果樹において、栄養分を果実に集中させて肥大させるために、余分な新梢を除去する新梢管理が行われている。新梢管理は、作業者が栽培棚上方で略水平方向に伸びる枝の間から手を伸ばして上方に伸びる新梢を剪定はさみ等により除去するという手作業で行われており、特に夏季等の生長が早い時期には膨大な作業量となる。
【0003】
ここで、接触刺激が植物の生長を抑制することが知られている。特許文献1~4には、接触刺激により植物の生長を管理する装置が提案されている。しかし、これらはいずれも幼苗やいちご等の柔軟な植物に用いるものであり、剛直な樹木に対して用いることは記載されておらず、生長を抑制した部分をその後に利用するため、接触刺激の際に植物体を傷付けないように構成されている。また、樹木の新梢管理は、栽培棚の上方で行われるものであるが、これらの装置は大がかりで重量が大きいため、高い位置に設置するには頑丈な骨組み等が必要であり、既に樹木が育っている果樹園等に後設することは、現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公昭61-6749号公報
【文献】特開平2-261325号公報
【文献】実開平6-52426号公報
【文献】実開平7-13124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人手による新梢管理の手間を減らすことができる新梢伸長抑制装置と新梢管理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.1本以上の紐状体と、
前記紐状体に固定された1以上の加傷部材と、
前記紐状体を往復運動させる駆動装置とを有し、
果樹用栽培棚の上方に設置されることを特徴とする新梢伸長抑制装置。
2.前記駆動装置が、前記紐状体の一端の巻取と他端の繰出とを同時に行う多層式の巻取装置であることを特徴とする1.に記載の新梢伸長抑制装置。
3.ブドウ、ナシ、キウイフルーツ、スモモ、サクランボ、リンゴ、カキ、モモの中から選ばれるいずれかの果樹に用いられることを特徴とする1.または2.に記載の新梢伸長抑制装置。
4.果樹の新梢に対して、少なくとも2方向から加傷部材を接触させて傷付けることにより、新梢の伸長を抑制することを特徴とする新梢管理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の新梢伸長抑制装置は、加傷部材が、新梢、新葉等を傷付けることにより、傷付けられた新梢の伸長を抑制することができる。本発明の新梢伸長抑制装置は、軽量であるため、果樹用栽培棚の上方に容易に設置することができる。本発明の新梢伸長抑制装置は、各部材が軽量で小さいため、既に樹木が育っている果樹園等に容易に後設することができる。
駆動装置が、紐状体の一端の巻取と他端の繰出とを同時に行う多層式の巻取装置である新梢伸長抑制装置は、巻取装置が空回りすることなく、紐状体を確実に往復運動させることができる。また、多層式の巻取装置を備えた新梢伸長抑制装置は、駆動装置の数を減らすことができるため軽量であり、装置構成が簡便であるため低コストである。
本発明の新梢伸長抑制装置により、人手による新梢管理の手間を大幅に削減することができ、農作業の省力化、省人化が達成でき、特に新梢管理の手間が大きなブドウ、ナシ、キウイフルーツ、スモモ、サクランボ、リンゴ、カキ、モモ用として好適に用いることができる。
【0008】
本発明の新梢管理方法は、加傷部材が、少なくとも2方向から新梢に接触することにより、新梢が、加傷部材からの衝撃を逃すように加傷部材の動く方向に沿って伸びることを防止し、より確実に新梢、新葉等を傷付けることができるため、新梢の伸長を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施態様である新梢伸長抑制装置の上方からの概略図。
図2】一実施態様である新梢伸長抑制装置の図1左側からの概略図。
図3】別の実施態様である新梢伸長抑制装置の上方からの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の新梢伸長抑制装置は、1本以上の紐状体と、この紐状体に固定された1以上の加傷部材と、この紐状体を往復運動させる駆動装置とを有し、果樹用栽培棚の上方に設置されることを特徴とする。
【0011】
本発明の新梢伸長抑制装置の使用対象とする果樹は、栽培棚を用いて栽培される種類であれば特に制限されないが、例えば、ブドウ、ナシ、キウイフルーツ、スモモ、サクランボ、リンゴ、カキ、モモ、イチジク、ウメ、マンゴー、アーモンド、クリ、クルミ、ブルーベリー等を挙げることができ、これらの中でブドウ、ナシ、キウイフルーツ、スモモ、サクランボ、リンゴ、カキ、モモが好ましい。
本発明の新梢伸長抑制装置は、果樹の栽培時に用いられる栽培棚の上方に設置されるものであるが、栽培棚は、果樹の結実部を栽培棚に沿って伸ばすものであれば特に制限されず、平棚、Y字等の斜め棚、トレリス等の垂直棚であってもよく、棚の段の数も1段に限定されず、複数段であってもよい。
【0012】
本発明の新梢伸長抑制装置は、果樹用であり、果樹の新梢の伸長を抑制するために、加傷部材により、新梢、新葉等を傷付けることを特徴とする。果樹(樹木)において新梢の伸長を抑制するには、新梢、新葉等を傷付けることが重要であり、これらを傷付けない単なる接触刺激のみでは、新梢の伸長抑制効果は小さい。
【0013】
本発明の一実施態様である新梢伸長抑制装置の上方からの概略図を図1に、図1左側からの概略図を図2に示す。
一実施態様である新梢伸長抑制装置1は、果樹用栽培棚(図1では図示せず)の上方に設置されている。
一実施態様である新梢伸長抑制装置1は、紐状体11と、加傷部材12と、駆動装置13とを有する。駆動装置13は、一つの回転軸に2個の主動プーリーが軸支された二層式の巻取装置であり、この2個の主動プーリーのそれぞれに紐状体11の一端と他端とが接続されている。
さらに、一実施態様である新梢伸長抑制装置1は、加傷部材12と接触することで駆動装置13の回転方向を変えるリミットスイッチ14と、紐状体11に沿って伸びるガイドワイヤ15と、駆動装置13とリミットスイッチ14等に接続される制御部(図示せず)を有し、加傷部材12は、その両端にガイドワイヤ15が挿通されるガイドリングを備える。
【0014】
紐状体11は、長辺約15m、短辺約1mの矩形状となるように従動プーリーに巻き掛けられ、その両端が駆動装置13である二層式の巻取装置に接続されている。
本発明の新梢伸長抑制装置において、紐状体としては、張力が加わっても破断しにくいものを特に制限することなく使用することができ、例えば、金属製ワイヤ、プラスチック製ワイヤ、ローラーチェーン、ロープ、ザイル等を用いることができる。これらの中で、張力が加わっても伸長しにくく、軽量で頑丈なため、ワイヤが好ましい。また、紐状体は、異なる材質からなる紐状体が長さ方向で接続されていてもよく、例えば、駆動装置がスプロケット(歯車)を備える場合に、スプロケットと接触する部分はローラーチェーンを用い、他の部分はワイヤ等の異種の紐状体とすることができる。
【0015】
加傷部材12は、紐状体11の長辺となる部分にそれぞれ5m間隔で3本ずつ、計6本が固定されている。加傷部材12は、その両端にガイドリングを備え、ガイドリングは、紐状体11の長辺部分に沿って配置されたガイドワイヤ15に挿通されている。加傷部材12は、その両端に備えるガイドリングがガイドワイヤ15に挿通されているため、駆動時における上下方向の動きが抑制され、略水平に維持されている。
【0016】
本発明の新梢伸長抑制装置は、比較的柔らかい新梢、新葉等を傷付けるものである。加傷部材としては、新梢、新葉等を傷付けることができるものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、刃、糸鋸刃等の刃物により傷をつける刃状部材、針、サンドペーパー、面ファスナーのフック部等の剛直な凹凸により傷をつける凹凸部材、狭幅部等に新梢を挟み込みこの新梢から伸びる新葉を引っ掛けて毟り取る引掛部材等を用いることができる。また、加傷部材の移動スピードが速い場合や、加傷部材の接触頻度が高い場合は、角パイプ、チェーン等も加傷部材として用いることができる。これらの中から、対象とする植物種の新梢、新葉の硬さ、大きさ、折れやすさ、加傷部材の移動スピード、接触頻度等に応じて、適当なものを選択することができる。加傷部材として適しているかは、新梢と接触するように3日程度駆動させた後に、目視で新梢、新葉等に折れ、傷付き、褐変等があるか否かにより判別できる。
【0017】
本発明の新梢伸長抑制装置において、加傷部材の移動速度は、対象とする植物種の新梢、新葉等を傷付けることができるのであれば特に制限されず、使用する加傷部材の種類、対象とする植物種等に応じて、選択することができる。この移動速度が速いほど加傷させるための衝撃力が強く、新芽、新梢を傷付けることができる。例えば、加傷部材の移動速度は、30cm/分以上60m/分以下が好ましく、30cm/分以上12m/分以下がより好ましい。
本発明の新梢伸長抑制装置において、加傷部材が駆動する頻度は特に制限されず、使用する加傷部材の種類、対象とする植物種の生長の早さ等に応じて選択することができる。加傷部材が駆動する頻度は、例えば、1分~24時間に1往復が好ましく、5分~60分に1往復がより好ましい。
【0018】
一実施態様において、駆動装置13は二層式の巻取装置であり、2個の主動プーリーのそれぞれに紐状体11の一端と他端とが接続されている。また、駆動装置13は、制御部によりタイマーが設定されており、駆動と停止とを所定の間隔で繰り返すことができる。
一実施態様である新梢伸長抑制装置1は、紐状体11の両端が二層式の巻取装置に接続されているため、この巻取装置が一方向に回転することにより紐状体の一端が巻き取られながら他端が繰り出され、この巻取装置が逆方向に回転することで紐状体の他端が巻き取られながら一端が繰り出される。すなわち、巻取装置の回転により、紐状体の両端のいずれか一方が巻き取られるため、巻取装置が空回りすることを防ぎ、確実に紐状体を動かすことができる。
【0019】
本発明の新梢伸長抑制装置は、新梢の抵抗に負けることなく駆動することが必要である。駆動装置の出力は、装置の設置規模、紐状体の総延長、紐状体と加傷部材の総重量、加傷部材の移動速度、植物種の新梢の硬さ等により選択することができるが、例えば、一実施態様である長辺15mの規模では5W以上100W以下、より大規模な長辺が50mで加傷部材が20本程度の規模では15W以上750W以下程度から選択することができる。
【0020】
駆動装置は、空回りすることなく確実に紐状体を運動させることが求められる。紐状体を確実に運動させるための構成としては、例えば、駆動装置として紐状体と接続された巻取装置を用いる、紐状体にローラーチェーンを用い、このローラーチェーンと噛み合うスプロケットを備えた駆動装置を用いる、紐状体が緩まないように張力を加えるテンショナーを設ける、紐状体を挟み込むように2個の駆動装置を用いる等の構成が挙げられる。
本発明の新梢伸長抑制装置において、駆動装置を地上に設置することもできる。駆動装置を地上に設置する場合は、回転軸(シャフト)を果樹用栽培棚の上方に伸ばす、または、従動プーリーを介して紐状体を果樹用栽培棚の上方から地上方向へ伸ばせばよい。
【0021】
一実施態様である新梢伸長抑制装置1は、2個のリミットスイッチ14を有し、各リミットスイッチ14に加傷部材12が接触することにより、スイッチが切り替わって駆動装置13の回転方向が逆となる。駆動装置13の回転方向を正逆方向に切り替えることにより、紐状体11の運動方向が切り替わり、紐状体11と、紐状体11に固定された加傷部材12を往復運動させることができる。
【0022】
本発明の新梢伸長抑制装置は、紐状体を往復運動させることにより、この紐状体に固定された加傷部材を往復運動させる。そのため、加傷部材は、新梢に対して2方向から接触することができる。加傷部材が、新梢に対して1方向のみ接触すると、新梢が加傷部材の進行方向に伸びて、加傷部材の通過時に下方に撓んで傷付きにくくなるが、加傷部材が2方向から接触することで、新梢、新葉等を効率的に傷付けることができる。
【0023】
図1に示す新梢伸長抑制装置は一実施態様に過ぎず、本発明の新梢伸長抑制装置はこの一実施態様に限定されない。例えば、図3に示す別の実施態様の新梢伸長抑制装置100のように、駆動装置13として歯車を有するものを用い、紐状体11の一部をこの歯車と嵌合するローラーチェーン111とすることができ、また、紐状体11の緩みを防止するためにテンショナー16を設けることができる。さらに、紐状体の両端のそれぞれに別々の巻取装置を接続してもよく、n本(n≧2)の紐状体の各末端を2n個の主動プーリーを有する巻取装置の各主動プーリーに接続することもできる。栽培棚が多段である場合は、駆動装置の回転軸を長くし、一本の回転軸の栽培棚の各段に対応する高さ位置にプーリーまたはスプロケットを設け、複数本の紐状体とこれらに接続された加傷部材を駆動することができる。また、ガイドワイヤ等により、加傷部材を斜め方向や鉛直方向に固定することもできる。さらに、2本以上の紐状体を同一の加傷部材に接続する構成とすることもでき、この場合は2本以上の紐状体が加傷部材の姿勢を維持する役割も兼ねることができるから、ガイドワイヤとガイドリングを省略することもできる。
【実施例
【0024】
試験1:ブドウ(シャインマスカット)の新梢管理1
(1)試験方法
群馬県農業技術センター内のブドウ「シャインマスカット」(平棚・短梢栽培・11年生)を供試して、2016年6月~8月に実施した。
栽培棚の葉面上に、長さ1.5mのアルミアングル(幅25×25mm、厚さ2mm)を、長さ方向中央部を軸として15wモータにより6.7rpmで回転するように設置した。このアルミアングルの底面の両側辺には全長にわたり、厚さ0.64mmの鉄工用糸鋸刃を接着して取り付けた。アルミアングルは、ブドウ葉の上面にわずかに触れる程度となるように、棚線から約22cm上方に設置した。回転動作は間欠とし、1回の動作時間は1回転(10秒)で、次回の動作開始までは14分50秒とした。1動作ごとに逆回転とし昼夜問わず稼働させた。器具設置時の新梢長は30cm程度であった。
【0025】
(2)結果
設置した器具は、試験期間中、設定どおりに動作した。
設置後約7日ごとに、同一の新梢3枝について新梢長さを経時的に調査した。また、無管理区は、同様に新梢12枝について調査した。新梢長さと1日あたり伸長量の平均値を、下記表1に示す。
【表1】
【0026】
無管理区における新梢の1日あたり伸長量は、6月下旬~7月中旬にかけては平均で20~30mm程度であった。また、樹勢が強く、1日に70mm以上伸長し7月下旬で2m程度、8月下旬には4m以上となる新梢もあった。
器具設置区では、新梢長さ測定時に、新梢、新葉等に傷が付いていることが確認できた。器具設置区における新梢の1日あたり伸長量は、6月下旬~7月中旬にかけては平均で-3~5mm程度であった。新梢長さは、新梢の先端が傷付けられて折れた枝が発生したため、8月下旬に27.5cmと試験開始時よりも短くなった。器具設置区は無管理区に比べて7月中旬頃から棚下が明るいことが確認できた。
試験1は、加傷部材である鉄工用糸鋸刃が回転運動するものであるが、加傷部材による効果を確認することができた。
【0027】
試験2:ブドウ(シャインマスカット)の新梢管理2
(1)試験方法
図1に示す一実施態様である新梢伸長抑制装置について、2018年5月~7月に、試験1と同一のブドウ樹「シャインマスカット」(平棚・短梢栽培・13年生)を供試して実施した。
栽培棚の葉面上に、図1に示す一実施態様である新梢伸長抑制装置を設置した。障害物に対して撓むことができるグラスファイバー棒(園芸用ダンポール、直径5.5mm、長さ1m)に、面ファスナーのフック部を、フック面が外側となるように巻き付け、加傷部材とした。加傷部材の中央を駆動ワイヤに固定し、駆動ワイヤの両側25cmの位置に張ったガイドワイヤとガイドリングで接続し、加傷部材の水平姿勢を保持させた。往復動作は、移動速度を5cm/秒、動作間隔を10分とし、昼夜問わず稼働させた。
【0028】
(2)結果
新梢伸長抑制装置の動作は5月29日から7月24日までとし、概ね順調に動作した。装置設置後約7日おきに、同一の新梢10枝について新梢長さを経時的に調査した。また、無管理区は、同様に新梢10枝について調査した。新梢長さと1日あたり伸長量の平均値を、下記表2に示す。
【表2】
【0029】
装置設置区における新梢の1日あたり伸長量は、1~5mmであった。また、7月下旬の新梢長さは0~80cm程度であり、7月24日の平均値は46cmであった。
無管理区における新梢の1日あたり伸長量は、13~35mmであった。また、7月下旬の新梢長さはいずれの調査枝も100cmを超え、7月24日の平均値は154cmであった。
試験後に、面ファスナーのフック部について破損や摩耗は目視では認められず、外見上の変化はなかった。装置設置区では、生長点の萎縮や新梢の褐変、葉の欠損、脱落等が見られ、加傷部材により傷付けられていることが確認できた。生長点の萎縮に伴い副梢の発生が多くなり無管理区に比べて小型の葉が多くなった。度重なる加傷部材の刺激により、新梢全体が枯死して付け根から脱落する枝も見られた。
【0030】
試験3:ブドウ(シャインマスカット)の新梢管理3
(1)試験方法
新梢と接触する部材および動作頻度の違いによるブドウの新梢伸長抑制効果について、以下の方法によりその影響を検討した。なお、試験2で用いた新梢伸長抑制装置は実験条件の変更が困難なため(特に加傷部材が同一の紐状体に接続されているため動作間隔は変更できない)、試験1と同様に加傷部材は回転運動とした。
2019年6月~7月に、試験1、2と同一のブドウ樹「シャインマスカット」(平棚・短梢栽培・14年生)を供試して実施した。
栽培棚の葉面上に、長さ1.5mの接触部材を、長さ方向中央部を軸として6wモータにより10rpmで回転するように設置した。接触部材としては、アルミ丸パイプ(径25mm、厚さ2mm)、アルミ角パイプ(幅25×25mm、厚さ2mm)、およびアルミ丸パイプに面ファスナーフック部のフック面を外側にして巻き付けたものを用いた。回転動作は間欠とし、1回の動作は1回転(6秒)とし、動作間隔は5分、20分、120分の3段階を設定した。1動作ごとに逆回転とし、昼夜問わず稼働させた。
【0031】
(2)結果
設置した器具は、試験期間中、設定どおりに動作した。
器具設置後約7日ごとに、各区の同一新梢3~7枝について、新梢長さを経時的に調査した。無管理区も同様に調査した。新梢長さと伸長量の平均値を、下記表3、4に示す。
【表3】
【表4】
【0032】
無管理区における調査期間である1ヶ月間の新梢の伸長量は47cmであった。
器具設置区で最も効果が高かったのは動作頻度5分で接触材質が面ファスナーのフック部であった。接触部材の材質が面ファスナーのフック部、角パイプ、丸パイプの順に、また、動作間隔が5分、20分、120分の順(接触頻度が高いほど)に、伸長抑制効果に優れており、樹木の新梢伸長抑制には、新梢、新葉等を傷付けることが重要であることが確かめられた。
丸パイプ区の動作間隔20分、120分では、新梢、新葉等への傷付きがほとんど確認できなかった。丸パイプ区の動作間隔20分は、無管理区とほぼ同等の結果となっており、新梢伸長抑制効果が小さかった。丸パイプ区の動作間隔120分は、新梢伸長抑制効果が高かったが、これは、この試験区の調査枝の樹勢が弱く伸長量が小さかったためであり、新梢、新葉等が傷付いていないことから、本来であれば無管理区と同等の結果となると予測される。
【0033】
試験4:梨(幸水)の新梢管理
(1)試験方法
新梢と接触する部材および動作頻度の違いによるナシの新梢伸長抑制効果について、以下の方法によりその影響を検討した。なお、試験2で用いた新梢伸長抑制装置は実験条件の変更が困難なため(特に加傷部材が同一の紐状体に接続されているため動作間隔は変更できない)、試験1と同様に加傷部材は回転駆動とした。
群馬県農業技術センター内のナシ「幸水」(ジョイント栽培・7年生)を供試して、2019年5月~7月に実施した。
ナシの栽培棚の葉上に、アルミ角パイプ(幅25×25mm、厚さ2mm)を、長さ方向中央部を軸として6wモータにより10rpm、直径100cmで回転するように設置した。アルミ角パイプは、葉を傷付けないように花芽付け根から約15cm上方に設置した。
接触材質の検討では、アルミ角パイプに鉄工用糸鋸刃を取り付けた区、砥粒滑り止めシートを取り付けた区、およびアルミ角パイプに何も取り付けない区の3試験区とした。鉄工用糸鋸刃は、厚さ0.64mmで角パイプから2mm張り出して角パイプの回転する面の上面と下面の両方に全長にわたり接着した。砥粒滑り止めシートは砥粒付きの幅50mm、厚さ0.8mmのシートで、角パイプの下面から側面にかけて接着した。
回転動作は間欠に設定し昼夜問わず稼働させた。接触した新梢が一方向に傾かないように、1動作ごとに逆回転とし、1回の動作は16秒間(2.7回転)とした。動作間隔は、10分と60分の2段階を設定した。
【0034】
(2)結果
器具設置後約10日ごとに、各区の同一の新梢6枝について伸長量を経時的に調査した。調査枝は着果している新梢とした。無管理区も同様に調査を行った。新梢長さと伸長量の平均値を、下記表5、6に示す。
【表5】
【表6】
【0035】
調査期間の5月下旬~7月下旬までの2ヶ月間に無管理区の新梢の伸長量は21cmであった。
器具設置区で最も効果が高かったのは動作頻度10分で接触材質が滑り止めシートのもので、伸長量は4.7cmであった。動作頻度では、60分と10分に大きな差はなかった。接触材質では、接触面の抵抗が大きい滑り止めシートと鉄工用糸鋸刃の効果が高く、また、これらの区では、新梢先端の欠損、萎縮や褐変、新葉の欠損、新梢途中からの折れが確認できた。角パイプは、無管理区と同程度で効果は認められず、また、新梢、新葉等の傷付きも見られなかった。試験3では、角パイプで新梢伸長抑制効果が見られたが、これは、ナシの新梢がブドウの新梢よりも硬く、傷付きにくいためである。
【符号の説明】
【0036】
1、100 新梢伸長抑制装置
11 紐状体
111 ローラーチェーン
12 加傷部材
13 駆動装置
14 リミットスイッチ
15 ガイドワイヤ
16 テンショナー
図1
図2
図3