(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】管継手
(51)【国際特許分類】
F16L 21/08 20060101AFI20231227BHJP
F16L 37/091 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F16L21/08 B
F16L37/091
(21)【出願番号】P 2019169139
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2022-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2019129721
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019131632
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019133177
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000145530
【氏名又は名称】株式会社潤工社
(72)【発明者】
【氏名】依田 啓治
(72)【発明者】
【氏名】高根澤 大松
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-232720(JP,A)
【文献】米国特許第05695224(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 21/08
F16L 37/091
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部に管体を挿入可能な継手本体と、該継手本体内にあって該管体の外周を把持する把持具と、該中空部と該管体との隙間を埋めるシールリングとを備える管継手であって、
該把持具は、環状部と、該環状部から内側に且つ斜め該管体の挿入方向に延出した複数の爪部とを備えたものであり、
該中空部に該管体を挿入したときの、該爪部の該管体中心軸に対する角度をα1(度)とすると、α1が40より大きく70以下であり、該管体に50Nの引抜荷重をかけたときの、該爪部の該管体中心軸に対する角度をα2(度)とすると、以下の式(1)を満たし、且つ
該中空部に該管体を挿入した状態で該爪部が該管体に食い込む量は、該管体の厚みの3%以上35%未満であることを特徴とする管体が接続された管継手。
-2≦α2-α1<35 (1)
【請求項2】
請求項1において、前記爪部と前記管体中心軸に対する角度α1(度)と前記爪部と前記管体中心軸に対する角度α2(度)が以下の式(2)を満たし、且つ
該中空部に該管体を挿入した状態で該爪部が該管体に食い込む量は、該管体の厚みの3%以上28%未満であることを特徴とする管体が接続された管継手。
-2≦α2-α1≦25 (2)
【請求項3】
請求項1において、前記爪部と前記管体中心軸に対する角度α1(度)と前記爪部と前記管体中心軸に対する角度α2(度)が以下の式(3)を満たし、且つ
該中空部に該管体を挿入した状態で該爪部が該管体に食い込む量は、該管体の厚みの3%以上15%未満であることを特徴とする管体が接続された管継手。
-2≦α2-α1≦10 (3)
【請求項4】
前記
管継手に接続される管体が、JIS K7215に準拠して測定した硬度がHDD60以上であることを特徴とする請求項1乃至3
のいずれか一項に記載の管体が接続された管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の管体が接続された差し込み式継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、継手に管体を挿入するだけで継手と管体とを接続することが可能な差し込み式継手が知られている。工具を用いることなく管体の装着を行うことができるため管体の接続作業が簡便であり、工具を用いるのが不便な狭スペースの配管などにも、広く用いられている。この種の継手では、管体の挿入のしやすさと確実な装着、使用中の管体の抜けや内部流体の漏れが発生しない信頼性が必須である。
【0003】
このような差し込み式継手は、継手本体内に内蔵された把持具によって管体が抜けないように保持する構造となっており、継手に挿入した管体に内圧がかかって管体が引き抜き方向に変位すると、把持具が食い込んで管体を係止するものである。たとえば、特開2004‐232720には、差し込み式継手において、ロックリングの初期食い付き力やチューブを強く引っ張った際の引抜強度に、ばらつきが見られるという問題に対し、配管を挿入した初期食い付き時のロックリング下面と配管の表面とがなす角度が20~40度となるようにした管継手が開示されている(特許文献1参照)。 しかし、これらの従来の差し込み式継手では、使用条件によって管体の抜けや漏れが発生することがあり、使用が制限されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、その目的は、従来使用が制限されてきた条件においても管体抜けや流体漏れが発生しにくい差し込み式管継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、管体の抜けや流体漏れが発生しにくい管体が接続された管継手を鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0007】
即ち、上記目的達成のため、本発明の継手は、中空部に管体を挿入可能な継手本体と、該継手本体内にあって該管体の外周を把持する把持具と、該中空部と該管体との隙間を埋めるシールリングとを備える継手であって、該把持具は、環状部と、該環状部から内側にかつ斜め該管体の挿入方向に延出した複数の爪部とを備えたものであり、
該中空部に該管体を挿入したときの、該爪部の該管体中心軸に対する角度をα1(度)とすると、α1が40より大きく且つ70以下であり、該管体に50Nの引抜荷重をかけたときの、該爪部の該管体中心軸に対する角度をα2(度)とすると、以下の式(1)を満たし、且つ該中空部に該管体を挿入した状態で該爪部が該管体に食い込む量は、該管体の厚みの3%以上35%未満であることを特徴とする。
-2≦α2-α1<35 (1)
【0008】
前記爪部の前記管体中心軸に対する角度α1(度)と、前記爪部と前記管体中心軸に対する角度α2(度)は、以下の式(2)を満たし、且つ該中空部に該管体を挿入した状態で該爪部が該管体に食い込む量は、該管体の厚みの3%以上28%未満であることがより好ましい。
-2≦α2-α1≦25 (2)
また、前記爪部の前記管体中心軸に対する角度α1(度)と、前記爪部と前記管体中心軸に対する角度α2(度)は、以下の式(3)を満たし、且つ該中空部に該管体を挿入した状態で該爪部が該管体に食い込む量は、該管体の厚みの3%以上15%未満であることがさらに好ましい。
-2≦α2-α1≦10 (3)
【0009】
本発明の継手に接続される管体は、JIS K7215に準拠して測定した硬度が HDD60以上であることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の管継手の一実施形態を説明する図である。
【
図2】本発明の管継手用の把持具の構造の一例を説明する図であり、(A)は平面図、(B)はA-A´断面図である。
【
図4】本発明の差し込み式管継手の把持具と管体の関係を表す図である。
【
図5】把持具と管体の接触部分の拡大イメージ図である。
【
図6】把持具の爪部の管体への食い込み深さを説明する図である。
【
図7】本発明の差し込み式管継手において、把持具の爪部の管体中心軸に対する角度の変位量と耐圧性を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の管継手の一実施形態を示す部分断面側面図である。
図1の実施形態を例に、本発明の差し込み式管継ぎ手の構成を説明する。
【0012】
図1の実施形態で示した管体が接続された管継手1は、中空部に管体を挿入可能な継手本体110と、この継手本体内にあって管体2の外周に接触して管体を把持する把持具120と、継手本体110と管体2との隙間を埋めるシールリング130と、把持具120とシールリング130を継手本体110内に止める押えリング140とを備えている。継手本体の形状によっては、押さえリング140は無くてもよい。本発明において、矢印Iの方向を挿入方向とし、矢印Rの方向を引抜方向とする。
【0013】
継手本体110は筒状であり、その内壁面には、管体挿入方向奥側から順に、中空部の管体挿入部分の底部111a、シールリング130を係止する段部111b、把持具120を係止する段部111c、押えリング140を係止する段部111d、が設けられている。継手本体110の材質は、ステンレスまたは黄銅などの金属であることが好ましい。
【0014】
図2は、
図1の本発明の差し込み式管継手用の把持具120の一例であり、その構造を説明する図である。
図2(A)は平面図であり、
図2(B)は、
図2(A)のA‐A´断面図である。把持具120は、環状部121と、環状部から内側にかつ斜め管体挿入方向に延出した複数の爪部122を備える。爪部122は、爪の本体部122aと爪の先端部122bから構成され、爪の先端122bが、管体に接触して管体を把持する。
図2では、爪部が3つの爪で構成される例を示しているが、爪の数は、3つ、または5つなど、3つ以上の爪で構成されてもよい。
図3は、把持具120の環状部121と爪部122の角度を説明する図である。本発明の差し込み式管継手用の把持具120は、環状部121と爪部122の角度θ(度)が20から50の範囲であることが好ましく、25から40であることがより好ましく、25から35であることがさらに好ましい。
【0015】
図4は、本発明の差し込み式管継手において、管体2を継手本体に挿入した状態の把持具120と管体2の関係を表す図であり、管体2を挿入した状態の継手1を管体2の中心軸に沿う面で切断したときの断面における、把持具と管体の相互の位置関係を表している。ここで、“爪部の該管体中心軸に対する角度”とは、管体2の中心軸線Bと把持具120の爪部122の中心線Cとの間の角度であり、これを、爪部の該管体中心軸に対する角度α(度)とする。継手本体の中空部に管体を挿入したときの前記角度α(度)をα1(度)とし、管体に50Nの引抜荷重をかけたときの上記角度α(度)をα2(度)とする。“継手本体の中空部に管体を挿入したとき”の状態とは、継手に管体を挿入した後、管体内部を加圧したり管体に引抜荷重をかける前の状態を指す。
【0016】
従来の差し込み式継手は、継手本体の中空部に管体を挿入したときの状態において、継手に管体を挿入する前の状態と比較して、把持具の爪部が管体中心軸に対して管体挿入方向に傾斜している。その後、その管体内部が加圧されると、管体に引抜方向の力が作用して管体が引抜方向に変位し、把持具の爪部先端は、管体に追従して管体の引抜方向に変位する。従来の差し込み式継手は、把持具の爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)と爪部の該管体中心軸に対する角度α2(度)が35より大きく変化して把持具の爪部が管体に食い込むように設計されている。
【0017】
本発明の差し込み式継手は、継手本体の中空部に管体を挿入する前の状態と、継手本体の中空部に管体を挿入したときの状態とで、把持具の爪部の管体中心軸に対する角度の変化が小さく、継手本体の中空部に管体を挿入したときの、該爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)は、40より大きく70以下の範囲である。該爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)は、50より大きく65以下の範囲であることがより好ましく、55より大きく65以下の範囲であることがさらに好ましい。その後、その管体内部が加圧されて管体に引抜方向の力が作用したときにも、把持具の爪部は、管体の中心軸に対する相互位置の変化が小さく、把持具の爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)と爪部の該管体中心軸に対する角度α2(度)の変化は35より小さい。把持具の爪部が管体へ食い込む量は、中空部に管体を挿入したときから管体に50Nの引抜荷重をかけたときまで、管体の厚みの3%以上35%未満の状態を維持するが、把持具の爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)と爪部の該管体中心軸に対する角度α2(度)の変化は35より小さいので、把持具の管体への過度の食い込みが抑えられている。たとえば、把持具の管体への食い込みは、管体の厚みの35%未満に抑えられる。
【0018】
本発明の差し込み式継手用の把持具の材質は、機械的強度が高く弾性を有する金属で構成することが好ましい。たとえばステンレス鋼、リン青銅、ベリリウム鋼、ニッケル‐すず鋼などが好適であり、これらの金属板を打ち抜いて成形することができる。また、把持具は、把持具の耐つぶし強度が15N~25Nとなるように設計されることが好ましい。把持具の耐つぶし強度は、主に把持具に使用する材質、肉厚、把持具の環状部と爪部の角度θ、によって決まり、耐つぶし強度が小さいと、爪部と管体外周面との間の角度α1が大きくなる傾向があり、耐つぶし強度が大きすぎると管体を損傷するなどの悪影響を生じる可能性が高い。把持具の耐つぶし強度は、次のように測定する。把持具の爪部先端が下側になるように平面上に置き、把持具の環状部まで覆う大きさのブロックを把持具の上に押し当てて5mm/minの速度で圧縮し、押し込み量が0.5mmになったときの荷重を、把持具の耐つぶし強度とする。
【0019】
図5は、本発明の差し込み式継手の、管体2を挿入した状態の継手を管体2の中心軸に沿う面で切断したときの断面における、把持具と管体との接触部分近傍の拡大イメージ図である。本発明の差し込み式継手用把持具の爪部122は、爪部先端に向けて連続的且つ段階的に断面積が小さくなる。爪の先端部122bの管体挿入方向に対向する面123aと、前記管体の表面との角度θ1は、60度以下であることが好ましく、45度以下であることがより好ましい。管体と接触する爪の先端部は、90度以上の角度で構成される多面であることが好ましい。たとえば、
図5で示した例では、爪の先端部の管体挿入口側の面123aと爪の先端部の第2面123bとの間の角度θ2は、110度である。
【0020】
本発明の差し込み式継手のシールリング130は、継手本体110の段部111bに配置され、管体を挿入したときには継手本体110の内壁面と管体の外周面に弾接し、気(液)密性を保つよう配置される。シールリングは、断面が円形状のOリングのほか、たとえば断面U字形状など、他の形状でもよい。シールリング130は、把持具120の爪部と接しており、把持具120が管体を把持する作用をサポートしている。
【0021】
本発明の差し込み式継手は、上述のように、継手に該管体を挿入したときの把持具の爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)と、該管体に50Nの引抜荷重をかけたときの該爪部の該管体中心軸に対する角度α2(度)の関係は、-2≦α2-α1<35 の式を満たす範囲であることが好ましい。該爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)と、管体に50Nの引抜荷重をかけたときの該爪部の該管体中心軸に対する角度α2(度)の関係は、-2≦α2-α1≦25 の式を満たす範囲であることがより好ましく、-2≦α2-α1≦10の式を満たす範囲であることがさらに好ましい。α1(度)とα2(度)の関係が上記範囲にある本発明の差し込み式継手は、高い圧力がかかるなどにより、管体に引抜荷重がかかったときに、把持具の爪部先端の変位が小さく、管体を把持する力が安定して得られる。
【0022】
本発明の差し込み式継手には、JIS K7215に準拠して測定した硬度が HDD60以上の管体を接合して使用することが好ましい。HDD60以上の管体を接合して使用したとき、本発明の継手の機能をより効果的に得ることができる。
【0023】
本発明の差し込み式継手の
図1に示した実施形態で用いられる押えリング140は、継手本体110の段部111dで動きが制限されるように配置されている。把持具120の環状部は、押えリング140と継手本体110の段部111cとの間で動きが制限されている。押えリング140は、継手と管体に高い圧力や引抜荷重が加わっても変形することがないように、ステンレスまたは黄銅などの金属で形成されることが好ましい。
【0024】
本発明の管継手は、さらに、把持具の管体への食い込みを解除するリリーススリーブ150を備えていることが好ましい。リリーススリーブ150は、継手と管体に高い圧力や引抜荷重が加わっても変形することがないように、ステンレスまたは黄銅などの金属や、高硬度の樹脂で形成されることが好ましい。
【実施例】
【0025】
[測定方法]
各種測定は、以下のように行う。
<把持具爪部の管体中心軸に対する角度の測定>
継手に長さ100mm程度にカットした管体を挿入する。管体内部に圧力をかけない状態、または管体に引き抜き荷重をかけない状態で、管体内部と継手にエポキシ樹脂を流し込み、硬化させる。エポキシ樹脂が完全に硬化したら、エポキシ樹脂ごと継手と管体を管体中心軸に沿う面で切断し、観察しやすいように切断面を研磨する。画像計測が可能なデジタルマイクロスコープを使用して、切断した断面を観察し、角度を測定する。管体中心軸と把持具爪部の中心線との間の角度αを測定し、“継手中空部に管体を挿入したときの、該爪部の該管体中心軸に対する角度α1(度)”とする。 長さ100mm程度にカットした管体の両端に継手を接合する。管体に接合された継手を引張試験機に固定する。引張試験機に固定した継手と管体に、50Nの引張荷重を加えた状態で保持し、少なくとも一方の管体と継手の接合部に樹脂が満たされるようにエポキシ樹脂を流し込み、硬化させる。エポキシ樹脂が完全に硬化したら、引張試験機の引張荷重を解除し、引張試験機から継手と管体を取り外す。硬化させたエポキシ樹脂ごと、管体中心軸に沿う面で継手と管体を切断し、観察しやすいように切断面を研磨する。画像計測が可能なデジタルマイクロスコープを使用して、切断した断面を観察し、角度を測定する。管体中心軸と把持具爪部の中心線との間の角度αを測定し、“管体に50Nの引抜荷重をかけたときの、該爪部の該管体中心軸に対する角度をα2(度)”とする。
爪部の爪の中心線が曲線で構成される場合、爪部先端の中心と把持具の継手本体側の支点となる場所の中心を結ぶ線を爪部の中心線とする。
<爪部が管体に食い込む量の測定>
上記<把持具爪部の管体中心軸に対する角度の測定>で準備した、管体中心軸に沿う面で継手と管体を切断したサンプルを、画像計測が可能なデジタルマイクロスコープを使用して観察し、管体の肉厚に対する爪部の食い込み深さを測定する。その手順は以下の通りである。画像から、把持具爪部122の爪表面122Aの線、管体の外表面2aおよび管体の内表面2bの線を抽出する。画像上で、管体の外表面2aの線を、把持具の爪を横断するように延長させ、その延長した線をもって、管体の外壁の線2Aとする。また、爪部が管体に食い込むことにより管体の内表面が変形している場合には、管体の内表面が変形していない部分同士を直線でつないだ線を管体の内壁の線2Bとして採用し(
図6参照)、管体の内表面が変形していないときは、管体の内表面2bの線をそのまま管体の内壁の線2Bとする。管体の外壁の線2Aから管体の内壁の線2Bまでの垂直距離を、管体の厚みとする。管体の厚みは、数ヵ所測定して平均値を採用することが好ましい。爪部の食い込み深さは、管体の外壁の線2Aから、管体の厚み方向において、爪部122のうち深く最も食い込んでいる位置までの距離とする。爪部が管体に食い込む量は、これらの測定値から次のように算出する。
【数1】
<引抜強度の測定>
継手の引抜強度の測定は、管体として硬質ナイロンチューブを使用し、管体に継手を接合して引張試験機に設置し、JIS規格 JIS B 8381‐1の引抜強度試験条件に準拠して引抜強度を測定する。具体的には、長さ100mmにカットしたナイロンチューブの両端に継手に接合し、引張試験機にその継手部分を固定する。引張試験機を稼働させ、引抜速度200mm/minで管体を引張り、管体が継手から抜けた時の荷重を測定し、継手の引抜強度とする。測定は23℃±2℃の雰囲気で行う。
<気密試験>
継手の気密試験は、管体として硬質ナイロンチューブを使用し、管体内部を加圧して流体の漏れを確認する。具体的には、長さ100mmにカットしたナイロンチューブを継手に接合し、流体で管体内部を1MPaおよび5MPaまで加圧し、5分間保持して流体の漏れを確認する。流体として窒素、水、油(シリコンオイル)を用いる。いずれの流体でも漏れが確認されないものをOKとする。
<耐圧試験>
継手の耐圧試験は、管体として硬質ナイロンチューブまたはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)チューブを使用し、管体に継手を接合した状態で、配管内の圧力を上昇させて、継手または管体に破損を生じた場合、または継手から管体が抜けた場合、その圧力値を確認する。具体的には、長さ100mmにカットしたナイロンチューブの両端に継手に接合し、片方の継手から空気を注入して加圧し、継手または管体に破損を生じた場合、または継手から管体が抜けた時の圧力を確認し、耐圧試験値とする。耐圧が15MPaを超える場合は、硬質ナイロンチューブが破損することがあるため、PEEKチューブを管体として用いて測定する。
<繰り返し着脱試験>
耐圧試験を行った後の継手で、気密試験を繰り返し行い、流体の漏れが発生するまでの繰り返し回数を確認する。耐圧試験において、把持具またはその他の継手部品の破損などにより、管体着脱不能となったものはNGとする。
<把持具の耐つぶし強度の測定>
把持具の爪部先端が下側になるように平面上に置き、把持具の環状部まで覆う大きさのブロックを把持具の上に押し当てて5mm/minの速度で圧縮し、押し込み量が0.5mmになったときの荷重を、把持具の耐つぶし強度とする。
<管体の硬度測定>
本発明の差し込み継手に接合する管体の硬度は、JIS K7215に準拠して測定する。測定サンプルの管体は、長手方向に沿って半割し、管体の内径と同じ外径の、金属製の円柱または厚肉の金属パイプの上に被せて安定させた状態で、圧子が垂直になるように管体表面に押し付け、1秒以内に計測する。10か所測定し、その平均値を硬度とする。
【0026】
実施例1~4、比較例1
外径4mm用のサイズの差し込み式継ぎ手を作成し、評価を行った。差し込み式継手の中空部に管体を挿入したときの、把持具の爪部の管体中心軸に対する角度α1(度)、該管体に50Nの引抜荷重をかけたときの、把持具の爪部の管体中心軸に対する角度α2(度)が表1に記載した角度となるように、把持具と、相互の配置を設計した。各実施例および比較例の継手の引抜強度、気密試験、耐圧試験、繰り返し着脱試験の各種評価を行った結果を表1に示す。評価用の管体には、JIS K7215に準拠して測定した硬度が HDD80で、外径が4mmのナイロンチューブを使用した。
【0027】
【表1】
実施例1~4は、継手に管体を挿入したときと管体に50Nの引抜荷重をかけたときの、管体の中心軸に対する把持具の爪部の角度の変化が小さく、把持具の爪部の管体中心軸に対する角度α1(度)と管体に50Nの引抜荷重をかけたときの該爪部の管体中心軸に対する角度α2(度)の関係が-2≦α2-α1<35を満たし、爪部が管体に食い込む量は、管体の厚みの3%以上35%未満の範囲にあり、耐圧試験における耐久性が良好だった。また、繰り返し着脱試験において、試験後に繰り返し使用しても十分な性能を維持していた。
図6は、各実施例および比較例の耐圧試験の結果を、把持具の爪部の管体中心軸に対する角度α1(度)と管体に50Nの引抜荷重をかけたときの、該爪部の管体中心軸に対する角度α2(度)の関係 α2-α1の値を横軸に、耐圧試験値を縦軸にとって表した図である。
とくに、実施例1および2は、把持具の爪部の管体中心軸に対する角度α1(度)と管体に50Nの引抜荷重をかけたときの、該爪部の管体中心軸に対する角度α2(度)の関係が、-2≦α2-α1≦10を満たす範囲にあり、耐圧試験および繰り返し着脱試験における耐久性が特に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
従来の差し込み式継手において使用が制限されてきた条件で使用する場合や、管体着脱を繰り返す場合にも、管体の抜けや流体漏れが発生しにくく、空圧や油圧用の差し込み式継手として広く利用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 継手、 110 継手本体、 120 把持具、 130 シールリング、 140 押えリング、 150 リリーススリーブ、 2 管体