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特許7410490閉鎖型陸上養殖装置及びそれを用いた陸上養殖方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】閉鎖型陸上養殖装置及びそれを用いた陸上養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20231227BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20231227BHJP
   B01D 35/027 20060101ALI20231227BHJP
   B01F 21/00 20220101ALI20231227BHJP
   B01F 23/2326 20220101ALI20231227BHJP
   B01F 23/237 20220101ALI20231227BHJP
   B01F 25/31 20220101ALI20231227BHJP
   B01F 25/4314 20220101ALI20231227BHJP
   B01F 25/452 20220101ALI20231227BHJP
【FI】
A01K63/04 D
C02F1/00 L
B01D35/02 C
B01F21/00
B01F23/2326
B01F23/237
B01F25/31
B01F25/4314
B01F25/452
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019136466
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2021019509
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】512004648
【氏名又は名称】株式会社リスニ
(73)【特許権者】
【識別番号】521475392
【氏名又は名称】株式会社アクアフューチャー研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】武居 廣雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 啓雄
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-92954(JP,A)
【文献】国際公開第2016/195116(WO,A2)
【文献】特開2008-173525(JP,A)
【文献】特開2013-158250(JP,A)
【文献】特開平8-238041(JP,A)
【文献】特開平7-236389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0050312(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/04
B01F 23/20
B01D 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖池内に養殖水と甲殻類又は魚類からなる被養殖動物とを収容し、主ポンプを用いて前記養殖池から前記養殖水を濾過槽に導き、前記養殖水中に浮遊する有機残渣を濾過しつつ前記養殖池内に戻して循環させながら、前記養殖池内に飼料を投入して前記被養殖動物を飼育するための閉鎖型陸上養殖装置において、
前記養殖水の酸素濃度が2.5ppm以上7ppm以下に維持されるように前記養殖水に酸素含有気体を供給しつつ溶解する酸素溶解機構と、
前記養殖池に前記養殖水の流入口が連通するとともに、他端側が前記養殖水の前記養殖池への戻し口とされたキャビテーション処理用配管と、
前記キャビテーション処理用配管の途上に設けられ、一端に前記養殖水の入口を、他端に前記養殖水の出口を有するノズル流路が形成されるとともに、該ノズル流路の一部区間がキャビテーション処理部として定められたノズル本体と、前記キャビテーション処理部にて前記ノズル流路の中心軸線と直交する仮想的なねじ配置面内に前記ノズル本体に脚部先端側が流路内側に突出するように組付けられる複数のねじ部材とを備え、前記ねじ配置面における全流通断面積が3.8mm以上確保されるとともに、前記養殖水を前記養殖水入口から前記養殖水出口に向けて流通させ、前記キャビテーション処理部にて前記ねじ部材の脚部外周面に形成されたねじ谷に前記養殖水を増速しつつ接触させることにより、該養殖水に対し溶存空気の減圧析出に基づくキャビテーション処理を行なうキャビテーションノズルと、
前記キャビテーション処理用配管の途上において前記主ポンプに兼用されているか又は前記主ポンプとは独立に設けられ、前記キャビテーションノズルに前記養殖水を、前記キャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec以上となるよう前記キャビテーションノズルの前記全流通断面積に応じて定められる規定流量にて流通させるキャビテーション処理用ポンプと、
を備え、
前記酸素溶解機構は、前記キャビテーションノズルとは別に設けられた、前記養殖池を満たす養殖水に外部から供給される前記酸素含有気体を平均気泡径が0.1mm以上0.5mm以下となるように噴射する散気部を含むことを特徴とする閉鎖型陸上養殖装置。
【請求項2】
養殖池内に養殖水と甲殻類又は魚類からなる被養殖動物とを収容し、主ポンプを用いて前記養殖池から前記養殖水を濾過槽に導き、前記養殖水中に浮遊する有機残渣を濾過しつつ前記養殖池内に戻して循環させながら、前記養殖池内に飼料を投入して前記被養殖動物を飼育するための閉鎖型陸上養殖装置において、
前記養殖水の酸素濃度が2.5ppm以上7ppm以下に維持されるように前記養殖水に酸素含有気体を供給しつつ溶解する酸素溶解機構と、
前記養殖池に前記養殖水の流入口が連通するとともに、他端側が前記養殖水の前記養殖池への戻し口とされたキャビテーション処理用配管と、
前記キャビテーション処理用配管の途上に設けられ、一端に前記養殖水の入口を、他端に前記養殖水の出口を有するノズル流路が形成されるとともに、該ノズル流路の一部区間がキャビテーション処理部として定められたノズル本体と、前記キャビテーション処理部にて前記ノズル流路の中心軸線と直交する仮想的なねじ配置面内に前記ノズル本体に脚部先端側が流路内側に突出するように組付けられる複数のねじ部材とを備え、前記ねじ配置面における全流通断面積が3.8mm 以上確保されるとともに、前記養殖水を前記養殖水入口から前記養殖水出口に向けて流通させ、前記キャビテーション処理部にて前記ねじ部材の脚部外周面に形成されたねじ谷に前記養殖水を増速しつつ接触させることにより、該養殖水に対し溶存空気の減圧析出に基づくキャビテーション処理を行なうキャビテーションノズルと、
前記キャビテーション処理用配管の途上において前記主ポンプに兼用されているか又は前記主ポンプとは独立に設けられ、前記キャビテーションノズルに前記養殖水を、前記キャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec以上となるよう前記キャビテーションノズルの前記全流通断面積に応じて定められる規定流量にて流通させるキャビテーション処理用ポンプと、
を備え、
前記酸素溶解機構は、前記キャビテーションノズルにて前記酸素含有気体を溶解するために、前記キャビテーションノズルに前記酸素含有気体と前記養殖水との混相流を供給する混相流供給部を含み、前記キャビテーションノズルは前記酸素溶解機構の一部として機能することを特徴とする閉鎖型陸上養殖装置
【請求項3】
一端に流入口、他端に流出口が形成される中空の外筒部材と、前記外筒部材の内側に設けられ、前記流入口と前記流出口とをつなぐ螺旋状流路を、該螺旋状流路の螺旋軸線が前記外筒部材の中心軸線に沿うように形成する流路形成部材とを備え、前記螺旋状流路が前記キャビテーションノズルの前記ノズル流路に連通するように、前記キャビテーションノズルの前記養殖水入口側に設けられる気液ミキサーを備え、
前記混相流供給部は、前記気液ミキサーの前記流入口に前記混相流を供給するものである請求項2記載の閉鎖型陸上養殖装置
【請求項4】
前記酸素溶解機構は前記養殖水の酸素濃度が3ppm以上6ppm以下に維持されるように前記養殖水に前記酸素含有気体を供給しつつ溶解するものである請求項1から3のいずれか1項に記載の閉鎖型陸上養殖装置。
【請求項5】
前記キャビテーションノズルは、前記ノズル流路が円形断面を有するものとして形成され、各前記キャビテーション処理部には前記ねじ部材として、ねじピッチ及びねじ谷深さが0.20mm以上0.40mm以下、公称ねじ径Mが1.0mm以上2.0mm以下のねじ部材が複数配置されるとともに、前記ノズル流路の中心軸線と直交する平面への投影にて前記ノズル流路の断面中心から該ノズル流路の半径の70%以内の領域に位置する谷点の全ねじ配置面間で合計した総数を、前記ノズル流路の断面積で除した70%谷点面積密度と定義したとき、前記70%谷点面積密度の値が1.6個/mm2以上に確保されたものが使用されてなる請求項1から4のいずれか1項に記載の閉鎖型陸上養殖装置。
【請求項6】
前記キャビテーションノズルの1時間当たりの流通流量が、前記養殖池の貯水量をV1、前記キャビテーションノズルの1時間当たりの流通流量をV2として、
K=V2/V1×100 (%)
にて表される流通循環比Kが2%以下となるように調整される請求項に記載の閉鎖型陸上養殖装置。
【請求項7】
前記キャビテーション処理用配管の前記流入口に設けられ、前記養殖池内の浮遊物が前記キャビテーション処理用配管内に流入することを抑制するキャビテーション処理用濾過部と、
前記キャビテーション処理用配管内を流通する前記養殖水の流量を検出する流量検出部と、
前記キャビテーション処理用濾過部への前記浮遊物の堆積に伴う流量損失を補う形で、前記キャビテーション処理用ポンプによる前記キャビテーションノズルへの送液流量を前記規定流量に制御するキャビテーション流量制御部とを備える請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の閉鎖型陸上養殖装置。
【請求項8】
前記濾過槽に前記養殖水の流入口が連通するとともに、他端側が前記養殖水の前記養殖池への戻し口とされた濾過用主配管と、
前記濾過用主配管の前記流入口に設けられ、前記濾過槽内の浮遊物が前記濾過用主配管内に流入することを抑制する補助フィルタリング部とを備え、前記主ポンプが前記濾過用主配管上に設けられるとともに、
前記キャビテーション処理用配管が、前記主ポンプの下流側にて前記濾過用主配管から分岐し、かつ、前記濾過用主配管とは別位置にて前記養殖池に対する前記戻し口を開口させる形で設けられ、
また、前記養殖水の前記主配管と前記キャビテーション処理用配管との分配比をバルブ開度に応じて調整する分配バルブが設けられ、
前記主ポンプが前記キャビテーション処理用ポンプに、前記補助フィルタリング部が前記キャビテーション処理用濾過部にそれぞれ兼用されるとともに、
前記キャビテーション流量制御部は、前記補助フィルタリング部への前記浮遊物の堆積に伴い前記主ポンプの送水流量が減少した場合に、前記養殖水の前記キャビテーション処理用配管への分配比が増加するように前記分配バルブの開度を調整制御するものである請求項に記載の閉鎖型陸上養殖装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の閉鎖型陸上養殖装置を用い、前記養殖池内に前記養殖水と前記被養殖動物とを収容し、前記主ポンプを用いて前記養殖池から前記養殖水を前記濾過槽に導き、前記養殖水中に浮遊する有機残渣を濾過しつつ前記養殖池内に戻して循環させながら、前記養殖池内に飼料を投入して前記被養殖動物を飼育することを特徴とする陸上養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、閉鎖型陸上養殖装置及びそれを用いた陸上養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上の養殖池内にて養殖水を濾過循環させ、エビやカニなどの甲殻類あるいは魚類などの被養殖物を養殖する閉鎖型陸上養殖方法が種々提案されている。一方、マイクロバブルやナノバブルなどの微細気泡を養殖水中に形成しつつ養殖を行なうことで、エビなどの養殖物の成長促進を図る提案もなされている。例えば、特許文献1、2においては、絞り孔にねじ部材を配置したキャビテーションノズルを用いて微細気泡を発生させるようにしている。ここで、えら呼吸によって溶存酸素を取り込む魚類や甲殻類などの場合、養殖水中の酸素濃度はなるべく高い方が有利と認識されている。また、キャビテーションノズルは減圧沸騰により溶存酸素を消費して微細気泡化するので、粗大な気泡の浮上による溶存酸素の損失を補う意味でも、養殖水中の酸素濃度は高い方がよいと考えられている。
【0003】
特許文献1、2においては、空気(酸素)ないしオゾンをアスピレータにより養殖水と気液混合し、さらにタンク内にて過飽和に加圧溶解処理した上でキャビテーションノズルに導いている。よって、養殖池内の養殖水の酸素濃度はほぼ飽和値(8ppm)に維持されていると考えられ、かつ、キャビテーションにより発生する大量の酸素を含有した微細気泡は、酸素濃度が飽和した養殖水の場合再溶解が進みにくいので、浮上により損失するまでの間は気泡の状態を保っているものと考えられる。この酸素微細気泡は、被養殖物による溶存酸素の消費を補う、いわば「酸素のリザーバ」としての機能が期待されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-240206号公報
【文献】特開2012- 40448号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「ナノバブル水中のナノバブルの解析」 Nanotech Japan Bulletin Vol. 8, No. 4, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が詳細に検討したところ、養殖水中に大量の微細気泡が浮遊していると魚類やエビ・カニなどの被養殖物のえらに気泡が付着し、溶存酸素の取り込みが返って阻害されて、被養殖物の生育が却って妨げられ、甚だしい場合には被養殖物の少なからぬ斃死を招く場合があることが判明した。
【0007】
本発明の課題は、養殖水のキャビテーション処理に伴う微細気泡の過剰発生を防止しつつも、被養殖物の生育促進等は問題なく図ることができる閉鎖型陸上養殖装置と、それを用いた陸上養殖方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の閉鎖型陸上養殖装置は、養殖池内に養殖水と甲殻類又は魚類からなる被養殖動物とを収容し、主ポンプを用いて養殖池から養殖水を濾過槽に導き、養殖水中に浮遊する有機残渣を濾過しつつ養殖池内に戻して循環させながら、養殖池内に飼料を投入して被養殖動物を飼育するための閉鎖型陸上養殖装置において、養殖水の酸素濃度が2.5ppm以上7ppm以下に維持されるように養殖水に酸素含有気体を供給しつつ溶解する酸素溶解機構と、養殖池に養殖水の流入口が連通するとともに、他端側が養殖水の養殖池への戻し口とされたキャビテーション処理用配管と、キャビテーション処理用配管の途上に設けられ、一端に養殖水の入口を、他端に養殖水の出口を有するノズル流路が形成されるとともに、該ノズル流路の一部区間がキャビテーション処理部として定められたノズル本体と、キャビテーション処理部にてノズル本体に脚部先端側が流路内側に突出するように組付けられる複数のねじ部材とを備え、養殖水を養殖水入口から養殖水出口に向けて流通させ、キャビテーション処理部にてねじ部材の脚部外周面に形成されたねじ谷に養殖水を増速しつつ接触させることにより、該養殖水に対し溶存空気の減圧析出に基づくキャビテーション処理を行なうキャビテーションノズルと、キャビテーション処理用配管の途上に設けられ、キャビテーションノズルに養殖水をキャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec以上となる規定流量にて流通させるキャビテーション処理用ポンプとを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の陸上養殖方法は、上記本発明の閉鎖型陸上養殖装置を用い、養殖池内に養殖水と被養殖動物とを収容し、主ポンプを用いて養殖池から養殖水を濾過槽に導き、養殖水中に浮遊する有機残渣を濾過しつつ養殖池内に戻して循環させながら、養殖池内に飼料を投入して被養殖動物を飼育することを特徴とする。
【0010】
本発明において使用可能な酸素含有気体は、例えば空気、酸素ガス、あるいは酸素を周知の酸素濃縮装置等で濃縮した酸素濃化空気などであり、酸素以外の残部は窒素等の不活性ガスで構成するのがよい。なお、酸素含有気体中の酸素濃度は、大気組成に対応する例えば20体積%以上であれば特に限定されない。
【0011】
本発明においては、被養殖物による消費により減少する養殖水中の酸素濃度を酸素溶解機構により補うとともに、養殖水の酸素濃度を飽和値未満である2.5ppm以上7ppm以下に維持する。そして、その養殖水をキャビテーション処理用ポンプにより、キャビテーション処理用配管を通じてキャビテーションノズルに導き、キャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec以上となる規定流量にて流通させることによりキャビテーション処理を行なう。養殖水の酸素濃度をあえて飽和値未満に維持することで、キャビテーションに伴う微細気泡の過剰発生が抑制され、被養殖物のえらに気泡が付着して溶存酸素の取り込みが阻害される等の不具合を効果的に防止することができる。
【0012】
そして、断面平均流速が8m/sec以上となる規定流量をキャビテーション処理部において確保することで、養殖水の酸素濃度が従来技術よりも低く設定されているにも関わらず、被養殖物の生育促進等は問題なく図ることができる。キャビテーション処理部の流速を上記範囲に確保すれば、ねじ部材の特にねじ谷位置にて微細気泡の発生を伴うキャビテーションが確認できる。しかし、養殖水の酸素濃度が上記のように飽和値未満になっていると、キャビテーションによる強制的な減圧過飽和析出により発生した気泡(特に100nm以上の気泡径を有するもの)は、ノズルを通過して養殖池に戻された時点で再溶解が速やかに進み、周知の気泡径測定手法(例えば、レーザー散乱式粒度計を用いるもの)では、数分後には大半が観測不能となることが判明している。
【0013】
このような養殖水を使用すれば、被養殖物のえらに微細気泡を付着しにくくできることは明確である。しかし、養殖水の酸素濃度の絶対値を低下させれば、被養殖物の活動活性が大幅に損なわれる懸念も一方では生ずる。しかし、本発明者らが詳細に検討した結果、酸素濃度を上記の範囲に抑制した養殖水をキャビテーション処理すると、より酸素濃度の高い通常養殖水(キャビテーション処理を行わない養殖)と比較して、これと同等以上に被養殖物の活動及び成長活性が高められ、酸欠特有の疲弊もほとんど認められないことが判明したのである。
【0014】
その詳細な機構は不明であるが、現時点では有効な観察手段が見いだされていない、10nm未満のキャビテーション処理特有の超微細な生成物が関与し、溶存酸素を含有する水の生体組織への浸透性が著しく改善されている可能性がある。例えば水道水等をキャビテーション処理して得られる浸透性等の改善効果は、キャビテーション処理後1日程度を経ても大きく変化しないことから、該生成物は、一定時間は水中に持続的に存在しうる形態を有するとも考えられる。
【0015】
また、100nm以上の酸素気泡が再溶解により寸法縮小する場合も、最終的には完全に気泡が溶解消滅するのではなく、上記のような生成物を水中に残留させる可能性が高い。例えば、非特許文献1には、外気と水とを旋回流により気液混合したナノバブル水を凍結し超高圧電子顕微鏡で観察した結果、平均径が7nm前後の気泡らしき生成物が大量に存在することが報告されている。観察された生成物の組成や、気泡であるか否かなどについては明らかでなく、また、本件発明の作用効果との因果関係も不明であるが、微細な核生成を起点として気泡を析出させるキャビテーション処理水の場合、同様の微細な生成物がさらに高密度に観察される可能性が高いと思われる。該生成物は、酸素ガスを主体にするものであったとしても、極度に微小化した気泡の表面張力が相当高圧になると推測される点に鑑みれば、酸素と水との固体系化合物(ハイドレート等)である可能性もある。
【0016】
いずれにしても、キャビテーション処理した養殖水と通常の養殖水との間で被養殖物の活動及び成長活性に著しい差を生ずることは実験的には明らかとなった。溶存酸素の吸収を媒介する水そのものの浸透性(例えば、水生生物のえら等の溶存酸素の吸収器官における毛細血管への浸透性)が改善されていれば、酸素濃度が多少低い水であっても、限られた量の溶存酸素を被養殖物が効率よく吸収し、被養殖物が活動及び成長活性を良好に維持できるようになる、との推測も成り立つ。
【0017】
養殖水の酸素濃度が2.5ppm未満であると、キャビテーション処理による酸素吸収効率の向上を考慮しても、被養殖物の酸素吸収量が不足し、活動活性の低下、生育不良等の不具合につながり、養殖継続に伴う費養殖物の死滅率の増大を招きやすくなる。一方、養殖水の酸素濃度が7ppmを超えるとキャビテーション処理に伴う気泡(特に気泡径100nm以上のもの)の過剰発生が生じやすくなり、被養殖物の活動活性が却って低下しやすくなる。酸素溶解機構により養殖水に酸素含有気体を供給しつつ溶解させる場合、養殖水の酸素濃度は、より望ましくは3ppm以上6ppm以下に維持するのがよい。
【0018】
キャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec未満になるとキャビテーション処理により達成される効果が不足し、上記のように養殖水を低酸素化しても被養殖物の活動活性を維持できる効果が顕著でなくなる。特に、被養殖物の飼育密度が高く設定されている等の要因により、養殖水の酸素濃度が例えば3.5ppm以下に低下している状態にて断面平均流速が上記下限値を下回ることは、被養殖物の酸欠による衰弱や死滅を特に招きやすくなる。キャビテーション処理部における断面平均流速は、より望ましくは9m/sec以上確保されているのがよい。
【0019】
キャビテーションノズルは、ノズル流路が円形断面を有するものとして形成され、各キャビテーション処理部にはねじ部材として、ねじピッチ及びねじ谷深さが0.20mm以上0.40mm以下、公称ねじ径Mが1.0mm以上2.0mm以下のねじ部材が複数配置されるとともに、ノズル流路の中心軸線と直交する平面への投影にてノズル流路の断面中心から該ノズル流路の半径の70%以内の領域に位置する谷点の全ねじ配置面間で合計した総数を、ノズル流路の断面積で除した70%谷点面積密度と定義したとき、70%谷点面積密度の値が1.6個/mm以上に確保されたものを使用することが望ましい。
【0020】
70%谷点面積密度の値が1.6個/mm未満のキャビテーションノズルを使用した場合、キャビテーション処理効果が不足し、養殖水を低酸素化しても被養殖物の活動活性を維持できる効果が顕著でなくなる場合がある。キャビテーションノズルの70%谷点面積密度の値の上限に特に上限に制限はないが、キャビテーション処理部におけるねじ配置数の極度の増加に伴う圧損増大ひいては流速不足を招かない範囲で適宜設定できる(例えば、5個/mm)。70%谷点面積密度の値は、より望ましくは2.0個/mm以上に確保されているのがよい。
【0021】
上記構成のキャビテーションノズルを使用する場合、キャビテーションノズルに対する養殖水の規定流量は、養殖池の貯水量をV1、キャビテーションノズルの1時間当たりの流通流量をV2としたとき、
K=V2/V1×100 (%)
にて表される流通循環比Kが2%以下となるように調整するのがよい。100nm以上のやや粗大な気泡がキャビテーションノズルにて発生した場合も、1時間当たりの養殖水の流通流量(規定流量)を、養殖池内の養殖水全体積の2%以下にとどめることで、上記粗大な気泡の再溶解を促進でき、被養殖物のえら等への付着による前述の不具合をさらに効果的に抑制できる。そして、養殖水全体積に対するキャビテーションノズルの流通循環比Kが極めて小さい値であるにも関わらず、上記構成のキャビテーションノズルを採用することで、被養殖物の活動及び成長活性を極めて良好に維持することが可能となる。なお、流通循環比Kが極度に小さくなりすぎると、被養殖物の活動及び成長活性を改善する効果が不十分となる。流通循環比Kの下限値は、キャビテーションノズルの70%谷点面積密度や設定流速により異なるが、例えば上記効果が損なわれないよう、例えば0.5%以上の値に確保するのがよい。
【0022】
酸素溶解機構は、キャビテーションノズルにて酸素含有気体を溶解するために、キャビテーションノズルに酸素含有気体と養殖水との混相流を供給する混相流供給部を備えるものとして構成できる。本発明にて使用するキャビテーションノズルは、養殖水がねじ部材に衝突してその下流に迂回する際に、ねじ谷内にて絞られることにより増速してキャビテーションを起こすので、養殖水の溶存ガス成分は負圧により過飽和となり、気泡を析出しつつ養殖水を激しく撹拌し乱流域を生ずる。このとき、乱流域に供給する養殖水に気相(気体)を混合して混相流となすことで、上記攪拌により気液混合・攪拌が進行し、気相成分(酸素含有気体)の養殖水への溶解を効果的に進行させることができる。
【0023】
この場合、混相流がねじ部材に衝突する際に、ねじ谷の内側空間の全体が大きな気泡で覆われてしまうと、溶存気体を含有した養殖水とねじ谷との接触効率が下がり、キャビテーション効率の大幅な低下につながる(つまり、そのねじ谷は、キャビテーションポイントとして有効なねじ谷としての機能を失う)。その結果、気相成分の混合・攪拌の駆動力を生ずる乱流域の形成が顕著でなくなり、気体溶解効率が低下することにつながる。
【0024】
そこで、一端に流入口、他端に流出口が形成される中空の外筒部材と、外筒部材の内側に設けられ、流入口と流出口とをつなぐ螺旋状流路を、該螺旋状流路の螺旋軸線が外筒部材の中心軸線に沿うように形成する流路形成部材とを備え、螺旋状流路がキャビテーションノズルのノズル流路に連通するように、キャビテーションノズルの養殖水入口側に設けられる気液ミキサーを設けることができ、混相流供給部は、気液ミキサーの流入口に混相流を供給するものとして構成できる。これにより、混相流は気液ミキサーの螺旋状流路内を流通させることにより、強制的に生ずる螺旋流の遠心力により気相と液相との攪拌・混合が進むので、気相は細かい気泡に粉砕された状態でキャビテーションノズルのねじ部材に供給される。これにより、養殖水とねじ谷との接触効率が上昇し、気体溶解効率を高めることができる。
【0025】
気液ミキサーは、ねじ部材のねじピッチをh(mm)として気泡を、1.5h以下の気泡径に微粉砕するように構成することが望ましい。気液ミキサーでの微粉砕により得られる気泡径が1.5hを超えると、気体溶解効率の改善効果が顕著でなくなる場合がある。該気泡径は、より望ましくは1.0h以下であるのがよい。また、該気泡径の下限値に制限はないが、螺旋状流路を有した気液ミキサーによる混合攪拌の場合、0.2h程度が粉砕の限界となる場合もあり得る。
【0026】
気液ミキサーの流路形成部材は、帯状の金属板の幅方向の中心軸線を螺旋軸線とする形で該金属板をねじり加工したねじり板部材として構成できる。このようなねじり板部材を用いることで、気液ミキサーの螺旋状流路を簡単かつ安価に形成することができる。また、該ねじり板部材を用いることで螺旋状流路は、ねじり板部材の第一主面と外筒部材の円筒状の内周面との間の空間がなす第一螺旋状流路と、ねじり板部材の第二主面と外筒部材の円筒状の内周面との間の空間がなす第二螺旋状流路とからなるものとして構成できる。これにより、ねじり板部材の両側に、回転位相の異なる螺旋流を2系統形成でき、気相の粉砕効率を簡単な構造によりさらに向上できる。
【0027】
外筒部材は、螺旋流路が1周期以上の螺旋区間を含むように全長が定められているのがよい。螺旋流路に含まれる螺旋区間が1周期未満であると、気液ミキサーの気相粉砕効率が低下し、下流側のキャビテーションノズルにおける気体溶解効率が不十分となる場合がある。外筒部材は、よりのぞましくは、螺旋流路が1.5周期以上、より望ましくは2周期以上の螺旋区間を含むように全長が定められているのがよい。
【0028】
また、外筒部材の円筒状の内周面の内径をDx(mm)、ねじり板部材の螺旋周期長をλ(mm)として、λ/Dxの値は1.5以上4以下に設定されているのがよい。λ/Dxの値が4を超えると、気液ミキサーの気相粉砕効率を確保するために必要な螺旋流路の周期数を確保する際に、外筒部材の全長が大きくなりすぎる不具合を招く場合がある。また、λ/Dxの値が1.5未満であると、ねじり板部材が形成する螺旋流路の流通抵抗が大きくなりすぎ、気液ミキサーの気相粉砕効率が低下して、下流側のキャビテーションノズルにおける気体溶解効率が不十分となる場合がある。
【0029】
養殖水の被養殖物の活動及び成長活性を高める効果は、酸素を含有した養殖水を、キャビテーションノズルを通過させることにより、酸素の溶解プロセスとは無関係に達成できる。よって、酸素溶解機構は、キャビテーションノズルとは別に設けられ、養殖池を満たす養殖水に外部から供給される酸素含有気体を平均気泡径が0.5mm以上となるように噴射する周知の散気部を備えるものとして構成することもできる。ここで、被養殖物のえら等への付着による悪影響が懸念されるのは、100nm~30μm程度の微細な気泡であり、周知の散気部はこうした気泡が発生しにくい点においては有利である。ただし、酸素溶解効率はキャビテーションノズルに劣るので、キャビテーションノズルによる酸素溶解と併用することが望ましいともいえる。養殖水全体積に対するキャビテーションノズルの流通循環比Kが上記のように小さい場合は、キャビテーションノズルの酸素溶解能力のみでは所望の酸素濃度を維持できないこともありえる。この観点においても、散気部による酸素溶解とキャビテーションノズルによる酸素溶解とは併用することが望ましい。
【0030】
この場合、散気部による養殖水への酸素含有気体の供給流量をキャビテーションノズルへの酸素含有気体の供給流量よりも大きく設定するとさらによい。キャビテーションノズルへの酸素含有気体の供給流量を低くとどめることで、養殖池中の前述の微細気泡の存在密度を低減でき、被養殖物のえら等への付着による悪影響をさらに効果的に抑制できる。
【0031】
次に、キャビテーションノズルは、ノズルの狭小な絞り孔を水が通過する際に生ずる減圧沸騰効果を利用して微細気泡を発生させる原理上、被処理水の絞り孔における流速を10m/秒以上程度以上の高速に確保する必要がある。しかし、このキャビテーションノズルを上記のように濾過槽との循環経路に配置した場合、濾過槽への有機残渣の堆積により循環経路への養殖水の流通抵抗が増加すると、キャビテーションノズルを通過する養殖水の流速が不足し、キャビテーションによる微細気泡の発生量が不十分となる問題がある。この場合、キャビテーション処理用の循環経路を別に設けたとしても、養殖水がノズルに直接吸い込まれると、浮遊する有機残渣が絞り孔に詰まり微細気泡の発生は同様に阻害される。よって、これを防止するために、循環経路の養殖池側の入り口には結局のところ新たな濾過部を設けざるを得ないので、何ら問題の解決には至らないのである。
【0032】
これを解決するためには、キャビテーション処理用配管の流入口に設けられ、養殖池内の浮遊物がキャビテーション処理用配管内に流入することを抑制するキャビテーション処理用濾過部と、キャビテーション処理用配管内を流通する養殖水の流量を検出する流量検出部と、キャビテーション処理用濾過部への浮遊物の堆積に伴う流量損失を補う形で、キャビテーション処理用ポンプによるキャビテーションノズルへの送液流量を規定流量に制御するキャビテーション流量制御部とを、本発明の装置にさらに付加することが望ましい。キャビテーション処理用配管の流量を流量検出部にモニタリングし、キャビテーション処理用濾過部へ浮遊物が堆積した場合に、キャビテーションノズルへの送液流量を上記規定範囲となるように補うキャビテーション流量制御部を設けることで、濾過部に有機残渣が堆積し流通抵抗が増加した場合でも、被養殖物に対する前記有利な効果は安定に維持できるようになる。
【0033】
ここで、主ポンプとキャビテーション処理用ポンプとは別の構成としてもよいし、主ポンプをキャビテーション処理用ポンプに兼用させることもできる。また、キャビテーション処理用濾過部についても濾過槽と別に設けてもよいし、両者を兼用させる構成としてもよい。
【0034】
例えば、次のような構成を採用することが可能である。すなわち、該構成では、濾過槽に養殖水の流入口が連通するとともに、他端側が養殖水の養殖池への戻し口とされた濾過用主配管と、濾過用主配管の流入口に設けられ、濾過槽内の浮遊物が濾過用主配管内に流入することを抑制する補助フィルタリング部とを備え、主ポンプが濾過用主配管上に設けられる。また、キャビテーション処理用配管は、主ポンプの下流側にて濾過用主配管から分岐し、かつ、濾過用主配管とは別位置にて養殖池に対する戻し口を開口させる形で設けられる。そして、濾過用主配管とキャビテーション処理用配管との分配比をバルブ開度に応じて調整する分配バルブが設けられる。キャビテーション流量制御部は、補助フィルタリング部への浮遊物の堆積に伴い主ポンプの送水流量が減少した場合に、養殖水のキャビテーション処理用配管への分配比が増加するように分配バルブの開度を調整制御するよう構成される。上記の構成では、主ポンプがキャビテーション処理用ポンプに、補助フィルタリング部がキャビテーション処理用濾過部にそれぞれ兼用されることとなり、装置構成の大幅な簡略化が実現されるとともに、主ポンプの出力制御をせずとも分配バルブの開度によりキャビテーション処理用配管の流量を規定範囲に安定的に保持することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の作用及び効果の詳細については、「課題を解決するための手段」の欄にすでに記載したので、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1A】本発明の閉鎖型陸上養殖装置の一例を示す概念図。
図1B図1Aの閉鎖型陸上養殖装置に使用する気液ミキサーの一例を示す横断面図及び側面。
図1C図1Aの閉鎖型陸上養殖装置に使用するキャビテーションノズルの一例を示す横断面図。
図2図1Cのキャビテーションノズルの各ねじ配置面におけるねじ部材レイアウトを示す軸断面図。
図3図2の要部を拡大して示す軸断面図。
図4図1Cのキャビテーションノズルにおいて、図2のレイアウトの面ねじ組を中心軸線方向に4組配置したキャビテーションノズルの要部横断面図。
図5】同じく8組配置したキャビテーションノズルの要部横断面図。
図6図1Cのキャビテーションノズルにおいて、一方の面ねじ組を45°回転させた構造を示す要部横断面図。
図7図1Cのキャビテーションノズルにおいて、一方の面ねじ組を図6のレイアウトとしたキャビテーションノズルの要部横断面図。
図8図7の構造において、面ねじ組を互いに直交するねじ部材対に分割し、それぞれ中心軸線方向に位置をずらせて配置したキャビテーションノズルの要部横断面図。
図9図7のキャビテーションノズルと同様の面ねじ組の対を中心軸線方向に2組配置したキャビテーションノズルの要部横断面図。
図10図1Aの閉鎖型陸上養殖装置の気液ミキサーにベンチュリエジェクタを接続した状態を示す横断面図。
図11】キャビテーション流量制御部の電気的構成の一例を示すブロック図。
図12】流量制御プログラムの処理の流れを示すフローチャート。
図13】酸素濃度制御プログラムの処理の流れを示すフローチャート。
図14】2孔型のキャビテーションノズルの要部軸断面図。
図15】実験例に使用したキャビテーションノズルの各部の寸法関係を説明する図。
図16】分配バルブの変形例を示す模式図。
図17図1Aの閉鎖型陸上養殖装置の変形例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づき説明する。
図1Aは、本発明の一実施形態をなす閉鎖型陸上養殖装置の一例を使用形態とともに示す概念図である。閉鎖型陸上養殖装置300は、養殖池250内に養殖水Wと甲殻類又は魚類からなる被養殖物SPとを収容し、主ポンプ175を用いて養殖池250から養殖水Wを濾過槽252に導き、養殖水W中に浮遊する有機残渣を濾過しつつ養殖池250内に戻して循環させながら、養殖池250内に飼料を投入して被養殖物SPを飼育するためのものである。
【0038】
被養殖物SPは本実施形態ではエビであるが、カニ等の他の甲殻類であってもよい。また、甲殻類以外ではマダイ、マグロ、ブリ、マス、サーモン、フグ及びコイなどの魚類であってもよい。また、被養殖物SPをエビとする場合のエビの種別は、例えばクルマエビ科に属するエビであり、クルマエビ、バナメイエビ、ウシエビ(通称:ブラックタイガーエビ)、クマエビ及びコウライエビ(通称:タイショウエビ)などから選択されるものである。また、養殖水Wは被養殖物の種別に応じ、海水(塩分濃度:3.0~4.0質量%)、汽水(塩分濃度:0.05~3.0質量%)及び淡水のなかから適宜選択される。
【0039】
閉鎖型陸上養殖装置300には、養殖水Wの酸素濃度を2.5ppm以上7ppm以下に維持されるように養殖水Wに酸素含有気体を供給しつつ溶解する酸素溶解機構が設けられる(後述)。また、さらに次のような構成要素を備える。
・キャビテーション処理用配管181:養殖池250に養殖水Wの流入口が連通するとともに、他端側が養殖水Wの養殖池250への戻し口とされる。
・キャビテーションノズル1:構造については追って詳述する。
・キャビテーション処理用ポンプ:本実施形態では主ポンプ175が兼用している。キャビテーション処理用配管181(濾過用主配管180の流入口側の一部区間はキャビテーション処理用配管に兼用されている)の途上に設けられ、キャビテーションノズル1に養殖水Wを、キャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec以上となる規定流量にて流通させる。
・キャビテーション処理用濾過部:補助フィルタリング部253fがこれに該当し、濾過用主配管(キャビテーション処理用配管)180の流入口に設けられ、養殖池250内の浮遊物がキャビテーション処理用配管181内に流入することを抑制する。
・流量検出部182:超音波流量計等で構成され、キャビテーションノズル1の例えば下流側にキャビテーション処理用配管181内を流通する養殖水Wの流量を検出する。・制御部185(キャビテーション流量制御部):キャビテーション処理用濾過部253fへの浮遊物の堆積に伴う流量損失を補う形で、キャビテーション処理用ポンプ181pによるキャビテーションノズル1への送液流量を上記規定流量に制御する。
【0040】
本実施形態では、具体的には、濾過槽252に養殖水Wの流入口が連通するとともに、他端側が養殖水Wの養殖池250への戻し口とされた濾過用主配管180が設けられ、また、濾過用主配管180の流入口には濾過槽252内の浮遊物が濾過用主配管180内に流入することを抑制する、金属網等で構成された補助フィルタリング部253fが設けられている。また、主ポンプ175は濾過用主配管180上に設けられる。一方、キャビテーション処理用配管181は、主ポンプ175の下流側にて濾過用主配管180から分岐し、かつ、濾過用主配管180とは別位置にて養殖池250に対する戻し口を開口させる形で設けられる。
【0041】
また、閉鎖型陸上養殖装置300には、濾過用主配管180とキャビテーション処理用配管181との分配比をバルブ開度に応じて調整する分配バルブ183が設けられる。本実施形態では、分配バルブ183は濾過用主配管180とキャビテーション処理用配管181との分岐点に設けられた比例制御型の電磁三方バルブとして構成されているが、図16に示すように、分岐点より下流側にて濾過用主配管180とキャビテーション処理用配管181とにそれぞれ個別に設けられた1対の比例制御バルブ183A,183Bとして構成してもよい。キャビテーション流量制御部185は、補助フィルタリング部253fへの浮遊物の堆積に伴い主ポンプ175の送水流量が減少した場合に、養殖水Wのキャビテーション処理用配管181への分配比が増加するように分配バルブ183の開度を調整駆動制御する。以上の構成では、主ポンプ175がキャビテーション処理用ポンプに兼用され、補助フィルタリング部253fがキャビテーション処理用濾過部に兼用されている。
【0042】
養殖池250の出口配管250eから排出される養殖水は、沈殿槽251にて粗大な浮遊物が沈殿除去され、該沈殿槽251からオーバーフローする養殖水Wは濾過槽252に導かれる。濾過槽252には不織布や多孔質樹脂などからなるフィルタ252fが配置され、該フィルタ252fを通過した養殖水Wは濾過槽252からバッファ層253に流下する。濾過槽252にてフィルタ252fには好気性微生物の繁殖媒体層(例えば多孔質セラミック)を介在させることができ、有機浮遊物の分解を行なうバイオフィルタとして構成することが可能である。一方、バッファ層253内には濾過用主配管180の入り口側端部が浸漬されており、金属網等で構成された補助フィルタリング部253fにより開口部が覆われている。養殖池250の長期の使用に伴い、濾過槽252からバッファ層253へはフィルタ252fにて除去しきれなかった浮遊物が流入する。該浮遊物は補助フィルタリング部253fにより分離され、濾過用主配管180に侵入することが抑制される。
【0043】
次に、キャビテーション処理用配管181には混相流供給部165、気液ミキサー150及びキャビテーションノズル1が上流側からこの順に設けられている。養殖水Wには、該混相流供給部165にて気体供給配管171を経て気体供給源170より酸素含有気体としての空気が混合され、さらに気液ミキサー150にて導入された空気が微粉砕され、キャビテーションノズル1にて該気体の少なくとも一部が溶解され、養殖水池250に戻される。この気液ミキサー150はキャビテーションノズル1と協働して酸素溶解機構の一部を構成する。
【0044】
図1Bは、気液ミキサー150の一構成例を示すものである。気液ミキサー150は、外筒部材151と流路形成部材155とを備える。外筒部材151は、一端に流入口159、他端に流出口160が形成される中空円筒状に形成される。材質は例えば金属ないしポリ塩化ビニル等のプラスチックであり、本実施形態ではステンレス鋼が採用されている。外筒部材151の両端部には他の配管要素と接続するための継ぎ手部、本実施形態ではおねじ部152が形成されている。
【0045】
一方、流路形成部材155は外筒部材151の内側に設けられ、流入口159と流出口160とをつなぐ螺旋状流路157,158を、該螺旋状流路157,158の螺旋軸線HCが外筒部材151の中心軸線に沿うように形成する。本実施形態において流路形成部材155は、帯状の金属板の幅方向の中心軸線Oを螺旋軸線HCとする形で該金属板をねじり加工したねじり板部材(以下、ねじり板部材155ともいう)として構成できる。流路形成部材155の材質は、例えばステンレス鋼(SUS316等)を採用可能であるが、海水や汽水を使用する場合はチタンないしチタン合金等、海水に対する耐食性がさらに良好な金属で構成することがより望ましい。
【0046】
外筒部材151の内側にてねじり板部材155は、該ねじり板部材155の第一主面と外筒部材151の内周面との間に第一螺旋状流路157を、同じく第二主面と外筒部材151の内周面との間に第二螺旋状流路158を形成している。そして、外筒部材151は、螺旋状流路が1周期以上、本実施形態では2周期の螺旋区間156を含むように全長が定められている。また、外筒部材151の円筒状の内周面の内径をDx(mm)、ねじり板部材155の螺旋周期長をλ(mm)として、λ/Dxの値は1.5以上4以下に設定されている。Dxは例えば5mm以上30mm以下(例えば15mm)あり、λの値は例えば20mm以上300mm以下(例えば50mm)である。また、ねじり板部材155を構成する板材の厚みはDxの1/4超えない範囲にて、例えば0.3mm以上4mm以下の範囲で選定される(例えば1mm)。
【0047】
また、本実施形態においては、酸素溶解機構として、キャビテーションノズル1とは別に設けられ、養殖池250を満たす養殖水Wに外部から供給される酸素含有気体を平均気泡径が0.5mm以上となるように噴射する散気部174が養殖池250内に設けられている。散気部174は、気孔を多数形成した散気板あるいは連通気孔が多数形成されたセラミック、樹脂ないし金属製の散気モジュール、あるいは旋回流式気液混合型のディフューザなど周知の構成を有するものであり、気体供給管173を介してエアコンプレッサー170から酸素含有気体としての空気が供給されるようになっている。
【0048】
キャビテーションノズル1(混相流供給部165)に向かう気体供給管171、及び散気部174に向かう気体供給管173には、それぞれ電磁バルブ172,184が設けられ、制御部185からの制御信号を受けて開閉駆動される。電磁バルブ172,184が開けばキャビテーションノズル1及び散気部174への空気の供給すなわち養殖水への酸素溶解処理がなされ、電磁バルブ172,184が閉じれば空気の供給すなわち養殖水への酸素溶解処理が停止する。養殖池250内には酸素センサ186(光学式ないしポーラログラフ式の周知の構成のものである)が設けられており、制御部185は該酸素センサ186による養殖水の酸素濃度を読み取るとともに、該酸素濃度が2.5ppm以上7ppm以下(望ましくは3ppm以上6ppm以下)となるように電磁バルブ172,184を開閉制御する。なお、本実施形態では、散気部174への空気供給流量がキャビテーションノズル1における空気供給流量よりも大きく設定されている。
【0049】
次に、図1Cは、キャビテーションノズル1の一例を示す横断面図である。このキャビテーションノズル1は、ノズル流路3が形成されたノズル本体2を備える。ノズル本体2は円筒状に形成され、その中心軸線Oの向きに円形断面の1つのノズル流路3が貫通形成されている。ノズル流路3は一方の端(図面右側)に養殖水入口4を、他方の端に養殖水出口5を開口しており、その流れ方向中間位置には養殖水入口4及び養殖水出口5よりも径小の絞り孔9がノズル流路3の一部区間をなす形で形成されている。ノズル流路3は絞り孔9よりも養殖水入口4側が流入室6とされ、養殖水出口5側が流出室7とされる。そして、絞り孔9には、脚部先端側が流路内側に突出するようにねじ部材10が組み付けられ、キャビテーション処理部CVを形成している。
【0050】
ノズル本体2の材質は、たとえばABS、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリ塩化ビニル、PTFEなどの樹脂であるが、チタンないしチタン合金やステンレス鋼などの金属、さらにはアルミナ等のセラミックスで構成される。また、ねじ部材10の材質はたとえばSUS316等のステンレス鋼であるが、海水や汽水を使用する場合はチタンないしチタン合金等、海水に対する耐食性がさらに良好な金属で構成することがより望ましい。また、石英やアルミナなどのセラミック材料を用いることも可能である。
【0051】
ねじ部材10は、ねじピッチ及びねじ谷深さが0.20mm以上0.40mm以下、公称ねじ径Mが1.0mm以上2.0mm以下のものが使用されている。本実施形態にてねじ部材10は、JISに定められた0番1種なべ小ねじが使用されている。キャビテーション処理部CVには、ノズル流路3の中心軸線Oと直交する仮想的なねじ配置面が該中心軸線Oに沿って複数、図1CにおいてはLP1,LP2の2面が設定されている。上記のねじ部材10は、脚部の長手方向が個々のねじ配置面LP1,LP2に沿うように配置される。図1Cの実施形態においてねじ部材10の総数は8であり(後述するように、8を超える数であってもよい)、各ねじ配置面LP1,LP2に対し2つ以上、図1Cにおいては4つずつ分配されている。なお、ねじ配置面(面ねじ組)を1つのみ形成することも可能である。
【0052】
図1Cにおいて各ねじ配置面LP1,LP2においてねじ部材10は、図2に示すレイアウトに従い配置されている。具体的には、各ねじ配置面LP1,LP2上の4本のねじ部材10は互いに直交する十字形態に配置され、各々ノズル本体2に形成されたねじ孔19内面のめねじ部にて、その壁部外周面側から脚部先端が絞り孔9内へ突出するようにねじ込まれている。ねじ孔19とねじ部材10とは接着剤等によりセッティング固定することができる。図3は、絞り孔9の内側をさらに拡大して示すものであり、ねじ部材10と絞り孔9の内周面との間には主流通領域21が形成されている。また、各絞り孔9において、4つの衝突部10が形成する十字の中心位置には、流通ギャップ15が形成されている。流通ギャップ15(図3)を形成する4つの衝突部10の先端面は平坦に形成され、前述の投影において流通ギャップ15は正方形状に形成されている。
【0053】
図3において、各ねじ配置面LP1,LP2における養殖水流通領域の面積(キャビテーション処理部におけるノズル流路の断面積:以下、全流通断面積ともいう)aを、ノズル流路の投影領域の外周縁内側の全面積(ここでは、図1Cの絞り孔9の円形軸断面の面積:内径をdとしてπd/4))をS1、衝突部10(4本のねじ部材)の投影領域面積をS2として、
a=S1-S2 (単位:mm
として定義する。この実施形態では、主流通領域21と流通ギャップ15との合計面積が全流通断面積aに相当する。図1Cに示すごとく、養殖水入口4及び養殖水出口5の開口径は、絞り孔9の内径よりも大きい。すなわち、養殖水入口4及び養殖水出口5の開口断面積は全流通断面積aよりも大きく設定されている。また、流入室6及び流出室7の絞り孔9に連なる内周面はそれぞれテーパ部13,14とされている。養殖水出口5側のテーパ部14と養殖水入口4側のテーパ部13とは絞り比は同じであるが、区間長はテーパ部14の方が大きく設定されている。そして、各ねじ配置面LP1,LP2において、全流通断面積aは3.8mm以上確保され、ノズル流路の全断面積S1に占める全流通断面積aの割合(すなわち、a/S1×100(%))として定められる面内流通面積率は40%以上に確保されている。
【0054】
ねじ部材(衝突部)10の投影外形線に現れる谷部21の深さhは0.2mm以上確保されている。また、中心軸線Oの投影点を中心としてノズル流路の内周縁までの距離の70%に相当する半径にて描いた円を基準円C70として定めたとき、谷部21の最底位置を表す谷点のうち、基準円C70の内側に位置するもの(○で表示)の数、つまり、中心軸線Oと直交する平面への投影にてノズル流路3の断面中心から該ノズル流路3の半径の70%以内の領域に位置する谷点の数を70%谷点数N70と定義する。そして、該70%谷点数N70の値を全ねじ配置面について合計した値を、ノズル流路3(絞り孔9)の断面積S1で除した値を70%谷点面積密度と定義する。図1Cのキャビテーションノズル1においては、70%谷点面積密度の値が1.6個/mm以上に確保されている。
【0055】
図1Cにおいて、互いに隣接するねじ配置面LP1,LP2間にてねじ部材10の脚部は、中心軸線Oと直交する平面への投影において長手方向を一致させつつ互いに重なり合う位置関係にて配置されている。具体的には、十字状に配置された4本のねじ部材10からなる面ねじ組が、ねじ配置面LP1,LP2間にて互いに重なり合う位置関係(すなわち、十字状の面ねじ組の中心軸線O周りの配置角度位相が互いに一致する位置関係:以下、このような配置を「同相配置」という)にて配置されている。また、隣接するねじ配置面LP1,LP2間の間隔dpは、図2のねじ頭部10hの外径をdh、ねじ脚部10fの公称ねじ径をMとして、例えば1.05dh以上2M以下に設定されている。
【0056】
図1Cのキャビテーションノズル1に対し、たとえば、養殖水出口5側を開放して養殖水入口4に動圧が通常水道圧(例えば、0.077MPa)程度となるように、養殖水として例えば水を流通させた場合の作用について説明する。水流はまずテーパ部13及び絞り孔9で絞られ、ねじ部材10と絞り孔9内周面との間に形成される図2の主流通領域21と流通ギャップ15とからなる液流通領域にてねじ部材10に衝突しながらこれを通過する。
【0057】
そして、ねじ部材10の外周面を通過するときに、ねじ谷部に高速領域を、ねじ山部に低速領域をそれぞれ形成する。すると、ねじ谷部の高速領域はベルヌーイの定理により負圧領域となり、キャビテーションが生ずる。ねじ谷部はねじ部材の外周に複数巻形成され、かつ8本以上のねじ部材10が複数のねじ配置面LP1、LP2に分配配置されていることから、キャビテーションは絞り孔9内の谷部にて同時多発的に起こることとなる。すると、水流がねじ部材10に衝突する際に、ねじ谷部での溶存空気の減圧析出が沸騰的に激しく起こり、ねじ部材10の表面及びノズル流路3の内面との間で水流を激しく摩擦しつつ撹拌する。
【0058】
前述のごとく、図1Cのキャビテーションノズル1は、各ねじ配置面LP1,LP2にて、面内流通面積率が40%以上に確保され、全流通断面積が3.8mm以上に確保され、さらに隣接するねじ配置面LP1,LP2(面ねじ組)の間隔dpが、使用されるねじ部材10の公称ねじ径よりも大きく確保されている。これにより、面ねじ組を流路中心軸線Oの方向に複数連ねて配置してもノズルの圧損増加を極めて小さくとどめることができる。その結果、1つのノズル流路3内に多くのねじ部材が配置されているにも関わらず、断面内にて必要な流速を十分に確保できるようになる。該構成は、キャビテーション処理の効率を高めた大流量のノズルが望まれる場合に特に有利である。
【0059】
図10に示すように、気液ミキサー150は、螺旋状流路157,158がキャビテーションノズル1のノズル流路3に連通するように、キャビテーションノズル1の養殖水入口側に配置されている。具体的には、外筒部材151の流出口側のおねじ部152をノズル本体2のめねじ部16に螺合させる形で接続されている。気液ミキサー150とキャビテーションノズル1との間には中継配管等の別配管要素(図示せず)が介在していてもよいが、該別配管要素内を流通する間に二次気泡BSが合体・粗大化する懸念もあり、気液ミキサー150とキャビテーションノズル1とは図10のように直結されていることが望ましい。
【0060】
また、混相流供給部165は、気液ミキサー150の流入口159に、気体と養殖水との混相流を供給する。本実施形態では混相流供給部165はベンチュリエジェクタとして構成され、その絞り孔に連通する気体供給孔166に気体導入用継手167を介して気体供給配管171(図1A)により気体が供給され、混相流が形成される。本実施形態では、混相流供給部165もまた気液ミキサー150の流入口159側に直結されている。混相流は、第一螺旋状流路157及び第二螺旋状流路158に分配され、それぞれ第一螺旋流TR1と第二螺旋流TR2を形成しつつ気相を二次気泡BSに粉砕する。
【0061】
該混相流中の一次気泡BPは、気液ミキサー150の螺旋状流路157,158内を流通させることにより遠心力により養殖水と混合・微粉砕され、図1Cのキャビテーションノズル1のねじ部材10のねじピッチをh(mm)として、気泡径1.5h以下(望ましくは1h以下)の二次気泡BSに微粉砕される。二次気泡BSを含んだ養殖水はキャビテーションノズル1に供給され、キャビテーション処理部CVに生ずる乱流域に巻き込まれることにより溶解する。
【0062】
混相流中の気相が、より細かい二次気泡BSに粉砕された状態でキャビテーションノズル1のねじ部材に供給されることにより、気体を含有した養殖水とねじ谷との接触効率が上昇する。これにより、気相成分の混合・攪拌の駆動力を生ずる乱流域の形成が顕著となり、気体溶解効率を高めることができる。また、キャビテーション処理部CV内では、溶解した気体の一部は直ちにキャビテーションにより再析出することから、ねじ谷部内でのキャビテーション効率は大幅に改善される。
【0063】
次に、図11は、制御部185の電気的構成の一例を示すブロック図である。制御部185はCPU191と、該CPU191が実行する制御プログラム(ノズル流量制御プログラム193a及び酸素濃度制御プログラム193b)を格納したROM193と、プログラム実行メモリを形成するRAM192と、入出力部194と、これらを接続するバスライン195とを備えるマイコンハードウェアを主体に構成されている。入出力部194には、バルブ開度(バルブ位置)の指示値を示すデジタル信号をアナログ電圧指示値に変換するD/A変換部199を介して、前述の分配バルブ183が接続されている。また、流量計186と酸素センサ186のアナログセンサ出力は、A/D変換部196,197によりデジタル信号に変換され入出力部194に入力される。さらに、散気ノズル174及びキャビテーションノズル1への空気の供給を開閉する電磁バルブ172及び184は、駆動回路172A,184Aを介して入出力部194に接続されている。
【0064】
以下、図1Aの閉鎖型陸上養殖装置300の動作について説明する。
まず、養殖池250内に養殖水Wを注水する。図11の制御部185に対しては、キャビテーションノズル1の流通断面積の値に応じ、養殖水Wの断面平均流速が8m/sec以上、望ましくは9m/以上となる規定流量範囲(上限値Q、下限値Q)を入力部198を用いて設定しておく。また、投入する被養殖物SPの個体数に応じて養殖水Wの規定酸素濃度範囲(上限値C、下限値C)を、同様に入力部198を用いて設定する。これらの設定値は、図11のRAM192に記憶される。
【0065】
以上の設定が終了すれば、主ポンプ175の動作と、制御部185によるキャビテーションノズル1の流量及び養殖水Wへの酸素溶解の制御を開始する。そして、流量計182が示すキャビテーションノズル1の流量と、酸素センサ186が示す酸素濃度とが規定範囲内にて制御され、これらの値が安定した段階で養殖水Wに被養殖物SPを投入する。
【0066】
図12は流量制御プログラムの処理の流れの一例を示すフローチャートである。S101では、図1Aの分配バルブ183の開度Sをデフォルト値であるS0に設定する。該デフォルト値は、例えば図1Aの補助フィルタリング部253fが新品の状態であり、かつ主ポンプ175が定格出力にて回転駆動されたときに、キャビテーションノズル1の流量が規定流量範囲の中心値を示すように設定することができる。S102では、流量計182の流量値Q2を読み取る。次に、この流量値Q2を規定流量範囲の下限値Q及び上限値Qと比較する。S103にてQ2<Qならば流量が不足しているのでS104に進み、開度Sをキャビテーション処理用配管181側に予め定められた増分ΔSだけ増加するよう分配バルブ183を駆動する。その余の場合はS105に進み、Q<Q2ならば流量が過剰なので、S106にて開度Sをキャビテーション処理用配管181側に増分ΔSだけ減少するように分配バルブ183を駆動する。そして、Q<Q2<Qの場合は流量が適正であり、S107に進んで分配バルブ183の開度Sの現在値を維持する。以降、S108で終了でなければS101に戻り、以下の処理を繰り返す。流量の上限値Qは、養殖池250の貯水量をV1、キャビテーションノズル1の1時間当たりの流通流量をV2としたとき、
K=V2/V1×100 (%)
にて表される流通循環比Kが例えば2%を超えないように設定される。
【0067】
図13は酸素濃度制御プログラムの処理の流れの一例を示すフローチャートである。S201では、デフォルト設定状態として、図1Aの散気部174側の電磁バルブ184をON(開)とし、キャビテーションノズル1側の電磁バルブ172もON(開)とする。S202では、酸素センサ186の酸素濃度検出値Cを読み取る。次に、この酸素濃度検出値Cを規定酸素濃度範囲の下限値C及び上限値Cと比較する。S103にてC<Cならば酸素濃度が不足しているのでS204に進み、散気部174側の電磁バルブ184をON(開)とし、キャビテーションノズル1側の電磁バルブ172もON(開)とする状態を維持する。その余の場合はS205に進み、C<Cならば酸素濃度が過剰なので、S206にて散気部174側の電磁バルブ184はON(開)とし、キャビテーションノズル1側の電磁バルブ172はOFF(閉)として、キャビテーションノズル1での酸素溶解を抑制し、養殖水W中の酸素濃度を低下させる。なお、酸素濃度の下げ幅をより大きくしたい場合は、散気部174側の電磁バルブ184もOFF(閉)とする処理を行なうことも可能である。そして、C<C2<Qの場合は酸素濃度が適正であり、S207に進んで散気部174側の電磁バルブ184をON(開)とし、キャビテーションノズル1側の電磁バルブ172は断続的にON/OFFして現在の酸素濃度値を維持するようにする。以降、S208で終了でなければS201に戻り、以下の処理を繰り返す。養殖水W中の酸素濃度Cは例えば中心目標値C0を4~6ppmの範囲内で固定的に定め(例えば5ppm)、上限値Cは該中心目標値C0を基準に例えばC0+0.5~C0+2ppmの値(例えば6ppm)とし、下限値Cは中心目標値C0を基準に例えばC0-0.5~C0-2ppmの値(例えば4ppm)として設定することができる。
【0068】
被養殖物SPによる消費により減少する養殖水W中の酸素濃度は、上記制御により、突発的な要因による酸素濃度の変動を考慮しても、養殖水W中の酸素濃度は飽和値未満である2.5ppm以上7ppm以下(望ましくは3ppm以上8ppm以下)の範囲に維持されるようになる。そして、その養殖水Wをキャビテーションノズル1に導き、キャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec以上となる規定流量にて流通させることによりキャビテーション処理がなされる。養殖水Wの酸素濃度をあえて飽和値未満に維持することで、キャビテーションに伴う微細気泡の過剰発生が抑制され、被養殖物SPのえらに気泡が付着して溶存酸素の取り込みが阻害される等の不具合を効果的に防止することができる。そして、キャビテーション処理部における断面平均流速が8m/sec以上となる規定流量を確保することで、養殖水Wの酸素濃度が従来技術よりも低く設定されているにも関わらず、被養殖物SPの生育促進等は問題なく図ることができる。
【0069】
以下、本発明にて採用可能なキャビテーションノズルの種々の変形例について説明する。
図4は、図1Cのキャビテーションノズル1のキャビテーション処理部CVを、図2に示すレイアウトの面ねじ組を中心軸線Oの方向に4組配置した構成を示す。具体的には、中心軸線Oの向きに4つのねじ配置面LP1~LP4が、図1Cと同じ面間隔dpにて配置され、図2の十字状の面ねじ組が互いに重なるように(すなわち、同相に)配置されている。この場合、16本のねじ部材10が4つのねじ配置面LP1~LP4に分配されることとなる。また、図5は、図2の面ねじ組を8つのねじ配置面LP1~LP8に対し同相に配置したキャビテーション処理部CVの例を示す。この場合、32本のねじ部材10が8つのねじ配置面LP1~LP8に分配されることとなる。各キャビテーション処理部CVの70%谷点面積密度は、図2の構成と比較して、図4の構成では2倍に、図5の構成では4倍に増加させることができる。これにより、キャビテーション処理の効率が向上し、本発明の前述の効果をより安定的に達成することが可能となる。
【0070】
次に、図6は、図1Cのキャビテーションノズル1と同様の面ねじ組を45°回転させた状態を示している。そして、図1Cのキャビテーションノズル1の2つのねじ配置面LP1,LP2のうち、一方のねじ配置面LP2の十字状の面ねじ組を、他方のねじ配置面LP1の面ねじ組に対して中心軸線Oの周りに45°だけ回転させ、図6の状態とした場合のキャビテーション処理部CVの例を、図7に示している。該構成のキャビテーション処理部CVは、図2の構成と同等の70%谷点面積密度を実現できるが、ねじ配置面LP1,LP2の面間隔dpが図1Cの構成と同一の場合は、養殖水流通時の圧損が若干大きくなる。しかし、面間隔dpを適度に拡大することで該圧損は減じられ、図2の構成のキャビテーション処理部CVとほぼ同等のキャビテーション処理能力を発揮する。また、養殖水の乱流攪拌効果は図1Cの構成よりも大きいため、混相流供給により気体を養殖水に溶解させる目的においてはより有利となる。
【0071】
図8は、図7の構成において、面ねじ組を互いに直交するねじ部材対に分割し、それぞれ中心軸線Oの向きに位置をずらせて配置したキャビテーション処理部CVの例を示す。具体的には、図1Cにおいてねじ配置面LP1,LP2上に配置されていた各々4本のねじ部材10が、図7の構成では、ねじ部材10の公称ねじ径Mだけ隔てられた2つのねじ配置面LP1,LP1’及びLP2,LP2’に、互いに直交する2本ずつを分散させて配置している。すなわち、8本のねじ部材10を4つのねじ配置面LP1,LP1’,LP2,LP2’に分配した例を示すものである。また、ねじ配置面LP1’とねじ配置面LP2との間隔は、公称ねじ径Mよりも大きく(例えば1.5M~2.0M程度)に設定されている。該構成における70%谷点面積密度は図2の構成と同等である。
【0072】
また、図9は、図2のレイアウトの面ねじ組と、図6のレイアウトの面ねじ組とを、4つのねじ配置面LP1~LP4に対し、交互に2つずつ合計4組配置したキャビテーション処理部CVの例を示す。この例では、16本のねじ部材10が4つのねじ配置面LP1~LP4に4本ずつ分配配置されている。該構成における70%谷点面積密度は図2の構成の2倍となる。
【0073】
図14は、キャビテーション処理部に形成した隔壁部8に2つの絞り孔9を形成し、各絞り孔9について十字形態に4本のねじ部材10を配置したキャビテーションノズルの例を示すものである。
【0074】
また、閉鎖型陸上養殖装置300は、図17に示すように、キャビテーション処理用配管182及びキャビテーション処理用ポンプ181pを濾過用主配管180及び主ポンプ175とは独立して設ける構成とすることもできる。キャビテーション処理用配管182の入り口は養殖池250内に開口しており、補助フィルタリング部253fと同様の構成のキャビテーション処理用濾過部181fが設けられている。キャビテーション処理用ポンプ181pの駆動入力は電源アンプ181vにより可変とされており、制御部185からの信号により該電源アンプ181vの出力を制御することでキャビテーションノズル1への送液流量が前述の規定流量範囲に維持される。その余の構成は図1と同様であるので、詳細な説明は略する。
【0075】
以下、キャビテーションノズルの効果を確認するために行った種々の実験の結果について説明する。
(実施例1)
キャビテーションノズルA,Bとして、図1Cに示す形状のものを作成した。なお、キャビテーションノズルAについては、図2に示す4本のねじからなる面ねじ組を1つのみ配置し、キャビテーションノズルBについては面ねじ組を2つ互いに重なる位置関係にて配置している。図21図1Cの各部の寸法関係を図示している。ノズル本体2の材質はABS樹脂であり、養殖水入口4と養殖水出口5の内径はφ20mm、流入室6及び流出室7の流れ方向の長さはそれぞれ15mm及び45mmである。キャビテーション処理部において絞り孔9の長さは12mmである。また、絞り孔9の内径Dは、キャビテーションノズルAについてはφ5.0mm、キャビテーションノズルBについてはφ14.0mmに設定した。採用したねじ部材は、JIS:B0205(1997)に規定されたメートル並目ピッチを有する0番1種なべ小ねじであり、材質はチタンである。また、脚部の公称ねじ径はM1.4mmである。
【0076】
また、絞り孔内のねじ部材のレイアウトを示す投影画像上で全流通断面積a(絞り孔の全断面積からねじにより占有される領域の面積を除いた値)を算出した。さらに、図3の基準円C70の内側に存する70%谷点数を計数し、絞り孔の全断面積S1で除することにより、70%谷点面積密度の値を各試験ノズルについて算出した。作成した各ノズルA,Bについて、絞り孔内径、面内流通断面積70%谷点総数、70%谷点面積密度、及び養殖池の全水量を50tとしたときの流通循環比Kの各値を、表1にまとめて示している。いずれのノズルも70%谷点密度は2.0個/mm以上に確保されている上記のキャビテーションノズルを図10の気液ミキサー150とともに図1Aの閉鎖型陸上養殖装置300に組み込んだ。
【0077】
【表1】
【0078】
次に、養殖池250に塩分濃度が2.0%の汽水域となるように調整した人工海水を50t(水深:約1.5m)注入するとともに、主ポンプ175による循環を初期流量100L/分にて開始した。そして、各ノズルA,Bについて表1に示す流量設定となるように、分配バルブ183の開度をすでに詳細に説明した方式により制御した。また、養殖水の制御目標となる酸素濃度を、下記表2に示す番号1~6の各条件(2.0ppm~7.5ppm、番号1(2.0ppm)及び番号6(7.5ppm)は比較例)となるように設定し、図1Aの電磁バルブ184及び174を駆動制御して養殖水の酸素濃度を各設定値に維持した。なお、散気部174の空気噴出流量は50NL/分(平均気泡径:0.3mm)とした。キャビテーションノズル1への空気供給流量は、大気圧換算での体積流量(NL/分)にて水流量の10%となるように調整した。さらに、図示しない圧力計にて計測した上記流量設定時のキャビテーションノズルの動水圧の値と、流量値と全流通断面積とから算出した絞り孔(キャビテーション処理部)内の平均流速の値も表1に合わせて示している。いずれの条件においても、キャビテーション処理部の平均流速は9m/秒の値に確保されている。
【0079】
この状態で、200匹/トンの個体密度となるようにバナメイエビの稚エビを投入するとともに、池内の稚エビには、魚粉、オキアミミール、イカミール及び小麦粉を配合した飼料をエビの成長度合いに応じて適宜投与し、飼育を行なった。飼育継続に伴い、養殖水にはエビの排せつ物や食べ残された飼料などが池内に有機残渣となって浮遊するようになる。養殖水の上記循環により、該浮遊物は図1Aの濾過槽252である程度除去されるが、長期間の飼育を継続すれば、除去しきれなかった浮遊物が下流側のバッファ槽側に流出し、補助フィルタリング部253f(キャビテーション処理用濾過部)に次第に堆積する。その結果、主ポンプ175による濾過用主配管180への吸い込み負荷が増大し、キャビテーション処理用配管1との分岐点よりも上流側において濾過用主配管180の循環流量は徐々に減少する。しかし、図1Aの閉鎖型陸上養殖装置の構成が採用されていることで、いずれの条件においても、キャビテーション処理用配管181(すなわちキャビテーションノズル1)側への分配流量は、設定された規定流量範囲内に維持することができた。なお、濾過槽252内のフィルタ252fについては、濾過用主配管180の総流量が30L/分以下に低下した場合に、一旦循環を止めて新しいものと適宜交換するようにした。なお、濾過槽252内は図示しないばっ気機構により空気ばっ気を行ない、腐植形成に関与するバシルス属等の好気性微生物を繁殖させることにより、濾過された有機残渣の腐植化を同時に行なうようにしている。
【0080】
上記の養殖試験を開始後、30日、90日及び120日の各日数が経過後に下記の項目について確認・評価した。
(1)COD値
養殖水をサンプリングし、JIS K 0102(2013)17に規定の方法により各々測定した。
(2)平均体長
養殖中のエビを30匹無作為に抽出し、各々体長を測定して平均値を求めた。
(3)死滅率
養殖池上に斃死して浮上するエビの死骸の数を3時間ごとに確認し、各日までの合計斃死数から死滅率を算出した。なお、比較のため、図1においてキャビテーションノズル1を用いず、キャビテーション処理用配管181に気液ミキサー150のみを取り付けた場合についても、同様の実験を行なった(キャビテーション処理なし)。以上の結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
*は比較例。
【0082】
養殖水の酸素濃度が本発明の範囲内となる番号2~5の酸素濃度については、キャビテーション処理を行なった養殖水を用いることにより、キャビテーション処理を行なわない養殖水を用いた場合と比較して、養殖水が同じ酸素濃度を示していてもエビの成長が格段に早いことが明らかである。また、キャビテーション処理を行なうことで養殖水のCOD値は顕著に低くなっており、養殖水の汚染が進みにくくなっていることがわかる。特に3~4ppmの低酸素濃度領域では、キャビテーション処理を行なわない場合のエビの死滅率が著しく高くなっているのに対し、キャビテーション処理を行なった場合の死滅率は大幅に低減されていることもわかる。
【0083】
また、養殖水の酸素濃度が本発明の範囲の下限値を下回る番号1(2ppm)の条件の場合、キャビテーション処理を行なっても120日経過の時点で死滅率が高まっており、COD値の悪化が見られている。他方、養殖水の酸素濃度が本発明の範囲の上限値を上回る番号6の条件(7.5ppm)の場合、キャビテーション処理を行なわなかった場合よりも死滅率が高くなっていることがわかる。番号6の条件は酸素濃度が高いばかりでなく、養殖水W全体積に対するキャビテーションノズル1の流通循環比Kが大きいためキャビテーションノズル1にて100nm~30μm程度に成長した気泡の発生量が過剰となり、この気泡がエビのえらに付着して溶存酸素の取り込みが困難になったことが原因と考えられた。
【0084】
(実施例2)
キャビテーションノズルとして、キャビテーション処理部の構造を図14の形態(絞り孔9を2個形成)に変更した以外は、図1Cに示すものと同様の寸法関係にて作成した。なお、各絞り孔の内径Dについてはφ3.9mm(キャビテーションノズルCと称する)及びφ4.9mm(キャビテーションノズルDと称する)の2種類用意した。また、大流量用として、図1Cに示すものと同様の絞り孔9が1組のキャビテーションノズルを、絞り孔内径Dがφ9.8mm(キャビテーションノズルEと称する)及びφ15.0mm(キャビテーションノズルFと称する)の2種類用意した。前者については図2に示す4本のねじからなる面ねじ組を2組とし、後者については面ねじ組を1~3組の各値にて、それぞれ互いに重なる位置関係にて配置している。いずれのノズルも70%谷点密度は2.0個/mm以上に確保されている
【0085】
これらのノズルを図1Aの閉鎖型陸上養殖装置に組み込み、以下の試験条件にて実施例1と同様の実験及び評価を行なった。いずれの条件においても養殖水に対する設定酸素濃度は4ppmとし、被養殖物(バナメイエビ)の個体密度は200匹/tonとした。キャビテーションノズルCについては制御流量値を4.6~6.1L/分に設定することで、キャビテーション処理部における流速を7.5~9.9m/secの各値に調整した。キャビテーションノズルDについては制御流量値を6.0~11.7L/分に設定することで、キャビテーション処理部における流速を5.2~9.9m/secの各値に調整した。キャビテーションノズルE及びFについては制御流量値を33.1L/分及び86.7L/分に設定することで、キャビテーション処理部における流速を9.9m/secに調整した。また、養殖池の水量については50t~500tの範囲で種々設定しているが、キャビテーションノズルの種類及び流量との組み合わせにより、流通循環比Kの値が0.5%以上2%以下に収まるように設定されている。以上の結果を表3に示す(キャビテーション処理を行なったものにつき、90日目と120日目の結果を示している)。
【0086】
【表3】
【0087】
70%谷点面積密度が1.6個/mm以上のキャビテーションノズルを使用し、キャビテーション処理部における平均流速が8m/secとなる条件が確保されている条件(番号51、53、54、56、56~58)では、実施例1の酸素濃度4ppm(番号3)のキャビテーションなしの場合と比較しても明らかな通り、エビの成長が促進され、水質を示すCOD値も良好に維持され、死滅率も低いことがわかる。一方、キャビテーション処理部における平均流速が8m/sec未満となる比較例(番号52、55)については、死滅率が高く、COD値も悪化していることがわかる。また、70%谷点面積密度が1.6個/mmを下回るキャビテーションノズルを使用した番号59の条件では、70%谷点面積密度が1.6個/mm以上のキャビテーションノズルを使用した場合と比較して、エビの成長がやや遅く、死滅率も増加していることがわかる。
【0088】
(実施例3)
実施例1と全く同じキャビテーションノズルA,Bを図10の気液ミキサー150とともに図1Aの閉鎖型陸上養殖装置300に組み込み、養殖池250に塩分濃度が3.5%の人工海水を50t(水深:約2m)注入するとともに、主ポンプ175による循環を初期流量100L/分にて開始した。そして、各ノズルA,Bについて実施例1と同じ流量設定となるように、分配バルブ183の開度を制御する一方、養殖水の制御目標となる酸素濃度を、4.0ppm~7.5ppm(7.5ppm)は比較例)となるように設定し、図1Aの電磁バルブ184及び174を駆動制御して養殖水の酸素濃度を各設定値に維持した。散気部174の空気噴出流量は50NL/分(平均気泡径:0.3mm)とした。キャビテーションノズル1への空気供給流量は、大気圧換算での体積流量(NL/分)にて水流量の10%となるように調整した。また、図示しない圧力計にて計測した上記流量設定時のキャビテーションノズルの動水圧の値と、流量値と全流通断面積とから算出した絞り孔(キャビテーション処理部)内の平均流速の値も表1に合わせて示している。いずれの条件においても、キャビテーション処理部の平均流速は9m/秒以上の値に確保されている。
【0089】
この状態で、40匹/トンの個体密度となるように真鯛の稚魚を投入するとともに、池内の真鯛には、イワシ系のモイストペレットを真鯛の成長度合いに応じて適宜投与し、飼育を行なった。本実施形態においても、濾過槽252内のフィルタ252fは濾過用主配管180の総流量が30L/分以下に低下した場合は、一旦循環を止めて新しいものと適宜交換するようにした。また、濾過槽252内は図示しないばっ気機構により空気ばっ気を行ない、好気性微生物を繁殖させることにより、濾過された有機残渣の腐植化を同時に行なうようにしている。
【0090】
上記の養殖試験を開始後、240日及び510日の各日数が経過後に、真鯛の平均体重と死滅率とを計測した。なお、比較のため、図1においてキャビテーションノズル1を用いず、キャビテーション処理用配管181に気液ミキサー150のみを取り付けた場合についても、同様の実験を行なった(キャビテーション処理なし)。以上の結果を表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
養殖水の酸素濃度が本発明の範囲内となる番号101、102の酸素濃度については、キャビテーション処理を行なった養殖水を用いることで、キャビテーション処理を行なわない養殖水を用いた場合と比較して、養殖水が同じ酸素濃度を示していても真鯛の成長が格段に早いことが明らかである。特に4ppmの低酸素濃度領域では、キャビテーション処理を行なわない場合の真鯛の死滅率が著しく高くなっているのに対し、キャビテーション処理を行なった場合の死滅率は大幅に低減されていることもわかる。他方、養殖水の酸素濃度が本発明の範囲の上限値を上回る番号103の条件(7.5ppm)の場合、キャビテーション処理を行なわなかった場合よりも死滅率が高くなっていることがわかる。
【符号の説明】
【0093】
1 キャビテーションノズル
2 ノズル本体
3 ノズル流路
5 養殖水出口
4 養殖水入口
9 絞り孔
10 ねじ部材
150 気液ミキサー
151 外筒部材
155 流路形成部材
156 螺旋区間
157 第一螺旋状流路
158 第二螺旋状流路
159 流入口
160 流出口
165 混相流供給部
174 散気部
175 主ポンプ
180 濾過用主配管
181 キャビテーション処理用配管
181p キャビテーション処理用ポンプ
182 流量検出部
183 分配バルブ
185 キャビテーション流量制御部
250 養殖池
252 濾過槽
253f 補助フィルタリング部(キャビテーション処理用濾過部)
300 閉鎖型陸上養殖装置
W 養殖水
SP 被養殖物
LP1~LP4 ねじ配置面
CV キャビテーション処理部

図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
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