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特許7410496走行レールおよびこれを用いたメンテナンス装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】走行レールおよびこれを用いたメンテナンス装置
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/00 20060101AFI20231227BHJP
   H04N 5/222 20060101ALI20231227BHJP
   G03B 17/56 20210101ALI20231227BHJP
【FI】
E04G23/00
H04N5/222 100
G03B17/56 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020071841
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021167545
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義久
(72)【発明者】
【氏名】後閑 勝規
(72)【発明者】
【氏名】小田 祐二
(72)【発明者】
【氏名】川幡 亜里紗
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 意法
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴志
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-056504(JP,A)
【文献】実開平05-029480(JP,U)
【文献】特開昭51-131075(JP,A)
【文献】特開昭61-109884(JP,A)
【文献】特開2017-197154(JP,A)
【文献】米国特許第04716839(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14
E04G 23/00
H04N 5/222-5/257
H04N 23/00
H04N 23/40-23/76
H04N 23/90-23/959
G03B 17/56
B66C 9/00-11/26
B66C 17/00-17/26
E01B 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンテナンスのために建物内を移動可能でかつ移動用の回転部材を備えた走行体を支持する走行レールであって、
前記建物内の構造材の一面からなる取付面に固定されるベース部と、
前記ベース部から前記取付面の面外方向に延びる延設部と、
前記延設部の先端に形成されかつ前記回転部材と係合可能なように前記延設部に対し拡幅された保持部とを備え、
前記ベース部は、軟質樹脂製のベース表層材と、ベース表層材の内部に配置されかつ当該ベース表層材よりも硬質な材料からなるベース芯材とを有し、
前記延設部は、前記ベース表層材と一体の軟質樹脂製の延設表層材と、延設表層材の内部に配置されかつ当該延設表層材よりも硬質な材料からなる延設芯材とを有し、
前記保持部は、前記延設表層材と一体の軟質樹脂を含む材料により構成されている、ことを特徴とする走行レール。
【請求項2】
請求項1に記載の走行レールにおいて、
前記ベース芯材と前記延設芯材とが互いに分離している、ことを特徴とする走行レール。
【請求項3】
請求項1または2に記載の走行レールにおいて、
前記保持部が軟質樹脂のみによって構成された、ことを特徴とする走行レール。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の走行レールにおいて、
前記ベース部は、当該ベース部から前記延設部が下方に延びる姿勢で前記取付面に固定され、
前記走行体は、前記回転部材として、前記保持部の上側において前記延設部を両側から挟み込むように配置される複数の車輪を備え、
前記保持部は、前記延設部の先端から両側に張り出す部分を有し、かつ当該各張り出し部の上面が凹状に湾曲するように形成されている、ことを特徴とする走行レール。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の走行レールにおいて、
前記保持部が中空状に形成されている、ことを特徴とする走行レール。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の走行レールと、
建物を点検するために前記走行レールに移動可能に支持された走行体とを備える、ことを特徴とするメンテナンス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンスのために建物内を移動可能でかつ移動用の回転部材を備えた走行体を支持する走行レールおよびこれを用いたメンテナンス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物内を移動して所要の点検等を行うメンテナンス装置として、下記特許文献1のものが知られている。この特許文献1のメンテナンス装置(点検装置)は、建物の床下空間を点検するための装置であって、床構造材の下面に固定されるレールと、レールに吊り下げられた状態で当該レールに沿って移動可能な点検走行体とを備えている。
【0003】
上記レールは、略C型の断面を有する長尺な鋼材(C型鋼)からなり、そのC型断面の開口を下方に向ける姿勢で上記床構造材の下面に固定される。上記点検走行体は、点検対象物を撮像可能な赤外線カメラ等からなる撮像部を含む本体部と、当該本体部を上記レールに沿って移動させる走行部とを有している。走行部は、上記C型鋼の内部に回転可能に保持される走行輪と、当該走行輪を回転駆動する駆動モータとを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-56504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のメンテナンス装置によれば、レールに沿って走行体を移動させつつ撮像部により床下空間を撮像することにより、床下空間内の点検対象を容易かつ迅速に点検できるという利点がある。また、床構造材に取り付けられるレールとしてC型鋼が用いられるので、走行体の支持剛性を良好に確保できるという利点もある。
【0006】
しかしながら、C型鋼製のレールを用いる上記特許文献1において、当該レールを用いてループ状の走行経路を構築するには、ストレート状の直線レールと円弧状のカーブレールとを組み合わせることが必要になる。すなわち、走行体の走行経路をループ状にするには、複数の直線レールと複数のカーブレールとを用意し、これらを現場でつなぎ合わせることが必要である。このことは、レールを含むメンテナンス装置の製造コストの増大や、レールを現場に設置する作業の作業性の悪化につながる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、走行体の支持剛性と走行経路の自由度とを簡単な構成で両立することが可能な走行レールおよびこれを用いたメンテナンス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、メンテナンスのために建物内を移動可能でかつ移動用の回転部材を備えた走行体を支持する走行レールであって、前記建物内の構造材の一面からなる取付面に固定されるベース部と、前記ベース部から前記取付面の面外方向に延びる延設部と、前記延設部の先端に形成されかつ前記回転部材と係合可能なように前記延設部に対し拡幅された保持部とを備え、前記ベース部は、軟質樹脂製のベース表層材と、ベース表層材の内部に配置されかつ当該ベース表層材よりも硬質な材料からなるベース芯材とを有し、前記延設部は、前記ベース表層材と一体の軟質樹脂製の延設表層材と、延設表層材の内部に配置されかつ当該延設表層材よりも硬質な材料からなる延設芯材とを有し、前記保持部は、前記延設表層材と一体の軟質樹脂を含む材料により構成されている、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、ベース部および延設部の一部(ベース表層材および延設表層材)と保持部の少なくとも一部とが軟質樹脂により構成されるので、走行レールに適度な柔軟性(可撓性)を付与することができる。これにより、走行レールを自在に曲げることが可能になるので、例えば複数の走行レールを適宜曲げながらつなぎ合わせることにより、ループ形状等の所望の形状を有する走行経路を構築することができる。言い換えると、同一の走行レールを走行経路の長さに応じた数だけ用意すれば、用意した走行レールの少なくとも一部を曲げながら各走行レールをつなぎ合わせることにより、カーブ部を含む所望の形状の(例えばループ状の)走行経路を構築することができる。これにより、例えばカーブ部とストレート部とにそれぞれ専用のレールを用意することが不要になるので、走行レールの製造コストを低減しつつ走行経路の自由度を良好に確保できるとともに、走行レールの現場での施工性を向上させることができる。
【0010】
一方、ベース部および延設部は、その中心部(ベース芯材および延設芯材)が硬質樹脂により構成されるので、走行レールに適度な保形性を付与することができ、走行レールによる走行体の支持剛性を良好に確保することができる。これにより、走行体の走行時に走行レールの形状変形が起き難くなり、当該形状変形に起因した走行体の揺動等が起き難くなるので、走行体を安定的に走行レールに沿って移動させることができ、当該走行体を用いたメンテナンス作業の精度を高めることができる。
【0011】
前記ベース芯材と前記延設芯材とは互いに分離していることが好ましい(請求項2)。
【0012】
この構成によれば、走行レールの剛性が過剰に高まるのを回避でき、走行レールの柔軟性(可撓性)を適切なレベルに維持することができる。これにより、走行レールを曲げるときの曲率半径の下限値(最小曲げ半径)をある程度小さい値に抑えることが可能になるので、このような曲げ易い走行レールを用いて走行体の走行経路を比較的自由に設定することができる。
【0013】
前記保持部は軟質樹脂のみによって構成されることが好ましい(請求項3)。
【0014】
この構成によれば、走行レールの柔軟性(可撓性)を高めて走行経路の自由度を拡大することができる。
【0015】
好ましくは、前記ベース部は、当該ベース部から前記延設部が下方に延びる姿勢で前記取付面に固定され、前記走行体は、前記回転部材として、前記保持部の上側において前記延設部を両側から挟むように配置される複数の車輪を備え、前記保持部は、前記延設部の先端から両側に張り出す部分を有し、かつ当該各張り出し部の上面が凹状に湾曲するように形成される(請求項4)。
【0016】
この構成によれば、走行体の車輪周面のアール形状と張り出し部とを良好にフィットさせることができ、保持部による車輪の保持能力を高めることができる。すなわち、走行レールからの走行体の脱落を高い確率で回避できるとともに、走行レール上の安定した位置に走行体を保持しつつ当該走行レールに沿って走行体をスムーズに移動させることができる。
【0017】
前記保持部は中空状に形成されることが好ましい(請求項5)。
【0018】
この構成によれば、走行レールの柔軟性(可撓性)を高めて走行経路の自由度を拡大することができる。また、走行レールを軸方向につなぎ合わせるときに、例えば一方の走行レールの保持部と他方の走行レールの保持部とに跨って接続用のピン等を嵌入することにより、両走行レールの保持部の位置が幅方向にずれるのを防止することができ、走行レールと走行レールとのつなぎ目を走行体が移動するときに生じ得る走行体の振動を低減することができる。
【0019】
また、本発明は、建物用のメンテナンス装置であって、上述した走行レールと、建物を点検するために前記走行レールに移動可能に支持された走行体とを備える、ことを特徴とするものである(請求項6)。
【0020】
本発明のメンテナンス装置によれば、走行体の支持剛性と走行経路の自由度とを簡単な構成で両立することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、走行体の支持剛性と走行経路の自由度とを簡単な構成で両立することが可能な走行レールおよびこれを用いたメンテナンス装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態にかかるメンテナンス装置の概略構成を示す正面図である。
図2】上記メンテナンス装置の背面図である。
図3】上記メンテナンス装置の側面図である。
図4】走行体の制御系統を示すブロック図である。
図5】走行レールの詳細構造を示す断面図である。
図6】軸方向に隣接する2つの走行レールの突き合わせ部を示す側面図である。
図7】走行レールの端面を示す斜視図である。
図8】複数の走行レールを用いてループ状の走行経路を構築した状態を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1図3は、本発明の一実施形態にかかるメンテナンス装置の概略構成を示す正面図、背面図、および側面図である。当実施形態のメンテナンス装置は、建物の床下空間を点検するために用いられる装置であり、走行レール1と、走行レール1に支持された走行体2とを備えている。走行レール1は、ここでは床板F1を支持する床フレーム材F2(いわゆる大引)の下面に固定されている。
【0024】
[走行体の構成]
走行体2は、床下空間を点検するために走行レール1に沿って移動するものであり、走行レール1に吊り下げ状態で支持されている。具体的に、走行体2は、本体部21と、可動部22とを備えている。本体部21は、床下空間を点検するための主要部品(後述する撮像装置26等)を含むものであり、走行レール1の下方に配置されている。可動部22は、走行レール1に係合される回転部材(後述する駆動輪43および従動輪44)を含むものであり、本体部21を走行レール1に沿って移動可能に支持している。
【0025】
本体部21は、ケーシング25と、撮像装置26と、照明装置27と、モータ28と、始動スイッチ29と、コントローラ30と、メモリーカード31とを備えている。
【0026】
ケーシング25は、略箱状の筐体である。ケーシング25には、撮像装置26や照明装置27等を含む各種部品が取り付けられている。
【0027】
撮像装置26は、レンズと、当該レンズを通じて取り込まれた光を電気信号に変換するCCDイメージセンサ等の撮像素子とを含むカメラである。撮像装置26は、ケーシング25の長手方向(走行レール1の軸方向と同じ)の一端部に取り付けられている。以下では、当該長手方向のうち撮像装置26が取り付けられる側を「前」、その反対側を「後」とする。撮像装置26は、そのレンズが走行体2の前方を臨む姿勢でケーシング25の前端部に取り付けられている。また、撮像装置26の視野は、主に走行体2の斜め下方の領域を撮像し得るように設定されている。
【0028】
照明装置27は、複数のLED27aを有している。複数のLED27aは、撮像装置26が撮像すべき領域(走行体2の前方および下方)を照らすことが可能なように、ケーシング25の前面および下面に適宜の数ずつ取り付けられている。
【0029】
モータ28は、可動部22(後述する駆動輪43)を駆動するための駆動源としてケーシング25の内部に配設されている。モータ28は、図外の電源部(例えば電池またはバッテリ)から電力の供給を受けて回転する出力軸28aを有している。
【0030】
始動スイッチ29は、走行体2の走行(点検)を開始するためにONされるスイッチであり、ケーシング25の外面に取り付けられている。始動スイッチ29がONされることにより、モータ28が作動して走行体2の走行が開始されるとともに、照明装置27および撮像装置26が作動して床下空間の撮像が開始されるようになっている。
【0031】
コントローラ30は、マイクロコンピュータ(周知のCPU、RAM、ROM等)を含む制御基板であり、コントローラ30の内部に実装されている。コントローラ30には、始動スイッチ29がONされたときに、床下空間の点検のための所定の動作(上述したモータ28の駆動や撮像装置26による撮像)を走行体2に行わせるための制御プログラムが記憶されている。
【0032】
メモリーカード31は、撮像装置26により撮像された画像データを保存するための外部記憶媒体である。メモリーカード31は、ケーシング25に挿脱可能に取り付けられている。
【0033】
図4は、走行体2の制御系統を示すブロック図である。本図に示すように、コントローラ30は、始動スイッチ29のON時に撮像装置26、照明装置27(LED27a)、およびモータ28にそれぞれ点検用の動作を行わせることが可能なように、これら各要素と電気的に接続されている。メモリーカード31は、撮像装置26と電気的に接続されており、撮像装置26から出力される画像データを保存可能とされている。
【0034】
図1図3に示すように、可動部22は、一対の第1車軸41と、一対の第2車軸42と、一対の駆動輪43と、一対の従動輪44とを備えている。
【0035】
一対の第1車軸41は、本体部21(ケーシング25)の前部から上方に突出する左右一対の車軸である。各第1車軸41は、モータ28の出力軸28aとギヤ33を介して連結されている。すなわち、第1車軸41は、モータ28の駆動(出力軸28aの回転)に連動して回転することが可能である。
【0036】
一対の駆動輪43は、上下方向に延びる軸を中心とした扁平な円筒状の車輪(タイヤ)であり、一対の第1車軸41の上端部にそれぞれ同軸に固定されている。各駆動輪43は、モータ28により第1車軸41が回転駆動されるのに応じて、当該第1車軸41と一体に回転する。
【0037】
一対の第2車軸42は、本体部21(ケーシング25)の後部から上方に突出する左右一対の車軸である。
【0038】
一対の従動輪44は、上下方向に延びる軸を中心とした扁平な円筒状の車輪(タイヤ)であり、一対の第2車軸42の上端部にそれぞれ同軸にかつ回転可能に取り付けられている。
【0039】
一対の駆動輪43および一対の従動輪44は、走行レール1をその左右両側から挟み込むように配置され、かつ走行レール1に接触している。モータ28は、この状態で駆動輪43を回転させることにより、走行体2を走行レール1に沿って移動させる。
【0040】
[走行レールの構成]
図5は、走行レール1の詳細構造を示す断面図である。この図5および先の図1図3に示すように、走行レール1は、ベース部11と、延設部12と、保持部13とを備えている。ベース部11は、床フレーム材F2の下面(取付面)に沿って配置される板状体であり、例えばビス等の締結部材により床フレーム材F2に固定される。延設部12は、ベース部11から下方に(床フレーム材F2の下面から離れる面外方向に)延びるように形成されている。保持部13は、延設部12の下端において左右両側に張り出すように形成されている。走行レール1は、ベース部11の幅方向(左右方向)の中間部に延設部12の上端が結合されることにより、全体として略T字状をなすように形成されている。
【0041】
走行レール1は、押出成形により成形された合成樹脂製の一体成形品であり、一定の断面形状を保持しつつ軸方向(前後方向)に延びるように形成されている。また、走行レール1は、硬度の異なる2種類の樹脂を用いた二層成形品である。具体的に、走行レール1は、硬質樹脂製の内層(後述するベース芯材11bおよび延設芯材12b)と、その周りを覆う軟質樹脂製の表層とを一体に有している。軟質樹脂および硬質樹脂の組合せとしては、走行体2を支持し得る強度を実現できるものであれば適宜の組合せを使用可能であるが、例えば軟質の塩化ビニル樹脂と硬質の塩化ビニル樹脂との組合せを好適に使用することができる。
【0042】
ベース部11は、上述した軟質/硬質樹脂による二層構造を有している。すなわち、ベース部11は、図5に示すように、軟質樹脂製のベース表層材11aと、ベース表層材11aの内部に配置されかつ当該ベース表層材11aよりも硬質な材料からなるベース芯材11bとを有している。ベース芯材11bは、水平方向に延びる扁平な板状に形成されている。ベース表層材11aは、ベース芯材11bの上下および左右を取り囲むようにベース芯材11bを覆っており、かつベース芯材11bと一体に結合している。ベース部11およびベース芯材11bの厚みは走行体2の重量や形状等に応じて適宜設定可能であるが、好適な一例として、ベース部11の厚みを3mmに、ベース芯材11bの厚みを1mmに、それぞれ設定することができる。
【0043】
延設部12は、上述した軟質/硬質樹脂による二層構造を有している。すなわち、延設部12は、軟質樹脂製の延設表層材12aと、延設表層材12aの内部に配置されかつ当該延設表層材12aよりも硬質な材料からなる延設芯材12bとを有している。延設芯材12bは、上下方向に延びる扁平な板状に形成されている。延設表層材12aは、延設芯材12bの上下および左右を取り囲むように延設芯材12bを覆っており、かつ延設芯材12bと一体に結合している。延設部12および延設芯材12bの厚みは走行体2の重量や形状等に応じて適宜設定可能であるが、好適な一例として、延設部12の厚みを4mmに、延設芯材11bの厚みを1.5mmに、それぞれ設定することができる。
【0044】
延設表層材12aの上端は、ベース表層材11aの幅方向(左右方向)の中間部に一体に結合されている。一方、延設芯材12bは、ベース芯材11bから分離している。すなわち、延設芯材12bの上端の位置が延設表層材12aの上端よりも低い位置に設定されることにより、ベース芯材11bの下面と延設芯材12bの上端との間の所定の間隔が設けられるようになっている。好適な一例において、当該間隔は4.2mmである。
【0045】
保持部13は、軟質樹脂のみを用いた単層構造とされている。すなわち、保持部13は、延設表層材12aと一体の軟質樹脂のみによって構成されている。保持部13は、内部に孔H(図5)を有する中空構造とされている。孔Hは、走行レール1を軸方向(前後方向)に貫通しており、走行レール1の前端面および後端面にそれぞれ開口している。
【0046】
保持部13は、延設部12(延設表層材12a)の左右の側面から張り出す一対の張り出し部13aを有している。図1および図2に示すように、一対の張り出し部13aは、走行体2の駆動輪43および従動輪44の各周縁を下から支持し得るように張り出している。言い換えると、走行体2は、その駆動輪43および従動輪44の各周縁が張り出し部13aに支持されることにより、前後方向に移動可能な状態で走行レール1と係合している。
【0047】
図5に示すように、各張り出し部13aの上面Sは、下方に窪む円弧状の湾曲面とされている。上面Sがこのような形状を有するのは、駆動輪43および従動輪44の周面のアール形状(丸められた角部)に適合させるためである。
【0048】
以上のような構成の走行レール1を建物の床下に敷設するには、複数の走行レール1を用意してそれらを軸方向につなぎ合わせる。走行レール1のつなぎ合わせは、一方の走行レール1のベース部11と他方の走行レール1のベース部11とが同軸に連続するように配置した状態で、各ベース部11を床フレーム材F2等の床材に固定することにより、行うことができる。ただしこれだけでは、ベース部11から離れた保持部13の幅方向(左右方向)の位置が、両走行レール1の間でずれるおそれがある。そこで、当実施形態では、このような幅方向の位置ずれを防止するために、図6および図7に示す接続ピン15が用いられる。なお、図6は、軸方向に隣接する2つの走行レール1の突き合わせ部(接続部)を示す側面図であり、図7は、隣接する走行レール1のうちの一方のレール端面を示す斜視図である。
【0049】
図6および図7に示すように、接続ピン15は、軸方向に隣接する走行レール1の間に取り付けられる。接続ピン15は、例えば長円筒状のピンであり、各走行レール1の保持部13の孔Hに嵌入可能な外径を有している。すなわち、接続ピン15は、一方の走行レール1の孔Hに一部が嵌入され、かつ他方の走行レール1の孔Hに残部が嵌入されることにより、両走行レール1に跨って取り付けられる。
【0050】
[メンテナンス装置の使用例]
図8は、複数の走行レール1を用いてループ状の走行経路を構築した状態を概略的に示す説明図である。当実施形態では、上述したとおり、走行レール1として軟質樹脂を含む合成樹脂製のレールが用いられるため、走行レール1自体を曲げることが可能である。このため、図8に示すようなループ状の走行経路は、同一の走行レール1を複数用意した上で、そのうちのいくつかの走行レール1を適宜曲げながら軸方向につなげ合わせることにより、構築することができる。なお、走行レール1により規定される走行経路は、床下空間に存在する点検対象物の位置(レイアウト)に応じて適宜設定すればよい。点検対象物としては、例えば、各種配管や、木質部、シロアリ等による食害対策のための防蟻処理部などが挙げられる。
【0051】
上記点検対象物を点検する際には、まず、上記のようにして予め床下に設置されている走行レール1に走行体2を取り付ける。ただし、図8のように走行レール1がループ状につなぎ合わせられている場合、このループ状の走行レール1に走行体2を後付けできるようにする措置が必要である。具体的な措置は種々考えられるが、例えば、走行体2の駆動輪43および従動輪44を車軸41,42に対し着脱可能とすることが考えられる。
【0052】
次いで、走行レール1に取り付けられた走行体2の始動スイッチ29をONする。これにより、コントローラ30に格納されている制御プログラムが始動し、当該プログラムに沿って走行体2の点検動作が開始される。すなわち、モータ28が駆動されて駆動輪43が回転し、走行体2が走行レール1に沿って移動(前進)し始める。また、照明装置27が作動して走行体2の前方が照らされる。さらに、撮像装置26による撮像が開始され、その撮像画像が随時メモリーカード31に保存される。走行体2は、走行レール1に沿って走行経路を一周した時点で停止し、その時点で撮像装置26による撮像も終了される。
【0053】
作業者は、走行体2が一周した後、メモリーカード31を抜き出して、当該メモリーカード31に保存されている画像をパソコン等に取り込んで表示する。そして、この表示画像に基づいて、点検対象物に異常が生じていないかをチェックする。例えば、配管等の水漏れ、木質部の腐食、防蟻処理部の劣化といった異常の有無をチェックする。
【0054】
[作用効果]
以上説明したように、当実施形態では、点検用の走行体2を移動可能に支持する走行レール1として、軟質樹脂および硬質樹脂を併用した二層構造のレールが使用されるので、走行レール1による走行体2の支持剛性と走行経路の自由度とを簡単な構成で両立できるという利点がある。
【0055】
すなわち、上記実施形態では、走行レール1におけるベース部11および延設部12の一部(ベース表層材11aおよび延設表層材12a)と保持部13とが軟質樹脂により構成されているので、走行レール1に適度な柔軟性(可撓性)を付与することができる。これにより、走行レール1を自在に曲げることが可能になるので、例えば複数の走行レール1を適宜曲げながらつなぎ合わせることにより、ループ形状等の所望の形状を有する走行経路を構築することができる。言い換えると、同一の走行レール1を走行経路の長さに応じた数だけ用意すれば、用意した走行レール1の少なくとも一部を曲げながら各走行レール1をつなぎ合わせることにより、カーブ部を含む所望の形状の(例えばループ状の)走行経路を構築することができる。これにより、例えばカーブ部とストレート部とにそれぞれ専用のレールを用意することが不要になるので、走行レール1の製造コストを低減しつつ走行経路の自由度を良好に確保できるとともに、走行レール1の現場での施工性を向上させることができる。
【0056】
一方、ベース部11および延設部12は、その中心部(ベース芯材11bおよび延設芯材12b)が硬質樹脂により構成されているので、走行レール1に適度な保形性を付与することができ、走行レール1による走行体2の支持剛性を良好に確保することができる。これにより、走行体2の走行時に走行レール1の形状変形が起き難くなり、当該形状変形に起因した走行体2の揺動等が起き難くなるので、走行体2を安定的に走行レール1に沿って移動させることができ、当該走行体2を用いた点検作業の精度を高めることができる。
【0057】
また、上記実施形態では、硬質樹脂製のベース芯材11bおよび延設芯材12bが互いに分離しているので、走行レール1の剛性が過剰に高まるのを回避でき、走行レール1の柔軟性(可撓性)を適切なレベルに維持することができる。これにより、走行レール1を曲げるときの曲率半径の下限値(最小曲げ半径)をある程度小さい値(例えば300mm程度)に抑えることが可能になるので、このような曲げ易い走行レール1を用いて走行体2の走行経路を比較的自由に設定することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、延設部12(延設表層材12a)の左右の側面から張り出す一対の張り出し部13aが保持部13に形成されるとともに、当該張り出し部13aの上面Sが凹状に湾曲しているので、走行体2の車輪(駆動輪43および従動輪44)の周面のアール形状と張り出し部13aとを良好にフィットさせることができ、保持部13による車輪43,44の保持能力を高めることができる。すなわち、走行レール1からの走行体2の脱落を高い確率で回避できるとともに、走行レール1上の安定した位置に走行体2を保持しつつ当該走行レール1に沿って走行体2をスムーズに移動させることができる。
【0059】
また、上記実施形態では、保持部13が中空状に形成されている(保持部13を軸方向に貫通する孔Hが形成されている)ので、走行レール1の柔軟性(可撓性)を高めて走行経路の自由度を拡大することができる。また、走行レール1を軸方向につなぎ合わせるときに、一方の走行レール1の保持部13と他方の走行レール1の保持部13とに跨って接続ピン15を嵌入することにより、両走行レール1の保持部13の位置が幅方向にずれるのを防止することができ、走行レール1と走行レール1とのつなぎ目を走行体2が移動するときに生じ得る走行体2の振動を低減することができる。
【0060】
[変形例]
上記実施形態では、メンテナンス装置を建物の床下空間を点検する用途に使用した例について説明したが、本発明のメンテナンス装置は、建物内の種々の空間を点検するために用いることができ、例えば天井裏空間を点検するために本発明のメンテナンス装置を用いてもよい。また、上記実施形態では、走行体2に搭載された撮像装置26により所定の点検対象物(各種配管、木質部、防蟻処理部など)を撮像してその状況(異常の有無)を確認する例について説明したが、本発明のメンテナンス装置は、ガス漏れや異臭などが発生しているか否かを確認するために用いることもできる。なお、この場合は、ガス漏れや異臭などを検知するためのセンサを走行体に搭載すればよい。
【0061】
さらに、本発明のメンテナンス装置は、上記のような各種異常の有無を確認する作業(狭義の点検)に限らず、整備や手入れ等の何らかの作業(保守作業)を行うためにも用いることができる。例えば、防蟻処理部に追加の防蟻剤を散布するといった作業をメンテナンス装置に行わせることが可能である。なお、この場合は、防蟻剤を散布するための散布装置を走行体に搭載すればよい。
【0062】
上記実施形態では、撮像装置26により撮像された画像データをメモリーカード31に保存するようにしたが、画像データを無線通信によりリアルタイムで外部機器(パソコン等)に送信し得るようにシステムを構築してもよい。さらに、走行体2と外部機器との通信を可能とした場合には、当該外部機器により走行体2の動作(走行、撮像等)を制御できるようにしてもよい。
【0063】
上記実施形態では、延設部12がベース部11から下方に延びる姿勢で走行レール1を取り付けるとともに、この走行レール1に走行体2を吊り下げ状態で取り付けるようにしたが、走行レールの取付け姿勢(言い換えると走行レールによる走行体の支持姿勢)はこれに限られない。例えば、延設部がベース部から水平方向に延びる姿勢や、延設部がベース部から上方に延びる姿勢、さらには延設部が上下方向または水平方向に対し傾斜する姿勢など、種々な姿勢で走行レールを取り付けることが可能である。言い換えると、走行レール1のベース部11が固定される対象(取付面)は、建物の構造材の下面に限られず、当該構造材の側面や上面であってもよい。
【0064】
上記実施形態では、保持部13を延設表層材12aと一体の軟質樹脂のみによって構成したが、保持部は少なくともその一部が軟質樹脂により構成されていればよく、例えばベース部11や延設部12と同様の二層構造(軟質樹脂と硬質樹脂との二層構造)を有するように保持部を形成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 :走行レール
2 :走行体
11 :ベース部
11a :ベース表層材
11b :ベース芯材
12 :延設部
12a :延設表層材
12b :延設芯材
13 :保持部
13a :張り出し部
S :(張り出し部の)上面
43 :駆動輪(車輪)
44 :従動輪(車輪)
図1
図2
図3
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図6
図7
図8