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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】複合物、触媒及びアンモニアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/58 20060101AFI20231227BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20231227BHJP
   C01F 7/164 20220101ALN20231227BHJP
【FI】
B01J23/58 M
C01C1/04 E
C01F7/164
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019570737
(86)(22)【出願日】2019-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2019003887
(87)【国際公開番号】W WO2019156029
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018020548
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)、「エレクトライドの物質科学と応用展開」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517420810
【氏名又は名称】つばめBHB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】北野 政明
(72)【発明者】
【氏名】横山 壽治
(72)【発明者】
【氏名】河村 重喜
(72)【発明者】
【氏名】岸田 和久
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宗宣
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/034473(WO,A1)
【文献】特開2014-171916(JP,A)
【文献】特開2001-149780(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077658(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030394(WO,A1)
【文献】XIE, H. et al.,Energy & Fuels,2016年02月12日,Vol.30,pp.2336-2344,<DOI:10.1021/acs.energyfuels.5b02551>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01C 1/04
C01F 7/16 - 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイエナイト型化合物と、
前記マイエナイト型化合物に担持された活性金属と、
前記マイエナイト型化合物に担持されたアルカリ土類金属とを含む複合物であり、
前記複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを前記複合に接触させながら10時間保持した後の前記活性金属の平均粒子径が5.5nm未満であり、かつ前記活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が60%以上である複合物を含有し、
前記アルカリ土類金属はバリウムを含み、
前記活性金属に対する前記アルカリ土類金属のモル比(アルカリ土類金属のモル比/活性金属のモル比)が0.05~5であるアンモニア合成触媒。
【請求項2】
前記マイエナイト型化合物が12CaO・7Alである、請求項1に記載のアンモニア合成触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアンモニア合成触媒に窒素と水素を含むガスを接触させてアンモニアを製造する工程を含む、アンモニアの製造方法。
【請求項4】
前記アンモニアを製造する工程は、200~600℃の反応温度及び絶対圧で0.01~20MPaの反応圧力の条件下で、窒素と水素を含むガスを前記触媒に接触させる、請求項3に記載のアンモニアの製造方法。
【請求項5】
前記アンモニアを製造する工程は、250~700℃の反応温度及び絶対圧で0.1~30MPaの反応圧力の条件下で、窒素と水素を含むガスを前記触媒に接触させる、請求項3に記載のアンモニアの製造方法。
【請求項6】
前記アンモニアを製造する工程は、窒素に対する水素のモル比(H/N)が1~10の条件下で、窒素と水素を含むガスを前記触媒に接触させる、請求項3~5のいずれか1項に記載のアンモニアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合物、その複合物を含有する触媒及びその触媒を用いたアンモニアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業生産において広く用いられる硫安や尿素等の窒素肥料は、アンモニアを主原料として製造される。そのためアンモニアは非常に重要な化学原料として、その製造方法が検討されている。
最も広く使用されているアンモニア製造技術として、ハーバー・ボッシュ法が挙げられる。ハーバー・ボッシュ法は、窒素と水素を原料として、鉄を主成分とした触媒と高温高圧下で接触させることでアンモニアを製造する方法である。
ハーバー・ボッシュ法以外の合成方法として、種々の担体にルテニウムを担持した担持金属触媒を用いた合成方法が検討されている。
【0003】
一方、CaO、Al、SiOを構成成分とするアルミノケイ酸カルシウムの中に、鉱物名をマイエナイトと呼ぶ物質があり、その物質と同型の結晶構造を有する化合物を「マイエナイト型化合物」という。マイエナイト型化合物は、12CaO・7Al(以下、「C12A7」と略記することがある)なる代表組成を有し、C12A7結晶は、2分子からなる単位胞にある66個の酸素イオンの内の2個が、結晶骨格で形成されるケージ内の空間に「フリー酸素イオン」として包接されているという、特異な結晶構造([Ca24Al28644+(O2-)を持つことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、マイエナイト型化合物中の、フリー酸素イオンを種々の陰イオンで置換することができ、特に強い還元雰囲気下、高温でマイエナイト型化合物を保持することで、すべてのフリー酸素イオンを電子で置換することができる。そして、この電子で置換されたマイエナイト型化合物が良好な電子伝導特性を有する、導電性マイエナイト型化合物であることが報告されている(非特許文献2)。このように、フリー酸素イオンを電子で置換したマイエナイト型化合物を「Cl2A7エレクトライド」と呼ぶことがある。
【0005】
そして、C12A7エレクトライドを用いた触媒が、アンモニア合成用触媒として使用できることが報告されている(特許文献1)。
当該アンモニア合成用触媒は、具体的には、マイエナイト型化合物を還元雰囲気下、加熱することで、Cl2A7エレクトライドを作製し、このC12A7エレクトライドを担体として、ルテニウムを担持して製造することができる。この触媒は、従来のアンモニア合成用触媒に比べて、高いアンモニア合成活性を有し、高性能のアンモニア合成用触媒となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2012/077658号
【非特許文献】
【0007】
【文献】H.B.Bartl,T.Scheller and N.Jarhrb,Mineral Monatch.1970,547
【文献】S.Matuishi,Y.Toda,M.Miyakawa,K.Hayashi,T.Kamiya,M.Hirano,I.Ta naka and H.Hosono,Science 301,626-629(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
C12A7エレクトライドを担体として、ルテニウムを担持金属とした触媒は、高い性能を有するものの、さらに触媒活性を高くして、さらなる触媒の高性能化が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、触媒活性が高い触媒を得ることができる複合物、その複合物を含有する触媒及びその触媒を用いたアンモニアの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、マイエナイト型化合物と、マイエナイト型化合物に担持された活性金属とを含む複合物であり、複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3であるある窒素ガス及び水素ガスを含むガスを複合体に接触させながら10時間保持した後の活性金属の平均粒子径が5.5nm未満であり、かつ活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が60%以上である複合物を用いることにより、触媒活性が高い触媒が得られることを見出した。
【0011】
[1]マイエナイト型化合物と、前記マイエナイト型化合物に担持された活性金属とを含む複合物であり、前記複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを前記複合体に接触させながら10時間保持した後の前記活性金属の平均粒子径が5.5nm未満であり、かつ前記活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が60%以上である複合物。
[2]前記マイエナイト型化合物が12CaO・7Alである、上記[1]に記載の複合物。
[3]上記[1]又は[2]に記載の複合物を含有する触媒。
[4]上記[3]に記載の触媒に窒素と水素を含むガスを接触させてアンモニアを製造する工程を含む、アンモニアの製造方法。
[5]前記アンモニアを製造する工程は、200~600℃の反応温度及び絶対圧で0.01~20MPaの反応圧力の条件下で、窒素と水素を含むガスを上記[3]に記載の触媒に接触させる、上記[4]に記載のアンモニアの製造方法。
[6]前記アンモニアを製造する工程は、250~700℃の反応温度及び絶対圧で0.1~30MPaの反応圧力の条件下で、窒素と水素を含むガスを上記[3]に記載の触媒に接触させる、上記[4]に記載のアンモニアの製造方法。
[7]前記アンモニアを製造する工程は、窒素に対する水素のモル比(H/N)が1~10の条件下で、窒素と水素を含むガスを前記触媒に接触させる、上記[4]~[6]のいずれか1つに記載のアンモニアの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、触媒活性が高い触媒を得ることができる複合物、その複合物を含有する触媒及びその触媒を用いたアンモニアの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1及び比較例1の触媒を用いた場合のアンモニア合成反応における圧力を変化させたときのアンモニアの生成量を示すグラフである。
図2】実施例1及び比較例1の触媒を用いた場合のアンモニア合成反応における窒素に対する水素のモル比を変化させたときのアンモニアの生成量を示すグラフである。
図3】実施例1の触媒のTEM画像である。
図4】実施例1の触媒のTEM画像である。
図5】比較例1の触媒のTEM画像である。
図6】比較例1の触媒のTEM画像である。
図7】比較例2の触媒のTEM画像である。
図8】比較例2の触媒のTEM画像である。
図9】実施例1の触媒の活性金属の粒子径分布を示すグラフである。
図10】比較例1の触媒の活性金属の粒子径分布を示すグラフである。
図11】比較例2の触媒の活性金属の粒子径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[複合物]
本発明の複合物は、マイエナイト型化合物と、マイエナイト型化合物に担持された活性金属を含む。
【0015】
<マイエナイト型化合物>
マイエナイト型化合物とは、マイエナイトと同型の結晶構造を有する化合物をいう。マイエナイト型化合物は、好ましくはCaO、Al、SiOを構成成分とするアルミノケイ酸カルシウムであり、より好ましくは12CaO・7Alである。また、マイエナイト型化合物は、複合物の触媒活性をより高くするという観点で、カルシウム又はアルミニウムを含むことが好ましく、カルシウム及びアルミニウムを含むことがより好ましい。
マイエナイト型化合物の結晶は、籠状の構造(ケージ)がその壁面を共有し、三次元的に繋がることで構成される。通常、マイエナイト型化合物のケージの内部にはO2-などのアニオンが含まれているが、還元処理によってそれらを伝導電子に置換することができる。
本発明でマイエナイト型化合物として用いられる12CaO・7Alを単に「C12A7」と略記することがある。
【0016】
本発明の複合物に用いられるマイエナイト型化合物の比表面積は、好ましくは5m/g以上である。マイエナイト型化合物の比表面積を5m/g以上とすることにより、十分な触媒活性を得ることができる。マイエナイト型化合物の比表面積は、より好ましくは10m/g以上であり、さらに好ましくは15m/g以上であり、上限は特に限定はされないが、好ましくは200m/g以下であり、より好ましくは100m/g以下である。上記範囲内であれば、複合物が粉体である場合の複合物の取り扱いや複合物の成形性の面で有利である。
【0017】
本発明の複合物に用いられるマイエナイト型化合物の形状は、特に限定はされないが、通常、微粒子状、顆粒状、バルク状、成形体状等が挙げられる。マイエナイト型化合物の形状は、微粒子状、バルク状又は成形体状が好ましく、微粒子状又は成形体状がより好ましく、成形体状が更に好ましい。なお、成形体状とは、マイエナイト型化合物単独の成形体でもよく、マイエナイト型化合物とマイエナイト型化合物以外のバインダー成分との成形体でもよい。マイエナイト型化合物以外のバインダー成分としては、特に限定されないが、シリカバインダー、アルミナバインダー、チタニアバインダー、マグネシアバインダー、及び、ジルコニアバインダー等が挙げられ、これらのバインダーは単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよく、アルミナバインダーであることが好ましい。
マイエナイト型化合物の形状が微粒子状のとき、その粒子径は特に限定されないが、マイエナイト型化合物の一次粒子サイズは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常500nm以下、好ましくは100nm以下である。
マイエナイト型化合物は、微粒子にすることにより、質量当たりの表面積が増加する。マイエナイト型化合物の微粒子の細孔も、特に限定はされないが、マイエナイト型化合物の粒子の細孔がメソ孔領域になるため、好ましくは2~100nmである。
また、マイエナイト型化合物がバルク状である場合は、マイエナイト型化合物は細孔構造を有する多孔質体であることが好ましい。マイエナイト型化合物が細孔構造を有することでより比表面積の大きなマイエナイト型化合物が得られるためである。
本発明の複合物は、マイエナイト型化合物と、マイエナイト型化合物に担持された活性金属とを含む複合物であり、複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを複合体に接触させながら10時間保持した後の活性金属の平均粒子径が5.5nm未満であり、かつ活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が60%以上である。なお、この割合は、粒子数の割合である。450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含むガスを複合体に接触させながら10時間保持すると、一般的にマイエナイト型化合物に担持されている活性金属は凝集し、粒子径が増大する傾向にあり、触媒活性が低下する。さらに、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを複合体に接触する際には、窒素ガスの流速を15mL/分及び水素ガスの流速を45mL/分という条件を適用することが好ましい。なお、窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガス中の窒素ガスの割合及び水素ガスの割合の合計は、好ましくは70~100体積%であり、より好ましくは80~100体積%であり、更に好ましくは90~100体積%であり、更に好ましくは95~100体積%であり、更に好ましくは100体積%である。
【0018】
<活性金属>
本発明の複合物では、活性金属がマイエナイト型化合物に担持されている。従来、活性金属が担持されているマイエナイト型化合物を加熱したり還元したりすると、活性金属の粒子径が増大し、触媒活性が低下するという問題がある。本発明の複合物では、一定条件下で複合物を加熱したり還元したりしても、マイエナイト型化合物に担持されている活性金属の粒子径が増大することを抑制できる。具体的には、マイエナイト型化合物と、マイエナイト型化合物に担持された活性金属とを含む複合物であり、複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを複合体に接触させながら10時間保持した後の活性金属の平均粒子径が5.5nm未満であり、かつ活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属が60%以上である。なお、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを複合体に接触させながら10時間保持すると、一般的にマイエナイト型化合物に担持されている活性金属は凝集し、粒子径が増大する傾向にあり、触媒活性が低下する。しかし、本発明の複合物では、上記条件下で混合ガスを複合体に接触させても活性金属の粒子径が小さい。さらに、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを複合体に接触する際には、窒素ガスの流速を15mL/分及び水素ガスの流速を45mL/分という条件を適用することが好ましい。
これにより、活性金属の粒子径が増大しやすい触媒に比べて、複合物の触媒活性をさらに高くすることができる。このような活性触媒の粒子径が大きくなる条件下でもマイエナイト型化合物に担持されている活性金属の粒子径が増大することを抑制できる方法は特に限定されないが、例えば、アルカリ土類金属を用いる方法がある。この方法では、アルカリ土類金属はマイエナイト型化合物中に含まれていてもよく、マイエナイト型化合物にアルカリ土類金属が担持されていてもよく、活性金属にアルカリ土類金属が担持されていてもよく、アルカリ土類金属と活性金属が複合体を形成していてもよい。なお、アルカリ土類金属は、複合物の触媒活性をより高くするだけでなく、水素被毒を抑制するという効果を有する。アルカリ土類金属は、特に限定されないが、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、より好ましいアルカリ土類金属はストロンチウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種であり、さらに好ましいアルカリ土類金属はバリウムである。また、活性金属は特に限定されず、活性金属には、例えば、ルテニウム、コバルト及び鉄等が挙げられ、複合物の触媒活性をより一層高めることができることから、活性金属はルテニウムであることが好ましい。
【0019】
活性金属の含有量は、特に限定はされないが、マイエナイト型化合物100質量部に対して、活性金属元素換算で、通常0.01質量部以上、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上、特に好ましくは1質量部以上であり、通常30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。活性金属の含有量が上記範囲内であることで、得られる複合物が十分な活性点を有することができ、高活性の触媒が得られ、コスト面で好ましい触媒を得ることができる。
【0020】
触媒活性を高くし、水素被毒を抑制することができるという観点から、マイエナイト型化合物に担持される活性金属及びアルカリ土類金属において、活性金属に対するアルカリ土類金属のモル比(アルカリ土類金属のモル数/活性金属のモル数)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.25以上、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下、特に好ましくは3以下、最も好ましくは2以下である。活性金属に対するアルカリ土類金属のモル比(アルカリ土類金属のモル数/活性金属のモル数)は、0.05~10であり、より好ましくは0.1~5であり、さらに好ましくは0.25~2である。
【0021】
マイエナイト型化合物には活性金属のみが担持されていてもよく、活性金属及びアルカリ土類金属のみが担持されていてもよい。しかし、マイエナイト型化合物には活性金属及びアルカリ土類金属と共に、活性金属及びアルカリ土類金属以外の金属元素が担持されていてもよい。
活性金属及びアルカリ土類金属以外の担持金属としては、本発明で得られる複合物の活性を阻害しない限りにおいて特に限定されない。例えば、活性金属及びアルカリ土類金属以外の担持金属として、通常、周期表第3族、第8族、第9族及び第10族の遷移金属、アルカリ金属及び希土類金属の少なくとも1種の金属を担持金属として使用することができる。
周期表第3族、第8族、第9族及び第10族の遷移金属としては特に限定されないが、イットリウム、鉄及びコバルト等が挙げられる。
アルカリ金属の種類としては特に限定はされないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等が挙げられる。
希土類金属の種類としては特に限定はされないが、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム等が挙げられる。
このうち、マイエナイト型化合物に活性金属及びアルカリ土類金属のみを担持させてもよい。マイエナイト型化合物に活性金属及びアルカリ土類金属を担持させる方が、マイエナイト型化合物に3種以上の金属を担持させる場合に比べ、還元条件等の変動による触媒表面組成の変化が抑制され、所望の触媒活性を得やすいからである。
【0022】
[複合物の製造方法]
本発明の複合物の製造方法は限定されないが、マイエナイト型化合物を調製する第一の工程と、マイエナイト型化合物に、活性金属を担持させる第二の工程とを含むことが好ましい。
【0023】
(第一の工程)
第一の工程ではマイエナイト型化合物を調製する。以下、マイエナイト型化合物としてC12A7を例に挙げて、第一工程を説明する。
C12A7を製造するための原料は、特に限定はされず、製造方法に応じ、各種のカルシウムを含む原料(以下、カルシウム源という)と、アルミニウムを含む原料(以下、アルミニウム源という)を適宜用いることができる。
【0024】
カルシウム源としては、特に限定はされないが、具体的には、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム等のカルシウム塩;カルシウムエトキシド、カルシウムプロポキシド、カルシウムイソプロポキシド、カルシウムブトキシド、カルシウムイソブトキシド等のカルシウムアルコキシド等が用いられる。
【0025】
アルミニウム源としては、特に限定はされないが、具体的には、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム等のアルミニウム塩;アルミニウムエトキシド、アルミニウムプロポキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、アルミニウムイソブトキシド等のアルミニウムアルコキシド、アルミニウムアセチルアセトナート等が用いられる。
【0026】
C12A7は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、Ca、Al、酸素以外の元素を含んでいてもよい。
【0027】
C12A7を調製する方法は、特に限定されるものではないが、通常、水熱合成法、ゾルゲル法、燃焼合成法、又は共沈法を用いることができる。このうち、簡便で、かつ比表面積が高いC12A7を再現性よく得ることができる点で水熱合成法が好ましい。
【0028】
<水熱合成法>
水熱合成法は、具体的には、まず水やアルコール等の溶媒と、無機酸化物の原料を耐圧容器に入れて、溶媒の沸点以上の温度で数時間~数日加熱することで無機酸化物の前駆体を得る。引き続き、得られた前駆体をさらに加熱し、無機酸化物を得る方法である。
【0029】
水熱合成法で用いられるカルシウム源は、特に限定はされないが、通常、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、カルシウム塩が用いられ、好ましくは水酸化カルシウムが用いられる。
またアルミニウム源は、特に限定はされないが、通常、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミニウム塩が用いられ、好ましくは水酸化アルミニウムが用いられる。
カルシウム源及びアルミニウム源の混合比率は特に限定されず、所望の組成に合わせて適宜調製可能であるが、通常は、目的とするC12A7の化学量論組成で混合する。
【0030】
アルミニウム源及びカルシウム源を耐圧容器中に投入した後、これらを水の沸点以上の温度で加熱することで、C12A7の前駆体となる水酸化物であるCaAl(OH)12を合成することができる。
水熱合成における耐熱容器中での加熱温度は特に限定はされず、十分な収量のCaAl(OH)12が得られる加熱温度を適宜選択することができるが、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、通常、200℃以下である。
加熱時間は特に限定はされず、十分な収量のCaAl(OH)12が得られる加熱時間を適宜選択することができるが、通常、2時間以上、好ましくは6時間以上、通常、100時間以下である。
【0031】
得られたC12A7の前駆体であるCaAl(OH)12を、加熱(焼成)することで目的のC12A7を得ることができる。
加熱(焼成)の条件は特に限定はされず、比表面積が大きなC12A7が得られる範囲で適宜選択することができるが、通常は大気中で加熱する。
加熱温度は特に限定はされないが、通常400℃以上、好ましくは450℃以上、通常1000℃以下で加熱することができる。
【0032】
<ゾルゲル法>
C12A7はゾルゲル法で製造することもできる。ゾルゲル法は、所望の金属酸化物の原料となる金属の有機化合物又は無機化合物を、溶液中で加水分解し、ゾルとした後、重縮合を進めさせゾルからゲルに変換し、このゲルを高温処理することで金属酸化物を作成する方法である。製造方法は、例えばJ.Phys.D:Appl.Phys.,41,035404(2008)等に記載の公知の方法に準拠して製造することができる。
具体的には原料となるアルミニウム源を溶媒に溶解し、加熱、攪拌後、酸を添加して加水分解したゾルを調製する。引き続き、カルシウム源を溶媒に溶解させ、必要に応じpHを調整し、アルミニウム源を含むゾルと共に攪拌下、加熱、混合することでゲル化させ、得られたゲルをろ過後、脱水、焼成することにより、C12A7を得る。
ゾルゲル法で用いられるカルシウム源としては、特に限定はされないが、通常、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、カルシウム塩等が用いられ、カルシウム塩が好ましく、カルシウム塩としては硝酸カルシウムが好ましい。
アルミニウム源としては、特に限定はされないが、通常、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムやアルミニウムアルコキシド等が用いられ、アルミニウムアルコキシドが好ましい。
【0033】
<燃焼合成法>
C12A7の合成方法として、燃焼合成法による製造も可能である。
具体的な製造方法としては、J.Am.Ceram.Soc.,81,2853-2863(1998)に記載の方法に準拠して製造することができる。例えば、カルシウム源とアルミニウム源とを水に溶解し、混合溶液を加熱、燃焼させることでマイエナイト型化合物のアモルファス前駆体を得る。このアモルファス前駆体を、さらに加熱し、脱水することで、マイエナイト型化合物が得られる。
燃焼合成法に用いるカルシウム源及びアルミニウム源としては特に限定はされないが、通常はカルシウム塩、アルミニウム塩が好ましく、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウムがより好ましい。
具体的には、例えば、Ca(NO・4HOとAl(NO・9HOとを原料として用いることができる。これらの原料を、特に限定はされないが、化学量論組成で水に溶解させる。上記原料を溶解させた溶液にさらに尿素を添加し、この混合溶液を加熱し、燃焼させ、マイエナイト型化合物のアモルファス前駆体を得る。
加熱温度は特に限定されないが、通常は500℃以上である。
そして、得られたアモルファス前駆体を、特に限定はされないが、通常700~1000℃で加熱して脱水することにより、マイエナイト型化合物粉末C12A7が得られる。
【0034】
<共沈法>
共沈法は、2種類以上の金属イオンを含む溶液を用い、複数種類の金属の難溶性塩を同時に沈殿させる方法であり、均一性の高い粉体を調製する方法である。
共沈法に用いる原料としては特に限定されないが、カルシウム源及びアルミニウム源として、通常カルシウム塩及びアルミニウム塩を用い、好ましくはそれぞれの硝酸塩である。
具体的には硝酸カルシウムと硝酸アルミニウムを含む水溶液に、アンモニアや水酸化ナトリウム等のアルカリを添加し、水酸化カルシウムと水酸化アルミニウムとを含む難溶性塩を同時に析出させた後、これをろ過、乾燥、焼成することで、C12A7を得ることができる。
【0035】
(第二の工程)
第二の工程では、活性金属を担持させるが、活性金属及びアルカリ土類金属を担持させることが好ましい。ルテニウム及びアルカリ土類金属をマイエナイト型化合物に担持させる順序は特に限定されない。例えば、活性金属及びアルカリ土類金属をマイエナイト型化合物に、同時に担持させてもよい。この場合、マイエナイト型化合物に担持される活性金属粒子の粒子径を小さくすることができると共に、活性金属を高分散化することができる。また、水熱合成法で得られた前駆体にアルカリ土類金属を添加したり、混合したりした後に、焼成することにより、アルカリ土類金属を担持させることもできる。マイエナイト型化合物に担持されている活性金属粒子の平均粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは1.5nm以上、更に好ましくは2nm以上、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下である。また、活性金属をマイエナイト型化合物に担持させた後に、アルカリ土類金属をマイエナイト型化合物に担持させてもよい。この場合、活性金属の近傍にアルカリ土類金属を担持させることができ、複合物の触媒活性を高めることができ、活性金属とアルカリ土類金属とが接していると複合物の触媒活性をより一層高めることができる。また、上述したように、活性金属は特に限定されず、例えば、ルテニウム、コバルト及び鉄等が挙げられ、ルテニウムであることが好ましい。
【0036】
マイエナイト型化合物にルテニウムを担持させるために用いるルテニウム化合物は、還元処理によって金属ルテニウムに変換できるものであれば特に限定されない。マイエナイト型化合物にルテニウムを担持させるために用いるルテニウム化合物には、例えばルテニウム塩及びルテニウム錯体等が挙げられる。
【0037】
ルテニウム塩としては、塩化ルテニウム(RuCl)、塩化ルテニウム水和物(RuCl・nHO)、酢酸ルテニウム(Ru(CHCO)、硝酸ルテニウム、ヨウ化ルテニウム水和物(RuI・nHO)、ニトロシル硝酸ルテニウム(Ru(NO)(NO)、ニトロシル塩化ルテニウム水和物(Ru(NO)Cl・nHO)、三硝酸ルテニウム(Ru(NO)、塩化ヘキサアンミンルテニウム(Ru(NHCl)等が挙げられ、ルテニウム塩として、第二の工程でマイエナイト型化合物の構造を壊さずに高い触媒活性を得る点で、酢酸ルテニウム、硝酸ルテニウム、ニトロシル硝酸ルテニウム及び塩化ルテニウムが好ましい。
【0038】
ルテニウム錯体としては、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru(CO)12)、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuC12(PPh)、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(RuC12(PPh)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)(Ru(acac))、ルテノセン(Ru(C)、ジクロロ(ベンゼン)ルテニウム(II)ダイマー([RuC12(C)])、ジクロロ(メシチレン)ルテニウム(II)ダイマー([RuC12(mesitylene)])、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)ダイマー([RuC12(p-Cymene)])、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)([RuHCl(CO)(PPh])、トリス(ジピバロイルメタナト)ルテニウム(III)([Ru(dpm)])、等を用いることができる。
ルテニウム錯体としては、高い触媒活性が得られる点で、トリルテニウムドデカカルボニル(Ru(CO)12)、トリス(アセチルアセトナート)ルテニウム(III)(Ru(acac))、ルテノセン(Ru(C)、等が好ましい。
【0039】
以上のルテニウム化合物のうち、複合物の製造における安全性や製造コストの点を両方考慮すると、ルテニウム化合物は、塩化ルテニウム、トリス(アセチルアセトナート)ルテニウム(III)及びニトロシル硝酸ルテニウムからなる群から選択される少なくとも1種のルテニウム化合物であってもよい。
【0040】
以上の化合物は容易に熱分解する。このため、これらの化合物をマイエナイト型化合物に担持させた後、熱処理を行い還元することにより、担体上に活性金属を金属の状態で析出させることができる。これにより、活性金属をマイエナイト型化合物に担持させることができる。また、上記ルテニウム化合物は、加熱下、水素ガスにより容易に還元されるので、この点からも、担体上に活性金属を生成することができる。
【0041】
マイエナイト型化合物に活性金属を担持させる方法は、特に限定はされないが、含浸法、熱分解法、液相法、スパッタリング法、蒸着法等により担持させることができる。マイエナイト型化合物粉末に活性金属を担持させる方法では、上述のいずれかの担持方法で活性金属を担持させた後に成形を行う方法が実用的に用いられる。
一方、成形したマイエナイト型化合物担体に活性金属を担持させる方法においては、活性金属を担体上に均一に分散させることができる点で含浸法又は蒸着法が好ましく、均一な活性金属粒子を形成しやすい点で含浸法がより好ましい。
具体的に含浸法は、マイエナイト型化合物を、活性金属化合物を含む溶液に分散させ、引き続きマイエナイト型化合物及び活性金属化合物を含む溶液の溶媒を蒸発及び乾固させ、活性金属を担持したマイエナイト型化合物(以下、活性金属担持マイエナイト型化合物ということがある)を得る。なお、含浸法で使用する溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン及びヘキサンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、2種以上を使用することもできる。
また具体的に蒸着法は、マイエナイト型化合物を、活性金属化合物と物理混合し、真空雰囲気下で加熱し、活性金属化合物の熱分解に伴い活性金属がマイエナイト型化合物上に蒸着されることで、活性金属担持マイエナイト型化合物を得る。
【0042】
マイエナイト型化合物にアルカリ土類金属を担持させるために用いるアルカリ土類金属化合物としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の化合物が好ましく、ストロンチウム及びバリウムから選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属の化合物がより好ましく、より豊富に存在する元素である点でバリウムの化合物がさらに好ましい。
【0043】
マイエナイト型化合物にアルカリ土類金属を担持させるためのアルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属をマイエナイト型化合物に担持させることができれば、特に限定はされないが、通常、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、酸化物、硝酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、ギ酸塩等のカルボン酸塩、エトキシド等のアルコキシド;その他のアルカリ土類金属を含む有機化合物、金属アセチルアセトナート錯体等の金属錯体等が挙げられるが、アルコキシド、金属アセチルアセトナート錯体、カルボン酸塩が好ましく、反応が容易であるアルコキシドがより好ましい。
例えば、アルカリ土類金属をマイエナイト型化合物に担持させるために用いるアルコキシドには、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウムフェノキシド、ストロンチウムメトキシド、ストロンチウムエトキシド、ストロンチウムフェノキシド、バリウムメトキシド、バリウムエトキシド及びバリウムフェノキシド等が挙げられる。好ましいアルコキシドはバリウムエトキシドである。
【0044】
マイエナイト型化合物にアルカリ土類金属を担持させる方法としては、既述の活性金属を担持させる方法と同様である。
【0045】
マイエナイト型化合物に担持されているアルカリ土類金属の形態は、金属単体の形態であってもよいし、その塩、その酸化物、その水酸化物等のその他の化合物の形態であってもよい。マイエナイト型化合物に担持されているアルカリ土類金属の好ましい形態は酸化物である。なお、アルカリ土類金属の酸化物は、C12A7に担持された後は、還元処理を経ても、通常そのまま酸化物として担持され、還元された活性金属とともにマイエナイト型化合物の表面に存在する。
【0046】
第二の工程においては、活性金属化合物及びアルカリ土類金属化合物以外の金属化合物を用いて、活性金属及びアルカリ土類金属以外の金属をマイエナイト型化合物に担持させることができる。活性金属及びアルカリ土類金属以外の金属をマイエナイト型化合物に担持させるための金属化合物としては、活性金属及びアルカリ土類金属の担持を阻害しない限りにおいて特に限定されないが、通常、周期表3族、8族、9族及び10族の遷移金属の化合物、アルカリ金属の化合物及び希土類金属の化合物が好ましい。
周期表3族、8族、9族及び10族の遷移金属の化合物には、例えばイットリウム、鉄、コバルト等の化合物が挙げられる。
アルカリ金属の化合物には、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等の化合物が挙げられる。
希土類金属の化合物には、例えばランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ジスプロシウム等の化合物が挙げられる。
【0047】
(第三の工程)
本発明の複合物の製造方法は、第二の工程で得られたマイエナイト型化合物を還元処理する第三の工程をさらに含んでもよい。
【0048】
還元処理の条件は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に限定されないが、例えば、還元性ガスを含む雰囲気下で行なう方法や、活性金属源を含む溶液に、NaBH、NHNH又は、ホルマリン等の還元剤を加えてマイエナイト型化合物の表面に活性金属を析出させる方法が挙げられる。還元処理は還元性ガスを含む雰囲気下で行なうことが好ましい。還元性ガスとしては水素、アンモニア、メタノール(蒸気)、エタノール(蒸気)、メタン、エタン等が挙げられる。
また還元処理の際に、アンモニア合成反応を阻害しない、還元性ガス以外の成分が反応系を共存していてもよい。具体的には、還元処理の際に、水素等の還元性ガスの他に反応を阻害しないアルゴンや窒素といったガスを共存させてもよく、窒素を共存させてもよい。
【0049】
還元処理の温度は、特に限定はされないが、通常200℃以上であり、好ましくは300℃以上、通常1000℃以下であり、好ましくは600℃以下で行なう。還元処理を上記温度範囲内で行なうことで、活性金属粒子を上述の好ましい平均粒子径の範囲に成長させることができる。
還元処理の圧力は、特に限定はされないが、通常、0.1MPa以上、10MPaである。
還元処理の時間は、特に限定されないが、常圧で実施する場合は、通常20時間以上であり、25時間以上が好ましい。
また反応圧力の高い条件、例えば1MPa以上で行う場合は、5時間以上が好ましい。
【0050】
第三の工程における還元処理は、還元処理後の活性金属の平均粒子径が、還元処理前の平均粒子径に対して、15%以上増大するまで行なうことが好ましい。還元処理後の活性金属の平均粒子径の上限は特に限定はされないが、通常、200%以下である。還元処理を行なうことで、触媒の活性をさらに高めることができる。この場合、還元処理後の活性金属の平均粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは1.5nm以上、更に好ましくは2nm以上、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下である。
ここで活性金属の平均粒子径は、TEM等の直接観察法による平均粒子径をいう。直接観察法では、実際に観察された活性金属のそれぞれの最も長い径を測定し、算術平均して算出できる。
本発明の複合物は、マイエナイト型化合物と、マイエナイト型化合物に担持された活性金属とを含む複合物であり、複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含むガスを複合体に接触させながら10時間保持した後の活性金属の平均粒子径が5.5nm未満であり、かつ活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属が60%以上である。活性金属の平均粒子径は好ましくは1nm以上、より好ましくは1.2nm以上、更に好ましくは1.5nm以上、好ましくは5nm以下、より好ましくは4.5nm以下、更に好ましくは4nm以下、特に好ましくは3.5nm以下、最も好ましくは3nm以下である。活性金属の平均粒子径は、電子顕微鏡を用いた直接観察法により算出した。TEM(Transmission Electrоn Microscope/透過型電子顕微鏡)又はSTEM(Scanning Transmission Electrоn Microscope/走査型透過電子顕微鏡)等の電子顕微鏡で活性金属を倍率15万倍から50万倍の範囲内で観察し、300個以上350個未満の活性金属が撮影されるように調整し、活性金属の長径を粒子径として目視で測定し、各活性金属の粒子径を算術平均することにより平均粒子径を算出できる。なお、EDX(Energy Dispersive Spectrometry/エネルギー分散型X線分光法)により、活性金属を特定し、平均粒子径を算出する。
また、活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが特に好ましい。触媒活性をより一層高めることができることから、電子顕微鏡で観察される最大の粒子径は12nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることが更に好ましく、6nm以下であることが特に好ましい。触媒活性をより一層高めることができることから、電子顕微鏡で観察される最小の粒子径は特に限定されないが、0.1nm以上であることが好ましく、0.5nm以上であることがより好ましく、0.8nm以上であることが更に好ましい。なお、粒子径は上述したように、電子顕微鏡を用いた直接観察法により、それぞれの粒子径を測定することにより求めることができる。
【0051】
還元処理前及び還元処理後の活性金属の平均粒子径は、測定する表面上に存在する活性金属が、すべて金属であるとして求めるものである。しかし、ルテニウムの平均粒子径の算出に大きな影響を与えない限りにおいて、測定する表面上に存在する活性金属は活性金属源である活性金属化合物を含んでもよい。
なお、活性金属源である活性金属化合物が大半の場合は、活性金属の粒子径を測定できないため、還元処理により、活性金属粒子径を求める。なお、還元処理の温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは430℃以上、好ましくは600℃以下、より好ましくは450℃以下である。
【0052】
[触媒]
本発明の触媒は、本発明の複合物を含有し、とりわけ本発明の複合物からなる。これにより、触媒活性が高く、水素被毒の抑制された触媒を得ることができる。
【0053】
本発明の触媒は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、本発明の複合物以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、本発明の触媒は、触媒の成形を容易にするための結合剤(バインダー)成分となる成分を含むことができる。
結合剤には、例えばSiO、Al、ZrO、TiO、La、CeO、Nb等の金属酸化物や、活性炭、グラファイト、SiC等の炭素材料等が挙げられる。
【0054】
本発明の触媒は、使用する前、還元処理してもよい。なお、本発明の触媒の還元処理は、上述の本発明の複合物の製造方法における第三の工程の還元処理と同様な方法で行うことができる。
なお、アンモニア合成の条件においても、本発明の触媒を還元処理することができる。
【0055】
本発明の触媒の比表面積は、特に限定はされないが、BET法に基づく比表面積で通常5m/g以上であり、好ましくは、10m/g以上であり、通常200m/g以下であり、好ましくは、100m/g以下である。
なお、還元処理後に得られた活性金属及びアルカリ土類金属を担持したマイエナイト型化合物の比表面積は、通常、その製造に用いた、活性金属及びアルカリ土類金属を担持する前のマイエナイト型化合物の比表面積と同程度になる。
【0056】
本発明の触媒は、通常の成形技術を用い成形体として適宜使用することができる。具体的には、粒状、球状、タブレット状、リング状、マカロニ状、四葉状、サイコロ状、ハニカム状等の形状が挙げられる。支持体に触媒をコーティングしてから使用することもできる。
【0057】
触媒の成形は、上述の複合物の製造の際に行ってもよい。この場合、複合物の製造方法のうち、どの段階で行なうかについては限定されず、いずれの工程に引き続いて行なってもよい。
具体的には複合物の製造方法における第一の工程に引き続き、第一の工程で得られたマイエナイト型化合物を成形する工程を含んでいてもよい。
また複合物の製造方法における第二の工程に引き続き、第二の工程で得られた活性金属及びアルカリ土類金属を担持したマイエナイト型化合物を成形する工程を含んでいてもよい。
また複合物の製造方法における第三の工程又は触媒を還元処理した後、還元処理した触媒を成形する工程を含んでいてもよい。
このうち、複合物の製造方法における第一の工程に引き続き、成形する工程を含む方法、又は複合物の製造方法における第二の工程に引き続き成形する工程を含む方法が、マイエナイト型化合物上に活性金属が均一に分散され、かつ高い触媒活性が得られる点で好ましい。
また、活性金属を担持したマイエナイト型化合物を成形した後にアルカリ土類金属をマイエナイト型化合物に担持させることもできる。
【0058】
本発明の触媒は、アンモニア合成用触媒として用いることができる。しかし、本発明の触媒の用途は、アンモニア合成に限定されない。例えば、本発明の触媒は、脂肪族カルボニル化合物の水素化、芳香族環の水素化、カルボン酸の水素化、不飽和アルデヒドの水素化による不飽和アルコール合成、メタンの水蒸気改質、アルケン類等の水素化、COもしくはCOと水素との反応によるメタン化、フィッシャー-トロプッシュ合成反応、置換芳香族の核水素化、アルコール類のカルボニル化合物への酸化、リグニンのガス化等に使用する。
【0059】
[アンモニアの製造方法]
本発明のアンモニアを製造する方法は、本発明の触媒に窒素と水素を含むガスを接触させてアンモニアを製造する工程を含む。これにより、アンモニアを効率的に製造することができる。
本発明の触媒に窒素と水素を含むガスを接触させる際、最初に水素のみを本発明の触媒に接触させて触媒を還元処理してから、本発明の触媒に窒素と水素を含むガスを接触させてもよい。また、当初より本発明の触媒に水素と窒素を含む混合ガスを接触させてもよい。さらにこのとき反応器から回収した未反応ガスを反応器にリサイクルして使用することもできる。
【0060】
本発明のアンモニアの製造方法は、特に限定はされないが、窒素と水素を含むガスを、上記触媒に接触させる際、通常触媒を加熱することによりアンモニア合成を行う。
本発明のアンモニアの製造方法によれば、低温及び低圧の条件下でアンモニアを製造することができる。
その反応温度は、好ましくは200~600℃であり、より好ましくは250~500℃であり、さらに好ましくは300~450℃である。アンモニア合成は発熱反応であることから、低温領域のほうが化学平衡論的にアンモニア生成に有利であるが、十分なアンモニア生成速度を得るためには上記の温度範囲が好ましい。
【0061】
製造コストの観点から低温及び低圧の条件下でアンモニアを製造する場合、本発明のアンモニアの製造方法においてアンモニア合成反応を行う際の反応圧力は、絶対圧で、好ましくは0.01~20MPaであり、より好ましくは0.5~10MPaであり、さらに好ましくは1~7MPaである。なお、活性金属はマイエナイト型化合物に担持されているがアルカリ土類金属はマイエナイト型化合物に担持されていない触媒の場合、反応圧力を高くしても、アンモニア合成反応の効率が高くなりにくい。
【0062】
この場合、触媒に接触させる窒素に対する水素のモル比(H/N)は、好ましくは0.25~15であり、より好ましくは0.5~12であり、さらに好ましくは1.0~10である。本発明の触媒は、水素被毒が発生しにくいので、活性金属を用いる場合の通常の窒素に対する水素のモル比に比べて、窒素に対する水素のモル比を高くすることができる。これにより、アンモニア合成の効率が高くなる。
【0063】
より良好なアンモニア収率を得るという観点から、窒素と水素の混合ガス中の総水分含有量は、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下である。
【0064】
反応容器の形式は特に限定されず、アンモニア合成反応に通常用いることができる反応容器を用いることができる。具体的な反応形式としては、例えばバッチ式反応形式、閉鎖循環系反応形式、流通系反応形式等を用いることができる。このうち実用的な観点からは流通系反応形式が好ましい。また触媒を充填した一種類の反応器、又は複数の反応器を連結させる方法や、同一反応器内に複数の反応層を有する反応器の何れの方法も使用することができる。
水素と窒素混合ガスからのアンモニア合成反応は体積収縮型の発熱反応であることから、アンモニア収率を上げるために工業的には反応熱を除去するために通常用いられる反応装置を用いてもよい。例えば具体的には触媒が充填された反応器を直列に複数個連結し、各反応器の出口にインタークーラーを設置して除熱する方法等を用いてもよい。
【0065】
また、本発明のアンモニアの製造方法は、前述の通り、低温及び低圧の条件下でアンモニアを製造できる点に特徴を有するが、反応速度をさらに向上させるために、中温及び中圧の条件下で、アンモニアを製造してもよい。
この場合、反応温度は、例えば好ましくは250~700℃であり、より好ましくは300~600℃であり、さらに好ましくは350~550℃である。
また、この場合、反応圧力は、絶対圧で、好ましくは0.1~30MPaであり、より好ましくは1~20MPaであり、さらに好ましくは2~10MPaである。
【実施例
【0066】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0067】
(アンモニアの生成量の分析)
以下の実施例及び比較例のアンモニア生成量は、生成したアンモニアガスをガスクロマトグラフおよびイオンクロマトグラフ分析により、絶対検量線法を用いて求めた。分析条件は以下の通りである。
[ガスクロマトグラフ分析条件]
装置:Agilent社製 490 Micro GC
カラム:Agilent社製 MO5A 10m B.F.,CP-Sill 5CB 8m
カラム温度:80℃
[イオンクロマトグラフ分析条件]
装置:島津製作所社製 HPLC Prominence
カラム:島津製作所社製 Shim-pack IC-C4
長さ:150mm、 内径4.6mm
溶離液:シュウ酸(3mM)、18-クラウン-6-エーテル(2.0mM)混合水溶液
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
【0068】
(実施例1)
<マイエナイト型化合物の合成>
水酸化カルシウム(Ca(OH):高純度化学研究所社製、純度99.9%、7.18g)と水酸化アルミニウム(Al(OH):高純度化学研究所、純度99.9%、8.82g)、CaとAlのモル比が、Ca:Al=12:14となるように秤量、混合し、混合粉体を得た。上記混合粉体に、上記混合粉体が10質量%となるように蒸留水を加え、合計質量160gの混合溶液とした後、この混合溶液を遊星型ボールミルにて、常温下、4時間攪拌・混合した。得られた混合溶液を耐圧密閉容器に入れ、攪拌しながら150℃にて、6時間加熱(水熱処理)した。
上記水熱処理により得られた沈殿物を濾別し、乾燥後粉砕して、マイエナイト型化合物の前駆体粉末:CaAl(OH)12及びAlOOHを約16g得た。この前駆体粉末を大気中、600℃にて、5時間加熱脱水をし、マイエナイト型化合物の粉体(以下、HT-C12A7(12CaO・7Al)という。)を得た。このマイエナイト型化合物のBET法により測定した比表面積は63.5m/gであり、比表面積の大きいマイエナイト型化合物であった。
【0069】
<マイエナイト型化合物へのルテニウム化合物及びアルカリ土類金属化合物の担持>
ニトロシル硝酸ルテニウム(Ru(NO)(NO:AlfaAeser社製、型番:12175)0.157g及びバリウムジエトキシド(Ba(OC:和光純薬工業社製、純度99.5%)0.227gを、エタノール50mL中に溶解させ、約15分攪拌し、混合溶液とした。得られた混合溶液中に、HT-C12A7 0.814gを加え、約3分攪拌した。その後、ロータリーエバボレータを用いて上記混合溶液から溶媒を除去し、乾燥させ、さらに真空乾燥させて、ルテニウム及びバリウムを担持したHT-C12A7(以下、Ba-Ru/HT-C12A7)の粉体(Ru:Ba=1:2(モル比))を得た。
【0070】
(比較例1)
Ru原料をトリルテニウムドデカカルボニル(Ru(CO)12:Sigma-Aldrich社製、純度99%、0.101g)を使用し、これと、実施例1の方法で得たHT-C12A7(0.95g)と混合させてパイレックス(登録商標)ガラス管に封じて、以下の温度プログラムで加熱して5質量%のRuをHT-C12A7へと担持した。(以下、Ru/HT-C12A7)の粉体を得た。
[温度プログラム]
(1)20℃から40℃まで20分で昇温後、40℃で60分間加熱
(2)(1)の直後、40℃から70℃まで120分間で昇温後、70℃で60分間加熱
(3)(2)の直後、70℃から120℃まで120分間で昇温後、120℃で60分間加熱
(4)(3)の直後、120℃から250℃まで150分間で昇温後,250℃で120分間加熱
【0071】
(比較例2)
HT-C12A7にバリウムを担持させなかったこと以外は、実施例1と同じ方法でルテニウムを担持したHT-C12A7(以下、Ru/HT-C12A7)の粉体を得た。
【0072】
実施例1及び比較例1、2で作製した触媒を、20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスからなる混合ガス(窒素ガス15mL/分、水素ガス45mL/分)を触媒に接触させながら10時間保持した後の活性金属の平均粒子径及び粒子を測定した。なお、実施例1及び比較例1、2で作製した触媒0.3gを1.2gの石英砂で希釈しSUS反応管に詰め触媒層の上下を石英ウールで挟み込み、触媒層の詰まったSUS反応管の上部に1~2mm径のアルミナボール55gを詰めた。この触媒層が詰まったSUS管を、固定床流通系反応装置に取り付けて、評価した。
【0073】
<活性金属の粒子径及び平均粒子径>
電子顕微鏡(装置:JEOL社製 JEM ARM-200FおよびJEM-2010F、加速電圧:200kV)を用いた直接観察法により活性金属の粒子径及び平均粒子径を算出した。電子顕微鏡で活性金属を倍率15万倍から50万倍の範囲内で観察し、300個以上350個未満の活性金属が撮影されるように調整し、活性金属の長径を粒子径として目視で測定し、各活性金属の粒子径を算術平均することにより平均粒子径を算出した。なお、EDX(Energy Dispersive Spectrometry/エネルギー分散型X線分光法)により、活性金属を特定し、平均粒子径を算出した。
【0074】
電子顕微鏡で撮影した実施例1の触媒のTEM画像の一例を図3及び図4に示し、比較例1の触媒のTEM画像の一例を図5及び図6に示し、比較例2の触媒のTEM画像の一例を図7及び図8に示す。また、電子顕微鏡を用いて測定した実施例1の触媒のルテニウムの粒子径分布を図9に示し、比較例1の触媒のルテニウムの粒子径分布を図10に示し、比較例2の触媒のルテニウムの粒子径分布を図11に示す。これらの粒子径分布に基づいて算出したルテニウムの平均粒子径及び1nm以上3nm未満のルテニウム粒子の割合を次の表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
以上の結果から、実施例1の触媒として用いた複合物は、その複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスをその複合体に接触させながら10時間保持した後の活性金属の平均粒子径が5.5nm未満であり、かつ活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が60%以上である複合物であることがわかった。
【0077】
<アンモニア合成反応の圧力依存性>
実施例1及び比較例1で作製した触媒を用いて、反応温度(400℃)を一定に保持した上で、反応圧力を変化させて、窒素ガス(N)と水素ガス(H)を反応させてアンモニアガス(NH)を生成する反応を行った。
上記で得られた触媒0.3gを1.2gの石英砂で希釈しSUS反応管に詰め触媒層の上下を石英ウールで挟み込んだ。さらに触媒の詰まったSUS反応管の上部に1~2mm径のアルミナボール55gを詰めた.この触媒層の詰まったSUS管を、固定床流通系反応装置に取り付けて反応を行った。
に対するHのガスのモル比(H/N)が3の混合ガスを、N及びHの合計のガスの空間速度(WHSV)が36000mLg-1-1となる条件で、反応器に供給して反応を行った。上記の反応器から出てきたガスをオンラインガスクロマトグラフによりNHの定量を行った.あわせて0.01M硫酸水溶液中に反応器から出てきたガスをバブリングさせ、生成したアンモニアを溶液中に溶解させ、生じたアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフにより定量し、反応器から排出されるガス中のアンモニアの濃度を測定した。結果を図1に示した。
【0078】
図1が示すように、金属ルテニウム及びアルカリ土類金属がマイエナイト型化合物に担持されている実施例1の触媒を用いたときのアンモニアの生成量は、金属ルテニウムのみがマイエナイト型化合物担持されている比較例1の触媒を用いたときに比べて大きかった。
また、図1が示すように、金属ルテニウムのみがマイエナイト型化合物に担持されている比較例1の触媒では、反応圧力を高くしても、アンモニアの生成量を増加させることができなかった。しかしながら、金属ルテニウム及びアルカリ土類金属がマイエナイト型化合物に担持されている実施例1の触媒では、反応圧力を高くすることにより、アンモニアの生成量を増加させることができた。
これより、金属ルテニウムがマイエナイト型化合物に担持されると共に、さらにアルカリ土類金属がマイエナイト型化合物に担持されることにより、触媒活性を高くすることができると共に、反応圧力を高くすることにより、触媒反応をさらに向上させることが可能となることがわかった。
【0079】
<アンモニア合成反応の窒素に対する水素の比率依存性>
実施例1及び比較例1で作製した触媒を用いて、反応温度(400℃)及び反応圧力(3.0MPa)を一定に保持した上で、窒素ガス(N)に対する水素ガス(H)のモル比(H/N)を変化させて、窒素ガス(N)と水素ガス(H)を反応させてアンモニアガス(NH)を生成する反応を行った。
上記で得られた触媒0.3gを1.2gの石英砂で希釈しSUS反応管に詰め触媒層の上下を石英ウールで挟み込んだ。さらに触媒の詰まったSUS反応管の上部に1~2mm径のアルミナボール55gを詰めた.この触媒層の詰まったSUS管を、固定床流通系反応装置に取り付けて反応を行った。
に対するHの混合ガスを、N及びHの合計のガスの空間速度(WHSV)が18000mLg-1-1となる条件で、反応器に供給し、反応を行った。上記の反応器から出てきたガスをオンラインガスクロマトグラフにより定量した.さらに出口側の反応ガスを0.01M硫酸水溶液中にバブリングさせ、生成したアンモニアを溶液中に溶解させ、生じたアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフにより定量し、反応器から排出されるガス中のアンモニアの濃度を測定した。結果を図2に示した。
【0080】
図2が示すように、金属ルテニウム及びアルカリ土類金属がマイエナイト型化合物に担持されている実施例1の触媒を用いたときのアンモニアの生成量は、金属ルテニウムのみがマイエナイト型化合物に担持されている比較例1の触媒を用いたときに比べて大きかった。
また、図2が示すように、金属ルテニウムがマイエナイト型化合物に担持されると共に、さらにアルカリ土類金属がマイエナイト型化合物に持されることにより、アンモニアの製造に最適な窒素に対する水素のモル比(H/N)を高水素側にシフトさせることができる。
これより、金属ルテニウムがマイエナイト型化合物に担持されると共に、さらにアルカリ土類金属がマイエナイト型化合物に担持されることにより、触媒活性を高くすることができると共に、さらに触媒の水素被毒を抑制することができることがわかった。
なお、実施例1のバリウムジエトキシドを硝酸バリウム及びニトロシル硝酸ルテニウムに変更しても、触媒活性を高くし、触媒の水素被毒を抑制できることを確認した。
【0081】
これらの実施例及び比較例の結果から、マイエナイト型化合物と、マイエナイト型化合物に担持された活性金属とを含む複合物であって、複合物を20℃の温度から10℃/分の昇温速度で450℃の温度まで加熱し、450℃の温度及び3MPaの圧力の環境下で、窒素ガス:水素ガスの体積比率が1:3である窒素ガス及び水素ガスを含む混合ガスを複合体に接触させながら10時間保持した場合、活性金属の平均粒子径が5.5nm未満となり、かつ活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が60%以上となる複合物を触媒に用いることによって、触媒活性が高い触媒が得られることがわかった。
一方、上述の処理を行った場合、活性金属の平均粒子径が5.5nm以上になる、又は活性金属のうち、粒子径が1nm以上3nm未満の活性金属の割合が60%未満になる複合物を触媒に用いても触媒活性が高い触媒が得られないことがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11