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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】折り畳みブーム
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/44 20060101AFI20231227BHJP
   B64G 1/66 20060101ALI20231227BHJP
   F16S 1/06 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B64G1/44 Z
B64G1/66 C
F16S1/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019190304
(22)【出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021066188
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、文部科学省、「新宇宙産業を創出するスマート宇宙機器・システムの研究開発拠点」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591051874
【氏名又は名称】サカセ・アドテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秋人
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-1601(JP,A)
【文献】特表平3-502566(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104691783(CN,A)
【文献】米国特許第6091016(US,A)
【文献】特開2010-18275(JP,A)
【文献】Hongbin Fang, Suyi Li, Huimin Ji, and K. W. Wang,“Dynamics of a bistable Miura-origami structure”,PHYSICAL REVIEW E,米国,American Physical Society,2017年05月17日,Volume 95, Issue 5,pp.052211-1~052211-11,DOI: 10.1103/PhysRevE.95.052211, ISSN 2470-0045(print),2470-0053(online)
【文献】坂本陸,青木隆平,横関智弘,渡邊秋人,“CFRP双安定開断面ロッドの自己伸展力に対する定量的考察”,第32回宇宙構造・材料シンポジウム:講演集録,日本,宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所,2016年12月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/22- 1/66,
F16S 1/06,
H01Q 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り畳み形態と、一軸方向に伸びる伸展形態と、の2形態で安定して保持される双安定性のブーム本体を有する折り畳みブームであって、
前記ブーム本体は、弾性を有する複数の単位の筒状構成要素が第1のヒンジ要素を介して一方向に連結され、
各筒状構成要素は、伸展形態の前記ブーム本体の中心軸を含む面によって第1の弾性変形要素と第2の弾性変形要素に2分割され、前記第1の弾性変形要素と前記第2の弾性変形要素が可撓性の第2のヒンジ要素を介して連結された構成で、
前記第1の弾性変形要素は、四角形状の弾性薄板であって、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には前記第2の弾性変形要素と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第1の1湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ伸展方向には前記第2の弾性変形要素と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第1の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能で、
前記第2の弾性変形要素、四角形状の弾性薄板で、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には前記第1の弾性変形要素と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第2の1湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ、伸展方向には、前記第1の弾性変形要素と反対側が凹面となるように、前記第1の弾性変形要素とは逆方向に湾曲する第2の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能となっており、
隣接する筒状構成要素は、前記第1の弾性変形要素と前記第2の弾性変形要素が、互いに逆配置となるように配列されていることを特徴とする折り畳みブーム。
【請求項2】
折り畳み形態と、一軸方向に伸びる伸展形態と、の2形態で安定して保持される双安定性のブーム本体を有する折り畳みブームであって、
前記ブーム本体は、第1の弾性変形要素と第2の弾性変形要素が、可撓性の第1のヒンジ要素を介して一方向に交互に連結される構成で、
前記第1の弾性変形要素は、四角形状の弾性薄板であって、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には円弧状に湾曲する第1の1湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ伸展方向には前記第1の1湾曲形態の湾曲面と同じ側が凸となるように円弧状に湾曲する第1の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能
で、
前記第2の弾性変形要素、四角形状の弾性薄板で、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には円弧状に湾曲する第2の1の湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ、伸展方向には前記第2の1の湾曲形態とは逆方向に湾曲する第2の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能となっていることを特徴とする折り畳みブーム。
【請求項3】
前記第1の弾性変形要素は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂によって構成され、前記繊維基材は、繊維の配向方向が前記伸展方向に対して互いに逆方向に斜めに交差させたクロス基材である請求項1または2に記載の折り畳みブーム。
【請求項4】
前記第2の弾性変形要素は、繊維基材に樹脂を含侵させた繊維強化樹脂によって構成され、前記繊維基材は、繊維の配向方向が伸展方向と平行方向に延びるシートと、伸展方向に対して直交方向に延びるシートを積層した異方性の基材である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の折り畳みブーム。
【請求項5】
前記第1の弾性変形要素と前記第2の弾性変形要素のうちの、少なくとも一方に、薄膜太陽電池を貼付して太陽電池パドルとして利用する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の折り畳みブーム。
【請求項6】
2次元または3次元の構造物の構造材として利用する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の折り畳みブーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、人工衛星や探査機のアンテナや太陽電池パネル等の宇宙構造物や地上構造物等、種々の構造物の構造材に用いられるブームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブームとしては、本出願人は、既に、特許文献1に記載のようなブームを提案している。このブームは、閉断面構造の円筒状部材を備え、円筒状部材は、中心軸線方向に折り畳むための折り目部を有し、折り目部によって複数のパターンに分割され、中心軸線と平行方向に折り畳んだ収縮形態と、折り目部を開いて円筒状に伸展させた伸展形態とをとることが可能となっている伸縮構造物において、複数のパターンを、形状を保持する剛性を有すると共に、平面形態と円筒状部材の円筒形態の一部を構成する湾曲形態とに弾性変形可能な弾力性を有する硬質部によって構成し、前記折り目部を変形自在の軟質部によって構成したものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6433006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ブームは、閉断面構成でありながら、折り畳み収納可能で、弾性力で自己伸展する自己伸展ブームであったが、折り畳み形態を保持する必要があった。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、自己伸展力があり,さらに、折り畳み形態及び伸展形態の2形態で安定して自己保持可能な双安定性を備えた折り畳みブームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、
折り畳み形態と、一軸方向に伸びる伸展形態と、の2形態で安定して保持される双安定性のブーム本体を有する折り畳みブームであって、
前記ブーム本体は、弾性を有する複数の単位の筒状構成要素が第1のヒンジ要素を介して一方向に連結され、
各筒状構成要素は、伸展形態の前記ブーム本体の中心軸を含む面によって第1の弾性変形要素と第2の弾性変形要素に2分割され、前記第1の弾性変形要素と前記第2の弾性変形要素が可撓性の第2のヒンジ要素を介して連結された構成で、
前記第1の弾性変形要素は、四角形状の弾性薄板であって、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には前記第2の弾性変形要素と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第1の1湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ伸展方向には前記第2の弾性変形要素と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第1の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能で、
前記第2の弾性変形要素、四角形状の弾性薄板で、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には前記第1の弾性変形要素と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第2の1湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ、伸展方向には、前記第1の弾性変形要素と反対側が凹面となるように、前記第1の弾性変形要素とは逆方向に湾曲する第2の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能となっており、
隣接する筒状構成要素は、前記第1の弾性変形要素と前記第2の弾性変形要素が、互いに逆配置となるように配列されていることを特徴とする。
折り畳み形態では、筒状構成要素の、第1の弾性変形要素を第1の2湾曲形態に、第2の弾性変形要素を第2の2湾曲形態に変形させ、各筒状構成要素が第2のヒンジ要素を介して、第1の弾性変形要素の湾曲面に対して、第2の弾性変形要素の湾曲面が嵌るように重ねる。これにより、筒状構成要素が、湾曲する第1の弾性変形要素と第2の弾性変形要素が扁平に重なった二重構造の湾曲形態で安定形態となる。
この状態では、筒状構成要素の端辺が直線状で、第1のヒンジ要素が直線状となり、隣接する湾曲形態の筒状構成要素が、第1のヒンジ要素にて折り曲げ可能となる。互いに隣合う筒状構成要素は、第1の弾性変形要素と第2の弾性変形要素の位置が互いに反対側に位置するので、湾曲形態の筒状構成要素の湾曲面は交互に逆側に凸となるように湾曲し、第1のヒンジ要素を介してジグザグ状に折り曲げれば、湾曲形態の筒状構成要素の湾曲面が互いに重なり合い、安定して保持されることになる。
折り畳み形態では、各筒状構成要素の湾曲形態が安定して保持されているので、ブーム本体全体が安定して折り畳み形態に保持される。
折り畳み形態から伸展時には、たとえば、扁平な湾曲形状に保持された一つの筒状構成要素の折り畳み形態を筒状に変形させると、弾性的に不安定となって、折り畳み形態から他方の安定形態である伸展形態に向けて弾性的に復元を開始し、屈曲した直線的に延びる連結部が開いて隣の折り畳まれた筒状構成要素も伸展形態に復元を開始し、各筒状構成要素が一気に伸展形態に移行する。
【0007】
また、他の発明は、
折り畳み形態と、一軸方向に伸びる伸展形態と、の2形態で安定して保持される双安定
性のブーム本体を有する折り畳みブームであって、
前記ブーム本体は、第1の弾性変形要素と第2の弾性変形要素が、可撓性の第1のヒンジ要素を介して一方向に交互に順番に連結される構成で、
前記第1の弾性変形要素は、四角形状の弾性薄板であって、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には円弧状に湾曲する第1の1湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ伸展方向には前記第1湾曲形態の湾曲面と同じ側が凸となるように円弧状に湾曲する第1の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能で、
前記第2の弾性変形要素、四角形状の弾性薄板で、前記伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には円弧状に湾曲する第2の1の湾曲形態と、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ、伸展方向には前記第2の1の湾曲形態とは逆方向に湾曲する第2の2湾曲形態と、の2形態を安定して保持することが可能となっていることを特徴とする。
本発明は、上記発明と異なり、構成単位が閉断面の筒状構成要素ではなく、第1の弾性変形要素と第2の弾性変形要素の単体によって構成したもので、ブーム本体が開断面の構成となる。
折り畳み形態では、ブーム本体は、第1のヒンジ要素を介してジグザグ状に反転させることにより、隣接する第1の弾性変形要素の第1の2湾曲形態の湾曲面と、第2の弾性変形要素の第2の2湾曲形態の湾曲面が重なり合い、安定して保持されることになる。
伸展させる場合には、折り畳み形態で安定しているブーム本体の端に位置する第1の弾性変形要素あるいは第2の弾性変形要素を、それぞれ第1の1湾曲形態、第2の1湾曲形態に移行させれば、第1の弾性変形要素あるいは第2の弾性変形要素が伸展方向に延びる断面円弧状の半筒形状となり、隣接する第1の弾性変形要素あるいは第2の弾性変形要素
に、次々に変形が伝播して、伸展方向に延びる半円筒状の第1の1湾曲形態,第2の1湾曲形態に弾性変形し、ブーム本体が直線状の伸展形態に自己伸展し、伸展形態で安定して保持される。
【0008】
第1の弾性変形要素は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂によって構成され、
前記繊維基材は、繊維の配向方向が前記伸展方向に対して互いに逆方向に斜めに交差させたクロス基材とすることができる。
第2の弾性変形要素は、繊維基材に樹脂を含侵させた繊維強化樹脂によって構成され、前記繊維基材は、繊維の配向方向が伸展方向と平行方向に延びるシートと、伸展方向に対して直交方向に延びるシートを積層した異方性の基材とすることができる。
前記繊維基材の構成する糸は、炭素繊維を用いることができる。
特に、繊維基材を構成する糸は、開繊糸とし、ブーム本体は、繊維基材に樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを複数層積層した積層構造とすれば、層の数を変えることで、ブーム本体の特性を段階的に変えることができる。
また、応用例として、第1の弾性変形要素と前記第2の弾性変形要素のうちの、少なくとも一方に、薄膜太陽電池を貼付して太陽電池パドルとして利用することができる。
また、ブーム本体を、2次元または3次元の構造物の構造材として利用することもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自己伸展力があり,さらに、折り畳み形態及び伸展形態の2形態で安定して自己保持可能な双安定性を備えた折り畳みブームを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の実施形態1に係る折り畳みブームの一例を示すもので、(A)は伸展形態の斜視図、(B)は折り畳み収納形態の斜視図である。
図2】(A)は伸展形態のブーム本体の筒状構成要素2個分の部分斜視図、(B)は(A)の筒状構成要素の分解斜視図、(C)は折り畳み形態の筒状構成要素2個分の部分斜視図、(D)は(C)の筒状構成要素の分解斜視図である。
図3】(A)は第1の弾性変形要素を構成するCFRPシートを示すもので、(A)は繊維基材の繊維の配向方向の説明図、(B)は積層される複数のFRPシートを示す斜視図、(C)は積層構造の概略断面図である。
図4】(A)は第2の弾性変形要素を構成するCFRPシートを示すもので、(A)は繊維基材の繊維の配向方向の説明図、(B)は積層される複数のFRPシートを示す斜視図、(C)は積層構造の概略断面図である。
図5】本発明の折り畳みブームを膜展張用構造物に適用した例を示す図である。
図6】本発明の折り畳みブームを利用した太陽電池パドルを示すもので、(A)は折り畳み収納形態、(B)は伸展過程、(C)は伸展状態を示す斜視図である。
図7】本発明の実施形態2に係る折り畳みブームを示し、(A)は伸展形態を示す斜視図、(B)は折り畳み過程を示す斜視図、(C)は折り畳み形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施形態は例示的に表すものであり、本発明は、これらの構成に限定されるものではない。
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る折り畳みブームの全体構成を示すもので、(A)は伸展形態、(B)は折り畳み形態を示す斜視図である。
すなわち、この折り畳みブーム1は、軸方向に折り畳まれた折り畳み形態100Bと、一軸方向に伸びる伸展形態100Aと、の2形態で安定して保持される双安定性のブーム本体100を備えている。伸展形態100Aは、図1(A)に示すように、円筒状に延びる形態で、折り畳み形態100Bは、図1(B)に示すように、ブーム本体100を、所定長さ毎にジグザグ状に折り畳んだ形態である。
ブーム本体100は、弾性を有する同一形状、同一寸法の複数の単位の筒状構成要素10が、ブーム本体100の伸展形態において、中心軸Nと直交する方向の円形状の端部が、可撓性の第1のヒンジ要素101を介して一方向に順番に連結して構成されている。
筒状構成要素10は、さらに、ブーム本体100の伸展形態において、ブーム本体100の中心軸Nを含む面によって、半円筒状の第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12に2分割され、第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12の側辺同士が可撓性の第2のヒンジ要素102を介して連結される構成となっている。
【0012】
次に、第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12について、図2を参照して説明する。図2(A),(B)は第1の弾性変形要素を示すもので、(A)は第1の1湾曲
形態、(B)は第1の2湾曲形態を示す図、(C),(D)は第2の弾性変形要素を示す
もので、(C)は第2の1湾曲形態、(D)は第2の2湾曲形態を示す図である。
第1の弾性変形要素11は、四角形状の薄板シートを、ブーム本体100の伸展方向Xと、伸展方向と直交方向Yの2方向に湾曲させてくせ付けしたものである。すなわち、伸展方向Xには直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向Yには、対向する第2の弾性変形要素12と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第1の1湾曲面W11を有する第1の1湾曲形態11Aと、伸展方向と直交方向Yには直線状に延び、かつ伸展方向Xには、第2の弾性変形要素12と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第1の2湾曲面W12を有する第1の2湾曲形態11Bと、の2形態を安定して保持することが可能となっている。
第1の1湾曲形態11Aは、薄板シートのシート面11sが、伸展方向と直交方向に湾曲し、伸展方向Xと平行に配置される側辺11a、11bが互いに平行の直線を維持し、伸展方向と直交方向Yに配置される端辺11c,11dが円弧状に湾曲している。第1の
2湾曲形態11Bは、薄板シートのシート面11sが、伸展方向に湾曲し、端辺11c,11dが互いに平行の直線を維持し、側辺11a,11bが円弧状に湾曲する構成となっている。側辺11a,11bと端辺11c,11dの両方が湾曲する状態は、力学的に不安定で、第1の1湾曲形態11Aか、第1の2湾曲形態11Bのいずれかの形態に安定して保持される。
【0013】
第2の弾性変形要素12も、四角形状の薄板シートを、ブーム本体100の伸展方向Xと、伸展方向と直交方向Yの2方向に湾曲させてくせ付けしたものである。すなわち、伸展方向Xには直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向Yには、対向する第1の弾性変形要素11と反対側が凸面となるように円弧状に湾曲する第2の1湾曲面W21を有する第2の1湾曲形態12Aと、伸展方向と直交方向Yには直線状に延び、かつ、伸展方向Xには、対向する第1の弾性変形要素11と反対側が凹面となるように、第1の弾性変形要素11の第1の2湾曲面W12とは逆方向に円弧状に湾曲する逆湾曲面となる第2の2湾曲面W22を有する第2の2湾曲形態12Bと、の2形態を安定して保持することが可能となっている。
第2の弾性変形要素12の第2の1湾曲形態12Aは、薄板シートのシート面12sが、伸展方向と直交方向Yに湾曲し、側辺12a、12bが互いに平行の直線を維持し、伸展方向と直交方向Yに配置される端辺12c,12dが円弧状に湾曲している。第2の2
湾曲形態12Bは、薄板シートのシート面12sが、伸展方向には逆方向に湾曲し、端辺12c,12dが互いに平行の直線を維持し、側辺12a,12bが円弧状に逆方向に湾曲する構成となっている。側辺12a,12bと端辺12c,12dの両方が湾曲する状態は、力学的に不安定で、第2の1湾曲形態12Aか、第2の2湾曲形態12Bのいずれかの形態に安定して保持される。
そして、隣接する筒状構成要素10,10は、第1の弾性変形要素11と第2の弾性変
形要素12が、互いに逆配置となるように、第1のヒンジ要素101を介して交互に連結されている。すなわち、一方の筒状構成要素10の第1の弾性変形要素11の端辺11c,11dが、軸方向に対向する他方の筒状構成要素10の第2の弾性変形要素12の端辺12c,12dと連結される。
【0014】
第1の弾性変形要素11は、図3に示すように、繊維強化樹脂シート(FRPシート)13を、複数枚積層した積層構造となっている。各繊維強化樹脂シート13は同一構成で、繊維基材15にマトリックス樹脂16を含浸させた構成である。
繊維基材15は、2軸織物組織であり、伸展方向を基準軸線N1とすると、基準軸線N1に対して第1軸糸15a及び第2軸糸15bが、互いに反対方向に所定角度θ(配向角)だけ傾斜する構成となっている。配向角としては、45°としている。
この実施形態では、第1軸糸15a、第2軸糸15bは炭素繊維が用いられ、特に、繊維束を薄く扁平化したに束ねた開繊糸によって構成され、一枚の繊維強化樹脂シート13の厚さを薄く設定し、複数枚の繊維強化樹脂シート13を張り合わせてブーム本体100を構成している。この例では、この繊維強化樹脂シート13を3層張り合わせた3ply構成となっているが、2層構成、あるいは4層構成以上としてもよい。
開繊糸ではなく、通常の繊維束を用いてもよいが、開繊糸を用いて薄膜化したCFRPの方が、構造設計の自由度が向上すること、より軽量でフレキシブルな構造が得られること、収納伸展に際し応力緩和によるヘタリが生じ難く形状復元力に優れる。
【0015】
第2の弾性変形要素12も、図4に示すように、繊維強化樹脂シート(FRPシート)23を、複数枚積層した積層構造となっている。各繊維強化樹脂シート23は繊維基材25にマトリックス樹脂26を含浸させた構成であるが、繊維基材25が、織物ではなく、繊維25aを一方向に配向させた構成となっている点で、第1の弾性変形要素11と異なっている。繊維基材25としては、基準軸線N1に対して繊維25aの配向角を90°とした繊維強化樹脂シート23と、配向角を0°とした繊維強化樹脂シート23を2枚を重ねた構成となっている。2枚ではなく、配向角が90°/0°/90°の3枚の繊維基材を重ねてもよく、いずれも表層(筒形状の外面側)の配向角を90°とする。
この繊維基材25の繊維25aも、炭素繊維が用いられ、繊維束を扁平に束ねた開繊糸によって構成され、複数枚の繊維強化樹脂シート23を張り合わせて第2の弾性変形要素12を構成している。
基材繊維については、本実施形態では炭素繊維が使用されるが、炭素繊維の他に、ガラス繊維、ポリエステル系繊維、フッ素系繊維、アラミド系繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、金属系繊維等を利用可能である。アンテナ等に用いる場合は、導電性の繊維を使用することもできる。
また、マトリックス樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、PETやPBTなどポリエステル系樹脂、PEEKやPPSなどのエンジニアリングプラスチック、ポリイミド系などの耐熱性樹脂等を用いることができる。
第1のヒンジ要素101と第2のヒンジ要素102は、たとえば、フレキシブルな軟質のフィルムが用いられる。たとえばブーム本体100の内面及び外面の少なくともいずれか一方の全体を被覆するフィルムに、第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12を張り付けてもよいし、第1のヒンジ要素101と第2のヒンジ要素102の周辺のみに張り付けてもよい。第1のヒンジ要素101と第2のヒンジ要素102で連結される第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12間の隙間は、狭すぎると折り畳みができなくなり、広すぎると伸展時の剛性が低くなる傾向があり、適切な範囲に設定される。
【0016】
次に本実施形態のブームの作用について説明する。
折り畳み形態では、筒状構成要素10の、第1の弾性変形要素11を第1の2湾曲形態11Bに、第2の弾性変形要素12を第2の2湾曲形態12Bに変形させ、各筒状構成要素10が第2のヒンジ要素102を介して、第1の弾性変形要素11の第1の2湾曲面W12に対して、第2の弾性変形要素12の第2の2湾曲面W22を嵌るように重ねる。これにより、筒状構成要素10が、湾曲する第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12が扁平に重なった二重構造の湾曲形態10Bで安定形態となる。
この状態では、筒状構成要素10の端辺が直線状で、第1のヒンジ要素101が直線状となり、隣接する湾曲形態10Bの筒状構成要素10が、第1のヒンジ要素101にて折
り曲げ可能となる。
互いに隣合う筒状構成要素10は、第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12の位置が互いに反対側に位置するので、湾曲形態10Bの筒状構成要素10の湾曲面は交互に逆側に凸となるように湾曲しているので、第1のヒンジ要素101を介してジグザグ状に折り曲げれば、湾曲形態10Bの筒状構成要素10の湾曲面が互いに重なり合い、安定して保持されることになる。
このようにジグザグ折りする利点としては、巻き取り収納の場合と異なり、ヒンジ要素の歪を相殺することができる。また、連続長のバイアスクロスを用いる必要がなく、クロス材をバイアス(±45°)方向に切り出して用いることが可能となる。
伸展させる場合には、折り畳み形態で安定しているブーム本体100の端に位置する筒状構成要素10について、第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12を、それぞれ第1の1湾曲形態11A、第2の1湾曲形態12Aに移行させれば、筒状構成要素10が伸展方向に延びる中空の円筒形態10Aとなり、第1のヒンジ要素101が開くので、隣接する筒状構成要素10に次々に変形が伝播し、各筒状構成要素10が中空の筒形状に弾性変形し、ブーム本体100が直線状の伸展形態100Aに自動的に移行し自己伸展していく。そして、自己伸展形態で安定して保持される。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の弾性変形要素11に左右45°の角度で二方向に繊維を配向させたCFRPシート、第2の弾性変形要素12に一方向(0°、90°)に繊維を配向させた異方性のCFRPシートを用いることにより、伸展形態と折り畳み形態共に安定で、双安定性を得ることができる。
【0017】
応用例
図5は、本発明の折り畳みブームを、可撓性の膜を展開する膜展張用の構造物として利用する例を示している。
図示例では、2本のブーム本体100の一端を四角柱形状の取付部材120の互いに直交する2側面に固定し、取付部材120からブーム本体100がV字状に延びるように配置し、各筒状構成要素10の第2のヒンジ要素102に沿って三角形状の膜130の斜辺を張り付けたものである。
このようにすれば、ブーム本体100の折り畳み形状に沿って、膜130をジグザグ状に折り畳むことができ、ブーム本体100を伸展させることによって、膜130を二次元的に展開することができる。
なお、本発明の折り畳みブームは、このような二次元構造に限定されず、三次元構造の構造物の構造体として利用することができる。
【0018】
図6は、本発明の折り畳みブームを、太陽電池パドルとして利用する例を示している。図6(A)は折り畳み形態、(B)は伸展途中、(C)は伸展形態を示している。
すなわち、図6(C)に示すように、伸展形態におけるブーム本体100を、円筒形状ではなく、断面凸レンズ状、または断面紡錘状の筒形状としたものである。
各筒状構成要素10の第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12のうちの、少なくとも一方に、薄膜太陽電池セル210を貼付し、太陽電池パドルとして利用する例を示している。このように、断面凸レンズ状として第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12の曲率を小さくすることにより、受光効率を高めることができる。
【0019】
[実施形態2]
次に、図7を参照して、本発明の実施形態2について説明する。この実施形態は、ブーム本体200を、閉断面構成ではなく、開断面構成としたものである。以下の説明では、主として上記実施形態と異なる点についてのみ説明するものとし、同一の構成部分については同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
すなわち、ブーム本体200は、折り畳まれた折り畳み形態200Bと、一軸方向に伸びる伸展形態200Aと、の2形態で安定して保持される構成となっている。
ブーム本体200は、第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12が、伸展形態において、可撓性の第1のヒンジ要素101を介して一方向に交互に順番に連結される構成となっている。
第1の弾性変形要素11は、四角形状の弾性薄板であって、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には、円弧状に湾曲する第1の1湾曲面W11を有する第1の1湾曲形態11Aと、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ伸展方向には、前記第1の1湾曲面W11と湾曲面が同じ方向に凸となるように円弧状に湾曲する第1の2湾曲面W12を備えた第1の2湾曲形態11Bと、の2形態を安定して保持することが可能となっている。
また、第2の弾性変形要素12も、四角形状の弾性薄板で、伸展方向には直線状に延び、かつ伸展方向と直交方向には、円弧状に湾曲する第1の弾性変形要素11の第1の1湾曲面W11と同一形状の第2の1湾曲面W21を有する第2の1湾曲形態12Aと、伸展方向と直交方向には直線状に延び、かつ、伸展方向には、前記第2の1湾曲形態12Aの側辺12a,12bを通る面に対して、第2の1湾曲面W21と逆方向に凸となるように
円弧状に湾曲する第2の2湾曲面W22を有する第2の2湾曲形態12Bと、の2形態を安定して保持することが可能となっている。
第1の弾性変形要素11と第2の弾性変形要素12は、伸展形態において、第1の1湾曲形態11Aの向かい合う円弧状の端辺同士が第1のヒンジ要素101を介して連結され、折り畳み形態では、第1の弾性変形要素11の第1の2湾曲面W12に対して、第2の弾性変形要素12の第2の2湾曲面W22は、逆向きに凸状に湾曲する形態となる。
【0020】
次に本実施形態のブームの作用について説明する。
折り畳み形態200Bでは、ブーム本体200は、隣接する第1の弾性変形要素11の第1の2湾曲形態の第1の2湾曲面W12と、第2の弾性変形要素12の第2の2湾曲形態12Bの第2の2湾曲面W22を、第1のヒンジ要素101を介してジグザグ状に反転させることにより、第1の弾性変形要素11の第1の2湾曲面W12に第2の弾性変形要素12の第2の2湾曲面W22が重なり合い、安定して保持されることになる。
伸展させる場合には、折り畳み形態で安定しているブーム本体200の端に位置する第1の弾性変形要素11あるいは第2の弾性変形要素12を、それぞれ第1の1湾曲形態11A,第2の1湾曲形態12Aに移行させれば、第1の弾性変形要素11あるいは第2の弾性変形要素12が伸展方向に延びる断面円弧状の半筒形状となり、第1のヒンジ要素101が開くので、隣接する第1の弾性変形要素11あるいは第2の弾性変形要素12に、次々に変形が伝播して、各構成単位の第1の弾性変形要素11及び第2の弾性変形要素12が、伸展方向に延びる半円筒状の第1の1湾曲形態11A,第2の1湾曲形態12Aに弾性変形し、ブーム本体200が直線状の伸展形態200Aに自己伸展し、伸展形態で安定して保持される。
このように、本実施形態2によっても、第1の弾性変形要素11に左右45°の角度で二方向に繊維を配向させたCFRPシート、第2の弾性変形要素12に一方向(0°、90°)に繊維を配向させた異方性のCFRPシートを用いることにより、伸展形態と折り畳み形態共に安定で、双安定性を得ることができる。
なお、この実施形態2の折り畳みブームについても、図5の膜展張用の構造物、図6に記載の太陽電池パドルとして利用することが可能である。
また、本発明の伸展構造物は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0021】
1 折り畳みブーム
10 筒状構成要素、
10A 円筒形態、10B 湾曲形態
11 第1の弾性変形要素
11A 第1の1湾曲形態、11B 第1の2湾曲形態
12 第2の弾性変形要素
12A 第2の1湾曲形態、12B 第2の2湾曲形態
13 繊維強化樹脂シート、15 繊維基材、16 マトリックス樹脂
23 繊維強化樹脂シート、25 繊維基材、26 マトリックス樹脂
100 ブーム本体
100A 伸展形態、100B 折り畳み形態
101 第1のヒンジ要素
102 第2のヒンジ要素
N 中心軸
W11 第1の1湾曲面、W12 第1の2湾曲面
W21 第2の1湾曲面、W22 第2の2湾曲面
X 伸展方向
Y 伸展方向と直交する方向
θ 配向角

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7