(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20231227BHJP
G06F 3/16 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
G06F3/01 515
G06F3/16 530
(21)【出願番号】P 2020017479
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】521110943
【氏名又は名称】株式会社Agama-X
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】得地 賢吾
【審査官】円子 英紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-152861(JP,A)
【文献】特開平09-131403(JP,A)
【文献】特開2006-349772(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0199570(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/01
G06F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを有し、
前記プロセッサは、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御
し、前記第1の条件を満たさないことを示す予め定めた第2の条件を満たす場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する、
情報処理装置。
【請求項2】
コンピュータに、
対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御
し、前記第1の条件を満たさないことを示す予め定めた第2の条件を満たす場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する機能
を実現させるプログラム。
【請求項3】
コンピュータに、
対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御させ、前記第1の条件を満たさないことを示す予め定めた第2の条件を満たす場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力させる、
処理を実行させる情報処理方法。
【請求項4】
プロセッサを有し、
前記プロセッサは、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御し、前記対象者の置かれた環境の変化を検知した場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する、
情報処理装置。
【請求項5】
前記環境の変化は、電話における終話の検知である、請求項
4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記環境の変化は、対象者が参加している会議の終了の検知である、請求項
4に記載の情報処理装置。
【請求項7】
コンピュータに、
対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御し、前記対象者の置かれた環境の変化を検知した場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する機能
を実現させるプログラム。
【請求項8】
コンピュータに、
対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御させ、前記対象者の置かれた環境の変化を検知した場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力させる、
処理を実行させる情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、プログラム及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のユーザインタフェースとして脳波などの生体情報の活用が期待されている。例えば身体についての特定の動作を想起した場合に生じる生体情報の条件である生体情報条件を予め格納する条件格納部と、生体からの情報に関する生体情報を取得し、取得した前記生体情報に含まれる情報が条件格納部に格納されている生体情報条件を満たすか否かを判断する条件判断部と、条件判断部により条件を満たすと判断された場合に、撮像装置が被写体を撮像する場合の条件である撮像条件を撮像装置に出力する条件出力部とを備える撮像制御装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
会話や会議に参加していても、他者が発言した内容を聞き逃すことがある。このような状況は、例えば集中力が緩慢になっているときや興奮した状態のときに起こり得る。
【0005】
本発明は、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた条件を満たす場合、周囲の音を確認する機会を別に設けることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、プロセッサを有し、前記プロセッサは、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御し、前記第1の条件を満たさないことを示す予め定めた第2の条件を満たす場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する、情報処理装置である。
請求項2に記載の発明は、コンピュータに、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御し、前記第1の条件を満たさないことを示す予め定めた第2の条件を満たす場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する機能を実現させるプログラムである。
請求項3に記載の発明は、コンピュータに、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御させ、前記第1の条件を満たさないことを示す予め定めた第2の条件を満たす場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力させる、処理を実行させる情報処理方法である。
請求項4に記載の発明は、プロセッサを有し、前記プロセッサは、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御し、前記対象者の置かれた環境の変化を検知した場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する、
情報処理装置である。
請求項5に記載の発明は、前記環境の変化は、電話における終話の検知である、請求項4に記載の情報処理装置である。
請求項6に記載の発明は、前記環境の変化は、対象者が参加している会議の終了の検知である、請求項4に記載の情報処理装置である。
請求項7に記載の発明は、コンピュータに、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御し、前記対象者の置かれた環境の変化を検知した場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力する機能を実現させるプログラムである。
請求項8に記載の発明は、コンピュータに、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた第1の条件を満たす場合、当該第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音の出力を制御させ、前記対象者の置かれた環境の変化を検知した場合、前記第1の条件を満たす期間中に集音された対象者の周囲の音を出力させる、処理を実行させる情報処理方法である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1-3記載の発明によれば、対象者の心理状態又は感情に関する情報が予め定めた条件を満たす場合、周囲の音を確認する機会を別に設けることができる。
請求項1-4記載の発明によれば、予め定めた別の条件を満たすことを条件に集音された音の確認を開始できる。
請求項1-3記載の発明によれば、対象者の心理状態又は感情に関する情報の変化をきっかけに周囲の音を確認する機会を設けることができる。
請求項11記載の発明によれば、対象者の希望により周囲の音を確認する機会を設けることができる。
請求項12記載の発明によれば、周囲の音を確認する機会を対象者毎に設定できる。
請求項4、7-8記載の発明によれば、対象者の環境の変化をきっかけに周囲の音を確認する機会を設けることができる。
請求項5記載の発明によれば、電話による会話の終了後に会話中の周囲の音を確認する機会を設けることができる。
請求項6記載の発明によれば、参加している会議の終了後に会議中の周囲の音を確認する機会を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】イヤホン型端末の装着例を説明する図である。(A)はイヤホン型端末を装着している人を斜め前方から見たイヤホン型端末の装着の様子であり、(B)は装着者を正面から見たイヤホン型端末の装着の様子を示す。
【
図2】実施の形態1で使用するイヤホン型端末の外観構成の一例を説明する図である。(A)は端末全体の外観を示し、(B)は左右のモジュールの外観を示す。
【
図3】イヤホン型端末の内部構成の一例を説明する図である。
【
図4】イヤホン型端末の機能構成の一例を示す図である。
【
図5】実施の形態で使用するイヤホン型端末が実行する処理動作例を説明するフローチャートである。
【
図6】イライラしている人が冷静さを取り戻すと音声の再生が開始される例を説明する図である。
【
図7】興奮が収まった時点で自分の意思で会議中に発せられた音声の再生を指示する例を説明する図である。
【
図8】イヤホン型端末を装着した状態で、脳波の測定が可能な脳波センサ付きヘッドセットの測定点を説明する図である。
【
図9】論文に掲載されている脳波の計測点を示す図である。
【
図11】MindWaveによる測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが弱い人で開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果であり、(B)は瞬きが強い人で開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果である。
【
図12】実施の形態で使用するイヤホン型端末による測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが弱い人で開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果であり、(B)は瞬きが強い人で更に顎の動きを加えて開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果である。
【
図13】MindWaveによる測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが強い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(B)は瞬きが弱い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(C)はα波の増加が出現しない場合である。
【
図14】実施の形態で使用するイヤホン型端末による測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが強い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(B)は瞬きが弱い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(C)はα波の増加が出現しない場合である。
【
図15】スペクトル強度の増加部の提示例を示す図である。(A)はMindWaveの測定結果であり、(B)は実施の形態で使用するイヤホン型端末の測定結果である。
【
図16】実施の形態2で使用するイヤホン型端末が実行する処理動作例を説明するフローチャートである。
【
図17】外部装置がインターネット上のサーバである場合を示す図である。
【
図18】片耳に装着するタイプのイヤホン型端末の外観例を説明する図である。
【
図19】脳波の測定に使用する電極を配置したイヤリングの一例を説明する図である。
【
図20】脳波の測定に使用する電極を配置した眼鏡の一例を説明する図である。
【
図21】ユーザの周囲の環境に同化させた画像を表示させる機能を備えるヘッドセットを脳波の測定に使用する場合の電極の配置例を説明する図である。
【
図22】近赤外光を用いて脳の活動に起因する血流量の変化を測定するヘッドセットの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
<実施の形態1>
<システム構成>
図1は、イヤホン型端末1の装着例を説明する図である。(A)はイヤホン型端末1を装着している人(以下「装着者」という)を斜め前方から見たイヤホン型端末1の装着の様子であり、(B)は装着者を正面から見たイヤホン型端末1の装着の様子を示す。
本実施の形態におけるイヤホン型端末1は、情報処理装置の一例であり、右耳に装着されるモジュール1Rと、左耳に装着されるモジュール1Lとを有している。
本実施の形態における装着者は、対象者の一例である。
【0010】
本実施の形態におけるイヤホン型端末1は、不図示のオーディオ機器やスマートフォンから受信される音を再生する回路に加え、脳の活動に起因する電気的な信号(以下「脳波」という)を測定する回路等を内蔵している。
本実施の形態で使用するイヤホン型端末1は、ワイヤレス型のデバイスである。このため、イヤホン型端末1は、無線通信により、外部装置と接続される。ここでの外部装置には、オーディオプレーヤ、スマートフォン、タブレット端末、ノート型のコンピュータ、ウェアラブルコンピュータ等を想定する。外部装置との通信には、例えばブルートゥース(登録商標)が使用される。もっとも、無線通信には、WiFi(登録商標)その他の通信規格を用いることも可能である。また、ケーブルを通じてイヤホン型端末1を外部装置と接続してもよい。
【0011】
脳波の測定にイヤホン型端末1を用いるのは、脳波を用いるインタフェースの普及を考慮するためである。
脳波を用いるインタフェースの普及を考える場合、脳波を計測していることが明らかなデバイスの装着は、ユーザの支持を受けられない可能性がある。例えばヘルメット型のデバイスは、デザイン性の観点からも、身体への負担の観点からもユーザの支持を得られない可能性がある。
そこで、本実施の形態では、脳波を測定するデバイスとしてイヤホン型端末1に着目する。イヤホン自体は、いわゆるオーディオ機器として普及しているため、外観的にも、イヤホン型端末1を装着する心理的な抵抗は少ないと考えられる。
【0012】
また、イヤホン型端末1が装着される外耳道は、脳に近いため、脳波の測定にも好都合である。イヤホン型端末1で脳波の測定が可能なことは、後述する実験結果の項で説明する。なお、外耳道は、耳部の一例である。本実施の形態の場合、耳部は、耳介と外耳道を含む。
この他、イヤホン型端末1には、不図示の軟骨伝導振動子が内蔵される。軟骨伝導振動子を用いた音の伝導は、軟骨伝導と呼ばれる。軟骨伝導では、外耳道を塞ぐ必要がない。このため、軟骨伝導による音と外界の音は同時に聞くことが可能である。
なお、軟骨伝導の経路は、気導経路や骨導経路とは異なる第3の聴覚経路と呼ばれる。
本実施の形態におけるイヤホン型端末1は、装着者の脳波を測定するための回路と、軟骨伝導により装着者に音を伝える回路の両方を含んでいる。
【0013】
<イヤホン型端末1の構成>
図2は、実施の形態1で使用するイヤホン型端末1の外観構成の一例を説明する図である。(A)は端末全体の外観を示し、(B)は左右のモジュール1L及び1Rの外観を示す。
本実施の形態におけるイヤホン型端末1は、左耳に装着されるモジュール1Lと、右耳に装着されるモジュール1Rと、モジュール1L及び1Rを接続する連結部1Cとを有している。連結部1Cは樹脂製であり、その内部には電力線や信号線が収容されている。
左耳に装着されるモジュール1Lは、バッテリ等が収容されるモジュール本体2Lと、耳部に装着される電極付き振動部3Lと、耳介と側頭との隙間に装着されるイヤーフック4Lとで構成される。
同じく、右耳に装着されるモジュール1Rは、電子回路等が収容されるモジュール本体2Rと、耳部に装着される電極付き振動部3Rと、耳介と側頭との隙間に装着されるイヤーフック4Rとで構成される。
【0014】
本実施の形態における電極付き振動部3L及び3Rは、外耳道の内壁に接触するリング状の電極部と、耳介と接触するリング状の軟骨伝導振動子3L3及び3R3とを有している。
左側のモジュール1Lの電極部は、中央に反対側まで貫通する開口を有するドーム状の電極3L1を有している。右側のモジュール1Rの電極部は、中央に反対側まで貫通する開口を有するドーム状の電極3R1と、耳甲介腔に接触するリング状の電極3R2を有している。
軟骨伝導振動子3L3及び3R3は、軟骨伝導に必要な振動を発生する素子である。本実施の形態における軟骨伝導振動子3L3及び3R3は、保護部材で覆われている。すなわち、軟骨伝導振動子3L3及び3R3は密閉型の振動子である。
本実施の形態の場合、電極付き振動部3L及び3Rには、耳の奥側から耳の外までつながる孔が設けられている。このため、電極付き振動部3L及び3Rを装着した状態の装着者は、外部の音を、気導経路を通じて聞き取ることが可能である。
【0015】
本実施の形態における電極3L1、3R1、3R2は、いずれも導電性ゴムで構成される。皮膚に現れる電気信号を測定するためである。なお、電極3R1と3R2は、絶縁体により電気的に分離されている。
本実施の形態の場合、電極3R1は、脳波(EEG:ElectroEncephaloGram)の測定に用いられる端子(以下「EEG測定用端子」という)である。なお、電極3R1で測定される電位の変動には、脳波だけでなく、他の生体情報に起因する電位の変動も含まれる。電極3R2は、接地電極(以下「GND端子」ともいう)である。
一方の電極3L1は、基準電位(REF:REFerence)の測定に用いられる端子(以下「REF端子」という)である。もっとも、本実施の形態の場合、電極3R2と電極3L1は絶縁体により電気的に分離されている。
本実施の形態の場合、脳波に起因する電位の変動は、電極3R1と電極3L1で測定された電気信号の差分信号として測定される。他の生体情報に起因する電位の変動についても同様である。
脳波と脳波以外の生体情報を含む電位変動を総称する場合、「脳波等の生体情報」ということがある。
【0016】
なお、脳科学の分野において、脳波以外に由来する全ての電位の変動は、アーチファクトと呼ばれる。脳科学の分野では、脳波を測定した電気信号には、アーチファクトが必ず含まれると考えられている。
アーチファクトに含まれる成分は、生体に由来する成分、電極等の測定系に由来する成分、外部の機会や環境に由来する成分に分類される。これら3つの成分のうち生体に由来する成分以外は、イヤホン型端末1で測定される雑音として測定することが可能である。雑音は、電極3R1と電極3L1を電気的に短絡した状態における電気信号として測定することが可能である。
【0017】
本実施の形態におけるモジュール1Rには、装着者の脳波等を測定する回路と、測定された脳波を分析して心理状態や感情(以下「心理状態等」という)に関する情報を特定する回路と、装着者の周囲の音の記録や再生を装着者の心理状態等に応じて制御する回路等が内蔵されている。一方、モジュール1Lには、バッテリが内蔵されている。
本実施の形態の場合、心理状態等に関する情報とは、言語上の分類に限らず、符号、記号、数値等で表現された情報も含む。
【0018】
図3は、イヤホン型端末1の内部構成の一例を説明する図である。
モジュール本体2Rは、マイク11Rと、デジタル脳波計12と、6軸センサ13と、ブルートゥースモジュール14と、半導体メモリ15と、MPU(=Micro Processing Unit)16を有している。
デジタル脳波計12は、電極3R1と電極3L1に現れる電位変動を差動増幅する差動アンプと、差動アンプの出力をサンプリング処理するサンプリング回路と、サンプリング後のアナログ電位をデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換回路とを含んでいる。本実施の形態の場合、サンプリングレートは600Hzである。また、アナログ/デジタル変換回路の分解能は16ビットである。
【0019】
6軸センサ13は、3軸の加速度センサと3軸のジャイロセンサで構成される。6軸センサ13は、ユーザの姿勢の検知に用いられる。
ブルートゥースモジュール14は、不図示の外部装置との間でデータを送受信するために用いられる。ブルートゥースモジュール14は、例えば外部装置からのオーディオデータの受信に用いられる。
半導体メモリ15は、例えばBIOS(=Basic Input Output System)が記録されたROM(=Read Only Memory)と、ワークエリアとして用いられるRAM(=Random Access Memory)と、書き換えが可能な不揮発性のメモリ(以下「フラッシュメモリ」という)で構成される。
本実施の形態の場合、フラッシュメモリは、マイク11Rで集音された音の記録、デジタル脳波計12の出力であるデジタル信号の記録、脳波の分析により特定された心理状態等に関する情報の記録、外部装置から受信されたオーディオデータの記録等に用いられる。この他、フラッシュメモリには、ファームウェアやアプリケーションプログラムも記録される。
【0020】
MPU16は、デジタル脳波計12で測定された脳波の分析、分析された心理状態等に応じた周囲の音の再生の制御等を実行する。脳波を分析する場合、MPU16は、デジタル脳波計12が出力するデジタル信号に対するフーリエ変換等の処理を実行する。なお、MPU16と半導体メモリ15はコンピュータとして動作する。
一方、モジュール本体2Lには、マイク11Lと、リチウムイオンバッテリ17が内蔵されている。
【0021】
<イヤホン型端末1の機能構成>
図4は、イヤホン型端末1の機能構成の一例を示す図である。
図4に示す機能は、MPU16(
図3参照)と各部の連携により実現される。
本実施の形態におけるイヤホン型端末1は、生体電位の情報から脳波情報を含む生体情報を取得する生体情報取得部161と、取得された生体情報を分析して装着者の心理状態等を推定する生体情報分析部162と、マイク11L及び11Rが出力する装着者の周囲の音のデータ(以下「音データ」という)を取得する音取得部163と、取得された音データの記録を生体情報等に関する情報に応じて制御する音記録制御部164と、記録された音データを音の要素に分解する音要素分解部165と、予め定めた優先順位に従って音の要素を抽出する優先音抽出部166と、音データの再生を予め定めた条件に基づいて制御する再生制御部167として機能する。
【0022】
生体情報取得部161と生体情報分析部162は、例えばデジタル脳波計12(
図3参照)の機能として実行してもよいし、MPU16(
図3参照)の機能として実行してもよい。
本実施の形態における生体情報取得部161は、生体電位の情報から脳波の特徴を取得する。本実施の形態における生体情報分析部162は、脳波の特徴の取得に、独立成分分析法(Independent Component Analysis:ICA)その他の既知の技術を活用する。脳波情報の特徴には、例えば脳波に特有の波形成分、波形成分を構成する周波数成分別のスペクトル強度やその分布、波形成分を構成する特定の周波数成分のスペクトル強度、α波の増加率等がある。
【0023】
本実施の形態の場合、生体情報分析部162は、例えば高速フーリエ変換等を使用して脳波を周波数解析し、行が時間、列が周波数成分のn行×m列のデータ行列を生成する。次に、生体情報分析部162は、n行×m列のデータ行列を正規化し、正規化したデータ行列から相関行列を求める。その後、生体情報分析部162は、相関行列を固有値ベクトルに分解した上で主因子法を用いて因子を抽出する。次に、生体情報分析部162は、抽出した因子のうち、寄与率が高い因子を用いてバリマックス回転を行い、最小二乗法により因子得点を求め、得られた因子得点を特徴値とする。本実施の形態の場合、このようにして得られる特徴値を、イヤホン型端末1の装着者の心理状態等を表す生体情報として扱う。なお、特徴値を求める方法は、前述の手法に限らず、他の手法を用いてもよい。
本実施の形態における生体情報分析部162は、生体情報を複数の心理状態等に分類する。本実施の形態の場合、複数の心理状態等は、例えば好き、嫌い、楽しい、悲しい、危険、興味、眠気、集中、リラックス、頭が冴える、ストレス、怒り、興奮、幸福に分類される。勿論、これらは一例であり、分類の数はより少なくても、より多くてもよい。これらは、言語上の分類の一例である。
【0024】
音取得部163は、マイク11L及び11R(
図3参照)が出力する音データを取得し、予め定めたデータ形式に変換する。
本実施の形態における音記録制御部164は、生体情報等に関する情報が予め定めた条件を満たす期間に取得された音データを半導体メモリ15(
図3参照)に記録し、条件を満たさない期間に取得された音データを記録しない。もっとも、生体情報等に関する情報の内容とは関係なく全ての音データを半導体メモリ15に記録する設定とすることも可能である。ここでの予め定めた条件は、第1の条件の一例である。
本実施の形態における音記録制御部164は、装着者の集中力が低下しているとみなされる状態の場合、取得された音データを半導体メモリ15に記録する。
【0025】
装着者の集中力が低下しているとみなされる状態には、過度にリラックスしていると分析された場合、眠い又は寝ていると分析される場合、退屈していると分析された場合等がある。これらの場合、装着者が会話の内容を把握しきれない可能性がある。
なお、装着者の集中力が低下しているとみなされる状態は、例えば装着者から測定されたθ波のレベルが予め定めた閾値より高い場合やδ波のレベルが予め定めた閾値より高い場合に出現する可能性がある。θ波は、周波数が約4Hz~約8Hzの周波数成分であり、δ波は、周波数が約4Hz以下の周波数成分である。
このため、装着者の集中力が低下しているとみなされる状態を、θ波のレベルが予め定めた閾値より高い場合、又は、δ波のレベルが予め定めた閾値より高い場合として検出する機能を音記録制御部164に設けてもよい。装着者の集中力が低下しているとみなされる状態は、第1の条件の一例である。
【0026】
また、本実施の形態における音記録制御部164は、装着者が昂ぶっているとみなされる状態の場合、取得された音データを半導体メモリ15に記録する。
装着者が昂ぶっているとみなされる状態には、イライラしていると分析された場合、興奮している又は興奮しすぎていると分析される場合等がある。これらの場合も、装着者が会話の内容を把握しきれない可能性がある。
なお、装着者が昂ぶっている状態は、例えば装着者から測定されたγ波のレベルが予め定めた閾値より高い場合やβ波のレベルが予め定めた閾値より高い場合に出現する可能性がある。γ波は、周波数が約40Hz~約70Hzの周波数成分であり、β波は、周波数が約13Hz~約40Hzの周波数成分である。
このため、装着者が昂ぶっているとみなされる状態を、γ波のレベルが予め定めた閾値より高い場合、又は、β波のレベルが予め定めた閾値より高い場として検出する機能を音記録制御部164に設けてもよい。装着者が昂ぶっているとみなされる状態は、第1の条件の一例である。なお、第1の条件は、アカウント毎に設定が可能である。
【0027】
音要素分解部165は、半導体メモリ15(
図3参照)に記録された音データを音の要素に分解する処理を実行する。本実施の形態の場合、音要素分解部165は、複数の基準を使用して、音データを音の要素に分解する。基準には、例えば音の種類、音源又は話者の違い、言葉の単位、要約を使用する。
音の種類を基準とする場合、音データは、例えば人の声とそれ以外の音に分解される。勿論、音データを別の種類に分解することも可能である。また、種類の数は3つ以上でもよい。
音源又は話者の違いを基準とする場合、音データは、例えば話者別に分解される。例えばAさんの声、Bさんの声という具合に分解される。なお、音データから話者を認識する技術は既に実用化されている。例えばMicrosoft社のSpeaker Recognition APIがある。
言葉の単位を基準とする場合、音データは、例えば文節や単語を単位に分解される。文節や単語の単位で分解されていると、出現頻度の高い文節や単語の抽出が可能になる。
要約を基準とする場合、既存技術を用いて音データから要約が生成される。例えば音データをテキストデータに変換し、テキストデータの要約を生成する技術が存在する。要約が生成されていると、会話の要約を抽出することも可能である。
【0028】
優先音抽出部166は、予め定めた優先順位に従って音の要素を抽出する処理を実行する。優先順位は、装着者が設定する。本実施の形態の場合、優先順位は事前に設定される。優先順位は、再生される音の要素間の優先度の関係を定める。優先順位に基づいて再生される音の要素が決定される。
優先順位が上位の例には、例えば特定の話者がある。特定の話者の代表例は、上司やリーダである。具体的には、特定の話者の優先順位を高く設定しておく。
優先順位が上位の例には、発言数が多い特定の話者がある。上司やリーダとも重複する可能性があるが、発言回数が多い話者は重要な発言をしている可能性も高い。
優先順位が上位の例には、出現する頻度が高い文節や単語がある。繰り返し出現する文節や単語の内容を優先することで、短時間のうちに会話の要点の把握が可能になる。
優先順位が上位の例には、会話の要約がある。要約の再生により、短時間のうちに会話の要点の把握が可能になる。
なお、優先順位を設定しないことも可能である。この場合、記録された音声データの全てが再生の対象となる。ここでの優先順位は第3の条件の一例である。因みに、優先順位は装着者毎に設定が可能である。換言すると、優先順位は、アカウント毎に設定が可能である。
【0029】
再生制御部167は、予め定めた条件を満たす場合、半導体メモリ15(
図3参照)に記録されている音データ又は音の要素を再生する。
予め定めた条件には、例えば装着者の心理状態等に関する状態が、会話の内容を把握可能な状態に該当することがある。換言すると、装着者の集中力が低下しているとみなされなくなった場合や装着者が昂ぶっているとみなされなくなった場合である。すなわち、装着者の集中力が回復した場合や冷静さを取り戻した場合である。ここでの予め定めた条件は、第1の条件を満たさない場合と定義することも可能である。
この他、予め定めた条件には、装着者が明示の指示を与えた場合も含まれる。明示の指示は、不図示の操作子や操作ボタンに対する操作を通じて入力される。この場合、装着者が再生を開始するタイミングを自由に選択することが可能になる。換言すると、装着者に都合のよいタイミングで記録された音データの再生が可能になる。
【0030】
また、予め定めた条件には、装着者の置かれた環境の変化が検知される場合も含まれる。環境の変化には、例えば会話の終了や参加している会議の終了がある。会話の終了は、例えば会話を終了する言葉の検知により判定される。また、会議の終了も、例えば会議の終了を知らせる言葉の検知や騒音の増加などにより判定される。
また、予め定めた条件には、リアルタイムが含まれてもよい。この場合は、会話の内容の把握が困難な状態でも強制的に集音された音が再生される。多くの場合、軟骨伝導による音の伝達は、直接耳に入る音よりも大きく聞こえることが知られている。このため、心理状態等が周囲の音を把握しきれない状態でも、注意を音に向けることが可能になる。本実施の形態におけるイヤホン型端末1は補聴器ではないので、リアルタイムでの音データ等の再生は、装着者の心理状態等が会話の内容の把握が困難な場合に限られる。
再生制御部167が用いる予め定めた条件は、第2の条件の一例である。第2の条件も装着者毎に設定される。換言すると、第2の条件は、アカウント毎に設定が可能である。
【0031】
<処理動作>
図5は、実施の形態1で使用するイヤホン型端末1が実行する処理動作例を説明するフローチャートである。
図5においては、処理動作の各ステップを記号のSで示している。
まず、イヤホン型端末1は、生体電位の情報を取得すると(ステップ1)、生体電位の情報を分析して心理状態等を特定する(ステップ2)。本実施の形態の場合、生体電位の情報は脳波を含む情報であり、予め用意された心理状態等の中から1つ又は複数が特定される。
次に、イヤホン型端末1は、周囲の音を記録する条件を満たすか否かを判定する(ステップ3)。ステップ3で否定結果が得られている間、イヤホン型端末1は、ステップ3の判定を繰り返す。この間、装着者の周囲の音は記録されない。また、周囲の音が軟骨伝導により伝達されることもない。
ステップ3で肯定結果が得られた場合、イヤホン型端末1は、周囲の音を記録する(ステップ4)。
【0032】
続いて、イヤホン型端末1は、リアルタイムで再生の設定があるか否かを判定する(ステップ5)。
ステップ5で肯定結果が得られた場合、イヤホン型端末1は、記録又は抽出した音を再生する(ステップ10)。ここでは、記録された音がリアルタイムで再生される。再生には、軟骨伝導振動子3L3及び3R3(
図3参照)が用いられる。
一方、ステップ5で否定結果が得られた場合、イヤホン型端末1は、音を要素に分解し(ステップ6)、その後、分解後の音の要素を格納する(ステップ7)。前述したように、音の要素は半導体メモリ15(
図3参照)に格納される。
次に、イヤホン型端末1は、優先する音の要素を抽出する(ステップ8)。音の要素の抽出は、事前に設定された優先順位に基づいて実行される。
この後、イヤホン型端末1は、再生条件を満たすか否かを判定する(ステップ9)。
再生条件が満たされない間、イヤホン型端末1は、ステップ9で否定結果を得る。再生条件が満たされると、イヤホン型端末1は、ステップ9で肯定結果を得てステップ10に移行し、抽出された音を再生する。
【0033】
以下では、
図6及び
図7を用いて、イヤホン型端末1の使用例を説明する。
図6は、イライラしている人が冷静さを取り戻すと音声の再生が開始される例を説明する図である。
図6では、Aさんが話者であり、イヤホン型端末1を装着しているBさんが聞き手である。
図6に示すように、Aさんは「今回のプロジェクトは…」とBさんに話しかけているが、Bさんはイライラしており、Aさんの話す内容を把握しきれない状態である。なお、イヤホン型端末1には気導経路が確保されているので、BさんはAさんが話す声が物理的には聞こえている。しかし、イライラしており、話の内容を把握するには不向きな状態である。
この場合、イヤホン型端末1は、Bさんの心理状態等が冷静になったことを検知すると、イライラしていた期間に記録されていた音声の再生をスタートする。再生される音声は、事前の設定による。例えば音声の全部が1倍速で再生される、又は、早送り再生される。また例えば音声の要約が選択的に再生される。
【0034】
図7は、興奮が収まった時点で自分の意思で会議中に発せられた音声の再生を指示する例を説明する図である。
図7の場合、会議にはAさん、Bさん、Cさん、Dさんの4名が参加している。
図7の場合、Aさんがリーダであり、「今回の目標は…」と話している。この時点で、Bさん、Cさん、Dさんは聞き手である。このうち、Dさんは、イヤホン型端末1を装着している。なお、Dさんは、緊張のためか興奮した状態にある。このため、Dさんは、Aさんの話す内容を把握しきれていない。
図7の例では、冷静さを取り戻したDさんの指示により、リーダの声が抽出されて再生がスタートされる。
図7の場合、Dさんは、リーダであるAさんの音声の優先順位を高く設定している。このため、BさんやCさんの発言があった場合でも、Aさんの発言が選択的に再生される。この例では、Dさんの指示によりAさんの発言が再生されるため、会議中でも、他の参加者に気づかれることなく、Aさんの発言を確認することが可能になる。
【0035】
<実験結果等>
以下では、イヤホン型端末1(
図2参照)の使用により、装着者の脳波の取得が可能であることを、第三者による実験の結果や出願人による実験の結果を通じて説明する。
【0036】
<イヤホン型端末1との対比に使用するMindWave(NeuroSky社)の信頼性>
図8は、イヤホン型端末1を装着した状態で、脳波の測定が可能な脳波センサ付きヘッドセット20の測定点を説明する図である。
今回の実験では、脳波センサ付きヘッドセット20として、市場で入手が可能なNeuroSky社のMindWaveを使用した。
前述したように、イヤホン型端末1は外耳道を脳波の測定点として使用するのに対し、NeuroSky社のMindWaveは、額20Aを脳波の測定点とする。
図8に示す額20Aは、脳波の測定に使用する電極配置の国際標準として推奨されている10-20法で定める21個の配置のうちのFp1に相当する。
【0037】
MindWaveによって測定される脳波は、医療認定されているEEGシステムと同等であることが、Elena Ratti等の論文「Comparison of Medical and Consumer Wireless EEG Systems for Use in Clinical Trials」(https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnhum.2017.00398/full)で検証されている。
なお、この論文は、USデューク大学のPh.DシニアサイエンティストDimiter Dimitrovと、イタリアミラノ工科大学Ph.Dイタリア国立研究評議会(CNR)のMarta Parazziniにより査読掲載されている。
図9は、論文に掲載されている脳波の計測点を示す図である。
図9に示すB-AlertとEnobioは、ヨーロッパと米国で医療認定を得ているEEGシステムの名称である。また、MuseとMindWaveは、消費者向けのEEGシステムの名称である。
【0038】
図9の場合、白丸で示す位置は、医療認定されているEEGシステムでのみ使用する測定点である。これに対し、AF7、Ap1、AF8、A1、A2で示す位置は、消費者向けのEEGシステムであるMuseでのみ使用する測定点である。そして、Fp1は、4つのEEGシステムに共通する測定点である。すなわち、Fp1は、MindWaveの測定点である。なお、測定点のA1とA2は、耳介と側頭部とで挟まれた部分に当たり、外耳道ではない。
【0039】
論文の詳細については省略するが、安静時の脳波の測定を、5人の健康な被験者を対象として、日を改めて2回行っている。また、同実験では、額部のFp1を共通の測定点とし、目を閉じた状態と目を開いた状態における脳波パターンとパワースペクトル密度が比較されている。この論文における評価は、閉眼時の脳波におけるα波の出力評価に当たる。
また、論文の結論の項には、MindWaveのFp1で測定されるパワースペクトルは、医療認定されているEEGシステムであるB-Alert及びEnobioと再現テストの結果も含めてほぼ同じであり、α波のピークも捉えられたことが記載されている。なお、MindWaveで測定される脳波には、瞬きと開眼中の動きがノイズとして乗ることも記載されている。ちなみに、Museの信頼性が低い理由として、アーチファクトの影響の可能性が指摘されている。
【0040】
<イヤホン型端末1による測定結果とMindWaveによる測定結果の比較>
以下では、被験者に、イヤホン型端末1(
図2参照)とMindWaveの両方を装着し、脳波を測定する実験を行った結果について説明する。
図8に示したように、イヤホン型端末1は外耳道を測定点とし、MindWaveは額20Aを測定点とする。
【0041】
出願人の実験では、58名を被験者とした。一人につき、同日中に、3回のアテンションの上昇テストとメディテーションの上昇テストを設計し、閉眼時におけるα波の出現を捉える実験を行った。
なお、実際の被験者は83名であったが、25名の測定の結果には開眼時のアーチファクトの影響が過大であったため除外した。
【0042】
アテンションの上昇テストでは、被験者に対し、開眼状態で150mm先のペン先を30秒間見つめ続けてもらった。このテストは、集中状態を作ってα波の出現を抑止し、β波を増加させることを目的とする。
メディテーション上昇テストでは、被験者に対し、閉眼状態で30秒間の瞑想をお願いした。このテストは、閉眼時のα波の出力評価に相当する。換言すると、リラックス状態におけるα波の増加比率を捉えることを目的とする。
【0043】
実験時には、アテンションの上昇テストの後にメディテーションの上昇テストに移行し、α波の出力を評価した。
α波の出力の評価は、30秒間の開眼状態の後に30秒間の閉眼状態を2セット繰り返し、閉眼状態におけるα波の上昇を確認するのが一般的である。
ただし、今回の実験では、一度に多くのデータを収集するためにセットの回数を増やして行った。
【0044】
まず、メディテーションの上昇テストを行った理由と、閉眼時におけるα波の出力の評価に用いた方法について説明する。
図10は、α波の出力評価を説明する図である。
図10に示すように、脳波の生データは、主にδ波、θ波、α波、β波、γ波に分類が可能である。
脳波は、人の動作による再現性が小さく、臨床データによる取得性能の再現性の評価が難しいとされるが、その中でも、α波は、開眼と閉眼の差で出現され易いとされている。
いずれの波も、開眼状態においては一様に出現し易い一方、α波以外の波は閉眼状態において一様に減衰するといわれる。すなわち、α波は、閉眼状態においても比較的影響を受けることなく出現するといわれる。
【0045】
この特徴を活かし、実験では、脳波の生データをフーリエ変換し、各波に対応する周波数帯のスペクトル強度Snを特性値とした。
実験では、α波強度比Tαを、全周波数帯のスペクトル強度の和(すなわちΣSn)に対するα波帯のスペクトル強度Sαの比(=Sα/ΣSn)として定義し、開眼状態から閉眼状態への変化でα波強度比Tαが増加したか否かを確認した。
α波強度比Tαの増加が確認されれば、脳波の測定の証拠になる。
【0046】
図11及び
図12を用いて、イヤホン型端末1による測定結果とMindWaveによる測定結果の異同を説明する。
図11は、MindWaveによる測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが弱い人で開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果であり、(B)は瞬きが強い人で開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果である。
図12は、実施の形態で使用するイヤホン型端末1(
図2参照)による測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが弱い人で開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果であり、(B)は瞬きが強い人で更に顎の動きを加えて開眼状態と閉眼状態の切り替えを2セット行った場合の測定結果である。
【0047】
瞬きが弱い人の場合、イヤホン型端末1による測定結果とMindWaveによる測定結果との間には、高い類似性が認められた。
一方、瞬きが強い人の場合、MindWaveによる測定結果には、瞬きの影響を受けたアーチファクトが顕著に出現した。その理由は、MindWaveが測定に用いる額の位置が目に近く、開眼時における瞬きが大きなアーチファクトとして検出され易いためと考えられる。このことは、前述したElena Ratti等の論文でも指摘されている。
【0048】
ところで、瞬きの影響によるアーチファクトは、主にδ波帯に出現した。ただし、
図11に示すように大きなアーチファクトがあると、α波の増加が誤検出される可能性が高くなる。その理由は、開眼状態における全周波数帯のスペクトル強度の和が大きくなる結果、開眼状態におけるα波強度比Tαが小さくなり、閉眼状態におけるα波強度比Tαが相対的に大きく見えてしまうためである。前述した被験者の削減もこの理由による。
なお、瞬きに伴い検出されるアーチファクトには、瞼の動きに伴い発生する生体由来の電位の変動だけでなく、瞼を動かそうとする脳波由来の電位の変動が含まれている。
【0049】
一方、本実施の形態で使用するイヤホン型端末1(
図2参照)による測定結果では、0秒から30秒の期間に、瞬きに起因するアーチファクトは検知されなかった。
ただし、唾液を飲み込む顎の動きに起因するアーチファクトは、開眼状態か閉眼状態かを問わず、検出されることが確認された。唾液を飲み込む顎の動きに起因するアーチファクトは、主に、θ波帯に出現した。
一方で、唾液の飲み込みに伴い出現するアーチファクトのスペクトル強度は、MindWaveで検知された瞬きに対応するアーチファクトのスペクトル強度に比して格段に小さい。このため、MindWaveの場合のように、α波の増加への影響は認められなかった。
因みに、唾液の飲み込みに伴い出現するアーチファクトにも、顎の筋肉の動きに伴い発生する生体由来の電位の変動だけでなく、顎の筋肉を動かそうとする脳波由来の電位の変動が含まれている。
【0050】
続いて、
図13及び
図14を用いて、イヤホン型端末1による測定結果に現れるα波の増加とMindWaveによる測定結果に現れるα波の増加を説明する。
図13は、MindWaveによる測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが強い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(B)は瞬きが弱い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(C)はα波の増加が出現しない場合である。
図14は、実施の形態で使用するイヤホン型端末1(
図2参照)による測定結果を説明する図である。(A)は瞬きが強い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(B)は瞬きが弱い開眼状態から閉眼状態に変化したときの周波数帯別のスペクトル強度の割合の変化を示し、(C)はα波の増加が出現しない場合である。
【0051】
図13及び
図14の縦軸はスペクトル強度の割合であり、横軸は周波数帯域である。また、
図13の(A)に対応する被験者と
図14の(A)に対応する被験者は同じである。同様に、
図13の(B)に対応する被験者と
図14の(B)に対応する被験者は同じである。
図13の(C)に対応する被験者と
図14の(C)に対応する被験者も同じである。
MindWaveのスペクトル強度の分布(
図13参照)とイヤホン型端末1のスペクトル強度の分布(
図14参照)は、δ波~θ波の低周波帯で異なっているが、α波以上ではほぼ同じであった。
【0052】
実験の結果、MindWaveとイヤホン型端末1の両方でα波の増加が確認された被験者は46名であった。この割合は、58名のうちの約8割弱に相当する。
因みに、イヤホン型端末1だけでα波の増加が確認された被験者は7名であった。換言すると、イヤホン型端末1では、α波の増加が計53名で確認された。すなわち、イヤホン型端末1では、約9割強の被験者でα波の増加が確認された。
なお、MindWaveとイヤホン型端末1の両方でα波の増加が確認されなかった被験者は5名であった。
図13及び
図14の(C)に示す波形は、この5名の被験者の測定結果を表している。
【0053】
図15は、スペクトル強度の増加部の提示例を示す図である。(A)はMindWaveの測定結果であり、(B)は実施の形態で使用するイヤホン型端末1(
図2参照)の測定結果である。縦軸はスペクトル強度の割合であり、横軸は周波数である。
図15では、
図13及び
図14の場合とは異なり、横軸に実周波数を用いている。前述したElena Ratti等の論文では、横軸に実周波数を用いてα波の増加を説明している。図中の○印で示す部分が増加部分である。
図15に示すように、いずれの測定方法でも、周波数が高くなるのに従ってスペクトル強度の割合が低下する傾向が表れている。この傾向は、Elena Ratti等の論文と同様である。
このように、本実施の形態で使用する外耳道で脳波を測定するイヤホン型端末1は、MindWaveと同等の測定能力を有していることが確かめられた。
【0054】
<実施の形態2>
本実施の形態では、対象者の集中力が低下しているとみなされる状態で電話の着信があった場合における処理動作について説明する。
なお、本実施の形態の場合にも、実施の形態1で説明したイヤホン型端末1を使用する。相違する処理の内容は、MPU16(
図3参照)が実行するプログラムに起因する。
図16は、実施の形態2で使用するイヤホン型端末1が実行する処理動作例を説明するフローチャートである。
図16には、
図5との対応部分に対応する符号を付して示している。
本実施の形態の場合も、イヤホン型端末1は、生体電位の情報を取得すると(ステップ1)、生体電位の情報を分析して心理状態等を特定する(ステップ2)。
【0055】
また、イヤホン型端末1は、周囲の音を記録する条件を満たすか否かを判定する(ステップ3)。ステップ3で否定結果が得られている間、イヤホン型端末1は、ステップ3の判定を繰り返す。
一方、ステップ3で肯定結果が得られた場合、イヤホン型端末1は、周囲の音を記録する(ステップ4)。
ここまでの処理は、実施の形態1と同じである。
続いて、イヤホン型端末1は、再生条件を満たす前に電話の着信があったか否かを判定する(ステップ11)。本実施の形態の場合、ステップ11で否定結果が得られている間、イヤホン型端末1は、ステップ11の判定を繰り返す。もっとも、否定結果が得られている間も、実施の形態1で説明したステップ5~10の処理が実行される。このため、ステップ11で肯定結果が得られる前に、記録された周囲の音の再生が開始されることも起こり得る。
【0056】
ここでは、ステップ11で肯定結果が得られる場合を考える。すなわち、再生条件を満たす前に電話の着信があった場合を考える。この場合、イヤホン型端末1は、電話を接続制御する(ステップ12)。本実施の形態の場合、イヤホン型端末1は、装着者の電話機やスマートフォン等と連携している。
電話が接続されると、装着者は、電話の相手との会話を開始する。電話の相手との会話が開始されると、多くの場合、装着者の心理状態等は退屈な状態から集中した状態等に変化する。この変化は、前述の実施の形態1の場合であれば、周囲の音の記録を終了するイベントとして検知され、直前までに記録された音データの再生も開始される。
ただし、本実施の形態の場合、装着者は電話の相手と会話を行っているので、周囲の音の再生は好ましくない。そこで、本実施の形態におけるイヤホン型端末1は、心理状態等が変化しても、電話中である限り、周囲の音の記録を継続する。このため、実施の形態1で説明したステップ6~ステップ8の処理が、電話による会話の最中も継続的に実行される。
【0057】
この後、イヤホン型端末1は、終話を検知したか否かを判定する(ステップ13)。終話は、電話機やスマートフォンからの通知により検知が可能である。ステップ13で否定結果が得られている間、記録が継続されている周囲の音について、ステップ6~ステップ8の処理が継続される。
ステップ13で肯定結果が得られると、イヤホン型端末1は、記録又は抽出した音を再生する(ステップ10)。すなわち、電話中に発生していた周囲の音の再生が開始される。
本実施の形態の場合、ステップ3で肯定結果が得られる場合が実施の形態1と同様であるが、イライラした状態で電話に出るのはよろしくない。このため、ステップ3で肯定結果が得られるのは、退屈している状態と判定された場合等、予め定めた状態の場合に限定してもよい。
【0058】
<他の実施の形態>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は前述した実施の形態に記載の範囲に限定されない。前述した実施の形態に、種々の変更又は改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0059】
例えば前述の実施の形態では、前述した処理の全てがイヤホン型端末1(
図2参照)で実行されているが、それらの処理の一部又は全部を外部装置で実行してもよい。その場合、外部装置が単独で、又は、外部装置とイヤホン型端末1との両方が情報処理装置の一例となる。
図17は、外部装置がインターネット30上のサーバ31である場合を示す図である。
図17の場合、イヤホン型端末1は、装着者から測定された脳波の情報をサーバ31にアップロードし、処理の結果を受信するデバイスとして機能する。
【0060】
また、前述の実施の形態では、イヤホン型端末1(
図1参照)で測定が可能な生体電位の情報の一例として脳波について説明したが、筋電、心拍、心電、脈拍、脈波等でもよい。
また、前述の実施の形態では、両耳の外耳道にイヤホン型端末1を装着して脳波を測定しているが、イヤホン型端末1は、片耳の外耳道に装着するタイプでもよい。
図18は、片耳に装着するタイプのイヤホン型端末1Aの外観例を説明する図である。
図18には、
図2との対応部分に対応する符号を付して示している。
図18に示すイヤホン型端末1Aは、右耳に装着されるモジュール1Rを基本構成とする。
図18の場合、モジュール本体2Rには、リチウムイオンバッテリ17(
図3参照)も内蔵されている。
また、
図18に示すイヤホン型端末1Aの場合、耳部に装着される電極付き振動部3Rの先端部に、3つの電極3R1、3L1及び3R2が設けられる。ドーム状の電極3R1とリング状の電極3L1の間、リング状の電極3L1及びリング状の電極3R2の間は、それぞれ絶縁体により電気的に分離されている。
【0061】
また、前述の実施の形態では、脳波等に起因する電位変動を測定する電極をイヤホン型端末1に配置する例を説明したが、他の物品やデバイスに装着してもよい。以下、具体例を幾つか例示する。
例えば脳波等に起因する電位変動を測定する電極は耳介を覆うヘッドホンに配置してもよい。ヘッドホンの場合、電極は、イヤパッドのうち頭部と接触する部分に設けられる。この際、電極は、頭髪が少なく、皮膚と直に接触が可能な位置に配置される。
また、耳介に接触する物品には、イヤリング等のアクセサリや眼鏡型のデバイスでもよい。これらは、ウェアラブルデバイスの一例である。
図19は、脳波の測定に使用する電極を配置したイヤリング40の一例を説明する図である。
図19に示すイヤリング40は、装飾が取り付けられる耳の表面側で耳朶に接触する電極3R1と、耳の裏面側で耳朶に接触する電極3L1と、U字部分のいずれかの位置で耳朶に接触する電極3R2を有している。これらの電極は不図示の絶縁体により電気的に分離されている。また、動作に必要な電力を供給するバッテリやブルートゥースその他の通信モジュールは、装飾の内部、U字部分、電極3L1が配置される皿形状の部材を軸方向に移動させるネジの軸内等に内蔵される。
なお、軟骨伝導振動子3R3は、イヤリング40の本体とケーブル41で接続される。この場合、軟骨伝導振動子3R3は、単独で耳部に装着される。
【0062】
図20は、脳波の測定に使用する電極を配置した眼鏡50の一例を説明する図である。
図20に示す眼鏡50は、右側のツル51の先端部(以下「モダン」という)に電極3R1と電極3R2が配置され、左側のツル51のモダンに電極3L1が配置されている。これらの電極は不図示の絶縁体により電気的に分離されている。また、動作に必要な電力を供給するバッテリやブルートゥースその他の通信モジュールは、ツルやモダンに内蔵される。
図20の場合、軟骨伝導振動子3R3及び3L3は、ツルのモダンに連結されている。
この他、脳波の測定に使用する電極は、スマートグラスやヘッドマウントディスプレイと呼ばれる情報を表示するヘッドセットへの組み合わせも可能である。また、ユーザの周囲の環境を理解し、環境に同化させた画像を表示する機能を備えるヘッドセットへの搭載も可能である。
【0063】
図21は、ユーザの周囲の環境に同化させた画像を表示させる機能を備えるヘッドセット60を脳波の測定に使用する場合の電極の配置例を説明する図である。
図21に示すヘッドセット60は、マイクロソフト(登録商標)社のhololens(登録商標)に、脳波を測定する電極を配置した構成をイメージしている。ヘッドセット60を装着したユーザが体験する仮想の環境は、拡張現実や複合現実と呼ばれる。
図21に示すヘッドセット60では、頭部に装着されるリング状の部材のうち耳部に接触する部位に、電極3R1、電極3R2、電極3L1が配置されている。
図21に示すヘッドセット21の場合、電極3R1と電極3R2は右耳側に配置され、電極3L1は左耳側に配置される。なお、ヘッドセット60に設けられている視線を追跡する機能を使用すれば、視線の先の物又は人と装着者の心理状態等との紐付けが容易になる。また、ヘッドセット60には、右側の耳部に装着される軟骨伝導振動子3R3と、左側の耳部に装着される軟骨伝導振動子3L3とが本体に取り付けられている。
前述の実施の形態においては、ユーザの耳部に接触する電極を用いて脳波を含む生体情報を取得する場合について説明したが、脳波を含む生体情報を取得する位置は耳部に限らない。電極は、例えば額その他の頭部の位置に設けてもよい。
例えばヘッドセット60(
図21参照)の場合、頭部に装着されるリング状の部材のいずれかの位置に電極を設けてもよい。
【0064】
前述の実施の形態においては、ユーザの耳部を含む頭部に接触する電極を用いて脳波を含む生体情報を取得する場合について説明したが、脳の活動を血流量の変化によって計測してもよい。
図22は、近赤外光を用いて脳の活動に起因する血流量の変化を測定するヘッドセット70の一例を示す図である。ヘッドセット70は、頭部に装着されるリング状の本体を有している。この本体の内側には、頭皮に近赤外光を照射するプローブ71と、反射光を受光する検出プローブ72で構成される測定部が1又は複数配置されている。なお、MPU73は、プローブ71による近赤外光の照射を制御し、検出プローブ72から出力される信号を処理して、ユーザの脳波の特徴を検出する。
【0065】
この他、脳波を含む生体情報の取得には脳磁計を用いても良い。脳の神経細胞が生じる電気的活動によって生じる磁場の測定には、例えばTMR(=Tunnel Magneto Resistance)センサを用いる。
図23は、脳磁計80の一例を説明する図である。
図23に示す脳磁計80は、頭部に装着されるキャップ81に複数のTMRセンサ82を配列した構造を有している。なお、TMRセンサ82の出力は、不図示のMPUに入力され、脳磁図が生成される。この場合、脳磁図における磁場の分布がユーザの脳波の特徴として用いられる。なお、
図23には、耳部に装着された軟骨伝導振動子3L3も描いている。
【0066】
前述の実施の形態においては、他者に気づかれること無く装着者に音を伝達することを前提に軟骨伝導経路を想定しているが、骨伝導経路を用いてもよい。骨伝導経路を用いる場合、骨伝導振動子が装着者の側頭部に接する位置に配置される。また、軟骨伝導や骨伝導に代えて、音を出力する振動板を備えるイヤホンを用いてもよい。
【0067】
前述の実施の形態で説明したイヤホン型端末1におけるブルートゥースモジュール14は、例えば「Bluetooth LE Audio」に準拠してもよい。「Bluetooth LE Audio」については、例えば「https://www.bluetooth.com/learn-about-bluetooth/bluetooth-technology/le-audio/」等に開示されている。ブルートゥースモジュール14が同規格に準拠している場合、イヤホン型端末1の使用中に受信した緊急放送等を、再生中の音に重ねて出力することが可能になる。ここでの出力は、「Bluetooth LE Audio」の放送機能、又は、複数の機器を1つの機器に同時に接続する機能を活用する例である。イヤホン型端末1が複数の機器に相当する。
【0068】
なお、前述した各実施の形態におけるMPUは、広義的な意味でのプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU(=Central Processing Unit)等)の他、専用的なプロセッサ(例えばGPU(=Graphical Processing Unit)、ASIC(=Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(=Field Programmable Gate Array)、プログラム論理デバイス等)を含む。
また、前述した各実施の形態におけるプロセッサの動作は、1つのプロセッサが単独で実行してもよいが、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサが協働して実行してもよい。また、プロセッサにおける各動作の実行の順序は、前述した各実施の形態に記載した順序のみに限定されるものでなく、個別に変更してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1、1A…イヤホン型端末、3L、3R…電極付き振動部、3L3、3R3…軟骨伝導振動子、161…生体情報取得部、162…生体情報分析部、163…音取得部、164…音記録制御部、165…音要素分解部、166…優先音抽出部、167…再生制御部