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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】防振光学装置
(51)【国際特許分類】
   G03B 5/00 20210101AFI20231227BHJP
   G02B 23/02 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
G03B5/00 J
G02B23/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020025750
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021131429
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000156396
【氏名又は名称】鎌倉光機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 春雄
(72)【発明者】
【氏名】宮地 和也
【審査官】藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0054936(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013200315(DE,A1)
【文献】特開平03-149973(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00 - 5/06
G02B 23/00 -23/02
H04N 23/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体の一方側に設けられる対物レンズ群と、
前記筐体の他方側に設けられる接眼レンズ群と、
前記対物レンズ群と前記接眼レンズ群との間に位置するように前記筐体に収容される像振れ補正ユニットであって、正立プリズムと、前記正立プリズムを旋回可能に支持する支持機構と、前記正立プリズムを前記支持機構を介して旋回させるアクチュエータと、を有する像振れ補正ユニットと、
前記筐体の角速度である第1角速度を検出する第1検出部と、
前記正立プリズムの角速度である第2角速度を検出する第2検出部と、
前記第1検出部から検出された前記第1角速度と、前記第2検出部から検出された前記第2角速度とに基づいて、前記アクチュエータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第2角速度が前記第1角速度と比例係数との掛け算となるように前記アクチュエータを制御し、
前記比例係数は、前記対物レンズ群及び前記接眼レンズ群に対する前記正立プリズムの相対位置に基づき設定される、
望遠鏡
【請求項2】
請求項1に記載の望遠鏡であって、
前記制御部は、前記対物レンズ群及び前記接眼レンズ群に対する前記正立プリズムの相対位置関連情報を取得し、前記相対位置関連情報に基づいて前記比例係数を算出する、
望遠鏡
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対物レンズ群と接眼レンズ群との間に位置するように筐体に収容される像振れ補正ユニットであって、正立プリズムと、正立プリズムを旋回可能に支持する支持機構と、正立プリズムを支持機構を介して旋回させるアクチュエータと、を有する像振れ補正ユニットと、正立プリズムの角速度を検出する角速度検出センサと、角速度検出センサから検出された正立プリズムの角速度に基づいて、アクチュエータを制御する制御部と、を備える防振光学装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-79086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、制御部は、正立プリズムが初期状態と同じ向きになるようにアクチュエータを制御している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の防振光学装置では、正立プリズムが対物レンズ群と接眼レンズ群との中間位置に配置されることを前提としているので、正立プリズムが対物レンズ群と接眼レンズ群との中間位置以外に配置される場合、制御部は、正立プリズムが初期状態と同じ向きになるようにアクチュエータを制御しても、像振れ補正を精度よく行うことができない。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、正立プリズムの配置自由度を向上させるとともに像振れ補正を精度よく行うことができる防振光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様によれば、筐体と、前記筐体の一方側に設けられる第1光学素子と、前記筐体の他方側に設けられる第2光学素子と、前記第1光学素子と前記第2光学素子との間に位置するように前記筐体に収容される像振れ補正ユニットであって、正立プリズムと、前記正立プリズムを旋回可能に支持する支持機構と、前記正立プリズムを前記支持機構を介して旋回させるアクチュエータと、を有する像振れ補正ユニットと、前記筐体の角速度である第1角速度を検出する第1検出部と、前記正立プリズムの角速度である第2角速度を検出する第2検出部と、前記第1検出部から検出された前記第1角速度と、前記第2検出部から検出された前記第2角速度とに基づいて、前記アクチュエータを制御する制御部と、を備える、防振光学装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、正立プリズムの配置自由度を向上させるとともに像振れ補正を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る防振光学装置を示す断面図である。
図2図1におけるII-II線に沿う断面図である。
図3】防振光学装置の主要構成を示す構成図である。
図4】防振光学装置を備える双眼鏡を示す断面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る像振れ補正処理を示すフローチャートである。
図6】第2角速度が第1角速度と比例係数との掛け算となるようにアクチュエータを制御する理由を説明するための概略説明図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る防振光学装置を示す断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る像振れ補正の処理を示すフローチャートである。
図9A】正立プリズムが対物レンズ群及び接眼レンズ群の移動によって対物レンズ群と接眼レンズ群との中間位置よりも接眼レンズ群側に位置する状態を示す概略状態図である。
図9B】正立プリズムが対物レンズ群及び接眼レンズ群の移動によって対物レンズ群と接眼レンズ群との中間位置に位置する状態を示す概略状態図である。
図9C】正立プリズムが対物レンズ群及び接眼レンズ群の移動によって対物レンズ群と接眼レンズ群との中間位置よりも対物レンズ群側に位置する状態を示す概略状態図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る防振光学装置を示す断面図である。
図11】本発明の第5実施形態に係る防振光学装置を示す断面図である。
図12】本発明の第5実施形態に係る防振光学装置を示す概略説明図である。
図13】本発明の第6実施形態に係る防振光学装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、図1から図3を参照しながら本発明の第1実施形態に係る防振光学装置の構成について説明する。本明細書においては、全体を通じて、同一の要素には同一の符号を付する。
【0011】
図1は、本発明の第1実施形態に係る防振光学装置1を示す断面図である。図2は、図1におけるII-II線に沿う断面図である。図3は、防振光学装置1の構成を示す構成図である。なお、説明の便宜上、図中において、防振光学装置1の長手方向、幅方向及び高さ方向を、それぞれX軸に沿う方向、Y軸に沿う方向及びZ軸に沿う方向とする。
【0012】
図1から図3に示すように、防振光学装置1は、例えば、目標物を観察するための単眼鏡から構成される。防振光学装置1は、筐体10、第1光学素子としての対物レンズ群20、第2光学素子としての接眼レンズ群30、像振れ補正ユニット70、第1検出部としての第1角速度検出センサ91、第2検出部としての第2角速度検出センサ92、操作部94及び制御部90を備える。なお、本実施形態では、防振光学装置1は、単眼鏡(具体的には、単眼望遠鏡)から構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、撮像素子をさらに備える撮像装置から構成されてもよい。
【0013】
筐体10は、長手方向に沿って延在する筒状(具体的には、円筒状)の部材である。筐体10には、対物レンズ群20、接眼レンズ群30、像振れ補正ユニット70、第1角速度検出センサ91、第2角速度検出センサ92及び制御部90が設けられる。
【0014】
対物レンズ群20は、環状(具体的には、円環状)の対物レンズ枠21を介して筐体10の一方側としての前方側(図1の左側)に設けられる(固定される)。対物レンズ群20は、全体として正の屈折力を有し、対物側(図1の左側)から接眼側(図1の右側)に順に配置される正レンズG1及び負レンズG2から構成される。対物レンズ群20の光軸22は、対物レンズ群の中心を通り長手方向に沿って延在する。対物レンズ群20の接眼側には、対物レンズ群20の後側焦点23が形成される。
【0015】
接眼レンズ群30は、環状(具体的には、円環状)の接眼レンズ枠31を介して筐体10の他方側としての後方側(図1の右側)に設けられる(固定される)。接眼レンズ群30は、全体として正の屈折力を有し、対物側(図1の左側)から接眼側(図1の右側)に順に配置される負レンズG3、正レンズG4及び正レンズG5から構成される。接眼レンズ群30の光軸32は、対物レンズ群20の光軸22と重なるように接眼レンズ群30の中心を通り長手方向に沿って延在する。接眼レンズ群30の対物側には、接眼レンズ群30の前側焦点33が形成される。
【0016】
そして、対物レンズ群20と接眼レンズ群30とは、後側焦点23と前側焦点33とが一致するように配置される。これにより、ユーザが対物レンズ群20を目標物に向けて接眼レンズ群30から目標物を観察すると、対物レンズ群20の後側焦点23(すなわち、接眼レンズ群30の前側焦点33)の位置に発生した目標物の実像を拡大して観察することができる。
【0017】
図1及び図2に示すように、像振れ補正ユニット70は、手振れ等による筐体10の像振れを補正するための防振ユニットである。像振れ補正ユニット70は、対物レンズ群20と接眼レンズ群30との間に位置するように筐体10に収容される。また、像振れ補正ユニット70は、正立プリズム40、支持機構としてのジンバル機構50及びアクチュエータ80を有する。
【0018】
正立プリズム40は、倒立像を正立像にするためのプリズムである。正立プリズム40は、例えば、シュミットペシャンタイプであり、ダハプリズム41及び補助プリズム42を含んで構成される。なお、正立プリズム40は、シュミットペシャンタイプに限らず、例えば、ポロタイプ、アッベケーニッヒタイプ、シュミットプリズム又はアミチプリズムであってもよい。また、正立プリズム40を構成する反射面の一部又は全部は、平面ミラーで構成されてもよい。
【0019】
ジンバル機構50は、正立プリズム40を旋回可能に支持するための支持機構である。ジンバル機構50は、筐体10の内側に固定される外枠51と、高さ方向に沿って延在する第1旋回軸52を介して旋回可能に外枠51の内側に支持される内枠61と、幅方向に沿って延在する第2旋回軸62を介して旋回可能に内枠61の内側に支持されるプリズム枠71と、を有する。プリズム枠71内には、正立プリズム40が固定される。
【0020】
正立プリズム40は、その重心が第1旋回軸52の延長線及び第2旋回軸62の延長線上に位置するように配置される。具体的には、正立プリズム40は、プリズム枠71と、プリズム枠71に固定される正立プリズム40とによって合成される重心が第2旋回軸62の延長線上に位置するとともに、内枠61と、内枠61に支持されるプリズム枠71及び正立プリズム40とによって合成される重心が第1旋回軸52の延長線上に位置するように配置される。これにより、正立プリズム40をアクチュエータ80(第1アクチュエータ54、第2アクチュエータ64)により最小の駆動力で旋回させることができる。
【0021】
本実施形態では、正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62、すなわち、正立プリズム40の重心)は、対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11(すなわち、対物レンズ群20までの距離と、接眼レンズ群30までの距離とが等しくなる位置)、具体的には、対物レンズ群20の後側主点24と接眼レンズ群30の前側主点34との中間位置11よりも接眼レンズ群30側に位置するように設けられる。これにより、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11に設けられる構成に比べ、正立プリズム40を大きくすることなく、対物レンズ群20の大口径化を図ることができる。また、防振光学装置1の軽量化及び小型化を正立プリズム40の小型化によって図ることができる。
【0022】
また、正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62、すなわち、正立プリズム40の重心)は、対物レンズ群20の後側主点24と接眼レンズ群30の前側主点34との中間位置11と、対物レンズ群20の後側焦点23(接眼レンズ群30の前側焦点33)との間に位置するように設けられることが好ましい。
【0023】
また、正立プリズム40は、その共振周波数が1Hzから20Hzの間の値になるように設定される。具体的には、正立プリズム40は、第2旋回軸62周りにプリズム枠71及び正立プリズム40が旋回するときの共振周波数が1Hzから20Hzの間の値になるとともに、第1旋回軸52周りに内枠61、プリズム枠71及び正立プリズム40が旋回するときの共振周波数が1Hzから20Hzの間の値になるように設定される。共振周波数は、軸まわりの慣性モーメント及びバネ定数が大きく影響するため、適切な値になるように設定される。
【0024】
ユーザが防振光学装置1を手持ちで使用する場合、手振れの周波数は、一般的に1Hzから20Hzの範囲にあることが分かっている。ユーザの手振れを打ち消して像振れを補正するためには、結果的にその手振れの周波数に合わせて正立プリズム40を旋回させる必要がある。正立プリズム40の共振周波数がユーザの手振れの周波数とほぼ近い特性を持つとき、アクチュエータ80(第1アクチュエータ54、第2アクチュエータ64)は、最小の駆動力で効率的に像振れを補正することができる。
【0025】
アクチュエータ80は、正立プリズム40をジンバル機構50を介して2方向に旋回させるための駆動部である。アクチュエータ80は、内枠61を第1旋回軸52周りに旋回させる第1アクチュエータ54と、プリズム枠71を第2旋回軸62周りに旋回させる第2アクチュエータ64と、を有する。
【0026】
第1アクチュエータ54は、外枠51の内側と内枠61の外側との間に取り付けられる駆動部である。第1アクチュエータ54は、外枠51の内側に取り付けられる第1コイル55と、第1コイル55の内側に収容されるように外枠51の内側に取り付けられる第1位置検出センサ56と、第1コイル55と対向するように内枠61の外側に取り付けられる第1磁石57と、を含んで構成される。そして、第1コイル55に電流を流すことにより、外枠51に対し第1磁石57が取り付けられる内枠61を、第1旋回軸52周りに旋回させることができる。第1コイル55と第1磁石57との相対位置情報を第1位置検出センサ56によって検出することができる。
【0027】
第2アクチュエータ64は、内枠61の内側とプリズム枠71の外側との間に取り付けられる駆動部である。第2アクチュエータ64は、内枠61の内側に取り付けられる第2コイル65と、第2コイル65の内側に収容されるように内枠61の内側に取り付けられる第2位置検出センサ66と、第2コイル65と対向するようにプリズム枠71の外側に取り付けられる第2磁石67と、を含んで構成される。そして、第2コイル65に電流を流すことにより、内枠61に対し第2磁石67が取り付けられるプリズム枠71を、第2旋回軸62周りに旋回させることができる。第2コイル65と第2磁石67との相対位置情報を第2位置検出センサ66によって検出することができる。
【0028】
本実施形態では、ジンバル機構50は、外枠51、内枠61及びプリズム枠71から構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、筐体10の内側に固定される外枠51と、旋回軸を介して旋回可能に外枠51の内側に支持されるプリズム枠71と、のみから構成されてもよい。この場合、アクチュエータ80は、第1アクチュエータ54及び第2アクチュエータ64を有しておらず、外枠51の内側とプリズム枠71の外側との間に取り付けられる駆動部から構成される。
【0029】
第1角速度検出センサ91は、筐体10の角速度である第1角速度A、具体的には、手振れ等による筐体10の傾きに応じた角速度を検出する2軸の角速度検出センサである。本実施形態では、第1角速度検出センサ91は、筐体10の内側に取り付けられているが、これに限定されるものではなく、例えば、外枠51に取り付けられてもよい。
【0030】
第2角速度検出センサ92は、正立プリズム40の角速度である第2角速度B、具体的には、正立プリズム40の傾きに応じた角速度を検出する2軸の角速度検出センサである。第2角速度検出センサ92は、プリズム枠71に取り付けられる。なお、本実施形態では、第1角速度検出センサ91及び第2角速度検出センサ92は、いずれもMEMS技術を用いたジャイロセンサから構成される。
【0031】
図3に示すように、操作部94は、像振れ補正処理の開始又は終了を指示する操作スイッチから構成される。操作部94は、このような操作に応じた操作信号を制御部90に出力する。
【0032】
本実施形態では、図3に示すように、制御部90は、第1角速度検出センサ91から出力される第1角速度Aと、第2角速度検出センサ92から出力される第2角速度Bとに基づいて、アクチュエータ80を制御している。しかしながら、制御部90は、これに限定されるものではなく、第1角速度検出センサ91から出力される第1角速度Aと、第2角速度検出センサ92から出力される第2角速度Bと、第1位置検出センサ56から出力される第1コイル55と第1磁石57との相対位置と、第2位置検出センサ66から出力される第2コイル65と第2磁石67との相対位置とに基づいて、アクチュエータ80を制御してもよい。
【0033】
制御部90は、コンピュータとしてのCPUから構成される。なお、制御部90は、複数のマイクロコンピュータから構成することも可能である。
【0034】
また、制御部90には、メモリ93が内蔵される。メモリ93は、後述する比例係数kを記録するコンピュータ読取可能な記録媒体である。メモリ93は、制御部90において実行される処理プログラム(例えば、像振れ補正処理)又はアルゴリズムプログラムを記録する。なお、本実施形態では、メモリ93は、制御部90に内蔵されているが、これに限定されるものではなく、例えば、制御部90と別体に設けられてもよい。
【0035】
次に、図4を参照しながら防振光学装置1を備える双眼鏡300について説明する。
【0036】
図4は、防振光学装置1を備える双眼鏡300を示す断面図である。
【0037】
図4に示すように、双眼鏡(具体的には、双眼望遠鏡)300は、並列に設けられる一対の単眼鏡(具体的には、単眼望遠鏡)としての一対の防振光学装置1,1と、一対の防振光学装置1,1を連結する連結部材301と、を備えて構成される。一対の像振れ補正ユニット70,70は、それぞれ独立して一対の防振光学装置1,1に設けられる。
【0038】
本実施形態では、一対の防振光学装置1,1は、それぞれ一対の第1角速度検出センサ91,91及び一対の制御部90を備え、一対の制御部90は、一対の第1角速度検出センサ91,91から出力される第1角速度Aに基づいて一対のアクチュエータ80,80をそれぞれ制御している。しかしながら、一対の防振光学装置1は、これに限定されるものではなく、例えば、一対の防振光学装置1のうちの片方のみに単一の第1角速度検出センサ91を取り付け、各制御部90は、当該単一の第1角速度検出センサ91から出力される第1角速度Aに基づいて各アクチュエータ80を制御してもよい。また、一対の防振光学装置1,1は、単一の制御部90を備えてもよい。この場合、単一の制御部90は、一対の第1角速度検出センサ91,91から出力される第1角速度Aに基づいて一対のアクチュエータ80,80を並行制御する。
【0039】
次に、図5を参照しながら本発明の第1実施形態に係る像振れ補正処理について説明する。
【0040】
図5は、本発明の第1実施形態に係る像振れ補正処理を示すフローチャートである。
【0041】
まず、ユーザによる操作部94への開始操作によって像振れ補正処理が開始されると、ステップS10に進む。
【0042】
図5に示すように、ステップS10において、第1角速度検出センサ91は、防振光学装置1の筐体10の角速度である第1角速度Aを検出する。そして、第1角速度検出センサ91は、検出した第1角速度Aを制御部90に出力し、ステップS20に進む。
【0043】
次に、ステップS20において、制御部90は、第1角速度検出センサ91から出力された第1角速度Aがゼロであるか否かを判定する。そして、第1角速度Aがゼロである場合(Yesの場合)、すなわち、手振れ等による防振光学装置1の筐体10の傾きが発生しない場合にステップS10に戻り、第1角速度Aがゼロではない場合(Noの場合)にステップS30に進む。
【0044】
次に、ステップS20でNoの場合に、ステップS30において、第2角速度検出センサ92は、ジンバル機構50に旋回可能に支持される正立プリズム40の角速度である第2角速度Bを検出する。そして、第2角速度検出センサ92は、検出した第2角速度Bを制御部90に出力し、ステップS40に進む。
【0045】
次に、ステップS40において、制御部90は、第1角速度検出センサ91から出力された第1角速度Aと、第2角速度検出センサ92から出力された第2角速度Bとに基づいて、アクチュエータ80を制御し、ステップS10に戻る。
【0046】
具体的には、ステップS40において、制御部90は、第1角速度検出センサ91から出力された第1角速度Aと、第2角速度検出センサ92から出力された第2角速度Bと、あらかじめメモリ93に記録された比例係数kに基づいて、第2角速度Bが第1角速度Aと比例係数kとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御する。
【0047】
次に、図6を参照しながら第2角速度Bが第1角速度Aと比例係数kとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御する理由について説明する。
【0048】
図6は、第2角速度Bが第1角速度Aと比例係数kとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御する理由を説明するための概略説明図である。なお、図6において、単一の対物レンズ及び単一の接眼レンズを、それぞれ対物レンズ群20及び接眼レンズ群30として示している。
【0049】
図6において、長手方向に沿って延在する面を基準面16とする。基準面16は、手振れ等による防振光学装置1の筐体10の傾きが発生しない場合に筐体10が延在する方向と平行する。図6に示すように、筐体10が手振れ等によって矢印12で示す方向(すなわち、反時計回りの方向)に振れ角度C傾くと、このような手振れを補正するためには、すなわち、基準面16に平行な方向(長手方向)に沿って対物レンズ群20に入射した光線を、接眼レンズ群30から長手方向沿って出射させるためには、制御部90は、正立プリズム40が矢印13で示す方向(すなわち、時計回り方向)に旋回角度D旋回されるようにアクチュエータ80を制御する必要がある。なお、振れ角度Cは、基準面16に対する筐体10の振れ角度であり、旋回角度Dは、基準面16に対する正立プリズム40の旋回角度である。
【0050】
ここでは、正立プリズム40の旋回角度Dは、筐体10の振れ角度Cと比例係数kとの掛け算となる。第1角速度検出センサ91から検出された筐体10の角速度である第1角速度Aは、筐体10の振れ角度Cを時間で微分した値である。一方、第2角速度検出センサ92から検出された正立プリズム40の角速度である第2角速度Bは、正立プリズム40の旋回角度Dを時間で微分した値である。すなわち、旋回角度Dを振れ角度Cで割った値、及び第2角速度Bを第1角速度Aで割った値のいずれも、比例係数kである。
【0051】
本実施形態では、正立プリズム40の位置が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも接眼レンズ群30側に位置するので、比例係数kは、マイナスとなるようにあらかじめ設定される。この場合、制御部90は、正立プリズム40が基準面16に対し筐体10の振れ方向と逆方向に旋回されるようにアクチュエータ80を制御する。
【0052】
比例係数kは、対物レンズ群20及び接眼レンズ群30に対する正立プリズム40の相対位置関連情報に基づくものである。具体的には、比例係数kは、次式(1)を満たすことが光線追跡の結果より分かっている。ただし、対物レンズ群20(具体的には、対物レンズ群20の後側主点24)と正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62、すなわち、正立プリズム40の重心)との間の距離を第1距離Eとし、接眼レンズ群30(具体的には、接眼レンズ群30の前側主点34)と正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62、すなわち、正立プリズム40の重心)との間の距離を第2距離Fとし、接眼レンズ群30(具体的には、接眼レンズ群30の前側主点34)と接眼レンズ群30の前側焦点33(対物レンズ群20の後側焦点23)との間の距離を第3距離Gとする。
【0053】
(数1)
k=0.5(F-E)/(F-G)
【0054】
本実施形態の一実施例として、第1距離E、第2距離F及び第3距離Gをそれぞれ60mm、25mm及び15mmとする場合、比例係数kは、-1.75となる。このため、筐体10の振れ角度Cが+1°である場合、制御部90は、正立プリズム40の旋回角度Dが-1.75°となるようにアクチュエータ80を制御する。
【0055】
本実施形態では、比例係数kは、式(1)のみに従って設定されているが、これに限定されるものではなく、例えば、式(1)の他、ジンバル機構50の作動時の摩擦抵抗等を考慮し、摩擦抵抗等による補正値を付け加えて設定されてもよい。この場合、筐体10の像振れ補正をより精度よく行うことができる。
【0056】
そして、振れ角度Cの手振れを補正するためには、すなわち、基準面16に平行な方向(長手方向)に沿って対物レンズ群20に入射した光線を、接眼レンズ群30から長手方向沿って出射させるためには、制御部90は、正立プリズム40の角速度である第2角速度Bが筐体10の角速度である第1角速度Aと比例係数kとの掛け算となるように、アクチュエータ80を制御すればよい。
【0057】
以上のことから、制御部90は、第1角速度検出センサ91から出力された第1角速度Aと、第2角速度検出センサ92から出力された第2角速度Bと、あらかじめメモリ93に記録された比例係数kに基づいて、第2角速度Bが第1角速度Aと比例係数kとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御することにより、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11以外に設けられる場合であっても、筐体10の像振れ補正を像振れ補正ユニット70(具体的には、像振れ補正ユニット70の正立プリズム40)によって精度よく行うことができる。換言すれば、正立プリズム40の配置自由度を向上させるとともに像振れ補正を精度よく行うことができる。
【0058】
最後に、ユーザによる操作部94への終了操作によって像振れ補正処理が終了される。
【0059】
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
【0060】
本実施形態に係る防振光学装置1は、筐体10と、筐体10の一方側に設けられる対物レンズ群20と、筐体10の他方側に設けられる接眼レンズ群30と、対物レンズ群20と接眼レンズ群30との間に位置するように筐体10に収容される像振れ補正ユニット70であって、正立プリズム40と、正立プリズム40を旋回可能に支持するジンバル機構50と、正立プリズム40をジンバル機構50を介して旋回させるアクチュエータ80と、を有する像振れ補正ユニット70と、筐体10の角速度である第1角速度Aを検出する第1角速度検出センサ91と、正立プリズム40の角速度である第2角速度Bを検出する第2角速度検出センサ92と、第1角速度Aと第2角速度Bとに基づいて、アクチュエータ80を制御する制御部90と、を備える。
【0061】
この構成によれば、正立プリズム40の角速度である第2角速度Bに加え、筐体10の角速度である第1角速度Aを用いることで、正立プリズム40の配置自由度を向上させるとともに像振れ補正を精度よく行うことができる。
【0062】
また、本実施形態では、制御部90は、第2角速度Bが第1角速度Aとあらかじめ設定された比例係数kとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御する。
【0063】
この構成によれば、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11以外に設けられる場合であっても、筐体10の像振れ補正を像振れ補正ユニット70(具体的には、像振れ補正ユニット70の正立プリズム40)によって精度よく行うことができる。この結果、正立プリズム40の配置自由度を向上させるとともに像振れ補正を精度よく行うことができる。
【0064】
望遠鏡では、倒立像を正立像にするためには、正立プリズムを使用することが必要であるが、本実施形態に係る防振光学装置1では、備える正立プリズム40を使用して像振れを補正することができるので、別途、レンズやミラー等の光学素子を追加する必要がない。そして、望遠鏡を防振光学装置1の構成とすることにより、正立プリズム40を配置する位置や大きさ等の制限が無くなり、様々なタイプの光学装置に応用することができる。本実施形態に係る防振光学装置1によれば、対物レンズ群20の大口径化、高倍率化、広視界化、小型化、軽量化等の効果が得られる。
【0065】
また、望遠鏡で重要な光学性能である明るさや分解能等は、対物レンズ群20の口径が大きいほど高性能であるという特徴がある。防振光学装置1では従来の技術よりも高い光学性能を得ることができる。
【0066】
防振光学装置1では、正立プリズム40を最適な位置に配置することが可能であるので、対物レンズ群20の辺縁部の光線を取り込むために正立プリズム40を大型化しなくてもよい。正立プリズム40を小型化することで、防振光学装置1全体の形状の小型化及び軽量化を図ることができる。正立プリズム40の小型化は、アクチュエータ80で効率的に駆動させるうえでも望ましい。
【0067】
本実施形態では、防振光学装置1は、筐体10、対物レンズ群20、接眼レンズ群30及び像振れ補正ユニット70を備えた構成について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、対物レンズ群20及び接眼レンズ群30を備えておらず、筐体10及び像振れ補正ユニット70を備えたユニットの形態で生産や流通してもよい。
【0068】
(第2実施形態)
次に、図7を参照しながら第2実施形態に係る防振光学装置1の構成について説明する。なお、本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の点については説明を省略し、主に上述した第1実施形態と相違する点について説明する。
【0069】
図7は、本発明の第2実施形態に係る防振光学装置1を示す断面図である。
【0070】
上述した第1実施形態では、対物レンズ群20が保持される対物レンズ枠21及び接眼レンズ群30が保持される接眼レンズ枠31は、それぞれ筐体10の前方側及び筐体10の後方側に固定されているが、これに限定されるものではなく、例えば、図7に示すように、それぞれ長手方向に沿って移動可能に筐体10の前方側及び筐体10の後方側に設けられてもよい。このような場合、対物レンズ群20及び接眼レンズ群30のうちの少なくとも一方を長手方向に沿って移動させることにより、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングを行うことができる。もちろん、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングは、対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を構成する複数のレンズのうちの少なくとも一部を長手方向に沿って移動させて行われてもよい。
【0071】
本実施形態では、筐体10の前方側には、相対位置関連情報の一部分としての対物レンズ枠21(すなわち、対物レンズ群20)の第1位置情報を検出する第3位置検出センサ203が取り付けられる。筐体10の後方側には、相対位置関連情報の他の一部分としての接眼レンズ枠31(すなわち、接眼レンズ群30)の第2位置情報を検出する第4位置検出センサ204が取り付けられる。
【0072】
そして、対物レンズ群20の移動による第3位置検出センサ203から検出された対物レンズ群20の第1位置情報の変化に伴って、対物レンズ群20(具体的には、対物レンズ群20の後側主点24)と正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62)との間の第1距離E(図6参照)が変化する。すなわち、第1距離Eは、第1位置情報に基づくものである。同様に、接眼レンズ群30の移動による第4位置検出センサ204から検出された接眼レンズ群30の第2位置情報の変化に伴って、接眼レンズ群30(具体的には、接眼レンズ群30の前側主点34)と正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62)との間の第2距離F(図6参照)が変化する。すなわち、第2距離Fは、第2位置情報に基づくものである。
【0073】
したがって、制御部90は、第3位置検出センサ203から検出された対物レンズ群20の第1位置情報と、第4位置検出センサ204から検出された接眼レンズ群30の第2位置情報とに基づいて、最適な比例係数kvを算出することができる。そして、制御部90は、第2角速度検出センサ92から検出された第2角速度Bが第1角速度検出センサ91から検出された第1角速度Aと算出した最適な比例係数kvとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御することにより、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングが行われるように対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を移動させた場合であっても、像振れ補正を精度よく行うことができる。
【0074】
すなわち、制御部90は、相対位置関連情報としての第1位置情報及び第2位置情報を取得し、第1角速度A、第2角速度B、第1位置情報及び第2位置情報に基づいて、アクチュエータ80を制御することにより、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングが行われるように対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を移動させた場合であっても、像振れ補正を像振れ補正ユニット70(具体的には、像振れ補正ユニット70の正立プリズム40)によって精度よく行うことができる。
【0075】
次に、図8から図9Cを参照しながら本発明の第2実施形態に係る像振れ補正処理について説明する。
【0076】
図8は、本発明の第2実施形態に係る像振れ補正処理を示すフローチャートである。図9Aは、正立プリズム40が対物レンズ群20及び接眼レンズ群30の移動によって対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも接眼レンズ群30側に位置する状態を示す概略状態図である。図9Bは、正立プリズム40が対物レンズ群20及び接眼レンズ群30の移動によって対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11に位置する状態を示す概略状態図である。図9Cは、正立プリズム40が対物レンズ群20及び接眼レンズ群30の移動によって対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも対物レンズ群20側に位置する状態を示す概略状態図である。
【0077】
まず、ユーザによる操作部94への開始操作によって像振れ補正処理が開始されると、ステップS11に進む。
【0078】
図8に示すように、ステップS11において、第1角速度検出センサ91は、防振光学装置1の筐体10の角速度である第1角速度Aを検出する。そして、第1角速度検出センサ91は、検出した第1角速度Aを制御部90に出力し、ステップS21に進む。
【0079】
次に、ステップS21において、制御部90は、第1角速度検出センサ91から出力された第1角速度Aがゼロであるか否かを判定する。そして、第1角速度Aがゼロである場合(Yesの場合)、すなわち、手振れ等による防振光学装置1の筐体10の傾きが発生しない場合にステップS11に戻り、第1角速度Aがゼロではない場合(Noの場合)にステップS31に進む。
【0080】
次に、ステップS21でNoの場合に、ステップS31において、第2角速度検出センサ92は、ジンバル機構50に旋回可能に支持される正立プリズム40の角速度である第2角速度Bを検出する。そして、第2角速度検出センサ92は、検出した第2角速度Bを制御部90に出力し、ステップS41に進む。
【0081】
次に、ステップS41において、第3位置検出センサ203は、対物レンズ群20の第1位置情報を検出するとともに、第4位置検出センサ204は、接眼レンズ群30の第2位置情報を検出する。そして、第3位置検出センサ203及び第4位置検出センサ204は、検出した第1位置情報及び第2位置情報を制御部90に出力し、ステップS51に進む。
【0082】
次に、ステップS51において、制御部90は、第3位置検出センサ203から出力された第1位置情報と、第4位置検出センサ204から出力された第2位置情報とに基づいて、最適な比例係数kvを算出し、ステップS61に進む。
【0083】
具体的には、ステップS51において、制御部90は、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも接眼レンズ群30側に位置する場合(図9A参照)、マイナスとなるように最適な比例係数kvを算出する。この場合、制御部90は、正立プリズム40が基準面16に対し筐体10の振れ方向と逆方向に旋回されるようにアクチュエータ80を制御する。すなわち、制御部90は、筐体10に対する正立プリズム40の相対角度の絶対値が筐体10の振れ角度Cの絶対値よりも大きくなるようにアクチュエータ80を制御する。
【0084】
このようにすれば、正立プリズム40を対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも接眼レンズ群30側に位置させる場合であっても、筐体10の像振れ補正を精度よく行うことができる。このため、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11に設けられる構成に比べ、正立プリズム40を大きくすることなく、対物レンズ群20の大口径化を図ることができる。また、防振光学装置1の軽量化及び小型化を正立プリズム40の小型化によって図ることができる。
【0085】
また、ステップS51において、制御部90は、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11に位置する場合(図9B参照)、ゼロとなるように最適な比例係数kvを算出する。この場合、制御部90は、正立プリズム40が基準面16に対し旋回されないようにアクチュエータ80を制御する。すなわち、制御部90は、筐体10に対する正立プリズム40の相対角度の絶対値が筐体10の振れ角度Cの絶対値と等しくなるようにアクチュエータ80を制御する。
【0086】
さらに、ステップS51において、制御部90は、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも対物レンズ群20側に位置する場合(図9C参照)、プラスとなるように最適な比例係数kvを算出する。この場合、制御部90は、正立プリズム40が基準面16に対し筐体10の振れ方向と同じ方向に旋回されるようにアクチュエータ80を制御する。すなわち、制御部90は、筐体10に対する正立プリズム40の相対角度の絶対値が筐体10の振れ角度Cの絶対値よりも小さくなるようにアクチュエータ80を制御する。
【0087】
このようにすれば、正立プリズム40を対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも対物レンズ群20側に位置させる場合であっても、筐体10の像振れ補正を精度よく行うことができる。このため、正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11に設けられる構成、又は正立プリズム40が対物レンズ群20と接眼レンズ群30との中間位置11よりも接眼レンズ群30側に設けられる構造に比べ、筐体10に対する正立プリズム40の相対角度を小さくすることができる。この結果、アクチュエータ80の省電力化を図ることができる。
【0088】
以上のことから、ステップS51において、制御部90は、正立プリズム40の位置が対物レンズ群20に対し接眼レンズ群30に近いほど、小さくなるように最適な比例係数kvを算出する。例えば、制御部90により算出される最適な比例係数kvは、順に+0.5、0、-0.5、-1.0、-2.0、-4.0のように変化する。言い換えれば、ステップS51において、制御部90は、正立プリズム40の位置が接眼レンズ群30に対し対物レンズ群20に近いほど、大きくなるように最適な比例係数kvを算出する。
【0089】
以上、最適な比例係数kvの算出方法(すなわち、設定方法)について説明したが、このような設定方法をそのまま第1実施形態の比例係数kの設定に適用してもよい。
【0090】
次に、ステップS61において、制御部90は、第1角速度検出センサ91から出力された第1角速度Aと、第2角速度検出センサ92から出力された第2角速度Bと、算出した最適な比例係数kvとに基づいて、アクチュエータ80を制御し、ステップS11に戻る。
【0091】
具体的には、ステップS61において、制御部90は、第2角速度検出センサ92から出力された第2角速度Bが第1角速度検出センサ91から出力された第1角速度Aと算出した最適な比例係数kvとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御し、ステップS11に戻る。したがって、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングが行われるように対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を移動させた場合であっても、像振れ補正を像振れ補正ユニット70(具体的には、像振れ補正ユニット70の正立プリズム40)によって精度よく行うことができる。
【0092】
最後に、ユーザによる操作部94への終了操作によって像振れ補正処理が終了される。
【0093】
(変形例)
本実施形態では、ステップS31、ステップS41及びステップS51は、順に実行されているが、これに限定されるものではなく、例えば、ステップS31とステップS41との順番を入れ替えて実行されてもよいし、ステップS31とステップS41とが同時に実行されてもよい。これらの場合、ステップS41の後にステップS51を実行すればよい。
【0094】
また、本実施形態では、対物レンズ枠21及び接眼レンズ枠31は、それぞれ長手方向に沿って移動可能に筐体10の前方側及び筐体10の後方側に設けられているが、これに限定されるものではなく、例えば、対物レンズ枠21及び接眼レンズ枠31のうちのいずれか一方が長手方向に沿って移動可能に筐体10に設けられてもよい。この場合、移動可能に筐体10に設けられる対物レンズ枠21又は接眼レンズ枠31に対応する第3位置検出センサ203又は第4位置検出センサ204のみを、筐体10の前方側又は後方側に取り付ければよい。
【0095】
(第3実施形態)
次に、図10を参照しながら第3実施形態に係る防振光学装置1の構成について説明する。なお、本実施形態では、上述した第2実施形態と同様の点については説明を省略し、主に上述した第2実施形態と相違する点について説明する。
【0096】
図10は、本発明の第3実施形態に係る防振光学装置1を示す断面図である。
【0097】
上述した第2実施形態では、筐体10には、第3位置検出センサ203及び第4位置検出センサ204が取り付けられているが、これに限定されるものではなく、例えば、第3位置検出センサ203及び第4位置検出センサ204の代わりに、図10に示すような距離検出センサ(例えば、レーザ距離検出センサ)205が取り付けられてもよい。
【0098】
距離検出センサ205は、目標物と防振光学装置1との距離情報を検出するセンサである。距離検出センサ205から検出された距離情報の変化に伴って、第1距離E又は/及び第2距離Fが変化する。すなわち、第1距離E又は/及び第2距離Fは、距離情報に基づくものである。
【0099】
したがって、制御部90は、距離検出センサ205から検出された距離情報に基づいて、最適な比例係数kvを算出することができる。そして、制御部90は、第2角速度検出センサ92から検出された第2角速度Bが第1角速度検出センサ91から検出された第1角速度Aと算出した最適な比例係数kvとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御することにより、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングが行われるように対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を移動させた場合であっても、像振れ補正を精度よく行うことができる。
【0100】
すなわち、制御部90は、相対位置関連情報としての距離情報を取得し、第1角速度A、第2角速度B及び距離情報に基づいて、アクチュエータ80を制御することにより、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングが行われるように対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を移動させた場合であっても、像振れ補正を像振れ補正ユニット70(具体的には、像振れ補正ユニット70の正立プリズム40)によって精度よく行うことができる。
【0101】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る防振光学装置1の構成について説明する。なお、本実施形態では、上述した第2実施形態と同様の点については説明を省略し、主に上述した第2実施形態と相違する点について説明する。
【0102】
上述した第2実施形態では、筐体10には、第3位置検出センサ203及び第4位置検出センサ204が取り付けられているが、これに限定されるものではなく、例えば、第3位置検出センサ203及び第4位置検出センサ204の代わりに、切替スイッチ(図示しない)が取り付けられてもよい。
【0103】
ユーザは、目標物と防振光学装置1との間の距離に応じて切替スイッチを切り替えることができる。目標物と防振光学装置1との間の距離を変更するために、対物レンズ群20又は/及び接眼レンズ群30を前後方向に移動した場合、第1距離E又は/及び第2距離Fが変化する。
【0104】
したがって、制御部90は、切替スイッチによる距離情報に基づいて、最適な比例係数kvを算出することができる。そして、制御部90は、第2角速度検出センサ92から検出された第2角速度Bが第1角速度検出センサ91から検出された第1角速度Aと算出した最適な比例係数kvとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御することにより、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングが行われるように対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を移動させた場合であっても、像振れ補正を精度よく行うことができる。
【0105】
すなわち、制御部90は、相対位置関連情報としての距離情報を取得し、第1角速度A、第2角速度B及び距離情報に基づいて、アクチュエータ80を制御することにより、防振光学装置1のズーミング又はフォーカシングが行われるように対物レンズ群20又は接眼レンズ群30を移動させた場合であっても、像振れ補正を像振れ補正ユニット70(具体的には、像振れ補正ユニット70の正立プリズム40)によって精度よく行うことができる。
【0106】
(第5実施形態)
次に、図11及び図12を参照しながら第5実施形態に係る防振光学装置1の構成について説明する。なお、本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の点については説明を省略し、主に上述した第1実施形態と相違する点について説明する。
【0107】
図11は、本発明の第5実施形態に係る防振光学装置1を示す断面図である。図12は、本発明の第5実施形態に係る防振光学装置1を示す概略説明図である。なお、図12において、単一の対物レンズ及び単一の接眼レンズを、それぞれ対物レンズ群20及び接眼レンズ群30として示している。
【0108】
図11及び図12に示すように、防振光学装置1は、対物レンズ群の後側焦点23の位置にレチクル123が設置される。レチクル123は、透明板材に十字線や目盛り等が刻まれるものである。これにより、防振光学装置1を照準器として使用したり、目標物と防振光学装置1との距離や見込み角等を測定したりすることができる。
【0109】
ユーザが防振光学装置1を手持ちで使用する場合、ユーザの手振れにより筐体10が上下左右に傾くように振動する場合がある。対物レンズ群20が下に向くように筐体10が傾くと、制御部90は、正立プリズム40の旋回角度D(第2角速度B)が筐体10の振れ角度C(第1角速度A)と比例係数kとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御する。これにより、目標物から図11のX軸方向で対物レンズ群20に入射する光線は、正立プリズム40を透過した後、対物レンズ群20の後側焦点23(レチクル123の中心位置)を通過する。ここでは、上下方向の傾き(図11でY軸回りに旋回する方向)について説明したが、左右方向の傾き(図11でZ軸回りに旋回する方向)についても同様である。
【0110】
制御部90は、正立プリズム40の旋回角度D(第2角速度B)が筐体10の振れ角度C(第1角速度A)と比例係数kとの掛け算となるようにアクチュエータ80を制御することにより、対物レンズ群20に入射する光線がずれることなく、対物レンズ群の後側焦点23(レチクル123の中心位置)を通過する。この結果、目標物を観察しているユーザは、手振れによって筐体10が振動したとしても目標物がレチクル123上でずれること無く、補正された像を観察することができる。
【0111】
本実施形態では、比例係数kは、次式(2)を満たすことが光線追跡の結果より分かっている。ただし、対物レンズ群20(具体的には、対物レンズ群20の後側主点24)と正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62)との間の距離を第1距離Eとし、正立プリズム40(具体的には、第1旋回軸52及び第2旋回軸62)と対物レンズ群20の後側焦点23との間の距離を第4距離Hとする(図12参照)。
【0112】
(数2)
k=0.5(H-E)/H
【0113】
本実施形態の一実施例として、第1距離E及び第4距離Hをそれぞれ60mm及び15mmとする場合、比例係数kは、-1.5となる。このため、筐体10の振れ角度Cが+1°である場合、制御部90は、正立プリズム40の旋回角度Dが-1.5°となるようにアクチュエータ80を制御する。
【0114】
防振光学装置1は、対物レンズ群20の後側焦点23の位置に発光素子を設置してもよい。例えば、対物レンズ群の後側焦点23の位置に発光装置を設置することにより、手振れによって筐体10が振動したとしても目標物にずれることなく光を照射することができる。防振光学装置1は、対物レンズ群20の後側焦点23の位置に受光素子を設置してもよい。例えば、対物レンズ群の後側焦点23の位置に受光装置を設置することにより、手振れによって筐体10が振動したとしても目標物で発した光をずれることなく受光することができる。
【0115】
防振光学装置1では、対物レンズ群20の後側焦点23の位置に設置するレチクル123は、透過型の液晶ディスプレイで構成されてもよい。この場合、ユーザは、目標物の像と同時に必要な情報等を観察することができる。
【0116】
防振光学装置1では、対物レンズ群20の後側焦点23の位置に設置するレチクル123は、対物レンズ群20の後側焦点23より離れた位置に設置し、対物レンズ群20の後側焦点23の位置にレンズ等で光学的に投影させてもよい。
【0117】
(第6実施形態)
次に、図13を参照しながら第6実施形態に係る防振光学装置1の構成について説明する。なお、本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の点については説明を省略し、主に上述した第1実施形態と相違する点について説明する。
【0118】
図13は、本発明の第6実施形態に係る防振光学装置1を示す断面図である。
【0119】
上述した第1実施形態では、防振光学装置1は、単眼鏡から構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、図13に示すような双眼鏡(具体的には、双眼望遠鏡)から構成されてもよい。この場合、双眼鏡1は、並列に設けられる一対の単眼鏡(具体的には、単眼望遠鏡)401,402と、一対の単眼鏡401,402が設けられる筐体410と、を備える。
【0120】
一対の単眼鏡401,402は、一対の対物レンズ群20,20、一対の接眼レンズ群30,30及び共有する単一の像振れ補正ユニット70を備える。像振れ補正ユニット70は、一対の正立プリズム40,40及び単一のジンバル機構50を有する。ジンバル機構50は、筐体10の内側に固定される外枠51と、Z軸方向に沿って延在する第1旋回軸52を介して旋回可能に外枠51の内側に支持される内枠61と、Y軸方向に沿って延在する第2旋回軸62を介して旋回可能に内枠61の内側に支持されるプリズム枠71と、を有する。
【0121】
また、上述した第1実施形態では、プリズム枠71は、単一の正立プリズム40が固定されるように構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、図13に示すような一対の正立プリズム40,40が固定されるように構成されてもよい。なお、一対の正立プリズム40,40のそれぞれは、一対の単眼鏡401,402のそれぞれを構成している。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上述した実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0123】
1 防振光学装置
10 筐体
20 対物レンズ群
30 接眼レンズ群
40 正立プリズム
50 ジンバル機構
70 像振れ補正ユニット
80 アクチュエータ
90 制御部
91 第1角速度検出センサ
92 第2角速度検出センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13