(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】吊りボルト固定具
(51)【国際特許分類】
E04B 9/18 20060101AFI20231227BHJP
F16B 1/00 20060101ALI20231227BHJP
F16B 2/12 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
E04B9/18 B
F16B1/00 A
F16B2/12 B
(21)【出願番号】P 2020026895
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】591020685
【氏名又は名称】株式会社能重製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】能重 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】八百板 潤
(72)【発明者】
【氏名】前川 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰弘
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-031004(JP,A)
【文献】特開2016-075070(JP,A)
【文献】特開2013-181285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/18
F16B 1/00
F16B 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の下部壁に吊りボルトを垂下固定させる吊りボルト固定具であって、
前記吊りボルトを螺合させる第一螺合部を有し、前記下部壁の下方において該下部壁に対向する底板部と、
前記底板部の左側及び右側に設けられた一対の側板部にそれぞれ連結するとともに、前記下部壁の下面に当接する一対の天板部と、
前記天板部を貫通し、該天板部を前記下部壁に固定させる固定ビスを挿通させる孔部と、を備え、
一対の前記天板部は、
前記下部壁の外縁部側に位置する背側において該天板部に一体に連結するとともに上方又は下方に向けて延在する背側折返し部を有する吊りボルト固定具。
【請求項2】
一対の前記天板部は、
前記背側とは反対側の腹側において該天板部に一体に連結するとともに下方に向けて延在する腹側折返し部を有する請求項1に記載の吊りボルト固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H形鋼やC形鋼等の構造体に対して吊りボルトを垂下固定するための吊りボルト固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、H形鋼やC形鋼等の構造体に対して吊りボルトを垂下固定するにあたって、構造体の下部壁を利用してこれを固定する吊りボルト固定具が多用されている。例えばH形鋼の下方に位置するフランジ部を利用して吊りボルトを垂下固定する吊りボルト固定具は、吊りボルトを螺合させる第一螺合部を有し、フランジ部の下方においてこのフランジ部に対向する底板部と、底板部の背側に設けられた背板部に連結し、フランジ部の上方においてこのフランジ部に対向する頂板部とを備えていて、吊りボルトを締め付けることによって頂板部と吊りボルトの先端部でフランジ部を挟持し、これにより吊りボルトを垂下固定するようにしている(例えば特許文献1の
図5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-049287号公報
【文献】特開2018-115428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでこのような従来の吊りボルト固定具は、地震等で強い揺れを受けると、H形鋼に対して横ずれしたり、頂板部がフランジ部から外れてH形鋼から脱落したりする不具合が生じることがあった。地震の強度によっては吊りボルト固定具が変形してしまうこともあり、この場合は、H形鋼に対する横ずれや脱落がより生じやすくなっていた。
【0005】
一方、特許文献2には、このような不具合を防止できるとする吊りボルト固定具(天井吊りボルト懸架ブラケット)が示されている。この吊りボルト固定具は、同文献の
図2、
図3に示されているように、構造体の下部壁下面に沿って背側から腹側に向かって水平方向に延在して構造体の腹側で垂直方向に延在する側面視L字状の脱落防止ボルト10と、同文献の
図5、
図6に示されているように、ドリルねじ19によって固定されるねじ止め片18を備えている。しかし特許文献2の吊りボルト固定具は、脱落防止ボルト10を用いることを前提としており、脱落防止ボルト10を設けることによる部品点数の増加に伴って大幅なコストアップが避けられず、また重量の増大、サイズの大型化も免れない。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決することを課題とするものであって、構造体に吊りボルトを垂下固定するにあたって構造体に対する横ずれや脱落を防止することができ、また、脱落防止ボルトを要する従来のものに比してコストを抑制し、軽量化、小型化を図ることもできる吊りボルト固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、構造体の下部壁に吊りボルトを垂下固定させる吊りボルト固定具であって、前記吊りボルトを螺合させる第一螺合部を有し、前記下部壁の下方において該下部壁に対向する底板部と、前記底板部の左側及び右側に設けられた一対の側板部にそれぞれ連結するとともに、前記下部壁の下面に当接する一対の天板部と、前記天板部を貫通し、該天板部を前記下部壁に固定させる固定ビスを挿通させる孔部と、を備え、一対の前記天板部は、前記下部壁の外縁部側に位置する背側において該天板部に一体に連結するとともに上方又は下方に向けて延在する背側折返し部を有するものである。
【0008】
このような吊りボルト固定具において、一対の前記天板部は、前記背側とは反対側の腹側において該天板部に一体に連結するとともに下方に向けて延在する腹側折返し部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従う吊りボルト固定具では、固定ビスによって、一対の天板部を構造体の下部壁に強固に固定することができるため、構造体に対する横ずれや脱落を防止することができる。特に天板部は、背側折返し部を備えていて高い剛性を有しており、地震等で強い揺れを受けても変形し難いため、構造体に対する横ずれや脱落をより確実に防止することができる。また本発明に従う吊りボルト固定具は、脱落防止ボルトも不要であるため、これを要する従来のものに比してコストを抑制し、軽量化、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に従う吊りボルト固定具の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示した吊りボルト固定具につき、(a)は平面図であり、(b)は正面図であり、(c)は底面図である。
【
図3】
図1に示した吊りボルト固定具につき、(a)は側面図であり、(b)は背面図である。
【
図4】
図1に示した吊りボルト固定具によってH形鋼に吊りボルトを垂下固定した状態を示す図であって、(a)は側面図であり、(b)は背面図であり、(c)は底面図である。
【
図5】
図1に示した吊りボルト固定具によってC形鋼に吊りボルトを垂下固定した状態を示す側面図である。
【
図6】比較例の吊りボルト固定具につき、(a)は斜視図であり、(b)は強度試験後の変形具合について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に従う吊りボルト固定具の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書等における「上」、「下」の位置関係は、吊りボルト固定具によって構造体(例えばH形鋼)に吊りボルトを垂下固定した状態での向きをいう。また「腹」側とは、吊りボルト固定具をH形鋼に取り付けた際にH形鋼のウエブに近い側(
図4(a)における左側)であり、「背」側とは、その逆側(
図4(a)における右側)である。
【0012】
本実施形態の吊りボルト固定具1は、
図1~
図3に示す如き形態をなすものであって、所定の形状になる1枚の鋼板を折り曲げて形成されている。この吊りボルト固定具1は、
図4に示すように仮止めボルト300と固定ビス400によって構造体(図示例はH形鋼100)の下部壁(H形鋼100における下方のフランジ部101)に取り付けられ、吊りボルト200を垂下固定することができる。
【0013】
吊りボルト固定具1は、
図1~
図3に示すように、矩形状になる底板部2を備えている。底板部2の中央部には、底板部2を貫通するとともに内周面を雌ねじ状に形成し、吊りボルト200が螺合可能な第一螺合部3が設けられている。
【0014】
底板部2の背側には、底板部2と一体に連結して上方に向けて延在する背板部4が設けられている。背板部4の上端部には、背板部4と一体に連結して背側から腹側に向けて延在する頂板部5が設けられている。そして頂板部5の中央部には、頂板部5を貫通するとともに内周面を雌ねじ状に形成し、仮止めボルト300が螺合可能な第二螺合部6が設けられている
【0015】
そして底板部2の左側及び右側には、底板部2と一体に連結して上方に向けて延在する一対の側板部7が設けられている。それぞれの側板部7の上端部には、側板部7と一体に連結して底板部2が位置する側とは逆向きに水平方向に延在する天板部8が設けられている。
【0016】
天板部8の背側には、本実施形態では天板部8と一体に連結して上方に向けて延在する(天板部8の背側を上方に向けて折り返した)背側折返し部9が設けられている。そして天板部8の腹側には、天板部8と一体に連結して下方に向けて延在する(天板部8の腹側を下方に向けて折り返した)腹側折返し部10が設けられている。
【0017】
更に天板部8は、その中央部を貫通する円形の孔部11を備えている。孔部11は、
図4に示した固定ビス400が挿通できる大きさで形成されている。
【0018】
このような吊りボルト固定具1は、
図4に示すようにしてH形鋼100のフランジ部101に取り付けられる。具体的に説明すると、まず、第二螺合部6に仮止めボルト300を軽く締め付けることにより、吊りボルト固定具1に仮止めボルト300を保持させておく。
【0019】
そして、H形鋼100に対して吊りボルト固定具1を、底板部2と天板部8がフランジ部101の下方に位置し、また頂板部5がフランジ部101の上方に位置する高さで、背側折返し部9の両方がフランジ部101の外縁部に当接するまで水平方向に移動させる。この状態で吊りボルト固定具1を持つ手を離しても、仮止めボルト300の下端部がフランジ部101で支持されるため、吊りボルト固定具1がH形鋼100から脱落することはない。
【0020】
その後、仮止めボルト300を締め付けることによって、フランジ部101は、仮止めボルト300の下端部と一対の天板部8によって挟持される。従って吊りボルト固定具1は、フランジ部101に対して仮固定される。なお、仮止めボルト300を回転する際、吊りボルト固定具1も一緒に回転すると作業性に難があるが、本実施形態では、上方に向けて延在する一対の背側折返し部9が吊りボルト固定具1の回転止めとして機能するため、仮止めボルト300による仮固定を作業性よく行うことができる。
【0021】
その後は、固定ビス400を使用して、天板部8をフランジ部101に固定する。固定ビス400は、図示したものに限られず、フランジ部101の厚みや材質等に応じて適宜最適なものが使用される。例えば図示した固定ビス400は、セルフタップ機能を有するものであって、孔部11に固定ビス400の先端を当て付け、そのまま固定ビス400を回転させることによって天板部8をフランジ部101に固定することができるが、フランジ部101にねじ穴を設けておくことによって、セルフタップ機能を持たない固定ビス400を使用してもよい。
【0022】
そして、第一螺合部3に吊りボルト200を螺合させ、更にこれを締め付ける。これにより吊りボルト200の先端は、フランジ部101に強く押し付けられ、H形鋼100に垂下固定される。本実施形態の吊りボルト固定具1は、固定ビス400によって一対の天板部8がフランジ部101に強固に固定されているため、例えば地震等で強い揺れを受けても、吊りボルト固定具1がH形鋼100に対して横ずれしたり、脱落したりする不具合を防止することができる。
【0023】
また天板部8は、背側折返し部9によって高い剛性を有している。特に本実施形態においては、背側折返し部9に加えて腹側折返し部10も設けられているため、天板部8は十分に高い剛性を有している。このため、地震等で強い揺れを受けた場合でも天板部8の変形が抑えられるため、H形鋼100に対する吊りボルト固定具1の横ずれや脱落を、より確実に防止することができる。
【0024】
ここで、本実施形態における天板部8の剛性について、
図6に示した比較例と対比しながら説明する。
図6(a)に示した比較例の吊りボルト固定具21は、上述した背側折返し部9と腹側折返し部10が天板部28に設けられていない点を除いて、吊りボルト固定具1と同一の形状である。そして、吊りボルト固定具21に吊りボルト200を取り付けた状態で地震等の揺れを想定した強度試験を行ったところ、特に
図6(b)においてハッチングを付した部分(天板部28と側板部27との連結部)が矢印で示した向きに大きく変形する現象が認められた。一方、図示は省略するが、吊りボルト固定具1において腹側折返し部10を省いたものを使用して同一の強度試験を行ったところ、上記の変形度合いは十分に小さくなっていることが認められた。特に、
図1に示したように背側折返し部9と腹側折返し部10の両方を備える吊りボルト固定具1においては、上記の変形は殆ど認められなかった。
【0025】
このように、天板部8に背側折返し部9、延いては腹側折返し部10を設けることによって、吊りボルト固定具1の変形を抑制することができる。なお背側折返し部9は、下方に向けて延在する(天板部8の背側を下方に向けて折り返す)ものでもよく、このような下方に向けて延在する背側折返し部9によっても、吊りボルト固定具1の変形を抑制することができる。
【0026】
本実施形態の吊りボルト固定具1は、上述したH形鋼100のみならず、
図5に示す如きC形鋼110に取り付けることも可能である。ここでC形鋼110は、図示したように横断面形状がC字状をなす薄板状のものであって、下方において水平方向に延在する下部壁111と上方において水平方向に延在する上部壁112が、垂直方向に延在する縦壁113で一体に連結している。また、縦壁113に対向する側には、下部壁111から上方に向けて延在する下側リップ114と、上部壁112から下方に向けて延在する上側リップ115が設けられている。
【0027】
このようなC形鋼110に対しても、第二螺合部6に仮止めボルト300を軽く締め付けておき、下側リップ114と上側リップ115の間から頂板部5を挿入した後、仮止めボルト300を締め付けることによって、吊りボルト固定具1を仮固定することができる。
【0028】
その後は、固定ビス500を使用して、天板部8を下部壁111に固定する。
図4における固定ビス500は、下部壁111の厚みに応じて、
図4に示した固定ビス400よりも長さの短いものを使用している。固定ビス500もセルフタップ機能を有しているため、孔部11に固定ビス500の先端を当て付け、そのまま固定ビス500を回転させることによって天板部8を下部壁111に固定することができる。そして第一螺合部3に吊りボルト200を螺合させ、更にこれを締め付けることによって、C形鋼110に吊りボルト200を垂下固定することができる。本実施形態の吊りボルト固定具1も、固定ビス500によって一対の天板部8が下部壁111に強固に固定されているため、地震等で強い揺れを受けても、吊りボルト固定具1がC形鋼110に対して横ずれしたり、脱落したりする不具合を防止することができる。また背側折返し部9と腹側折返し部10によって天板部8の変形が抑えられるため、C形鋼110に対する吊りボルト固定具1の横ずれや脱落を、より確実に防止することができる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。例えば、上記の実施形態で使用した仮止めボルト300は取り付け作業性の向上に効果的であるが、これを使用しなくてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1:吊りボルト固定具
2:底板部
3:第一螺合部
4:背板部
5:頂板部
6:第二螺合部
7:側板部
8:天板部
9:背側折返し部
10:腹側折返し部
11:孔部
100:H形鋼(構造体)
101:フランジ部(下部壁)
110:C形鋼(構造体)
111:下部壁
112:上部壁
113:縦壁
114:下側リップ
115:上側リップ
200:吊りボルト
300:仮止めボルト
400:固定ビス
500:固定ビス