IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧

<>
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図1
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図2
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図3
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図4
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図5
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図6
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図7
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図8
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図9
  • 特許-電波センサ、および電界成分検出装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】電波センサ、および電界成分検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/08 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
G01R29/08 F
G01R29/08 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020032711
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021135221
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】八木谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】坂野 敦哉
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 浩史
(72)【発明者】
【氏名】坪田 卓也
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-158479(JP,A)
【文献】特開2018-100904(JP,A)
【文献】国際公開第2015/132846(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/013408(WO,A1)
【文献】特許第7216397(JP,B2)
【文献】HAYASHI, Ryohei; KANAURA, Ryohei; YAGITANI, Satoshi; IMACHI, Tomohiko; OZAKI, Mitsunori; YOSHIMURA, Yoshiyuki; SUGIURA, Hirokazu,“Radio-Frequency Power Distribution Measurement System Using Thin Metamaterial Absorber”,2016 International Workshop on Antenna Technology (iWAT),2016年02月29日,pp. 157-160,DOI: 10.1109/IWAT.2016.7434830
【文献】坂野敦哉;瀬川浩史;坪田卓也;清水健介;西真詞郎;八木谷聡;井町智彦 ;尾崎光紀,“メタサーフェス電波吸収体による電界ベクトル計測手法の検討”,2020年電子情報通信学会総合大会講演論文集 通信1,2020年03月03日,p. 253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/08-29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に、第1の方向および第2の方向にアレイ状に形成された複数の第1の金属面と、
前記第1の金属面の間に、前記第1の方向に沿って接続された複数の第1の抵抗体と、 前記第1の金属面の間に、前記第2の方向に沿って接続された複数の第2の抵抗体と、 前記基板の裏面に形成された第2の金属面と、
前記第1の金属面のそれぞれから前記基板の裏面まで形成された複数のビア部と、
前記ビア部のそれぞれと前記第2の金属面との間に接続された複数の第3の抵抗体と、
を備える、電波センサ。
【請求項2】
前記第3の抵抗体の抵抗値は、前記第1の抵抗体および前記第2の抵抗体の抵抗値より小さく設定されている
請求項1に記載の電波センサ。
【請求項3】
前記第3の抵抗体のそれぞれは、前記基板の平面方向に沿って形成される、請求項1または請求項2に記載の電波センサ。
【請求項4】
前記第3の抵抗体の一端のそれぞれは前記第1の金属面と接続された前記ビア部と接続され、前記第3の抵抗体の他端のそれぞれは前記第2の金属面に接続される、請求項1または請求項2に記載の電波センサ。
【請求項5】
基板と、
前記基板の表面に、第1の方向および第2の方向にアレイ状に形成された複数の第1の金属面と、
前記第1の金属面の間に、前記第1の方向に沿って接続された複数の第1の抵抗体と、 前記第1の金属面の間に、前記第2の方向に沿って接続された複数の第2の抵抗体と、 前記基板の裏面に形成された第2の金属面と、
前記第1の金属面のそれぞれから前記基板の裏面まで形成された複数のビア部と、
前記ビア部のそれぞれと前記第2の金属面との間に接続された複数の第3の抵抗体と、 を備える、電波センサと、
前記第1の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第1の電圧検出部と、
前記第2の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第2の電圧検出部と、
前記第3の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第3の電圧検出部と、
前記第1の電圧検出部により検出された電圧に基づいて前記第1の方向における電界成分を演算し、前記第2の抵抗体に発生した電圧に基づいて前記第2の方向における電界成分を演算し、前記第3の抵抗体に発生した電圧に基づいて前記基板の厚さ方向における電界成分を演算する演算部と、
を備える、電界成分検出装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記第3の抵抗体に発生した電圧に基づいて前記基板の厚さ方向における電波の電界成分から、前記ビア部の前記第1の方向における長さに基づく前記第1の方向における電界成分の影響、および前記ビア部の前記第2の方向における長さに基づく前記第2の方向における電界成分の影響を除去する補正を行う、
請求項5に記載の電界成分検出装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記基板に対する電波の入射角度に基づく前記基板の厚さ方向における理論的な電圧値に近づくように、前記第3の抵抗体に発生した電圧値を補正する、請求項5または6に記載の電界成分検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、電波センサ、および電界成分検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、環境電磁工学(EMC:Electromagnetic Compatibility)分野において、様々な電子機器から放射される電波(電磁波)ノイズを計測する技術が知られている。実際に機器のどの部分から電波ノイズが発生しているかを特定するためには、機器周辺での電波ノイズの空間分布を知ることが重要である。また、通信機器に組み込んだアンテナの指向性等を評価する場合にも、放射される電波強度の空間分布を計測する必要がある。
【0003】
特許文献1には、電波の強度を計測するための電波強度計測装置が記載されている。電波強度計測装置は、複数の測定領域を有する平面を有する電波吸収部により、複数の測定領域における電波の強度を測定する。電波強度計測装置は、複数の測定領域における電波の強度に基づいて、測定領域の位置に対応させて可視化した画像である電波強度分布画像を生成し、生成した電波強度分布画像を表示することができる。さらに、電波強度計測装置は、所定時間毎に生成された電波強度分布画像を更新しながら表示することができる。
【0004】
特許文献2には、波源に関する情報を提示する技術が記載されている。特許文献2に記載された波源情報提示システムは、波源から三次元空間を伝搬した波を受信する複数の受信素子と、複数の受信素子の受信結果に基づいて、三次元空間における波源の位置および姿勢を推定する推定部と、推定部により推定した波源の位置および姿勢に基づく画像を提示する提示部と、を備える。この波源情報提示システムは、電波センサの表面の銅パッチ間に波源から放射された電波を吸収する抵抗が設けられ、銅パッチにおいて吸収される電波の電力(エネルギー)を消費し、抵抗に生じる電圧を検出することで、入射した電波の電界成分を計算することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/013408号公報
【文献】特開2019-158479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の電波強度計測装置は、電波吸収部において測定された電波強度を可視化できるものの、当該電波の波源に関する情報を提示することができなかった。特許文献2の波源情報提示システムは、電波センサの表面に形成された抵抗を用いて電界成分を計算しているので、奥行き方向の電界成分を検出することができなかった。
【0007】
本発明は、上記の課題に基づいてなされたものであり、奥行き方向の電界成分を検出することができる、電波センサ、および電界成分検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様の電波センサは、基板と、前記基板の表面に、第1の方向および第2の方向にアレイ状に形成された複数の第1の金属面と、前記第1の金属面の間に、前記第1の方向に沿って接続された複数の第1の抵抗体と、前記第1の金属面の間に、前記第2の方向に沿って接続された複数の第2の抵抗体と、前記基板の裏面に形成された第2の金属面と、前記第1の金属面のそれぞれから前記基板の裏面まで形成された複数のビア部と、前記ビア部のそれぞれと前記第2の金属面との間に接続された複数の第3の抵抗体と、を備える。
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様の電界成分検出装置は、基板と、前記基板の表面に、第1の方向および第2の方向にアレイ状に形成された複数の第1の金属面と、前記第1の金属面の間に、前記第1の方向に沿って接続された複数の第1の抵抗体と、前記第1の金属面の間に、前記第2の方向に沿って接続された複数の第2の抵抗体と、前記基板の裏面に形成された第2の金属面と、前記第1の金属面のそれぞれから前記基板の裏面まで形成された複数のビア部と、前記ビア部のそれぞれと前記第2の金属面との間に接続された複数の第3の抵抗体と、を備える、電波センサと、前記第1の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第1の電圧検出部と、前記第2の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第2の電圧検出部と、前記第3の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第3の電圧検出部と、前記第1の電圧検出部により検出された電圧に基づいて前記第1の方向における電界成分を演算し、前記第2の抵抗体に発生した電圧に基づいて前記第2の方向における電界成分を演算し、前記第3の抵抗体に発生した電圧に基づいて前記基板の厚さ方向における電界成分を演算する演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、奥行き方向の電界成分を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の電波検出システム1の構成を示す図である。
図2】実施形態の電波センサ100の一例を示す図であり、(A)は表面を示し、(B)は裏面を示す。
図3】実施形態の電波センサ100の一例を示す断面図である。
図4】実施形態の電波センサ100の等価回路を示す図である。
図5】X方向における電圧値と電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
図6】Y方向における電圧値と電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
図7】Z方向における電圧値と電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
図8】シミュレーションの条件を説明するための図である。
図9】実施形態の電波センサの他の例を示す断面図である。
図10】電波センサ100AにおけるZ方向における電圧値と電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した電波センサ、および電界成分検出装置を、図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、実施形態の電波検出システム1の構成を示す図である。
電波検出システム1は、例えば、ユーザが3次元空間に存在する電波や波源についての情報を取得したい場合に使用される。ユーザが電波や波源についての情報を取得したい場合、ユーザは、電波を検出したい場所に電波センサ100を置き、電波センサ100に3次元空間において伝搬している電波を検出させる。これにより、電波検出システム1は、電波センサ100により検出された電波に対応した画像などを表示させることができる。
【0014】
電波検出システム1は、図1に示すように、例えば、電波センサ100と、RFスイッチ200と、ソフトウェア無線機300と、制御用パソコン400とを備える。電波検出システム1は、電波センサ100により波源(不図示)から放射された波としての電波を受信する。なお、本実施形態において、波源は、各種の電子機器や、アンテナなどであるが、電波を放射するものであればよい。
【0015】
電波センサ100は、電波を検出するセルを複数備える。電波センサ100は、各セルに入射した電波のエネルギーに対応した電圧値が読み取られる。RFスイッチ200は、電波センサ100の裏面に設置される。RFスイッチ200は、例えば、複数の測定回路(不図示)を含む。各測定回路は、複数の銅パッチ(セル)の各々に接続される抵抗の両端に、電気的に接続される。各測定回路は、対応する抵抗に生じる電圧を測定する。電波センサ100の表面等に配置される抵抗は、電波の電力(エネルギー)を消費する。このとき、抵抗に生じる電圧は、入射した電波の電界成分に比例する。そのため、測定回路により、対応する抵抗に生じる電圧の振幅及び位相を計測すれば、対応する銅パッチに入射する電波の電界成分の振幅及び位相を計測することができる。すなわち、各測定回路により、対応する抵抗に対応する銅パッチに入射する電波の電界成分の強度及び位相を測定することができる。なお、銅パッチと測定回路との組み合わせにより、三次元空間を伝搬した波を受信する複数の受信素子(2次元センサアレイ)を実現する。RFスイッチ200は、測定回路が測定した電波(電界成分)の信号が含まれる電圧信号を順次選択して、ソフトウェア無線機300に送信する。
【0016】
ソフトウェア無線機300は、RFスイッチ200から送信された電圧信号を受信する。ソフトウェア無線機300は、電圧信号の情報を制御用パソコン400に送信する。パソコン400は、電波センサ100における抵抗に生じた電圧信号の振幅を計算する。併せて、電波センサ100に設けた基準点の抵抗に生じた電圧信号の位相と、基準点から離れた点の抵抗に生じた電圧信号の位相との差を計算する。さらに、電圧信号の振幅及び位相を校正し、電波センサ100の表面上に入射した電波(電界強度)の振幅及び位相に変換する。
【0017】
制御用パソコン400は、例えば、電圧検出部410と、演算部420と、表示部430を備える。電圧検出部410および演算部420は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の1つ以上のプロセッサが1つ以上のプログラムメモリに格納されたプログラムを実行することにより実現される。電圧検出部410のX方向電圧検出部412(第1の電圧検出部)は、後述のX方向抵抗体に発生した電圧を検出する。電圧検出部410のY方向電圧検出部414(第2の電圧検出部)は、後述のY方向抵抗体に発生した電圧を検出する。電圧検出部410のZ方向電圧検出部416(第3の電圧検出部)は、後述のZ方向抵抗体に発生した電圧を検出する。演算部420は、電波センサ100のX方向に発生した電圧に基づいてX方向における電界成分を演算し、電波センサ100のY方向に発生した電圧に基づいてY方向における電界成分を演算し、電波センサ100のZ方向に発生した電圧に基づいてZ方向(電波センサ100の厚さ方向)における電界成分を演算する。表示部430は、例えば、セルごとに、X方向成分、Y方向成分、およびZ方向成分の電界強度及び位相を示す画像を表示させる。
【0018】
図2は、実施形態の電波センサ100の一例を示す図であり、(A)は表面を示し、(B)は裏面を示す。電波センサ100の表面100aは、電波を受ける面である。図3は、実施形態の電波センサ100の一例を示す断面図である。電波センサ100の表面100aには、図2(A)に示すように、誘電体基板110上に、複数の銅パッチ102(第1の金属面)が形成される。なお、電波センサ100において、基板は誘電体であるが、これに限定されず、他の種類の基板であってもよい。なお、誘電体基板110の大きさは、測定者が容易に持ち運び可能なサイズであることが望ましい。誘電体基板110の形状は、例えば、シート(薄板)状である。
【0019】
複数の銅パッチ102は、電波センサ100の表面100aにおけるX方向(第1の方向)およびY方向(第2の方向)にアレイ状に形成(配置)される。各銅パッチ102は、電波センサ100における各セルに対応する。銅パッチ102の各々は、銅板により形成される方形電極である。なお、銅パッチ102の形状は、方形に限定されることなく、たとえば、三角形、六角形等の他の形状であってもよい。なお、銅パッチ102は、銅パッチに限定されることなく、他の金属パッチであってもよい。
【0020】
銅パッチ102は、他の銅パッチ102との間に、X方向に沿って、X方向抵抗体106が接続される。銅パッチ102は、他の銅パッチ102との間に、Y方向に沿って、Y方向抵抗体108が接続される。X方向抵抗体106およびY方向抵抗体108は、電気抵抗により形成される。なお、複数の銅パッチ102の各々は、波源から照射される電波の波長よりも十分に短い間隔で配置されてよい。銅パッチ102の各々の縦、横の長さ(サイズ)は、波源から放射される電波の波長よりも十分に短くてよい。
【0021】
銅パッチ102の略中央には、ビア104が形成される。ビア104は、誘電体基板110に形成された穴部に形成された金属である。ビア104は、銅パッチ102から誘電体基板110の裏面110bまで形成される。これにより、ビア104は、Z方向抵抗体124を介して、各銅パッチ102と金属板120とを電気的に接続させる。
【0022】
電波センサ100の裏面110bには、図2(B)に示すように、略全面に金属板120が形成される。金属板120は、誘電体基板110の銅パッチ102が形成される面に対向する面(誘電体基板110の裏面)に貼り付けられる。金属板120は、接地端子として機能する。なお、電波センサ100の裏面100bは、銅板に限定されることなく、他の金属の板であってもよい。
【0023】
金属板120には、銅パッチ102に対応した位置(Z方向において銅パッチ102に対向した位置)に、孔部122が形成される。孔部122が形成されることで、ビア104は、電波センサ100の裏面110bから露出されている。ビア104と金属板120との間には、当該ビア104と金属板120とを接続するZ方向抵抗体124(第3の抵抗体)が形成される。Z方向抵抗体124は、後述するように、電波センサ100における電波(電界)のZ方向成分を検出するための抵抗という意味で、「Z方向抵抗体124」と記載した。Z方向抵抗体124は、例えば、X方向に沿って形成されるが、これに限定されず、Y方向に沿って形成されてよい。
【0024】
図3に示すように、X方向抵抗体106に並列して、銅パッチ102の間には、コンデンサ112が接続される。コンデンサ112の容量は、電波センサ100における共振周波数を調整する場合に調整される。
【0025】
なお、実施形態において、誘電体基板110の厚さは約3.2ミリメートル、銅パッチ102のX方向およびY方向の長さは10ミリメートル、X方向抵抗体106およびY方向抵抗体108の抵抗値は470オーム、Z方向抵抗体124の抵抗値は50オーム、コンデンサの容量は1.2ピコファラドである。なお、X方向抵抗体106およびY方向抵抗体108の抵抗値は電波センサ100により検出するX方向およびY方向における電波のエネルギーを効率よく吸収することに基づく値である。Z方向抵抗体124の抵抗値は、誘電体基板110の厚さ方向における電波のエネルギーを効率よく吸収することに基づく値である。
【0026】
図4は、電波センサ100に平面波電波が垂直に入射する場合の、実施形態の電波センサ100の等価回路を示す図である。電波センサ100に電波が垂直に入射した場合、銅パッチ102間には電荷が生ずる。これにより、銅パッチ102同士がコンデンサCsとして機能し、ビア104に挟まれた誘電体基板110がインダクタLsとして機能する。これにより、電波センサ100は、等価的にR(X方向抵抗体106およびY方向抵抗体108)・Ls・Cs並列回路として機能する。すなわち、電波センサ100は、電波センサ100の表面100aに入射した電波に対して、RLC並列回路としての表面インピーダンスを持つシートとして機能する。すなわち、電波センサ100は、周波数により入射電波の反射位相を変えたり、特定の周波数帯の表面波伝搬を遮断(バンドギャップ)したりする性質を持つ。
【0027】
例えば、電波センサ100に垂直に入射する平面波電波のインピーダンスZが377オームである場合、CsおよびLsの共振周波数において、CsおよびLsのインピーダンスは無限大になり、電波センサ100の等価回路は、R(X方向抵抗体106およびY方向抵抗体108に、基板の電気的損失を並列に合成した抵抗)のみと見なされる。Rが377Ωである場合、電波の電界のX方向成分のエネルギーがX方向抵抗体106に吸収され、電波の電界のY方向成分のエネルギーがY方向抵抗体108に吸収される。また、電波センサ100に斜めに入射する平面波電波に対しては、電波の電界のZ方向成分のエネルギーはZ方向抵抗体124によって吸収される。電波検出システム1は、電波センサ100の共振周波数の電波が吸収された場合のX方向抵抗体106の電圧値を計測し、計測した電圧値をX方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離で除算することで、電波のX方向の電界成分を演算することができる。電波検出システム1は、電波センサ100の共振周波数の電波が吸収された場合のY方向抵抗体108の電圧値を計測し、計測した電圧値をY方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離で除算することで、電波のY方向の電界成分を演算することができる。電波検出システム1は、電波センサ100の共振周波数の電波が吸収された場合のZ方向抵抗体124の電圧値を計測し、計測した電圧値をZ方向におけるビア104の長さ(表面100aから裏面110bまでの長さ)で除算することで、電波のZ方向の電界成分を演算することができる。
【0028】
図5は、X方向における電圧値と平面波電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図であり、図6は、Y方向における電圧値と平面波電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図であり、図7は、Z方向における電圧値と平面波電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図である。図8は、シミュレーションの条件を説明するための図である。
【0029】
X方向の電界は、X方向抵抗体106に発生した電圧値をX方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離で除算することによって演算することができる。Y方向の電界は、Y方向抵抗体108に発生した電圧値をY方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離で除算することによって演算することができる。Z方向の電界は、Z方向抵抗体124に発生した電圧値をZ方向におけるビア104の長さ(表面100aから裏面110bまでの長さ)で除算することによって演算することができる。
【0030】
電波センサ100の表面100aに対する電界の入射角度(θ)を変化させた場合の、電界のX方向成分、Y方向成分、およびZ方向成分をシミュレーションした。このとき、TMモードの電波を電波センサ100の表面100aに垂直に入射した場合、電波の電界方向(E)はX方向に存在し、電波の磁界方向(H)はY方向に存在する。ここで、電界の入射方向(k)を、XZ平面上で-Z方向から+X方向に角度θで傾けた。
【0031】
シミュレーションにおいて、入射電波は1ボルト/メートルの電界を持つ平面波とした。1.82メガヘルツにおいてX方向抵抗体106に発生した電圧と、ビア104間の電界の強さから求まる理論的な電圧値(理論値)とを比較した。X方向における理論値とは、計測点に対応した場所のX方向電界にX方向におけるビア104間の長さ(X方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離)を乗算した値であり、Y方向における理論値とは、計測点に対応した場所のY方向電界にY方向におけるビア104間の長さ(Y方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離)を乗算した値であり、Z方向における理論値とは、計測点に対応した場所のZ方向電界に表面100aから裏面100bまでのビア104の長さ(表面100aから裏面110bまでの長さ)を乗算した値である。また、X方向とY方向における境界条件は無限周期境界条件となっている。
【0032】
図5に示したX方向におけるシミュレーション結果を参照すると、80度の入射角度を除いて、X方向抵抗体106に発生した電圧値と理論値が約2dB以内の誤差で収まっていることが分かる。図6に示したY方向におけるシミュレーション結果を参照すると、TMモードにおいてはY方向に電界が存在していないため理論的にはゼロになるはずである。よって、Y方向抵抗体108に発生した電圧値は十分小さくなっているとみなされる。このシミュレーション結果におけるX方向の誤差は、入射角度が大きくなると、電波センサ100の表面100aにおける電波の反射が大きくなり、電波センサ100の表面100aにおける入射電界のベクトルが変化するためであると考えられる。
【0033】
図7に示したZ方向におけるシミュレーション結果を参照すると、入射角度が10~40度における電圧値は理論値と2dB以内の誤差であるが、入射角度が50度から大きくなるほど、電圧値は理論値からの誤差が大きくなり、入射角度が80度である場合、電圧値と理論値との誤差は10dBであった。このシミュレーション結果は、入射角度が大きくなると、電波センサ100の表面100aにおける電波の反射が大きくなり、電波センサ100の表面100aにおける入射電界のベクトルが変化するためであると考えられる。さらに、Z方向抵抗体124がX方向に実装されているため、本来Z方向の電界成分のみを検出するはずのZ方向抵抗体124が、X方向の電界成分も検出しているためであると考えられる。
【0034】
演算部420は、Z方向抵抗体124に発生した電圧に基づいて誘電体基板110のZ方向(厚さ方向)における電界成分から、ビア104のX方向成分における長さに基づく電界のX方向成分の影響、およびビア104のY方向における長さに基づくY方向における電界のY方向成分の影響を除去する補正を行ってよい。X方向の電界成分およびY方向の電界成分の影響は、Z方向における電界成分のうち、X方向の電界成分およびY方向の電界成分(誤差、補正値)の一部または全部である。これにより、補正後のZ方向における電界成分からは、X方向の電界成分およびY方向の電界成分の影響を除去することができる。
【0035】
演算部420は、誘電体基板110に対する電波の入射角度に基づくZ方向における理論的な電圧値に近づくように、Z方向抵抗体124に発生した電圧値を補正してよい。これにより、電波検出システム1は、例えば、Z方向抵抗体124の両端を計測して演算した電圧値を、図7に示したような理論値に近づけることができる。また、演算部420は、誘電体基板110に対する電波の入射角度が所定角度(例えば40度)よりも大きい場合に、誘電体基板110に対する電波の入射角度が所定角度よりも大きくなるほど、Z方向抵抗体124に発生した電圧値の補正幅を大きくしてよい。これにより、電波検出システム1は、図7に示したように、例えば40度よりも入射角度が大きくなるほどZ方向における電界成分に対する補正幅を大きくすることで、高精度にZ方向における電界成分の補正を行うことができる。
【0036】
図9は、実施形態の電波センサの他の例を示す断面図である。電波センサ100Aにおいて、Z方向抵抗体124Aの一端が、銅パッチ102と接続されたビア104Aと接続され、Z方向抵抗体124Aの他端が、金属板120Aに接続される。なお、電波センサ100Aにおいて、Z方向抵抗体124Aは、ビア104Aと直列に接続される、と言い換えることができる。また、電波センサ100Aにおいては、Z方向に並行して配置されると言い換えることができる。
【0037】
電波センサ100Aにおいて、金属板120Aは、電波センサ100の裏面110bの全面に亘って形成され、上述した電波センサ100のように孔部122は形成されない。ビア104Aの一端は、銅パッチ102に接続されるが、ビア104Aの他端は、金属板120Aに接続されずに、Z方向抵抗体124Aに接続される。Z方向抵抗体124Aは、ビア104Aが形成された方向(Z方向)に沿って、ビア104Aと金属板120Aとの間に接続される。Z方向抵抗体124AのZ方向両端には、図示しない電圧測定のための配線が接続される。なお、電圧測定のための配線は、既知の手法やあらゆる手法を用いて配置されればいいので、本実施形態ではその手法についての説明を省略する。
【0038】
電波センサ100Aにおいても、例えば、電波センサ100Aの共振周波数を持つ垂直入射平面波電波のインピーダンスZ0が377オームである場合、CsおよびLsのインピーダンスは無限大になり、電波センサ100Aの等価回路は、R(X方向抵抗体106およびY方向抵抗体108に、基板の電気的損失を並列に合成した抵抗)のみと見なされる。これにより、電界のX方向成分のエネルギーがX方向抵抗体106に吸収され、電波のY方向成分のエネルギーがY方向抵抗体108に吸収される。また、電界のZ方向成分のエネルギーはZ方向抵抗体124Aによって吸収される。電波検出システム1は、電波センサ100Aの共振周波数の電波が吸収された場合のX方向抵抗体106の電圧値を計測し、計測した電圧値をX方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離で除算することで、電波のX方向の電界成分を演算することができる。電波検出システム1は、電波センサ100Aの共振周波数の電波が吸収された場合のY方向抵抗体108の電圧値を計測し、計測した電圧値をY方向に隣り合う金属パッチの中心間の距離で除算することで、電波のY方向の電界成分を演算することができる。電波検出システム1は、電波センサ100Aの共振周波数の電波が吸収された場合のZ方向抵抗体124Aの電圧値を計測し、計測した電圧値を裏面100bまでのビア104の長さ(表面100aから裏面110bまでの長さ)で除算することで、電波のZ方向の電界成分を演算することができる。
【0039】
図10は、電波センサ100AにおけるZ方向における電圧値と電波の入射角度との関係をシミュレーションした結果を示す図である。電波センサ100Aの表面100aに対する電界の入射角度(θ)を変化させた場合の、電界のZ方向成分をシミュレーションした。なお、シミュレーションの条件は、電波センサ100におけるシミュレーションと同じである。
【0040】
図10に示したZ方向におけるシミュレーション結果を参照すると、10度から80度において、Z方向抵抗体124Aに発生した電圧値と理論値との誤差が小さく収まっていることが分かる。また、図10に示したシミュレーション結果と、図7に示したシミュレーション結果とを比較すると、図10に示したシミュレーション結果の方が明らかに理論値との誤差が小さいことが分かる。以上より、電波検出システム1は、Z方向に並行したZ方向抵抗体124Aを備えることで、高い精度でZ方向における電界成分を求めることができる。
【0041】
以上に説明した実施形態によれば、基板(110)と、基板の表面(100a)に、第1の方向(X方向)および第2の方向(Y方向)にアレイ状に形成された複数の第1の金属面(102)と、第1の金属面の間に、第1の方向に沿って接続された複数の第1の抵抗体(106)と、第1の金属面の間に、第2の方向に沿って接続された複数の第2の抵抗体(108)と、基板の裏面に形成された第2の金属面(120)と、第1の金属面のそれぞれから基板の裏面まで形成された複数のビア部(104)と、ビア部のそれぞれと第2の金属面との間に接続された複数の第3の抵抗体(124)と、を備える、電波センサ(100)を実現することができる。この実施形態によれば、電波センサの奥行き方向の電界成分を検出することができる。
【0042】
実施形態によれば、第1の抵抗体および第2の抵抗体の抵抗値が、電波センサにより検出する電波のエネルギーに基づく値であり、第3の抵抗体の抵抗値は、第1の抵抗体および第2の抵抗体の抵抗値より小さく設定されている。これにより、実施形態によれば、第1の抵抗体および第2の抵抗体の抵抗値に基板損失を考慮した抵抗値を、第1の方向および第2の方向における電波のインピーダンスと整合させる方向に近づけるように設計し、第3の抵抗体に基板損失を考慮した抵抗値を、奥行き方向における電波のインピーダンスと整合させる方向に近づけるように設計することができる。この結果、第1の抵抗体および第2の抵抗体によって、検出対象の電波に対応する第1の方向および第2の方向におけるエネルギー吸収の効率を高くすることができ、第3の抵抗体によって、検出対象の電波に対応する第3の方向におけるエネルギー吸収の効率を高くすることができる。
【0043】
実施形態によれば、第3の抵抗体のそれぞれを、基板の平面方向に沿って形成したので、基板の裏面に沿って第3の抵抗体を取り付ける簡単な製造工程だけで奥行き方向の電界成分を計測することができる。
【0044】
実施形態によれば、前記第3の抵抗体は前記ビア部と並行して設けられ、第3の抵抗体の一端のそれぞれは第1の金属面と接続されたビア部と接続され、第3の抵抗体の他端のそれぞれは第2の金属面に接続される。これにより、高い精度で奥行き方向の電界成分を検出することができる。
【0045】
実施形態によれば、基板と、基板の表面に、第1の方向および第2の方向にアレイ状に形成された複数の第1の金属面と、第1の金属面の間に、第1の方向に沿って接続された複数の第1の抵抗体と、第1の金属面の間に、第2の方向に沿って接続された複数の第2の抵抗体と、基板の裏面に形成された第2の金属面と、第1の金属面のそれぞれから基板の裏面まで形成された複数のビア部と、ビア部のそれぞれと第2の金属面との間に接続された複数の第3の抵抗体と、を備える、電波センサと、第1の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第1の電圧検出部と、第2の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第2の電圧検出部と、第3の抵抗体のそれぞれに発生した電圧を検出する第3の電圧検出部と、第1の電圧検出部により検出された電圧に基づいて前記第1の方向における電界成分を演算し、前記第2の抵抗体に発生した電圧に基づいて前記第2の方向における電界成分を演算し、前記第3の抵抗体に発生した電圧に基づいて前記基板の厚さ方向における電界成分を演算する演算部と、を備える、電波の電界成分検出装置、を実現することができる。
【0046】
実施形態によれば、演算部により、第3の抵抗体に発生した電圧に基づいて基板の厚さ方向における電界成分から、ビア部の第1の方向における長さに基づく第1の方向における電界成分、およびビア部の第2の方向における長さに基づく2の方向における電界成分を除去する補正を行うことができる。これにより、高い精度で奥行き方向の電界成分を計測することができる。
【0047】
実施形態によれば、演算部により、基板に対する電波の入射角度に基づく基板の厚さ方向における理論的な電圧値に近づくように、第3の抵抗体に発生した電圧値を補正するので、高い精度で奥行き方向の電界成分を計測することができる。
【0048】
実施形態によれば、演算部により、基板に対する電波の入射角度が所定角度よりも大きい場合に、基板に対する電波の入射角度が所定角度よりも大きくなるほど、第3の抵抗体に発生した電圧値の補正幅を大きくするので、高い精度で奥行き方向の電界成分を計測することができる。
【0049】
以上、この発明の一態様として各実施形態や変形例に関して図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は各実施形態や変形例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、本発明の一態様は、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記各実施形態や変形例に記載された要素であり、同様の効果を奏する要素同士を置換した構成も含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 電波検出システム
100、100A 電波センサ
102 銅パッチ
104、104A ビア
106 X方向抵抗体
108 Y方向抵抗体
110 誘電体基板
110b 裏面
112 コンデンサ
120、120A 金属板
122 孔部
124、124A Z方向抵抗体
200 RFスイッチ
300 ソフトウェア無線機
400 制御用パソコン
410 電圧検出部
412 X方向電圧検出部
414 Y方向電圧検出部
416 Z方向電圧検出部
420 演算部
430 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10