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特許7410571化合物、発光材料、遅延蛍光体、有機発光素子、酸素センサー、分子の設計方法およびプログラム
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  • 特許-化合物、発光材料、遅延蛍光体、有機発光素子、酸素センサー、分子の設計方法およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】化合物、発光材料、遅延蛍光体、有機発光素子、酸素センサー、分子の設計方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/10 20060101AFI20231227BHJP
   C07D 417/10 20060101ALI20231227BHJP
   C07D 413/10 20060101ALI20231227BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231227BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231227BHJP
【FI】
C07D401/10
C07D417/10
C07D413/10
H05B33/10
H05B33/14 B
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020549281
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037565
(87)【国際公開番号】W WO2020067143
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018179327
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年(令和元年)8月30日 https://doi.org/10.26434/chemrxiv.9745289.v1にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】梶 弘典
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓幹
(72)【発明者】
【氏名】中川 博道
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0159050(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0137084(US,A1)
【文献】特開2016-036025(JP,A)
【文献】国際公開第2016/201052(WO,A1)
【文献】NODA,Hiroe,Excited state engineering for efficient reverse intersystem crossing,SCIENCE ADVANCES,2018年06月22日,Vol.4,eaao6910
【文献】WADA,Yoshimasa,Molecular design realizing very fast reverse intersystem crossing in purely organic emitter,CHEMRXIV.PREPRINT.,2019年08月30日,MAINTEXT(pp.1-21),SI(pp.1-17),doi.org/10.26434/chemrxiv.9745278.v1
【文献】KAWASUMI,Katsuaki,Thermally activated delayed fluorescence materials based on homoconjugation effect of donor-acceptor,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2015年,137,pp.11908-11911
【文献】Bulletin of the Chemical Society of Japan,1972年,45(12),3646-3651
【文献】Tetrahedron,1992年,48(5),861-884
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 401/10
C07D 417/10
C07D 413/10
H05B 33/10
H10K 50/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、化合物単独でいずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にあり、
ビシクロ環骨格またはトリシクロ環骨格を含む環骨格にドナー性基とアクセプター性基が結合した構造を有し、下記(A)~(C)の少なくとも1つを満たす化合物。
(A)前記ドナー性基が下記一般式(5)で表される基であって、R 13 とR 18 が各々独立に炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基または炭素数6~40のアリール基であり、前記アクセプター性基が下記一般式(11)で表される基である。
(B)前記ドナー性基が下記一般式(5)で表される基であって、R 15 とR 16 が互いに結合して-O-、-S-、-N(R 91 )-、-O-C(R 92 )(R 93 )-、-S-C(R 92 )(R 93 )-または-N(R 91 )-C(R 92 )(R 93 )-で表される連結基(R 91 ~R 93 は各々独立に水素原子または置換基を表す)を形成しており、前記アクセプター性基が下記一般式(11)で表される基である。
(C)前記ドナー性基が下記一般式(5)で表される基であり、前記アクセプター性基が下記一般式(11)で表される基であって、A 、A およびA の少なくとも1つがNであり、A およびA が各々独立にC(R 19 )であり、R 19 は炭素数1~20のアルキル基である。
【化1】
[一般式(5)において、R 11 ~R 20 は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R 11 とR 12 、R 14 とR 15 、R 15 とR 16 、R 16 とR 17 、R 19 とR 20 は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。*は結合位置を表す。]
【化2】
[一般式(11)において、A ~A は各々独立にNまたはC(R 19 )を表し、R 19 は水素原子または置換基を表す。A ~A の少なくとも1つはNである。]
【請求項2】
前記ドナー性基を構成していて前記環骨格に結合している原子と、前記アクセプター性基を構成していて前記環骨格に結合している原子との間の距離が構造上固定されている、請求項に記載の化合物。
【請求項3】
前記ドナー性基を構成していて前記環骨格に結合している原子と、前記アクセプター性基を構成していて前記環骨格に結合している原子との間の距離が2.4~5.5オングストロームの範囲内である、請求項またはに記載の化合物。
【請求項4】
前記ドナー性基が前記環骨格に結合する結合方向と、前記アクセプター性基が前記環骨格に結合する結合方向とがなすチルト角が5°~15°である、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
炭素原子、水素原子および窒素原子のみから構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
下記一般式(3)または(4)
【化3】
[一般式(3)および(4)において、R ~R は各々独立に水素原子または置換基を表し、R およびR は各々独立に水素原子またはアルキル基を表す。Lは-N(R 81 )-、-C(R 82 )(R 83 )-または-Si(R 84 )(R 85 )-を表し、R 82 およびR 84 は各々独立に水素原子または置換基を表し、R 81 、R 83 およびR 85 はZ またはZ と結合して環状構造を形成する。Z およびZ は各々独立に置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基を表す。Dは置換もしくは無置換のジアリールアミノ構造を含むドナー性基を表し、Aは下記一般式(11)で表されるアクセプター性基であるか、下記一般式(11)で表される部分構造を有するアクセプター性基を表す。
【化4】
一般式(11)において、A ~A は各々独立にNまたはC(R 19 )を表し、R 19 は水素原子または置換基を表す。A ~A の少なくとも1つはNである。]
で表される、化合物。
【請求項7】
前記一般式()におけるDとAがともに芳香環で一般式()の環骨格に結合し、前記一般式(4)におけるDとAがともに芳香環で一般式(4)の環骨格に結合する、請求項に記載の化合物。
【請求項8】
前記一般式(4)で表される化合物である、請求項6または7に記載の化合物。
【請求項9】
前記一般式(3)のZ および前記一般式(4)のZ 、1,2-フェニレン構造を含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
励起一重項と三重項との間の逆項間交差速度定数kRISCが1×10-1以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
励起一重項と三重項との間の逆項間交差速度定数kRISCが1×10-1以上である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む発光材料。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む遅延蛍光体。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む有機発光素子。
【請求項15】
有機エレクトロルミネッセンス素子である請求項14に記載の有機発光素子。
【請求項16】
前記化合物を発光層に含む請求項14または15に記載の有機発光素子。
【請求項17】
前記発光層がホスト材料を含む請求項16に記載の有機発光素子。
【請求項18】
前記ホスト材料と前記化合物とを含む前記発光層は、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、いずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある、請求項17に記載の有機発光素子。
【請求項19】
請求項1~11のいずれか1項に記載の化合物を含む酸素センサー。
【請求項20】
請求項1に記載の化合物を発光材料として使用する方法。
【請求項21】
請求項1に記載の化合物を含み、なおかつ、溶媒もホスト材料も含まない組成物を発光材料として使用する方法。
【請求項22】
ドナー性基とアクセプター性基を有する分子の設計方法であって、
前記分子は、ビシクロ環骨格またはトリシクロ環骨格を含む環骨格にドナー性基とアクセプター性基が結合した構造を有し、下記(A)~(C)の少なくとも1つを満たす化合物の分子であり、
(A)前記ドナー性基が下記一般式(5)で表される基であって、R 13 とR 18 が各々独立に炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基または炭素数6~40のアリール基であり、前記アクセプター性基が下記一般式(11)で表される基である。
(B)前記ドナー性基が下記一般式(5)で表される基であって、R 15 とR 16 が互いに結合して-O-、-S-、-N(R 91 )-、-O-C(R 92 )(R 93 )-、-S-C(R 92 )(R 93 )-または-N(R 91 )-C(R 92 )(R 93 )-で表される連結基(R 91 ~R 93 は各々独立に水素原子または置換基を表す)を形成しており、前記アクセプター性基が下記一般式(11)で表される基である。
(C)前記ドナー性基が下記一般式(5)で表される基であり、前記アクセプター性基が下記一般式(11)で表される基であって、A 、A およびA の少なくとも1つがNであり、A およびA が各々独立にC(R 19 )であり、R 19 は炭素数1~20のアルキル基である。
【化5】
[一般式(5)において、R 11 ~R 20 は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R 11 とR 12 、R 14 とR 15 、R 15 とR 16 、R 16 とR 17 、R 19 とR 20 は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。*は結合位置を表す。]
【化6】
[一般式(11)において、A ~A は各々独立にNまたはC(R 19 )を表し、R 19 は水素原子または置換基を表す。A ~A の少なくとも1つはNである。]
局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、いずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内になるように、前記ドナー性基を構成していて前記環骨格に結合している原子前記アクセプター性基を構成していて前記環骨格に結合している原子との間の距離を決定する、分子の設計方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法を実施して分子を設計するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料として有用な化合物とそれを用いた有機発光素子に関する。また本発明は、その化合物を用いた酸素センサーにも関する。さらに本発明は、分子の設計方法およびプログラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、正孔輸送材料、発光材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、ドナー性基とアクセプター性基を有する化合物(D-A型化合物)を発光材料に利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられる。
例えば、非特許文献1には、下記式で表される化合物を発光材料に用いた有機EL素子が報告されている。下記式において、ジフェニルトリアジニル基はアクセプター性基に相当し、Rで表される基はドナー性基に相当するものである。そして、同文献には、Rがフェノチアジニル基である化合物を用いた場合に、10%の外部量子効率を実現したことが示されている。
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J.Am.Chem.Soc.2017,139,4894-4900
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、非特許文献1には、9,9-ジメチルキサンテンの4位および5位(各ベンゼン環のオキシ基に対するオルト位)が、それぞれ、ドナー性基、アクセプター性基で置換された構造を有する化合物を、有機EL素子の発光材料に用いたことが記載されている。しかし、これらの化合物を用いることで達成される外部量子効率は、たかだか10%であり、十分に満足のいくものとは言えない。また、上記の化合物を含めて、これまでに発光材料として提案されている化合物は、高電流密度領域で発光効率が低下するものが多く、実用的な有機EL素子を実現するためには、さらなる特性の改善が求められる。
これに対して、本発明者らが、一の環(中央の環)の両側にベンゼン環が縮合した構造を有する縮合多環構造をコア骨格とするA-D型の化合物群について、コア骨格の構造やコア骨格におけるドナー性基およびアクセプター性基の置換位置を様々に変えて化合物を合成し、その特性を評価する検討を行ったところ、コア骨格の中央の環に、置換もしくは無置換のメチレン基を有し、且つ、その両側のベンゼン環のメチレン基に対するオルト位にドナー性基、アクセプター性基が置換した構造を有する化合物群が、高い発光効率を示し、発光材料としての有用性があることを初めて見出し、さらに検討を進めることにした。上記のように、9,9-ジメチルキサンテンをコア骨格とするD-A型化合物については、非特許文献1において発光材料に用いたことが記載されている。しかしながら、非特許文献1に記載された化合物は、いずれも、9,9-ジメチルキサンテンの4位および5位(各ベンゼン環のオキシ基に対するオルト位)にドナー性基、アクセプター性基を有しており、同文献には、その他の位置にドナー性基、アクセプター性基を導入した化合物は一切記載されていない。このため、同文献からは、コア骨格の中央の環に置換もしくは無置換のメチレン基を有し、且つ、その両側のベンゼン環のメチレン基に対するオルト位にドナー性基、アクセプター性基が置換した構造を有する化合物が、高い発光効率を示すことは予測がつかない。
【0006】
このような状況下において本発明者らは、コア骨格の中央の環に置換もしくは無置換のメチレン基を有し、且つ、その両側のベンゼン環のメチレン基に対するオルト位にドナー性基、アクセプター性基が置換した構造を有する化合物の発光材料としての有用性についてさらに検討を進め、発光特性が優れた化合物を見出すことを目指して研究を重ねた。そして、発光材料として有用な化合物の一般式を導きだし、発光効率が高い有機発光素子の構成を一般化することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、特定の関係を満たす化合物が発光材料として優れた性質を有することを見出した。また、そのような化合物群の中に、遅延蛍光材料として有用なものがあることを見出し、発光効率が高い有機発光素子を安価に提供しうることを明らかにした。本発明は、これらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、化合物単独でいずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある化合物。
[2] 励起一重項と三重項との間の逆項間交差速度定数kRISCが1×10-1以上である、[1]に記載の化合物。
[3] 励起一重項と三重項との間の逆項間交差速度定数kRISCが1×10-1以上である、[1]に記載の化合物。
[4] 環骨格にドナー性基とアクセプター性基がそれぞれ結合した構造を有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物。
[5] 前記ドナー性基を構成していて前記環骨格に結合している原子と、前記アクセプター性基を構成していて前記環骨格に結合している原子との間の距離が構造上固定されている、[4]に記載の化合物。
[6] 炭素原子、水素原子および窒素原子のみから構成される、[1]~[5]のいずれか1つに記載の化合物。
[7] 下記一般式(1)
【化2】
[一般式(1)において、R~Rは各々独立に水素原子または置換基を表す。RおよびRは各々独立に水素原子またはアルキル基を表すか、RとRが互いに結合して環状構造を形成する。Lは単結合または連結基を表すか、RとLが互いに結合して環状構造を形成するか、RとLが互いに結合して環状構造を形成する。Dはドナー性基を表し、Aはアクセプター性基を表す。]
で表される、化合物。
[8] 前記一般式(1)におけるDとAがともに芳香環を有する、[7]に記載の化合物。
[9] 前記一般式(1)におけるDとAがともに芳香環で一般式(1)の環骨格に結合する、[8]に記載の化合物。
[10] 前記一般式(1)におけるRがLと結合して環状構造を形成している、[7]~[9]のいずれか1つに記載の化合物。
[11] 前記一般式(1)におけるLが、単結合、-O-、-S-、-N(R81)-、-C(R82)(R83)-または-Si(R84)(R85)-であり、前記R81~R85は各々独立に水素原子または置換基を表すか、RまたはRと結合して環状構造を形成している、[7]~[10]のいずれか1つに記載の化合物。
[12] 前記一般式(1)におけるLが、-N(R81)-、-C(R82)(R83)-または-Si(R84)(R85)-であって、前記R81~R85のいずれかがRまたはRと結合して形成する環状構造が、連結鎖長が1~3原子の連結基を含む、[11]に記載の化合物。
[13] R81~R85がRまたはRと結合して形成する環状構造が、1,2-フェニレン構造を含む、[12]に記載の化合物。
[14] [1]~[13]のいずれか1つに記載の化合物を含む発光材料。
[15] [1]~[13]のいずれか1つに記載の化合物を含む遅延蛍光体。
[16] [1]~[13]のいずれか1つに記載の化合物を含む有機発光素子。
[17] 有機エレクトロルミネッセンス素子である[16]に記載の有機発光素子。
[18] 前記化合物を発光層に含む[16]または[17]に記載の有機発光素子。
[19] 前記発光層がホスト材料を含む[18]に記載の有機発光素子。
[20] 前記ホスト材料と前記化合物とを含む前記発光層は、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、いずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある、[19]に記載の有機発光素子。
[21] [1]~[13]のいずれか1つに記載の化合物を含む酸素センサー。
[22] 局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、いずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある化合物の発光材料としての使用。
[23] 局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、いずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある化合物を含み、なおかつ、溶媒もホスト材料も含まない組成物の発光材料としての使用。
[24] ドナー性基とアクセプター性基を有する分子の設計方法であって、
局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、いずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内になるように、前記ドナー性基と前記アクセプター性基の間の距離を決定して、その距離が変動しないように前記ドナー性基と前記アクセプター性基を構造上固定する、分子の設計方法。
[25] [24]に記載の方法を実施して分子を設計するプログラム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物は、優れた発光特性を有し、発光材料として有用である。また、本発明の化合物の中には遅延蛍光を放射するものが含まれている。本発明の化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、高い発光効率を実現しうる。また、本発明の化合物を酸素センサーとして用いることにより、高い感度で酸素を検出することができる。さらに、本発明の分子の設計方法やプログラムを用いれば、上記の特徴を有する分子を容易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】化合物1のHOMOとLUMOの分布を示す概略図である。
図2】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図3】化合物1のトルエン溶液の紫外可視吸収スペクトルである。
図4】化合物1のトルエン溶液の発光スペクトルである。
図5】化合物1からなる薄膜の発光の過渡減衰曲線である。
図6】化合物1を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の電流密度-電圧-輝度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0012】
[エネルギー準位で規定した本発明の化合物と分子設計方法]
本発明の化合物は、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、化合物単独でいずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある化合物である。
本発明の化合物は、化合物が単独で存在しているときに、上記の3つのエネルギー準位が0.3eV以内にあることを特徴とするものである。電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)は、化合物が溶媒に溶解している溶液状態にあるときは、その溶媒により比較的大きく変動する。また、ホスト材料と混合した状態で存在しているときは、そのホスト材料により比較的大きく変動する。本発明の化合物は、そのような溶媒やホスト材料といった他の材料が存在しない状態で局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある。
【0013】
溶媒やホスト材料といった他の材料が存在しない状態で0.3eVのエネルギー幅の範囲内に3つのエネルギー準位がおさまる化合物は、化合物内に存在するドナー性基とアクセプター性基の構造上の位置関係を制御することにより提供することができる。そのような構造上の位置関係は、本発明の分子設計方法により提供することができ、また、その方法により具体的な構造を有する化合物を設計することができる。
本発明の分子設計方法は、ドナー性基とアクセプター性基を有する分子の設計方法であって、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、いずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内になるように、前記ドナー性基と前記アクセプター性基の間の距離を決定して、その距離が変動しないように前記ドナー性基と前記アクセプター性基を構造上固定するものである。局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)は、いずれも計算により求めることができる。計算は、DFT(Density Functional Theory)による最適化構造を採用し、LC-ωPBE法により行うことができる(Sun, H.; Zhong, C.; Bredas, J. L. J. Chem. Theory. Comput. 2015, 11, 3851)。
本発明の分子設計方法を実施する際には、エネルギー準位として実測値を用いることもできる。後述するように、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)は、それぞれ蛍光スペクトルと燐光スペクトルを測定することにより得られる。また、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)は、温度を変えて過渡減衰スペクトルを測定することにより励起一重項と三重項との間の項間交差の活性化エネルギーと逆項間交差の活性化エネルギーを求め、E(1CT)とE(3CT)を考慮して計算することにより得られる。実際に存在する化合物のエネルギー準位の実測値とその化合物の計算されたエネルギー準位に差がある場合は、その差に基づいて他の分子構造の計算値を補正することにより、設計する分子のエネルギー準位の計算精度を上げることができる。本発明の分子設計方法の計算や補正は、あらかじめプログラムにしておいて、そのプログラムを実行することにより行ってもよい。また、そのプログラムは記録媒体中に格納して保管・使用したり、コンピューターにより作動したりさせてもよい。また、人工知能と組み合わせて使用したり、深層学習機能を利用して設計精度を向上したりしてもよい。
【0014】
局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、化合物単独でいずれも0.3eVのエネルギー幅の範囲内にある本発明の化合物として、後述する実施例の化合物や、一般式(1)で表される化合物を例示することができる。
本発明の化合物は、ドナー性基とアクセプター性基が構造上固定されているものであることが好ましい。ドナー性基とアクセプター性基の間の距離が大きくなれば、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)も大きくなる傾向がある。一方、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)は、ドナー性基とアクセプター性基の間の距離による影響をほとんど受けない。したがって、ドナー性基とアクセプター性基が適切な距離で存在していて、なおかつ、その距離を維持していることが望ましい。このため、本発明の化合物は、ドナー性基とアクセプター性基が適切な位置に構造上固定されていることが好ましい。
構造上固定された状態にするために、ドナー性基とアクセプター性基は、構造変化しない骨格構造上に結合させるか、あるいは、構造変化しない骨格構造中に組み込むことが好ましい。ここでいう骨格構造は、構造変化しない環構造であることが好ましい。また、ここでいう「構造変化しない」とは、共有結合を切断しない限り骨格構成原子の位置(他の骨格構成原子に対する相対的な位置)を変えることができないことを意味する。例えば、構造変化しないビシクロ環骨格、トリシクロ環骨格、かご状骨格を挙げることができる。また、骨格構造中にドナー性基とアクセプター性基が組み込まれている構造として、部分骨格構造1(S1)、ドナー性基(D)、部分骨格構造2(S2)、アクプター性基(A)が下記のように環状に連結して、ドナー性基とアクセプター性基の分子内における位置関係が固定されている構造を例示することができる。
【化3】
【0015】
なお、本発明の化合物のドナー性基とアクセプター性基の説明と具体例については、後述の一般式(1)の説明におけるドナー性基とアクセプター性基の説明と具体例を参照することができる。
本発明の化合物のドナー性基とアセクプター性基は、それぞれ芳香環(アリール環とヘテロアリール環の両方を含む)を有するものであることが好ましい。
【0016】
本発明の化合物は、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と、電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)と、電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)が、化合物単独でいずれも0.200eVのエネルギー幅の範囲内にあることが好ましく、0.150eVのエネルギー幅の範囲内にあることがより好ましく、0.100eVのエネルギー幅の範囲内にあることがさらに好ましく、0.075eVのエネルギー幅の範囲内にあることがさらにより好ましく、0.050eVのエネルギー幅の範囲内にあることが特に好ましい。
本発明の化合物は、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と電荷移動型最低励起三重項エネルギー準位E(3CT)の差は0.200eV以内であることが好ましく、0.150eV以内であることがより好ましく、0.100eV以内であることがさらに好ましく、0.075eV以内であることがさらにより好ましく、0.050eV以内であることが特に好ましい。
本発明の化合物は、局所的励起三重項エネルギー準位E(3LE)と電荷移動型最低励起一重項エネルギー準位E(1CT)の差は0.200eV以内であることが好ましく、0.100eV以内であることがより好ましく、0.050eV以内であることがさらに好ましく、0.025eV以内であることがさらにより好ましく、0.010eV以内であることが特に好ましい。
【0017】

本発明の化合物は、励起一重項と三重項との間の逆項間交差速度定数kRISCが1×10-1以上であることが好ましく、3×10-1以上であることがより好ましく、6×10-1以上であることがさらに好ましく、1×10-1以上であることがさらにより好ましい。kRISCと励起一重項と三重項との間の項間交差速度定数kISCとの比(kRISC/kISC)は、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、1.0以上であることがさらにより好ましい。好ましい一態様として、励起一重項および三重項が、それぞれ、電荷移動型最低励起一重項(1CT)および電荷移動型最低励起三重項(3CT)である場合を例示することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
本発明の化合物におけるドナー性基とアクセプター性基の間の距離は、例えば、ドナー性基を構成する原子のうち骨格構造に結合する原子と、アクセプター性基を構成する原子のうち骨格構造に結合する原子との間の距離とすることができる。ドナー性基を構成する原子のうち骨格構造に結合する原子と、アクセプター性基を構成する原子のうち骨格構造に結合する原子との間の距離は、例えば2.4~5.5オングストロームの範囲内で選択したり、3.5~5.2オングストロームの範囲内で選択したり、4.5~4.9オングストロームの範囲内で選択したり、4.6~4.8オングストロームの範囲内で選択したりすることが可能である。また、4.6~4.7オングストロームの範囲内で選択したり、4.7~4.8オングストロームの範囲内で選択したりしてもよい。
【0019】
最安定化状態における構造において、本発明の化合物は、ドナー性基が骨格構造に結合する結合方向と、アクセプター性基が骨格構造に結合する結合方向とがなすチルト角が1°以上であることが好ましい。チルト角は、例えば5°以上の範囲内から選択したり、45°以下の範囲内から選択したり、30°以下の範囲内から選択したり、15°以下の範囲内から選択したりしてもよい。例えば5°~15°の範囲内で選択してもよい。たとえば、後述する化合物1のチルト角は約10°である。
【0020】
本発明の化合物は、ππ*型極大モル吸光係数ε(ππ*)と電荷移動型極大モル吸光係数ε(CT)との比[ε(CT)/ε(ππ*)]が0.05以下であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の化合物は、金属原子を含まない化合物であってもよく、硫黄原子を含まない化合物であってもよく、酸素原子を含まない化合物であってもよい。本発明の化合物は、炭素原子、水素原子および窒素原子のみから構成される化合物であってもよい。
【0022】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【化4】
【0023】
一般式(1)において、R~Rは各々独立に水素原子または置換基を表す。RおよびRは各々独立に水素原子またはアルキル基を表すか、RとRが互いに結合して環状構造を形成する。Lは単結合または連結基を表すか、RとLが互いに結合して環状構造を形成するか、RとLが互いに結合して環状構造を形成する。Dはドナー性基を表し、Aはアクセプター性基を表す。
~Rの中で置換基であるものの数は特に制限されず、R~Rのすべてが無置換(すなわち水素原子)であってもよい。R~Rのうちの2つ以上が置換基であるとき、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
一般式(1)のR~Rがとりうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数2~20のアシル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数12~40のジアリールアミノ基、炭素数12~40のカルバゾリル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~10のアルコキシカルボニル基、炭素数1~10のアルキルスルホニル基、炭素数1~10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2~10のアルキルアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基、炭素数4~20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5~20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1~20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3~40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基、炭素数12~40の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、炭素数12~40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基である。さらに好ましい置換基は、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素数1~10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数1~10の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数6~15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3~12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0024】
およびRが水素原子またはアルキル基を表すとき、RおよびRは、両方が水素原子であっても、両方がアルキル基であってもよく、一方が水素原子で他方がアルキル基であってもよい。RおよびRの両方がアルキル基であるとき、その2つのアルキル基は互いに同一であっても異なっていてもよい。RおよびRにおけるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。好ましい炭素数は1~20であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6である。例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基などを例示することができる。
【0025】
Lが連結基を表すとき、その連結基は、連結鎖長が1原子である2価の連結基であることが好ましい。ここでいう連結鎖長とは、連結基の一方の結合手と他方の結合手を結ぶ原子鎖のうち最短の原子鎖の原子数をいう。例えば、1つの原子が一方の結合手と他方の結合手をともに有するときの連結鎖長は1であり、1,2-フェニレン基の連結鎖長は2であり、1,3-フェニレン基の連結鎖長は3である。
Lがとりうる連結基の具体例として、-O-、-S-、-N(R81)-、-C(R82)(R83)-または-Si(R84)(R85)-で表される連結基が挙げられる。R81~R85は各々独立に水素原子または置換基を表すか、RまたはRと結合して環状構造を形成する。ここで、R82とR83、R84とR85は、それぞれ、互いに同一であっても異なっていてもよい。R81がとりうる置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基を例示することができる。R82~R85がとりうる置換基としては、各々独立に、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~20のアルキルアミド基、炭素数7~21のアリールアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基等を例示することができる。
【0026】
とR、RとL、RとLは互いに結合して環状構造を形成してもよい。RとR、RとL、RとLのうち、環状構造を形成するのは、RとRのみであってもよいし、RとL、および、RとLの両方であってもよいし、RとLのみであってもよいし、RとLのみであってもよい。これらの中では、RとLのみであるか、RとLのみであることが好ましい。また、RとLが互いに結合して環状構造を形成するとき、Rは水素原子またはメチル基であることが好ましく、RとLが互いに結合して環状構造を形成するとき、Rは水素原子またはメチル基であることが好ましい。
とR、RとL、RとLが互いに結合して形成する環状構造は、RとR、RとL、またはRとLが互いに結合して形成する連結構造そのものであってもよいし、RとR、RとL、またはRとLが互いに結合して形成した連結構造が、一般式(1)における3環構造の中央の環(2つのベンゼン環の間の環)と共に形成する環状構造であってもよい。
【0027】
とRが互いに結合して形成する環状構造として、下記一般式(2)に示すZを含む環のように、C(R)(R)のCをスピロ原子とするスピロ環を挙げることができる。一般式(2)におけるR~R、D、Aの説明と好ましい範囲については、上記の一般式(1)におけるR~R、D、Aの説明と好ましい範囲を参照することができる。
【化5】
ここで、Zを含む環の例として、スピロ原子を含めた炭素数が3~20の脂環式炭化水素環等を挙げることができ、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環であることが好ましい。
【0028】
また、RとL、RとLが互いに結合して形成する環状構造として、一般式(1)における3環構造の中央の環に、RとL、または、RとLが互いに結合して形成した連結構造の橋がかかった橋かけ環を挙げることができる。RとLが互いに結合して形成する環状構造として、下記一般式(3)に示すZを含む環を挙げることができる。RとLが互いに結合して形成する環状構造として、下記一般式(4)に示すZを含む環を挙げることができる。一般式(3)および一般式(4)におけるR~R、D、Aの説明と好ましい範囲については、上記の一般式(1)におけるR~R、D、Aの説明と好ましい範囲を参照することができる。
【化6】
ここで、ZおよびZの連結鎖長は1~3原子であることが好ましい。ZまたはZは、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアリーレン基、置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、置換もしくは無置換のアリーレン基を含むことがより好ましく、置換もしくは無置換のアリーレン基のみからなることがさらに好ましい。
【0029】
およびZがアルキレン基を含むとき、そのアルキレン基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよい。好ましい炭素数は1~20であり、より好ましくは1~10であり、さらに好ましくは1~6であり、さらにより好ましくは1~3である。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などを例示することができる。
およびZがアリーレン基を含むとき、そのアリーレン基を構成する芳香族炭化水素環は、単環であっても、2以上の芳香族炭化水素環が縮合した縮合環であっても、2以上の芳香族炭化水素環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香族炭化水素環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。アリーレン基を構成する芳香族炭化水素環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。アリーレン基を構成する芳香族炭化水素環の具体例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環を挙げることができる。
およびZがヘテロアリーレン基を含むとき、そのヘテロアリーレン基を構成する芳香族複素環は、単環であっても、1以上の複素環と1以上の芳香族炭化水素環または芳香族複素環が縮合した縮合環であっても、1以上の芳香族複素環と1以上の芳香族炭化水素環または芳香族複素環が連結した連結環であってもよい。芳香族複素環の炭素数は5~22であることが好ましく、5~18であることがより好ましく、5~14であることがさらに好ましく、5~10であることがさらにより好ましい。芳香族複素環を構成する複素原子は窒素原子であることが好ましい。芳香族複素環の具体例として、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール環を挙げることができる。
【0030】
これらのうち、ZおよびZとして好ましいのは、ベンゼン環を含む基であり、置換もしくは無置換のフェニレン基を含む基であることがより好ましく、無置換のフェニレン基を含む基であることがさらに好ましい。ここでのフェニレン基は、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよいが、1,2-フェニレン基であることが好ましい。
およびZに含まれるアルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基に置換しうる置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR~Rがとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0031】
Dはドナー性基を表す。本発明における「ドナー性基」とは、ドナー性基が結合している原子群に対して電子を供与する基であることを意味する。例えば、ハメットのσ値が負である置換基の中から選択することができる。
ここで、「ハメットのσ値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換ベンゼン誘導体における置換基と反応速度定数または平衡定数の間に成立する下記式:
log(k/k0) = ρσ
または
log(K/K0) = ρσ
における置換基に特有な定数(σ)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。本発明における「ハメットのσ値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσ値に関する記載を参照することができる。
【0032】
ドナー性基としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、珪素原子、およびリン原子からなる群より選択されるヘテロ原子で結合する電子供与性の置換基や、電子供与性を示すアリール基を採用することが好ましい。電子供与性を示すアリール基は、通常は置換アリール基であり、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、珪素原子、およびリン原子からなる群より選択されるヘテロ原子で結合する電子供与性の置換基で置換されたアリール基であることが好ましく、窒素原子で結合する電子供与性の置換基で置換されたアリール基であることがより好ましい。
また、ドナー性基は、置換もしくは無置換のジアリールアミノ構造を含むことが好ましく、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基で置換されたアリール基であることがより好ましい。ここで、「ジアリールアミノ構造」とは、ジアリールアミノ基と、ジアリールアミノ基のアリール基同士が単結合または連結基で連結して複素環を形成している複素芳香環構造の両方を意味することとする。ジアリールアミノ構造の各アリール基を構成する芳香環、および、ジアリールアミノ基で置換されたアリール基の各アリール基(ジアリールアミノ基の各アリール基とジアリールアミノ基で置換されているアリール基)を構成する芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であっても、2以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。ジアリールアミノ構造およびジアリールアミノ基で置換されたアリール基の各アリール基を構成する芳香環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。各アリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基を挙げることができる。ジアリールアミノ構造およびジアリールアミノ基で置換されたアリール基が置換基を有する場合の置換基の説明と好ましい範囲については、下記のR11~R20がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。ジアリールアミノ構造が上記の複素芳香環構造である場合のアリール基同士を連結する連結基の説明と好ましい範囲については、下記の一般式(5)のR15とR16が互いに結合して連結基を形成している場合の連結基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0033】
ドナー性基は、下記の一般式(5)で表される基であることが好ましい。
【化7】
【0034】
一般式(5)において、R11~R20は、各々独立に水素原子または置換基を表す。一般式(5)において、R11~R20は、各々独立に水素原子または置換基を表す。置換基の数は特に制限されず、R11~R20のすべてが無置換(すなわち水素原子)であってもよい。R11~R20のうちの2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。*は結合位置を表す。
11~R20がとりうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~20のアルキルアミド基、炭素数7~21のアリールアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基である。
【0035】
11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR17、R17とR18、R18とR19、R19とR20は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環などを挙げることができる。
【0036】
一般式(5)で表される基の中では、R15とR16が互いに結合していないもの、R15とR16が互いに単結合で結合しているもの、または、R15とR16が互いに結合して連結鎖長が1原子または2原子の連結基を形成しているものが好ましい。R15とR16が互いに結合して連結鎖長が1原子または2原子の連結基を形成している場合、R15とR16が互いに結合した結果として形成される環状構造は6員環または7員環となる。R15とR16が互いに結合して形成される連結基の具体例として、-O-、-S-、-N(R91)-または-C(R92)(R93)-で表される連結基や、これらの任意の2つが結合して形成される連結基が挙げられる。任意の2つが結合して形成される連結基としては、-O-C(R92)(R93)-、-S-C(R92)(R93)-、-N(R91)-C(R92)(R93)-、-C(R92)(R93)-C(R94)(R95)-を挙げることができ、具体例として、-O-CH-、-O-C(CH-、-S-CH-、-S-C(CH-、-N(CH)-CH-、-N(C)-CH-、-CHCH-、-C(CHC(CH-を挙げることができる。ここにおいて、R91~R95は各々独立に水素原子または置換基を表す。R91がとりうる置換基、R92~R95がとりうる置換基の説明と好ましい範囲については、それぞれ、上記のR81がとりうる置換基、R82~R85がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0037】
一般式(5)で表される基の好ましい例として、下記一般式(6)~(10)のいずれかで表される基を挙げることができる。
【化8-1】
【化8-2】
【0038】
一般式(6)~(10)において、R21~R24、R27~R38、R41~R48、R51~R59、R71~R80は、各々独立に水素原子または置換基を表す。ここでいう置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR11~R20がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。R21~R24、R27~R38、R41~R48、R51~R59、R71~R80は、各々独立に上記一般式(6)~(10)のいずれかで表される基であることも好ましい。*は結合位置を表す。一般式(10)のR79およびR80は置換もしくは無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルキル基であることがより好ましい。また、一般式(10)のR79およびR80は置換もしくは無置換のアリール基であることも好ましく、炭素数6~40の置換もしくは無置換のアリール基であることがより好ましく、炭素数6~10の置換もしくは無置換のアリール基であることがさらに好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。さらに、一般式(10)のR79およびR80が置換もしくは無置換のアリール基であるとき、そのアリール基同士が互いに結合して環状構造を形成していることも好ましい。一般式(6)~(10)における置換基の数は特に制限されない。すべてが無置換(すなわち水素原子)である場合も好ましい。また、一般式(6)~(10)のそれぞれにおいて置換基が2つ以上ある場合、それらの置換基は同一であっても異なっていてもよい。一般式(6)~(10)に置換基が存在している場合、その置換基は一般式(6)であればR22~R24、R27~R29のいずれかであることが好ましく、R23およびR28の少なくとも1つであることがより好ましく、一般式(7)であればR32~R37のいずれかであることが好ましく、一般式(8)であればR42~R47のいずれかであることが好ましく、一般式(9)であればR52、R53、R56、R57、R59のいずれかであることが好ましく、一般式(10)であればR72~R77、R79、R80のいずれかであることが好ましい。
【0039】
一般式(6)~(10)において、R21とR22、R22とR23、R23とR24、R27とR28、R28とR29、R29とR30、R31とR32、R32とR33、R33とR34、R35とR36、R36とR37、R37とR38、R41とR42、R42とR43、R43とR44、R45とR46、R46とR47、R47とR48、R51とR52、R52とR53、R53とR54、R55とR56、R56とR57、R57とR58、R54とR59、R55とR59、R71とR72、R72とR73、R73とR74、R75とR76、R76とR77、R77とR78、R79とR80は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造の説明と好ましい例については、上記の一般式(5)において、R11とR12等が互いに結合して形成する環状構造の説明と好ましい例を参照することができる。
【0040】
一般式(9)で表される化合物には、特に下記一般式(9’)で表される化合物が好ましく包含される。
【化9】
【0041】
一般式(9’)において、R51~R58、R61~R65は、各々独立に水素原子または置換基を表す。R51とR52、R52とR53、R53とR54、R55とR56、R56とR57、R57とR58、R61とR62、R62とR63、R63とR64、R64とR65、R54とR61、R55とR65は、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。*は結合位置を表す。
【0042】
Aはアクセプター性基を表す。本発明における「アクセプター性基」は、アクセプター性基が結合している原子群に対して電子を吸引する基である。例えば、ハメットのσ値が正である置換基の中から選択することができる。
【0043】
アクセプター性基は下記一般式(11)で表される基であるか、下記一般式(11)で表される部分構造を有する基であることが好ましい。
【化10】
【0044】
一般式(11)において、A~Aは各々独立にNまたはC(R19)を表し、R19は水素原子または置換基を表す。A~Aの少なくとも1つはNであることが好ましく、1~3つがNであることがより好ましく、3つがNであることがさらに好ましい。一般式(11)で表される基がR19を複数有するとき、複数のR19は互いに同一であっても異なっていてもよい。R19がとりうる置換基として、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数5~40のヘテロアリール基等を挙げることができ、炭素数6~40のアリール基であることが好ましい。これらの置換基のうち置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。
【0045】
一般式(11)で表される構造が連結基に結合した構造もアクセプター性基として採用することができる。その場合の連結基としては、置換もしくは無置換のアリーレン基、または置換もしくは無置換のヘテロアリーレン基が好ましい。ここでいうアリーレン基またはヘテロアリーレン基の説明と好ましい範囲については、上記のR81~R85がRまたはRと結合して形成する連結構造におけるアリーレン基、ヘテロアリーレン基についての説明と好ましい範囲を参照することができる。アリーレン基またはヘテロアリーレン基に導入しうる置換基の説明と好ましい範囲については、上記のR19がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。連結基は、置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。連結基が置換もしくは無置換のフェニレン基であるとき、フェニレン基は1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよいが、1,4-フェニレン基であることが好ましい。
【0046】
以下において、アクセプター性基の具体例(A-1~A-77)を例示する。*は結合位置を示す。*が示す結合位置で一般式(1)の右側のベンゼン環に直接結合してもよいし、連結基を介して結合してもよい。分子中に*が2つ存在する場合は、一方で連結し、他方は水素原子を表す。また、下記の具体例における水素原子は、置換基で置換されていてもよい。
【0047】
【化11】
【0048】
【化12】
【0049】
【化13】
【0050】
【化14】
【0051】
【化15】
【0052】
一般式(1)で表される化合物において、Dは環状構造を含むドナー性基であることが好ましく、Aは環状構造を含むアクセプター性基であることが好ましい。さらに、AおよびDが同じ環状構造を含むことがより好ましく、その同じ環状構造がベンゼン環であることがさらに好ましい。
また、一般式(1)~(4)で表される化合物において、R~Rはドナー性基でもよいし、R~Rはアクセプター性基でもよい。この際、R~RはDと同一のドナー性基でもよいし、異なるドナー性基でもよい。また、R~RはAと同一のアクセプター性基でもよいし、異なるアクセプター性基でもよい。
【0053】
一般式(1)で表される化合物は、炭素原子、窒素原子および水素原子のみからなる化合物とすることが可能である。例えば、フッ素原子、リン原子、硫黄原子等の分子に極性を生じやすい原子を化合物が含むと、有機溶媒に対する化合物の溶解性が低くなることがあるが、化合物が炭素原子、窒素原子および水素原子のみから構成されていると、有機溶媒に対して良好な溶解性を示し、塗布法を用いて、その化合物の膜をより容易に成膜しやすくなる場合がある。
【0054】
一般式(1)で表される化合物は、最低励起一重項エネルギー準位S1と77Kの最低励起三重項エネルギー準位T1の差ΔEstが小さい化合物であることが好ましい。具体的には、ΔEstは0.3eV以下であることが好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.1eV以下であることがさらに好ましく、0.05eV以下であることがさらにより好ましい。
最低励起一重項エネルギー準位S1と最低励起三重項エネルギー準位T1は、それぞれ下記の方法により測定することができる。
(1)最低励起一重項エネルギー準位S1
測定対象化合物をSi基板上に蒸着して試料を作製し、常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルは、縦軸を発光、横軸を波長とする。この発光スペクトルの短波側の立ち下がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をS1とする。
換算式:S1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を検出器には、ストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いることができる。
【0055】
(2)最低励起三重項エネルギー準位T1
一重項エネルギーS1と同じ試料を77[K]に冷却し、励起光(337nm)を燐光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、燐光強度を測定する。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をT1とする。
換算式:T1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0056】
一般式(1)で表される化合物として、以下の構造を有する化合物を例示することができる。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0057】
【化16】
【0058】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、一般式(1)がとりうる最も小さな分子量であり、好ましくは一般式(1)がとりうる最も小さな分子量よりも20多い分子量以上である。
一般式(1)で表される化合物は、塗布法で成膜してもよい。
【0059】
本発明を応用して、分子内に一般式(1)で表される構造を複数個含む化合物を、発光材料として用いることも考えられる。
例えば、一般式(1)で表される構造中にあらかじめ重合性基を存在させておいて、その重合性基を重合させることによって得られる重合体を、発光材料として用いることが考えられる。具体的には、一般式(1)のR~R、L、D、Aのいずれかに重合性官能基を含むモノマーを用意して、これを単独で重合させるか、他のモノマーとともに共重合させることにより、繰り返し単位を有する重合体を得て、その重合体を発光材料として用いることが考えられる。あるいは、一般式(1)で表される構造を有する化合物どうしをカップリングさせることにより、二量体や三量体を得て、それらを発光材料として用いることも考えられる。
【0060】
一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有する重合体の例として、下記一般式(12)または(13)で表される構造を含む重合体を挙げることができる。
【化17】
【0061】
一般式(12)または(13)において、Qは一般式(1)で表される構造を含む基を表し、LおよびLは連結基を表す。連結基の炭素数は、好ましくは0~20であり、より好ましくは1~15であり、さらに好ましくは2~10である。連結基としては、例えば-X11-L11-で表される構造を有するものを採用することができる。ここで、X11は酸素原子または硫黄原子を表し、酸素原子であることが好ましい。L11は連結基を表し、置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、炭素数1~10の置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
一般式(12)または(13)において、R101、R102、R103およびR104は、各々独立に置換基を表す。好ましくは、炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数1~3の無置換のアルキル基、炭素数1~3の無置換のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子であり、さらに好ましくは炭素数1~3の無置換のアルキル基、炭素数1~3の無置換のアルコキシ基である。
およびLで表される連結基は、Qを構成する一般式(1)の構造のR~R、L、D、Aのいずれかに結合することができる。1つのQに対して連結基が2つ以上連結して架橋構造や網目構造を形成していてもよい。
一般式(12)または(13)で表される構造は、本発明の効果を過度に損なわないように決定することが好ましい。
【0062】
繰り返し単位の具体的な構造例として、下記一般式(14)~(17)で表される構造を挙げることができる。
【化18】
【0063】
これらの式(14)~(17)を含む繰り返し単位を有する重合体は、一般式(1)の構造のR~R、L、D、Aのいずれかにヒドロキシ基を導入しておき、それをリンカーとして下記化合物を反応させて重合性基を導入し、その重合性基を重合させることにより合成することができる。
【化19】
【0064】
分子内に一般式(1)で表される構造を含む重合体は、一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、それ以外の構造を有する繰り返し単位を含む重合体であってもよい。また、重合体の中に含まれる一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位は、単一種であってもよいし、2種以上であってもよい。一般式(1)で表される構造を有さない繰り返し単位としては、通常の共重合に用いられるモノマーから誘導されるものを挙げることができる。例えば、エチレン、スチレンなどのエチレン性不飽和結合を有するモノマーから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。
【0065】
[一般式(1)で表される化合物の合成方法]
一般式(1)で表される化合物は新規化合物である。既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。
例えば、一般式(1)のDが一般式(5)で表される基であり、Aが一般式(11)で表される基である化合物は、下記反応スキームにしたがって合成することが可能である。
【0066】
【化20】
【0067】
上記の反応スキームにおけるR~R、Lの説明については、一般式(1)における対応する記載を参照することができ、R11~R20の説明については、一般式(5)における対応する記載を参照することができ、A~Aの説明については、一般式(11)における対応する記載を参照することができる。X~Xはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。XおよびXは臭素原子であることが好ましく、Xは塩素原子であることが好ましい。
上記の反応は、公知のカップリング反応を応用したものであり、公知の反応条件を適宜選択して用いることができる。反応条件の詳細や手順については、後述の実施例を参照することができる。また、一般式(1)で表される化合物は、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。例えば、上記の反応スキームでは先にDを導入した後にAを導入しているが、先にAを導入した後にDを導入しても構わない。
【0068】
[有機発光素子]
本発明の一般式(1)で表される化合物は、優れた発光特性を有することから、有機発光素子の発光材料として有用である。一般式(1)で表される化合物の中には、遅延蛍光を放射する遅延蛍光材料(遅延蛍光体)が含まれている。すなわち本願は、一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体の発明と、一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光体として使用する発明と、一般式(1)で表される化合物を用いて遅延蛍光を発光させる方法の発明も開示するものである。本発明によれば、遅延蛍光を放射する分子を設計するためにドナー性基とアクセプター性基の二面角制御を行う必要性が大幅に低減される。
遅延蛍光を放射する化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、遅延蛍光を放射し、発光効率が高くて無輻射失活を抑制できるという特徴を有する。その原理を、有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって説明すると以下のようになる。
【0069】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光であるリン光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般にリン光の量子収率が高くないことが多い。一方、遅延蛍光材料は、項間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項-三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態に逆項間交差され蛍光を放射する。有機エレクトロルミネッセンス素子においては、なかでも熱エネルギーの吸収による熱活性化型の遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子に遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ項間交差され蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このような熱活性化型の逆項間交差機構を用いれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に励起三重項状態から励起一重項状態への項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させ、無輻射失活を抑制することができる。
【0070】
一般式(1)で表される化合物が遅延蛍光を放射しうる優れた発光材料であるのは、ドナー性基とアクセプター性基の距離を望ましい範囲内に制御するように分子設計されているためである。一般式(1)で表される化合物は、縮合多環構造の特定の位置にドナー性基とアクセプター性基が結合する構造を有することから、ドナー性基とアクセプター性基の距離は自ずと特定の範囲内に制御されている。特に一般式(1)のRとLが互いに結合して環状構造を形成するか、RとLが互いに結合して環状構造を形成している場合は、縮合多環構造がより剛直な構造となるため、ドナー性基とアクセプター性基の距離はほぼ固定される。例えば、化合物1~5のようなトリプチセン骨格にドナー性基とアクセプター性基が結合した化合物の場合、DFT(Density Functional Theory)計算による最適化構造ではドナー性基とアクセプター性基の距離は4.718オングストロームである。
図1は、LC-ωPBE/6-31+G(d)法により計算した化合物1のHOMOとLUMOの各分布を表す概略図である。一般式(1)で表される化合物は、おおむね図1と同様のHOMO、LUMO分布を示し、HOMOとLUMOがそれぞれドナー性基Dとアクセプター性基Aに大きく分離する。ドナー性基Dとアクセプター性基Aが結合している縮合多環構造は、HOMO、LUMOには実質的に影響しない。このため縮合多環構造は、ドナー性基Dとアクセプター性基Aを適切な距離に離して配置する役割を果たしており、その距離が遅延蛍光放射に有利な距離であることに特徴がある。このことから、本発明は、ドナー性基とアクセプター性基の距離を遅延蛍光放射に有利な範囲内に制御するように分子設計することによって優れた遅延蛍光材料を提供するコンセプトを初めて提供するものである。ドナー性基とアクセプター性基の距離は、3.00~5.50オングストロームであることが好ましく、4.00~5.00オングストロームであることがより好ましく、4.50~4.72オングストロームであることがさらに好ましい。例えば、ドナー性基とアクセプター性基の距離を、4.40~4.80オングストロームの範囲内から選択したり、4.45~4.75オングストロームの範囲内から選択したり、4.60~4.72オングストロームの範囲内から選択したりしてもよい。また、ドナー性基とアクセプター性基が結合する縮合多環構造は、ドナー性基とアクセプター性基を結ぶ最短の連結鎖中に共役系を遮断する連結部分が含まれていることが特に好ましい。一般式(1)では、-C(R)(R)-部分が共役系を遮断する連結部分となっている。このような共役系を遮断する連結部分を含む縮合多環構造により、ドナー性基とアクセプター性基を適切な距離に離して配置する本発明のコンセプトの一態様として、一般式(1)で表される化合物は提供されたものである。本発明のコンセプトにしたがって、一般式(1)以外の構造を有する化合物であって、ドナー性基とアクセプター性基の距離を上記の好ましい範囲内に配置した分子を設計することにより、優れた遅延蛍光材料をさらに提供することが可能である。
なお、ここでいう「ドナー性基とアクセプター性基の距離」とは、ドナー性基の結合手を有する原子とアクセプター性基の結合手を有する原子との間の直線距離を意味する。例えば一般式(1)で表される化合物であれば、ドナー性基Dの構成原子であって縮合多環構造に結合するための結合手を有する原子と、アクセプター性基Aの構成原子であって縮合多環構造に結合するための結合手を有する原子との間の直線距離である。
【0071】
さらに、本発明の一般式(1)で表される化合物は、真空蒸着法や塗布法により成膜することができ、また、ガラス転移温度(Tg)が比較的高いため熱安定性が高く、実用面において優れている。そのため、この化合物を有機発光素子の材料として用いることにより、大掛かりな成膜装置を用いずに、その化合物の有機膜を均一な膜厚で効率よく塗布形成することができるため、有機発光素子の製造効率を各段に向上させることができる。また、本発明の一般式(1)で表される化合物は、基本骨格となる分子構造が固定されていて非晶膜でもΔESTの分布が抑えられるため、設計の自由度が大きい。また、この化合物を含む有機発光素子は、高温環境下においても安定な発光性能が得られ、例えばカーナビゲーションシステムの表示素子として効果的に用いることができる。また、本発明の一般式(1)で表される化合物は、トリプチセン等の円偏光性を有する構造を含み得るため、円偏光板としての用途も期待される。
【0072】
本発明の一般式(1)で表される化合物を発光層の発光材料として用いることにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。このとき、本発明の一般式(1)で表される化合物は、いわゆるアシストドーパントとして、発光層に含まれる他の発光材料の発光をアシストする機能を有するものであってもよい。すなわち、発光層に含まれる本発明の一般式(1)で表される化合物は、発光層に含まれるホスト材料の最低励起一重項エネルギー準位と発光層に含まれる他の発光材料の最低励起一重項エネルギー準位の間の最低励起一重項エネルギー準位を有するものであってもよい。
有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図2に示す。図2において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0073】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0074】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.(ohms per square)以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0075】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/ sq.(ohms per square)以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0076】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層であり、発光材料を単独で発光層に使用しても良いが、好ましくは発光材料とホスト材料を含む。発光材料としては、一般式(1)で表される本発明の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子および有機フォトルミネッセンス素子が高い発光効率を発現するためには、発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、発光層中に発光材料に加えてホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも何れか一方が本発明の発光材料よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、本発明の発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、本発明の発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を十分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。本発明の有機発光素子または有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は発光層に含まれる本発明の発光材料から生じる。この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
ホスト材料を用いる場合、発光材料である本発明の化合物が発光層中に含有される量は0.1体積%以上であることが好ましく、1体積%以上であることがより好ましく、また、50体積%以下であることが好ましく、20体積%以下であることがより好ましく、10体積%以下であることがさらに好ましい。
発光層におけるホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
【0077】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間にそれぞれ存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0078】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。阻止層は必要に応じて設けることができる。
【0079】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0080】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0081】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0082】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0083】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0084】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる一般式(1)で表される化合物と、発光層以外の層に用いる一般式(1)で表される化合物は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0085】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるnは3~5の整数を表す。
【0086】
まず、発光層のホスト材料としても用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0087】
【化21】
【0088】
【化22】
【0089】
【化23】
【0090】
【化24】
【0091】
【化25】
【0092】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0093】
【化26】
【0094】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0095】
【化27】
【0096】
【化28-1】
【化28-2】
【0097】
【化29】
【0098】
【化30】
【0099】
【化31】
【0100】
【化32】
【0101】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0102】
【化33】
【0103】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0104】
【化34】
【0105】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0106】
【化35】
【0107】
【化36】
【0108】
【化37】
【0109】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0110】
【化38】
【0111】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0112】
【化39】
【0113】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、りん光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。ここで、本発明の有機発光素子においては、放射光のうち遅延蛍光成分が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。
一方、りん光については、本発明の化合物のような通常の有機化合物では、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0114】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光層に一般式(1)で表される化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例
【0115】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。発光特性の評価は、蛍光燐光分光光度計((株)堀場製作所社製:FluoroMax Plus)、小型蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス(株)社製:Quantaurus-Tau C11367-01)、窒素クライオスタット(オックスフォード・インストゥルメンツ社製:OptistatDN2)、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス(株)社製:C9920-02)、外部量子効率測定装置(浜松ホトニクス(株)社製:C9920-12)およびソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)を用いて行い、CIE色度座標の測定は、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス(株)社製:C9920-02)および、外部量子効率測定装置(浜松ホトニクス(株)社製:C9920-12)を用いて行い、熱特性の評価は、示差走査熱量測定装置(メトラー・トレド(株)社製:DSC1)を用いて行った。HNMRはJEOL JNM ECA 600を用いて測定した。化学シフトはppmで表記し、測定時は内部標準に溶媒中の残在溶液(CHCl, 7.26ppm)を用いた。カラムクロマトグラフィーにおいて、シリカゲルは Wako sil C-300を用いた。
【0116】
(合成例1) 化合物1の合成
まず、第1中間体としての化合物S-1を下記のようにして合成した。
【0117】
【化40】
【0118】
還流管および滴下漏斗を取り付けた500mLの3つ口フラスコに、1,8-ジブロモアントラセン(10g,29mmol)、亜硝酸イソアミル(5.75g,50mmol)を75mLの1,2-ジメトキシエタンに溶かし入れた。反応液を加熱還流しながら、40mLの1,2-ジメトキシエタンに溶かしたアントラニル酸(8.5g,60mmol)を40分かけて滴下した。反応液を室温まで放冷し、亜硝酸イソアミル(5.75g,50mmol)を加え、再び加熱還流しながら、40mLの1,2-ジメトキシエタンに溶かしたアントラニル酸(8.5g,60mmol)を30分かけて滴下した。反応液を室温まで放冷し、30mLのメタノールを加え、次いで250mLの10%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。反応液を10℃に冷却しろ過した後、残渣を冷却したメタノール/水(4/1)溶液で洗浄した。還流管を取り付けた300mLのナス型フラスコに、残渣と5gの無水マレイン酸、50mLのトリエチレングリコールジメチルエーテルを入れ、180℃で15分間加熱した。反応液を室温まで放冷し、200mLの10%水酸化ナトリウム水溶液を加えた。反応液を10℃に冷却しろ過した後、残渣を冷却したメタノール/水(4/1)溶液で洗浄し、1,8-ジブロモトリプチセン(化合物S-1)を収量9.8g(24mmol)、収率83%で得た。
HNMR(600MHz,CDCl):7.53-7.51(m,1H),7.41-7.40(m,1H),7.31(d,J=6.0Hz,2H),7.21(d,J=6.0Hz,2H),7.07-7.05(m,2H),6.87(t,J=9.0Hz,2H),6.51(s,1H),5.43(s,1H)
【0119】
次に、第2中間体としての化合物S-2を下記のようにして合成した。
【化41】
【0120】
100mLのスクリューキャップ付ナス型フラスコに、9,9-ジメチル-9,10-ジヒドロアクリジン(1.26g,6.03mmol)、化合物S-1(6.18g,15.1mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)-クロロホルム付加体(186mg,0.18mmol)、XPhos(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2′,4′,6′-トリイソプロピルビフェニル)(172mg,0.36mmol)、ナトリウムtert-ブトキシド(1.15g,12.0mmol)を入れ、60mLのトルエンを加え、アルゴン雰囲気下、120℃で一晩撹拌した。反応溶液を、室温まで冷却し、20mLの水を加え、酢酸エチル(100mL)で3回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=4/1)にて精製し、化合物S-2を収量2.37g、収率73%で得た。
HNMR(600MHz,CDCl):7.56-7.52(m,2H),7.49(d,J=6.0Hz,1H),7.41(d,J=6.0Hz,1H),7.34(d,J=6.0Hz,1H),7.24(t,J=6.0Hz,1H),7.05(d,J=6.0Hz,1H),7.02(t,J=6.0Hz,1H),6.98-6.90(m,5H),6.85-6.76(m,3H),5.87(d,J=12.0Hz,1H),5.76(d,J=12.0Hz,1H),5.72(s,1H),5.55(s,1H),1.93(s,3H),1.70(s,3H)
【0121】
次に、第3中間体としての化合物S-3を下記のようにして合成した。
【化42】
【0122】
50mLの二口フラスコに化合物S-2(1.77g,3.27mmol)を入れ、25mLの乾燥テトラヒドロフランに溶かした。アルゴン雰囲気下で反応液を-78℃に冷却し、3.0mLのn-ブチルリチウムヘキサン溶液(1.6mol/L)をゆっくりと滴下した。-78℃で2時間撹拌した後、イソプロポキシボロン酸ピナコール(0.78mL,3.87mmol)を加え、一晩撹拌しながらゆっくりと室温へ戻した。反応液を1M塩酸水溶液に加え、酢酸エチル(50mL)で3回抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=7/3)にて精製し、化合物S-3を収量0.864g、収率45%で得た。
HNMR(600MHz,CDCl):7.51-7.49(m,3H),7.43(d,J=6.0Hz,2H),7.35(d,J=6.0Hz,1H),7.18-7.14(m,2H),7.04-6.96(m,4H),6.91(t,J=6.0Hz,1H),6.87-6.84(m,2H),6.72(t,J=6.0Hz,1H),6.31(s,1H),6.04(d,J=6.0Hz,1H),5.67(d,J=6.0Hz,1H),5.57(s,1H),1.95(s,3H),1.43(s,3H),0.94(s,6H),0.81(s,6H)
【0123】
次に、目的の化合物1を下記のようにして合成した。
【化43】
【0124】
100mLのスクリューキャップ付ナス型フラスコに化合物S-3(0.85g,1.45mmol)、2-クロロ―4,6―ジフェニル-1,3,5-トリアジン(0.58g,2.17mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(168mg,0.15mmol)を入れ、60mLのトルエンと6.0mLの炭酸カリウム水溶液(2.0M)を加えた。凍結脱気を3回行い、アルゴン雰囲気下、120℃で24時間加熱撹拌を行った。反応溶液を、室温まで冷却し、40mLの水を加え、酢酸エチル(50mL)で3回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=4/1)にて精製し、化合物1を収量0.679g、収率68%で得た。化合物1のガラス転移温度(Tg)を測定したところ135℃であり、比較例1で用いたDMAC-TRZのガラス転移温度(91℃)よりも高くて、熱安定性が高いことが確認された。
HNMR(600MHz,CDCl):8.47(d,J=6.0Hz,4H),8.25(d,J=6.0Hz,1H),7.66(d,J=6.0Hz,1H),7.58-7.56(m,3H),7.51(d,J=6.0Hz,1H),7.45(t,J=9.0Hz,4H),7.25-7.20(m,4H),7.14(d,J=6.0Hz,1H),7.09(t,J=6.0Hz,1H),7.03(t,J=6.0Hz,1H),6.96(t,J=6.0Hz,1H),6.90-6.83(m,3H),6.31(t,J=9.0Hz,1H),6.13(t,J=9.0Hz,1H),5.81(d,J=6.0Hz,1H),5.70(s,1H),5.60(d,J=6.0Hz,1H),1.23(s,3H),1.11(s,3H)
【0125】
(合成例2~6) 化合物2~6の合成
合成例1に準じて、化合物2~6を合成した。
【化44】
【0126】
(実施例1) 化合物1のトルエン溶液の調製と評価
化合物1をトルエンに溶解して、10-5Mのトルエン溶液を調製した。
調製した化合物1のトルエン溶液の紫外可視(UV-Vis)吸収スペクトルを図3(a)、(b)に示し、320nm励起光による発光スペクトルを図4に示す。
図3(a)は300~600nmの範囲の吸収スペクトルであり、図3(b)は、図3(a)に示す吸収スペクトルのうち、350~500nmの範囲を拡大した図である。図3(a)、(b)に示すように、化合物1のトルエン溶液から、300nm付近に肩を持つ強い吸収と、350~400nm付近のブロードで極めて弱い吸収が観測された。また、その弱い吸収における吸収係数は約250cm-1M-1であった。350~400nmの吸収が極めて弱いことは、可視光の透過性が高い(色の透明性が高い)ことを意味している。このことから、一般式(1)で表される化合物が発光材料として極めて有用であることが示された。
また、図4に示すように、化合物1のトルエン溶液から、485nm付近に発光極大を持つ青緑色発光が観測された。この化合物1のトルエン溶液について、Arバブリングを行う前と後で、365nm励起光によるPL量子収率を測定したところ、Arバブリング前には2%±1%の極めて微弱なPL量子収率を示したのに対し、Arバブリング後では84%±1%と大幅に向上したPL量子収率を示した。Arバブリング前で、Arバブリング後よりもPL量子収率が低くなっているのは、トルエン溶液中の溶存酸素により励起三重項状態がクエンチングされたためであると考えられる。このことから、化合物1の発光は、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が関与する遅延蛍光を含むことが示唆された。また、溶液中の溶存酸素の有無によって大幅に発光量子収率が変わることから、一般式(1)で表される化合物は酸素センサーの材料としても極めて有用であることが示された。
【0127】
(実施例2) 化合物1を用いた有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価
石英ガラス基板上に、真空蒸着法にて、化合物1の薄膜を作製し、有機フォトルミネッセンス素子とした。ここで、蒸着時の真空度は1×10-4Paとし、薄膜の厚さは38nmとした。
作製した化合物1の薄膜について、300Kで測定した発光の過渡減衰曲線を図5に示す。図5の発光の過渡減衰曲線は、励起波長を365nm、発光の検出波長を504nmとして測定した。
化合物1の薄膜について、320nm励起光による発光スペクトルを測定したところ、504nm付近に発光極大を持つ発光ピークが観測された。また、励起波長320nmにおけるPL量子収率は、窒素フロー下において、71%であった。
また、上記と同じ条件で石英ガラス上に化合物1とCzSiを共蒸着させて薄膜を得た(化合物1が25体積%)。この薄膜のフォトルミネッセンス量子収率は82%、最大発光波長は483nm、CIE(x,y)は(0.18,0.31)、τdは5.0μsであった。
さらに、上記と同じ条件で石英ガラス上に化合物1とmCPCNを共蒸着させて薄膜を得た(化合物1が22体積%)。この薄膜のフォトルミネッセンス量子収率は64%、最大発光波長は489nm、CIE(x,y)は(0.20,0.40)、τdは3.9μsであった。以上の結果より、mCPCNとCzSiを比較すると、CzSiの方がより好ましいホスト材料であることがうかがえた。
また、上記と同じ条件で石英ガラス上に化合物1とCzSiとTBPeを共蒸着させて薄膜を得た(化合物1が26体積%、TBPeが4体積%)。この薄膜のフォトルミネッセンス量子収率は87%、最大発光波長は461nm、CIE(x,y)は(0.14,0.23)、τdは0.36μsであった。この結果は、本発明の化合物がアシストドーパントとして有用であり、TAF(TADF assisted fluorescence)が効率的に起こっていることを示している。また、極めて早い遅延蛍光と望ましい青色発光を実現できることも示している。
【0128】
(実施例3) 化合物2~6の評価
化合物2、5、6をトルエンに溶解して、10-5Mのトルエン溶液を調製し、実施例1と同様にスペクトル測定を行った。また、石英ガラス基板上に、スピンコート法により厚さ40nmの化合物3の薄膜を、1×10-4Paで真空蒸着法により、厚さは40nmの化合物4の薄膜を作製し、実施例2と同様にスペクトル測定を行った。各化合物の発光色を化合物1の発光色とともに以下の表に示す。表の結果は、本発明の化合物のドナー性基とアクセプター基を適宜選択することにより、可視光領域の全発光色を実現しうることを示している。
【表1】
【0129】
(実施例4) 化合物1を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度2×10-4Pa以下で積層した。まず、ITO上に、厚さ60nmのTAPCを形成し、その上に厚さ10nmのmAPを形成した。続いて、化合物1とmCBPを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、化合物1の濃度は25体積%とした。次に、発光層の上に、PPFを10nmの厚さに形成し、その上に、BmPyPhBを35nmの厚さに形成した。続いて、Liqを1nmの厚さに形成し、その上に、Alを80nmの厚さに蒸着して陰極を形成した。
以上の工程により、ITO(50nm)/TAPC(60nm)/mAP(10nm)/25体積%化合物1、mCBP(30nm)/PPF(10nm)/BmPyPhB(35nm)/Liq(1nm)/Al(80nm)(ただし、「/」は層の境界を表し、かっこ内の数値は膜厚を表す)の層構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(素子1)を得た。
製造した素子1の電流密度-電圧-輝度特性を図6に示し、10000cd/mおよび20000cd/mで測定した外部量子効率を表2に示す。
素子1について、外部量子効率-輝度特性を測定したところ、外部量子効率が最大で19.2%を示し、1000 cd/mにおいても18.1%と極めて高い発光効率を維持した。また、素子1の1000 cd/mにおける発光極大波長λMAXは496nmであり、発光のCIE色度座標(x、y)は(0.20,0.44)であった。
【0130】
(比較例1) DMAC-TRZを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
化合物1の代わりにDMAC-TRZを用いること以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子(比較素子1)を作製した。作製した比較素子1の層構成は、ITO(50nm)/TAPC(60nm)/mAP(10nm)/25体積%DMAC-TRZ、mCBP(30nm)/PPF(10nm)/BmPyPhB(35nm)/Liq(1nm)/Al(80nm)である。ここで、DMAC―TRZは、化合物1と共通のドナー性基およびアクセプター性基を有する分子である。
製造した比較素子1の電流密度-電圧-輝度特性を測定した結果を図6に示す。10000cd/mおよび20000cd/mでの外部量子効率を表2に示す。また、比較素子1の発光のCIE色度座標(x、y)は(0.21,0.48)であり、素子1と類似の発光色を示した。
【0131】
【表2】
【0132】
表1に示すように、10000cd/mおよび20000cd/mでの外部量子効率は、素子1で比較素子1よりも高い値が得られた。例えば、10000cd/mにおいて、素子1では、比較素子1よりも10%以上も高い外部量子効率を達成することができた。このことから、一般式(1)で表されるコア骨格と、そのドナー性基およびアクセプター性基の結合位置を採用することで、高電流密度領域における発光効率が大きく向上することを確認することができた。
【0133】
(実施例5) 化合物1を用いた別の有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
実施例4の製造工程において、発光層を27体積%の化合物1とCzSiに変更して、ITO(50nm)/TAPC(60nm)/mAP(10nm)/27体積%化合物1、CzSi(30nm)/PPF(10nm)/BmPyPhB(35nm)/Liq(1nm)/Al(80nm)の層構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(素子2)を得た。
また、実施例4の製造工程において、発光層を1体積%のTBPeと24体積%の化合物1と75体積%のCzSiに変更して、ITO(50nm)/TAPC(60nm)/mAP(10nm)/1体積%TBPe、24体積%化合物1、75体積%CzSi(30nm)/PPF(10nm)/BmPyPhB(35nm)/Liq(1nm)/Al(80nm)の層構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(素子3)を得た。
実施例4と同様に評価を行い、CIE(x,y)も測定した。結果は以下の表に示す通りであった。表の結果は、本発明の化合物を用いることにより、望ましい青色発光色でTAF(TADF assisted fluorescence)を効率良く高い輝度で実現できることを示している。
【表3】
【0134】
【化45】
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の化合物は、従来の遅延蛍光材料よりも高い発光効率を示すとともに、熱安定性も高い点で有用な発光材料である。このため、本発明の化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子用の発光材料として実用的に用いることができ、高い発光効率と良好な熱安定性を有する有機発光素子を実現することができる。よって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0136】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6