(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】物体の表面加工方法、積層体、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/16 20060101AFI20231227BHJP
B29C 65/14 20060101ALI20231227BHJP
C12M 3/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
B29C59/16
B29C65/14
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2020556164
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2019044689
(87)【国際公開番号】W WO2020100976
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018214872
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝明
(72)【発明者】
【氏名】上野 秀貴
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-024589(JP,A)
【文献】特開2018-004939(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00-59/18
B29C 65/00-65/82
B32B 1/00-43/00
C12M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板上に感光性樹脂を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
(b)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対して光を照射する一次照射工程と、
(c)前記光を照射された樹脂層の上に、非平坦な表面を有する物体を配置する物体配置工程と、
(d)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対してさらに光を照射する二次照射工程とを備え、
前記一次照射工程は、前記樹脂層の一部が硬化しない条件で行われ、前記物体配置工程は、前記物体の非平坦な表面が前記樹脂層に対向するように行われる、物体の表面加工方法。
【請求項2】
前記物体は多孔質体である、請求項1に記載の物体の表面加工方法。
【請求項3】
前記感光性樹脂は光硬化性樹脂である、請求項1又は請求項2に記載の表面加工方法。
【請求項4】
非平坦な表面を有する物体と、前記物体の非平坦な表面上に配置される樹脂層を備え、前記樹脂層は感光性樹脂の硬化物であり、前記樹脂層の少なくとも一部が前記物体の非平坦な表面に入り込んで
おり、
前記樹脂層が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分と、前記物体の非平坦な表面に入り込んでいない部分とを有し、前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分は前記物体に固着した状態であり、前記物体の非平坦な表面に入り込んでいない部分は前記物体に固着していない状態である、積層体。
【請求項5】
前記物体は多孔質体である、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記感光性樹脂は光硬化性樹脂である、請求項4又は請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記樹脂層が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分は前記樹脂層の縁部である、請求項4~請求項6のいずれ
か1項に記載の積層体。
【請求項8】
前記樹脂層が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分は前記樹脂層の総面積の50%以下である、請求項4~請求項7のいずれ
か1項に記載の積層体。
【請求項9】
(a)基板上に感光性樹脂を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
(b)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対して光を照射する一次照射工程と、
(c)前記光を照射された樹脂層の上に、非平坦な表面を有する物体を配置する物体配置工程と、
(d)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対してさらに光を照射する二次照射工程とを備え、
前記一次照射工程は、前記樹脂層の一部が硬化しない条件で行われ、前記物体配置工程は、前記物体の非平坦な表面が前記樹脂層に対向するように行われる、請求項4~請求項
8のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体の表面加工方法、積層体、及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体外での細胞培養技術において、従来の平面的な環境ではなく立体的な環境で細胞を培養する手法の検討が近年進められている。立体的な環境で細胞を培養することで、生体内により近い環境を模した実験が可能になる。また、自己の細胞を培養して生体組織を形成した後に体内に移植する再生医療分野での利用も期待されている。
【0003】
立体的な環境で細胞培養を行うための材料(足場材)として、生体適合性に優れる多孔質体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。一方、フォトリソグラフィ技術を用いて複雑な立体形状の微細構造体を作製する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-160302号公報
【文献】国際公開第2011/046169号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質体に何らかの機能を付与する目的で、半導体加工、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)作製等の分野で培われてきたフォトリソグラフィの手法を適用してその表面構造を改変することは有効な手段と考えられる。しかしながら、多孔質体の表面は半導体基板のように平坦でないため、これらの手法を多孔質体の表面加工に適用するには改善すべき点がある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、非平坦な表面に高精細な表面構造を形成可能な物体の表面加工方法、物体の非平坦な表面に高精細な表面構造を有する積層体、及び物体の非平坦な表面に形成される高精細な表面構造を有する積層体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>(a)基板上に感光性樹脂を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
(b)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対して光を照射する一次照射工程と、
(c)前記光を照射された樹脂層の上に、非平坦な表面を有する物体を配置する物体配置工程と、
(d)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対してさらに光を照射する二次照射工程とを備え、
前記一次照射工程は、前記樹脂層の一部が硬化しない条件で行われ、前記物体配置工程は、前記物体の非平坦な表面が前記樹脂層に対向するように行われる、物体の表面加工方法。
<2>前記物体は多孔質体である、<1>に記載の物体の表面加工方法。
<3>前記感光性樹脂は光硬化性樹脂である、<1>又は<2>に記載の表面加工方法。
<4>非平坦な表面を有する物体と、前記物体の非平坦な表面上に配置される樹脂層を備え、前記樹脂層は感光性樹脂の硬化物であり、前記樹脂層の少なくとも一部が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる、積層体。
<5>前記物体は多孔質体である、<4>に記載の積層体。
<6>前記感光性樹脂は光硬化性樹脂である、<4>又は<5>に記載の積層体。
<7>前記樹脂層が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分は前記樹脂層の縁部である、<4>~<6>のいずれ1項に記載の積層体。
<8>前記樹脂層が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分は前記樹脂層の総面積の50%以下である、<4>~<7>のいずれ1項に記載の積層体。
<9>前記樹脂層が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分と、前記物体の非平坦な表面に入り込んでいない部分とを有し、前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分は前記物体に固着した状態であり、前記物体の非平坦な表面に入り込んでいない部分は前記物体に固着していない状態である、<4>~<8>のいずれ1項に記載の積層体。
<10>(a)基板上に感光性樹脂を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
(b)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対して光を照射する一次照射工程と、
(c)前記光を照射された樹脂層の上に、非平坦な表面を有する物体を配置する物体配置工程と、
(d)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対してさらに光を照射する二次照射工程とを備え、
前記一次照射工程は、前記樹脂層の一部が硬化しない条件で行われ、前記物体配置工程は、前記物体の非平坦な表面が前記樹脂層に対向するように行われる、<4>~<9>のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、非平坦な表面に高精細な表面構造を形成可能な物体の表面加工方法、物体の非平坦な表面に高精細な表面構造を有する積層体、及び物体の非平坦な表面に形成される高精細な表面構造を有する積層体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の表面加工方法の一例を示す工程図である。
【
図2】実施例で樹脂層を形成した細胞培養基材の表面の電子顕微鏡画像である。
【
図3】
図2に示す細胞培養機材のメッシュ部の拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
さらに、本明細書において組成物中の各成分の量は組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
<物体の表面加工方法>
本開示の物体の表面加工方法は、
(a)基板上に感光性樹脂を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
(b)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対して光を照射する一次照射工程と、
(c)前記光を照射された樹脂層の上に、非平坦な表面を有する物体を配置する物体配置工程と、
(d)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対してさらに光を照射する二次照射工程とを備え、
前記一次照射工程は、前記樹脂層の一部が硬化しない条件で行われ、前記物体配置工程は、前記物体の非平坦な表面が前記樹脂層に対向するように行われる、物体の表面加工方法である。
【0012】
本開示の方法によれば、表面が平坦でない物体に対しても高精細な表面加工を施すことができる。
さらに本開示の方法では、物体の表面に樹脂からなる表面構造を、樹脂の接着力を利用して形成する。このため、高温、高真空、プラズマ等を用いる接着接合技術よりも簡便かつ安価な方法で実施することができる。また、使用する材料をより広い範囲から選択することができる。
【0013】
(a)樹脂層形成工程
樹脂層形成工程では、基板上に感光性樹脂を含む樹脂層を形成する。
本開示の方法で使用する基板は、光照射工程で照射される光を透過しうるものであれば特に制限されない。例えば、ガラス等の無機材料からなる基板であっても、樹脂等の有機材料からなる基板であってもよい。
【0014】
樹脂層に含まれる感光性樹脂は、光照射工程で照射される光に反応しうるものであれば特に制限されない。例えば、フォトリソグラフィ技術においてフォトレジストとして利用される感光性樹脂から選択してもよい。感光性樹脂は、光照射により現像液への溶解性が低下するタイプ(ネガ型、光硬化性)の感光性樹脂であっても、光照射により現像液への溶解性が増大するタイプ(ポジ型、光分解性)の感光性樹脂であってもよい。
【0015】
感光性樹脂として具体的には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。
【0016】
基板上に樹脂層を形成する方法は、特に制限されない。例えば、スピンコータ、ロールコータ、スクリーン印刷、転写等の公知の手法で形成することができる。樹脂層は、パターン状に形成されても、一様に(パターンなしで)形成されてもよい。
【0017】
基板上に形成される樹脂層の厚みは、特に制限されない。例えば、0.1μm~100μmの範囲から選択してもよい。均等な厚みの樹脂層を形成する観点からは、樹脂層を形成する樹脂は、樹脂層形成の際に流動性を有していることが好ましく、液状又はペースト状であることがより好ましい。
【0018】
(b)一次照射工程
一次照射工程では、基板の樹脂層が形成された側と逆側の面(以下、裏面ともいう)から、樹脂層に対して光を照射する。
樹脂層に対して照射する光は、樹脂層の全面に照射されても、パターン状に照射されてもよい。樹脂層に光をパターン状に照射することで、樹脂層に硬化部分(光硬化性樹脂の場合は、露光部)と未硬化部分(光硬化性樹脂の場合は、未露光部)をパターン状に形成することができる。この樹脂層の未硬化部を除去することで、物体の表面に感光性樹脂の硬化物からなるパターン状の構造を形成することができる。
【0019】
樹脂層に対してパターン状に光を照射する方法は、特に制限されない。例えば、基板の表面に遮光性の材料でパターンを形成するかフォトマスクを用いて、光が部分的に樹脂層に到達しないようにする方法、光の照射をパターン状に実施する方法などが挙げられる。高精細なパターンを形成する観点からは、基板の表面に遮光性の材料でパターンを形成するかフォトマスクを用いる方法が好ましく、基板の樹脂層が形成される側の表面にパターンを形成する方法がより好ましい。
【0020】
樹脂層に対して照射される光の種類は、感光性樹脂に反応を生じさせうるものであれば、特に制限されない。中でも、加工精度、加工のし易さ等の観点からは、紫外線が好ましい。光照射に用いる光源は特に制限されず、例えば、フォトリソグラフィ技術で一般に使用される光源から選択してもよい。具体的には、発光ダイオード(LED)、半導体レーザ、エキシマレーザ、メタルハライドランプ、高圧水銀灯等が挙げられる。
【0021】
本開示の方法では、樹脂層に対する光の照射が、樹脂層の一部が硬化しない条件で行われる。これにより、光照射後の樹脂層の上に物体を配置した際に、樹脂層の硬化していない部分が物体の非平坦な表面の凹凸に入り込む。物体の非平坦な表面の凹凸に入り込んだ状態の樹脂が後述する二次照射工程で硬化すると、樹脂が本来有する接着力に加え、アンカー効果が発現して樹脂が強固に物体に接着する。
【0022】
本開示の方法では、光の照射を基板の裏面から行う。これにより、樹脂層が物体の非平坦な表面と接する部分(すなわち、光が照射される側と逆側)に硬化していない部分を効果的に作り出すことができる。
【0023】
樹脂層に対する光の照射を、樹脂層の一部が硬化しない条件で行う方法は、特に制限されない。例えば、照射条件(照射強度、照射時間等)を調整しても、その他の条件を調整してもよい。
【0024】
(c)物体配置工程
物体配置工程では、光を照射された樹脂層の上に非平坦な表面を有する物体を配置する。
非平坦な表面を有する物体の形態は、特に制限されない。例えば、表面が非平坦であって内部は密である物体であっても、スポンジのように内部に空隙を有する物体(多孔質体)であっても、その他の形態の物体であってもよい。また、物体の表面は全てが非平坦であっても、部分的に非平坦であってもよい。
【0025】
物体が有する非平坦な表面の具体的な態様は、樹脂層の硬化していない部分が入り込むことができる状態であれば、特に制限されない。例えば、表面に細孔が存在する状態、表面に起伏がある状態、表面が起毛した状態などであってもよい。
【0026】
非平坦な表面を有する物体の材質は、特に制限されない。例えば、樹脂等の有機材料からなる物体であっても、ガラス、カーボン、セラミックス等の無機材料からなる物体であっても、これらの複合体であってもよい。
【0027】
物体の配置は、物体の非平坦な表面が樹脂層に対向するように行われる。これにより、硬化していない樹脂層の一部が物体の非平坦な表面の凹凸に入り込む。物体の配置は、加圧せずに行っても、加圧して行ってもよい。
【0028】
(d)二次照射工程
二次照射工程では、物体配置工程の後に、基板の裏面から、樹脂層に対してさらに光を照射する。
樹脂層に対して二次照射工程を行うことで、物体の非平坦な表面の凹凸に入り込んだ硬化していない樹脂が硬化して、樹脂が物体に強固に接着する。
【0029】
二次照射工程を実施する方法は、特に制限されない。例えば、一次照射工程において樹脂層に対して光を照射する方法に準じて行うことができる。
【0030】
二次照射工程で樹脂層に対して光を照射する領域は、樹脂層の全面であっても、一部であってもよい。
二次照射工程で樹脂層に対して光を照射する領域が樹脂層の一部である場合、光を照射する領域の位置は特に制限されない。例えば、樹脂層の縁部であっても、その他の部分であってもよい。光を照射する領域の面積の割合は特に制限されない。例えば、樹脂層の総面積の50%以下であっても、30%以下であっても、10%以下であってもよい。また、樹脂層の総面積の1%以上であっても、5%以上であっても、10%以上であってもよい。
【0031】
樹脂層が二次照射工程で光を照射される領域と、光を照射されない領域とを有する場合、光を照射される領域は物体に固着した状態であり、光を照射されない領域は物体に固着していない状態であってもよい。
【0032】
一次照射工程における光の照射をパターン状に行い、未硬化部(ネガティブ型光硬化性樹脂の場合は、未露光部)を後述する除去工程で除去して樹脂層にパターンを形成する場合は、樹脂層のパターンを形成しない部分(例えば、樹脂層の縁部)にのみ光を照射してもよい。
【0033】
(e)除去工程
本開示の方法では、二次照射工程の後に、樹脂層の硬化していない部分を除去してもよい。
樹脂層に対する光の照射をパターン状に行った場合は、硬化していない部分(光硬化性樹脂を用いる場合は、未露光部)を除去することで、物体の表面にパターン状の樹脂からなる表面構造を形成することができる。
本開示の方法では、接着時に流動性を有する樹脂層(感光性樹脂)が、意図しない箇所に流動しても、その後の除去(現像)工程で除去できる。このため、マイクロスケールの微細な構造に対しても適用できる。
【0034】
樹脂層の硬化していない部分を除去する手法は、特に制限されない。例えば、フォトリソグラフィ技術で一般に使用される現像液を用いて除去してもよい。
【0035】
(f)剥離工程
本開示の方法では、樹脂層から基板を剥離してもよい。
基板から樹脂層を剥離する場合は、剥離しやすくするための層(犠牲層等)を基板の樹脂層が形成される面にあらかじめ形成してもよい。また、樹脂層を剥離した後の基板は、再利用してもよい。
【0036】
以下、図面を参照して本開示の方法を具体的に説明する。
図1は、本開示の表面加工方法の一例を概略的に示す工程図である。本工程では、光硬化性の感光樹脂を用いて樹脂層を形成する。
【0037】
まず、
図1(a)に示すように、基板1の上に樹脂層2を形成する(樹脂層形成工程)。基板1の樹脂層が形成される側の面には、一時光照射工程で使用される光を透過しない材料でパターンが形成されている。また、樹脂層の基板からの剥離を容易にするための犠牲層3が形成されている。
【0038】
次いで、
図1(b)に示すように、基板1の樹脂層2が形成された面と逆側の面(裏面)から光4を照射する(一次照射工程)。これにより、樹脂層2の光が照射された領域(露光部)の樹脂が硬化する。光4の照射は、樹脂層2の物体5と接する側が硬化しない条件で行われる。
【0039】
次いで、
図1(c)に示すように、樹脂層2の上に物体5を配置する(物体配置工程)。物体5は非平坦な表面を有し、この表面が樹脂層2に対向するように配置される。これにより、樹脂層2の硬化していない部分が物体5の非平坦な表面の凹凸に入り込む。
【0040】
次いで、
図1(d)に示すように、基板1の裏面からさらに光6を照射する(二次照射工程)。本工程では、マスク7を用いて、光6が樹脂層2の縁部にのみ照射されるようにする。これにより、樹脂層2の縁部では、物体5の非平坦な表面の凹凸に入り込んだ部分が硬化して、物体5に強固に接着する。
【0041】
次いで、
図1(e)に示すように、樹脂層の硬化していない部分を除去する(除去工程)。これにより、樹脂層2の除去されなかった部分からなるパターン状の構造が物体5の表面に形成される。
【0042】
次いで、
図1(f)に示すように、樹脂層2から基板1を剥離する(剥離工程)。これにより、樹脂層2によるパターン状の構造が表面に形成された物体5が得られる。
【0043】
本開示の方法により表面加工が施された物体は、種々の用途に利用できる。例えば、多孔質体の表面に所定のサイズの開口部を有するパターンの樹脂層を設けることで、特定の物体を選択的に通過又は遮断する目的に利用することができる。
【0044】
ある実施態様では、本開示の方法により表面加工が施された物体は、細胞の培養を行うための基材(足場材)として利用される。
具体的には、例えば、生体適合性を有する材料からなる多孔質体の表面に、血管外部に存在する細胞のサイズよりも小さい開口部を有するパターンの樹脂層を形成することで、生体内の血管付近の環境を擬似的に作製できる。このように表面加工された物体を足場材として用いることで、多孔質部分(血管外部に相当)では血管外部の細胞の3次元的な培養を、樹脂層部分(血管壁に相当)では血管内皮細胞の2次元的な培養を並行して実施する(共培養)ことができる。
【0045】
<積層体>
本開示の積層体は、非平坦な表面を有する物体と、前記物体の非平坦な表面上に配置される樹脂層を備え、前記樹脂層は感光性樹脂の硬化物であり、前記樹脂層の少なくとも一部が前記物体の非平坦な表面に入り込んでいる、積層体である。
【0046】
本開示の積層体は、物体の非平坦な表面上に配置される樹脂層を備え、この樹脂層は感光性樹脂を用いて形成される。このため、物体の表面が平坦でなくても、フォトリソグラフィ技術を利用して高精細な表面構造がその上に形成される。
【0047】
さらに本開示の積層体は、樹脂層の少なくとも一部が物体の非平坦な表面に入り込んでいる。これにより、樹脂層が本来有する接着力に加え、アンカー効果が発現して、樹脂層が物体に強固に接着している。
【0048】
樹脂層が物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分の位置は特に制限されない。例えば、樹脂層の縁部であっても、その他の部分であってもよい。樹脂層が物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分の面積の割合は特に制限されない。例えば、樹脂層の総面積の50%以下であっても、30%以下であっても、20%以下であってもよい。また、樹脂層の総面積の1%以上であっても、5%以上であっても、10%以上であってもよい。
【0049】
樹脂層が物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分と、物体の非平坦な表面に入り込んでいない部分とを有する場合、樹脂層の物体の非平坦な表面に入り込んでいる部分は物体に固着した状態であり、樹脂層の物体の非平坦な表面に入り込んでいない部分は物体に固着していない状態であってもよい。
【0050】
本開示の積層体を構成する物体及び樹脂層の詳細及び好ましい態様は、上述した物体の表面加工方法において使用される物体及び樹脂層の詳細及び好ましい態様と同様である。
【0051】
本開示の積層体は、種々の用途に利用できる。例えば、上述した物体の表面加工方法において表面加工がされた物体の用途として述べたような細胞の培養を行うための基材としての利用が挙げられる。
【0052】
<積層体の製造方法>
本開示の積層体の製造方法は、上述した積層体の製造方法であって、(a)基板上に感光性樹脂を含む樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
(b)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対して光を照射する一次照射工程と、
(c)前記光を照射された樹脂層の上に、非平坦な表面を有する物体を配置する物体配置工程と、
(d)前記基板の前記樹脂層が形成された側と逆側の面から、前記樹脂層に対してさらに光を照射する二次照射工程とを備え、
前記一次照射工程は、前記樹脂層の一部が硬化しない条件で行われ、前記物体配置工程は、前記物体の非平坦な表面が前記樹脂層に対向するように行われる、積層体の製造方法である。
【0053】
上記方法によれば、物体の表面が平坦でなくても、フォトリソグラフィ技術を利用して高精細な表面構造が物体の表面に形成された積層体を製造することができる。
【0054】
上記方法における各工程の詳細及び好ましい態様は、上述した物体の表面加工方法における各工程の詳細及び好ましい態様と同様である。
【実施例】
【0055】
<表面加工試験>
ガラス基板の片面に、孔径5μm、格子サイズ4μmのメッシュパターンをクロムを用いて形成し、犠牲層(Omnicoat、膜厚:20nm以下)をその上に形成した。次いで、犠牲層の上に、感光性樹脂としてエポキシ系ネガティブレジスト(SU-8、日本化薬株式会社)を用いて樹脂層を形成した(厚さ:10μm)。
【0056】
ガラス基板の樹脂層が形成された面と逆側の面から、紫外線(波長:365nm)を照射し、樹脂層の光が照射された部分を硬化させた。このとき、樹脂層の光照射面と逆側の部分が硬化しないように照射条件を調整した。
【0057】
光照射後の樹脂層の上に、多孔質の細胞培養基材(Alvetex Scaffold、直径8mm、厚さ:200μm)を配置した。このとき、樹脂層の硬化していない部分が表面張力によって細胞培養基材の樹脂層と接する面の細孔に入り込んだ状態になった。
【0058】
さらに、ガラス基板の樹脂層が形成された面と逆側の面から、紫外線(波長:365nm)を照射した。このとき、マスクを用いて、細胞培養機材の縁部に相当する樹脂層にのみ光が照射されるようにして、樹脂を完全に硬化させた。
【0059】
次いで、現像液(SU-8 Developer、日本化薬株式会社)を用いて未硬化の樹脂を溶解除去し、ガラス基板を剥離した。得られた細胞培養基材の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、
図2及び
図3に示すように、感光性樹脂の硬化物からなるメッシュ状の樹脂層が形成された部分(メッシュ部)と、メッシュ部の周囲に感光性樹脂が細胞培養基材の細孔に入り込んで硬化した部分(接着部)とが形成されていた。
【0060】
<細胞培養試験>
上記方法で作製したメッシュ状の樹脂層を備える細胞培養基材を生体内の2次元と3次元構造に見立て、HeLa細胞とHepG2細胞の共培養を実施した。その結果、細胞培養基材側でHeLa細胞、樹脂層側でHepG2細胞をそれぞれ培養することができた。
【符号の説明】
【0061】
1…基板、2…樹脂層、3…犠牲層、4…光、5…物体、6…光、7…マスク