(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】レボドパ誘導体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08G 65/333 20060101AFI20231227BHJP
C08G 69/40 20060101ALI20231227BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20231227BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231227BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231227BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C08G65/333
C08G69/40
A61K31/198
A61K45/00
A61P25/16
A61P43/00 121
A61K9/107
A61P43/00 123
(21)【出願番号】P 2020572201
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004494
(87)【国際公開番号】W WO2020166473
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019022895
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長崎 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憂菜
(72)【発明者】
【氏名】ホン ビン ロン
(72)【発明者】
【氏名】ペンナパー・ションパトンピクンラット
(72)【発明者】
【氏名】ピライワンワディ フタメカリン
(72)【発明者】
【氏名】高橋 黎太
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-543014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/333
C08G 69/40
A61K 31/198
A61K 45/00
A61P 25/16
A61P 43/00
A61K 9/107
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I)または(II)で表されるブロック共重合体。
上式中、各変動可能な略号は次のとおりである。
上式中、
Aは、非置換または置換C
1-C
12アルキルを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基または式R
'R
"CH-基を表し、ここで、R
'およびR
"は独立してC
1-C
4アルコキシまたはR
'とR
"は一緒になって-OCH
2CH
2O-、-O(CH
2)
3O-もしくは-O(CH
2)
4O-を表す。
L
1は、単結合、-(CH
2)a-NH-または-(CH
2)a-O-を表し、
L
2は、-(CH
2)a-C(O)-または-C(O)-(CH
2)a-C(O)-を表し、ここで、aは1~6の整数である。
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、ハロゲン若しくはC
1-C
6-アルキルオキシ若しくは置換フェニルで置換されていてもよいC
1-C
6-アルキルカルボニルを表す。
Y
1は水素原子、ハロゲン若しくはC
1-C
6-アルキルオキシ若しくは置換フェニル若しくはパーフルオロ基で置換されていてもよいC
1-C
20-アルキルカルボニルまたはベンゾイル基を表す。
Y
2はヒドロキシル、ハロゲン若しくはC
1-C
6-アルコキシ若しくは置換フェニル若しくはパーフルオロ基で置換されていてもよいC
1-C
20-アルキルオキシまたはベンジルオキシ基を表す。
mは2~100の整数を表し、nは4~1,000の整数を表す。
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体であって、式(I)で表される、共重合体。
【請求項3】
請求項1~2のいずれかに記載の共重合体を含有するナノミセル。
【請求項4】
請求項1~2のいずれかに記載の共重合体又は請求項3に記載のナノミセルを有効成分として含んでなるパーキンソン病の予防又は治療用製剤。
【請求項5】
請求項4に記載のパーキンソン病の予防又は治療用製剤であって、さらなる有効成分として、L-ドーパ脱炭酸酵素阻害薬、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬、カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬、ノルアドレナリン増強薬、アデノシンA
2A受容体刺激薬、L-ドーパ及び/又はドーパミン拮抗薬、ドーパミンD2受容体遮断薬から選ばれる少なくとも1種を含む、製剤。
【請求項6】
パーキンソン病の予防又は治療に使用するための請求項1~2のいずれかの共重合体。
【請求項7】
パーキンソン病の予防又は治療に使用するための請求項
3に記載のナノミセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ポリ(レボドパ誘導体)を含むブロック共重合体、より具体的には、ポリ(エチエレングリコール)又は(PEG)のセグメントとポリ(レボドパ誘導体)セグメントを含むブロック共重合体、並びにその使用、より具体的には前記ブロック共重合体のパーキンソン病の治療に向けた用途についても提供する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子変異によって脳内のドーパミン細胞数が減少し、神経伝達物質であるドーパミンが十分に生成されず、筋固縮や振戦といった症状が現れる疾患をパーキンソン病(以下、PDと略記することあり。)という。現在根本的治療は行われておらず、ドーパミンの前駆体であり、血液と脳の組織液との間の物質交換を制限する機構である血液脳関門(BBB)を通過可能なL-ドーパがPD治療薬(レボドパ)として用いられている(非特許文献1)。
【0003】
L-ドーパ(3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン又はレボドパ)は、治療初期での効果が高く副作用が少なく廉価である点で極めて優れる一方で、半減期の短さが最大の欠点である。治療後期では、原疾患の進行に伴いドーパミン神経細胞のドーパミン保持能が低下することで、その治療域はさらに狭くなっていく。すると、L-ドーパの血中滞留性の低さから投与量の調整が困難となり、一日の中で症状の改善と悪化を繰り返すウェアリング・オフ現象や過剰投与によるジスキネジアがみられるようになる(非特許文献2)。
【0004】
このような問題を克服するために、L-ドーパのプロドラッグ、例えば、エステル化若しくはL-ドーパをはじめとする、L-ドーパのエステル若しくはペプチドの提供(特許文献1)又はナノ粒子を利用しL-ドーパの血中滞留性向上を目指した報告例がいくつか存在する。後者としては、例えば、PLGAにレボドパメチルエステルを担持させたナノ粒子はL-ドーパの血中での半減期を延長し(非特許文献3)、キトサンを外殻としドーパミンをコアに担持させたミセルは、キトサンがBBBのタイトジャンクションを緩めることでミセルごと脳内へ透過することが可能である(非特許文献4)。しかし、前記のナノ粒子ではその弱い結合力から予期せぬL-ドーパの漏れ出しを引き起こす可能性があり、後者ではタイトジャンクションの緩みから血中の毒素なども同時に脳内へ移行可能となるといった欠点が示唆されている。
【0005】
これまでにパーキンソン病治療を目指した効果的なドーパミンデリバリーシステムの報告例が少ない要因として、L-ドーパの二つの水酸基の高い反応性に伴う扱いにくさが挙げられる。L-ドーパは大気中で容易に酸化重合を引き起こし、メラニン様の粘性黒色物質を生成することから、表面改質剤としての応用はなされているものの、その結合は炭素-炭素の強力なものであるために生体内で分解することはできず、プロドラッグとしての使用は困難である(非特許文献5)。一方で、L-ドーパを生体内の酵素で分解可能であるペプチド結合によってポリマー化し、生体用接着剤として利用する報告例があるものの、合成中の酸化重合による副反応については考慮されていない(非特許文献6)。そこで、反応中の酸化重合を防ぐために二つの水酸基をあらかじめアセチル基で保護する方法も存在するが、塩化水素を用いるため危険を伴う(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】神田 知之(Kanda, T. (2008). Folia Pharmacol. Jpn., 131, 275-280
【文献】Cenci, M. A. (2014). Frontiers in neurology, 5, 242
【文献】Yang, X. (2012). International journal of nanomedicine, 7, 2077
【文献】Trapani, A. (2011). International journal of pharmaceutics, 419(1-2), 296-307
【文献】Xi, Z. (2009). Journal of Membrane Science, 327(1-2), 244-253.
【文献】Lu, D. (2017). ACS Appl. Mater. Interfaces, 9, 16756-16766
【文献】Gyu, H, H. (2017). Chem. Commun., 50, 4351-4353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、種々のL-ドーパ誘導体又はプロドラッグが提案されてきたものの、現在使用されているパーキンソン病治療薬レボドパは、血中滞留性の低さが短所であり、パーキンソン病特有の症状の長期的緩和、及びレボドパ誘発性ジスキネジア(LID)の抑制が求められている。そして、従来のパーキンソン病治療を目指したドーパミンデリバリーシステム用ナノ粒子の欠点である、L-ドーパの予期せぬ漏れ出しやBBBへのダメージなどを克服する必要性は依然として存在する。
【0009】
キャリアにL-ドーパが創り込まれたブロック共重合体(PEG-b-ポリ(3,4-ヒドロキシ保護L-ドーパ))を合成したところ、このような共重合体を用いることにより、上記の問題点を有意に軽減するか解消できることが見出された。理論に拘束されるものでないが、前記共重合体は水性媒体中でのそれらの自己組織化により、温血動物における血中滞留性を向上することのみならず、当該動物の体内に存在する酵素にてゆっくりと3,4-ヒドロキシ保護基を離脱し、しかもペプチド結合を開裂し、モノマーの状態でL-ドーパを放出することにより、L-ドーパ本来の作用を発揮するようになるものと推察される。前記3,4-ヒドロキシ保護L-ドーパは、L-ドーパの酸化的重合が主因である二つの水酸基が保護されていることにより、当該重合を抑制するとともに、ポリ(L-ドーパ)を疎水化することもでき、こうして水性媒体(緩衝化されていてもよい水溶液又は生理食塩水)中で容易に自己組織化し、数十nmサイズの粒子を形成することができる。このようにして作成した自己組織化ナノ粒子はヒトをはじめとする温血動物の体内で徐々に分解し、パーキンソン病に対する高い効果を発揮することに寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本願明細書では、態様1として、次式(I)及び(II)で表されるブロック共重合体が提供される。
【0011】
【0012】
上式中、
Aは、非置換または置換C1-C12アルキルを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R’R”CH-基を表し、ここで、R’およびR”は独立してC1-C4アルコキシまたはR’とR”は一緒になって-OCH2CH2O-、-O(CH2)3O-もしくは-O(CH2)4O-を表す。
【0013】
L1及びL2は、それぞれ独立して連結基を表す。
【0014】
R1及びR2は、それぞれ独立して保護基を表す。
【0015】
Y1は水素原子、ハロゲン若しくはC1-C6-アルキルオキシ若しくは置換フェニル若しくはパーフルオロ基で置換されていてもよいC1-C20-アルキルカルボニル、ベンゾイル基を表す。Y2はヒドロキシル、ハロゲン若しくはC1-C6-アルコキシ若しくは置換フェニル若しくはパーフルオロ基で置換されていてもよいC1-C20-アルキルオキシ、ベンジルオキシ基を表す。
mは2~100の整数を表し、nは4~1,000の整数を表す。
【0016】
本明細書では、より具体的には、以下の態様及びその使用に関する態様も提供される。
態様2:態様1の共重合体であって、L1の連結基は単結合、-(CH2)a-NH-、-(CH2)a-O-、-S-又は-Ph-(フェニレン)を表し、L2の連結基はカルボニル、-(CH2)a-C(O)-、-C(O)-(CH2)a-C(O)-、-PhC(O)-又は-Ph-NH-を表し、ここで、aは1~6の整数であり、R1及びR2の保護基は、それぞれ独立して、ハロゲン若しくはC1-C6-アルキルオキシ若しくは置換フェニルで置換されていてもよいC1-C6-アルキルカルボニルを表す、共重合体。
態様3:態様1の共重合体であって、式(I)で表される、共重合体。
態様4:態様1~3のいずれかの共重合体を含有するナノミセル。
態様5:態様1~3のいずれかの共重合体又は態様4のナノミセルを有効成分として含んでなるパーキンソン病の予防又は治療用製剤。
態様6:さらなる有効成分として、L-ドーパ脱炭酸酵素阻害薬、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬、カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬、ノルアドレナリン増強薬、アデノシンA2A受容体刺激薬、L-ドーパ及び/又はドーパミン拮抗薬、ドーパミンD2受容体遮断薬から選ばれる少なく1種を含む、態様5のパーキンソン病の予防又は治療用製剤。
態様7:パーキンソン病の予防又は治療に使用するための態様1~3のいずれかの共重合体。
態様8:パーキンソン病の予防又は治療に使用するための態様4のナノミセル。
態様9:投与を必要とする被検体(subject)に予防又は治療に有効量の態様1の共重合体を投与するステップを含んでなるパーキンソン病の予防又は治療方法。
態様10:投与を必要とする被検体(subject)に予防又は治療に有効量の態様1の態様4のナノミセルを投与するステップを含んでなるパーキンソン病の予防又は治療方法。
【発明の効果】
【0017】
式(I)及び(II)で表されるブロック共重合体は、血中滞留性が高く、一方、温血動生体内酵素によって、3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン単位上の3,4-位保護基が離脱し、また、ポリマー主鎖のペプチド結合が徐々に開裂し得ることにより、長期に渡って遊離のL-ドーパを血中へ徐々に放出できるので、パーキンソン病特有の症状を効果的に緩和し、レボドパ誘発性ジスキネジア(LID)の抑制を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】L-ドーパ含有ブロック共重合体によるナノメディシンの設計、生体内投与後の推移について略図的に説明する概念図
【
図2】L-DOPA(OAc)
2及びL-DOPA(OAc)
2-NCAの
1H NMRスペクトラム
【
図3】PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)の
1H NMRスペクトラム
【
図4】PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)の水中ミセル溶液のDLS測定結果を表す図
【
図5】PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)の水中ミセルナノ粒子のDLSを用いたpH安定性試験結果を表すグラフ
【
図6】水溶液中のPEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)の酵素分解によるミセルの崩壊試験の結果を表す図
【
図8】試験2(1)におけるPEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)のミセルナノ粒子のパーキンソン病治療効果の検証スケジュールの概略図
【
図9】グリッド・ウォーキング(Grid walking)テストの結果を表すグラフ
【
図10】レスティング・トレマー(Resting tremor)試験の測定結果を表すグラフ
【
図11】ナロウ ビーム歩行(Narrow beam walk)試験の測定結果を表すグラフ
【
図12】PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)のミセルナノ粒子のパーキンソン病治療効果の検証における体重推移測定結果を表すグラフ
【
図13】試験2(5)における当該ナノ粒子のL-ドーパ誘発性ジスキネジア抑制効果の検証スケジュールの概略図
【
図15】スライダー(Slider)試験の測定結果を表すグラフ
【
図16】パーキンソン病モデルマウスに対するNano
DOPA投与に関する各種臓器(心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓)の染色図の写真
【
図17】薬剤の腹腔内投与によるL-ドーパの血中濃度変化を表すグラフ
【
図18】薬剤の経口投与によるL-ドーパの血中濃度変化を表すグラフ
【
図19】薬剤の経口投与によるL-ドーパの血中AUCを表すグラフ
【
図20】試験6におけるマウスモデルの処置スケジュールの概略図
【
図21】薬剤の経口投与によるパーキンソン病マウスモデルに対する効果を表すグラフ
【発明の詳細な記述】
【0019】
以下に、本明細書に開示される態様又は主題について説明を加える。記載される全ての略号及び技術用語について、特記しない限り当該技術分野で常用されている若しくは当業者に一般に理解されている意味又は内容を表すものとして用いている。「若しくは(or)」、「又は(or)」は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、「及び(and)」を含むものとする。使用されている場合、「含んでなる(comprising)」、「含む(comprise)」、「含有する(containing) 」、等は、「包含する(including)」を意味する。したがって、例えば、「A 又はBを含んでなる(comprising A or B)」は、「Aを含んでなる」又は「Bを含んでなる」又は「A及びBを含んでなる」を意味し、加えて、これらには、A又はB以外の他のいかなる構成をも含み得ることを意味する。
【0020】
〔1〕ブロック共重合体
ブロック共重合体を規定する各用語又は各基は次の意味を有し、また、次の具体例を挙げることができる。
【0021】
連結基とは、PEGセグメントと3,4-保護 L-ドーパセグメントを連結する単結合又は二価連結基を意味し、最大34個、好ましくは最大18個、より好ましくは最大10個の原子団、C1-C6-アルキル、-CO-、-O-、-NH-、-NRr-(ここで、rはC1-C6-アルキル、C1-C6-アルキルオキシ等であることができる)、フェニレン基等構成され、限定されるものでないが、L1については、単結合、-(CH2)a-NH-、-(CH2)a-O-又は-S-であることができ、L2については、カルボニル、-(CH2)a-C(O)-、-C(O)-(CH2)a-C(O)-、-PhC(O)-又は-Ph-NH-で表され、ここで、aは1~6の整数である。これらの基の方向性は、それぞれ、式I及びIIの化学構造式のどれかに一致することが前提である。
【0022】
両式中、mは、2~100、2~50、2~20又は2~10の整数であることができ、nは、4~1,000、8~1,000又は10~500の整数でることができる。
【0023】
保護基とは、L-ドーパの3,4-に存在する反応性の官能基であるヒドロキシルに結合してそれらの反応性をマスク、又は低下させる基であって、ヒトをはじめとする温血動物体内又は被検体内(以下、生体内ともいう、場合あり。)で加水分解可能な基を意味する。換言すれば、L-ドーパのプロドラッグを形成するのに用いられている保護基を挙げることができ、限定されるものでないが、例えば、ハロゲン若しくはC1-C6-アルキルオキシ若しくは置換フェニルで置換されていてもよいC1-C6-アルキルカルボニル、又はベンゾイルであることができる。これらの基の具体的なものとしては、アセチル、ピバロイル、ベンジルカルボニル、ベンゾイル等が挙げられる。これらの基は、同一又は異なることができるが、同一のものが本発明の目的上、好ましく、アセチルを選ぶことが好都合である。本発明者等は、アセチルにより、上記ヒドロキシルを保護する従来法に伴う危険性を回避する手段として、気体塩化水素に代えて塩化水素の1M酢酸溶液を用いる方法を提案する。本明細書をとおして、C1-C6-又はC1-C20-等の表示は、炭素原子を1乃至6個、又は1乃至12個有する、記載されている基を意味する。
【0024】
式I及びIIで表されるブロック共重合体は、親水性鎖ポリエチレングリコール(PEG)セグメントと疎水化したポリアミノ酸を有するセグメントが連結基を介して共有結合されており、両親媒性を示し、極性溶媒、例えば水中でこれらが疎水性相互作用により水中で高い可動性のPEGセグメントをシェルとし、後者のセグメントをコアとするミセルを形成すると推認でき、こうして、血中滞留性が向上するものと理解できる。かようなミセル構造を採るにもかかわらず、かようなミセル構造を構築している式I及びIIで表されるブロック共重合体は、生体内酵素の作用を受けて保護基の離脱、ポリマー主鎖の開裂により、究極的には、遊離のL-ドーパを放出し、それ本来の生理活性を示すものと理解される。かようなミセルは水性媒体、水中で動的光散乱(DLS)の測定結果から、平均粒径20~80nmを有する。ミセル形成操作それ自体は公知の方法にしたがって実施できる。
【0025】
かような共重合体は、(PEG)セグメントと疎水化ポリアミノ酸セグメントを個別に用意し、それらを上記の連結基を形成するように連結することにより製造できる。前者は、A部分に対応するイニシエーターを用い、エチレンオキシドの開環アニオン重合による、それ自体公知の方法により提供することができる。後者は、3,4-ヒドロキシ保護L-ドーパを用い、それ自体公知の溶液又は固相ペプチド合成により提供することができる。しかし、式(I)の共重合体は、特定の具体例を後述するが、PEGセグメントを含有するマクロイニシエータを用い、3,4-ヒドロキシ保護L-ドーパのN-カルボン酸無水物(NCA)の開環アニオン重合により提供することもできる。
【0026】
〔2〕使用
上記態様又は主題のブロック共重合体は、それ自体又はそのミセルを有効成分としてパーキンソン病の予防又は治療のために使用することができる。このような使用の態様は、前記共重合体又はミセルを有効成分とし含んでなるパーキンソン病の予防又は治療用製剤又は組成物であることができ、また、パーキンソン病の予防又は治療のために使用する前記共重合体又はミセルであることができ、またさらに、投与を必要とする被検体(ヒト若しくは温血動物)に予防又は治療上有効量の前記共重合体又はミセルを投与するステップを含んでなるパーキンソン病の予防又は治療方法であることもできる。
このような共重合体、特にミセルは極端な塩基性条件下を除き、抵いpH条件を包含する広範な条件下で安定であることから、経口又は非経口のいずれの投与経路を介しても患者を包含する被検体(ヒト以外の温血動物を含む。)に投与できる。このような製剤又は組成物は有効成分としての前記ブロック共重合体に加えて、製薬学的に許容される担体又は希釈剤若しくは賦形剤を含有せしめることができる。担体、希釈剤、賦形剤の性質は、使用される特定の投与形式に依存する。経口投与用をはじめとする固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤、カプセル剤の形態)に関しては、当該技術分野で常用されている無毒性のもであって、例えば、マンニトール、乳糖、乳糖等の賦形剤、デンプン等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシルプロピルセルロース等の結合剤を包含することができる。非経口投与用としては、当該ブロック共重合体それ自体は、水性媒体(水、緩衝化蒸留水、緩衝化生理食塩水、等)に可溶化できるので、担体、希釈剤、賦形剤は、かような媒体(水、生理食塩水、緩衝化蒸留水、平衡塩類溶液)、ブドウ糖、マンニトール、乳糖、水性デキストロース、グリセロースなどであることができる。非経口用製剤又は組成物の形態は、溶液、懸濁液、等として提供できる。
【0027】
さらに、このような製剤又は組成物は、開示される製剤の使用目的とする作用に悪影響を及ぼさない限り、当該ブロック共重合体以外の有効成分を含有することができる。このような有効成分としては、限定されるものでないが、L-ドーパ脱炭酸酵素阻害薬、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬、カテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)阻害薬、ノルアドレナリン増強薬、アデノシンA2A受容体刺激薬、L-ドーパ及び/又はドーパミン拮抗薬、ドーパミンD2受容体遮断薬を挙げることができる。それぞれ限定されるものでないが、L-ドーパ脱炭酸酵素阻害薬としては、カルビドパ、ベンセラジド、等を、MAO-B阻害薬としては、セレギリン、ラサギリン、ゾニサラミド、等を、COMT阻害薬としては、エンタカルボン等を、ノルアドレナリン増強薬としては、ドロキシドパ、等を、アデノシンA2A受容体刺激薬としては、アマンタジン、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチン、アポモルヒネ、カベルゴリン、ブロモクリプチン、ペルコリド、アジレクト、等を、L-ドーパ及び/又はドーパミン拮抗薬としては、イストラデフィリン、等を、ドーパミンD2受容体遮断薬としては、トリヘキシフェニジル、プロメタジン、ビペリリデン、プロフェナミン、メキサン、ピロヘプチン、等を挙げることができる。
【0028】
このような製剤又は組成物は、合剤として、又はそれぞれ個別の製剤の組み合わせの形態であることができる。これらの製剤又は組成物は、ブロック共重合体(L-ドーパ換算)及び/又は他の有効成分は、それぞれ、1日0.1~1000mg、好ましくは、200mg~750mgで被検体に経口又は非経口(例えば、注射剤として、静脈内、皮下、経腸、腹腔内、等)投与できる。
【0029】
以上の説明の理解を容易にするために、前記共重合体及び投与後の薬剤の推移を示す概念図を
図1として提供する。
【0030】
パーキンソン病とは、脳内の運動にかかわる神経伝達物質ドーパミンの不足によりもたらされる障害である。運動障害としては、4大症状と呼ばれる代表的な静止時振戦、筋強剛(金筋固縮)、動作緩慢、姿勢反射、等を挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下に、上記態様を具体例により説明するが、ここでは、繁雑さを避けるため、式(Ia)で表わされるブロック共重合体に属し、保護基がアセチルである場合を例として挙げるが、本発明の範囲はこれらの例に限定されるものではない。
【0032】
製造例1: 共重合体の合成
態様1に従うブロック共重合体は次のスキーム1に示される合成経路に基づいて得ることができる。
【0033】
【0034】
上記スキームにみられるように、合成は大きく分けて、マクロイニシエータであるPEG-NH2(PEGはポリ(ポリエチレングリコール)又はポリ(オキシエチレン)の略号である。)の合成、モノマーとなるL-DOPA(OAc)2-NCAの合成、これらを用いたPEG末端からポリL-DOPA(OAc)2鎖を伸長させるPEG-b-P(L-DOPA(OAc)2)の合成に別れる。
【0035】
(1)マクロイニシエータ合成(PEG-Ms及びPEG-NH2の合成)
MeO-PEG-OH 10 g ((2 mmol)をジクロロメタン(DCM) 60 mL に溶解し、ここにトリエチルアミン(TEA)2.8 mL (20mmol)とメタンスルホニルクロリド 0.8 mL (10 mmol)を加え、氷冷下で4時間反応させた。反応溶液をイソプロピルアルコール(IPA)で沈殿させて精製し、減圧乾燥によって白色粉末が得られた(収量 9.41 g, 収率 93.2%, 導入率 100%)。
【0036】
PEG-Ms 9 gを28%アンモニア水 70 mLに溶解し、室温で3日間反応させた。反応溶液をIPAで再沈殿させて精製し、減圧乾燥によって白色粉末が得られた(収量 8.60 g, 収率 96.6%, 導入率 100%)。
【0037】
PEG‐Ms及びPEG‐NH2の生成は1H NMR測定により確認した。
【0038】
(2)モノマー合成(L-DOPA(OAc)2及びL-DOPA(OAc)2-NCAの合成)
L-DOPA 5 gを入れたフラスコを窒素置換し、更に窒素雰囲気下で1 M HCl/CH3COOH(AOS) 100 mLを加え室温で2時間攪拌した。ここに窒素雰囲気下で無水酢酸 5 mLを加え室温で1.5時間反応させた後、再び無水酢酸5 mLを加え54 ℃で1時間反応させた。反応溶液をエバポレートし十分に濃縮後、エタノール 15 mLを加え未反応物をクエンチングし、生成した3,4-ジアセチルオキシレボドパ(L-DOPA(OAc)2)をエチルエーテルで沈殿させて精製し、減圧乾燥によって白色粉末が得られた (収量 4.34 g, 収率60.9%, 導入率95.5%)。
【0039】
L-DOPA(OAc)2 3.17 g (10 mmol)とトリホスゲン1.48 g (5 mmol)をテトラヒドロフラン(THF) 150 mLに溶解し、65 ℃で2.5時間反応させた。反応溶液をヘキサンに再沈殿させた後、L-DOPA(OAc)2のN-カルボン酸無水物(NCA)を含む沈殿物をTHF 50 mLに溶解し、攪拌しながらヘキサン 500mLに加えL-DOPA(OAc)2-NCAを再沈殿させた。再沈殿操作を2回行った後、減圧乾燥によってL-DOPA(OAc)2-NCAの白色粉末が得られた(収量 2.85 g, 収率 92.8%, 反応率 93.0%)。
【0040】
L-DOPA(OAc)
2及びL-DOPA(OAc)
2-NCAの
1H NMRスペクトラムを
図2に示す。
【0041】
(3)ブロック共重合体合成(PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)の合成)
PEG-NH
21.25 g (2.5 mmol)をベンゼン 2 mLに溶解し凍結乾燥を行った後、窒素雰囲気下でジメチルホルムアミド(DMF)12.5 mLを加え溶解する。L-DOPA(OAc)
2-NCA 1.54 g (5mmol)を量り取ったフラスコを窒素置換し、先述のPEG-NH
2のジメチルホルムアミド(DMF)溶液を窒素雰囲気下で加え、40 ℃で2日間反応させる。反応溶液をジエチルエーテルで再沈殿させて精製し、減圧乾燥によって白色粉末が得られる(収量 1.68 g, 収率60.1%, ポリアミノ酸のユニット数 8.03)。ブロック共重合体の
1H NMRのスペクトラムを
図3に示す。
【0042】
製造例2: ミセルの調製
PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2) 0.5 g (L-DOPA基準)をDMF 5 mLに溶解し、蒸留水 5 mLに対して攪拌しながら滴下した。これを透析膜(分画分子量(MWCO): 3500 Da)で蒸留水に対して一晩透析後、体積が400 mLとなるように蒸留水を用いて希釈し、ミセル溶液1.25 mg/mLとした。最後に0.9 %生理食塩水となるよう、3.6 gの食塩を加えた。かようなミセル溶液のDLS測定結果を
図4に示す。
【0043】
試験1:in vitro試験
(1) PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)のミセル水溶液のpH変動化下での安定性
当該安定性について当該共重合体の溶液のpHを変動させたときの安定性を調べるために、溶液中のミセルの状態についてDLS測定を行った。結果を
図5に示す。
図5から、ミセルは酸性条件下でも安定に存在し得るため、経口投与も可能である(なお、極端な塩基性条件下では脱保護される)。
(2)ミセル水溶液中のPEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)のペプチド分解酵による分解挙動
酵素として、キモトリプシン、トリプシン、エステラーゼを用いるミセル崩壊試験を行った。その結果を
図6に示す。
図6から、主鎖のペプチド結合が分解され(トリプシンでは分解不可)、エステラーゼによってアセチル基が脱保護される。ことが理解できる。
(3) PEG-b-P(L-DOPA(OAc)
2)ミセルの正常細胞(BAEC)を用いたMTTアッセイによる毒性評価化試験
簡潔には、本試験は次のとおり行った。培養したBAEC細胞を96ウエルプレートに播種し、サンプル溶液を加え24時間インキュベートした。その後、MTT試薬を加え4時間インキュベーション後、生細胞の代謝により生成されたフォルマザンを可視化するためにSDS-HCl溶液を加えさらに4時間反応させた。最後にマイクロプレートを用いて570nmの吸光度を測定することで細胞活性を調べた。
【0044】
試験結果を
図7に示す。
図7より、血中滞留性の向上と細胞毒性が低下する、ことがわかる。
【0045】
試験2: in vivo試験
パーキンソン病マウスモデルの作製を行った。
マウスはC57BL/6J, 15週齢, 雄を用いた(Chonpathompikunlert, P. (2018). BMC Complementary and Alternative Medicine, 18(103), 1-12 参照。)。神経毒として1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン( 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP))を腹腔投与する方法を用いたが、マウス自身の回復能力の高さから、ナノ粒子の腹腔投与によるトリートメントの前後でMPTPの投与を行った。トリートメント前はPD誘発のため、トリートメント後は行動試験による可視化のためである。
【0046】
(1)PEG-b-P(L-DOPA(OAc)2)ミセル(又はナノ粒子)のパーキンソン病治療効果の検証を次条件下で行った。
マウスを無作為に次の4グループに分けた(n=4)。
1)生理食塩水, 12日間
2)MPTP 20 mg/kg, 2時間毎に4回
+ 生理食塩水, 11日間 + MPTP 30 mg/kg, 3日間
3)MPTP 20 mg/kg, 2時間毎に4回
+ L-DOPA 15 mg/kg, 11日間 + MPTP 30 mg/kg, 3日間
4)MPTP 20 mg/kg, 2時間毎に4回
+ NPs(L-DOPA基準) 15 mg/kg, 11日間 + MPTP 30 mg/kg, 3日間
【0047】
ナノ粒子のパーキンソン病治療効果の検証スケジュールを
図8に示す。
【0048】
(2)Grid walking試験
上記スケジュールにしたがって行動試験としてGrid walk testを行い、マウスの四肢が開口部に滑り込む回数をカウントし、バランス能力のテストを行った。通常パーキンソン病の症状が強いマウスは回数が多くなるが、0日目(Day 0)においてはMPTP投与直後であったため、コントロール(MPTP未投与)以外は症状が重く歩行困難であり値がゼロとなった。7日目(Day 7)では行動試験ではある程度回復しており差異が確認できなかった。その後MPTP再投与を行い、11日目(Day 11)では、L-DOPA投与群では治療を行っていない群に比較して差異が見られなかったが、ナノ粒子(NPs)投与群においてはL-DOPA投与群と比べて有意に減少した。このことから、L-DOPAは低分子であるため代謝が早く、効果が十分に見られなかったのに対し、ナノ粒子は血中滞留性の向上によってパーキンソン病治療効果を優位に発揮したことが確認される。試験結果を表す
図9を参照されたい。
【0049】
(3)Resting tremor 試験
この試験においては、パーキンソン病特有の症状である安静時振戦の重症度をスコア付けした(0: 震えなし, 1: 少しの筋肉の震え, 2: 時折頭までの震え, 3: 明らかに震えているがいつも頭まで関与するとは限らない, 4: 連続的な震えにより手足と頭を動かせない , 5: 身体全体の連続的な厳しい震え)。 結果を
図10に示す。
【0050】
図10では、症状が強いマウスはスコアが大きくなる。11日目(Day 11)ではNPs投与群でのみ、前回の治療効果を持続して発揮していた。
【0051】
本発明により作製された、体内酵素に反応しL-DOPAを徐放することが出来るPEG-b-P(L-DOPA(OAc)2)-NPsは、パーキンソン病治療効果を長期化し、更にレボドパ誘発性ジスキネジアの抑制が可能であり、新しいパーキンソン病治療薬として大いに期待できる。
【0052】
(4)ナロウ・ビーム・ウォーク(Narrow beam walk) 試験
この試験においては、幅1 cmの幅が狭い橋を渡りきるまでの時間を測定することで運動能力の確認ができ、パーキンソン病においては時間が増加する。結果を
図11に示す。図より、本試験においては、7日目(Day 7)においてもL-DOPA及ぶNP群で継続して運動能力の低下及び治療効果がMPTP投与群に対して有意に確認され、MPTP再度投与後の11日目(Day 11)においても同様の傾向を示した。
【0053】
また、本実験においてMPTPによる体重減少はみられたものの、L-DOPA投与群及びNPs投与群においてはすぐに回復し、投与中に目立った健康被害も確認されなかった。
図12を参照されたい。
【0054】
(5)PEG-b-P(L-DOPA(OAc)2)ミセル(又はナノ粒子)のL-ドーパ誘発性ジスキネジア抑制効果の検証試験
マウスを無作為に次の4グループに分けた(n=4)。
1) 生理食塩水, 18日間
2) MPTP 20 mg/kg, 2時間毎に4回
+ 生理食塩水, 17日間 + MPTP 30 mg/kg, 3日間
3) MPTP 20 mg/kg, 2時間毎に4回
+ L-DOPA 25 mg/kg, Benserazide 12 mg/kg, 17日間
+ MPTP 30 mg/kg, 3日間
4) MPTP 20 mg/kg, 2時間毎に4回
+ NPs(L-DOPA基準) 25 mg/kg, Benserazide 12 mg/kg, 17日間
+ MPTP 30 mg/kg, 3日間
【0055】
ナノ粒子のL-ドーパ誘発性ジスキネジア抑制効果の検証スケジュールを
図13に示す。
【0056】
上記スケジュールにしたがって行動試験としてAIMS test (Abnormal Involuntary Movement Scale test)を行い、ジスキネジアの重症度をスコア付けした(0: AIMなし, 1: <50%のAIM , 2: >50%のAIM, 3: 継続的だが刺激で止まる, 4: 継続的)。試験結果を
図14に示す。ジスキネジアの症状が強いマウスはスコアが大きくなる。17日目(Day 17)ではL-DOPA投与群においてのみジスキネジア特有の口腔の不随意運動や身体の軸のねじれが確認され、MPs投与群においては多少の四肢の弱りが確認された程度であった。このことから、本発明にしたがうナノ粒子を用いることでL-DOPAの体内濃度を一定に保つことが可能となり、レボドパ誘発性ジスキネジアを抑制することが可能であるといえる。
【0057】
(6)加えてSlider testでは、マウスが傾斜26.5度の斜面を歩くことができなくなる、
もしくは滑り落ちるまでの時間を測定することで運動能力の確認が可能であり、パーキンソン病ではその時間は短くなることが期待される。MPTP投与後は衰弱のため歩くことが困難となり、17日目(Day 17)においてはL-DOPA投与群でのみマウスの不随意運動に起因した滑り落ちが確認されたのに対し、NPs投与群では歩き続けることができた。
図15を参照されたい。
試験3: 組織学的分析
動物を安楽死させた後、パーキンソン病(PD)及びL-DOPA誘発性ジスキネジア(LID)のマウスモデルから主要臓器を切開して4%パラホルムアルデヒド溶液中で4℃にて72時間固定した。次いで、これらの組織を自動化組織処理機(TP1020, Leica, Germany)を用いて処理した。続いて、パラフィン包埋サンプルを自動ミクロトームで5 mmの厚さにスライスし、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)、並びにマッソントリクローム(MT)で染色した。組織学的評価は、光学顕微鏡下(DP73, Olympus, Japan)で観察し、処置中のPEG-b-P(L-DOPA(OAc)2)-Npa (又はNano
DOPA)の潜在的な毒性について査定することで行った。
H&E染色の結果を
図16に示す。図中、上列が通常のマウスで下列がNano
DOPA投与群の染色写真である。これらの図から、パーキンソン病モデルマウスに対するNano
DOPAの投与は各臓器に全くダメージを与えないことが明らかである。
試験4:薬物動態試験
L-DOPA (25 mg/kg; 127 mmol/kg) or Nano
DOPA (105 mg polymer/kg;127 mmol L-DOPA/kg)をICRマウスに腹腔内に注入し、所定の時間をおいてマウスを安楽死させ、血漿を採取した。血漿中のL-DOPAを冷リン酸緩衝化生理食塩水(PBS (pH 7.4))を用いて抽出し、次いで、15分間、15,000 rpmで遠沈し、0.2 μmの膜を用いて濾過したサンプルを分析するまで-80℃で保管した。血漿及び組織中のL-DOPAの量をカラム(TSKgel ODS-100Z)における下記の条件下、LC-MS/MS システム (API 2000, AB SCIEX, Canada)を用いて測定した
(1)。
注
(1):Sintov, A. C., Levy, H.V., & Greenberg, I. (2017). Continuous trasdermal delivery of L-DOPA based on a self-assembling nanomicellar system. Pharmaceutical Research, 34(7), 1459-1468 参照。
溶離剤: 水中0.5%酢酸対アセトニトリル中0.5%酢酸(容積比 95:5)
流速: 0.2 mL/min
結果(腹腔投与によるL-DOPAの血中濃度変化)を
図17に示す。図から、L-DOPAの腹腔内投与では初期に急激に血中濃度が上昇し、1時間後には検出できないものの、Nano
DOPAでは急激な血中濃度上昇が抑制され、長時間にわたって一定の血中濃度が維持されることが明らかである。
試験5: 経口投与によるNano
DOPAの血中取り込み
L-DOPA及びNano
DOPA溶液をそれぞれi.p.投与から経口投与(ゾンデによる投与)に変えた以外試験4と同様の方法で血中濃度を測定した。L-DOPA の用量(25 mg/kg; 127 mmol/kg) であり又は Nano
DOPA の用量(105 mg polymer/kg; 127 mmol L-DOPA/kg)であった。
結果(経口投与によるL-DOPAの血中濃度変化)を
図18に、その経口投与によるL-DOPAのAUC(曲線下面積)を
図19に示す。
図18に見られるように経口投与においてもL-DOPAは初期に血中濃度が急激に上昇し、速やかに代謝されたものの、Nano
DOPAでは急激な血中濃度上昇を抑制し、長時間にわたって血中濃度が維持された。また、
図19に示すようにAUCは2倍以上となった。
試験6:経口投与によるNano
DOPAのパーキンソン病マウスモデルに対する効果の検証
モデルは試験2と同じく、C57BL/6J, 15週齢,雄を用いた。モデルについて、実験器具に慣れさせるために投与前に3日間トレーニング期間を設けた。始めの5日間毎日MPTPを腹腔投与にて30mg/kg投与した(sub-acute)。MPTP投与後L-DOPA又はNano
DOPAの経口投与(ゾンデにて1日1回投与)を開始し、9日目(Day 9)にてグループ II, III にMPTPを1日4回2時間おきに腹腔投与した(acute)。10日目(Day 10)にて残りのグループ IVにも同様にMPTPを腹腔投与した。MPTPのacute投与同日にカタレプシー試験(Catalepsy test)を行った。またその2日後にナロウ ビーム 歩行試験(Narrow beam walk test(試験2(4)参照。))を実施した。行動試験の翌日すべてのマウスを安楽死させた。処置スケジュールの概略図を
図20に示す。
上記各グループは次のとおりであり、マウスは無作為に次の4つのグループに分けた(n=8)。
I.対照
II.MPTP 30 mg/kg,5 日間 (sub-acute)+ MPTP 20 mg/kg,2時間毎に4 回
(acute)
III.MPTP 30 mg/kg,5 日間 (sub-acute)+ MPTP 20 mg/kg,2時間毎に4 回
(acute)+ L-DOPA 15 mg/kg (経口)
IV.MPTP 30 mg/kg,5 日間 (sub-acute) + MPTP 20 mg/kg,2時間毎に4 回
(acute)+ Nano
DOPA 15 mg/kg (自由摂取)
結果を
図21に示す。なお、左図は、Narrow Beam歩行試験(細い棒状の歩行障害は足をすべらした回数で見積もる) の結果を示し、右図は、Catalepsy試験(受動的にとらされた姿勢を保ち続け、自分の意思で変えようとしない状態の維持能力)の結果を示す。
MPTP投与群はNarrow Beam歩行試験が上昇し、L-DOPAで有意差がつかないものの、L-DOPA群は有意に抑制した。また、Catalepsy試験ではMPTP投与群で著しい低下を示し、L-DOPAで有意差がつかないものの、Nano
DOPA群は有意に上昇し、経口投与で効果があることが認められた。
【0058】
以上の試験結果より、本発明により作製されたPEG-b-P(L-DOPA(OAc)2)-NPsは、体内酵素に反応しL-DOPAを徐放することが出来、パーキンソン病治療効果を長期化し、さらにL-ドーパ誘発性ジスキネジアの抑制が可能であり、新しいパーキンソン病治療薬として大いに期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本明細書で開示されるブロック共重合体は、上述のとおり、パーキンソン病治療効果を長期化し、さらにL-ドーパ誘発性ジスキネジアの抑制が可能である。したがって、製薬産業において利用可能である。