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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】化粧ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46B 9/02 20060101AFI20231227BHJP
   A45D 33/00 20060101ALI20231227BHJP
   A46B 3/16 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A46B9/02
A45D33/00
A46B3/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022136267
(22)【出願日】2022-08-29
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】518287618
【氏名又は名称】山下 一昭
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】山下 一昭
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-326179(JP,A)
【文献】米国特許第06312182(US,B1)
【文献】特開2001-63268(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0023065(KR,A)
【文献】実開昭59-85111(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0121752(US,A1)
【文献】特開2010-253045(JP,A)
【文献】国際公開第2022/128401(WO,A1)
【文献】英国特許出願公開第2563434(GB,A)
【文献】仏国特許出願公開第3024825(FR,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2022367(EP,A1)
【文献】独国特許発明第467273(DE,C2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46B 9/02
A46B 3/16
A45D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に伸びる軸体からなるブラシ軸(1)と、ブラシ軸(1)の上方の軸端面(6)に形成された左右横長の扁平状のブラシ部(2)とを備える化粧ブラシであって、
ブラシ軸(1)の軸端面(6)には、植設部(7)が形成されており、
植設部(7)が、ブラシ軸(1)の軸端面(6)に凹み形成された凹部(12)と、凹部(12)の底面に凹み形成されて、左右方向に3個以上列設された植毛穴(15)とで構成されており、
各植毛穴(15)に植毛された所定本数のブラシ毛(11)を束ねてなる毛束(14)により、ブラシ部(2)が構成されており、
各植毛穴(15)に植毛されるブラシ毛(11)の素材を同一として、左右方向の中央部に位置する植毛穴(15)に植毛されるブラシ毛(11)の直径と、左右両側に位置する植毛穴(15)に植毛されるブラシ毛(11)の直径とを異なるものとすることにより、或いは各植毛穴(15)に植毛されるブラシ毛(11)の直径を同一として、左右方向の中央部に位置する植毛穴(15)に植毛されるブラシ毛(11)の弾性率と、左右方向の両側に位置する植毛穴(15)に植毛されるブラシ毛(11)の弾性率とを異なるものとすることにより、左右方向の中央部におけるブラシ部(2)のコシと、左右方向の両側におけるブラシ部(2)のコシとが異なるものとなっていることを特徴とする化粧ブラシ。
【請求項2】
毛束(14)は、植毛穴(15)に固定線材(16)が打ち込まれる丸線植毛法或いは平線植毛法により植毛されており、
各植毛穴(15)が、上方視において円形状、或いは上方視において前後の幅寸法が均一な矩形状に形成されている請求項1に記載の化粧ブラシ。
【請求項3】
各植毛穴(15)は、上方視において穴径が同一の円形に形成されており、
複数の植毛穴(15)が左右方向に直線状に列設されている請求項2に記載の化粧ブラシ。
【請求項4】
各植毛穴(15)が、上方へ向かって漸次穴径が広がるように形成されている請求項に記載の化粧ブラシ。
【請求項5】
固定線材(16)の伸び方向が、植毛穴(15)の列設方向である左右方向に直交する前後方向に設定されている請求項に記載の化粧ブラシ。
【請求項6】
ブラシ毛(11)は断面円形の合成樹脂繊維からなり、
ブラシ毛(11)の先端が、向かい合う一対のテーパー面(20)を有する先細り状に形成されている請求項に記載の化粧ブラシ。
【請求項7】
テーパー面(20)のそれぞれに凹凸(21)が形成されて、各テーパー面(20)が粗面化されている請求項に記載の化粧ブラシ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ軸に植毛されたブラシ毛の一群からなるブラシ部を有する化粧ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の化粧ブラシの従来例としては、例えば特許文献1(発明の名称:化粧筆)を挙げることができる。特許文献1の化粧ブラシは、偏平な丸棒状の筆軸(ブラシ軸)と、筆軸の先端面に植毛された筆毛(ブラシ部)とで構成される。筆軸の先端面には植毛穴が形成されており、この植毛穴に筆毛となる毛束が植毛されている。毛束には、これを二つ折してなる折り返し部が形成されており、毛束は、この折り返し部を植毛穴内に挿入したのち、折り返し部を植毛穴底面に圧入したU字型の止め金具によって固定する丸線植毛法により植毛されている。植毛穴に植毛された毛束は、その両端が植毛穴から外向きに延出され、その延出部分が筆毛となる。
【0003】
上方視における植毛穴の穴形状は、長手方向と幅方向とを有し、長手方向における幅寸法が不均一な異形矩形状に形成されている。より詳しくは、例えば特許文献1の図4には、長手方向の両端部における幅寸法が大きく、長手方向の中央部における幅寸法が小さな上方視で鼓形の植毛穴が開示されている。このように植毛穴を鼓形に形成すると、幅寸法が大きな長手方向の両端部分では筆毛の密度が相対的に低いものとなる。一方、幅寸法の小さな長手方向の中央部分では筆毛の密度が相対的に高いものとなる。これにより、長手方向の両端部における筆毛のコシが弱く、長手方向の中央部における筆毛のコシが強い、化粧筆を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-102926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように特許文献1の化粧筆では、植毛穴を長手方向における幅寸法が不均一な異形矩形状とすることで、長手方向における筆毛の密度を大小に変化させて、筆毛のコシに強弱の分布を付与している。このため、筆毛のコシの強弱分布が異なる化粧筆を得るためには、植毛穴の形状の異なる筆軸を複数種用意する必要があり、化粧筆の製作コストが高く付く。
【0006】
本発明の目的は、ブラシ部のコシの強弱分布を容易に変更することができる化粧ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上下方向に伸びる軸体からなるブラシ軸1と、ブラシ軸1の上方の軸端面6に形成された左右横長の扁平状のブラシ部2とを備える化粧ブラシを対象とする。ブラシ軸1の軸端面6には植設部7が形成されている。植設部7は、ブラシ軸1の軸端面6に凹み形成された凹部12と、凹部12の底面に凹み形成されて、左右方向に3個以上列設された植毛穴15とで構成されている。各植毛穴15に植毛された所定本数のブラシ毛11を束ねてなる毛束14により、ブラシ部2が構成されている。各植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の素材を同一として、左右方向の中央部に位置する植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の直径と、左右両側に位置する植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の直径とを異なるものとすることにより、或いは各植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の直径を同一として、左右方向の中央部に位置する植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の弾性率と、左右方向の両側に位置する植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の弾性率とを異なるものとすることにより、左右方向の中央部におけるブラシ部2のコシと、左右方向の両側におけるブラシ部2のコシとが異なるものとなっていることを特徴とする。
【0008】
毛束14は、植毛穴15に固定線材16が打ち込まれる丸線植毛法或いは平線植毛法により植毛されている。各植毛穴15は、上方視において円形状、或いは上方視において前後の幅寸法が均一な矩形状に形成されている。
【0009】
各植毛穴15は穴径が同一の丸穴で構成されており、複数の植毛穴15は左右方向に直線状に列設されている。
【0011】
各植毛穴15は、上方へ向かって漸次穴径が広がるように形成されている。
【0012】
固定線材16の伸び方向は、植毛穴15の列設方向である左右方向に直交する前後方向に設定されている。
【0013】
ブラシ毛11は断面円形の合成樹脂繊維からなり、ブラシ毛11の先端は、向かい合う一対のテーパー面20を有する先細り状に形成されている。
【0014】
テーパー面20のそれぞれに凹凸21が形成されて、各テーパー面20が粗面化されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化粧ブラシにおいては、ブラシ軸1の上方の軸端面6に形成した植設部7の下端に、所定本数のブラシ毛11を束ねてなる毛束14を植毛するための複数個の植毛穴15を左右方向に列設する。このように、複数個の植毛穴15を左右方向に列設し、これら植毛穴15に植毛された毛束14でブラシ部2を構成すると、例えば3個の植毛穴15が列設される場合、ブラシ毛11の形成素材を同一として、中央の植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の直径を、両側の植毛穴15・15に植毛されるブラシ毛11の直径よりも太く設定することで、正面視で中央のコシが強く、両側のコシが弱い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。前記ブラシ毛11の直径の設定を逆にすると、正面視で中央のコシが弱く、両側のコシが強い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。
【0016】
一方、ブラシ毛11の直径を同一として、中央の植毛穴15に植毛されるブラシ毛11を相対的に曲げ弾性率の高い形成素材で構成し、両側の植毛穴15・15に植毛されるブラシ毛11を相対的に曲げ弾性率の低い形成素材で構成することで、正面視で中央のコシが強く、両側のコシが弱い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。前記ブラシ毛11の形成素材の設定を逆にすると、正面視で中央のコシが弱く、両側のコシが強い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。以上のように、本発明によれば、ブラシ部2のコシの強弱分布は、植毛穴15に植毛するブラシ毛11の直径及び/又は形成素材の選択により容易に変更することが可能となる。
【0017】
毛束14は、植毛穴15に固定線材16が打ち込まれる丸線植毛法或いは平線植毛法により植毛されており、列設された各植毛穴15が、上方視において円形状、或いは上方視において前後の幅寸法が均一な矩形状に形成されていると、各植毛穴15において植毛時のブラシ毛11の密度のばらつきを抑えることができるので、ブラシ部2の強弱分布の仕上がり精度を高品質に確保することが可能となる。なお、従来のような長手方向と幅方向とを有する異形矩形状の植毛穴に筆毛を植毛する際には、長手方向で筆毛の密度にばらつきが生じやすく、仕上がり精度を一定に保つことが困難となる。
【0018】
各植毛穴15は上方視において穴径が同一の円形穴で構成されており、複数の植毛穴15が左右方向に直線状に列設されていると、ブラシ部2を平筆と称される形状に形成できるので、肌面に化粧料を塗布する際にブラシ部2の幅広部分と幅狭部分を利用できる、使い勝手のよい化粧ブラシとすることができる。
【0019】
植設部7が、ブラシ軸1の軸端面6に凹み形成された凹部12と、凹部12の底面に凹み形成された複数の植毛穴15とで構成されていると、ブラシ毛11の延出基端部分に形成される、隣り合う毛束14どうしの間に形成される隙間18を凹部12の内部に収容して隠蔽することができるので、ブラシ部2の見栄えを向上させることができる。また、凹部12の内面或いは開口縁17で植毛されたブラシ毛11が放射状に広がろうとすることを規制して、ブラシ部2の形状を保形することができる。
【0020】
各植毛穴15が、上方へ向かって漸次穴径が広がるように形成されていると、各植毛穴15から延出するブラシ毛11を拡径する穴周面に沿って外側に広がるように植毛することができるので、隣り合う毛束14どうしの間に形成される隙間18の上下方向の高さ寸法を小さくできる。したがって、隙間18の上下方向の高さ寸法を小さくできる分、凹部12で隙間18を的確に隠蔽して、隙間18が目視されることを確実に防ぐことができる。なお、各植毛穴15から延出するブラシ毛11が外側に広がるように植毛された場合でも、凹部12の内面或いは開口縁17でブラシ毛11の拡がりを規制して、ブラシ部2の形状を保形できる。
【0021】
丸線植毛法或いは平線植毛法における固定線材16の伸び方向が、植毛穴15の列設方向である左右方向に直交する前後方向に設定されていると、隣り合う植毛穴15に打ち込まれる固定線材16が互いに干渉することを防ぐことができるので、適正に固定線材16を打込んで、毛束14が植毛穴15から脱落することを的確に防ぐことができる。
【0022】
ブラシ毛11は断面円形の合成樹脂繊維からなり、ブラシ毛11の先端が、向かい合う一対の平坦なテーパー面20を有する先細り状に形成されていると、圧縮成形された固形粉体化粧料をブラシ部2で掻き取る際に、テーパー面20が形成されていないブラシ毛に比べて、平坦なテーパー面20で化粧料との接触面積を大きくすることができる。これにより、ブラシ部2による固形粉体化粧料の掻き取り性が向上し、さらにブラシ部2の粉付き性を向上させることができる。
【0023】
テーパー面20のそれぞれに凹凸21が形成されて、各テーパー面20が粗面化されていると、凹凸21でテーパー面20の表面積を拡大して、ブラシ部2による化粧料の掻き取り性、及び粉付き性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る化粧ブラシの要部を示す縦断正面図である。
図2】同化粧ブラシの全体図である。
図3】同化粧ブラシの縦断側面図である。
図4図2におけるA-A線断面図であり、ブラシ毛の先端部分を示している。
図5図2におけるB-B線断面図である。
図6図2におけるC-C線断面図である。
図7】植設部の形状を示す図であり、(a)は植設部の平面図を示し、(b)は植設部の縦断正面図を示している。
図8】化粧ブラシの製造工程を説明するための図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る化粧ブラシの要部を示す縦断正面図である。
図10】ブラシ部の先端形状の別実施形態を示す正面図である。
図11】ブラシ軸及び植設部の別実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態) 図1から図8に、本発明に係る化粧ブラシの第1実施形態を示す。本実施形態における前後、左右、上下とは、図2および図3に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。図2において、化粧ブラシは、目元に化粧を施す際に使用されるアイシャドウブラシと称される、圧縮成形された固形粉体化粧料の塗布具であり、摘まみ部として機能する軸体からなるブラシ軸1と、ブラシ軸1の上端に設けられるブラシ部2と、ブラシ軸1の下端に設けられるスポンジチップ3とで構成される。
【0026】
ブラシ軸1はABS樹脂からなる射出成形品であり、左右方向に長い長円形状の断面形状を持つ軸体で構成されている(図5参照)。ブラシ軸1の上軸端面(軸端面)6にはブラシ部2を形成するための植設部7が凹み形成されており、下軸端面にはスポンジチップ3を固定するための舌片8が下向きに延設されている。スポンジチップ3は、発泡ウレタンを素材として前後に偏平な卵形に形成されており、舌片8の全体を覆うように下方から差し込まれ、接着剤により分離不能に接着固定される。
【0027】
ブラシ部2は、多数のブラシ毛11で左右横長の偏平状に構成されており、ブラシ部2の先端は、正面視において円弧状に整形されている。図1及び図7に示すように植設部7は、上軸端面6に凹み形成される凹部12と、凹部12の底面13に凹み形成される3個(複数)の植毛穴15(15L・15C・15R)とで構成されている。凹部12は、ブラシ軸1の断面形状に相似する左右方向に長い長円状の有底穴で構成されている。また、各植毛穴15L・15C・15Rは穴径が同一のストレート状の有底丸穴で構成されている。3個の植毛穴15L・15C・15Rは、左右方向に直線状に列設されている。各植毛穴15L・15C・15Rには、所定本数のブラシ毛11を束ねてなる毛束14が植毛される。
【0028】
ブラシ毛11は、断面円形の合成樹脂繊維からなり、その直径は1MIL(約0.025mm)以上、5MIL(0.125mm)以下であることが好ましい。これは、ブラシ毛11の直径が1MIL未満であると、化粧料の塗布時にブラシ毛11が大きく変形して肌に対するタッチ感が頼りなく、ブラシ毛11の直径が5MILを超えると、化粧料の塗布時にブラシ毛11の変形が小さく肌に対するタッチ感が強くなりすぎることに依る。より好ましくは、ブラシ毛11の直径は2MIL(約0.05mm)以上、4MIL(0.10mm)以下に設定する。毛束14を構成するブラシ毛11の本数は、ブラシ毛11の直径と植毛穴15の穴形状及び穴径により大小に変動する。
【0029】
左右の植毛穴15L・15Rと中央の植毛穴15Cでは、形成素材は同一であるが直径が異なるブラシ毛11が植毛されている。左右の植毛穴15L・15Rには、形成素材がナイロン繊維でありその直径が2MILのブラシ毛11が植毛され、中央の植毛穴15Cには、形成素材がナイロン繊維でありその直径が2.5MIL(約0.063mm)のブラシ毛11が植毛されている。なお、ブラシ毛11の形成素材は、ナイロン繊維に限らず、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリプロピレン、或いはその他の合成樹脂繊維で構成することができる。
【0030】
各植毛穴15L・15C・15R(15)のブラシ毛11は、植毛穴15にブラシ毛11とともに固定線材16が打ち込まれる丸線植毛法或いは平線植毛法でそれぞれ植毛することができ、本実施形態のブラシ毛11は、図1及び図3に示すように、固定線材16が平板からなる平線植毛法で植毛穴15に植毛される。平線植毛法においては、穴径に対応する所定本数のブラシ毛11が束ねられた毛束14を二つ折りにして折り返し部分を形成し、該折り返し部分に固定線材16をあてがう。さらにこの状態で折り返し部分及び固定線材16を植毛穴15に圧入することにより、植毛穴15に挿入されたブラシ毛11部分が固定線材16と植毛穴15の底面及び内周面とで挟持保持される。
【0031】
図5に示すように、固定線材16の伸び方向の寸法、換言すれば平面視における固定線材16の長手方向の寸法は、植毛穴15の穴径よりも僅かに大きく設定されている。前記寸法に設定された固定線材16が植毛穴15に圧入されると、固定線材16の長手方向の両端部が植毛穴15の穴壁面に食込むので、当該食込みにより生じる植毛穴15と固定線材16との間の摩擦により、固定線材16は植毛穴15に対して抜け止めが図られる。
【0032】
植毛穴15に対する固定線材16の姿勢は、固定線材16の伸び方向(平面視における固定線材16の長手方向)が、3個の植毛穴15(15L・15C・15R)の列設方向(左右方向)と直交する方向に設定されている。固定線材16の伸び方向と、3個の植毛穴15L・15C・15Rの列設方向とがなす公差角度は、30度から90度の範囲に設定することで、隣り合う植毛穴15(15Lと15C、15Cと15R)に打ち込まれる固定線材16どうしが干渉することを可及的に防ぐことができる。このように、固定線材16どうしの干渉を防ぐようにすると、隣り合う植毛穴15・15間の壁面厚さを薄くすることができ、より集密度の高いブラシ部2を形成することができる。
【0033】
図1に示すように植毛穴15L・15C・15Rに植毛されたブラシ毛11は、その両端が凹部12の開口縁17から上方に延出される。延出部分におけるブラシ毛11は、植毛穴15から放射状に広がろうとするが、凹部12の内周面と開口縁17とで、その広がりが規制される。したがって、平面視において、ブラシ毛11の一群で規定されるブラシ部2の外郭形状は、延出基端では凹部12と同形の長円となり(図6参照)、先端側に行くにしたがって長円が徐々に拡大される(図6の二点鎖線参照)。本実施形態ではブラシ部2は平筆と称されるブラシ形状に形成される。なお、凹部12の穴深さが深いほど、ブラシ毛11は開口縁17に加え、凹部12の内周面ともより当接するので、ブラシ部2の先端側におけるブラシ毛11の広がりは小さくなる。
【0034】
3個の植毛穴15(15L・15C・15R)に毛束14を植毛すると、隣り合う植毛穴15(15Lと15C、15Cと15R)に植毛された毛束14どうしの間には、植毛穴15の近傍において隙間18が形成されることが避けられない。本実施形態では、植毛穴15を凹部12の底面13に形成することで、前記隙間18を凹部12の内部に収容して隠蔽し、該隙間18が目視されることを防いでいる。
【0035】
図1に示すようにブラシ部2は、植毛穴15L・15C・15Rに植毛されたブラシ毛11で構成されるが、植毛穴15L・15Rと植毛穴15Cとに植毛されるブラシ毛11の直径が異なるため、ブラシ毛11自身が持つ湾曲変形に対する抵抗力に由来するブラシ毛11のコシが異なる。ブラシ毛11のコシは、直径が大きくなるにつれ強くなるので、ブラシ部2のうち、植毛穴15L・15Rに植毛されたブラシ毛11で構成されるブラシ部2L・2Rと、植毛穴15Cに植毛されたブラシ毛11で構成されるブラシ部2Cとではコシの強弱が異なる。ブラシ部2Cは、ブラシ部2L・2Rに比べてコシが強くなり、したがって、ブラシ部2には正面視において左右方向に弱・強・弱のコシの強弱分布が生じる。
【0036】
本実施形態とは逆に、左右の植毛穴15L・15Rに、形成素材がナイロン繊維でありその直径が2.5MILのブラシ毛11を植毛し、中央の植毛穴15Cに、形成素材がナイロン繊維でありその直径が2MILのブラシ毛11を植毛すれば、ブラシ部2には正面視において左右方向に強・弱・強のコシの強弱分布が生じる。なお、ブラシ毛11の直径を同一として、中央の植毛穴15に植毛されるブラシ毛11を相対的に曲げ弾性率の高い形成素材で構成し、両側の植毛穴15・15に植毛されるブラシ毛11を相対的に曲げ弾性率の低い形成素材で構成することによっても、ブラシ部2にコシの強弱分布を付与することができる。
【0037】
上軸端面6からのブラシ部2の延出寸法は、3mm以上、15mm以下に設定することが好ましい。これは、ブラシ部2の延出寸法が3mm未満であると、ブラシ毛11が短く肌面に化粧料を塗布することが困難となり、ブラシ部2の延出寸法が15mmを超えると、ブラシ部2の微細な操作が行いにくいことによる。上軸端面6からのブラシ部2の延出寸法は、13mm以下であることがより好ましい。
【0038】
図2及び図4に示すようにブラシ毛11は、その先端が向かい合う一対のテーパー面20・20を有する先細り状に形成されている。また、テーパー面20のそれぞれには凹凸21が形成されて、各テーパー面20が粗面化されている。一方のテーパー面20はブラシ毛11の前側周面に形成され、他方のテーパー面20はブラシ毛11の後側周面に形成されて、ブラシ毛11の先端がくさび状を呈している。
【0039】
ここで、図8を用いて化粧ブラシの製造方法について説明する。化粧ブラシは、植設部7にブラシ毛11の束からなる毛束14を植毛する植毛工程と、植毛されたブラシ毛11を切断してブラシ部2の先端形状を整える切断工程と、ブラシ毛11の先端を先細り状に整形する先端整形工程と、スポンジチップ3を舌片8に固定するチップ固定工程とを経て製造される。植毛工程では平線植毛装置を用いて、図8(a)に示すように各植毛穴15(15L・15C・15R)に所定本数のブラシ毛11を束ねてなる毛束14を植毛する。植毛の方法は先に説明したとおりである。図8(b)は、植毛後のブラシ部2の正面図を示しており、続いてこのブラシ部2に対して切断工程を行う。
【0040】
切断工程では、図8(c)に示すように、植毛後のブラシ部2の後面がダイス24側になるようダイス24上にブラシ部2を載置する。次いで、上方から円弧状に湾曲するカッター25をダイス24に向かって降下させ、ダイス24とカッター25でブラシ毛11をせん断してブラシ部2の先端形状を整える。図8(d)は、ブラシ毛11の切断後のブラシ部2の正面図を示しており、続いてこのブラシ部2に対して先端整形工程を行う。
【0041】
先端整形工程では、ブラシ毛11の先端の外周を、周面が研磨面26とされる円盤砥石27を備えるグラインダーでそれぞれ研磨することにより、ブラシ毛11の先端を先細り状に整形する。具体的には、図8(e)に示すように、左右軸に対して反時計まわり方向に回転する円盤砥石27の後下領域に対して、ブラシ部2の前面が円盤砥石27の研磨面26に接触するように、ブラシ部2を円盤砥石27に向かって前方へと移動させる。続いて、図8(f)に示すように、左右軸に対して時計まわり方向に回転する円盤砥石27の前下領域に対して、ブラシ部2の後面が円盤砥石27の研磨面26に接触するように、ブラシ部2を円盤砥石27に向かって後方へと移動させる。
【0042】
ブラシ部2の前後面が研磨面26に接触することにより、ブラシ毛11先端の前後周面は、円盤砥石27の研磨面26で研磨され、前後一対のテーパー面20・20が形成される。また、テーパー面20・20の形成と同時に、研磨面26による研磨痕からなる凹凸21がテーパー面20に形成される。最後に、舌片8に接着剤を薄く塗布し、スポンジチップ3を舌片8に差込むチップ固定工程(不図示)を行うことで、化粧ブラシとして完成する。上記先端整形工程は、ブラシ部2の前面の研磨ののち、ブラシ軸1を上下軸まわりに前後反転させて、ブラシ部2の後面が円盤砥石27の後下領域の研磨面26に接触するように研磨することもできる。
【0043】
上記切断工程におけるブラシ毛11のせん断時には、図8(d)の拡大図に示すようにせん断時のバリ30が形成されることが避けられない。当該バリ30が残っていると、肌面に対する化粧料の塗布時に、バリ30が接触して肌面に刺激を与える。しかし、本実施形態の製造方法では、切断工程後の先端整形工程でテーパー面20・20の形成と同時にバリ30が除去される。したがって、バリ30を除去するための工程を別途行う必要はない。
【0044】
以上のように、本実施形態の化粧ブラシでは、複数個の植毛穴15を左右方向に列設し、これら植毛穴15に植毛された毛束14でブラシ部2を構成したので、3個の植毛穴15が列設される場合、ブラシ毛11の形成素材を同一として、中央の植毛穴15に植毛されるブラシ毛11の直径を、両側の植毛穴15・15に植毛されるブラシ毛11の直径よりも太く設定することで、正面視で中央のコシが強く、両側のコシが弱い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。前記ブラシ毛11の直径の設定を逆にすると、正面視で中央のコシが弱く、両側のコシが強い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。
【0045】
一方、ブラシ毛11の直径を同一として、中央の植毛穴15に植毛されるブラシ毛11を相対的に曲げ弾性率の高い形成素材で構成し、両側の植毛穴15・15に植毛されるブラシ毛11を相対的に曲げ弾性率の低い形成素材で構成することで、正面視で中央のコシが強く、両側のコシが弱い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。前記ブラシ毛11の形成素材の設定を逆にすると、正面視で中央のコシが弱く、両側のコシが強い強弱分布のブラシ部2を形成することができる。以上のように、本実施形態の化粧ブラシによれば、ブラシ部2のコシの強弱分布は、植毛穴15に植毛するブラシ毛11の直径及び/又は形成素材の選択により容易に変更することができる。
【0046】
毛束14は、植毛穴15に固定線材16が打ち込まれる平線植毛法により植毛するようにして、各植毛穴15を上方視において穴径が同一の円形穴で構成して左右方向に直線状に列設したので、ブラシ部2を平筆と称される形状に形成して、肌面に化粧料を塗布する際にブラシ部2の幅広部分と幅狭部分を利用できる、使い勝手のよい化粧ブラシとすることができる。また、各植毛穴15において植毛時のブラシ毛11の密度のばらつきを抑えて、ブラシ部2の強弱分布の仕上がり精度を高品質に確保することが可能となる。なお、従来のような長手方向と幅方向とを有する異形矩形状の植毛穴に筆毛を植毛する際には、長手方向で筆毛の密度にばらつきが生じやすく、仕上がり精度を一定に保つことが困難となる。
【0047】
植設部7を、ブラシ軸1の軸端面6に凹み形成された凹部12と、凹部12の底面に凹み形成された複数の植毛穴15とで構成したので、ブラシ毛11の延出基端部分に形成される、隣り合う毛束14どうしの間に形成される隙間18を凹部12の内部に収容して隠蔽して、ブラシ部2の見栄えを向上させることができる。また、凹部12の内面或いは開口縁17で植毛されたブラシ毛11が放射状に広がろうとすることを規制して、ブラシ部2の形状を保形することができる。
【0048】
丸線植毛法或いは平線植毛法における固定線材16の伸び方向を、植毛穴15の列設方向である左右方向に直交する前後方向に設定したので、隣り合う植毛穴15に打ち込まれる固定線材16が互いに干渉することを防ぐことができ、適正に固定線材16を打込んで、毛束14が植毛穴15から脱落することを的確に防ぐことができる。
【0049】
ブラシ毛11は断面円形の合成樹脂繊維からなり、ブラシ毛11の先端を、向かい合う一対の平坦なテーパー面20を有する先細り状に形成したので、圧縮成形された固形粉体化粧料をブラシ部2で掻き取る際に、テーパー面20が形成されていないブラシ毛に比べて、平坦なテーパー面20で化粧料との接触面積を大きくすることができる。これにより、ブラシ部2による固形粉体化粧料の掻き取り性が向上し、さらにブラシ部2の粉付き性を向上させることができる。
【0050】
テーパー面20のそれぞれに凹凸21を形成して、各テーパー面20を粗面化したので、凹凸21でテーパー面20の表面積を拡大して、ブラシ部2による化粧料の掻き取り性、及び粉付き性をより向上させることができる。
【0051】
(第2実施形態) 図9に本発明に係る化粧ブラシの第2実施形態を示す。本実施形態では、各植毛穴15が上方に向かって漸次穴径が広がるように形成されている点が第1実施形態と相違する。具体的には、植毛穴15は上方に向かって広がるテーパー穴で構成される。テーパー穴からなる植毛穴15に毛束14を植毛すると、各植毛穴15から延出するブラシ毛11はテーパー穴の穴周面に沿って外側に広がるように植毛される。これにより、ブラシ毛11の延出基端部分に形成される、隣り合う毛束14どうしの間に形成される隙間18の上下方向の寸法を、第1実施形態のように各植毛穴15がストレート穴の場合に比べて小さくできる。他の構成および作用効果は第1実施形態と同様であるため、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0052】
上記のように、各植毛穴15を上方へ向かって広がるテーパー穴状に形成し、隣り合う毛束14どうしの間に形成される隙間18の上下方向の高さ寸法を小さくしたので、凹部12で隙間18を的確に隠蔽して、隙間18が目視されることを確実に防ぐことができる。なお、各植毛穴15から延出するブラシ毛11が外側に広がるように植毛された場合でも、凹部12の内面或いは開口縁17でブラシ毛11の拡がりを規制して、ブラシ部2の形状を保形できる。加えて、上記隙間18の上下方向の高さ寸法が小さくなれば、凹部12の穴深さを浅く形成した場合でも凹部12で隙間18を隠蔽できるので、上軸端面6から植毛穴15までの距離が小さくなる分、平線植毛法による植毛が行いやすくなる効果もある。
【0053】
図10(a)~(c)は、ブラシ部2の先端形状の別実施形態を示している。図10(a)に示すブラシ部2は、ブラシ部2の先端が正面視において半円弧状に形成されている。図10(b)に示すブラシ部2は、ブラシ部2の先端が正面視において右方から左方に下る傾斜状に形成されている。図10(c)に示すブラシ部2は、ブラシ部2の先端が正面視において左右に伸びる直線状に形成されている。このように、ブラシ部2の先端形状は種々の形状に整えることができる。
【0054】
図11(a)及び(b)は、ブラシ軸1及び植設部7の別実施形態を示している。図11(a)に示す別実施形態では、ブラシ軸1はその断面形状が左右に長軸を持つ楕円形状に形成されている。植設部7は、凹部12がブラシ軸1と相似状の楕円形穴で形成され、凹部12の底面13には、丸穴からなる3個の植毛穴15(15L・15C・15R)が凹み形成されている。植毛穴15は、左右の植毛穴15L・15Rの穴径が同一に設定され、中央の植毛穴15Cの穴径は、左右の植毛穴15L・15Rの穴径に比べて大きく設定されている。ブラシ部2は、平面視で前後に偏平な楕円形状に構成される
【0055】
図11(b)に示す別実施形態では、ブラシ軸1はその断面形状が角部を丸めた左右横長の長方形状(矩形状)に形成されている。植設部7は、凹部12が省略されており、ブラシ軸1の上軸端面6に四角穴(前後の幅寸法が均一な矩形穴)からなる3個の植毛穴15が左右方向に列設されている。各植毛穴15は同一形状に設定されている。ブラシ部2は、平面視で前後に偏平な長方形状に構成される。なお、図11(b)の植設部7では、凹部12を省略したが、他の実施形態と同様に、凹部12と植毛穴15とを備える植設部7であってもよい。
【0056】
上記のように、列設された各植毛穴15を、上方視において前後の幅寸法が均一な正方形状(矩形状)に形成したので、従来のような長手方向と幅方向とを有する異形矩形状の植毛穴に筆毛を植毛する場合に比べて、各植毛穴15において植毛時のブラシ毛11の密度のばらつきを抑えて、ブラシ部2の強弱分布の仕上がり精度を高品質に確保することができる。
【0057】
上記実施形態の化粧ブラシは、粉体化粧料に限らず液体化粧料の塗布具として適用することができる。ブラシ軸1にキャップを兼ねるハンドルが設けられる形態の化粧ブラシ、例えばマニキュア塗布用の化粧ブラシにも適用することができる。ブラシ軸1の形状、ブラシ部2の先端形状、凹部12の形状、植毛穴15の数、ブラシ部2の強弱分布などは、上記実施形態に示したものに限られない。
【符号の説明】
【0058】
1 ブラシ軸
2 ブラシ部
6 軸端面(上軸端面)
7 植設部
11 ブラシ毛
12 凹部
13 底面
14 毛束
15 植毛穴
16 固定線材
20 テーパー面
21 凹凸
【要約】
【課題】ブラシ部のコシの強弱分布を容易に変更することができる化粧ブラシを提供する。
【解決手段】本発明の化粧ブラシは、上下方向に伸びる軸体からなるブラシ軸1と、ブラシ軸1の上方の軸端面6に形成された左右横長の扁平状のブラシ部2とを備える。ブラシ軸1の軸端面6には植設部7が形成されており、植設部7の下端に、所定本数のブラシ毛11を束ねてなる毛束14を植毛するための複数個の植毛穴15が左右方向に列設されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11