(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】エレクトロルミネセンス素子の製造方法、エレクトロルミネセンス素子、および表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/165 20230101AFI20231227BHJP
H10K 59/122 20230101ALI20231227BHJP
H10K 50/828 20230101ALI20231227BHJP
H10K 71/60 20230101ALI20231227BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231227BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20231227BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20231227BHJP
H10K 50/84 20230101ALI20231227BHJP
H10K 50/88 20230101ALI20231227BHJP
H10K 59/82 20230101ALI20231227BHJP
H10K 71/15 20230101ALI20231227BHJP
H10K 85/00 20230101ALI20231227BHJP
【FI】
H10K50/165
H10K59/122
H10K50/828
H10K71/60
G09F9/30 365
G09F9/30 338
G09F9/30 348A
H10K50/17
H10K50/18
H10K50/84
H10K50/88
H10K59/82
H10K71/15
H10K85/00
(21)【出願番号】P 2022532499
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2021023638
(87)【国際公開番号】W WO2021261493
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2020107890
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501232056
【氏名又は名称】三国電子有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-213052(JP,A)
【文献】特開2020-035942(JP,A)
【文献】特開2017-057288(JP,A)
【文献】特開2001-291583(JP,A)
【文献】特開2018-206822(JP,A)
【文献】特開2008-084655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/16
H10K 50/17
H10K 50/18
H10K 50/828
H10K 50/84
H10K 50/88
H10K 59/122
H10K 59/82
H10K 71/15
H10K 71/60
H10K 85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1電極を形成し、
前記第1電極と接する第1電子輸送層を形成し、
前記第1電極と重なる領域に開口部を有する第1絶縁層を形成し、
前記開口部に、
有機2族金属化合物と有機3族金属化合物とが有機溶媒に溶解されている組成物を塗布し、塗布後に溶媒を除去して金属酸化物半導体からなる第2電子輸送層を形成し、
前記第2電子輸送層と重なり、エレクトロルミネセンス材料を含む発光層を形成し、
前記発光層と重なる領域に、第2電極を形成すること、を含むエレクトロルミネセンス素子の製造方法。
【請求項2】
基板上に第1電極を形成し、
前記第1電極と接する第1電子輸送層を形成し、
前記第1電極と重なる領域に開口部を有する第1絶縁層を形成し、
前記開口部に、2価のZn及びMg、3価のIn及びGa、並びに4価のSnからなる群から選択される少なくとも1つをドーピングした無機酸塩と第1アミドと溶媒とを含む組成物を塗布し、塗布後に溶媒を除去して無機透明酸化物半導体からなる第2電子輸送層を形成し、
前記第2電子輸送層と重なり、エレクトロルミネセンス材料を含む発光層を形成し、
前記発光層と重なる領域に、第2電極を形成すること、を含むエレクトロルミネセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1電極は陰極であり、
前記第2電極は陽極であり、
前記エレクトロルミネセンス素子は逆積み構造である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
第1電極と、
前記第1電極と対向する領域を有する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間の第1絶縁層と、
前記第1電極と電気的に接続する電子輸送層と、
前記電子輸送層と前記第2電極との間のエレクトロルミネセンス材料を含む発光層と、
を有し、
前記第1絶縁層は開口部を有し、
前記開口部において、前記第2電極、前記発光層、前記電子輸送層、及び前記第1電極が重なる重畳領域を有し、
前記電子輸送層は、前記第1電極と接する第1電子輸送層と、前記開口部に配置され、前記第1電子輸送層と接する第2電子輸送層と、を有し、
前記第2電子輸送層は
無機透明酸化物半導体からなり、前記開口部の中心部に比べ端部の膜厚が大きく、前記開口部の側面に接し、前記側面に沿ってせり上がり、前記第1絶縁層の前記開口部を超えず、前記端部は前記開口部内に配置されているエレクトロルミネセンス素子。
【請求項5】
前記第2電子輸送層は、50nm以上2000nm以下の範囲の膜厚で設けられる、請求項4に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項6】
前記第1電子輸送層の電子移動度は、前記第2電子輸送層の電子移動度より高い、請求項4に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項7】
前記第1電子輸送層のキャリア濃度は、前記第2電子輸送層のキャリア濃度より高い、請求項
6に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項8】
前記第1電子輸送層のバンドギャップは3.0eV以上であり、前記第2電子輸送層のバンドギャップは3.0eV以上である、請求項
6に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項9】
前記第1電子輸送層及び前記第2電子輸送層は酸化物半導体を含み、かつ前記第1電子輸送層の厚みより前記第2電子輸送層の厚みの方が大きい、請求項
6に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項10】
前記第1電子輸送層は、酸化スズ及び酸化インジウムと、酸化ガリウム、酸化タングステン、酸化アルミニウム及び酸化シリコンから選ばれた少なくとも一種を含み、
前記第2電子輸送層は、酸化亜鉛と、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化アルミニウム及び酸化ガリウムから選ばれた少なくとも一種を含む、請求項
9に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項11】
前記第2電子輸送層の比抵抗値は、10
2Ω・cm~10
6Ω・cmの範囲である、請求項
9に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項12】
前記第2電子輸送層の仕事関数の値は3.8eV以下である、請求項4に記載のエレクトロルミネセンス素子。
【請求項13】
基板上に、請求項4乃至1
2のいずれか一項に記載のエレクトロルミネセンス素子と、前記エレクトロルミネセンス素子と接続される駆動トランジスタと、を含む画素を有し、
前記駆動トランジスタは、
酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の下に配置される第1絶縁層と、
前記酸化物半導体層と重なる領域を有し、前記第1絶縁層を介して前記酸化物半導体層の前記基板側に配置された第1ゲート電極と、
前記酸化物半導体層及び前記第1ゲート電極と重なる領域を有し、前記酸化物半導体層の前記基板側とは反対に配置された第2ゲート電極と、を有し、
前記第1電極は前記酸化物半導体層と電気的に接続することを特徴とする表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、エレクトロルミネセンス材料を用いたエレクトロルミネセンス素子(以下、「EL素子」ともいう。)の素子構造と材料に関する。本明細書で開示される発明の一実施形態は、発光層へ電子を輸送する層に塗布型無機透明酸化物半導体材料を用いる逆構造エレクトロルミネセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
EL素子は、陽極及び陰極と呼ばれる一対の電極を有し、この一対の電極間に発光層が配置された構造を有する。EL素子の電極に電位を印加すると、発光層には、陰極から電子が注入され、陽極から正孔が注入される。電子と正孔は、発光層のホスト分子上で再結合する。これにより放出されるエネルギーによって発光層中の発光分子が励起し、その後、基底状態に戻ることによって発光する。
【0003】
ここで電子が発光層に入るためには、発光層の電子親和力と陰極の仕事関数の差が作るエネルギー障壁を乗り越える必要がある。また正孔が発光層に入るためには、発光層のイオン化エネルギーと陽極の仕事関数の差が作る障壁を乗り越える必要がある。効率よく発光を起こさせるためには、このエネルギー障壁を小さくする必要がある。このため陰極と発光層の間に電子輸送層、陽極と発光層の間に正孔輸送層を挿入してもよい。例えば、電子輸送層としては、その電子親和力が陰極の仕事関数と発光層の電子親和力の中間であるとよい。
【0004】
一方で、EL素子は2端子型の素子を基本構造とするが、さらに、第3の電極が付加された3端子型のEL素子が開示されている。例えば、陽極と、発光材料層と呼ばれる有機エレクトロルミネセンス材料で形成される層と、陰極と、陰極及び発光材料層に対して絶縁層を介して補助電極が設けられた有機EL素子が開示されている(特許文献1参照)。また、陽極と陰極との間に、陽極側から正孔注入層、キャリア分散層、正孔輸送層、発光層が積層された構造を有し、陽極に対し絶縁膜を介して補助電極が設けられた発光型トランジスタが開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、補助電極と、補助電極上に設けられた絶縁膜と、絶縁膜上に所定の大きさで設けられた第1電極と、第1電極上の電荷注入抑制層と、第1電極が設けられていない絶縁膜上に設けられた電荷注入層と、電荷注入抑制層及び電荷注入層上又は電荷注入層上に設けられた発光層と、発光層上に設けられた第2電極とを有するように構成された有機発光トランジスタ素子が開示されている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-343578号公報
【文献】国際公開第2007/043697号
【文献】特開2007-149922号公報
【文献】特開2007-157871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示された有機EL素子は、発光材料層における電子移動度が低いため、陰極からの電子注入量は陽極と陰極との間の電位差でほぼ決まってしまい、補助電極から印加されるバイアス電圧はキャリア注入にほとんど影響を与えないという問題がある。発光材料層は電子移動度が低く高抵抗であるため、発光材料層への電子の注入はもっぱら陰極近傍に集中してしまい、補助電極に印加されるバイアス電圧は電子の注入量に影響を与えないという問題がある。
【0008】
特許文献2に記載の発光型トランジスタは、補助電極が発光/非発光の状態を制御するため、発光層に注入される異なる極性のキャリア(電子、正孔)の量を、外部回路を使用しても個々に独立して制御することができないという問題がある。さらに、特許文献1に記載の発光型トランジスタは、発光層内で電子と正孔が再結合する領域、すなわち発光領域の位置を制御することができないという問題がある。
【0009】
また、特許文献3、4に記載の有機発光トランジスタ素子では、有機材料で形成される電子輸送層のキャリア(電子)移動度が低いため、表示パネルの大画面化と高精細化を実現できないという問題がある。
【0010】
電子輸送層として、移動度が十分に大きく、且つ透明な材料がないことから、その厚さを大きくすることができないという問題がある。スパッタ法やCVD法により電子輸送層を形成する場合、基板の大型化にコストがかかり、工程が煩雑で生産性に問題がある。また、これらの方法では高温での処理が必要になるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るエレクトロルミネセンス素子の製造方法は、基板上に第1電極を形成し、第1電極を覆う第1絶縁層を形成し、第1絶縁層上に配置され、第1電極と重なる領域を有する第2電極を形成し、第2電極と接する第1電子輸送層を形成し、第2電極と重なる領域を覆い、第1電極と重なる領域に開口部を有する第2絶縁層を形成し、開口部に、金属酸化物材料と溶媒を含む液状の組成物を塗布し、塗布後に溶媒を除去して第2電子輸送層を形成し、第2電子輸送層と重なり、エレクトロルミネセンス材料を含む発光層を形成し、発光層と重なる領域に、第3電極を形成すること、を含む。
【0012】
本発明の一実施形態に係るエレクトロルミネセンス素子は、第1電極と、第1電極と対向する領域を有する第3電極と、第1電極と第3電極との間の第1絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の第2絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の電子輸送層と、電子輸送層と第3電極との間のエレクトロルミネセンス材料を含む発光層と、第1絶縁層と第2絶縁層との間に配置され、電子輸送層と電気的に接続される第2電極と、を有し、第2絶縁層は開口部を有し、開口部において、第3電極、発光層、電子輸送層、第1絶縁層、及び第1電極が重なる重畳領域を有し、第2電極は、重畳領域の外側に配置され、電子輸送層は、第1絶縁層と接する第1電子輸送層と、開口部に配置され、第1電子輸送層と接する第2電子輸送層と、を有し、第1電子輸送層は、第2絶縁層の開口部の外側領域で第2電極と接し、第2電子輸送層は、開口部の中心部に比べ端部の膜厚が大きい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る表示装置は、第1電極と、第1電極と対向する領域を有する第3電極と、第1電極と第3電極との間の第1絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の第2絶縁層と、第1絶縁層と第3電極との間の電子輸送層と、電子輸送層と第3電極との間のエレクトロルミネセンス材料を含む発光層と、第1絶縁層と第2絶縁層との間に配置され、電子輸送層と電気的に接続される第2電極と、を有し、第2絶縁層は開口部を有し、開口部において、第3電極、発光層、電子輸送層、第1絶縁層、及び第1電極が重なる重畳領域を有し、第2電極は、重畳領域の外側に配置され、電子輸送層は、第1絶縁層と接する第1電子輸送層と、開口部に配置され、第1電子輸送層と接する第2電子輸送層と、を有し、第1電子輸送層は、第2絶縁層の開口部の外側領域で第2電極と接し、第2電子輸送層は、開口部の中心部に比べ端部の膜厚が大きいエレクトロルミネセンス素子と、エレクトロルミネセンス素子と接続される駆動トランジスタと、を含む画素を有し、駆動トランジスタは、酸化物半導体層と、酸化物半導体層と重なる領域を有し、第1絶縁層を介して酸化物半導体層の基板側に配置された第1ゲート電極と、酸化物半導体層及び第1ゲート電極と重なる領域を有し、第2絶縁層を介して酸化物半導体層の基板側とは反対に配置された第2ゲート電極と、酸化物半導体層と第1絶縁層との間に配置され、酸化物半導体層と接する領域を含む第1透明導電層及び第2透明導電層と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態に係るエレクトロルミネセンス素子は、電子輸送層を塗布型酸化物半導体で形成することで、十分な厚さの緻密で平坦な膜を形成することができ、生産性を向上することができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係るエレクトロルミネセンス素子は、絶縁層を介して電子輸送層と重なる第3の電極を設けることで、発光層へのキャリア注入量を制御することができる。この場合において、エレクトロルミネセンス素子の電子輸送層を塗布型酸化物半導体で形成することでも、キャリアの輸送特性を改善し、均一な発光を得ることができる。
【0016】
本発明の一実施形態に係るエレクトロルミネセンス素子は、発光層へのキャリア注入量を制御する電極を設けることで、正孔と電子のキャリアバランスを制御することができ、発光効率を向上させ、寿命時間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るEL素子の動作を説明する図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るEL素子の動作を説明する図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るEL素子の動作を説明する図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るEL素子の動作特性の一例を説明するグラフを示す。
【
図7】本発明の一実施形態に係るEL素子の作製方法を説明する図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るEL素子の作製方法を説明する図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るEL素子の作製方法を説明する図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るEL素子を含む表示装置における画素の等価回路の一例を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るEL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す平面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係るEL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係るEL素子を含む表示装置における画素の等価回路の一例を示す図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係るEL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す平面図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係るEL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す断面図である。
【
図21】本発明の一実施形態に係る酸化物半導体層のエネルギーバンド図である。
【
図22】本発明の一実施形態に係るトランジスタの電気的特性と成膜時の酸素分圧の関係を示す図である。
【
図23】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図24】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図25】本発明の一実施形態に係るEL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す断面図である。
【
図26】本発明の一実施形態に係るEL素子を用いた表示装置における画素の構成を示す平面図である。
【
図27】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図28】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図29】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図30】本発明の一実施形態に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図31】本発明の一実施形態に係る逆構造EL素子のバンド図である。
【
図32】本発明の一実施形態に係る逆構造EL素子のバンド図である。
【
図33】本発明の一実施形態に係るEL素子のキャリア注入量制御電極に印加される電圧波形を示す図である。
【
図34】本発明の一実施形態に係るEL素子のキャリア注入量制御電極に印加される電圧と発光強度の関係を示す図である。
【
図35】本発明の変形例に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図36】本発明の変形例に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図37】本発明の変形例に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図38】本発明の変形例に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図39】本発明の変形例に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図40】本発明の変形例に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【
図41】本発明の変形例に係るEL素子の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様を含み、以下に例示する実施形態に限定して解釈されるものではない。本明細書に添付される図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、それはあくまで一例であって、本発明の内容を必ずしも限定するものではない。また、本発明において、ある図面に記載された特定の要素と、他の図面に記載された特定の要素とが同一又は対応する関係にあるときは、同一の符号(又は符号として記載された数字の後にa、bなどを付した符号)を付して、繰り返しの説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有さない。
【0019】
本明細書において、ある部材又は領域が他の部材又は領域の「上に(又は下に)」あるとする場合、特段の限定がない限りこれは他の部材又は領域の直上(又は直下)にある場合のみでなく他の部材又は領域の上方(又は下方)にある場合を含む。すなわち、他の部材又は領域の上方(又は下方)においてある部材又は領域との間に別の構成要素が含まれている場合も含む。
【0020】
<第1実施形態>
1.EL素子の構造
EL素子の構造は光の出射方向に基づいて、基板を通して光を出射するボトムエミッション型と、基板とは反対側に光を出射するトップエミッション型に分類される。また、EL素子の構造は製造工程における積層順に基づいて、基板側から陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極の順に積層された順積み構造と、その逆の順に積層された逆積み構造に分類される。本実施形態に係るEL素子は、逆積み構造に分類され、ボトムエミッション型及びトップエミッション型の双方に適用することができる。
【0021】
1-1.ボトムエミッション型EL素子
図1は、本発明の一実施形態に係るEL素子200aの断面構造を示す。
図1に示すEL素子200aは、ボトムエミッション型であり、逆積み構造を有する。すなわち、EL素子200aは、基板100側から、第1電極102、第1絶縁層104、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)、発光層112、第3電極118が積層された構造を有する。
【0022】
図1は、さらに発光層112と第3電極118との間に正孔輸送層114及び正孔注入層116が配置された構成を示す。EL素子200aは、正孔注入層116及び正孔輸送層114の一方が省略されてもよいし、正孔注入及び正孔輸送の双方の機能を兼ね備えた正孔注入輸送層で置換えられてもよい。また、
図1には示されないが、電子注入層110と発光層112との間に正孔ブロック層が配置されていてもよいし、発光層112と正孔輸送層114との間に電子ブロック層が配置されていてもよい。
【0023】
図1に示すEL素子200aは、第1電極102、第1絶縁層104、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118が縦方向に重なって配置されている。一方、第2電極108は、これらの層が重なる領域(重畳領域)の外側に配置され、かつ第1電子輸送層106aと電気的に接続されるように配置される。すなわち、第1電子輸送層106aは第1電極102より幅広に設けられる。第1電子輸送層106aの少なくとも一部の外端部は、第1電極102の外側に配置される。これにより、第1電子輸送層106aは、第1絶縁層104を介して第1電極102と重なる領域を含み、さらにその領域の外側に、第1電極102と重ならない領域を含む。第2電極108は、重畳領域の外側において第1電子輸送層106aの少なくとも一部と接するように設けられる。例えば、第2電極108は、第1電子輸送層106aと第1絶縁層104の間に挟まれるように配置されてもよい。第2電極108は、第1電子輸送層106aの外周を囲むように設けることが好ましい。このような第2電極108の配置により、第1電子輸送層106aの中央領域から第2電極108までの長さを全周に亘って均等にすることができる。しかしながら、本発明の一実施形態に係るEL素子200aは、このような配置に限定されず、第2電極108は、第1電子輸送層106aの周縁部において、一部の領域に設けられていればよい。さらに、第2電極108に接して配線111が一部の領域に設けられてもよい。配線111は第2電極108と第1電子輸送層106aとの間に挟まれるように配置されてもよい。
【0024】
EL素子200aは、第2電極108の上面が第1電子輸送層106aと接触して設けられることで、接触面積を大きくすることができる。これにより、EL素子200aは直列抵抗成分が低減され駆動電圧を低くすることができる。また、EL素子200aは、第2電極108に流れ込む電流密度を低くすることができる。さらに、EL素子200aは、第2電極108が先に形成されていることにより、第1電子輸送層106aの表面欠陥が少ない領域で第2電極108と接触することができる。
【0025】
図1において、第3電極118は正孔注入層116に正孔を注入する機能を有し、「陽極」又は「アノード」とも呼ばれる電極である。第2電極108は電子輸送層106に電子を注入する機能を有し、「陰極」又は「カソード」とも呼ばれる電極である。第1電極102は、発光層112へのキャリア(電子)注入量を制御する機能を有し、「キャリア注入量制御電極」とも呼ばれる。
【0026】
EL素子200aは、電子輸送層106が、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bの、区別される2つの層で示される。電子輸送層106の詳細は後述されるが、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとは、第2電極108から注入された電子を発光層112へ輸送する機能において共通する。一方、第2電極108と接する第1電子輸送層106aと、発光層112に近い側に配置される第2電子輸送層106bとでは、電子濃度及び電子移動度が異なっている。例えば、第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)は、発光層のエキシトンの失活を防ぐために、第1電子輸送層106aのキャリア濃度(電子濃度)に対して相対的に低いことが好ましい。さらに、第2電子輸送層106bの膜厚は第1電子輸送層106aの膜厚よりも厚い方が好ましい。
【0027】
なお、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、第2電極108から注入された電子を発光層112へ輸送するという共通する機能から、一つの層としてみなすこともできる。
【0028】
EL素子200aは、第1電子輸送層106aと電子注入層110との間に配置される第2絶縁層120を含む。第2絶縁層120は、第1電子輸送層106aの周縁部を覆い、上面を露出させる開口部124を有する。第2絶縁層120の開口部124には、第2電子輸送層106bが配置される。第2電子輸送層106bが配置される領域の面積は、第1電子輸送層106aが配置される領域の面積より小さい。第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとは、第2絶縁層120の開口部124で相互に接触する。この開口部124が配置される領域124aは、第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118が積層される。これらの層が積層される領域がEL素子200aの発光領域となる。別言すれば、第2絶縁層120の開口部124によって、EL素子200aの発光領域が画定される。
【0029】
第2電子輸送層106bは、第2絶縁層120の開口部124に配置される。第2電子輸送層106bの膜厚は、第2絶縁層120の膜厚より小さい。すなわち、第2電子輸送層106bの上面(基板100とは反対側の面)は、第2絶縁層120の上面(基板100とは反対側の面)より低い(基板100側)。第2電子輸送層106bは、開口部124の端部に比べ中心部における膜厚が小さい凹面形状を有する。ここで第2電子輸送層106bの膜厚とは、積層方向(基板100の上面と直交する方向)における開口部124の底部からの距離を示す。第2電子輸送層106bの凹面形状は、第2絶縁層120の開口部124内に配置される。第2電子輸送層106b上面の凹面形状はとくに限定しないが、第2絶縁層120の側壁近傍では、連続した1つの凹面形状であって、丸みを帯びていることが好ましい。第2電子輸送層106bの上面は、他の成膜法と比べて凹凸構造が少なくより平坦に成膜することができる。発光層のエキシトンの失活を防ぐためには、第2電子輸送層106bの膜厚は150nm以上が必要となる。好ましくは200nm以上の膜厚に形成するとよい。
【0030】
第2電子輸送層106bがこのように構成されることで、第2電子輸送層106bと第2絶縁層120との接着面積が増大し、密着性が向上する。また、第2電子輸送層106bは、端部において中心部より大きい膜厚を有することで、第3電極118と第2電極108の端部に電界が集中することを抑制することができ、耐電圧性を向上することができるのと、開口部124が配置される領域124aの周辺部に発光が集中するのを防止でき、素子の発光寿命を延ばすことができる。
【0031】
また、開口部124における第2絶縁層120の側面は、上方に開くように傾斜していることが好ましい。このような開口部124の断面形状により、段差の急峻性を緩和することができる。それにより、開口部124に重ねて発光層112、及び第3電極118等を設ける場合、段差部に沿って各層を形成することが可能となる。別言すれば、発光層112、及び第3電極118等にクラックが入り、所謂段切れをすることを防止することができる。
【0032】
第2電極108は第1絶縁層104と第2絶縁層120とに挟まれて配置される。第2電極108は、第1絶縁層104と第2絶縁層120とに挟まれることにより、開口部124から露出しない位置に配置される。第2電極108は、絶縁層を挟んで第3電極118と重なるように設けられる。第2電極108の端部は、第2絶縁層120の開口部124に露出しないので、発光領域において第3電極118と第2電極108との間に電界集中が生じないように構成される。EL素子200aは、第2電極108が第2絶縁層120の開口部124に露出しないようにオフセット領域126が設けられている。オフセット領域126は、開口部124の端部から第2電極108の端部までの領域であり、第1電子輸送層106aが第1絶縁層104と第2絶縁層120とに挟まれた領域に相当する。オフセット領域126の長さ(キャリア(電子)が流れる方向)は、電界集中を防ぐという目的において、電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、正孔輸送層114、正孔注入層116等の合計膜厚が100nm~1000nmであるとすると、合計膜厚の10倍以上の長さとして、1μm~20μm程度、例えば、2μm~10μmであることが好ましい。
【0033】
このように、本実施形態に係るEL素子200aは、第2電極108が第1絶縁層104及び第2絶縁層120に挟まれると共に、第2電極108の端部が第2絶縁層120の開口部124が配置される領域124aより外側に配置されることで、EL素子200aの耐圧を高め、発光領域における発光強度の均一性を高めている。第2絶縁層120を設けることで、第3電極118と第2電極108との間隔を広げることができ、寄生容量を低減することができる。
【0034】
第1電極102は、第2絶縁層120の開口部124が配置される領域124aと重畳するように配置され、第1絶縁層104を介して第1電子輸送層106aと重畳するように配置される。第1電極102は、第1絶縁層104によって第1電子輸送層106aと絶縁される。第1電極102と第1電子輸送層106aとの間にキャリアの授受はないが、第1電子輸送層106aは、第1電極102に電圧が印加されると、それにより発生する電界の影響を受ける。
【0035】
第1電子輸送層106aは、第1電極102によって形成される電界の作用を受ける。電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)から発光層112に輸送されるキャリア(電子)の量は、第1電極102の電界強度によって制御することが可能である。第1電極102に印加される電圧が大きくなると、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)に作用する電界も大きくなる。第1電極102に正電圧が印加されることで生成された電界は、第2電極108から第1電子輸送層106aにキャリア(電子)を引き込むように作用するので、発光層112へ輸送されるキャリア(電子)の量を増加させることが可能となる。すなわち、第1電極102に印加する電圧の大きさにより、第1電子輸送層106aから発光層112へ輸送されるキャリア(電子)の量を制御することができる。別言すれば、第1電極102に印加する電圧を制御することで、第2電極108から注入される電子の量と、第3電極118から注入される正孔の量とのバランス(キャリアバランス)を調整することが可能となる。
【0036】
第1電極102は、第1電子輸送層106aのオフセット領域126と重なるように配置されることが好ましい。このような配置により第1電極102は、オフセット領域126に電界を作用させることができる。第1電極102に正電圧を印加すると、オフセット領域126を形成する第1電子輸送層106aにはキャリア(電子)が誘起され、オフセット領域126の高抵抗化を防ぐことが可能となる。オフセット領域126の長さは、2μm~10μm程度であれば第1電極102がアース電位に接続されたとき、第2電極108から第1電子輸送層106aに電子が流れ込むことを防止することができる。つまり、オフセット領域126が第1電極102をボトムゲートとする薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)として動作するからである。
【0037】
図1に示すEL素子200aはボトムエミッション型であるため、第1電極102は透光性を有する。例えば、第1電極102は透明導電膜で形成される。一方、第3電極118は、発光層112から放射される光を反射させるための光反射面を有する。第3電極118は、正孔注入層116へ正孔を注入するため仕事関数の大きい材料で形成することが好ましい。第3電極118は、例えば、酸化インジウム錫(ITO)のような透明導電膜で形成される。第3電極118の光反射面は、例えば、透明導電膜にアルミニウム合金等の金属膜を積層することで形成することができる。
【0038】
後述されるように、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)は、透光性を有する酸化物半導体で形成される。透光性を有する酸化物半導体は無機材料であり、しかも酸化物であるため熱的に安定である。EL素子200aは、電子輸送層106を酸化物半導体で形成することにより、逆積み構造であっても特性劣化のない安定した発光を実現することができる。
【0039】
1-2.トップエミッション型EL素子
図2は、トップエミッション型のEL素子200bを示す。トップエミッション型のEL素子200bは、第3電極118と第1電極102の構成が異なる他は、
図1に示すボトムエミッション型のEL素子200aと構造は同じである。EL素子200bがトップエミッション型である場合、第1電極102は、光反射面が形成されるように金属膜で形成され、第3電極118は発光層112から放射される光が透過するように透明導電膜で形成される。第2電極108は発光領域の外側に配置されるため、構造及び構成材料を特段変更する必要がない。第3電極118の上層には、通常、薄膜封止層としてプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法又はスパッタリング法で作製された窒化シリコン膜(Si
3N
4膜)、酸化シリコン膜(SiO
2膜)、酸化アルミニウム膜(Al
2O
3膜)などが形成されるが、この図では省略する。
【0040】
第1電極102は金属膜で形成されるため、EL素子200bの中で光反射板としての機能を有する。電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)は、透光性を有する酸化物半導体膜から形成されるため、第1電極102で反射される光の減衰を防ぐことができ、光取り出し効率(外部量子効率)を高めることができる。
【0041】
トップエミッション型のEL素子200bは、ボトムエミッション型のEL素子200aと、第3電極118及び第1電極102の構成が相違するのみである。すなわち、本実施形態に係るEL素子は、逆積み型の構造を共通としつつ、僅かな変更でボトムエミッション型及びトップエミッション型の双方を実現することができる。
【0042】
図1に示すボトムエミッション型のEL素子200a、及び
図2に示すトップエミッション型のEL素子200bは、電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、第3電極118が少なくとも縦方向に積層され、さらに第1絶縁層104を挟んで電子輸送層106と近接するように第1電極102が設けられ、第2電極108は開口部124が配置される領域124aの外周領域に配置された構造を有する。EL素子200は、第3電極118及び第2電極108から独立して、第1電極102の電位が制御されることにより、電子輸送層106から発光層112へ輸送されるキャリア(電子)の量を制御することが可能となる。そして、EL素子200は、第1電極102と第3電極118の材料を適宜選択することで、ボトムエミッション型及びトップエミッション型の双方の構造を実現することを可能としている。
【0043】
2.EL素子の構成部材
2-1.第1電極(キャリア注入量制御電極)
第1電極102は、金属材料、導電性を有する金属酸化物材料、金属窒化物材料又は金属酸窒化物材料を用いて形成される。金属材料としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)等の金属材料、又はこれらの金属を用いた合金材料や積層金属で形成される。金属酸化物材料としては、例えば、酸化インジウム錫(In2O3・SnO2:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In2O3・ZnO:IZO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)を用いることができる。さらに、金属酸化物材料として、ニオブ(Nb)をドープした酸化チタン(TiOx:Nb)等を用いることができる。金属窒化物材料としては、窒化チタン(TiNx)、窒化ジルコニウム(ZrNx)等を用いることができる。金属酸窒化物材料としては、酸窒化チタン(TiOxNy)、酸窒化タンタル(TaOxNy)、酸窒化ジルコニウム(ZrOxNy)、酸窒化ハフニウム(HfOxNy)等を用いることができる。これらの金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料に対して、導電性を向上させる微量の金属元素が添加されていてもよい。例えば、タンタル(Ta)がドープされた酸化チタン(TiOx:Ta)を用いてもよい。
【0044】
第1電極102を形成する材料は、EL素子200がトップエミッション型であるか、ボトムエミッション型であるかによっても適宜選択される。ボトムエミッション型の場合、第1電極102が導電性を有し、かつ透光性を有する金属酸化物材料、金属窒化物材料又は金属酸窒化物材料で形成される。これにより、EL素子200aは、発光層112で発光した光を、第1電極102を透過させて出射することができる。一方、トップエミッション型の場合、第1電極102は可視光に対する反射率が高い金属材料で形成される。EL素子200bは、第1電極102が金属材料で形成されることで、発光層112で発光した光を反射させ、第3電極118から出射することができる。
【0045】
2-2.第1絶縁層
第1絶縁層104は、無機絶縁材料を用いて形成される。無機絶縁材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム等を選択することができる。第1絶縁層104は、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法等を用いて形成される。第1絶縁層104は、50nm~900nm、好ましくは100nm~600nmの膜厚で形成される。第1絶縁層104の膜厚を上記範囲とすることで、第1電極102によって生成される電界を電子輸送層106に作用させることができ、バイアス電圧を高くした場合においてもトンネル効果によって第1電極102から電子輸送層106にトンネル電流が流れることを防止することができる。
【0046】
第1絶縁層104は、このような絶縁材料が用いられることで、絶縁性と透明性を兼ね備えることができる。それにより、ボトムエミッション型のEL素子200a及びトップエミッション型のEL素子200bの双方に適用することができる。また、第1電極102と電子輸送層106との間、及び第1電極102と第2電極108とを絶縁することができる。
【0047】
2-3.第2絶縁層
本実施形態において、第2絶縁層120は、極性を有する有機絶縁材料で形成される。第2絶縁層120は、例えば、直鎖系フッ素有機材料が用いられてもよい。直鎖系フッ素有機材料としては、例えば、フルオロアルキルシラン(FAS)系材料が用いられる。フルオロアルキルシラン(FAS)系材料としては、例えば、H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルトリクロロシラン(FDTS)、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルトリクロロシラン(FOTS)等が用いられる。
【0048】
また、第2絶縁層120は、例えば、感光性樹脂材料にフッ素系撥液剤が含まれてもよい。直鎖系フッ素有機材料を主体とするポジ型感光性樹脂組成物やネガ型感光性樹脂組成物がすでに市販されており、これらの感光性樹脂組成物にフッ素系撥液剤を適量混合し、撥液性能を調整することが可能である。
【0049】
第2絶縁層120は、直鎖系フッ素有機材料を用いて形成されることで、濡れ性が悪く撥液性が高い表面が形成される。別言すれば、双極性を有する分子や側鎖を含む第2絶縁層120を形成することで、ミクロ相分離現象によって、第2絶縁層120の上面にマイナスの電荷が表れるようになる。後述するように、第2絶縁層120には第1電子輸送層106aを露出させる開口部124が形成され、その後、第2絶縁層120の開口部124に第2電子輸送層106bが形成される。開口部124における第2絶縁層120の側面は、濡れ性が高く、親液性が高い。第2絶縁層120上面の撥液性および開口部側面の親液性を利用することで、第2電子輸送層106bを第2絶縁層120の開口部124に効率よく配置することができる。
【0050】
また、第2絶縁層120には、ポリイミド、アクリル、エポキシ等の有機絶縁材料が用いられてもよい。この場合、第2絶縁層120上面は、例えばフッ素系プラズマ処理によって撥液性を向上してもよい。
【0051】
一方で、第2絶縁層120を有機絶縁材料で形成することで、開口部124の断面形状を制御することが容易となる。第2絶縁層120の開口部124はテーパー状に傾斜していることが好ましいが、感光性の有機絶縁材料を用いることで開口部124の断面形状をテーパー状に成形することができる。第2絶縁層120の膜厚は特段限定されないが、例えば、200nm~5000nmの厚さで形成されてもよい。第2絶縁層120に平坦化膜としての機能を持たせる場合には、膜厚を2μm~5μm程度まで厚くすると良い。
【0052】
2-4.電子輸送層
電子輸送層106は、第2電極108から注入されるキャリア(電子)を、EL素子200の発光領域の面内に輸送するために、電子移動度が高い材料で形成されることが好ましい。また、電子輸送層106は、ボトムエミッション型の場合、発光層よりも光出射側に配置されるので、良好な可視光透光性を有する材料で形成されることが好ましい。また、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとの間でキャリア濃度を異ならせるために、キャリア濃度の制御が容易である材料で形成されることが好ましい。
【0053】
本実施形態において、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)は金属酸化物材料が用いられる。金属酸化物材料としては、バンドギャップが2.8eV以上、好ましくは3.0eV以上であり、電子移動度が高い酸化物半導体材料を用いることが好ましい。このような酸化物半導体材料は、薄膜を形成した場合でも半導体特性を有し、可視光に対して透明であり、n型の電気伝導性を有する。
【0054】
電子輸送層106に適用される酸化物半導体材料としては、四元系酸化物材料、三元系酸化物材料、二元系酸化物材料、および一元系酸化物材料が例示される。ここで例示される金属酸化物材料は、バンドギャップが2.8eV以上であり、n型の導電性を示し、酸素欠損等によりドナー濃度を制御することができることから、酸化物半導体に分類される。
【0055】
四元系酸化物材料として、In2O3-Ga2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料、三元系酸化物材料としてIn2O3-Ga2O3-ZnO系酸化物材料、In2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料、In2O3-Ga2O3-SnO2系酸化物材料、In2O3-Ga2O3-SmOx系酸化物材料、In2O3-Al2O3-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-Al2O3-ZnO系酸化物材料、SnO2-Al2O3-ZnO系酸化物材料、二元系酸化物材料としてIn2O3-ZnO系酸化物材料、In2O3-Ga2O3系酸化物材料、In2O3-WO3系酸化物材料、In2O3-SnO2系酸化物材料、SnO2-ZnO系酸化物材料、Al2O3-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-SnO2系酸化物材料、Ga2O3-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-MgO系酸化物材料、MgO-ZnO系酸化物材料、SnO2-MgO系酸化物材料、In2O3-MgO系酸化物材料、一元系酸化物材料として、In2O3系金属酸化物材料、Ga2O3系金属酸化物材料、SnO2系金属酸化物材料、ZnO系金属酸化物材料等を用いることができる。
【0056】
また、上記金属酸化物材料にシリコン(Si)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)が含まれていてもよい。なお、例えば、上記で示すIn-Ga-Zn-O系酸化物材料は、少なくともInとGaとZnを含む金属酸化物材料であり、その組成比に特に制限はない。また、他の表現をすれば、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、化学式InMO3(ZnO)m(m>0)で表記される材料を用いることができる。ここで、Mは、Ga、Al、Mg、Ti、Ta、W、HfおよびSiから選ばれた一つ又は複数の金属元素を示す。なお、上記の四元系酸化物材料、三元系酸化物材料、二元系酸化物材料、一元系酸化物材料は、含まれる酸化物が化学量論的組成のものに限定されず、化学量論的組成からずれた組成を有する酸化物材料によって構成されてもよい。また、電子輸送層106としての酸化物半導体層は、アモルファス相を有していても良く、結晶性を有していても良く、またはアモルファス相と結晶相が混合していても良い。
【0057】
第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bは、それぞれ組成が異なる酸化物半導体材料で形成されることが好ましい。例えば、第1電子輸送層106aは、高い電子移動度と高いPBTS信頼性評価が得られるスズ(Sn)系の酸化物半導体(InGaSnOx、InWSnOx、InAlSnOx、InSiSnOx)で形成されることが好ましい。第2電子輸送層106bは、大粒径結晶化しにくく、アモルファス膜やナノ微結晶膜を形成しやすい亜鉛(Zn)系の酸化物半導体(ZnSiOx、ZnMgOx、ZnAlOx、ZnIn、ZnGaOx等)で形成されることが好ましい。別言すれば、第1電子輸送層106aは、酸化スズと、酸化インジウムを主成分とし、酸化ガリウム、酸化タングステン、酸化アルミニウム及び酸化シリコンから選ばれた少なくとも一種とを含む金属酸化物であることが好ましく、第2電子輸送層106bは、酸化亜鉛を主成分とし、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化アルミニウム及び酸化ガリウムから選ばれた少なくとも一種とを含む金属酸化物であることが好ましい。第2電子輸送層106bとして、大粒径結晶化しにくく、アモルファス膜やナノ微結晶膜を形成しやすい材料を選択することで、空間電荷制限電流を流すことが可能となり寿命の長いEL素子を形成することができる。
【0058】
このように組成の異なる酸化物半導体材料を選択することにより、第1電子輸送層106a及び第2電子輸送層106bのバンドギャップを最適化することができる。例えば、第1電子輸送層106aのバンドギャップに対し、第2電子輸送層106bのバンドギャップを大きくすることができる。具体的には、第1電子輸送層106aのバンドギャップを3.0eV以上とし、第2電子輸送層106bのバンドギャップを第1電子輸送層106aのバッドギャップ以上とすることができる。第2電子輸送層106bのバンドギャップは3.4eV以上とすることが好ましい。第2電子輸送層106bのバンドギャップを3.4eV以上とすることで、青色光の吸収を減少させ、信頼性を向上させることができる。
【0059】
また、電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)として、酸化インジウム錫(In2O3・SnO2:ITO)、酸化インジウム亜鉛(In2O3・ZnO:IZO)、酸化錫(SnO2)酸化チタン(TiOx)等が用いられる。金属窒化物材料としては、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム・ガリウム(GaAlNx)等が用いられる。金属酸窒化物材料としては、酸窒化チタン(TiOxNy)、酸窒化タンタル(TaOxNy)、酸窒化ジルコニウム(ZrOxNy)、酸窒化ハフニウム(HfOxNy)等が用いられる。これらの金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料に対して、導電性を向上させる微量の金属元素が添加されていてもよい。例えば、ニオブがドープされた酸化チタン(TiOx:Nb)を用いてもよい。これらの金属化合物のバンドギャップを少なくとも2.8eV以上にするには、酸素含有量又は窒素含有量を調整すればよい。
【0060】
酸化物半導体材料で形成される第1電子輸送層106aは、スパッタリング法、真空蒸着法、塗布法等により形成することができる。酸化物半導体材料で形成される第2電子輸送層106bは、塗布法により形成することができる。第1電子輸送層106aは、10nm~70nmの膜厚を有し、第2電子輸送層106bは、150nm~900nmの膜厚で形成されることが好ましい。異物やパーティクルによる耐電圧低下やブレイクダウンを防止するためには、第2電子輸送層106bは、できるだけ膜厚を厚くした方がよい。
【0061】
第1電子輸送層106aのキャリア濃度は、第2電子輸送層106bのキャリア濃度と比べて10倍以上、好ましくは100倍以上高いことが好ましい。例えば、第1電子輸送層106aのキャリア濃度(電子濃度)は1014/cm3~1019/cm3の範囲にあり、第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)は1011/cm3~1017/cm3の範囲にあり、双方のキャリア濃度の差は上述のように1桁以上、好ましくは2桁以上差があることが好ましい。
【0062】
また、第1電子輸送層106aの電子移動度に対し、第2電子輸送層106bの電子移動度は、10分の1以下であることが好ましい。例えば、第1電子輸送層106aの電子移動度は10cm2/V・sec~200cm2/V・secであることが好ましく、第2電子輸送層106bの電子移動度は0.001cm2/V・sec~10cm2/V・secであることが好ましい。
【0063】
第1電子輸送層106aは、上述のような高いキャリア濃度及び高い電子移動度を有することで、第1電極102にプラスの電圧が印加されたときに、短時間で低抵抗化を図ることができる。第1電子輸送層106aは、このような物性を有することにより、第2電極108から注入された電子の面内分布を均一化することができる。別言すれば、第2電極108によって、第1電子輸送層106aの周辺部から注入されたキャリア(電子)を、中央方向に輸送して、発光領域における電子濃度の均一化を図ることができる。これにより、EL素子200の発光強度の面内均一化を図ることができる。また、電子移動度が高い第1電子輸送層106aを用いることで、第2電極108から注入されたキャリア(電子)を、第1電極102の電界が作用する領域に短時間で輸送することができる。
【0064】
第2電子輸送層106bは発光層112と近接して配置される。そのため第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)が1020/cm3以上であると、発光層112における励起状態が失活して発光効率を低下させてしまう。一方、第2電子輸送層106bのキャリア濃度(電子濃度)が1011/cm3以下であると、発光層112に供給されるキャリアが減少し十分な輝度を得ることができない。このように、第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bのキャリア濃度及び電子移動度を異ならせることで、EL素子200の発光効率を高め、発光強度の面内均一化を図ることができる。第2電子輸送層106bに流れる電流は、空間電荷制限電流であることが均一発光強度を得るために必要となる。
【0065】
2-5.第2電極(陰極)
EL素子の陰極材料としては、従来、アルミニウム・リチウム合金(AlLi)、マグネシウム・銀合金(MgAg)等の材料が用いられている。しかし、これらの材料は、大気中の酸素や水分の影響を受けて劣化しやすく、取扱が困難な材料である。また、これらの材料は金属又はアルカリ金属であり、透光性を持たせるためには薄膜化して半透過膜とする必要がある。しかし、陰極を薄膜化するとシート抵抗が高くなってしまうことが問題となる。電極の抵抗はEL素子の中で直列抵抗成分として作用するので、陰極の薄膜化は駆動電圧を高め、消費電力を増加させる要因となる。さらに、EL素子の発光領域の面内で、発光強度(輝度)の不均一性の原因ともなる。
【0066】
本実施形態に係るEL素子200は、第2電極108が導電性を有する金属酸化物材料、金属窒化物材料又は金属酸窒化物材料から形成される。別言すれば、第2電極108は、低抵抗酸化物導電体膜によって形成される。金属酸化物導電体材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(In2O3・SnO2:ITO)、酸化インジウムスズ亜鉛(In2O3・SnO2・ZnO:ITZO)、酸化インジウムスズシリコン(In2O3・SnO2・SiO2:ITSO)、酸化スズ(SnO2)、酸化アルミニウム亜鉛スズ(Al2O3・ZnO・SnO2:AZTO)、酸化ガリウム亜鉛スズ(Ga2O3・ZnO・SnO2:GZTO)、酸化亜鉛スズ(ZnO・SnO2:ZTO)、酸化ガリウムスズ(Ga2O3・SnO2:GTO)などを用いることができる。このような金属酸化物材料は、第1電子輸送層106aと良好なオーミック接触を形成することができる。
【0067】
また、第2電極108は、金属酸化物材料として、ニオブ(Nb)がドープされた酸化チタン(TiOx:Nb)等を適用することができ、金属窒化物材料としては、窒化チタン(TiNx)、窒化ジルコニウム(ZrNx)等を適用することができ、金属酸窒化物材料としては、酸窒化チタン(TiOxNy)、酸窒化タンタル(TaOxNy)、酸窒化ジルコニウム(ZrOxNy)、酸窒化ハフニウム(HfOxNy)等を適用することができる。また、これらの金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料に、導電性を向上させる微量の金属元素が添加されていてもよい。例えば、タンタルがドープされた酸化チタン(TiOx:Ta)を用いてもよい。TiSiOxなどの高融点金属シリサイド酸化物を用いてもよい。このようなn型電気伝導性を示す金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料を用いることで、配線111と接触させた場合でも接合の安定性を確保することができる。すなわち、このような金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料を用いることで、卑な電位を持つアルミニウム(Al)との酸化還元反応(局所的な電池反応)を防止することができる。
【0068】
第2電極108のキャリア濃度は、1020/cm3~1021/cm3であることが好ましい。第2電極108は、このようなキャリア濃度を有することで、低抵抗化を図り、直列抵抗損失を抑制することができる。それにより、EL素子200の消費電力を低減し、電流効率を高めることができる。
【0069】
2-6.電子注入層
EL素子において、電子注入層は、陰極から電子輸送材料へ電子を注入するためのエネルギー障壁を小さくするために用いられる。本実施形態に係るEL素子200は、酸化物半導体で形成される電子輸送層106から発光層112へ電子が注入されやすくするために、電子注入層110が設けられることが好ましい。電子注入層110は、電子輸送層106と発光層112との間に設けられる。
図1および
図2に示すように、電子注入層110は、表示領域全面に形成されることが歩留まり向上と信頼性向上のためには重要である。
【0070】
電子注入層110は、エレクトロルミネセンス材料を含んで形成される発光層112に電子を注入するために、仕事関数が小さな材料を用いて形成されることが望ましい。電子注入層110は、カルシウム(Ca)酸化物、アルミニウム(Al)酸化物を含んで構成される。電子注入層110としては、例えば、C12A7(12CaO・7Al2O3)エレクトライドを用いることが好ましい。C12A7エレクトライドは半導体特性を有し、高抵抗から低抵抗まで制御することが可能であり、仕事関数も2.4eV~3.2eVとアルカリ金属と同程度であるので、電子注入層110として好適に用いることができる。
【0071】
C12A7エレクトライドによる電子注入層110は、C12A7電子化物の多結晶体をターゲットとしてスパッタリング法で作製される。C12A7エレクトライドは半導体特性を有するので、電子注入層110の膜厚は1nm~10nmの範囲とすることができる。なお、C12A7エレクトライドは、Ca:Alのモル比が13:13~11:16の範囲にあることが好ましい。C12A7エレクトライドを用いた電子注入層110は、スパッタリング法を用いて形成することができる。C12A7エレクトライドで形成される電子注入層110は、アモルファスであることが好ましいが、結晶性を有していてもよい。
【0072】
C12A7エレクトライドは、大気中で安定であるので、従来から電子注入層として用いられているフッ化リチウム(LiF)、酸化リチウム(Li2O)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)等のアルカリ金属化合物と比較して取り扱いが簡便であるという利点を有する。これにより、EL素子200の製造工程において、乾燥空気又は不活性気体中で作業をする必要がなくなり、製造条件の制限が緩和されることとなる。
【0073】
また、C12A7エレクトライドは、イオン化ポテンシャルが大きいため、発光層112を挟んで正孔輸送層114と反対側に配置することで、正孔ブロック層として用いることができる。すなわち、電子輸送層106と発光層112との間に、C12A7エレクトライドで形成される電子注入層110を設けることで、発光層112に注入された正孔が第2電極108側に突き抜けることを抑制し、発光効率を高めることができる。また、酸化マグネシウム亜鉛(MgxZnyO、例えば、Mg0.3Zn0.7O)やZn0.75Si0.25Ox、LaMgOx、MgSiOxなども仕事関数が3.1eVと小さく大気中の安定性も高いので、同様に電子注入層として使用することができる。これらの膜厚も、C12A7と同様に1nm~10nmの範囲であれば良好な電子注入層として使用可能である。Zn0.7Mg0.3OxやZn0.75Si0.25Oxなどのバンドギャップは、3.9eV~4.1eVと大きいので、発光層112からの正孔注入を阻止することが可能である。Zn0.7Mg0.3OxとZn0.75Si0.25Oxとを1:4~1:10の範囲で混合した3元系金属酸化物半導体材料でも電子注入層として使用可能である。電子注入層はスパッタ成膜法で成膜するのでArとO2の混合ガスの酸素分圧を調整することで膜厚10nmの時に107Ω・cm以上の比抵抗値になるようにすれば、隣の画素とのクロストークを防止できる。
【0074】
2-7.発光層
発光層112はエレクトロルミネセンス材料を用いて形成される。エレクトロルミネセンス材料としては、例えば、蛍光を発光する蛍光性化合物材料、燐光を発光する燐光性化合物材料、又は熱活性化遅延蛍光材料(Thermally activated delayed fluorescence:TADF)を用いることができる。
【0075】
例えば、青色系の発光材料として、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N,N’-ジフェニルスチルベン-4,4’-ジアミン(YGA2S)、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェニルアミン(YGAPA)等を用いることができる。緑色系の発光材料としては、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(2PCAPA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-2-アントリル]-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-アミン(2PCABPhA)、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(2DPAPA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-2-アントリル]-N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(2DPABPhA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)]-N-[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N-フェニルアントラセン-2-アミン(2YGABPhA)、N,N,9-トリフェニルアントラセン-9-アミン(DPhAPhA)等を用いることができる。赤色系の発光材料としては、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テトラセン-5,11-ジアミン(p-mPhTD)、7,13-ジフェニル-N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)アセナフト[1,2-a]フルオランテン-3,10-ジアミン(p-mPhAFD)等を用いることができる。また、ビス[2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナトーN,C3’]イリジウム(III)アセチルアセトナート(Ir(btp)2(acac))のような燐光材料を用いることができる。
【0076】
この他にも、発光層112として、量子ドット(Quantum dot:QD)やペロブスカイト系無機発光材料、ペロブスカイト系無機有機ハイブリット発光材料等の公知の各種材料を使用することができる。発光層112は、蒸着法、転写法、スピンコート法、スプレーコート法、印刷法(インクジェット印刷法、グラビア印刷法)等により作製することができる。発光層112の膜厚は適宜選択されればよいが、例えば、10nm~100nmの範囲で設けられる。
【0077】
なお、
図1及び
図2では、発光層112がEL素子ごとに分離している例を示すが、複数のEL素子が同一平面上に配列される場合、発光層112は複数の発光素子に亘って連続するように設けられてもよい。発光層112と正孔輸送層114の間に電子阻止層を全面に形成してもよいが、
図1および2では省略する。
【0078】
2-8.正孔輸送層
正孔輸送層114は、正孔輸送性を有する材料を用いて形成される。正孔輸送層114は、例えば、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、およびフルオレン誘導体を含むアミン化合物などであっても良い。正孔輸送層114は、例えば、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)、2-TNATA、4,4’,4”-トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル(CBP)、4,4’-ビス[N-(9,9-ジメチルフルオレン-2-イル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(DFLDPBi)、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-イル)-N―フェニルアミノ]ビフェニル(BSPB)、スピロ-NPD、スピロ-TPD、スピロ-TAD、TNB等の有機材料が用いられる。
【0079】
正孔輸送層114は、真空蒸着法、塗布法など一般的な成膜方法によって作製される。正孔輸送層114は、10nm~500nmの膜厚で作製される。
【0080】
2-9.正孔注入層
正孔注入層116は、有機層に対して正孔注入性の高い物質を含む。正孔注入性の高い物質としては、モリブデン酸化物やバナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金属酸化物を用いることができる。また、フタロシアニン(H2Pc)、銅(II)フタロシアニン(略称:CuPc)、バナジルフタロシアニン(VOPc)、4,4’,4’’-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(TDATA)、4,4’,4’’-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(DPAB)、4,4’-ビス(N-{4-[N’-(3-メチルフェニル)-N’-フェニルアミノ]フェニル}-N-フェニルアミノ)ビフェニル(DNTPD)、1,3,5-トリス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ベンゼン(DPA3B)、3-[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCA1)、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCA2)、3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-9-フェニルカルバゾール(PCzPCN1)、2,3,6,7,10,11-ヘキサシアノ-1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン(HAT-CN)等の有機化合物を用いることができる。
【0081】
このような正孔注入層116は、真空蒸着法、塗布法など一般的な成膜方法によって作製される。正孔注入層116は、1nm~100nmの膜厚で作製される。
【0082】
2-10.第3電極(陽極)
第3電極118としては、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、導電性化合物で作製される。第3電極118には、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)などが用いられる。これらの導電性金属酸化物材料が用いられる第3電極118は、真空蒸着法、スパッタリング法により作製される。
【0083】
図1を参照して説明したように、ボトムエミッション型のEL素子200aの場合、第3電極118は出射面の裏面に位置するため、光反射面を有することが好ましい。この場合、第3電極118は透明導電膜の上に金属膜が積層されていることが好ましい。一方、
図2を参照して説明したように、トップエミッション型のEL素子200bの場合、第3電極118は、上述のような透明導電膜を用いて形成することができる。
【0084】
2-11.配線
配線111は、アルミニウム(Al)、銅(Cu)等の導電率の高い金属材料が用いられる。例えば、配線111は、アルミニウム合金、銅合金、または銀合金を用いて作製される。アルミニウム合金としては、アルミニウム・ネオジム合金(Al-Nd)、アルミニウム・チタン合金(Al-Ti)、アルミニウム・シリコン合金(Al-Si)、アルミニウム・ネオジム・ニッケル合金(Al-Nd-Ni)、アルミニウム・カーボン・ニッケル合金(Al-C-Ni)、銅・ニッケル合金(Cu-Ni)等を適用することができる。このような金属材料を用いれば、耐熱性を有すると共に、配線抵抗を低減することができる。また、Mo/Al/Mo、Mo/Cu/Moなどの3層積層構造の電極も有効である。すなわち、上述する金属材料をモリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、またはこれらの合金材料を含む酸化防止層で挟んだ3層積層構造を適用することもできる。
【0085】
3.EL素子の動作
図3、
図4、及び
図5を参照して、本実施形態に係るEL素子の動作を説明する。なお、本節で示すEL素子200は、模式的な構造を示す。
【0086】
3-1.発光および非発光の動作
図3は、本実施形態に係るEL素子200の構成を模式的に示す。
図3は、EL素子200を構成する部材として、第2電極108、電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、正孔輸送層114、正孔注入層116、第3電極118、第1絶縁層104、及び第1電極102が設けられた構造を示す。
【0087】
EL素子200は、発光ダイオードの一種であり、第3電極(陽極)118と第2電極(陰極)108との間に順方向電流を流すことで発光する。
図3は、第3電極118と接地(アース)との間に第3電源128cが接続され、第2電極108と接地(アース)との間に第2電源128bが接続され、第1電極102と第1電源128aとの間に第2スイッチ130bが直列に接続され、第1電極102と接地(アース)との間に第1スイッチ130aが接続された態様を示す。
図3は、スイッチ130において、第1スイッチ130a及び第2スイッチ130bがオフであり、第1電極102にバイアスが印加されない状態を示す。
【0088】
すなわち、
図3は、第1電極102と接地(アース)との間の導通状態を制御する第1スイッチ130aがオフ、第1電極102と第1電源128aとの間の接続を制御する第2スイッチ130bがオフの状態を示す。この状態では、EL素子200は順方向にバイアスされるので、バイアス電圧が発光開始電圧以上であれば、第3電極118から正孔が注入され、第2電極108から電子が注入される状態にある。EL素子200は、第3電源128cにより第3電極118と、第2電極108との間に正電圧が印加される。発光強度は、EL素子200に流れる順方向電流の大きさで制御することができる。
【0089】
しかし、第1絶縁層104の上で電子輸送層106と第3電極118とが発光層112を挟んで対向配置され、第2電極108が第1電子輸送層106aの周縁部で接続された構造では、発光領域(電子輸送層106、電子注入層110、発光層112、第3電極118が重畳する領域)で均一に発光することができない。この場合、第3電極118と第2電極108との間に生じる電界分布は発光領域で均一とならず、第2絶縁層120と第2電極108の端部に電界は集中する。第1スイッチ130aと第2スイッチ130bとの両方がオフの状態では、第2電極108から注入されるキャリア(電子)は、第1電子輸送層106aの面内で均一には分布せず、第2電子輸送層106bの端部に注入される。本実施形態に係る第2電子輸送層106bは端部における膜厚が中心部における膜厚より大きいことから、第2電子輸送層106bの端部における電界集中が緩和される。このため、オフセット領域126を短くすることができ、その分、発光領域の面積を大きくすることができる。
【0090】
しかしながら
図3は、第1スイッチ130a及び第2スイッチ130bがオフであるため、第1電極102には第2電源128bから電圧が印加されない。第2電極108から第1電子輸送層106aに注入されたキャリア(電子)は、第1電極102の影響を受けないので、第1電子輸送層106aの中央領域に広がらない。すなわち、第1電子輸送層106aの周縁部に注入されたキャリア(電子)は、第1電極102に電圧が印加されないことによりドリフトされないので、第1電子輸送層106aの中央領域全体には広がらない。したがって、
図3に示すバイアス状態では、EL素子200は発光領域の中央部が暗く、周縁部のみが明るく発光する。
【0091】
図4は、スイッチ130において、第1スイッチ130aがオンとなり、第1電極102の電位が接地電位となった状態を示す。この状態では、第1電子輸送層106aにはキャリア(電子)が存在せず、第1電子輸送層106aは絶縁状態となる。その結果、EL素子200には電流が流れず、発光しない状態(非発光状態)となる。第1電極102がボトムゲートとして動作するため、オフセット領域126の第1電子輸送層106aが空乏層化し電流が流れなくなるためである。
【0092】
図5に示すように、EL素子200の第3電極118と第2電極108との間に順方向バイアスを印加し、さらに第2スイッチ130bをオンにすると、第1電極102によって形成される電界が第1電子輸送層106aに作用する。第1電極102に正電圧が印加されているため、第2電極108から第1電子輸送層106aに注入されたキャリア(電子)は、第1電子輸送層106aの中央領域へドリフトされる。それによって、キャリア(電子)は、第1電子輸送層106aの周縁部から、第1電子輸送層106aの中央領域へ輸送される。正電圧が印加された第1電極102により生成される電界は、第2電極108から注入されたキャリア(電子)を第1電子輸送層106aの面内全体に広げるように作用する。
【0093】
EL素子200は順方向にバイアスされていることから、第1電子輸送層106aの中央領域に輸送されたキャリア(電子)は、第1電子輸送層106aから発光層112の方向に移動する。第3電極118から注入されたキャリア(正孔)と、第2電極108から注入されたキャリア(電子)とは、発光層112で再結合することにより励起子が生成され、励起状態の励起子が基底状態に遷移するときにフォトンが放出され発光として観察される。
【0094】
図5に示すバイアス状態において、第1電子輸送層106aに注入されるキャリア(電子)の量は、第2電極108の電圧によって制御することができる。第2電極108の電圧を大きくすることで、第1電子輸送層106aへのキャリア(電子)注入量を増加させることができる。第1電子輸送層106aから発光層112に注入されるキャリア(電子)の量は、第1電極102の電圧によって制御することができる。第1電極102の電圧を大きくすることで、第2電極108から注入されたキャリア(電子)を、第1電子輸送層106aの中央領域に多く引き込み、発光層112へのキャリア注入量を増加させることができる。
【0095】
発光層112が、全面略均一に発光するには、第2電子輸送層106bに流れる電子が空間電荷制限電流を形成することが好ましい。そのため第2電子輸送層106bは、アモルファス状態、ナノサイズの微結晶状態、又はこれらの混合状態であることが好ましい。第1電子輸送層106aは、ナノサイズの微結晶を含み、密度の高い膜であることが好ましい。
【0096】
このように、本実施形態に係るEL素子200は、第3電極118及び第2電極108に加え、第1電極102を有することで、発光層112に注入されるキャリアの濃度を制御することができる。
【0097】
さらに本実施形態に係る第2電子輸送層106bは中心部に比べ端部における膜厚が大きい。このため、第2電子輸送層106bの端部に電界が集中することを抑制することができ、耐電圧性を向上することができる。さらに、第2電子輸送層106b側壁からのリークを抑制し、信頼性を向上させるには、
図17に示すように第3絶縁層122を第2絶縁層120の下層に積層するとよい。
【0098】
なお、
図5は、第2電極108側に第1電極102が配置される例を示すが、第1電極102の配置を置換して第3電極118の側に設けることもできる。また、第1電極102に加え、第3電極118の側にキャリア(正孔)の注入量を制御する電極を、さらに設けてもよい。
【0099】
3-2.キャリアバランスの制御
EL素子が発光するには、陽極から正孔が注入され、陰極から電子が注入される必要がある。そして、EL素子の電流効率(発光効率)を高めるには、陽極から発光層に輸送される正孔の量と陰極から発光層に輸送される電子の量とが一致するようにバランスをとる必要がある(以下、「キャリアバランス」ともいう)。EL素子は、キャリアバランスをとることで電流効率を高めることができる。
【0100】
しかし、従来のEL素子は、発光層の正孔移動度に対して電子移動度が低いため、キャリアバランスが崩れ、発光効率が低下するという課題を有している。また、EL素子は、キャリアバランスが崩れて発光層で正孔の数が過剰になると、発光層と電子輸送層との界面に正孔が蓄積され、電流効率(発光効率)の劣化を促進させる要因になるという課題を有している。そこで、正孔輸送層及び電子輸送層の材質や膜厚を調整して、発光層に注入される正孔と電子のバランスを図る試みがなされている。しかし、EL素子の素子構造自体を調整しても、発光特性の経時変化や温度変化に追従できないという問題がある。
【0101】
これに対し、本発明の一実施形態に係るEL素子200は、第1電極102によってキャリアバランスを制御することができる。すなわち、電子輸送層106側に設けられた第1電極102によって、発光層112へのキャリア(電子)の輸送量を制御することでキャリアバランスの制御を可能としている。すなわち、第3電極118から発光層112に輸送される正孔の量に対して、第2電極108から発光層112に輸送される電子の量が不足しないように、第1電極102によって電子の輸送量を増加させることで、発光層112における正孔と電子の数が同じとなるように制御することができる。別言すれば、本実施形態に係るEL素子200は、
図32に示すように正孔輸送層114から発光層112に注入される正孔電流に対し、電子注入層110から発光層112に注入される電子電流の大きさが同じになるように、第1電極102によって当該電子電流を増加させることで、発光層112におけるキャリアバランスを一定に保つことを可能としている。
【0102】
図6は、EL素子200の第3電極118と第2電極108との間に印加する電圧(Vac)を一定とし、第1電極102に印加する電圧(Vg)を変化させたときに第3電極118と第2電極108との間に流れる電流(Ie)の関係を模式的に示すグラフである。
図6に示すように、第1電極102に印加する電圧(Vg)が0Vである場合、電子電流(Ie)は小さく、EL素子200の全面での発光は観測されない状態となる。この状態から第1電極102の電圧を大きくしていくと、第2電極108から電子輸送層106に注入されたキャリア(電子)は、電子電流(Ie)となり第1電子輸送層106aから発光層112に向けて流れる。このとき電子電流(Ie)は、ダイオードの順方向電流のように指数関数的に増加する(
図6に示す「I領域」)。
【0103】
第1電極102に印加する電圧(Vg)をさらに大きくすると、電圧(Vg)の変化量に対する電子電流(Ie)の増加量が飽和する傾向となり、Ie対Vg特性の曲線の勾配は緩やかになる(
図6に示す「II領域」)。領域Bで第1電極102に印加する電圧(Vg)の大きさを、第1電圧(Vg1)と第2電圧(Vg2)の間で変化させると、電子電流(Ie)は第1電流(Ie1)と第2電流(Ie2)の間で変化する。第1電極102の電圧(Vg)が、第1電圧(Vg1)から第2電圧(Vg2)の範囲で変化する領域は、電子電流(Ie)が急激に変化しない領域であり、EL素子200の発光強度は飽和しつつある領域となる。
【0104】
電子電流(Ie)の変化は、発光層112に注入される正孔と電子の量の増減を意味する。第1電極102の電圧(Vg)を、第1電圧(Vg1)と第2電圧(Vg2)の間で変化させると発光層112に注入される電子の量が変化する。すなわち、第1電極102の電圧(Vg)を変化させることで、発光層112内における電子と正孔のキャリアバランスを制御することができる。発光層112に注入される電子の量を変化させると、
図34に示すように、電子と正孔が再結合する領域の中心位置(発光層112の厚さ方向における発光領域の位置)をシフトさせることができる。例えば、
図34(A)においては、第1電極102が第1電圧(V102=Vg1)であるとき、電子電流が正孔電流に比べて相対的に小さくなり、発光層112における発光領域の位置は、陰極側(EL(b)、
図6に示す「A」側)となる。一方、
図34(C)においては、第1電極102が第2電圧(V102=Vg2)であるとき、電子電流が正孔電流に比べて相対的に大きくなり、発光層112における発光領域の位置は陽極側(EL(t)、
図6に示す「B」側)にシフトする。
図34(B)においては、第1電極102が第2電圧(V102=(Vg1+Vg2)/2)であるとき、電子電流と正孔電流とが同等になり、発光層112における発光領域の位置は中央部(EL(m))にシフトする。
【0105】
このようにEL素子200は、第1電極102の電圧により、発光層112における発光領域の厚さ方向の位置を制御することが可能となる。例えば、第1電極102の電圧を第1電圧(Vg1)と第2電圧(Vg2)の間で変化させると、発光層112における発光領域の位置を陰極側Aと陽極側Bとの間で揺動させることができる。第1電極102の電圧を制御することにより、発光層112の全体を発光領域として利用することができる。そうすると、発光層112の全域を発光領域としてまんべんなく使用することができるので、輝度劣化の寿命時間(例えば、初期輝度が70%まで低下する時間)を延ばすことができる。第1電極102の電圧は、
図6に示すVg1とVg2との間で変動するようにし、輝度の強さは第2電極108と第3電極118との電位差(電圧)で制御することができる。
【0106】
このように、本実施形態に係るEL素子は、酸化物半導体層により電子輸送層が形成され、当該電子輸送層に対し絶縁層を挟んでキャリア注入量を制御する第1電極が配置され、当該第1電極を陽極である第3電極118と対向配置することで、発光層への電子注入量を制御することができる。本実施形態に係るEL素子は、キャリア注入量を制御する第1電極の作用により、発光層における電子と正孔のキャリアバランスを制御することができる。それにより、EL素子の電流効率を高め、寿命時間を延ばすことができる。
【0107】
従来のEL素子の構造では、発光層の厚さ方向全体が均一に劣化することはなく、発光層が不均一に劣化するため輝度劣化を抑制することが困難で、EL素子の寿命時間を延ばすことができなかった。しかしながら、本発明の一実施形態に係るEL素子200は、第1電極102の電圧を制御することにより、発光層112の全体を発光領域とすることができ、それにより発光層112の厚さ方向全体を均一に劣化させることができるので、輝度劣化に対する寿命時間を延ばすことが可能となる。これにより、発光層112の厚さを、従来の厚み(例えば、30nm)から1.5倍~3.0倍である45nm~90nmに増加させても発光層112の厚さ方向全領域を発光させることができるので、EL素子200の寿命をさらに長くすることができる。
図33に示すように、第1電極102に印加される電圧V102の波形は、(A)正弦波形、(B)矩形階段波形、(C)台形階段波形、(D)三角波形などが適用可能であるが、回路システムに応じて、最適な波形を選択することができる。1フィールド期間で何回繰り返すかの制限はない。発光寿命を最大限に延ばすためには、中央部発光領域の発光時間比率を大きくするとよい。
図33の矩形階段波や台形階段波が電圧波形としては好ましい。
【0108】
4.EL素子の作製方法
本発明の一実施形態に係るEL素子の作製方法の一例を、
図7、
図8、及び
図9を参照して説明する。以下においては、
図1に示すボトムエミッション型のEL素子200aの作製方法について説明する。
【0109】
図7は、基板100の上に第1電極102、第1絶縁層104、第2電極108、及び配線111を形成する段階を示す。基板100としては、例えば、透明絶縁基板が用いられる。透明絶縁基板としては、アルミノケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス等で例示される無アルカリガラス基板、石英基板が用いられる。また、透明絶縁基板として、ポリイミド、パラ系アラミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板を用いることができる。
【0110】
第1電極102は、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の透明導電膜で形成される。透明導電膜はスパッタリング法を用いて30nm~200nmの厚さで形成される。第1電極102は、基板100の第1面に形成された透明導電膜に対し、フォトリソグラフィ工程によってレジストマスクを形成し、エッチングを行うことで形成される。第1電極102は、断面視において端面がテーパー状に成形されていることが好ましい。
【0111】
第1絶縁層104は、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸窒化シリコン膜等の無機透明絶縁膜で形成される。無機透明絶縁膜としては、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法又はスパッタリング法を用いて形成される。第1絶縁層104の膜厚は、100nm~500nm程度の厚さに形成される。第1絶縁層104は、第1電極102を埋設するように形成される。このとき、第1電極102の端面がテーパー状に形成されていることで、段差部を含めて第1電極102を確実に覆うことができる。
【0112】
第2電極108は、導電性を有する金属酸化物材料、金属窒化物材料、金属酸窒化物材料、または高融点金属シリサイド酸化物材料の被膜をスパッタリングすることで形成される。例えば、第2電極108を形成する第2導電膜107は、30nm~200nmの膜厚を有する導電性を有する金属酸化物材料の膜で作製される。また、配線111を形成する第3導電膜109は、金属材料又は合金材料の膜をスパッタリングすることで形成される。配線111を形成する第3導電膜109は、低抵抗化を図るため、200nm~2000nmの金属膜により作製される。
【0113】
図8は、第2電極108および配線111を成形するリソグラフィ工程を示す。ここでは、多階調露光法(ハーフトーン露光法)が適用され、1枚のフォトマスクにより、第2電極108および配線111のパターンが形成される。
【0114】
図8(A)に示すように、第3導電膜109の上にポジ型のフォトレジスト膜205を形成する。フォトレジスト膜205の露光には多階調マスク201を用いる。多階調マスク201には、多階調マスクパターンとして、露光機の解像度以下のスリットを設け、そのスリット部が光の一部を遮って中間露光を実現するグレイトーンマスクと、半透過膜を利用して中間露光を実現するハーフトーンマスクが知られるが、本実施形態においては双方の多階調マスク201を使用することができる。多階調マスク201の光透過領域、半透過領域202、非透過領域203を介して露光することで、フォトレジスト膜205には露光部分、中間露光部分、未露光部分の3種類の部分が形成される。
【0115】
その後、フォトレジスト膜205を現像することで、
図8(A)に示すように、厚さの異なる領域を有するレジストマスク207aが形成される。
図8(A)では、レジストマスク207aが、配線111が形成される領域に対応する部分の膜厚が厚くなり、第2電極108が形成される領域に対応する部分の膜厚が相対的に薄くなるように形成された態様を示す。
【0116】
レジストマスク207aを使用して第3導電膜109及び第2導電膜107がエッチングされる。エッチングの条件に限定はないが、例えば、金属材料で形成される第3導電膜109が混酸エッチング液を用いたウェットエッチングで行われ、金属酸化物材料等で形成される第2導電膜107が塩素系ガスを用いたドライエッチングやシュウ酸系のウェットエッチングで行われる。この段階で、第2電極108が形成される。このエッチングの後、アッシング処理により、レジストマスク207aの膜厚が薄い領域を除去して、第3導電膜109の表面を露出させる処理が行われる。
図8(B)は、アッシング処理が行われた後のレジストマスク207bを示す。レジストマスク207bは、第3導電膜109の上に残存している状態となる。
【0117】
次に、露出した第3導電膜109のエッチングが行われる。このエッチングは、例えば、混酸エッチング液を用いたウェットエッチングで行われる。金属酸化物等で形成される第2導電膜107は、スズ(Sn)が10atm%以上含有されていれば、混酸エッチング液によりエッチングされにくいので、選択比は比較的高くとれる。そのため、下層の第2電極108の形状は保持される。
図8(C)は、第3導電膜109がエッチングされ、配線111が形成された段階を示す。なお、第3導電膜109をエッチングした後、レジストマスク207bはレジスト剥離液やアッシングにより除去される。
【0118】
レジスト剥離液やアッシング処理により、既に形成されている第2電極108の表面は酸素プラズマに晒されることになる。しかし、第2電極108の成分として含まれるスズ(Sn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)は、酸化物となってもキャリア(電子)をトラップする欠陥を生成せず、キャリア(電子)キラーの役割を発現しないでn型酸化物半導体となる。そのため、酸素プラズマに晒されたとしても、後の工程で作製される第1電子輸送層106aと良好なオーミックコンタクトを形成することができる。
【0119】
図7(B)は、第1電子輸送層106aを形成する段階を示す。第1電子輸送層106aは、第2電極108、配線111を覆うように基板100の略全面に形成される。第1電子輸送層106aは、金属酸化物を焼結したスパッタリングターゲットを用いるスパッタリング法、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法、ミストCVD(Mist Chemical Vapor Deposition)法により作製することができる。第1電子輸送層106aは、10nm~200nmの厚さ、例えば、30nm~50nmの厚さで形成される。
【0120】
第1電子輸送層106aは金属酸化物材料で形成されるが、前述のように、高い電子移動度と高いPBTS(Positive Bias temperature Stress)信頼性評価が得られる錫(Sn)系の酸化物半導体(InGaSnOx、InWSnOx、InSiSnOx、InGaSnSmOx)で形成することが好ましい。なお、スズ(Sn)系の酸化物半導体において、スズ(Sn)が10atm%以上含有されていれば、亜鉛(Zn)が含有されていても、プロセス中での亜鉛(Zn)の組成変化は小さくなるので、亜鉛(Zn)の含有を完全に否定するものではない。
【0121】
図7(C)は、第1電子輸送層106aの上に、第2絶縁層120を形成する段階を示す。第2絶縁層120は、例えば、直鎖系フッ素有機材料を用いて形成される。第2絶縁層120に直鎖系フッ素有機材料を用いて形成することで、濡れ性が悪く撥液性が高い表面が形成される。また、第2絶縁層120は、ポリイミド、アクリル、エポキシシロキサン等の有機絶縁材料で形成することもできる。この場合、第2絶縁層120上面は、例えば、フッ素系プラズマ処理によって撥水性を向上してもよい。第2絶縁層120は、100nm~5000nmの厚さで形成される。例えば、平坦化処理を行う場合には、は2000nm~5000nmの厚さで形成することが好ましい。これにより、第2絶縁層120は、濡れ性が悪く撥液性が高い表面が形成される。
【0122】
図9(A)は、第2絶縁層120に開口部124を形成する段階を示す。開口部124は、第2絶縁層120をエッチング加工することで形成することができる。第2絶縁層120を感光性の有機樹脂材料で形成する場合には、フォトマスクを用いて露光し、現像することにより、開口部124を形成することができる。いずれの場合においても、EL素子200aを形成するために、開口部124は、内壁面がテーパー形状となるように加工することが好ましい。これにより、開口部124は、撥液性の高い第2絶縁層120の上面が除去され、濡れ性が高く親液性が高い側面が形成される。
【0123】
図9(B)および
図9(C)は、第2電子輸送層106bを形成する段階を示す。本実施形態に係る第2電子輸送層106bは金属酸化物材料106b’として、金属塩と第一アミドと溶媒とを含む組成物を用いる塗布法により作製される。第2電子輸送層106bの金属酸化物材料106b’は、スピンコート、ディップコート、インクジェット塗布法、フレキソ印刷法、ロールコート、ダイコート法、転写印刷法、スプレー法及びスリットコート法などのいずれかの方法を用いることで塗布することができる。
【0124】
金属酸化物材料106b’は、前述のように、大粒径結晶化しにくく、アモルファス膜やナノ微結晶膜を形成しやすい亜鉛(Zn)系の酸化物半導体(ZnSiOx、ZnMgOx、InZnSiOx、InZnGeOx、InZnMgOx、InZnMgGaOx、InZnGaOx、InGaSnZnOx等)を含むことが好ましい。すなわち、金属酸化物材料106b’は、酸化亜鉛と、酸化シリコン、酸化ゲルマニウム、酸化マグネシウム、酸化インジウム、酸化スズ、及び酸化ガリウムから選ばれた少なくとも一種とを含むことが好ましい。2価のZnやMgに、3価のInやGa、4価のSnをドーピングすることで酸化物のキャリア濃度を調整することが可能である。
【0125】
金属酸化物薄膜形成用塗布液である金属酸化物材料106b’中のインジウムイオンの数(A)と、マグネシウムイオンの数と亜鉛イオンの数の和(B)との比(B/(A+B))を調整することで、キャリア密度nとキャリア移動度μを変化させ、第2電子輸送層106bの比抵抗値ρ(Ω・cm)を制御することができる。B/(A+B)の値を0.35~0.65の範囲で調整することで、第2電子輸送層106bの比抵抗値を10
2Ω・cm~10
6Ω・cmの範囲で制御することができる。第2電子輸送層106bの比抵抗値は10
3Ω・cm~10
5Ω・cmの範囲で制御することがより好ましい。第2電子輸送層106bの膜厚が200nmと薄い場合には、比抵抗値は10
5Ω・cm程度に調整し、第2電子輸送層106bの膜厚が2000nmと厚い場合には、比抵抗値は10
3Ω・cm程度に調整することが好ましい。歩留まりを向上させるためには、第2電子輸送層106bの膜厚を厚くすることが好ましい。第2電子輸送層106bの膜厚が500nm~1000nmの範囲であれば、パーティクルが原因の上下ショートも抑制することができる。第2電子輸送層106bの膜厚が500nm~1000nmの範囲であれば、第2電子輸送層106bの比抵抗値は10
4Ω・cm程度で発光に必要となる電圧を十分に低減させることができる。
図31のように第2電子輸送層106bを2層以上に多層化し、バンドギャップを階段状に拡大し、仕事関数を小さくすることで、第2電子輸送層106bの機能を向上することができる。第2電子輸送層106bのバンドギャップは少なくとも3.0eV以上、好ましくは3.4eV以上の範囲が好ましい。第2電子輸送層106bの仕事関数の値も3.8eV~3.3eVへと発光層に近づくにつれて仕事関数の値が徐々に小さくなるように材料を選定することで良好な電子輸送が行える。これにより発光させるための印加電圧を低下させることができ、発熱をおさえることで長寿命化を実現することができる。
【0126】
また、金属酸化物材料106b’に含まれる金属塩は上記に挙げた金属の無機酸塩であることが好ましい。無機酸塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、塩酸塩及びフッ化水素酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。また、塗布後の加熱処理をより低温で行うためには、無機酸塩としては塩酸塩、硝酸塩が好ましい。
【0127】
金属酸化物材料106b’に含まれる第一アミドとしては、下記化学式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0128】
【0129】
(式(I)中、R1は水素原子、炭素原子数1~6の分岐若しくは直鎖のアルキル基、水素原子、炭素原子数1~6の分岐若しくは直鎖のアルキル基が結合した酸素原子、又は、水素原子、酸素原子、炭素原子数1~6の分岐若しくは直鎖のアルキル基が結合した窒素原子を表す。)
【0130】
なお、水素原子、炭素原子数1~6の分岐若しくは直鎖のアルキル基が結合した酸素原子とは、-OH又は-OR2(R2は炭素原子数1~6の分岐若しくは直鎖のアルキル基)である。また、水素原子、酸素原子、炭素原子数1~6の分岐若しくは直鎖のアルキル基が結合した窒素原子とは、例えば、-NH2、-NHR3や、-NR4R5(R3、R4及びR5はそれぞれ独立に炭素原子数1~6の分岐若しくは直鎖のアルキル基である)である。
【0131】
第一アミドの具体例としては、アセトアミド、アセチル尿素、アクリルアミド、アジポアミド、アセトアルデヒド セミカルバゾン、アゾジカルボンアミド、4-アミノ-2,3,5,6-テトラフルオロベンズアミド、β-アラニンアミド塩酸塩、L-アラニンアミド塩酸塩、ベンズアミド、ベンジル尿素、ビ尿素、ビュウレット、ブチルアミド、3-ブロモプロピオンアミド、ブチル尿素、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンズアミド、カルバミン酸tert-ブチル、ヘキサンアミド、カルバミン酸アンモニウム、カルバミン酸エチル、2-クロロアセトアミド、2-クロロエチル尿素、クロトンアミド、2-シアノアセトアミド、カルバミン酸ブチル、カルバミン酸イソプロピル、カルバミン酸メチル、シアノアセチル尿素、シクロプロパンカルボキサミド、シクロヘキシル尿素、2,2-ジクロロアセトアミド、リン酸ジシアンジアミジン、グアニル尿素硫酸塩、1,1-ジメチル尿素、2,2-ジメトキシプロピオンアミド、エチル尿素、フルオロアセトアミド、ホルムアミド、フマルアミド、グリシンアミド塩酸塩、ヒドロキシ尿素、ヒダントイン酸、2-ヒドロキシエチル尿素、ヘプタフルオロブチルアミド、2-ヒドロキシイソブチルアミド、イソ酪酸アミド、乳酸アミド、マレアミド、マロンアミド、1-メチル尿素、ニトロ尿素、オキサミン酸、オキサミン酸エチル、オキサミド、オキサミン酸ヒドラジド、オキサミン酸ブチル、フェニル尿素、フタルアミド、プロピオン酸アミド、ピバル酸アミド、ペンタフルオロベンズアミド、ペンタフルオロプロピオンアミド、セミカルバジド塩酸塩、こはく酸アミド、トリクロロアセトアミド、トリフルオロアセトアミド、硝酸尿素、尿素、バレルアミド等が挙げられる。中でもホルムアミド、尿素、カルバミン酸アンモニウムが好ましい。これらは1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0132】
金属酸化物材料106b’に含まれる溶媒としては、水を主体とするものである。すなわち、溶媒の50質量%以上が水という意味である。水を主体としていればよく、水のみを溶媒として用いても、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。水以外に含まれる有機溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、メチルエチルケトン、乳酸エチル、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2,2-ジメチル-3-ペンタノール、2,3-ジメチル-3-ペンタノール、2,4-ジメチル-3-ペンタノール、4,4-ジメチル-2-ペンタノール、3-エチル-3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、2-メチル-2-ヘキサノール、2-メチル-3-ヘキサノール、5-メチル-1-ヘキサノール、5-メチル-2-ヘキサノール、2-エチル-1-ヘキサノール、4-メチル-3-ヘプタノール、6-メチル-2-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、2-プロピル-1-ペンタノール、2,4,4-トリメチル-1-ペンタノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、3-エチル-2,2-ジメチル-ペンタノール、1-ノナノール、2-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、2-デカノール、4-デカノール、3,7-ジメチル-1-オクタノール、3,7-ジメチル-3-オクタノール等が挙げられる。これらの有機溶媒は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0133】
本実施形態において、第2電子輸送層106bを形成する金属酸化物材料106b’に含まれる溶媒としてエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)を挙げているが、塗布条件や乾燥条件、焼成条件によっては、ピンホールが発生したり、膜の表面の凹凸のラフネスが大きくなったりする場合がある。これは沸点が低いことに起因する。一方で、エチレングリコール(沸点198℃)のような高沸点溶媒を用いることで、ピンホールが発生しにくく、膜の表面の凹凸のラフネスを小さくすることができる。しかしながらこの場合、焼成後の膜内に残存しやすく、電子移動度の良い膜は得られない。
【0134】
このため、第2電子輸送層106bを形成する金属酸化物材料106b’に含まれる溶媒としては、下記化学式(2)で表される化合物が好ましい。
【0135】
【0136】
(式中、R2は炭素原子数2~3の直鎖又は分岐のアルキレン基、R3は炭素原子数1~3の直鎖又は分岐のアルキル基を表す。)
【0137】
化学式(2)で示される溶媒の好ましい例としては、ジプ口ピレングリコールモノメチルエーテル、ジプ口ピレングリコールモノエチルエーテル、ジプ口ピレングリコールモノプ口ピルエーテルが挙げられる。中でも、ジプ口ピレングリコールモノメチルエーテル(沸点188℃)が本実施形態に係る溶媒として特に好ましい。
【0138】
金属酸化物材料106b’中の第一アミドの含有量は、金属塩に対して0.1~80質量%であり、好ましくは5~50質量%である。金属酸化物材料106b’中の固形分濃度は0.1質量%以上であり、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。また、金属酸化物材料106b’中の固形分濃度は30.0質量%以下であり、好ましくは20.0質量%以下であり、より好ましくは15.0質量%以下である。なお、固形分濃度とは、金属塩と第一アミドの合計の濃度である。
【0139】
本実施形態に係る金属酸化物材料106b’は酸性であることが好ましい。また、金属酸化物材料106b’のpHは1~3であることが好ましい。pHを酸性にするために、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、塩酸及びフッ化水素酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。このため、本実施形態の第1電子輸送層106aは耐酸性の優れた錫(Sn)系の酸化物半導体材料を採用している。錫(Sn)の含有量は10atm%以上あれば上記の酸性液体によって第1電子輸送層106aは腐食されない。さらに第1電子輸送層106aは、電子移動度とPBTS信頼性を考慮すると20atm%以上の錫(Sn)の含有量が望ましい。
【0140】
第2電子輸送層106bを形成する温度を200℃以下に低温化する場合には、下記化学式(3)で表される有機2族金属化合物と、下記化学式(4)で表される有機3族金属化合物とを有機溶媒に溶解させた金属酸化物半導体膜形成用組成物を用いることが好ましい。
【0141】
【化3】
(式中、R4はアルキル基を表す。M1は2族金属元素を表す。)
【0142】
【化4】
(式中、R5、R6及びR7は独立に、水素またはアルキル基を表す。M2は3族金属元素を表す。)
【0143】
化学式(3)で示される有機2族金属化合物としては、ジエチル亜鉛やジブチルマグネシウムが挙げられる。ジエチル亜鉛にジブチルマグネシウムを0重量%~40重量%添加することによってバンドギャップを3.2eV~3.6eVの範囲で制御することができる。ジエチル亜鉛にジブチルマグネシウムを添加することによって、仕事関数の値も3.2eV~3.8eVの範囲で制御することができる。
【0144】
ジエチル亜鉛とジブチルマグネシウムとは大気中で発火性があり、保管並びに使用時には非常な注意を払う必要がある。このため、上記材料を希釈することなしに、通常、水(H2O)が存在する雰囲気中で、フレキソ印刷法やインクジェット印刷法、スリットコート法等で塗布することは困難となる。ジエチル亜鉛とジブチルマグネシウムとは有機溶媒に溶解することで、発火性等の危険性を低減することができる。しかしながら、アルコール系の有機溶媒に反応させながらジエチル亜鉛やジブチルマグネシウムを溶解させた塗布液を用いて薄膜形成するには、400℃以上の高温加熱処理が必要となる。200℃以下の低温加熱処理を実現するために、エーテル系の溶媒としてジイソプロピルエーテルが提案されていた。しかしながら、ジイソプロピルエーテルは沸点が69℃と低く、インクジェット塗布法を用いた場合、インクジェットヘッドの目詰まりが生じやすい。また、引火点が-28℃と低いために、量産工場で用いた場合、安全性の確保が困難である。
【0145】
本実施形態においては、沸点が162℃~189℃の範囲にあり、且つ引火点が56℃以上のエーテル系の溶媒を用いることが好ましい。具体的には、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、塗布性を考慮した場合には、表面張力の小さいジプロピレングリコールジメチルエーテル、とジエチレングリコールジエチルエーテルが好ましい。
【0146】
ジエチル亜鉛にジブチルマグネシウムを添加して、バンドギャップを拡大し、仕事関数を小さくすると、形成される膜の比抵抗値は106Ω・cm以上になる。本実施形態に係る第2電子輸送層106bの比抵抗値は103Ω・cm~105Ω・cmの範囲で制御することが好ましい。このため、化学式(4)で表される有機3族金属化合物を少量ドーピングすることで、比抵抗値を上記範囲に調整することができる。
【0147】
化学式(4)で示される有機3族金属化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムなどが挙げられる。トリエチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムなどを用いることで、第2電子輸送層106bの比抵抗値を制御することができる。ドーピングの量は、ジエチル亜鉛に対して10
-8~10
-4のモル比の範囲で調整することができる。第2電子輸送層106bの膜厚が200nmと薄い場合には、ドーピング量は10
-8~10
-6程度に調整し、第2電子輸送層106bの膜厚が2000nmと厚い場合には、ドーピング量は10
-5~10
-4程度に調整することが好ましい。ドーピング材料は、上記の1種類だけでもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。第2電子輸送層106bを700nm~2000nmと厚くした場合には、
図31のように第2電子輸送層106bを2層以上の多層構造とし、発光層に近接する層のほうのバンドギャップを拡大し、且つ仕事関数を小さくするように調整することが重要である。
【0148】
図9(B)は、金属酸化物材料106b’を基板に塗布する段階を示す。金属酸化物材料106b’は、第2絶縁層120の開口部124に塗布される。金属酸化物材料106b’は、第2絶縁層120の開口部124において、金属酸化物材料106b’の上面が第2絶縁層120の上面より高く形成される。溶媒を含む金属酸化物材料106b’は、金属酸化物材料106b’の表面張力によって、開口部124の端部に比べ中心部における膜厚が大きい凸面形状に形成することができる。第2絶縁層120は、撥液性の高い上面と、親液性が高い開口部124の側面を有することから、所望の位置に十分量の金属酸化物材料106b’を開口部124に効率よく配置することができる。
【0149】
図9(C)は、金属酸化物材料106b’を加熱処理する段階を示す。塗布した金属酸化物材料106b’は、低温、例えば、150℃以上300℃未満で加熱処理することにより平坦で緻密なアモルファス金属酸化物半導体層を製造することができる。金属酸化物材料106b’を加熱処理する温度は、より好ましくは150℃以上275℃以下であるとよい。加熱処理時間は特に限定されないが、例えば、10分~2時間であってもよい。なお、加熱処理工程の前に、残存溶媒を予め除去するために、50℃以上150℃未満で前処理として乾燥工程を行うことが好ましい。このように加熱処理することにより、従来の方法よりも低い温度でアモルファス金属酸化物半導体層を形成することができ、EL素子200の信頼性を向上することができる。
【0150】
第2電子輸送層106bは、50nm~2000nmの厚さ、例えば、200nm~1000nmの厚さで形成される。第2電子輸送層106bは、溶媒を含む金属酸化物材料106b’を加熱処理することで溶媒が揮発して体積が収縮し、第2電子輸送層106bの上面が第2絶縁層120の上面より低く形成される。第2電子輸送層106bは、溶媒を含む金属酸化物材料106b’が開口部124の側面と接触しながら収縮することによる摩擦および金属酸化物材料106b’と第2絶縁層120との界面張力によって、開口部124の中心部に比べ端部における膜厚が大きい連続した1つの凹面形状に形成することができる。このように形成することで、第2電子輸送層106bの上面は凹凸構造が少なく形成することができる。第2電子輸送層106bは、開口部124の端部において中心部より大きい膜厚を有することで、第3電極118と第2電極108の端部に電界が集中することを抑制することができ、耐電圧性を向上することができる。また、第2電子輸送層106bの上面が連続した1つの凹面形状を有することで、開口部124の側面と底面によって形成される角部が緩衝される。このため、第2電子輸送層106bの上に形成される電子注入層110、発光層112、正孔輸送層114、正孔注入層116、第3電極118の開口部における密着性を向上することができる。
【0151】
その後、電子注入層110、発光層112、正孔輸送層114、正孔注入層116、第3電極118を形成することで、
図1に示すEL素子200aが作製される。電子注入層110は、C12A7エレクトライドやMg
0.3Zn
0.7O
x、Zn
0.75Si
0.25O
x、LaMgO
x、MgSiO
xなどのスパッタリングターゲットを用いた、スパッタリング法で形成することができる。電子注入層110は、開口部124を覆うように基板100の略全面に形成される。発光層112は、真空蒸着法、印刷法を用いて形成される。発光層112は、
図1及び
図2に示すように、EL素子ごとに分離独立して形成されても良いし、同一平面に形成される複数のEL素子に亘って連続して形成されてもよい。正孔輸送層114及び正孔注入層116は、真空蒸着法又は塗布法を用いて形成される。正孔輸送層114の厚みは、表面プラズモン損失を低減させるために200nm以上に形成することが好ましい。EL素子200aはボトムエミッション型であるため、第3電極118は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明導電膜に、アルミニウム(Al)等の金属膜が積層されるように、スパッタリング法で成膜される。
【0152】
このように、本実施形態によれば、薄膜を積層することでEL素子200を形成することができる。本実施形態に係るEL素子200は、陰極側から膜を積層する逆積み構造であるが、電子輸送層106及び電子注入層110を金属酸化物で形成することで、製造工程の中でダメージを受けにくい構造を有する。特に、第2電子輸送層106bを塗布法で形成することで厚膜化を図ることができ、EL素子200に短絡欠陥が生成されにくい構造とすることができる。また、第2電極108を、アルカリ金属を用いずに、電子輸送層106と良好なオーミックコンタクトを形成することで、製造工程の負担を減らし、素子として化学的に安定な構造とすることができる。特に、フレキシブルELパネル用に使用される薄膜封止方法でも、十分な信頼性を確保することができる。
【0153】
<第2実施形態>
本実施形態は、本発明の一実施形態に係るEL素子で画素が構成された表示装置(EL表示装置)の一例について説明する。
【0154】
図10は、本実施形態に係る表示装置に設けられる画素302の等価回路の一例を示す。画素302は、EL素子200に加え、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140を含む。選択トランジスタ136はゲートが走査信号線132と電気的に接続され、ソースがデータ信号線134と電気的に接続され、ドレインが駆動トランジスタ138のゲートと電気的に接続される。駆動トランジスタ138は、ソースがコモン電位線144と電気的に接続され、ドレインがEL素子200の第2電極108と電気的に接続される。容量素子140は、駆動トランジスタ138のゲートとコモン電位線144との間に電気的に接続される。EL素子200は、第1電極102がキャリア注入量制御信号線146と電気的に接続され、第3電極118が電源線142と電気的に接続される。
図10は、選択トランジスタ136及び駆動トランジスタ138がダブルゲート型である場合を示す。
【0155】
図10に示す画素302の等価回路において、走査信号線132には走査信号が与えられ、データ信号線134にはデータ信号(ビデオ信号)が与えられる。電源線142には、電源電位(Vdd)が与えられ、コモン電位線144には接地電位(アース電位)又は接地電位(アース電位)より低電位の電位(Vss)が印加される。キャリア注入量制御信号線146には、
図6を参照して説明したように、発光層112へのキャリア注入量を制御する電圧(Vg)が印加される。キャリア注入量を制御する電圧(Vg)は一定の正電圧であっても良いし、
図6や
図33に示すように所定の電圧Vg1とVg2の間で変動する電圧であってもよい。変動電位波形は、正弦波形、階段波形、台形波形、三角波形などが用いられる。キャリア注入量制御信号電圧(Vg)の値をアース電位に近づけることでEL素子200の発光を停止させることも可能である。つまり発光期間を制御することもできる。すなわちキャリア注入量制御信号線146はEL素子200の発光(ON)と非発行(OFF)とを制御するEnable lineとして機能させることが可能である。
【0156】
図10に示す画素302において、駆動トランジスタ138のゲートには、選択トランジスタ136がオンになったとき、データ信号線134からデータ信号に基づく電圧が印加される。容量素子140は、駆動トランジスタ138のソース-ゲート間の電圧を保持する。駆動トランジスタ138のゲートがオンになると、EL素子200には、電源線142から電流が流れ込み発光する。このとき第1電極102にキャリア注入量を制御する電圧(Vg)を印加すると、EL素子200の発光強度を制御することのみならず、発光層112における電子と正孔が再結合する領域(別言すれば発光領域)の位置を制御することができる。すなわち、発光層112におけるキャリアバランスを制御することができる。
【0157】
本実施形態によれば、キャリア注入量制御電極(第1電極102)が設けられたEL素子で画素302を形成すると共に、キャリア注入量制御信号線146を設け、当該キャリア注入量制御電極(第1電極102)と接続することで、EL素子の発光状態を制御することができる。すなわち、EL素子の発光を駆動トランジスタ138のみによって制御するのではなく、キャリア注入量制御電極(第1電極102)によって発光層112への電子注入量を制御することで、発光層112に注入された正孔と電子の再結合領域を発光層112の中央部領域に集中させることができる。これにより、EL素子の劣化を抑制することができ、EL表示装置の信頼性を高めることができる。
【0158】
図11は、本実施形態に係る表示装置の画素302の平面図を示す。また、
図12(A)は、
図11に示すA1-A2線に沿った断面構造を示し、
図12(B)は、
図11に示すB1-B2線に沿った断面構造を示す。以下の説明においては、これらの図面を参照する。
【0159】
画素302は、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140、及びEL素子200が配置される。
図11に示す画素302の平面図においては、EL素子200の構成要素として、第1電極102、第1電子輸送層106a、及び開口部124の配置が示されている。
【0160】
駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152a、第1ゲート電極154a、第2ゲート電極156aを含んで構成される。第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとは、第1酸化物半導体層152aを挟んで重なる領域を有するように配置される。第1酸化物半導体層152aと基板100との間には、第1絶縁層104が配置される。第1ゲート電極154aは、第1絶縁層104と基板100との間に配置される。また、第1酸化物半導体層152aと第2ゲート電極156aとの間には第3絶縁層122が配置される。別言すれば、第1酸化物半導体層152aは、第1絶縁層104と第3絶縁層122とに挟まれて配置され、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとの間には、第1絶縁層104、第1酸化物半導体層152a、及び第3絶縁層122が介在する。
【0161】
本実施形態において、駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aが、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとで挟まれたダブルゲート構造を有する。駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aが、第1ゲート電極154a及び第2ゲート電極156aの一方又は双方と重なる領域にチャネル領域が形成される。第1酸化物半導体層152aにおいて、チャネル領域となる領域のキャリア濃度は1×1014~5×1018/cm3であることが好ましい。
【0162】
駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aと第1絶縁層104との間に、第2電極108aと第2電極108bとが配置される。第2電極108aと第2電極108bとは、互いに離間して配置される。第2電極108aと第2電極108bとは、第1酸化物半導体層152aと接するように設けられることで、ソース領域、ドレイン領域として機能する。また、第2電極108aと第1酸化物半導体層152aとの間には導電層150aが配置され第2電極108bと第1酸化物半導体層152aとの間には導電層150bが配置される。導電層150aは第2電極108aの端部に至らない内側に配置され、導電層150bは第2電極108bの端部に至らない内側に配置される。
【0163】
第2電極108aと第2電極108bとが離間する領域に、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとが重なるように配置される。第2電極108a及び第2電極108bは、一部の領域が第1ゲート電極154a及び第2ゲート電極156aの一方又は双方と重なるように配置されていてもよい。第2電極108a及び108bの少なくとも一方が、第1酸化物半導体層152aのチャネル領域に隣接するように第1ゲート電極154a及び第2ゲート電極156aの一方又は双方と重畳して配置されることで、駆動トランジスタ138のドレイン電流を増加させることができる。なお、第1ゲート電極154aは、コモン電位線144と同じ層構造で設けられる。
【0164】
図12(B)に示すように、選択トランジスタ136は、駆動トランジスタ138と同様な構造を有する。すなわち、選択トランジスタ136は、第2酸化物半導体層152b、第1ゲート電極154b、及び第2ゲート電極156bを含む。また、第2酸化物半導体層152bに接して第2電極108c及び導電層150c、並びに第2電極108d及び導電層150dを含む。第2電極108cと第2電極108dとは、互いに離間して配置される。第2電極108cと第2電極108dとは、第2酸化物半導体層152bと接するように設けられることで、ソース領域、ドレイン領域として機能する。導電層150cは、データ信号線134を形成する。
【0165】
容量素子140は、第2電極108dが、第1絶縁層104を介して容量電極162と重畳する領域に形成される。容量電極162は、コモン電位線144を兼ねて形成される。
【0166】
なお、本実施形態において、酸化物半導体層152は、第1実施形態で述べる第1電子輸送層106aの酸化物半導体材料と同じ材料を用いることができる。また、第1絶縁層104及び第3絶縁層122は、無機絶縁材料が用いられる。無機絶縁材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム等が用いられる。
【0167】
EL素子200は、第1実施形態で示す構成と同様な構成を有する。EL素子200は、駆動トランジスタ138と電気的に接続される。EL素子200は、第2電極108に相当する領域が、駆動トランジスタ138から連続して形成される。このような構造により、配線の引き回しが簡略化され、画素302の開口率(一つの画素が占める面積に対する、EL素子が実際に発光する領域の割合)を高めることができる。
【0168】
なお、画素の開口率を高めるためには、第1電子輸送層106aの電子移動度を高める必要がある。例えば、解像度が8K×4K(7680×4320ピクセル)、85インチの表示パネルにおける画素ピッチは約244μmとなる。ここで、長方形状の画素を想定した場合、長手方向の長さは約732μmとなる。EL素子に電圧が印加されてから発光するまでの時間が約4~5μsecであるとし、長方形状の画素の長手方向の一端に第2電極108に相当する領域を設けた場合、第1電子輸送層106aのキャリア(電子)移動度は10cm2/V・sec以上、好ましくは20cm2/V・sec以上でないと、画素の長手方向の他端までキャリア(電子)を到達させることが困難となる。
【0169】
もちろん、長方形状の画素の四方を囲むように第2電極108に相当する領域を設ければ、キャリアは四方から中央に向かってドリフトされるので、キャリア(電子)移動度は2.5cm2/V・sec程度あれば済むこととなる。しかしこの場合には、一つの画素当たりの有効発光領域が減少し、開口率が低下することが問題となる。
【0170】
このような状況において、本実施形態で例示されるような酸化物半導体材料であれば、要求されるキャリア(電子)移動度を実現することが可能となる。一方、特許文献3、4に記載されるような有機材料で形成される電子輸送層は、キャリア(電子)移動度が2.5cm2/V・sec以下であるため、表示パネルの大画面化と高精細化を実現できないという問題を有する。錫(Sn)系の酸化物半導体TFTであれば電子移動度は20cm2/V・sec以上が得られるのでボトムエミッション型でも開口率を高めることができ、低消費電力化とEL素子の寿命を長くすることができる。
【0171】
このように、本実施形態に係る表示装置は、EL素子を形成する電子輸送層として酸化物半導体層を用いることで、酸化物半導体層を用いて作製される駆動トランジスタ及び選択トランジスタ等の素子と同じ製造工程を通して作製することができる。また、本実施形態に係る表示装置は、EL素子にキャリア注入量制御電極を設けると共に、このキャリア注入量制御電極に対し絶縁層を介してキャリア(電子)移動度の高い電子輸送層を配置することで、画素面内の発光強度を均一化させ、高精細化に対応することができる。
【0172】
図12(A)及び(B)は
図11に示す画素302の断面構造を示す。
図12(A)は、
図11に示すA1-A2線に沿った断面構造を示し、
図12(B)は、B1-B2線に沿った断面構造を示す。EL素子200は、第1電子輸送層106aの下層に第2電極108が接するように配置される。EL素子200は、第2電極108に相当する領域が、駆動トランジスタ138から連続して形成される。駆動トランジスタ138及び選択トランジスタ136は、チャネルが形成される第1酸化物半導体層152a及び第2酸化物半導体層152bの下層に第2電極108a、108b、108c、108dが接するように配置されるボトムコンタクト構造を有している。駆動トランジスタ138及び選択トランジスタ136は、第1酸化物半導体層152a及び第2酸化物半導体層152bを挟むように第1ゲート電極154a、154bと第2ゲート電極156a、156bとが配置されるダブルゲート構造を有している。
【0173】
図12(A)に示すように、EL素子200の第1電子輸送層106aは駆動トランジスタ138の第1酸化物半導体層152aから連続するように設けられていてもよい。第1電子輸送層106aは酸化物半導体材料で形成することができるため、駆動トランジスタ138のために設けられる第1酸化物半導体層152aと、同じ層を用いて形成することができる。なお、本実施形態は、
図12(A)に示す構造に限定されず、第1電子輸送層106aと第1酸化物半導体層152aとは分離されていても良いし、異なる層で形成されていてもよい。
【0174】
図23、24の断面図では、第1電子輸送層106aと第1酸化物半導体層152aとは、完全に分離されており、異なる層に形成されている。
図23、24のEL素子は、
図13のEL素子200cに分類されるものである。
図23、24のEL素子の第1電極(キャリア注入量制御電極)102は、EL素子駆動用トランジスタ素子のソース電極とドレイン電極と同じ層に同じ材料で形成されている。第1電子輸送層106aは、第3絶縁層122の上に形成されている。
図23、24のEL素子構造の第1電子輸送層106aとEL素子駆動用トランジスタ素子の第1酸化物半導体層152aとは異なる材料を用いることが可能となり、それぞれに適した材料を自由に選択することができる。フォトリソグラフィ工程が1回増加するという欠点はあるが、EL素子の性能を向上させることができるという利点を有している。
図23、24では、第2電極(陰極)108と駆動用トランジスタ素子の第2ゲート電極156aとは、同じ材料で同じ層に同時に形成される。この図では表示されていないが、選択トランジスタ素子に接続されているデータ信号線134も、第2電極(陰極)108と駆動用トランジスタ素子の第2ゲート電極156aと同じ材料で同じ層に同時に形成される。
図25(B)の断面図と同じ構造となる。
【0175】
図12(A)の駆動トランジスタ138及び選択トランジスタ136は、第3絶縁層122及び第2絶縁層120によって覆われる。EL素子200が設けられる領域には、第2絶縁層120及び第3絶縁層122を貫通し、第1電子輸送層106aを露出させる開口部124が設けられる。第2電子輸送層106bが塗布法により形成されるとき、駆動トランジスタ138及び選択トランジスタ136は第2絶縁層120及び第3絶縁層122によって覆われているため、塗膜が直接付着することが防止される。画素302は、このような構造を有することにより、駆動トランジスタ138及び選択トランジスタ136の製造工程における劣化を防止することができる。塗布法で形成された第2電子輸送層106bを加熱焼成するときに、同時に選択トランジスタ136と駆動トランジスタ138もアニール処理することができるので、プロセス工程を省略することができ、コスト低減することができる。
【0176】
このように本実施形態によれば、第1実施形態に示すEL素子200を用いた画素302を有する表示装置を得ることができる。さらに本実施形態によれば、EL素子200は短絡欠陥が生成されにくい構造を有するため、画素欠陥が少ない品質の高い表示装置を提供することができる。
【0177】
<第3実施形態>
図13及び
図14は、第1実施形態で示すEL素子に対し、陰極の構成が異なるEL素子を示す。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0178】
図13は、本実施形態の他の一形態に係るEL素子200cの断面構造を示す。EL素子200cは、第1電子輸送層106aの上層に第2電極108が接するように配置される点において第1実施形態で示すEL素子と相違する。第1電子輸送層106aは、開口部124を介して第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118と重なる領域を含み、さらにその領域の外側に、第2電子輸送層106bと重ならない領域を含む。第2電極108は、第1電子輸送層106aが第2電子輸送層106bと重ならない領域、すなわち、第1電子輸送層106aの端部と第2電子輸送層106bの端部との間の領域に配置される。第2電極108は、第1電子輸送層106aの第1絶縁層104側とは反対側の面上に配置される。さらに、第2電極108に接して配線111が設けられてもよい。配線111は、第2電極108と第2絶縁層120との間に配置されている。しかしながらこれに限定されず、
図14に示すように、配線111は第2電極108と第1電子輸送層106aとの間に配置されてもよい。
【0179】
EL素子200cは、第1電子輸送層106aの表面に接して第2電極108を設けることで、接触面積を大きくすることができる。これにより、EL素子200cは直列抵抗成分が低減され駆動電圧を低くすることができる。また、EL素子200cは、第2電極108に流れ込む電流密度を低くすることができる。
【0180】
EL素子200cは、第2電極108に相当する領域が駆動トランジスタ138から連続して形成される。すなわち図には示さなかったが、駆動トランジスタ138及び選択トランジスタ136は、チャネルが形成される第1酸化物半導体層152a及び第2酸化物半導体層152bの上層に第2電極108a、108b、108c、及び108dが接するように配置されるトップコンタクト構造を有していてもよい。
【0181】
EL素子200c及びEL素子200dは、第2電極108の構成がトップコンタクト構造を有している他は第1実施形態と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。また、EL素子200c及びEL素子200dは、
図12(A)に示すEL素子200と置き換えることができる。
【0182】
<第4実施形態>
図15は、第1実施形態で示すEL素子に対し、第1電極がなく陰極の構成が異なるEL素子を示す。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0183】
図15(A)は、本実施形態の他の一形態に係るEL素子200eの断面構造を示す。EL素子200eは、第1電極102が設けらない点において第1実施形態で示すEL素子と相違する。第1電子輸送層106aは、第2電極108の上に設けられるが、配線111はなくてもよい。第1電子輸送層106aは、第2絶縁層120の下層側に設けられ、第2絶縁層120の開口部124によって露出される。第2電子輸送層106bは、開口部124において第1電子輸送層106aと接している。第1電子輸送層106aの外端部は、第2絶縁層120の開口部124が配置される領域124aの外側に配置される。これにより、第1電子輸送層106aは、開口部124を介して第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118と重なる領域を含み、さらにその領域の外側に、第2電子輸送層106bと重ならない領域を含む。第2電極108の端部は、第1電子輸送層106aが第2電子輸送層106bと重ならない領域、すなわち、第1電子輸送層106aの端部と第2電子輸送層106bの端部との間の領域に配置される。配線111は第2電極108と第1絶縁層104との間に配置されてもよい。配線111は開口部124が配置される領域124aの周辺からオフセット領域126だけ離れた外周部に配置される。
【0184】
EL素子200eは、第2電極108の表面に接して第1電子輸送層106aを設けることで、接触面積を大きくすることができる。これにより、EL素子200eは直列抵抗成分が低減され駆動電圧を低くすることができる。また、EL素子200eは、第2電極108に流れ込む電流密度を低くすることができる。
【0185】
図15(A)に示すEL素子200eにおいて、第2電極108は酸化インジウム錫(In
2O
3・SnO
2:ITO)などによって形成される透明導電膜が用いられる。すなわち、EL素子200eは、第1電子輸送層106aが透明導電膜で形成される第2電極108と直接接する構造を有していてもよい。EL素子200eは、第2電極108を透明導電膜に置き換えたとしても、電子輸送層106が第1電子輸送層106aと第2電子輸送層106bとの2層積層構造で厚膜化されていることから、短絡を防止することができ、電気的に安定な構造とすることができる。
【0186】
図15(A)と同じ構造のEL素子200eを採用した場合の画素構造断面図が
図25(A)および
図25(B)であり、画素構造平面図が
図26である。
図1、2、12~17、20、29、30において第4絶縁層(パシベーション膜)170は省略されて記載されていないが、各素子の長期信頼性を向上させるためには、
図23~25、27、28に示すように第4絶縁層(パシベーション膜)170は形成しておくことが好ましい。第4絶縁層(パシベーション膜)170は、シリコン窒化膜やアルミナ膜などが用いられる。
【0187】
図25(A)は、
図15(A)のボトムエミッション型のEL素子を採用しているが、
図15(B)のトップエミッション型のEL素子を採用することも可能である。
図25(A)でも、コモン電位線144を開口部124の全領域を覆うように形成配置することで、トップエミッション型のEL素子を形成することができる。
図25(B)に示すように、データ信号線134と第2ゲート電極156とは、同層に同じ材料で同時に形成される。
【0188】
図15(B)に示すEL素子200eにおいて、配線111を第2電極108と第1電子輸送層106aで被覆することで、トップエミッション型のEL素子も作ることができる。
図15(A)におけるEL素子200eの第2電極(陰極)108を、駆動用トランジスタ素子のソース電極やドレイン電極とは完全に分離して異なる層に形成したEL素子の断面図が
図27~
図30と
図40,
図41である。第2電極(陰極)108をITOやIZOなどの透明導電膜で形成することでボトムエミッション型のEL素子となり、第2電極(陰極)108を可視光反射率の高い金属膜で形成することで、トップエミッション型のEL素子となる。
【0189】
本実施形態に係るEL素子200eは、第1電極が省略され第2電極108の構成が相違する他は、
図1に示すEL素子200aと同様であり、同様の作用効果を奏することができる。また、EL素子200eは、
図12(A)に示すEL素子200と置き換えることができる。
【0190】
<第5実施形態>
第1実施形態で示すEL素子に対し、陰極の構成が異なるEL素子について示す。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0191】
図16は、本実施形態の他の一形態に係るEL素子200fの断面構造を示す。EL素子200fは、第1電子輸送層106aの下層に配置される第2電極108が第1電子輸送層106aの周縁部において、一部の領域にだけ設けられている点において第1実施形態で示すEL素子と相違する。第1電子輸送層106aは、開口部124を介して第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118と重なる領域を含み、さらに開口部124が配置される領域124aの外側に、第2電子輸送層106bと重ならない領域を含む。第2電極108は、第1電子輸送層106aが第2電子輸送層106bと重ならない領域、すなわち、第1電子輸送層106aの端部と第2電子輸送層106bの端部との間の領域に配置される。第2電極108は、第1電子輸送層106aの外周を囲むように設けることが好ましい。しかしながら、
図16に示すように、本実施形態に係るEL素子200fは、第2電極108は、第1電子輸送層106aの周縁部において、一部の領域のみに設けられている。第2電極108は、第1電子輸送層106aと第1絶縁層104との間に配置される。さらに、第2電極108に接して配線111が設けられてもよい。配線111は、第2電極108と第1電子輸送層106aの間に配置されてもよい。
図16に示すように、配線146は第1電極102と第1絶縁層104との間に配置されてもよい。配線146は、基板100と第1電極102との間に配置されてもよい。
【0192】
EL素子200fは、第2電極108の構成が異なること以外は第1実施形態と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。また、EL素子200fは、
図12(A)に示すEL素子200と置き換えることができる。
【0193】
<第6実施形態>
本実施形態は、第1実施形態で示すEL素子に対し、陰極の構成が異なるEL素子について示す。以下の説明においては、第1実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0194】
図17は、本実施形態に係るEL素子200gの断面構造を示す。EL素子200gは、第1電子輸送層106aの上に第3絶縁層122を介して第4電極105がさらに設けられている点において第1実施形態で示すEL素子と相違する。第1電子輸送層106aは、開口部124を介して第2電子輸送層106b、電子注入層110、発光層112、及び第3電極118と重なる領域を含み、さらにその領域の外側に、第2電子輸送層106bと重ならない領域を含む。第2電極108は、第1電子輸送層106aが第2電子輸送層106bと重ならない領域、すなわち、第1電子輸送層106aの端部と第2電子輸送層106bの端部との間の領域に配置される。第2電極108は、第1電子輸送層106aと第1絶縁層104との間に配置される。さらに、第2電極108に接して配線111が設けられてもよい。配線111は、第2電極108と第1電子輸送層106aの間に配置されてもよい。第1電極102に接して配線146が設けられてもよい。
図17に示すように、配線146は第1電極102と第1絶縁層104との間に配置されてもよい。
【0195】
第4電極105は、第1電子輸送層106aが第2電子輸送層106bと重ならない領域、すなわち、第1電子輸送層106aの端部と第2電子輸送層106bの端部との間の領域に配置される。第4電極105は、第3絶縁層122、第1電子輸送層106a、および第1絶縁層104を挟んで第1電極102と重なるように設けられる。第4電極105は、第1電子輸送層106aの上において、第3絶縁層122と第2絶縁層120との間に配置される。第4電極105は、第1電極102とコンタクトホールを介して電気的に接続されている。このような構造を有することで、第2電極108の末端部のみに電流が集中することを防止することができ、素子の信頼性を大きく向上することができる。第4電極105は、第2絶縁層120を挟んで第3電極118と重なるように設けられる。第4電極105の端部は、第2絶縁層120の開口部124に露出しないので、発光領域において第3電極118と第4電極105との間に電界集中が生じないように構成される。
【0196】
図17に示すEL素子200gにおいて、第4電極105は、第1電子輸送層106aを挟んで第1電極102と重なるように配置される。第4電極105は、好ましくは第1電極102と同電位となるように制御される。第4電極105及び第1電極102が同電位に制御されることで、第1電子輸送層106aの表裏両面から電界を作用させ、ダブルゲート型のトランジスタと同様の原理で、発光層112へのキャリア(電子)注入量を制御することができる。電子輸送層106(第1電子輸送層106a、第2電子輸送層106b)から発光層112に輸送されるキャリア(電子)の量は、第1電極102および第4電極105の電界強度によって制御することが可能である。第1電極102および第4電極105に印加される電圧が大きくなると、第1電子輸送層106aに作用する電界も大きくなる。第1電極102および第4電極105に正電圧が印加されることで生成された電界は、第2電極108から第1電子輸送層106aにキャリア(電子)を引き込むように作用するので、発光層112へ輸送されるキャリア(電子)の量をさらに増加させることが可能となる。すなわち、第1電極102および第4電極105に印加する電圧を制御することで、第2電極108から注入される電子の量と、第3電極118から注入される正孔の量とのバランス(キャリアバランス)を調整することが可能となる。一方で、第1電極102および第4電極105の電位がコモン電位(Vss)となることで、第1電子輸送層106aにおけるキャリア(電子)のリークを抑制することができ、第1電子輸送層106aは絶縁状態(空乏状態)となる。その結果、EL素子200gには電流が流れず、発光しない状態(非発光状態)となる。
【0197】
EL素子200gは、第4電極105を有すること以外は第1実施形態と同様であり、同様の作用効果を奏することができる。また、EL素子200gは、
図12(A)に示すEL素子200と置き換えることができる。
【0198】
<第7実施形態>
本実施形態に係るEL素子200gで画素が構成された表示装置(EL表示装置)の一例について説明する。以下の説明においては、第2実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0199】
図18は、本実施形態に係る表示装置に設けられる画素302gの等価回路の一例を示す。画素302gは、EL素子200gに加え、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140を含む。選択トランジスタ136はゲートが走査信号線132と電気的に接続され、ソースがデータ信号線134と電気的に接続され、ドレインが駆動トランジスタ138のゲートと電気的に接続される。駆動トランジスタ138は、ソースがコモン電位線144と電気的に接続され、ドレインがEL素子200gの第2電極108と電気的に接続される。容量素子140は、駆動トランジスタ138のゲートとコモン電位線144との間に電気的に接続される。EL素子200gは、第1電極102および第4電極105がキャリア注入量制御信号線146と電気的に接続され、第3電極118が電源線142と電気的に接続される。
図18は、EL素子200g、選択トランジスタ136及び駆動トランジスタ138がダブルゲート型である場合を示す。
【0200】
図18に示す画素302gにおいて、駆動トランジスタ138のゲートには、選択トランジスタ136がオンになったとき、データ信号線134からデータ信号に基づく電圧が印加される。容量素子140は、駆動トランジスタ138のソース-ゲート間の電圧を保持する。駆動トランジスタ138のゲートがオンになると、EL素子200gには、電源線142から電流が流れ込み発光する。このとき第1電極102および第4電極105にキャリア注入量を制御する電圧(Vg)を印加すると、EL素子200gの発光強度を制御することのみならず、発光層112における電子と正孔が再結合する領域(別言すれば発光領域)の位置を制御することができる。すなわち、発光層112におけるキャリアバランスを制御することができる。
【0201】
本実施形態によれば、キャリア注入量制御電極(第1電極102および第4電極105)が設けられたEL素子200gで画素302gを形成すると共に、キャリア注入量制御信号線を設け、当該キャリア注入量制御電極(第1電極102および第4電極105)と接続することで、EL素子の発光状態を制御することができる。すなわち、EL素子の発光を駆動トランジスタのみによって制御するのではなく、キャリア注入量制御電極によって発光層112への電子注入量を制御することで、EL素子の劣化を抑制することができ、EL表示装置の信頼性をさらに高めることができる。
【0202】
図19は、本実施形態に係る表示装置の画素302gの平面図を示す。画素302gは、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140、及びEL素子200gが配置される。
図19に示す画素302gの平面図においては、EL素子200gの構成要素として、第1電極102、第4電極105、第1電子輸送層106a、及び開口部124の配置が示されている。
【0203】
駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152a、第1ゲート電極154a、第2ゲート電極156aを含んで構成される。第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとは、第1酸化物半導体層152aを挟んで重なる領域を有するように配置される。すなわち、駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aが、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとで挟まれたダブルゲート構造を有する。
【0204】
選択トランジスタ136は、駆動トランジスタ138と同様な構造を有する。すなわち、選択トランジスタ136は、第2酸化物半導体層152b、第1ゲート電極154b、及び第2ゲート電極156bを含んで構成される。
【0205】
容量素子140は、第2電極108dが、第1絶縁層104を介して容量電極162と重畳する領域に形成される。容量電極162は、コモン電位線144を兼ねて形成される。
【0206】
EL素子200gは、
図17に示すEL素子200gの構成と同様な構成を有する。EL素子200gは、駆動トランジスタ138と電気的に接続される。EL素子200gは、第2電極108に相当する領域が、駆動トランジスタ138から連続して形成される。このような構造により、配線の引き回しが簡略化され、画素302の開口率(一つの画素が占める面積に対する、EL素子が実際に発光する領域の割合)を高めることができる。
【0207】
なお、本実施形態において、酸化物半導体層152は、第1実施形態で述べる第1電子輸送層106aの酸化物半導体材料と同じ材料を用いることができる。また、第1絶縁層104、第3絶縁層122及び第4絶縁層119は、無機絶縁材料が用いられる。無機絶縁材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム等が用いられてもよい。第4電極105は、第2ゲート電極156aと同じ材料を用いることができる。
【0208】
このように、本実施形態に係る表示装置は、EL素子を形成する電子輸送層として酸化物半導体層を用いることで、酸化物半導体層を用いて作製される駆動トランジスタ及び選択トランジスタ等の素子と同じ製造工程を通して作製することができる。また、本実施形態に係る表示装置は、EL素子にキャリア注入量制御電極を設けると共に、このキャリア注入量制御電極に対し絶縁層を介してキャリア(電子)移動度の高い電子輸送層を配置することで、画素面内の発光強度を均一化させ、高精細化に対応することができる。
【0209】
<第8実施形態>
本実施形態に係るEL素子200hで画素が構成された表示装置(EL表示装置)の一例について説明する。以下の説明においては、第2実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0210】
図20は、本実施形態に係るEL素子200hで画素が構成された表示装置の断面図を示す。画素302は、選択トランジスタ136、駆動トランジスタ138、容量素子140、及びEL素子200hが配置される。
【0211】
駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152a、第1ゲート電極154a、第2ゲート電極156aを含んで構成される。第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとは、第1酸化物半導体層152aを挟んで重なる領域を有するように配置される。すなわち、駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aが、第1ゲート電極154aと第2ゲート電極156aとで挟まれたダブルゲート構造を有する。
【0212】
第1酸化物半導体層152aは、元素として、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、シリコン(Si)から選ばれた一種又は複数種を含む透明酸化物半導体である。例えば、第1酸化物半導体層152aを形成する酸化物半導体材料としては、半導体特性を示す、四元系酸化物材料、三元系酸化物材料、および二元系酸化物材料が適用される。例えば、四元系酸化物材料としてIn2O3-Ga2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料、三元系酸化物材料としてIn2O3-Ga2O3-SnO2系酸化物材料、In2O3-Ga2O3-ZnO系酸化物材料、In2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料、In2O3-Al2O3-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-SnO2-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-Al2O3-ZnO系酸化物材料、SnO2-Al2O3-ZnO系酸化物材料、二元系酸化物材料としてIn2O3-SnO2系酸化物材料、In2O3-ZnO系酸化物材料、SnO2-ZnO系酸化物材料、Al2O3-ZnO系酸化物材料、Ga2O3-ZnO系酸化物材料、SnO2-SiO2系酸化物材料、In2O3-W2O3系酸化物材料等を用いることができ、特にIn2O3-Ga2O3-SnO2系酸化物材料を用いることが好ましい。また、上記酸化物半導体にタンタル(Ta)、スカンジウム(Sc)、ニッケル(Ni)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、イジトリウム(Y)、チタン(Ti)、サマリウム(Sm)が含まれていてもよい。なお、例えば、上記で示すIn-Ga-Sn-O系酸化物材料は、少なくともInとGaとSnを含む酸化物材料であり、その組成比に特に制限はない。In-Ga-Sn-O系酸化物材料の組成比は、In、Ga、Snに対して、Inのatm%が50~80、Gaのatm%が10~25、Snのatm%が10~30であることがより好ましい。また、他の表現をすれば、第1酸化物半導体層152aは、化学式InMO3(ZnO)m(m>0)で表記される薄膜を用いることができる。ここで、Mは、Sn、Ga、Zn、Sc、La、Y、Ni、Al、Mg、Ti、Ta、W、HfおよびSiから選ばれた一つ、または複数の金属元素を示す。なお、上記の四元系酸化物材料、三元系酸化物材料、二元系酸化物材料は、含まれる酸化物が化学量論的組成のものに限定されず、化学量論的組成からずれた組成を有する酸化物材料によって構成されてもよい。
【0213】
本実施形態において第1酸化物半導体層152aは、基板100側から、第1領域152a1と第2領域152a2とが積層された構造を有する。第1酸化物半導体層152aは、第1領域152a1の膜厚が、第2領域152a2の膜厚より大きい。第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1の膜厚は、30nm~100nmが好ましい。第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2の膜厚は、2nm~10nmが好ましい。しかしながらこれに限定されず、第1領域152a1および第2領域152a2を含む第1酸化物半導体層152aの膜厚が20nm~100nm、例えば、30nm~60nmであればよい。
【0214】
第1酸化物半導体層152aは、第1領域152a1と第2領域152a2のキャリア濃度(多数キャリアの濃度)が異なっている。第2領域152a2のキャリア濃度は、第1領域152a1のキャリア濃度よりも小さい値を有する。第1領域152a1のキャリア濃度は1×1015/cm3~5×1018/cm3程度であることが好ましく、第2領域152a2のキャリア濃度は1×1011/cm3~1×1015/cm3程度であることが好ましい。これに対応して、第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1は、比抵抗値が10-1Ω・cm~103Ω・cm程度であることが望ましい。第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2は、比抵抗値が104Ω・cm~109Ω・cm程度であることが望ましい。また、第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2のキャリア移動度も、第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1のキャリア移動度よりも小さいことが好ましい。
【0215】
また、第1酸化物半導体層152aは、第1領域152a1と第2領域152a2とで、結晶性が異なっていてもよい。第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2の結晶化率は、第1領域152a1の結晶化率より高いことが好ましい。第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1はアモルファスの形態であっても良く、微結晶質相の形態でもよく、アモルファスとナノ微結晶質相の混合相の形態であっても良い。第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2はアモルファスの形態であっても良く、ナノ微結晶質相の形態であっても良く、アモルファスとナノ微結晶質相の混合相の形態であっても良い。この場合、第2領域152a2は、第1領域152a1より微結晶質相の混合比が高く、さらに多結晶質相との混合相の形態であっても良い。
【0216】
第1酸化物半導体層152aはスパッタリング法で作製することができる。第1領域152a1と第2領域152a2とは、スパッタリング条件を変えることで作製することができる。例えば、第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1は、スパッタガスとしてAr等の希ガスを用いて成膜され、第2領域152a2は、スパッタガスとしてAr等の希ガスおよび酸素ガスを用いて成膜される。第1領域152a1に対し、第2領域152a2を成膜するときの酸素分圧を高めることで、第2領域152a2のドナー欠陥を低減することができ、結晶化率を向上させることができる。それにより、第1領域152a1に比べ、第2領域152a2のキャリア濃度を低くし、これに応じて比抵抗値を高くすることができる。
【0217】
第1酸化物半導体層152aは、第1領域152a1及び第2領域152a2の組成を同一として、結晶化率が異なるように組み合わされてもよい。また、第1酸化物半導体層152aは、第1領域152a1及び第2領域152a2に同種の金属酸化物を用い、組成が異なるように組み合わせてもよい。さらに、第1領域152a1と第2領域152a2とに、異なる組成の金属酸化物を組み合わせてもよい。第1領域152a1及び第2領域152a2に対し、このような組み合わせを適用することで、キャリア濃度を異ならせ、また比抵抗値を異ならせることができる。
【0218】
図21(A)に示すように、同一の組成比の酸化物半導体ターゲット材料(例えば、InGaSnZnO
x)を用いても、スパッタリングガスのO
2/(Ar+O
2)酸素分圧を変えることで結晶化率を変えることができ、それぞれの領域のキャリア濃度とバンドギャップを変化させることができる。例えば、アモルファスである第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1よりも、微結晶である第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2の結晶化率は高く、キャリア濃度は低く、バンドギャップは大きく、仕事関数値は小さい。このように形成することで、第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2の上に第3絶縁層122を形成するときに発生する水素ラジカルによる還元反応の問題を改善することができる。第3絶縁層122には、SiH
4ガスとN
2Oガスを原料として、プラズマCVD法で成膜されるP-SiO
2膜が用いられる。原料のSiH
4に存在する水素が水素ラジカルとなり、第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2の表面を還元してしまう問題が生じていた。第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2のキャリア濃度を低下させ、結晶化率を高めることで、水素ラジカルによる還元反応を生じにくくすることが可能であり、プラズマCVD法でP-SiO
2膜を形成するときのプロセスマージンを広げることができる。さらに、
図22に示すように、第2領域152a2の成膜時の酸素分圧を変化させることで、薄膜トランジスタ素子の閾値電圧(Vth)を精密にコントロールすることが可能となる。回路システムを簡略化して、コストダウンするには、薄膜トランジスタ素子のサブスレショールド電圧を0Vよりプラス側に移動させなければならない。
図22によれば、第2領域152a2の成膜時の酸素分圧は5%程度必要となることが理解できる。第2領域152a2の膜厚を厚くすれば、サブスレショールド電圧もプラス側に移動させることができるので、最適な膜厚を選定すればよい。
【0219】
図21(B)にあるように、例えば、第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1にアモルファスInGaSnO
x膜を、第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2にアモルファスGaO
x膜を用いることでも、
図21(A)と同じ作用を得ることができる。アモルファスGaO
x膜表面を水素(H
2)プラズマ処理してもアモルファスGaO
xのキャリア濃度は10
13レベルから10
15レベルに増加するだけで、導体化することはない。アモルファスGaO
xは、通常のP-SiO
2成膜条件下では、水素ラジカルによる還元反応が生じにくいので、基板温度を250℃以上に高めてP-SiO
2膜を成膜することができ、信頼性の高い薄膜トランジスタ素子を製造することができる。アモルファスGaO
xを第2領域152a2に採用した場合でも、スパッタリング成膜時の酸素分圧を高めたり、アモルファスGaO
xの膜厚を厚くすることで、薄膜トランジスタ素子の閾値電圧(Vth)とサブスレショールド電圧をプラス側に移動させることができる。
【0220】
上記の薄膜トランジスタ素子の閾値電圧(Vth)とサブスレショールド電圧を制御するには、
図20のトランジスタ構造では、第3絶縁層122の膜厚を第1絶縁層104の膜厚よりも薄く形成しなければならない。具体的には、第3絶縁層122の膜厚を150nm~250nmとし、第1絶縁層104の膜厚をその2倍以上の400nm~600nmとすることが好ましい。すなわち、第1酸化物半導体152aに作用する電界を、第2ゲート電極156側の方が第1ゲート電極154側よりも強くすることが好ましい。このような構造を有することで、
図21(A)および
図21(B)の第1領域152a1と第2領域152a2の接する界面では、コンダクションバンド側に0.3eV程度のバンドギャップが生じる。伝導帯の底のエネルギー(Ec)が、第1領域152a1に対して第2領域152a2の方が高くなることで、ゲート電圧がプラスに印加されると、キャリア(電子)はこの界面に集まってきて導体化する。すなわち、第3絶縁層122と第1酸化物半導体層152aの第2領域152a2との界面が導体化するのではなく、第1領域152a1と第2領域152a2の界面にキャリア(電子)が集中して電流が流れる。このため、埋め込みチャネル構造のトランジスタ素子動作をすることになる。埋め込みチャネル構造のトランジスタ素子の信頼性は非常に高く、PBTS評価試験でもほとんど閾値電圧(Vth)シフトが生じない。本発明で採用しているダブルゲート、ソース・ドレインボトムコンタクト型TFTでは、トップゲート側のゲート絶縁膜である第3絶縁層122の膜厚をボトムゲート側のゲート絶縁膜である第1絶縁層104の膜厚よりも薄くすることが非常に重要となる。トップゲート側のゲート絶縁膜である第3絶縁層122の膜厚をボトムゲート側のゲート絶縁膜である第1絶縁層104の膜厚の約1/2であることが好ましい。
【0221】
選択トランジスタ136は、駆動トランジスタ138と同様な構造を有する。すなわち、選択トランジスタ136は、第2酸化物半導体層152b、第1ゲート電極154b、及び第2ゲート電極156bを含んで構成される。本実施形態において第2酸化物半導体層152bは、基板100側から、第1領域152b1と第2領域152b2とが積層された構造を有する。
【0222】
容量素子140は、第2電極108dが、第1絶縁層104を介して容量電極162と重畳する領域に形成される。容量電極162は、コモン電位線144を兼ねて形成される。
【0223】
EL素子200hは、駆動トランジスタ138と電気的に接続される。EL素子200hは、第2電極108に相当する領域が、駆動トランジスタ138から連続して形成される。このような構造により、配線の引き回しが簡略化され、画素302の開口率(一つの画素が占める面積に対する、EL素子が実際に発光する領域の割合)を高めることができる。
【0224】
EL素子200hは、第1電子輸送層106aに相当する領域が、駆動トランジスタ138と同じ構造で設けられる。
図20(A)に示すように、第1電子輸送層106aは、駆動トランジスタ138の領域から連続するように設けられていてもよい。本実施形態において第1電子輸送層106aは、基板100側から、第1領域106a1と第2領域106a2とが積層された構造を有する。第1電子輸送層106aは、第1領域106a1と第2領域106a2のキャリア濃度(多数キャリアの濃度)が異なっている。第2領域106a2のキャリア濃度は、第1領域106a1のキャリア濃度よりも小さい値を有する。
【0225】
このように、本実施形態に係る表示装置は、EL素子を形成する電子輸送層として酸化物半導体層を用いることで、酸化物半導体層を用いて作製される駆動トランジスタ及び選択トランジスタ等の素子と同じ製造工程を通して作製することができる。また、本実施形態に係る表示装置は、EL素子にキャリア注入量制御電極を設けると共に、このキャリア注入量制御電極に対し絶縁層を介してキャリア(電子)移動度の高い電子輸送層を配置することで、画素面内の発光強度を均一化させ、高精細化に対応することができる。
【0226】
本実施形態において、駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aが、第1領域152a1と第2領域152a2とで構成されている。そして、第1領域152a1に対し、第2領域152a2のキャリア濃度が低くなるように構成されている。これにより、駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aにおいて、第3絶縁層122から離れた第1領域152a1にチャネルが形成される構造となる。本実施形態に係る駆動トランジスタ138は、第1酸化物半導体層152aの第1領域152a1と第3絶縁層122との間に第2領域152a2を設けることで、電界効果移動度を向上することができる。また、駆動トランジスタ138の閾値電圧の変動を抑制することができ、安定した電気的特性により信頼性を向上することができる。さらに、駆動トランジスタ138はダブルゲート構造を有していることで電流駆動能力が向上する。そのため、EL素子を駆動するに当たって陽極となる第3電極118の電圧を小さくしても十分な電流を供給することができる。仮に、EL素子の動作点が変動したとしても、動作点の変動に応じて定電流駆動をすることができる。駆動トランジスタ138にダブルゲート構造を採用することで低消費電力化することができるため、EL表示装置を大型化した場合に顕在化する発熱問題を解決することができ、EL素子の長寿命化に効果がある。
【0227】
本発明は上記の実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせることが可能である。
【0228】
図35は、本発明の一変形例に係るEL素子200iの断面構造を示す。
図35に示すEL素子200iは、発光層112が略全面に配置されること以外、
図1に示すEL素子200aと同じであることから、共通する部分については説明を省略する。
【0229】
図36は、本発明の一変形例に係るEL素子200jの断面構造を示す。
図36に示すEL素子200jは、発光層112が略全面に配置されること以外、
図2に示すEL素子200bと同じであることから、共通する部分については説明を省略する。
【0230】
図37は、本発明の一変形例に係るEL素子200kの断面構造を示す。
図37に示すEL素子200kは、発光層112が略全面に配置されること以外、
図16に示すEL素子200fと同じであることから、共通する部分については説明を省略する。
【0231】
図38は、本発明の一変形例に係るEL素子200lの断面構造を示す。
図38に示すEL素子200lは、発光層112が略全面に配置されること以外、
図17に示すEL素子200gと同じであることから、共通する部分については説明を省略する。
【0232】
図39は、本発明の一変形例に係るEL素子200mの断面構造を示す。
図39に示すEL素子200mは、発光層112が略全面に配置されること以外、
図13に示すEL素子200cと同じであることから、共通する部分については説明を省略する。
【0233】
図40は、本発明の一変形例に係るEL素子200nの断面構造を示す。
図40に示すEL素子200nは、発光層112が略全面に配置されること以外、
図29に示すEL素子と同じであることから、共通する部分については説明を省略する。
【0234】
図41は、本発明の一変形例に係るEL素子200oの断面構造を示す。
図41に示すEL素子200oは、発光層112が略全面に配置されること以外、
図30に示すEL素子と同じであることから、共通する部分については説明を省略する。
【0235】
図35から
図41に係るEL素子200i、200j、200k、200l、200m、200n、200oは、発光層112が表示装置内の全ての画素で共通である場合に適用することができる。例えば、発光層112が白色光を出射するときには、
図35から
図41に示す構造を適用することができる。発光層112が共通であることで、同一の工程で形成することができる。すなわち発光層112を所定の色(材料)毎に塗り分ける必要がない。
図35から
図41の発光層112は単層で示すが、発光層112は発光波長が異なる複数の層が積層された構造であってもよい。
【符号の説明】
【0236】
100・・・基板、102・・・第1電極(キャリア注入量制御電極)、104・・・第1絶縁層、106・・・電子輸送層、107・・・第2導電膜、108・・・第2電極(陰極)、110・・・電子注入層、112・・・発光層、114・・・正孔輸送層、116・・・正孔注入層、118・・・第3電極(陽極)、120・・・第2絶縁層、122・・・第3絶縁層、123・・・平坦化層、124・・・開口部、126・・・オフセット領域、128・・・電源、130・・・スイッチ、132・・・走査信号線、134・・・データ信号線、136・・・選択トランジスタ、138・・・駆動トランジスタ、140・・・容量素子、142・・・電源線、144・・・コモン電位線、146・・・キャリア注入量制御信号線、150・・・導電層、152・・・酸化物半導体層、154・・・第1ゲート電極、156・・・第2ゲート電極、162・・・容量電極、170・・・第4絶縁層(パシベーション膜)