(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】地盤補強工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20231227BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
E02D17/20 106
(21)【出願番号】P 2020088382
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 直人
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐介
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173373(JP,A)
【文献】特開2011-252319(JP,A)
【文献】特開2009-161925(JP,A)
【文献】特開2017-002608(JP,A)
【文献】特開2015-203266(JP,A)
【文献】特開2006-336436(JP,A)
【文献】特開2006-063745(JP,A)
【文献】特開2017-223071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/18
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の両側に鋼管の端部に挿入される挿入筒部が設けられ、前記挿入筒部のそれぞれに形成されたカプラ周溝に前記カプラ周溝に略倣うように嵌込部材が嵌合された円筒状カプラで、鋼管を接続して地盤に打設する地盤補強工法であって、
地盤に第1の鋼管を打設する第1工程と、
第2の鋼管の先端部の鋼管周溝と前記カプラ周溝に前記嵌込部材を嵌合して予め前記第2の鋼管に前記円筒状カプラを取り付け、前記円筒状カプラが取り付けられた前記第2の鋼管を打設した前記第1の鋼管と軸心が一致するように直列配置する第2工程と、
前記第2の鋼管を前記第1の鋼管に差し込む動作により、前記円筒状カプラの先端側の前記嵌込部材を前記第1の鋼管の後端部の鋼管周溝に嵌合し、前記第1の鋼管と前記第2の鋼管を前記円筒状カプラを介して連結する第3工程を備えることを特徴とする地盤補強工法。
【請求項2】
鋼管内に内挿される削孔ロッドのインナーロッドを順次接続すると共に鋼管を順次接続して鋼管を地盤に打設する請求項1記載の地盤補強工法であって、
前記第3工程の後に、前記第1の鋼管に内挿されている第1のインナーロッドに前記第2の鋼管に内挿されている第2のインナーロッドをネジ結合して連結することを特徴とする地盤補強工法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記第2の鋼管に内挿されている前記第2のインナーロッドの先端を前記第1の鋼管に内挿されている前記第1のインナーロッドの後端に未ネジ結合で突き当てて位置決めすることを特徴とする請求項2記載の地盤補強工法。
【請求項4】
前記第3工程において、空中に吊った前記第2の鋼管の重力落下を利用する差し込む動作により、前記第2の鋼管に取り付けられた前記円筒状カプラの先端側の前記嵌込部材を前記第1の鋼管の後端部の鋼管周溝に嵌合することを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の地盤補強工法。
【請求項5】
前記カプラ周溝が前記挿入筒部の外周面に形成された外周溝であり、前記鋼管周溝が鋼管の端部の内周面に形成された内周溝であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の地盤補強工法。
【請求項6】
前記カプラ周溝が前記挿入筒部の内周面に形成された内周溝であり、前記鋼管周溝が鋼管の端部の外周面に形成された外周溝であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の地盤補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤補強用鋼管と順次接続しながら地盤に打設する地盤補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基礎や斜面安定用の鋼管杭、或いは、トンネルの長尺先受け工に地盤補強用鋼管が用いられている。そして、地盤補強用鋼管を打設する手法として、例えば二重管削孔方式により、鋼管内に削孔ロッドを通し、先端の拡径縮径可能なビット又は捨てビットと削孔ロッドを連結し、鋼管と削孔ロッドを順次接続しながら、所定長になるまで削孔と同時に打設していく手法が知られている。この手法では、鋼管は回転させず、削孔ロッドを介して先端ビットに回転・打撃力を伝達するため、打設時に鋼管の打設抵抗が少なく長尺施工が可能であり、施工性に優れている。
【0003】
鋼管を長尺に施工する場合、通常は、削孔ロッドをネジ結合すると共に、削孔ロッドの外側の鋼管同士を機械式ネジ継手或いは溶接で連結し、長尺施工する。しかし、削孔ロッドのネジ結合に加えて、鋼管をネジ結合や溶接で連結する工程は、連結作業に非常に手間がかかり、又、溶接の場合には連結状態の精度不良も生じやすい。このような連結作業の手間を低減可能な連結構造として特許文献1の連結構造がある。
【0004】
特許文献1の連結構造は、円筒状カプラの軸方向の両側に鋼管の端部に挿入される挿入筒部を設け、両側の挿入筒部をそれぞれ連結する第1の鋼管の端部と第2の鋼管の端部に挿入すると共に、挿入筒部に凹設された外周溝と鋼管の端部に凹設された内周溝に亘ってC字状嵌込部材を嵌合して第1の鋼管と第2の鋼管を連結するものである。この連結構造は円筒状カプラを連結する鋼管に挿入して連結することが可能であるため、鋼管の連結作業に要する手間を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のような挿入・嵌合式の円筒状カプラを用いて現場で鋼管を接続する場合、地盤に打設した第1の鋼管の後端部に軸心合わせを行って円筒状カプラを挿入、嵌合し、その後に、第1の鋼管の後端部に取り付けられた円筒状カプラに、軸心合わせを行って第2の鋼管を挿入、嵌合する工程で行うと、固定された第1の鋼管、固定された円筒状カプラに対してそれぞれ軸心を合わせ嵌合する作業が必要となり、工程全体として軸心合わせ及び嵌合の作業に要する労力が大きくなる。そのため、挿入・嵌合式の円筒状カプラを用いる鋼管連結作業に要する労力を大幅に低減することができる工法が求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、挿入・嵌合式の円筒状カプラを用いて鋼管を連結する地盤補強において、鋼管と円筒状カプラを軸心を合わせた状態で確実に地盤に打設することができると共に、鋼管連結作業に要する労力を大幅に低減することができる地盤補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の地盤補強工法は、軸方向の両側に鋼管の端部に挿入される挿入筒部が設けられ、前記挿入筒部のそれぞれに形成されたカプラ周溝に前記カプラ周溝に略倣うように嵌込部材が嵌合された円筒状カプラで、鋼管を接続して地盤に打設する地盤補強工法であって、地盤に第1の鋼管を打設する第1工程と、第2の鋼管の先端部の鋼管周溝と前記カプラ周溝に前記嵌込部材を嵌合して予め前記第2の鋼管に前記円筒状カプラを取り付け、前記円筒状カプラが取り付けられた前記第2の鋼管を打設した前記第1の鋼管と軸心が一致するように直列配置する第2工程と、前記第2の鋼管を前記第1の鋼管に差し込む動作により、前記円筒状カプラの先端側の前記嵌込部材を前記第1の鋼管の後端部の鋼管周溝に嵌合し、前記第1の鋼管と前記第2の鋼管を前記円筒状カプラを介して連結する第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、予め円筒状カプラが取り付けられた第2の鋼管を第1の鋼管と軸心の位置合わせ、差し込む動作を行うだけで、打設された第1の鋼管に対して円筒状カプラと第2の鋼管を取り付けることができ、工程全体として軸心合わせ及び嵌合の作業に要する労力を大きく減らすことができる。即ち、鋼管の差し込みによる連結作業は作業精度を要求されることなく所望の連結状態の品質が担保される為、連結作業が必要とされる地盤補強工1本あたりの施工に要する時間を短くすることが出来、その分全体工期が短縮され、換言すると地盤補強工1本あたりの労務コストを下げることができる。従って、挿入・嵌合式の円筒状カプラを用いて鋼管を連結する地盤補強において、短時間且つ高い精度で鋼管と円筒状カプラを軸心を合わせた状態で確実に地盤に打設することができると共に、鋼管連結作業に要する労力を大幅に低減することができる。
【0009】
本発明の地盤補強工法は、鋼管内に内挿される削孔ロッドのインナーロッドを順次接続すると共に鋼管を順次接続して鋼管を地盤に打設する請求項1記載の地盤補強工法であって、前記第3工程の後に、前記第1の鋼管に内挿されている第1のインナーロッドに前記第2の鋼管に内挿されている第2のインナーロッドをネジ結合して連結することを特徴とする。
これによれば、鋼管内に内挿される削孔ロッドのインナーロッドを順次接続すると共に鋼管を順次接続して鋼管を地盤に打設する二重管削孔方式の地盤補強工法において、第1の鋼管と第2の鋼管の円筒状カプラを介した連結作業、第1のインナーロッドと第2のインナーロッドのネジ結合による連結作業をスムーズに行うことができる。また、第1の鋼管と第2の鋼管を円筒状カプラを介して連結する際に、第1の鋼管内の第1のインナーロッドと第2の鋼管内の第2のインナーロッドは連結されていないことから、円筒状カプラが取り付けられた第2の鋼管が、軸方向への相対的移動が可能で、軸方向への移動の自由度を有する状態にあり、二重管削孔方式における第1の鋼管と第2の鋼管の円筒状カプラを介した連結作業の作業性、円筒状カプラが取り付けられた第2の鋼管の連結時の取扱い性を高めることができる。
【0010】
本発明の地盤補強工法は、 前記第2工程において、前記第2の鋼管に内挿されている前記第2のインナーロッドの先端を前記第1の鋼管に内挿されている前記第1のインナーロッドの後端に未ネジ結合で突き当てて位置決めすることを特徴とする。
これによれば、第1、第2のインナーロッドを突き当てて配置状態を安定させ、第1、第2のインナーロッドを突き当てた状態をベースに第2の鋼管を打設した第1の鋼管と軸心が一致するように行う位置決めすることができ、第2の鋼管と第1の鋼管の軸心が一致するように行う位置決めを一層容易化することができる。
【0011】
本発明の地盤補強工法は、前記第3工程において、空中に吊った前記第2の鋼管の重力落下を利用する差し込む動作により、前記第2の鋼管に取り付けられた前記円筒状カプラの先端側の前記嵌込部材を前記第1の鋼管の後端部の鋼管周溝に嵌合することを特徴とする。
これによれば、重力落下を利用して第2の鋼管に取り付けられた円筒状カプラの先端側の嵌込部材を第1の鋼管の後端部の鋼管周溝に嵌合することにより、第1の鋼管と第2の鋼管の円筒状カプラを介しての連結作業に要する駆動源の動力を省力化することができる。
【0012】
本発明の地盤補強工法は、前記カプラ周溝が前記挿入筒部の外周面に形成された外周溝であり、前記鋼管周溝が鋼管の端部の内周面に形成された内周溝であることを特徴とする。
これによれば、円筒状カプラを第1の鋼管と第2の鋼管の内側に配置することが可能となり、第2の鋼管と円筒状カプラの打設抵抗、換言すれば鋼管打設作業における打設抵抗を低減することができる。また、例えば地盤補強工法がプレボーリング方式等の場合,第1の鋼管と第2の鋼管の内側で嵌合する内嵌合の円筒状カプラは外嵌合の円筒状カプラを用いる場合と比較し、地盤への削孔径を小さくすることが可能となり、施工コストを低減することができる。
【0013】
本発明の地盤補強工法は、前記カプラ周溝が前記挿入筒部の内周面に形成された内周溝であり、前記鋼管周溝が鋼管の端部の外周面に形成された外周溝であることを特徴とする。
これによれば、円筒状カプラを第1の鋼管と第2の鋼管の外側に配置し、連結された連結鋼管全体において円筒状カプラが局所的に内方へ突出することを防止することができ、連結鋼管の全長にわたって略平滑な内面を確保することができる。従って、例えば連結鋼管全体の打設後に、連結鋼管の内部に注入管やパッカーを入れて、固結注入材を注入する際に、よりスムーズな注入作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の地盤補強工法によれば、挿入・嵌合式の円筒状カプラを用いて鋼管を連結する地盤補強において、鋼管と円筒状カプラを軸心を合わせた状態で確実に地盤に打設することができると共に、鋼管連結作業に要する労力を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)は本発明の第1実施形態の地盤補強工法で用いられる鋼管と円筒状カプラを示す縦断面図、(b)は同図(a)のA-A拡大断面図、(c)は同図(a)のB-B拡大断面図、(d)は同図(a)の鋼管と円筒状カプラの連結状態を示す縦断面図、(e)は同図(a)の鋼管と円筒状カプラを示す斜視図。
【
図2】(a)は第1実施形態の鋼管と円筒状カプラの連結状態における円筒状カプラの周辺を示す部分拡大縦断面図、(b)は同図(a)のC-C拡大断面図。
【
図3】基礎用の鋼管杭の打込みに用いられるドリルマシンを示す説明図。
【
図4】(a)~(e)は第1実施形態の地盤補強工法を用いて行われる基礎用の鋼管杭を打設する工程の前半工程を説明する説明図。
【
図5】(a)~(d)は第1実施形態の地盤補強工法を用いて行われる基礎用の鋼管杭を打設する工程の後半工程を説明する説明図。
【
図6】第1実施形態の地盤補強工法を用いて行われる長尺先受け工法における鋼管、円筒状カプラの連結を説明する説明図。
【
図7】第1実施形態の地盤補強工法を用いて打設された斜面安定用の鋼管杭及びこの鋼管杭による斜面安定化構造の断面説明図。
【
図8】(a)は本発明の第2実施形態の地盤補強工法で用いられる鋼管と円筒状カプラを示す縦断面図、(b)は同図(a)のD-D拡大断面図、(c)は同図(a)のE-E拡大断面図、(d)は同図(a)の鋼管と円筒状カプラの連結状態を示す縦断面図、(e)は同図(a)の鋼管と円筒状カプラを示す斜視図。
【
図9】(a)は第2実施形態の鋼管と円筒状カプラの連結状態における円筒状カプラの周辺を示す部分拡大縦断面図、(b)は同図(a)のF-F拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態の地盤補強工法〕
本発明による第1実施形態の地盤補強工法は、
図1及び
図2に示すように、地盤に先に打設される第1の鋼管に相当する鋼管1mと、地盤に後に打設される第2の鋼管に相当する鋼管1nを円筒状カプラ2で連結するようにして施工される。鋼管1mと鋼管1nは同一構成、同一形状であり、本例では全長に亘って円筒状に形成されている。鋼管1m、1nの軸方向の先端部と後端部に相当する両端部にはそれぞれ鋼管周溝11m、11nが形成されており、第1実施形態における鋼管周溝11m、11nは、軸方向の端縁12m、12nより鋼管中央寄りの位置の端部において内周面に円周状に形成された内周溝になっている。
【0017】
鋼管1m、1nの軸方向の端縁12m、12n近傍の内周面には、端縁12m、12n側に向かって漸次拡径する段差部13m、13nが形成されている。段差部13m、13nは、円筒状カプラ2の後述する挿入筒部22が挿入される際に、挿入筒部22をガイドして挿入を容易にすると共に、円筒状カプラ2に嵌め込まれた嵌込部材25を外方から押圧して縮径するようになっている。
【0018】
円筒状カプラ2は、軸方向の中央に鋼管1m、1nの端縁12m、12nが当接する突起21が外周から外方に突出し且つ周方向に延びて形成され、突起21の軸方向の両側に鋼管1m、1nの端部に挿入される挿入筒部22がそれぞれ設けられている。両側の挿入筒部22・22には、それぞれにカプラ周溝23が形成されており、第1実施形態におけるカプラ周溝23は、円筒状カプラ2の端縁24と突起21との間の挿入筒部22の軸方向の略中央位置において、外周面に円周状に形成された外周溝になっている。
【0019】
それぞれのカプラ周溝23には、カプラ周溝23に略倣うように嵌込部材25が嵌合されている。第1実施形態における嵌込部材25は略C字状に形成されており、円周状の外周溝であるカプラ周溝23に略C字状で倣うように嵌合されている。尚、本発明の嵌込部材は、略C字状の嵌込部材25とするとカプラ周溝23に容易に嵌合配置することができて好適であるが、弾性変形する円周形状のリング部材等とすることも可能である。
【0020】
円筒状カプラ2は、第1の鋼管1mの端部に一方の挿入筒部22が挿入され、一方の挿入筒部22のカプラ周溝23に嵌合された嵌込部材25が第1の鋼管1mの鋼管周溝11mに嵌合されると共に、第2の鋼管1nの端部に他方の挿入筒部22が挿入され、他方の挿入筒部22のカプラ周溝23に嵌合された嵌込部材25が第2の鋼管1nの鋼管周溝11nに嵌合され、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2を介して連結、接続するようになっている。
【0021】
そして、円筒状カプラ2を用いて第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを接続する地盤補強工法により、基礎の鋼管杭の打設、先受工の鋼管の打設、斜面安定用の鋼管杭の打設等を行うことができる。例えば基礎の鋼管杭として第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2で接続して打設する場合、削孔駆動部101、吊り治具102、鋼管吊りワイヤ103を備える杭打機100を用い(
図3参照)、地盤200に第1の鋼管1mを打設する(
図4(a)参照)。
図4の例では、第1の鋼管1mを二重管削孔方式の先端管として用い、第1の鋼管1mに削孔ロッドを構成する第1のインナーロッド31を内挿し、第1のインナーロッド31の先端にパイロットビット41を取り付け、パイロットビット41にロストビット42を取り付けて、削孔駆動部101から第1のインナーロッド31を介してパイロットビット41、ロストビット42に回転力と打撃力を伝達し、第1の鋼管1mを地盤200に打設している。
【0022】
第1の鋼管1mを地盤200の所定深さまで打設した後、削孔駆動部101を第1のインナーロッド31から取り外して第2のインナーロッド32に取り付けると共に、第2の鋼管1nの先端部の鋼管周溝11nとカプラ周溝23に嵌込部材25を嵌合して予め円筒状カプラ2を先端に取り付けられた状態にした第2の鋼管1nを、第2のインナーロッド32に外挿されるようにして第2の鋼管1nを吊り治具102、鋼管吊りワイヤ103で吊り下げる。この第2のインナーロッド32の先端にはネジ継手が螺着されている。(
図4(b)参照)。そして、第2の鋼管1nに内挿されている第2のインナーロッド32の先端を第1の鋼管1mに内挿されている第1のインナーロッド31の後端に未ネジ結合で突き当てて位置決めを行い、円筒状カプラ2が取り付けられた第2の鋼管1nを打設した第1の鋼管1mと軸心が一致するように直列配置する(
図4(c)参照)。
【0023】
次いで、第2の鋼管1nを第1の鋼管1mに差し込む動作により、第2の鋼管1nの先端の円筒状カプラ2を第1の鋼管1mに内挿して、円筒状カプラ2の先端側の嵌込部材25を第1の鋼管1mの後端部の鋼管周溝11mに嵌合し、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2を介して連結する(
図4(d)参照)。この際、本例では空中に吊った第2の鋼管1nの重力落下を利用する差し込む動作により、第2の鋼管1nに取り付けられた円筒状カプラ2の先端側の嵌込部材25を第1の鋼管1mの後端部の鋼管周溝11mに嵌合する。
【0024】
そして、
図4(e)の太線矢印のように、第2の鋼管1nに内挿されている第2のインナーロッド32を回転して、第1の鋼管1mに内挿されている第1のインナーロッド31に第2のインナーロッド32をネジ結合して連結する。その後、削孔駆動部101から第2のインナーロッド32、第1のインナーロッド31を介してパイロットビット41、ロストビット42に回転力と打撃力を伝達して地盤200に削孔し、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの打設を進める(
図5(a)、(b)参照)。第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの打設完了後には、第2のインナーロッド32、第1のインナーロッド31、パイロットビット41を引き抜いて回収し、削孔長の検尺を行い、基礎鋼管杭の地盤補強工法の施工を完了する(
図5(c)、(d)参照)。
【0025】
別例として、先受工の地盤補強工法で第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2で接続して打設する場合、
図6に示すように、ガイドセル301を有する削岩機300を用い、地盤400に第1の鋼管1mを打設する。
図6の例では、第1の鋼管1mを二重管削孔方式の先端管として用い、第1の鋼管1mに削孔ロッドを構成する第1のインナーロッド31を内挿し、第1のインナーロッド31の先端にパイロットビット41を取り付け、パイロットビット41にロストビット42を取り付けて、削岩機300から第1のインナーロッド31を介してパイロットビット41、ロストビット42に回転力と打撃力を伝達することにより、第1の鋼管1mが地盤400に打設されている。
【0026】
第1の鋼管1mを地盤400の所定長まで打設した後には、削岩機300を第1のインナーロッド31から取り外して、削岩機300を先端にネジ継手が螺着された第2のインナーロッド32に取り付けると共に、第2の鋼管1nの先端部の鋼管周溝11nとカプラ周溝23に嵌込部材25を嵌合して予め円筒状カプラ2を先端に取り付けられた状態にした第2の鋼管1nを、第2のインナーロッド32に外挿されるようにして削岩機300のガイドセル301上に配置する。そして、第2の鋼管1nを削岩機300側にずらして第2のインナーロッド32の先端のネジ継手を突出させ、削岩機300を第1のインナーロッド31の位置に移動し、第1のインナーロッド31と第2のインナーロッド32をネジ継手を介してネジ結合で連結する。尚、円筒状カプラ2を第2の鋼管1nの先端への取り付けは、この第1のインナーロッド31と第2のインナーロッド32とのネジ結合の連結前であれば適宜のタイミングで行うことが可能である。
【0027】
その後、第2の鋼管1nを第1の鋼管1mの方へずらし、円筒状カプラ2が取り付けられた第2の鋼管1nを打設した第1の鋼管1mと軸心が一致するように直列配置して、第2の鋼管1nを第1の鋼管1mに人力等で差し込む。この差し込み動作により、第2の鋼管1nに取り付けられた円筒状カプラ2の先端側の嵌込部材25を第1の鋼管1mの後端部の鋼管周溝11mに嵌合し、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2を介して連結する。更なる削孔の後、第2の鋼管1n、第2のインナーロッド32の後側にも、同様の工程を行って鋼管、インナーロッドを順次接続し、
図6の鋼管打設状態に至る。
【0028】
別例として、斜面安定用の鋼管杭として第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2で接続して打設する場合、
図7に示すように、地盤600の斜面601に第1の鋼管1mを打設する。この打設では、例えば先端部に削孔ビットとダウンザホールハンマーが設けられ、削孔機で駆動する削孔ロッドを第1の鋼管1mに内挿し、削孔しながら第1の鋼管1mを打設する。
【0029】
その後、削孔ロッドを削孔機から取り外し、第2の鋼管1nの先端部の鋼管周溝11nとカプラ周溝23に嵌込部材25を嵌合して予め円筒状カプラ2を先端に取り付けられた状態にした第2の鋼管1nを、円筒状カプラ2が取り付けられた第2の鋼管1nを打設した第1の鋼管1mと軸心が一致するように直列配置する。そして、第2の鋼管1nを第1の鋼管1mに差し込む動作により、第2の鋼管1nの先端の円筒状カプラ2を第1の鋼管1mに内挿して、円筒状カプラ2の先端側の嵌込部材25を第1の鋼管1mの後端部の鋼管周溝11mに嵌合し、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2を介して連結する。
【0030】
その後、削孔ロッドを削孔機に取り付け、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを所定深さまで打設し、第2の鋼管1nの後端部、或いは第2の鋼管1nが接続されない第1の鋼管1mの後端部に杭頭部501を取り付け、第2の鋼管1nの後端部、第1の鋼管1m、杭頭部501を覆うように鉄筋コンクリート502を設け、斜面安定の地盤補強工法の施工が完了する。尚、
図7の点線は地盤600の内部にあるすべり面602である。
【0031】
第1実施形態の地盤補強工法によれば、予め円筒状カプラ2が取り付けられた第2の鋼管1nを第1の鋼管1mと軸心の位置合わせ、差し込む動作を行うだけで、打設された第1の鋼管1mに対して円筒状カプラ2と第2の鋼管1nを取り付けることができ、工程全体として軸心合わせ及び嵌合の作業に要する労力を大きく減らすことができる。即ち、鋼管1m、1nの差し込みによる連結作業は作業精度を要求されることなく所望の連結状態の品質が担保される為、連結作業が必要とされる地盤補強工1本あたりの施工に要する時間を短くすることが出来、その分全体工期が短縮され、換言すると地盤補強工1本あたりの労務コストを下げることができる。従って、挿入・嵌合式の円筒状カプラ2を用いて鋼管を連結する地盤補強において、短時間且つ高い精度で鋼管1m、1nと円筒状カプラ2を軸心を合わせた状態で確実に地盤200、400、600に打設することができると共に、鋼管連結作業に要する労力を大幅に低減することができる。
【0032】
また、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの円筒状カプラ2による連結後に、第1の鋼管1mに内挿されている第1のインナーロッド31に第2の鋼管1nに内挿されている第2のインナーロッド32をネジ結合して連結する場合には、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの円筒状カプラ2を介した連結作業、第1のインナーロッド31と第2のインナーロッド32のネジ結合による連結作業をスムーズに行うことができる。また、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nを円筒状カプラ2を介して連結する際に、第1の鋼管1m内の第1のインナーロッド31と第2の鋼管1n内の第2のインナーロッド32が連結されていないことから、円筒状カプラ2が取り付けられた第2の鋼管1nが、軸方向への相対的移動が可能で、軸方向への移動の自由度を有する状態にあり、二重管削孔方式における第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの円筒状カプラ2を介した連結作業の作業性、円筒状カプラ2が取り付けられた第2の鋼管1nの連結時の取扱い性を高めることができる。
【0033】
また、第2の鋼管1nに内挿されている第2のインナーロッド32の先端を第1の鋼管1mに内挿されている第1のインナーロッド31の後端に未ネジ結合で突き当てて位置決めする場合には、第1のインナーロッド31、第2のインナーロッド32を突き当てて配置状態を安定させ、この突き当てた状態をベースに第2の鋼管1nを打設した第1の鋼管1mと軸心が一致するように行う位置決めすることができ、第2の鋼管1nと第1の鋼管1mの軸心が一致するように行う位置決めを一層容易化することができる。
【0034】
また、空中に吊った第2の鋼管1nの重力落下を利用する差し込む動作により、第2の鋼管1nに取り付けられた円筒状カプラ2の先端側の嵌込部材25を第1の鋼管1mの後端部の鋼管周溝11mに嵌合する場合には、第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの円筒状カプラ2を介しての連結作業に要する駆動源の動力を省力化することができる。
【0035】
また、カプラ周溝23を挿入筒部22の外周面に形成された外周溝、鋼管周溝11m、11nを鋼管1m、1nの端部の内周面に形成された内周溝とすることにより、円筒状カプラ2を第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの内側に配置することが可能となり、第2の鋼管1nと円筒状カプラ2の打設抵抗、換言すれば鋼管打設作業における打設抵抗を低減することができる。また、例えば地盤補強工法がプレボーリング方式等の場合,第1の鋼管1mと第2の鋼管1nの内側で嵌合する内嵌合の円筒状カプラ2は外嵌合の円筒状カプラを用いる場合と比較し、地盤への削孔径を小さくすることが可能となり、施工コストを低減することができる。
【0036】
〔第2実施形態の地盤補強工法〕
本発明による第2実施形態の地盤補強工法は、
図8及び
図9に示すように、地盤に先に打設される第1の鋼管に相当する鋼管5mと、地盤に後に打設される第2の鋼管に相当する鋼管5nを円筒状カプラ6で連結するようにして施工される。鋼管5mと鋼管5nは同一構成、同一形状であり、本例では全長に亘って円筒状に形成されている。鋼管5m、5nの軸方向の先端部と後端部に相当する両端部にはそれぞれ鋼管周溝51m、51nが形成されており、第2実施形態における鋼管周溝51m、51nは、軸方向の端縁52m、52nより鋼管中央寄りの位置の端部において外周面に円周状に形成された外周溝になっている。
【0037】
鋼管5m、5nの軸方向の端縁52m、52n近傍の外周面には、端縁52m、52n側に向かって漸次縮径するテーパ部53m、53nが形成されている。テーパ部53m、53nは、円筒状カプラ6の後述する挿入筒部62が外挿される際に、挿入筒部62をガイドして挿入を容易にすると共に、円筒状カプラ6に嵌め込まれた嵌込部材65を内方から押圧して拡径するようになっている。
【0038】
円筒状カプラ6は、軸方向の中央に鋼管5m、5nの端縁52m、52nが当接する突起61が内周から内方に突出し且つ周方向に延びて形成され、突起61の軸方向の両側に鋼管1m、1nの端部に挿入される挿入筒部62がそれぞれ設けられている。両側の挿入筒部62・62には、それぞれにカプラ周溝63が形成されており、第2実施形態におけるカプラ周溝63は、円筒状カプラ6の端縁64と突起61との間の挿入筒部62の軸方向の略中央位置において、内周面に円周状に形成された内周溝になっている。
【0039】
それぞれのカプラ周溝63には、カプラ周溝63に略倣うように嵌込部材65が嵌合されている。第2実施形態における嵌込部材65も略C字状に形成されており、円周状の内周溝であるカプラ周溝63に略C字状で倣うように嵌合されている。尚、略C字状の嵌込部材65は、カプラ周溝63に容易に嵌合配置することができて好適であるが、第1実施形態と同様に弾性変形する円周形状のリング部材等とすることも可能である。
【0040】
円筒状カプラ6は、第1の鋼管5mの端部に一方の挿入筒部62が外挿で挿入され、一方の挿入筒部62のカプラ周溝63に嵌合された嵌込部材65が第1の鋼管5mの鋼管周溝51mに嵌合されると共に、第2の鋼管5nの端部に他方の挿入筒部62が外挿で挿入され、他方の挿入筒部62のカプラ周溝63に嵌合された嵌込部材65が第2の鋼管5nの鋼管周溝51nに嵌合され、第1の鋼管5mと第2の鋼管5nを円筒状カプラ6を介して連結、接続するようになっている。
【0041】
そして、円筒状カプラ6を用いて第1の鋼管5mと第2の鋼管5nを接続する地盤補強工法により、基礎の鋼管杭の打設、先受工の鋼管の打設、斜面安定用の鋼管杭の打設等を行うことができ、第1実施形態における基礎の鋼管杭を打設する地盤補強工法の例、先受工の鋼管を打設する地盤補強工法の例、斜面安定用の鋼管杭を打設する地盤補強工法の例と同様の工程、手順で地盤補強工法を施工することができる。
【0042】
即ち、地盤に第1の鋼管5mを打設する工程と、第2の鋼管5nの先端部の鋼管周溝51nとカプラ周溝63に嵌込部材65を嵌合して予め第2の鋼管5nに円筒状カプラ6を取り付け、この円筒状カプラ6が取り付けられた第2の鋼管5nを打設した第1の鋼管5mと軸心が一致するように直列配置する工程と、第2の鋼管5nを第1の鋼管5mに差し込む動作により、円筒状カプラ6の先端側の嵌込部材65を第1の鋼管5mの後端部の鋼管周溝51mに嵌合し、第1の鋼管5mと第2の鋼管5nを円筒状カプラ6を介して連結する工程により、地盤補強工法を施工することができる。
【0043】
第2実施形態の地盤補強工法によれば、円筒状カプラ6を第1の鋼管5mと第2の鋼管5nの外側に配置することにより、連結された連結鋼管全体において円筒状カプラ6が局所的に内方へ突出することを防止することができ、連結鋼管の全長にわたって略平滑な内面を確保することができる。従って、例えば連結鋼管全体の打設後に、連結鋼管の内部に注入管やパッカーを入れて、固結注入材を注入する際に、よりスムーズな注入作業を行うことができる。また、二重管削孔方式で削孔打設する際に、鋼管5m、5nの内径と削孔ロッドの外径との間にクリアランスがあまりない場合や、注入時に複数の注入パイプを束ねた状態で入れたり太径の注入管を用いる必要がある場合にも円筒状カプラ6によって鋼管内径が狭められてしまうことがない。その他、第1実施形態に対応する構成から対応する効果を得ることができる。
【0044】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0045】
例えば本発明の地盤補強工法は、本発明の趣旨の範囲内で適宜の地盤補強工法に用いることが可能であり、例えばインナーロッド相互を連結して削孔ロッドを構成するもの以外に、単体のインナーロッドで削孔ロッドを構成する地盤補強工法も包含され、又、第1の鋼管に内挿される第1のインナーロッドと第2の鋼管に内挿される第2のインナーロッドで削孔ロッドを構成する場合に、第2のインナーロッドの先端を第1のインナーロッドの後端に未ネジ結合で突き当てて位置決めする工程を行わない地盤補強工法も包含され、又、円筒状カプラを介しての第1の鋼管と第2の鋼管の連結工程に先立って、第1の鋼管に内挿される第1のインナーロッドに第2の鋼管に内挿される第2のインナーロッドをネジ結合する地盤補強工法も包含される。
【0046】
また、本発明の円筒状カプラ、第1の鋼管、第2の鋼管の構成は本発明の趣旨の範囲内で適宜であり、第1実施形態における円筒状カプラ2、鋼管1m、1nや、第2実施形態における円筒状カプラ6、鋼管5m、5nに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えば基礎の鋼管杭の打設、先受工の鋼管の打設、或いは斜面安定用の鋼管杭の打設を行う地盤補強工法に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1m…第1の鋼管 1n…第2の鋼管 11m、11n…鋼管周溝 12m、12n…端縁 13m、13n…段差部 2…円筒状カプラ 21…突起 22…挿入筒部 23…カプラ周溝 24…端縁 25…嵌込部材 31…第1のインナーロッド 32…第2のインナーロッド 41…パイロットビット 42…ロストビット 5m…第1の鋼管 5n…第2の鋼管 51m、51n…鋼管周溝 52m、52n…端縁 53m、53n…テーパ部 6…円筒状カプラ 61…突起 62…挿入筒部 63…カプラ周溝 64…端縁 65…嵌込部材 100…杭打機 101…削孔駆動部 102…吊り治具 103…鋼管吊りワイヤ 200…地盤 300…削岩機 301…ガイドセル 400…地盤 501…杭頭部 502…鉄筋コンクリート 600…地盤 601…斜面 602…すべり面