(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法、および眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/06 20060101AFI20231227BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20231227BHJP
G02B 3/10 20060101ALI20231227BHJP
B24B 13/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C7/02
G02B3/10
B24B13/00 C
(21)【出願番号】P 2019117164
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】上岡 健太
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-510960(JP,A)
【文献】特表2005-528165(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0011437(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを設計表面形状に基づいて加工するために、レンズ面の表面形状及び厚さの少なくとも一つが異なる、予め用意された複数の基材レンズの中から1つを眼鏡レンズの加工用基材レンズとしてコンピュータが選択する方法であって、
前記基材レンズの表面形状及び製造しようとするレンズの前記設計表面形状それぞれに関するレンズ断面形状を、複数の制御点で曲線形状が定義され、前記曲線形状が前記制御点を結んだ凸形状の凸包の内側に位置する凸内包特性を有するパラメトリック曲線によって表したときの前記制御点を、コンピュータが取得するステップと、
前記コンピュータが、取得した前記基材レンズの表面形状に関する前記制御点を結ぶことで第1凸形状を作り、さらに取得した前記設計表面形状に関する前記制御点を結ぶことで第2凸形状を作り、前記第1凸形状が前記第2凸形状を内包するか否かを判定し、判定の結果、前記複数の基材レンズの中から前記加工用基材レンズを選択するステップと、を備える眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法。
【請求項2】
前記制御点を取得するステップでは、前記基材レンズの両側のレンズ面の表面形状を前記パラメトリック曲線により定めたときの前記基材レンズの両側それぞれの前記レンズ面の前記制御点と、製造しようとする前記レンズの両側のレンズ面の前記設計表面形状を前記パラメトリック曲線により定めたときの製造しようとする前記レンズの両側それぞれの前記レンズ面の前記制御点と、を取得し、
前記加工用基材レンズを選択するステップでは、取得した前記基材レンズの表面形状に関する前記制御点を結ぶことにより作られる基材レンズ多角形形状の境界線上あるいは内部に、製造しようとする前記レンズの前記設計表面形状に関する前記制御点を結ぶことにより作られる製造レンズ多角形形状が内包される基材レンズを、前記加工用基材レンズとして選択する、請求項1に記載の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法。
【請求項3】
前記加工用基材レンズを選択するステップでは、
前記製造レンズ多角形形状が内包される基材レンズが複数ある場合、
前記コンピュータは、前記基材レンズ多角形形状のうち、前記基材レンズ多角形形状の面積と前記製造レンズ多角形形状の面積の差分が最も小さい基材レンズ多角形形状を有する基材レンズを前記加工用基材レンズとして選択する、請求項2に記載の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法。
【請求項4】
前記加工用基材レンズを選択するステップでは、前記基材レンズのレンズ面の表面上の一点と、製造しようとする表面形状を有する前記レンズのレンズ面上の一点とを一致させて前記基材レンズ及び製造しようとする前記レンズを切断したときの、前記一点の周りの方位方向を変えた複数の切断形状のそれぞれを、前記レンズ断面形状とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法。
【請求項5】
製造しようとする前記レンズの一方の側のレンズ面の表面形状と、前記基材レンズの一方の側のレンズ面の表面形状とは、同じであり、
前記加工用基材レンズを選択するステップで用いる前記制御点は、製造しようとする前記レンズの他方の側のレンズ面の表面形状と、前記基材レンズの他方の側のレンズ面の表面形状に関するものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法。
【請求項6】
前記パラメトリック曲線は、NURBS曲線である、請求項1~5のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法。
【請求項7】
前記レンズは、眼鏡レンズのうち累進屈折力レンズである、請求項1~6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法。
【請求項8】
レンズを設計表面形状に基づいて製造する方法であって、
請求項1~7のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法により前記加工用基材レンズを選択するステップと、
選択した前記加工用基材レンズを前記設計表面形状に基づいて加工することにより、前記設計表面形状を有するレンズを製造するステップと、を備える眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め用意された複数の基材レンズの中から1つを眼鏡レンズの加工用基材レンズとして選択するための眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法、及びこの選択方法を用いた眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズを製造するとき、予め用意された基材レンズに対して、切削、研磨による表面加工を行うことにより、設計表面形状を有するレンズ面を製造する。このとき、レンズ面の表面形状及び厚さの少なくとも一つが異なる、複数の基材レンズが予め用意されている。目標とする設計表面形状を有する眼鏡レンズを製造する場合、複数の基材レンズの中から適切な基材レンズを加工用基材レンズとして1つ選択する。なお、基材レンズは、例えば、片面だけが光学的に仕上げられたセミフィニッシュトレンズブランク、もしくは、両面に加工を必要とするレンズブランクであってもよい。
眼鏡レンズの製造を迅速に行うには、上記切削、研磨等の加工に要する時間を短くするために、切削、研磨における取り代量を少なくすることが好ましく、したがって、眼鏡レンズの加工後の表面形状に近い表面形状を有する基材レンズを予め用意しておくことが好ましい。
【0003】
ここで、製造しようとする眼鏡レンズのレンズ面における表面形状は、一例として、予め定めた関数を用いて表されることが知られている(特許文献1)。
例えば、眼鏡レンズの表面形状は、x=A・y2+B・y4+C・y6+D・y8+E・y10(A,B,C,D,Eは、設定される値)で表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、上記表面形状の式と、予め用意された複数の基材レンズの表面形状の式とを用いて、表面形状同士の交点が存在するか否かを判定することによって、基材レンズが製造するレンズの加工対象として使用することができるか否かを判定することが必要となる。交点が存在すると、眼鏡レンズの表面形状の断面形状は、切削、研磨によって眼鏡レンズを製造することはできない。
【0006】
しかし、眼鏡レンズにおける表面形状の式は、上述の例のように、10次の多項式を用いて表されているため、簡単に表面形状同士の交点の有無を判定することは難しい。例えば、ニュートン・ラフソン法等のような反復処理を用いて交点がないことを判定する場合、交点がないことを確かめるためには、反復処理を行う必要がある。
すなわち、眼鏡レンズの設計表面形状の式及び基材レンズの表面形状の式を用いて表面形状同士の交点の有無を判定することにより、複数の基材レンズの中から適切な基材レンズを加工用基材レンズとして選択することは、判定の処理が煩雑であり、反復処理に時間を要するため好ましくない。
【0007】
本発明は、目標とする設計表面形状を有するレンズを製造するに際し、従来に比べて短時間かつ容易に、複数の基材レンズの中から適切な基材レンズを加工用基材レンズとして選択することができる加工用基材レンズの選択方法、およびこの選択方法を用いたレンズ製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、レンズを設計表面形状に基づいて加工するために、レンズ面の表面形状及び厚さの少なくとも一つが異なる、予め用意された複数の基材レンズの中から1つを眼鏡レンズの加工用基材レンズとしてコンピュータが選択する眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法である。
当該眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法は、
前記基材レンズの表面形状及び製造しようとするレンズの前記設計表面形状それぞれに関するレンズ断面形状を、複数の制御点で曲線形状が定義され、前記曲線形状が前記制御点を結んだ凸形状の凸包の内側に位置する凸内包特性を有するパラメトリック曲線によって表したときの前記制御点を、コンピュータが取得するステップと、
前記コンピュータが、取得した前記基材レンズの表面形状に関する前記制御点を結ぶことで第1凸形状を作り、さらに取得した前記設計表面形状に関する前記制御点を結ぶことで第2凸形状を作り、前記第1凸形状が前記第2凸形状を内包するか否かを判定し、判定の結果、前記複数の基材レンズの中から前記加工用基材レンズを選択するステップと、を備える。
【0009】
前記制御点を取得するステップでは、前記基材レンズの両側のレンズ面の表面形状を前記パラメトリック曲線により定めたときの前記基材レンズの両側それぞれの前記レンズ面の前記制御点と、製造しようとする前記レンズの両側のレンズ面の前記設計表面形状を前記パラメトリック曲線により定めたときの製造しようとする前記レンズの両側それぞれの前記レンズ面の前記制御点と、を取得し、
前記加工用基材レンズを選択するステップでは、取得した前記基材レンズの表面形状に関する前記制御点を結ぶことにより作られる基材レンズ多角形形状の境界線上あるいは内部に、製造しようとする前記レンズの前記設計表面形状に関する前記制御点を結ぶことにより作られる製造レンズ多角形形状が内包される基材レンズを、前記加工用基材レンズとして選択する、ことが好ましい。
【0010】
前記加工用基材レンズを選択するステップでは、前記条件を満足する基材レンズが複数ある場合、
前記コンピュータは、前記基材レンズ多角形形状のうち、前記基材レンズ多角形形状の面積と前記製造レンズ多角形形状の面積の差分が最も小さい基材レンズ多角形形状を有する基材レンズを前記加工用基材レンズとして選択する、ことが好ましい。
【0011】
前記加工用基材レンズを選択するステップでは、前記基材レンズのレンズ面の表面上の一点と、製造しようとする表面形状を有する前記レンズのレンズ面上の一点とを一致させて前記基材レンズ及び製造しようとする前記レンズを切断したときの、前記一点の周りの方位方向を変えた複数の切断形状のそれぞれを、前記レンズ断面形状とする、ことが好ましい。
【0012】
製造しようとする前記レンズの一方の側のレンズ面の表面形状と、前記基材レンズの一方の側のレンズ面の表面形状とは、同じであり、
前記加工用基材レンズを選択するステップで用いる前記制御点は、製造しようとする前記レンズの他方の側のレンズ面の表面形状と、前記基材レンズの他方の側のレンズ面の表面形状に関するものである、ことが好ましい。
【0013】
前記パラメトリック曲線は、NURBS曲線である、ことが好ましい。
前記レンズは、眼鏡レンズのうち累進屈折力レンズである、ことが好ましい。
【0014】
本発明の他の一態様は、レンズを設計表面形状に基づいて製造するレンズ製造方法である。当該レンズ製造方法は、
前記加工用基材レンズの選択方法により前記加工用基材レンズを選択するステップと、
選択した前記加工用基材レンズを前記設計表面形状に基づいて加工することにより、前記設計表面形状を有するレンズを製造するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0015】
上述の眼鏡レンズの加工用基材レンズの選択方法によれば、目標とする設計表面形状を有する眼鏡レンズを製造するに際し、従来に比べて短時間かつ容易に、複数の基材レンズの中から適切な基材レンズを加工用基材レンズとして選択することができる。このため、加工用基材レンズの表面を切削、研磨を効率よく行って短時間に設計表面形状を有するレンズを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態の加工用基材レンズの選択方法のフローの例を示す図である。
【
図3】一実施形態で用いる制御点の例と、基材レンズの表面形状の例とを示す図である。
【
図4】一実施形態で用いる基材レンズ多角形形状と、製造レンズ多角形形状の例を示す図である。
【
図5】(a),(b)は、基材レンズの表面形状と製造しようとするレンズの設計表面形状の例を説明する図である。
【
図6】一実施形態の加工用基材レンズの選択方法を実施するデータ処理装置の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る加工用基材レンズの選択方法、およびこの選択方法を用いたレンズ製造方法を添付の図に基づいて説明する。
図1は、一実施形態の加工用基材レンズの選択方法のフローの例を示す図である。
加工用基材レンズの選択方法は、コンピュータにおいて実行される。
【0018】
上述したように、眼鏡レンズを製造するとき、レンズ面の表面形状及び厚さ(
図5(a),(b)参照)の少なくとも一つが異なる、複数の用意された基材レンズの1つに対して、切削、研磨による表面加工を行うことにより、設計表面形状を有するレンズ面を製造する。
図1に示す加工用基材レンズの選択方法では、目標とする設計表面形状を有する眼鏡レンズを製造する場合、複数の基材レンズの中から適切な基材レンズを加工用基材レンズとして1つ選択する。
図1に示す加工用基材レンズの選択方法では、この選択方法を行う。
【0019】
まず、コンピュータは、製造しようとするレンズの設計表面形状を取得する(ステップST10)。設計表面形状は、表面形状が離散点の数値で表されたもの、上述したような予め設定された式で表されたもの、あるいは、制御点を用いて定まるパラメトリック曲線で表されたものであってもよい。設計表面形状がパラメトリック曲線で表されたものである場合、後述するステップST12は行われない。
【0020】
次に、コンピュータは、設計表面形状を、パラメトリック曲線で表し制御点1を取得する(ステップST12)。すなわち、コンピュータは、製造するレンズの設計表面形状に関するレンズ断面形状を、複数の制御点で曲線形状が定義されるパラメトリック曲線によって表す。このとき用いるパラメトリック曲線は、曲線形状が複数の制御点を結んだ凸形状の凸包の内側に位置する凸内包特性を有する曲線である。
図2は、凸内包特性を説明する図である。
図2に示す凸形状のパラメトリック曲線Cは、NURBS(Non-Uniform Rational B-Spline)曲線であり、点P0~P6は、制御点を示している。このようにパラメトリック曲線Cは、制御点P0~P6を結んだ凸形状の凸包の内側(一部が凸形状の線上にある場合も含む)に位置する(凸内包特性)。
したがって、コンピュータは、設計表面形状の曲線をパラメトリック曲線Cで表した時、制御点P0~P6を制御点1として取得する。具体的には、制御点P0~P6の座標値をコンピュータは取得する。
【0021】
次に、コンピュータは、コンピュータのメモリに記憶されている基材レンズの1つの情報を取り出し、取り出した基材レンズの表面形状をパラメトリック曲線で表したときの制御点2を取得する(ステップST14)。基材レンズは予め複数種類設定されているので、事前に基材レンズの表面形状をパラメトリック曲線で表したときの制御点を求めておき、この制御点の情報を基材レンズの情報としてメモリに記憶保持させる。
【0022】
コンピュータは、さらに、制御点1を順番に結んだ製造レンズ多角形形状と、制御点2を順番に結んだ基材レンズ多角形形状を作成する(ステップST16)。
図3は、一実施形態で用いる制御点の例と、基材レンズの表面形状の例を示す図である。具体的には、
図3は、基材レンズの表面形状に関する制御点2である制御点Q0~Q7の例と、制御点Q0~Q7を順番に結んだ基材レンズ多角形形状A(図中では、一点鎖線で表している)の例と、基材レンズの表面形状10(図中では、実線で表している)の例を示している。
図3に示すように、パラメトリック曲線は凸内包特性を有するので、
図3中の基材レンズの上面の表面形状10より上側に、制御点Q1,Q2がある。また、
図3中の基材レンズの下面の表面形状10より上側に、制御点Q5,Q6がある。図示されないが、同様に、制御点1を順番に結んだ製造レンズ多角形形状も作成される。
なお、制御点1、制御点2の数は特に制限されない。
図3では、制御点1の数と制御点2の数は、同じであるが、異なってもよい。
【0023】
この後、コンピュータは、基材レンズ多角形形状の境界線上あるいは内部に、製造レンズ多角形形状が位置する条件を満足するか否か、すなわち、基材レンズ多角形形状は、製造レンズ多角形形状を内包するか否かを判定する(ステップST16)。
図4は、一実施形態用いる基材レンズ多角形形状と、製造レンズ多角形形状の例を示す図である。具体的には、
図4に示す例では、基材レンズ多角形形状(一点鎖線)は、基材レンズの表面形状を表したパラメトリック曲線の制御点Q0~Q7(“●”で表示)で作られ、製造レンズ多角形形状(点線)は、設計表面形状を表したパラメトリック曲線の制御点R0~R7(“□”で表示)で作られている。
図4に示す例では、製造レンズ多角形形状の領域は、基材レンズ多角形形状の領域上、あるいはその領域内部にあるので、コンピュータは、基材レンズ多角形形状は、製造レンズ多角形形状を内包すると判定する。
【0024】
上記判定で、基材レンズ多角形形状は製造レンズ多角形形状を内包する条件を満足すると判定した場合、コンピュータは、基材レンズ多角形形状に対応する基材レンズを、加工用基材レンズとして選択する(ステップST22)。
上記判定で、基材レンズ多角形形状は製造レンズ多角形形状を内包する条件を満足しないと判定した場合、コンピュータは、別の種類の基材レンズに変更して(ステップST20)、ステップST14~ST18を繰り返す。
【0025】
このように、制御点によって作られる製造レンズ多角形形状と基材レンズ多角形形状を比較することにより、短時間かつ容易に、複数の基材レンズの中から適切な基材レンズを加工用基材レンズとして選択することができる。
図5(a),(b)は、基材レンズの表面形状と製造しようとするレンズの設計表面形状の例を説明する図である。
図5(a)に示すように、基材レンズの表面形状10の領域内に製造しようとするレンズの設計表面形状12が内包される場合、この基材レンズを切削、研磨によって設計表面形状12を実現することができる。しかし、
図5(b)に示すように、表面形状10が設計表面形状12と交差する交点B1,B2が存在する場合、基材レンズを切削、研磨によって設計表面形状12を実現することはできない。交点B1,B2の有無の探索は、上述したように複雑な曲線の関数で表されている場合、時間を要する。これに対して、凸内包特性を有するパラメトリック曲線の制御点を結んだ多角形形状に基づいて交点の有無を短時間かつ容易に調べることができるので、従来に比べて短時間かつ容易に、複数の基材レンズの中から適切な基材レンズを加工用基材レンズとして選択することができる。
【0026】
なお、上述した実施形態では、基材レンズ多角形形状は製造レンズ多角形形状を内包するか否かによる判定を行うが、基材レンズの一方の面(例えば上面)の表面形状を変化させず、他方の面(例えば下面)の表面形状を設計表面形状にするために、切削、研磨する場合、一方の面の表面形状を互いに揃えて、他方の面における制御点を結ぶことにより作られる凸形状の相対位置に基づいて、コンピュータが、複数の基材レンズの中から加工用基材レンズを選択してもよい。すなわち、基材レンズの表面形状に関する制御点を結ぶことにより作られる第1凸形状に対する、設計表面形状に関する制御点を結ぶことにより作られる第2凸形状の相対位置に基づいて、交点の有無を判定して、複数の基材レンズの中から加工用基材レンズを選択することができる。
図4に示すように、制御点R4~R7を結んで作られる第2凸形状が、制御点Q4~Q7を結んで作られる第1凸形状に対して突出側に位置する場合、交点がないので、制御点Q4~Q7を有する基材レンズを加工用基材レンズとして選択することができる。
【0027】
図6は、
図1に示す加工用基材レンズの選択方法を実施するデータ処理装置20の構成の例を示す図である。
データ処理装置20は、コンピュータで構成され、CPU22と、RAM及びROMを備えるメモリ24とを有する。メモリ24には、加工用基材レンズの選択方法を実行するためのプログラムが記憶されており、CPU22は、このプロプログラムを呼び出して起動することにより、各処理を行うモジュール26を形成する。
図6に示すモジュール26は、パラメトリック曲線作成部26a、形状作成部26b、及び判定部26cを備える。
データ処理装置20には、マウス、キーボード等の入力操作系28と、モニタ30とが接続される。
【0028】
入力操作系28は、操作者が、パラメトリック曲線を設定するための条件や、制御点の数を含む種々の条件を入力するために用いられる。
モニタ30は、各処理途中の内容や、作成しようとするレンズの設計表面形状あるいは基材レンズの表面形状、制御点の情報等を表示する。
【0029】
パラメトリック曲線作成部26aは、基材レンズの表面形状及び製造しようとするレンズの設計表面形状のデータから傾きを利用した補間を行うことにより、制御点で定まるパラメトリック曲線を算出する。パラメトリック曲線作成部26aは、算出したパラメトリック曲線の制御点をメモリ24に記憶保持させる。パラメトリック曲線の作成方法は、特に制限されない。例えば、レンズの設計表面形状のデータをカーブフィッティングにより行うことができるが、設計表面形状を忠実に表現するためにカーブフィッティングよりも形状の傾きを利用した補間を行って作成する方法が好ましく、例えばCatmull-Rom splineなどを利用することが考えられる。
【0030】
形状作成部26bは、メモリ24に記憶した制御点を呼び出して取得し、取得した基材レンズの表面形状に関する制御点を結ぶことに第1凸形状を作り、さらに、製造しようとするレンズの設計表面形状に関する制御点を結ぶことにより第2凸形状を作る。
【0031】
判定部26cは、形状作成部26bが求めた第2凸形状の第1凸形状に対する相対位置に基づいて、複数の基材レンズの中から加工用基材レンズを選択する。一実施形態では、取得した基材レンズの表面形状に関する制御点を結ぶことにより作られる基材レンズ多角形形状の境界線上あるいは内部に、製造しようとするレンズの設計表面形状に関する制御点を結ぶことにより作られる製造レンズ多角形形状が位置する条件を満足するか否かを判定し、判定の結果、上記条件を満足する基材レンズを、加工用基材レンズとして選択する。
【0032】
加工用基材レンズを選択するとき、予め用意された複数種類の基材レンズそれぞれに対して
図1に示すステップST18の判定を行ってもよい。この場合、製造レンズ多角形形状が、基材レンズ多角形形状の境界線上あるいは内部に位置する条件を満足する基材レンズが複数ある場合もある。この場合、コンピュータは、基材レンズ多角形形状のうち、基材レンズ多角形形状の面積と製造レンズ多角形形状の面積の差分が最も小さい基材レンズ多角形形状を有する基材レンズを加工用基材レンズとして選択することが、加工用基材レンズにおける切削量及び研磨量が少なく、短時間で加工が完了することができる点から好ましい。
【0033】
一実施形態によれば、加工用基材レンズを選択するとき、基材レンズのレンズ面の表面上の一点と、製造するレンズのレンズ面上の一点とを一致させて基材レンズ及び製造しようとする設計表面形状を備えるレンズを切断したときの、一点の周りの方位方向を変えた複数の切断形状のそれぞれを、レンズ断面形状として、上記判定を行うことが好ましい。
図3,4に示すように、一つの平面上で表したレンズ断面形状に関して上記判定を行うが、レンズ、特に眼鏡レンズは3次元形状を有する場合が多いので、レンズ面上の一点の周りの複数の方位方向におけるレンズ断面形状に関して上記判定を行うことが好ましい。ここで、レンズ面上の一点は、例えば表面形状の凸形状の最大突出点あるいは凹形状の最大凹み点である。また、レンズ断面形は、例えば10度刻みの方位方向における36個のレンズ断面形状である。
【0034】
一実施形態によれば、製造しようとするレンズの一方の側のレンズ面の表面形状と、基材レンズの一方の側のレンズ面の表面形状とは、同じ場合もある。この場合、加工用基材レンズを選択するときに用いる制御点は、製造しようとするレンズの他方の側のレンズ面の表面形状と、基材レンズの他方の側のレンズ面の表面形状に関するものであることが好ましい。すなわち、基材レンズの表面形状に関する制御点を結ぶことにより作られる基材レンズ多角形形状と、製造しようとするレンズの設計表面形状に関する制御点を結ぶことにより作られる製造レンズ多角形形状を用いることなく、
図4に示す下面のレンズ面における表面形状に関する制御点を順番に結んだ凸部形状(あるいは凹部形状)の相対位置だけで十分であり、処理効率の向上の点から好ましい。
【0035】
パラメトリック曲線は、非一様有利Bスプライン(NURBS)曲線であることが好ましい。非一様有利Bスプラインは、曲率の連属性を維持できるので、レンズパワーを定めるレンズの曲率を正確に調整できる点から好ましい。
【0036】
一実施形態によれば、製造しようとするレンズは、眼鏡レンズのうち累進屈折力レンズであることが好ましい。累進屈折力レンズは、非球面レンズであり、しかも、近用部及び中間部の領域のレンズの表面形状は、眼鏡装用者の眼の特性に合わせて種々変化させているので、表面形状の表現方法は数式上複雑であり、このため、代数的な処理が煩雑になり、どの基材レンズを加工用基材レンズとして用いればよいか、その選択が難しい。この点から、上述した実施形態における制御点を用いた選択方法の効果(処理時間の短縮と処理の容易さ)は一層発揮される。
【0037】
このように選択された加工用基材レンズは、設計表面形状に基づいて、切削、研磨等の加工が施されて、設計表面形状を有するレンズを製造することができる。
【0038】
以上、本発明の加工用基材レンズの選択方法、およびこの選択方法を用いたレンズ製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0039】
10 表面形状
12 設計表面形状
20 データ処理装置
22 CPU
24 メモリ
26 モジュール
26a パラメトリック曲線作成部
26b 形状作成部
26c 判定部