(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】PVC可塑剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20231227BHJP
C08K 5/357 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/357
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019132505
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-07-15
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519261770
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・リサーチ・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャンユン・ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・ティアン
(72)【発明者】
【氏名】エイチ・ジェロルド・ミラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨス・ハー・エム・ランゲ
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0361318(US,A1)
【文献】米国特許第03291629(US,A)
【文献】国際公開第2015/195613(WO,A1)
【文献】特開2001-040217(JP,A)
【文献】米国特許第03301798(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0126651(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルホリド組成物を含む、可塑化ポリ塩化ビニル(PVC)組成物
であって、
前記モルホリド組成物が、モルホリン化合物と、トール油脂肪酸、それに由来するトール油脂肪酸モノマー及びそれらの混合物から選択される脂肪酸との反応生成物であるモルホリド組成物であって、
前記脂肪酸が、20~55重量%のオレイン酸、20~55重量%のリノール酸、0~15重量%のリノレン酸、および1~4重量%の飽和脂肪酸を含み;
前記脂肪酸が、植物油から得られた脂肪酸の酸化炭素等量(トン)で測定される温室効果ガスの総排出量であるカーボンフットプリント総量の95%未満のカーボンフットプリント総量を有し;
モルホリド組成物が、3未満のガードナー色(ニート)を有する、組成物である、PVC組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸が、脂肪酸kg当たり500グラムCO
2
等量未満の平均カーボンフットプリントを有する、請求項1に記載のPVC組成物。
【請求項3】
モルホリド組成物が、12mgKOH/g未満の酸性度指数及び1mgKOH/g未満のアミン価を有する、請求項1に記載のPVC組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸が、トール油脂肪酸モノマーであり、トール油脂肪酸モノマーがイソオレイン酸を含む、請求項1に記載のPVC組成物。
【請求項5】
ブリード試験において48時間後に1%未満の重量損失、及び70℃における7日間のエージング後に3以下の黄色度指標ΔEを有
し、前記ブリード試験は2枚のティッシュペーパーの間にフィルム試料を置いて48時間室温で放置した後にペーパーの重量の増加を測定する試験であり、および前記黄色度指標ΔEはASTM E313-15el試験法によって測定される、請求項
1-3のいずれか一項に記
載PV
C組成物。
【請求項6】
フタレートを含まない可塑化ポリ塩化ビニル(PVC)組成物を調製する方法であって、請求項
1に記載のモルホリド組成物を、可塑化ポリ塩化ビニル(PVC)組成物並びに1種以上のポリマー安定化剤及び抗酸化剤とブレンドし調合する工程を含む、方法。
【請求項7】
モルホリド組成物を調製する方法であって、
モルホリン化合物、触媒並びにトール油脂肪酸、それに由来するトール油脂肪酸モノマー及びそれらの混合物から選択される脂肪酸を含む混合物を形成する工程、並びに
モルホリド組成物を単離する工程
を含み、
前記脂肪酸が、20~55重量%のオレイン酸
、20~55重量%のリノール
酸、並びに0~15重量%のリノレン酸を含み;前記脂肪酸が、植物油から得られた脂肪酸のカーボンフットプリント総量の95%未満のカーボンフットプリント総量を有し、
モルホリド組成物が、3未満のガードナー色(ニート)を有する、方法。
【請求項8】
前記脂肪酸が、脂肪酸kg当たり500グラムCO
2等量未満の平均カーボンフットプリントを有する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
触媒が次亜リン酸である、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
除去剤を、単離されたモルホリド組成物に加える工程をさらに含み、除去剤が、置換又は非置換グリシジルエステルである、請求項
7に記載の方法。
【請求項11】
エポキシ化、水素化、臭素化、塩素化、塩化水素化及び臭化水素化からなる群から選択される化学的変換工程を用いて部分的にまたは完全に、残存不飽和を除去するための工程をさらに含む、請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トール油脂肪酸のような、低カーボンフットプリントを有する脂肪酸に由来するポリ塩化ビニル(PVC)可塑剤組成物、及び該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可塑剤は、材料に添加されて、それらの物理的特性を改変し、可塑性、すなわち、適用された力に応じた材料の不可逆的変形を増加させ、又は流動性を増加させる。市販の可塑剤は、典型的には、フタル酸、テレフタル酸又は安息香酸のような、再生不可能な石油化学の化学工業原料をベースとする。可塑剤は、通常、フタレート及び非フタレート可塑剤に分けられる。いくつかの先行技術における可塑剤、例えば、DEHP(ビス(2-エチルヘキシル)フタレート)では、組成物は良好な可塑化効果を有するが、マイグレーション速度が高過ぎるため、高温用途では用いられない。石油化学をベースとする非フタレート可塑剤TOTM(トリメリット酸トリオクチル)は、高温用途に適した比較的低いマイグレーション速度を有するが、可塑化効果に乏しい。
【0003】
環状モノアミド、例えば、ピロリドンに由来するものは、可塑剤として用いられてきた。セバシン酸エステル、クエン酸エステル、コハク酸エステル、イソソルビド、及びヒマシ油に由来する可塑剤、エポキシ化大豆油等のような、いくつかのクラスのバイオ可塑剤が開発されてきた。これらのバイオ可塑剤はエステルであって、一般には、最適なPVC相溶性を与えない。さらに、それらは、拡散による漏れのため、不都合な特性を導きかねない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低カーボンフットプリントを有し、フタレートを含まず、良好な可塑化効果と低いマイグレーション傾向とをバランス良く調整して改良された特性を有する、可塑化PVCポリマー組成物に対するニーズが根強く存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、モルホリン化合物と脂肪酸との反応生成物を含む脂肪酸モルホリド組成物であって、前記脂肪酸が、植物油から得られた脂肪酸のカーボンフットプリント総量の95%未満のカーボンフットプリント総量を有する、又はそれに代えて、約500グラムCO2/kg脂肪酸未満若しくは約200グラムCO2/kg脂肪酸未満の低カーボンフットプリントを有する、組成物である。
【0006】
本開示の別の態様は、モルホリン化合物と、トール脂肪酸(TOFA)、それに由来するトール油脂肪酸モノマー(TOFAモノマー)及びそれらの混合物から選択される脂肪酸との反応生成物であるモルホリド組成物であって、脂肪酸が、20~55重量%のオレイン酸及び20~55重量%のリノール酸並びに任意選択的に15重量%までのリノレン酸を含む、組成物である。脂肪酸は、植物油から得られた脂肪酸のカーボンフットプリント総量の95%未満のカーボンフットプリント総量を有する、又はそれに代えて、脂肪酸kg当たり500グラムCO2等量未満の平均カーボンフットプリントを有する。モルホリド組成物は、約3未満のガードナー色(ニート)を有する。
【0007】
別の態様において、本開示は、ポリ塩化ビニル(PVC)のようなポリマーを含むポリマー組成物及び可塑剤として用いられる上記モルホリド組成物を提供する。
【0008】
本開示の別の態様は、フタレートを含まない可塑化PVC組成物を調製する方法であって、上記モルホリド組成物を、PVC並びに1種以上のポリマー安定化剤及び抗酸化剤とブレンドし調合する工程を含む、方法である。
【0009】
さらに別の態様において、フタレートを含まない可塑剤組成物を調製する方法が開示される。該方法は、モルホリン化合物、触媒及び脂肪酸を含む混合物を形成する工程を含み、ここで、脂肪酸は、TOFA、それに由来するTOFAモノマー及びそれらの混合物から選択される。脂肪酸は、約20~55重量%のオレイン酸及び約20~55重量%のリノール酸並びに任意選択的に15重量%までのリノレン酸を含み;植物油から得られた脂肪酸のカーボンフットプリント総量の95%未満のカーボンフットプリント総量を有する、又はそれに代えて、脂肪酸kg当たり500グラムCO2等量未満の平均カーボンフットプリントを有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、別段の記載がない限り、以下の意味を有する。
【0011】
「フタレートを含まない」は、フタレートが意図的に加えられていないことを意味する。
【0012】
「カーボンフットプリント」とは、生成物、プロセス又は事象によって直接的に、又は間接的に引き起こされた温室効果ガスの総排出量のことをいう。カーボンフットプリントは、酸化炭素等量(トン)で測定することができる。
【0013】
「低カーボンフットプリント」又は「削減されたカーボンフットプリント」は、代替の生成物、プロセス又は事象のカーボンフットプリントの95%未満、又は92%未満、又は90%未満、又は80%未満、又は70%未満、又は50%未満、又は30%未満、又は20%未満を有することを意味する。例えば、トール油脂肪酸(TOFA)は、供給源に依存して、別のものと比較してカーボンフットプリントが削減され、例えば、TOFAは、代替大豆油と比較して10%の排出量を有し得(https://www.forchem.com/forchem/low_carbon_solutions)、又は大豆、ヒマワリ、菜種及びオレイン酸混合物から作成された植物油代替物よりも少なくとも5分の1の低い排出量を有し得る(http://www.kraton.com/products/pdf/Oleochemicals_web_final.pdfを参照)。
【0014】
「低カーボンフットプリント」の脂肪酸は、脂肪酸kg当たり500グラムCO2等量未満の、好ましくは脂肪酸kg当たり200グラムCO2等量未満の平均カーボンフットプリントを有する脂肪酸を意味する。
【0015】
「ブリード」は、ポリマー組成物、特にPVC組成物に含まれた可塑剤成分の文脈で用いられる。この用語は、可塑剤成分と、例えば、PVCのようなポリマーマトリックスとの相溶性の尺度を意味する。可塑剤のブリードは、2枚のティッシュペーパーの間にフィルム試料を置くことによって評価することができる。次いで、組み合わせた系(試料+ペーパー)を48時間室温に保存する。この持続時間の後のペーパーの重量の増加は、可塑剤のブリードの尺度を与える。
【0016】
粘度は、スピンドルNo.21を用い、ASTM D2196に従って決定される。
【0017】
「酸性度指数」(又は「中和価」又は「酸度」)とは、ASTM D465-05(2010)試験法によって決定された酸価をいい、本明細書中に開示されたモルホリド組成物1グラムを中和するのに必要なミリグラムで表した水酸化カリウム(KOH)の質量として表される。
【0018】
「アミン価」(又は「アミン性度指数」)とは、本明細書中に開示されたモルホリド組成物1グラムの塩基性度と等価の塩基性度を有する水酸化カリウム(KOH)のミリグラムをいう。それは、モルホリド試料の溶液を、イソプロパノール溶媒中の希塩酸で滴定することによって比色測定により決定することができる。
【0019】
引張強度及び伸度は、ASTM D882-12試験法により測定される。硬度は、ASTM D2240-15試験法によって測定される。黄色度指標(YI)は、ASTM E313-15el試験法によって測定される。
【0020】
本開示は、低カーボンフットプリントを有する脂肪酸に由来するモルホリド組成物の調製及び使用に関する。そのような脂肪酸は、大豆、ヤシ、ヒマワリ及びピーナッツ酸のような植物酸のカーボンフットプリントの画分を有する。
【0021】
本開示は、例えば、PVCのようなポリマーに組み込まれた場合に、良好な可塑化効果と最小マイグレーションとのバランスが調整された性能を持つ可塑剤として用いるための、TOFA、それに由来するTOFAモノマー又はそれらの混合物から調製されるモルホリド組成物の調製及び使用にも関する。
【0022】
トール油脂肪酸(TOFA):TOFAは、モルホリン化合物によるアミド化反応を受けてアミド結合を形成する、1つ以上のカルボン酸基を有するTOFA蒸留物成分である。
【0023】
一実施形態において、TOFAは、80重量%を超えるC18カルボン酸を含有する。別の実施形態において、TOFAは、1つ以上の炭素-炭素二重結合並びに比較的低い曇点及び流動点を備えるC18長鎖カルボン酸を含む。C18長鎖カルボン酸の例としては、ステアリン酸(C18飽和カルボン酸)、オレイン酸(C18モノ不飽和カルボン酸)、リノール酸(C18ジ不飽和カルボン酸)及びアルファ-リノレン酸(C18トリ不飽和カルボン酸)が挙げられる。TOFAは、微量割合(0.5重量%未満)のパルミチン酸(C16飽和カルボン酸)並びに18を超える炭素原子を有する飽和及び不飽和カルボン酸を含有してもよい。
【0024】
一実施形態において、カルボン酸は、限定されるものではないが、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エライジン酸、アルファ-リノレン酸、アラキジン酸、14-メチルヘキサデカン酸、オクタデカジエン酸、11,14-エイコサジエン酸、シス-5,シス-11,シス-14エイコサトリエン酸、8(9),15-イソピマラジエン-18-オイック酸、2α-[2’(m-イソプロピルフェニル)エチル]-1β,3α-ジメチルシクロヘキサンカルボン酸、8(9),15-ピマラジエン-18-オイック酸、2β-[2’(m-イソプロピルフェニル)エチル]-1β/3α-ジメチルシクロヘキサンカルボン酸、8(14),15-ピマラジエン-18-オイック酸、7(8)/15-ピマラジエン-18-オイック酸、8,13-アビエタジエン-18-オイック酸、パルストリン酸、7,15-イソピマラジエン-18-オイック酸、イソピマール酸、ジヒドロアビエチエン酸、8,11,13-アビエタジエン-18-オイック酸及び8(14),13(15)-アビエタジエン-18-オイック酸のような、16~20の炭素鎖長を有するものを含む。
【0025】
別の実施形態において、カルボン酸は、種々の量の他の植物酸、例えば、キャノーラ酸、ひまし酸、ココナツ酸、綿実酸、亜麻仁酸、ピーナッツ酸、菜種酸(低エルカ酸)、菜種酸(高エルカ酸)、サフラワー酸、大豆酸、及びヒマワリ酸を含む。
【0026】
一実施形態において、TOFAは、20~55重量%のオレイン酸及び20~55重量%のリノール酸並びに任意選択的に15重量%までのリノレン酸を含む。別の実施形態において、TOFAは、任意選択的に、ACQM022試験法によって決定して、アルファ-リノレン酸及びピノレン酸の合計を15重量%まで並びに1~4重量%の飽和脂肪酸(複数可)を含む。別の実施形態において、TOFAは、0.1~5重量%のC-20樹脂酸(複数可)を含有する。一実施形態において、TOFAは、32重量%のオレイン酸レベル、50重量%のコンジュゲートされたリノール酸及びリノール酸((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン酸ともいう)組合せ含有量、12重量%のアルファ-リノレン酸含有量、2%の飽和脂肪酸含有量、197mgKOH/gの酸性度指数(AQCM001)並びに154cgI/gのヨウ素価(AQCM009)及び-15℃の流動点(AQCM060)を有する。別の実施形態において、TOFAは、194mgKOH/gの酸性度指数、125cgI/gのヨウ素価及び4.5のガードナー色(ニート)(AQCM002)を有する。なお別の実施形態において、TOFAは、196mgKOH/gの酸性度指数、125cgI/gのヨウ素価及び3.0のガードナー色(ニート)を有する。なお別の実施形態において、TOFA成分は、削減されたフットプリント、すなわち、植物油から得られた脂肪酸のカーボンフットプリント総量の95%未満のカーボンフットプリント総量を有するものとして特徴付けられる。
【0027】
トール油蒸留物は、主にTOFAを含有する。モルホリド誘導体を調製するのに適したTOFAは、粗製トール油グレードを精製することによって得ることができる。一実施形態において、TOFA蒸留物は、ACQM060試験法によって決定して、-35℃~30℃の流動点(℃)を有する。別の実施形態において、TOFA蒸留物は、-25℃~15℃の流動点(℃)を有する。なお別の実施形態において、TOFA蒸留物は-15℃の流動点を有する。
【0028】
別の実施形態において、トール油脂肪酸モノマーのようなTOFA-由来化学組成物(「TOFAモノマー」ともいう)もやはり、モルホリド組成物を調製するのに用いられる。TOFAモノマーは、TOFAの酸性粘土触媒重合の間に形成されたモノマー画分中に存在する。典型的には高温で行われるこの重合プロセスにおいて、オレフィン性脂肪酸は、異性化及び分子間付加反応を含めた多様な化学反応を受けて、ダイマー化及びポリマー化脂肪酸の混合物、並びにモノマー脂肪酸のユニークな混合物を形成する。モノマー脂肪酸画分は、蒸留のような分離法によって重合生成物から分離され、通常、「モノマー」又は「モノマー酸」又は「モノマー脂肪酸」として当該分野で一般に公知である(CAS Registry Number 68955-98-6)。
【0029】
TOFAモノマーは、典型的には、飽和又は不飽和であり得る、分岐状、芳香族、環状及び直鎖脂肪酸の混合物であり、ここで、不飽和脂肪酸中のオレフィン性二重結合はシス又はトランス立体配置を有することができる。TOFAモノマーにおける主要な量の酸はいわゆる「イソ-オレイン酸」であり、これは、実際には、直鎖状、分岐状及び環状C-18モノ不飽和脂肪酸の混合物である。例において、TOFAモノマーは、飽和及び不飽和C-18脂肪酸の両方を含有し、ここで、イソ-オレイン酸は、主成分として存在し、ポリ不飽和脂肪酸は低いレベルで存在する。さらに、例であるTOFAモノマーは、174mgKOH/gの酸性度指数(AQCM001)、6.1のガードナー色(ニート)(AQCM002)、75cgI/gのヨウ素価(AQCM009)を有する。
【0030】
いくつかの実施形態において、TOFAモノマーは、イソ-オレイン酸のような化学的に修飾されたTOFA、並びにイソ-ステアリン酸及び関連する分岐状、飽和又は部分飽和C-18カルボン酸組成物のようなそれらの精製された、又は水素化された画分である。一実施形態において、TOFAモノマーは、TOFAのダイマー化反応の間に形成されその反応混合物から得られた、分岐状及び直鎖の脂肪酸の混合物である。別の実施形態において、TOFAモノマー酸は、飽和及び不飽和C-18脂肪酸の両方を含有し、分岐鎖イソ-オレイン酸が主要部分を構成し、実質的にポリ不飽和脂肪酸を含まない。
【0031】
ヨウ素価は、一般には、油、脂肪又はワックスの不飽和の程度を示すのに用いられる。TOFA又はTOFAモノマー成分は、ACQM009によって決定して、60~180、110~170又は125~155cgI/gの範囲の、ヨウ素センチグラム/TOFAグラムで表したヨウ素価を有する。
【0032】
モルホリン成分:モルホリド組成物を形成するために、モルホリン化合物をTOFAとの反応に使用する。一実施形態において、モルホリン(O(CH2CH2)2NH)を用いる。別の実施形態において、モルホリン化合物は、モルホリン、2-メチルモルホリン、2,6-ジメチルモルホリン、2,2-ジメチルモルホリン、3-メチルモルホリン又はそれらの混合物からなる群から選択される。
【0033】
モルホリンは、ジエタノールアミンの硫酸での脱水によって生成させることができる。別の方法は、ラネーニッケルのような触媒の存在下での、ジエチレングリコールとアンモニアとの反応を含む。
【0034】
任意選択的成分:一実施形態において、モルホリド組成物を形成する反応混合物は、さらに、ロジン含有物質、例えば、トール油ロジン、ガムロジン又はそれらの組合せを、(モルホリド可塑剤組成物の総重量に対して)15重量%未満の量で含む。ロジン含有物質の非限定的例としては、Kraton CorporationからのSYLVAROS(商標)製品が挙げられる。
【0035】
モルホリド組成物は、さらに、例えば、置換又は非置換グリシジルエステルのような酸除去剤のような除去剤を含むことができる。除去剤は着色物の生成を減らす。
【0036】
TOFAモルホリドの修飾された形態:TOFAモルホリド組成物を含めた、低カーボンフットプリント脂肪酸モルホリドは、オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸のような不飽和脂肪酸成分から主に由来する、種々の量の残存不飽和を有することができる。これらの不飽和部位は、残存不飽和をほとんど有しない、又は全く有しないモルホリドを提供するために、様々な化学的変換を用いて部分的に、又は完全に除去することができる。例としては、限定されるものではないが、エポキシ化、水素化、塩素化、臭素化、塩化水素化及び臭化水素化が挙げられる。不飽和の部分的、又は完全な除去は、モルホリドの熱的安定性を改善し、また、生成物の着色を低下させる。そのような修飾されたモルホリドを組み込んだ可塑剤組成物は、可塑化PVC組成物のような低着色可塑剤ポリマー組成物を生成するために、より低い着色を有することができ、又はより高い熱的安定性を有することができる。
【0037】
モルホリド組成物の製造方法:モルホリド組成物はアミド化反応で作成することができ、ここで、モルホリン又は置換モルホリンが、水の脱離を伴って、脂肪酸と反応する。当該分野で公知のいずれのアミド化触媒を用いることができる。酸触媒は、一般的には、順反応を促進するのに用いられる。例としては、オルトリン酸(H3PO4)、メタリン酸(HPO3)、亜リン酸(H3PO3)及び次亜リン酸(H3PO2)のようなリン酸が挙げられる。ピロリン酸(H4P2O7)、トリリン酸(H5P3O10)及びトリメタリン酸(H3P3O9)のような亜リン酸の他のタイプを触媒として用いてもよい。一実施形態において、次亜リン酸は、モルホリド組成物を形成するための触媒として用いられる。アミド化触媒のさらに他の例としては、リン酸、2-(2’-ピリジル)エチルホスホン酸(PEPA)及びそのジエチルエステル(DPEP)、次亜リン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸無水物、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、アリールボロン酸並びに他のホウ素含有化学物質、FeCl3のようなルイス酸、モレキュラーシーブ、ホスホニウム塩及びカルボジイミドのような脱水剤が挙げられる。
【0038】
アミド化反応は、反応混合物を、モルホリド組成物を形成するのに必要な温度まで加熱することによって行われる。ある実施形態において、反応温度は200℃を超える。アミド化反応の間に水が副産物として形成され、好ましくは、例えば、窒素のような不活性パージガスのストリームを介して、蒸気として反応の間に除去される。生成物単離工程に先立って、又はその後に、モルホリド生成物を含有する反応混合物を、グリシジルエステルのような除去剤で処理することができる。生成物の単離は、蒸留、例えば、ワイパー式薄膜蒸発(wiped film evaporation)及び短路蒸留(short path distillation)によって達成される。抗酸化剤を単離された生成物に加えて、それを、酸化的分解に対して安定化させることができる。
【0039】
モルホリドは、TOFAのカルボン酸誘導体をモルホリン化合物と反応させることによるような、他の方法によって合成することもできる。例えば、TOFAのメチル又は低級アルキルエステルのようなエステルを、触媒の存在下でモルホリン化合物と反応させることができる。TOFAの塩化アシル誘導体を、塩基として作用する有機アミンの存在下でモルホリンと反応させることができる。別法として、TOFAに由来する酸無水物をアミンと反応させて、モルホリド組成物を生成することができる。
【0040】
上述の調製されたモルホリド組成物は、依然として、TOFAに存在する残存不飽和又は低カーボンフットプリント脂肪酸を含有し得る。そのような不飽和は、上記した方法を用いて部分的に、又は完全に除去することができる。
【0041】
上記モルホリド組成物を含む可塑剤組成物は、モルホリン成分及び/又はTOFA成分における構造変化に基づいて、1又は1を超えるタイプのモルホリドを含有してもよい。モルホリド構造中のアシル基は、18-炭素アシル基を含む。ある実施形態において、可塑剤組成物は、モルホリンとTOFAとの反応から得られるモルホリド組成物を含む。別の実施形態において、可塑剤組成物は、モルホリン化合物と2種以上の異なるTOFAモノマーとの反応から得られるモルホリド組成物を含む。なお別の実施形態において、可塑剤組成物は、モルホリン及び1つ以上の置換モルホリン化合物とTOFAとの反応から得られるモルホリド組成物を含む。さらに別の実施形態において、可塑剤組成物は、モルホリン及び1つ以上の置換モルホリン化合物とTOFA及び1つ以上のTOFAモノマーとの反応から得られるモルホリド組成物を含む。
【0042】
モルホリド組成物及びモルホリド可塑剤組成物の特性:記載された方法によって作成されたモルホリド組成物(及びそれからの可塑剤組成物)は、5未満、又は3未満、又は2未満のガードナー色(ニート)を有する。
【0043】
モルホリド組成物は、12mgKOH/g未満の、あるいは9mgKOH/g未満、又は5mgKOH/g未満、又は3mgKOH/g未満の酸性度指数を有する。モルホリドは、6mgKOH/g未満、又は4mgKOH/g未満、又は2mgKOH/g未満、又は1mgKOH/g未満のアミン値を有する。
【0044】
TOFAモルホリドを含めた、脂肪酸kg当たり500グラムCO2等量未満のカーボンフットプリントを有する脂肪酸に由来するモルホリドは、低い漏れ傾向、及びポリマー組成物に含めた場合に低いブリード傾向を有する。このことは、それらを、PVC及び/又は塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー樹脂を含むもののようなポリマー組成物を生産するのに有用なものにする。そのような系において、可塑剤は、PVC及び/又は塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー樹脂と実質的に相溶するものとして特徴付けられる。
【0045】
産業上の利用可能性:TOFA系モルホリド可塑剤は、建設用途、例えば、ドア及び窓のようなパイプ及びプロフィール用途で有用である。それらは、瓶、非食品包装及びカード(例えば、銀行カード又は会員カード)を作成するのにも用いることができる。他の用途は、配管、電気ケーブル絶縁、イミテーションレザー、サイネージ、レコード盤、フローリング、インフレータブル製品、玩具、及びそれらがゴムの代用としての多くの用途を含む。
【0046】
TOFA系モルホリド可塑剤は、当該分野で公知の方法、例えば、プラスチゾル法、乾燥ブレンディング、調合及び押出によってPVC組成物に含めることができる。乾燥ブレンディングは、リボンブレンダー又は高スピードミキサーのような混合機器内で行われる。一実施形態において、TOFA系モルホリド可塑剤は、10~90phr(100重量部のPVC樹脂当たりの重量部)、別の実施形態において、10~60phrの範囲の量で組み込まれる。PVC及び他の必要な固体材料の適切な量をまず一緒にブレンドし、次いで、液状可塑剤を撹拌しながら混合物に加える。1つの例において、乾燥ブレンドを次に加工し、最終用途形状に押し出し、又は成形する。
【0047】
実施形態において、可塑化PVC組成物は、70℃における7日間のエージングの後に3以下の黄色度指標(ΔE)を有する。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は非限定的であることが意図される。
【0049】
実施例1(E-1):モルホリド組成物は、(45~50重量%のオレイン酸及び40~45重量%のリノール酸を含む)73.4重量%のTOFA、1重量%の触媒(次亜リン酸)及び25.6重量%のモルホリンを含む反応体混合物から調製する。
【0050】
TOFA及び次亜リン酸(触媒)を、コンデンサー装備を備えた反応フラスコ中で合わせて、副産物の水を凝縮物として集めた。反応フラスコに30分間窒素をパージして酸素を除去した後、混合物を100℃/時間の速度で210℃まで加熱した。次いで、モルホリンを、100分の時間にわたって0.3重量%の速度で表面下に加えた。全てのモルホリンが加えられた後、反応混合物のアリコットをサンプリングし、滴定技術を用いてそれらの酸価及びアミン価を測定することによって反応の進行をモニターしながら、温度を210℃に維持した。酸価が9mgKOH/g未満、又はそれと等しくなったとき、反応混合物に窒素を1時間注入し、70℃まで冷却し、1重量%のグリシジルエステルで処理し、1時間撹拌した。次に、反応混合物を、ワイパー式薄膜蒸発器に入れ、100~300ミリバール(1×104~3×104パスカル)の圧力にて220℃まで加熱した。純粋なモルホリド組成物をヘッドカットとして収集し、窒素雰囲気下で周囲温度まで冷却して、貯蔵容器に注いだ。これに、1重量%の抗酸化剤を加え、均質な液体が得られるまで撹拌した。最終生成物を密封された容器中で室温にて貯蔵した。生成物は、0.9のガードナー色(ニート)、5.6mgKOH/gの酸価、0.0mgKOH/gのアミン価及び30℃における40cPsの粘度を有していた。
【0051】
例(CE-2、E-2、CE-3、E-3):PVC配合物は、実施例1のTOFAモルホリド、先行技術のPVC可塑剤(TOTM及びDOTP)及び表1に示された他の成分を用いて調製した。ブレンドを、175℃~205℃の間の温度で加工した。
【0052】
【0053】
次いで、得られたPVC化合物を試験プラークに圧縮成形し、次いで、それらの特性について試験した。表2は可塑化PVC組成物の特性を示す。引張及び伸度データは、ASTM D638に従って収集した。CIEL*a*b*をPVCプラークの色測定で用い、ここで、L*は明度に関し、a*は緑色-赤色成分に関し、b*は青色-黄色の色成分に関するものである。ΔEは2つの色の間の差であり、それは以下の式:
【0054】
【0055】
表2において、実施例の組成物E-2の初期のΔEは、エージング前の実施例と比較例との間の色の差であり、所与の試料についてのエージング後のΔEは、同一試料についてのエージングの前と後に測定された色の差である。
【0056】
【0057】
示されているように、PVC組成物E-2及びE-3は、TOTM又はDOTPを有する組成物(CE-2及びCE-3)と比較して、35重量%未満の可塑剤を用いた。さらに、可塑化組成物E-2及びE-3のパーセント伸度及び引張強度は、それぞれ、TOTM及びDOTPを含む比較組成物CE-2及びCE-3によって呈されるものに匹敵した。
【0058】
充填剤無しの例:充填剤無しのいくつかの配合物を表3に示す。組成物はブラベンダーで作成し、試験プラークに圧縮成形し、次いで、ショアA硬度について試験した。結果は、TOFAモルホリドが、広い配合範囲にわたってDOTPよりも効果的な可塑剤であることを示している。
【0059】
【0060】
例-プラスチゾル配合物:エマルジョンPVCを含有するプラスチゾル組成物は、表4に示されるように配合し、次いで、注型し、乾燥させた。次いで、試験プラークを注型されたシートから切り取り、特性について試験した。TOFAモルホリドは、表4に示されるように、今回においても、従来のフタレートPVCより良好な可塑剤効率を与えている。
【0061】
【0062】
例-溶融速度:表5に列挙された組成物は、180℃及び50rpmにおいてブラベンダーを用いて配合し、次いで、ASTM D-2538に従って溶融速度について評価した。表5に示されるように、TOFAモルホリドは、良好な可塑化効果を有するのみならず、より速い溶融速度を有する。
【0063】