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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】射出成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20231227BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20231227BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20231227BHJP
   C08F 110/06 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C08L23/12
B29C45/00
B65D1/00 110
C08F110/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019146845
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021025015
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄也
(72)【発明者】
【氏名】上北 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 渚
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/054714(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/097842(WO,A1)
【文献】特開2018-109105(JP,A)
【文献】特開2005-146160(JP,A)
【文献】特開2014-181317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/12
B29C 45/00
B65D 1/00
C08F 110/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
135℃、テトラリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が10~12dl/gの範囲にあるプロピレン系重合体(a1)を0.2~8.0質量%、および135℃、テトラリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が0.5~3.5dl/gの範囲にあるプロピレン系重合体(a2)を92.0~99.8質量%〔ただし、プロピレン系重合体(a1)とプロピレン系重合体(a2)との合計量を100質量%とする。〕含むプロピレン系重合体組成物(A)からなり、
前記組成物(A)は、前記プロピレン系重合体(a1)および前記プロピレン系重合体(a2)に該当する重合体(a2')を多段重合により製造して得られた重合体混合物と、プロピレン系重合体(a2'')とを混合して得られた組成物であり〔ただし、プロピレン系重合体(a2'')は、プロピレン系重合体(a2')とは異なる重合体である。〕、
前記重合体混合物および前記プロピレン系重合体(a2'')の合計100質量部に対して、前記重合体混合物を1~20質量部、前記プロピレン系重合体(a2'')を80~99質量部含み、
前記プロピレン系重合体(a1)、前記プロピレン系重合体(a2')、および前記プロピレン系重合体(a2'')がそれぞれプロピレン単独重合体である、
射出成形体。
【請求項2】
前記プロピレン系重合体組成物(A)の、230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)が10~100g/10分の範囲にある請求項1に記載の射出成形体。
【請求項3】
前記プロピレン系重合体組成物(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された分子量分布曲線で囲まれる領域の全面積に占める、分子量150万以上の高分子量領域の面積割合が2.0~7.0%である請求項1または2に記載の射出成形体。
【請求項4】
前記プロピレン系重合体組成物(A)が、FE個数〔25mmΦのTダイ製膜機で製膜した厚さ50μmのフィルムについて、FEカウンターを用いて測定されるFE個数を単位面積(3000cm2)当たりの個数に換算した値〕が100個以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の射出成形体。
【請求項5】
容器である請求項1~4のいずれか1項に記載の射出成形体。
【請求項6】
食品包装容器である請求項1~4のいずれか1項に記載の射出成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、耐熱性および剛性に優れており(例えば、特許文献1~3参照)、射出成形法、フィルム成形法、シート成形法、ブロー成形法などの成形法により各種の成形体の製造に広く用いられている。例えば、プロピレン系重合体製の射出成形体は、食品、日用品、薬品用などの容器として広く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第99/7752号
【文献】特開平8-3223号
【文献】特開平1-254706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロピレン系重合体製の射出成形体は、用途によってはさらに優れた耐熱性および剛性を必要とすることがある。本発明者らは、これらの物性を向上させるために高分子量成分を添加することを検討したところ、射出成形体表面に小さな塊(いわゆるブツ)が発生するなど、製品外観が悪化することがあった。
【0005】
本発明の課題は、耐熱性および剛性に優れ、外観良好な、プロピレン系重合体製の射出成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下に記載のプロピレン系重合体組成物からなる射出成形体が前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
[1]135℃、テトラリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が10~12dl/gの範囲にあるプロピレン系重合体(a1)を0.2~8.0質量%、および135℃、テトラリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が0.5~3.5dl/gの範囲にあるプロピレン系重合体(a2)を92.0~99.8質量%〔ただし、プロピレン系重合体(a1)とプロピレン系重合体(a2)との合計量を100質量%とする。〕含むプロピレン系重合体組成物(A)からなる射出成形体。
【0008】
[2]前記プロピレン系重合体組成物(A)の、230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)が10~100g/10分の範囲にある前記[1]に記載の射出成形体。
【0009】
[3]前記プロピレン系重合体組成物(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された分子量分布曲線で囲まれる領域の全面積に占める、分子量150万以上の高分子量領域の面積割合が2.0~7.0%である前記[1]または[2]に記載の射出成形体。
【0010】
[4]前記プロピレン系重合体組成物(A)が、FE個数〔25mmΦのTダイ製膜機で製膜した厚さ50μmのフィルムについて、FEカウンターを用いて測定されるFE個数を単位面積(3000cm2)当たりの個数に換算した値〕が100個以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載の射出成形体。
【0011】
[5]容器である前記[1]~[4]のいずれかに記載の射出成形体。
[6]食品包装容器である前記[1]~[4]のいずれかに記載の射出成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性および剛性に優れ、外観良好な、プロピレン系重合体製の射出成形体を提供することができる。また、本発明の射出成形体は剛性に優れることから、その軽量化も容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の射出成形体は、特定のプロピレン系重合体組成物(A)からなる。以下、プロピレン系重合体組成物(A)およびその射出成形体について詳細に説明する。
【0014】
[プロピレン系重合体組成物(A)]
プロピレン系重合体組成物(A)は、135℃、テトラリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が10~12dl/gの範囲にあるプロピレン系重合体(a1)を0.2~8.0質量%、および135℃、テトラリン溶媒中で測定される極限粘度[η]が0.5~3.5dl/gの範囲にあるプロピレン系重合体(a2)を92.0~99.8質量%〔ただし、プロピレン系重合体(a1)とプロピレン系重合体(a2)との合計量を100質量%とする。〕含む。
【0015】
なお、各要件の測定条件の詳細は、実施例の欄に記載する。
以下、プロピレン系重合体組成物(A)を単に「組成物(A)」ともいう。また、135℃、テトラリン溶媒中で測定される極限粘度[η]を単に「極限粘度[η]」ともいう。プロピレン系重合体(a1)およびプロピレン系重合体(a2)のそれぞれの質量分率は、(a1)と(a2)との合計量を基準とする。
【0016】
<プロピレン系重合体(a1)>
プロピレン系重合体(a1)の極限粘度[η]は、10~12dl/gの範囲にあり、好ましくは10.5~11.5dl/gの範囲にある。また、プロピレン系重合体(a1)の質量分率は、0.2~8.0質量%の範囲にあり、好ましくは1.0~8.0質量%、より好ましくは2.0~8.0質量%の範囲にある。
【0017】
プロピレン系重合体(a1)としては、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレンと炭素数2~8のα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)との共重合体が挙げられる。炭素数2~8のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。これらα-オレフィンとしてはエチレンが好ましい。α-オレフィンは1種または2種以上用いることができる。
【0018】
プロピレンと炭素数2~8のα-オレフィンとの共重合体において、プロピレンに由来する構成単位の含有割合は、通常は90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上であり、炭素数2~8のα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)に由来する構成単位の含有割合は、通常は10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。前記含有割合は、13C-NMRにより測定することができる。
【0019】
プロピレン系重合体(a1)の極限粘度[η]が12dl/gを超えると、射出成形性が劣る傾向にある。また、プロピレン系重合体(a1)の極限粘度[η]が10dl/g未満であると、得られる射出成形体の外観が不良(例えば、ブツの発生)となる傾向にある。
【0020】
プロピレン系重合体(a1)の質量分率が0.2質量%未満では、得られる射出成形体の耐熱性および剛性が不足する傾向にあり、8.0質量%を超えると、得られる射出成形体の外観不良(例えば、ブツの発生、光沢の悪化)の原因となる傾向にある。本発明では、高分子量のプロピレン系重合体(a1)を特定量添加することで、この(a1)が配向結晶化を促進し、配向層厚さが大きくなると推測され、射出成形体の耐衝撃性を保持しつつ耐熱性および剛性を向上させることができた、と考えられる。
プロピレン系重合体(a1)は1種または2種以上用いることができる。
【0021】
<プロピレン系重合体(a2)>
プロピレン系重合体(a2)の極限粘度[η]は、0.5~3.5dl/gの範囲にあり、好ましくは0.6~3.0dl/g、より好ましくは0.8~3.0dl/gの範囲にある。また、プロピレン系重合体(a2)の質量分率は、92.0~99.8質量%の範囲にあり、好ましくは92.0~99.0質量%、より好ましくは92.0~98.0質量%の範囲にある。
【0022】
プロピレン系重合体(a2)としては、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレンと炭素数2~8のα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)との共重合体が挙げられる。炭素数2~8のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。これらα-オレフィンとしてはエチレンが好ましい。α-オレフィンは1種または2種以上用いることができる。
【0023】
プロピレンと炭素数2~8のα-オレフィンとの共重合体において、プロピレンに由来する構成単位の含有割合は、通常は90質量%以上、好ましくは93質量%以上、より好ましくは94質量%以上であり、炭素数2~8のα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)に由来する構成単位の含有割合は、通常は10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。前記含有割合は、13C-NMRにより測定することができる。
【0024】
プロピレン系重合体(a2)の極限粘度[η]が0.5dl/g未満であると、得られる重合体組成物の溶融張力が不十分となる傾向にあり、極限粘度[η]が3.5dl/gを超えると、粘度が高く、射出成形性が悪化する傾向にある。
【0025】
プロピレン系重合体(a2)の質量分率が92.0質量%未満では、射出成形時の外観不良の原因となる傾向にあり、99.8質量%を超えると、得られる射出成形体の耐熱性および剛性が劣る傾向にある。
【0026】
プロピレン系重合体(a2)は1種または2種以上用いることができる。
組成物(A)全体に占めるプロピレン系重合体(a1)およびプロピレン系重合体(a2)の含有割合の合計は、通常は70質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは98質量%以上である。
【0027】
<添加剤>
プロピレン系重合体組成物(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、中和剤、核剤、熱安定剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、気泡防止剤、分散剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、架橋剤、架橋助剤等の添加剤;染料、顔料等の着色剤等の添加剤を含むことができる。添加剤は1種または2種以上用いることができる。添加剤の割合は特に制限されず、適宜調節することが可能である。
【0028】
<プロピレン系重合体組成物(A)の物性>
組成物(A)は、230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)が、通常は10~100g/10分、好ましくは10~70g/10分、より好ましくは10~50g/10分の範囲にある。組成物(A)のMFRが上記範囲にあると、射出成形性、得られる射出成形体の耐衝撃性が優れる。
【0029】
組成物(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された分子量分布曲線で囲まれる領域の全面積に占める、分子量150万以上の高分子量領域の面積割合(分子量150万以上の高分子量成分の質量割合に相当する)が、好ましくは2.0~7.0%、より好ましくは2.5~7.0%、さらに好ましくは3.0~7.0%である。前記高分子量領域の面積割合が特定の割合以上を占めているということは、プロピレン系重合体組成物中に分子量150万以上の高分子量成分が含有されていることを意味している。この高分子量成分の少なくとも一部は極限粘度[η]が10~12dl/gの高分子量成分である。したがって、前記高分子量領域の面積割合が前記範囲であれば、得られる射出成形体の耐熱性および剛性がより優れる傾向にある。
【0030】
組成物(A)は、FE個数が、通常は100個以下、好ましくは70個以下、より好ましくは50個以下である。FE個数が100個を超えると、射出成形体の外観が不良となる場合がある。組成物(A)のFE個数を上記範囲内とすることで、外観が良好な射出成形体が得られる。
【0031】
FE個数は、以下の様にして測定される。プロピレン系重合体組成物から、25mmΦのTダイ製膜機で製膜した厚さ50μmのフィルムを得る。前記フィルムについて、フィッシュアイ(FE)カウンターを用いて100μm以上の大きさのFE個数を測定し、単位面積(3000cm2)当たりの個数に換算する。
【0032】
<プロピレン系重合体組成物(A)の製造方法>
プロピレン系重合体組成物(A)の製造方法としては、種々公知の製造方法が挙げられ、例えば、上記物性を満たすプロピレン系重合体(a1)およびプロピレン系重合体(a2)をそれぞれ製造した後、プロピレン系重合体(a1)とプロピレン系重合体(a2)とを上記範囲で混合または溶融混練してプロピレン系重合体組成物(A)を得る方法(1);上記物性を満たすプロピレン系重合体(a1)およびプロピレン系重合体(a2)を一つの重合系もしくは二つ以上の重合系で製造してプロピレン系重合体組成物(A)を得る方法(2)が挙げられる。
【0033】
方法(1)では、例えば、プロピレン系重合体(a1)、プロピレン系重合体(a2)および必要に応じて添加剤等をヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダーなどを用いて混合した後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを用いて溶融混練することによって、上記各成分が均一に分散混合された高品質のプロピレン系重合体組成物を得ることができる。溶融混練時の樹脂温度は、通常は180~280℃、好ましくは200~260℃である。
【0034】
方法(2)では、2段以上の多段重合により、相対的に高分子量のプロピレン系重合体(a1)および相対的に低分子量のプロピレン系重合体(a2)を含むプロピレン系重合体組成物を得ることができる。得られたプロピレン系重合体組成物に、必要に応じて添加剤を添加してもよく、また、得られたプロピレン系重合体組成物と、さらなるプロピレン系重合体(a1)および/またはプロピレン系重合体(a2)とを混合してもよい。前記重合体を混合する場合の溶融混練時の樹脂温度は、通常は180~280℃、好ましくは200~260℃である。
【0035】
組成物(A)の好ましい製造方法としては、前記方法(2)が挙げられ、例えば、高立体規則性ポリプロピレン製造用触媒の存在下に、プロピレンを単独で、またはプロピレンと他のモノマーとを併用して、2段以上の多段重合で重合させる方法が挙げられる。
【0036】
具体的には、第1段目の重合において、実質的に水素の非存在下で、プロピレン、またはプロピレンと炭素数2~8のα-オレフィンとを重合させて、極限粘度[η]が10~12dl/g、好ましくは10.5~11.5dl/gの相対的に高分子量のプロピレン系重合体(a1)を製造し、第2段目以降の重合において、相対的に低分子量のプロピレン系重合体(a2)を製造する。
【0037】
第2段目以降の重合において製造される、相対的に低分子量のプロピレン系重合体(a2)の極限粘度[η]は、0.5~3.5dl/g、好ましくは0.6~3.0dl/g、より好ましくは0.8~3.0dl/gである。なお、この極限粘度[η]は、その段単独で製造されるプロピレン系重合体の極限粘度[η]であり、その段の前段までのプロピレン系重合体を含む組成物全体の極限粘度[η]ではない。
【0038】
また、第2段目以降の重合において、最終的に得られる組成物(A)のMFRが通常は10~100g/10分、好ましくは10~70g/10分、より好ましくは10~50g/10分となるように調整する。
第2段目以降で製造するプロピレン系重合体の極限粘度[η]の調整方法は特に制限されないが、分子量調整剤として水素を使用する方法が好ましい。
【0039】
プロピレン系重合体(a1)とプロピレン系重合体(a2)の製造順序(重合順序)としては、第1段目で、実質的に水素の非存在下で相対的に高分子量のプロピレン系重合体(a1)を製造した後、第2段目以降で、例えば水素の存在下で相対的に低分子量のプロピレン系重合体(a2)を製造することが好ましい。製造順序を逆にすることもできるが、第1段目で相対的に低分子量のプロピレン系重合体(a2)を製造した後、第2段目以降で相対的に高分子量のプロピレン系重合体(a1)を製造するためには、第1段目の反応生成物中に含まれる水素などの分子量調整剤を、第2段目以降の重合開始前に限りなく除去する必要があるため、重合装置が複雑になり、また第2段目以降の極限粘度[η]が上がりにくい。
【0040】
多段重合における各段の重合は、連続的に行うこともできるし、バッチ式で行うこともできるが、バッチ式で行うことが好ましい。プロピレン系重合体組成物を連続多段重合方法によって製造する場合、滞留時間分布によって重合粒子間の組成ムラが生じ、FE個数がより増加することがあるからである。バッチ式で重合することにより、FE個数の少ないプロピレン系重合体組成物を得ることができる。
【0041】
組成物(A)は、一実施態様において、プロピレン系重合体(a1)に該当する重合体およびプロピレン系重合体(a2)に該当する重合体(以下「プロピレン系重合体(a2’)」ともいう。)を多段重合により製造して得られた重合体混合物と、プロピレン系重合体(a2)に該当する重合体(以下「プロピレン系重合体(a2”)」ともいう。)とを混合して得ることができる。ここで、プロピレン系重合体(a2”)は、プロピレン系重合体(a2’)とは異なる重合体であることが好ましい。
【0042】
本発明では、多段重合により得られた前記重合体混合物を、プロピレン系重合体(a2’)とは異なるプロピレン系重合体(a2”)に配合することにより得られたプロピレン系重合体組成物からなる射出成形体が好ましい。前記重合体混合物は、通常は特定の範囲に二峰性の分子量分布を有する。この重合体混合物を改質材として、基材としてのプロピレン系重合体(a2”)に配合することで、高分子量成分であるプロピレン系重合体(a1)と基材であるプロピレン系重合体(a2”)との相溶性が高くなる傾向にある。したがって、プロピレン系重合体(a1)が射出成形体においてブツの発生や表面光沢の悪化といった外観不良を起こさず、射出成形体の耐熱性および剛性をより向上させる傾向にある。
【0043】
プロピレン系重合体(a2”)は、得られる組成物が射出成形可能であれば特に限定はされず種々公知のプロピレン系重合体を用い得る。プロピレン系重合体(a2”)もプロピレン系重合体(a2)に該当するため、プロピレン系重合体(a2)として例示した重合体が挙げられる。プロピレン系重合体(a2”)は、その構造は特に制限はなく、例えば、プロピレンの単独重合体、ブロックタイプのプロピレン重合体(プロピレン単独重合体またはプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体と、非晶性または低結晶性のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体との混合物)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、ランダムブロックポリプロピレンが挙げられる。
【0044】
また、プロピレン系重合体(a2”)は、プロピレン系重合体を有機過酸化物存在下に溶融混練して得られた重合体であってもよい。
プロピレン系重合体(a2”)の、230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1~50g/10分、より好ましくは0.4~40g/10分の範囲にある。
【0045】
プロピレン系重合体(a1)およびプロピレン系重合体(a2’)を多段重合により製造して得られた重合体混合物と、プロピレン系重合体(a2”)とを混合して組成物(A)を得る場合は、得られる射出成形体の用途により、前記各成分は所望の配合量とすることができる。
【0046】
前記重合体混合物において、プロピレン系重合体(a1)の含有割合は20~50質量%であり、プロピレン系重合体(a2’)の含有割合は50~80質量%であることが好ましく、プロピレン系重合体(a1)の含有割合は25~45質量%であり、プロピレン系重合体(a2’)の含有割合は55~75質量%であることがより好ましい。
【0047】
前記重合体混合物およびプロピレン系重合体(a2”)の合計100質量部に対して、前記重合体混合物の配合量は、前記重合体混合物による改質効果を得る観点から、好ましくは1~20質量部であり、プロピレン系重合体(a2”)の配合量は、好ましくは80~99質量部である。
【0048】
組成物(A)の一実施態様では、プロピレン系重合体(a1)の含有割合は、0.2~8.0質量%の範囲にあり、プロピレン系重合体(a2’)の含有割合は、0.8~19.8質量%の範囲にあり、プロピレン系重合体(a2”)の含有割合は、80~99質量%の範囲にある〔但し、(a1)と(a2’)と(a2”)との合計量を100質量%とする。〕。
【0049】
≪製造条件≫
プロピレン系重合体(a1)およびプロピレン系重合体(a2)の製造において、プロピレンの単独重合、またはプロピレンと炭素数2~8のα-オレフィンとの重合は、スラリー重合、バルク重合など、公知の方法で行うことができる。また、後述するポリプロピレン製造用触媒を使用することが好ましい。
【0050】
プロピレン系重合体(a1)の製造条件としては、水素の非存在下で、原料モノマーを、重合温度として、好ましくは20~80℃、より好ましくは40~70℃、重合圧力として、一般に常圧~9.8MPa、好ましくは0.2~4.9MPaの条件下でバルク重合して製造することが好ましい。
【0051】
プロピレン系重合体(a2)の製造条件としては、原料モノマーを、重合温度として、好ましくは20~80℃、より好ましくは40~70℃、重合圧力として、一般に常圧~9.8MPa、好ましくは0.2~4.9MPa、分子量調節剤としての水素が存在する条件下で重合して製造することが好ましい。
【0052】
≪ポリプロピレン製造用触媒≫
プロピレン系重合体(a1)、プロピレン系重合体(a2)および組成物(A)の製造に使用することのできるポリプロピレン製造用触媒(以下、単に「触媒」ともいう。)は、例えば、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分と、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物触媒成分と、有機ケイ素化合物等の電子供与性化合物触媒成分とから形成することができるが、代表的なものとして、以下のような触媒成分が使用できる。
【0053】
(固体触媒成分)
固体触媒成分を構成する担体としては、金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン及び/又はハロゲン含有化合物とから得られる担体が好ましい。
【0054】
金属マグネシウムとしては、顆粒状、リボン状、粉末状等のマグネシウムを用いることができる。また、金属マグネシウムは、表面に酸化マグネシウム等の被覆が生成されていないものが好ましい。
【0055】
アルコールとしては、炭素数1~6の低級アルコールを用いることが好ましく、特に、エタノールを用いると、触媒性能の発現を著しく向上させる担体が得られる。アルコールの使用量は、金属マグネシウム1モルに対して、好ましくは2~100モル、より好ましくは5~50モルである。アルコールは1種または2種以上用いることができる。
【0056】
ハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、ヨウ素が好ましい。また、ハロゲン含有化合物としては、MgCl2、MgI2が好ましい。ハロゲン又はハロゲン含有化合物の使用量は、金属マグネシウム1グラム原子に対して、ハロゲン原子又はハロゲン含有化合物中のハロゲン原子が、通常は0.0001グラム原子以上、好ましくは0.0005グラム原子以上、さらに好ましくは、0.001グラム原子以上である。ハロゲンおよびハロゲン含有化合物はそれぞれ1種または2種以上用いることができる。
【0057】
金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン及び/又はハロゲン含有化合物とを反応させて、担体を得る方法としては、例えば、金属マグネシウムとアルコールとハロゲン及び/又はハロゲン含有化合物とを、還流下(例:約79℃)で水素ガスの発生が認められなくなるまで(通常20~30時間)反応させる方法が挙げられる。前記反応は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0058】
得られた担体を固体触媒成分の合成に用いる場合、乾燥させたものを用いてもよく、また濾別後ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄したものを用いてもよい。
得られた担体は粒状に近く、しかも粒径分布がシャープである。さらには、粒子一つ一つをとってみても、粒形度のばらつきは非常に小さい。この場合、下記の式(I)で表される球形度(S)が1.60未満、特に1.40未満であり、かつ下記の式(II)で表される粒径分布指数(P)が5.0未満、特に4.0未満であることが好ましい。
【0059】
S=(E1/E2)2・・・(I)
式(I)中、E1は粒子の投影の輪郭長を示し、E2は粒子の投影面積に等しい円の周長を示す。
【0060】
P=D90/D10・・・(II)
式(II)中、D90は質量累積分率が90%に対応する粒子径をいう。すなわち、D90で表される粒子径より小さい粒子群の質量和が全粒子総質量和の90%であることを示している。D10は質量累積分率が10%に対応する粒子径をいう。
【0061】
固体触媒成分は、通常、上記担体に少なくともチタン化合物を接触させて得られる。チタン化合物による接触は複数回に分けて行ってもよい。チタン化合物としては、例えば、一般式(III)で表されるチタン化合物が挙げられる。
【0062】
TiX1 n(OR14-n・・・(III)
式(III)中、X1はハロゲン原子であり、特に塩素原子が好ましく、R1は炭素数1~10の炭化水素基であり、直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、R1が複数存在する場合にはそれらは互いに同じでも異なってもよく、nは0~4の整数である。
【0063】
チタン化合物としては、具体的には、Ti(O-i-C374、Ti(O-C494、TiCl(O-C253、TiCl(O-i-C373、TiCl(O-C493、TiCl2(O-C492、TiCl2(O-i-C372、TiCl4が挙げられ、TiCl4が好ましい。
チタン化合物は1種または2種以上用いることができる。
【0064】
固体触媒成分は、通常、上記担体にさらに電子供与性化合物を接触させて得られる。電子供与性化合物としては、例えば、フタル酸ジ-n-ブチルが挙げられる。電子供与性化合物は1種または2種以上用いることができる。
【0065】
上記担体にチタン化合物と電子供与性化合物とを接触させる際に、四塩化ケイ素等のハロゲン含有ケイ素化合物を接触させることができる。ハロゲン含有ケイ素化合物は1種または2種以上用いることができる。
【0066】
固体触媒成分は、公知の方法で調製することができる。例えば、ペンタン、ヘキサン、ペプタンまたはオクタン等の不活性炭化水素を溶媒として用い、前記溶媒に、上記の担体、電子供与性化合物およびハロゲン含有ケイ素化合物を投入し、攪拌しながらチタン化合物を投入する方法が挙げられる。通常は、マグネシウム原子換算で担体1モルに対して電子供与性化合物は、0.01~10モル、好ましくは0.05~5モルを加え、また、マグネシウム原子換算で担体1モルに対してチタン化合物は、1~50モル、好ましくは2~20モルを加え、0~200℃にて、5分~10時間の条件、好ましくは30~150℃にて30分~5時間の条件で接触反応を行えばよい。反応終了後は、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の不活性炭化水素を用いて、生成した固体触媒成分を洗浄することが好ましい。
【0067】
また、固体触媒成分は、液状マグネシウム化合物と液状チタン化合物とを、電子供与性化合物の存在下に接触させて得られる成分であってもよい。液状チタン化合物による接触は複数回に分けて行ってもよい。
【0068】
液状マグネシウム化合物は、例えば、公知のマグネシウム化合物およびアルコールを、好ましくは液状炭化水素媒体の存在下に接触させ、液状とすることにより得られる。マグネシウム化合物としては、例えば、塩化マグネシウム、臭化マグネシウムなどのハロゲン化マグネシウムが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキシルアルコールなどの脂肪族アルコールが挙げられる。液状炭化水素媒体としては、例えば、ヘプタン、オクタン、デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。液状マグネシウム化合物を調製する際のアルコールの使用量は、マグネシウム化合物1モルに対して、通常は1.0~25モル、好ましくは1.5~10モルである。液状マグネシウム化合物は1種または2種以上用いることができる。
【0069】
液状チタン化合物としては、前述した一般式(III)で表されるチタン化合物が挙げられる。液状マグネシウム化合物に含まれるマグネシウム原子(Mg)1モルに対する、液状チタン化合物の使用量は、通常は0.1~1000モル、好ましくは1~200モルである。液状チタン化合物は1種または2種以上用いることができる。
【0070】
電子供与性化合物としては、例えば、フタル酸エステル類等のジカルボン酸エステル化合物、無水フタル酸等の酸無水物、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン等の有機ケイ素化合物、ポリエーテル類、酸ハライド類、酸アミド類、ニトリル類、有機酸エステル類が挙げられる。液状マグネシウム化合物に含まれるマグネシウム原子(Mg)1モルに対する、電子供与性化合物の使用量は、通常は0.01~5モル、好ましくは0.1~1モルである。電子供与性化合物は1種または2種以上用いることができる。
接触させる際の温度は、通常は-70~200℃、好ましくは10~150℃である。
【0071】
(有機金属化合物触媒成分)
触媒成分の内、有機金属化合物触媒成分としては、有機アルミニウム化合物が好ましい。有機アルミニウム化合物としては、例えば、一般式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0072】
AlR2 n2 3-n・・・(IV)
式(IV)中、R2は炭素数1~10のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であり、X2はハロゲン原子またはアルコキシ基であり、塩素原子または臭素原子が好ましく、nは1~3の整数である。
【0073】
有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム化合物、ジエチルアルミニウムモノクロリド、ジイソブチルアルミニウムモノクロリド、ジエチルアルミニウムモノエトキシド、エチルアルミニウムセスキクロリドが挙げられる。
【0074】
有機アルミニウム化合物は1種または2種以上用いることができる。
有機金属化合物触媒成分の使用量は、固体触媒成分中のチタン原子1モルに対して、通常は0.01~20モル、好ましくは0.05~10モルである。
【0075】
(電子供与性化合物触媒成分)
触媒成分の内、重合系に供する電子供与性化合物成分としては、有機ケイ素化合物が好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、シクロヘキシルイソブチルジメトキシシランが挙げられる。
【0076】
有機ケイ素化合物は1種または2種以上用いることができる。
電子供与性化合物成分の使用量は、固体触媒成分中のチタン原子1モルに対して、通常は0.01~20モル、好ましくは0.1~5モルである。
【0077】
(前処理)
上記固体触媒成分は、予備重合等の前処理をしてから、重合に用いることが好ましい。例えば、ペンタン、ヘキサン、ペプタン、オクタン等の不活性炭化水素を溶媒として用い、前記溶媒に、上記の固体触媒成分、有機金属化合物触媒成分、および必要に応じて電子供与性化合物成分を投入し、攪拌しながら、プロピレンを供給し、反応させる。プロピレンは、大気圧よりも高いプロピレンの分圧下で供給し、0~100℃にて、0.1~24時間前処理することが好ましい。反応終了後は、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の不活性炭化水素を用いて、前処理したものを洗浄することが好ましい。
【0078】
[プロピレン系重合体組成物(A)からなる射出成形体]
本発明の射出成形体は、上述のプロピレン系重合体組成物(A)から形成される。
前記射出成形体としては、例えば、容器、家電部品が挙げられる。これらのなかでも、耐衝撃性および剛性の観点から、容器が好ましい。容器としては、例えば、洗髪剤、調髪剤、化粧品、洗剤、殺菌剤などの液体日用品用の包装容器;清涼飲料水、水、調味料などの液体用の食品包装容器;ゼリー、プリン、ヨーグルトなどの固体用の食品包装容器(例えば、デザートカップ);その他の薬品用の包装容器;工業用の液体用の包装容器が挙げられる。
【0079】
前記射出成形体は、これらのなかでも、製品外観に優れ、耐熱性や剛性が求められる食品包装容器(例えば、デザートカップ)として好適に用いることができる。例えば、耐熱性が高い容器を用いることで、食品の製造温度を上げることが可能となり、生産サイクルを向上できると考えられる。
【0080】
デザートカップ等の容器としては、容器胴体部(最も肉厚の薄い部分)の肉厚が0.3~2.0mmであることが好ましい。本発明の射出成形体は、このように薄肉化しても十分な剛性を有する。
【0081】
以下、本発明の射出成形体を製造するための射出成形法について説明する。本発明の射出成形体は、例えば、プロピレン系重合体組成物(A)を溶融し、金型内にこの組成物(A)を射出成形することにより得られる。組成物(A)の溶融,射出温度は、通常は180~280℃の範囲である。
【0082】
射出成形の方法としては、例えば、射出成形機を用いた下記方法が挙げられる。まず、射出成形機のホッパー内にプロピレン系重合体組成物(A)を導入し、およそ200~260℃に加熱してあるシリンダーに前記組成物(A)を送り込み、混練可塑化して溶融状態にする。これをノズルから高圧高速で、冷却水または温水等により通常は5~50℃、好ましくは10~40℃に温調された、型締め機構にて閉じられている金型内に射出する。金型での冷却により、射出された前記組成物(A)を冷却固化させ、型締め機構にて金型を開き、成形体を得る。
【実施例
【0083】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、各例で得られた重合体、成形体の各種特性の測定、評価は、下記の通り行った。
【0084】
(1)製造例において、第1段目で得られたプロピレン系重合体(プロピレン系重合体(a1)に相当)および第2段目で得られたプロピレン系重合体(プロピレン系重合体(a2)に相当)の質量分率は、重合時に生じた反応熱の徐熱量から求めた。
【0085】
(2)極限粘度[η](dl/g)は、135℃、テトラリン溶媒中で測定した。なお、第2段目で得られたプロピレン系重合体(プロピレン系重合体(a2)に相当)の極限粘度[η]2は、下記式より計算した値である。
[η]2=([η]total×100-[η]1×W1)/W2
[η]total:プロピレン系重合体全体の極限粘度
[η]1:第1段目で得られたプロピレン系重合体の極限粘度
1:第1段目で得られたプロピレン系重合体の質量分率(%)
2:第2段目で得られたプロピレン系重合体の質量分率(%)
【0086】
(3)メルトフローレート(MFR)(g/10分)は、JIS-K7210に準拠し、測定温度230℃、荷重2.16kgf(21.2N)にて測定した。
【0087】
(4)分子量150万以上の高分子量領域の面積割合は、下記の装置および条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定された分子量分布曲線(具体的には、分子量分布曲線および横軸)で囲まれる領域の全面積に占める、分子量150万以上の高分子量領域の面積割合である。ここで、横軸:分子量(対数値)、縦軸:dw/dLog(M)[w:積算質量分率、M:分子量]とする。
【0088】
GPC測定装置
ゲル浸透クロマトグラフ Alliance GPC 2000 型(Waters社製)
解析装置
データ処理ソフトEmpower 3(Waters社製)
測定条件
カラム:TSKgel GMH6-HT×2 + TSKgel GMH6-HTL×2
(いずれも7.5mmI.D.x30cm, 東ソー社製)
カラム温度:140℃
移動相:o-ジクロロベンゼン(0.025%BHT含有)
検出器:示差屈折計
流量:1.0mL/min
試料濃度:0.025 %(w/v)
注入量:0.4mL
サンプリング時間間隔:0.5s
カラム校正:単分散ポリスチレン(東ソー社製)
分子量換算:PP換算/汎用校正法(PS(ポリスチレン)の粘度換算係数KPS=0.000138dl/g、
αPS=0.700、PP(ポリプロピレン)の粘度換算係数KPP=0.000242dl/g、αPP=0.707)
【0089】
(5)FE個数
(株)プラスチック工学研究所製の25mmΦのTダイ製膜機で作成した厚さ50μmのフィルムのFEの個数を、ジェルカウンターとして(株)ヒューテック製のフィッシュアイカウンター(商標)を用いて測定した。ここで、100μm以上の大きさのFEを計測した。測定数を、フィルム単位面積(3000cm2)あたりのFE個数として示した。
【0090】
フィルム作成条件は次の通りである。
Tダイ製膜機:(株)プラスチック工学研究所製
型式:GT-25-A
スクリュー直径:25mm、L/D=24
スクリュー回転数:60rpm
シリンダー温度設定:C1=230℃、C2=260℃
ヘッド温度設定:260℃
Tダイ温度設定:D1~D3=260℃
Tダイ幅:230mm,リップ開度=1mm
フィルム巻取速度:4m/s
ロール温度:65℃
ジェルカウンターの測定条件は次の通りである。
装置構成
・受光器(4096画素)
・投光器
・信号処理装置
・パルスジェネレーター
・装置間ケーブル
【0091】
(6)引張弾性率および引張降伏応力(MPa)は、実施例および比較例で得られたペレットからJIS K6921に基づき試験片を作製し、JIS K7161の方法に従い測定した。
【0092】
(7)シャルピー衝撃強さは、JIS K7111(23℃)の方法に従い測定した。
(8)荷重たわみ温度は、JIS K7191(0.45MPa)の方法に従い測定した。
(9)表面光沢は、JIS Z8741の方法に従い測定した。
【0093】
(10)0.7mmt食品カップ成形
プロピレン系重合体組成物のペレットを用いて、以下の方法で容器を成形した。型締め力100トンの電動射出成形機(ファナック社製ロボショットS-2000i-100B)を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度20℃、射出1次圧力120MPa、射出速度120mm/sec、保圧圧力50MPa、保圧時間1.0secの条件で、プロピレン系重合体組成物のペレットを射出成形し、高さ62mm、直径86mm、側面肉厚0.7mmの容器(食品カップ)を得た。
【0094】
以下の基準にて目視により容器外観を判定した。
○:蛍光灯の光を透過したとき、異物を視認できない。
×:蛍光灯の光を透過したとき、明らかに異物が散見される、
もしくは大きな異物がある。
【0095】
〔製造例1〕
(1)マグネシウム化合物の調製
攪拌機付き反応槽(内容積500リットル)を窒素ガスで充分に置換し、エタノール97.2kg、ヨウ素640g、および金属マグネシウム6.4kgを投入し、攪拌しながら還流条件下で系内から水素ガスの発生が無くなるまで反応させ、固体状反応生成物を得た。この固体状反応生成物を含む反応液を減圧乾燥させることにより目的のマグネシウム化合物(固体触媒成分の担体)を得た。
【0096】
(2)固体状チタン触媒成分の調製
窒素ガスで充分に置換した撹拌機付き反応槽(内容積500リットル)に、前記マグネシウム化合物(粉砕していないもの)30kg、精製ヘプタン(n-ヘプタン)150リットル、四塩化ケイ素4.5リットル、およびフタル酸ジ-n-ブチル5.4リットルを加えた。系内を90℃に保ち、攪拌しながら四塩化チタン144リットルを投入して110℃で2時間反応させた後、固体成分を分離して80℃の精製ヘプタンで洗浄した。さらに、四塩化チタン228リットルを加え、110℃で2時間反応させた後、精製ヘプタンで充分に洗浄し、固体状チタン触媒成分を得た。
【0097】
(3)前重合触媒の製造
ヘプタン200mL中にトリエチルアルミニウム10mmol、ジシクロペンチルジメトキシシラン2mmol、および前記(2)で得られた固体状チタン触媒成分をチタン原子換算で1mmol添加した。内温を20℃に保持し、攪拌しながらプロピレンを連続的に導入した。60分後、攪拌を停止し、結果的に固体状チタン触媒成分1gあたり4.0gのプロピレンが重合した前重合触媒スラリーを得た。
【0098】
(4)本重合
600リットルのオートクレーブ中にプロピレン336リットルを装入し、60℃に昇温した。その後、トリエチルアルミニウム8.7mL、ジシクロペンチルジメトキシシラン11.4mL、前記(3)で得られた前重合触媒スラリーを固体状チタン触媒成分として2.9gを装入して重合を開始した。重合開始より83分後に、10分間かけて45℃まで降温した(第1段目の重合終了)。
【0099】
第1段目と同様の条件にて重合したプロピレン系重合体(a1-1)の極限粘度[η]は11dl/gであった。
降温後、圧力が3.3MPaGで一定となるよう水素を連続的に投入し、112分間重合を行った。次いでベントバルブを開け、未反応のプロピレンを、積算流量計を経由させてパージした(第2段目の重合終了)。
【0100】
こうして、35.3kgのパウダー状のプロピレン系重合体を得た。それぞれ物質収支から算出した、最終的に得られたプロピレン系重合体に占める第1段目の重合で生成したプロピレン系重合体(a1-1)の割合は38質量%、第2段目の重合で生成したプロピレン系重合体(a2’-1)の割合は62質量%、極限粘度[η]は0.89dl/gであった。
【0101】
このプロピレン系重合体に、酸化防止剤として、イルガノックス1010(BASF社製)2000ppm、イルガホス168(BASF社製)2000ppm、サンドスタブP-EPQ(クラリアントジャパン社製)1000ppm、中和剤として、ステアリン酸カルシウム1000ppmを添加し、東芝機械株式会社製の二軸押出機(TEM35BS)を用いて溶融混練し、ペレット状のプロピレン系重合体を得た。このようにして最終的に得られたプロピレン系重合体のMFRは0.2g/10分であった。
【0102】
〔J106MG〕
プライムポリマー社製:商品名「J106MG」、プロピレンホモポリマー、
極限粘度[η]=1.4dl/g
【0103】
〔J137PG〕
商品名「J137G」(プライムポリマー社製:プロピレンホモポリマー、極限粘度[η]=1.2dl/g)に対し、核剤としてNA-11(ADEKA社製)1000ppmを添加し、東芝機械株式会社製の二軸押出機(TEM35BS)を用いて溶融混練し、ペレット状のプロピレン系重合体を得た。このようにして最終的に得られたプロピレン系重合体のMFRは33g/10分であった。
【0104】
〔VP103W〕
プライムポリマー社製:商品名「VP103W」
極限粘度[η]=8dl/gのプロピレンホモポリマー、成分量=20質量%
極限粘度[η]=1.4dl/gのプロピレンホモポリマー、成分量=80質量%、
全体の極限粘度[η]=2.8dl/g
【0105】
[実施例1]
製造例1において得られたプロピレン系重合体と、J106MGとを5:95の質量比で配合し、これら樹脂の合計100質量部を東芝機械株式会社製の二軸押出機(TEM35BS)を用いて、樹脂温度203℃で溶融混練することで重合体組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いて、前記成形条件で容器を得た。
【0106】
[実施例2~4、比較例2、4]
配合組成を表1および表2に記載したとおりに変更したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0107】
[比較例1、3]
J106MGまたはJ137PGを用いて、前記成形条件で容器を得た。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】