(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/14 20060101AFI20231227BHJP
F16H 59/46 20060101ALI20231227BHJP
F16H 63/46 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F16H61/14 601Q
F16H61/14 601J
F16H59/46
F16H63/46
(21)【出願番号】P 2019151940
(22)【出願日】2019-08-22
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】飯泉 岳大
(72)【発明者】
【氏名】川口 英真
(72)【発明者】
【氏名】内田 健次
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023495(JP,A)
【文献】特開2012-241745(JP,A)
【文献】特開2018-128030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/24,61/38-61/70,
63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータを有する車両の制御装置であって、
前記トルクコンバータの入力要素の回転速度と、前記トルクコンバータの出力要素の回転速度と、前記トルクコンバータの前記入力要素に入力されるトルクと、に基づき、前記トルクコンバータのロックアップクラッチを解放状態へ遷移させる際の前記ロックアップクラッチのトルク容量が
ゼロと同等であるとみなすことができるタイミングにおける前記ロックアップクラッチに供給される油圧の指示圧を学習する制御部を有する、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記制御部は、駆動輪が停止しており且つ前記駆動輪と前記トルクコンバータとが動力伝達状態となっているときに、前記ロックアップクラッチをスリップ状態から前記解放状態に向けて遷移させていくことにより前記学習を行う、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
トルクコンバータを有する車両の制御方法であって、
前記トルクコンバータの入力要素の回転速度と、前記トルクコンバータの出力要素の回転速度と、前記トルクコンバータの前記入力要素に入力されるトルクと、に基づき、前記トルクコンバータのロックアップクラッチを解除状態へ遷移させる際の前記ロックアップクラッチのトルク容量が
ゼロと同等であるとみなすことができるタイミングにおける前記ロックアップクラッチに供給される油圧の指示圧を学習する、
ことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タービン回転速度とエンジン回転速度との比である回転速度比に基づいて、ロックアップクラッチの完全締結点及び開放始点を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロックアップクラッチの締結状態を解除するにあたり、例えばアクセルペダルがオフであるコースト走行状態からの再加速レスポンスを高めることを目的として、ロックアップクラッチを完全に解放(入出力プレート非接触)させるのではなく、入出力プレートが接触するものの伝達トルク容量はゼロとなるゼロ点で待機させることが考えられる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術はタービン回転速度とエンジン回転速度とのみを考慮するものであることから、ロックアップクラッチがゼロ点となる油圧(ゼロ点油圧)を検出することは困難であり、ロックアップクラッチをゼロ点で待機させることができない。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、ロックアップクラッチの締結状態を解除するにあたり、ロックアップクラッチをゼロ点で待機させることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、トルクコンバータを有する車両の制御装置であって、前記トルクコンバータの入力要素の回転速度と、前記トルクコンバータの出力要素の回転速度と、前記トルクコンバータの前記入力要素に入力されるトルクと、に基づき、前記トルクコンバータのロックアップクラッチを解放状態へ遷移させる際の前記ロックアップクラッチのトルク容量がゼロと同等であるとみなすことができるタイミングにおける前記ロックアップクラッチに供給される油圧の指示圧を学習する制御部を有する、ことを特徴とする車両の制御装置が提供される。
【0008】
また、本発明の別の態様によれば、これに対応する車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様によれば、トルクコンバータの入力要素に入力されるトルクを考慮することで、ロックアップクラッチの推定トルク容量を演算により求めることができる。よって、ロックアップクラッチが締結から解放へ向かう途中で推定トルク容量がゼロになるタイミングの油圧をゼロ点油圧として学習できるので、ロックアップクラッチの締結状態を解除するにあたり、ロックアップクラッチをゼロ点で待機させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る制御装置が適用された車両の概略構成図である。
【
図2】学習処理の内容を示すフローチャートである。
【
図3】学習処理が実行される様子を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、車両100の概略構成図である。車両100は、エンジン1と、エンジン1と接続される自動変速機3と、オイルポンプ5と、駆動輪6と、制御装置としてのコントローラ10と、を備える。
【0013】
エンジン1は、ガソリン、軽油等を燃料とする内燃機関であり、走行用駆動源として機能する。エンジン1は、コントローラ10からの指令に基づいて、回転速度、トルク等が制御される。
【0014】
自動変速機3は、トルクコンバータ2と、締結要素31と、バリエータ30と、油圧コントロールバルブユニット40(以下では、単に「バルブユニット40」ともいう。)と、作動油を貯留するオイルパン32と、を備える。
【0015】
トルクコンバータ2は、エンジン1と駆動輪6との間の動力伝達経路上に設けられる。トルクコンバータ2は、流体を介して動力を伝達する。また、トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチ2aを有する。ロックアップクラッチ2aが締結されると、トルクコンバータ2の入力要素としての入力軸2bと出力要素としての出力軸2cとが直結し、入力軸2bと出力軸2cとが同速回転する。
【0016】
締結要素31は、トルクコンバータ2とバリエータ30との間の動力伝達経路上に配置される。締結要素31は、図示しない前進クラッチ及び後進ブレーキを備える。締結要素31は、コントローラ10からの指令に基づき、オイルポンプ5の吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧された作動油によって制御される。締結要素31としては、例えば、ノーマルオープンの湿式多板クラッチが用いられる。
【0017】
バリエータ30は、締結要素31と駆動輪6との間の動力伝達経路上に配置され、車速やアクセルペダル開度等に応じて変速比を無段階に変更する。バリエータ30は、プライマリプーリ30aと、セカンダリプーリ30bと、両プーリ30a,30bに巻き掛けられたベルト30cと、を備える。プーリ圧によりプライマリプーリ30aの可動プーリとセカンダリプーリ30bの可動プーリとを軸方向に動かし、ベルト30cのプーリ接触半径を変化させることで、変速比を無段階に変更する。なお、プライマリプーリ30aに作用するプーリ圧及びセカンダリプーリ30bに作用するプーリ圧は、オイルポンプ5からの吐出圧を元圧としてバルブユニット40によって調圧される。なお、バリエータ30は、トロイダル式の無段変速機構であってもよく、有段の自動変速機構であってもよい。
【0018】
バリエータ30のセカンダリプーリ30bの出力軸には、図示しない終減速ギヤ機構を介してディファレンシャル12が接続される。ディファレンシャル12には、ドライブシャフト13を介して駆動輪6が接続される。
【0019】
オイルポンプ5は、エンジン1の回転がベルトを介して伝達されることによって駆動される。オイルポンプ5は、例えばベーンポンプによって構成される。オイルポンプ5は、オイルパン32に貯留される作動油を吸い上げ、バルブユニット40に作動油を供給する。バルブユニット40に供給された作動油は、各プーリ30a,30bの駆動や、締結要素31の駆動、自動変速機3の各要素の潤滑などに用いられる。
【0020】
コントローラ10は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ10は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。具体的には、コントローラ10は、自動変速機3を制御するATCU、シフトレンジを制御するSCU、エンジン1の制御を行うECU等によって構成することもできる。
【0021】
コントローラ10には、エンジン1の回転速度Ne(=トルクコンバータ2の入力軸2bの回転速度(ポンプ回転速度))を検出する第1回転速度センサ51、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度(タービン回転速度)Ntを検出する第2回転速度センサ52、締結要素31の出力回転速度(=プライマリプーリ30aの回転速度)を検出する第3回転速度センサ53、セカンダリプーリ30bの回転速度を検出する第4回転速度センサ54、車速を検出する車速センサ55、バリエータ30のセレクトレンジ(前進レンジ、後進レンジ、ニュートラルレンジ及びパーキングレンジを切り替えるセレクトレバー又はセレクトスイッチの状態)を検出するインヒビタスイッチ56、アクセルペダル開度を検出するアクセル開度センサ57、ブレーキの踏力を検出する踏力センサ58、等からの信号が入力される。コントローラ10は、入力されるこれら信号に基づき、エンジン1及び自動変速機3の各種動作を制御する。
【0022】
ところで、ロックアップクラッチ2aの締結状態を解除するにあたり、例えばアクセルペダルがオフであるコースト走行状態からの再加速レスポンスを高めることを目的として、ロックアップクラッチ2aを完全に解放(入出力プレート非接触)させるのではなく、入出力プレートが接触するものの伝達トルク容量はゼロとなるゼロ点で待機させることが考えられる。
【0023】
しかしながら、ロックアップクラッチ2aがゼロ点となる油圧(ゼロ点油圧)は、車両毎にばらつきがあり、また、ロックアップクラッチ2aの摩耗度合い等によっても変化する。よって、ロックアップクラッチ2aの諸元等に基づいてゼロ点油圧を予め設定することが難しい。
【0024】
そこで、本実施形態では、コントローラ10の制御部は、ロックアップクラッチ2aの推定トルク容量TLUを演算し、演算結果に基づいてロックアップクラッチ2aのゼロ点油圧を学習する学習処理を実行するようになっている。なお、本実施形態における制御部とは、コントローラ10の学習処理を実行する機能を仮想的なユニットとしたものである。
【0025】
以下、コントローラ10が実行する学習処理について、
図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0026】
ステップS11では、コントローラ10は、セレクトレンジが前進レンジ且つ車両100が停車中か判定する。
【0027】
コントローラ10は、セレクトレンジが前進レンジ且つ車両100が停車中であると判定すると、処理をステップS12に移行する。また、コントローラ10は、セレクトレンジが前進レンジ且つ車両100が停車中でないと判定すると、ステップS11の処理を繰り返し行う。
【0028】
ステップS12では、コントローラ10は、ブレーキONか判定する。
【0029】
コントローラ10は、ブレーキONであると判定すると、処理をステップS13に移行する。また、コントローラ10は、ブレーキONでないと判定すると、ステップS11に戻って処理を繰り返し行う。
【0030】
ステップS13では、コントローラ10は、エンジン1の回転速度Neが安定しているか判定する。
【0031】
コントローラ10は、エンジン1の回転速度Neが安定していると判定すると、処理をステップS14に移行する。また、コントローラ10は、エンジン1の回転速度Neが安定していないと判定すると、ステップS13の処理を繰り返し行う。
【0032】
エンジン1の回転速度Neが不安低な状態で推定トルク容量TLUを演算すると、回転速度Neの変動の影響を受けて推定トルク容量TLUの演算結果も変動することになる。よって、エンジン1の回転速度Neが安定していることを、ステップS14に処理を進める要件としている。
【0033】
ステップS14では、コントローラ10は、ロックアップクラッチ2aに供給される油圧の指示圧(以下、LU指示圧という。)を第1所定圧まで上昇させる。
【0034】
第1所定圧は、ロックアップクラッチ2aの入出力プレートが接触しない範囲でロックアップクラッチ2aのピストンを締結側に移動させるLU指示圧であり、ロックアップクラッチ2aの諸元や実験結果等により予め設定される。
【0035】
ステップS15では、コントローラ10は、LU指示圧を徐々に上昇させる。
【0036】
ステップS16では、コントローラ10は、ロックアップクラッチ2aの推定トルク容量TLUを演算し、演算した推定トルク容量TLUが第1所定値以上になったか判定する。第1所定値は、「0」よりもわずかに大きく、ロックアップクラッチ2aのトルク容量がゼロと同等であると見做すことができる値とされる。例えば、5[N・m]である。
【0037】
推定トルク容量TLUは、エンジン1のトルクTENGとτNe2との差で求められる。τは、トルクコンバータ2の諸元とトルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Ntから求められるトルクコンバータ2の容量係数である。また、エンジン1のトルクTENGとしては、エンジントルク信号を用いることができる。
【0038】
これは、ロックアップクラッチ2aが解除状態では、TENG=τNe2が成り立つからである。つまり、ロックアップクラッチ2aが解除状態ではTLU=0であり、実際には、TENG=τNe2+TLUである。よって、TLU=TENG-τNe2となる。
【0039】
ロックアップクラッチ2aを解放状態から締結状態に向けて遷移させる過程では、演算した推定トルク容量TLUが第1所定値以上になったタイミングで、ロックアップクラッチ2aがゼロ点になったと考えられる。つまり、演算した推定トルク容量TLUが第1所定値以上になったタイミングにおけるLU指示圧が、ロックアップクラッチ2aをゼロ点にするためのLU指示圧である。
【0040】
コントローラ10は、演算した推定トルク容量TLUが第1所定値以上になったと判定すると、処理をステップS17に移行する。また、コントローラ10は、演算した推定トルク容量TLUが第1所定値以上になっていないと判定すると、ステップS15に戻って処理を繰り返し行う。
【0041】
ステップS17では、コントローラ10は、演算した推定トルク容量TLUが第1所定値以上になったタイミングにおけるLU指示圧を、第1ゼロ点油圧として学習する。
【0042】
ステップS18では、コントローラ10は、LU指示圧を第2所定圧まで徐々に上昇させる。
【0043】
第2所定圧は、ロックアップクラッチ2aがスリップ状態となる位置にロックアップクラッチ2aのピストンを移動させるLU指示圧であり、ロックアップクラッチ2aの諸元や実験結果等により予め設定される。
【0044】
ステップS19では、コントローラ10は、LU指示圧を第2指示圧にした状態で所定時間待機する。
【0045】
ステップS20では、コントローラ10は、LU指示圧を徐々に低下させる。
【0046】
ステップS21では、コントローラ10は、ロックアップクラッチ2aの推定トルク容量TLUを演算し、演算した推定トルク容量TLUが第2所定値以下になったか判定する。第2所定値は、第1所定値と同様に、「0」よりもわずかに大きく、ロックアップクラッチ2aのトルク容量がゼロと同等であると見做すことができる値とすることができる。例えば、5[N・m]である。また、第2所定値は、「0」であってもよい。
【0047】
ロックアップクラッチ2aをスリップ状態から解放状態に向けて遷移させる過程では、演算した推定トルク容量TLUが第2所定値以下になったタイミングで、ロックアップクラッチ2aがゼロ点になったと考えられる。つまり、演算した推定トルク容量TLUが第2所定値以下になったタイミングにおけるLU指示圧が、ロックアップクラッチ2aをゼロ点にするためのLU指示圧である。
【0048】
コントローラ10は、演算した推定トルク容量TLUが第2所定値以下になったと判定すると、処理をステップS22に移行する。また、コントローラ10は、演算した推定トルク容量TLUが第2所定値以下になっていないと判定すると、ステップS20に戻って処理を繰り返し行う。
【0049】
ステップS22では、コントローラ10は、演算した推定トルク容量TLUが第2所定値以下になったタイミングにおけるLU指示圧を、第2ゼロ点油圧として学習する。
【0050】
ステップS23では、コントローラ10は、LU指示圧を低下させてロックアップクラッチ2aを完全に解放する。
【0051】
以上のように、本実施形態では、コントローラ10は、エンジン1の回転速度Ne(=トルクコンバータ2の入力軸2bの回転速度)と、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Ntと、トルクコンバータ2の入力軸2bに入力されるトルクであるエンジン1のトルクTENGと、に基づいて、推定トルク容量TLUを演算する。
【0052】
そして、ロックアップクラッチ2aを解放状態から締結状態に向けて遷移させるとともに、演算した推定トルク容量TLUが第1所定値以上になったタイミングにおけるLU指示圧を、ロックアップクラッチ2aをゼロ点にするための第1ゼロ点油圧として学習する。
【0053】
また、ロックアップクラッチ2aをスリップ状態から解放状態に向けて遷移させるとともに、演算した推定トルク容量TLUが第2所定値以下になったタイミングにおけるLU指示圧を、ロックアップクラッチ2aをゼロ点にするための第2ゼロ点油圧として学習する。
【0054】
第1ゼロ点油圧と第2ゼロ点油圧とをそれぞれ学習するのは、ロックアップクラッチ2aを作動させる際のソレノイドバルブのヒステリシスや応答遅れ等の影響により、ロックアップクラッチ2aを解放状態から締結状態に向けて遷移させる場合のゼロ点油圧と、ロックアップクラッチ2aを締結状態から解放状態に向けて遷移させる場合のゼロ点油圧とが異なるからである。
【0055】
つまり、本実施形態では、学習処理により学習した第2ゼロ点油圧を用いることで、ロックアップクラッチ2aの締結状態を解除するにあたり、ロックアップクラッチ2aをゼロ点で待機させることができるようになっている。
【0056】
また、本実施形態では、セレクトレンジが前進レンジ且つ車両100が停車中に第1ゼロ点油圧及び第2ゼロ点油圧を学習している。これは、車両100が停車していることで安定的な状態で学習を実行できるからである。また、前進レンジが選択されている状態、つまり、駆動輪6とトルクコンバータ2とが動力伝達状態となっている状態に学習を行うようにすることで、学習機会を増やすことができる。
【0057】
ただし、駆動輪6とトルクコンバータ2とが動力伝達状態となっている停車中にロックアップクラッチ2aを完全に締結すると、エンジン1のストールが生じることになる。よって、第2所定圧を設定することで学習処理の実行中はロックアップクラッチ2aの完全締結を禁止し、スリップ状態から解放状態に向けて遷移させて第2ゼロ点油圧を学習している。
【0058】
なお、ステップS19では、コントローラ10は、LU指示圧を第2指示圧にした状態で所定時間待機している。これは、車両100の状態が安定するまでの待機時間である。しかしながら、ステップS19の処理は省略してもよい。
【0059】
続いて、
図3に示すタイムチャートを参照しながら、学習処理が実行される様子について説明する。
【0060】
時刻t1でセレクトレンジがニュートラルレンジから前進レンジに変更されると、締結要素31の前進クラッチが締結され、駆動輪6とトルクコンバータ2とが動力伝達状態となる。これにより、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Ntが低下する。また、トルクコンバータ2の負荷によりエンジン1の回転速度Neが一時的に低下する。
【0061】
時刻t2でエンジン1の回転速度Neが安定したと判定されると、LU指示圧が第1所定圧になる。
【0062】
その後、LU指示圧が徐々に上昇し、ロックアップクラッチ2aに供給される油圧の実圧(以下、LU実圧という。)も上昇していく。
【0063】
時刻t3で推定トルク容量TLUが第1所定値以上となる。コントローラ10は、このタイミングにおけるLU指示圧を、第1ゼロ点油圧として学習する。
【0064】
その後、LU指示圧が徐々に上昇し、時刻t4で第2所定圧となる。
【0065】
待機時間が経過すると(時刻t5)、LU指示圧が徐々に低下し、LU実圧も低下していく。
【0066】
時刻t6で推定トルク容量TLUが第2所定値以下となる。コントローラ10は、このタイミングにおけるLU指示圧を、第2ゼロ点油圧として学習する。
【0067】
時刻t7でLU指示圧が低下し、ロックアップクラッチ2aが完全に解放される。
【0068】
上述したように、ロックアップクラッチ2aを作動させる際のソレノイドバルブのヒステリシスや応答遅れ等の影響により、第1ゼロ点油圧と第2ゼロ点油圧とは異なる。具体的には、
図3に示すように、第2ゼロ点油圧は、第1ゼロ点油圧よりも低い油圧となる。よって、ロックアップクラッチ2aを解除する際のゼロ点油圧として第1ゼロ点油圧を用いた場合は、ロックアップクラッチ2aがトルク容量過多となってしまい、ゼロ点にすることができない(時刻t6´参照)。
【0069】
以上述べたように、本実施形態では、コントローラ10は、トルクコンバータ2の入力軸2bの回転速度Neと、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Ntと、トルクコンバータ2の入力軸2bに入力されるトルクTENGと、に基づき、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ2aを解放状態へ遷移させる際の第2ゼロ点油圧を学習する。
【0070】
これによれば、トルクコンバータ2の入力軸2bに入力されるトルクTENGを考慮することで、ロックアップクラッチ2aの推定トルク容量TLUを演算により求めることができる。よって、ロックアップクラッチ2aが締結から解放へ向かう途中で推定トルク容量TLUがゼロになるタイミングの油圧を第2ゼロ点油圧として学習できるので、ロックアップクラッチ2aの締結状態を解除するにあたり、ロックアップクラッチ2aをゼロ点で待機させることができる。(請求項1、3に対応する効果)
【0071】
また、コントローラ10は、駆動輪6が停止しており且つ駆動輪6とトルクコンバータ2とが動力伝達状態となっているときに、ロックアップクラッチ2aをスリップ状態から解放状態に向けて遷移させていくことにより第2ゼロ点油圧の学習を行う。
【0072】
これによれば、車両100が停車しているので安定的な状態で学習を実行できる。また、駆動輪6とトルクコンバータ2とが動力伝達状態となっている状態(例えば、前進レンジが選択されている状態)で学習を行うようにすることで、学習機会を増やすことができる。また、ロックアップクラッチ2aを完全に締結せずに、スリップ状態から解放状態に向けて遷移させることで第2ゼロ点油圧を学習するので、駆動輪6とトルクコンバータ2とが動力伝達状態且つ車両100が停車中に第2ゼロ点油圧の学習を行っても、エンジン1のストールが生じることを防止できる。(請求項2に対応する効果)
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0074】
100 車両
2 トルクコンバータ
2a ロックアップクラッチ
2b 入力軸
2c 出力軸
6 駆動輪
10 コントローラ(制御装置、制御部)