(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】建方工法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/32 20060101AFI20231227BHJP
E04G 3/00 20060101ALI20231227BHJP
E04G 5/00 20060101ALI20231227BHJP
E04G 21/14 20060101ALI20231227BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
E04G21/32 A
E04G3/00 D
E04G3/00 J
E04G5/00 301E
E04G21/14
E04B1/35 L
(21)【出願番号】P 2019216315
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】小谷 翼
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】板東 良憲
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-162297(JP,A)
【文献】特開平08-120942(JP,A)
【文献】特開2016-211234(JP,A)
【文献】特開2014-141862(JP,A)
【文献】実開平01-046333(JP,U)
【文献】実開平4-52157(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/32
E04G 3/00
E04G 5/00
E04G 21/14
E04B 1/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周柱の建方を行った後、その外周柱の左右に外周梁を継ぐ前のタイミングで、前記外周柱と左右の前記外周梁との継手部位の外側をカバーするだけの左右方向の幅を有する柱側養生ユニットを前記外周柱に取り付けて前記外周柱に支持させ
、
前記柱側養生ユニットの左右に配置されて前記外周梁に取り付けられる梁側養生ユニットが備えられ、
前記柱側養生ユニットに作業床が備えられ、前記梁側養生ユニットに作業床が備えられておらず、
前記柱側養生ユニットと前記梁側養生ユニットとの間を塞ぐ飛散防止膜が備えられている建方工法。
【請求項2】
前記柱側養生ユニットの左右方向の幅は、前記外周柱を中心として左右対称に設定されている請求項1記載の建方工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁からなる架構を構築する建方工事を行うための建方工法に関する。
【背景技術】
【0002】
建方工事の建物外周側では、外周柱の建方を行った後、その外周柱の左右に外周梁を継ぐことにより複数の外周柱が外周梁で接続された架構が構築され、その後、隣地等に溶接火花やボルト等が飛散しないように架構の外側に垂直なネット等の飛散防止膜が取り付けられて飛散養生が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、外周柱の左右に外周梁を継ぐ際にも溶接火花やボルト等の飛散が全く生じないとは言えない。ちなみに、特許文献1には、隣接する2本の外周柱に支持されて飛散養生を行う養生兼用鉄骨建方足場を用いた建方工法が開示されているが、養生兼用鉄骨建方足場の取り付けのタイミングと、外周柱の左右に外周梁を継ぐタイミングとの関係については記載されていない。
【0005】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたものであって、その主たる課題は、外周柱と外周梁との継手部位の飛散養生を確実に行うことができる建方工法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、外周柱の建方を行った後、その外周柱の左右に外周梁を継ぐ前のタイミングで、前記外周柱と左右の前記外周梁との継手部位の外側をカバーするだけの左右方向の幅を有する柱側養生ユニットを前記外周柱に取り付けて前記外周柱に支持させ、
前記柱側養生ユニットの左右に配置されて前記外周梁に取り付けられる梁側養生ユニットが備えられ、
前記柱側養生ユニットに作業床が備えられ、前記梁側養生ユニットに作業床が備えられておらず、
前記柱側養生ユニットと前記梁側養生ユニットとの間を塞ぐ飛散防止膜が備えられている点にある。
【0007】
本構成によれば、外周柱の左右に外周梁を継ぐ前のタイミングで柱側養生ユニットを外周柱に支持させることができ、その外周柱と左右の外周梁との継手部位の飛散養生を確実に行うことができる。しかも、柱側養生ユニットの左右方向の幅は、1本の外周柱と左右の外周梁の継手部位をカバーするだけの幅であるので、柱側養生ユニットの小型化を図ることができ、取り付け作業の作業性も向上することができる。
更に、本構成によれば、柱側養生用ユニットに加えて、梁側養生ユニットを備えることで、外周梁での飛散養生も行うことができる。柱側養生ユニットに作業床が備えられているので、その作業床を利用して上下の外周柱の溶接等を行うことができ、溶接専用のコラムステージを不要とすることができる。梁側養生ユニットには作業床が備えられていないので、建物外周側からの突出量の小さい一層小型で軽量なユニットとすることができ、取り付け作業の作業性を向上することができる。そして、建物外周側からの突出量の異なる柱側養生ユニットと梁側養生ユニットとの間の隙間を飛散防止膜で塞ぐことで、建物外周側の飛散養生を一層確実に行うことができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記柱側養生ユニットの左右方向の幅は、前記外周柱を中心として左右対称に設定されている点にある。
【0009】
本構成によれば、柱側養生ユニットの左右方向の幅は、取り付けられる外周柱を中心として左右対称に設定されているので、1本の外周柱にバランス良く取り付けて1本の外周柱の左右の継手部位の飛散養生を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】(a)
図1のIIa-IIa線断面図、(b)
図1のIIb-IIb線断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る建方工法の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、この建方工法は、建築中の建物Bの外側(隣地側)に配置されて外周柱1に取り付けられる柱側養生ユニット10と、その柱側養生ユニット10の左右に配置されて外周梁2に取り付けられる梁側養生ユニット20とを使用し、溶接火花やボルト等の隣地等への飛散防止を図りながら、建物Bの架構を構築する工法である。
【0014】
図示例では、外周柱1が角型鋼管から複数階層分(本例では3層分)に亘る柱部材として構成され、外周梁2がH型鋼から構成される場合を示している。複数階層分に亘る外周柱1の各階層仕口部の側面に一体的に突出形成されたH型鋼からなる梁ブラケット1Dに外周梁2を継いで建物Bの架構が構築される。外周柱1の梁ブラケット1Dと外周梁2の接合部位が、外周柱1と外周梁2の継手部位3となる。
以下、柱側養生ユニット10、梁側養生ユニット20、建方工法の施工手順について説明を加える。
【0015】
まず、柱側養生ユニット10及び梁側養生ユニット20について説明する。
柱側養生ユニット10は、
図1~
図4に示すように、外周柱1の高さ寸法に対応して複数階層分(本例では3階層分)の外周柱1の外側をカバーするだけの高さ寸法(
図2参照)を有し、且つ、外周柱1と左右の外周梁2との継手部位3の外側をカバーするだけの左右方向の幅L(
図3(a)参照)を有する縦長のユニットとして構成される。
【0016】
柱側養生ユニット10の左右方向の幅Lは、
図3(a)に示すように、当該柱側養生ユニット10を外周柱1に取り付けた状態で、その左右の両端部が当該外周柱1の左右の継手部位3よりも所定寸法Laだけ左右方向の外側に配置されるように設定される。例えば、所定寸法Laは、継手部位3から隣地側への飛散をより確実に防止するための余幅や、継手部位3の接合作業を行うための作業スペース等を考慮して設定することができる。
【0017】
図示例では、左右の継手部位3の外周柱1からの離れ寸法が同一であることに対応して、柱側養生ユニット10の左右方向の幅Lが、外周柱1を中心として左右対称に設定される。なお、左右の継手部位3の外周柱1からの離れ寸法が異なる場合には、両継手部位3の離れ寸法に対応して左右非対称に設定することができる。
【0018】
柱側養生ユニット10は、
図1及び
図4に示すように、建物Bの外周面に沿って左右方向に延びる背面側被覆部位10Aと、その背面側被覆部位10Aの左右の両端部から建物B側に延びる左右の側面側被覆部位10Bとを一体的に備えて構成される。背面側被覆部位10A及び左右の側面側被覆部位10Bは、作業床16を有して略縦長直方体状に組み付けられた柱側ユニット枠体11の背面及び左右の両側面の全域を垂直なネットやシート等からなる飛散防止膜12で被覆して構成される。
【0019】
作業床16は、
図2及び
図4に示すように、建物Bの階高等に対応したピッチで柱側ユニット枠体11の複数の高さ位置に備えられる。柱側ユニット枠体11に作業床16が備えられることで、その作業床16を利用して上下の外周柱1の溶接等も行うことができ、溶接専用のコラムステージ等を不要とすることができる。
【0020】
柱側ユニット枠体11は、
図1、
図2及び
図4に示すように、例えば、剛性の高い梁枠等からなる縦枠13、単管等からなる縦材14Aや横材(手摺を含む)14B、作業床設置用ブラケット15、足場板からなる作業床16、柱接続用ブラケット17等を組み付けて構成される。縦枠13は、平行に並ぶ縦姿勢の複数の単管を横姿勢の複数の繋ぎ材等で連結して構成される。
【0021】
柱側ユニット枠体11の背面側に、左右方向に間隔を空けて複数本(本例では四本)の縦枠13が配置され、
図2に示すように、その複数本の縦枠13の夫々に上下方向に間隔を空けて複数の作業床設置用ブラケット15が建物B側に突出する状態で取り付けられる。そして、上下方向の同じ位置に配置される複数の作業床設置用ブラケット15に亘って作業床16が設置される。
【0022】
また、左右方向の中央側の二本の縦枠13の夫々に、
図1及び
図4に示すように、上下方向に間隔を空けて複数の柱接続用ブラケット17が建物B側に突出する状態で取り付けられる。そして、上下方向の複数箇所の夫々で同じ高さ位置に配置される一組(本例では二つ)の柱接続用ブラケット17の先端部が、外周柱1の左右の両側面から側方に突出する鋼材等の被取付部位1Aの夫々にボルト等の固定手段で固定される。このようにして、柱側養生ユニット10が高さ位置の異なる複数組の柱接続用ブラケット17にて外周柱1に取り付けられる。
【0023】
梁側養生ユニット20は、
図1に示すように、柱側養生ユニット10と同等の高さ寸法(図示省略)を有し、且つ、単独又は複数で隣接する外周柱1に取り付けられる一対の柱側養生ユニット10の間をカバーするだけの左右方向の幅を有する縦長のユニットとして構成される。
【0024】
梁側養生ユニット20は、建物Bの外周面に沿って左右方向に延びる背面側被覆部位20Aを備えて構成される。背面側被覆部位20Aは、平面視略Iの字状に組み付けられた梁側ユニット枠体21の背面の全域を垂直なネットやシート等からなる飛散防止膜22で被覆して構成される。梁側養生ユニット20は、作業床が備えられないことで、建物Bの外周面からの突出量の小さい一層小型で軽量なユニットとすることができ、取り付け作業の作業性を向上することができる。
【0025】
梁側ユニット枠体21は、例えば、剛性の高い梁枠等からなる縦枠23、単管等からなる横材24、梁接続用ブラケット25等を組み付けて構成される。縦枠23も、平行に並ぶ縦姿勢の複数の単管を横姿勢の複数の繋ぎ材等で連結して構成される。
【0026】
梁側ユニット枠体21の背面側に、左右方向に間隔を空けて複数本(本例では三本)の縦枠23が配置され、その複数本の縦枠23の夫々に上下方向に間隔を空けて複数の梁接続用ブラケット25が取り付けられる。そして、上下方向の同じ位置に配置される一組(本例では三つ)の梁接続用ブラケット25の先端部が、各階層の外周梁2の上面に備えられる鋼材等の被取付部位2Aの夫々にボルト等の固定手段で固定される。このようにして、梁側養生ユニット20が高さ位置の異なる複数組の梁接続用ブラケット25にて各階層の外周梁2に取り付けられる。
【0027】
次に、上述の如く構成された柱側養生ユニット10及び梁側養生ユニット20を使用して行う建方工法の施工順序について説明する。
【0028】
まず、外周柱1の建方を行い、その後、
図4及び
図3(a)に示すように、当該外周柱1の左右に外周梁2を継ぐ前のタイミングで、柱側養生ユニット10を外周柱1に取り付けて外周柱1に支持させる。
【0029】
具体的には、
図3(a)に示すように、柱側養生ユニット10をクレーン等で外周柱1の近傍まで吊り上げ、その状態で柱側養生ユニット10の複数組の柱接続用ブラケット17の先端部をボルト等の固定手段にて外周柱1の両側面の被取付部位1Aの夫々に固定する。更に、柱側養生ユニット10の上下方向の複数の位置で、左右方向の両端側の縦枠13と、外周柱1の左右の両側面に溶接等で固定された梁ブラケット1Dの上面部等とに亘って単管等からなる繋ぎ材19を取り付ける。
このようにして、当該外周柱1の左右に外周梁2を継ぐ前のタイミングで、柱側養生ユニット10にて外周柱1と左右の外周梁2との継手部位3の外側をカバーする状態で隣地側への飛散養生を行う。
【0030】
そして、その状態で、
図3(b)に示すように、外周柱1の各階層の左右の梁ブラケット1Dに各階層の外周梁2を接合して外周柱1に左右の外周梁2を継ぐ。図示は省略するが、例えば、梁ブラケット1Dの端面と外周梁2の端面とを突き合せた状態で梁ブラケット1Dと外周梁2とにスプライスプレートを亘らせ、そのスプライスプレートを梁ブラケット1Dと外周梁2の夫々にボルト等の固定手段で固定することで、外周柱1の梁ブラケット1Dに外周梁2を継ぐことができる。
この継ぎ作業中は、柱側養生ユニット10が、外周柱1と左右の外周梁2との継手部位3の外側をカバーしているので、ボルト等が隣地側に飛散するのを確実に防止することができる。
【0031】
外周柱1に左右の外周梁2を継いだ後、
図3(b)に示すように、柱側養生ユニット10と外周柱1とに亘る繋ぎ材19の先端側(建物B側)の取付位置を左右方向の外方側の外周梁2に変更する。このようにすることで、柱側養生ユニット10の取り付け状態を一層安定させることができる。
【0032】
そして、
図1に示すように、梁側養生ユニット20を柱側養生ユニット10の左右に配置し、当該梁側養生ユニット20を外周梁2に取り付けて外周梁2に支持させる。具体的には、梁側養生ユニット20をクレーン等で外周梁2の近傍に吊り上げ、その状態で梁側養生ユニット20の複数組の梁接続用ブラケット25の先端部を各階層の外周梁2の上面の被取付部位2Aにボルト等の固定手段で固定する。更に、柱側養生ユニット10と梁側養生ユニット20との間の隙間を塞ぐ状態で、柱側養生ユニット10と梁側養生ユニット20とに亘って垂直なネットやシート等からなる飛散防止膜30を取り付けて、建方工事階における建物Bの外周側の飛散養生を完成させる。
【0033】
その後、建方工事を上層側に順次に進めるに連れて、上述した順序で柱側養生ユニット10及び梁側養生ユニット20を上層側に移動(クライミング)させ、建方工事階の飛散養生を柱側養生ユニット10及び梁側養生ユニット20にて適切に図りながら、当該建物Bの架構を完成させる。
【0034】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0035】
前述の実施形態では、柱側養生ユニット10に作業床16が設けられることに対応して、左右の側面側被覆部位10Bが備えられていたが、作業床16が設けられない場合には側面側被覆部位10Bを省略することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 外周柱
2 外周梁
3 継手部位
10 柱側養生ユニット
20 梁側養生ユニット
30 飛散防止膜