(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】水性外装用木材塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20231227BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20231227BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231227BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231227BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20231227BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20231227BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D5/02
C09D183/04
C09D7/61
C09D7/62
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2019233467
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390002185
【氏名又は名称】大成ロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002402
【氏名又は名称】特許業務法人テクノテラス
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 愛枝
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 育正
(72)【発明者】
【氏名】大山 潤哉
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-080834(JP,A)
【文献】特開2003-064298(JP,A)
【文献】特開2002-053769(JP,A)
【文献】特開2020-125402(JP,A)
【文献】特開2005-048035(JP,A)
【文献】国際公開第2006/137432(WO,A1)
【文献】特開2008-127424(JP,A)
【文献】特開2012-201778(JP,A)
【文献】特開2008-156434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物と、加水分解性シリコン化合物を主成分とする前記水性塗料組成物の硬化剤とを含む水性外装用木材塗料であって、
前記水性塗料組成物は、鱗片状シリカ粉末及びポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を含み、
前記反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中の前記ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の含有割合は、前記反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物100質量部に対して
0.5質量部以上3質量部以下であることを特徴とする、水性外装用木材塗料。
【請求項2】
前記反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中の前記鱗片状シリカ粉末の含有割合は、前記反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下あることを特徴とする、
請求項1に記載の水性外装用木材塗料。
【請求項3】
さらに、前記反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に撥水性添加剤を含むことを特徴とする、
請求項1又は2に記載の水性外装用木材塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性が良好な有機無機複合塗膜を形成することができる水性外装用木材塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
公共建築物等に対し木材利用促進法が施行されるなど、建築物への木材の積極的な利用が促進されている。木材を外装として使用する場合、その耐久性を向上させるために、一般的に塗料による木材表面の被覆が行われている。
【0003】
外装用木材塗料としては、紫外線や風雨等に曝されることによる変色、ひび割れ等の経年劣化に対処することが要求されるほか、木材は周囲の湿度との関係により湿気を吸ったり吐いたりすることで伸縮するために寸法が変化するので、この寸法変化に対する追従性も要求される。これは、木材の寸法変化に対する追従性が乏しいと、長い間にはひび割れやハガレが生じて被覆材としての性能を失ってしまうためである。なお、外装用木材塗料としては、塗膜を厚く形成すると木材の伸縮に追従できなくなって割れが生じるため、薄い塗膜で経年劣化に対処できるものが要望されている。
【0004】
従来、塗料としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルとシリコンとを反応させたシリコン樹脂等に顔料や紫外線吸収剤、防腐剤などの添加剤を配合したアクリル塗料、ウレタン塗料、シリコン塗料などの有機系塗料が多く用いられている。このような有機系塗料のうち、シリコン塗料は、耐久性はアクリル塗料やウレタン塗料よりも優れているが、基体の寸法変化に対する塗膜の追従性が乏しいため、直接木材用塗料として用いるには適していない。そのため、木材用塗料としては、外装用であっても、内装用であっても、アクリル塗料及びウレタン塗料が多く用いられている。
【0005】
なお、シリコン塗料をその耐久性を生かして外装用木材塗料として用いる場合は、たとえば特許文献1(特開2003-251269号公報)にも示されているように、アクリル塗料から形成された下塗り塗膜の表面にシリコン塗料から形成された上塗り塗膜を形成する方法が多く採用されている。なお、フッ素樹脂塗料も知られているが、得られる塗膜は、耐久性は最も優れているが、基体の寸法変化に対する塗膜の追従性が最も乏しいため、木材用塗料としては適していない。
【0006】
一方、上述のような有機系塗料では良好な耐久性を得ることができないことから、有機無機複合塗料ないし無機系塗料の開発も行われている。例えば、特許文献2(特開2008-274242号公報)には、特定のシラン化合物ないしその部分縮合物と、アミノ基を有するシラン化合物ないしその部分縮合物とを特定の酸の存在下で縮合反応させることにより調製された、有機無機複合塗膜を得ることができる水性塗料組成物の発明が開示されている。また、特許文献3(特開2012-201778号公報)には、ポリオキシアルキレン鎖を有する水溶性ないし水分散性樹脂と、特定のオルガノシラン化合物ないしその加水分解縮合物と、アルコキシシリル基の加水分解・縮合反応を促進させる硬化触媒を含む2液型ないし多成分型の水性塗料用樹脂組成物の発明が開示されている。さらに、特許文献4(特開2001-163613号公報、)には、自己造膜性の鱗片状シリカ粒子を含む無機系塗料の発明だけでなく、鱗片状シリカ粒子をシリコン樹脂系市販塗料に配合した有機無機複合塗料(実施例16参照)の発明も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-251269号公報
【文献】特開2008-274242号公報
【文献】特開2012-201778号公報
【文献】特開2001-163613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に開示されている水性塗料組成物によれば、硬度が高く、耐溶剤性及び耐摩耗性に優れた有機無機複合塗膜が得られるとともに、保存安定性に優れた水性塗料組成物が得られるが、得られる有機無機複合塗膜が基体の寸法変化に対する塗膜の追従性が乏しいため、直接木材用塗料として用いるには適していない。また、上記特許文献3に開示されている水性塗料用樹脂組成物の発明によれば、耐久性及び耐汚染性に優れた塗膜が得られる水性塗料が得られるが、従来のシリコン塗料の場合と同様に基体の寸法変化に対する塗膜の追従性が乏しいため、直接木材用塗料として用いるには適していない。
【0009】
さらに、上記特許文献4に開示されている有機無機複合塗料の発明によれば、自己造膜性を有する鱗片状シリカ粒子がシリコン樹脂系市販塗料中に配合されているため、鱗片状シリカ粒子からなる無機塗膜とシリコン塗料による有機塗膜との両者の利点を兼ね備えた有機無機複合塗膜が得られるが、シリカリッチであって鉛筆硬度Hと硬いので、基体の寸法変化に対する塗膜の追従性が劣り、木材用塗料として用いるには適していなかった。
【0010】
本発明は、特に上記特許文献4に開示されている有機無機複合塗料において、鱗片状シリカ粒子やスメクタイト粉末等の無機粒子とシリコン塗料を構成するシリコン樹脂との間の結合強度を大きくし、基体の寸法変化に対する塗膜の追従性を改善することにより、耐候性、耐汚染性、耐水性等の耐久性が良好な水性外装用木材塗料が得られることを見出し、完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明は、水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂と、鱗片状シリカ粉末及びスメクタイト粉末とを含む塗料主剤と、加水分解性シリコン化合物を含む硬化剤とからなる、耐久性が良好な有機無機複合塗膜を形成することができる水性外装用木材塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の水性外装用木材塗料は、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物と、加水分解性シリコン化合物を主成分とする前記水性塗料組成物の硬化剤とからなる水性外装用木材塗料であって、前記水性塗料組成物は鱗片状シリカ粉末及びポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を含むことを特徴とする。
【0013】
反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂は、架橋剤としてのエポキシ基を有する加水分解性シリコン化合物とアクリル樹脂とから形成されたものであり、既に各種のものが市販されている。また、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂の硬化剤は、加水分解性シリコン化合物からなるものであり、ポリシロキサン-アクリル複合化合物1分子に対して1分子の割合で結合し、以下の反応式(I)に示したように、架橋化合物を形成して硬化する。
【0014】
【0015】
反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂としては、例えば、株式会社カネカ製のゼムラックW3108F、ゼムラックW3153CF(何れも商品名)、DIC株式会社製のボンコートSA-6360(商品名)、ジャパンコーティングレジン株式会社製のモビニールLDM7532(商品名)等、市販の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂から適宜に選択して使用することができる。また、加水分解性シリコン化合物を主成分とする前記水性塗料組成物の硬化剤としては、アミノシラン、アミノシラン/アルキルシラン加水分解物、ジアミノシラン加水分解物、アミノシラン/アルキルシラン加水分解物、エポキシシラン加水分解物等を使用することができ、それぞれ市販品としては、例えばDynasylan HYDROSIL 1151、2627、2776、2909、2926(何れも商品名、エボニック製)等を使用することができる。
【0016】
また、本発明の水性外装用木材塗料においては、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に鱗片状シリカ粉末及びポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の両者を同時に含むことは必須の構成要件である。スメクタイトは、モンモリロナイト、サポナイト、スチーブンサイト、ヘクライト等の層状ケイ酸塩からなり、金属イオン(アルミニウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン等)とケイ酸とが結合して形成されたシートが層状に形成された粘土鉱物であって、膨潤性を有している。このスメクタイトへのアミン化合物のインターカーレーション現象はよく知られており、ポリカルボジイミドもスメクタイトのような層状ケイ酸塩に強く吸着される。
【0017】
なお、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末は、例えば水中に適量のポリカルボジイミド及びスメクタイト粉末を添加して撹拌・混合し、数分~数十分間静置し、濾過及び乾燥することにより調製することができる。ポリカルボジイミド及びスメクタイト粉末のそれぞれの添加量は、臨界的限度は明確ではないが、質量比で1:0.1~0.5とすることが好ましい。ポリカルボジイミドの添加量がスメクタイト粉末の添加量の0.1倍よりも少ないとポリカルボジイミドを吸着させたことの効果が良好に現れず、また、0.5倍よりも多すぎても吸着されなかったポリカルボジイミドが無駄となるので、不経済となる。
【0018】
このポリカルボジイミドは、下記反応式(I)に示したように、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂中に含まれる官能基(カルボキシル基)と反応してN-アシルウレア化合物を形成するので、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末は、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂に強固に結合して複合化され、塗膜中に安定的に存在できるようになる。
【0019】
【0020】
また、鱗片状シリカは、耐水性、耐熱性に優れ、自己造膜性を有しているが、膨潤性は小さい。そのため、塗膜中に鱗片状シリカ粉末のみを含んでいる場合には、伸縮性が少ない強固な塗膜が得られるが、外装用木材塗料としては木材の伸縮に対して追従性が劣るために適さなくなる。また、塗膜中にポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末のみを含む場合には、伸縮性が良好で木材の伸縮に対して良好に追従できる塗膜が得られるが、鱗片状シリカ粉末を用いた場合よりも耐水性、耐候性及び耐汚染性に劣るようになる。また、鱗片状シリカ粉末及びスメクタイト粉末の粒度は、それぞれ塗料用として市販されているものを適宜に選択して使用すればよい。
【0021】
本発明の水性外装用木材塗料においては、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中にポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末及び鱗片状シリカ粉末の両者を同時に含んでいるため、スメクタイト粉末及び鱗片状シリカ粉末添加の両者の添加の利点を生かした上で、両者の欠点を互いに補うことができ、耐久性が良好な有機無機複合塗膜を形成することができる外装用木材塗料が得られる。なお、本発明の水性外装用木材塗料におけるポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末及び鱗片状シリカ粉末の両者の機能としては、それぞれの塗膜形成作用というよりは木材内部の空隙に入り込んで木材と塗膜との間のアンカー機能を強化する補強材として作用を奏しているものと推定される。
【0022】
そのため、本発明の水性外装用木材塗料によれば、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末及び鱗片状シリカ粉末が強固に塗膜中に複合化されているので、木材の伸縮に伴う寸法変化に追従して塗膜が伸縮しても良好に追従できる耐久性が良好な有機無機複合塗膜が得られる。しかも、スメクタイト粉末及び鱗片状シリカ粉末は、ともに無機材料であるため、良好な耐久性を得ることができるようになる。なお、ポリカルボジイミドのカルボジイミド等量は300~600のものであることが好ましい。また、鱗片状シリカ粉末としては、例えば市販のサンラブリー(登録商標名、AGCSIテック株式会社)を使用することができる。
【0023】
なお、本発明の水性外装用木材塗料においては、使用直前に、水性塗料組成物中に含まれる反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂のモル比と硬化剤中に含まれる加水分解性シリコン化合物のモル比が1:1となるように混合して使用すれば、良好な塗膜が得られる。
【0024】
さらに、本発明の水性外装用木材塗料においては、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に、水性外装用木材塗料に慣用的に使用されている造膜助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤等を適宜に添加してもよい。
【0025】
本発明の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物は、水中にポリマー粒子が分散したものであるので、MFT(最低造膜温度)が存在する。MFTは塗装後ポリマー粒子同士が融着する最低の温度である。乾燥時に塗膜の温度がMFTを下回ると、ポリマー粒子同士が融着せず、造膜不良となってひび割れが発生する。本発明の水性外装用木材塗料中に造膜助剤(成膜助剤と称されることもある)を添加すると、ポリマー粒子同士が融着しやすくなり、MFTを下げることができる。ポリシロキサン―アクリル複合樹脂のMFTは5~10℃程度であるが、本発明の水性外装用木材塗料においては、これらの造膜助剤を添加することによってMFTを0℃以下まで下げることができ、冬季でも現場塗装が可能な状態とすることができる。
【0026】
この造膜助剤としては、例えば花王株式会社製のスマックMP-40、スマックMP-70(何れも商品名)、安藤パラケミー株式会社製のダワノールPNP(商品名)等を使用することができるほか、ブチルセロセルブ、ブチルカルビトール、グリコールジアセテート等も使用することができる。
【0027】
また、紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤及び無機系紫外線吸収剤の少なくとも1種を使用することができる。有機系紫外線吸収剤としては、トリアジン系の紫外線吸収剤であるチヌビン400(商品名、BASF製)、ベンゾトリアソール系の紫外線吸収剤であるアデカスタブLA31、アデカスタブLA32、アデカスタブLA36(何れも商品名、株式会社ADEKA製)、HOSTAVIN3315DISP、HOSTAVIN3326DISP(何れも商品名、クラリアントケミカルズ株式会社製)等を使用することができる。さらに、無機系紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等を使用することができる。本発明の水性外装用木材塗料においては、有機系紫外線吸収剤及び無機系紫外線吸収剤を併用することが好ましい。
【0028】
また、光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が汎用的に用いられており、高分子の光劣化を抑制し、特に表面の劣化防止に優れている添加剤である。この光安定剤としては、BASF製のチヌビン(商品名)、アデカスタブLA72、アデカスタブLA82(何れも商品名、株式会社ADEKA製)、HOSTAVIN3051-2DISP、HOSTAVIN3070DISP(何れも商品名、クラリアントケミカルズ株式会社製)等を使用することができる。
【0029】
なお、防腐剤としては、木部用防腐剤として周知のものうち、水溶性のものであれば適宜のものを選択して使用することができ、例えば第4級アンモニウム化合物、銅・第四級アンモニウム化合物、銅・アゾール化合物等を使用することができる。
【0030】
また、本発明の水性外装用木材塗料においては、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中のポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイトの含有割合は、水性塗料組成物100質量部に対して0.5質量部以上3質量部以下が好ましい。ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイトの含有割合が水性塗料組成物100質量部に対して0.5質量部未満であると、ガスや水に対して優れたバリア性を持った塗膜が得られず、同じく3質量部を越えると塗料の粘度が高くなって作業性が悪くなる。より好ましいポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイトの含有割合は、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物100質量部に対して1質量部以上2.5質量部以下である。
【0031】
また、本発明の水性外装用木材塗料においては、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中の鱗片状シリカ粉末の含有割合は、水性塗料組成物100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下が好ましい。鱗片状シリカ粉末の含有割合が水性塗料組成物100質量部に対して0.5質量部未満であると、良好な木部のひび割れ防止補強効果が得られず、同じく5質量部を越えると塗膜の外観が損なわれる。より好まししい反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中の鱗片状シリカ粉末の含有割合は、水性塗料組成物100質量部に対して0.5質量部以上4質量部以下である。なお、鱗片状シリカ粉末としては、臨界的限度は必ずしも明確ではないが、平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下のものが好ましい。
【0032】
また、本発明の水性外装用木材塗料においては、塗膜構造中にシラノール基が含まれているため、このシラノール基に起因する塗膜表面の親水化が起こる。一般的な建築外装用塗料であれば、このシラノール基の存在によって、雨水によるセルフクリーニング機能が発現し、耐汚染性に優れた塗膜が形成されるが、木部用塗料として使用した場合、木の内部に水分が浸透しやすくなり、腐朽菌の増殖につながって木の劣化が促進されてしまう。本発明の水性外装用木材塗料においては、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に撥水性添加剤を添加することにより、塗膜の表面に撥水性が付与され、木部用に使用した場合でも木の内部に水分が浸透し難くなるので、木の劣化が抑制される。
【0033】
この撥水性添加剤としては、フッ素/アクリル系コポリマーであるモディバーF266(商品名、日油株式会社製)、シコーン/アクリルコポリマーであるモディバーFS770(日油株式会社製)、フッ素樹脂であるメガファックF-552(商品名、DIC株式会社製)等を使用することができるほか、一般的なシリコーンオイルも使用することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上述べたように、本発明の水性外装用木材塗料によれば、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に鱗片状シリカ粉末及びポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の両者が同時に含まれているため、耐候性、耐汚染性、耐水性等の耐久性が良好な有機無機複合塗膜を形成することができる外装用木材塗料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】実験例1~3及び5のそれぞれの塗膜を形成した被検試料の表面の経時変化を示す図である。
【
図2】実験例1及び8~10のそれぞれの塗膜を形成した被検試料の表面の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る水性外装用木材塗料について、各種実験例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す各種実験例は、本発明の技術思想を具体化するための例を示すものであって、本発明をこれらの実験例に示したものに特定することを意図するものではない。本発明は特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0037】
[ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の調製]
最初に本発明のポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の調製工程について説明する。まず、水に所定量のスメクタイト粉末を分散させるとともに、市販のポリカルボジイミド(カルボジライトV-10(商品名)、日清紡ケミカル社)を質量比でスメクタイト粉末の1/10となるように添加し、5分間良く撹拌した後に濾過及び乾燥して、各種実験例で使用するポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を得た。
【0038】
[実験例1]
実験例1の水性外装用木材塗料における反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物としては、反応形ポリシロキサン-アクリル複合樹脂(ゼムラックW3108F(商品名)、株式会社カネカ)25質量部、鱗片状シリカ粉末(サンラブリー(登録商標名、AGCSIテック株式会社)3質量部、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を2質量部、造膜助剤(ダワノールPNP(商品名)、安藤パラケミー株式会社)を5質量部、撥水性添加剤(モディバーF266(商品名、日油株式会社製))、無機系紫外線吸収材(酸化チタン)2質量部、有機系紫外線吸収剤(チヌビン400(商品名、BASF製))2質量部、光安定剤(チヌビン(商品名)、BASF社)2質量部、防腐剤2質量部、イソプロピルアルコール10質量部、残部水からなる透明のものを用いた。
【0039】
この実験例1の水性塗料組成物について、密閉状態で3ヶ月間静置する貯蔵安定性試験を行った。結果は、ゲル化や分離等が生じなかったものを「○」と判定し、ゲル化や分離等が生じたものを「×」と判定し、下記表1に示した。
【0040】
また、実験例1の水性外装用木材塗料における反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物に対する加水分解性シリコン化合物を主成分とする硬化剤としては、加水分解性シリコン化合物(Dynasylan HYDROSIL 1151(商品名)、エボニック製)40質量部、プロピレングリコール60質量部からなるものを用いた。
【0041】
上記のように調製された反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物と、同じく上記のようにして調製された加水分解性シリコン化合物を主成分とする硬化剤とを、それぞれ質量比で1:0.1となるように混合し、実験例1の水性外装用木材塗料を得た。
【0042】
この実験例1の水性外装用木材塗料を用い、被塗装物としてスギ材(無節)の70×150×10mmのものを2枚用意し、直ちにスプレー法により、予め定めた条件で、所定厚さに塗布し、実験例1の被検試料を得た。このスプレー塗装を行った際の塗装作業性について、2枚とも塗布ムラや外観不良が生じなかったものを「○」と判定し、2枚中1枚でも塗布ムラや外観不良が生じたものを「×」と判定した。結果を下記表1に纏めて示した。
【0043】
さらに、スプレー塗装した2枚の被検試料について、室温下で十分に乾燥させ、JIS K 5600-7-7のサイクルAに準じて促進耐候性試験を行い、変色やひび割れの有無を調査した。評価は、500時間、1000時間、1500時間及び2000時間で実施した。「耐候性(変色試験)」結果及び(耐候性(ひび割れ)」結果は、いずれも2000時間まで異常がなかったものを「○」と判定し、1000時間まで異常がなかったが2000時間で異常があったものを「△」と判定し、1000時間及び2000時間の両方で異常が認められたものを「×」と判定した。結果を下記表1に纏めて示した。
【0044】
[実験例2]
鱗片状シリカ粉末及びポリカルボジイミド吸着スメクタイト粉末と、撥水性添加剤とを添加しなかった以外は実験例1の水性塗料組成物の場合と同様にして、実験例2の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物を調製し、その他の条件は全て実験例1の場合と同様にして実験例2の被検試料を作成した。そして、実験例1の場合と同様の各種試験を行ない、結果を纏めて下記表1に示した。
【0045】
[実験例3]
鱗片状シリカ粉末のみを添加しなかった以外は実験例1の水性塗料組成物の場合と同様にして、実験例3の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物を調製し、その他の条件は全て実験例1の場合と同様にして実験例3の被検試料を作成した。そして、実験例1の場合と同様の各種試験を行い、結果を纏めて下記表1に示した。
【0046】
[実験例4]
鱗片状シリカ粉末の添加料を実験例1場合(4質量部)よりも多い6質量部とした以外は実験例1の水性塗料組成物の場合と同様にして、実験例4の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物を調製し、その他の条件は全て実験例1の場合と同様にして実験例4の被検試料を作成した。そして、実験例1の場合と同様の各種試験を行い、結果を纏めて下記表1に示した。
【0047】
[実験例5]
ポリカルボジイミド吸着スメクタイト粉末を添加しなかった以外は実験例1の水性塗料組成物の場合と同様にして、実験例5の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物を調製し、その他の条件は全て実験例1の場合と同様にして実験例5の被検試料を作成した。そして、実験例1の場合と同様の各種試験を行い、結果を纏めて下記表1に示した。
【0048】
[実験例6]
ポリカルボジイミド吸着スメクタイト粉末の添加料を実験例1場合(2質量部)よりも多い4質量部とした以外は実験例1の水性塗料組成物の場合と同様にして、実験例6の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物を調製し、その他の条件は全て実験例1の場合と同様にして実験例6の被検試料を作成した。そして、実験例1の場合と同様の各種試験を行い、結果を纏めて下記表1に示した。
【0049】
[実験例7]
撥水性添加剤を添加しなかった以外は実験例1の水性塗料組成物の場合と同様にして、実験例7の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物を調製し、その他の条件は全て実験例1の場合と同様にして実験例7の被検試料を作成した。そして、実験例1の場合と同様の各種試験を行い、結果を纏めて下記表1に示した。
【0050】
【0051】
さらに、実験例1~3及び5の被検試料について耐候性試験を行った際の、500時間、1000時間、2000時間及び2500時間経過時の表面状態を撮影した写真を
図1に示した。
【0052】
表1及び
図1に示した結果から以下のことがわかる。すなわち、実験例1の被検試料では、貯蔵安定性及び塗装作業性は良好であり、耐候性試験結果は変色及びビ割れともに認められず、2500時間経過時でも良好な結果が得られていた。それに対し、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に鱗片状シリカ、ポリカルボジイミド吸着スメクタイト粉末及び撥水性添加剤を含有していない実験例2の被検試料では、貯蔵安定性及び塗装作業性は良好であったが、耐候性試験結果は、1000時間経過時で既に変色及びひび割れが生じていた。また、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に鱗片状シリカ粉末のみ含有していない実験例3の被検試料では、貯蔵安定性及び塗装作業性は良好であったが、耐候性試験結果は、1000時間経過時は変色はあまり認められなかったひび割れが生じており、2000時間経過時にはひび割れだけでなく明確に変色も生じていた。
【0053】
一方、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中の鱗片状シリカ粉末の添加量を、実験例1の3質量部よりも増大させて6質量部とした実験例4の被検試料では、貯蔵安定性は良好であり、耐候性試験結果も2000時間経過時にひび割れ及び変色は実質的に認められなかったが、塗装作業時に塗装ムラが生じて外観不良となっていた。また、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中にポリカルボジイミド吸着スメクタイト粉末のみ含有していない実験例5の被検試料では、貯蔵安定性及び塗装作業性は良好であったが、耐候性試験結果は、1000時間経過時でヒビ割れは実質的に生じていなかったが既に変色が生じており、2000時間経過時では完全にひび割れも生じていた。
【0054】
また、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中のポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の添加量を、実験例1の2質量部よりも増大させて4質量部とした実験例6の被検試料では、貯蔵安定性及び塗装作業性が不良であり、実質的に塗装不可となっていた。さらに、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に撥水性添加剤の身を含有していない実験例7の被検試料では、貯蔵安定性及び塗装作業性は良好であり、耐候性試験結果は、1000時間経過時は変色及びひび割れは実質的に認められなかったが、2000時間経過時には変色及びひび割れともに明確に生じていた。
【0055】
したがって、実験例1~3及び5の結果を対比すると、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中への鱗片状シリカ粉末ないしポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末の添加の有無は、加水分解性シリコン化合物を主成分とする前記水性塗料組成物の硬化剤を混合して水性外装用木材塗料を調製した際の貯蔵安定性及び塗装作業性に実質的な影響は与えないが、耐候性劣るようになることがわかる。
【0056】
また、実験例1及び3の結果を対比すると、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に鱗片状シリカ粉末を含有していないと、加水分解性シリコン化合物を主成分とする前記水性塗料組成物の硬化剤を混合して水性外装用木材塗料を調製した際の貯蔵安定性及び塗装作業性に実質的な影響は生じないが、耐候性に影響を与え、変色はあまり生じないがひび割れが多くなる。また、実験例1及び5の結果を対比すると、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中にポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末を含有していないと、水性塗料組成物の硬化剤を混合して水性外装用木材塗料を調製した際の貯蔵安定性及び塗装作業性に実質的な影響は生じないが、耐候性に影響を与え、ひび割れはあまり生じないが変色が多くなる。
【0057】
そのため、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物と加水分解性シリコン化合物を主成分とする前記水性塗料組成物の硬化剤とからなる水性外装用木材塗料においては、ポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイト粉末及び鱗片状シリカ粉末の両者を同時に含ませることにより、スメクタイト粉末及び鱗片状シリカ粉末添加の両者の添加の利点を生かした上で、それぞれの欠点を互いに補うことができ、耐久性が良好な有機無機複合塗膜を形成することができる外装用木材塗料が得られることがわかる。
【0058】
さらに、実験例1及び4の結果を対比すると、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中の鱗片状シリカ粉末の添加量が多くなると塗装作業性が劣るようになることがわかり、その添加量の上限は水性塗料組成物全体に対して5質量部以下が好ましいと予測される。なお、その添加量の下限は、水性塗料組成物全体に対して0.5質量部未満であると良好な木部のひび割れ防止補強効果が得られなくなるので、より好ましい水性塗料組成物中の鱗片状シリカ粉末の含有割合は、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物100質量部に対して0.5質量部以上4質量部以下であると認められる。なお、鱗片状シリカ粉末の平均粒径は、臨界的限度は必ずしも明確ではないが、0.5μm以上3.0μm以下のものが好ましい。
【0059】
さらに、実験例1及び6の結果を対比すると、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中のポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイトの含有割合が多くなると貯蔵安定性だけでなく塗装作業性が劣るようになり、実質的に塗装不可となるので、その添加量は水性塗料組成物全体に対して3質量部以下が好ましいと予測される。なお、その添加量の下限は、水性塗料組成物全体に対して0.5質量部未満であるとガスや水に対し優れたバリア性を持った塗膜が得られなくなるので、より好ましいポリカルボジイミドを吸着させたスメクタイトの含有割合は、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物100質量部に対して1質量部以上2.5質量部以下であると認められる。
【0060】
さらに、実験例1及び7の結果を対比すると、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中への撥水性添加剤の添加の有無は、耐候性に影響を与え、撥水性添加剤を添加すると長期耐候性が良好となることがわかる。このことは、反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中へ撥水性添加剤をすると、塗膜の表面に撥水性が付与されるため、木部用に使用した場合でも長期的に木の内部に水分が浸透し難くなるので、木の劣化が抑制され、耐久性が良好となることを意味している。
【0061】
[実験例8~10]
実験例8~10においては、実験例1の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物中に、市販のクリーム色顔料(実験例8)、ピニー色顔料(実験例9)及びウォルナット色顔料(実験例10)を微量添加し、実験例1の場合と同様にして被検試料を作成した。そして、実験例8~10の被検試料について耐候性試験を行った際の、500時間、1000時間、2000時間及び2500時間経過時の表面状態の写真を、実験例1のものとともに、
図2に示した。
図2に示した結果から、実験例1の反応型水性ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を主成分とする水性塗料組成物と同様の組成を有していれば、顔料添加の有無によらず、貯蔵安定性及び塗装作業性は当然のこと、耐候性も変色及びヒビ割れの何れにおいても良好な効果が得られ、耐久性が良好な水性外装用木材塗料となることが確認された。