(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】ポリエステル製品用移染防止組成物、及び移染防止ポリエステル製品
(51)【国際特許分類】
D06M 13/463 20060101AFI20231227BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
D06M13/463
D06M101:32
(21)【出願番号】P 2019236492
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】吾田 圭司
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭57-048660(JP,B2)
【文献】特開2001-288681(JP,A)
【文献】特公平03-073668(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/715
D06P 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、移染防止化合物を含有する、染色されたポリエステル製品用の移染防止組成物であって、
前記移染防止化合物が、少なくとも、下記の式(1)で示される移染防止化合物Aおよび/または式(2)で示される移染防止化合物Bを含む、
移染防止組成物。
【化1】
(上記式(1)において、R
1とR
2とは、それぞれ独立に、炭素数が16~21で、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表し、直鎖構造または分岐構造を有し、エステル基、アミド基、エーテル基からなる群から選ばれる1種または2種以上を有していてもよい。R
3とR
4とは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、またはベンジル基を表す。X
m-は、ハロゲンアニオン、無機酸アニオン、1価または2価以上のカルボン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオン、リン酸エステルアニオン、アルキルカーボーネートアニオンからなる群から選ばれる1種を表す。)
【化2】
(上記式(2)において、R
5は、炭素数が18で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。R
6は、炭素数が1~15で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。R
7は、炭素数1~4のアルキル基を表す。R
8は、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、またはベンジル基を表す。Y
n-は、ハロゲンアニオン、無機酸アニオン、1価または2価以上のカルボン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオン、リン酸エステルアニオン、アルキルカーボーネートアニオンからなる群から選ばれる1種を表す。)
【請求項2】
前記移染防止組成物が、さらに、溶剤を含有する、
請求項1に記載の移染防止組成物。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の移染防止組成物を、ポリエステル製品とともに浴液に加えて用いる、移染防止処理方法。
【請求項4】
請求項
2に記載の移染防止組成物を、ポリエステル製品に、スプレー噴霧して用いる、移染防止処理方法。
【請求項5】
請求項1
または2に記載の移染防止組成物を用いて移染防止処理された、ポリエステル製品。
【請求項6】
請求項
3または4に記載の移染防止処理方法によって移染防止処理された、ポリエステル製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染色されたポリエステル製品用の移染防止組成物、該移染防止組成物を用いた移染防止処理方法、該移染防止組成物を用いて処理されたポリエステル製品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、看護師等のユニフォーム等はデザイン重視になっており、従来の単色のユニフォームから、部分的に色物を使った混色のユニフォームが増えてきている。また、耐久性の観点から、従来は綿素材中心の素材だったが、ポリエステル繊維を使用したものが増えてきている。
ポリエステル繊維の染色には綿用の染料は使い難く、分散染料を高温高圧で用いた染色が行われていることから、一般的な洗濯条件では比較的色は流れ難く、移染し難いとされている。
しかしながら、染色後のソーピングが不十分であったり、高温多湿環境下に置かれたり、または、加工剤に界面活性剤等が含有されていたりする場合には、分散染料が繊維表面にブリードして離れて未固着染料となり、移染を発生させてしまう場合がある。
このような場合に、移染を抑えるために洗浄条件を弱くすると、十分な洗浄力を与えることができず、また、十分な洗浄力を与えようと洗浄条件を強くすると、色流れが発生して他の生地に移染してしまうという問題が生じていた。
例えば、分散染料で染色されたポリエステル繊維およびポリエステル布等の商業的な洗浄(洗濯)においては、汚れを十分に除去する為に、通常は、界面活性剤とアルカリ剤を洗浄液(洗濯液)に加えて、40~60℃付近で洗浄することが多い。しかしながら、色流れを抑える為には、アルカリ剤を減量したり、洗浄温度を下げたりするなどの穏やかな条件下で洗浄せざるを得なくなり、その結果、特に強固な汚れを落とすことができなくなってしまう問題が生じている。
上記の問題を解決する為に、ポリエステル製品用の汚染防止用洗浄剤を用いて洗浄する方法があるが、汚れに対する再付着防止効果はあるものの、色流れした染料、特にポリエステルに使用される分散染料の再付着防止には効果が小さく、また、色流れ自体を抑えることはできない。
色流れ防止剤に関しては、特許文献1、2が知られており、色流れ防止については多少の効果があるが、色流れした染料の再付着防止効果が弱いため、洗濯の際に、流れ出た染料が一緒に洗濯された他の生地に移染することを十分に防止することはできない。
さらに特許文献2の技術では、染着機構がまったく異なる分散染料を用いて染色されたポリエステル製品に適用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-109267号公報
【文献】特開2007-84631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、クリーニング店等における業務用洗濯時のような、十分な洗浄力を有する洗浄時における、染色されたポリエステル製品からの染料の流れ出しと、該染料が一緒に洗浄された他の繊維製品へ付着して、移染されることを抑制する移染防止組成物、該移染防止組成物を用いた移染防止処理方法、該移染防止組成物を用いて処理されたポリエステル製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、少なくとも、特定の移染防止化合物を含有する染色されたポリエステル製品用の移染防止組成物が、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の点を特徴とする。
1.少なくとも、移染防止化合物を含有する、染色されたポリエステル製品用の移染防止組成物であって、
前記移染防止化合物が、少なくとも、下記の式(1)で示される移染防止化合物Aおよび/または式(2)で示される移染防止化合物Bを含む、
移染防止組成物。
【化1】
(上記式(1)において、R
1とR
2とは、それぞれ独立に、炭素数が16~21で、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表し、直鎖構造または分岐構造を有し、エステル基、アミド基、エーテル基からなる群から選ばれる1種または2種以上を有していてもよい。R
3とR
4とは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、またはベンジル基を表す。X
m-は、ハロゲンアニオン、無機酸アニオン、1価または2価以上のカルボン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオン、リン酸エステルアニオン、アルキルカーボーネートアニオンからなる群から選ばれる1種を表す。)
【化2】
(上記式(2)において、R
5は、炭素数が18で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。R
6は、炭素数が1~15で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。R
7は、炭素数1~4のアルキル基を表す。R
8は、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、またはベンジル基を表す。Y
n-は、ハロゲンアニオン、無機酸アニオン、1価または2価以上のカルボン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオン、リン酸エステルアニオン、アルキルカーボーネートアニオンからなる群から選ばれる1種を表す。)
2.前記移染防止組成物が、さらに、溶剤を含有する、
上記1に記載の移染防止組成物。
3.前記移染防止組成物は、これを用いた移染防止処理によって、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠したポリエステル製品のJIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))の級を0.5~2向上させ、該JIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))が2~4級のポリエステル製品を、該JIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))が3~5級のポリエステル製品にする移染抑制効果を有し、
該ポリエステル製品は、分散染料によって染色されたものである、
請求項1または2に記載の移染防止組成物。
4.ポリエステル製品と、ポリエステル100%の未洗濯白布とを、JIS L0844
2011に定められたB-7法に準拠した洗浄方法で洗浄し、すすぎ、乾燥して、洗濯後白布を得て、該未洗濯白布および該洗濯後白布の各々の表面の色彩値から、下記式で算出されるΔEを算出した際に、
該ポリエステル製品が、前記移染防止組成物によって移染防止処理された処理済ポリエステル製品の場合のΔEをΔE
1とし、
該ポリエステル製品が、移染防止未処理ポリエステル製品の場合のΔEをΔE
2とした時、
ΔE
2-ΔE
1の値が、1.0以上、5.0以下になる移染抑制効果を有する、
上記1~3の何れかに記載の移染防止組成物、
ΔE=(ΔL
2+Δa
2+Δb
2)
1/2、
(但し、ΔL=L
*(洗濯後白布)-L
*(未洗濯白布)、
Δa=a
*(洗濯後白布)-a
*(未洗濯白布)、
Δb=b
*(洗濯後白布)-b
*(未洗濯白布)であり、
L
*、a
*、b
*は、JIS Z8781-4の規定による測定値である。)。
5.上記1~4の何れかに記載の移染防止組成物を、ポリエステル製品とともに浴液に加えて用いる、移染防止処理方法。
6.上記2~4の何れかに記載の移染防止組成物を、ポリエステル製品に、スプレー噴霧して用いる、移染防止処理方法。
7.上記1~4の何れかに記載の移染防止組成物を用いて移染防止処理された、ポリエステル製品。
8.上記5または6に記載の移染防止処理方法によって移染防止処理された、ポリエステル製品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、クリーニング店等における業務用洗濯時のような、十分な洗浄力を有する洗浄時において、染色されたポリエステル製品からの染料の流れ出しと、該染料が一緒に洗浄された他の繊維製品への付着とを低減して、移染されることを抑制する移染防止組成物、該移染防止組成物を用いた移染防止処理方法、該移染防止組成物を用いて処理されたポリエステル製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明について、以下に更に詳しく説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0008】
≪移染防止組成物≫
本発明の移染防止組成物は染色されたポリエステル製品用の移染防止組成物であり、少なくとも、移染防止化合物を含有する。
本発明の移染防止組成物は溶剤をさらに含有することができる。溶剤を含有する場合には、移染防止組成物は均一に溶解した溶液であってもよく、乳液状であってもよい。
移染防止組成物は、1種または2種以上の移染防止化合物を含有することができる。移染防止組成物中の移染防止化合物の含有量は、1~100質量%が好ましく、5~70質量%がより好ましい。
【0009】
本発明の移染防止組成物は、必要に応じて、水、有機溶剤、pH調整剤、香料、着色剤、防腐剤等を含有することができる。さらに、移染防止効果の観点からはなるべく添加しない方が望ましいが、安定化のために無機塩、有機塩、乳化剤を含有することができる。
有機溶剤は、移染防止組成物中に0.1質量%以上、30質量%以下含有されることが好ましい。
無機塩、有機塩は、移染防止組成物中に0.01質量%以上、3質量%以下含有されることが好ましい。
乳化剤は、移染防止化合物に対して0.1質量%以上、15質量%以下で含有されることが好ましい。
移染防止組成物のpHは、3~8が好ましい。
【0010】
業務用洗濯においては、強固な汚れを落とすために、または衛生性を向上するために、強力な洗濯を実施する必要があるが、これは同時に移染を生じてしまうものであった。移染を防止するために洗濯の強力さを弱めると強固な汚れを落とすことができなくなり、移染防止用洗浄剤を用いて洗濯すると、染料の再付着は低減できても、染料の色流れの低減は不十分であった。そして、従来の移染防止剤では、染料の色流れを多少低減できても、染料の再付着を低減する効果が無かった。特に、PET等のポリエステル製品向けの分散染料用の移染防止剤は市場には無かった。
本発明の移染防止組成物は、一般家庭での洗濯において、そして、クリーニング店等の業務用洗濯でのポリエステル製品の洗浄時のような十分に強力な洗浄力を有する洗浄液による洗浄においても、染料の色流れと再付着を低減して、移染を抑制することができる。
【0011】
本発明の移染防止組成物は、分散染料によって染色されたポリエステル製品のJIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))を0.5~2級向上させ、JIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))が2~4級のポリエステル製品を、該JIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))が3~5級のポリエステル製品にすることができる。
【0012】
また、ポリエステル製品と、ポリエステル100%の未洗濯白布とを、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠した洗浄方法で洗浄し、すすぎ、乾燥して、洗濯後白布を得て、該未洗濯白布および該洗濯後白布の各々の表面の色彩値から、下記式で算出されるΔEを算出して比較することによって、移染抑制効果を表現することができる。
該ポリエステル製品が、前記移染防止組成物によって移染防止処理された処理済ポリエステル製染色物の場合のΔEをΔE1とし、該ポリエステル製品が、移染防止未処理ポリエステル製品の場合のΔEをΔE2とした時に、2つのΔEの差(=ΔE2-ΔE1)の値が大きいほど、移染抑制効果が高いことを示す。
本発明の移染防止組成物の移染抑制効果としては、このΔE2-ΔE1の値が、1.0以上、5.0以下になることが好ましく、1.2以上、4.0以下になることがより好ましい。
ΔE2-ΔE1の値が上記範囲よりも小さいと移染抑制効果が不十分な為に移染を生じる虞があり、上記範囲よりも大きい値を得ることは困難である。
【0013】
[移染抑制効果の想定されるメカニズム]
本発明における移染抑制効果の発現メカニズムは、以下のように考えられる。
本発明の移染防止組成物を用いてポリエステル製品に移染防止処理を行った際に、移染防止組成物に含有される移染防止化合物の第4級アンモニウム塩から生じた第4級アンモニウムカチオンのアルキル基(疎水性、親油性が高い部分)がポリエステル製品の繊維中の分散染料と高い親和性を持ち、アルキル基が分散染料の表面に配向して付着して分散染料を覆い、分散染料の漏出を抑制すると考えられる。
また、水の中で繊維の表面はマイナス電荷を帯びていることから、一方で、第4級アンモニウムカチオンのプラス電荷の親水基が、マイナス電荷の繊維表面に配向して吸着されるため、分散染料と繊維とが、カチオン活性剤を介して軽く接着される効果を発揮して、分散染料の漏出を抑制すると考えられる。
上記の付着量は、ポリエステル製品に対して0.05~2.5質量%であることが好ましい。これは、移染防止組成物を0.1~5質量%含有する処理液にポリエステル製品を浸漬させ、その後脱水、乾燥した際に、下記式で示される絞り率が50%程度となることから算出される。
絞り率(%)=(脱水直後の質量-乾燥時の質量)/乾燥時の質量
洗濯中の移染防止処理済ポリエステル製品からは、上記のメカニズムによって、洗濯液中への分散染料の漏出が抑制され、洗濯液中の漏出した分散染料の含有量は低くなる。
そして、ポリエステル製品から漏出して、洗濯液中に存在する分散染料に対しては、第4級アンモニウムカチオンのアルキル基が該分散染料の周囲に配向して、分散染料を覆ってミセルを形成することによって、分散染料が洗濯液中に存在する布に再付着することを抑制することができる。
【0014】
上記のメカニズムは柔軟仕上げ剤や帯電防止剤の作用メカニズムとは異なるものである。
一般的な柔軟仕上げ剤や帯電防止剤のメカニズムは下記のとおりである。
水の中で繊維の表面はマイナス電荷を帯びていることから、該マイナス電荷に引きつけられて、柔軟仕上げ剤や帯電防止剤のカチオン活性剤部のプラス電荷の親水基が、繊維の表面側に配向されて吸着(付着)する。この時、柔軟仕上げ剤や帯電防止剤の親油基は、逆の繊維の外に向いて配向し、極薄い油の膜で繊維を覆うような形になり、これがいわば潤滑油のような働きをする。
そして、さらには、それが繊維と繊維が接触する摩擦抵抗を弱め、滑りがよくなり、手触りを柔軟にする柔軟仕上げ効果を発揮する。
そして同時に、繊維表面側に配向して付着した親水基は、繊維上に生じる静電気を外に逃がすことによって、帯電防止効果を発揮する。
さらに、移染防止剤と、柔軟剤あるいは帯電防止剤とでは、ポリエステル製品(繊維、布)の表面に付着しているカチオン化合物の量が大きく異なる。
柔軟剤あるいは帯電防止剤が柔軟あるいは帯電防止効果を発生させる為には、ポリエステル製品(繊維、布)の表面に、カチオン分子が単分子膜を形成しさえすればよく、少ないカチオン分子で十分であることに対して、移染防止組成物が移染防止効果を発揮する為には、カチオン(第4級アンモニウムカチオン)分子が、分散染料の周囲に配向して分散染料をポリエステル製品(繊維、布)に繋ぎ止めなくてはならず、多くのカチオン分子を必要とする。
具体的には、柔軟剤あるいは帯電防止剤を含有する処理液中の柔軟剤あるいは帯電防止剤の濃度は、通常、0.01~0.05質量%であることに対して、移染防止組成物を含有する処理液中の移染防止化合物の濃度は0.1~5質量%であり、約10倍の濃度を必要とする。移染防止組成物を柔軟剤あるいは帯電防止剤並みの0.01~0.05質量%の濃度で用いても、十分な移染防止効果を発揮することはできない。
上記のように、本発明における移染抑制効果と、柔軟仕上げ剤や帯電防止剤の作用メカニズムとでは、親油基の配向方向が真逆であり、明確に異なるメカニズムが作用している。
【0015】
[移染防止化合物]
本発明における移染防止化合物は、第4級アンモニウム塩からなる化合物である。
第4級アンモニウム塩は、第4級アンモニウムカチオンとアニオンとで構成されており、それぞれの化学組成を変更することによって、異なる移染抑制効果を得ることができる。
【0016】
(第4級アンモニウムカチオン)
第4級アンモニウム塩を構成する第4級アンモニウムカチオンの窒素原子に結合した4つの置換基は、1つの置換基が、炭素数が16~21で、飽和または不飽和の1価の脂肪
族基であり、直鎖構造または分岐構造を有し、エステル基、アミド基、エーテル基からなる群から選ばれる1種または2種以上を有していてもよい。1つの置換基が、炭素数が1~21で、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表し、直鎖構造または分岐構造を有し、エステル基、アミド基、エーテル基からなる群から選ばれる1種または2種以上を有していてもよい。残り2つの置換基が、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、またはベンジル基である構成が挙げられる。
【0017】
(第4級アンモニウム塩を構成するアニオン)
第4級アンモニウム塩を構成するアニオンとしては、ハロゲンアニオン、無機酸アニオン、1価または2価以上のカルボン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオン、リン酸エステルアニオン、アルキルカーボーネートアニオン等が好ましい。
ハロゲンアニオンの具体例としては、塩化物アニオン、臭化物アニオン等が挙げられる。
無機酸アニオンの具体例としては、硫酸アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン等が挙げられる。
【0018】
1価または2価以上のカルボン酸アニオンの具体例としては、ギ酸アニオン、酢酸アニオン、プロピオン酸アニオン、グルコン酸アニオン、乳酸アニオン、フマル酸アニオン、マレイン酸アニオン、アジピン酸アニオン等が挙げられる。
有機スルホン酸アニオンの具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸アニオン、アルキルスルホン酸アニオン等が挙げられる。
有機スルホン酸エステルアニオンの具体例としては、アルキル硫酸エステルアニオン、アルケニル硫酸エステルアニオン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルアニオン等が挙げられる。
リン酸エステルアニオンの具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルアニオン、アルキルリン酸エステルアニオン、アリールリン酸エステルアニオン等が挙げられる。
アルキルカーボーネートアニオンの具体例としては、メチルカーボネートアニオン、エチルカーボネートアニオン等が挙げられる。
【0019】
(好ましい第4級アンモニウム塩)
上述の第4級アンモニウムカチオンとアニオンを組み合わせて、好ましい第4級アンモニウム塩が構成されるが、それらの中でも、特定の組み合わせで得られる2種の第4級アンモニウム塩が特に好ましい。
それらを便宜上、第4級アンモニウム塩A、第4級アンモニウム塩Bと表記して、以下に説明する。
第4級アンモニウム塩Aは、下記式(1)で表される化合物である。
【化3】
(上記式(1)において、R
1とR
2とは、それぞれ独立に、炭素数が16~21で、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表し、直鎖構造または分岐構造を有し、エステル基、アミド基、エーテル基からなる群から選ばれる1種または2種以上を有していてもよい。R
3とR
4とは、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のヒドロキシア
ルキル基、またはベンジル基を表す。X
m-は、ハロゲンアニオン、無機酸アニオン、1価または2価以上のカルボン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオン、リン酸エステルアニオン、アルキルカーボーネートアニオンからなる群から選ばれる1種を表す。)
【0020】
上記のR1および/またはR2が、エステル基、アミド基、またはエーテル基を有する場合は、それぞれ、下記式(A)、(B)、(C)で示される脂肪族基であることが好ましい。
RA-COO-(CH2)2- (A)
(上記式(A)において、RAは、炭素数が13~18で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。)
RB-CONH2-(CH2)2- (B)
(上記式(B)において、RBは、炭素数が13~18で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。)
RC-O-(CH2)2- (C)
(上記式(C)において、RCは、炭素数が14~19で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。)
【0021】
第4級アンモニウム塩Aとしては、上記の中でも、R1とR2が、同一の、炭素数が16~21で飽和または不飽和の1価の脂肪族基、または、エステル基を含み、炭素数が21(エステル基の炭素も含める)で飽和または不飽和の1価の脂肪族基であり、R3とR4が、両方ともにメチル基、または、一方がメチル基で他方が炭素数2のヒドロキシアルキル基であり、Xm-は、ハロゲンアニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオンからなる群から選ばれる何れか1種である場合が好ましい。
【0022】
第4級アンモニウム塩Aの具体的な化合物としては、塩化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルジオクタデシルアンモニウム、塩化ジメチルジオクタデセニルアンモニウム、キシレンスルホン酸ヒドロキシエチルメチルジオクタデセニルアンモニウム、塩化ジヘキサデシルジメチルアンモニウム、塩化ジヘキサデセニルジメチルアンモニウム、塩化ジエイコシルジメチルアンモニウム、塩化ジエイコセニルジメチルアンモニウム、メチル硫酸ジオクタデカン酸エチルヒドロキシエチルメチルアンモニウム、メチル硫酸ジステアリルアミドエチルジメチルアンモニウム、メチル硫酸ジステアリルオキシエチルジメチルアンモニウム等が挙げられる。上記の中でも、塩化ジメチルジオクタデシルアンモニウム、エチル硫酸ジメチルジオクタデシルアンモニウム、塩化ジメチルジオクタデセニルアンモニウム、キシレンスルホン酸ヒドロキシエチルメチルジオクタデセニルアンモニウムがより好ましく、塩化ジメチルジオクタデシルアンモニウムとエチル硫酸ジメチルジオクタデシルアンモニウムがさらに好ましい。
【0023】
第4級アンモニウム塩Bは、下記式(2)で表される化合物である。
【化4】
(上記式(2)において、R
5は、炭素数が18で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。R
6は、炭素数が1~15で、直鎖構造また
は分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基を表す。R
7は、炭素数1~4のアルキル基を表す。R
8は、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、またはベンジル基を表す。Y
n-は、ハロゲンアニオン、無機酸アニオン、1価または2価以上のカルボン酸アニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオン、リン酸エステルアニオン、アルキルカーボーネートアニオンからなる群から選ばれる1種を表す。)
【0024】
第4級アンモニウム塩Bとしては、上記の中でも、R5が、炭素数が18で、直鎖構造または分岐構造を有する、飽和または不飽和の1価の脂肪族基であり、R6が、メチル基、ベンジル基、炭素数2のヒドロキシアルキル基からなる群から選ばれる何れか1種であり、R7およびR8が、メチル基であり、Yn-は、ハロゲンアニオン、有機スルホン酸アニオン、有機スルホン酸エステルアニオンからなる群から選ばれる何れか1種である場合が好ましい。
【0025】
第4級アンモニウム塩Bの具体的な化合物としては、塩化トリメチルオクタデシルアンモニウム、塩化ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム、キシレンスルホン酸ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム等が挙げられる。上記の中でも、塩化トリメチルオクタデシルアンモニウムと塩化ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムがより好ましい。
【0026】
[水]
本発明の移染防止組成物は上記の通りイオンが関連するメカニズムで移染抑制効果を奏することから、移染防止組成物に含有される水としては、イオン成分が少ない水が好ましく、例えば、イオン交換水や蒸留水が好ましい。
【0027】
[有機溶剤]
有機溶剤としては、移染防止化合物を溶解させて安定化できるものであれば特に制限はないが、グリコール系有機溶剤やアルコール系有機溶剤が好ましい。
グリコール系有機溶剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
アルコール系有機溶剤の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、ベンジルアルコール、3-メチル-3-メトキシブタノール等が挙げられる。
有機溶剤としては、上記のグリコール系有機溶剤および/またはアルコール系有機溶剤の1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
[無機塩、有機塩]
無機塩や有機塩としては、移染防止化合物をイオン的に安定化できるものであれば特に制限はないが、塩化ナトリウムや酢酸ナトリウム等が好ましい。
【0029】
[乳化剤]
乳化剤としては、移染防止化合物を安定的に乳化できるものであれば特に限定は無いが、非イオン(ノニオン)界面活性剤等が好ましい。
非イオン(ノニオン)界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル等のエステル型や、脂肪アルコールエトキシレートやポリエーテル等のエーテル型や、エステル・エーテル型、アルキルアミンオキサイド等の何れのタイプでもよい。
グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
脂肪アルコールエトキシレートの具体例としては、ラウリルアルコールエトキシレート等が挙げられる。
また、ポリエーテルの具体例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。
乳化剤としては、上記の乳化剤の1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
[pH調整剤]
pH調整剤としては、移染防止組成物のpHを3~8に調整し得るものであれば特に限定は無い。具体例としては、酢酸、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、オルソ珪酸ナトリウムが挙げられる。
【0031】
[香料]
香料としては、移染抑制効果を阻害するものでさえなければ、特に制限は無く、一般的な香料を嗜好に応じて用いることができる。
【0032】
[着色剤]
着色剤としては、移染抑制効果を阻害するものでさえなければ、特に制限は無く、食用赤色106号、食用青色1号、C.I.アシッドグリーン25等の、一般的な着色剤を嗜好に応じて用いることができる。
【0033】
[防腐剤]
防腐剤としては、移染抑制効果を阻害するものでさえなければ、特に制限は無く、メチルイソチアゾリノン、クロロメチルイソチアゾリノン、オクチルイソチアゾリノン、ベンズイソチアゾリノン、チアベンダゾール等の一般的な防腐剤を嗜好に応じて用いることができる。
【0034】
[分散染料]
分散染料とは、疎水性の有機染料であり、ポリエステルやポリアミドなどの疎水性合成繊維の染色に好ましく用いられる。両者が疎水性であることによって染色が容易になるものであり、分散染料を親水性の天然繊維の染色に用いることは好ましくない。
分散染料は疎水性であることから水に不溶または難溶であり、通常は微粉末化して、さらに界面活性剤などの分散剤を用いて,コロイドに近い水分散状態で用いられる。
分散染料は、このような水中に分散状態にあることによって、疎水性合成繊維を染色することが可能になるものであり、水中に分散させた状態で用いられることで分散染料と呼ばれる。
分散染料の色に特に制限は無く、各種の色の分散染料を用いることができる。
分散染料を化学構造的に分類すると、アゾ系、アントラキノン系染料、キノフタロン系、ニトロ系,スチリル系,メチン系などに分類され、各種の色や化学構造のものを、1種または2種以上用いることができる。
分散染料の水性分散液中の濃度は、特に限定は無いが、0.1質量%以上、3質量%以下が好ましい。上記範囲よりも濃度が低いと染色効果が不十分になる虞があり、上記範囲よりも高くても染色効果はさほど変わらない。
【0035】
[ポリエステル製品]
本発明において、ポリエステル製品とは、ポリエステル繊維、ポリエステル繊維を用いて作製された織布、編布および不織布等を指すものである。ポリエステルはポリエステル構造を有する樹脂であり、具体的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート
(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等が挙げられる。上記の樹脂は、各々純粋な重合原料以外の共重合原料を用いて重合して得られた共重合体であってもよく、異種の樹脂や各種添加剤を含有した樹脂組成物であってもよい。
【0036】
[移染防止組成物の調製方法]
本発明の移染防止組成物は、例えば以下の方法によって調整することができる。
均一に溶解した溶液状の移染防止組成物を調製する場合には、移染防止化合物と溶剤と各種成分とを、必要に応じて加熱して、混合して均一化することで、移染防止組成物を得ることができる。
乳液状の移染防止組成物を調製する場合には、まず、移染防止化合物と、水以外の各種成分(安定化剤、乳化剤等、香料、pH調整剤等)とを加熱混合して、加熱混合液を得る。
そして、上記で得た加熱混合液に熱水を添加して、または、上記で得た加熱混合液を熱水に添加して、攪拌して乳化する。
十分に乳化が進んだら、冷却して、取り出し、移染防止組成物を得ることができる。
【0037】
≪移染防止組成物による移染防止処理方法≫
移染防止組成物による移染防止処理は、処理対象のポリエステル製品の表面に移染防止組成物を接触させることにより行われる。この際、該ポリエステル製品は洗浄されて清浄であることが好ましい。
具体的な移染防止処理方法としては、浴液に移染防止組成物を加えて移染防止処理液を調製して、処理対象のポリエステル製品を浸漬または濯いで、脱水し、乾燥する方法が挙げられる。
例えば、ポリエステル製品を洗濯し、最終のすすぎ液に移染防止組成物を加えて移染防止処理液となして移染防止処理することが挙げられる。この場合、すすぎ前の洗濯液による洗濯時や早い段階のすすぎ時に移染防止組成物を加えてしまうと、ポリエステル製品の洗濯による清浄化効果やすすぎ効果を阻害してしまい易いため、最終のすすぎ時に加えることが好ましい。但し、ポリエステル製品が新品の場合には、最初の洗濯時に大きな移染が発生する為、洗濯の前にこの移染防止処理を施すことが好ましい。
この場合の移染防止処理液中の移染防止化合物の濃度は、0.1~5質量%が好ましく、0.3~3質量%がより好ましい。上記範囲よりも低いと十分な移染抑制効果を発揮しない虞があり、上記範囲よりも高くても、効果はあまり変化しない。
移染防止処理液の温度は、20~40℃が好ましく、浸漬(濯ぎ)時間は1~5分間が好ましい。
上記の処理は、移染防止組成物から生じた第4級アンモニウムカチオンの、ポリエステル製品上での付着量を、ポリエステル製品に対して、0.05~2.5質量%なる好ましい範囲に調整するものである。
付着量は、移染防止組成物を含有する処理液にポリエステル製品を浸漬させ、その後脱水、乾燥した際に、下記式で示される絞り率が50%程度となることから算出される。
絞り率(%)=(脱水直後の質量-乾燥時の質量)/乾燥時の質量
【0038】
異なる移染防止処理方法としては、液状の移染防止組成物を処理対象のポリエステル製品の表面にスプレー噴霧し、乾燥する方法が挙げられる
この場合も、移染防止処理されるポリエステル製品は清浄であることが好ましい。ポリエステル製品は濡れていても、乾いていてもよい。
そして、この場合の第4級アンモニウムカチオンの付着量は、ポリエステル製品に対して、0.05~2.5質量%が好ましい。
【0039】
[移染抑制効果の評価方法]
本発明における移染抑制効果は、下記の手順で評価することができる。
(1)移染防止処理済品を用いた場合の色彩値測定
ラウンダオメータに、移染防止処理済ポリエステル製紺色染色布(4×5cmに裁断したもの)4枚と、ポリエステル100%の未洗濯白色布(4×5cmに裁断したもの)2枚と、スチール球20ヶを入れ、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠して、下記の条件で洗濯し、25℃の流水で濯ぎ、乾燥して、洗濯後白色布を得る。
洗濯液組成:イオン交換水+界面活性剤1(0.05質量%)+pH調整剤2(0.2質量%)
洗濯液量:50ml
洗濯温度:60℃
洗濯時間:30分間
そして、色彩色差計CR-200(コニカミノルタ(株)社製)を用いて、JIS Z8781-4の規定に準じて、未洗濯白布と洗濯後白布の各々の色彩値(L*値、a*値、b*値)を測定し、下記式によるΔE値を算出し、ΔE1とする。
ここで、ΔEが小さいほど、洗濯前後での白布の色目変化が小さいことを示す。
ΔL*=L*(洗濯後白布)-L*(未洗濯白布)
Δa*=a*(洗濯後白布)-a*(未洗濯白布)
Δb*=b*(洗濯後白布)-b*(未洗濯白布)
ΔE=(ΔL2+Δa2+Δb2)1/2
【0040】
(2)移染防止未処理品を用いた場合の色彩値測定
次に、移染防止処理済ポリエステル製紺色染色布を、未移染防止処理のポリエステル製紺色染色織布に変えた以外は上記と同様に操作して、洗濯後白色布を得る。
そして、同様に色彩値を測定してΔE値を算出し、ΔE2とする。
【0041】
(3)移染抑制効果の算出と判定
上記で算出したΔE1とΔE2とから、ΔE2-ΔE1を算出する。
ここで、ΔE2-ΔE1が大きいほど、移染抑制効果が高いことを示す。
そして、下記の判定基準で結果を分類し、A~Dを合格とすることが好ましい。
A:ΔE2-ΔE1が3.0以上
B:ΔE2-ΔE1が2.5以上~3.0未満
C:ΔE2-ΔE1が1.5以上~2.5未満
D:ΔE2-ΔE1が1.0以上~1.5未満
E:ΔE2-ΔE1が0.5以上~1.0未満
F:ΔE2-ΔE1が0.5未満
【0042】
≪移染防止処理されたポリエステル製品≫
本発明のポリエステル製品は、本発明の移染防止組成物を用いて移染防止処理されたポリエステル製品、および/または本発明の移染防止処理方法によって移染防止処理されたポリエステル製品である。
また、該ポリエステル製品は、分散染料によって染色されたものであり、染色された色に特に限定は無い。
本発明のポリエステル製品は、上記の移染防止処理によってJIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠した、下記のような条件の洗浄方法で洗浄した際にJIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))の級が、該移染防止処理によって0.5~2向上している。
洗濯液組成:イオン交換水+界面活性剤1(0.05質量%)+pH調整剤2(0.2質量%)
洗濯液量:50ml
洗濯温度:60℃
洗濯時間:30分間
【0043】
また、本発明のポリエステル製品をポリエステル100%の白布とともに、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠した、下記のような条件の洗浄方法で洗浄した際には、該白布への移染性は低い。
洗濯液組成:イオン交換水+界面活性剤1(0.05質量%)+pH調整剤2(0.2質量%)
洗濯液量:50ml
洗濯温度:60℃
洗濯時間:30分間
例えば、色彩色差計CR-200(コニカミノルタ(株)社製)を用いて、JIS Z8781-4の規定に準じて、未洗濯白布と洗濯後白布の各々の色彩値(L*値、a*値、b*値)を測定し、下記式によるΔE1値を算出した場合に、ΔE1を、0.5以上、4.0以下にすることができる。
ここで、ΔE1が小さいほど、洗濯前後での白布の色目変化が小さく、移染性が低いことを示す。
ΔL*=L*(洗濯後白布)-L*(未洗濯白布)
Δa*=a*(洗濯後白布)-a*(未洗濯白布)
Δb*=b*(洗濯後白布)-b*(未洗濯白布)
ΔE1=(ΔL2+Δa2+Δb2)1/2
【実施例】
【0044】
以下の実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
<原料>
実施例で用いた主な原料は下記の通りである。
【0046】
(実施例に用いた移染防止化合物など)
・移染防止化合物1の溶液:塩化ジメチルジオクタデシルアンモニウム。日油(株)社製ニッサンカチオン2ABT(有効分75%)。
・移染防止化合物2の溶液:エチル硫酸メチルエチルジオクタデシルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物3の溶液:塩化ジメチルジオクタデセニルアンモニウム。ライオン(株)社製リポカード2O-75I(有効分75%)。
・移染防止化合物4の溶液:キシレンスルホン酸ヒドロキシエチルメチルジオクタデセニルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物5の溶液:塩化トリメチルオクタデシルアンモニウム。日油(株)社製ニッサンカチオンAB(有効分25%)。
・移染防止化合物6の溶液:塩化ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物7の溶液:キシレンスルホン酸ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物8の溶液:ドデシルベンゼンスルホン酸ヒドロキシエチルジメチルオクタデシルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物9の溶液:臭化ジヘキサデシルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物10の溶液:塩化ジヘキサデセニルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物11の溶液:塩化ジエイコシルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物12の溶液:塩化ジエイコセニルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物13の溶液:メチル硫酸ジオクタデカン酸エチルヒドロキシエチルメチルアンモニウム。ライオン(株)社製ライオンソフターEQ(有効分85%)。
【0047】
【0048】
(比較例に用いた移染防止化合物など)
・移染防止化合物14:臭化ジメチルジテトラデシルアンモニウム。東京化成(株)社製(有効分100%)。
・移染防止化合物15の溶液:塩化ジドコシルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物16の溶液:塩化ジドコセニルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物17の溶液:塩化ドコシルトリメチルアンモニウム。日油(株)社製ニッサンカチオンVB-Mフレーク(有効分80%)。
・移染防止化合物18の溶液:オクチル燐酸ヒドロキシエチルジメチルテトラデシルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物19の溶液:オクチル燐酸ドデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物20の溶液:ブチル燐酸ドデシルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物21の溶液:塩化ベンジルドデシルジメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物22の溶液:塩化ドデシルトリメチルアンモニウム。日油(株)社製ニ
ッサンカチオンBB(有効分30%)。
・移染防止化合物23の溶液:塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム。日油(株)社製ニッサンカチオンPB-300(有効分28%)。
・移染防止化合物24の溶液:塩化エイコシルトリメチルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
・移染防止化合物25の溶液:塩化ジドデシルジメチルアンモニウム。東京化成(株)社製。
・移染防止化合物26の溶液:塩化ジデシルジメチルアンモニウム。ライオン(株)社製リポカード210-80E(有効分80%)。
・移染防止化合物27の溶液:エチル硫酸ジヒドロキシエチルエチルオクタデシルアンモニウム。下記で合成(有効分70%)。
【0049】
【0050】
・移染防止化合物28の溶液:アルキルイミダゾリン。三洋化成(株)社製カチオンSF75-PA(有効分75%)。
・移染防止化合物29:水溶性アミノシリコーン。信越シリコーン(株)製KF-888(有効分100%)。
・移染防止化合物30:ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド。第一工業製薬(株)社製カチオーゲンSPA(有効分100%)。
・移染防止化合物31の溶液:ポリビニルピロリドン。BASF(株)社製ソカランHP-50(有効分96%)。
【0051】
(界面活性剤)
・界面活性剤1:日華化学(株)社製サンモールSL-100。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤。
・界面活性剤2:日華化学(株)社製サンモールSL-80。ポリオキシアルキレンアル
キルエーテル型ノニオン界面活性剤。
・界面活性剤3:日華化学(株)社製サンモールSL-140。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤。
【0052】
(pH調整剤)
・pH調整剤1:酢酸。
・pH調整剤2:炭酸ナトリウム。
・pH調整剤3:水酸化ナトリウム。
・pH調整剤4:オルソ珪酸ナトリウム。
【0053】
(その他)
・グリコール系溶剤1:エチレングリコール
・アルコール系溶剤1:イソプロパノール
・ポリエステル製紺色染色織布1:紺色の分散染料で染色されたポリエステル100%の織布であり、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠したJIS洗濯堅牢度が3級(汚染3級(ポリエステル))のポリエステル製染色物
・ポリエステル製紺色染色織布2:紺色の分散染料で染色されたポリエステル100%の織布であり、ラウンダオメータに、ポリエステル製紺色染色布(4×5cmに裁断したもの)4枚と、ポリエステル100%の未洗濯白色布(4×5cmに裁断したもの)2枚と、スチール球20ヶを入れ、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠して、下記の条件で洗濯し、25℃の流水で濯ぎ、乾燥して、得た洗濯後白色布のΔEがΔE=4.7となるポリエステル製
染色物
洗濯液組成:イオン交換水+界面活性剤1(0.05質量%)+pH調整剤2(0.2質量%)
洗濯液量:50ml
洗濯温度:60℃
洗濯時間:30分間
ΔE=(ΔL2+Δa2+Δb2)1/2
ΔEは、ΔL*、Δa*、Δb*値から算出され、ΔL*、Δa*、Δb*値は、色彩色差計CR-200(コニカミノルタ(株)社製)を用いて、JIS Z8781-4の規定に準じて、未洗濯白布と洗濯後白布の各々の色彩値(L*値、a*値、b*値)を測定し、下記式により算出される。
ΔL*=L*(洗濯後白布)-L*(未洗濯白布)
Δa*=a*(洗濯後白布)-a*(未洗濯白布)
Δb*=b*(洗濯後白布)-b*(未洗濯白布)
【0054】
[移染防止化合物の合成例]
(移染防止化合物4の合成)
先ず、耐圧反応容器(オートクレーブ)に下記原料を仕込んだ。
ジオレイルメチルアミン 50.4質量部
キシレンスルホン酸 15.8質量部、
イオン交換水 10.0質量部
3-メチル-3-メトキシブタノール 20.0質量部
次に、60℃にて窒素置換し、その後、下記を吹き込んだ。
エチレンオキシド 3.8質量部
ここで、モル比ジオレイルメチルアミン/キシレンスルホン酸/エチレンオキシド=1/1/1であり、溶液中のこれらの合計濃度は70質量%である。
そして、90~100℃で2時間攪拌しながら反応を進行させて移染防止化合物4を生成し、冷却し、精製して、移染防止化合物4の溶液(有効分70%)を得た。
【0055】
(移染防止化合物7~8、18~20、27の合成)
移染防止化合物4の合成と同様に、それぞれに該当する原料を用いて、同様なモル比で、条件で移染防止化合物を合成して、移染防止化合物の溶液を得た。
(移染化合物2、6、9~12、15~16、21、24の合成)
一般的に知られている、ハロゲン化アルキルやジエチル硫酸、塩化ベンジル等を用いて該当アミンを四級化する方法により目的の移染防止化合物を合成して、移染防止化合物の溶液を得た。
【0056】
[実施例1]
(移染防止組成物の調製)
下記原料を80℃で加熱混合して、加熱混合液を得た。
移染防止化合物1の溶液 6.67質量部
グリコール系溶剤1 2質量部
アルコール系溶剤1 1質量部
そして、下記を添加して、攪拌して、乳化させた。
熱イオン交換水(80℃) 90.33質量部
十分に乳化した後に冷却して、本発明の移染防止組成物1を得た。
【0057】
(移染防止処理)
そして、上記で得た移染防止組成物1をイオン交換水に加えて、移染防止組成物1の濃度が0.50質量%になるように、移染防止処理液を調製した。
そして、ポリエステル製紺色染色織布1、ポリエステル製紺色染色織布2を、25℃の移染防止処理液に5分間、浴比(ポリエステル製紺色染色織布1または2:移染防止処理液の質量比)1:30で浸漬した後に脱水し、80℃で30分間乾燥して、移染防止処理済ポリエステル製紺色染色織布1、移染防止処理済ポリエステル製紺色染色織布2を得た。
【0058】
(各種評価)
界面活性剤2を0.05質量%、pH調整剤2を0.20質量%含有する洗濯液1を調製して、先ず洗濯液洗浄力を評価し、十分な洗浄力を有していることを確認した。
そして、得られた洗濯液1を用いて、上記で得た移染防止処理済ポリエステル製紺色染色織布1に対して、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠したJIS洗濯堅牢度の評価を行った。同様に、上記で得た移染防止処理済ポリエステル製紺色染色織布2に対して、移染抑制効果の評価を行った。
【0059】
[実施例2~25、比較例4~21]
移染防止組成物と、洗濯液の組成とを、表2に記載された内容に各々変更したこと以外は、実施例1と同様に操作して、移染防止処理済ポリエステル製紺色染色織布と洗濯液とを得て、同様に評価した。
【0060】
[比較例1~3]
移染防止組成物に移染防止化合物を含有させなかったこと以外は、実施例1と同様に操作して、同様に評価した。
【0061】
<結果まとめ>
本発明の移染防止組成物を用いて移染防止処理を行った全実施例は、良好なJIS洗濯堅牢度変化および移染抑制効果を示した。
一方、移染防止化合物で移染防止処理しなかった比較例1~3と、本発明に該当しない移染防止化合物を用いて移染防止処理した比較例4~21は、不十分なJIS洗濯堅牢度
変化および移染抑制効果を示した。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
<評価方法>
【0072】
[洗濯液の洗浄力]
ラウンダオメータに洗濯液50mlと、湿式人工汚染布(財団法人洗濯科学協会製、4×5cmに裁断したもの)4枚と、スチール球20ヶとを入れ、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠して、60℃で10分間洗浄し、25℃の流水ですすぎ、乾燥して、洗浄後の湿式人工汚染布を得た。
そして、白布と、洗浄前の湿式人工汚染布と、洗浄後の湿式人工汚染布との、表面反射率(550nm)を測定して、下記式を用いて洗浄率を算出した。
R0:白布の表面反射率
R1:洗浄前の湿式人工汚染布の表面反射率
R2:洗浄後の湿式人工汚染布の表面反射率
洗浄率(%)=(R2-R1)/(R0-R1)×100
判定基準
○:洗浄率が40%以上
×:洗浄率が40%未満
【0073】
[JIS洗濯堅牢度]
JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠して、ポリエステル製品のJIS洗濯堅牢度(汚染(ポリエステル))の級を決定した。
【0074】
[移染抑制効果]
(1)移染防止処理済品の色彩値測定
ラウンダオメータに、移染防止処理済ポリエステル製紺色染色織布(4×5cmに裁断したもの)4枚と、未洗濯ポリエステル100%白色織布(4×5cmに裁断したもの)2枚と、スチール球20ヶとを入れ、JIS L0844 2011に定められたB-7法に準拠して、下記の条件で洗濯し、25℃の流水ですすぎ、乾燥して、洗濯済ポリエステル100%白色織布を得た。
洗濯液組成:イオン交換水+界面活性剤1(0.05質量%)+pH調整剤2(0.2質量%)
洗濯液量:50ml
洗濯温度:60℃
洗濯時間:30分間
そして、色彩色差計CR-200(コニカミノルタ(株)社製)を用いて、JIS Z8781-4の規定に準じて、未洗浄ポリエステル100%白色織布と洗濯済ポリエステル100%白色織布の各々の色彩値(L*値、a*値、b*値)を測定し、下記式によるΔE値を算出し、ΔE1とした。
ここで、ΔE1が小さいほど、洗濯前後での白布の色目変化が小さいことを示す。
ΔL*=L*(洗濯済)-L*(未洗濯)
Δa*=a*(洗濯済)-a*(未洗濯)
Δb*=b*(洗濯済)-b*(未洗濯)
ΔE=(ΔL2+Δa2+Δb2)1/2
【0075】
(2)移染防止未処理品の色彩置測定
次に、移染防止処理済ポリエステル製紺色染色織布を、未処理のポリエステル製紺色染色織布に変えた以外は上記と同様に操作して、洗濯済ポリエステル100%白色織布を得た。
そして、同様に色彩値を測定してΔE値を算出し、ΔE2とした。
【0076】
(3)移染抑制効果の算出と判定
上記で算出したΔE1とΔE2とから、ΔE2-ΔE1を算出した。
ここで、ΔE2-ΔE1が小さいほど、移染抑制効果が高いことを示す。
そして、下記の判定基準で結果を分類し、A~Dを合格とした。
A:ΔE2-ΔE1が3.0以上
B:ΔE2-ΔE1が2.5以上~3.0未満
C:ΔE2-ΔE1が1.5以上~2.5未満
D:ΔE2-ΔE1が1.0以上~1.5未満
E:ΔE2-ΔE1が0.5以上~1.0未満
F:ΔE2-ΔE1が0.5未満