(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】有機ハイドライド製造装置および有機ハイドライドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20231227BHJP
C25B 3/25 20210101ALI20231227BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231227BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20231227BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20231227BHJP
【FI】
C25B9/00 G
C25B3/25
C25B9/23
C25B15/08 302
C25B11/03
(21)【出願番号】P 2020000685
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】三好 康太
(72)【発明者】
【氏名】永塚 智三
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154865(JP,A)
【文献】特開平7-161358(JP,A)
【文献】特開昭62-280385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 3/25
C25B 9/23
C25B 15/08
C25B 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する電解質膜と、
前記電解質膜の一方の側に設けられ、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成するカソード触媒層と、
前記電解質膜の前記一方の側とは反対側に設けられ、水を酸化してプロトンを生成するアノード電極と、
前記カソード触媒層の前記電解質膜とは反対側に設けられ、前記被水素化物および前記有機ハイドライドを通過させる拡散層と、を備え、
前記拡散層は、高親水性領域と、低親水性領域と、を含み、
前記高親水性領域は、前記低親水性領域よりも親水性が高く、前記低親水性領域は、前記高親水性領域よりも親水性が低く前記高親水性領域よりも前記カソード触媒層側に配置される有機ハイドライド製造装置。
【請求項2】
前記低親水性領域は、前記カソード触媒層に接する請求項1に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項3】
前記有機ハイドライド製造装置は、前記拡散層の前記カソード触媒層とは反対側に設けられるエンドプレートを備え、
前記エンドプレートは、
前記拡散層の面内方向における一端側に接して前記拡散層に供給される前記被水素化物が流れる供給流路と、
前記拡散層の面内方向における他端側に接して前記拡散層から排出される前記有機ハイドライドが流れる排出流路と、を有する請求項1または2に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項4】
前記高親水性領域は、前記エンドプレートに接する請求項3に記載の有機ハイドライド製造装置。
【請求項5】
プロトン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に設けられ、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成するカソード触媒層と、前記電解質膜の前記一方の側とは反対側に設けられ、水を酸化してプロトンを生成するアノード電極と、前記カソード触媒層の前記電解質膜とは反対側に設けられ、高親水性領域および低親水性領域を含み、前記被水素化物および前記有機ハイドライドを通過させる拡散層と、を備え、前記高親水性領域が前記低親水性領域よりも親水性が高く、前記低親水性領域が前記高親水性領域よりも親水性が低く前記高親水性領域よりも前記カソード触媒層側に配置される有機ハイドライド製造装置における前記アノード電極に水を供給して、当該水を電気分解してプロトンを生成し、
前記カソード触媒層に被水素化物を供給して、前記電解質膜を通過した前記プロトンで前記被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成することを含む有機ハイドライドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハイドライド製造装置および有機ハイドライドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水からプロトンを生成する酸化極と、不飽和結合を有する有機化合物を水素化する還元極と、を備える有機ハイドライド生成装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この有機ハイドライド生成装置では、酸化極に水を供給し、還元極に被水素化物を供給しながら酸化極と還元極との間に電流を流すことで、被水素化物に水素が付加されて有機ハイドライドが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上述した有機ハイドライドを製造する技術について鋭意検討を重ねた結果、従来の技術には、有機ハイドライド製造装置の電解電圧の上昇を抑制する上で改善の余地があることを認識するに至った。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機ハイドライド製造装置の電解電圧の上昇を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、有機ハイドライド製造装置である。この装置は、プロトン伝導性を有する電解質膜と、電解質膜の一方の側に設けられ、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成するカソード触媒層と、電解質膜の一方の側とは反対側に設けられ、水を酸化してプロトンを生成するアノード電極と、カソード触媒層の電解質膜とは反対側に設けられ、被水素化物および有機ハイドライドを通過させる拡散層と、を備える。拡散層は、高親水性領域と、低親水性領域と、を含む。高親水性領域は、低親水性領域よりも親水性が高く、低親水性領域は、高親水性領域よりも親水性が低く高親水性領域よりもカソード触媒層側に配置される。
【0007】
本発明の他の態様は、有機ハイドライドの製造方法である。この製造方法は、上記態様の有機ハイドライド製造装置におけるアノード電極に水を供給して、当該水を電気分解してプロトンを生成し、カソード触媒層に被水素化物を供給して、電解質膜を通過したプロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成することを含む。
【0008】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機ハイドライド製造装置の電解電圧の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置の断面図である。
【
図2】有機ハイドライド製造装置の一部分を拡大して示す模式図である。
【
図3】電解時間と電解電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、この用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
図1は、実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置の断面図である。有機ハイドライド製造装置1は、被水素化物を電気化学還元反応により水素化する電解セルであり、主な構成として電解質膜2と、カソード触媒層4と、アノード電極6と、拡散層8と、一対のエンドプレート10とを備える。電解質膜2、カソード触媒層4、アノード電極6、拡散層8およびエンドプレート10はそれぞれ、おおよそ平板状あるいは薄膜状である。
【0013】
電解質膜2は、カソード触媒層4とアノード電極6との間に配置され、プロトン伝導性を有する固体高分子形電解質膜で構成される。固体高分子形電解質膜は、プロトン(H+)が伝導する材料であれば特に限定されないが、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系イオン交換膜が挙げられる。電解質膜2は、プロトンを選択的に伝導する一方で、カソード触媒層4とアノード電極6との間で物質が混合したり拡散したりすることを抑制する。電解質膜2の厚さは、特に限定されないが例えば5~300μmである。電解質膜2の厚さを5μm以上とすることで、電解質膜2の望ましい強度をより確実に得ることができる。また、電解質膜2の厚さを300μm以下とすることで、イオン移動抵抗が過大になることを抑制することができる。
【0014】
カソード触媒層4は、電解質膜2の一方の側に設けられる、還元極の触媒層である。本実施の形態のカソード触媒層4は、電解質膜2の一方の主表面に接している。カソード触媒層4は、カソード触媒として例えば白金(Pt)やルテニウム(Ru)等を含有し、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成する。また、カソード触媒層4は、カソード触媒を担持する触媒担体を有する。触媒担体は、例えば多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物等の電子伝導性材料で構成される。カソード触媒層4の厚さは、特に限定されないが例えば20~50μmである。カソード触媒層4の厚さを20μm以上とすることで、電解反応に必要な触媒量をより確実に得ることができる。また、カソード触媒層4の厚さを50μm以下とすることで、被水素化物の拡散性が過度に低下することを抑制することができる。
【0015】
アノード電極6は、電解質膜2の一方の側とは反対側(言い換えれば電解質膜2の他方の側)、つまりカソード触媒層4とは反対側に設けられる電極(酸化極)である。本実施の形態のアノード電極6は、電解質膜2の他方の主表面に接している。アノード電極6は、アノード触媒として例えばイリジウム(Ir)やルテニウム(Ru)、白金等の金属またはこれらの金属酸化物を含有し、水を酸化してプロトンを生成する。アノード触媒は、電子伝導性を有する基材に分散担持またはコーティングされていてもよい。基材は、例えばチタン(Ti)やステンレス鋼などの金属を主成分とする材料で構成される。また、基材の形態としては、織布や不織布のシート(繊維径:例えば10~30μm)、メッシュ(径:例えば500~1000μm)、多孔性の焼結体、発泡成型体(フォーム)、エキスパンドメタル等が例示される。
【0016】
アノード電極6が、基材にアノード触媒が分散担持またはコーティングされた構造である場合、アノード触媒および基材を含むアノード電極6の厚さは、特に限定されないが例えば0.05~1mmである。アノード電極6の厚さを0.05mm以上とすることで、電解反応に必要な触媒量をより確実に得ることができる。また、アノード電極6の厚さを1mm以下とすることで、被水素化物の拡散性が過度に低下することを抑制することができる。また、アノード触媒が基材にコーティングされて層をなす場合、層の厚さは、特に限定されないが例えば0.1~50μmである。また、アノード電極6は、電解質膜2の主表面にアノード触媒が直接コーティングされるなどして形成される、電子導電性と触媒活性を有する層で構成されてもよい。この場合、アノード電極6を構成する層の厚さは、特に限定されないが例えば0.1~50μmである。これらの層の厚さを0.1μm以上とすることで、電解反応に必要な触媒量をより確実に得ることができる。また、これらの層の厚さを50μm以下とすることで、被水素化物の拡散性が過度に低下することを抑制することができる。
【0017】
拡散層8は、カソード触媒層4の電解質膜2とは反対側に設けられる。本実施の形態の拡散層8は、カソード触媒層4の電解質膜2とは反対側の主表面に接している。拡散層8は、被水素化物および有機ハイドライドを通過させる。拡散層8は、外部から供給される液状の被水素化物をカソード触媒層4により均一に拡散させる機能を担う。また、拡散層8は、カソード触媒層4で生成される有機ハイドライドをカソード触媒層4の外部へ排出することを許容する。拡散層8は、カーボンや金属等の導電性材料で構成される。また、拡散層8は、繊維あるいは粒子の焼結体、発泡成形体といった多孔体である。拡散層8を構成する材料のより具体的な例としては、カーボンの織布(カーボンクロス)、カーボンの不織布、カーボンペーパー等が挙げられる。拡散層8の厚さは、特に限定されないが例えば200~700μmである。拡散層8の厚さを200μm以上とすることで、被水素化物の拡散性をより確実に高めることができる。また、拡散層8の厚さを700μm以下とすることで、電気的抵抗が過大になることを抑制することができる。
【0018】
一対のエンドプレート10は、例えばステンレススチール(SUS)、チタン(Ti)等の金属等で構成される。各エンドプレート10の厚さは、特に限定されないが例えば1~30mmである。エンドプレート10の厚さを1mm以上とすることで、加工性が著しく損なわれることを回避できる。また、エンドプレート10の厚さを30mm以下とすることで、コストの増加を抑制することができる。一方のエンドプレート10aは、拡散層8のカソード触媒層4とは反対側に設けられる。本実施の形態のエンドプレート10aは、拡散層8のカソード触媒層4とは反対側の主表面に接している。エンドプレート10aと、電解質膜2と、電解質膜2およびエンドプレート10aの間に配置される枠状のスペーサ12とによって、カソード触媒層4および拡散層8が収容されるカソード室が画成されている。スペーサ12は、カソード液がカソード室の外へ漏洩することを防ぐシール材を兼ねる。カソード液は、カソード室に供給される、被水素化物および有機ハイドライドの混合液である。なお、一例としてのカソード液は、有機ハイドライド製造装置1の運転開始前は有機ハイドライドを含まず、運転開始後に電解によって生成された有機ハイドライドが混入することで、被水素化物と有機ハイドライドとの混合液となる。
【0019】
エンドプレート10aは、拡散層8側を向く主表面に供給流路14と、排出流路16とを有する。本実施の形態の供給流路14および排出流路16は、エンドプレート10aの主表面に設けられた溝で構成されている。供給流路14は、拡散層8の面内方向における一端側に接して、その内部には拡散層8に供給されるカソード液が流れる。排出流路16は、拡散層8の面内方向における他端側に接して、その内部には拡散層8から排出されるカソード液が流れる。拡散層8の面内方向とは、電解質膜2、カソード触媒層4等の積層方向に対して直交する平面の広がる方向である。本実施の形態では、拡散層8における鉛直方向の下端に供給流路14が接し、鉛直方向の上端に排出流路16が接し、各流路は水平方向に延びる。なお、エンドプレート10aの表面には、供給流路14と排出流路16とを連結する溝状の流路が設けられてもよい。これにより、カソード室内での被水素化体の偏流や、カソード液がカソード室内を通るときに受ける圧力損失が過大になることを抑制できる。供給流路14、排出流路16、および両流路を連結する流路の延在方向や形状は、上述したものに限らず、実施者が適宜設定することができる。
【0020】
供給流路14には、カソード液貯蔵槽(図示せず)が接続される。カソード液貯蔵槽には、カソード液が収容される。カソード液に含まれる被水素化物は、有機ハイドライド製造装置1での電気化学還元反応により水素化されて有機ハイドライドとなる化合物、言い換えれば有機ハイドライドの脱水素化体である。被水素化物は、好ましくは20℃、一気圧で液体である。
【0021】
本実施の形態で用いられる被水素化物および有機ハイドライドは、水素化反応/脱水素反応を可逆的に起こすことにより、水素を添加/脱離できる有機化合物であれば特に限定されず、アセトン-イソプロパノール系、ベンゾキノン-ヒドロキノン系、芳香族炭化水素系等広く用いることができる。これらの中で、エネルギー輸送時の運搬性等の観点から、トルエン-メチルシクロヘキサン系に代表される芳香族炭化水素系が好ましい。
【0022】
被水素化物として用いられる芳香族炭化水素化合物は、少なくとも1つの芳香環を含む化合物であり、例えば、ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン、ジフェニルエタン等が挙げられる。アルキルベンゼンには、芳香環の1~4の水素原子が炭素数1~6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基で置換された化合物が含まれ、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン等が挙げられる。アルキルナフタレンには、芳香環の1~4の水素原子が炭素数1~6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基で置換された化合物が含まれ、例えばメチルナフタレン等が挙げられる。これらは単独で用いられても、組み合わせて用いられてもよい。
【0023】
被水素化物は、好ましくはトルエンおよびベンゼンの少なくとも一方である。なお、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、N-アルキルピロール、N-アルキルインドール、N-アルキルジベンゾピロール等の含窒素複素環式芳香族化合物も、被水素化物として用いることができる。有機ハイドライドは、上述の被水素化物が水素化されたものであり、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、ピペリジン等が例示される。
【0024】
供給流路14とカソード液貯蔵槽との間には、ギアポンプやシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等で構成されるカソード液供給装置(図示せず)が設けられる。カソード液貯蔵槽に収容されたカソード液は、カソード液供給装置によって供給流路14に送られ、拡散層8を介してカソード触媒層4に供給される。
【0025】
一例として、排出流路16はカソード液貯蔵槽に接続される。カソード触媒層4において生成された有機ハイドライドと未反応の被水素化物とを含むカソード液は、排出流路16を介してカソード液貯蔵槽に戻される。
【0026】
他方のエンドプレート10bは、アノード電極6の電解質膜2とは反対側に設けられる。本実施の形態のエンドプレート10bは、アノード電極6の電解質膜2とは反対側の主表面に接している。エンドプレート10bと、電解質膜2と、電解質膜2およびエンドプレート10bの間に配置される枠状のスペーサ18とによって、アノード電極6が収容されるアノード室が画成されている。スペーサ18は、アノード液がアノード室の外へ漏洩することを防ぐシール材を兼ねる。アノード液は、アノード室に供給される水を含む液体である。アノード液としては、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸水溶液、純水、イオン交換水等が例示される。なお、アノード室には、アノード電極6の電解質膜2とは反対側に配置されてアノード電極6を電解質膜2に押し当てる電子伝導性の緩衝材が収容されてもよい。この緩衝材により、電解質膜2とアノード電極6との間の接触抵抗を低減することができる。
【0027】
エンドプレート10bは、アノード電極6側を向く主表面に供給流路20と、排出流路22と、連結流路24とを有する。本実施の形態の供給流路20、排出流路22および連結流路24は、エンドプレート10bの主表面に設けられた溝で構成されている。供給流路20は、アノード電極6の面内方向における一端側に接して、その内部にはアノード電極6に供給される水が流れる。排出流路22は、アノード電極6の面内方向における他端側に接して、その内部にはアノード電極6から排出される水が流れる。連結流路24は、一端が供給流路20に接続され、他端が排出流路22に接続される。
【0028】
本実施の形態では、アノード電極6における鉛直方向の下端に供給流路20が接し、鉛直方向の上端に排出流路22が接する。また、供給流路20および排出流路22は水平方向に延び、連結流路24は鉛直方向に延びる。エンドプレート10bには複数の連結流路24が設けられ、各連結流路24は、水平方向に所定の間隔をあけて配置されている。供給流路20、排出流路22および連結流路24の延在方向や形状は、上述したものに限らず、実施者が適宜設定することができる。
【0029】
供給流路20には、アノード液貯蔵槽(図示せず)が接続される。アノード液貯蔵槽には、アノード液が収容される。供給流路20とアノード液貯蔵槽との間には、ギアポンプやシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等で構成されるアノード液供給装置(図示せず)が設けられる。アノード液貯蔵槽に収容されたアノード液は、アノード液供給装置によって供給流路20に送られ、一部は直に、他の一部は連結流路24を経由してアノード電極6に供給される。なお、エンドプレート10aには、供給流路14と排出流路16とをつなぐ連結流路が設けられていないため、カソード液は供給流路14から拡散層8およびカソード触媒層4を経由して排出流路16に到達する。
【0030】
一例として、排出流路22はアノード液貯蔵槽に接続される。アノード電極6に供給されたアノード液は、排出流路22を介してアノード液貯蔵槽に戻される。
【0031】
有機ハイドライド製造装置1には、制御部(図示せず)が接続されてもよい。制御部は、有機ハイドライド製造装置1の電解電圧(つまりカソード触媒層4とアノード電極6との電位差)、または有機ハイドライド製造装置1を流れる電流を制御する。制御部は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現される。
【0032】
制御部には、有機ハイドライド製造装置1に設けられる電位検出部(図示せず)から、各電極の電位あるいは有機ハイドライド製造装置1の電解電圧を示す信号が入力される。各電極の電位や有機ハイドライド製造装置1の電解電圧は、公知の方法で検出することができる。一例として、参照極が電解質膜2に設けられる。参照極は、参照電極電位に保持される。例えば参照極は、可逆水素電極(RHE:Reversible Hydrogen Electrode)である。電位検出部は、参照極に対する各電極の電位を検出して、検出結果を制御部に送信する。電位検出部は、例えば公知の電圧計で構成される。
【0033】
制御部は、電位検出部の検出結果に基づいて、有機ハイドライド製造装置1の運転中に電源の出力や、カソード液供給装置およびアノード液供給装置の駆動等を制御する。有機ハイドライド製造装置1の電力源は、好ましくは太陽光、風力、水力、地熱発電等で得られる再生可能エネルギーであるが、特にこれに限定されない。
【0034】
有機ハイドライド製造装置1において、被水素化物の一例としてトルエン(TL)を用いた場合に起こる反応は、以下の通りである。被水素化物としてトルエンを用いた場合、得られる有機ハイドライドはメチルシクロヘキサン(MCH)である。
<アノードでの電極反応>
H2O→1/2O2+2H++2e-
<カソードでの電極反応>
TL+6H++6e-→MCH
【0035】
すなわち、カソード触媒層4での電極反応と、アノード電極6での電極反応とが並行して進行する。そして、アノード電極6における水の電気分解により生じたプロトンが、電解質膜2を介してカソード触媒層4に供給される。カソード触媒層4に供給されたプロトンは、カソード触媒層4においてトルエンの水素化に用いられる。これにより、トルエンが水素化されて、メチルシクロヘキサンが生成される。
【0036】
したがって、本実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置1によれば、水の電気分解と被水素化物の水素化反応とを1ステップで行うことができる。このため、水電解等で水素を製造するプロセスと、トルエンをプラント等のリアクタで化学水素化するプロセスとの2段階プロセスで有機ハイドライドを製造する従来技術に比べて、有機ハイドライドの製造効率を高めることができる。また、化学水素化を行うリアクタや、水電解等で製造された水素を貯留するための高圧容器等が不要であるため、大幅な設備コストの低減を図ることができる。
【0037】
続いて、本実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置1が備える拡散層8について詳細に説明する。
図2は、有機ハイドライド製造装置1の一部分を拡大して示す模式図である。拡散層8は、高親水性領域26と、低親水性領域28とを有する。本実施の形態の高親水性領域26および低親水性領域28はそれぞれ、拡散層8の面内方向(電解質膜2、カソード触媒層4等の積層方向と直交する方向)の全域に拡がる層状である。なお、拡散層8の面内方向における一部の領域のみに高親水性領域26と低親水性領域28との積層構造が設けられてもよい。高親水性領域26は、低親水性領域28よりも親水性が高い領域である。一方、低親水性領域28は、高親水性領域26よりも親水性が低い領域である。高親水性領域26および低親水性領域28は、拡散層8の構成材料に公知の親水処理や撥水処理を施すことで作製することができる。
【0038】
例えば、拡散層8の構成材料の一部にテフロン(登録商標)等の撥水性高分子材料をコーティングすることで、当該部分を低親水性領域28とし、残りの未処理部分を高親水性領域26とすることができる。この場合、低親水性領域28の表面張力は例えば12~20mN/mとなり、水の表面張力72.8mN/mよりもトルエンの表面張力28.4mN/mに近づくため、水よりもトルエンに対する親和性が高まる。
【0039】
あるいは、拡散層8の構成材料の一部にフラクタル構造等の撥水性微細構造を設けることで、当該部分を低親水性領域28とし、残りの未処理部分を高親水性領域26とすることができる。また、拡散層8の構成材料の一部を酸性溶液で洗浄したり熱処理を施したりすることにより当該部分に親水性を付与することで、当該部分を高親水性領域26とし、残りの未処理部分を低親水性領域28とすることができる。
【0040】
また、撥水剤や親水剤の濃度勾配を有する溶液に拡散層8の構成材料の全体あるいは一部を浸漬することで、拡散層8の親水性を連続的に変化させることもできる。親水性は、拡散層8の厚み方向における一端側から他端側に向かって徐々に大きくなっていく。この場合、拡散層8の厚み方向において任意の位置にある領域が高親水性領域26となり、高親水性領域26よりもカソード触媒層4側に位置する領域が低親水性領域28となり得る。
【0041】
また、高親水性領域26および低親水性領域28を有する拡散層8は、親水性の異なる材料を積層することで作製することもできる。つまり、親水性が相対的に高い板状の多孔質材と、親水性が相対的に低い板状の多孔質材とを積層することで、拡散層8に高親水性領域26および低親水性領域28を具備させることができる。各多孔質材における親水性の相違は、上述の親水処理を施すか否か、上述の撥水処理を施すか否か、あるいは一方の多孔質材に親水処理を施し他方の多孔質材に撥水処理を施す、といった手法により実現することができる。
【0042】
高親水性領域26と低親水性領域28とは、水の接触角が異なる。高親水性領域26における水の接触角は、好ましくは40°以下であり、より好ましくは30°以下であり、さらに好ましくは20°以下である。低親水性領域28における水の接触角は、好ましくは70°以上であり、より好ましくは80°以上であり、さらに好ましくは90°以上である。
【0043】
高親水性領域26は、低親水性領域28よりもエンドプレート10a側に配置され、低親水性領域28は、高親水性領域26よりもカソード触媒層4側に配置される。本実施の形態においては、低親水性領域28はカソード触媒層4に接し、高親水性領域26はエンドプレート10aに接する。
【0044】
有機ハイドライド製造装置1において電極反応が起こると、上述のようにアノード電極6側からカソード触媒層4側に電解質膜2を介してプロトンが移動する。このとき、プロトンに随伴して水もカソード触媒層4側に移動する。この水がカソード触媒層4や拡散層8に残ると、カソード触媒層4への被水素化物の供給が阻害され得る。カソード触媒層4への被水素化物の供給が阻害されると、有機ハイドライド製造装置1の駆動に要するセル電圧が上昇し、有機ハイドライドの製造効率が低下してしまう。
【0045】
一方で、アノード電極6側からカソード触媒層4側への水の移動は電流掃引に伴うものであるため、電極反応の原理上は避けることができない。そこで、本実施の形態では、拡散層8に高親水性領域26および低親水性領域28を設けることで、水による被水素化物の供給阻害を抑制することを達成した。
【0046】
すなわち、拡散層8は、低親水性領域28がカソード触媒層4側に配置され、高親水性領域26がエンドプレート10a側に配置された構造を有する。このため、アノード電極6側からカソード触媒層4に到達した水Wは、カソード触媒層4から低親水性領域28に移動し、低親水性領域28から高親水性領域26に移動する。また、低親水性領域28および高親水性領域26に移動した水Wは、供給流路14から排出流路16に向かうカソード液の流れによって、カソード液とともに排出流路16からカソード室の外に排出される。
【0047】
低親水性領域28は、高親水性領域26よりも親水性が低く水の接触角が大きい。このため、
図2に示すように、カソード触媒層4から低親水性領域28に移動した水Wは、低親水性領域28の表面に弾かれて、低親水性領域28中に水滴の状態で分散すると考えられる。一方、高親水性領域26は、低親水性領域28よりも親水性が高く水の接触角が小さい。このため、低親水性領域28から高親水性領域26に移動した水Wは、高親水性領域26を構成する多孔質材の表面を覆うように延び広がり、水膜の状態で存在すると考えられる。
【0048】
低親水性領域28中に分散する水滴が高親水性領域26に移動し、高親水性領域26を構成する多孔質材の表面に馴染んで延び広がることで、低親水性領域28から高親水性領域26への水Wの移動が促進されると考えられる。これにより、カソード触媒層4の近傍に分散している水Wをエンドプレート10a側に誘導することができると考えられる。高親水性領域26に移動した水Wは、水膜状であるためカソード液の流れを受けて多孔質材の表面上を押し流されやすいと考えられる。これにより、カソード触媒層4側からエンドプレート10a側に誘導した水Wをカソード室外に円滑に排出することができると考えられる。
【0049】
また、カソード触媒層4側に配置される低親水性領域28は、言い換えれば高親カソード液性領域である。このため、低親水性領域28は、カソード触媒層4へのカソード液の供給を促進することができる。
【0050】
このように、拡散層8におけるカソード触媒層4側の領域に撥水性を付与し、エンドプレート10a側の領域に親水性を付与することで、カソード触媒層4側の水Wをエンドプレート10a側に誘導でき、カソード触媒層4からの水Wの排出を促進することができる。また、高親水性領域26に進入した水Wはカソード液の流れに沿って移動しやすくなるため、拡散層8からの水Wの排出を促進することができる。そして、カソード触媒層4および拡散層8からの排水が促進されることで、水Wによってカソード触媒層4への被水素化物の供給が阻害されることを抑制することができる。
【0051】
また、低親水性領域28をカソード触媒層4側に配置することで、カソード触媒層4への被水素化物の供給も確保することができる。これらの結果、有機ハイドライド製造装置1の電解電圧が上昇することを抑制することができる。
【0052】
特に、有機ハイドライド製造装置1は、電解質膜2、カソード触媒層4等の積層方向における寸法に比べて、積層方向と直交する面方向の寸法が大きく設定され得る。したがって、カソード触媒層4や拡散層8は、積層方向(厚さ方向)の寸法に比べて、面内方向の寸法が大きくなる。この場合、供給流路14から排出流路16までの距離は、10~150cm程度に達する場合がある。したがって、供給流路14が拡散層8の一端側に、排出流路16が拡散層8の他端側にそれぞれ接続されて、被水素化物が拡散層8の一端側から他端側に向かって流れる構成においては、カソード触媒層4への被水素化物の供給阻害を抑制する上で、拡散層8による排水作用が非常に効果的である。
【0053】
図2には、1つの高親水性領域26と1つの低親水性領域28とが積層された構造が図示されているが、高親水性領域26および低親水性領域28の数は特に限定されない。また、本発明の効果を適切に得られる範囲で、拡散層8には適宜他の層を介在させてもよい。ただし、拡散層8におけるカソード触媒層4と接する部分は、低親水性領域28であることが好ましい。
【0054】
以上説明したように、本実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置1は、プロトン伝導性を有する電解質膜2と、電解質膜2の一方の側に設けられ、プロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成するカソード触媒層4と、電解質膜2の一方の側とは反対側に設けられ、水を酸化してプロトンを生成するアノード電極6と、カソード触媒層4の電解質膜2とは反対側に設けられ、被水素化物および有機ハイドライドを通過させる拡散層8と、を備える。拡散層8は、高親水性領域26と、低親水性領域28と、を含む。高親水性領域26は、低親水性領域28よりも親水性が高く、低親水性領域28は、高親水性領域26よりも親水性が低く高親水性領域26よりもカソード触媒層4側に配置される。これにより、アノード電極6側からカソード触媒層4側に移動する水Wによってカソード触媒層4への被水素化物の供給が阻害されることを抑制できる。このため、有機ハイドライド製造装置1の電解電圧を低減することができる。
【0055】
また、本実施の形態の低親水性領域28は、カソード触媒層4に接する。これにより、カソード触媒層4への被水素化物の供給阻害をより抑制することができ、有機ハイドライド製造装置1の電解電圧の上昇を抑制することができる。
【0056】
また、本実施の形態の有機ハイドライド製造装置1は、拡散層8のカソード触媒層4とは反対側に設けられるエンドプレート10aを備える。エンドプレート10aは、拡散層8の面内方向における一端側に接して拡散層8に供給される被水素化物が流れる供給流路14と、拡散層8の面内方向における他端側に接して拡散層8から排出されるカソード液が流れる排出流路16と、を有する。このような構造を有する場合、拡散層8と排出流路16との接続部、つまりカソード室の出口がカソード触媒層4の周縁部に配置されることになる。カソード室の出口をカソード触媒層4の周縁部に配置すると、当該出口をカソード触媒層4の面内方向の中心部に配置する場合に比べて、カソード触媒層4の各領域から出口までの距離に大きな偏りが生じ、出口までの距離が著しく大きい遠方領域が生じてしまう。この場合、当該遠方領域から排出流路16に至るまでの排水経路が著しく長くなってしまう。このため、拡散層8による排水作用がより有効であり、有機ハイドライド製造装置1の電解電圧の上昇をより効果的に抑制することができる。なお、拡散層8の一部の領域、例えば排出流路16と対向する領域の一部には、低親水性領域28のみの領域が設けられてもよい。
【0057】
また、本実施の形態の高親水性領域26は、エンドプレート10aに接する。これにより、カソード触媒層4への被水素化物の供給阻害をより抑制することができ、有機ハイドライド製造装置1の電解電圧の上昇をより抑制することができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。
【0059】
実施の形態は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[項目1]
実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置(1)におけるアノード電極(6)に水を供給して、当該水を電気分解してプロトンを生成し、
カソード触媒層(4)に被水素化物を供給して、電解質膜(2)を通過したプロトンで被水素化物を水素化して有機ハイドライドを生成することを含む有機ハイドライドの製造方法。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0061】
(実験例1)
PtRu/C触媒TEC61E54(田中貴金属工業社製)の粉末に、5%ナフィオン(登録商標)分散液(デュポン社製)を添加し、適宜溶媒を用いてカソード触媒層用の触媒インクを調製した。触媒インクのナフィオン/カーボン比は0.3とした。また、貴金属量(PtRu量)が1.0mg/cm2となるよう調製した。また、電解質膜として、厚さ175μmのナフィオン(登録商標)117(デュポン社製)を用意した。そして、この電解質膜に触媒インクをスプレー塗布した。その後、80℃で加熱して触媒インク中の溶媒成分を乾燥し、カソード触媒層が積層された電解質膜を得た。
【0062】
四塩化イリジウム/五酸化タンタルの混合水溶液をエキスパンドメタルに塗布し、電気炉にて550℃の熱処理を施した。この操作を複数回繰り返して、酸化イリジウムと酸化タンタルを等モル含むアノード電極を得た。アノード電極中の触媒量は、Ir金属量換算で電極面積当たり12g/m2とした。
【0063】
厚さ250μmのカーボンペーパーに、以下に説明する撥水処理を施して、拡散層において低親水性領域となる低親水性部材を作製した。すなわち、少量の界面活性剤を含むPTFEの水分散液に、厚さ250μmのカーボンペーパーを一定時間浸漬した後、取り出して乾燥させた。この工程を数回繰り返し、カーボンペーパーの全体でPTFEの重量比が均一に5wt%となるようにした。その後、カーボンペーパーを340℃の不活性雰囲気下に15分間置くことで、PTFEの焼結および不必要な界面活性剤の除去を行った。以上の撥水処理により、低親水性部材を得た。また、厚さ250μmのカーボンペーパーに、以下に説明する親水処理を施して、拡散層において高親水性領域となる高親水性部材を作製した。すなわち、60℃の63g/L硝酸水溶液中に、厚さ250μmのカーボンペーパーを1時間浸漬させた。その後、カーボンペーパーを取り出して純水で洗浄し、70℃の乾燥炉で3時間乾燥させた。以上の親水処理により、高親水性部材を得た。得られた低親水性部材と高親水性部材とを積層して、拡散層を作製した。
【0064】
カソード側のエンドプレートとして、切削加工によって供給流路および排出流路が形成された、厚さ30mmのチタン製プレートを用意した。また、アノード側のエンドプレートとして、切削加工によって供給流路、排出流路および連結流路が形成された、厚さ30mmのチタン製プレートを用意した。また、バイトン(登録商標)製のスペーサを2つ用意した。
【0065】
カソード用エンドプレート、カソード用スペーサ、拡散層、カソード触媒層が積層された電解質膜、アノード電極、アノード用スペーサ、アノード用エンドプレートをこの順に積層して、実験例1の有機ハイドライド製造装置を得た。各部材を積層する際、低親水性部材がカソード触媒層側に配置され、高親水性部材がエンドプレート側に配置されるように拡散層の姿勢を定めた。有機ハイドライド製造装置の電極有効面積は、100cm2とした。
【0066】
(実験例2)
2枚の低親水性部材を積層して拡散層を作製した点を除いて、実験例1と同じようにして実験例2の有機ハイドライド製造装置を作製した。
【0067】
(実験例3)
高親水性部材がカソード触媒層側に配置され、低親水性部材がエンドプレート側に配置されるように拡散層の姿勢を定めて各部材を積層した点を除いて、実験例1と同様にして実験例3の有機ハイドライド製造装置を作製した。
【0068】
(実験例4)
2枚の高親水性部材を積層して拡散層を作製した点を除いて、実験例1と同じようにして実験例4の有機ハイドライド製造装置を作製した。
【0069】
各実験例の有機ハイドライド製造装置において、カソード用エンドプレートの供給流路にカソード液としてトルエンを流通させた。また、アノード用エンドプレートの供給流路にアノード液として100g/L硫酸水溶液を流通させた。カソード液およびアノード液の流量は、20mL/分とした。そして、定電流電源の負極をカソードに、正極をアノードにそれぞれ接続して出力電流を印加し、温度60℃、電流密度0.4A/cm
2で電解反応を実施した。また、その際の各有機ハイドライド製造装置の電解電圧を測定した。結果を
図3に示す。
【0070】
図3は、電解時間と電解電圧との関係を示す図である。
図3に示すように、低親水性領域をカソード触媒層側に配置し、高親水性領域をエンドプレート側に配置した実験例1の有機ハイドライド製造装置は、拡散層の全体が低親水性領域である実験例2、高親水性領域をカソード触媒層側に配置し、低親水性領域をエンドプレート側に配置した実験例3、および拡散層の全体が高親水性領域である実験例4の各有機ハイドライド製造装置に比べて、電解電圧の上昇が抑制された。このことから、低親水性領域をカソード触媒層側に配置し、高親水性領域をエンドプレート側に配置することで、有機ハイドライド製造装置の電解電圧の上昇を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1 有機ハイドライド製造装置、 2 電解質膜、 4 カソード触媒層、 6 アノード電極、 8 拡散層、 10,10a,10b エンドプレート、 14 供給流路、 16 排出流路、 26 高親水性領域、 28 低親水性領域。