(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】半導体製造装置用部品
(51)【国際特許分類】
C04B 37/00 20060101AFI20231227BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C04B37/00 A
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2020012287
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三矢 耕平
(72)【発明者】
【氏名】丹下 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】堀田 元樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴道
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016419(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016420(WO,A1)
【文献】特開2019-026550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlNを主成分とする材料により形成された第1のセラミックス部材と、
AlNを主成分とする材料により形成された第2のセラミックス部材と、
前記第1のセラミックス部材と前記第2のセラミックス部材との間に配置され、前記第1のセラミックス部材と前記第2のセラミックス部材とを接合する接合部と、を備える半導体製造装置用部品において、
前記接合部は、
化学式A
(0.8~1)B
(11~12)O
(18~19)(但し、Aは希土類元素であり、BはAlである 以下同じ)で表され、かつ、六方晶の複合酸化物と、化学式A
3B
5O
12で表され、かつ、立方晶の複合酸化物と、化学式A
4B
2O
9で表され、かつ、単斜晶の複合酸化物と、の少なくとも1種のAl-希土類の複合酸化物を含み、
Al
2O
3を含ま
ず、
希土類元素と酸素とのみを有する希土類単一酸化物を含まず、
AlNを含まない、
ことを特徴とする半導体製造装置用部品。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体製造装置用部品において、
前記複合酸化物を構成する前記希土類元素(A)は、Gdである、
ことを特徴とする半導体製造装置用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、半導体製造装置用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置用部品として、サセプタ(加熱装置)が用いられる。サセプタは、例えば、内部にヒータを有する板状のセラミックス製の保持部材と、保持部材の一方の面側に配置される円筒状のセラミックス製の支持部材と、保持部材と支持部材との間に配置され、保持部材の一方の面と支持部材の一方の面とを接合する接合部とを備える。保持部材の一方の面とは反対側の保持面にウェハが配置される。サセプタは、ヒータに電圧が印加されることにより発生する熱を利用して、保持面に配置されたウェハを加熱する。このようなサセプタの中には、保持部材と支持部材とが、比較的に熱伝導率が高いAlN(窒化アルミニウム)を主成分とする材料により形成されており、接合部は、Gd(ガドリニウム)とAl(アルミニウム)とを含む複合酸化物と、Al2O3とを含み、AlNを含まないものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サセプタは、例えば半導体製造装置のチャンバー内においてプラズマ雰囲気で使用されることがあるため、サセプタにはプラズマに対する耐久性(耐プラズマ性)が要求される。上記従来の構成では、接合部は、耐プラズマ性が比較的に低いAl2O3を含んでいるため、接合部がプラズマに晒されることによって劣化しやすいという問題がある。接合部が劣化すると、例えば接合部による保持部材と支持部材との接合強度が低下することがある。
【0005】
なお、このような課題は、サセプタを構成する保持部材と支持部材との接合に限らず、例えば静電チャック等の保持装置を構成するセラミックス部材同士の接合にも共通の課題である。また、このような課題は、保持装置に限らず、例えばシャワーヘッド等の半導体製造装置用部品を構成するセラミックス部材同士の接合に共通の課題である。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示される半導体製造装置用部品は、AlNを主成分とする材料により形成された第1のセラミックス部材と、AlNを主成分とする材料により形成された第2のセラミックス部材と、前記第1のセラミックス部材と前記第2のセラミックス部材との間に配置され、前記第1のセラミックス部材と前記第2のセラミックス部材とを接合する接合部と、を備える半導体製造装置用部品において、前記接合部は、化学式A(0.8~1)B(11~12)O(18~19)(但し、Aは希土類元素であり、BはAlである 以下同じ)で表され、かつ、六方晶の複合酸化物と、化学式A3B5O12で表され、かつ、立方晶の複合酸化物と、化学式A4B2O9で表され、かつ、単斜晶の複合酸化物と、の少なくとも1種のAl-希土類の複合酸化物を含み、Al2O3を含まない。本半導体製造装置用部品によれば、接合部は、Al2O3(アルミナ)を含んでおらず、その分だけ、Al2O3に比べて耐プラズマ性が高いAl-希土類の複合酸化物を含んでいるため、プラズマによる接合部の劣化を抑制することができる。
【0009】
(2)上記半導体製造装置用部品において、前記複合酸化物を構成する前記希土類元素(A)は、Gdである構成としてもよい。本半導体製造装置用部品によれば、接合部に含まれる複合酸化物の希土類がGdであるため、第1のセラミックス部材と第2のセラミックス部材とを低温で接合できると共に、温度変化による接合部の変色を抑制することができる。
【0010】
(3)上記半導体製造装置用部品において、前記接合部は、希土類元素と酸素とのみを有する希土類単一酸化物を含まない構成としてもよい。本半導体製造装置用部品によれば、接合部は、Al-希土類の複合酸化物に比べて水分と反応しやすく不安定な物質である希土類単一酸化物を含まないため、希土類水酸化物の飛散や接合部の接合強度の低下を抑制することができる。
【0011】
(4)上記半導体製造装置用部品において、前記接合部は、AlNを含まない構成としてもよい。AlN(窒化アルミニウム)を含まない接合部は、AlNを含む接合部に比べて、AlNを主成分とする材料により形成されたセラミックス部材同士を接合する際の接合温度を、当該セラミックス部材を焼成する際の焼成温度より低くしても、高い接合強度で形成することができる。本半導体製造装置用部品によれば、接合部は、AlNを含まないため、接合部がAlNを含む構成に比べて、接合部の接合強度の低下を抑制することができる。
【0012】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、静電チャック、真空チャック等の保持装置、サセプタ等の加熱装置、シャワーヘッド等の半導体製造装置用部品の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態におけるサセプタ100の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態におけるサセプタ100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】本実施形態におけるサセプタ100の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態におけるサセプタ100の接合部30のXRD測定の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A-1.サセプタ100の構成:
図1は、本実施形態におけるサセプタ100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、本実施形態におけるサセプタ100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、サセプタ100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。サセプタ100は、特許請求の範囲における半導体製造装置用部品に相当する。
【0015】
サセプタ100は、対象物(例えばウェハW)を保持しつつ所定の処理温度に加熱する装置であり、例えば半導体装置の製造工程で使用される薄膜形成装置(例えばCVD装置やスパッタリング装置)やエッチング装置(例えばプラズマエッチング装置)に備えられている。サセプタ100は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向(Z軸方向))に並べて配置された保持部材10および支持部材20を備える。保持部材10と支持部材20とは、保持部材10の下面(以下、「保持側接合面S2」という)と支持部材20の上面(以下、「支持側接合面S3」という)とが上記配列方向に対向するように配置されている。サセプタ100は、さらに、保持部材10の保持側接合面S2と支持部材20の支持側接合面S3との間に配置された接合部30を備える。保持部材10は、特許請求の範囲における第1のセラミックス部材に相当し、支持部材20は、特許請求の範囲における第2のセラミックス部材に相当する。
【0016】
(保持部材10)
保持部材10は、例えば円形平面の板状部材であり、AlN(窒化アルミニウム)を主成分とするセラミックスにより形成されている。なお、ここでいう主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。保持部材10の直径は、例えば100mm~500mm程度であり、保持部材10の厚さは、例えば3mm~20mm程度である。
【0017】
保持部材10の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された線状の抵抗発熱体で構成されたヒータ50が設けられている。ヒータ50の一対の端部は、保持部材10の中央部付近に配置されている。また、保持部材10の内部には、一対のビア52が設けられている。各ビア52は、上下方向に延びる線状の導電体であり、各ビア52の上端は、ヒータ50の各端部に接続されており、各ビア52の下端は、保持部材10の保持側接合面S2側に配置されている。また、保持部材10の保持側接合面S2の中央部付近には、一対の受電電極54が配置されている。各受電電極54は、各ビア52の下端に接続されている。これにより、ヒータ50と各受電電極54とが電気的に接続されている。
【0018】
(支持部材20)
支持部材20は、例えば上下方向に延びた円筒状部材であり、支持側接合面S3(上面)から下面S4まで上下方向に貫通する貫通孔22が形成されている。支持部材20は、保持部材10と同様に、AlNを主成分とするセラミックスにより形成されている。支持部材20の外径は、例えば30mm~90mm程度であり、内径は、例えば10mm~60mm程度であり、上下方向の長さは、例えば100mm~300mm程度である。支持部材20の貫通孔22内には、一対の電極端子56が収容されている。各電極端子56は、上下方向に延びる棒状の導電体である。各電極端子56の上端は、各受電電極54にロウ付けにより接合されている。一対の電極端子56に電源(図示せず)から電圧が印加されると、ヒータ50が発熱することによって保持部材10が温められ、保持部材10の上面(以下、「保持面S1」という)に保持されたウェハWが温められる。なお、ヒータ50は、保持部材10の保持面S1をできるだけ満遍なく温めるため、例えばZ方向視で略同心円状に配置されている。なお、支持部材20の貫通孔22内には、熱電対の2本の金属線60(
図2では1本のみ図示)が収容されている。各金属線60は、上下方向に延びように配置され、各金属線60の上端部分62は、保持部材10の中央部に埋め込まれている。これにより、保持部材10内の温度が測定され、その測定結果に基づきウェハWの温度制御が実現される。
【0019】
(接合部30)
接合部30は、円環状であり、保持部材10の保持側接合面S2と支持部材20の支持側接合面S3とを接合している。接合部30の外径は、例えば30mm~90mm程度であり、内径は、例えば10mm~60mm程度であり、厚さは、例えば0.5μm~10μm程度である。
【0020】
接合部30は、Alと希土類元素とを含むAl-希土類の複合酸化物を含み、かつ、Al2O3を含まない材料により形成されている。Al-希土類の複合酸化物は、化学式A(0.8~1)B(11~12)O(18~19)(但し、Aは希土類元素であり、BはAlである 以下同じ)で表され、かつ、六方晶の複合酸化物と、化学式A3B5O12で表され、かつ、立方晶の複合酸化物と、化学式A4B2O9で表され、かつ、単斜晶の複合酸化物と、の少なくとも1種を含む。なお、ここでいう「Al2O3を含まない」とは、接合部30中におけるAl2O3の含有割合が2重量%未満であることをいう。
【0021】
また、接合部30は、次の第1の要件から第3の要件の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
<第1の要件>
接合部30に含まれるAl-希土類の複合酸化物を構成する希土類元素(A)は、Gdである。
<第2の要件>
接合部30は、希土類元素と酸素とのみを有する希土類単一酸化物を含まない。
なお、ここでいう「希土類単一酸化物を含まない」とは、接合部30中における希土類単一酸化物の含有割合が2重量%未満であることをいう。
<第3の要件>
接合部30は、AlNを含まない。
なお、ここでいう「AlNを含まない」とは、接合部30中におけるAlNの含有割合が2重量%未満であることをいう。
【0022】
A-2.サセプタ100の製造方法:
次に、本実施形態におけるサセプタ100の製造方法を説明する。
図3は、本実施形態におけるサセプタ100の製造方法を示すフローチャートである。はじめに、保持部材10と支持部材20とを準備する(S110)。上述したように、保持部材10と支持部材20とは、いずれもAlNを主成分とするセラミックスにより形成されている。なお、保持部材10および支持部材20は、公知の製造方法によって製造可能であるため、ここでは製造方法の説明を省略する。
【0023】
次に、接合部30の形成材料であるペースト状の接合剤を準備する(S120)。具体的には、Gd2O3(ガドリニア)粉末とAl2O3粉末とを所定の割合で混合し、さらに、アクリルバインダおよびブチルカルビトールと共に混合することにより、ペースト状の接合剤を形成する。なお、ペースト状の接合剤の形成材料の組成比は、例えば、Gd2O3が24mol%であり、Al2O3が76mol%であると、接合剤の融点を低くすることができるので好ましい。次に、保持部材10と支持部材20との間に、準備されたペースト状の接合剤を配置する(S130)。具体的には、保持部材10の保持側接合面S2と支持部材20の支持側接合面S3とをラップ研磨し、各接合面S2,S3の表面粗さを1μm以下、平坦度を10μm以下にする。そして、保持部材10の保持側接合面S2と支持部材20の支持側接合面S3との少なくとも一方に、マスクを介して印刷することによってペースト状の接合剤を塗布する。その後、支持部材20の支持側接合面S3と保持部材10の保持側接合面S2とを、ペースト状の接合剤を介して重ね合わせることにより、保持部材10と支持部材20との積層体を形成する。
【0024】
次に、保持部材10と支持部材20との積層体をホットプレス炉内に配置し、例えば窒素中で加圧しつつ加熱する(S140)。これにより、ペースト状の接合剤が溶融して接合部30が形成され、保持部材10と支持部材20とが接合部30により接合される。この加熱・加圧接合における圧力は、0.1MPa以上、15MPa以下の範囲内に設定されることが好ましい。加熱・加圧接合における圧力が0.1MPa以上に設定されると、被接合部材(保持部材10や支持部材20)の表面にうねり等があった場合でも被接合部材間に接合されない隙間が生じることが抑制され、初期の接合強度が低下することを抑制することができる。また、加熱・加圧接合における圧力が15MPa以下に設定されると、保持部材10の割れや支持部材20の変形が発生することを抑制することができる。なお、接合面S2,S3には、0.2Kgf/cm2~3Kgf/cm2の圧力が付与される。
【0025】
また、この加熱・加圧接合における温度は、1730℃まで上昇させることが好ましい。具体的には、保持部材10と支持部材20との積層体の周囲をカーボン雰囲気に晒されないように覆い、加熱・加圧接合における温度を1650℃まで上昇させ、1650℃の状態を約30分維持し、その後、加熱・加圧接合における温度を1730℃まで上昇させ、1730℃の状態を約10分維持した後、ホットプレス炉内の温度を室温まで下げる。この際、ペースト状の接合剤に含まれていたAl2O3は固相拡散してAl-希土類の複合酸化物(例えばGdAl11O18)を生成する。このため、接合部30は、Al2O3を含まない。加熱・加圧接合の後、必要により後処理(外周や上下面の研磨、端子の形成等)を行う。以上の製造方法により、上述した構成のサセプタ100が製造される。
【0026】
A-3.性能評価:
実施例のサセプタ100と比較例のサセプタとについて、以下に説明する性能評価を行った。
【0027】
A-3-1.実施例および比較例について:
実施例のサセプタ100は、上述した製造方法で製造されたものである。比較例のサセプタは、保持部材と支持部材と接合部とを備える。実施例のサセプタ100と比較例のサセプタとは、以下の点で共通している。
(保持部材の構成)
・材料:AlNを主成分とするセラミックス
・直径:100mm~500mm
・厚さ:3mm~15mm
(支持部材の構成)
・材料:AlNを主成分とするセラミックス
・外径:30mm~90mm
・内径:10mm~60mm
・上下方向の長さ:100mm~300mm
(接合部の構成)
・外径:30mm~90mm
・内径:10mm~60mm
・厚さ:0.5μm~10μm
【0028】
実施例のサセプタ100と比較例のサセプタとは、以下の点で相違している。
(接合部の材料)
・実施例のサセプタ100の接合部30の材料:GdAl11O18とGdAlO3とGd3Al5O12との少なくとも1つを含み、Al2O3と希土類元素と酸素とのみを有する希土類単一酸化物(例えばGd2O3)とを含まない。
・比較例のサセプタの接合部の材料:Al2O3とGdAlO3とを含む。
比較例のサセプタの製造方法は、実施例のサセプタ100の上述の製造方法に対して、GdAlO3粉末およびAl2O3粉末をアクリルバインダおよびブチルカルビトールと共に混合することにより、ペースト状の接合剤を形成する点、および、加熱・加圧接合における温度を1730℃まで上昇させる際に、1650℃で30分維持しない点が相違しているが、これ以外の点は基本的に共通している。
【0029】
A-3-2.評価手法:
接合部の接合強度の評価として、実施例のサセプタ100および比較例のサセプタについて、He(ヘリウム)リーク試験を行った。Heリーク試験では、例えば、実施例のサセプタ100の支持部材20の下側開口端にHeリークディテクタ(図示せず)を連結し、接合部30の外周側からHeガスを吹き付ける。そして、Heリークディテクタの検出結果に基づき、接合部30におけるHeのリークの検出の有無を確認した。Heのリークが検出されることは、接合部30中に空洞が存在しているために接合強度が低いことを意味する。本実施形態では、実施例のサセプタ100の製造直後に、1回目のHeリーク試験を行った。次に、実施例のサセプタ100に対し、溶剤中で超音波洗浄を行い、次に純水中で超音波洗浄を行い、洗浄後の実施例のサセプタ100を乾燥器に配置して120℃で4時間乾燥させた。そして、乾燥後の実施例のサセプタ100について、2回目のHeリーク試験を行った。
【0030】
また、実施例のサセプタ100について、EDS(エネルギー分散型X分析)およびXRD(X線回折)測定を行った。EDS(またはEPMA)およびXRD測定では、実施例のサセプタ100の接合部30の切断面についてEDSによって元素分析を行い、接合部30を構成する相の元素の割合を測定した。
【0031】
次に、接合部30をXRD(微小XRDを含む)等で分析した。接合部30が薄い場合、保持部材10と支持部材20とを接合している接合部30を、保持部材10側あるいは支持部材20側から研磨し、接合部30の断面を露出させ、XRD測定を行うことが好ましい。得られたX線回折パターンを、解析ソフトを用い、データベースと照合して同定した。この際、接合部30の構成元素および含有量は、先のEDS分析等の結果からおおよそ把握できるため、その把握した構成元素および含有量に合う様な類似するPDFファイルを、データベースの中から抽出した。接合部30を構成する化合物は、粗大粒子を含んでいたり、配向していたりしており、同定しにくいことがあるが、EDS分析でおおよその元素比を把握できるため、その把握した元素比を手掛かりに同定していくことができる。
【0032】
具体的には、接合部30に含まれる第1の化合物は、次のようにして同定した。まず、第1の化合物に対するEDS分析結果は次の通りであった。
原子数比(Al/Gd)=10.3(Al:52.98、Gd:5.15)
また、第1の化合物に対するXRD分析では、得られたパターンと合致するGdとAlとの複合酸化物のパターンは、データベースから抽出できなかった。しかし、得られたパターンは、Gdと同じ希土類とAlとの複合酸化物(例えばCeAl11O18(#00-048-0055)、EuAl12O19(#04-20-9479)、La0.85Al11.5O18.675(#01-77-338))のパターンと比較的近いパターンであった。そして、これらの希土類とAlとの複合酸化物は、いずれも、六方晶の複合酸化物である。これらのことから、第1の化合物は、化学式A(0.8~1)B(11~12)O(18~19)で表され、かつ、六方晶の複合酸化物であると推定した。
【0033】
接合部30に含まれる第2の化合物は、次のようにして同定した。まず、第2の化合物に対するEDS分析結果は次の通りであった。
原子数比(Al/Gd)=0.63(Al:29.72、Gd:18.86)
また、第2の化合物に対するXRD分析から、得られたパターンと合致するGdとAlとの複合酸化物(Gd3Al5O12(#00-063-0291))のパターンが抽出された。これらのことから、第2の化合物は、化学式A(0.8~1)B(11~12)O(18~19)で表され、かつ、立方晶の複合酸化物であると推定した。
【0034】
A-3-3.評価結果:
接合部の接合強度の評価に関して、実施例のサセプタ100では、1回目および2回目のHeリーク試験のいずれにおいても、Heのリークは検出されなかった。
図4は、実施例のサセプタ100の接合部30のXRD測定の結果を示す説明図である。縦軸は回折強度(CPS)であり、横軸は回折角度2θ(deg)である。
図4に示すように、実施例のサセプタ100では、接合部30は、(Gd・Y)AlO
3と(Gd・Y)Al
11O
18とを含み、希土類単一酸化物を含んでいなかった。
【0035】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のサセプタ100によれば、接合部30は、Al2O3(アルミナ)を含んでおらず、その分だけ、Al2O3に比べて耐プラズマ性が高いAl-希土類の複合酸化物を含んでいるため、プラズマによる接合部30の劣化を抑制することができる。なお、希土類酸化物とプラズマガスに使用されるハロゲン(Cl、F)系の元素との反応物の沸点は、Alとハロゲン(Cl、F)系の元素との反応物(AlCl3、AlF3)に比べて高いため、Al-希土類の複合酸化物は、Al2O3に比べて耐プラズマ性が高いと考えられる。
【0036】
また、本実施形態において、接合部30に含まれる複合酸化物の希土類がGdである場合(第1の要件を満たす場合)、保持部材10と支持部材20とを低温で接合できると共に、温度変化による接合部30の変色を抑制することができる。
【0037】
また、本実施形態において、接合部30は、Al-希土類の複合酸化物に比べて水分と反応しやすく不安定な物質である希土類単一酸化物を含まない場合(第2の要件を満たす場合)、希土類水酸化物の飛散や接合部30の接合強度の低下を抑制することができる。具体的には、希土類単一酸化物であるGd2O3を含んでいると、洗浄されることによって、Gd2O3が水分と反応して、希土類水酸化物であるGd(OH)3が生成される。その後、接合部が高温で乾燥されると、Gd(OH)3が粉体となって飛散し、接合部の内、Gd(OH)3が抜けた部分が空洞になることによって接合部の接合強度が低下する。このため、Heリーク試験ではHeのリークが検出される。一方、実施例のサセプタ100の接合部30は、GdAlO3とGd(0.8~1)B(11~12)O(18~19)とを含み、希土類単一酸化物を含んでいない。GdAlO3およびGd(0.8~1)B(11~12)O(18~19)は、希土類単一酸化物に比べて、水分と反応し難い安定した物質である。このため、実施例のサセプタ100の接合部30によれば、希土類水酸化物の飛散や接合部の接合強度の低下を抑制することができる。
【0038】
また、AlNを含まない接合部は、AlNを含む接合部に比べて、AlNを主成分とする材料により形成されたセラミックス部材同士を接合する際の接合温度を、当該セラミックス部材を焼成する際の焼成温度より低くしても、高い接合強度で形成することができる。本実施形態によれば、接合部30は、AlNを含まない場合(第3の要件を満たす場合)、接合部30がAlNを含む構成に比べて、接合部30の接合強度の低下を抑制することができる。
【0039】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0040】
上記実施形態における保持部材10および支持部材20を形成するセラミックスは、AlN(窒化アルミニウム)を主成分として含んでいれば、他の元素を含んでいてもよい。
【0041】
上記実施形態において、接合部30を形成する材料は、GdAl11O18やGd3Al5O12以外のAl-希土類の複合酸化物(化学式A(0.8~1)B(11~12)O(18~19)(但し、Aは希土類元素であり、BはAlである 以下同じ)で表され、かつ、六方晶の複合酸化物と、化学式A3B5O12で表され、かつ、立方晶の複合酸化物と、化学式A4B2O9で表され、かつ、単斜晶の複合酸化物と、の少なくとも1種のAl-希土類の複合酸化物)を含んでいてもよい。この希土類元素は、Gd、Nd、Tb、Eu、Yの少なくとも1種を含むことが好ましい。また、接合部30は、上述した第1の要件から第3の要件の少なくともいずれか1つを満たさなくてもよい。
【0042】
また、上記実施形態におけるサセプタ100の製造方法はあくまで一例であり、種々変形可能である。
【0043】
本発明は、サセプタ100に限らず、ポリイミドヒータ等の他の加熱装置、セラミックス板とベース板とを備え、セラミックス板の表面上に対象物を保持する保持装置(例えば、静電チャックや真空チャック)、シャワーヘッド等の他の半導体製造装置用部品にも適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10:保持部材 20:支持部材 22:貫通孔 30:接合部 50:ヒータ 52:ビア 54:受電電極 56:電極端子 60:金属線 62:上端部分 100:サセプタ S1:保持面 S2:保持側接合面 S3:支持側接合面 S4:下面 W:ウェハ