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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】原因判定装置および原因判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/68 20060101AFI20231227BHJP
   G01F 1/00 20220101ALI20231227BHJP
【FI】
G01F1/68 B
G01F1/00 T
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020031211
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021135154
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
(72)【発明者】
【氏名】原田 賢吾
【審査官】羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-180223(JP,A)
【文献】特開2011-196721(JP,A)
【文献】特開2009-128067(JP,A)
【文献】特開2009-128068(JP,A)
【文献】特開2009-128069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管を流れる流体の流量を計測する熱式フローセンサから流量計測値を取得するように構成された第1の取得部と、
前記流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうように構成されたゼロ点ドリフト検出部と、
前記熱式フローセンサにゼロ点ドリフトが有ると判定された場合に、前記流体の供給圧力を変化させる指示信号を、前記配管に配設された圧力調整装置に対して出力するように構成された圧力操作指示部と、
前記供給圧力の変化の前後において前記ゼロ点ドリフト検出部によって検出されたゼロ点ドリフト量に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因を判定するように構成されたドリフト原因判定部とを備えることを特徴とする原因判定装置。
【請求項2】
請求項1記載の原因判定装置において、
前記ゼロ点ドリフト検出部は、
前記流体の流量をゼロにするための指示信号を、前記配管に配設された流量調整装置に対して出力するように構成されたゼロ操作指示部と、
前記流体の流量がゼロになったときの前記流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうように構成されたドリフト評価部とから構成されることを特徴とする原因判定装置。
【請求項3】
請求項1記載の原因判定装置において、
前記ゼロ点ドリフト検出部は、
前記配管に配設された校正用の流量計測機器から基準流量計測値を取得するように構成された第2の取得部と、
前記第1の取得部によって取得された流量計測値と前記第2の取得部によって取得された基準流量計測値とに基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうように構成されたドリフト評価部とから構成されることを特徴とする原因判定装置。
【請求項4】
請求項3記載の原因判定装置において、
前記ドリフト評価部は、前記流体の供給圧力が変化する前に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第1の値と前記基準流量計測値の第1の値との誤差と、前記流体の供給圧力が変化する前に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第2の値と前記基準流量計測値の第2の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行ない、さらに前記流体の供給圧力が変化した後に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第3の値と前記基準流量計測値の第3の値との誤差と、前記流体の供給圧力が変化した後に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第4の値と前記基準流量計測値の第4の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうことを特徴とする原因判定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の原因判定装置において、
前記ドリフト原因判定部は、前記圧力調整装置によって前記流体の供給圧力が減圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が減少した場合、あるいは前記流体の供給圧力が増圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が増加した場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因と判定し、前記供給圧力の変化の前後において前記ゼロ点ドリフト量が変化していない場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因をセンサ特性変化系要因と判定することを特徴とする原因判定装置。
【請求項6】
請求項5記載の原因判定装置において、
前記非センサ特性変化系要因は、前記流体の対流またはリークであり、
前記センサ特性変化系要因は、前記流体に晒される前記熱式フローセンサのコア部分の汚れまたは前記流体によるアタック現象であることを特徴とする原因判定装置。
【請求項7】
配管を流れる流体の流量を計測する熱式フローセンサから流量計測値を取得する第1のステップと、
前記第1のステップで取得した流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なう第2のステップと、
前記熱式フローセンサにゼロ点ドリフトが有ると判定した場合に、前記流体の供給圧力を変化させる指示信号を、前記配管に配設された圧力調整装置に対して出力する第3のステップと、
前記圧力調整装置による圧力調整後に、前記熱式フローセンサから流量計測値を取得する第4のステップと、
前記第4のステップで取得した流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なう第5のステップと、
前記第2、第5のステップで検出したゼロ点ドリフト量に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因を判定する第6のステップとを含むことを特徴とする原因判定方法。
【請求項8】
請求項7記載の原因判定方法において、
前記第1のステップの前に、前記流体の流量をゼロにするための指示信号を、前記配管に配設された流量調整装置に対して出力する第7のステップをさらに含み、
前記第2、第5のステップは、前記流体の流量がゼロになったときの前記流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含むことを特徴とする原因判定方法。
【請求項9】
請求項7記載の原因判定方法において、
前記第1、第4のステップは、それぞれ前記配管に配設された校正用の流量計測機器から基準流量計測値を取得するステップを含み、
前記第2のステップは、前記第1のステップで取得した前記流量計測値と前記基準流量計測値とに基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含み、
前記第5のステップは、前記第4のステップで取得した前記流量計測値と前記基準流量計測値とに基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含むことを特徴とする原因判定方法。
【請求項10】
請求項9記載の原因判定方法において、
前記第2のステップは、前記第1のステップで同時に取得した前記流量計測値の第1の値と前記基準流量計測値の第1の値との誤差と、前記第1のステップで同時に取得した前記流量計測値の第2の値と前記基準流量計測値の第2の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含み、
前記第5のステップは、前記第4のステップで同時に取得した前記流量計測値の第3の値と前記基準流量計測値の第3の値との誤差と、前記第4のステップで同時に取得した前記流量計測値の第4の値と前記基準流量計測値の第4の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含むことを特徴とする原因判定方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の原因判定方法において、
前記第6のステップは、前記圧力調整装置によって前記流体の供給圧力が減圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が減少した場合、あるいは前記流体の供給圧力が増圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が増加した場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因と判定し、前記供給圧力の変化の前後における前記ゼロ点ドリフト量が変化していない場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因をセンサ特性変化系要因と判定するステップを含むことを特徴とする原因判定方法。
【請求項12】
請求項11記載の原因判定方法において、
前記非センサ特性変化系要因は、前記流体の対流またはリークであり、
前記センサ特性変化系要因は、前記流体に晒される前記熱式フローセンサのコア部分の汚れまたは前記流体によるアタック現象であることを特徴とする原因判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因を推定することができる原因判定装置および原因判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体の流量を計測するための熱式フローセンサが実用されている(例えば特許文献1参照)。図9は特許文献1に開示された熱式フローセンサの模式的断面図である。熱式フローセンサは、筐体1と、筐体1内部に配置され、伸縮部材2A、2Bを介して筐体1に固定された、筐体1と比較して熱伸縮性が低い計測配管部3と、計測配管部3内を流れる流体の流量を検出するセンサチップ8とを備える。
【0003】
チューブ6Aを流れてきた流体は、チューブ6Aに接続された継手5Aのボディ部51Aの貫通孔を経て、継手5Aのボディ部51Aに接続された計測配管部3を流れていき、計測配管部3に接続された継手5Bのボディ部51Bの貫通孔を経て、継手5Bのボディ部51Bに接続されたチューブ6Bを流れる。このような熱式フローセンサは、センサチップ8が流体に晒されるように計測配管部3に固定されている点に特徴がある。
【0004】
図9に示した熱式フローセンサを例えば半導体製造装置や熱処理炉(炉内雰囲気制御)などに用いる場合、建物で扱う空気や蒸気のような無害な気体とは異なる多種多様な気体や液体が流量測定対象になる。
【0005】
例えば半導体製造装置の超微細構造の製造プロセスを対象とする場合のように、正確な流量計測ができるように精度維持することは、言うまでもなく重要である。また言うまでもなく、精度維持の重要性は、半導体製造装置に限られるものではない。流量計測の精度維持のために、常に改善が求められている。
【0006】
例えば流量計測のゼロ点を管理することが、流量計測の精度が維持されていることを確認する方法の一つとして知られているが、ゼロ点のずれを確認することはできても、原因を特定するのは困難であり、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-009348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因特定の簡易化を実現することができ、流量計測の精度維持のための工程の効率を改善することができる原因判定装置および原因判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の原因判定装置は、配管を流れる流体の流量を計測する熱式フローセンサから流量計測値を取得するように構成された第1の取得部と、前記流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうように構成されたゼロ点ドリフト検出部と、前記熱式フローセンサにゼロ点ドリフトが有ると判定された場合に、前記流体の供給圧力を変化させる指示信号を、前記配管に配設された圧力調整装置に対して出力するように構成された圧力操作指示部と、前記供給圧力の変化の前後において前記ゼロ点ドリフト検出部によって検出されたゼロ点ドリフト量に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因を判定するように構成されたドリフト原因判定部とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の原因判定装置の1構成例において、前記ゼロ点ドリフト検出部は、前記流体の流量をゼロにするための指示信号を、前記配管に配設された流量調整装置に対して出力するように構成されたゼロ操作指示部と、前記流体の流量がゼロになったときの前記流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうように構成されたドリフト評価部とから構成されることを特徴とするものである。
また、本発明の原因判定装置の1構成例において、前記ゼロ点ドリフト検出部は、前記配管に配設された校正用の流量計測機器から基準流量計測値を取得するように構成された第2の取得部と、前記第1の取得部によって取得された流量計測値と前記第2の取得部によって取得された基準流量計測値とに基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうように構成されたドリフト評価部とから構成されることを特徴とするものである。
また、本発明の原因判定装置の1構成例において、前記ドリフト評価部は、前記流体の供給圧力が変化する前に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第1の値と前記基準流量計測値の第1の値との誤差と、前記流体の供給圧力が変化する前に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第2の値と前記基準流量計測値の第2の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行ない、さらに前記流体の供給圧力が変化した後に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第3の値と前記基準流量計測値の第3の値との誤差と、前記流体の供給圧力が変化した後に前記第1、第2の取得部によって同時に取得された前記流量計測値の第4の値と前記基準流量計測値の第4の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の原因判定装置の1構成例において、前記ドリフト原因判定部は、前記圧力調整装置によって前記流体の供給圧力が減圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が減少した場合、あるいは前記流体の供給圧力が増圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が増加した場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因と判定し、前記供給圧力の変化の前後において前記ゼロ点ドリフト量が変化していない場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因をセンサ特性変化系要因と判定することを特徴とするものである。
また、本発明の原因判定装置の1構成例において、前記非センサ特性変化系要因は、前記流体の対流またはリークであり、前記センサ特性変化系要因は、前記流体に晒される前記熱式フローセンサのコア部分の汚れまたは前記流体によるアタック現象である。
【0012】
また、本発明の原因判定方法は、配管を流れる流体の流量を計測する熱式フローセンサから流量計測値を取得する第1のステップと、前記第1のステップで取得した流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なう第2のステップと、前記熱式フローセンサにゼロ点ドリフトが有ると判定した場合に、前記流体の供給圧力を変化させる指示信号を、前記配管に配設された圧力調整装置に対して出力する第3のステップと、前記圧力調整装置による圧力調整後に、前記熱式フローセンサから流量計測値を取得する第4のステップと、前記第4のステップで取得した流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なう第5のステップと、前記第2、第5のステップで検出したゼロ点ドリフト量に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因を判定する第6のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の原因判定方法の1構成例は、前記第1のステップの前に、前記流体の流量をゼロにするための指示信号を、前記配管に配設された流量調整装置に対して出力する第7のステップをさらに含み、前記第2、第5のステップは、前記流体の流量がゼロになったときの前記流量計測値に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の原因判定方法の1構成例において、前記第1、第4のステップは、それぞれ前記配管に配設された校正用の流量計測機器から基準流量計測値を取得するステップを含み、前記第2のステップは、前記第1のステップで取得した前記流量計測値と前記基準流量計測値とに基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含み、前記第5のステップは、前記第4のステップで取得した前記流量計測値と前記基準流量計測値とに基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の原因判定方法の1構成例において、前記第2のステップは、前記第1のステップで同時に取得した前記流量計測値の第1の値と前記基準流量計測値の第1の値との誤差と、前記第1のステップで同時に取得した前記流量計測値の第2の値と前記基準流量計測値の第2の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含み、前記第5のステップは、前記第4のステップで同時に取得した前記流量計測値の第3の値と前記基準流量計測値の第3の値との誤差と、前記第4のステップで同時に取得した前記流量計測値の第4の値と前記基準流量計測値の第4の値との誤差に基づいて、前記熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうステップを含むことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の原因判定方法の1構成例において、前記第6のステップは、前記圧力調整装置によって前記流体の供給圧力が減圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が減少した場合、あるいは前記流体の供給圧力が増圧された後に前記ゼロ点ドリフト量が増加した場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因と判定し、前記供給圧力の変化の前後における前記ゼロ点ドリフト量が変化していない場合は、前記ゼロ点ドリフトの原因をセンサ特性変化系要因と判定するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1の取得部とゼロ点ドリフト検出部と圧力操作指示部とドリフト原因判定部とを設けることにより、熱式フローセンサが設置されている現場で熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因を簡易的に推定することができる。その結果、本発明では、流量計測の精度維持のための工程の効率を改善することができる。
【0016】
また、本発明では、ゼロ点ドリフト検出部として、ゼロ操作指示部とドリフト評価部とを設けることにより、流体の流量をゼロにして、熱式フローセンサのゼロ点ドリフト量を直接的に検出することができる。
【0017】
また、本発明では、ゼロ点ドリフト検出部として、第2の取得部とドリフト評価部とを設けることにより、校正用の流量計測機器によって得られた基準流量計測値を利用し、熱式フローセンサが使用されている半導体製造装置や熱処理炉などの運用を止めることなく、熱式フローセンサのゼロ点ドリフトがセンサ自体の特性変化によるものなのかセンサの他に原因があるものなのかを特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る原因判定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、熱式フローセンサのセンサチップの構造を示す平面図および断面図である。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係る原因判定装置の動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、本発明の第2の実施例に係る原因判定装置の構成を示すブロック図である。
図5図5は、本発明の第2の実施例に係る原因判定装置の動作を説明するフローチャートである。
図6図6は、本発明の第2の実施例に係るゼロ点ドリフト量の評価方法を説明するフローチャートである。
図7図7は、本発明の第2の実施例に係るゼロ点ドリフト量の評価方法を説明するフローチャートである。
図8図8は、本発明の第1、第2の実施例に係る原因判定装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図9図9は、従来の熱式フローセンサの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明の原理]
発明者は、特に実流量がゼロであるにもかかわらず、流量表示がゼロにならないゼロ点ドリフトについて、大きく2通りの原因(センサ特性変化と非センサ特性変化)に分けられることに着眼した。
【0020】
例えば、半導体製造装置の多様な反応ガスを流量測定対象とする場合、熱式フローセンサのセンサチップ周辺(流量計測コア部分)の汚れや測定対象流体によるアタック現象などのセンサ特性変化系要因により、無視できないレベルでゼロ点ドリフトが発生することもある。
しかしながら、熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの場合、コア部分の汚れなどのセンサ特性変化系要因以外にも原因があるため、不具合対応のための作業効率が悪いという点に改善余地がある。
【0021】
そして、発明者は、熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの他の主な原因である「縦配管設置による流体の対流」および「流量計の下流側からの流体のリーク」という非センサ特性変化系要因と、センサ特性変化系要因とを簡易的に判別する方法として、流体の供給圧力を減圧または加圧することを見出した。
【0022】
具体的には、例えば流体の供給圧力を減圧したときに、流体の対流またはリークが原因の場合はゼロ点ドリフト量が減少するが、センサチップのコア部分の汚れが原因の場合はゼロ点ドリフト量が減少しない。同様に、流体の供給圧力を増圧したときに、流体の対流またはリークが原因の場合はゼロ点ドリフト量が増加するが、センサチップのコア部分の汚れが原因の場合はゼロ点ドリフト量が増加しない。このような原理を応用することにより、熱式フローセンサのゼロ点ドリフトの原因特定の簡易化を実現することができるので、流量計測の精度維持のための工程の効率を改善することができる。
【0023】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係る原因判定装置の構成を示すブロック図である。
本実施例は、流体の流量を確実にゼロにすることができ、熱式フローセンサのゼロ点ドリフト量を直接的に確認できる構成を前提としている。具体的には、配管200に熱式フローセンサ201の他に、配管200を流れる流体の流量を調整可能な流量調整装置202と、流体の供給圧力を調整可能な圧力調整装置203とが配設されていることを前提としている。
【0024】
本実施例の原因判定装置は、原因判定の対象となる熱式フローセンサ201から流量計測値を取得する対象流量計測値取得部20(第1の取得部)と、流体の流量をゼロにするための指示信号を、配管200に配設された流量調整装置202に対して出力するゼロ操作指示部21と、流体の流量がゼロになったときの流量計測値に基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうドリフト評価部22と、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが有ると判定された場合に、流体の供給圧力を変化させる指示信号を、配管200に配設された圧力調整装置203に対して出力する圧力操作指示部23と、供給圧力の変化の前後においてドリフト評価部22によって検出されたゼロ点ドリフト量に基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの原因を判定するドリフト原因判定部24と、判定結果を提示する判定結果提示部25とを備えている。
ゼロ操作指示部21とドリフト評価部22とは、ゼロ点ドリフト検出部27を構成している。
【0025】
図2(A)は熱式フローセンサ201のコア部分であるセンサチップ8の構造を示す平面図、図2(B)は図2(A)のセンサチップ8のA-A線断面図である。図2(A)、図2(B)において、100は基台となるシリコンチップ、101はシリコンチップ100の上面に空間102を設けて薄肉状に形成された例えば窒化シリコンからなるダイアフラム、103はダイアフラム101の上に形成された金属薄膜からなるヒータ、104はダイアフラム101上のヒータ103の上流側に形成された金属薄膜の感熱抵抗体からなる温度センサ、105はダイアフラム101上のヒータ103の下流側に形成された金属薄膜の感熱抵抗体からなる温度センサ、106は金属薄膜の感熱抵抗体からなる周囲温度センサ、107はダイアフラム101を貫通するスリットである。
【0026】
ヒータ103や温度センサ104~106は例えば窒化シリコンからなる薄膜の絶縁層108により覆われている。周囲温度センサ106は、ヒータ103からの熱の影響を受けずに、流体の温度を検出できるところに配置される。センサチップ8は、図2(A)に示した面が計測流体に晒されるようにして、配管200(図9の計測配管部3)に装着される。
ヒータ103は、その温度がその周囲温度よりも常に一定温度だけ高くなるように発熱する。
【0027】
配管200中の流体が静止している場合、ヒータ103で加えられた熱は、上流方向と下流方向へ対称的に拡散する。したがって、温度センサ104および温度センサ105の温度は等しくなり、温度センサ104および温度センサ105の電気抵抗は等しくなる。これに対し、配管200中の流体が上流から下流に流れている場合、ヒータ103で加えられた熱は、下流方向に運ばれる。したがって、温度センサ104の温度よりも、温度センサ105の温度が高くなる。そのため、温度センサ104の電気抵抗と、温度センサ105の電気抵抗に差が生じる。
【0028】
温度センサ105の電気抵抗と温度センサ104の電気抵抗の差は、配管200中の流体の流速と相関関係がある。そのため、温度センサ105の電気抵抗と温度センサ104の電気抵抗の差から、配管200を流れる流体の流量を求めることができる。以上のような熱式フローセンサ201については、特許文献1に開示されている。
【0029】
図3は本実施例の原因判定装置の動作を説明するフローチャートである。ゼロ操作指示部21は、配管200に配設された流量調整装置202(本実施例ではバルブ)に対して、流量をゼロにするための指示信号を出力することにより、配管200を流れる流体の流量をゼロにする(図3ステップS100)。本実施例では、例えば熱式フローセンサ201の下流側に配設されたバルブの開度を全閉にする。
【0030】
対象流量計測値取得部20は、流量調整装置202による流量調整後に、熱式フローセンサ201から流量計測値Qを取得する(図3ステップS101)。
【0031】
ドリフト評価部22は、ステップS101の処理によって取得された流量計測値Qに基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフト量D1を評価する(図3ステップS102)。
【0032】
具体的には、ドリフト評価部22は、計測信号ノイズレベルに基づいて予め定められた閾値THと流量計測値Qの整定値とを比較して、流量計測値Qの整定値が閾値TH以下の場合には、流量計測値Qがゼロであり、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが無いと判定して、ゼロ点ドリフト量D1をゼロとする。また、ドリフト評価部22は、流量計測値Qの整定値が閾値THを超えている場合には、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトがあると判定して、流量計測値Qの整定値をゼロ点ドリフト量D1とする。
【0033】
次に、圧力操作指示部23は、ドリフト評価部22によって熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが有ると確認された場合に(図3ステップS103においてYES)、圧力調整装置203に対して圧力を変化させる指示信号を出力することにより、流体の供給圧力を変化させる(図3ステップS104)。
【0034】
圧力調整装置203は、例えば圧力操作指示部23からの指示信号を受信する電空レギュレータと、電空レギュレータから供給される空気圧によって操作されるバルブとからなる。熱式フローセンサ201の計測対象の流体が気体の場合には、電空レギュレータ単体を圧力調整装置203として用いることもある。
【0035】
なお、圧力調整装置203がレギュレータやガバナなどの手動の圧力調整装置の場合は、圧力調整作業を行なうオペレータに対して圧力操作指示部23が圧力指示値を提示し、この圧力指示値に従ってオペレータがレギュレータやガバナを操作することになる。
流体の供給圧力の変化は、原理的には減圧でも増圧でもよいが、一般的な安全面の配慮などからは減圧が好ましい。
【0036】
対象流量計測値取得部20は、圧力調整装置203による圧力調整後に、熱式フローセンサ201から流量計測値Qを取得する(図3ステップS105)。
【0037】
ドリフト評価部22は、ステップS105の処理によって取得された流量計測値Qに基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフト量D2を評価する(図3ステップS106)。ゼロ点ドリフト量D2の評価方法は、ステップS102のゼロ点ドリフト量D1の評価方法と同じである。
【0038】
ドリフト原因判定部24は、ステップS102で評価されたゼロ点ドリフト量D1とステップS106で評価されたゼロ点ドリフト量D2とに基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの原因を判定する(図3ステップS107)。
【0039】
ドリフト原因判定部24は、ゼロ点ドリフト量D1に対してゼロ点ドリフト量D2が変化していない場合、ゼロ点ドリフトの原因をセンサ特性変化系要因(例えばセンサチップの汚れまたは流体によるアタック現象)と判定する。ドリフト原因判定部24は、ゼロ点ドリフト量D1とD2が略一致している場合、ゼロ点ドリフト量が変化していないと判定する。ゼロ点ドリフト量D1とD2の略一致とは、ゼロ点ドリフト量D2がゼロ点ドリフト量D1を中心とする所定の範囲(D1±α)内であることを言う。αは閾値であり、計測信号ノイズレベルに基づいて定められる。
【0040】
また、ドリフト原因判定部24は、ゼロ点ドリフト量D1に対して、圧力調整装置203によって流体の供給圧力が減圧された後に評価されたゼロ点ドリフト量D2が減少した場合、ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因(例えば流体の対流または流体のリーク)と判定する。同様に、ドリフト原因判定部24は、ゼロ点ドリフト量D1に対して、流体の供給圧力が増圧された後に評価されたゼロ点ドリフト量D2が増加した場合、ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因と判定する。上記の説明のとおり、ゼロ点ドリフト量D2が所定の範囲(D1±α)内の場合には、減少または増加とは判定されず、ゼロ点ドリフト量D1に対してゼロ点ドリフト量D2が変化していないと判定される。
【0041】
判定結果提示部25は、ドリフト原因判定部24の判定結果を提示する(図3ステップS108)。本実施例では、流量をゼロにするオフライン的な処理を行なうので、判定結果提示部25は、例えばオペレータが確認可能なモニタに判定結果を表示する。なお、ドリフト評価部22によって熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが無いと確認された場合(ステップS103においてNO)、判定結果提示部25はゼロ点ドリフト無しという判定結果を表示する。
【0042】
以上のように、本実施例では、熱式フローセンサ201が設置されている現場で熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの原因を推定することができる。本実施例では、熱式フローセンサ201をメーカや校正事業者に送らずとも、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトがセンサ自体の特性変化によるものなのかセンサの他に原因があるものなのかを特定することができる。その結果、本実施例では、流量計測の精度維持のための工程の効率を改善することができる。
【0043】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図4は本発明の第2の実施例に係る原因判定装置の構成を示すブロック図である。
本実施例は、流体の流量をゼロにすることができない状況(例えば熱式フローセンサ201を使用する製造装置の連続稼働時)で、熱式フローセンサ201が配設されている配管200に、校正用の流量計測機器205が直列に挿入されている構成を前提としている。具体的には、図4に示すように、熱式フローセンサ201よりも前方の部分で配管200から分岐して熱式フローセンサ201の前方で配管200に合流する副配管204と、副配管204に設置され、副配管204を流れる流体の流量を計測する流量計測機器205と、配管切替部206とが設けられている。流量計測機器205としては、例えばマスフローメータがある。
【0044】
本実施例の原因判定装置は、原因判定の対象となる熱式フローセンサ201から流量計測値を取得する対象流量計測値取得部20(第1の取得部)と、校正用の流量計測機器205から基準流量計測値を取得する基準流量計測値取得部26(第2の取得部)と、対象流量計測値取得部20によって取得された流量計測値と基準流量計測値取得部26によって取得された基準流量計測値とに基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの有無の判定とゼロ点ドリフト量の検出とを行なうドリフト評価部22aと、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが有ると判定された場合に、流体の供給圧力を変化させる指示信号を、配管200に配設された圧力調整装置203に対して出力する圧力操作指示部23と、供給圧力の変化の前後においてドリフト評価部22によって検出されたゼロ点ドリフト量に基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの原因を判定するドリフト原因判定部24と、判定結果を出力する判定結果出力部25aとを備えている。
基準流量計測値取得部26とドリフト評価部22aとは、ゼロ点ドリフト検出部27aを構成している。
【0045】
図5は本実施例の原因判定装置の動作を説明するフローチャートである。まず、配管切替部206は、流体が熱式フローセンサ201に流入する前に全て副配管204に流入した後に配管200に戻って熱式フローセンサ201に流入するように配管を切り替える(図5ステップS200)。図4から明らかなとおり、副配管204は配管200から分岐して流量計測機器205を通過した後に配管200に合流するように配設されており、配管切替部206は配管200と副配管204の分岐部に配設されている。このような構造により、上記の配管切り替えを実現することができる。
【0046】
なお、配管切替部206は、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの原因判定を指示するオペレータからの指示信号の受信に対応して、配管を自動的に切り替えるようにしてもよい。
【0047】
対象流量計測値取得部20は、熱式フローセンサ201から流量計測値Qを取得する(図5ステップS201)。
基準流量計測値取得部26は、流量計測機器205から流量計測値(基準流量計測値)Qrefを取得する(図5ステップS202)。
【0048】
ドリフト評価部22aは、対象流量計測値取得部20によって取得された流量計測値Qと基準流量計測値取得部26によって取得された基準流量計測値Qrefとに基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフト量D1を評価する(図5ステップS203)。図6はゼロ点ドリフト量D1の評価方法を説明するフローチャートである。
【0049】
まず、ドリフト評価部22aは、流量計測値Qの整定値(Q1とする)と、この流量計測値Q1が得られたときの基準流量計測値Qrefの整定値(Qref1とする)との誤差E1を評価する(図6ステップS300)。
【0050】
具体的には、ドリフト評価部22aは、流量計測値Qの整定値Q1と基準流量計測値Qrefの整定値Qref1とが得られたときに、整定値Q1が整定値Qref1を中心とする所定の範囲(Qref1±TH)内の場合には、誤差E1をゼロとする。また、ドリフト評価部22aは、整定値Q1が整定値Qref1を中心とする所定の範囲(Qref1±TH)を超えている場合には、整定値Q1と整定値Qref1との差Q1-Qref1を誤差E1とする。上記のとおり、閾値THは計測信号ノイズレベルに基づいて予め定められる。
【0051】
次に、ドリフト評価部22aは、流量計測値Q1と異なる流量計測値Qの整定値(Q2とする)と、この流量計測値Q2が得られたときの基準流量計測値Qrefの整定値(Qref2とする)との誤差E2を評価する(図6ステップS301)。
【0052】
具体的には、ドリフト評価部22aは、流量計測値Qの整定値Q2と基準流量計測値Qrefの整定値Qref2とが得られたときに、整定値Q2が整定値Qref2を中心とする所定の範囲(Qref2±TH)内の場合には、誤差E2をゼロとする。また、ドリフト評価部22aは、整定値Q2が整定値Qref2を中心とする所定の範囲(Qref2±TH)を超えている場合には、整定値Q2と整定値Qref2との差Q2-Qref2を誤差E2とする。
【0053】
ドリフト評価部22aは、誤差E1とE2が略一致している場合(図6ステップS302においてYES)、誤差E1または誤差E2をゼロ点ドリフト量D1とする(図6ステップS303)。誤差E1,E2のどちらを採用するかは予め定められている。誤差E1とE2の略一致とは、誤差E2が誤差E1を中心とする所定の範囲(E1±β)内であることを言う。βは閾値であり、計測信号ノイズレベルに基づいて定められる。ドリフト評価部22aは、誤差E1,E2が共にゼロである場合には、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが無いと判定して、ゼロ点ドリフト量D1をゼロとする。
【0054】
ドリフト評価部22aは、誤差E1とE2が一致していない場合(ステップS302においてNO)、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフト以外の不具合があると判定する(図6ステップS304)。
以上のようにして、ドリフト評価部22aは、ゼロ点ドリフト量D1を評価することができる。
【0055】
第1の実施例と同様に、圧力操作指示部23は、ドリフト評価部22aによって熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが有ると確認された場合に(図5ステップS204においてYES)、圧力調整装置203に対して圧力を変化させる指示信号を出力することにより、流体の供給圧力を変化させる(図5ステップS205)。
供給圧力の変化は、原理的には減圧でも増圧でもよいが、一般的な安全面の配慮などからは減圧が好ましい。
【0056】
対象流量計測値取得部20は、圧力調整装置203による圧力調整後に、熱式フローセンサ201から流量計測値Qを取得する(図5ステップS206)。
基準流量計測値取得部26は、圧力調整装置203による圧力調整後に、流量計測機器205から基準流量計測値Qrefを取得する(図5ステップS207)。
【0057】
ドリフト評価部22aは、対象流量計測値取得部20によって取得された流量計測値Qと基準流量計測値取得部26によって取得された基準流量計測値Qrefとに基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフト量D2を評価する(図5ステップS208)。図7はゼロ点ドリフト量D2の評価方法を説明するフローチャートである。
【0058】
まず、ドリフト評価部22aは、流量計測値Qの整定値(Q3とする)と、この流量計測値Q3が得られたときの基準流量計測値Qrefの整定値(Qref3とする)との誤差E3を評価する(図7ステップS400)。
【0059】
具体的には、ドリフト評価部22aは、流量計測値Qの整定値Q3と基準流量計測値Qrefの整定値Qref3とが得られたときに、整定値Q3が整定値Qref3を中心とする所定の範囲(Qref3±TH)内の場合には、誤差E3をゼロとする。また、ドリフト評価部22aは、整定値Q3が整定値Qref3を中心とする所定の範囲(Qref3±TH)を超えている場合には、整定値Q3と整定値Qref3との差Q3-Qref3を誤差E3とする。
【0060】
次に、ドリフト評価部22aは、流量計測値Q3と異なる流量計測値Qの整定値(Q4とする)と、この流量計測値Q4が得られたときの基準流量計測値Qrefの整定値(Qref4とする)との誤差E4を評価する(図7ステップS401)。
【0061】
具体的には、ドリフト評価部22aは、流量計測値Qの整定値Q4と基準流量計測値Qrefの整定値Qref4とが得られたときに、整定値Q4が整定値Qref4を中心とする所定の範囲(Qref4±TH)内の場合には、誤差E4をゼロとする。また、ドリフト評価部22aは、整定値Q4が整定値Qref4を中心とする所定の範囲(Qref4±TH)を超えている場合には、整定値Q4と整定値Qref4との差Q4-Qref4を誤差E4とする。
【0062】
ドリフト評価部22aは、誤差E3とE4が略一致している場合(図7ステップS402においてYES)、誤差E3または誤差E4をゼロ点ドリフト量D2とする(図7ステップS403)。誤差E3,E4のどちらを採用するかは予め定められている。誤差E3とE4の略一致とは、誤差E4が誤差E3を中心とする所定の範囲(E3±β)内であることを言う。ドリフト評価部22aは、誤差E3,E4が共にゼロである場合、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトが無いと判定して、ゼロ点ドリフト量D2をゼロとする。
【0063】
ドリフト評価部22aは、誤差E3とE4が一致していない場合(ステップS402においてNO)、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフト以外の不具合があると判定する(図7ステップS404)。
以上のようにして、ドリフト評価部22aは、ゼロ点ドリフト量D2を評価することができる。
【0064】
なお、流量計測値Q3は、流量計測値Q1,Q2と異なる値でもよいし、流量計測値Q1およびQ2のどちらかと同じ値でもよい。また、流量計測値Q4は、流量計測値Q3と異なる値であるが、流量計測値Q1,Q2と異なる値でもよいし、流量計測値Q1およびQ2のどちらかと同じ値でもよい。
【0065】
第1の実施例と同様に、ドリフト原因判定部24は、ステップS203で評価されたゼロ点ドリフト量D1とステップS208で評価されたゼロ点ドリフト量D2とに基づいて、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの原因を判定する(図5ステップS209)。
【0066】
具体的には、ドリフト原因判定部24は、ゼロ点ドリフト量D1に対してゼロ点ドリフト量D2が変化していない場合、ゼロ点ドリフトの原因をセンサ特性変化系要因と判定する。また、ドリフト原因判定部24は、ゼロ点ドリフト量D1に対して、圧力調整装置203によって流体の供給圧力が減圧された後に評価されたゼロ点ドリフト量D2が減少した場合、ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因と判定する。同様に、ドリフト原因判定部24は、ゼロ点ドリフト量D1に対して、流体の供給圧力が増圧された後に評価されたゼロ点ドリフト量D2が増加した場合、ゼロ点ドリフトの原因を非センサ特性変化系要因と判定する。
【0067】
判定結果出力部25aは、ドリフト原因判定部24の判定結果を出力する(図5ステップS210)。第1の実施例と同様にモニタに判定結果を表示する形態でもよいが、本実施例では、流量をゼロにしないオンライン的な処理を行なうので、判定結果出力部25aは、熱式フローセンサ201にゼロ点ドリフトの可能性があることを示す情報(例えばゼロ点ドリフトの原因とゼロ点ドリフト量D1,D2)を流量計測値Q1,Qref1,Q2,Qref2,Q3,Qref3,Q4,Qref4のデータに付加して、上位側のデータストレージ機器などに送信する。これにより、上位側では機械学習に利用するのに好適なデータと不適なデータの選別が行ない易くなる。
【0068】
次に、配管切替部206は、ゼロ点ドリフトの原因判定処理終了後に、ステップS200の配管の切り替えを解除して、流体の全てが副配管204に流入することなく熱式フローセンサ201に流入するように配管を判定処理前の状態に戻す(図5ステップS211)。
【0069】
なお、配管切替部206は、ゼロ点ドリフトの原因判定処理の終了を指示するオペレータからの終了指示信号の受信に対応して、配管を自動的に切り替えるようにしてもよい。
【0070】
以上のように、本実施例では、熱式フローセンサ201が設置されている現場で、流体の流量をゼロにすることなく熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトの原因を推定することができる。したがって、熱式フローセンサ201が使用されている半導体製造装置や熱処理炉などの運用を止めることなく、熱式フローセンサ201のゼロ点ドリフトがセンサ自体の特性変化によるものなのかセンサの他に原因があるものなのかを特定することができる。
【0071】
また、本実施例では、熱式フローセンサ201を使用する流量計測システムの運用中に流量計測機器205を取り外すことができるので、熱式フローセンサ201が使用されている半導体製造装置や熱処理炉などの運用を止めることなく、流量計測機器205の校正作業を行なうことができる。
【0072】
第1、第2の実施例で説明した原因判定装置は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図8に示す。
【0073】
コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インタフェース装置(I/F)302とを備えている。I/F302には、例えば熱式フローセンサ201と流量調整装置202と圧力調整装置203と流量計測機器205などが接続される。このようなコンピュータにおいて、第1、第2の実施例の原因判定方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、熱式フローセンサを用いる流量計測システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
20…対象流量計測値取得部、21…ゼロ操作指示部、22,22a…ドリフト評価部、23…圧力操作指示部、24…ドリフト原因判定部、25…判定結果提示部、25a…判定結果出力部、26…基準流量計測値取得部、27,27a…ゼロ点ドリフト検出部、200…配管、201…熱式フローセンサ、202…流量調整装置、203…圧力調整装置、204…副配管、205…流量計測機器、206…配管切替部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9