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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】オキシデーションディッチ槽の改築方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20231227BHJP
【FI】
C02F3/12 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020035336
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021137698
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 治夫
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 俊康
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-210602(JP,A)
【文献】登録実用新案第3095976(JP,U)
【文献】特開2001-137881(JP,A)
【文献】特開2012-210601(JP,A)
【文献】米国特許第4457844(US,A)
【文献】中国実用新案第209635971(CN,U)
【文献】特開2018-192418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/14-3/26
C02F7/00
B01F27/00-27/96
B01F21/00-25/90
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシデーションディッチ槽の改築方法であって、
被処理水の流入水量に応じ、オキシデーションディッチ槽の無終端流路の容量を決定する容量決定ステップと、
前記容量決定ステップで決定した無終端流路の容量に応じたサイズとなるように、既設の無終端流路に仕切り壁を設ける仕切り壁設置ステップと、
前記既設の無終端流路に配置されている中間壁の一部を撤去する中間壁撤去ステップとを備え、
前記中間壁撤去ステップにおいて撤去される中間壁は、仕切り壁側の端部であることを特徴とする、オキシデーションディッチ槽の改築方法。
【請求項2】
前記仕切り壁設置ステップで区画された新たな無終端流路において、既設の撹拌曝気機を 使用することを特徴とする、請求項1に記載のオキシデーションディッチ槽の改築方法。
【請求項3】
既設の撹拌曝気機が2以上備えられていた場合、前記中間壁撤去ステップで形成された新たな無終端流路の空間に対し、既設の撹拌曝気機を移設する、あるいは新たな無終端流路の容量に応じた機能を有する撹拌及び/又は曝気機を新規に設置することを特徴とする、請求項1又は2に記載のオキシデーションディッチ槽の改築方法。
【請求項4】
前記仕切り壁設置ステップにより区画された既設の無終端流路において、一方の領域では汚泥処理を行う汚泥処理ステップを備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のオキシデーションディッチ槽の改築方法。
【請求項5】
前記仕切り壁設置ステップ及び前記中間壁撤去ステップにより形成された新たな無終端流路に対し、耐震補強を行う耐震補強ステップを備えることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のオキシデーションディッチ槽の改築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシデーションディッチ槽の改築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水や汚水等の被処理水の処理において、無終端水路で硝化、脱窒を行うオキシデーションディッチ法が知られている。オキシデーションディッチ法は、被処理水が周回する無終端流路からなる反応槽(以下、「オキシデーションディッチ槽」とも呼ぶ)の1又は数カ所に撹拌曝気装置を設け、被処理水を撹拌曝気することにより、硝化または脱窒の条件を調整している。
【0003】
オキシデーションディッチ法を用いた被処理水の処理は、他の被処理水の処理方法と比較して発生汚泥量が少ないことや維持管理が容易であること等の利点があり、広く活用されている。オキシデーションディッチ法に用いるオキシデーションディッチ槽の構築に関しては、現場で組み立てた型枠内にコンクリートを流し込むコンクリート打設作業によるものや、プレキャストコンクリート部材の組み合わせによるものなどが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、オキシデーションディッチ法で用いられる循環槽(オキシデーションディッチ槽)を、U字型又は/及びボックス型のプレキャストコンクリート部材を複数個組み合わせて形成すること、及び、循環槽の直線流路部は矩形状の部材とし、循環槽の曲線流路部を台形状又は扇形状の部材とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-249163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、オキシデーションディッチ槽をパーツ化して組み合わせることで、設計の自由度を高めるとともに、組み立て時における現場作業を簡素化し、施工費の縮小を図ることが知られている。
【0007】
一方、近年、既に稼働しているオキシデーションディッチ槽において、人口減少や一部地域における過疎化等により、流入する被処理水の量が減少し、構築時に設計された適切な処理容量を満たしていないという現状がある。このため、オキシデーションディッチ槽における適切な処理容量以下の被処理水に対して撹拌曝気機等の処理設備を駆動させることとなり、過剰な電力消費を招いている等の課題が生じている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載されるように、オキシデーションディッチ槽の設計時や構築時の作業コストを低減させ、施工コストを削減することは知られているが、構築後のオキシデーションディッチ槽に対し、被処理水の流入水量の減少に対応するために、オキシデーションディッチ槽自体の構造的な変更を行うことについては検討が進んでいない。特に、被処理水の流入水量減少の要因が、人口減少や過疎化に起因すると考えられる現状においては、今後も被処理水の流入水量の増加は見込めないことから、既設のオキシデーションディッチ槽の適切な改築(リノベーション)についての検討が求められている。
【0009】
本発明の課題は、流入水量に変更が生じた既設のオキシデーションディッチ槽を、最適な運転が可能となるように適切に改築することができるオキシデーションディッチ槽の改築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、既設のオキシデーションディッチ槽の改築において、オキシデーションディッチ槽の無終端流路の容量に応じて仕切り壁を設け、新たな無終端流路を形成することで、流入水量に対して最適な運転を行うことができるオキシデーションディッチ槽への改築が可能となることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のオキシデーションディッチ槽の改築方法である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明のオキシデーションディッチ槽の改築方法は、オキシデーションディッチ槽の改築方法であって、被処理水の流入水量に応じ、オキシデーションディッチ槽の無終端流路の容量を決定する容量決定ステップと、容量決定ステップで決定した無終端流路の容量に応じたサイズとなるように、既設の無終端流路に仕切り壁を設ける仕切り壁設置ステップと、既設の無終端流路に配置されている中間壁の一部を撤去する中間壁撤去ステップとを備え、中間壁撤去ステップにおいて撤去される中間壁は、仕切り壁側の端部であることを特徴とする。
このオキシデーションディッチ槽の改築方法によれば、被処理水の流入水量に応じ、必要となる無終端流路の容量をあらかじめ決定し、その無終端流路の容量に応じて既設の無終端流路に仕切り壁を設けるとともに、無終端流路の中間壁の一部撤去を行うことで、新たな容量の無終端流路を容易に形成することが可能となる。これにより、流入する被処理水の水量に対し、オキシデーションディッチ槽の容量を適正化することができ、過剰な電力を使用することなく被処理水の処理を最適化し、放流される処理水の水質の安定化を図ることが可能となる。
【0012】
また、本発明のオキシデーションディッチ槽の改築方法の一実施態様としては、仕切り壁設置ステップで区画された新たな無終端流路において、既設の撹拌曝気機を使用するという特徴を有する。
この特徴によれば、オキシデーションディッチ槽における無終端流路の容量のみを変更し、既設の撹拌曝気機をそのまま利用することで改築に係る作業を容易とし、改築コストを低減させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の撹拌曝気システムの一実施態様としては、既設の撹拌曝気機が2以上備えられていた場合、中間壁撤去ステップで形成された新たな無終端流路の空間に対し、既設の撹拌曝気機を移設する、あるいは新たな無終端流路の容量に応じた機能を有する撹拌及び/又は曝気機を新規に設置することを特徴とする、請求項1又は2に記載のオキシデーションディッチ槽の改築方法。という特徴を有する。
この特徴によれば、中間壁の撤去により新たな無終端流路に形成される空間に、撹拌曝気機を備えることができ、新たな無終端流路における被処理水の処理効率を高めることができる。このとき、既設の撹拌曝気機を移設することで、撹拌曝気機に係るイニシャルコストを低減させることが可能となる。あるいは、新たな無終端流路の容量に応じた機能を有する撹拌及び/又は曝気機を新規に設置することにより、新たな無終端流路による被処理水の処理について最適化を図ることが容易となる。
【0014】
また、本発明のオキシデーションディッチ槽の改築方法の一実施態様としては、仕切り壁設置ステップにより区画された既設の無終端流路において、一方の領域では汚泥処理を行う汚泥処理ステップを備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、既設のオキシデーションディッチ槽を仕切り壁により縮小することで残った領域を、汚泥処理を行う空間とし、施設の有効活用を行うことが可能となる。特に、排水処理の過程で発生する汚泥についての処理を隣接する空間で実施することができるため、排水処理全体のランニングコストを低減させることが可能となる。
【0015】
また、本発明のオキシデーションディッチ槽の改築方法の一実施態様としては、仕切り壁設置ステップ及び中間壁撤去ステップにより形成された新たな無終端流路に対し、耐震補強を行う耐震補強ステップを備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、耐震補強を行うことで、仕切り壁の設置や中間壁の撤去により、既設の無終端流路の設計上の構造から変化した新たな無終端流路についても、その強度を維持することが可能となる。これにより、オキシデーションディッチ槽の改築をより適切に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流入水量に変更が生じた既設のオキシデーションディッチ槽を、最適な運転が可能となるように適切に改築することができるオキシデーションディッチ槽の改築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施態様における既設のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様における既設の撹拌曝気機の構造を示す概略説明図である。
図3】本発明の第1の実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。
図4】本発明の第1の実施態様のオキシデーションディッチ槽の改築に係るフロー図である。
図5】本発明の第2の実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。
図6】本発明の第3の実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るオキシデーションディッチ槽の改築方法の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載するオキシデーションディッチ槽の構造については、本発明に係るオキシデーションディッチ槽の改築方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。また、実施態様に記載するオキシデーションディッチ槽の改築に係る工程についても、本発明に係るオキシデーションディッチ槽の改築方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0019】
本発明のオキシデーションディッチ槽の改築方法は、被処理水を汚泥中の微生物によって生物処理する既設のオキシデーションディッチ槽を改築する方法に係るものである。特に、既設のオキシデーションディッチ槽として、無終端流路内に、撹拌、曝気を行う撹拌曝気機を備え、硝化または脱窒を伴う被処理水の処理を行うものに対し、本発明を好適に利用することができる。
【0020】
本発明のオキシデーションディッチ槽で処理される被処理水については特に限定されないが、下水、農業集落排水、畜産排水、工場排水等の有機性廃水が挙げられる。特に、人口減少や過疎化等の要因により、処理設備への流入量が従来よりも減少傾向にある下水、農業集落排水等の処理を行うオキシデーションディッチ槽の改築に対し、本発明を好適に利用することができる。
【0021】
〔第1の実施態様〕
(オキシデーションディッチ槽の構造)
図1は、本発明の第1の実施態様における既設のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。また、図2は、本発明の第1の実施態様における既設の撹拌曝気機の構造を示す概略説明図である。
【0022】
本実施態様における既設のオキシデーションディッチ槽1は、図1に示すように、平面視長円形状を成す反応槽2を備え、この反応槽2の中央部に長手方向に延在する中間壁3が配設されている。この中間壁3の周囲の領域が、無終端状の循環水路である無終端流路4となっている。無終端流路4には、導入口2aを通して下水などの被処理水W0が導入されているとともに、この無終端流路4からは当該無終端流路4で処理された処理水W1が導出口2bを通じて導出されている。図1に示した導入口2aと導出口2bの配置は一例を示すものであって、図1に示す配置に限定されるものではない。なお、図1中の太線の矢印は被処理水W0の流れ方向を示すものである。
【0023】
オキシデーションディッチ槽1は、反応槽2内の被処理水W0を撹拌、曝気する撹拌曝気機20を備え、撹拌曝気機20は反応槽2の中間壁3の両端に配置されている。なお、本実施態様における撹拌曝気機20は、縦軸型撹拌曝気機について示しているが、これに限定されるものではない。撹拌曝気機20としては、縦軸型のほかに、横軸型、斜軸型などが挙げられる。
【0024】
図2は、本実施態様における撹拌曝気機20の構造の一例を示す概略説明図である。撹拌曝気機は、図2に示すように、上下方向に延在し、軸線周りに回転するシャフト21を有し、このシャフト21の下端には、複数の羽根状のインペラ22が設けられている。また、インペラ22は、シャフト21の外周面から放射状に取り付けられている。
【0025】
撹拌曝気機20は、インペラ22を回転させるための駆動源としてインペラ回転用のモーター23を備えている。モーター23の駆動を制御するための手段は特に限定されない。モーター23の駆動手段としては、例えば、図2に示すように、モーター23の回転数を制御するインバータ24を備えることが挙げられる。インバータ24は、電源から供給された電流を所定の周波数の交流電流に変換することにより、モーター23の回転数を調整する構成であり、インペラ22の回転に係る制御が容易である。
【0026】
また、撹拌曝気機20は、図2に示すように、シャフト21を回転自在に支持して昇降可能とする昇降装置25を備えるものとしてもよい。これにより、反応槽2内における被処理水W0に対するインペラ22の位置を制御し、後述する好気運転と無酸素運転の切り替えを可能とする。
【0027】
本実施態様のオキシデーションディッチ槽1では、2つの撹拌曝気機20a、20bが設けられ、各撹拌曝気機20a、20bは、反応槽2の中間壁3の両端に配設されている。反応槽2内の被処理水W0は、インペラ22が浸漬するように水量が調整され、インペラ回転用のモーター23の駆動によるインペラ22の回転に従って、反応槽2内を反時計回り(図1中の矢印)に循環する。
【0028】
オキシデーションディッチ槽1では、反応槽2内を好気状態にする好気運転と、反応槽2内を嫌気状態にする無酸素運転を交互に行う。好気運転時には、図2に示すように、撹拌曝気機20のインペラ22の回転数を増やして適度の飛沫Dを発生させ、被処理水W0に空気を供給して曝気する。無酸素運転時には、インペラ22を下降させて回転数を減らして被処理水W0を撹拌する。このように、撹拌曝気機20のインペラ22の被処理水W0への浸漬度合いと回転速度によって、反応槽2内に好気状態又は嫌気状態を形成することができる。
【0029】
一方、被処理水W0の流入水量が低下すると、撹拌曝気機20による被処理水W0への好気運転の調整が困難となる。撹拌曝気機20としては、本来想定される被処理水W0の流入水量に合わせた出力等の機能を有するものを配置している。このため、被処理水W0の流入水量の低下により、既設の撹拌曝気機20では、いわゆるオーバースペックとなり、好気運転と無酸素運転に係るインペラ22の駆動において過剰な電力を消費するとともに、被処理水W0の処理における最適な運転を行うことが困難となるという問題が生じる。
【0030】
本実施態様のオキシデーションディッチ槽の改築方法は、上述したような既設のオキシデーションディッチ槽に対し、適用するものである。これにより、被処理水W0の流入水量の低下に応じて既設のオキシデーションディッチ槽1を適切に改築し、被処理水W0の処理を最適化することが可能となる。
【0031】
図3は、本発明の第1の実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。なお、図3A及び図3Bは、仕切り壁5の構造について例示するものである。
本実施態様の改築後のオキシデーションディッチ槽10は、図3に示すように、上述した反応槽2内に、仕切り壁5を設け、かつ中間壁3の一部を撤去することで、新たな無終端流路40が形成されるものである。なお、図1に示した既設のオキシデーションディッチ槽1と同様の構造については、説明を省略する。
【0032】
仕切り壁5は、後述する仕切り壁設置ステップにより、反応槽2に設けられるものである。
仕切り壁5の材質及び構造については、反応槽2を仕切ることができ、新たな無終端流路40が安定して形成されるものであればよく、特に限定されない。仕切り壁5の材質としては、例えば、コンクリート、金属、プラスチックのほか、反応槽2や中間壁3と同様の材質を用いることが挙げられる。また、仕切り壁5の構造としては、例えば、図3Aに示すように、円弧状等、曲面を有し、上方から見た場合に曲線からなるもの以外に、図3Bに示すように、矩形状、直線状、多角形状等、上方から見た場合に直線面を有するもの等が挙げられる。仕切り壁5の構造として、円弧状のように曲線からなるものとした場合、新たな無終端流路40の流れを円滑化することができるという効果がある。一方、仕切り壁5の構造を矩形状などように直線面を有するものとした場合、比較的構造が簡易であること及び設置が容易であることから、改築に係るコスト低減が可能となる。特に、仕切り壁5を直線状のものとした場合、新たな無終端流路40の強度が強いという利点がある。
【0033】
中間壁3の一部は、後述する中間壁撤去ステップにより、撤去される。このとき、撤去される中間壁3は、新たに設けられる仕切り壁5側に近接した箇所(仕切り壁5側の端部)である。これにより、図3に示すように、反応槽2の一部、仕切り壁5、及び、一部が撤去された中間壁3により、新たな循環水路である無終端流路40が形成される。また、反応槽2に係る構造を撤去することなく、その内部を仕切り壁5で区画することのみで、被処理水W0の流入水量に応じた無終端流路40を容易に形成することが可能となる。
【0034】
中間壁3の撤去については、新たな無終端流路40が形成されるものであればよく、撤去手段及び撤去箇所の大きさについては特に限定されない。例えば、後述するように、中間壁3を撤去した空間に撹拌曝気を行うもの(撹拌及び/又は曝気機)を設ける場合など、撹拌曝気を行うものが設置可能となるように撤去する中間壁3の大きさを決定すること等が挙げられる。
【0035】
仕切り壁5の設置と中間壁3の撤去により形成された新たな無終端流路40においては、図3に示すように、既設の撹拌曝気機20aをそのまま利用することが挙げられる。新たな無終端流路40においては、流入水量が一定程度確保されるため、既設の撹拌曝気機20aの機能を十分に発揮することが可能となる。また、既設の撹拌曝気機20aを利用することで、改築作業を簡略化するとともに、新たな撹拌曝気機を必要としないため、設備に係るイニシャルコストを低減させることができ、オキシデーションディッチ槽の改築に係るコストを低減することが可能となる。
【0036】
また、中間壁3の撤去により形成された空間は、そのまま流路として用いるものとしてもよいが、図3に示すように、撹拌曝気を行うものを設けることが好ましい。これにより、新たな無終端流路40における被処理水W0の流れを効果的に形成し、被処理水W0の処理効率を高めることが可能となる。
【0037】
このとき、中間壁3の撤去により形成された空間に撹拌曝気を行うものを設けることに係る一例としては、既設の撹拌曝気機20bを移設することが挙げられる。これにより、新たな撹拌曝気機を必要としないため、設備に係るイニシャルコストを低減させることができ、オキシデーションディッチ槽の改築に係るコストを低減することが可能となる。
【0038】
また、中間壁3の撤去により形成された空間に撹拌曝気を行うものを設けることに係る別の例としては、新たな無終端流路40の容量に応じた機能を有する撹拌及び/又は曝気機を新規に設置することが挙げられる。これにより、新たな無終端流路40による被処理水W0の処理について最適化を図ることが容易となる。特に、新たな無終端流路40においては、既設の無終端流路4に比べて流路が短くなるため、既設の撹拌曝気機20aが1台あることで、無終端流路40内の被処理水W0の撹拌及び曝気が進行する可能性もある。したがって、中間壁3の撤去により形成された空間に、撹拌あるいは曝気のみに特化した設備(撹拌機又は曝気機)を設け、既設の撹拌曝気機20aの補助的な設備として設けるものとしてもよい。これにより、新規に設ける撹拌機又は曝気機に係るイニシャルコスト及びランニングコストを低減させることが可能となる。
【0039】
新たな無終端流路40において、既設の撹拌曝気機20a及び20bを用いる場合、既設の無終端流路4と比べて被処理水W0の全体容量は減少している。このため、既設の無終端流路4における駆動制御と同様に既設の撹拌曝気機20a、20bを駆動させると、新たな無終端流路40ではオーバースペックとなる可能性がある。このとき、上述したように、撹拌曝気機20a、20bにインバータ24を備え、インペラ22の回転数を制御することが好ましい。これにより、新たな無終端流路40の容量に応じた撹拌、曝気を容易に行うことが可能となる。
【0040】
(オキシデーションディッチ槽の改築工程)
図4は、本実施態様におけるオキシデーションディッチ槽の改築に係る工程を示すフロー図である。
図4を参照して、既設のオキシデーションディッチ槽1を、オキシデーションディッチ槽10に改築する工程について説明する。
【0041】
まず、容量決定ステップとして、既設のオキシデーションディッチ槽1の反応槽2(無終端流路4)に流入する被処理水W0の流入水量に係るデータに基づき、オキシデーションディッチ槽として好適な無終端流路の容量を決定する。
【0042】
このとき、既設のオキシデーションディッチ槽1における被処理水W0の流入水量に係るデータの種類及び取得手段は特に限定されない。例えば、作業員による日常点検等の監視(目視)に基づく記録(手書きの数字あるいはデータ値など)を用いることや、反応槽2に設けた水量計の観測記録を用いること等が挙げられる。また、被処理水W0の発生源に係る情報(人口数、世帯数、稼働している工場数等)から、被処理水W0の流入水量を予測したデータを用いること等が挙げられる。
また、被処理水W0の流入水量に係るデータの取得数や取得期間についても特に限定されない。ただし、オキシデーションディッチ槽の改築という工事規模から鑑みると、被処理水W0の流入水量のデータを月単位や年単位で取得し、このデータの推移を基にすることが好ましい。
【0043】
得られた被処理水W0の流入水量に係るデータに基づき、無終端流路として好適な容量を決定する手段は特に限定されず、従来のオキシデーションディッチ槽の設計と同様に行うことができる。無終端流路の容量を決定する手段としては、例えば、過去の運転実績に基づき決定するものであってもよく、オキシデーションディッチ槽の設計に係る各種計算式に基づき決定するものであってもよい。
【0044】
容量決定ステップにより、無終端流路として好適な容量が決定された後、既設のオキシデーションディッチ槽1の無終端流路4の容量を変更するためのステップを実施する(図4A参照)。なお、無終端流路4の容量を変更するステップとしては、図4Aに示すように、仕切り壁設置ステップと中間壁撤去ステップを挙げているが、これらのステップによって無終端流路4の容量が変更され、改築後のオキシデーションディッチ槽10における無終端流路40が形成されるものであればよく、両ステップの実施順序については特に限定されない。
【0045】
仕切り壁設置ステップとして、既設のオキシデーションディッチ槽1の無終端流路4に仕切り壁5を設ける。このとき、仕切り壁5によって区画された新たな無終端流路40が容量決定ステップによって決定された容量を満たすサイズとなるように仕切り壁5を配置する。
仕切り壁5を配置する手段は特に限定されない。例えば、仕切り壁5を無終端流路4内で構築するものとしてもよく、系外で作製された仕切り壁5を無終端流路4に組み込むものとしてもよい。
【0046】
また、中間壁撤去ステップにより、既設のオキシデーションディッチ槽1における中間壁3の仕切り壁5側の端部を撤去する。中間壁3の撤去手段及び撤去範囲については、上述したように特に限定されない。
【0047】
以上のステップにより、図4Bに示すように、反応槽2の一部、仕切り壁5、及び、一部が撤去された中間壁3により、新たな循環水路である無終端流路40が形成される。なお、図4Bに示したように改築後のオキシデーションディッチ槽10は、導入口2a及び導出口2bが、新たな無終端流路40内に含まれるものであるが、既設のオキシデーションディッチ槽1の導入口2a及び導出口2bの配置によっては、新たな無終端流路40に含まれない場合もある。その場合、新たな無終端流路40に対し、新規の導入口又は導出口を設けるものとする。
【0048】
また、図4Bに示すように、中間壁撤去ステップにより形成された空間に、撹拌曝気機20bを移設するものとしてもよい。これにより、既設のオキシデーションディッチ槽1の無終端流路4が無終端流路40へと短水路化されるとともに、既設の撹拌曝気機20a及び20bを有効利用することが可能となる。
【0049】
以上のように、本実施態様におけるオキシデーションディッチ槽の改築方法によれば、被処理水の流入水量に応じ、必要となる無終端流路の容量をあらかじめ決定し、その無終端流路の容量に応じて既設の無終端流路に仕切り壁を設けるとともに、無終端流路の中間壁の一部撤去を行うことで、新たな容量の無終端流路を容易に形成することが可能となる。これにより、流入する被処理水の水量に対し、オキシデーションディッチ槽の容量を適正化することができ、過剰な電力を使用することなく被処理水の処理を最適化し、放流される処理水の水質の安定化を図ることが可能となる。
【0050】
〔第2の実施態様〕
図5は、本発明の第2の実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0051】
第2の実施態様におけるオキシデーションディッチ槽の改築方法は、第1の実施態様における改築方法に係るステップに加え、仕切り壁5により区画された新たな無終端流路40のもう一方の領域で汚泥処理を行う汚泥処理ステップを備えるものである。より具体的には、図5に示すように、改築後のオキシデーションディッチ槽11が、仕切り壁5により区画された新たな無終端流路40のもう一方の領域において、汚泥処理を行う箇所(汚泥処理領域R)を備えるようにし、この汚泥処理領域Rにおいて汚泥処理を行うものである。
【0052】
本実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽11は、図5に示すように、新たな無終端流路40で被処理水W0を処理した後、導出口2bから処理水W1を系外の沈殿処理施設(沈殿池6)等に排出した後、沈殿池6にて分離した汚泥Sを汚泥処理領域Rに導入するものである。なお、図5では、沈殿池6を介して汚泥Sを汚泥処理領域Rに導入するものを示しているが、これに限定されない。他の例としては、例えば、無終端流路40に汚泥Sの回収機構及び排出口を設け、無終端流路40で回収した汚泥Sを直接汚泥処理領域Rに導入すること等が挙げられる。
【0053】
汚泥処理ステップとして、汚泥処理領域Rでは導入された汚泥Sに対する処理を行う。なお、汚泥処理領域Rで行う具体的な処理手段については特に限定されない。例えば、汚泥処理領域Rに導入された汚泥Sに対し、送風手段や熱源などの加熱手段を設け、汚泥Sの乾燥処理を行うことや、汚泥処理領域R内の汚泥Sに対し、微生物や担体等を添加することで汚泥減容を行うこと等が挙げられる。なお、既設のオキシデーションディッチ槽1を仕切り壁5で区画することにより形成される汚泥処理領域Rは、比較的広い面積かつ大きな容量を有する空間となる。このため、送風や熱源による熱など外部からエネルギーを供給する処理よりも、微生物や担体等を汚泥Sと混合して時間経過により進行させる処理のほうが空間の有効利用及び省エネルギーという観点からは好ましい。
【0054】
以上のように、本実施態様におけるオキシデーションディッチ槽の改築方法は、汚泥処理を行う汚泥処理ステップを設け、既設のオキシデーションディッチ槽を仕切り壁により縮小したことで残った領域を、汚泥処理を行う空間とすることで、施設の有効活用を行うことが可能となる。特に、排水処理の過程で発生する汚泥についての処理を隣接する空間で実施することができるため、排水処理全体のランニングコストを低減させることが可能となる。
【0055】
〔第3の実施態様〕
図6は、本発明の第3の実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽の構造を示す概略説明図である。なお、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明を省略する。
【0056】
第3の実施態様におけるオキシデーションディッチ槽の改築方法は、第1の実施態様における改築方法に係るステップに加え、新たな無終端流路40に対し、耐震補強を行う耐震補強ステップを備えるものである。より具体的には、図6に示すように、改築後のオキシデーションディッチ槽12における新たな無終端流路40に対し、梁などの補強部材7を設けるものである。
【0057】
本実施態様における改築後のオキシデーションディッチ槽12は、図6に示すように、新たな無終端流路40を形成するために、既設のオキシデーションディッチ槽1の中間壁3の撤去や仕切り壁5の設置などを行っている。したがって、オキシデーションディッチ槽1の本来の設計から構造が変化しているため、改築後のオキシデーションディッチ槽12の強度は、従来の構造物の強度とは変わってしまうおそれがある。このため、耐震補強ステップとして、補強部材7を新たな無終端流路40に設けることで、改築後のオキシデーションディッチ槽12においても十分な強度を維持させるものである。
【0058】
耐震補強ステップとしては、改築後のオキシデーションディッチ槽12の強度を十分に維持することができるものであればよい。例えば、図6に示すように、新たな無終端流路40の仕切り壁5付近において、中間壁3と直交するように補強部材7を設けること等が挙げられる。また、他の例としては、補強部材7と中間壁3が斜交するように設けること等が挙げられる。さらに、補強部材7の材質や数などは特に限定されず、耐震強度に係る法令や基準等に応じて、必要な強度が得られるように設計や配置を行うことが好ましい。
【0059】
以上のように、本実施態様におけるオキシデーションディッチ槽の改築方法は、耐震補強を行うことで、仕切り壁の設置や中間壁の撤去により、既設の無終端流路の設計上の構造から変化した新たな無終端流路についても、その強度を維持することが可能となる。これにより、オキシデーションディッチ槽の改築をより適切に行うことが可能となる。
【0060】
なお、上述した実施態様はオキシデーションディッチ槽の改築方法の一例を示すものである。本発明に係るオキシデーションディッチ槽の改築方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係るオキシデーションディッチ槽の改築方法を変形してもよい。
【0061】
例えば、本実施態様のオキシデーションディッチ槽の改築方法において、新たな無終端流路の容量を調整するために、仕切り壁による区画を行うことに加え、無終端流路の底面に非透水性の材質を設け、底上げすることを組み合わせることとしてもよい。このとき、非透水性の材質は、無終端流路から取り出すことができるものとすることで、無終端流路の容量の調整を容易に行うことが可能となる。
【0062】
また、本実施態様のオキシデーションディッチ槽の改築方法において、新たな無終端流路以外の領域は、汚泥処理領域R以外の用途に用いるものとしてもよい。例えば、水槽としての機能を活かし、処理を余り必要としない天然水(雨水、地下水等)の貯留施設として活用すること等が挙げられる。これにより、無終端流路や撹拌曝気機等の洗浄など、オキシデーションディッチ槽の設備に係るメンテナンス等に利用する水源として有効に活用することができる。
【0063】
また、本実施態様のオキシデーションディッチ槽の改築方法において、第2の実施態様及び第3の実施態様で示したステップを組み合わせるものとしてもよい。これにより、改築後のオキシデーションディッチ槽は、汚泥処理領域による汚泥処理を可能とするとともに、耐震補強が行われたものとすることが可能となり、オキシデーションディッチ槽の改築をより適切に行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のオキシデーションディッチ槽の改築方法は、被処理水を汚泥中の微生物によって生物処理する既設のオキシデーションディッチ槽の改築に適用されるものである。特に、被処理水の流入水量が、設計時及び構築時の適正水量よりも減少傾向にある既設のオキシデーションディッチ槽の改築において、好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0065】
1 既設のオキシデーションディッチ槽、10,11,12 改築後のオキシデーションディッチ槽、2 反応槽、2a 導入口、2b 導出口、20,20a,20b 撹拌曝気機、21 シャフト、22 インペラ、23 モーター、24 インバータ、25 昇降装置、3 中間壁、4 既設の無終端流路、40 改築後の無終端流路、5 仕切り壁、6 沈殿池、7 補強部材、D 飛沫、R 汚泥処理領域、S 汚泥、W0 被処理水、W1 処理水
図1
図2
図3
図4
図5
図6