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  • 特許-絶縁部材、及び、固定子 図1
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  • 特許-絶縁部材、及び、固定子 図4
  • 特許-絶縁部材、及び、固定子 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】絶縁部材、及び、固定子
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20231227BHJP
   H02K 3/50 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H02K3/34 D
H02K3/50 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020036872
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021141684
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴博
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-088846(JP,A)
【文献】実開昭60-073342(JP,U)
【文献】特開2003-047188(JP,A)
【文献】特開2009-005464(JP,A)
【文献】特開2007-312563(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0117790(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 3/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線が巻回される複数のスロットを備える固定子鉄心に装着される絶縁部材であって、
第1方向に長手方向を有する細長いテープ状の基部と、
第1方向に等間隔で配置され、第1方向Sに対して直角方向であって同一方向に突出する複数の凸部と、を備え
前記凸部の先端には第1方向に突出する係止部が形成されており、
前記凸部の長さは、前記スロットの径方向の長さ以下に設定されている絶縁部材。
【請求項2】
前記絶縁部材は、絶縁性及び弾性を備える樹脂により構成されている請求項1記載の絶縁部材。
【請求項3】
前記絶縁部材は、チレン・プロピレンゴムにより構成されている請求項1又は2に記載の絶縁部材。
【請求項4】
複数の巻線が巻回される複数のスロットを備える固定子鉄心と、
前記スロットに巻回される前記巻線が前記固定子鉄心の端部で折り返される立ち上り部と、
請求項1からの何れか一項に記載される絶縁部材と、を備え、
前記絶縁部材は、前記立ち上り部において、前記巻線の外周側から当接して装着され、前記凸部は異相の前記巻線の間に嵌め込まれる固定子。
【請求項5】
前記巻線は周囲が絶縁物でコーティングされた複数の導電線により構成されている請求項に記載の固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、巻線の絶縁部材、及び、これを使用した電動機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ駆動用電動機において、固定子のコイルエンドのコイル巻線の立ち上がり位置にサージ電圧が印加されると、異相コイル巻線間で部分放電が発生する場合がある。このため、コイル巻線の異相間に相関紙を挿入することに加えて、コイルエンドの立ち上がり部に絶縁テープを巻き付けることで絶縁性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-207820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、各相に絶縁テープの巻き付けを行う必要があり、また、絶縁補強が必要な箇所が多いため、作業効率が悪化している。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インバータ駆動用の電動機において、コイル巻線の立ち上がり部における異相間の部分放電を抑制し、取付け作業効率が向上されたコイル巻線の絶縁部材、及びこれを使用した電動機の固定子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の一態様によれば、絶縁部材は、第1方向に長手方向を有する細長いテープ状の基部と、第1方向に等間隔で配置され、第1方向Sに対して直角方向であって同一方向に突出する複数の凸部と、を備える。固定子は、複数の巻線が巻回される複数のスロットを備える固定子鉄心と、前記スロットに巻回される前記巻線が前記固定子鉄心の端部で折り返される立ち上り部と、前記絶縁部材と、を備え、前記絶縁部材は、前記立ち上り部において、前記巻線の外周側から当接して装着され、前記凸部は異相の前記巻線の間に嵌め込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る絶縁部材の概略構成を示す斜視図
図2】実施形態に係る固定子の概略構成を示す斜視図
図3】実施形態に係る固定子の概略構成を示す上面図
図4】実施形態に係る固定子の概略構成を示す側面図
図5】実施形態に係る固定子の概略構成を示す図であり、図3の領域Aを拡大して示す一部拡大上面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態に係る絶縁部材5及びこれを用いた固定子100について、図1から図5を参照して説明する。以下の説明において、同様の部位には同様の符号を付し、説明は省略する。
【0009】
図1は、絶縁部材5の概略構成を示す斜視図である。絶縁部材5は第1方向Sに長手方向を有する細長いテープ状の基部5aに、第1方向Sに等間隔で配置され、第1方向Sに対して直角方向であって同一方向に突出する複数の凸部5bを備えている。凸部5bの先端には係止部5cが備えられている。凸部5bの長さは、図1に示す様にL1であり、凸部5bの第1方向Sの幅はWである。この場合、第1方向は、後述するように、絶縁部材5が固定子鉄心1の巻線3の間に装着された際の周方向Rに相当する。
【0010】
絶縁部材5は絶縁性及び弾性を備える樹脂により構成されている。絶縁部材5は、例えばエチレン・プロピレンゴムにより構成されている。絶縁部材5は弾性を備えており、付勢力をもって屈曲させることができる。後述するように、絶縁部材5は固定子鉄心1の巻線3の間に凸部5bを挿入させるとともに、基部5aを巻線3が配置される円周に沿うようにして屈曲させて固定子鉄心1に装着される。
【0011】
絶縁部材5の凸部5bの先端部には、係止部5cが設けられている。係止部5cは、凸部5bの先端部分に配置され、第1方向Sに突出するように設けられている。絶縁部材5が固定子鉄心1に装着され、凸部5bが巻線3の間に嵌め込まれた場合に、係止部5cは周方向Rに突出し、巻線3に係止されることにより、巻線3から抜け落ちることを抑制する。
【0012】
図2図3、及び図4に示す様に、実施形態に係る固定子100は固定子鉄心1を備えている。固定子鉄心1は、内部中空の円筒形状をなし、内側に図示しない回転子が配置される空間が形成されている。固定子鉄心1は、電磁鋼板により形成された鉄心材を多数枚積層して構成されている。個々の鉄心材は、平板円環形状を呈しており、これを積層することで固定子鉄心1を構成している。
【0013】
固定子鉄心1の内側内周部には、巻線3を収容するための複数のスロット2が回転軸方向に延伸して設けられており、複数のスロット2が周方向Rに等間隔に隣接して配置されている。固定子鉄心1は、図示しない電動機を収容するフレーム内に固定されて用いられる。スロット2には巻線3が幾重にも巻回されている。巻線3は、固定子鉄心1の上端部に位置する巻線3の立ち上り部4で折り返されることにより巻回されている。巻線3は、周囲が樹脂などの絶縁物でコーティングされた複数の導電線により構成されている。
【0014】
図2図3図4に示す様に、絶縁部材5は、固定子鉄心1の巻線3の立ち上り部4において、固定子鉄心1に接するようにして設けられている。絶縁部材5の基部5aは、立ち上がり部4において、周方向Rの円周に沿って配置される巻線3の外周側から、巻線3の配置に沿って当接されている。絶縁部材5の凸部5bは、異相の巻線3の間に挿入されている。この場合、絶縁部材5は、巻線3の外周を取り巻くように複数の絶縁部材5を組み合わせて用いてもよい。巻線3の外周を取り巻くのに十分な長さを備えた絶縁部材5であれば、単一の絶縁部材5を用いてもよい。また、立ち上がり部4に装着された絶縁部材5の外周を図示しない締結具によって巻回することにより緊縛固定してもよい。
【0015】
また、例えば、固定子100によって構成されるインバータ駆動用電動機が、三相交流駆動方式の電動機である場合、図2、及び図3に示す様に、凸部5bは、U相、V相、及びW相の巻線3の間、つまり異相の巻線3の間に挿入されて嵌め込まれている。これにより、異相の巻線3の間の絶縁性を向上させることができるため、異相の巻線3間の放電を抑制することができる。
【0016】
また、絶縁部材5は巻線3の配置に沿って円周に沿うように屈曲されている。ここで、絶縁部材5は樹脂で構成されているため、弾性力により巻線3が直線形状に回復しようとするテンションが巻線3に作用する。これにより、絶縁部材5の凸部5bが巻線3に付勢されるため、絶縁部材5と巻線3との間の摩擦力が大きくなる。このため、絶縁部材5が巻線3から抜け落ちることが抑制される。
【0017】
また、この場合、図5に示す様に、凸部5bの長さL1は、スロット2の内径方向の長さL2と同等か、又は、スロット2の内外径方向の長さL2よりも少し長い程度に構成されており、凸部5bの先端が図示しないロータに接触しないように構成されている。凸部5bを極力長く構成することで、凸部5bを挟持する巻線3との摩擦力で絶縁部材5が巻線3から抜け落ちることが抑制される。
【0018】
また、凸部5bの第1方向Sの幅はWである。幅Wは、絶縁部材5の凸部5bが嵌め込まれる巻線3の間隔よりもやや大きく設定されている。絶縁部材5は弾性を備えた樹脂により構成されているため、凸部5bが巻線3間に嵌め込まれた際に、弾性力により巻線3を付勢することにより摩擦力が大きくなり、これにより強く巻線3間に保持される。これにより、絶縁部材5が巻線3から抜け落ちることが抑制される。
【0019】
実施形態に係る絶縁部材5、及びこれを装着された固定子100によれば以下の効果を得る。
【0020】
実施形態に係る絶縁部材5は、第1方向Sに長手方向を有する細長いテープ状の基部5aに、第1方向Sに等間隔で配置され、第1方向Sに対して直角方向であって同一方向に突出する複数の凸部5bを備えている。凸部5bの先端には係止部5cが備えられている。係止部5cは、凸部5bの先端部に配置され、第1方向Sに突出するように設けられている。絶縁部材5が固定子鉄心1に装着され、凸部5bが巻線3の間に嵌め込まれた場合に、係止部5cが周方向Rに突出するように設けられて巻線3に係止されることにより、巻線3から抜け落ちることを抑制することができる。
【0021】
絶縁部材5は巻線3の配置に沿って円周に沿うように屈曲されている。絶縁部材5は樹脂で構成されているため、弾性力により巻線3が直線形状に回復しようとするテンションが作用する。これにより、絶縁部材5の凸部5bが巻線3に付勢されるため、これによっても、絶縁部材5が巻線3から抜け落ちることが抑制される。
【0022】
また、絶縁部材5の凸部5bの長さL1は、スロット2の内径方向の長さL2と同等か、又は、スロット2の内径方向の長さL2よりも少し長い程度に構成されており、スロット2よりも内径側に出ないように構成されている。凸部5bを極力長く構成することで、凸部5bを挟持する巻線3との摩擦力で絶縁部材5が巻線3から抜け落ちることが抑制される。
【0023】
また、凸部5bの幅Wは、絶縁部材5の凸部5bが嵌め込まれる巻線3の間隔よりもやや大きく設定されている。これにより、巻線3との摩擦力が大きくなり、絶縁部材5が巻線3から抜け落ちることが抑制される。
【0024】
従って、固定子鉄心1の立ち上り部4において、巻線3から抜け落ちにくい絶縁部材5、及びこれを使用した固定子100を提供することができる。
【0025】
また、絶縁部材5は絶縁性に優れた樹脂により構成されている。従って、絶縁部材5が固定子鉄心1に装着された場合に、異相の巻線3間に配置された凸部5bにより、立ち上り部4における異相の巻線3の間の絶縁性が向上されるため、異相の巻線3の間の部分放電を抑制することができる。また、絶縁部材5は、樹脂により一体成形された部材であるため、これを固定子鉄心1に取り付ける際に煩雑な作業を必要とせず、簡単に装着が可能である。従って、取付け作業効率が向上された絶縁部材5、及びこれを使用した固定子100を提供することができる。
【0026】
実施形態に係る固定子100は、電動機に用いられる固定子でもよいし、発電機に用いられる固定子でもよい。
【0027】
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1…固定子鉄心、2…スロット、3…巻線、4…立ち上り部、5…絶縁部材、5b…凸部、5c…係止部、100…固定子
図1
図2
図3
図4
図5