(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】回転子、および回転子のバランス調整方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/16 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
H02K15/16
(21)【出願番号】P 2020051695
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】新居 健太郎
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-139472(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第02924853(EP,A1)
【文献】実開昭56-108365(JP,U)
【文献】特開2018-207643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ本体と、
前記ロータ本体の軸方向の少なくとも一方の端部に設けられている端板部材と、
前記端板部材に周方向へ設けられているスリット部と、
前記スリット部に着脱可能であり、前記ロータ本体のバランスを調整するための調整部材と、
を備え
、
前記調整部材は、弾性体で形成され前記スリット部に嵌め込まれる嵌合部と、前記嵌合部と接続されている錘部と、を有し、
前記調整部材は、前記嵌合部を前記弾性体で形成することにより、前記スリット部から着脱可能であるとともに、前記嵌合部が前記スリット部に取り付けられた状態で前記端板部材の周方向へ移動可能である、
回転子。
【請求項2】
請求項1記載の調整部材を備える回転子のバランス調整方法であって、
ロータ本体の軸方向の少なくとも一方の端部に端板部材を有する回転子の回転バランスを測定する測定工程と、
測定した前記回転子の回転バランスに基づいて、前記端板部材に回転バランスを調整するための調整部材を取り付ける調整工程と、
前記調整部材を取り付けた前記回転子の回転バランスを測定する調整後測定工程と、を含み、
前記回転子の回転バランスが予め設定した設定値となるまで前記調整工程および前記調整後測定工程を繰り返す回転子のバランス調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、回転子、および回転子のバランス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機に用いられる回転子は、安定した回転およびトルク特性を得るために、回転バランスが調整される。従来、回転バランスは、ロータ本体の軸方向の端部に設けられている端板部材を切削することにより調整されている(特許文献1参照)。すなわち、回転バランスの調整は、組み上げた回転子を回転することにより回転バランスを測定し、この測定値に基づいて専用の加工機により端板部材を切削する。このように、回転バランスの測定および端板部材の切削を繰り返すことにより、回転子の回転バランスは調整される。
【0003】
しかしながら、回転バランスを調整するとき、回転バランスの測定と端板部材の切削とは複数回繰り返される。そのため、回転子は、回転バランスの調整の際に、回転バランスを測定する測定器と端板部材を切削する加工機との間の往復、および加工機による加工が必要となる。その結果、現場での作業が困難になるとともに、作業工数の増大を招くという問題がある。また、切削のような減量による回転バランスの調整は、過剰な切削が生じると、あらためて調整が必要となり、作業者の熟練度によっては工数が増大するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、複雑な作業および工数の増大を招くことなく回転バランスの調整が容易な回転子を提供することを目的とする。
また、熟練度にかかわらず回転バランスの調整精度が高められる回転子の回転バランス調整方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本実施形態の回転子は、ロータ本体、端板部材、スリット部および調整部材を備える。端板部材は、前記ロータ本体の軸方向の少なくとも一方の端部に設けられている。スリット部は、前記端板部材に周方向へ設けられている。調整部材は、前記スリット部に着脱可能であり、前記ロータ本体のバランスを調整する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態による回転子の端板部材を、
図2の矢印I方向から見た模式図
【
図3】一実施形態による回転子の端板部材の要部を示す模式図であり、
図1のIII-III線で切断した断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、回転子の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図2に示すように回転子10は、ロータ本体11、回転軸部材12、端板部材13および端板部材14を備えている。回転子10は、モータや発電機などに適用される。ロータ本体11は、回転軸部材12の径方向外側に設けられている。ロータ本体11は、例えば回転軸部材12に巻かれているコイル、または回転軸部材12の径方向外側に取り付けられている永久磁石などを有している。ロータ本体11は、回転軸部材12を軸として回転する。回転軸部材12は、回転子10の軸方向に伸びている。
【0009】
端板部材13および端板部材14は、回転軸部材12の軸方向において、ロータ本体11の端部に設けられている。
図2に示す例の場合、回転子10は、ロータ本体11の両方の端部にそれぞれ端板部材13および端板部材14を有している。すなわち、回転子10は、軸方向の一方の端部に端板部材13を備えるとともに、他方の端部に端板部材14を備える。端板部材13および端板部材14は、いずれも円板状に形成されており、ロータ本体11とともに回転軸部材12の径方向外側に設けられている。回転子10は、軸方向の少なくとも一方の端部に端板部材13を有していればよい。
【0010】
回転子10は、上記に加え、
図1に示すようにスリット部15を備えている。本実施形態のように、2つの端板部材13および端板部材14を備える回転子10の場合、スリット部15は、2つの端板部材13または端板部材14のうち少なくともいずれか一方に設けられている。
図2に示す例では、スリット部15は端板部材13に設けられている。なお、スリット部15は、端板部材13および端板部材14の両方に設けてもよい。
【0011】
スリット部15は、端板部材13のロータ本体11と反対側の面16側に設けられている。具体的には、スリット部15は、端板部材13のロータ本体11と反対側の面16からロータ本体11側、つまり板厚方向へ窪んでいる。スリット部15は、
図3に示すように端板部材13の板厚方向の途中まで溝状に形成されている。なお、スリット部15は、少なくとも一部が端板部材13をロータ本体11側の面まで板厚方向へ貫いていてもよい。スリット部15は、
図1に示すように回転軸部材12を中心に端板部材13の周方向へ設けられている。すなわち、スリット部15は、端板部材13の端部に円環状に設けられている。なお、スリット部15は、連続した円環状に限らず、周方向へ2つ以上に分割した円弧状に形成してもよい。
【0012】
回転子10は、
図1から
図3に示すように調整部材20を備えている。調整部材20は、スリット部15に着脱可能に設けられている。つまり、調整部材20は、スリット部15に取り付けることができるとともに、スリット部15から取り外すことができる。また、調整部材20は、スリット部15に取り付けた後、スリット部15に沿って端板部材13の周方向へ移動させることができる。調整部材20は、
図3に示すように嵌合部21および錘部22を有している。嵌合部21は、例えば板ばねや樹脂などの弾性体で形成されている。これにより、嵌合部21は、スリット部15に嵌め込まれる。また、嵌合部21は、弾性体で形成することにより、スリット部15に嵌め込むことができるとともに、スリット部15から取り外すことができる。錘部22は、嵌合部21に接続している。錘部22は、予め設定質量に設定されている。錘部22は、例えば10g、20g、50gなどのように各種の質量に設定されている。端板部13は、スリット部15に径方向に突出する鍔部23を有している。調整部材20の嵌合部21は、鍔部23と噛み合うことによってスリット部15に取り付けられる。
【0013】
次に、上記の構成による回転子10のバランス調整方法について説明する。
(測定工程)
回転子10は、バランスの調整に先立って、回転軸部材12にロータ本体11、端板部材13および端板部材14が取り付けられる。ロータ本体11は、例えば巻き付けや圧入などによって回転軸部材12に取り付けられる。ロータ本体11は、これらに限らず、例えばねじ止めなど、任意の方法で回転軸部材12に取り付けることができる。同様に、端板部材13および端板部材14は、圧入やねじ止めなどによってロータ本体11および回転軸部材12に取り付けられる。これらにより、バランスが調整される前の回転子10が組み付けられる。組み付けられた回転子10は、回転バランスが測定される。回転子10の回転バランスは、図示しないバランス測定装置によって測定される。回転子10の回転バランスは、例えば回転子10を予め設定された回転数で回転させることにより測定される。この場合、回転子10は、例えば質量の偏り、回転軸部材12の軸心のぶれなどが回転バランスとして測定される。
【0014】
(調整工程)
回転子10は、測定工程で回転バランスが測定されると、端板部材13のスリット部15に調整部材20が取り付けられる。調整部材20は、測定工程で測定された回転バランスに基づいて、取り付ける位置および錘部22の質量が決定される。すなわち、測定工程では、回転子10の回転バランスを測定することにより、質量の偏りや軸心のぶれを解消して回転バランスを確立するために必要な調整部材20が決定される。具体的には、測定工程では、これらの回転バランスの確立に必要な調整部材20を取り付ける位置および錘部22の質量が算出される。調整部材20は、測定工程で算出された取り付け位置および錘部22の質量に基づいて、錘部22が選択され、算出された取り付け位置に取り付けられる。
【0015】
(調整後測定工程)
回転子10のスリット部15に調整部材20が取り付けられると、調整部材20が取り付けられた回転子10は回転バランスが再び測定される。回転子10は、スリット部15に調整部材20を取り付けることにより、回転バランスが調整され、質量の偏りおよび軸心のぶれが低減される。このように質量の偏りおよび軸心のぶれが低減された回転子10は、調整後測定工程おいて確認のために回転バランスが再び測定される。
【0016】
この調整後測定工程において回転バランスが予め設定した設定値であれば、回転子10の調整は終了する。一方、調整後測定工程において回転バランスが予め設定した設定値でなければ、回転子10は、再び調整工程で調整部材20の取り付け位置の変更または質量の変更を行ない、あらためて調整後測定工程において回転バランスが測定される。回転子10は、回転バランスが設定値となるまで、調整工程および調整後測定工程を繰り返す。この場合、設定値は、回転子10に求められる性能に応じて設定されている。設定値は、特定の値であってもよく、特定の範囲の値であってもよい。
【0017】
以上説明したように、本実施形態の回転子10は、端板部材13にスリット部15を備えている。そして、回転子10は、このスリット部15に着脱可能な調整部材20を備えている。これにより、回転子10は、測定した回転バランスに基づいて、端板部材13のスリット部15に調整部材20が取り付けられる。調整部材20は、スリット部15に着脱可能であることから、測定した回転バランスに応じて取り付ける位置および質量が選択される。そのため、例えば切削などによる調整と異なり、過剰な調整を生じることがなく、回転子の回転バランスが調整される。したがって、複雑な作業および工数の増大を招くことなく回転バランスの調整を容易にすることができる。
【0018】
また、本実施形態では、端板部材13のスリット部15は周方向へ設けられている。そのため、調整部材20は、スリット部15に取り付けた後でも、スリット部15に沿って周方向への移動することで位置が微調整される。これにより、わずかな回転バランスの調整の際、調整部材20の着脱の必要がない。また、回転子10のバランスを調整する場合、例えば回転子10を測定機器に搭載したまま調整部材20をスリット部15に沿って移動するなど、回転子10の大きな移動をともなうことなく、その場での調整が容易である。特に大型の回転子10の場合、現場での調整作業が容易になる。したがって、工数の増大を招くことなく、回転バランスを高度かつ容易に調整することができる。
【0019】
本実施形態では、調整部材20は、錘部22を有している。そのため、質量の異なる錘部22を有する調整部材20を用意することにより、測定した回転バランスに応じた適切な調整部材20が選択される。したがって、過剰な調整を生じることなく、回転バランスの調整を容易にすることができる。また、調整部材20は、嵌合部21を有している。そのため、調整部材20は、端板部材13のスリット部15に容易に着脱可能である。嵌合部21の保持力を調整することにより、端板部材13から調整部材20の脱落を低減しつつ、端板部材13からの取り外しおよびスリット部15に沿った移動が確保される。したがって、工数の増大を招くことなく、回転バランスを高度かつ容易に調整することができる。
【0020】
本実施形態では、組み上げられた回転子10は、測定工程で回転バランスが測定された後、調整工程および調整後測定工程により、回転バランスが調整される。この場合、最初の測定工程で大まかな調整部材20の質量および位置が決定される。そして、決定された調整部材20の質量および位置によって、回転子10の回転バランスは概ね調整される。このとき、例えば切削などによる回転バランスの調整と比較して、過剰な調整は生じにくい。本実施形態の場合、仮に調整部材20の質量および位置の精度が低くても、調整部材20の着脱、移動および変更が容易である。そのため、回転バランスの調整は、熟練度を必要としない。したがって、熟練度にかかわらず回転バランスの調整精度を高めることができる。
【0021】
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0022】
図面中、10は回転子、11はロータ本体、13、14は端板部材、15はスリット部、20は調整部材、21は嵌合部、22は錘部を示す。