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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】エレベータ式駐車設備
(51)【国際特許分類】
   E04H 6/18 20060101AFI20231227BHJP
   B66B 5/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
E04H6/18 601D
E04H6/18 601F
E04H6/18 606E
B66B5/00 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020060393
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156141
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 恵介
(72)【発明者】
【氏名】龍口 司
(72)【発明者】
【氏名】有岡 献
(72)【発明者】
【氏名】沢村 亮
(72)【発明者】
【氏名】石田 学
(72)【発明者】
【氏名】難波 政浩
【審査官】廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023455(JP,A)
【文献】実開平05-075354(JP,U)
【文献】特開2015-218052(JP,A)
【文献】特開平03-257264(JP,A)
【文献】特開2007-204959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 6/18
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ搬器と、
前記エレベータ搬器を上方から吊り下げる吊りロープと、
前記エレベータ搬器に固定された傾斜センサと、
前記傾斜センサの基準値と前記エレベータ搬器の傾きの閾値を記憶する記憶部と、
前記傾斜センサによって傾き測定した出力値と該傾斜センサの前記基準値とを比較する評価部と、を備え、
前記傾斜センサは、前記エレベータ搬器の左右方向の傾きを測定する傾斜センサを含み、
前記閾値は、前記エレベータ搬器の左右方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となるとともに、前記エレベータ搬器の対角方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となるように構成されており、
前記エレベータ搬器を所定の基準位置に配置した状態で前記傾斜センサの前記基準値を設定し、
点検時にロープで吊下げられた状態で前記傾斜センサによって測定した前記エレベータ搬器の傾きの前記出力値と前記基準値とを比較するとともに、前記傾斜センサの測定値から前記エレベータ搬器の対角方向の傾きを求め、前記エレベータ搬器の傾きが前記閾値を越えているか否かを前記評価部で評価するように構成されている、
ことを特徴とするエレベータ式駐車設備。
【請求項2】
エレベータ搬器と、
前記エレベータ搬器を上方から吊り下げる吊りロープと、
前記エレベータ搬器に固定された傾斜センサと、
前記傾斜センサの基準値と前記エレベータ搬器の傾きの閾値を記憶する記憶部と、
前記傾斜センサによって傾き測定した出力値と該傾斜センサの前記基準値とを比較する評価部と、を備え、
記傾斜センサは、前記エレベータ搬器の前後方向の傾きを測定する傾斜センサと、前記エレベータ搬器の左右方向の傾きを測定する傾斜センサを含み、
前記閾値は、前記エレベータ搬器の前後方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となるとともに、前記エレベータ搬器の左右方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となり、且つ前記エレベータ搬器の対角方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となるように構成されており、
前記エレベータ搬器を所定の基準位置に配置した状態で前記傾斜センサの前記基準値を設定し、
点検時にロープで吊下げられた状態で前記傾斜センサによって測定した前記エレベータ搬器の傾きの前記出力値と前記基準値とを比較するとともに、前記傾斜センサの測定値から前記エレベータ搬器の対角方向の傾きを求め、前記エレベータ搬器の傾きが前記閾値を越えているか否かを前記評価部で評価するように構成されている、
ことを特徴とするエレベータ式駐車設備。
【請求項3】
前記傾斜センサによる前記エレベータ搬器の傾き測定は、複数位置で行われるように構成されており、
前記複数位置は、前記エレベータ搬器の昇降する全行程の1/2以上離れた2つの位置を含むように構成されている、
請求項1または2に記載のエレベータ式駐車設備。
【請求項4】
前記傾斜センサによる前記傾き測定は、測定する位置に停止して所定時間を経過した後、停止中に複数回の測定を行い、測定した前記複数回の測定値の平均値を測定結果とするように構成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載のエレベータ式駐車設備。
【請求項5】
前記評価部で評価した前記エレベータ搬器の傾きが前記閾値を越えていた場合に発報するように構成されている、
請求項1~のいずれかに1項に記載のエレベータ式駐車設備。
【請求項6】
前記測定結果は、運転盤の画面に表示するように構成されている、
請求項に記載のエレベータ式駐車設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬器の傾きを検知する傾き検知装置を備えたエレベータ式駐車設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータ式駐車設備における搬器は、定期検査などで傾きが検査され、傾きが許容値を越えている場合には、その傾きが修正されている。搬器の傾きの検査は、通常、搬器を吊り下げている駐車設備の上部で行われるため、高所作業となり時間を要する。
【0003】
そこで、この種の先行技術として、本出願人が先に出願した、エレベータ式駐車装置における昇降台傾き度合診断方法がある(例えば、特許文献1参照)。この方法では、搬器の傾きを診断する位置にセンサを追加し、エレベータ式駐車装置の新設時などに原点の位置とセンサを設けた測定位置とにおいて傾きを測定するティーチング運転を行い、その傾き結果を基準値として設定する。そして、適時に傾き判定運転を行い、そのときの実測値を基準値と比較して、実測値が許容値以内か否かを判定している。
【0004】
また、他の先行技術として、昇降路の上部から吊ロープで吊り下げられたケージの傾きをジャイロセンサなどの姿勢角センサで検出し、ケージの傾きをケージに固定された連動機構を調整して水平にするものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-204959号公報
【文献】特開2018-3283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、高層ビル等に並設されるエレベータ式駐車設備は、搬器の昇降速度が高速化しており、上記特許文献1では、センサの位置を搬器が通過したときに適切な傾き検知ができないおそれがある。
【0007】
また、上記特許文献2では、ケージに固定された連動機構でケージの傾きを調整するため、駐車階が増加して搬器の昇降速度が高速化した場合の信頼性低下や、搬器の重量増加による駆動動力増加などが生じ、安定した運転が難しい場合がある。
【0008】
そこで、本発明は、高速で昇降するエレベータ搬器であってもエレベータの傾きを適切に評価できる傾き検知装置を備えたエレベータ式駐車設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、エレベータ搬器と、前記エレベータ搬器を上方から吊り下げる吊りロープと、前記エレベータ搬器に固定された傾斜センサと、前記傾斜センサの基準値と前記エレベータ搬器の傾きの閾値を記憶する記憶部と、前記傾斜センサによって傾き測定した出力値と該傾斜センサの前記基準値とを比較する評価部と、を備え、前記エレベータ搬器を所定の基準位置に配置した状態で前記傾斜センサの前記基準値を設定し、点検時にロープで吊下げられた状態で前記傾斜センサによって測定した前記エレベータ搬器の傾きの前記出力値と前記基準値とを比較し、前記エレベータ搬器の傾きが前記閾値を越えているか否かを前記評価部で評価するように構成されている。
【0010】
この構成により、エレベータ搬器が基準位置に配置された状態でエレベータ搬器に固定された傾斜センサの出力値の基準値を設定し、点検時にエレベータ搬器がロープで吊下げられた状態で傾斜センサによって測定した傾きの出力値を基準値と比較し、閾値に基づいてエレベータ搬器の傾きを適切に評価することができる。
【0011】
また、前記傾斜センサは前記エレベータ搬器の前後方向の傾きを測定する傾斜センサであって、前記閾値は、前記エレベータ搬器の前後方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となるように構成されていてもよい。このように構成すれば、エレベータ搬器の前後方向の端部における上下方向のずれ量を、エレベータ搬器の前後方向の長さが異なっても適切に評価できる。例えば、傾斜センサの出力値と基準値との差を閾値と比較する場合は、エレベータ搬器の前後方向長さが短い場合は閾値を大きく設定し、前後方向長さが長い場合は閾値を小さく設定することで、エレベータ搬器の前後方向長さに応じた閾値で傾きを評価できる。傾斜センサの出力値と基準値との差と予め設定されたエレベータ搬器の前後長からエレベータ搬器の前後方向の端部における上下方向のずれ量を算出してこれを閾値と比較する場合は、エレベータ搬器の前後方向長さが異なっていても閾値を変更することなく傾きを評価できる。
【0012】
また、前記傾斜センサは、前記エレベータ搬器の左右方向の傾斜を測定する傾斜センサを含み、前記閾値は、前記エレベータ搬器の左右方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となるように設定された左右方向の閾値を含むように構成されていてもよい。このように構成すれば、エレベータ搬器の前後方向の端部における上下方向のずれ量に加え、左右方向の端部における上下方向のずれ量を、エレベータ搬器の前後左右方向の長さが異なっても適切に評価できる。例えば、傾斜センサの出力値と基準値との差を閾値と比較する場合は、エレベータ搬器の前後左右方向の長さが短い場合は閾値を大きく設定し、前後左右方向の長さが長い場合は閾値を小さく設定することで、エレベータ搬器の前後左右方向の長さに応じた閾値で傾きを評価できる。傾斜センサの出力値と基準値との差と予め設定されたエレベータ搬器の前後長、左右長からエレベータ搬器の前後方向、左右方向の端部における上下方向のずれ量を算出してこれを閾値と比較する場合は、エレベータ搬器の前後左右方向の長さが異なっていても閾値を変更することなく傾きを評価できる。なお、前後方向の傾斜を測定する傾斜センサと左右方向の傾斜を測定する傾斜センサは、それぞれ独立した傾斜センサであっても、2軸以上の傾斜センサ1つであってもよい。
【0013】
また、前記傾斜センサの測定値から前記エレベータ搬器の対角方向の傾きを求め、前記閾値は、前記エレベータ搬器の対角方向の端部における上下方向のずれ量が所定範囲となるように構成されていてもよい。このように構成すれば、エレベータ搬器の前後左右方向の端部における上下方向のずれ量に加え、平面視略矩形状のエレベータ搬器において対角にあたる部分の上下方向のずれ量を、エレベータ搬器の前後左右方向の長さが異なっても適切に評価できる。例えば、傾斜センサの出力値と基準値との差を閾値と比較する場合は、エレベータ搬器の前後左右方向の長さから求まる対角方向の長さが短い場合は閾値を大きく設定し、前記対角方向の長さが長い場合は閾値を小さく設定することで、エレベータ搬器の前後左右方向の長さに応じた閾値で傾きを評価できる。傾斜センサの出力値と基準値との差と、予め設定されたエレベータ搬器の前後長、左右長からエレベータ搬器の対角方向の端部における上下方向のずれ量を算出してこれを閾値と比較する場合は、エレベータ搬器の前後左右方向の長さが異なっていても閾値を変更することなく傾きを評価できる。
【0014】
また、前記傾斜センサによる前記エレベータ搬器の傾き測定は、複数位置で行われるように構成されており、前記複数位置は、前記エレベータ搬器の昇降する全行程の1/2以上離れた2つの位置を含むように構成されていてもよい。このように構成すれば、昇降するエレベータ搬器の傾きを、離れた位置で測定することで、エレベータ搬器の傾きの傾向を知ることができ、エレベータ搬器の傾きを調整する作業に利用することができる。例えば、最上部の階における傾きと最下部の階における傾きとが逆向きの場合、中間部の階で傾き調整作業を行うことで、適切な傾き調整ができる。なお、前記複数位置は、例えば、最上部の階と最下部の階である入出庫階に隣接する2階を含む複数階であってもよい。このように構成すれば、前記複数階の間隔を大きく離すことができるとともに、停止精度の点検などと同時に傾きの測定を行うことができ、精度よく効率的に点検を行うことができる。さらに、最上部と最下部に加え中間位置でも傾きを測定することで、より確実に傾きの傾向を知ることができる。
【0015】
また、前記傾斜センサによる前記傾き測定は、測定する位置に停止して所定時間を経過した後、停止中に複数回の測定を行い、測定した前記複数回の測定値の平均値を測定結果とするように構成されていてもよい。このように構成すれば、エレベータ搬器を吊下げた状態で傾き測定する場合において、停止直後の変動の影響を軽減した測定値の平均値でエレベータ搬器の傾きを適切に評価することができる。
【0016】
また、前記評価部で評価した前記エレベータ搬器の傾きが前記閾値を越えていた場合に発報するように構成されていてもよい。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「発報」は、画面に警告を表示する、警告音を発する、警告灯を点灯させる、所定の発報先にEメールを送信する、ネットワークを介して所定の発報先に傾きが前記閾値を超えたことを含む情報を送信すること、などを含む。このように構成すれば、エレベータ搬器の傾きが閾値を越えたことを発報によって報知することができる。
【0017】
また、前記測定結果は、運転盤の画面に表示するように構成されていてもよい。このように構成すれば、管理者などが運転盤を見ることでエレベータ搬器の傾きを知ることができる。エレベータ搬器の傾きを知ることで、保守管理の予定などに利用できる。このとき、画面に表示する前記測定結果は、測定結果をそのまま表示するものだけでなく、測定結果と基準値の差、測定結果と基準値の差を角度に換算した値、測定結果と基準値の差をエレベータ搬器の前後方向端部のずれ量に換算した値、閾値に対する割合を表示するものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高速で昇降するエレベータ搬器であってもエレベータの傾きを適切に評価できる傾き検知装置を備えたエレベータ式駐車設備を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るエレベータ式駐車設備の内部概略を示す全体正面図である。
図2図2は、図1に示すII-II矢視の概略を示す平面図である。
図3図3は、エレベータ搬器を所定の駐車階で支持する状態の一部を示す図面であり、(a)は所定の駐車階で支持する前の状態を示す正面図、(b)は所定の駐車階で支持した状態を示す正面図である。
図4図4は、図1に示すエレベータ式駐車設備の昇降駆動系の概略を示す斜視図である。
図5図5図2に示すV矢視の概略図である。
図6図6は、図1に示すエレベータ式駐車設備に備えられた制御部を示すブロック図である。
図7図7は、図3(a)の状態でエレベータ搬器の傾きを測定するときにおけるエレベータ搬器の変動の一例を示す図面である。
図8図8は、エレベータ搬器が傾いている状態を模式的に示す図面であり、(a)は前部が下方に傾き、(b)は後部が下方に傾いている状態を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、下部90度乗入れ方式のエレベータ式駐車設備1を例に説明する。このエレベータ式駐車設備1は、下部駆動方式の例である。なお、エレベータ式駐車設備1は、以下の実施形態に限定されるものではない。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における前後左右方向の概念は、図2に示す前後左右方向の概念と一致するものとする。
【0021】
(エレベータ式駐車設備の構成)
図1は、一実施形態に係るエレベータ式駐車設備1の内部概略を示す全体正面図である。図2は、図1に示すII-II矢視の概略を示す平面図である。図3は、エレベータ搬器15を所定の駐車階12で支持する状態の一部を示す図面であり、(a)は所定の駐車階12で支持する前の状態を示す正面図、(b)は所定の駐車階12で支持した状態を示す正面図である。
【0022】
この実施形態のエレベータ式駐車設備1は、4隅に設けられた鉛直方向の主柱3と、この主柱3を水平方向に連結する梁4等とによって鉄骨構造体が形成され、この鉄骨構造体の外面に外装板5が設けられた駐車塔2を有している。この駐車塔2は、地上1階が乗入れ部6となっており、乗入れ部6の乗入れ床7にはピット8が形成されている。乗入れ部6が入出庫階である。また、乗入れ部6の左方向には車両Vが入出庫する入出庫口9が設けられ、この入出庫口9には、開閉式の入出庫口扉が設けられている。また、入出庫口9の外部側方には、運転盤10が配設されている。
【0023】
このようなエレベータ式駐車設備1は、駐車塔2の中央部には、鉛直方向に平面視が矩形状の昇降路11が形成されている。昇降路11は、平面視で駐車塔2の前後方向が長寸で、左右方向が短寸の矩形状となっている。この昇降路11を挟んで図の左右両側の鉛直方向に複数段の駐車階12が設けられている。各駐車階12には、左右方向に延びる棚レール13が設けられている。棚柱14は、主柱3と平行に鉛直方向に延びるように設けられ、棚レール13は、棚柱14と梁4との間に設けられている。この棚レール13に沿ってパレット60が格納されるようになっている。
【0024】
また、昇降路11には、パレット60を搬送するエレベータ搬器15が設けられている。エレベータ搬器15には、パレット移載機構16が設けられており、このパレット移載機構16によってパレット60をエレベータ搬器15と各駐車階12の棚レール13との間で移載できるようになっている。さらに、ピット8内には、パレット60を持上げて旋回させるパレット持上旋回装置17が備えられており、このパレット持上旋回装置17によって、パレット60が乗入れ部6で90度旋回させられる。パレット移載機構16及びパレット持上旋回装置17は、公知の手段を採用することができる。
【0025】
この実施形態のエレベータ式駐車設備1は、駐車塔2の乗入れ部6に昇降駆動装置20が設置されている。昇降駆動装置20は、トラクションシーブ23に掛けられた複数本のロープ21が、駐車塔2の最上部に設けられた転向プーリ24に向けて延び、転向プーリ24で水平方向に転向させられている。ロープ21は、昇降路11の上方に設けられた吊下げプーリ25で下方に曲げられ、このロープ21にエレベータ搬器15が吊下げられている。
【0026】
この実施形態のエレベータ式駐車設備1は、エレベータ搬器15を所定の駐車階12の位置で支持する定位置支持装置50が設けられている。図3にも示すように、この実施形態の定位置支持装置50は、各駐車階12の位置において棚柱14に設けられた棚側受けブラケット51,52と、エレベータ搬器15に設けられ、棚側受けブラケット51,52に支持される支持部材53,54とを有する搬器支持機構55を備えている。
【0027】
搬器支持機構55は、エレベータ搬器15を昇降させるときには支持部材53,54を図2に示す通過状態とし、エレベータ搬器15を各駐車階12の棚側受けブラケット51,52で支持するときには、支持状態(図示する二点鎖線の支持部材53,54)に変更する駆動軸56がエレベータ搬器15に備えられている。
【0028】
エレベータ搬器15を所定の駐車階12で支持する場合、 図3(a)に示すように、エレベータ搬器15を棚柱14に設けられた棚側受けブラケット51,52の上方で一旦停止させる。そして、駆動軸56を図示しない駆動機で約90°で回動させて支持部材53,54を支持状態とした後、エレベータ搬器15を下降させて、図3(b)に示すように、棚側受けブラケット51,52で支持する。
【0029】
なお、定位置支持装置50には、公知の手段を採用することができる。この定位置支持装置50は一例であり、他の構成でエレベータ搬器15を各駐車階12で支持するようにしてもよい。
【0030】
(エレベータ搬器の昇降駆動系)
図4は、図1に示すエレベータ式駐車設備1の昇降駆動系の概略を示す斜視図である。図5図2に示すV矢視の概略図である。
【0031】
図4に示すように、エレベータ搬器15を昇降させる構成は、エレベータ搬器15の長手方向の前後端部の下部に動滑車27を設けた動滑車方式となっている。動滑車27に掛けられたロープ21は、一方を駐車塔2の固定部28に固定し、他方を昇降駆動装置20のトラクションシーブ23に巻き掛けた後、動滑車掛けでカウンタウェイト22を吊下げている。
【0032】
すなわち、昇降駆動装置20のトラクションシーブ23に掛けられた複数本のロープ21は、両端部側のいずれもがトラクションシーブ23から上方に延び、駐車塔2の最上部に設けられた複数の転向プーリ24によって水平方向に転向させられている。このロープ21は、エレベータ搬器15を昇降させる一端側が昇降路11(図1)の上方に設けられた吊下げプーリ25で下方に曲げられてエレベータ搬器15に向けて垂下し、エレベータ搬器15を吊下げている。また、水平方向に延びる他のロープ21は吊下げプーリ26で下方に曲げられ、昇降駆動装置20による巻上げ力を軽減するカウンタウェイト22を吊下げている。
【0033】
従って、昇降駆動装置20のトラクションシーブ23を駆動することにより、ロープ21で吊下げられたエレベータ搬器15が昇降路11で昇降させられ、エレベータ搬器15の昇降と逆方向にカウンタウェイト22が昇降させられる。このように、昇降駆動装置20でロープ21を駆動することで、エレベータ搬器15とカウンタウェイト22とはつるべ式に動作し、エレベータ搬器15が上昇したストローク分、カウンタウェイト22が下降するように駆動される。
【0034】
そして、図5に示すように、エレベータ搬器15には、前後方向に延びる所定長さLのエレベータフレーム18の前後方向の中央部分に傾斜センサ40が固定されている。傾斜センサ40としては、例えば、重力加速度を測定することで傾斜角度を求めるものを用いることができる。傾斜センサ40は、例えば、0.01度の傾斜角度を測定できるものを用いることができる。
【0035】
(傾き測定の制御部)
図6は、図1に示すエレベータ式駐車設備1に備えられた制御部30を示すブロック図である。
【0036】
エレベータ式駐車設備1に備えられた傾き測定のための制御部30には、傾斜センサ40と運転盤10とが接続されている。制御部30は、CPU31、揮発性・不揮発性メモリ32、I/Oインターフェイス33及び記憶部34等が含まれる。制御部30は、傾斜センサ40で測定した結果の出力値を評価する評価部でもある。制御部(評価部)30は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。制御部(評価部)30は、エレベータ式駐車設備1の制御装置に含ませることができる。
【0037】
(エレベータ搬器の傾き測定)
図7は、図3(a)の状態でエレベータ搬器15の傾きを測定するときにおけるエレベータ搬器15の変動の一例を示す図面である。傾斜センサ40によるエレベータ搬器15の傾き測定は、上記したように、エレベータ搬器15を所定の位置に移動させ(T1)、所定の位置で停止させた停止中T2におけるロープ21で吊下げた状態で行われる。例えば、エレベータ搬器15の停止中T2の時間を4~5秒程度とすることで、迅速な傾き測定を行うことができる。なお、この停止中T2の間やその前後において、傾き測定以外の測定、点検を行ってもよい。例えば、エレベータ搬器15の停止前後において加減速の状態を確認し、前記所定の位置が各駐車階12のいずれかである場合は、停止精度の確認などを併せて行うことができる。
【0038】
エレベータ搬器15の傾き測定をする場合、エレベータ搬器15を所定の位置まで移動させて停止させるが、エレベータ搬器15はロープ21で吊下げられた状態であるため停止させた直後は変動(振動)を生じている(図示する「T3」の部分)。そこで、この変動(振動)が収まるための所定時間(例えば、数秒)を経過した後、傾斜センサ40によるエレベータ搬器15の傾き測定が行われる(図示する「T4」の部分)。
【0039】
例えば、エレベータ搬器15を所定の位置で停止させた後、所定時間T3(例えば、変動が安定する数秒)経過後、傾斜センサ40によって各50回(15ms周期)の傾き測定T4が行われる。これにより、エレベータ搬器15の停止後における揺れなどの大きな変動を除いた傾き測定ができる。そして、傾斜センサ40の出力値の平均値をとることで、均した傾きとすることができる。傾斜センサ40による測定は、例えば、40~60回(15ms周期等)で測定し、平均値をとるようにできる。
【0040】
図示する太い実線は、エレベータ搬器15の傾き測定を行った出力値の平均値A(B)を示している。傾き「0」の実線が基準値Cである。エレベータ搬器15を所定の階まで移動させる動作中(図示する「T1」の部分)は前回の傾き測定における出力値の平均値Aであり、エレベータ搬器15を所定の階で停止させ、停止中に上記したようにエレベータ搬器15の傾き測定を行う(図示する「T4」の部分)。今回の傾斜センサ40の出力値の平均値Bは、前回の平均値Aよりも大きな傾きであるため、エレベータ搬器15の傾きは今回の平均値Bとなる。この例では、エレベータ搬器15の傾きがマイナス側に大きくなっていることを示している。
【0041】
このような傾斜センサ40で測定した傾きの出力値の平均値Bは、制御部30(評価部)において、予め設定された基準値Cと比較され、閾値Dを越えているか否かが判定され、エレベータ搬器15の傾きが評価される。閾値Dは、エレベータ搬器15の前後方向の長さLに応じて設定することができる。傾斜センサ40の出力値が同じであっても、エレベータ搬器15の前後方向の長さによって前後方向の端部における高さの差が異なるため、閾値Dはエレベータ搬器15の前後方向の長さに応じて設定される。エレベータ搬器15の前後方向の長さが短い場合は大きく、前後方向長さが長い場合は小さく設定することができる。これにより、エレベータ搬器15の前後方向の長さが長い場合、小さい傾きでも前後方向の端部では上下方向に大きく変位するため、エレベータ搬器15の長さが異なった場合でも、エレベータ搬器15の前後方向の端部における上下方向のずれ量を同様に評価できる。
【0042】
閾値Dは、エレベータ搬器15の前後方向の長さに応じた傾斜角度(例えば、0.1度~0.2度程度)にすることができる。閾値Dは、エレベータ搬器15の前後での高さ位置の差(許容値)を基準に、エレベータ搬器15の前後方向の長さに応じた傾斜角度とすることができる。このように、傾斜センサ40の出力値そのものや、傾斜センサ40の出力値を角度に換算しただけの値を閾値Dとして比較することで、傾斜センサ40の出力値(角度)からエレベータ搬器15の前後の高さ位置のずれ量を算出して閾値Dと比較するのではなく、出力値と容易に比較でき、傾きの判定処理を高速化することができる。
【0043】
また、閾値Dは、エレベータ搬器15の前後方向の長さから、傾斜角度に対応したエレベータ搬器15の前後での高さ位置の差を算出し、その高さ位置の差(例えば、10mm~30mm程度であったり、傾斜センサ40の検出精度により、10mm~20mm程度にすることができる)を固定値とすることができる。閾値Dを固定値とすることで、都度、傾斜センサ40の出力値と基準値からエレベータ搬器15の前後の高さ位置のずれ量を算出する必要はあるが、エレベータ搬器15の前後長によって閾値を変える必要はなくなる。
【0044】
以上は、前後方向の傾きを測定する傾斜センサ40を用いて、エレベータ搬器15の前後方向の端部における上下方向のずれ量を評価するものであるが、左右方向の傾きを測定する傾斜センサ40をさらに備え、または、前後方向と左右方向の傾きを測定する傾斜センサ40を用いて、前後方向の端部における上下方向のずれ量に加え、左右方向の端部における上下方向のずれ量や、対角方向の端部における上下方向のずれ量を評価するものであってもよい。
【0045】
図7に示す例では、今回の傾き測定による出力値の平均値Bは、閾値Dを越えていないため、評価の結果、エレベータ搬器15の傾きは基準内にあり、次の傾き測定までこの状態で運転される。平均値Bが閾値Dを越えていた場合、評価後に閾値を越えていた場合の発報などを行うことができる。
【0046】
エレベータ搬器15の傾き測定の評価は、例えば、入出庫階において水平の角度が基準値Cとなるエレベータ搬器15、入出庫階において前部が下向きに傾いた状態の角度が基準値Cとなるエレベータ搬器15などに応じて行われる。
【0047】
エレベータ搬器15の傾き測定は、複数位置で行われる。エレベータ搬器15の傾き測定を行う複数位置は、エレベータ搬器15が上下に移動する全行程の1/2以上離れた2箇所を含むことが望ましい。例えば、最上部の階と最下部の階と中央付近に位置する中間部の階とで行うことができる。複数位置のいずれかの位置は、入出庫口9がある入出庫階に隣接する階にできる。この実施形態のエレベータ式駐車設備1の場合、入出庫階が1階であるため最下部の階は2階となる。この例の場合、傾斜センサ40によるエレベータ搬器15の傾き測定は、2階(入出庫階の1つ上)、中間階、最上階において行われる。上下方向に3箇所の階で計測することで、エレベータ搬器15の傾きの傾向を知ることができる。なお、エレベータ搬器15の傾き測定は、エレベータ搬器15がロープ21で吊下げられた状態で行うため、各駐車階12に停止して行う必要はなく、例えば、入出庫階と入出庫階に隣接する階との間の位置に停止させて行ってもよい。
【0048】
エレベータ搬器15の傾き測定は、以下のように行われる。まず、この実施形態では、基準位置となる入出庫階の乗入れ部6においてエレベータ搬器15を固定側(駐車塔2側)で支持し、エレベータ搬器15の傾きが測定される。この測定結果が基準値Cとなる。その後、所定間隔(例えば、特定の日(毎月1回、2ヶ月に1回)、曜日、などの決まった日時など)、または、別途設定したタイミングでエレベータ搬器15を図3(a)に示すように所定の位置で停止させて傾き測定が行われる。エレベータ搬器15の傾きを所定間隔で測定することで、通常運転では高速で昇降するエレベータ搬器15であっても適切に傾き測定を行うことができる。
【0049】
また、傾斜センサ40の出力値、または、出力値を基に算出した傾斜角度が、エレベータ搬器15の前後長さから算出した閾値を越えている場合には、故障情報(注意、警告)を発報するようにできる。
【0050】
また、エレベータ搬器15の傾き測定結果、傾斜度(または、傾斜センサ40の出力値、エレベータ搬器15の前後位置における上下方向の位置ずれ量)は、運転盤10の画面(保守画面)上に表示するようにしてもよい。
【0051】
エレベータ搬器15の傾き測定は、エレベータ式駐車設備1から離れた場所に設けられた監視センターなどから行う遠隔点検において、エレベータ搬器15を自動運転で昇降させて傾斜センサ40で測定することもできる。遠隔点検の自動運転によってエレベータ搬器15の傾きを測定するようにすれば、同一条件で傾きを測定することができ、測定値の比較が容易になる。また、遠隔点検とすることで、作業者が現地に行く必要がなく、エレベータ搬器15の傾き測定に要する労力と時間を削減できる。
【0052】
また、傾斜センサ40から得られたエレベータ搬器15の傾斜度(または、傾斜センサ40の出力値、エレベータ搬器15の前後位置における上下方向の位置ずれ量)は、図示しないコンピュータ(データサーバ)に保管することができる。これらのデータをコンピュータに保管することで、保管したデータに基づいて、ロープ21の寿命予測の機械学習の学習データに活用することもできる。例えば、エレベータ搬器15の傾斜度からロープ21の伸び量を予測し、その伸び量から寿命予測をすることができる。
【0053】
さらに、エレベータ搬器15の傾斜度は、ロープ21の交換まで、離れた場所に設けられた監視センターのコンピュータや、図示しないコンピュータ、記憶部34に記憶して蓄積してもよい。調整後も同じような傾きを生ずることが繰り返される場合には、ロープ21の寿命が近づいているか、特定のロープに対して負荷が大きくなっていることを疑うことができ、保守点検に役立てることができる。
【0054】
(エレベータ搬器の傾き例)
図8は、エレベータ搬器15が傾いている状態を模式的に示す図面であり、(a)は前部が下方に傾き、(b)は後部が下方に傾いている状態を示す図面である。この実施形態におけるエレベータ式駐車設備1の場合、エレベータ搬器15は動滑車方式で吊下げられているため、エレベータ搬器15の傾きは、図8(a)に示すように、前部が下方に傾いた状態か、図8(b)に示すように、後部が下方に傾いた状態かになる。
【0055】
そして、例えば、最下階における測定結果が図8(a)の状態となり、最上階における測定結果が図8(b)の状態となり、最上階と最下階とでエレベータ搬器15の傾きが逆向きとなるような測定結果となった場合、エレベータ搬器15の傾き調整は、例えば、中間階において行うことができる。エレベータ搬器15の傾き調整を中間階で行うことにより、最上階と最下階とにおいて逆向きの同じ傾きに調整できる。
【0056】
(その他の変形例)
エレベータ式駐車設備1は、上記した実施形態における構成に限定されない。例えば、駐車塔2の最上階に昇降駆動装置20が備えられた構成であってもよい。エレベータ搬器15をロープ21で吊下げる動滑車方式も限定されるものではなく、エレベータ搬器15を他の方式で昇降させる構成であってもよい。
【0057】
また、エレベータ搬器15を所定の駐車階12で支持する構成は上記実施形態に限定されるものではない。
【0058】
さらに、上記した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0059】
1 エレベータ式駐車設備
2 駐車塔
6 乗入れ部
9 入出庫口
10 運転盤
11 昇降路
12 駐車階
15 エレベータ搬器
18 エレベータフレーム
20 昇降駆動装置
21 ロープ
23 トラクションシーブ
27 動滑車
30 制御部(評価部)
31 CPU
32 揮発性・不揮発性メモリ
33 I/Oインターフェイス
34 記憶部
40 傾斜センサ
50 定位置支持装置
60 パレット
V 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8