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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】車両位置検知装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 3/12 20060101AFI20231227BHJP
   G01P 3/46 20060101ALI20231227BHJP
   G01S 19/40 20100101ALI20231227BHJP
   G01S 19/47 20100101ALI20231227BHJP
   G01S 19/50 20100101ALI20231227BHJP
【FI】
B61L3/12 Z
G01P3/46 A
G01S19/40
G01S19/47
G01S19/50
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020062745
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021160468
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】八木 誠
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-008491(JP,A)
【文献】特開2007-284013(JP,A)
【文献】特開2003-294825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 3/12
G01S 19/47
G01S 19/50
G01S 19/40
G01P 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸の回転数情報に基づき車両の位置を検知する位置検知部と、
衛星測位システム信号及び前記車両の速度関連情報を単位時間毎に入力し、推定・予測フィルタを用いて前記車両の位置の推定及び前記単位時間後の前記車両の位置の予測を逐次的に行う位置推定部と、
前記位置推定部による推定位置と前回予測位置とを逐次比較して位置補正の可否を判定する可否判定部と、
を含み、
前記可否判定部の判定結果に応じて、前記位置検知部による検知位置が前記位置推定部による推定位置に基づく補正用位置を用いて補正される、
車両位置検知装置。
【請求項2】
前記可否判定部は、前記位置推定部による推定位置と前回予測位置との差分のばらつきを表す統計量に基づいて位置補正の可否を判定し、
前記可否判定部によって位置補正が可能であると判定された場合に前記位置検知部による検知位置が前記補正用位置を用いて補正される、
請求項に記載の車両位置検知装置。
【請求項3】
前記補正用位置は、前記可否判定部によって位置補正が可能であると判定された場合の直近の前記位置推定部による推定位置であるか又は前記位置推定部による推定位置の代表値である、請求項に記載の車両位置検知装置。
【請求項4】
前記可否判定部は、前記位置推定部による推定位置と前回予測位置との差分の標準偏差が閾値以下になると位置補正が可能であると判定する、請求項又はに記載の車両位置検知装置。
【請求項5】
前記位置検知部による検知位置が補正された場合、前記位置検知部による検知位置の前後に前記差分の標準偏差に基づく安全バッファが付加される、請求項に記載の車両位置検知装置。
【請求項6】
衛星測位システム信号を受信する複数の受信機を有し、
前記位置推定部は、前記複数の受信機のいずれかによって受信された衛星測位システム信号を入力して前記車両の位置を推定し、
前記位置検知部による検知位置が補正されない状態が所定時間以上継続した場合、前記位置推定部は、それまでとは異なる受信機によって受信された衛星測位システム信号を入力して前記車両の位置を推定する、
請求項1~のいずれか一つに記載の車両位置検知装置。
【請求項7】
車軸の回転数情報に基づき車両の位置を検知する位置検知部と、
衛星測位システム信号及び前記車両の速度関連情報を単位時間毎に入力し、推定・予測フィルタを用いて前記車両の位置を逐次的に推定する位置推定部と、
を含み、
前記位置検知部による検知位置が前記位置推定部による推定位置に基づき補正される、車両位置検知装置であって、
衛星測位システム信号を受信する複数の受信機を有し、
前記位置推定部は、前記複数の受信機のいずれかによって受信された衛星測位システム信号を入力して前記車両の位置を推定し、
前記位置検知部による検知位置が補正されない状態が所定時間以上継続した場合、前記位置推定部は、それまでとは異なる受信機によって受信された衛星測位システム信号を入力して前記車両の位置を推定する、
車両位置検知装置。
【請求項8】
前記車両は、あらかじめ設定された走行路上を走行し、
前記位置検知部は、前記走行路に設定された起点を基準とした前記走行路における前記車両の位置を検知し、
前記位置推定部は、前記起点を基準とした前記走行路における前記車両の位置を推定する、
請求項1~7のいずれか一つに記載の車両位置検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の位置を検知する車両位置検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から列車の車軸に取り付けられた速度発電機(タコジェネレータ)の出力信号に基づいて列車の位置を検知する技術が知られている。但し、速度発電機の出力信号に基づいて検知された列車の位置は、車輪の空転や滑走などに起因する誤差を含み、この誤差は列車の移動距離が増えるにしたがって増加する。そのため、速度発電機の出力信号に基づいて検知された列車の位置は、列車に設けられた車上子が軌道の所定位置に設置された位置補正用の地上子と対向して両者の間で通信が確立したときに当該地上子の設置位置に補正されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-126721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術は、車軸に取り付けられた速度発電機の出力信号、換言すれば、車軸の回転数情報を用いるため、列車の位置を連続的に検知することが可能であり、これまでに十分な実績もある。しかし、複数の位置補正用の地上子が軌道の異なる位置に設置される必要があり、設置コストや維持コストがかかる。そのため、位置補正用の地上子などの地上側設備を必要とすることなく、速度発電機の出力信号に基づいて検知された列車の位置を補正することのできる技術の開発が要望されている。なお、このような要望は、列車の位置を検知する場合に限られず、車軸の回転数情報を用いて車両の位置を検知する場合に共通するものである。
【0005】
そこで、本発明は、車軸の回転数情報に基づいて車両の位置を検知するとともに、地上側設備を必要とすることなく、検知された車両の位置を補正することのできる車両位置検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、車両位置検知装置が提供される。この車両位置検知装置は、車軸の回転数情報に基づき車両の位置を検知する位置検知部と、衛星測位システム信号及び前記車両の速度関連情報を単位時間毎に入力し、推定・予測フィルタを用いて前記車両の位置の推定及び前記単位時間後の前記車両の位置の予測を逐次的に行う位置推定部と、前記位置推定部による推定位置と前回予測位置とを逐次比較して位置補正の可否を判定する可否判定部と、を含み、前記可否判定部の判定結果に応じて、前記位置検知部による検知位置が前記位置推定部による推定位置に基づく補正用位置を用いて補正されるように構成されている。
また、本発明の他の側面によると、車軸の回転数情報に基づき車両の位置を検知する位置検知部と、衛星測位システム信号及び前記車両の速度関連情報を単位時間毎に入力し、推定・予測フィルタを用いて前記車両の位置を逐次的に推定する位置推定部と、を含み、前記位置検知部による検知位置が前記位置推定部による推定位置に基づき補正される、車両位置検知装置は、衛星測位システム信号を受信する複数の受信機を有し、前記位置推定部は、前記複数の受信機のいずれかによって受信された衛星測位システム信号を入力して前記車両の位置を推定し、前記位置検知部による検知位置が補正されない状態が所定時間以上継続した場合、前記位置推定部は、それまでとは異なる受信機によって受信された衛星測位システム信号を入力して前記車両の位置を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車軸の回転数情報に基づいて車両の位置を検知するとともに、地上側設備を必要とすることなく、検知された車両の位置を補正することのできる車両位置検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用された車両の一例の概略構成を示す図である。
図2】実施形態に係る車両位置検知装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】検知位置の補正処理の概要を示すフローチャートである。
図4】軌道(走行路)における車両の占有範囲を示す図であり、(a)は検知位置が補正されない場合の車両の占有範囲を示し、(b)は検知位置が補正された場合の車両の占有範囲を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下では、車両が鉄道車両(すなわち、列車)である場合について説明する。但し、これに限られるものではなく、車両には、バスなどのあらかじめ定められた走行路を走行する各種の車両が含まれ得る。
【0010】
図1は、本発明が適用された鉄道車両(以下単に「車両」という)Vの一例の概略構成を示している。図1に示される車両Vは、軌道T(すなわち、あらかじめ定められた走行路)を走行する。車両Vには、車両位置検知装置1、車両制御装置2及び車上無線機3が搭載されている。
【0011】
車上無線機3は、車両位置検知装置1及び車両制御装置2に接続されている。車上無線機3は、地上に設置された地上無線機51との間で無線通信が可能である。なお、図1には地上無線機51が一つしか示されていないが、実際には複数の地上無線機51が軌道Tに沿って互いに間隔をあけて設置されている。そして、複数の地上無線機51のそれぞれは、自身が属する管轄範囲内を走行する全ての車両を統括して管理する地上装置52に直接又は間接的に接続されている。
【0012】
車両位置検知装置1は、軌道Tにおける車両Vの位置を検知する。具体的には、車両位置検知装置1は、軌道Tに設定された起点(図示省略)を基準とした車両Vの位置(前記起点からの距離に相当)を検知する。また、車両位置検知装置1は、検知された車両Vの位置に基づいて車両制御などで使用される車両Vの制御用位置を設定するとともに、軌道Tにおける車両Vの占有範囲(在線位置)を算出するように構成されている。本実施形態において、車両位置検知装置1によって設定された車両Vの制御用位置及び/又は車両位置検知装置1によって算出された車両Vの占有範囲は、車両制御装置2に出力されるとともに地上装置52に無線送信される。なお、車両位置検知装置1の構成等については後述する。
【0013】
車両制御装置2は、車両Vの走行を制御する。車両制御装置2は、車両Vの走行を制御するものであればよく、特に制限されない。例えば、車両制御装置2は、車両位置検知装置1から入力された車両Vの制御用位置と、地上装置52から無線送信された制限速度情報と、に基づいて車両Vの速度を制御するように構成され得る。あるいは、車両制御装置2は、車両位置検知装置1から入力された車両Vの制御用位置と、地上装置52から無線送信された停止限界位置(LMA:Limit of Movement Authority)と、に基づいて速度照査パターンを作成し、作成された速度照査パターンにしたがって車両Vの速度を制限するように構成され得る。後者の場合、前記停止限界位置は、車両Vの前方を走行する先行車両(図示省略)の制御用位置又は占有範囲に基づいて地上装置52によって設定される。
【0014】
また、車両Vには、速度発電機4と、加速度センサ5と、GNSS受信機6と、が設けられている。
【0015】
速度発電機4は、いわゆるタコジェネレータである。速度発電機4は、車両Vの所定の車軸に取り付けられており、車軸の回転速度や回転数に応じた信号(以下「車軸回転数情報」という)を車両位置検知装置1及び車両制御装置2に出力する。車軸回転数情報は、車両Vの速度や車両Vの移動距離などを算出するために使用される。例えば、車両制御装置2は、車軸回転数情報に基づいて車両Vの速度を算出し、算出された車両Vの速度が前記制限速度を超えないようにブレーキ制御を行うように、あるいは、算出された車両Vの速度と前記速度照査パターンとを比較してブレーキ制御を行うように、構成され得る。
【0016】
加速度センサ5は、車両Vの加速度を検出する。加速度センサ5によって検出された車両Vの加速度は車両位置検知装置1に出力される。
【0017】
GNSS受信機6は、衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)から測位信号(以下「GNSS信号」という)を受信する。特に制限されないが、本実施形態において、GNSS受信機6は、車両Vの先頭部に配置されている。GNSS受信機6によって受信されたGNSS信号は車両位置検知装置1に出力される。
【0018】
図2は、車両位置検知装置1の概略構成を示すブロック図である。図2に示されるように、本実施形態において、車両位置検知装置1は、位置検知部11、位置推定部12、可否判定部13、制御用位置設定部14及び占有範囲算出部15を含む。
【0019】
位置検知部11は、速度発電機4の出力(車軸回転数情報)に基づいて軌道Tにおける車両Vの位置(ここでは、車両Vの先頭位置とする)を検知する。具体的には、位置検知部11は、車軸回転数情報に基づいて車両Vの移動距離を算出し、算出された車両Vの移動距離に基づいて車両Vの先頭位置DPfを検知するように構成されている。また、位置検知部11は、検知された車両Vの先頭位置DPfから車両Vの長さ(車両長)Lだけ後方の位置を車両Vの後尾位置DPrとして検知する。
【0020】
位置検知部11は、可否判定部13から後述する補正用位置CPを含む補正指令を入力すると、検知した現在(時刻kとする)の車両Vの先頭位置DPfを補正用位置CPに補正するように構成されている。これにより、車両Vの後尾位置DPrも補正されることになる。また、位置検知部11は、その後においては、補正後の車両Vの先頭位置DPf(すなわち、補正用位置CP)と、車軸回転数情報に基づいて算出される車両Vの移動距離と、から車両Vの先頭位置DPfを検知する。
【0021】
なお、以下では、位置検知部11によって検知された車両Vの位置(先頭位置DPf及び後尾位置DPr)のことを「位置検知部11による検知位置DP」という。位置検知部11による検知位置DPは、制御用位置設定部14に出力される。
【0022】
位置推定部12は、GNSS信号及び車両Vの速度関連情報を単位時間(単位:msec)毎に入力して軌道Tにおける車両Vの位置(ここでは、車両Vの先頭位置とする)を逐次的に推定する。本実施形態において、位置推定部12は、車両制御装置2によって算出された車両Vの速度及び加速度センサ5によって検出された車両Vの加速度を車両Vの速度関連情報として入力する。但し、これに限られるものではない。例えば、位置推定部12は、車両制御装置2によって算出された車両Vの速度に代えて、車両Vに設けられ速度センサによって検出された車両Vの速度を入力してもよいし、車軸回転数情報を入力して車両Vの速度を算出してもよい。また、位置推定部12は、加速度センサ5によって検出された車両Vの加速度に代えて、車両Vの速度を微分処理して車両Vの加速度を算出してもよい。さらに、位置推定部12は、車両Vの速度及び車両Vの加速度以外の車両Vの速度に関連する情報であって、センサなどによって直接又は間接的に検出可能な情報を車両Vの速度関連情報として入力して車両Vの位置を逐次的に推定してもよい。
【0023】
位置推定部12は、まず、データベースなどの記憶部DBに記憶されている軌道Tに関する情報(走行路関連情報)を参照して、GNSS信号に含まれた緯度情報及び経度情報を、前記起点を基準とした軌道T上の位置に変換する。本実施形態において、変換された軌道T上の位置は車両Vの先頭位置に相当する。以下、この変換された軌道T上の位置のことを「GNSS信号に基づく車両Vの位置」という。なお、GNSS受信機6が車両Vの先頭部に配置されてない場合には、上記変換の際に、必要に応じて、車両Vの先頭部からGNSS受信機6の設置位置までの距離が考慮される。
【0024】
本実施形態において、位置推定部12は、GNSS信号に基づく車両Vの位置と、車両Vの速度関連情報(ここでは、車両Vの速度及び車両Vの加速度)と、を観測値とする状態空間モデルにカルマンフィルタを適用して現在の車両Vの位置の推定と前記単位時間後の車両Vの位置の予測とを逐次的に行うように構成されている。但し、これに限られるものではない。位置推定部12は、種々の推定・予測フィルタを利用して現在の車両Vの位置の推定及び前記単位時間後の車両Vの位置の予測を行うように構成され得る。位置推定部12によって推定された現在の車両Vの位置及び予測された前記単位時間後の車両Vの位置は、可否判定部13に出力される。
【0025】
ここで、位置推定部12によって推定された現在(時刻k)の車両Vの位置とは、現在(時刻k)までの観測値を元に推定された現在(時刻k)の車両Vの位置のことであり、位置推定部12によって予測された前記単位時間後の車両Vの位置とは、現在(時刻k)までの観測値を元に予測された前記単位時間後(時刻k+1)の車両Vの位置のことである。なお、以下では、位置推定部12によって推定された現在(時刻k)の車両Vの位置のことを「位置推定部12による推定位置P(k)(=P(k/k))」といい、位置推定部12によって予測された前記単位時間後の車両Vの位置のことを「位置推定部12による予測位置P(k+1)(=P(k+1/k))」という。また、位置推定部12によって前記単位時間前(時刻k-1)までの観測値を元に前記単位時間前(時刻k-1)に予測された現在(時刻k)の車両Vの位置のことを「位置推定部12による前回予測位置P(k)(=P(k/k-1))」という。
【0026】
可否判定部13は、定期的又は随時に、位置補正の可否、具体的には、位置推定部12による推定位置P(k)に基づく位置検知部11による検知位置DPの補正が可能であるか否かを判定する。かかる判定は、位置推定部12による推定位置P(k)と前回予測位置P(k)とを逐次比較することによって行われる。
【0027】
具体的には、本実施形態において、可否判定部13は、位置推定部12による推定位置P(k)及び予測位置P(k+1))が入力されるたびに、位置推定部12による推定位置P(k)と前回予測位置P(k)との差分ΔP(=P(k)-P(k))を算出してデータとして蓄積するとともに、差分ΔPの標準偏差σを算出する。
【0028】
そして、可否判定部13は、算出された差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下になると位置補正が可能であると判定する。ここで、閾値THは、軌道Tなどに応じて適宜設定可能である。特に制限されないが、閾値THは、5m以下の距離、好ましくは3m以下の距離、さらに好ましくは1m以下の距離に設定される。
【0029】
可否判定部13は、位置補正が可能であると判定すると、位置検知部11による検知位置DPを補正するための補正用位置CPを位置推定部12による推定位置P(k)に基づいて設定し、設定された補正用位置CPを含む補正指令を位置検知部11に出力する。これにより、位置検知部11において、位置検知部11による検知位置DPが位置推定部12による推定位置P(k)に基づく補正用位置CPを用いて補正される。換言すれば、位置検知部11による検知位置DPが位置推定部12による推定位置P(k)に基づいて補正される。本実施形態において、可否判定部13は、位置補正が可能であると判定した場合に直近の位置推定部12による推定位置P(k)を補正用位置CPとして設定する。但し、これに限られるものではない。可否判定部13は、位置補正が可能であると判定した場合に、そのときすでに入力されている位置推定部12による推定位置P(k)の代表値を補正用位置CPとして設定してもよい。なお、位置推定部12による推定位置P(k)の代表値は、位置推定部12による推定位置P(k)の平均値、中央値及び二乗平均値などを含む。
【0030】
一方、可否判定部13は、あらかじめ設定された判定時間(単位:sec)が経過しても差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下とならない場合には、位置補正の可否の判定を終了する。この場合、位置検知部11による検知位置DPは補正されない。
【0031】
図3は、位置推定部12による推定位置P(k)に基づく位置検知部11による検知位置DPの補正処理の概要を示すフローチャートである。このフローチャートは、車両Vが軌道Tを走行している間、定期的又は随時に実施される。
【0032】
図3において、ステップS1では、位置推定部12による推定位置P(k)及び予測位置P(k+1)を入力する。ステップS2では、ステップS1で入力された推定位置P(k)と前回のステップS1で入力された予測位置(すなわち、前回予測位置)P(k)との差分ΔP(=P(k)-P(k))を算出する。ステップS3では、算出された差分ΔPをデータとして蓄積する。
【0033】
ステップS4では、蓄積された差分ΔPの標準偏差σを算出する。ステップS5では、ステップS4で算出された差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下であるか否かを判定し、差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下の場合にはステップS6に進む。
【0034】
ステップS6では、補正用位置CPを設定する。上述のように、本実施形態では、ステップS1で入力された、すなわち、直近に入力された位置推定部12による推定位置P(k)を補正用位置CPとして設定する。ステップS7では、位置検知部11による検知位置DPを補正用位置CPに補正する。上述のように、かかる補正は、位置検知部11によって行われる。そして、ステップS8では、データとして蓄積されている差分ΔPの標準偏差σをクリアして本フローを終了する。
【0035】
一方、ステップS5において、ステップS4で算出されたΔPの標準偏差σが閾値THよりも大きい場合にはステップS9に進む。ステップS9では、処理の開始から判定時間が経過しているか否かを判定する。そして、判定時間が経過していなければステップS1に戻り、判定時間が経過していれば本フローを終了する。
【0036】
図2に戻り、本実施形態において、可否判定部13は、差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下になると(すなわち、位置補正が可能であると判定すると)、補正指令を位置検知部11に出力することに加えて、そのときの差分ΔPの標準偏差σ(≦閾値TH)を含む安全バッファ変更指令を制御用位置設定部14に出力する。
【0037】
制御用位置設定部14は、位置検知部11による検知位置DPに基づいて車両Vの制御用位置(制御用先頭位置及び制御用後尾位置)を設定する。
【0038】
本実施形態において、制御用位置設定部14は、安全バッファ変更指令が入力されない場合、すなわち、位置検知部11による検知位置DPが補正されない場合には、位置検知部11による検知位置DP(先頭位置DPf)から第1安全バッファα1だけ前方の位置を車両Vの制御用先頭位置Pf1に設定し、位置検知部11による検知位置DP(後尾位置DPr)から第1安全バッファα1だけ後方の位置を車両Vの制御用後尾位置Pr1に設定する。第1安全バッファα1は、位置検知部11による検知位置DPに含まれ得る誤差(距離)に相当する。第1安全バッファα1は、任意に設定可能である。本実施形態において、第1安全バッファα1は、位置検知部11による検知位置DPが補正されない時間が長くなるほど(換言すれば、位置検知部11による検知位置DPが補正されない状態での車両Vの移動距離が長くなるほど)大きな値に設定される。
【0039】
一方、制御用位置設定部14は、安全バッファ変更指令が入力された場合、すなわち、位置検知部11による検知位置DPが補正された場合には、安全バッファ変更指令に含まれた差分ΔPの標準偏差σ(≦閾値TH)に基づいて第2安全バッファα2を設定する。第2安全バッファα2は、基本的には、第1安全バッファα1よりも小さい値である。そして、制御用位置設定部14は、位置検知部11による検知位置DP(先頭位置DPf)から第2安全バッファα2だけ前方の位置を車両Vの制御用先頭位置Pf2に設定し、位置検知部11による検知位置DP(後尾位置DPr)から第2安全バッファα2だけ後方の位置を車両Vの制御用後尾位置Pr2に設定する。つまり、位置検知部11による検知位置DPが補正された場合には、位置検知部11による検知位置DPの前後、すなわち、車両Vの先頭位置DPfの前方及び車両Vの後尾位置DPrの後方のそれぞれに、第1安全バッファα1に代えて、差分ΔPの標準偏差σに基づいて設定される第2安全バッファα2が付加される。
【0040】
本実施形態において、制御用位置設定部14は、安全バッファ変更指令に含まれた差分ΔPの標準偏差σをそのまま第2安全バッファα2として設定する。但し、これに限られるものではない。制御用位置設定部14は、安全バッファ変更指令に含まれた差分ΔPの標準偏差σに所定の係数(>1)を乗算した値を第2安全バッファα2として設定してもよい。
【0041】
制御用位置設定部14で設定された車両Vの制御用位置(制御用先頭位置Pf1又はPf2、制御用後尾位置Pr1又はPf2)は、車両制御装置2及び占有範囲算出部15に出力される。
【0042】
占有範囲算出部15は、車両Vの制御用先頭位置Pf1、Pf2から車両Vの制御用後尾位置Pr1、Pr2までの範囲を軌道Tにおける車両Vの占有範囲Rとして算出する。図4は、軌道Tにおける車両Vの占有範囲Rを示している。制御用位置設定部14に安全バッファ変更指令が入力されない場合(位置検知部11による検知位置DPが補正されない場合)、占有範囲算出部15では、図4(a)に示されるように、第1安全バッファα1が考慮された車両Vの占有範囲Rが算出される。一方、制御用位置設定部14に安全バッファ変更指令が入力された場合(位置検知部11による検知位置DPが補正された場合)、占有範囲算出部15では、図4(b)に示されるように、第2安全バッファα2が考慮された車両Vの占有範囲Rが算出される。
【0043】
占有範囲算出部15で算出された車両Vの占有範囲Rは、主に地上装置52に無線送信される。
【0044】
以上のように、本実施形態において、車両位置検知装置1は、速度発電機4の出力(車軸回転数情報)に基づいて軌道Tにおける車両Vの位置を検知する位置検知部11と、GNSS信号及び車両Vの速度関連情報を単位時間毎に入力して軌道Tにおける車両Vの位置を逐次的に推定する位置推定部12と、を含み、位置検知部11による検知位置DP(先頭位置DPf及び後尾位置DPr)が位置推定部12による推定位置P(k)に基づいて補正されるように構成されている。
【0045】
本実施形態における車両位置検知装置1によれば、位置補正用の地上子などの地上側設備がなくても、速度発電機4の出力(車軸回転数情報)に基づいて検知された車両Vの位置(すなわち、位置検知部11による検知位置DP)を補正することできる。このため、位置補正用の地上子などの地上側設備を低減又は削減することができ、従来に比べて、設置コストや維持コストが大幅に低減される。
【0046】
ここで、位置推定部12は、GNSS信号及び車両Vの速度関連情報を単位時間毎に入力して軌道Tにおける現在の車両Vの位置の推定と前記単位時間後の車両のVの位置の予測とを逐次的に行うに構成されている。また、車両位置検知装置1は、定期的又は随時に位置補正の可否を判定する可否判定部13をさらに含み、可否判定部13は、位置推定部12による推定位置P(k)と前回予測位置P(k)とを逐次比較して位置補正の可否を判定するように構成されている。具体的には、可否判定部13は、位置推定部12による推定位置P(k)と前回予測位置P(k)との差分ΔP(=P(k)-P(k))を算出してデータとして蓄積し、蓄積された差分ΔPの標準偏差σを算出し、差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下となると位置補正が可能であると判定する。差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下となった場合には、位置推定部12による車両Vの位置の推定が精度よく且つ安定して行われるようになっていると考えられるからである。そして、可否判定部13によって位置補正が可能であると判定された場合に、位置検知部11において、位置検知部11による検知位置DPが位置推定部12による推定位置P(k)に基づく補正用位置CPを用いて補正される。
【0047】
このため、位置推定部12による車両Vの位置の推定が精度よく行われるときに、位置検知部11による検知位置DPが位置推定部12による推定位置P(k)に基づく補正用位置CPを用いて補正される。したがって、位置検知部11による検知位置DPに含まれた蓄積誤差が適切に解消され、車両Vの位置が精度よく検知され得る。
【0048】
なお、上述の実施形態において、可否判定部13は、位置推定部12による推定位置P(k)と前回予測位置P(k)との差分ΔP(=P(k)-P(k))の標準偏差σに基づいて位置補正の可否を判定している。しかし、これに限られるものではない。可否判定部13は、位置推定部12による推定位置P(k)と前回予測位置P(k)との差分ΔP(=P(k)-P(k))のばらつきを表す統計量に基づいて位置補正の可否を判定すればよい。例えば、可否判定部13は、位置推定部12による推定位置P(k)と前回予測位置P(k)との差分ΔP(=P(k)-P(k))の分散や変動係数を算出し、算出された差分ΔPの分散や変動係数に基づいて位置補正の可否を判定するように構成されてもよい。
【0049】
また、上述の実施形態においては、速度発電機4の出力が車軸回転数情報として用いられている。しかし、これに限られるものではない。速度発電機4に代えて、車軸回転数情報を車両位置検知装置1及び車両制御装置2に出力するパルスジェネレータなどが車両Vに設けられてもよい。
【0050】
さらに、図示は省略するが、複数のGNSS受信機6が車両Vに設けられてもよい。この場合、位置推定部12は、複数のGNSS受信機6のいずれかによって受信されたGNSS信号を入力するように構成される。そして、位置推定部12は、位置検知部11による検知位置DPが補正されない状態が所定時間継続した場合に、それまでとは異なるGNSS受信機6によって受信されたGNSS信号を入力して車両Vの位置の推定及び予測を行うようにしてもよい。GNSS受信機6に故障などの異常が発生してGNSS信号が適切に受信できなくなっている可能性があるからである。例えば、可否判定部13は、判定時間が経過しても差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下とならない場合又は判定時間が経過しても差分ΔPの標準偏差σが閾値TH以下とならない場合が複数回続いたときに、切替指令を位置推定部12に出力する。位置推定部12は、切替指令を入力すると、それまでとは異なるGNSS受信機6によって受信されたGNSS信号を入力するように、GNSS信号の入力経路を切り替えるように構成される。
【0051】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は上述の実施形態やその変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…車両位置検知装置、2…車両制御装置、3…車上無線機、4…速度発電機、5…加速度センサ、6…GNSS受信機、11…位置検知部、12…位置推定部、13…可否判定部、14…制御用位置設定部、15…占有範囲算出部、T…軌道、V…車両
図1
図2
図3
図4