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特許7410833水中騒音反射吸収構造物、水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】水中騒音反射吸収構造物、水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/28 20060101AFI20231227BHJP
   E02D 13/00 20060101ALI20231227BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20231227BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
G10K11/28
E02D13/00 A
G10K11/16 140
G10K11/172
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020160642
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022053810
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田村 勇一朗
(72)【発明者】
【氏名】板垣 侑理恵
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-119785(JP,A)
【文献】特開平05-019774(JP,A)
【文献】特表2017-504844(JP,A)
【文献】特開平10-024531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/28
E02D 13/00
G10K 11/16
G10K 11/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中騒音を抑制するための水中騒音反射吸収構造物であって、
内部空洞を有する柱状の外殻体を備え、
前記柱状の外殻体は、表面に水中騒音が入射し反射する曲面状または水平方向に対し傾斜した傾斜面状の音入射面を有し、
前記内部空洞において前記音入射面を透過した水中騒音を吸収もしくは反射しまたは前記水中騒音と共振するように構成された水中騒音反射吸収構造物。
【請求項2】
前記外殻体は、円柱状または三角柱状である請求項1に記載の水中騒音反射吸収構造物。
【請求項3】
水中騒音を抑制するための水中騒音反射吸収構造物であって、
内部空洞を有する板状の外殻体を備え、
前記板状の外殻体は、表面に水中騒音が入射し反射する凹凸状の音入射面を有し、
前記内部空洞において前記音入射面を透過した水中騒音を吸収もしくは反射しまたは前記水中騒音と共振するように構成された水中騒音反射吸収構造物。
【請求項4】
前記凹凸状は、波形状、三角形状または鋸歯状である請求項3に記載の水中騒音反射吸収構造物。
【請求項5】
前記内部空洞に、水よりも比重の大きい液体、吸音材、反射材および共振材のうちの少なくとも1つからなる充填材料を含む請求項1乃至4のいずれかに記載の水中騒音反射吸収構造物。
【請求項6】
前記内部空洞に、水よりも比重の大きい液体、吸音材、反射材および共振材のうちのいずれか1つと、気体とからなる充填材料を含む請求項1乃至のいずれかに記載の水中騒音反射吸収構造物。
【請求項7】
前記外殻体が分割されている請求項1乃至6のいずれかに記載の水中騒音反射吸収構造物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の水中騒音反射吸収構造物を含む水中騒音抑制構造体。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の柱状に構成された水中騒音反射吸収構造物を含む水中騒音抑制構造体であって、前記柱状に構成された複数の水中騒音反射吸収構造物が鉛直方向に配置され水中に吊り下げられた水中騒音抑制構造体。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の柱状に構成された水中騒音反射吸収構造物を含む水中騒音抑制構造体であって、前記柱状に構成された複数の水中騒音反射吸収構造物が水平方向に配置され水中に垂下された水中騒音抑制構造体。
【請求項11】
前記水平方向に配置された複数の水中騒音反射吸収構造物のうちの下方の水中騒音反射吸収構造物の内部空洞に泥水を充填し、水面近傍の水中騒音反射吸収構造物の内部空洞に気体を充填した請求項10に記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項12】
前記水中騒音反射吸収構造物の音入射面の背面側の音出射面に鉄板を配置した請求項8乃至11のいずれかに記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項13】
船により水中を移動可能に構成された請求項8乃至12のいずれかに記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項14】
前記水中騒音反射吸収構造物を複数水中に垂下させ、上面から見て水中騒音の発生地点を包囲してまたは前記発生地点に接近させ一部を開放して配置した請求項8乃至13のいずれかに記載の水中騒音抑制構造体。
【請求項15】
請求項1乃至7のいずれかに記載の水中騒音反射吸収構造物、または、請求項8乃至14のいずれかに記載の水中騒音抑制構造体を、水中騒音の発生地点の周囲および/または前記水中騒音の拡散を抑制する方向に設置することで水中騒音を抑制する水中騒音抑制方法。
【請求項16】
前記水中騒音反射吸収構造物または前記水中騒音抑制構造体を水中騒音の入射方向に重なるように設置する請求項15に記載の水中騒音抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中騒音を抑制する水中騒音反射吸収構造物、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中での杭打設等の騒音は、周辺に伝搬し、海洋生物等に対して影響を与えることが懸念されている。一般に音は、建物や構造物等の障害物によって減衰するが、周辺に遮蔽物が無い水中では、発生音は広域に拡散しやすい。水中騒音について、イルカやクジラ、魚類等に対して影響のある周波数等が報告されている(非特許文献1)。また、魚類については、損傷を受けるレベル(220dB以上)・忌諱行動を示す威嚇レベル(140~160dB)等があること、水中騒音が距離とともに減衰すること等が明らかとなっている(非特許文献2)。
【0003】
魚類をはじめ海生哺乳類等に対する影響の緩和方法として、「水中ノイズ低減装置および展開システム」(特許文献1)や「エアバブルカーテン」(たとえば特許文献2)」、「パイルスリーブ」(非特許文献3)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-504844号公報
【文献】実開平1-119431号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】赤松友成・木村里子・市川光太郎「水中生物音響学―声で探る行動と生態」コロナ社(2019)
【文献】「港湾工事環境保全技術マニュアルDoctor of the Sea(改訂第3版)」日本埋立浚渫協会(2015)
【文献】「着床式洋上風力発電導入ガイドブック(最終版)」国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2018年3月)https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101085.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のエアバブルカーテンは、杭打設時等の水中騒音の緩和手法として有効であるが、エア供給管の敷設や供気のための専用の船舶や設備が必要である。なお、エアバブルカーテンは、イルカクジラ等の海生哺乳類への影響緩和のために欧州等で広く使用されている。
【0007】
また、日本の洋上風力発電施設が水深20~30mに設置することが想定されるが(欧州では水深10m程度に設置されることが多い)、水深が大きくなると、エアバブルカーテンの効率は低下すると考えられる。ボイルの法則 pV=一定 (一定の温度下では体積Vと圧力pの積が一定となる)から水深10mで2気圧、20mで3気圧、30mで4気圧と圧力が増加すると、体積は1/2、1/3、1/4に減少し、水深が大きくなると、吸音に効果がある気体の体積が減少するためである。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、杭打設等の工事により発生する水中騒音を効率的に抑制可能な水中騒音反射吸収構造物、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための水中騒音反射吸収構造物は、水中騒音を抑制するための水中騒音反射吸収構造物であって、
内部空洞を有する柱状の外殻体を備え、前記柱状の外殻体は、表面に水中騒音が入射し反射する曲面状または水平方向に対し傾斜した傾斜面状の音入射面を有し、前記内部空洞において前記音入射面を透過した水中騒音を吸収もしくは反射しまたは前記水中騒音と共振するように構成されたものである。
【0010】
この水中騒音反射吸収構造物によれば、水中に設置されることにより、水中騒音を音入射面で反射するとともに、水中騒音反射吸収構造物の内部で吸収・反射・共振することで、杭打設等の工事により発生する水中騒音を効率的に抑制することができる。
【0011】
上記水中騒音反射吸収構造物において、前記音入射面の形状が曲面状または傾斜面状であることにより、音入射面に入射した水中騒音を効率的に反射させることができる。なお、曲面状とは、円形状や長円状等の形状を含む。傾斜面状とは、水平方向に対し傾斜した面で、傾斜方向の異なる複数の面を含んでもよい。
【0012】
前記内部空洞に、水よりも比重の大きい液体、吸音材、反射材および共振材のうちの少なくとも1つからなる充填材料を含むことで、内部空洞で水中騒音を低減させることができる。なお、充填材料は、気体、気体と吸音材、気体と反射材、気体と共振材、または、共振材からなるものが好ましい
【0013】
また、前記内部空洞に、水よりも比重の大きい液体、吸音材、反射材および共振材のうちのいずれか1つと、気体とからなる充填材料を含むようにしてもよい。
【0014】
前記外殻体が分割されていてもよく、分割された各外殻体の内部空洞に充填材料を充填するようにしてもよく、また、分割された各外殻体は一体化されるようにしてよい。
【0015】
上記水中騒音反射吸収構造物は全体が柱状に構成され、たとえば、三角柱、四角柱、円柱、かまぼこ型の柱等であってよい。
前記外殻体は、円柱状または三角柱状であることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するための別の水中騒音反射吸収構造物は、水中騒音を抑制するための水中騒音反射吸収構造物であって、内部空洞を有する板状の外殻体を備え、前記板状の外殻体は、表面に水中騒音が入射し反射する凹凸状の音入射面を有し、前記内部空洞において前記音入射面を透過した水中騒音を吸収もしくは反射しまたは前記水中騒音と共振するように構成されたものである
音入射面が波形状の凹凸に形成されたり、三角形状や鋸歯状の凹凸に形成されることが好ましい。かかる凹凸状の音入射面で水中騒音を効率的に反射できる。
【0017】
上記目的を達成するための水中騒音抑制構造体は、上述の水中騒音反射吸収構造物を含む水中騒音抑制構造体である。
【0018】
この水中騒音抑制構造体によれば、水中騒音を効率的に抑制可能な水中騒音反射吸収構造物を含み、水中騒音を効率的に抑制し、水中騒音の拡散を抑制できる。
【0019】
上記目的を達成するためのもう1つの水中騒音抑制構造体は、前記柱状に構成された水中騒音反射吸収構造物を含む水中騒音抑制構造体であって、前記柱状に構成された複数の水中騒音反射吸収構造物が鉛直方向に配置され、水中に吊り下げられたものである。
【0020】
この水中騒音抑制構造体によれば、水中騒音を効率的に抑制可能な柱状に構成された複数の水中騒音反射吸収構造物を鉛直方向に水中に吊り下げるように設置し、杭打設等の工事による水中騒音の発生地点の周囲や水中騒音の拡散抑制方向に設置されることで、水中騒音を効率的に抑制し、水中騒音の拡散を抑制できる。
【0021】
上記目的を達成するためのもう1つの水中騒音抑制構造体は、前記柱状に構成された水中騒音反射吸収構造物を含む水中騒音抑制構造体であって、前記柱状に構成された複数の水中騒音反射吸収構造物が水平方向に配置され、水中に垂下されたものである。
【0022】
この水中騒音抑制構造体によれば、水中騒音を効率的に抑制可能な柱状に構成された複数の水中騒音反射吸収構造物を水平方向に水中に垂下するように設置し、杭打設等の工事による水中騒音の発生地点の周囲や水中騒音の拡散抑制方向に設置されることで、水中騒音を効率的に抑制し、水中騒音の拡散を抑制できる。
【0023】
前記水平方向に配置された複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物のうちの下方の水中騒音反射吸収構造物の内部空洞にベントナイト泥水や粘性土による泥水等の泥水を充填し、水面近傍の水中騒音反射吸収構造物の内部空洞に気体を充填するようにしてもよい。下方の水中騒音反射吸収構造物の内部空洞に水よりも比重の大きい泥水を充填することにより水中で安定し、上方の水中騒音反射吸収構造物の内部空洞に気体を充填することで浮力効果を得ることができる。
【0024】
前記水中騒音反射吸収構造物の音入射面の背面側の音出射面に鉄板を配置することが好ましい。特に内部に気体を含む水中騒音反射吸収構造物と、その音入射面の背面側に配置した鉄板との組み合わせにより、全体として小さな音透過率を実現でき、水中騒音を透過させ難くし、水中騒音を効率的に抑制できる。
【0025】
前記水中騒音抑制構造体は、船により水中を移動可能に構成されることが好ましい。これにより、たとえば、水中騒音抑制構造体を杭打設の終了に応じて次の杭打設の位置に移動させて繰り返し使用ができる。
【0026】
前記水中騒音反射吸収構造物を複数水中に垂下させ、上面から見て水中騒音の発生地点を包囲してまたは前記発生地点に接近させ一部を開放して配置するようにできる。この場合、水底に着底するように配置してよいが、水深中間まで配置するようにしてもよい。なお、水中騒音の発生地点に対し、その一部を開放するように配置することで、たとえば、開放された一部を通して水中騒音抑制構造体の船による移動や杭打設船の出入りが可能となる。
【0027】
上記目的を達成するための水中騒音抑制方法は、上述の水中騒音反射吸収構造物または上述の水中騒音抑制構造体を、水中騒音の発生地点の周囲および/または前記水中騒音の拡散を抑制する方向に設置することで水中騒音を抑制するものである。
【0028】
この水中騒音抑制方法によれば、水中騒音を効率的に抑制可能な水中騒音反射吸収構造物または水中騒音抑制構造体を、杭打設等の工事による水中騒音の発生地点の周囲や水中騒音の拡散抑制方向に設置することで、水中騒音を効率的に抑制し、水中騒音の拡散を抑制できる。
【0029】
上記水中騒音抑制方法において、前記水中騒音反射吸収構造物または前記水中騒音抑制構造体を水中騒音の入射方向に重なるように設置することが好ましい。これにより、水中騒音抑制効果がいっそう向上する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、杭打設等の工事により発生する水中騒音を表面での反射と内部での吸収・反射・共振とを組合せることにより効率的な水中騒音の抑制が可能な水中騒音反射吸収構造物、それを用いた水中騒音抑制構造体および水中騒音抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本実施形態による水中騒音反射吸収構造物および水中騒音抑制構造体を概略的に示す側面図(a)~(f)である。
図2】本実施形態による水中騒音反射吸収構造物における水中騒音の反射・透過を説明するための模式図である。
図3】本実施形態による別の水中騒音反射吸収構造物および水中騒音抑制構造体を概略的に示す側面図(a)~(k)である。
図4】本実施形態による水中騒音抑制構造体の配置例を概略的に示す上面図(a)~(g)である。
図5図1(e)または図4(g)の水中騒音抑制構造体を枠構造にした構成例を概略的に示す要部斜視図である。
図6】本実施形態による水中騒音抑制構造体の複数列の配置例を概略的に示す側面図(a)~(f)である。
図7】本実施形態による水中騒音抑制構造体が水中騒音発生地点を包囲するように配置された例を示す縦断面図(a)(b)である。
図8】本実施形態による水中騒音抑制構造体と潜堤型の水中騒音抑制構造体との組み合わせ例を概略的に示す縦断面図(a)(b)である。
図9】本実施形態による水中騒音抑制構造体が水中騒音発生地点に接近し一方が開放して配置された例を示す縦断面図(a)(b)である。
図10図1(a)(c)(e)の水中騒音反射吸収構造物の変形例を示す側面図(a)~(e)である。
図11】本実施形態による板状の水中騒音反射吸収構造物を示す側面図(a)(b)である。
図12】本実施形態による水中騒音抑制構造体の変形例を概略的に示す要部斜視図である。
図13】本実験例における実験ケースの各条件を示す図である。
図14】本実験例に用いた実験装置の概略図である。
図15】本実験例における鉄板の有無、外殻形状の違いに関する実験結果を示すグラフである。
図16図12の実験ケース1~4,11で得られた周波数特性を示すグラフである。
図17】本実験例における充填材料の違いに関する実験結果を示すグラフである。
図18図12の実験ケース1,4,7~10で得られた周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による水中騒音反射吸収構造物および水中騒音抑制構造体を概略的に示す側面図(a)~(f)である。図2は本実施形態による水中騒音反射吸収構造物における水中騒音の反射・透過を説明するための模式図である。なお、図1図2,後述の図3図6図11において水中騒音は、水中騒音反射吸収構造物および水中騒音抑制構造体に対し図の左側から入射するものとする。
【0033】
図1(a)の水中騒音抑制構造体11は、複数の円柱状の水中騒音反射吸収構造物1を水平方向に配置し上下に並べて壁状に構成し、水面近傍から吊り下げるようにして水中に設置したものである。
【0034】
水中騒音反射吸収構造物1は、円柱状の外殻体1aと内部空洞1bとを備え、内部空洞1bには各種の充填材料を充填可能である。外殻体1aは、鉄鋼やステンレス鋼等の金属材料、塩ビ、ポリエチレン・ポリプロピレン等の樹脂材料、FRP等から内部空洞1bを有するように構成される。
【0035】
内部空洞1bに充填される充填材料としては、水中騒音を吸収する吸音材、もしくは、反射する反射材、または水中騒音と共振する共振材がある。水中騒音反射吸収構造物1の内部空洞1b内は気体のため、一般的な遮音材・吸音材を内部空洞1b内に充填して利用でき、遮音材・吸音材として、気体、気体+多孔質型吸音材、気体+ダンボールなどがあり、多孔質型吸音材としては、ウレタン、グラスウール、ロックウール、軟質繊維版などがある。反射材としては、気体+ゴム、気体+ウレタン等がある。共振材としては、粘土泥水、ベントナイト泥水、エチレングリコール、ゲル状物質、共振体などがあり、これらと気体との組みあわせも可能である。
【0036】
図1(a)の水中騒音抑制構造体11の各水中騒音反射吸収構造物1の内部空洞1bには気体31が充填されている。気体31は、空気であってよいが、酸素、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、水素、アンモニアなどの他の気体や空気と他の気体との混合でもよい。
【0037】
図2を参照して図1(a)の水中騒音反射吸収構造物1による水中騒音抑制効果を説明する。水中騒音による水中騒音反射吸収構造物1への入射波aは、外殻体1aの円周表面の音入射面1cで反射する反射波bと音入射面1cを透過する透過波cとなる。反射波bが反射する音入射面1cは曲面状であるため音入射面1cでの反射効果が高く、反射波bは、水中騒音反射吸収構造物1の手前側(左側)において水面~水底面の方向に幅広く分散し、この分散過程で水中騒音の減衰や水底面での吸収や水面から気中への放出が生じることで水中騒音が抑制される。一方、透過波cは、内部空洞1b内で反射し反射波dとなることで、また、内部空洞1b内の気体31を透過し背面側の音出射面1dから出射し水中を伝播する透過波eとなることで低減する。このように、透過波cは、水中騒音反射吸収構造物1から水中へと伝搬する過程で反射波dと透過波eとなって、音圧の低下が生じる。以上のようにして、水中騒音は水中騒音反射吸収構造物1により低下し抑制される。なお、水中騒音反射吸収構造物の材質を無視して海水と空気の音響インピーダンスから音の強さの透過率を計算すると、透過率0.1%が得られ、海水から空気へと伝搬する過程でかなり音圧が低下することがわかる。
【0038】
図1(b)の水中騒音抑制構造体12は、図1(a)と同様の構成であるが、水中騒音反射吸収構造物1の外殻体1aの内部空洞1bに気体と吸音材とによる充填材32が充填されている。吸音材は、ウレタンやグラスウール等の多孔質型吸音材、ダンボール等であってよい。充填材32として空気等の気体に加えて吸音材が含まれているので、図2の内部空洞1b内の透過波cは吸音材によって音圧レベルがより低下し、音出射面1dから水中へと伝搬する過程で透過波eが低減する。このように、内部空洞1b内を気体と吸音材とすることで、水中では抑制効果が小さい吸音材を活用した水中騒音の抑制が可能である。なお、充填材32は、気体と反射材、気体と共振材であってもよい。
【0039】
図1(c)の水中騒音抑制構造体13は、図1(a)と同様の構成であるが、水中騒音反射吸収構造物1の外殻体1aの内部空洞1b内に気体31を充填するとともにウレタン等の多孔質型吸音材35を配置したものである。多孔質型吸音材35は、比較的小さなピラミット状の突起35aを多数有し、多数の突起35aの反対側に平坦部35bを有する。多孔質型吸音材35を内部空洞1b内に押し込むようにして中心部に配置し上部・下部等で固定する。
【0040】
図1(c)の水中騒音抑制構造体13によれば、水中騒音反射吸収構造物1の内部空洞1b内に配置した多孔質型吸音材35のピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、図2の透過波cと反射波dを効率的に吸音し減少させることで、水中騒音の抑制効果が増す。
【0041】
図1(d)の水中騒音抑制構造体14は、図1(a)と同様の構成であるが、複数の水中騒音反射吸収構造物1のうち、上部の外殻体1aの内部空洞1bに気体31が充填され、中間の外殻体1aの内部空洞1bに気体31と泥水32からなる充填材33が充填され、下部の外殻体1aの内部空洞1bに泥水34だけが充填されている。泥水32,34は、たとえば粘性土やベントナイトと水とを混合したもので、水よりも比重が大きい。なお、泥水32と泥水34は、同じ材料のものであっても、異なる材料のものであってもよい。
【0042】
泥水32と気体31との充填材33が充填された水中騒音反射吸収構造物1は水中騒音と共振し、図2の透過波eが減少し、水中騒音の抑制効果が増し、また、泥水34だけが充填された水中騒音反射吸収構造物1は、水中騒音と共振し、図2の透過波eが減少し、水中騒音の抑制効果がいっそう増す。また、気体31が充填された水中騒音反射吸収構造物1は、水中騒音抑制構造体14の浮力効果を得ることができ、泥水を含む充填材33や泥水34が充填されることで水中安定効果を得ることができる。
【0043】
図1(e)の水中騒音抑制構造体15は、図1(a)と同様の構成であるが、複数の水中騒音反射吸収構造物1の外殻体1aの背面側の音出射面1dに接するように鉄板40を配置したものである。各音出射面1dから出射する図2の透過波eが鉄板40により低減し、水中騒音の抑制効果がいっそう増す。なお、内部空洞1bに気体と泥水からなる充填材を充填することで、水中騒音の抑制効果がさらに増す。
【0044】
図1(f)の水中騒音抑制構造体16は、半円柱状の複数の水中騒音反射吸収構造物2の外殻体2aの内部空洞2b内に図1(c)と同様に気体31を充填するとともに多孔質型吸音材35を配置し、半円状の外殻体2aの音入射面2cの反対側の平坦面2dに接して鉄板40を配置したものである。多孔質型吸音材35のピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、図2の透過波cを効率的に吸音し減少させるとともに、図2の透過波eが鉄板40により減少し、水中騒音の抑制効果がいっそう増す。
【0045】
図3は本実施形態による別の水中騒音反射吸収構造物および水中騒音抑制構造体を概略的に示す側面図(a)~(k)である。
【0046】
図3(a)の水中騒音抑制構造体17は、複数の三角柱状の水中騒音反射吸収構造物4を図1(a)と同様にして水中に設置したものである。水中騒音反射吸収構造物4は、三角柱状の外殻体4aと内部空洞4bとを備え、外殻体4aの一頂点が鉛直下方向を向き、内部空洞4bには空気等の気体31が充填されている。
【0047】
図3(a)の水中騒音反射吸収構造物4によれば、図2の水中騒音による入射波aが外殻体4aの傾斜した音入射面4cに入射すると、この音入射面4cが傾斜面であるため音入射面4cでの反射効果が高く、その反射波は水底面方向に進み水底面での吸音が生じる一方、音入射面4cを透過した透過波cは、内部空洞4b内で反射波dとなって反射し、また、内部空洞4b内の気体31を透過することで減少し、これらにより、音入射面4cの反対の音出射面4dから出射する透過波eが低減することから、水中騒音は水中騒音反射吸収構造物4により低下し抑制される。
【0048】
また、図3(a)の水中騒音抑制構造体17によれば、複数の三角柱状の水中騒音反射吸収構造物4を壁状に構成し水中に設置することで、各水中騒音反射吸収構造物4による水中騒音の抑制効果により図の左方から入射した水中騒音を低下させ図の右方への拡散を抑制することができる。
【0049】
図3(b)の水中騒音抑制構造体18は、図3(a)と同様の構成であるが、水中騒音反射吸収構造物4の外殻体4aの内部空洞4bに気体と吸音材とによる充填材32が充填されている。吸音材は、ウレタン等の多孔質型吸音材、ダンボール、グラスウール等であってよい。充填材32として空気等の気体に加えて吸音材が含まれているので、内部空洞4b内の図2の透過波cが吸音材によりいっそう減少し、反対側の音出射面4dから出射する透過波eがより低減し、水中騒音の抑制効果が増す。
【0050】
図3(c)の水中騒音抑制構造体19は、図3(a)と同様の構成であるが、水中騒音反射吸収構造物4の外殻体4aの内部空洞4b内に気体31を充填するとともに図1(c)と同様の多孔質型吸音材35を配置したものである。水中騒音抑制構造体19によれば、水中騒音反射吸収構造物4の内部空洞4b内に配置した多孔質型吸音材35のピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、図2の透過波cおよび反射波dを効率的に吸音し減少させることで、水中騒音の抑制効果が増す。
【0051】
図3(d)の水中騒音抑制構造体20は、図3(a)と同様の構成であるが、複数の水中騒音反射吸収構造物4のうち、上部の外殻体4aの内部空洞4bに気体31が充填され、中間の外殻体4aの内部空洞4bに気体31と泥水32からなる充填材33が充填され、下部の外殻体4aの内部空洞4bに泥水34だけが充填されている。図1(d)と同様に、水中騒音の抑制効果がいっそう増し、浮力効果および水中安定効果を得ることができる。
【0052】
図3(e)の水中騒音抑制構造体21は、図3(a)と同様の構成であるが、複数の水中騒音反射吸収構造物4の外殻体4a背面側の傾斜した音出射面4d側に鉄板40を配置したものである。各音出射面4dから出射する図2の透過波eが鉄板40により減少し、水中騒音の抑制効果がいっそう増す。なお、内部空洞4bに気体と泥水からなる充填材を充填することで、水中騒音の抑制効果がさらに増す。
【0053】
図3(f)の水中騒音抑制構造体22は、半三角柱状の複数の水中騒音反射吸収構造物5の外殻体5aの内部空洞5b内に図1(c)と同様に気体31を充填するとともに多孔質型吸音材35を配置し、半三角形状の外殻体5aの音入射面5cの反対側の平坦面5dに接して鉄板40を配置したものである。多孔質型吸音材35のピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、図2の透過波cを効率的に吸音し減少させるとともに、図2の透過波eが鉄板40により減少し、水中騒音の抑制効果がいっそう増す。
【0054】
図3(g)の水中騒音抑制構造体23は、複数の三角柱状の水中騒音反射吸収構造物7を図3(a)と同様にして水中に設置したもので、各複数の水中騒音反射吸収構造物7は、三角柱状の外殻体7aの一頂点が水平方向を向き、かつ、外殻体4aの三辺のうち同一位置の一辺が同一垂直線上に並ぶように配置され、内部空洞7bに気体31が充填されている。図2の水中騒音による入射波aが外殻体7aの傾斜した音入射面7c,7dに入射すると、音入射面7c,7dが傾斜方向の異なる傾斜面であるため音入射面7c,7dでの反射効果が高く、その反射波は水面や水底面方向に進み水面からの放出および水底面での吸音が生じる一方、音入射面7c,7dを透過した透過波cは、内部空洞7b内で反射波dとなって反射し、また、内部空洞7b内の気体31を透過することで減少し、これらにより、音入射面7c,7dの反対の音出射面7eから出射する透過波eが低減し、水中騒音が抑制される。水中騒音抑制構造体23によれば、水中騒音反射吸収構造物7による水中騒音の抑制効果により図の左方から入射した水中騒音を低下させ図の右方への拡散を抑制することができる。
【0055】
図3(h)の水中騒音抑制構造体24は、図3(g)と同様の構成であるが、水中騒音反射吸収構造物7の内部空洞7bに気体と吸音材とによる充填材32が充填されている。充填材32として空気等の気体に加えてウレタン等の多孔質型吸音材、ダンボール、グラスウール等の吸音材が含まれているので、内部空洞7b内の図2の透過波cが吸音材によりいっそう減少し、反対側の音出射面7eから出射する透過波eがより低減し、水中騒音の抑制効果が増す。
【0056】
図3(i)の水中騒音抑制構造体25は、図3(g)と同様の三角柱状の複数の水中騒音反射吸収構造物7の外殻体7aの内部空洞7b内に図1(c)と同様に気体31を充填するとともに多孔質型吸音材35を配置し、外殻体5aの音出射面である平坦面7eに接して鉄板40を配置したものである。多孔質型吸音材35のピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、図2の透過波cを効率的に吸音し減少させるとともに、図2の透過波eが鉄板40により減少し、水中騒音の抑制効果がいっそう増す。なお、図3(i)では鉄板40を省略した構成としてもよい。
【0057】
図3(j)の水中騒音抑制構造体26は、図3(g)と同様の構成であるが、複数の水中騒音反射吸収構造物7のうち、上部の外殻体7aの内部空洞7bに気体31が充填され、中間の外殻体7aの内部空洞7bに気体31と泥水32からなる充填材33が充填され、下部の外殻体7aの内部空洞7bに泥水34だけが充填されている。図1(d)と同様に、水中騒音の抑制効果がいっそう増し、浮力効果および水中安定効果を得ることができる。
【0058】
図3(k)の水中騒音抑制構造体27は、図3(g)と同様の構成であるが、複数の水中騒音反射吸収構造物7の外殻体7aの背面の直立した音出射面7e側に鉄板40を配置したものである。各音出射面7eから出射する図2の透過波eが鉄板40により減少し、水中騒音の抑制効果がいっそう増す。なお、内部空洞7bに気体と泥水からなる充填材を充填することで、水中騒音の抑制効果がさらに増す。
【0059】
以上のように、図1(a)~(f)、図3(a)~(k)の水中騒音抑制構造体11~27によれば、複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物1~5,7を水平方向に配置し壁状に構成し水中に設置することで、各水中騒音反射吸収構造物1~5,7における反射波の水底面での吸収や水面から気中への放出による低下および透過波の気体から水中への伝播過程での音圧低下による水中騒音の抑制効果により図の左方から入射した水中騒音を低下させ図の右方への拡散を抑制することができる。これにより、杭打設等の施工工事で生じる水中騒音による魚類等の水中生物への悪影響を防止できる。
【0060】
また、水中騒音反射吸収構造物1~5,7の音透過方向の幅Z(図1(f))は50mm以上が望ましい。また、水中騒音抑制構造体11~27では、同一形状の水中騒音反射吸収構造物を配置したが、上下で異なる形状や大きさの水中騒音反射吸収構造物を配置してもよく、また、内部空洞への充填材料も水中騒音反射吸収構造物毎に変えてもよく、たとえば、充填材料は、水面付近の水中騒音抑制構造体には空気等の気体を充填し浮力を確保し、下方には泥水等を充填するようにしてもよい(図1(d)、図3(d)(j)参照)。
【0061】
また、水中騒音反射吸収構造物1~5,7内の内部空洞1b~5b,7bに空気等の気体を充填する場合、エアバブルカーテンのような連続的な空気供給を行うことなく、空気等による遮音効果を期待できる。また、図1(a)のように円柱状(円筒形状)として水圧に耐える形状や構造にしたり、水中騒音反射吸収構造物1内に気体を水圧に対応した圧力で充填することにより、水圧に耐えることができ、エアバブルカーテンでの水深による気体の体積減少の問題がなく、かかる水圧条件下でも水中騒音対策に必要な所定の体積の気体層を保持することができる。なお、適切な水深でエアバルブカーテンを併用することができ、これによりさらに遮音効果を高めることができる。
【0062】
次に、本実施形態による水中騒音抑制構造体の配置例について図4を参照して説明する。図4は、本実施形態による水中騒音抑制構造体の配置例を概略的に示す上面図(a)~(g)である。
【0063】
図4(a)の水中騒音抑制構造体41は、図1(a)~(f)、図3(a)~(k)の複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物1~5,7を水平方向にして全体が水面から垂下するように鉛直方向に配置するとともに、上面から見て、杭打設地点等の水中騒音発生地点50を包囲するように円形状に配置したものである。また、図4(g)の水中騒音抑制構造体47のように、水中騒音発生地点50を包囲するように水中騒音反射吸収構造物1~5,7を四角形状に配置してもよい。
【0064】
図4(b)の水中騒音抑制構造体42は、同じく複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物1~5,7を、水中騒音発生地点50を包囲しかつ開放部42aのある半円形状に配置したものであり、破線で示す弧状部42bがさらに延びたC型状にしてもよい。図4(c)の水中騒音抑制構造体43は、同じく複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物1~5,7を、水中騒音発生地点50を包囲しかつ開放部43aのある半八角形状に配置したもので、破線で示す一辺43bがある形状にしてもよく、さらにもう一辺43cがある形状にしてもよい。図4(d)の水中騒音抑制構造体44は、同じく複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物1~5,7を、水中騒音発生地点50を包囲しかつ一辺が開放した開放部44aのある四角形状に配置したものである。図4(e)の水中騒音抑制構造体45は、同じく複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物1~5,7を、水中騒音発生地点50を包囲しかつ一辺が開放した開放部45aのある三角形状に配置したものである。図4(f)の水中騒音抑制構造体46は、同じく複数の柱状の水中騒音反射吸収構造物1~5,7を、水中騒音発生地点50に対向するように直線状に配置したものである。
【0065】
図4(a)(g)の水中騒音抑制構造体41、47は水域において水中騒音を全方向に渡って抑制できる。また、図4(b)~(f)の水中騒音抑制構造体42~46は、水中騒音発生地点50の周囲であって水域において水中騒音を抑制したい方向に設置され、その方向への水中騒音の拡散を抑制できる。
【0066】
なお、図4(a)~(g)において水中騒音反射吸収構造物1~5,7を、各上面形状になるように水平方向に並べるが、図4(a)(b)では略円弧状に構成し、図4(c)~(g)では直線状に構成する。
【0067】
また、浚渫時の周辺水域汚染防止用の汚濁防止枠と同様に水中騒音抑制構造体41~47を枠構造に構成できる。たとえば、図5のように、枠構造の側面の破線で示す鉄板60の位置に、図1(a)の水中騒音抑制構造体11から構成した図4(g)の水中騒音抑制構造体47を垂下するように配置し、または、水中騒音抑制構造体47の各水中騒音反射吸収構造物1を鉄板60に固定することで、枠構造の水中騒音抑制構造体47を構成する。同様にして、枠構造の水中騒音抑制構造体41~46を構成できる。なお、複数の水中騒音反射吸収構造物1を鉄板60に固定する図5の枠構造によれば、図1(e)と同様の水中騒音低減効果を得ることができる。
【0068】
上述のような枠構造とした水中騒音抑制構造体41~47を押船や引船で移動し所定位置に固定することができる。この場合、図4(a)(g)の水中騒音抑制構造体41,47の円形状や四角形状の一部に破線で示す開放部41a,47aを設けることで、水中騒音発生地点50に打設された杭等が存在しても移動可能である。また、事前に進入する船舶の大きさに応じて開放部41a,47aの寸法を定めておくことで、先に水中騒音抑制構造体41、47を所定の位置に設置しておいても水中杭打設地点50に杭打ち船等が進入できる。また、水中騒音抑制構造体42~45は、開放部42a~45aを有するため押船や引船による移動および杭打ち船等の進入が可能である。このように枠構造の水中騒音抑制構造体41~47を移動可能に構成することで、たとえば、水中騒音抑制構造体41~47を杭打設の終了に応じて次の杭打設位置に移動させて繰り返し使用ができる。なお、水中騒音抑制構造体41~47を水面より下方に設置して、その上部を船舶が通過可能な構造とすることも可能である。
【0069】
次に、本実施形態による水中騒音抑制構造体の複数列の配置例について図6を参照して説明する。図6は、本実施形態による水中騒音抑制構造体の複数列の配置例を概略的に示す側面図(a)~(f)である。
【0070】
図6(a)の例は、図1(a)の水中騒音抑制構造体11,11を、各水中騒音反射吸収構造物1が接近するように二列に配置し、図6(b)の例は、二列の水中騒音抑制構造体11,11が離れるように二列に配置したものである。図6(c)の例は、水中騒音抑制構造体11に、水中騒音反射吸収構造物1と同様の構成であるが径の小さい水中騒音反射吸収構造物1Aを各水中騒音反射吸収構造物1の間の隙間に位置するように配置し、図6(d)の例は、水中騒音反射吸収構造物1を水中騒音抑制構造体11の各水中騒音反射吸収構造物1の間の隙間に位置するように配置し、図6(e)の例は、図6(d)と同様の配置であるが各水中騒音反射吸収構造物1を垂直方向および水平方向に若干離して間隔wができるように配置したものである。図6(f)の例は、水中騒音抑制構造体11に、複数の径の小さい水中騒音反射吸収構造物1Aを一列にした水中騒音抑制構造体11Aを若干離して配置したものである。
【0071】
図6(a)~(f)の水中騒音抑制構造体は、水中騒音の入射方向に重なるように複数列配置したものであり、複数列配置するものは、必ずしも密接している必要はなく、図6(b)(e)(f)のように離れてもよく、いずれの場合も水中騒音の抑制効果が増す。また、抑制したい水中騒音の周波数に応じて水中騒音抑制構造体間の離間距離を設定するようにしてもよい。なお、図6(a)~(f)では、図1(a)の水中騒音抑制構造体11を複数列配置する例を説明したが、図1(b)~(f)、図3(a)~(k)の水中騒音抑制構造体12~27を同様に複数列配置してもよく、また、水中騒音抑制構造体11~27から異なる形状や充填材の水中騒音抑制構造体を組み合わせて複数列配置してもよい。また、複数列の各水中騒音抑制構造体の鉛直方向長さ(深さ)を異なるようにしてもよい。
【0072】
また、複数列配置する場合、図6(e)のように、各水中騒音反射吸収構造物1の間に間隔wがあっても、水中騒音が狭い間隔wを通過し拡散する過程において抑制され、水中騒音の漏れを抑制できる。
【0073】
図7は、本実施形態による水中騒音抑制構造体が水中騒音発生地点を包囲するように配置された例を示す縦断面図(a)(b)である。図7(a)の例は、杭打設等による水中騒音発生地点50を包囲しかつ水底に着底する着底型を構成するように図4(a)の水中騒音抑制構造体41と同様の構成の水中騒音抑制構造体41Aを設置することで、水面から水底までの範囲において水中騒音を抑制するものである。図7(b)の例は、水面から水深中間位置まで配置する中間配置型を構成するように図4(a)の水中騒音抑制構造体41と同様の構成の水中騒音抑制構造体41Bを設置することで、水面から水深中間までの範囲において水中騒音を抑制するものである。
【0074】
図8は、本実施形態による水中騒音抑制構造体と潜堤型の水中騒音抑制構造体との組み合わせ例を示す図(a)(b)である。図8(a)の例は、水底面に水中騒音抑制効果の高い潜堤型の水中騒音抑制構造体51を設置して水底から水深中間までの範囲で水中騒音を抑制し、図7(b)の水中騒音抑制構造体41Bを中間配置型に設置することで、水面から水深中間までの範囲で水中騒音を抑制し、全体として水面から水底までの範囲で水中騒音を抑制するものである。
【0075】
図7(a)(b)、図8(a)の水中騒音抑制構造体41A,41Bは、図4(g)の水中騒音抑制構造体47と同様の構成としてもよい。また、たとえば、図9(a)のように、水中騒音発生地点50に対し一方が開放部42a(図4(b))で開放しかつ接近するように図4(b)の水中騒音抑制構造体42と同様の構成の水中騒音抑制構造体42Aを着底型に設置することで、水中騒音発生地点50からの水中騒音の拡散を抑制する片側方向において水面から水底までの範囲で水中騒音を抑制することができる。また、図9(b)のように、図4(b)の水中騒音抑制構造体42と同様の構成の水中騒音抑制構造体42Bを中間配置型に設置することで、水中騒音発生地点50からの水中騒音の拡散を抑制する片側方向において水面から水深中間までの範囲で水中騒音を抑制することができる。なお、図9(a)(b)の水中騒音抑制構造体42A,42Bは、図4(c)~(f)の水中騒音抑制構造体43~46においても同様の構成としてもよい。
【0076】
図8(b)の例は、潜堤型の水中騒音抑制構造体51を水底面に設置して下方における水中騒音を抑制し、水中騒音抑制構造体51の上面から上方に図4(f)のような直線状の水中騒音抑制構造体46を設置することで水中騒音抑制構造体51の上面から水面において水中騒音を抑制し、全体として水面から水底までの範囲で水中騒音を抑制するものである。なお、図8(a)(b)の水中騒音抑制構造体51は、たとえば、本発明者等が先に特願2020-014408で提案した構造体を用いることができる。
【0077】
次に、図1(a)(c)(e)の水中騒音反射吸収構造物1の変形例について図10(a)~(e)を参照して説明する。図10(a)の水中騒音反射吸収構造物9Aは、図1(c)において比較的小さなピラミット状の突起36aを多数有しかつ多数の突起36aの反対側に平坦部36bを有するウレタン等の多孔質型吸音材36をさらに配置し、多孔質型吸音材35の平坦部35bと多孔質型吸音材36の平坦部36bとを貼り合わせたものである。内部空洞1b内において透過波cの入射側でピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、反射波dの入射側でピラミット状の多数の突起36aにより吸音面積が増え、図2の透過波cと反射波dを効率的に吸音し減少させることで、水中騒音の抑制効果がさらに増す。
【0078】
図10(b)の水中騒音反射吸収構造物9Bは、半円状に分割された水中騒音反射吸収構造物2,3から構成され、図1(a)と同様に全体として円柱状になっている。半円柱状の水中騒音反射吸収構造物2が水中騒音の入射側に位置し、半円柱状の水中騒音反射吸収構造物3がその反対側に位置し、水中騒音反射吸収構造物2の内部空洞2b内に図1(f)と同様に多孔質型吸音材35が配置されている。
【0079】
水中騒音反射吸収構造物2の外殻体2aは、半円状の内部空洞2bと、円周表面の音入射面2cと、音入射面2cの反対側に形成された平坦面2dと、を有し、水中騒音反射吸収構造物3の外殻体3aは、半円状の内部空洞3bと、音入射面となる平坦面3dと、円周表面の音出射面3cとを有する。水中騒音反射吸収構造物2,3は平坦面2dと平坦面3dとを接着剤等により貼り合わせて一体化されている。内部空洞2b、3bには空気等の気体31が充填されている。なお、気体31に代えて、吸音材、反射材、共振材、気体と吸音材、気体と反射材、気体と共振材、気体と泥水、または、泥水を充填してもよく、さらに内部空洞2bと内部空洞3bとに異なる充填材を充填するようにしてもよい。
【0080】
図10(b)の水中騒音反射吸収構造物9Bによれば、内部空洞2b内においてピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、図2の透過波cを効率的に吸音し減少させるとともに、最終的に水中騒音反射吸収構造物3の円周表面の音出射面3cから出射する透過波eがより低減し、水中騒音の抑制効果が増す。
【0081】
図10(c)の水中騒音反射吸収構造物9Cは、図10(b)と同様に半円状に分割された水中騒音反射吸収構造物2,3を平坦面2d,3dが対向するように接着剤等により貼り合わせ一体化したもので、水中騒音を吸音し低減させる。
【0082】
図10(d)の水中騒音反射吸収構造物9Dは、図10(b)において半円状の水中騒音反射吸収構造物3の内部空洞3b内にも比較的小さなピラミット状の突起36aを多数有しかつ多数の突起36aの反対側に平坦部36bを有するウレタン等の多孔質型吸音材36を配置したものである。水中騒音反射吸収構造物2の内部空洞2bにおいて透過波cの入射側でピラミット状の多数の突起35aにより吸音面積が増え、水中騒音反射吸収構造物3の内部空洞3bにおいて反射波dの入射側でピラミット状の多数の突起36aにより吸音面積が増え、図2の透過波cと反射波dを効率的に吸音し減少させることで、水中騒音の抑制効果がさらに増す。
【0083】
図10(e)の水中騒音反射吸収構造物9Eは、図10(b)において水中騒音反射吸収構造物3の音出射面3cの半円状内面に比較的小さなピラミット状の突起37aを有するウレタン等の多孔質型吸音材37を平坦面37bが半円状内面に倣うように曲げて配置し、ピラミット状の突起37aにより吸音面積と反射面積が増え効率的に水中騒音を吸音し低減させる。
【0084】
なお、図10(a)~(e)の水中騒音反射吸収構造物9A~9Eを複数、図1(a)(c)(e)と同様に配置して水中騒音抑制構造体とすることができる。この内の図10(c)の水中騒音反射吸収構造物9Cから構成される水中騒音抑制構造体は、半円状の水中騒音反射吸収構造物2,3からなる二列の水中騒音抑制構造体と考えることができ、図6(a)の変形例でもある。また、図3(a)(c)の水中騒音反射吸収構造物4を半三角形状にして図10(b)~(e)と同様の分割構造としてもよい。
【0085】
次に、本実施形態による水中騒音反射吸収構造物の変形例について図11(a)(b)を参照して説明する。図11(a)の水中騒音反射吸収構造物10Aは、外殻体10aが全体として板状に構成され、音入射面が波状の凹凸10cに形成され、波状の凹凸10cで入射した水中騒音を効率的に反射し、水中騒音を低減させる。図11(b)の水中騒音反射吸収構造物10Bは、音入射面が小さな三角形状や鋸歯状の凹凸10dに形成され、凹凸10dで入射した水中騒音を効率的に反射し、水中騒音を低減させる。なお、図11(a)(b)の水中騒音反射吸収構造物10A,10Bは、内部空洞10bは気体31であってよいが、吸音材や共振材を充填してもよい。また、水中騒音反射吸収構造物10A,10Bからなる水中騒音抑制構造体は、水平方向(紙面垂直方向)に延びて全体が板状に構成され、1枚の板状部材から構成されてよいが、縦および/または横に分割した分割板状部材の組み合わせから構成されてもよく、いずれの場合も、水中に垂下するようにして設置される。
【0086】
図1(a)~(f)、図3(a)~(k)では柱状の水中騒音反射吸収構造物を水平方向に複数配置したが、本発明はこれに限定されず、柱状の水中騒音反射吸収構造物を鉛直方向に複数配置して水中騒音抑制構造体を構成してもよい。たとえば、図12のように、複数の円柱状の水中騒音反射吸収構造物1を鉛直方向に配置して構成した水中騒音抑制構造体70を水中に吊り下げるように設置するようにしてもよい。なお、水中騒音抑制構造体70の内部空洞に充填する充填材料は、浮力効果と水中安定効果を勘案して決定することが好ましい。
【0087】
〈実験例〉
図13に示す実験ケース1~14のように各条件を変えて水中騒音抑制構造体を作製した。外殻形状が円形である図1(a)(b)(d)(e)に対応する実験ケース3~10は外殻体として径100mmの塩ビ管を使用し、外殻形状が三角形(▽)である図3(a)(g)に対応する実験ケース11~14は外殻体として一辺120mm程度の細長いプラスチック製容器を使用した。この水中騒音抑制構造体を図14に示す500Lのプラスチック水槽に設置し、鋼管を打撃した際の水中騒音を音圧計により測定した。なお、実験ケース1は何も設置しない場合、実験ケース2は鉄板(厚さ2mm)のみを設置した場合である。
【0088】
図15は、実験ケース1~11に応じて鉄板の有無、外殻形状の違いに関する実験結果を示すグラフであり、図16は、実験ケース1~4,11で得られた周波数特性を示すグラフである。図15から明らかなように、実験ケース2の鉄板のみ、実験ケース6,14の充填材料が水道水の場合は、音圧レベル低減効果がほとんど無いかまたはかなり小さいのに対し、本実施形態による実験ケース3,4,5,11,12,13では、音圧レベル低減効果が大きいことが確認され、図16から幅広い周波数帯で音圧レベル低減効果があることが確認された。今回の実験結果では、特に、外殻形状が三角形(▽)・充填材料が空気・背面鉄板配置の実験ケース11が最も音圧レベル低減効果が高く、18dBの低減効果が確認された。
【0089】
図17は、充填材料の違いに関する実験結果を示すグラフであり、図18は、実験ケース1,4,7~10で得られた周波数特性を示すグラフである。図17から明らかなように、充填材料がベントナイト10%の泥水である実験ケース9,10で遮音効果が大きく、特に半分をベントナイト10%・残り半分を空気で満たす実験ケース10で遮音効果が最も大きいことが確認された。図18から周波数特性に着目すると、空気の実験ケース4、ベントナイト10%の泥水の実験ケース9,10が全周波数帯で音圧レベルが低減した。
【0090】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、図1(a)~(f)、図3(a)~(k)における鉛直方向の水中騒音反射吸収構造物の数は、必要に応じて増減できることはもちろんである。
【0091】
また、本発明は、洋上風力発電施設の建設時の杭打設に限らず、その他の水中音に対しても適用できることはもちろんである。また、騒音発生地点の周辺に人が生活する場所等において水中から気中への騒音の放出を避けたい場合にも本発明は適用でき、特に、図3(a)~(f)の水中騒音抑制構造体17~22によれば、水中騒音反射吸収構造物の音入射面での水中騒音の反射波が水底面方向に向かい水底面で吸収され、水中から気中への騒音の放出を効果的に低減できる。
【0092】
また、本実施形態による水中騒音抑制構造体を構築する際に、各水中騒音反射吸収構造物を必要に応じてフロートや錘の設置により固定したり、フレームへ固定することが好ましい。
【0093】
また、水中騒音反射吸収構造物が四角柱に構成される場合、その四角形状の外殻体は、たとえば、1辺が鉛直方向に延びるように配置されたり、また、1つの角部と、その対角側のもう1つの角部とが水平方向を向くように配置される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明によれば、水中騒音を効率的に抑制可能な水中騒音反射吸収構造物から構成された水中騒音抑制構造体を、杭打設等の工事による水中騒音の発生地点の周囲や水中騒音の拡散抑制方向に設置することで、水中騒音を効率的に抑制し、水中騒音の拡散を抑制でき、水中騒音による水中生物への悪影響を防止できる。
【符号の説明】
【0095】
1~5,7,1A 水中騒音反射吸収構造物
9A~9E 水中騒音反射吸収構造物
10A,10B 水中騒音反射吸収構造物
1a~5a,7a 外殻体
1b~5b,7b 内部空洞
1c,2c,4c,7c,7d 音入射面
11~27,11A 水中騒音抑制構造体
31 気体
32,33 充填材
34 泥水
35~37 多孔質型吸音材
35a~37a ピラミット状の突起
40 鉄板
41~47,70 水中騒音抑制構造体
41a,47a 開放部
42a~45a 開放部
41A,41B,42A,42B 水中騒音抑制構造体
50 水中騒音発生地点
51 潜堤型の水中騒音抑制構造体
a 入射波
b,d 反射波
c,e 透過波
Z 水中騒音反射吸収構造物の幅
図1
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